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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】一本鎖結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230508BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230508BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230508BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20230508BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230508BHJP
   C12Q 1/6848 20180101ALI20230508BHJP
   C07K 14/195 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12N15/63 Z
C12Q1/6806 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6848 Z ZNA
C07K14/195
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019545737
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2018054593
(87)【国際公開番号】W WO2018154083
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-01-29
(31)【優先権主張番号】1703049.5
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518338943
【氏名又は名称】ウニベルシテテット イ トロムソ-ノルゲス アークティスク ウニベルシテット
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ピエレチョド、マルチン
(72)【発明者】
【氏名】ウィラッセン、ニルス ペーデル
(72)【発明者】
【氏名】ロスウェイラー、ウリ
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/062777(WO,A1)
【文献】国際公開第91/006679(WO,A1)
【文献】特開2012-231799(JP,A)
【文献】Accession No.ABC44897.1: Single-strand binding protein [Salinibacter ruber DSM 13855],Database GenBank [online],2014年,インターネット<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/83756784>[検索日2021年11月15日]
【文献】E. F. Mongodin et al.,The genome of Salinibacter ruber: Convergence and gene exchange among hyperhalophilic bacteria and archaea,PNAS,2005年,102(50),18147-18152
【文献】DUCANI Cosimo et al.,Rolling circle replication requires single-stranded DNA binding protein to avoid termination and production of double-stranded DNA,Nucleic Acids Research,2014年,42(16),10596-10604
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08
15/00 - 15/90
C12Q 1/00 - 3/00
C07K 1/00 - 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA分子を脱ハイブリダイズさせるための、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の使用であって、前記SSBは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列、またはそのC末端領域の111のアミノ酸を含む機能的断片を含み、前記DNA分子が、
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオンのうちの1つ以上を含む溶液中に存在するかまたはその溶液に曝される、使用。
【請求項2】
相補的なssDNAのハイブリダイゼーションを防ぐための、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の使用であって、前記SSBは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列、またはそのC末端領域の111のアミノ酸を含む機能的断片を含み、前記ssDNAは、
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオンのうちの1つ以上を含む溶液中に存在するかまたはその溶液に曝される、使用。
【請求項3】
前記溶液が、少なくとも500mMのナトリウムイオンを含む、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
前記溶液が、少なくとも750mMのナトリウムイオンを含む、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記溶液が、少なくとも100mMのカリウムイオンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記溶液が、少なくとも300mMのカリウムイオンを含む、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記溶液が、少なくとも600mMのカリウムイオンを含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記溶液が、少なくとも200mMのマグネシウムイオンを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記溶液が、少なくとも250mMのマグネシウムイオンを含む、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記溶液が、少なくとも250mMのカルシウムイオンを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記溶液が、少なくとも300mMのカルシウムイオンを含む、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記SSBが、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記SSBが、配列番号1の17位および71位に置換アミノ酸による置換を組み込んでいる、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記置換アミノ酸が、その側鎖に負電荷を有しない、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記置換アミノ酸が、その側鎖にpH7.0で正電荷を担持している、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記置換アミノ酸が、リジン、ヒスチジン、アルギニン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンからなる群から選択される、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記置換アミノ酸が、リジンおよびアルギニンから選択される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記置換アミノ酸が、リジンである、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記使用が、
i)核酸増幅、精製またはシーケンシング;
ii)部位特異的突然変異誘発;
iii)試料中の核酸構造の顕微鏡検査;
iv)制限酵素消化;
v)逆転写;
vi)T4ポリメラーゼの活性の増強;または
vii)ssDNAまたはRNAのヌクレアーゼ消化からの保護の方法の間に行われる、請求項1~18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記シーケンシングが、ナノポアシーケンシングである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈し、かつ配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列、またはそのC末端領域の111のアミノ酸を含む機能的断片を含み、かつ17位および71位のアミノ酸がリジンで置換されている、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)。
【請求項22】
配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項21に記載のSSB。
【請求項23】
請求項21または22に記載のSSBをコードする、核酸分子。
【請求項24】
請求項23に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項25】
請求項24に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞またはウイルス。
【請求項26】
請求項21または22に記載のSSB、および緩衝液または安定化剤を含む、組成物。
【請求項27】
請求項21もしくは22に記載のSSB、または請求項26に記載の組成物を、ポリメラーゼ、洗浄緩衝液または他の緩衝液、ヌクレオチド、核酸プライマー、リガーゼ、トポイソメラーゼまたはジャイレースのうちの1つ以上と共に含む、キット。
【請求項28】
シーケンシング装置での使用に好適であるカートリッジ内に収容されている、請求項21もしくは22に記載のSSB、または請求項26に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一本鎖(single-strand)(一本鎖型(single-stranded)としても公知である)DNA結合タンパク質(SSB)、特に、高塩濃度で機能し得るSSBのクラスに関する。
【0002】
一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)は、一本鎖DNA(ssDNA)およびRNAを結合して、核タンパク質複合体を形成できるが、二本鎖DNAに対する親和性は低い。そのような複合体に存在する核酸はひいては、ポリメラーゼまたは他のDNAまたはRNA修飾酵素の基質として機能し得る。最もよく特徴が明らかになっているSSBは、大腸菌由来のものであり、ホモ四量体としてssDNAに結合する178のアミノ酸のタンパク質である。
【0003】
SSBは、インビボにおいてDNA複製および組換えに関与し、解裂されたDNA二本鎖の分離を効率よく維持し(再アニーリングを防止する)、2本の鎖を一本鎖の形態に保つ。SSBは、DNAまたはRNAを一本鎖の形態で保存する必要があるすべての用途において使用され得る。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術は、SSBを追加して、これにより変性DNAを安定化でき、二本鎖の形成を防ぎ、かつヌクレアーゼによる消化からssDNAを保護することによって最適化することができる。また、SSBは、逆転写PCRおよび核酸の等温増幅にも使用される。他の用途としては、部位特異的突然変異誘発におけるRecAと組み合わせて使用することが挙げられる。SSBは、DNAシーケンシング反応およびパイロシーケンシング技術の文脈で使用される特定のDNAポリメラーゼを刺激し、シグナル強度を増加させ、非特異的シグナルを減少させ、かつ重合効率を向上させる。
【0004】
分子生物学におけるSSBの有用性は明らかであるが、SSBの熟達度は、反応混合物に存在する塩の種類および濃度に大きく依存する(Nucleic Acid Research[2008年]第36巻、第1号、294-9頁)。特に、高塩濃度で、安定した核タンパク質複合体を形成できる市販のSSBは存在しない。塩安定核タンパク質複合体は、例えば「次世代」のDNAシーケンシング、例えば、Illuminaのワークフローメソッドにおいて、非常に望ましい、高塩緩衝液での洗浄に耐性があり得る。広い範囲の塩条件、特に高塩濃度で、安定な核タンパク質複合体を形成し得るSSB、および高濃度の塩の存在下で実施し得る核酸増幅およびシーケンシングの方法が必要とされている。
【0005】
本発明者らは、好適に適合するSSB分子を用いるこうした方法を開発した。
【0006】
第1の態様では、本発明は、反応混合物または試料溶液が、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含む、核酸増幅またはシーケンシングの方法を提供する。
【0007】
さらなる態様において、本発明は、反応混合物が500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含む部位特異的突然変異誘発の方法を提供する。
【0008】
さらなる態様では、本発明は、顕微鏡を用いて試料中の(例えば細胞内の)核酸構造を調べる方法を提供し、この方法では、核酸試料は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)と接触させる。こうした方法では、SSBにより、ssDNAの領域を安定化させる、かつ/またはマーキングする。
【0009】
こうした方法では、例えば、電子顕微鏡または蛍光顕微鏡を使用することができる。蛍光顕微鏡法で使用されるSSBは、例えば蛍光標識を組み込んでいる蛍光誘導体であり得る。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、反応混合物が500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含む制限酵素消化方法を提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、反応混合物が、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含む、逆転写方法(例えば、RT-PCRの方法における第1のステップとして)を提供する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、T4ポリメラーゼの活性を増強する方法を提供し、この方法は、T4ポリメラーゼを、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)と接触させることを含む。別の観点では、本発明は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の使用を提供して、T4ポリメラーゼの活性を増強する。
【0013】
上記方法におけるSSB結合のための標的核酸は、好ましくはssDNAであるが、RNAでもよい。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、ヌクレアーゼ消化からssDNAまたはRNAを保護する方法を提供する。この方法において、反応混合物が、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含む。こうした保護は、試料/生成物の「クリーンアップ」または精製方法において有用であり得る。別の観点では、本発明は、ヌクレアーゼ消化からssDNAを保護するために、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の使用を提供する。別の観点では、本発明は、ssDNAまたはRNAをヌクレアーゼ消化から保護する方法を提供し、この方法は、ssDNAまたはRNAを、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)と接触させることを含む。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、核酸の精製方法、すなわち、試料から1つ以上の核酸分子を単離する方法を提供する。この方法では、試料は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)と接触させる。好ましくは、核酸分子は、好ましくは0.5Mbp以上、より好ましくは1Mbp以上のサイズのDNA分子である。こうした大きいDNA断片は、そのサイズが原因で、単離の間に機械的破損を起こしやすい。しかしながら、本発明のSSBを使用することで、DNA構造が安定化し、無傷の分子の単離が可能になる。
【0016】
いずれの場合においても、上記の方法または使用は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈するSSBを使用する。そのような特性は、SSBが高塩濃度に耐性があり、かつ高塩濃度において活性であることを意味する。すなわち、好塩性と見なすことができる。
【0017】
上記のような核酸のシーケンシング、増幅、突然変異誘発、検査、消化および逆転写の方法は、当技術分野において周知であり、標準的な条件および試薬が使用され得る。
【0018】
上記で定義された本発明の方法の多くは、DNAポリメラーゼを用いたヌクレオチド重合を伴う。典型的には、本方法は、DNAポリメラーゼ、鋳型核酸分子、SSB(500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する)、鋳型核酸分子の一部分とヌクレオチドの1つ以上の種にアニールできるオリゴヌクレオチドプライマー(例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸、dNTP)を含む反応混合物を提供することと、オリゴヌクレオチドプライマーが鋳型核酸分子にアニールし、DNAポリメラーゼが1つ以上のヌクレオチドを重合することによりオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させる条件下で、反応混合物をインキュベートすることとを含む。好適な条件は、当技術分野で周知である。任意により、ポリヌクレオチド生成物の生成が検出される(例えば、ゲル電気泳動により)。
【0019】
500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)は、本明細書においては、本発明のSSBと称され得る。それは標準的な市販のSSB、例えば大腸菌SSBが使用され得る従来の方法において使用され得るが、有利には、高い塩濃度を使用する方法において使用される。
【0020】
上記の方法および使用(例えば、増幅、シーケンシングおよび部位特異的突然変異誘発)は、典型的には、以下のうちの1つ以上を含む反応混合物、試料溶液または洗浄緩衝液を使用する:
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオン。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、DNA分子を脱ハイブリダイズするための、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の使用を提供し、DNA分子は、以下のうちの1つ以上を含む溶液中に存在するかまたはその溶液に曝される:
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオン。
【0022】
本発明のSSBは、部分的にハイブリダイズしたssDNA分子を脱ハイブリダイズすることができ、例えば、SSBの非存在下では、ssDNA分子は、少なくとも2、4または6対のヌクレオチド(すなわち、1、2または3またはより多くの水素結合対)の1つ以上の二重鎖領域を有し得る。本発明のSSBの存在下では、DNA分子は二重鎖領域を有し得ない、すなわち本質的に二次構造を有し得ない。
【0023】
「部分的にハイブリダイズした」ssDNA分子は、少なくとも5%、10%、20%、30%、または40%ハイブリダイズし得る。すなわち、そのヌクレオチドの少なくとも5%、10%、20%などが二重鎖の一部である。典型的には、ヌクレオチドの60%以下、例えば、ヌクレオチドの50%または40%以下が二重鎖の一部である。この文脈では、「二重鎖」および「ハイブリダイゼーション」は、水素結合を介して二重鎖領域を形成する一本鎖内の内部領域を指す。
【0024】
標的ssDNA分子は、典型的には20~5000ヌクレオチド長、典型的には20~3000、例えば30~1500ヌクレオチド長であり得る。
【0025】
他の実施形態では、脱ハイブリダイズされるDNAは、dsDNA分子である。こうした実施形態では、DNA二本鎖の一部またはDNA二本鎖のすべてが脱ハイブリダイズされ得る。例えば、PCRでは、SSBは、新しく分離した鎖に結合し、二重鎖のかなり小さい部分の脱ハイブリダイズに関与し、これにより、新しい相補的ヌクレオチドの取り込みが可能になる。
【0026】
シーケンシング法、例えばナノポアシーケンシング法において、dsDNA標的分子は、非常に大きく、例えば最大200キロベース(kb)、または最大300kbさえあり得る。典型的には、最大50kbまたは100kb、例えば50塩基から300kb、より通常は100塩基から200kbである。(例えば、ナノポア)シーケンシングのための基質は、RNA/cDNAハイブリッドであり得る。
【0027】
異なる塩濃度で、ssDNAを結合する能力を分析するための好適な方法は、本明細書の実施例および図に示されている。こうした方法は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、所与のSSB分子が、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈するかどうかを立証するために使用され得る。好適な方法では、蛍光色素および消光剤部分を含むssDNAで作られた分子ビーコンを使用する。蛍光は、SSB結合の範囲、これが分子ビーコンの領域内のハイブリダイゼーションに与える影響、したがって色素および消光剤の相互の近接性に依存する。
【0028】
代替的に、または追加的に、本発明のSSB(ならびに本発明の方法および使用に使用される)は、250mMのカリウムイオンの存在下、および/または150mMのマグネシウムイオンの存在下、および/または200mMのカルシウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、または60%を呈する。
【0029】
好ましくは、本発明のSSBは、500mMのナトリウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%を呈する。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、相補的ssDNAのハイブリダイゼーションを防ぐための、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)の使用を提供し、ssDNAは、以下のうちの1つ以上を含む溶液中に存在するかまたはその溶液に曝される:
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオン。
【0031】
さらなる態様では、本発明は、以下のうちの1つ以上を含む溶液中に存在するかまたはその溶液に曝されるDNA分子を接触させることを含む、DNA分子を脱ハイブリダイズする方法を提供する:
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオン。
一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈し、SSBは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも75%同一であるアミノ酸配列、またはその機能的断片を含む。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、以下のうちの1つ以上を含む溶液中に存在するかまたはその溶液に曝されるssDNAを接触させることを含む、相補的ssDNAのハイブリダイゼーションを防ぐ方法を提供する:
(i)少なくとも350mMのナトリウムイオン、
(ii)少なくとも50mMのカリウムイオン、
(iii)少なくとも150mMのマグネシウムイオン、または
(iv)少なくとも200mMのカルシウムイオン。
一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈し、SSBは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも75%同一であるアミノ酸配列、またはその機能的断片を含む。
【0033】
「相補的ssDNA」は、ssDNAの一本鎖内の相補性の内部領域、ならびに相補性領域(複数可)を有する2つの別々のssDNA分子を含む。相補性領域(複数可)は、2つのssDNA分子が天然で標準的なdsDNA二本鎖を形成するように、分子の長さの全体または実質的にすべてに沿って延在し得る。ハイブリダイゼーションの防止は、部分的または完全であり得、部分的ハイブリダイゼーションは、例えば、元の二本鎖の解裂および新しい相補鎖の生成が進行するにつれて、二本鎖の小さい領域のハイブリダイズの防止のみが必要な増幅反応において起こる。
【0034】
いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、少なくとも500mM、少なくとも750mMまたは少なくとも1000mMのナトリウムイオンを含有する。
【0035】
いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、少なくとも100mM、少なくとも300mM、少なくとも600mM、または少なくとも1000mMのカリウムイオンを含有する。
【0036】
いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、少なくとも200mMまたは少なくとも250mMのマグネシウムイオンを含有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、少なくとも150mM、200mMまたは300mMのカルシウムイオンを含有する。
【0038】
上記の濃度は、本文脈ではすべて高塩濃度と見なされる。
【0039】
いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、有機塩、例えば酢酸塩またはグルタミン酸塩、ならびに1つ以上の無機塩を含有する。いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、上記のレベルでナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含み、好ましくは、上記のレベルでマグネシウムイオンおよびまたはカルシウムイオンも含む。洗浄緩衝液は、例えば、タンパク質精製プロトコルにおいてタンパク質複合体を破壊するために、またはDNA試料からDNA結合タンパク質を除去するために、高濃度の1つより多い塩を有利にも含み得る。いくつかの実施形態では、上記で定義された方法および使用で用いられる反応混合物、溶液または洗浄緩衝液は、カオトロピック塩を含む。
【0040】
本発明者らは、細菌Salinibacter ruber由来のSSBを同定し、かつ特徴を明らかにし(International Journal of Systemic and Evolutionary Microbiology[2002年]52、485-491)、このタンパク質およびその誘導体、断片、多様体および相同体は、本発明に従って特に好ましい。
【0041】
野生型S.ruber SSB配列は以下のとおりである:
MARGVNKVILIGNLGDDPELRYTGSGTAVCNMSLATNETYTDSDGNEVQNTEWHDVVAWGRLGEICNEYLDKGSQVYFEGKLQTRSWEDRDNNTRYSTEVKAQEMMFLDSNRQGGADMDGFDQTRGDESLDQTRQEQPAGSSGPQPGQQASSGGEDEDTFEPDDDLPF(配列番号1)。
【0042】
したがって、本発明による好ましいSSB分子(すなわち、500mMのナトリウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する)は、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも75%同一であるアミノ酸配列、またはその機能的断片を含むか、またはこれらからなる。
【0043】
好ましい実施形態では、本発明のSSBは、配列番号1と少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%または95%、例えば少なくとも98%、または99%、または99.5%同一であるアミノ酸配列またはその断片を含むかまたはそれからなる。
【0044】
いくつかの実施形態では、SSBは、配列番号1と比較して、単一または複数のアミノ酸改変(付加、置換、挿入または欠失)を有するアミノ酸配列を含む。こうした配列は、好ましくは、最大20個、例えば最大10個または5個、好ましくは1、2または3個、より好ましくは1個または2個の改変アミノ酸を含み得る。置換は、保存的または非保存的アミノ酸によるものであり得る。好ましくは、この改変は、保存的アミノ酸置換である。
【0045】
好ましくは、SSBは、配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的断片を含む。
【0046】
好ましい実施形態では、SSBは、配列番号1のアミノ酸配列またはその機能的断片からなる。最も好ましい実施形態では、SSBは、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0047】
SSBの機能的断片は、用語「一本鎖DNA結合タンパク質」および「SSB」および「本発明のSSB」によって提供され、包含される。機能的断片とは、本明細書で定義されている高塩濃度で、ssDNAに結合できる断片である。したがって、それらは500mMのナトリウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する。活性断片は、典型的には、八量体形成を担う75のアミノ酸C末端領域の機能部分(例えば、全部または実質的に全部)を含み、より好ましくは、活性断片は、100のアミノ酸C末端領域の機能部分(例えば、全部または実質的に全部)を含み、より好ましくは、111のアミノ酸C末端領域を含む。本明細書のいずれかの場所で使用されているように、アミノ酸またはヌクレオチド配列の領域に関して「実質的に」という用語は、関係する領域の長さの少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%を意味する。「実質的に含まない」という用語は、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%含んでいないことを意味する。
【0048】
機能的断片は、長さが少なくとも140アミノ酸であり得る。好ましい断片は、少なくとも150、少なくとも160、少なくとも170または少なくとも175アミノ酸長である。断片は、配列番号1の対応する部分と、少なくとも75%もしくは80%、好ましくは少なくとも85%、もしくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(例えば、少なくとも98%もしくは99%もしくは99.5%)、または100%同一である。
【0049】
したがって、本発明による機能的断片は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する。
【0050】
本発明によるすべてのSSB(機能的断片を含む)は、ssDNAに対して高い親和性を有し、特に、10x10-8M以下、好ましくは5x10-8M以下、いくつかの非常に好ましい実施形態では、3x10-8M未満の10mM NaClを含む緩衝液中の150ヌクレオチドのssDNA分子への結合のモル濃度(M)として測定される解離定数(KD)を有し得る。実施例では、表面プラズモン共鳴を使用してKDを決定する好適な方法について記述している。これらの値は、低塩濃度での性能を表しており、本明細書の他の場所で論じられているように、本発明のSSBの独特の利点は、高塩濃度で実現される。
【0051】
本発明者らは、中程度から高濃度など、広い範囲の塩濃度で、S.ruberのSSBがssDNA(二本鎖領域(複数可)を有する分子の一部であり得るか、または一部でなくてもよい)に結合する能力を保持していることを見出した。結果として、本SSBは、高塩濃度でssDNAのハイブリダイゼーションを防止し、DNA(完全にまたは部分的にハイブリダイズされ得、二次構造の領域を有するssDNA分子であり得るか、またはdsDNA分子、例えば天然に存在する二重鎖であり得る)を脱ハイブリダイズする能力を維持している。安定した二重らせんを形成する2つの相補鎖を分離する(例えば、標準的なdsDNA複製中に起こる)には、脱ハイブリッド化を達成するため、ヘリカーゼならびにSSBを必要とする。その一方で、SSB単独では、二次構造を含まないいくつかの二重鎖領域を有するssDNA分子を付与できる。
【0052】
配列番号1のSSBの代替として、Salinobacter iranicusまたはS.lutueus(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology [2012年]62、1521-1527)由来のSSB、またはその誘導体、断片もしくは多様体が使用され得る。これらの分子の誘導体および多様体としては、S.ruberに関して本明細書で論じたものと同じ野生型配列との配列同一性関係(%同一性)を有するものが挙げられる。
【0053】
溶液中の一本鎖DNA二次構造の形成は、主にワトソン-クリック塩基対形成および塩基スタッキングによるものである。こうした構造の安定性およびssDNAの全体的な剛性の両方が、高塩濃度溶液中で著しく増大する。塩イオンは、リン酸骨格に結合し、主に静電力によって駆動されるssDNA-リガンド相互作用を妨げる。したがって、高塩分環境では、ssDNAの生物物理学的特性が変化することにより、細胞維持系の機能不全を引き起こし得る。大腸菌SSBについては、高塩濃度により、SSB機能が妨げられるか、またはssDNA-SSB核タンパク質複合体が既に形成されている場合には、ssDNA-タンパク質複合体の過剰縮合が引き起こされることが示されている。塩濃度が20mM以下のNaClでは、大腸菌SSBは高協同様態でssDNAに結合し、細長いフィラメント状の核タンパク質複合体を形成し、塩濃度が20~200mMのNaClでは、大腸菌SSB四量体は、四量体が限られた協同性で結合する「ビーズオンストリング」構造を作製し、これらの塩濃度であり、またssDNAの存在下であっても、大腸菌SSBではオリゴマー/ポリマーの四次構造は観察されないことがわかっている。
【0054】
実施例に示されるように、本発明のSSBは、高塩条件下において、ssDNAの非存在下では八量体四次構造を形成し(図3)、ssDNAに結合するときに、高塩条件下で高分子四次構造を形成する(図2A図4)。
【0055】
本明細書に記載の塩条件下で、本発明のSSBは、好ましくは、ssDNAの非存在下で、主に少なくとも八量体四次構造を有する。好ましくは、本発明のSSBは、最大で2MのNaCl濃度で、ssDNAの非存在下では、主に八量体四次構造を有する。本明細書に記載の塩条件下で、本発明のSSBは、好ましくは、ssDNAの存在下で、主に高分子四次構造を有する。本明細書で使用する場合、「主に」とは、試料中のSSBタンパク質の50%超が、指示されたオリゴマー/ポリマー状態を有することを意味する。
【0056】
「高分子四次構造」は、当技術分野において周知の用語であり、単量体として発現したタンパク質が同じタンパク質の複数のコピーと会合して、ポリマーを形成することを示すために使用される。
【0057】
タンパク質の四次構造、すなわちオリゴマー状態を決定するための方法は、当技術分野で周知であり、そのような任意の方法を使用して、SSBの四次構造、すなわちオリゴマー状態を決定することができる。例えば、実施例に示されるように、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して、タンパク質の平均オリゴマー質量を決定し、それによりそのタンパク質の四次構造を示すことができる。フェリチン(440kDa)、アルドラーゼ(158kDa)、コンカルブミン(75kDa)およびオボアルブミン(43kDa)などの既知の分子量を有する標準タンパク質を使用したキャリブレーションが、当技術分野で周知である。
【0058】
SSB単量体のサイズの10倍を超える平均オリゴマー質量は、主に高分子四次構造を指し示している。SSB単量体のサイズの6倍を超える平均オリゴマー質量は、主に八量体四次構造を指し示している。
【0059】
好ましくは、本発明のSSBは、標準的なタンパク質フェリチン(440kDa)、アルドラーゼ(158kDa)、コンカルブミン(75kDa)およびオボアルブミン(43kDa)を参照して、25mM Trisを含む緩衝液(pH7.5、指定のNaCl濃度)中、Superdex200カラムでサイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定した場合、0.15M NaClにおいて、SSB単量体のサイズの少なくとも10倍、および/またはSSB単量体のサイズの少なくとも6倍、より好ましくは2M NaClにおいて、SSB単量体のサイズの少なくとも7倍の平均オリゴマー質量を示す。
【0060】
本発明者らは、驚くべきことに、野生型S.ruber SSBの突然変異が、一本鎖核酸に対するその結合親和性を有意に上昇させることを発見した。したがって、本発明による好ましいSSB分子は、17位または71位、あるいは最も好ましくはその両方に置換を組み込む。71位での置換が特に好ましい。
【0061】
さらなる態様において、本発明は、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈し、かつ配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも75%同一であるアミノ酸配列、またはその機能的断片を含み、かつ17位または71位のアミノ酸が置換されている、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を提供する。
【0062】
野生型S.ruber SSBでは、17位および71位は、アスパラギン酸が占有している。置換アミノ酸は、好ましくは負電荷を有さず、好ましくは、pH7.0で(その側鎖に)正電荷を担持している。適切な置換アミノ酸としては、リジン、ヒスチジン、アルギニン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが挙げられ、リジンおよびアルギニンが好ましく、リジンが特に好ましい。
【0063】
17位および71位は、配列番号1の全長野生型配列を参照して定義されることが理解されよう。本発明のいくつかのSSB分子では、「17位および71位」は、アミノ酸の付加または欠失、または異なる開始配列を選択することにより、標準的な配列アラインメントが行われる場合の同等の位置として理解される。すなわち、置換された残基は、その分子の17番目または71番目の残基でないことがあり得る。
【0064】
これらのSSB(17位および/または71位またはその均等物で置換されている)は、本明細書では突然変異SSBと称され、上記で定義された本発明の方法おける使用および使用に好ましいSSBである。上述の本発明のSSBの好ましい特徴は、これらの突然変異SSBによっても呈される。例えば、突然変異SSBは、250mMのカリウムイオンおよび/または150mMのマグネシウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも40%を呈することが好ましい。好ましくは、突然変異SSBは、500mMのナトリウムイオンの存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%を呈する。好ましくは、突然変異SSBは、カオトロピック塩、特に本明細書で定義される高濃度のカチオンを組み込んだカオトロピック塩の存在下で、それらの最大ssDNA結合能の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%を呈する。
【0065】
好ましい実施形態では、突然変異SSBは、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%または95%、例えば少なくとも98%または99%同一であるが、17位および/もしくは71位に置換、または置換(複数可)を組み込んでいるその機能的断片を有する、アミノ酸配列を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、17位または71位での突然変異と同様に、突然変異SSBは、配列番号1と比較して、単一または複数のアミノ酸変化(追加、置換、挿入または削除)を有する。こうした配列は、好ましくは、最大20個、例えば最大10個または5個、好ましくは1個、2個または3個、より好ましくは1個または2個の改変アミノ酸を含み得る。置換は、保存的または非保存的アミノ酸であり得る。好ましくは、この改変は、保存的アミノ酸置換である。
【0067】
好ましくは、17位および71位のアミノ酸は、配列番号1と比較して置換されている。
【0068】
特に好ましい実施形態では、本発明の突然変異SSBは、配列番号1のアミノ酸を含むか、またはそれからなるが、以下に示すように、17位または71位、好ましくは両方におけるアミノ酸は、リジンである。
【化1】
【0069】
本発明の突然変異型SSB(その断片を含む)をコードする核酸分子、またはそれらと実質的に相同である核酸分子は、本発明のさらなる態様を形成する。好ましい核酸分子は、配列番号1のSSBをコードする核酸であるが、17位または71位のアミノ酸は、リジン、アルギニン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンから選択されるアミノ酸で置換されている。特に好ましい核酸は、配列番号2のSSBをコードするもの、例えば配列番号5に示される核酸分子である。配列番号5の縮重型は、配列番号2をコードする。
【0070】
本発明の核酸分子およびタンパク質は、好ましくは「単離されている」または「精製されている」。
【0071】
配列同一性は、任意の簡便な方法によって評価することができる。ただし、配列間の相同同一性の程度を決定するには、複数の配列アライメントを行うコンピュータープログラム、例えばClustal W(Thompson、Higgins、Gibson、Nucleic Acids Res.、22:4673-4680、1994年)が有用である。所望の場合、Clustal WアルゴリズムをBLOSUM 62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、89:10915-10919、1992年)およびギャップオープニングペナルティ10およびギャップエクステンションペナルティ0.1と共に使用でき、これにより、配列のうちの1つの全長の少なくとも50%がアライメントに関与している2つの配列間で、最高次の一致が得られる。配列を整列させるために使用され得る他の方法は、NeedlemanおよびWunschの整列方法(Needleman and Wunschl、J.Mol.Biol.、48:443、1970年)、SmithおよびWatermanによる改訂(Smith and Waterman、Adv.Appl.Math.,2:482、1981年)であり、これにより、2つの配列間で最高次の一致が得られ、2つの配列間で同一アミノ酸の数が決定される。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性を計算する他の方法は、一般的に技術的に認識され、例えば、CarilloおよびLiptonに記載されているもの、(Carillo and Lipton、SIAM J.Applied Math.、48:1073、1988年)および「Computational Molecular Biology」Lesk編、Oxford University Press、New York、1988年、Biocomputing:Informatics and Genomics Projectsに記載されているものが挙げられる。
【0072】
通常、このような計算には、コンピュータープログラムが使用される。配列ペアを比較し、整列するプログラム(ALIGN(MyersおよびMiller、CABIOS、4:11-17、1988年)、FASTA(Pearson and Lipman、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85:2444-2448、1988年;Pearson、Methods in Enzymology、183:63-98、1990年)およびgapped BLAST(Altschulら、Nucleic Acids Res.、25:3389-3402、1997年)、BLASTP、BLASTN、またはGCG(Devereux、Haeberli、Smithies、Nucleic Acids Res.、12:387、1984年)など)が、この目的では、有用である。さらに、European Bioinformatics instituteのDaliサーバーは、タンパク質配列の構造ベースのアライメントを提供している(Holm、Trends in Biochemical Sciences、20:478-480、1995年;Holm、J.Mol.Biol.、233:123-38、1993年;Holm、Nucleic Acid Res.、26:316-9、1998年)。
【0073】
基準点を提供するために、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する本発明による配列は、デフォルトパラメータを用いて、ALIGNプログラムを使用して決定され得る(例えば、GENESTREAMネットワークサーバ(IGH、Montpellier、France)においてインターネット上で利用可能である)。
【0074】
本明細書で使用されるとき、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基(例えば正に荷電している、疎水性など)で置換されているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野で定義されている。
【0075】
本発明のSSBは、遺伝的にコードされたアミノ酸を含むが、1つ以上の遺伝的にコードされていないアミノ酸または修飾アミノ酸、またはN末端修飾もしくはC末端修飾を含んでもよい。
【0076】
核酸分子または配列およびタンパク質またはポリペプチド(例えば、SSB)に関して、本明細書で使用される用語「単離された」または「精製された」は、それらの天然環境から単離された場合、精製された場合、または実質的に含まない場合、例えば、生物(実際に、それらが自然に発生する場合)または産生に使用される宿主細胞から単離または精製された場合のこうした分子、または技術的プロセスによって産生される場合のこうした分子、すなわち、組換えおよび合成で産生された分子などを指す。
【0077】
したがって、SSBなどのタンパク質またはポリペプチド分子と関連して使用される場合、「単離された」または「精製された」という用語は、典型的には、細胞材料を実質的に含まないタンパク質、またはそれらの発生源からの他のタンパク質を指す。いくつかの実施形態において、こうして単離または精製されたタンパク質は、組換え技術により産生される場合、培地を実質的に含まず、または化学合成される場合、化学前駆体もしくは他の化学物質を含まない。
【0078】
さらなる態様では、本発明は、上記で定義した本発明の核酸分子と、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質配列の転写および翻訳に必要な調節配列とを含む発現ベクター(好ましくは組換え発現ベクター)を提供する。
【0079】
考えられる発現ベクターとしては、そのベクターが使用する宿主細胞と適合性がある限り、コスミドまたはプラスミドが挙げられるが、これらに限定されない。発現ベクターは、宿主細胞の形質転換に好適であり、これは発現ベクターが、本発明の核酸分子、および発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択され、作動可能に核酸分子に連結されている調節配列を含むことを意味する。作動可能に連結されるとは、核酸の発現を可能にする様式で、核酸が調節配列に連結されることを意味することを意図している。
【0080】
好適な調節配列は、細菌、真菌、ウイルス、哺乳動物、または昆虫の遺伝子など、さまざまな発生源に由来してもよく、これらは、当技術分野において周知である。適切な調節配列の選択は、以下で論じるように選択された宿主細胞に依存し、当業者によって容易に達成され得る。こうした調節配列の例としては、転写プロモーターおよびエンハンサー、またはRNAポリメラーゼ結合配列、翻訳開始シグナルなどのリボソーム結合配列が挙げられる。追加的に、選択された宿主細胞および使用されたベクターに応じて、複製起点、追加のDNA制限部位、エンハンサー、および転写の誘導性を付与する配列などの他の配列が、発現ベクターに組み込まれてもよい。
【0081】
本発明の組換え発現ベクターはまた、本発明の組換え分子で形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞の選択を容易にする選択マーカー遺伝子を含んでもよい。
【0082】
組換え発現ベクターはまた、組換えタンパク質の発現の増加、組換えタンパク質の溶解性の増大をもたらす融合部分をコードする遺伝子を含み得る。また、発現ベクターは、このアフィニティー精製においてリガンドとして作用することにより、標的組換えタンパク質の精製を助ける(例えば、精製および/または同定を可能にする適切な「タグ」、例えば、Hisタグまたはmycタグが存在し得る)。
【0083】
組換え発現ベクターは、宿主細胞に導入して、形質転換宿主細胞を産生できる。「により形質転換された」「によりトランスフェクトされた」、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、当技術分野で公知の多くの可能な技術のうちの1つによって、細胞に核酸(例えば、ベクター)を導入することを包含することを意図している。宿主細胞を形質転換およびトランスフェクトするための好適な方法は、Sambrookら、1989年(Sambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY、1989年)および他のラボテキストに見い出され得る。
【0084】
好適な宿主細胞としては、多種多様の原核生物宿主細胞および真核生物細胞が挙げられる。好ましくは、本発明のタンパク質は、大腸菌などの細菌宿主細胞中で発現させ得る。
【0085】
タンパク質またはペプチド(例えば、エピトープタグまたは精製タグ)などの他の分子にコンジュゲートした本発明のSSBを含むN末端またはC末端融合タンパク質は、組換え技術により融合することにより調製され得る。
【0086】
本発明のSSBは、他の部分、例えば蛍光部分を組み込んでいるものなどのレポーター部分にもコンジュゲートすることができる。融合タンパク質は、核酸ポリメラーゼに融合した本発明のSSBを含み得、ポリメラーゼは、熱安定性および/または耐塩性であり得る。
【0087】
またさらなる態様は、本発明の1つ以上の発現ベクターを含む宿主細胞またはウイルスを提供する。本発明の核酸分子のうちの1つ以上を含む宿主細胞またはウイルスもまた提供される。本発明のSSBを発現することができる宿主細胞またはウイルスは、さらなる様態を形成する。
【0088】
適切な場合、本発明のSSBは、天然源から単離され得る、例えば、サリノバクターの抽出物から単離されたか、または宿主細胞内において組換えにより産生され、そこから単離および精製され得る。特定の実施形態では、SSBは、SSBが天然に見出されるものと同じではない生物ではない宿主細胞、またはその生物由来ではない宿主細胞、すなわち異種宿主細胞において、組換え技術によって産生される。
【0089】
本発明者らは、野生型S.ruber SSB遺伝子のコドン最適化型を調製し、本明細書では配列番号4と命名している。配列番号4の核酸配列またはその機能的断片を含む核酸分子は、本発明のさらなる態様を構成する。機能的断片は、上記で定義されたSSBの機能的断片をコードする断片である。配列番号5の核酸配列を含む核酸分子はコドン最適化され、17位および71位にリジンのコドンが組み込まれ、これが、本発明の好ましい実施形態である。
【0090】
本発明のSSBは、組換えDNA技術を使用して生成され得る。代替的には、SSBを産生するために、無細胞発現系を使用することができる。代替的には、本発明のSSBは、一度に1つのアミノ酸の段階的伸長による化学合成を用いて生成され得る。こうした化学合成技術(例えば、固相合成)は、タンパク質の化学において周知である。
【0091】
本発明のさらなる態様は、本発明の宿主細胞を培養するステップを含む、本発明のSSB(突然変異SSBなど)を産生する方法を提供する。好ましい方法は、(i)コードされたSSBの発現に好適である条件下で、組換え発現ベクターのうちの1つ以上、または本発明の核酸分子のうちの1つ以上を含む宿主細胞を培養するステップと、任意により、(ii)SSBを宿主細胞から、もしくは増殖培地/上清から単離させるか、または取得するステップと、を含む。また、こうした製造方法は、SSBを精製するステップ、および/またはSSBを適切な緩衝液または担体などの少なくとも1つの追加成分を含む組成物または生成物に配合するステップを含み得る。
【0092】
SSBは、当該分野で公知であり、文献に広く記載されているタンパク質のための精製技術のいずれか、またはそれらの任意の組み合わせを使用して、宿主細胞/培地または天然の発生源から分離または単離され得る。こうした技術としては、例えば沈殿、限外濾過、透析、種々のクロマトグラフィー技術、例えばゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離などを挙げることができる。上記のように、本発明のSSBは、単離、可溶化および/または精製もしくは同定を補助するために、アミノ酸モチーフまたは他のタンパク質もしくは非タンパク質タグ、例えばポリヒスチジンタグを担持するように改変され得る。
【0093】
上述のように、本発明の一態様は、核酸シーケンシングの方法である。好ましい実施形態では、これらの方法は次世代シーケンシング方法である。いわゆる「次世代」、または「第2世代」または「第3世代」のシーケンシングアプローチ(「第1世代」のアプローチとしてのSangerジデオキシヌクレオチド法に対して)が広く普及してきている。これらのより新しい技術は、並列(例えば、大量の並列シーケンシング反応など)を使用した結果としての、または所要時間のより短いステップによる高い処理能力を特徴とする。さまざまなハイスループットシーケンシング方法により、単一分子のシーケンシングがもたらされ、この方法では、パイロシーケンシング、リバーシブルターミネーターシーケンシング、ライゲーションによる切断可能なプローブシーケンシング、ライゲーションによる切断不可能なプローブシーケンシング、DNAナノボール、単一分子、リアルタイムシーケンシング(SMRT)、およびナノポアシーケンシングなどの技術を用いる。
【0094】
本発明の方法および使用に従って生成され得る塩安定性核タンパク質複合体は、高塩緩衝液による洗浄に耐え得る。これは、次のプロセスに記載するように、次世代シーケンシングにおいて非常に有用である。表面結合DNAオリゴヌクレオチドのクラスタを生成する固相DNA増幅の間、複数の洗浄が用いられる。洗浄ステップの目的は、非結合鋳型を除去し、非相補的鋳型のアニールを表面結合オリゴに制限することである。これらのほとんどの洗浄液には、高濃度の塩が含まれている。塩活性のSSBタンパク質を導入することにより、DNAは全洗浄サイクルにおいて一本鎖に保たれるため、多くのDNAプロセシング酵素の活性を低下させる二次構造を形成できない。SSBタンパク質の添加により、DNAポリメラーゼの忠実度および処理能力が向上することが示されている(Nucleic Acids Res[2003年]31(22):6473-6480)。これらのパラメータは、クラスタ生成プロセスにおいて非常に重要であり、以下のシーケンシングフェーズが、可能な限り確実に効率的に実行される。
【0095】
高塩洗浄は、第2世代のハイスループットシーケンシングのコアプロセスである合成時解読(SBS)法にも組み込まれている。次のサイクルの中断を防ぐために、過剰なヌクレオチドおよび切断された合成阻害剤、切断酵素などの他の成分が洗浄ステップで除去される。ここでも、全洗浄手順を通じてDNAを一本鎖形態に保つことができるSSBタンパク質により、シーケンシングの質が大いに改善される。
【0096】
したがって、本発明の好ましいシーケンシング方法は、固相DNA増幅ステップおよび/または合成時解読(SBS)ステップを含む。
【0097】
ナノポアシーケンシングは、「第三世代」シーケンシング法として知られており、本発明の特に好ましいシーケンシング法である。ナノポアシーケンシングでは、ヌクレオチドA、T、C、Gのそれぞれが細孔内を通過するときに観察される細孔全体の電流に対する異なる効果を利用する(Wangら、(2015年)Frontiers in Genetics、第5巻、Article 449)。微細孔は、内径が約1ナノメートル以下(例えば約2nm)の孔であり、細孔は、膜貫通タンパク質、シリコンまたはグラフェンなどの有機または無機材料で形成されている。典型的には、dsDNA分子は、その鎖のうちの1つが細孔を通過することによって配列決定され、各ヌクレオチドは細孔全体の電流に読み取り可能な変化を引き起こす。SSBは、細孔の上流にある(まだ)配列決定されていない鎖および/または細孔を通過した鎖のいずれかに結合する場合に有用であり得る。
【0098】
したがって、本発明の好ましい実施形態は、試料溶液が、500mMのナトリウムイオンの存在下で、その最大ssDNA結合能の少なくとも50%を呈する一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)を含むナノポアシーケンシング方法である。好ましくは、SSBは、S.ruber SSBまたはその誘導体、断片、多様体もしくは相同体である。したがって、SSBは、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1と少なくとも75%同一であるか、または上記で定義されたその機能的断片であるアミノ酸配列を有する。
【0099】
本発明の特に好ましい「第二世代」シーケンシング方法は、パイロシーケンシングであり、この方法では、SSBにより、シグナル強度が増大し、非特異的シグナルが減少し、重合効率が改善され、非定量的シグナルが減少し、かつ/または酵素アピラーゼおよびポリメラーゼの阻害が減少し得る。パイロシーケンシングは、ヌクレオチドの組み込み時に放出されるピロリン酸の検出に基づく、合成時解読(SBS)法の一例である。
【0100】
上記のように、本発明の一態様は、核酸増幅方法である。典型的には、この方法は、DNAポリメラーゼ、上記で定義された本発明のSSB、鋳型核酸分子、オリゴヌクレオチドプライマー(複数可)(例えば、2つ以上のプライマー、例えば2、3、4、5または6プライマー)を含む反応混合物を提供することを含む。これにより、鋳型核酸分子の酸分子の一部分、およびヌクレオチド(例えば、デオキシヌクレオシド三リン酸、dNTP)にアニールすること、およびオリゴヌクレオチドプライマー(複数可)が鋳型核酸分子にアニールする条件下で反応混合物をインキュベートすることが可能であり、DNAポリメラーゼは、1つ以上のヌクレオチドを重合して、ポリヌクレオチドを生成することによってオリゴヌクレオチドプライマー(複数可)を伸長させる。好適な条件は、当技術分野で周知である。本発明の増幅方法は、PCR(およびRT-PCR)を含むが、核酸増幅の好ましい方法は、等温増幅方法である。本発明の等温増幅法は、一定温度で行われ、好ましい温度は、本明細書の他の箇所に記載されている。任意により、ポリヌクレオチド生成物の生成が検出される(例えば、ゲル電気泳動により)。
【0101】
例示的な等温増幅方法としては、ループ介在等温増幅(LAMP)、ローリングサークル増幅(RCA)、鎖置換増幅(SDA)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、多重置換増幅(MDA)およびクロスプライミング増幅(CPA)が挙げられる。
【0102】
上記のように、本発明の一態様は、部位特異的突然変異誘発の方法である。こうした方法は、そうでなければ突然変異部位の周りの鋳型DNAに相補的である所望の突然変異(複数可)を含むDNAプライマーを使用してもよい。本明細書で定義されるSSBをさらに含む反応混合物中の鋳型にプライマーをアニールさせる場合、DNAポリメラーゼを使用してプライマーを伸長させる。反応混合物は、典型的にはタンパク質RecAも含む。鋳型配列のコピーには、所望の突然変異が組み込まれており、これをベクターに挿入し、宿主細胞に導入して、クローン化させ得る。
【0103】
本発明の使用および方法は、典型的には、インビトロで実施される。
【0104】
本発明はまた、上で定義された本発明のSSBを含む組成物を提供する。そのような組成物は、好ましくは、緩衝液、およびグリセロールまたはスクロースなどの安定化剤を含み、DNAポリメラーゼも含み得る。組成物は、水性であり得、Tris、HEPESなどの標準緩衝液で緩衝され得る。いくつかの実施形態では、SSBを含有する緩衝液は、例えば少なくとも350mMのナトリウムイオン、少なくとも50mMのカリウムイオン、少なくとも150mMのマグネシウムイオンおよび/または少なくとも200mMのカルシウムイオンなどの高塩濃度を含み得る。したがって、本発明のSSBは、こうした高塩濃度の洗浄緩衝液に有利にも含まれ得る。上記で定義された本発明のSSBに適した配合物は、pH8.0の25mM Tris-Cl、200mM NaClおよび10%グリセロールを含む。
【0105】
本発明は、上記で定義された本発明のSSBのうちの1つ以上、または本発明の1つ以上の組成物、または本発明の核酸分子のうちの1つ以上、または本発明の1つ以上の発現ベクター、または本発明の1つ以上の宿主細胞もしくはウイルスを含むキットをさらに含む。好ましくは、キットは、方法における使用および本明細書に記載の使用(例えば、核酸増幅またはナノポアシーケンシング法などのシーケンシング方法)のためのものである。好ましくは、キットは、例えば、核酸増幅またはシーケンシングのためのキット構成要素の使用に関する指示書を含む。したがって、キットは、ポリメラーゼ、洗浄緩衝液もしくは他の緩衝液(本明細書でさらに論じるように高塩濃度を含み得る)、ヌクレオチド、核酸プライマー、リガーゼ、トポイソメラーゼもしくはジャイレース(またはナノポアシーケンシングを補助するため他の分子モータータンパク質)のうちの1つ以上をさらに含み得る。
【0106】
さらなる態様において、本発明は、シーケンシング装置、例えばMinIONまたはGridION(Oxford Nanopore Technologies)での使用に好適であるカートリッジ内に含まれる、上で定義された本発明のSSB、または本発明の組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
本発明は、以下を参照して以下の非限定的な実施例でさらに説明される:
図1図1A)、B)、C)およびD)は、一価および二価の塩の存在下でのS.ruber SSB(野生型および突然変異型)および大腸菌SSBのDNAへの結合を示す図である。
図2図2A)ssDNAを含まないか、または5または120‘について、M13ファージssDNAでインキュベートし、電子顕微鏡で可視化させた塩の混合物(350mM NaCl、600mM KClおよび150mM Mg(OAc)2)の存在下でのSr SSB D17KD71K突然変異体を示す図である。図2B)塩の混合物(350nM NaCl、600nM KCl、および150mM Mg(OAc)2)の存在下で、S.ルベーSSB(野生型および突然変異型)および大腸菌SSBのDNAへの結合を示す図である。
図3】0.15M、2Mおよび4M NaClにおいてサイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定されたS.ruber野生型SSBの見かけのオリゴマー質量、および0.15M NaClでサイズ排除クロマトグラフィーを使用して決定されたS.ruber SSB cdel 111末端欠失突然変異体を示す図である。
図4】高塩濃度条件下でのS.ruber SSBの結晶構造を示す図である。この構造は、重合させた四量体からなるフィラメント状の構造を示している。(A)重合界面は、別々の四量体に属する2つの隣接する二量体によって形成され、フィラメントに沿って繰り返される。(B)フィラメント中の四量体の結晶充填。結合DNAの短いDNA断片は、(dT)8オリゴヌクレオチドに浸漬されている。実施例野生型S.ruber SSBおよびD17K D71K突然変異体の同定およびクローニング
【0108】
単一SSBのオープンリーディングフレームは、クエリ(NCBI:WP_042201710.1)として、大腸菌SSB配列によるblastpアルゴリズムを使用して、S.ruber株DSM 13855ゲノム(GenBank:CP000160.1)において同定された(J.Mol.Biol[1990年]215、403-410)。17位および71位においてアスパラギン酸をリジンに置換する2つの点突然変異を導入し、D17K D71K突然変異体を得た。
【0109】
野生型SSBおよびD17K D71K突然変異体をコードする遺伝子を、(DNA2.0を用いて)大腸菌での発現のためのコドン最適化を用いて合成した。コドン最適化遺伝子では、元のヌクレオチドの26%が置換され、GC含有量が元の63%から47%に変化したため、得られた遺伝子は大腸菌での発現により適したものとなった。
【表1】
【0110】
大腸菌におけるSr SSBタンパク質多様体の発現のための構築物は、高速クローニング法(BMC Biotechnol[2011年]11、p92)でクローニングされた。挿入断片は、Sr SSB i FW(フォワード)およびSr SSB i RW(リバース)オリゴヌクレオチドと、鋳型としてのwt Sr SSBまたはSr SSB D17K D71K合成遺伝子とのPCR反応により生成した。ベクター断片は、SrSSBのv RWおよびSr SSBのv FWのオリゴヌクレオチドと、鋳型としてのpCOLD II発現ベクター(Takara)とのPCR反応によって生成した。鋳型DNAを除去するために、DpnI制限酵素を加え、断片を混合し、37℃で3時間インキュベートした。次に、混合物は、NovaBlueコンピテント細胞(Novagene)に形質転換し、大腸菌細胞中で両方の遺伝子を発現させるための構築物を得た。
【0111】
両方のインサートおよびベクター断片を生成するために、Phusion High-Fidelity DNA Polymerase(Thermo)を使用した。遺伝子クローニングに使用したオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologiesによって合成された。クローン化構築物は、DNAシーケンシングにより確認した。
【表2】
タンパク質の発現および精製
【0112】
wt Sr SSB発現プラスミドで形質転換した大腸菌細胞株Bl21を一晩成長させた後、アンピシリン(100mg/ml)を補充した新鮮なTerrific Broth培地で1:50に希釈した。OD600が0.5に達するまで細胞を培養し、その後、培養物を18℃まで冷却した。組換えタンパク質の発現は、0.5mM IPTGの添加により誘導され、18℃で一晩培養を続けた。次いで、細胞を遠心分離(8000xg、4℃、10分間)により収穫し、緩衝液A(Tris-HCl 25mM pH7.4、NaCl 0.5M、イミダゾール10mM、β-メルカプトエタノール5mM、Tween20 0.05%、グリセロール10%)に再懸濁した。フレンチプレス(27kpsi適用)で細胞を破砕した後、粗抽出物を遠心分離(65,000xg、4℃、30分)で清澄化し、上清を、1mL HisTrap HPカラム(GE Healthcare)を備えた固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によるタンパク質精製に使用した。装填前に、カラムを、5カラム容量(CV)の緩衝液Aで平衡化した。清澄化したライセートをカラムに充填した後、緩衝液Aを含む5CV洗浄液により、未結合の物質を除去した。タンパク質は、10CVの緩衝液Aで10mM~500mMのイミダゾールから、線形勾配で溶出した。SSBを含む画分をSDS-PAGEで検出した後、それらを合わせて、Amicon Ultra-15 Filter Device(Millipore、USA)を用いて、分子量カットオフ100kDaで濃縮した。最終透析は、緩衝液B(Tris-HCl 25mM pH7.4、NaCl 0.15M、β-メルカプトエタノール5mM、グリセロール10%)に対して実施した。D17K D71K突然変異体の精製は、同じプロトコルに従って行った。精製したSSBタンパク質の純度は、SDS-PAGE(95%以上)を使用して推定し、濃度は蛍光測定法で測定した。
一本鎖DNA結合活性測定
蛍光測定
【0113】
野生型S.ruber SSBおよびD17K D71K突然変異体を、NaCl、KCl、MgCl2およびCaCl2を補充した反応緩衝液中でssDNAに結合するそれらの能力について試験した。大腸菌SSBは、十分に特徴が明らかにされている参照タンパク質として使用した。
【0114】
アッセイでは、フルオロフォア標識オリゴヌクレオチド(表2、配列番号10)の蛍光の変化が検出されている。オリゴヌクレオチドMBは、短い8塩基対(bp)の二本鎖ステムおよび24塩基の一本鎖ループを有する部分的ヘアピンを形成するように設計されている。オリゴは、蛍光色素-FAM(カルボキシフルオレセインおよびDABCYL(4-(4‘-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸))で標識されており、これはFAM蛍光を消光する。オリゴヌクレオチドがその天然の状態にあるとき、ステムの5‘末端および3‘末端の両方が近接してヘアピン状態にあり、FAM蛍光はDABCYLによって消光される。SSBタンパク質が24ヌクレオチドループに結合することで、二本鎖ステム中の水素結合が破壊され、オリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイズが強制的に行われる。FAMおよびDABCYLの空間的分離により、色素蛍光の測定が可能になる(Tangら、Chemical Communications[2011年]47(19)、p5485-5487)]。
【0115】
野生型およびD17K D71K突然変異体タンパク質は両方とも、高塩濃度の一価および二価の塩の両方において、蛍光プローブを効率よく結合して脱ハイブリダイズすることができる。それぞれ10mM~1M、0M~1Mおよび0M~250mMの範囲の塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)および塩化マグネシウム(MgCl2)の存在下でのssDNAプローブとの核タンパク質複合体形成を図1A図1Cに示す。
【0116】
反応液は、0.125μMの分子ビーコンおよび0.25μMの大腸菌SSB四量体(単一結合単位)、4μMのwt Sr SSBおよび2μMのD17K D71Kを含んでいた。蛍光プローブを含み、96ウェルプレート(Corning)中の指示濃度のNaCl、KClまたはMgCl2を補充した50μlの反応緩衝液MB(10mM Tris-HCl pH7、10mM NaCl)中で反応混合物を三連で準備した。指示されたSSBタンパク質を添加することにより結合反応が開始し、次の反応を25℃で15分間インキュベートし、Gemini plate reader(Molecular Devices)上で495nmでの励起および520nmでの発光において蛍光を測定した。すべてのグラフは、蛍光単位で測定した、初期応答の100%に対して正規化した。
【0117】
塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化マグネシウムの濃度が上昇しても、両方のSr SSB多様体は、ssDNAに結合して脱ハイブリダイズするそれらの能力を維持している。D17KのD71K突然変異体は、野生型タンパク質と非常に類似しているが、その濃度のわずかに半分で、結合レベルを示し、ssDNAに対して増大した親和性を示す。
【0118】
塩濃度を200~400mM(NaCl)に上昇させると、前述の大腸菌SSBタンパク質の結合親和性が、劇的に低下する(Biochemistry[1988年]27、456-471)。こうした低下は、タンパク質と核酸との間の静電的相互作用の破壊および相補的ssDNAによって形成された二本鎖DNAのセグメントの安定性の増大の両方によるものである。これまでの観察と一致して、大腸菌由来の参照SSBのssDNAへの親和性は、試験したすべての塩濃度の上昇と共に、有意に低下した。
【0119】
この実験はまた、上昇した濃度のCaCl2に対する大腸菌、野生型および突然変異体のS.ruber SSBの感受性を試験するためにも行われた。この結果を図1Dに示す。
表面プラズモン共鳴
【0120】
D17K D71K突然変異体のより高い結合親和性はまた、T200機器(BIACORE)で表面プラズモン共鳴を使用してタンパク質-ssDNA相互作用強度を直接調べることによっても確認された。このバイオセンサーベースの技術により、核タンパク質複合体など、様々な複合体の平衡解離定数(KD)の計算を可能にする結合パラメータのリアルタイム測定が可能になる。確実に測定値がヌクレオチド配列によって偏らないようにするために、無作為に生成した150ヌクレオチドの5’-ビオチニル化ssDNAオリゴヌクレオチドを使用した(表2、配列番号11)。オリゴヌクレオチドをビオチン-ストレプトアビジン相互作用を介してSA S型チップ(BIACORE)の表面に付着させた。次に、両方のタンパク質をMB緩衝液(10 mM Tris-HCl pH7、10mM NaCl)でチップ表面に希釈して(10nM、20nM、40nM、100nM、150nM、200nM、300nM)、流した。結合事象は、チップ表面上の質量変化によって検出され、これによりタンパク質-ssDNA相互作用の速度論的パラメータのリアルタイム測定が可能になった。速度論的パラメータは、表3の表に示す。
【表3】
【0121】
表3は、150 ntの一本鎖DNAへの結合の解離定数(KD)、および野生型タンパク質およびD17D71K S.ruber SSBの結合モデルへのフィッティングの質を示す。1未満のChi2値は、実験データが、KD計算に使用されるモデルに非常によく適合していることを示す。D17KD71K突然変異体のKDは、1.8倍以上低く、これは突然変異タンパク質の結合親和性が増大していることを示す。
【0122】
KD値の低下により、D17K D71K突然変異を導入することで、一本鎖DNAに対する野生型SSBタンパク質の初期の、すでに高い親和性が大幅に上昇することが確認される。
【0123】
この実験は、必然的に低塩濃度で実施されたが、それでもなお突然変異タンパク質の優れた結合親和性が示されている。
塩の混合物における結合および脱ハイブリダイズ蛍光アッセイ
【0124】
野生型S.ruber SSB、D17K D71K突然変異体、および野生型SSBのC末端111残基を欠くS.ruber SSB cdel111 C末端欠失突然変異体が、NaCl、KCl、Mg(OAc)2の混合物を含む反応緩衝液中においてssDNAと結合する能力について、それぞれ、試験した。大腸菌SSBは十分に特徴が明らかにされている参照タンパク質として使用した。反応物は、0.125μMの分子ビーコン、0.25μMの大腸菌SSB四量体(単一結合単位)、4μMのwt SrSSB、D17KD71K突然変異体八量体またはcdel111突然変異体を含んでいた。96ウェルプレート(Corning)中、350mM NaCl、600mM KClおよび150mM Mg(OAc)2を含有する100μlの反応緩衝液MB(10mM Tris-HCl、pH7)中で反応を三連で準備し、25℃で、5時間インキュベートした。蛍光は、495nmでの励起および520nmでの発光を5分ごとに測定した。分子ビーコンを含む反応のベースライン蛍光は、差し引いた。測定は、Geminiマイクロプレートプレートリーダー(Molecular Devices)で行った。
【0125】
実験の過程で、本発明者らは、野生型および突然変異型のS.ruber SSBの両方について蛍光の増大を観察した。これはタンパク質がDNAプローブへ結合していることを示している。D17KD71K突然変異体は、高濃度の塩混合物中のssDNAに対する親和性が有意に増大した。大腸菌SSBおよびcdel111は、実験条件下で測定可能な結合活性は有さなかった。結果は、図2Bに示す。
【0126】
四量体が比較的低濃度の二価塩、例えば塩化マグネシウム中で安定性を失う大腸菌SSBとは異なり、Sr SSBは、その高次構造を維持し、高濃度の一価および二価塩の混合物中でssDNAを結合することができる(図2)。
SrSSB-ssDNA複合体の電子顕微鏡
【0127】
Sr SSB D17KD71K突然変異体タンパク質は、「塩混合物中の結合および脱ハイブリダイズ蛍光アッセイ」単独で、または200倍過剰において、ssDNAと(M13mp18一本鎖DNA、NEB)共に、同じ反応条件でインキュベートした。タンパク質濃度は、17μM(八量体)で、インキュベーション時間は5~120分である。ネガティブ染色電子顕微鏡用の試料を調製するために、3μlの液滴の分析物を1分間カーボンコートしたグリッドに入れ、その後吸い取った。グリッドをMili-Q水で5回洗浄し、吸い取り、2%酢酸ウラニルで1分間染色した。次いで、グリッドをブロットし、100kVの加速電圧で操作させた低線量モードのJEOL 1200 EXIIで観察するために真空乾燥させた。
【0128】
図2Aに、EMの可視化を示す。タンパク質単独またはM13ファージssDNAとの反応混合物中で5’についてインキュベートしたとき、限られた量の高度に規則化された環状様および鎌状様構造が観察された。インキュベーションを120’まで伸長させた場合、大量の大きく規則化された構造が観察された。観察された広範な構造は、Sr SSB-ssDNAの核タンパク質複合体であり、これはタンパク質をssDNAとインキュベートしたときに広範に形成される。このため、このタンパク質は、大きく規則的なフィラメント様核タンパク質複合体を形成し、また、高濃度の塩溶液でssDNAを結合し、脱ハイブリダイズできることが確認される。
オリゴマー構造
【0129】
他の既知のSSBに対するSalinibacter ruber(Sr SSB)の配列アラインメントは、タンパク質が細菌SSBの大部分と同様に四量体を形成することを示唆したが、最初にSr SSBの特徴を明らかにする間に、タンパク質が、予想外のより高いオリゴマー状態に存在することが発見された。
【0130】
大腸菌SSBについては、高塩濃度により、SSB機能が妨げられるか、またはssDNA-SSB核タンパク質複合体が既に形成されている場合には、ssDNA-タンパク質複合体の過剰縮合が引き起こされることが示されている。NaClが20mM以下の塩濃度では、大腸菌SSBは、高協同性様態でssDNAに結合し、細長いフィラメント状核タンパク質複合体を形成し、NaClが20~200mMの塩濃度では、大腸菌SSB四量体が、限定された協同性で四量体が結合する「ビーズオンストリング」構造を生成することが知られている。
【0131】
高塩条件および低塩条件でのSalinibacter ruber由来のSSBの集合状態を決定するために、サイズ排除クロマトグラフィーおよび示差走査熱量測定により、組換えにより産生されたSr SSBを分析した。SSBオリゴマー状態に対する塩濃度の影響を調べるために、Superdex 200 10/300 GLカラム(GE healthcare)でのサイズ排除クロマトグラフィーによってSSBオリゴマー分子量推定を行った。25mM Tris pH7.5および0.15M(緩衝液C1)、2M(緩衝液C2)、4M(緩衝液C3)NaClを含有する緩衝液C中で分析を実施した。次に、野生型S.ruber SSBタンパク質の溶出パターンを標準タンパク質の溶出パターンと比較した:フェリチン(440kDa)、アルドラーゼ(158kDa)、コンカルブミン(75kDa)、オボアルブミン(43kDa)。
【0132】
図3にその結果を示す。サイズ排除による精製Sr SSBの分析により、約225kDaの分子量に対応する単一のピークが明らかになり、これは単量体の分子量の約10.3倍である。この結果は、タンパク質が前述のSSBよりも大きいオリゴマーを形成し、おそらくSr SSB四量体が集合して、八量体(四量体の二量体)、十二量体(四量体の三量体)および4の倍数のより高いオリゴマー状態となることを示している。したがって、観察された単量体の10.3倍の質量は、平衡状態で約42%の八量体および58%の十二量体との混合物を表す。塩濃度の上昇に伴い、観察されたオリゴマーのサイズは、それぞれ2Mおよび4MのNaClで、単量体のサイズの約7.6倍(約90%八量体、10%四量体)および4.9倍(約25%八量体、75%四量体)に低下した。オリゴマー状態の分析もまた、500mM MgCl2の存在下で行われ、ここでタンパク質オリゴマーのサイズは、単量体のサイズの約8倍であった(データは示さず)。
【0133】
したがって、S.ruber SSBは、ssDNAの非存在下であっても、高塩条件の存在下で、顕著な四次構造安定性を示す。このような四次構造は、ssDNAへの結合に必要である。S.ruber SSBのC末端欠失突然変異体は、高濃度の塩の混合物ではssDNAに結合しないことが示され(図2B)、150mM NaClで単量体のサイズの3.8倍(四量体の四次構造のみを示す)の推定サイズを有することが示された(図3)。
【0134】
驚くべきことに、wt SSBとは異なり、C末端欠失突然変異体CΔ111は、八量体を形成できず、代わりに四量体を形成した(データは示していない)。上記のように、CΔ111はまた、高塩中でssDNAに結合することができなかった。したがって、Sr SSBの場合、C末端ドメインは、高塩におけるフィラメント形成およびssDNA結合活性の両方にとって極めて重要である。
結晶化および構造決定
【0135】
野生型S.ruber SSBの小さい角柱状結晶が、20μMのd(T)75オリゴヌクレオチドおよび1μlのリザーバ溶液を含有する1μlのタンパク質溶液(5mg/ml)からなるシッティングドロップ(27%w/v PEG3350、100mM Tris-HCl pH8.0、0.25M MgCl2、1M硫酸アンモニウム)で得られた。浸漬実験は、形成された結晶を含む液滴にd(T)8オリゴヌクレオチドを最終濃度0.25μMまで添加することによって行った。
【0136】
図4は、結晶構造Sr SSB(PDB ID5ODN)が、四量体の二量体から構築された非対称単位として八量体を有することを示す。各OBフォールドが、ssDNAの1つの短い断片を結合し、その結果、非対称単位の8つのタンパク質および8つのssDNA断片となった。図4Aには、八量体化界面を示す。図4Bは、SSBタンパク質が、使用される高塩結晶化条件下(0.25MのMgCl2、1M硫酸アンモニウム)であっても、密集した四量体のフィラメントを形成することを示している(図3B)。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
【配列表】
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