IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サフランの特許一覧

<>
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図1
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図2
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図3
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図4
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図5
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図6
  • 特許-環境バリアによって保護された構成部品 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】環境バリアによって保護された構成部品
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20230508BHJP
   C23C 4/134 20160101ALI20230508BHJP
   C23C 4/067 20160101ALI20230508BHJP
【FI】
C04B41/87 J
C23C4/134
C23C4/067
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020519377
(86)(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-10
(86)【国際出願番号】 FR2018052439
(87)【国際公開番号】W WO2019069023
(87)【国際公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】1759326
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502255911
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】リュック ビアンシ
(72)【発明者】
【氏名】ユーグ ドニ ジュベール
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ピコ
(72)【発明者】
【氏名】アマル サブーンジ
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528135(JP,A)
【文献】特開2008-127275(JP,A)
【文献】特開2015-172243(JP,A)
【文献】特表2008-514816(JP,A)
【文献】特許第6067166(JP,B1)
【文献】特開2015-174821(JP,A)
【文献】特開2009-023340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/80-41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(20)であって、前記基材の面(S)に隣接する少なくとも一部分がケイ素を含む材料から作られている、基材(20)と、
前記基材の前記面(S)上に位置し、ケイ素を含む結合コート(30)と、
前記結合コート(30)を覆うセラミック材料の外側層(42)を備えた環境バリア(40)とからなる構成部品(10)において、
前記環境バリア(40)は、さらに、前記結合コート(30)と前記外側層(42)との間に位置する自己修復内側層(41)を備え、前記自己修復内側層(41)は、シリカ形成粒子(41p)が分散されたマトリックス(41m)を含み、これらの粒子(41p)は、酸素の存在下、前記マトリックス(41m)中のクラック(41f)に対する修復相を生成することができ、前記自己修復内側層は、20%~40%の前記粒子(41p)の体積充填率を有することを特徴とする、構成部品(10)。
【請求項2】
前記自己修復内側層(41)の前記粒子(41p)が、炭化ケイ素若しくは窒化ケイ素の粒子、又はケイ素を含むMAX相の粒子、又はこれら粒子の混合物、を含む、請求項1に記載の構成部品(10)。
【請求項3】
前記自己修復内側層(41)の前記粒子(41p)が、元素シリコンSi若しくはケイ化金属の粒子、又はこれら粒子の混合物、を含む、請求項1又は2に記載の構成部品(10)。
【請求項4】
前記自己修復内側層の前記粒子が、5μm以下の、優先的には2μm以下の平均粒子サイズを有する、請求項1~3の何れか一項に記載の構成部品(10)。
【請求項5】
前記自己修復内側層が、10μm~300μm、優先的には100μm~200μmの厚さを有する、請求項1~4の何れか一項に記載の構成部品(10)。
【請求項6】
前記自己修復内側層の前記マトリックスが、シリケート、好ましくは、希土類モノシリケート若しくはジシリケート、又はムライトなどのアルミノシリケート、又はコーディエライトである、請求項1~5の何れか一項に記載の構成部品(10)。
【請求項7】
前記自己修復内側層及び前記外側層の前記マトリックスが、同じ材料から形成されている、請求項1~6の何れか一項に記載の構成部品(10)。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の構成部品(10)を製造するための方法であって、
前記方法は、
ケイ素を含む前記結合コート(30)を、前記基材(20)の前記面(S)上に堆積する工程(S1)と、
前記結合コート(30)上の前記環境バリア(40)の前記自己修復内側層(41)を堆積する工程(S2)と、
セラミックである、前記環境バリア(40)の前記外側層(42)を、前記自己修復内側層(41)上に堆積する工程(S3)とを含む、方法。
【請求項9】
前記自己修復内側層(41)を堆積する工程は、前記粒子を形成するための材料が液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入されるプラズマ溶射によって行われる、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基複合(CMC)材料から作られた構成部品の腐食保護の分野全般に関する。
【0002】
本発明が適用される特定の分野は、航空エンジン又は工業タービンのための、燃焼室壁、又はタービンリング、タービンノズル、若しくはタービンブレードなどのガスタービンの高温部品を形成するセラミック基複合(CMC)材料から作られた構成部品の保護である。
【背景技術】
【0003】
上記のガスタービンでは、効率の向上及び汚染物質排出量削減への関心から、燃焼室の温度をさらに高めることが考慮されている。
【0004】
したがって、特に燃焼室壁又はタービンリングにおいて、金属材料をCMC材料に置き換えることが提案された。実際、CMC材料は、それらを構造要素に使用することを可能とする良好な機械的特性、及びこれらの特性を高温で維持する能力の両方を有することが知られている。CMC材料は、典型的には炭素繊維又はセラミック繊維である耐火性繊維の繊維強化材を含み、それが、SiCを例とするセラミックマトリックスによって緻密化されている。
【0005】
航空タービンの運転条件、すなわち、酸化性多湿雰囲気中の高温において、CMC材料は、腐食現象の影響を受け易い。CMCの腐食は、SiCのシリカへの酸化に起因し、シリカは、水蒸気の存在下、水酸化ケイ素Si(OH)4の形態で気化する。腐食現象は、CMCの凹みを引き起こし、その耐用寿命に影響を与える。
【0006】
運転中のこの劣化を制限するために、CMC材料の面上に環境バリアコーティングを形成することが考えられた。そのような先行技術のソリューションを、図1に示す。
【0007】
したがって、図1に示されるように、セラミック基複合(CMC)材料の基材1は、シリコン結合層2で覆われ、前記結合層2自体は、希土類シリケートの層であってよい環境バリア3で覆われる。ガスタービンエンジンの運転中は、保護シリカ層2aが、シリコン結合層2と環境バリア3との間に形成される。
【0008】
結合層2は、環境バリア3の接着を向上させ、及び保護シリカ層2aを形成し、その酸素透過率が低いことが、CMC基材1を酸化に対して保護する補助となる。
【0009】
そして、環境バリア3は、結合層2のシリコンの酸化によって形成された保護シリカ層2aに向かっての水蒸気の拡散を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、この先行技術のソリューションに伴う問題点は、保護シリカ層2aの水蒸気及び空気に対する利用可能度が局所的に非常に不定であることである。
【0011】
このような利用可能度の局所的な相違は、主として、環境バリア3の密度の局所的な相違、酸素の好ましい経路に係わる環境バリア3にあるマイクロクラック及び細孔のネットワークの捩れ、並びに環境バリア3の組成又は結晶格子における局所定な不均一性、に起因する。
【0012】
このような利用可能度の局所的な相違は、保護シリカ層2aの厚さの局所的な相違を誘導する場合があり、このことは、応力の蓄積及び剥離による構成部品の早期の品質低下の潜在的な原因となる。
【0013】
したがって、CMC基材を腐食から保護し、CMC構成部品の耐用寿命を延ばすための新規なシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の主たる目的は、
基材であって、基材の面に隣接する少なくとも一部分がケイ素を含む材料から作られている、基材と、
基材の面上に位置し、ケイ素を含む結合コートと、
結合コートを覆う外側セラミック層を備えた環境バリアとを備えた部品を提供することによって、そのような欠点を取り除くことであり、
前記環境バリアは、さらに、結合コートと外側層との間に位置する自己修復内側層を備え、前記自己修復内側層は、シリカ形成粒子が分散されたマトリックスを含み、これらの粒子は、酸素の存在下でマトリックスクラック修復相(matrix crack healing phase)を生成することができる。
【0015】
環境バリアのそのような内側層は、結合コートに到達する水分及び空気の量を減少させ、及び環境バリアを透過する水分及び空気の量の不均一性を低減するという利点を提供する。
【0016】
実際、粒子は、シリカ形成性、すなわち、酸化されるとシリカ(SiO2)を形成する性質であり、内側層のマトリックス中に分散された前記粒子は、酸素と接触して反応し、前記自己修復内側層をシールする修復相を生成する。粒子は、ケイ素を含む。
【0017】
加えて、粒子と酸素とのそのような反応は、環境バリアの内側層を透過する水分及び空気の一部を消費し、それによって、結合コートまで透過する空気及び水分の量を制限し、不均一性を低減する。
【0018】
さらに、内側層の粒子は、セラミック粒子、好ましくは炭化ケイ素若しくは窒化ケイ素の粒子、又はケイ素を含むMAX相の粒子、又はそのような粒子の混合物、を含んでよい。
【0019】
内側層の粒子は、金属粒子、好ましくは元素シリコンSi若しくはケイ化金属の粒子、又はそのような粒子の混合物も含んでいてよい。
【0020】
1つの考え得る特徴によると、内側層の粒子は、5μm以下の、好ましくは2μm以下の平均サイズを有する。
【0021】
「平均サイズ」とは、統計的サイズ分布によって集団の半分に与えられる寸法を意味し、D50として知られる。
【0022】
加えて、内側層は、5%以上及び50%未満、優先的には20%~40%の粒子体積充填率を有し得る。
【0023】
さらなる特徴によると、内側層は、10μm~300μm、優先的には100μm~200μmの厚さを有する。
【0024】
内側層のマトリックスは、シリケート、好ましくは、希土類モノシリケート若しくはジシリケート、又はムライトなどのアルミノシリケート、又はコーディエライトから作られていてもよい。
【0025】
別の特徴によると、内側層及び外側層のマトリックスは、同じ材料から作られている。
【0026】
第二の態様によると、本発明は、これまでに述べた特徴の何れかに従う構成部品を製造するための方法を提案し、この方法は、
ケイ素を含む結合コートを、基材の面上に堆積する工程と、
環境バリアの内側層を、結合コート上に堆積する工程と、
環境バリアの外側層を、内側層上に堆積する工程であって、前記外側層は、セラミックである、工程とを含む。
【0027】
追加の特徴として、内側層の堆積は、粒子を形成することが意図される材料が液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入されるプラズマ溶射によって実現される。
【0028】
加えて、内側層のマトリックスを形成することが意図される材料は、粉末の形態でプラズマジェットに導入される。
【0029】
別の特徴によると、内側層のマトリックスを形成するための材料は、液体媒体中の懸濁液としてプラズマジェットに導入される。
【0030】
本発明の他の特徴及び利点は、限定されない例としての実施形態を示す添付の図面を参照して、以下に与えられる記述から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、先行技術の環境バリアのソリューションを表す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に従う構成部品の断面図を表す。
図3図3は、環境バリアの内側層の詳細図を示す。
図4図4は、環境バリアの内側層を堆積するための第一の考え得る実施形態を示す図である。
図5図5は、環境バリアの内側層を堆積するための第二の考え得る実施形態を示す図である。
図6図6は、環境バリアの内側層を堆積するための第三の考え得る実施形態を示す図である。
図7図7は、本発明の実行に従う製造方法の様々な工程を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下の詳細な記述では、ケイ素含有CMC基材上での環境バリアの形成が考慮される。しかし、本発明は、ケイ素を含有するモノリシックな耐火性材料から作られた基材に、より一般的には、基材の外面に隣接する少なくとも一部分がケイ素を含有する耐火性材料(複合体又はモノリシック)から作られた基材に適用可能である。したがって、本発明は、詳細には、炭化ケイ素SiC又は窒化ケイ素Si3N4を例とするモノリシックセラミックから成る耐火性材料を保護することを目的とし、より詳細には、少なくとも部分的にSiCから作られたマトリックスを含むCMCを例とするケイ素を含有するセラミック基複合(CMC)材料などの耐火性複合材料を保護することを目的とする。
【0033】
図2に示されるように、本発明に従う構成部品10は、面Sを有する基材20を備える。基材20は、面Sに隣接する少なくとも一部分上にケイ素を含む。構成部品10は、典型的には、ガスタービンエンジンのタービンリングであってよい。
【0034】
基材20は、ケイ素を含有し、並びにSiC繊維、又はSi-C-O若しくはSi-C-O-N繊維を含む、すなわち、酸素及び場合によっては窒素も含有する本質的にSiCである繊維を例とする炭素(C)繊維又はセラミック繊維から作られていてよい繊維強化材を含む、CMC材料から作られていてよい。そのような繊維は、日本カーボンによって「ニカロン」若しくは「ハイニカロン」若しくは「ハイニカロン タイプS」として、又は宇部興産によって「チラノ-ZMI」として製造されている。セラミック繊維は、熱分解炭素(PyC)、窒化ホウ素(BN)、又はホウ素ドープ炭素(BC、5原子%~20原子%のB、残量がC)の薄い相間層でコーティングされていてもよい。
【0035】
繊維強化材は、全体が又は少なくとも外部相がSiC又は三元Si-B-C系を例とするケイ素化合物などのケイ素含有材料によって形成されたマトリックスによって緻密化されている。マトリックスの外側相は、最後に形成された、強化材の繊維から最も遠いマトリックス相として定義される。したがって、マトリックスは、性質の異なる複数の相から形成されていてよく、例えば、
C-SiC混合マトリックス(外側にSiC)、又は、
SiC相と、熱分解炭素(PyC)、窒化ホウ素(BN)、又はホウ素ドープ炭素(BC)を例とするスチフネスがより低いマトリックス相とを交互に有し、末端マトリックス相がSiCである連続マトリックス(sequenced matrix)、又は
炭化ホウ素(B4C)若しくは三元Si-B-C系のマトリックス相を有し、所望に応じて遊離炭素を含み(B4C+C、Si-B-C+C)、末端がSi-B-C若しくはSiC相である自己修復マトリックス、
であってよい。
【0036】
マトリックスは、少なくとも部分的に、それ自体が公知である方法でCVIによって形成されていてよい。別の選択肢として、マトリックスは、少なくとも部分的に、液体による手段によって(マトリックス前駆体樹脂の含浸、並びに架橋及び熱分解による変換、このプロセスは繰り返し可能)、又はシリコンの溶融含浸によって形成されてもよい。後者の場合、炭素及び所望に応じてセラミック粉末であってよい粉末が、所望に応じて部分的に緻密化された繊維強化材に導入され、次に、溶融シリコンに基づく金属組成物が含浸されて、SiC-Siタイプのマトリックスが形成される。
【0037】
ケイ素含有結合コート30が、基材20上に位置する。結合コート30は、基材20と接触している。結合コート30は、典型的には、シリコン(元素Si)又はムライト(3Al2O3・2SiO2)であってよい。運転中、結合コート30は、酸化し、シリカ(SiO2)の不動態層を形成する(熱成長酸化物)。
【0038】
環境バリア40は、結合コート30上に位置して、前記結合コート30及び基材20を保護する。環境バリア40は、結合コート30上に位置する自己修復内側層41、及び内側層41上に位置する外側セラミック層42を備える。内側層41は、一方の側で結合コート30と、他方の側で外側層42と接触している。
【0039】
自己修復材料は、本明細書において、酸素の存在下、ある特定の温度範囲内でペースト状態又は流体状態に変化することによって材料中のクラックを修復することができるガラス質組成物を形成する材料として定義される。
【0040】
図3から分かるように、内側層41は、粒子41pが分散されたマトリックス41mを含む。マトリックス41mは、粒子41pの材料とは異なる材料から作られている。加えて、マトリックス41mは、クラック41f及び他の細孔を含有する。
【0041】
粒子41pは、シリカ形成粒子であり、したがって、酸素の存在下でマトリックス41mのクラック41fの修復相を生成することができる。粒子41pは、温度が800℃超である場合に修復相を作り出すのに特に適している。粒子41pは、ケイ素を含む。
【0042】
実際、運転中において、空気及び水の流れ51は、環境バリア40の外側層42を横切って前記環境バリア40の内側層41に到達する。粒子41pは、シリカ形成性であるため、酸素と反応してシリカ(SiO2)を形成する。粒子41pによって作り出されたこのシリカは、修復相を形成し、毛細管現象によってマトリックス41mのクラック41f及び他の細孔を充填し、それによって、前記自己修復内側層41を通る空気及び水分の流れ51を制限することによって内側層41をシールする。内側層41のそのような自己修復反応によって、空気及び水分の流れ51と接触すると、前記自己修復内側層41をシールすることが可能となり、それによって、出ていく流れ52を介して結合コート30に到達する空気及び水分の量が低下される。
【0043】
さらに、クラック41fを充填することによって内側層41をシールすることに加えて、そのような自己修復効果は、水分及び空気の一部を消費し、したがって、結合コート30に到達する、出ていく流れ52中の空気及び水分の量がさらに低下される。
【0044】
さらに、図3に示されるように、内側層41に到達する流れ51中の空気及び水分の量は、不均一である。水分及び空気の一部が粒子41pの反応によって消費されることによって、結合コート30に到達する空気及び水分の出ていく流れが均質化される。出ていく流れ52のそのような均質化によって、結合コート30によって作り出される保護シリカ層の厚さの局所的な相違が低減され、したがって、応力の蓄積及び剥離による構成部品10の早期の品質低下のリスクが低減される。
【0045】
さらに、酸化反応に加えて、粒子41pは、水分及び空気の存在下で腐食して、HxSiyOzガスを発生させ得る。粒子41pのそのような腐食反応も、水分及び空気を消費し、したがって、結合コート30に到達する水分及び空気の量を低下させる。
【0046】
粒子41pは、セラミック粒子であってよい。粒子41pは、優先的には、炭化ケイ素(SiC)粒子、窒化ケイ素(Si3N4)粒子、若しくはケイ素を含むmax相の粒子、又はそのような粒子の混合物である。中でも特に、炭化ケイ素が好ましい材料である。
【0047】
粒子41pは、金属粒子であってもよい。粒子41pは、優先的には、シリコン(元素Si)粒子、ケイ化金属の粒子、又はそのような粒子の混合物である。
【0048】
粒子41pは、好ましくは、5μm以下の平均粒子サイズ(D50)を有する。実際、粒子41pが5μm以下の平均サイズを有することが有利であり、なぜなら、このことによって、内側層41を、SiO2修復相の生成のために、及び空気及び水分の消費のために、より反応性とすることができるからである。実際、小さい粒子サイズの使用により、粒子41pの酸化反応及び腐食反応に利用可能である表面積が増加する。好ましくは、粒子41pは、内側層41の反応性及び効率をさらに高めるために、0.1μm~2μmを例とする2μm以下の平均サイズを有する。
【0049】
以下で記載されるように、5μm未満のサイズの粒子の使用は、特に、粒子41pを形成するための材料が液体手段によって導入されるプラズマ溶射堆積によって可能となる。
【0050】
内側層41は、5%以上かつ(厳密に)50%未満である粒子41pの有利な体積充填率を有する。このことによって、一方では、修復相の生成並びに水分及び空気の消費のための内側層41のより良好な反応性、さらには内側層41の充分な耐用寿命が確保され、他方では、マトリックス41mによって提供される特性の充分な保持が確保される。優先的には、内側層41は、20%~40%である粒子41pの体積充填率を有する。
【0051】
マトリックス41mは、有利には、シリケート、優先的には、希土類モノシリケート若しくはジシリケート、又はムライトなどのアルミノシリケート、又はコーディエライトから作られている。好ましくは、マトリックス41mは、バリウムストロンチウムアルミノシリケート(BSAS)から作られていないことには留意されたく、なぜなら、BSASはシリカと反応するからである。モノシリケート又は希土類ジシリケートマトリックス41mが、好ましい実施形態である。Y2Si2O7、RE2Si2O7、又はRE2SiO5のマトリックス41mが、マトリックス41mが希土類シリケート又はジシリケートである実施形態の好ましい別の選択肢である。
【0052】
内側層41は、10μm~300μmであってよい厚さEを有する。この厚さによって、内側層41は、結合コート30を保護するというその役割を果たすことができる。さらに、内側層41が、200μm~300μmを例とする大きい厚さを有する場合、それ単独で、環境バリア40の水分及び空気に対するシール機能を確保することができ、上側層40は、アブレイダブルの役割のみを果たすことができる。加えて、内側層41の厚さTは、好ましくは、100μm~200μmである。
【0053】
環境バリア40の外側層42は、セラミックから作られている。外側層42は、従来の環境バリア層であってよい。外側層42は、希土類モノシリケート若しくはジシリケート、又はムライト若しくはバリウムストロンチウムアルミノシリケート(BSAS)などのアルミノシリケート、又はコーディエライトであってよい。
【0054】
好ましくは、環境バリア40の内側層41と外側層42との間のより良好な機械的及び化学的適合性を確保するために、内側層41及び外側層42のマトリックス41mは、同じ材料から作られている。そのような特徴は、内側層41及び外側層42が互いに直接接触している場合に、いっそう有利である。好ましくは、内側層41及び外側層42のマトリックス41mは、モノシリケート又は希土類ジシリケートから作られている。加えて、外側層42には、前記外側層42に付与されるべき特性に応じて、繊維又は包含物が加えられてよい。
【0055】
環境バリア40はまた、外側層42の上に位置する追加の層を含んでいてもよい。
【0056】
図7に示されるように、考え得る実行によると、構成部品10の製造方法は、
ケイ素含有結合コート30を基材20の面S上に堆積する工程S1と、
環境バリア40の内側層41を、結合コート30上に堆積する工程S2と、
環境バリア40の外側層42を、内側層41上に堆積する工程であって、前記外側層42は、セラミックである、工程S3とを含む。
【0057】
構成部品10の製造方法の優先的な実行によると、内側層41の堆積は、内側層41中に分散される粒子41pを形成するための材料が液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入されるプラズマ溶射によって行われる。
【0058】
粒子41pを形成することを意図する材料を液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入することにより、平均サイズの小さい、特に平均サイズが5μm未満の粒子41pを用いることが可能となる。実際、粒子が液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入されない場合、例えば、粉末の形態で導入される場合、粒子は、その過剰に小さいサイズのためにプラズマジェットに跳ね返される可能性が高く、したがって、内側層41の堆積を制御することが困難となる。
【0059】
加えて、粒子41pを形成することを意図する材料を液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入することにより、より広い範囲の粒子41pを用いることが可能となる。実際、いくつかの材料、特に炭化ケイ素(SiC)は、プラズマジェット中への粉末の形態での導入に耐えることが困難である場合があり、昇華のリスクが存在し得る。したがって、そのような材料の、特に炭化ケイ素(SiC)の粒子41pを含む内側層41の堆積を制御することが困難となる。粒子41pを液体媒体中の懸濁液の形態でプラズマジェットに導入することにより、これらの材料がプラズマジェットから保護され、したがって、内側層41の堆積を制御することがより容易となる。
【0060】
図4に示される内側層41の堆積のための第一の考え得る実施形態によると、環境バリア40の前記自己修復内側層41は、プラズマジェット61を発生させるプラズマトーチ60を用いたプラズマ溶射によって製造される。プラズマ溶射は、空気中の大気圧下で行われてよい。
【0061】
内側層41のマトリックス41mを形成することを意図する材料は、粉末71の形態で、インジェクタ70を用いてプラズマジェット61中に注入される。粉末71は、例によると、平均サイズ30μmであるY2Si2O7粉末であってよい。
【0062】
内側層41の粒子41pを形成することを意図する材料は、液体媒体中の懸濁液81の形態で、インジェクタ80を用いてプラズマジェット61中に注入される。懸濁液81は、例によると、平均サイズ1μmである炭化ケイ素(SiC)粒子の20質量%が加えられた水性懸濁液であってよい。
【0063】
図4に示される例では、Y2Si2O7マトリックス41m及び平均サイズ1μmであるSiC粒子を含む内側層41が、結合コート30上に形成される。この内側層41における粒子41pの体積充填率は、30%であり、前記自己修復内側層の厚さTは、150μmである。
【0064】
図5に示される第二の実施形態によると、内側層41のマトリックス41mを形成することを意図する材料は、粉末の形態ではなく、マトリックス41mを形成することを意図する材料及び粒子41pを形成することを意図する材料の両方を含む液体媒体中の懸濁液91の形態でプラズマジェットに注入される。この懸濁液91は、単一のインジェクタ90を通してプラズマジェット61に注入される。
【0065】
例によると、懸濁液91は、マトリックス41m及び粒子41pを形成することを意図する材料が20質量%加えられた水性懸濁液である。これらの2つの材料間の混合割合は、内側層41中の粒子41pの体積充填率が30%であるように構成される。懸濁液91は、マトリックス41mを形成することを意図する平均サイズ30μmであるY2Si2O7粒子(したがってY2Si2O7のマトリックスとなる)、及び粒子41pを形成することを意図する平均サイズ1μmであるSiC粒子(したがってSiCの粒子となる)を含む。形成された内側層41は、150μmの厚さTを有する。
【0066】
図6に示される第三の実施形態では、マトリックス41mを形成することを意図する材料及び粒子41pを形成することを意図する材料は、同じ懸濁液ではなく、2つの別々の懸濁液101a及び101bでプラズマジェット61に注入される。
【0067】
第一の懸濁液101aは、マトリックス41mを形成するための平均サイズ5μmであるY2Si2O7粒子が20質量%加えられた水性懸濁液である。第一の懸濁液101aは、第一のインジェクタ100aを通してプラズマジェット61に注入される。
【0068】
第二の懸濁液101bは、粒子41pを形成するためのSiC粒子が20質量%加えられた水性懸濁液であり、これらの粒子は、1μmの平均サイズを有する。第二の懸濁液101bは、第二のインジェクタ100bを通してプラズマジェット61に注入される。形成された内側層41は、150μmの厚さTを有する。
【0069】
「~から~まで」の句は、境界も含むものと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7