(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】応力エンジニアード超電導微細加工バネ
(51)【国際特許分類】
H10N 60/00 20230101AFI20230508BHJP
H01B 12/06 20060101ALN20230508BHJP
【FI】
H10N60/00 C
H01B12/06
(21)【出願番号】P 2021087596
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・エル. ・チュア
(72)【発明者】
【氏名】ユージニ・エム.・チョウ
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-202278(JP,A)
【文献】特開2019-086436(JP,A)
【文献】特開2019-120517(JP,A)
【文献】国際公開第2015/092996(WO,A1)
【文献】特開平05-258785(JP,A)
【文献】特開2003-311696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/00
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に配置されたバネ構造物であって、
前記基板上に配置されたアンカー部分と、
固有の応力プロファイルを有する弾性材料であって、前記固有の応力プロファイルは前記弾性材料のある領域を付勢して、前記基材から離れるようにカールする、
モリブデンクロム合金を含む、弾性材料と、
前記弾性材料の一部分と電気的に接触している超電導体膜と、を含む、バネ構造物と、を備える、構造物。
【請求項2】
前記超電導体膜が、ニオブ、ニオブチタン、窒化ニオブ、タンタル、窒化チタン、イットリウムバリウム銅酸化物、又は二ホウ化マグネシウムからなる群のうちの1つを含む、請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記超電導体膜が、前記弾性材料の上にある、請求項1に記載の構造物。
【請求項4】
前記超電導体膜が、前記弾性材料の下にある、請求項1に記載の構造物。
【請求項5】
前記超電導体膜が、前記弾性材料内にある、請求項1に記載の構造物。
【請求項6】
前記超電導体膜が、前記弾性材料を包み込む、請求項1に記載の構造物。
【請求項7】
前記超電導体膜及び前記弾性材料が、同じ
1つの膜である、請求項1に記載の構造物。
【請求項8】
前記バネ構造物上にコーティングを更に備える、請求項1に記載の構造物。
【請求項9】
前記コーティングが、銅、ニッケル、若しくは金、又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の構造物。
【請求項10】
前記超電導体膜が、所望の電流密度を達成するのに十分であるが、前記弾性材料が剥離されると前記基材の面外にカールすることが可能なほど十分に薄い厚さを有する、請求項1に記載の構造物。
【請求項11】
超電導体構造物を製造する方法であって、
基材上に剥離膜を堆積させることと、
弾性材料及び超電導体膜を含む膜積層体を形成することと、
前記剥離膜を選択的に除去することによって前記弾性材料の一部分を剥離し、前記部分が前記基材面外に持ち上がって弾性バネを形成することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記膜積層体を形成することが、前記弾性材料を前記剥離膜の上方に堆積させ、前記超電導体膜を前記弾性材料の上方に堆積させることを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記膜積層体を形成することが、前記
超電導体膜を前記剥離膜の上方に堆積させ、前記弾性材料を前記超電導体膜の上方に堆積させることを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
前記膜積層体を形成することが、
前記弾性材料の第1の部分を前記剥離膜の上方に堆積させることと、
超電導体膜を前記弾性材料の前記第1の部分の上方に堆積させることと、
前記弾性材料の第2の部分を前記超電導体膜の上方に堆積させることと、を含み、
前記弾性材料の前記第1の部分は、固有の圧縮応力を有し、前記弾性材料の前記第2の部分は、固有の引張応力を有する、請求項
11に記載の方法。
【請求項15】
前記膜積層体を形成することが、少なくとも金の部分層を追加することを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項16】
前記膜積層体を形成することが、前記弾性材料内に前記超電導体膜を堆積させることを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項17】
前記膜積層体を形成することが、前記弾性材料及び前記超電導体膜の両方に1プロセスの堆積を使用することを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項18】
前記膜積層体を形成することが、別個のプロセスで前記弾性材料及び前記超電導体膜を堆積させることを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項19】
前記膜積層体を形成することが、レーザパルス堆積によって前記超電導体膜を形成することを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項20】
前記膜積層体を形成することが、応力エンジニアリングされており、かつ超電導体である単一の膜を形成することを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項21】
超電導体構造物を製造する方法であって、
基材上に剥離膜を堆積させることと、
少なくとも弾性材料を含む膜積層体を形成することと、
前記弾性材料を超電導体膜でコーティングすることと、
前記剥離膜を選択的に除去することによって前記弾性材料の一部分を剥離して、前記部分が前記基材の面外に持ち上がり弾性バネを形成することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンピューティングチップの電気相互接続、より具体的には、量子コンピューティングキュービットチップのための電気相互接続に関する。
【背景技術】
【0002】
用語「キュービット」が量子コンピュータに関する情報の最小単位を意味するので、多くの場合キュービットチップと呼ばれる多くの種類の量子コンピューティングチップは、極低温で動作する。これらは、超電導相互接続を必要とする。本明細書で使用するとき、用語「超電導相互接続」は、電気抵抗がゼロである要素を含む相互接続を意味する。これは、典型的には、低温で動作する超電導材料を含む。
【0003】
非超電導相互接続を使用すると、許容できないレベルの熱が発生する。シリコン貫通電極マイクロバンプなどのアプローチは、従来のチップの接続では効果を発揮するが、これらのアプローチは、超電導相互接続の形成とは相性がよくない。
【0004】
極低温で相互接続を形成する際に生じる別の問題は、機械的適合性の必要性にある。これは、熱膨張の不整合による基板寸法のシフトを可能にする。機械的適合性により、低温で展開及び動作するための室温での異種パッケージ構成要素の位置合わせ及び組み立てが可能になる。最新の相互接続は、典型的には、超電導体ではなく、寸法シフトに機械的に適合することもない。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に示される態様によれば、基材と、基材上に配置されたバネ構造物とを有する構造物が提供され、バネ構造物は、基材上に配置されたアンカー部分と、弾性材料のある領域を付勢して基材から離れるようにカールする固有の応力プロファイルを有する弾性材料と、弾性材料の一部分と電気的に接触している超電導体膜と、を含む。
本明細書に示される態様によれば、基材上に剥離膜を堆積させることと、弾性材料及び超電導体膜を含む膜積層体を形成することと、剥離膜を選択的に除去することによって弾性材料の一部分を剥離して、その部分が基材の面外に持ち上がり弾性バネを形成することと、を含む超電導体構造物を製造する方法が提供される。
本明細書に示される態様によれば、基材上に剥離膜を堆積させることと、少なくとも弾性材料を含む膜積層体を形成することと、弾性材料の一部分を剥離して、その部分が基材の面外に持ち上がり弾性バネを形成することと、弾性バネを超電導体膜でコーティングすることと、を含む超電導体構造物を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】超電導バネを形成するための一連の膜の堆積を示す。
【
図2】超電導バネを形成するための一連の膜の堆積を示す。
【
図3】超電導バネを形成するための一連の膜の堆積を示す。
【
図4】超電導バネを形成するための一連の膜の堆積を示す。
【0007】
【0008】
【
図7】裏面金属領域を利用して接点を形成する、剥離した薄膜構造物の一実施形態を示す。
【0009】
【
図8】90度を超えて基材の面外にカールする膜積層体の一実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の実施形態は、量子コンピューティングチップなどの極低温回路を相互接続するための応力エンジニアード(STRESS-ENGINEERED)超電導体微細バネを示す。一般に、これらのバネは、基材上に堆積された膜から形成され、少なくとも1つの膜は、基材から離れた膜の表面よりも基材の近くにより多くの圧縮応力を有する。膜はまた、基材の近くよりも膜の表面に高い引張応力を有する。
【0011】
本明細書で使用するとき、用語「バネ」は、基材の面外にカールする構造物を指す。これらの構造物は、自然に機械的に適合し、熱膨張不整合によるパッケージ寸法の変化に対応することができる。面外にカールすることは、更に詳細に論じられるように、バネの先端が基材から離れるようにカールするか、又はバネの本体が基材から離れる方向にカールすることを含んでもよい。
【0012】
図1は、上部に剥離膜12が形成された基材10を示す。基材は、ガラス、シリコンウェハ、可撓性基材、又は例えばFR4、即ちガラス繊維強化エポキシ樹脂積層体などの積層体など多くの異なる種類の材料のうちの1つを含んでもよい。剥離膜12は、任意の選択的に除去可能な材料を含んでもよい。剥離膜12は、応力エンジニアード膜の下にあり、その結果、剥離層が除去されると、膜が基材の面外にカールする。金属剥離膜は、電気を電導することができるという利点を有し得る。これにより、剥離層を介して接続された任意の構造物の電気めっき、及び場合によっては電気試験を可能にすることができる。
【0013】
次いで、このプロセスは、応力エンジニアード膜及び超電導膜の膜積層体を形成する。
図2は、第1の膜14の堆積を示す。第1の膜は、剥離層上に直接堆積される。第1の膜は、超電導体膜、又は応力エンジニアード膜を含んでもよい。どちらの膜も電気を電導するため、他方に対する一方の膜の位置は重要ではない。非超電導体金属を通じて接触すると、熱が生じるが、超電導金属は極低温度で抵抗を有しないため、熱は生じない。膜積層体は、1つの膜のみを含んでもよいことに留意されたい。この実施形態では、超電導体膜は、以下に記載されるように応力エンジニアリングを受ける。
【0014】
図3は、16として応力エンジニアード膜又は超電導体膜のいずれかの第2の膜を示す。超電導体膜は、低温で超電導になる材料を含む。材料の例としては、ニオブ、ニオブチタン(NbTi)、窒化ニオブ(NbN)、タンタル、窒化チタン(TiN)、二臭化マグネシウム(magnesium dibromide)(MgB
2)、又はイットリウムバリウム銅酸化物(YBCO)が挙げられる。
【0015】
応力エンジニアード膜は、多くの異なるプロセスから生じ得る。本明細書で使用するとき、「応力エンジニアード」膜は、応力勾配を有する膜を意味する。ここでの実施形態では、膜中の応力勾配は、膜の表面付近よりも基材付近に高い圧縮応力を有する膜をもたらす。基材における膜応力は、上記のいくつかの重なり合った膜層よりも圧縮性が高い限り、圧縮、中立、又は引張であってもよい。この議論では、応力エンジニアード膜を弾性材料と呼んでもよい。
【0016】
一実施形態では、圧縮応力を受けた膜は、圧力が比較的低い周囲で物理蒸着(スパッタリング)を用いて膜を堆積させることによって得ることができる。低い周囲圧力は、周囲ガス中の原子との衝突がより少なくなり、結果として基材における衝撃エネルギーが高くなり、それによって、よりコンパクトな圧縮応力を受けた膜につながる。スパッタターゲットに印加される電力は、衝撃エネルギーを更に増加させ、圧縮応力を促進するために増加させることができる。一方、引張応力は、周囲圧力を増加させ、ターゲットに印加される電力を減少させて衝撃エネルギーを低下させることによって得ることができる。
【0017】
上述したように、応力エンジニアード膜及び超電導膜は、同じ膜であってもよい。しかしながら、これらが異なる膜である場合、応力エンジニアード膜は、モリブデンクロム(MoCr)膜を含んでもよく、MoCr膜はスパッタリング中にMoCrターゲットを使用して得られる。2つの膜は、1つの連続したスパッタリングプロセスにおいて同じ機械を使用して堆積されてもよいか、又は異なる機械で別個のプロセスで堆積されてもよい。いくつかの膜については、YBCO(イットリウムバリウム銅酸化物)超電導膜用に一般的なように、レーザパルス堆積を用いて堆積を行うことができる。
【0018】
一実施形態では、
図4に示される18などの保護層もまた、膜積層体内に存在してもよい。要約すると、膜積層体20は、応力エンジニアリングされ、かつ超電導体である弾性材料の1つの膜を含んでもよく、金などの保護膜、又は少なくとも、その存在する膜全体を被覆しない部分的な金膜を含んでもよい。膜積層体はまた、2つの別個の膜、超電導体膜、及び応力エンジニアード弾性材料を任意の順序で含んでもよい。弾性材料は、剥離膜上に直接存在してもよく、超電導体膜は、応力エンジニアード膜上に又は反対側に直接存在してもよい。金膜は、応力エンジニアード膜の下、上、又は両側に配置されてもよい。多くの用途では、サンドイッチ膜を環境ガス又は化学物質から保護するために、金などの貴金属膜が望ましい。本議論では、このコーティングが実際に下層構造を保護するか否かに関わらず、保護コーティングと呼ぶ。保護コーティングは、金、ニッケル、銅、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。本議論では、これらの膜が、他の膜の「上に配置されている」、又は他の膜に隣接するものとして言及することができる。これらの用語は、順番が暗示されておらず、膜がいずれかの順序であることを包含するように意図されている。
【0019】
膜積層体を製造した後、プロセスは、
図5に示される13などのアンカー部分のみを残して剥離層12を選択的に除去し、膜積層体20を基材(ただし積層体が含まれている)から剥離する。
図5では、剥離時に、応力勾配がビルトイン応力勾配に起因して、応力エンジニアード膜を基材からカールさせることがわかる。ここでの議論では、このことをバネが基材の面外にカールするとして言及する。
【0020】
典型的には、得られるバネは、6マイクロメートル(μm)ピッチで幅4μm~幅200μm程に小さくてもよい。バネは、基材からわずか数マイクロメートルから高さほぼ1ミリメートルまでの範囲のリフト高さを有してもよい。膜の厚さは、用途に必要な電流密度に応じて、5ナノメートル~数マイクロメートルの範囲であり得る。加えて、超電導膜は、応力エンジニアード膜とは別個の場合、設計された電流密度に必要な厚さを提供しながら、構造物が基板から離れて適切にカールするのを妨げる過剰な機械的負荷を生成しないように十分に薄くなければならない。
【0021】
別の実施形態では、膜20の積層体は、超電導体膜が弾性材料の中間の内側に堆積されてもよい。これは、プロセスの第1の圧力部分の後であるが、プロセスの第2の圧力部分の前に達成され得る。得られた構造物は、
図6に示される構造物と同様のものに見えてもよい。
図6では、超電導体膜、この実施形態では、膜16は応力エンジニアード膜14内にある。
図6の構造物は、含まれても含まれなくてもよい金層18を含む。別の実施形態では、超電導体膜は弾性材料を包み込んでもよく、その場合、内側膜は弾性部材であり、超電導体膜は外側膜である。バネが量子コンピューティングチップのための相互接続として作用する場合、超電導膜は、それらのバネが接続するパッケージと直接接触してもよく、又は直接接触しなくてもよい。超電導層が膜積層体の上部にある場合、超電導層は直接接触する。保護膜が膜積層体の上部にある場合、超電導膜は金層を介して接続され得る。あるいは、接触領域は、鋭い先端部の代わりに、広い平坦な領域であってもよい。
【0022】
図7は、22などの広い裏側金属領域を利用して接点を形成する、剥離した薄膜膜構造物を示す。22などのこれらの広い裏側接触領域は、例えば、バネの裏側がパッドと接触する最高点にあるように、バネ先端部をその曲率半径の周りにカールさせることによって得ることができる。バネ形状は、大きな曲率半径を有する直線セグメント又はバネを反対方向に屈曲させる反転した曲率を有するセグメントを追加することによって操作することができる。これらのセグメントは、機械的負荷層を追加することによって、又はそれらの領域上に反対の応力勾配の膜を堆積させることによって形成することができる。
【0023】
図8は、22などの裏側金属領域を提供するために、90度を超えて基材の面外にカールする膜積層体20の一実施形態を示す。
【0024】
結果は、バネを有する基材を有する。バネ構造物は、基材上に配置されたアンカー部分を有する。バネ構造物は、弾性材料のある領域を付勢して基材から離れるようにカールする固有の応力プロファイルを有する弾性材料と、弾性材料の一部分と電気的に接触している超電導体膜と、を有する。この領域は、
図7及び
図8に示されるような、バネの先端部又はアンカー部分と先端部との間の弾性材料の領域であってもよい。
【0025】
上記で開示されたものの変形、並びに他の特徴及び機能、又はこれらの代替物が、他の異なるシステム又は用途に組み合わされ得ることは理解されるであろう。様々な現在予期されていない、又は先行例のない代替物、修正、変形、又は改善が、その後に当業者によってなされてもよく、それらも以下の特許請求の範囲によって包含されることを意図している。