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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230508BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230508BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230508BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
H01F1/147 183
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021502790
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2018016039
(87)【国際公開番号】W WO2020017713
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】10-2018-0083531
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-スゥ
(72)【発明者】
【氏名】シン,スゥ-ヨン
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-010982(JP,A)
【文献】特開2001-172752(JP,A)
【文献】特開平01-283343(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022360(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、素地鋼板の内部に0.2~5μmの厚さの内部酸化層が形成され、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.02重量%のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
-1.4≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦0.9
(式1中、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれ、P、CrおよびMgの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
前記SnおよびSbの合計量が0.005~0.1重量%であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記内部酸化層は、前記素地鋼板の表面から素地鋼板の内部方向に5μm以下の範囲に形成されたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記内部酸化層は、CrまたはMgOのうちの1種以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記素地鋼板の表面に接して、前記素地鋼板の内部方向に形成された表面酸化層をさらに含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記内部酸化層および表面酸化層は、酸素を0.05重量%以上含むことを特徴とする請求項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記内部酸化層の厚さが前記表面酸化層の厚さより厚いことを特徴とする請求項またはに記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記無方向性電磁鋼板の比抵抗は45μΩ・cm以上であることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項10】
前記無方向性電磁鋼板は、C、S、N、Ti、NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項11】
重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.02重量%のうちの1種以上をさらに含むスラブを製造する段階、
前記スラブを加熱する段階、
前記スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
前記最終焼鈍する段階は、昇温速度15℃/秒以上で昇温する急速昇温段階、
一般昇温段階および均熱段階を順に行い、
前記急速昇温段階は、前記冷延板を450~600℃まで昇温し、
前記一般昇温段階は、開始温度は450~600℃であり、終了温度は850~1050℃であり、
前記急速昇温段階は、露点温度-10~60℃で行われ
素地鋼板の内部に0.2~5μmの厚さの内部酸化層が形成されることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
-1.4≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦0.9
(式1中、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれ、スラブ内のP、CrおよびMgの含有量(重量%)を示す。)
【請求項12】
前記スラブは、SnおよびSbの合計量が0.005~0.1重量%であることを特徴とする請求項11に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記スラブは、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%を含むことを特徴とする請求項11または12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記一般昇温段階は、昇温速度が1~15℃/秒であり、露点温度-50~-20℃で行われることを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板
の製造方法。
【請求項15】
前記均熱段階の均熱温度は850~1050℃であり、
前期均熱温度で30秒~3分間焼鈍することを特徴とする請求項11から14のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法(NON-ORIENTED ELECTRICAL STEEL SHEET AND METHOD FOR MANUFACTURING THE SAME)に関する。具体的には、鋼板にP、Cr、Mg元素を適正量添加し、Sn、Sbを添加し、鋼板の内部に内部酸化層を形成して、絶縁特性、加工性および磁性に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー節約、微細埃発生低減および温室ガス低減など地球環境改善のために電気エネルギーの効率的な使用が大きな問題となっている。現在発電される全体電気エネルギーの50%以上が電動機で消費されているため、電気の効率的な使用のためには電動機の高効率化が必至である。最近、環境にやさしい自動車(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気車、燃料電池車)分野が急激に発展するに伴って高効率駆動モータへの関心が高まっており、同時に、家電用高効率モータ、重電機用スーパープレミアムモータなど高効率化に対する認識および政府の規制が続いており、効率的な電気エネルギー使用のための要求が強まっている。
【0003】
一方、モータの素材として用いられる電磁鋼板は、渦電流損失を低減するために薄い鋼板を複数枚に積み上げて製作し、この時、各鋼板は絶縁が維持されて電流が流れない状態にするため、塗布により電磁鋼板の表面に絶縁コーティングを行なっている。通常、絶縁コーティングは有機、無機複合物質で構成されている。この絶縁コーティングは、積層された上下鋼板間の絶縁を維持させて渦電流損失を低減させるため、厚く塗布して鋼板を完全絶縁させるとモータ効率がさらに向上するという利点がある。しかし、絶縁コーティング層の厚さが増加すると、占積率の低下でモータ効率が低下し、打抜時に粉塵等異物の形成により金型損傷が発生して生産性が低下する問題点があった。
【0004】
したがって、絶縁コーティングを最小限に塗布してコーティング層の厚さを薄くしながらも絶縁性を確保する必要がある。従来、素地鋼板の内部に酸化層を形成する技術が一部提案されている。しかし、P、CrおよびMgを適正量添加せず、目的の絶縁特性および磁性を十分に確保できず限界があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、絶縁特性、加工性および磁性に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、鋼板にP、Cr、Mg元素を適正量添加し、鋼板の内部に内部酸化層を形成して、絶縁特性、加工性に優れており、同時に、Sn、Sbを添加して磁性に優れた無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、素地鋼板の内部に0.2~5μmの厚さの内部酸化層が形成され、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含む。
[式1]
-2.5≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦6.5
(式1中、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれ、P、CrおよびMgの含有量(重量%)を示す。)
【0007】
SnおよびSbの合計量が0.005~0.1重量%であることを特徴とする。
【0008】
Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%を含むことを特徴とする。
【0009】
内部酸化層は、素地鋼板の表面から素地鋼板の内部方向に5μm以下の範囲に形成されることを特徴とする。
【0010】
内部酸化層は、CrまたはMgOのうちの1種以上の酸化物を含むことを特徴とする。
【0011】
内部酸化層と素地鋼板との界面の平均粗さは1~5μmであることを特徴とする。
【0012】
素地鋼板の表面に接して、素地鋼板の内部方向に形成された表面酸化層をさらに含むことを特徴とする。
【0013】
内部酸化層および表面酸化層は、酸素を0.05重量%以上含むことを特徴とする。
【0014】
内部酸化層の厚さが表面酸化層の厚さより厚いことを特徴とする。
【0015】
無方向性電磁鋼板の比抵抗は45μΩ・cm以上であることを特徴とする。
【0016】
無方向性電磁鋼板は、C、S、N、Ti、NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下でさらに含むことを特徴とする。
【0017】
本発明による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%、並びに残部はFeおよび不可避不純物を含み、式1を満足し、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含むスラブを製造する段階、スラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、;熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含み、最終焼鈍する段階は、昇温速度15℃/秒以上で昇温する急速昇温段階、一般昇温段階および均熱段階を含み、急速昇温段階は、露点温度-10~60℃で行われることを特徴とする。
【0018】
スラブは、SnおよびSbの合計量が0.005~0.1重量%であることを特徴とする。
【0019】
スラブは、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%を含むことを特徴とする。
【0020】
急速昇温段階は、冷延板を450~600℃まで昇温することを特徴とする。
【0021】
一般昇温段階は、昇温速度が1~15℃/秒であり、露点温度-50~-20℃で行われることを特徴とする。
【0022】
均熱段階の均熱温度は850~1050℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、鋼板にP、Cr、Mg元素を適正量添加し、鋼板の内部に内部酸化層を形成して、絶縁特性、加工性および磁性に優れた無方向性電磁鋼板にできる。また、絶縁層の厚さを最小化することができる。これによって占積率が上昇し、無方向性電磁鋼板から製造されるモータの効率を改善できる。最終的に環境にやさしい自動車用モータ、高効率家電用モータ、スーパープレミアム級の電動機を製造することができる。同時に、無方向性電磁鋼板は、鋼板にSn、Sb元素を添加して磁性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の概略側断面図である。
図2】鋼種3で製造した無方向性電磁鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用される。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するために使用される。ここでの専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものである。単数形態は、言及がないないなら複数形態も含む。「含む」は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外するものではない。
【0026】
ある部分が他の部分の「上に」ある場合、これは、他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴っていてもよい。ある部分が他の部分の「真上に」ある場合、その間に他の部分は介在しない。特に言及しない限り、%は重量%であり、1ppmは0.0001重量%である。本発明の一実施例において、追加の元素をさらに含む場合、追加の元素の追加量だけ、残部の鉄(Fe)を代替している。
【0027】
以下、本発明の実施例を、実施できる程度に詳しく説明する。
【0028】
本発明の一実施例では、無方向性電磁鋼板内の組成、特に主要添加成分であるP、Cr、Mgの範囲を最適化し、鋼板の内部に内部酸化層を形成して、絶縁特性、加工性を改善する。同時に、Sn、Sbを適正量添加することによって、磁性を改善する。本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0029】
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0030】
Si:2.5~6.0重量%
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割を果たし、過度に少なく添加される場合、高周波鉄損の改善効果が不十分になる。逆に、過度に多く添加される場合、材料の硬度が上昇して冷間圧延性が極度に悪化して生産性および打抜性が低下する。したがって、前述した範囲でSiを添加する。具体的には、Siは2.6~4.5重量%含むことができる。
【0031】
Al:0.2~3.5重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を低くする役割を果たし、過度に少なく添加されると、高周波鉄損の低減に効果がなく、窒化物が微細に形成されて磁性を低下させることがある。逆に、過度に多く添加されると、製鋼と連続鋳造などの全工程上に問題を生じて生産性を大きく低下させることがある。したがって、前述した範囲でAlを添加することができる。さらに具体的には、Alを0.4~3.3重量%含むことができる。
【0032】
Mn:0.2~4.5重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し、硫化物を形成させる役割を果たし、過度に少なく添加されると、MnSが微細に析出して磁性を低下させることがある。逆に、過度に多く添加されると、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が減少することがある。したがって、前述した範囲でMnを添加することができる。さらに具体的には、Mnを0.3~3.5重量%含むことができる。
【0033】
比抵抗45μΩ・cm以上
比抵抗は、13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)から計算された値である。この時、[Si]、[Al]、[Mn]はそれぞれ、Si、Al、Mnの含有量(重量%)を示す。比抵抗が高いほど、鉄損を低くする役割を果たす。比抵抗が低すぎると、鉄損が劣位で高効率モータとしての使用は困難である。さらに具体的には、比抵抗は50~80μΩ・cmであってもよい。
【0034】
Cr:0.01~0.2重量%
クロム(Cr)は、耐食性元素として表面層に濃縮されて耐食性を向上させ、酸化層の生成を抑制する役割を果たす。Crが過度に少なく含まれると、酸化が急激に進んで内部酸化層の形成を制御しにくい。Crが過度に多く含まれると、逆に、酸化が抑制されて、内部酸化層が形成されにくくなる。さらに具体的には、Crを0.015~0.15重量%含むことができる。
【0035】
P:0.005~0.08重量%
リン(P)は、表面に濃縮されて、内部酸化層の分率を制御する役割を果たす。Pの添加量が少なすぎると、均一な内部酸化層の形成が困難になる。Pの添加量が多すぎると、Si系酸化物の融点が変動して、内部酸化層が急激に形成される。したがって、前述した範囲でPの含有量を制御することができる。さらに具体的には、Pを0.005~0.07重量%含むことができる。
【0036】
Mg:0.0005~0.05重量%
マグネシウム(Mg)は、酸化性雰囲気でCr、Pの表面濃縮をはかる役割を果たす。Mgが過度に少なく含まれる時、前述した役割を適切に果たすことができない。Mgを過度に多く含むと、Cr、Pの過度な表面濃縮により内部酸化層が厚く形成されて磁性の劣化を生じる。したがって、前述した範囲でMgの含有量を制御することができる。さらに具体的には、Mgを0.001~0.03重量%含むことができる。本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、下記の式1を満足する。
【0037】
[式1]
-2.5≦[P]/[Cr]-[Mg]×100≦6.5
(式1中、[P]、[Cr]および[Mg]はそれぞれ、P、CrおよびMgの含有量(重量%)を示す。)
[P]/[Cr]-[Mg]×100の値が-2.5未満では内部酸化層の形成がほとんど起こらず、これに対し、6.5を超える時、内部酸化層が過度に形成されて、適切な範囲内で制御される必要がある。さらに具体的には、[P]/[Cr]-[Mg]×100の値は-1.5~1.0になる。
【0038】
Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上
スズ(Sn)は、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して、焼鈍時の表面酸化を抑制し、集合組織を改善する役割を果たす。Snが過度に少なく添加されると、その効果が十分でないことがある。Snが過度に多く添加されると、結晶粒界に偏析して、靭性を低下させて磁性改善対比の生産性が低下するので、好ましくない。さらに具体的には、Snは0.02~0.07重量%含まれる。
アンチモン(Sb)は、鋼板の表面および結晶粒界に偏析して、焼鈍時の表面酸化を抑制し、集合組織を改善する役割を果たす。Sbが過度に少なく添加されると、その効果がなく、0.05%を超えると、結晶粒界に偏析して、材料の靭性を低下させて磁性改善対比の生産性が低下するので、好ましくない。さらに具体的には、Sbは0.01~0.03重量%含まれる。SnおよびSbは、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上が含まれる。つまり、Snが0.01~0.08重量%含まれるか、Sbが0.005~0.05重量%含まれるか、Snが0.01~0.08重量%およびSbが0.005~0.05重量%同時に含まれてもよい。Snが0.01~0.08重量%およびSbが0.005~0.05重量%同時に含まれる方が、磁性の面で最も優れている。SnおよびSbの合計量は0.005~0.1重量%であってもよい。前述した範囲で酸化層の形成および磁性の改善が最も効果的であるからである。SnとSbとの合計量が少なすぎる場合、磁性の改善効果が十分でないことがある。SnとSbとの合計量が多すぎると、酸化層の厚さが薄くなって、絶縁特性が劣化し、微細な介在物が形成されて磁性が劣化する。さらに具体的には、SnおよびSbの合計量は0.015~0.09重量%がよい。
【0039】
その他の不純物
前述した元素以外にも、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)などの不可避に混入される不純物が含まれる。
Nは、Ti、Nb、Vと結合して窒化物を形成し、結晶粒成長性を低下させる役割を果たす。Cは、N、Ti、Nb、Vなどと反応して微細な炭化物を作って結晶粒成長性および磁区移動を妨げる役割を果たす。Sは、硫化物を形成して結晶粒成長性を劣化させる。このように不純物元素をさらに含む場合、C、S、N、Ti、NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.004重量%以下で含むことができる。
【0040】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、内部に内部酸化層を形成して、絶縁特性、加工性および磁性が同時に優れた効果を得ることができる。図1を参照して、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の構造を説明する。図1の無方向性電磁鋼板は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。したがって、無方向性電磁鋼板の構造を多様に変形することができる。
【0041】
図1に示すように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板100は、素地鋼板10の内部に内部酸化層11が形成される。このように内部酸化層11が形成されることによって、絶縁層20を薄く形成しても、適切な絶縁特性を確保することができる。内部酸化層11は、素地鋼板10の内部に形成される。素地鋼板10の外部に形成される絶縁層20とは区分される。具体的には、内部酸化層11は、素地鋼板10の表面から素地鋼板10の内部方向に5μm以下の範囲に形成される。素地鋼板10の内部方向に5μm以下の範囲は図1にgで表示されている。つまり、素地鋼板10の表面から内部酸化層11の最内面までの距離が5μm以下であってもよい。内部酸化層11が過度に素地鋼板10の内側に形成されると、つまり、図1のgが大きすぎると、目的の絶縁特性を得ることができず、むしろ磁性特性が劣化する問題が発生する。図1のgの最小値は内部酸化層11の厚さになり、図1のgが内部酸化層11の厚さd1に等しい場合、内部酸化層11が鋼板の表面に接して形成されることを意味する。
【0042】
内部酸化層11の厚さd1は0.2~5μmであってもよい。内部酸化層11の厚さd1が薄すぎると、目的の絶縁特性を適切に確保できなくなる。内部酸化層11の厚さd1が厚すぎると、鋼板の磁性が劣化する問題が発生する。さらに具体的には、内部酸化層11の厚さは1~3μmであってもよい。
【0043】
内部酸化層11は、素地鋼板10と合金成分が同一であるが、酸素を0.05重量%以上含むという点から、酸素を極微量含む素地鋼板10とは区別される。前述のように、素地鋼板10は、Cr、Mgを含むため、内部酸化層11における酸素およびCr、Mgが反応して、CrまたはMgOのうちの1種以上の酸化物を形成することができる。さらに具体的には、内部酸化層11は、酸素を0.1重量%以上含むことができる。
【0044】
図1では、内部酸化層11と素地鋼板10との界面が平らに表されているが、実質的には、図2のように非常に粗く形成される。これは、製造過程で素地鋼板10の内部に酸素が急激に流入し、基地鉄が酸化しながら生成されるからであり、粗く形成された方が、絶縁において有利である。さらに具体的には、内部酸化層11と素地鋼板10との界面の平均粗さは1~5μmであってもよい。この時、界面は、内部酸化層11の上面および下面をすべて意味する。このように内部酸化層11の表面に粗さが存在しているため、本発明の一実施例において、内部酸化層11の厚さd1は、測定位置によって異なり、内部酸化層11の厚さd1とは、鋼板全体に対する平均厚さを意味するのである。
【0045】
図1に示すように、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板100は、素地鋼板10の表面に接して、素地鋼板10の内部方向に形成された表面酸化層12をさらに含んでもよい。表面酸化層12は、素地鋼板10と合金成分が同一であるが、酸素を0.05重量%以上含むという点から、素地鋼板10と区別される。また、表面酸化層12は、内部酸化層11よりも素地鋼板10の表面側に形成されるという点から、内部酸化層11とも区別される。表面酸化層12は、素地鋼板10の表面に接して非常に薄く形成され、内部酸化層11の厚さd1が表面酸化層12の厚さd2より厚い。内部酸化層11の厚さd1が厚く形成されてこそ、適切な絶縁特性および磁性を確保することができる。さらに具体的には、内部酸化層11が表面酸化層12の厚さd2の2倍以上厚い。
【0046】
図1に示すように、内部酸化層11と表面酸化層12との間に間隙が形成される。さらに具体的には、その間隙g-d1-d2は0.5~3μmであってもよい。内部酸化層11と表面酸化層12との間に適切な間隙が形成されてこそ、絶縁特性および磁性をさらに確保することができる。間隙が形成された場合、図1に示されるように、素地鋼板10、内部酸化層11、素地鋼板10、表面酸化層12の順に層が形成される。このような間隙は、酸化性の高いCr、P、Mgが表面付近の特定部位に濃縮されるために形成される。
【0047】
図1に示すように、素地鋼板10上には絶縁層20がさらに形成される。絶縁層20は、素地鋼板10の表面上、つまり、素地鋼板10の外部に形成されるものであって、前述した内部酸化層11および表面酸化層12とは区別される。本発明の一実施例において、内部酸化層11が適切に形成されたため、絶縁層20の厚さを薄く形成しても十分な絶縁性を確保することができる。絶縁層20の厚さを薄く形成して、占積率が増加し、打抜時に金型の損傷が低減される。具体的には、絶縁層20の厚さは0.7~1.0μmになる。絶縁層20については無方向性電磁鋼板技術分野にて広く知られているので、詳しい説明は省略する。
【0048】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、上述のように、絶縁特性および磁性を同時に確保することができる。絶縁特性は、絶縁層20の厚さ1μmを基準として、5.0Ωcm以上になる。具体的には、6.0Ωcm以上になる。また、5000A/mの磁場で誘導される磁束密度B50は1.64T以上になる。さらに具体的には、磁束密度B50は1.65T以上になる。0.25mmの厚さを基準として、400Hzの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損W10/400は15.0W/kg以下であってもよい。さらに具体的には、鉄損W10/400は14.7W/kg以下であってもよい。
【0049】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.5~6.0%、Al:0.2~3.5%、Mn:0.2~4.5%、Cr:0.01~0.2%、P:0.005~0.08%、Mg:0.0005~0.05%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなり、式1を満足し、Sn:0.01~0.08重量%およびSb:0.005~0.05重量%のうちの1種以上をさらに含むスラブを製造する段階;スラブを加熱する段階;スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階;熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
【0050】
以下、各段階別に具体的に説明する。
まず、スラブを製造する。スラブ内の各組成の添加比率を限定した理由は前述した無方向性電磁鋼板の組成の限定理由と同一であるので、繰り返しの説明を省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍などの製造過程でスラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成とが実質的に同一である。次に、スラブを加熱する。具体的には、スラブを加熱炉に装入して1100~1250℃に加熱する。1250℃を超える温度で加熱する時、析出物が再溶解して、熱間圧延後に微細に析出する。
【0051】
加熱されたスラブは、2~2.3mmに熱間圧延して熱延板に製造される。熱延板を製造する段階で、仕上げ圧延温度は800~1000℃であってもよい。熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含んでもよい。この時、熱延板の焼鈍温度は850~1150℃であってもよい。熱延板の焼鈍温度が850℃未満であれば、組織が成長しなかったり微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なく、焼鈍温度が1150℃を超えると、磁気特性がむしろ低下し、板形状の変形によって圧延作業性が悪くなる。さらに具体的には、温度範囲は950~1125℃であってもよい。さらに具体的には、熱延板の焼鈍温度は900~1100℃である。熱延板焼鈍は、必要に応じて磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略も可能である。
【0052】
次に、熱延板を酸洗し、所定の板厚さとなるように冷間圧延する。熱延板の厚さに応じて異なって適用可能であるが、70~95%の圧下率を適用して、最終厚さが0.2~0.65mmとなるように冷間圧延することができる。最終冷間圧延された冷延板は、最終焼鈍を実施する。この時、適切な内部酸化層形成のために、最終焼鈍する段階は、急速昇温段階、一般昇温段階および均熱段階を含む。急速昇温段階は、冷延板を15℃/秒以上の高い加熱速度で昇温する段階である。昇温速度が十分でなければ、内部酸化層が適切に形成できない。さらに具体的には、急速昇温段階は、冷延板を15℃/秒~30℃/秒の速度で昇温することができる。
【0053】
急速昇温段階は、露点温度-10~60℃で行われる。このような酸化性雰囲気により内部酸化層が適切に形成できる。露点温度が低すぎると、内部酸化層が形成されにくい。逆に、露点温度が高すぎると、内部酸化層が過度に厚く形成されて、磁性に劣り、打抜時に粉塵などが発生して、生産性に劣る。急速昇温段階は、冷延板を450~600℃まで昇温する段階を意味する。
【0054】
次に、一般昇温段階は、急速昇温した冷延板を均熱温度まで昇温させる段階である。具体的には、一般昇温段階の開始温度は450~600℃であり、終了温度は850~1050℃である。前述した急速昇温段階で内部酸化層が適切に形成されたため、一般昇温段階では、昇温速度を高めたり、雰囲気を酸化性雰囲気に制御する必要がない。具体的には、一般昇温段階は、昇温速度が1~15℃/秒であり、露点温度-50~-20℃で行われる。
【0055】
次に、均熱段階は、850~1050℃の均熱温度で30秒~3分間焼鈍することができる。均熱温度が高すぎると、結晶粒の急激な成長が発生して磁束密度と高周波鉄損が低下する。さらに具体的には、900~1000℃の均熱温度で最終焼鈍することができる。最終焼鈍過程で、前の段階の冷間圧延段階で形成された加工組織がすべて(つまり、99%以上)再結晶される。
【0056】
以後、絶縁層を形成する段階をさらに含んでもよい。厚さを薄く形成することを除けば、一般的な方法を用いて絶縁層を形成することができる。絶縁層の形成方法については無方向性電磁鋼板技術分野にて広く知られているので、詳しい説明は省略する。
【0057】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1
表1のように組成されるスラブを製造した。表1に記載の成分以外の、C、S、N、Tiなどはすべて0.003重量%に制御した。スラブを1150℃に加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚さ2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延された熱延板は1100℃で4分間焼鈍した後、酸洗した。その後、冷間圧延して板厚さを0.25mmにした後、最終焼鈍を実施した。500℃までの急速昇温段階の昇温速度および露点条件を表2にまとめた。以後、1000℃まで昇温し、1000℃で45秒間維持した。以後、1μmの厚さの絶縁層を形成した。
【0059】
絶縁特性はフランクリンテスターで測定し、磁性はSingle Sheet testerを用いて圧延方向および垂直方向の平均値で決定し、表2にまとめた。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1および表2に示すように、実施例の鋼種および急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足する実施例は、適切な内部酸化層が形成され、絶縁抵抗特性および磁性がすべて優れていることを確認することができる。
これに対し、P、Cr、Mgを適正量含まない鋼種2、7、11、12、13は、磁性特性に劣ることを確認することができる。特に、鋼種11、13は、急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足しても、内部酸化層が適切に形成されておらず、絶縁抵抗特性にも劣ることを確認することができた。特に、鋼種13は、P、Mgを含まないことから、Crが少なく含まれているにもかかわらず、内部酸化層が適切に形成されないことを確認することができる。
【0063】
一方、鋼種4、6、9は、P、Cr、Mgを適正量含んでいるものの、急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足しておらず、適切な内部酸化層が形成されなかった。内部酸化層が過度に薄く形成された鋼種4、6は、絶縁抵抗特性が特に劣り、内部酸化層が過度に厚く形成された鋼種9は、磁性特性が非常に劣っていた。
図2には、鋼種3で製造した無方向性電磁鋼板の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を示した。図2に示されるように、内部酸化層が適切に形成されることを確認することができる。
【0064】
実施例2
表3のように組成されるスラブを製造した。表3に記載の成分以外の、C、S、N、Tiなどはすべて0.003重量%に制御した。スラブを1150℃に加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚さ2.0mmの熱延板を製作した。熱間圧延された熱延板は1100℃で4分間焼鈍した後、酸洗した。その後、冷間圧延して板厚さを0.25mmにした後、最終焼鈍を実施した。500℃までの急速昇温段階の昇温速度および露点条件を表2にまとめた。以後、1000℃まで昇温し、1000℃で45秒間維持した。以後、1μmの厚さの絶縁層を形成した。絶縁特性はフランクリンテスターで測定し、磁性はSingle Sheet testerを用いて圧延方向および垂直方向の平均値で決定し、表4にまとめた。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
表3および表4に示すように、実施例の鋼種および急速昇温時の昇温速度および露点条件を満足する実施例は、適切な内部酸化層が形成され、絶縁抵抗特性および磁性がすべて優れていることを確認することができる。
SnおよびSbのうちの1種を過剰含む鋼種15、18、22は、内部酸化層が適切に形成されておらず、絶縁抵抗特性に劣ることを確認することができる。同時に、磁性に劣っているが、これは、Sn、Sbの過剰添加によって微細介在物が形成され、これによって磁性が劣化したと分析される。
SnおよびSbとも極少量含む鋼種23は、磁性に劣ることを確認することができる。
【0068】
本発明は、この実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造できる。
【符号の説明】
【0069】
100 無方向性電磁鋼板
10 素地鋼板
11 内部酸化層
12 表面酸化層
20 絶縁層
図1
図2