(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】変異体ライブラリプール作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20230508BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20230508BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C12N15/10 Z ZNA
C40B40/06
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2021189096
(22)【出願日】2021-11-22
【審査請求日】2023-03-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日置 貴大
(72)【発明者】
【氏名】寺井 三佳
(72)【発明者】
【氏名】川原 彰人
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-278806(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111394379(CN,A)
【文献】JAIN PC. et al.,Analytical Biochemistry,2014年,Vol.449,pp.90-98
【文献】ZHANG K. et al.,Scientific Reports,2021年05月,Vol.11,Article No.10454,https://doi.org/10.1038/s41598-021-89884-z
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
C40B 40/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
【請求項2】
10種類以上の変異導入用プライマー対を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記鋳型DNAが、塩基配列の一部が異なる複数種のDNAの混合物である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)で得られたDNA断片を混合する工程、前記工程(b)で得られたDNAを混合する工程、又は前記工程(c)で得られた形質転換体を混合する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
以下の工程(a)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該鋳型DNAは、請求項1~4のいずれか1項記載の方法で作製された変異ライブラリプールであり、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
【請求項6】
以下の工程(a’)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a’)鋳型DNAと変異導入用プライマー対とを用いて、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該鋳型DNAは、塩基配列の一部が異なる複数種のDNAの混合物であり、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a’)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
【請求項7】
前記鋳型DNAが、塩基配列の一部が異なる50種類以上のDNAの混合物である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記鋳型DNAが、請求項1~5のいずれか1項記載の方法で作製された変異ライブラリプールである、請求項6又は7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異体ライブラリプール作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質コード配列やプロモーター配列など、DNA配列の有する機能を解析又は向上させるために、鋳型DNAに対して多様な変異が導入されたDNAの変異ライブラリが用いられる。変異ライブラリとしては、個々の変異DNAを独立して用いる方法と、多様な変異DNAの混合物である変異ライブラリプールを用いる方法がある。近年では、実験の自動化や、スループット性の高いアッセイシステム開発の進歩から、多様性の大きい変異ライブラリプールを用いた配列の機能解析や機能向上スクリーニングが可能となっている。そのため、多様性が大きく、目的変異を幅広く含む変異ライブラリプールを、安価かつ簡便に作製する方法が求められている。
【0003】
大規模な変異ライブラリプールの作製方法としては、エラープローンPCR(非特許文献1)が最も広く用いられている。高性能なエラープローンPCRの試薬が各社から販売されており、安価かつ簡便に変異ライブラリプールを作製することができる。しかし、エラープローンPCRでは、隣接した塩基に同時に変異が導入されることは非常に稀であり、アクセスできない変異配列が非常に多く存在するという課題が存在する(非特許文献2)。この課題の解決にあたり、近年では、超並列オリゴヌクレオチド合成法(非特許文献2)が有効な手段とされている。超並列オリゴヌクレオチド合成法では、目的の変異を幅広く含む変異ライブラリプールの合成が可能である。しかし、大規模な変異ライブラリプールの作製において、超並列オリゴヌクレオチド合成法は、エラープローンPCRと比較して依然高価であり、また106を越えるような規模の変異ライブラリプールの合成は特に高価かつ困難である。一方で、目的変異を幅広く含む変異ライブラリプールを安価に作製する手法として、一本鎖環状DNAを鋳型とするPCRによる手法(非特許文献3)やGolden Gate Cloningを用いた手法(例えば、非特許文献4)などが報告されている。しかし、一本鎖環状DNAを鋳型とするPCRによる手法では、鋳型の配列に制限があり、また、Golden Gate Cloningを用いた手法では、用いるオリゴDNAの設計が複雑であるなど、簡便性には依然として改良の余地がある。また、これらの手法では適用可能な改変配列の長さの制限は明らかにされておらず、大領域への変異導入において効率が低下する懸念がある。
【0004】
一方、単一の変異を導入する方法として、相補的プライマー対を用いたPCRによる簡便な部位特異的導入方法が知られているが(非特許文献5、6、及び特許文献1)、相補的プライマー対を用いたPCRを利用する大規模な変異ライブラリプールの作製方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cirino, Patrick C., Kimberly M. Mayer, and Daisuke Umeno. Directed Evolution Library Creation. Humana Press, 2003. 3-9.
【文献】Oeling, David, et al. ACS Synthetic Biology 7.9 (2018): 2317-2321.
【文献】Wrenbeck, Emily E., et al. Nature Methods 13.11 (2016): 928-930.
【文献】Nedrud, David, Willow Coyote‐Maestas, and Daniel Schmidt. Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics (2021).
【文献】Braman, Jeffrey, Carol Papworth, and Alan Greener. In Vitro Mutagenesis Protocols (1996): 31-44.
【文献】Zheng, Lei, Ulrich Baumann, and Jean-Louis Reymond. Nucleic Acids Research 32.14 (2004): e115-e115.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多様性が高くかつ目的変異を幅広く含む変異ライブラリプールを、安価かつ簡便に作製する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、変異ライブラリプールの作製方法について種々検討した結果、鋳型DNAと、異なる変異を導入するための複数種の相補的プライマー対とを用い、該相補的プライマー対毎にPCRを行い、得られたDNA断片を混合して宿主細胞を形質転換することで、変異ライブラリプールを作製できることを見出した。一方で、相補的プライマー対を用いたPCRで増幅されたDNA断片の形質転換効率が、多様性を要する変異ライブラリプールの構築には不十分であるとの課題が判明した。本発明者らは、該課題の解決のためさらに検討を重ねた結果、相補的プライマー対を用いたPCRで増幅されたDNA断片をライゲーション反応に供することにより、形質転換効率を大幅に向上できることを見出した。さらに、鋳型DNAとして予め作製した変異ライブラリプールを用いることで、多様性が飛躍的に向上した変異ライブラリプールを作製できることを見出した。
【0009】
一態様において、本発明は、以下の工程(a)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程、
を提供する。
別の一態様において、本発明は、以下の工程(a’)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a’)鋳型DNAと変異導入用プライマー対とを用いて、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該鋳型DNAは、塩基配列の一部が異なる複数種のDNAの混合物であり、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a’)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程、
を提供する。
別の一態様において、本発明は、上記の変異ライブラリプールの作製方法で作製された変異ライブラリプールを提供する。
別の一態様において、本発明は、所望の性質を有するDNAのスクリーニング方法であって、上記の変異ライブラリプールの作製方法で作製された変異ライブラリプールから、所望の性質を指標として、該所望の性質を有するDNAを選抜する工程を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、多様性が高く且つ目的変異を幅広く含む網羅的・半網羅的な変異ライブラリプールの作製が可能である。本発明の方法は、基本的に、相補的プライマー対を用いたDNA合成反応、ライゲーション反応及び形質転換という簡便な手法からなり、安価に変異ライブラリプールを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】βラクタマーゼの24残基目のヒスチジンに飽和変異を導入するためのプライマー対の設計の概略図。
【
図2】YR288dRT(αアミラーゼ変異体)単変異ライブラリプールのYR288dRTの各アミノ酸残基位置におけるDNAトリプレットの出現頻度を示す図。
【
図3】YR288dRT二重変異ライブラリプールのYR288dRTの各アミノ酸残基位置におけるDNAトリプレットの出現頻度を示す図。
【
図4】YR288dRTの各アミノ酸残基位置において、エラープローンPCRによる1塩基置換で導入され得る変異のマッピング図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「変異ライブラリプール」とは、異なる変異に起因する異なる塩基配列を含むDNAの混合物、又は該DNAを有する菌体の混合物を指す。本発明の方法で作製される変異ライブラリプールは、好適には、異なる変異に起因する異なる塩基配列を含むプラスミドDNAの混合物、又は該プラスミドDNAを有する菌体の混合物である。例えば、あるタンパク質に関しての「変異ライブラリプール」とは、該タンパク質をコードするDNAであって異なる変異に起因する異なる塩基配列からなるDNAを含むプラスミドDNAの混合物、又は該プラスミドDNAを有する菌体の混合物であり得る。あるタンパク質に関しての「単変異ライブラリプール」とは、上記変異ライブラリプールのうち、変異ライブラリプールを構成する個々のメンバーが、該タンパク質をコードするDNAに単一のアミノ酸残基の置換に相当する変異を有する変異ライブラリプールをいう。また、あるタンパク質に関しての「二重変異ライブラリプール」とは、上記変異ライブラリプールのうち、変異ライブラリプールを構成する個々のメンバーが、該タンパク質をコードするDNAにいずれか2箇所のアミノ酸残基の置換に相当する変異を有する変異ライブラリプールをいう。
【0013】
本明細書において、「飽和変異導入」とは、DNAの特定の位置の塩基配列に生じ得る様々な変異を導入することを指し、該DNAがタンパク質をコードしている場合、結果として、該タンパク質の特定の位置のアミノ酸残基に生じ得る様々な変異が導入される。
【0014】
本明細書において、塩基及びアミノ酸残基の略記は、公認されているIUPAC表記に従う。本明細書において、「デオキシリボ核酸(DNA)」は、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖及びアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する。
【0015】
本明細書において、ある塩基配列と「相補的」とは、該ある塩基配列の完全な相補配列である場合に限られず、該ある塩基配列の相補配列と好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、なお好ましくは98%以上、さらになお好ましくは99%以上の塩基配列の同一性を有すればよい。塩基配列の同一性は、前記BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
【0016】
ここで採用され得る各種操作、例えばDNAの合成、同切断、削除、付加乃至結合を目的とする酵素処理、同単離、精製、選択など、組換えDNAの作製などはいずれも常法に従うことができる(例えば「分子遺伝学実験法」、共立出版株式会社1993年発行;「PCRテクノロジー」、宝酒造株式会社1990年発行、Science, 224, 1431 (1984);Biochem.Biophys. Res. Comm., 130, 692 (1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80,5990 (1983); Moplecular Cloning, by T.Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory (1982)など参照)。
【0017】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0018】
本発明は、変異ライブラリプールの作製方法を提供する。該方法は、以下の工程(a)~(c)を含む。
(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
【0019】
本発明の方法の工程(a)は、鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程である。斯かる工程により、特定の部位に変異が導入されたDNA断片が得られる。
【0020】
本発明の方法で用いられる「鋳型DNA」は、変異を導入したい目的のDNAを含んでいればよい。目的のDNAの種類や由来は特に限定されない。目的のDNAとしては、プロモーターをコードするDNA、タンパク質をコードするDNA等が挙げられ、好ましくは、タンパク質をコードするDNAが挙げられる。目的のDNAは任意の長さであってよいが、その長さは、例えば、好ましくは15塩基以上、より好ましくは60塩基以上、さらに好ましくは150塩基以上、なお好ましくは300塩基以上、さらになお好ましくは450塩基以上、さらになお好ましくは600塩基以上、さらになお好ましくは900塩基以上であり、且つ好ましくは目的のDNAの全長以下である。これは、アミノ酸配列長に換算すると、好ましくは5アミノ酸残基以上、より好ましくは20アミノ酸残基以上、さらに好ましくは50アミノ酸残基以上、なお好ましくは100アミノ酸残基以上、さらになお好ましくは150アミノ酸残基以上、さらになお好ましくは200アミノ酸残基以上、さらになお好ましくは300アミノ酸残基以上であり、且つ好ましくは目的のDNAがコードするアミノ酸配列の全長以下である。目的のDNAは、該目的のDNAを含むゲノムDNA、ミトコンドリアゲノムDNA、葉緑体ゲノムDNA、プラスミドDNA、ウイルスゲノムDNA、合成DNAなどから通常の遺伝子工学的手法により取得することができる。
【0021】
鋳型DNAは、環状DNAであればよく、好ましくは二本鎖環状DNAである。二本鎖環状DNAには、環状構造をとることができる限りにおいて、一方又は両方の鎖にニック又はギャップを有するDNA、及び鎖の一部が一本鎖のDNAも包含される。環状DNAの具体例としては、プラスミドDNA、コスミドDNA等が挙げられ、本発明の方法においてはプラスミドDNAが好適に用いられる。好ましいプラスミドDNAの例としては、限定するものではないが、pET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC57、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript、pHA3040SP64、pHSP64R又はpASP64(特許第3492935号)、pHY300PLK(Jpn J Genet,1985,60:235-243)、pAC3(Nucleic Acids Res,1988,16:8732)、pUB110(J Bacteriol,1978,134:318-329)、pTA10607(Plasmid,1987,18:8-15)等が挙げられる。該プラスミドには、後述する工程(c)で形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)が組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子がマーカー遺伝子として組み込まれていてもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子がマーカー遺伝子として組み込まれていてもよい。
【0022】
鋳型DNAは、1種類の鋳型DNAを用いてもよいが、塩基配列の一部、具体的には目的のDNAの塩基配列の一部、が異なる複数種のDNAの混合物を用いてもよい。ここで、複数種とは、少なくとも2種類、好ましくは50種類以上、より好ましくは100種類以上、さらに好ましくは300種類以上、なお好ましくは500種類以上、さらになお好ましくは1000種類以上、さらになお好ましくは2000種類以上、さらになお好ましくは3000種類以上、さらになお好ましくは5000種類以上、さらになお好ましくは10000種類以上であり、且つ好ましくは目的のDNAの塩基配列について理論上生じ得る全ての変異体の種類数以下である。鋳型DNAの種類数が増えるのに応じて、得られる変異ライブラリプールの多様性が高まる。また、塩基配列の一部が異なるとは、塩基配列中の少なくとも1塩基が相違することを意味する。
あるいは、鋳型DNAとして、本発明の方法で作製された変異ライブラリプール又は公知の方法(例えば、エラープローンPCR)で作製された変異ライブラリプールを用いることもでき、これにより、より多様性の高い変異ライブラリプールを作製することが可能となる。
【0023】
本発明の方法で用いられる「変異導入用プライマー対」は、鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む。ここで、「互いに相補的な領域を有する」とは、プライマー対を構成する第一のプライマーと第二のプライマーの配列の一部又は全部が互いに相補配列となっていることを意味する。本明細書では、互いに相補的な領域を有するプライマー対を相補的プライマー対と称することがある。尚、プライマー対の互いに相補的な領域は、好ましくは鋳型DNAとも相補的である。第一のプライマーと第二のプライマーの配列は、プライマーダイマーの軽減の点から、各プライマーの一部のみが互いに相補配列となっていることが好ましく、各プライマーの5’末端側の少なくとも一部が互いに相補配列となっていることがより好ましく、各プライマーの5’末端側の5’末端を含む領域が互いに相補配列となっていることがさらに好ましい。相補配列の長さは、特に限定されないが、好ましくは9~30塩基、より好ましくは12~24塩基、さらに好ましくは15~18塩基である。
【0024】
「変異導入部位」は、鋳型DNA、具体的には鋳型DNA中の目的のDNA、に変異を導入するための部位であり、導入する変異に相当する塩基配列からなる。変異としては、置換、挿入、欠失のいずれであってもよく、いずれか1種であっても、いずれか2種以上の組み合わせであってもよい。導入する変異が置換であれば、変異に相当する塩基配列は、目的のDNAに置換する塩基配列又はこれと相補的な塩基配列とすればよい。あるいは、導入する変異が挿入であれば、変異に相当する塩基配列は、目的のDNAに挿入する塩基配列又はこれと相補的な塩基配列とすればよい。置換又は挿入を導入するにあたっては、変異に相当する塩基配列を構成する塩基としてR、M、W、S、Y、K、H、B、D、V及びNから選択される少なくとも1種の混合塩基を使用し、複数種の変異を一度に導入することもできる。あるいは、導入する変異が欠失であれば、目的のDNAから欠失される塩基配列の5’側に隣接する塩基配列と3’側に隣接する塩基配列とを連結した塩基配列又はこれと相補的な塩基配列を変異に相当する塩基配列とすればよい。変異導入部位の長さは、特に限定されないが、導入する変異が置換又は挿入である場合には、好ましくは1~21塩基、より好ましくは1~18塩基、さらに好ましくは3~9塩基である。導入する変異が欠失である場合には、変異導入部位の長さは特に限定されない。
【0025】
変異導入部位は、変異導入用プライマー対を構成する第一のプライマー及び第二のプライマーの少なくとも一方に含まれていればよく、両方に含まれていてもよい。一方のプライマーのみが変異導入部位を含む場合、変異導入部位は、一方のプライマーの他方のプライマーと相補的でない領域に含まれ、好ましくは、一方のプライマーの他方のプライマーと相補的な領域より3’側の領域に含まれる。一方、両方のプライマーが変異導入部位を含む場合、変異導入部位は、両方のプライマーの互いに相補的な領域に含まれ、互いに相補的な配列からなる。費用の点から、変異導入部位は、変異導入用プライマー対のいずれか一方のプライマーに含まれていることが好ましい。変異導入部位を含むプライマーにおいて、変異導入部位の3’末端側には、鋳型DNAとアニールするための塩基配列を含むことが好ましく、その長さは、特に限定されてないが、好ましくは5~30塩基、より好ましくは10~25塩基、さらに好ましくは15~20塩基である。
好ましい変異導入用プライマー対の例としては、これに限定されるものではないが、鋳型DNAにアニールし、5’末端に互いに相補的な15塩基程度の塩基配列を有し、一方のプライマーが、他方のプライマーと相補的な領域の3’末端側に変異導入部位を含み、さらにその3’末端側に17塩基程度の塩基配列を含み、該他方のプライマーが該一方のプライマーと相補的な領域の3’末端側に9塩基の程度の塩基配列を含むプライマー対が挙げられる。
【0026】
本発明の方法では、複数種の変異導入用プライマー対が用いられる。ここで、複数種とは、少なくとも2種類であり、好ましくは10種類以上、より好ましくは20種類以上、さらに好ましくは30種類以上、なお好ましくは50種類以上、さらになお好ましくは70種類以上、さらになお好ましくは100種類以上、さらになお好ましくは150種類以上、さらになお好ましくは200種類以上、さらになお好ましくは300種類以上であり、且つ好ましくは目的のDNAの塩基配列において理論上導入できる変異の種類数以下である。複数種の変異導入用プライマー対は、それぞれ、目的のDNAに異なる変異を導入するためのものであり、好ましくは目的のDNAの異なる位置に変異を導入するためのものである。よって、複数種の変異導入用プライマー対は、目的のDNAに対し、少なくとも2種類、好ましくは10種類以上、より好ましくは20種類以上、さらに好ましくは30種類以上、なお好ましくは50種類以上、さらになお好ましくは70種類以上、さらになお好ましくは100種類以上、さらになお好ましくは150種類以上、さらになお好ましくは200種類以上、さらになお好ましくは300種類以上、且つ好ましくは目的のDNAの塩基配列において理論上導入できる変異の種類数以下の変異を導入する。また、複数種の変異導入用プライマー対は、目的のDNAに対し、少なくとも2箇所、好ましくは10箇所以上、より好ましくは20箇所以上、さらに好ましくは30箇所以上、なお好ましくは50箇所以上、さらになお好ましくは70箇所以上、さらになお好ましくは100箇所以上、さらになお好ましくは150箇所以上、さらになお好ましくは200箇所以上、さらになお好ましくは300箇所以上、且つ好ましくは目的のDNAの塩基配列において理論上変異を導入できる箇所数以下の変異を導入する。
【0027】
変異導入用プライマー対は、目的のDNAの塩基配列及び導入する変異に相当する塩基配列に基づいて適宜設計することができる。プライマーの長さは、特異的なアニーリング及び鎖伸長ができる長さであればよく、好ましくは10~100塩基、より好ましくは15~50塩基、さらに好ましくは20~40塩基の鎖長を有するものが挙げられる。プライマーは、特異的なアニーリング及び鎖伸長ができる限りにおいて、鋳型DNAとのミスマッチを含んでいてもよい。尚、プライマーは、DNAあるいはRNAであることができ、合成されたものでも天然のものでもよい。
【0028】
本発明の方法において、「DNAポリメラーゼによるDNA合成反応」とは、各種DNAポリメラーゼによるPCR増幅反応又は各種DNAポリメラーゼによるDNAの複製反応であり得る。該反応は、当業者に周知の任意の方法を用いて行うことができる。本発明の方法で使用可能なDNAポリメラーゼは、DNAを鋳型としてそれに相補的な塩基配列を有するDNA鎖を合成できる限り、いずれであってもよいが、目的外の変異導入の低減の点から、校正活性を有し、フィデリティの高いDNAポリメラーゼが好ましい。このようなDNAポリメラーゼは市販されており、例えば、KOD DNAポリメラーゼ(TOYOBO)、PrimeSTAR(登録商標) DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)、PfuUltra(登録商標) DNAポリメラーゼ(アジレント)、Platinum(登録商標) SuperFi II DNAポリメラーゼ(サーモフィッシャーサイエンティフィック)等を用いることができる。
【0029】
DNAポリメラーゼによるDNA合成反応は、好適にはPCRにより行うことができる。PCRは、市販のPCR用試薬や機器を用いて、常法に従って行うことができる。PCRの条件は、特に限定されず、PCR毎に最適条件を定めればよいが、例えば、以下の条件が挙げられる。
1)2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性:通常93~95℃程度で、通常3秒間~1分間程度加熱する。
2)アニーリング:通常50~60℃程度で、通常10秒間~1分間程度加熱する。
3)DNA伸長反応:通常60~74℃程度で、通常10秒間~5分間程度加熱する。
上記1)~3)の反応を1サイクルとして、これを通常30サイクル以上、好ましくは35サイクル以上、また、通常50サイクル以下、好ましくは45サイクル以下で行えばよい。
【0030】
DNAポリメラーゼによるDNA合成反応は、複数種の変異導入用プライマー対を用いて、変異導入用プライマー対毎に行う。その結果、DNA合成反応毎に、異なる変異が導入されたDNA断片が得られる。これらのDNA断片は、別個に工程(b)に供してもよいし、混合して工程(b)に供してもよいが、作業効率の点から、DNA断片を混合して工程(b)に供するのが好ましい。よって、本発明の方法は、工程(a)の後に続けて、得られたDNA断片を混合する工程を含み得る。
【0031】
DNA合成反応後、必要に応じて、DpnI等のメチル化DNAのみを消化する制限酵素で処理し、鋳型DNAを除去してもよい。あるいは、DNA合成反応に供する鋳型DNAの濃度を十分に低くすることで、DpnI処理を行わずに次の工程に進むことも可能である。また、DNA合成反応後、必要に応じて、エタノール沈殿、電気泳動、カラム精製、ビーズ精製、アフィニティー精製などの通常の手段を用いてDNA断片を精製してもよい。
【0032】
斯くして得られたDNA断片は、典型的には、変異導入用プライマー対を構成する第一のプライマーに由来する伸長鎖と第二のプライマーに由来する伸長鎖からなる二本鎖の環状DNAを形成する、5’突出末端を有するDNA断片であって、該変異導入用プライマー対に含まれる変異導入部位に由来する変異を含む。
【0033】
あるいは、工程(a)として、以下の工程(a’)を行ってもよい。
(a’)鋳型DNAと変異導入用プライマー対とを用いて、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該鋳型DNAは、塩基配列の一部が異なる複数種のDNAの混合物であり、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む。
【0034】
工程(a’)は、鋳型DNAと変異導入用プライマー対とを用いて、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程である。斯かる工程により、特定の部位に変異が導入されたDNA断片が得られる。
【0035】
「鋳型DNA」は、塩基配列の一部、具体的には目的のDNAの塩基配列の一部、が異なる複数種のDNAの混合物であり、各鋳型DNAの具体的内容については前述のとおりである。ここで、複数種とは、少なくとも2種類、好ましくは50種類以上、より好ましくは100種類以上、さらに好ましくは300種類以上、なお好ましくは500種類以上、さらになお好ましくは1000種類以上、さらになお好ましくは2000種類以上、さらになお好ましくは3000種類以上、さらになお好ましくは5000種類以上、さらになお好ましくは10000種類以上であり、且つ好ましくは目的のDNAの塩基配列について理論上生じ得る全ての変異体の種類数以下である。鋳型DNAの種類数が増えるのに応じて、得られる変異ライブラリプールの多様性が高まる。
あるいは、鋳型DNAとして、本発明の方法で作製された変異ライブラリプール又は公知の方法(例えば、エラープローンPCR)で作製された変異ライブラリプールを用いることもでき、これにより、より多様性の高い変異ライブラリプールを作製することが可能となる。
【0036】
「変異導入用プライマー対」は、鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む。変異導入用プライマー対の具体的内容については前述のとおりである。変異導入用プライマー対は、1種類のみを用いてもよいし、複数種を用いてもよい。ここで、複数種とは、少なくとも2種類であり、好ましくは10種類以上、より好ましくは20種類以上、さらに好ましくは30種類以上、なお好ましくは50種類以上、さらになお好ましくは70種類以上、さらになお好ましくは100種類以上、さらになお好ましくは150種類以上、さらになお好ましくは200種類以上、さらになお好ましくは300種類以上であり、且つ好ましくは目的のDNAの塩基配列において理論上導入できる変異の種類数以下である。複数種の変異導入プライマー対を用いる場合は、変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行うことが好ましい。DNAポリメラーゼによるDNA合成反応の具体的内容については前述のとおりである。
【0037】
本発明の方法において、工程(b)は、工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程である。上述のとおり、工程(a)で得られたDNA断片は、5’突出末端を有するDNA断片であり、各鎖の5’末端と3’末端は連結されていない。工程(b)は、DNA断片の各鎖の5’末端及び3’末端をそれぞれ連結させる工程であり、斯かる工程によりその後の形質転換効率を大幅に向上することができる。
【0038】
DNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程は、公知の方法に従い実施することができる。本発明の方法で使用可能なDNAリガーゼとしては、特に限定されず、T4 DNAリガーゼ、E.coli DNAリガーゼ、Taq DNAリガーゼ等が挙げられる。これらのDNAリガーゼは市販されており、TOYOBO、タカラバイオ等から購入することができる。DNAリガーゼによるライゲーション反応は、通常の手順で、例えば、酵素添付のプロトコルに従って実施することができる。反応条件は、酵素の至適条件や、基質であるDNA断片の量に従って適宜決定することができる。例えば、ライゲーション反応は、温度を4~25℃、好ましくは16℃に調製し、反応時間を5~60分、好ましくは5~30分間として実施することができる。あるいは、ライゲーション反応は、Ligation high Ver.2(TOYOBO)、DNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ)等の市販のキットを利用して、キット添付のプロトコルに従い実施してもよい。
【0039】
DNA断片にDNAリガーゼを効率よく作用させる手法としては、例えば、5’末端が予めリン酸化された変異導入用プライマー対を用いて工程(a)を行い、得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる手法が挙げられる。このとき、工程(a)で得られたDNA断片の各鎖の5’末端にはリン酸基が存在するので、該DNA断片にDNAリガーゼを作用させることで、該DNA断片の各鎖の5’末端と3’末端が効率よく連結される。また、5’末端がリン酸化されていない変異導入用プライマー対を用いて工程(a)を行い、得られたDNA断片にポリヌクレオチドキナーゼを作用させ、次いでDNAリガーゼを作用させる手法が挙げられる。このとき、工程(a)で得られたDNA断片の各鎖の5’末端にはリン酸基が存在しないが、ポリヌクレオチドキナーゼを作用させて該DNA断片の5’末端をリン酸化してからDNAリガーゼを作用させることで、該DNA断片の各鎖の5’末端と3’末端が効率よく連結される。これらの手法は、DNA断片をベクターにライゲーションする際等にDNAリガーゼを効率よく作用させる手法としては知られていたが、本発明のように相補的プライマー対を用いて得られたDNA断片で宿主細胞を形質転換する際の形質転換効率を飛躍的に向上させることは知られておらず、全く意外であった。
【0040】
さらに、DNA断片にDNAリガーゼを効率よく作用させる手法として、工程(a)で得られたDNA断片に、DNAリガーゼに加え、5’エキソヌクレアーゼ及びDNAポリメラーゼを組み合わせて作用させる手法も挙げられ、5’末端がリン酸化されていない変異導入用プライマー対を用いて工程(a)を行った場合であっても、得られたDNA断片の各鎖の5’末端と3’末端が効率よく連結される。上記3種の酵素を含む試薬NEBuilder(登録商標) HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)が市販されている。該試薬は、様々なDNA断片のアセンブルを可能にすることは知られているが、本発明のように相補的プライマー対を用いて得られたDNA断片で宿主細胞を形質転換する際の形質転換効率を飛躍的に向上させることは知られておらず、全く意外であった。
【0041】
工程(a)で得られたDNA断片毎に別個に工程(b)を実施した場合、得られたDNAは、別個のまま工程(c)に供してもよいし、混合して工程(c)に供してもよいが、作業効率の点から、DNAを混合して工程(c)に供するのが好ましい。よって、本発明の方法は、工程(b)の後に続けて、得られたDNAを混合する工程を含み得る。
【0042】
工程(b)で得られたDNAは、必要に応じて、エタノール沈殿、電気泳動、カラム精製、ビーズ精製、アフィニティー精製などの通常の手段を用いて精製してもよい。
【0043】
本発明の方法において、工程(c)は、工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程である。該工程により、変異が導入された目的のDNAを含む形質転換体を得ることができる。
【0044】
宿主細胞としては、細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌が好ましく、大腸菌がより好ましい。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rizhopus)などが挙げられる。
【0045】
形質転換方法としては、エレクトロポレーション法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム法等の当該分野で通常使用される方法を用いることができる。形質転換が適切に行われた形質転換体(形質転換細胞)は、マーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標として選抜することができる。
【0046】
工程(a)で得られたDNA断片毎に別個に工程(b)及び(c)を実施した場合、選抜された形質転換体は混合すればよい。よって、本発明の方法は、工程(c)の後に続けて、得られた形質転換体を混合する工程を含み得る。
【0047】
選抜された各形質転換体は、それぞれ、異なる変異に起因する異なる塩基配列を含む目的のDNAを含む菌体である。よって、選抜された形質転換体の混合物は、変異ライブラリプールを構成する。また、選抜された形質転換体の混合物から抽出したDNA、あるいは選抜された形質転換体から抽出したDNAの混合物も、変異ライブラリプールを構成する。該DNAは、形質転換体又は形質転換体の混合物から当該分野における通常の方法を用いてDNAを抽出又は単離することによって取得することができる。該抽出又は単離には、例えば、市販のDNA抽出キットなどを用いることができる。
【0048】
本発明の方法で作製される変異ライブラリプールを鋳型として、本発明の変異ライブラリプールの作製方法又は公知の変異ライブラリプール作製方法(例えば、エラープローンPCR)を行うことで、さらに多様性を高めた変異ライブラリプールを作製することができる。
【0049】
本発明の方法の好ましい一実施形態において、鋳型DNAは、変異を導入したいタンパク質をコードするDNAを含む。変異導入用プライマー対の少なくとも一方に含まれる変異導入部位は、該タンパク質の特定の位置のアミノ酸残基を置換変異させる塩基配列からなるように構成することが好ましく、該塩基配列としてNNK、NNS、NNB、NNN、NDT、DBK等を用いることがより好ましい。変異導入部位の塩基配列をNNK、NNS、NNB、NNN、NDT又はDBKとすることにより、複数種類のアミノ酸残基を指定するコドンを導入することができ、特に、変異導入部位の塩基配列をNNK、NNS又はNNBとすることにより、20種類のアミノ酸残基を指定するコドン及び終止コドンを網羅的に導入し、且つ終止コドンの発生確率を下げることができる。鋳型DNAと上記の変異導入部位の塩基配列をNNK、NNS又はNNBとした変異導入用プライマー対とを用いてDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行って得られるDNA断片は、該タンパク質の特定の位置のアミノ酸残基をコードするコドンが、本来のアミノ酸残基をコードするコドンか、本来のアミノ酸残基以外のいずれかのアミノ酸残基をコードするコドンか、終止コドンであるDNA断片の混合物であり、該タンパク質の特定の位置のアミノ酸残基に関して飽和変異が導入されたことになる。よって、上記の変異導入部位の塩基配列をNNK、NNS又はNNBとした変異導入用プライマー対の種類数を増やせば、該タンパク質のアミノ酸配列において飽和変異が導入されたアミノ酸残基を増やすことにつながる、ここで、上記の変異導入用プライマー対の種類数としては、好ましくは少なくとも2種類、より好ましくは10種類以上、さらに好ましくは20種類以上、なお好ましくは30種類以上、さらになお好ましくは50種類以上、さらになお好ましくは70種類以上、さらになお好ましくは100種類以上、さらになお好ましくは150種類以上、さらになお好ましくは200種類以上、さらになお好ましくは300種類以上であり、且つ好ましくは該タンパク質のアミノ酸残基数分の種類以下である。該タンパク質の各位置のアミノ酸残基のそれぞれについて上記の変異導入部位の塩基配列をNNK、NNS又はNNBとした変異導入用プライマー対(すなわち、該タンパク質のアミノ酸残基数分の変異導入用プライマー対)を用いれば、該タンパク質の単変異ライブラリプールを作製することができる。また、該単変異ライブラリプールを鋳型DNAとすることで、該タンパク質の二重変異ライブラリプールも作製することができる。
【0050】
本発明の方法で作製される変異ライブラリプールは、好ましくは104以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは106以上、なお好ましくは107以上のDNA配列多様性を有する。尚、DNA配列多様性は、例えば、変異ライブラリプールを構成する各メンバーの塩基配列をシーケンスし、得られたシーケンスデータに基づいて確認することができる。また、DNA配列多様性は、鋳型DNAの種類数、変異導入用プライマー対の種類数、該変異導入用プライマー対で導入される変異の種類数等に基づいて概算される理論上のDNA配列多様性として表し得る。一例において、全長500アミノ酸のタンパク質をコードするDNAに対して、単一の全アミノ酸残基にそれぞれ変異導入部位の塩基配列をNNKとした変異導入用プライマー対を用いて飽和変異導入を行う場合、NNKで表される配列は4×4×2=32通りの配列を含むため、得られる単変異ライブラリプールの理論上のDNA配列多様性は、500×32=1.6×104と概算できる。別の一例において、全長500アミノ酸をコードするDNAに対して、全組み合わせの2アミノ酸残基にそれぞれ変異導入部位の塩基配列をNNKとした変異導入用プライマー対を用いて飽和変異導入を行う場合、得られる二重変異ライブラリプールの理論上のDNA配列多様性は、500C2×322=約1.3×108と概算できる。
【0051】
後記実施例に示すように、本発明の方法で得られた全長483アミノ酸のタンパク質に関する単変異ライブラリプールは、その理論上のDNA配列多様性が約1.5×104、アミノ酸配列多様性が約9.2×103であるところ、形質転換効率から求めたライブラリサイズは2.7×108であり、全ての単変異からなる多様性を十分に網羅できる高い多様性を有していた。この多様性は、変異ライブラリプール作製に従来利用されているエラープローンPCRで作製可能な単変異ライブラリプールの多様性の理論値と比較して3倍以上も高い。また、該単変異ライブラリプールの平均変異導入数は、0.91であり、理論値の1に近い良好な値であった。さらに、該単変異ライブラリプールは、理論上のDNA配列多様性の80%という高いカバレッジを有していた。一方、同タンパク質に関する二重変異ライブラリプールは、その理論上のDNA配列多様性が約1.1×108、アミノ酸配列多様性が約4.2×107であるところ、形質転換効率から求めたライブラリサイズは9.5×107であり、全ての二重変異からなる多様性の大部分を網羅できる高い多様性を有していた。また、該二重変異ライブラリプールの平均変異導入数は、1.73であり、理論値の2に近い良好な値であった。さらに、該二重変異ライブラリプールは、理論上のDNA配列多様性の80%という高いカバレッジを有していた。斯様に、本発明の方法で得られる変異ライブラリプールは、多様性が高く且つ目的変異を幅広く含む。
【0052】
斯かる変異ライブラリプールを用いることで、DNA配列の有する機能解析や機能向上のためのスクリーニングが可能となる。例えば、本発明の方法で作製される変異ライブラリプールから、所望の性質を指標として、該所望の性質を有するDNAを選抜することができる。ここで、DNAの「性質」は、コードするポリペプチド(例えば、酵素)の活性、コードするポリペプチドの安定性、コードするポリペプチドの発現量、コードするプロモーターの活性、該DNAが含まれるプラスミドのコピー数、該DNAが含まれるプラスミド上の該DNAとは異なる領域のDNAがコードするポリペプチドの発現量等で表され得る。よって、例えば、コードするポリペプチドの活性が高い若しくは低い、コードするポリペプチドの安定性が高い若しくは低い、コードするポリペプチドの発現量が多い若しくは少ない、コードするプロモーターの活性が高い若しくは低い、該DNAが含まれるプラスミドのコピー数が多い若しくは少ない、又は該DNAが含まれるプラスミド上の該DNAとは異なる領域のDNAがコードするポリペプチドの発現量が多い若しくは少ないDNAの選抜が可能である。変異ライブラリプールからの所望の性質を有するDNAの選抜は、該所望の性質に応じて適宜常法に従って実施することができる。
【0053】
本発明の例示的実施形態として、以下の物質、製造方法、用途、方法等をさらに本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0054】
〔1〕以下の工程(a)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
〔2〕好ましくは少なくとも2種、より好ましくは10種類以上、さらに好ましくは20種類以上、なお好ましくは30種類以上、さらになお好ましくは50種類以上、さらになお好ましくは70種類以上、さらになお好ましくは100種類以上、さらになお好ましくは150種類以上、さらになお好ましくは200種類以上、さらになお好ましくは300種類以上の前記変異導入用プライマー対を用いる、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記鋳型DNAが、好ましくは塩基配列の一部が異なる複数種、すなわち少なくとも2種類、より好ましくは50種類以上、さらに好ましくは100種類以上、なお好ましくは300種類以上、さらになお好ましくは500種類以上、さらになお好ましくは1000種類以上、さらになお好ましくは2000種類以上、さらになお好ましくは3000種類以上、さらになお好ましくは5000種類以上、さらになお好ましくは10000種類以上のDNAの混合物である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記工程(a)で得られたDNA断片を混合する工程、前記工程(b)で得られたDNAを混合する工程、又は前記工程(c)で得られた形質転換体を混合する工程をさらに含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記鋳型DNAが、好ましくは変異を導入したいタンパク質をコードするDNAを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記変異導入部位の塩基配列が、好ましくはNNK、NNS、NNB、NNN、NDT又はDBKであり、より好ましくはNNK、NNS又はNNBである、〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法。
〔7〕好ましくは前記タンパク質のアミノ酸残基数分の種類の前記変異導入用プライマー対を用いる、〔5〕又は〔6〕記載の方法。
〔8〕前記変異ライブラリプールのDNA配列多様性が、好ましくは104以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは106以上、なお好ましくは107以上である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕以下の工程(a)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該鋳型DNAは、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法で作製された変異ライブラリプールであり、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
【0055】
〔10〕以下の工程(a’)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:
(a’)鋳型DNAと変異導入用プライマー対とを用いて、DNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該鋳型DNAは、塩基配列の一部が異なる複数種のDNAの混合物であり、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;
(b)工程(a’)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び
(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
〔11〕前記鋳型DNAが、好ましくは塩基配列の一部が異なる少なくとも2種類、より好ましくは50種類以上、さらに好ましくは100種類以上、なお好ましくは300種類以上、さらになお好ましくは500種類以上、さらになお好ましくは1000種類以上、さらになお好ましくは2000種類以上、さらになお好ましくは3000種類以上、さらになお好ましくは5000種類以上、さらになお好ましくは10000種類以上のDNAの混合物である、〔10〕記載の方法。
〔12〕前記鋳型DNAが〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法で作製された変異ライブラリプールである、〔10〕又は〔11〕記載の方法。
〔13〕好ましくは少なくとも2種、より好ましくは10種類以上、さらに好ましくは20種類以上、なお好ましくは30種類以上、さらになお好ましくは50種類以上、さらになお好ましくは70種類以上、さらになお好ましくは100種類以上、さらになお好ましくは150種類以上、さらになお好ましくは200種類以上、さらになお好ましくは300種類以上の前記変異導入用プライマー対を用い、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行う、〔10〕~〔12〕のいずれか1項記載の方法。
〔14〕前記工程(a’)で得られたDNA断片を混合する工程、前記工程(b)で得られたDNAを混合する工程、又は前記工程(c)で得られた形質転換体を混合する工程をさらに含む、〔13〕記載の方法。
〔15〕前記鋳型DNAが、好ましくは変異を導入したいタンパク質をコードするDNAを含む、〔10〕~〔14〕のいずれか1項記載の方法。
〔16〕前記変異導入部位の塩基配列が、好ましくはNNK、NNS、NNB、NNN、NDT又はDBKであり、より好ましくはNNK、NNS又はNNBである、〔10〕~〔15〕のいずれか1項記載の方法。
〔17〕好ましくは前記タンパク質のアミノ酸残基数分の種類の前記変異導入用プライマー対を用いる、〔15〕又は〔16〕記載の方法。
〔18〕作製される前記変異ライブラリプールのDNA配列多様性が、好ましくは104以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは106以上、なお好ましくは107以上である、〔10〕~〔17〕のいずれか1項記載の方法。
【0056】
〔19〕〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法で作製された変異ライブラリプール。
〔20〕DNA配列多様性が、好ましくは104以上、より好ましくは105以上、さらに好ましくは106以上、なお好ましくは107以上である、〔19〕記載の変異ライブラリプール。
【0057】
〔21〕所望の性質を有するDNAのスクリーニング方法であって、〔1〕~〔18〕のいずれか1項記載の方法で作製された変異ライブラリプールから、所望の性質を指標として、該所望の性質を有するDNAを選抜する工程を含む、方法。
〔22〕前記DNAの性質が、コードするポリペプチドの活性、コードするポリペプチドの安定性、コードするポリペプチドの発現量、コードするプロモーターの活性、該DNAが含まれるプラスミドのコピー数、又は該DNAが含まれるプラスミド上の該DNAとは異なる領域のDNAがコードするポリペプチドの発現量で表される性質である、〔21〕記載の方法。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
実施例1 飽和変異導入用プライマー対の設計
変異導入アミノ酸のコドンに、その上流15塩基、下流17塩基を加えた計35塩基において、変異導入アミノ酸のコドンをNNKに変更した配列をフォワードプライマーとした。変異導入アミノ酸のコドンの上流24塩基の相補配列をリバースプライマーとした。よって、プライマー対は、変異導入アミノ酸のコドンの上流15塩基の部分で互いに相補的になっている。一例として、プラスミドpHY300PLK(タカラバイオ)においてアンピシリン耐性遺伝子としてコードされるβラクタマーゼの24残基目のヒスチジンに飽和変異を導入するためのプライマー設計の概略を
図1に示す。βラクタマーゼのアミノ酸配列を配列番号1に、βラクタマーゼをコードする塩基配列を配列番号2に、βラクタマーゼの24残基目のヒスチジンに飽和変異を導入するためのフォワードプライマー(CTTCCTGTTTTTGCTNNKCCAGAAACGCTGGTGAA)及びリバースプライマー(AGCAAAAACAGGAAGGCAAAATGC)の塩基配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。
【0060】
実施例2 相補的プライマー対を用いたPCRによる部位特異的変異導入
プラスミドpHY300PLKにおいてアンピシリン耐性遺伝子としてコードされるβラクタマーゼの24残基目、25残基目、26残基目に飽和変異を導入するためのプライマー合計6配列をそれぞれ実施例1と同様に設計し、オリゴDNAを合成した。KOD One(TOYOBO)の推奨プロトコルに従って、鋳型DNAであるプラスミドpHY300PLKと各プライマー対を用いてPCR反応を行った。電気泳動により目的断片の増幅を確認後、すべてのPCR反応液を混合してDpnIで鋳型を消化した後にハイピュアPCRプロダクトピュアリフィケイションキット(Roche)を用いてPCR断片を精製した。このDNA 100ngを用いて、ライブラリ構築用の高効率大腸菌コンピテントセルであるE. cloni(R) 10G SUPREME Electrocompetent Cells(SOLOs)(Lucigen)への形質転換をキット推奨プロトコルに従って行った。鋳型としたプラスミドpHY300PLKはアンピシリン耐性遺伝子とは別にテトラサイクリン耐性遺伝子を含むため、アンピシリン耐性が失われた場合にもテトラサイクリン含有培地にて増殖が可能である。形質転換後の菌液を適宣希釈してテトラサイクリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で一晩インキュベートした後に形成されたコロニーをカウントすることで形質転換効率(CFU)を求めた。形質転換効率は8.2×104CFUであった。これは105以上の多様性を有する変異ライブラリプールの構築には不十分な形質転換効率である。
【0061】
実施例3 形質転換効率の向上1
実施例2におけるプライマーの5’末端を事前にリン酸化修飾して、同様にPCR断片を調製した。Ligation high Ver.2(TOYOBO)の推奨プロトコルに従ってPCR断片のライゲーション反応を行い、エタノール沈殿により精製した。このDNA 100ngを用いて、実施例2と同様に形質転換を行い、形質転換効率を求めた。形質転換効率は3.8×106CFUであった。複数のコロニーについてプラスミドの配列を確認したところ、βラクタマーゼの24残基目、25残基目、26残基目のいずれかに変異が導入されていた。
以上の結果から、相補的プライマー対を用いたPCRによる部位特異的変異導入法において、ライゲーション反応を組み合わせることで形質転換効率が飛躍的に向上し、大規模な変異ライブラリプールの調製が可能であることが示された。
【0062】
実施例4 形質転換効率の向上2
実施例2における精製済みPCR断片を、5’エキソヌクレアーゼ活性、DNAポリメラーゼ活性及びDNAリガーゼ活性を含むNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)と等量で混合し、50℃で1時間インキュベートした後にエタノール沈殿により精製した。このDNA 100ngを用いて、実施例2と同様に形質転換を行い、形質転換効率を求めた。形質転換効率は9.3×107CFUであった。複数のコロニーについてプラスミドの配列を確認したところ、βラクタマーゼの24残基目、25残基目、26残基目のいずれかに変異が導入されていた。
以上の結果から、5’エキソヌクレアーゼ活性、DNAポリメラーゼ活性、DNAリガーゼ活性を組み合わせることで、リン酸化修飾の無い相補的プライマー対を用いたPCR産物においても形質転換効率が飛躍的に向上し、大規模な変異ライブラリプールの調製が可能であることが示された。
【0063】
実施例5 YR288dRT発現プラスミドの構築
Bacillus sp. YR288株由来のαアミラーゼ(WP_100346362.1)のR178位及びT180位を欠失させた483アミノ酸から成る変異体であるYR288dRTのアミノ酸配列を配列番号5に、YR288dRTをコードするDNAの塩基配列を配列番号6に示す。pET22b(+)(Novagen)を鋳型にプライマーstop_pET22b_fw(TGAGATCCGGCTGCTAACAAAGCCC:配列番号7)及びpelB_rv(GGCCATCGCCGGCTGGGC:配列番号8)を用いてPCRを行い、PelBシグナルとstopコドンを含むベクター断片を増幅した。また、YR288dRTをコードするDNAを鋳型にプライマーpelB_YR288_fw(CAGCCGGCGATGGCCGCAGCTCAAAACGGTACGATGATGCAG:配列番号9)及びpET22b_YR288_rv(AGCAGCCGGATCTCACTGTTGAACGTACACGGAGACTGAGC:配列番号10)を用いてPCRを行い、YR288dRTをコードする断片を増幅した。これらの断片を用いて、In-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ)によってIn-Fusion反応を行い、得られたIn-Fusion反応液を大腸菌ECOSTM Competent E. coli DH5 α(ニッポンジーン)に形質転換してプラスミドpET22b(+)-YR288dRTを構築した。
【0064】
実施例6 YR288dRT単変異ライブラリプールの作製
pET22b(+)-YR288dRTを鋳型としてYR288dRTの全長483アミノ酸に飽和変異を導入するためのプライマー、1アミノ酸残基あたりフォワードプライマーとリバースプライマーの2配列の合計966配列をそれぞれ実施例1と同様に設計し、オリゴDNAを合成した。例として、YR288dRTの10残基目のチロシンに飽和変異を導入するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列をそれぞれ配列番号11(GGTACGATGATGCAGNNKTTTGAATGGTATGTACC)及び12(CTGCATCATCGTACCGTTTTGAGC)に示す。KOD One(TOYOBO)の推奨プロトコルに従って、鋳型DNAであるプラスミドpET22b(+)-YR288dRTと各プライマー対を用いて合計483本のPCR反応を行った。電気泳動により目的断片の増幅を確認後、すべてのPCR反応液を混合してDpnIで鋳型を消化した後にハイピュアPCRプロダクトピュアリフィケイションキット(Roche)を用いてPCR断片を精製した。精製した断片をNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)と等量で混合し、50℃で1時間インキュベートした後にエタノール沈殿により精製した。このDNA 1μgを用いて、実施例2と同様に形質転換を行った。形質転換後の菌液1μLを適宣希釈してアンピシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で一晩インキュベートした後に形成されたコロニーをカウントすることで形質転換効率(CFU)を求めた。残りの菌液全量(約1mL)を20mLの50ppm Carbenicillin含有LB培地に植菌して37℃で一晩培養した後にプラスミドを抽出し、YR288dRT単変異ライブラリプールとした。YR288dRT単変異ライブラリプールの理論上のDNA配列多様性は1.5×104、アミノ酸配列多様性は9.2×103であり、形質転換効率から求めたライブラリサイズは2.7×108であった。この結果から、作成した変異ライブラリプールはすべての単変異から成る多様性を十分に網羅できると考えられた。
【0065】
実施例7 YR288dRT二重変異ライブラリプールの作製
鋳型DNAとして実施例6で作製したYR288dRT単変異ライブラリプールを用い、実施例6で用いたものと同じプライマーセットを用いて合計483本のPCR反応を行った。電気泳動により目的断片の増幅を確認後、すべてのPCR反応液を混合してDpnIで鋳型を消化した後にハイピュアPCRプロダクトピュアリフィケイションキット(Roche)を用いてPCR断片を精製した。精製した断片をNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)と等量で混合し、50℃で1時間インキュベートした後にエタノール沈殿により精製した。このDNA 1μgを用いて、実施例2と同様に形質転換を行った。形質転換後の菌液1μLを適宣希釈してアンピシリン含有LB寒天培地に塗布し、37℃で一晩インキュベートした後に形成されたコロニーをカウントすることで形質転換効率(CFU)を求めた。残りの菌液全量(約1mL)を20mLの50ppm Carbenicillin含有LB培地に植菌して37℃で一晩培養した後にプラスミドを抽出し、YR288dRT二重変異ライブラリプールとした。YR288dRT二重変異ライブラリプールの理論上のDNA配列多様性は1.2×108、アミノ酸配列多様性は4.2×107であり、形質転換効率から求めたライブラリサイズは9.5×107であった。この結果から、作成した変異ライブラリプールはすべての二重変異から成る多様性の大部分を網羅できると考えられた。
【0066】
実施例8 YR288dRT変異ライブラリプールの品質確認
pET22b(+)-YR288dRT、実施例6で作製したYR288dRT単変異ライブラリプール及び実施例7で作製したYR288dRT二重変異ライブラリプールを鋳型として、プライマーpET22b_NGS_fw(GCGAAATTAATACGACTCACTATAG:配列番号13)及びpET22b_NGS_rv(GCCAATCCGGATATAGTTCC:配列番号14)を用いてそれぞれPCRを行い、YR288dRT(及びその変異体)のコード領域全長を含む断片を増幅した。各PCR産物をアガロースゲル電気泳動に供した後にゲルの目的バンド部分のみを切り出し、ハイピュアPCRプロダクトピュアリフィケイションキット(Roche)を用いて精製した。NEBNext(登録商標) dsDNA Fragmentase(New England Biolabs)の推奨プロトコルに従ってそれぞれ断片化を行い、NEBNext Ultra(商標) II DNA Library Prep Kit for Illumina(登録商標)(New England Biolabs)の推奨プロトコルに従って次世代シーケンサー用ライブラリを調製した。GenNext NGS Library Quantification Kit(TOYOBO)によって濃度を測定した後、MiSeq Reagent Micro Kit v2(300-cycles)(illumina)を使用してMiSeqシステム(illumina)にてシークエンスを行った。CLC Genomics Workbench(QIAGEN)にてトリミングとリシークエンスを行い、リード情報を出力した。
【0067】
各コドンにおいて、そのコドンを含むリードの中で変異が導入されたリード数の割合をMutation Rateとして算出した。全長のMutation Rateの総和は、各変異ライブラリプールの平均変異導入数である。各変異ライブラリプールについてMutation Rateの総和を算出し、ブランクとしてpET22b(+)-YR288dRTのMutation Rate(MiSeqのエラーによるMutation Rate)の総和を引いた値を平均変異導入数とした。単変異ライブラリプールの平均変異導入数は0.91、二重変異ライブラリプールの平均変異導入数は1.73であった。
【0068】
各コドンにおいて、64種類のDNAトリプレットの出現頻度を算出し、ヒートマップを作製した。均等に変異が導入されると仮定した時の理論値(単変異ライブラリプールでは0.0065%、二重変異ライブラリプールでは0.013%)をヒートマップの上限値とし、下限値は0とした。単変異ライブラリプール(
図2)、二重変異ライブラリプール(
図3)ともに、混合塩基NNKに含まれる32種類のDNAトリプレットを高いカバレッジで含んでいた。単変異ライブラリプールについて、理論値0.0065%の1/10以上の出現頻度の変異体数は13401であり、理論上のDNA配列多様性の80%のカバレッジを示した。一方、エラープローンPCRによってアクセスが可能な変異体として、各コドンについて1塩基のみの置換で導入され得る変異を
図4にマッピングした。1塩基のみの置換で導入され得る変異体数は4347であったことから、単変異ライブラリプールはエラープローンPCRで作製できる変異ライブラリプールと比較して3倍以上の単変異多様性を有する。
以上の結果から、作製した単変異ライブラリプール及び二重変異ライブラリプールは、高い多様性、高い変異導入率、及び高いカバレッジを有する変異ライブラリプールであることが示された。
【要約】
【課題】多様性の高い変異ライブラリプールを安価、簡便に作製する方法の提供。
【解決手段】以下の工程(a)~(c)を含む、変異ライブラリプールの作製方法:(a)鋳型DNAと複数種の変異導入用プライマー対とを用いて、該変異導入用プライマー対毎にDNAポリメラーゼによるDNA合成反応を行い、5’突出末端を有するDNA断片を取得する工程、ここで、該変異導入用プライマー対は、該鋳型DNAにアニールし、互いに相補的な領域を有し、且つ少なくとも一方に変異導入部位を含む;(b)工程(a)で得られたDNA断片にDNAリガーゼを作用させる工程;及び(c)工程(b)で得られたDNAで宿主細胞を形質転換する工程。
【選択図】なし
【配列表】