(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】エンドトキシンの失活処理装置及び失活処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/32 20230101AFI20230508BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230508BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C02F1/32
A61K9/08
A61M1/16
(21)【出願番号】P 2020558107
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019035026
(87)【国際公開番号】W WO2020105247
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018218883
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀岡 悟
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-263043(JP,A)
【文献】特表2005-506152(JP,A)
【文献】特開2010-227841(JP,A)
【文献】特開2014-087544(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108358274(CN,A)
【文献】特開2013-252505(JP,A)
【文献】特表2004-528171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/20- 1/26
1/30- 1/38
A61K 9/00- 9/72
47/00-47/69
A61M 1/00- 1/38
60/00-60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドトキシンを含む一方で当該エンドトキシンの失活処理用の添加物を含まないエンドトキシン水を貯留する容器、または、前記エンドトキシン水を流通する配管と、
前記容器または前記配管中の前記エンドトキシン水に対して波長が365nm未満の紫外線を照射する光源と、
紫外線照射時の前記エンドトキシン水を40℃以上かつ前記エンドトキシン水の沸点未満の温度に加熱する加熱器と、
を備える、エンドトキシンの失活処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンドトキシンの失活処理装置であって、前記光源から照射される紫外線の波長は300nm以下である、エンドトキシンの失活処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンドトキシンの失活処理装置であって、前記光源から照射される紫外線の波長は285nm以下である、エンドトキシンの失活処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエンドトキシンの失活処理装置であって、前記光源から照射される紫外線の波長は270nm以下である、エンドトキシンの失活処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のエンドトキシンの失活処理装置であって、
前記光源は深紫外線LEDである、
エンドトキシンの失活処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載のエンドトキシンの失活処理装置であって、
前記深紫外線LEDから照射される紫外線の、前記エンドトキシン水における放射照度が3mW/cm
2以上である、
エンドトキシンの失活処理装置。
【請求項7】
エンドトキシンを含む一方で当該エンドトキシンの失活処理用の添加物を含まないエンドトキシン水を、容器に貯留し、または、配管に流通し、
前記容器または配管中の前記エンドトキシン水に対して波長が365nm未満の紫外線を照射し、
紫外線照射時の前記エンドトキシン水を40℃以上かつ前記エンドトキシン水の沸点未満の温度に加熱する、
エンドトキシンの失活処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載のエンドトキシンの失活処理方法であって、前記エンドトキシン水に対して波長が300nm以下の紫外線を照射する、エンドトキシンの失活処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載のエンドトキシンの失活処理方法であって、前記エンドトキシン水に対して波長が285nm以下の紫外線を照射する、エンドトキシンの失活処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載のエンドトキシンの失活処理方法であって、前記エンドトキシン水に対して波長が270nm以下の紫外線を照射する、エンドトキシンの失活処理方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか一つに記載のエンドトキシンの失活処理方法であって、
光源として深紫外線LEDを用いて前記エンドトキシン水に対して紫外線を照射する、
エンドトキシンの失活処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載のエンドトキシンの失活処理方法であって、
前記深紫外線LEDから照射される紫外線の、前記エンドトキシン水における放射照度が3mW/cm
2以上である、
エンドトキシンの失活処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンの失活処理装置及び失活処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖であって、グラム陰性菌の死滅後も発熱物質として機能する。例えばピコグラム[pg]やナノグラム[ng]単位のエンドトキシンが血中に入ると、発熱などの種々の生体反応が引き起こされる。
【0003】
例えば非特許文献1によれば、透析液水質基準は以下のように定められる。なお。下記数値の単位について、CFUはColonyForming Unit(コロニーフォーミングユニット)の略称であり、CFU/mLは溶媒1mL中の菌の個数を示す。またEUはエンドトキシン単位(Endotoxin Unit)を指す。
【0004】
・透析用水
細菌 100CFU/mL未満
エンドトキシン 0.050EU/mL未満
・標準透析液
細菌 100CFU/mL未満
エンドトキシン 0.050EU/mL未満
・超純粋透析液
細菌 0.1CFU/mL未満
エンドトキシン 0.001EU/mL(測定感度)未満
【0005】
現在、エンドトキシンの除去には、限外ろ過モジュールが使用される。限外ろ過モジュールの性能を確認する方法として、JIS K 3824に規定されている。また、透析医学会においても、エンドトキシン捕捉フィルタ(ETRF)管理基準が決められている。
【0006】
特許文献1、2では、エンドトキシンの分解方法が記載されている。特許文献1では、酸化チタン(光触媒)にPt粒子を担持させ、これにブラックライトを照射して酸化チタンを活性化させることでエンドトキシンの分解を図っている。また特許文献2では、紫外線により酸化チタンを活性化させ、エンドトキシンを分解している。
【0007】
また非特許文献2では、透析液に紫外線を照射することで細菌の増殖を防ぎ、もってその死骸から生じるエンドトキシンの増加を抑制している。さらに同文献では、紫外線照射と、いわゆるETフィルタを用いた限外ろ過との併用により、エンドトキシンの除去を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-286757号公報
【文献】特開2010-227841号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】峰島 三千男、外5名、“2016年版 透析液水質基準”、日本透析医学会雑誌(透析会誌)、一般社団法人日本透析医学会、平成28年11月29日、第49巻、第11号、p.697-725
【文献】岡部 稔、外4名、“透析液への紫外線照射の効果”、日本透析医学会雑誌(透析会誌)、一般社団法人日本透析医学会、平成9年8月28日、第30巻、第8号、p.1069-1072
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、エンドトキシンの除去に当たりフィルタを用いる場合、フィルタは、使用していると目詰まりが発生し、圧力の上昇や流量の低下が発生することから、フィルタを定期的に交換する必要がある。
【0011】
そこで本発明は、フィルタによるエンドトキシン除去の代替手法ともなり得る、被処理液中のエンドトキシンの失活化を可能とする、エンドトキシンの失活処理装置及び失活処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、エンドトキシンの失活処理装置に関する。当該装置は、容器または配管と光源とを備える。容器は被処理液を貯留する。配管には被処理液が流通される。光源は、容器または配管中の被処理液に対して波長が365nm未満の紫外線を照射する。
【0013】
後述するように、発明者の知見によれば、波長が365nm未満の紫外線を被処理液に照射することで、エンドトキシンが失活する。
【0014】
また上記発明において、光源から照射される紫外線の波長は300nm以下であってよい。
【0015】
また上記発明において、光源から照射される紫外線の波長は285nm以下であってよい。
【0016】
また上記発明において、光源から照射される紫外線の波長は270nm以下であってよい。
【0017】
また上記発明において、被処理液を40℃以上かつ被処理液の沸点未満の温度に加熱する加熱器を備えてもよい。
【0018】
後述するように、紫外線照射の際に被処理液を加熱することで、エンドトキシンの失活が促進されることを発明者は見出した。これにより、加熱を行わない場合と比較して、より短時間でエンドトキシン濃度を低減可能となる。
【0019】
また上記発明において、光源は深紫外線LEDであってよい。
【0020】
また上記発明において、深紫外線LEDから照射される紫外線の、被処理液における放射照度が3mW/cm2以上であってよい。
【0021】
また本発明は、エンドトキシンの失活処理方法に関する。当該方法では、被処理液を、容器に貯留し、または、配管に流通する。さらに、容器または配管中の被処理液に対して波長が365nm未満の紫外線を照射する。
【0022】
また上記発明において、被処理液に対して波長が300nm以下の紫外線を照射してもよい。
【0023】
また上記発明において、被処理液に対して波長が285nm以下の紫外線を照射してもよい。
【0024】
また上記発明において、被処理液に対して波長が270nm以下の紫外線を照射してもよい。
【0025】
また上記発明において、紫外線照射の際に被処理液を40℃以上かつ被処理液の沸点未満の温度に加熱してもよい。
【0026】
また上記発明において、光源として深紫外線LEDを用いて被処理液に対して紫外線を照射してもよい。
【0027】
また上記発明において、深紫外線LEDから照射される紫外線の、被処理液における放射照度が3mW/cm2以上であってよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、フィルタによるエンドトキシン除去の代替手法ともなり得る、被処理液中のエンドトキシンの失活化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置を例示する図である。
【
図2】被処理液に紫外線を照射したときの、被処理液中のエンドトキシン濃度の変化を示すグラフである。
【
図3】紫外線を照射する際に被処理液を加熱したときの、被処理液中のエンドトキシン濃度の変化を、非加熱の場合と比較して示したグラフである。
【
図4】比較例として、紫外線を照射せずに、被処理液に加熱のみを施した場合の、被処理液中のエンドトキシン濃度の変化を示すグラフである。
【
図5】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置の別例を示す図である。
【
図6A】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置の更なる別例を示す図である。
【
図6B】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置のまた更なる別例を示す図である。
【
図7】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置のまた更なる別例を示す図である。
【
図8】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置の光源を例示する図である。
【
図9】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置の光源の別例を示す図である。
【
図10】本実施形態に係るエンドトキシンの失活処理装置のまた更なる別例を示す図である。
【
図11】本実施形態に係る照射装置の構造を説明する断面図である。
【
図12】紫外線照射/非照射、及び加熱/非加熱のそれぞれの条件における、被処理液中のエンドトキシン濃度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1には、本実施形態に係るエンドトキシン失活処理装置10が例示される。エンドトキシン失活処理装置10は、光源12、容器14、及び加熱器16を備える。
【0031】
容器14は、例えばガラス製のビーカーや樹脂製のビーカー等から構成される。また加熱器16による加熱に耐えられるように、容器14は例えば耐熱ガラス製のビーカーやテフロン(登録商標)等の耐熱樹脂製のビーカーであってよい。また後述する容器14内の攪拌が可能となるように、容器14は非磁性材料であってよい。
【0032】
さらに容器14は、被処理液20を貯留する。例えば容器14内には、被処理液20及び回転子18のみが収容される。
【0033】
被処理液20は、例えば、注射用水、透析液に使用される水、及び透析液そのものといった、いわゆるエンドトキシンフリー水(滅菌水)の原料となる水であって、エンドトキシン除去前の、RO水や蒸留水等であってよい。
【0034】
加熱器16は、容器14内の被処理液20を加熱する。加熱器16は例えばホットプレートであってよい。加熱器16の加熱可能な温度帯は、40℃以上かつ被処理液20の沸点未満であってよい。例えば加熱器16の加熱可能な温度帯は、40℃以上100℃未満であってよい。
【0035】
または、加熱器16として、光源12のヒートシンクを容器14に接続させてもよい。このようにすることで、光源12の廃熱を容器14の加熱に利用可能となる。
【0036】
また、加熱器16に攪拌機能を持たせてもよい。例えば加熱器16はホットプレート付きマグネティックスターラーであってよい。この場合において、テフロン加工された磁石から構成される回転子18が容器14内に配置される。
【0037】
光源12は、容器14中の被処理液20に紫外線を照射する(紫外放射する)。光源12の照射範囲は、容器14を十分に含むように設定される。
【0038】
一般的に紫外線は、波長が100nm以上400nm以下の電磁波を指す。更に紫外線の波長域は細分化され、波長が200nm以上300nm以下の電磁波は深紫外線と呼ばれる。
【0039】
光源12は、この深紫外線の波長域に含まれる電磁波、つまり波長が100nm以上365nm未満の紫外線を照射する。例えば光源12は、波長が100nm以上300nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。または、光源12は、波長が100nm以上285nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。または、光源12は、波長が100nm以上270nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。
【0040】
光源12は、例えば深紫外線LEDであってよい。またこれに代えて、光源12として、低圧水銀ランプ、エキシマランプを用いてもよい。これらの光源のうち、比較的長寿命の深紫外線LEDを用いることが好適である。また、その出力について、光源12から照射される深紫外線の、被処理液20における放射照度は3mW/cm2以上であってよい。十分な強度の深紫外線が被処理液20に照射されることで、エンドトキシンの失活が図られる。
【0041】
<実施例1>
光源12によるエンドトキシンの失活処理について、実験を行った。被処理液20として、エンドトキシン標準品に和光純薬製滅菌水(エンドトキシンフリー水)を投入して「エンドトキシン原水」とし、これを希釈することで、エンドトキシン濃度約0.1EU/mlの「エンドトキシン水」を作成した。
【0042】
具体的には、エンドトキシン標準品は、例えば医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団が販売している日本薬局方標準品であって、一瓶に10000エンドトキシン単位(EU)以上のエンドトキシンが含有される。このエンドトキシン標準品を既定量のエンドトキシン試験用水に加える。エンドトキシン試験用水は例えば注射用水が用いられる。両者を攪拌することでエンドトキシン原水が作成される。
【0043】
エンドトキシン水を2ml採取して容器14に入れ、光源12から紫外線を照射した。紫外線の波長は270nm、285nm、300nm、365nmとした。また、いずれの波長においても、エンドトキシン水における放射照度を3mW/cm2とした。また比較例(対照実験)として紫外線を照射しないサンプルも用意した。
【0044】
以下の表1、表2、表3、表4、表5に、紫外線照射なし、270nm紫外線照射時、285nm紫外線照射時、300nm紫外線照射時、及び365nm紫外線照射時の、それぞれのエンドトキシン濃度[EU/ml]を示す。また照射時間について、例えば照射時間が0分の場合、エンドトキシン濃度は初期濃度を示す。また照射時間が60分の場合、60分に亘って紫外線が照射されたことを示す。
【0045】
またサンプル数について、紫外線照射なし、270nm紫外線照射時、285nm紫外線照射時、及び300nm紫外線照射時については、3点のサンプルを用いた。また365nm紫外線照射時については1点のサンプルを用いた。なお、表1~表5の実験を行うに当たり、加熱器16による加熱は実施せず、また、マグネティックスターラーをオンにして回転子18を回転させ、被処理液20(エンドトキシン水)の攪拌を行った。また、以下の実験において、エンドトキシン濃度の測定は、富士フイルム和光純薬株式会社製のトキシノメーター ミニを用いて行った。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
表1~表4の、照射時間ごとのエンドトキシン濃度の平均値、及び、表5の照射時間ごとのエンドトキシン濃度をプロットしたグラフが
図2に示される。縦軸にはエンドトキシン濃度(EU/ml)が示され、横軸には照射時間(非照射時は経過時間)が示される。
【0052】
図2を参照して、波長365nmでは、エンドトキシン濃度の減少は見られないが、300nmの深紫外線照射時に、エンドトキシン濃度の有意な低減が見られる。さらに、波長が短くなるほど、エンドトキシン濃度の減少量が多いことが理解される。
【0053】
このことから、波長365nm以上では、深紫外線照射によって、エンドトキシンが失活されないことが理解される。加えて、波長365nm未満の領域では、波長が小さくなるほど、その失活効果が高いことが理解される。
【0054】
次に、深紫外線の照射時に被処理液20(エンドトキシン水)を加熱したときの、エンドトキシン濃度の変化について実験を行った。下記表6には、
図2の破線で囲ったプロット、つまり波長270nmの深紫外線を60分間照射する際に、同期間において、加熱なし(つまり25℃の室温)、40℃加熱、50℃加熱、60℃加熱をそれぞれ施したときの、エンドトキシン濃度の変化が示される。表中の数字はエンドトキシン濃度[EU/ml]を示す。サンプル数はそれぞれ3点とした。
【0055】
なお、表6の実験に当たり、加熱器16(ホットプレート)の温度設定機能により加熱温度を設定した。エンドトキシン水の加熱を図るため、加熱器16の温度を設定した後、所定の待機時間を経て、紫外線の照射を開始した。また、容器14へのエンドトキシン水(被処理液20)の注入量は2mlとし、エンドトキシン水における紫外線の放射照度は3mW/cm2とした。また、マグネティックスターラーをオンにして回転子18を回転させ、被処理液20(エンドトキシン水)の攪拌を行った。
【0056】
【0057】
表6の平均値をプロットしたグラフが
図3に示される。縦軸はエンドトキシン濃度[EU/ml]を示す。このグラフに示されるように、40℃以上の加熱を伴う深紫外線の照射により、エンドトキシンの失活が促進されることが理解される。特に50℃以上の加熱により、エンドトキシンの失活が有意に促進される。
【0058】
例えば表2のグラフを参照して、加熱なし(つまり25℃の室温)にて波長270nmの深紫外線を照射した場合、4時間経過時点でエンドトキシン濃度は平均値で0.0047[EU/ml]に到達した。これに対して表6を参照して、波長270nmの深紫外線照射に加えて、50℃加熱及び60℃加熱を行うと、エンドトキシン濃度は1時間で同程度の水準に到達する。つまり50℃加熱及び60℃加熱を実施することで、4倍程度の時間短縮が図られる。
【0059】
図4のグラフには、比較例(対照実験)として、紫外線照射を行わず、加熱のみを行った場合の、エンドトキシン濃度の変化が示されている。加熱条件はそれぞれ
図3と同様であり、容器14へのエンドトキシン水(被処理液20)の注入量もそれぞれ2mlとした。また、マグネティックスターラーをオンにして回転子18を回転させ、被処理液20(エンドトキシン水)の攪拌を行った。
【0060】
図4のグラフを参照して、60分経過後のエンドトキシン濃度は、加熱温度の差や加熱の有無に関わらずほぼ一定であり、加熱による有意な差は見られない。このことから、40℃以上60℃以下の温度帯では、加熱単独でエンドトキシンの失活効果は見られないものの、深紫外線の照射と併用して加熱を行うことで、有意なエンドトキシンの失活効果を得られることが理解される。
【0061】
なお、
図1の例ではエンドトキシン失活処理装置10として、被処理液(エンドトキシン水)を貯留する容器14を用いていたが、この例に限らない。例えば
図5~
図7に例示されるような、液体を流通する配管24,34や容器44を用いてもよい。
【0062】
図5には、配管24を備えた、エンドトキシン失活処理装置10が例示される。この装置は、加熱器16、配管24、及び光源12を備える。
【0063】
加熱器16は配管24の上流に設けられ、被処理液(エンドトキシン水)を加熱する。加熱された被処理液が配管24に送り込まれる。例えばポンプ等の送液手段によって、配管24に被処理液が送り込まれる。または、加熱器16よりも下方に配管24を設置して、そのまま配管24に被処理液を流下させてもよい。
【0064】
配管24の一部、具体的には光源12と対向する位置に、透過性の窓部材30が設けられる。窓部材30は、例えば石英ガラスであってよい。また光源12は、深紫外線LED、低圧水銀ランプ、またはエキシマランプであってよい。
【0065】
光源12は、波長が100nm以上365nm未満の紫外線を照射する。例えば光源12は、波長が100nm以上300nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。または、光源12は、波長が100nm以上285nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。または、光源12は、波長が100nm以上270nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。
【0066】
光源12から照射される深紫外線の、被処理液における放射照度は3mW/cm2以上であってよい。十分な強度の深紫外線が被処理液に照射されることで、エンドトキシンの失活が図られる。
【0067】
なお
図5では、配管24の長手方向一端に光源12が設けられているが、他端にもう一つの光源12を設けてもよい。この場合、窓部材30ももう一つの光源12に対向して配管24に形成される。
【0068】
図6Aには、二重管構造の配管34Aを備える、エンドトキシン失活処理装置10が例示される。
図5との差異として、配管34Aが二重管構造である点、及び、光源12が棒状となって配管34A内(より具体的には窓部材36A内)に挿入される点等が挙げられる。
【0069】
図6Aの側面断面図及びA-A断面図に例示されるように、配管34Aの内側には円筒形状の窓部材36Aが配置される。窓部材36Aは例えば石英管から構成される。この窓部材36Aの内部に棒状の光源12が挿入される。
【0070】
また
図6Bには
図6Aとは異なる、二重管構造の配管34Bを備える、エンドトキシン失活処理装置10が例示される。
図6Bの側面断面図に例示されるように、配管34Bは側面断面視で凹形状であって、内側の容器壁として窓部材36Bが用いられる。窓部材36Bは、例えば石英製方封止管から構成される。この窓部材36Bの内部に棒状の光源12が挿入される。
【0071】
図7には、
図5、
図6A、
図6Bとは異なる形式のエンドトキシン失活処理装置10が例示される。
図5、
図6A、
図6Bでは、配管24,34A,34B内に水密となるように被処理液(エンドトキシン水)が満たされていたが、
図7の例では容器44の天井と容器44に溜められる被処理液の水面との間に間隔が空けられる。さらに容器44の天井内面に光源12が設けられる。なお光源12は容器44の天井内面に加えて、底面、側面にも設置されてよい。
【0072】
容器44への貯留量は入口バルブ40及び出口バルブ42の開閉制御を通じて調整される。入口バルブ40を通過した被処理液は加熱器16Aを通過して容器44内に送り込まれる。さらに容器44内で光源12により紫外線が照射される。なお容器44の底面に加熱器16Bを設けて、照射と加熱を同時に行ってもよい。紫外線照射後の被処理液は出口バルブ42から容器44外に送り出される。
【0073】
光源12は面光源であってよく、例えば
図8に例示されるように、深紫外線LED50を平面状に複数配置したものであってよい。または
図9に例示されるように、低圧水銀ランプ52を複数配置したものであってもよい。
【0074】
なお、
図5~
図7における、流通型のエンドトキシン失活処理装置10に、バイパス管(戻り管)を設けて、配管24,34A,34B、容器44から送り出された被処理液をポンプ等で配管24,34A,34B、容器44の上流まで戻し、紫外線の照射を複数回に亘って行ってもよい。
【0075】
<エンドトキシン失活処理装置の別例>
図10には、本実施形態に係るエンドトキシン失活処理装置10の別例が示される。当該装置は、照射装置60、タンク90、往路配管92、復路配管94、ポンプ96、温度調節器98、電源100、ヒータ102、及び温度センサ104を備える。
【0076】
タンク90には上述したエンドトキシン水が貯留される。タンク90の貯留容量は例えば5Lであればよい。タンク90にヒータ102及び温度センサ104が設置される。ヒータ102はいわゆる投げ込みヒータであってよく、発熱部がタンク90内に留置される。温度センサ104は少なくともその検出子がタンク90内に留置される。温度センサ104は、ヒータ102により加温されるタンク90内のエンドトキシン水の水温を測定する。測定された水温は温度調節器98に送信される。温度調節器98は、受信した水温に基づいて、ヒータ102の運転を制御する。例えばタンク90内の水温が目標温度に到達すると、温度調節器98は水温を維持するように、ヒータ102の発熱を制御する。
【0077】
タンク90には往路配管92の上流端と復路配管94の下流端が挿入される。ポンプ96によりタンク90内のエンドトキシン水は往路配管92に吸い込まれる。ポンプ96は、例えばチューブポンプであてよく、循環流量は例えば500ml/minであってよい。
【0078】
往路配管92を流れるエンドトキシン水は照射装置60に送られる。照射装置60にて紫外線が照射されたエンドトキシン水は復路配管94を経てタンク90に戻される。このようにして、タンク90内と照射装置60との間をエンドトキシン水が循環させられる。
【0079】
図11には、照射装置60の断面図が例示される。なお、
図11では、照射装置60の向きが
図10の図示された向きから反転されている。照射装置60は、光源70、円筒部80、カバー82,84、及び窓部材86を備える。
【0080】
円筒部80は長手方向両端が開放され、当該開放両端にカバー82,84が取り付けられる。カバー82,84は例えばテフロン等の樹脂材料から構成され、円筒部80は例えばテフロン等の樹脂材料またはステンレス材等の金属材料から構成されてよい。円筒部80の容量は、例えば80mlであってよい。また、
図11に示されるように、円筒部80の長手方向から紫外線を照射する代わりに、円筒部80の側面、つまり径方向から紫外線を照射する場合には、円筒部80に石英ガラス等の窓部材を設けてもよい。
【0081】
カバー82は、例えば円筒部80の上流側の開放端に取り付けられ、当該開放端を封止する。カバー82には接続管82Aが設けられる。接続管82Aは、往路配管92(
図10参照)の下流端に接続される。接続管82Aを経由して、エンドトキシン水が往路配管92から円筒部80内に流入する。
【0082】
円筒部80の下流側の開放端には窓部材86及びカバー84が取り付けられる。窓部材86は円筒部80の下流側の開放端を覆う透明部材である。窓部材86は例えば石英ガラスから構成される。この窓部材86はカバー84によって円筒部80に固定される。カバー84は例えば径方向中心部が軸方向に貫通されており、その貫通孔84Aは、窓部材86とともに、LED72の紫外線を通過させる導光部として機能する。
【0083】
また、カバー84には接続管84Aが設けられる。接続管84Aは復路配管94(
図10参照)の上流端と接続される。接続管84Aを経由して、円筒部80内のエンドトキシン水が復路配管94に流入する。
【0084】
光源70は複数のLED72、基板74、及びヒートシンク76を備える。LED72は、上述の実施形態と同様にして、深紫外線LEDであってよい。LED72は、電源100(
図10参照)から電力供給を受ける。
【0085】
LED72は、波長が100nm以上365nm未満の紫外線を照射する。例えばLED72は、波長が100nm以上300nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。または、LED72は、波長が100nm以上285nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。または、LED72は、波長が100nm以上270nm以下の深紫外線を照射可能であってよい。またLED72の紫外線強度は、例えば220mWであってよい。
【0086】
基板74には、複数のLED72が搭載される。例えば基板74上に複数のLED72が搭載されることで、例えば
図8に例示されるような面光源が構成される。さらに基板74、LED72搭載面とは逆側の面に、ヒートシンク76が設けられる。
【0087】
<実施例2>
図10に例示されるエンドトキシン失活処理装置10を用いて、光源70(
図11参照)によるエンドトキシンの失活処理について、実験を行った。被処理液として、シグマ製E.coli0111由来のリポ多糖(Lipopolysaccharide)を、エンドトキシンカットフィルタでろ過した蒸留水に溶解させ、これをエンドトキシン原水として作成した。さらにこのエンドトキシン原水について、10EU/ml以上100EU/ml以下となるように調整した「エンドトキシン水」を作成した。エンドトキシン水の量は5Lとした。
【0088】
また本実施例では、上述したように、エンドトキシン水を500ml/minの流量で循環させた。さらに波長270nmのLED72を用いて、円筒部80内に深紫外線を照射した。また、いずれの波長においても、LED72の紫外線強度を220mWとした。また比較例(対照実験)として紫外線を照射しないサンプルも用意した。
【0089】
また、タンク90から1回当たり0.3ml以下のサンプルを採取して、濃度測定を行った。タンク90内のエンドトキシン水は、図示しないマグネティックスターラーを用いて攪拌させた。
【0090】
以下の表7には、紫外線照射なし及び加熱なし(つまり25℃の室温)の場合の、エンドトキシン濃度の時間変化が示される。また、表8には、270nm紫外線照射時の、エンドトキシン濃度の時間変化が示される。なお表8では、加熱なし(25℃の室温)、40℃に加熱した場合、及び50℃に加熱した場合の3条件について、エンドトキシン濃度の時間変化が示される。
【0091】
また照射時間について、例えば照射時間が0分の場合、エンドトキシン濃度は初期濃度を示す。また照射時間が60分の場合、60分に亘って紫外線が照射されたことを示す。さらにエンドトキシン濃度として、初期値(経過時間=0)のときの濃度を1.0としたときの濃度比が示される。
【0092】
【0093】
【0094】
表7、表8の、エンドトキシン濃度の時間変化を示すグラフが
図12に示される。縦軸にはエンドトキシン濃度が示され、横軸には照射時間(非照射時は経過時間)が示される。なお、縦軸のエンドトキシン濃度は、初期値(経過時間=0)のときの濃度を1.0とした濃度比が対数目盛にて示される。
【0095】
図12を参照して、紫外線を照射しない場合、エンドトキシン濃度の減少は殆ど見られない。一方、室温(25℃)にて紫外線を照射した場合、300分程度でエンドトキシン濃度は1/1000となった。また、タンク90を40℃に加熱した条件にて紫外線を照射した場合、180分程度でエンドトキシン濃度は1/1000となった。さらに、タンク90を50℃に加熱した条件にて紫外線を照射した場合、120分程度でエンドトキシン濃度は1/1000となった。このような結果から、紫外線(深紫外線)の照射と併用して加熱を行うことで、有意なエンドトキシンの失活効果を得られることが理解される。
【符号の説明】
【0096】
10 エンドトキシン失活処理装置、12 光源、14,44 容器、16 加熱器、18 回転子、20 被処理液(エンドトキシン水)、24,34A,34B 配管、30 窓部材、40 入口バルブ、42 出口バルブ、60 照射装置、70 光源、80 円筒部、90 タンク、96 ポンプ、98 温度調節器、100 電源。