IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大塚製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】4-ボロノフェニルアラニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20230508BHJP
   C07F 3/02 20060101ALI20230508BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C07F3/02 B
C07B61/00 300
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020566096
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2019005984
(87)【国際公開番号】W WO2019163738
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】62/632,862
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】ペトル・ザフラドニーク
(72)【発明者】
【氏名】アントニン・ストルク
(72)【発明者】
【氏名】イリ・マリナク
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・コチ
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-212185(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104961756(CN,A)
【文献】国際公開第2017/028751(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02865682(EP,A1)
【文献】NAKAMURA, H. et al.,A Practical Method for the Synthesis of Enantiomerically Pure 4-Borono-L-phenylalanine,Bulletin of the Chemical Society of Japan,2000年,Vol.73, No.1,pp.231-235
【文献】SKAF, O. et al.,Synthesis of the Side Chain Cross-Linked Tyrosine Oligomers Dityrosine, Trityrosine, and Pulcherosine,The Journal of Organic Chemistry,Vol.70, No.18,2005年,pp.7353-7363
【文献】CAPEK, P. et al.,Synthesis of Enantiomerically Pure (Purin-6-yl)phenylalanines and Their Nucleosides, a Novel Type of Purine-Amino Acid Conjugates,The Journal of Organic Chemistry,2005年,Vol.70, No.20,pp.8001-8008
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
C07F 3/00
C07B 47/00-51/00
C07B 61/00-63/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-ヨードフェニルアラニンから4-ボロノフェニルアラニンを製造する方法であって、
第1の反応工程で、4-ヨードフェニルアラニンのカルボキシ官能基をベンジルエステルとして保護し、4-ヨードフェニルアラニンのアミノ基をジベンジルまたはベンジルオキシカルボニル誘導体として保護し、次いで生じた保護された4-ヨードフェニルアラニンのヨウ素を、錯体塩基で安定化させたイソプロピルマグネシウムハロゲン化物での反応により、マグネシウムハロゲン化物で置換し、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を得、
第2の反応工程で、第1の反応工程で得られた保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を、一般式B(OR)(式中、Rは炭素原子数1~10の脂肪族アルキル、フェニルまたはベンジルである)のホウ酸エステルで置換し、生じたボロン酸エステル基を加水分解して保護された4-ボロノフェニルアラニンを得て、および
第3の反応工程で、第2の反応工程で得られた保護された4-ボロノフェニルアラニンを、Pd触媒による接触水素化分解または移動水素化分解で脱保護し、反応混合物を次いで塩基で沈殿させ4-ボロノフェニルアラニンを得る
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の反応工程で、保護された4-ヨードフェニルアラニンを、錯体塩基で安定化させたイソプロピルマグネシウムハロゲン化物(ここで、ハロゲン化物は塩素化物または臭素化物であり、錯体塩基はビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、N-メチルモルホリン、およびN,N,N’,N’,N’-ペンタメチルジエチレントリアミンからなる群から選択される)で、-20~20℃の温度で、エーテル系溶媒中、保護された4-ヨードフェニルアラニンに対するイソプロピルマグネシウムハロゲン化物のモル比が1~1.5で反応させ、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を得て、
第2の反応工程で、4-マグネシウムハロゲン化物を、-70~0℃の温度で、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物に対するホウ酸エステルのモル比が1~2で、ホウ酸エステルで置換し、生じたボロン酸エステル基を続いて0~50℃の温度で、酸性水溶媒中加水分解して、保護された4-ボロノフェニルアラニンを得て、および
第3の反応工程で、保護基の接触水素化分解による脱離を、0.1~10MPaの水素圧で、15~120℃の温度で、水性アルコール溶媒中、有機酸または無機酸の存在下、保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して1~150重量%の量のPd触媒により行い、次いで反応混合物を0~50℃の温度で、塩基でpH 5~8にして沈殿させ、4-ボロノフェニルアラニンを得る
ことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
第1の反応工程の錯体塩基がビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテルである、請求項1または2の方法。
【請求項4】
第1の反応工程の置換反応を、-5~5℃の温度で、テトラヒドロフラン溶媒中、保護された4-ヨードフェニルアラニンに対するイソプロピルマグネシウムハロゲン化物のモル比が1.2で行う、請求項1~3のいずれかの方法。
【請求項5】
第2の反応工程に用いられるホウ酸エステルがメチルまたはエチルエステルであり、その反応を-25~-15℃の温度で行う、請求項1~4のいずれかの方法。
【請求項6】
第2の反応工程における保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物に対するホウ酸エステルのモル比が1.5である、請求項1~5のいずれかの方法。
【請求項7】
第2の反応工程における酸性水溶媒が3~5M塩酸で、その反応温度が5~25℃である、請求項1~6のいずれかの方法。
【請求項8】
接触水素化分解による脱離を、そこで用いるPd触媒が保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して1~10重量%の量のPd担持炭素であり、30~70℃の温度で、0.5~2MPaの水素圧で行う、請求項1~7のいずれかの方法。
【請求項9】
第3の反応工程における移動水素化分解を、20~50重量%の量のPd/シリカ(Pd含量20%)を用いて、ギ酸を添加して、50~70℃で行う、請求項1~8のいずれかの方法。
【請求項10】
ギ酸の添加量を7~15%モル過剰にして行う、請求項9の方法。
【請求項11】
第3の反応工程における脱保護を、含水量20~50容積%の水を含む水性エタノールの反応溶媒中、保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して0.5~3モル当量のHClの量の塩酸の存在下行う、請求項1~10のいずれかの方法。
【請求項12】
HClの量が保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して1~2モル当量である、請求項11の方法。
【請求項13】
第3の反応工程における沈殿を、NaOHまたはKOHを用い、pH 6~7にて、5~15℃の温度で行う、請求項1~12のいずれかの方法。
【請求項14】
第2の反応工程に続いて、更なる精製として、生成された4-ボロノフェニルアラニンをエステル溶媒を用いて抽出し、炭酸水素ナトリウム溶液および水で洗浄し、必要なら更に活性炭素で精製することで、精製された保護された4-ボロノフェニルアラニンを得る、請求項1~13のいずれかの方法。
【請求項15】
エステル溶媒が酢酸エチルである、請求項14の方法。
【請求項16】
フェニルアラニンのL配置を用いて、および/または10B同位体に濃縮されたボロン化合物を用いて行う、請求項1~15のいずれかの方法。
【請求項17】
4-ボロノフェニルアラニン製造における中間生成物としての、式2:
【化1】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRがベンジルオキシカルボニルで、RがHであり;Bnはベンジルであり;XはClまたはBrである]
の保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物。
【請求項18】
4-ボロノフェニルアラニン製造における中間生成物としての、式3:
【化2】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRがベンジルオキシカルボニルで、RがHであり;Bnはベンジルであり;RはC~C10 アルキル、フェニル、またはベンジルである]
の保護された4-ボロノフェニルアラニン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-ボロノフェニルアラニン(BPA)の製造方法、特に10B同位体およびフェニルアラニンのL-立体配置を含む生成物の製造方法に関する。該化合物は既に公知であり、10B同位体を含有する誘導体は、いわゆるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)において腫瘍治療での薬剤として用いられる。
【背景技術】
【0002】
4-ボロノフェニルアラニン(BPA)は、腫瘍に特定の親和性を有するホウ素化されたアミノ酸である。10B同位体を伴ったBPAはBNCT用の臨床使用される化合物であり、そこで腫瘍細胞は中性子照射で分解する。
【0003】
4-ボロノフェニルアラニンの実用的な合成方法を求めて、有機金属中間体を利用したアプローチがいくつか公開されている。EP 2865682 B1(Kuen-Wang et al.)では、Nが保護された4-ハロフェニルアラニン、ホウ素化剤および有機リチウムを反応させて4-ボロノフェニルアラニンを合成する方法が開示されている。WO 2017/028751(Li et al.)では、Nが保護された4-ハロフェニルアラニン、ホウ素化剤、グリニャール試薬、およびビス(2-メチル-アミノエチル)エーテルを反応させて4-ボロノフェニルアラニンを合成する方法が開示されている。その方法は複雑な多段階工程を含まず、シンプルな工程を用いることが特徴である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主な目的は、有意な技術的利点を伴う4-ボロノフェニルアラニンの合成であり、例えば、マイルドな反応条件で行え、試薬や触媒が節約でき、副生成物の量を最小限にし、医薬目的の生成物を得るのに必要な精製の実質的減少などが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
グリニャール試薬を用いた所定の反応下でホウ素化を検討した中で、本発明者らは驚くべきことに、全ての官能基の保護を組み合わせることでホウ素化のより良い条件を発見した。すなわち、アミノ酸のすべての官能基を保護した後のボロン酸化合物の合成条件、および最終的にはアミノ酸構造中の保護基の触媒的除去の条件も見出した。
【0006】
本発明については、主に以下に記載したとおりである。
【0007】
(項1)
4-ヨードフェニルアラニンから4-ボロノフェニルアラニンを製造する方法であって、
第1の反応工程で、4-ヨードフェニルアラニンのカルボキシ官能基をベンジルエステルとして保護し、4-ヨードフェニルアラニンのアミノ基をジベンジルまたはベンジルオキシカルボニル誘導体として保護し、次いで生じた保護された4-ヨードフェニルアラニンのヨウ素を、錯体塩基で安定化させたイソプロピルマグネシウムハロゲン化物での反応により、マグネシウムハロゲン化物で置換し、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を得、
第2の反応工程で、第1の反応工程で得られた保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を、一般式B(OR)(式中、Rは炭素原子数1~10の脂肪族アルキル、フェニルまたはベンジルである)のホウ酸エステルで置換し、生じたボロン酸エステル基を加水分解して保護された4-ボロノフェニルアラニンを得て、および
第3の反応工程で、第2の反応工程で得られた保護された4-ボロノフェニルアラニンを、Pd触媒による接触水素化分解または移動水素化分解で脱保護し、反応混合物を次いで塩基で沈殿させ4-ボロノフェニルアラニンを得る
ことを特徴とする方法。
【0008】
(項2)
第1の反応工程で、保護された4-ヨードフェニルアラニンを、錯体塩基で安定化させたイソプロピルマグネシウムハロゲン化物(ここで、ハロゲン化物は塩素化物または臭素化物であり、錯体塩基はビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテル、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、N-メチルモルホリン、およびN,N,N’,N’,N’-ペンタメチルジエチレントリアミンからなる群から選択される)で、-20~20℃の温度で、エーテル系溶媒中、保護された4-ヨードフェニルアラニンに対するイソプロピルマグネシウムハロゲン化物のモル比が1~1.5で反応させ、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を得て、
第2の反応工程で、4-マグネシウムハロゲン化物を、-70~0℃の温度で、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物に対するホウ酸エステルのモル比が1~2で、ホウ酸エステルで置換し、生じたボロン酸エステル基を続いて0~50℃の温度で、酸性水溶媒中加水分解して、保護された4-ボロノフェニルアラニンを得て、および
第3の反応工程で、保護基の接触水素化分解による脱離を、0.1~10MPaの水素圧で、15~120℃の温度で、水性アルコール溶媒中、有機酸または無機酸の存在下、保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して1~150重量%の量のPd触媒により行い、次いで反応混合物を0~50℃の温度で、塩基でpH 5~8にして沈殿させ、4-ボロノフェニルアラニンを得る
ことを特徴とする項1の方法。
【0009】
別法として、水素ガスの代わりに水素供与体を用いて移動水素化を行う。
【0010】
(項3)
第1の反応工程の錯体塩基がビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテルである、項1または2の方法。
【0011】
(項4)
第1の反応工程の置換反応を、-5~5℃の温度で、テトラヒドロフラン溶媒中、保護された4-ヨードフェニルアラニンに対するイソプロピルマグネシウムハロゲン化物のモル比が1.2で行う、項1~3のいずれかの方法。
【0012】
(項5)
第2の反応工程に用いられるホウ酸エステルがメチルまたはエチルエステルであり、その反応を-25~-15℃の温度で行う、項1~4のいずれかの方法。
【0013】
(項6)
第2の反応工程における保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物に対するホウ酸エステルのモル比が1.5である、項1~5のいずれかの方法。
【0014】
(項7)
第2の反応工程における酸性水溶媒が3~5M塩酸で、その反応温度が5~25℃である、項1~6のいずれかの方法。
【0015】
(項8)
接触水素化分解による脱離を、そこで用いるPd触媒が保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して1~10重量%の量のPd担持炭素であり、30~70℃の温度で、0.5~2MPaの水素圧で行う、項1~7のいずれかの方法。
【0016】
(項9)
第3の反応工程における移動水素化分解を、好ましくは20~50重量%の量のPd/シリカ(Pd含量20%)を用いて、ギ酸を添加して、好ましくは7~15%モル過剰用いて、50~70℃で行う、項1~8のいずれかの方法。
【0017】
(項10)
第3の反応工程における脱保護を、含水量20~50容積%の水を含む水性エタノールの反応溶媒中、保護された4-ボロノフェニルアラニンに対して0.5~3モル当量、好ましくは1~2モル当量のHClの量の塩酸の存在下行う、項1~9のいずれかの方法。
【0018】
(項11)
第3の反応工程における沈殿を、NaOHまたはKOHを用い、pH 6~7にて、5~15℃の温度で行う、項1~10のいずれかの方法。
【0019】
(項12)
第2の反応工程に続いて、更なる精製として、生成された4-ボロノフェニルアラニンをエステル溶媒、とりわけ酢酸エチルを用いて抽出し、炭酸水素ナトリウム溶液および水で洗浄し、必要なら更に活性炭素で精製することで、精製された保護された4-ボロノフェニルアラニンを得る、項1~11のいずれかの方法。
【0020】
(項13)
フェニルアラニンのL配置を用いて、および/または10B同位体に濃縮されたボロン化合物を用いて行う、項1~12のいずれかの方法。
【0021】
(項14)
4-ボロノフェニルアラニン製造における中間生成物としての、式2:
【化1】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRがベンジルオキシカルボニルで、RがHであり;Bnはベンジルであり;XはClまたはBrである]
の保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物。
【0022】
(項15)
4-ボロノフェニルアラニン製造における中間生成物としての、式3:
【化2】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRがベンジルオキシカルボニルで、RがHであり;Bnはベンジルであり;RはC~C10 アルキル、フェニル、またはベンジルである]
の保護された4-ボロノフェニルアラニン。
【発明の効果】
【0023】
本発明のここで記載された反応手順では総じて、有意な技術的利点、例えば、マイルドな反応条件で行え、試薬や触媒が節約でき、副生成物の量を最小限にし、医薬目的の生成物を得るのに必要な精製の実質的減少などをもたらす。そして、生成物は高い収率で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法を実施する前に、4-ヨードフェニルアラニンの官能基を、特に立体的に、十分に保護する必要がある。式1の保護された4-ヨードフェニルアラニン:
【化3】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRはベンジルオキシカルボニルであり、RはHであり;Bnはベンジルである]に示すように、カルボキシル基はベンジルエステル基として保護し、アミノ基はジベンジル(Bn)またはベンジルオキシカルボニル(Z)誘導体として保護する。
【0025】
ベンジル化によるアミノ酸基の保護は、以前から知られている(M. T. Reetz, Tetrahedron Asymmetry 1990, 1, (6), 375, H.Nakamura et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 2000, 73, 231).
【0026】
保護された4-ヨードフェニルアラニン の環上のヨウ素をMgX基で置換する場合、イソプロピルマグネシウムハロゲン化物(iPrMgX)のための錯体形成剤の使用と共に、わずかに低温の条件を選択する必要もあり;その反応は、中間生成物であり、本発明の一部でもある、式2:
【化4】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRはベンジルオキシカルボニルであり、RはHであり;Bnはベンジルであり;XはClまたはBrである]の保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物を生成する。
【0027】
グリニャール試薬 のホウ酸エステルとの反応には、最も好ましくは-10℃以下の温度で実施する必要がある。上記のグリニャール試薬 と同様に、以下の式3:
【化5】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRはベンジルオキシカルボニルであり、RはHであり;Bnはベンジルであり;RはC~C10 アルキル、フェニル、またはベンジルである]のボロン酸のエステル(ボロネート)はいずれにも記載されていない。
【0028】
これらの化合物は本発明の方法中に単離されない。ボロネート のエステル結合は、先に公知の方法で、例えば実験室の条件下HClのような強酸で処理して、加水分解される。
【0029】
ボロン酸 を得た後(以下の反応式1を参照)、保護されたベンジルまたはベンジルオキシカルボニル基は、Pd触媒による同触媒の通常の条件下(すなわち、基質に対する触媒の重量比が、基質に関し、ユニット単位でまたは多量である)の接触水素化分解または移動水素化分解により、アミノ酸上で除去される。4-ボロノフェニルアラニン(BPA) の高収率は80%以上で、しかも高純度で成し遂げられた。
【化6】
[式中、RおよびRはベンジルであるか、あるいはRはベンジルオキシカルボニルであり、RはHであり;Bnはベンジルであり;RはC~C10 アルキル、フェニル、またはベンジルであり;XはClまたはBrである]
【0030】
本発明の解決すべき主題は、保護された4-ヨードフェニルアラニン から4-ボロノフェニルアラニン を製造する方法であり、そこではカルボキシル官能基がベンジルエステルとして保護され、アミノ基がベンジルオキシカルボニルまたは好ましくはジベンジル誘導体として保護され、さらに第1の反応工程では、保護された4-ヨードフェニルアラニン 中のヨウ素を、錯体塩基で安定化したイソプロピルマグネシウムハロゲン化物との反応により、マグネシウムハロゲン化物で置換し、保護されたフェニルアラニンの4-マグネシウムハロゲン化物 を調製する。
【0031】
イソプロピルマグネシウムハロゲン化物中のハロゲンは、塩素または臭素、好ましくは塩素である。錯体塩基は、例えばビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテル、TMEDA(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)、DABCO(1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン)、NMM(N-メチルモルホリン)、N,N,N’,N’,N’-ペンタメチルジエチレントリアミン、好ましくはビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテルである。
【0032】
第1の反応工程の反応は、-20~20℃、好ましくは-5~5℃の温度で、エーテル系溶媒、好ましくはテトラヒドロフラン中、基質に対するiPrMgXのモル比が1~1.5、好ましくは1.2で行われる。
【0033】
第2の反応工程における保護されたフェニルアラニン の4-マグネシウムハロゲン化物基のボロン酸基による置換は、ボロン酸エステル誘導体 を形成するが、式B(OR)(ここで、Rは炭素数1~10個の脂肪族アルキル、フェニルまたはベンジルであり、好ましくはメチルまたはエチル)のホウ酸エステルで行う。用いる温度は低温で、例えば-70~0℃、好ましくは-25~-15℃である。基質 に対するホウ酸エステルの比は1~2、好ましくは1.5モルである。
【0034】
第2の反応工程に続いては、化合物 のボロン酸基でのエステル基の加水分解であり、好ましくは単離せずに行い、好ましくは含水酸(好ましくは塩酸)を用い、3~5モル/リットルの濃度で、0~50℃(好ましくは5~25℃)の温度で行う。粗生成物である保護された4-ボロノフェニルアラニン を、通常エステル溶媒(好ましくは酢酸エチル)を用いて抽出し、炭酸水素ナトリウムと水の溶液で洗浄して精製する。必要なら、更に徹底して精製、例えば活性炭素で精製してもよく、濃縮後、油状の生成物である保護された4-ボロノフェニルアラニン 、言い換えればフェニルアラニン 4-ボロノ-N,N-ジベンジル(あるいはベンジルオキシカルボニル)ベンジルエステルを、理論収率最高90%で生成される。
【0035】
第3の反応工程において、保護基のベンジルおよびベンジルオキシカルボニルは、接触水素化分解または移動水素化分解によって除去して第、2の反応工程で得られた保護された4-ボロノフェニルアラニン のアミノ酸の形状になる。触媒はPdを含むものが使用され、例えばパールマン触媒、Pd/アルミナ、好ましくはPd/C(Pd担持活性炭素)またはPd/SiO(Pd担持シリカ)である。Pd担持担体の含量は通常1~20重量%である。触媒の量は原料物質の純度、要求される反応速度、および温度によって決定される。一般的に、水素化された基質に基づき、1~150重量%の範囲であるが、好ましくは発明の方法は1~10重量%だけの使用を可能とし、数時間だけの反応時間を可能とする。脱ベンジル化温度は15~120℃、好ましくは30~70℃から選択され得る。水素圧は0.1~10MPaの範囲であり、好ましくは圧力は大気圧より高い方がよく、例えば0.5~2MPaである。水素化分解の溶媒系はアルコール類からなり、好ましくは含水量20~50容積%の水性である。用いられる溶媒系は無機酸(硫酸、リン酸、好ましくは塩酸)の添加で酸性とし、一方で有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸)を用いることも可能である。ここでの酸は、基質である保護された4-ボロノフェニルアラニン に対して、0.5~3モル当量、好ましくは1~2モル当量の量で用いられる。
【0036】
別法として、保護基除去の代わりに移動水素化を用いることができる。移動水素化は適当な水素供与体を用いて成功裏に行われ、好ましくはギ酸と触媒としてPd/シリカが用いられる。
【0037】
水素化分解に続いて、粗生成物の4-ボロノフェニルアラニン を、0~50℃、好ましくは5~15℃の温度で、pH 5~8、好ましくは6~7で、塩基で沈殿させて調製する。ここで好ましい塩基はNaOHまたはKOHである。生成物は乾燥する必要はなく、例えば塩酸からの沈殿を繰り返して更に精製するのが好ましい。
【0038】
本方法は、ラセミのフェニルアラニン誘導体にでも、そのD体、L体にでも、10B同位体に様々な程度に濃縮された生成物にでも用いることができる。本発明の方法は、最終生成物の高い収率を示し、前駆体 からの計算では80%であり、プロセスの困難さも少なく、故に生成物の有効性も高い。ボロン酸 の合成は、通常の条件下短い時間で、80%を超える高い選択性で、前駆体 からin situで行われ、最適化された水素化分解の後、最終生成物BPA となる。
【実施例
【0039】
実施例1:4-ボロノ-N,N-ジベンジル-L-フェニルアラニン ベンジルエステル
4-ヨード-N,N-ジベンジル-L-フェニルアラニン塩酸塩ベンジルエステル (685 g,1.146 mol)を、ジクロロメタン(800 ml)に溶かし、5%炭酸水素ナトリウム溶液で抽出することで塩基に変換した。有機層を濃縮後、乾燥THF(540 ml)で希釈した。
THF(750 ml)、ビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテル (260 ml,1.38 mol)、およびイソプロピルマグネシウムクロリドの2M THF溶液(690 ml)を、6リットルのフラスコに加え、10~15℃の温度で30分間撹拌した。次いで反応混合物を0℃に冷却し、4-ヨード-N,N-ジベンジル-L-フェニルアラニン ベンジルエステルのTHF溶液を加え、その混合物を0~5℃で、反応がHPLCにより完了するまで撹拌した。続いて、反応混合物を-20℃に冷却し、ホウ酸トリメチル(190 ml,1.72 mol)を加えた。2時間かけて反応混合物を実験室の温度まで温め、更に2時間撹拌した。4M HCl(1400 ml)を加えて中和して反応を完了した。酢酸エチル(680 ml)で抽出を行い、有機層を分離して5%炭酸水素ナトリウム(550 ml)、水(400 ml、2回)で洗浄した。濃縮後、4-ボロノ-N,N-ジベンジル-L-フェニルアラニン ベンジルエステルを黄色油状物として得た(580 g)。
【0040】
実施例2: 4-ボロノ-L-フェニルアラニン , BPA
4-ボロノ-N,N-ジベンジル-L-フェニルアラニン ベンジルエステル を含む濃縮物(100.9 g,0.21 mol)をエタノール(280 ml)に溶かし、脱塩水(43 ml)および35% HCl(37 ml,0.42 mol)をそれに加え、その溶液をオートクレーブに入れた。水素化分解は、最高60℃までの温度で、0.5~1.2MPaの水素圧で、Pd/C(10 g, 5 % Pd, 50 %含水)を触媒として行い、HPLCで反応をモニターした。反応完了後、触媒をろ過して分離し、ろ液を30% NaOH水溶液でpH 6~7にして沈殿化した。0~5℃に冷却し、BPAの結晶をろ取し、理論収率84%で得た。続く精製を塩酸溶液から30% NaOH水溶液で沈殿化して行った。精製後得られた収率は91%で、HPLC純度は99.0%で、L-フェニルアラニン含量が1%未満であった。
【0041】
実施例3:
4-ボロノ-N,N-ジベンジル-L-フェニルアラニン ベンジルエステル (4.3 g, 0.009 mol)のエタノール(25 ml)溶液に、Pd触媒/SiO(Pd含量20 %, 水含量55 %, 1.2 g)を加えた。その混合物を50~70℃に加熱し、ギ酸(4.5 ml)のエタノール(20 ml)溶液を15分以内に加えた。反応混合物を50~70℃で3時間撹拌し、次いで室温に冷却した。触媒をろ去し、5~15℃の温度を維持して撹拌し、生じた溶液を水酸化ナトリウムでpH 6~7に中和した。0~5℃に冷却後、BPAの結晶をろ取し、理論収率80%で得た。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は4-ボロノフェニルアラニン製造の新たな方法に関するものであり、特に腫瘍治療用のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に用いる、10B同位体とフェニルアラニンのL-立体配置との生成物に関する。ここで記載される4-ボロノフェニルアラニンの新たな合成は、官能基のベンジル保護と保護基除去の最適方法を組み合わせたグリニャール反応を用い、経済的により有利で、労力も少なく、高い収率となる。本発明のここで記載された反応手順では総じて、有意な技術的利点、例えば、マイルドな反応条件で行え、試薬や触媒が節約でき、副生成物の量を最小限にする。そして、70~80%の範囲の全単離収率と純度(99% HPLC)は医薬用途として適している。