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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】燃料電池装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0612 20160101AFI20230508BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20230508BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20230508BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230508BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20230508BHJP
【FI】
H01M8/0612
H01M8/04537
H01M8/0438
H01M8/04746
H01M8/12 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021524862
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021806
(87)【国際公開番号】W WO2020246475
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019104376
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000109026
【氏名又は名称】ダイニチ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】横尾 直樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 英隆
(72)【発明者】
【氏名】坂田 佑太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩之
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-238105(JP,A)
【文献】特開2010-212141(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0612
H01M 8/04537
H01M 8/0438
H01M 8/04746
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸素含有ガスとを用いて発電を行なう燃料電池と、
改質水を水蒸気に気化させる気化部と、水蒸気と原燃料を反応させて水蒸気改質反応により燃料ガスを生成する改質部と、を含む改質器と、
前記改質部に原燃料を供給する原燃料供給部と、
前記気化部に改質水を供給する改質水供給部と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、外部からの要求電力に対応して、前記改質部で必要とされる改質水の量を算出する必要改質水量算出式を複数有しているとともに、
前記外部からの要求電流の増加時に選択される前記必要改質水量算出式と、前記外部からの要求電流の減少時に選択される前記必要改質水量算出式とが、異なり、
改質部に供給される原燃料の流量を測定する原燃料流量測定部を備え、
前記制御装置は、
前記外部からの要求電力の減少時に、前記必要改質水量算出式として、前記原燃料流量測定部により測定された原燃料流量に基づいて、前記改質部で必要とされる改質水の時間あたり所要量を算出する、第1改質水流量算出式を選択し、
前記外部からの要求電力の増加時に、前記必要改質水量算出式として、発電量に応じて予め定められた原燃料流量に基づいて、前記改質部で必要とされる改質水の時間あたり所要量を決定する、第2改質水流量算出式を選択する、燃料電池装置。
【請求項2】
燃料ガスと酸素含有ガスとを用いて発電を行なう燃料電池と、
改質水を水蒸気に気化させる気化部と、水蒸気と原燃料を反応させて水蒸気改質反応により燃料ガスを生成する改質部と、を含む改質器と、
前記改質部に原燃料を供給する原燃料供給部と、
前記気化部に改質水を供給する改質水供給部と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、外部からの要求電力に対応して、前記改質部で必要とされる改質水の量を算出する必要改質水量算出式を有しており、
前記制御装置は、前記必要改質水量算出式の算出要素として、
前記要求電力の増加時には、前記要求電力の値に応じて予め定められた原燃料流量を選択し、
前記要求電力の減少時には、前記改質部に供給される原燃料の流量を測定した測定流量を選択する、燃料電池装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の一例は、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-170900号公報
【文献】特開2012-218947号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の燃料電池装置は、燃料ガスと酸素含有ガスとを用いて発電を行なう燃料電池と、改質水を水蒸気に気化させる気化部と、水蒸気と原燃料を反応させて水蒸気改質反応により燃料ガスを生成する改質部と、を含む改質器と、前記改質部に原燃料を供給する原燃料供給部と、前記気化部に改質水を供給する改質水供給部と、制御装置と、を備える。
前記制御装置は、外部からの要求電力に対応して、前記改質部で必要とされる改質水の量を算出する必要改質水量算出式を複数有しているとともに、前記外部からの要求電流の増加時に選択される前記必要改質水量算出式と、前記外部からの要求電流の減少時に選択される前記必要改質水量算出式とが、異なる構成である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本開示の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とからより明確になるであろう。
【0006】
図1】本開示の一実施形態の燃料電池装置の概略構成図である。
図2】外装ケース内の燃料電池装置の構成を示す斜視図である。
図3】改質水流量を算出する第1実施形態のフローチャートである。
図4A】一実施形態の燃料電池装置における指示信号のタイミングチャートであり、要求電力の増減を示すグラフである。
図4B】指示信号のタイミングチャートであり、燃料ポンプに対する流量増減の指示信号を示すグラフである。
図4C】測定値のタイミングチャートであり、改質器に導入される原燃料の流量変化を示すグラフである。
図4D】指示信号のタイミングチャートであり、改質水ポンプに対する流量増減の指示信号を示すグラフである。
図4E】測定値のタイミングチャートであり、改質器に導入される改質水の流量変化を示すグラフである。
図4F】測定値のタイミングチャートであり、原燃料の流量変化と改質水の流量変化とを比較するグラフである。
図5A】本開示の燃料電池装置が基礎とする構成の燃料電池装置における指示信号のタイミングチャートであり、要求電力の増減を示すグラフである。
図5B】指示信号のタイミングチャートであり、燃料ポンプに対する流量増減の指示信号を示すグラフである。
図5C】測定値のタイミングチャートであり、改質器に導入される原燃料の流量変化を示すグラフである。
図5D】指示信号のタイミングチャートであり、改質水ポンプに対する流量増減の指示信号を示すグラフである。
図5E】測定値のタイミングチャートであり、改質器に導入される改質水の流量変化を示すグラフである。
図5F】測定値のタイミングチャートであり、原燃料の流量変化と改質水の流量変化とを比較するグラフである。
図6】改質水流量を算出する第2実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一実施形態の燃料電池装置について説明する。
【0008】
まず、本開示の燃料電池装置が基礎とする構成の燃料電池装置について説明する。
【0009】
固体酸化物形の燃料電池装置(SOFC)において、制御装置は、原燃料供給部および酸素含有ガス供給部の動作を制御して、発電に必要な量の燃料ガス(水素含有ガス)および空気(酸素含有ガス)を、燃料電池セルに供給する。発電により生じた直流電流は、パワーコンディショナ等の発電量調整装置で交流電力に変換された後、発電量調整装置に接続された外部機器(外部負荷)の要求に応じて、外部負荷に供給される。
【0010】
燃料電池装置に供給される都市ガス、LPガス等の原燃料は、改質器内で水蒸気改質されて「改質ガス」(富水素ガス)とされ、この改質ガスが、燃料ガスとしてセルスタックに供給される。
【0011】
すなわち、発電電力(発電電流)を一定に維持する、定常状態もしくは通常運転状態の燃料電池装置においては、改質器に、原燃料と改質水とが、予め定められた時間あたり量(流量)で同時に供給され、改質器の気化部内では、改質水供給部から供給された改質水が蒸発して水蒸気が発生し、改質部に送られて、改質部内で、原燃料供給部から供給された原燃料が水蒸気改質されて、燃料ガス(改質ガス)が生成する。
【0012】
改質器内で混合される、原燃料(ガス)と改質水(液体)との比率(流量比)は、〔改質器に供給される原燃料中の炭素(C)に対する水蒸気(HOまたはSteam)中の水のモルmol比〕(以下、〔S/C比〕と略称する)として、演算により、予め変動範囲が定められている。たとえば、発電電流を一定に維持する定常状態であれば、〔S/C比〕は、通常1.5~3.5の範囲内の所定値(設定値)または目標値に維持される。
【0013】
なお、前述の〔S/C比〕は、燃料電池装置の発電力を変化させる場合、セルスタックの発電量(発電電流量)の目安または目標として用いられる場合もある。
【0014】
ところで、固体酸化物形の燃料電池装置(SOFC)は、外部負荷の要求電力に応じて目標発電量(電流量)を変動させる、「負荷追従運転」または「部分負荷運転」と呼ばれる仕様(モード)を備えている。しかし、負荷追従運転において、外部負荷の要求電力の変化に対する、原燃料および改質水の流量変化の追従性が異なるため、一時的に〔S/C比〕が低下する場合があった。このような〔S/C比〕の低下は、セルスタックの劣化を引き起こすおそれがある。
【0015】
図1に示す一実施形態の燃料電池装置100は、燃料ガスと酸素含有ガスとを用いて発電を行なう燃料電池モジュール1と、燃料ポンプB1および原燃料流路Fを有する原燃料供給部13、空気ブロアB2および空気流路Gを有する酸素含有ガス供給部14、改質水タンク6と改質水ポンプP1および改質水を改質水タンク6から改質器12に供給するための改質水流路Rを含む改質水供給部15等、燃料電池の自立した発電運転を補助するための補機類を備える。
【0016】
また、燃料電池装置100は、外部への電力供給と系統電源への連係を担う補機として、パワーコンディショナ等の発電量調整装置(図示省略)を備え、この発電量調整装置と連係して、前述の燃料電池の発電運転を補助する各補機の動作を制御する制御装置20を備える。なお、発電量調整装置は、発電した電力を測定するための電流計(Aアンペア)、電圧計(Vボルト)等を有している。
【0017】
さらに、一実施形態の燃料電池装置100は、熱交換器2、蓄熱タンク3(貯湯タンクともいう)、放熱器(ラジエータ4)およびこれらを繋ぐ流路配管、熱媒ポンプP2等を含む、排熱回収システム(ヒートサイクルHC1)を備える。
【0018】
図1に記載の燃料電池装置100は、さらに、外部に供給するための水道水(上水)を加温するための第2熱交換器5(上水熱交換器ともいう)と、前述の蓄熱タンク3から高温の熱媒を取り出して循環させるための与熱ポンプP3および循環配管等を含む、温水供給システム(ヒートサイクルHC2)を備えている。なお、燃料電池装置は、外部への温水供給を行わない、いわゆるモノジェネレーションシステムとしてもよい。
【0019】
そして、燃料電池装置100は、図2に示すような、各フレーム31と各外装パネル32とからなるケース30の中に配設されている。このケース30の中の、燃料電池モジュール1および各補機の周りや流路、配管等には、以下のような複数の計測機器やセンサ等が設けられている。
【0020】
たとえば、燃料電池モジュール1内の改質器12に原燃料(ガス)を供給する原燃料供給部13の原燃料流路Fには、フローメータ等の原燃料流量計FM1が配設される。原燃料流量計FM1は、セルスタック11に供給する、都市ガス等の原燃料(改質前の燃料ガス)の時間あたり流量を計測する。
【0021】
なお、改質器12における原燃料および改質水供給側(図示左側)は、供給された改質水を蒸発・気化させるための気化部であり、反対の図示右側は、原燃料を水蒸気改質する改質触媒等が充填れた改質部である。原燃料は、改質部で水蒸気改質され、生じた燃料ガス(富水素ガス)が、セルスタック11に供給される。
【0022】
また、図示はしていないが、燃料電池モジュール1内のセルスタック11に空気を供給する酸素含有ガス供給部14の空気流路Gにも、同様の空気流量計等が配設されている。
【0023】
さらに、燃料電池装置100は、燃料電池各部の温度を計測する温度センサ、サーミスタ等の温度計測器または温度計(図示省略)等を複数備えることもできる。
【0024】
そして、燃料電池装置100全体を統括して、その運転を制御する制御装置20は、記憶装置および表示装置(ともに図示省略)と、燃料電池装置100を構成する各種構成部品および各種センサと接続され、これらの各機能部をはじめとして、燃料電池装置100の全体を制御および管理する。また、制御装置20は、それに付属する記憶装置に記憶されているプログラムを取得して、このプログラムを実行することにより、燃料電池装置100の各部にかかる、種々の機能を実現する。
【0025】
制御装置20から、他の機能部または装置に制御信号または各種の情報などを送信する場合、制御装置20と他の機能部とは、有線または無線により接続されていればよい。制御装置20が行なう本実施形態に特徴的な制御については、後記で説明する。
【0026】
なお、本実施形態において、制御装置20は特に、外部負荷から要求される電力の大小、燃料電池装置に繋がる給湯器等の外部装置の指示、指令や、外部への電力供給量を表す電流計、電圧計等の計測値(VA皮相電力等)、あるいは先に述べた各種センサの指示や計測値にもとづいて、改質器12に原燃料ガスを供給する原燃料供給部13の燃料ポンプB1の動作と、酸素含有ガス供給部14の空気ブロアB2等の動作を制御する。
【0027】
具体的には、前述したような構成の燃料電池装置100では、制御装置20は、原燃料供給部13および酸素含有ガス供給部14の動作を制御して、運転に必要な量の燃料ガスと酸素含有ガスとを、燃料電池セルに供給している。それにより、燃料電池セルにおいて電力を発生させ、この時、燃料電池セルに直流電流が流れる。また、燃料電池セルの発電により生じた電力は、発電量調整装置で交流電力に変換された後、外部負荷に供給される。
【0028】
本実施形態の燃料電池装置100の制御装置20は、負荷追従運転または部分負荷運転を行なう際、最初に発電量調整装置(パワーコンディショナ、図示省略)により設定される燃料電池の目標発電電流量の増減指示に基づいて、別途定める所定の演算により、目標発電量に見合う、セルスタック11に供給する燃料ガス(改質ガス)の「時間あたり量」(以下、流量)と、その流量の改質ガスの生成に必要な原燃料ガスの流量を決定する。
【0029】
なお、前述の、改質ガスの生成に必要な原燃料ガスの流量は、燃料電池およびセルスタックの規模(個数)、仕様、性能等を考慮して、目標発電電流量から一義的に定められるものであり、目標発電電流量に一対一で対応する固定値である。
【0030】
前述の原燃料ガスと同時に改質器12に導入され、原燃料と混合される改質水流量は、改質水流量算出式の演算により得られる。改質水量算出式は、〔S/C比〕と原燃料ガスの流量を算出に用いられる要素または項目として含む算出式である。制御装置20は、この改質水量算出式を複数有しており、外部からの要求電流の増加時と減少時とで、異なる改質水量算出式を選択する算出式選択制御を実行する。
【0031】
このように、要求電流の増加時と減少時とで、異なる改質水量算出式に基づいて改質水量を算出することで、要求電力の変化変動による一時的な〔S/C比〕の低下が抑制され、セルスタックの劣化を抑制することができる。
【0032】
また、改質水量算出式として、第1改質水流量算出式と、第2改質水流量算出式を備えていてもよい。第1改質水流量算出式は、原燃料流量計FM1により測定される、原燃料ガスの〔実測流量値〕を演算に使用する。第2改質水流量算出式は、制御装置20により要求電力に応じて算出される、原燃料ガスの〔目標流量値〕(指示流量、または設定流量ともいう)を演算に使用する。
【0033】
制御装置20は、算出式選択制御において、外部からの要求電流が減少した場合、第1改質水流量算出式を選択し、外部からの要求電流が増加した場合、第2改質水流量算出式を選択する。さらに、選択された改質水流量算出式に対応する原燃料ガスの流量と、燃料電池装置の運転状態に応じて設定されている〔S/C比〕等に基づいて改質水流量を算出する。
【0034】
以下、外部負荷の要求電力の増加または減少に対応して、燃料電池の発電電力(発電電流)を増減させる際の、改質器12に投入する原燃料ガスの流量制御および改質水の流量制御について、図を用いて説明する。
【0035】
(第1実施形態)
図3は、制御装置20が外部からの要求電力に対応して、改質水流量を算出する第1実施形態のフローチャートである。なお、本フローチャートにおけるスタートとは、燃料電池装置が発電運転を開始したことを意味する。また、発電運転中は本フローチャートが継続(ループ)して実行されるように制御されている。
【0036】
フローチャートでは、「ステップ」を「S」と略称するとともに、チャート内においては、判断制御における「肯定」(コンピュータフラグ=1)を[YES]で、「否定」(コンピュータフラグ=0ゼロ)を[NO]で表している。また、図3のフローチャートでは〔S4〕,〔S5〕,〔S6〕が算出式選択制御に対応する。
【0037】
〔S1〕において、燃料電池装置100は発電を開始すると、外部からの要求電力(電流)情報を取得する。〔S2〕において、所定の演算により、要求電力に見合う、セルスタック11に供給する燃料ガス(改質ガス)を生成するために必要な原燃料ガスの目標流量を決定する。続いて、〔S3〕において、原燃料流量計FM1により測定される、原燃料ガスの実測流量を測定する。
【0038】
〔S4〕において、原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分を算出する。ここで、要求電力が減少した場合、セルスタック11が発電のために消費する改質ガスが減少するため、要求電力減少に伴って原燃料ガスの目標流量も減少し、原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分は0未満の[YES]となる。その場合、〔S5〕において、第1改質水流量算出式を選択する。
【0039】
また、要求電力が増加した場合、セルスタック11が発電のために消費する改質ガスが増加するため、要求電力増加に伴って原燃料ガスの目標流量も増加し、原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分は0以上の[NO]となる。その場合、〔S6〕において、第2改質水流量算出式を選択する。
【0040】
本実施形態では、〔S4〕において、原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分が0(ゼロ)の場合は、第2改質水流量算出式を選択しているが、1つ前のループ〔(n)回目のループに対する(n-1)回目のループ〕(nは2以上の整数)で選択した改質水流量算出式を継続して選択してもよい。
【0041】
最後に、〔S7〕において、選択した改質水流量算出式に基づいて、改質水流量を算出する。改質水流量の算出は発電運転中に継続して実行されるため、再度〔S1〕からループを開始してもよい。
【0042】
図4A図4Fは、第1実施形態の燃料電池装置における要求電力の変化に伴う原燃料ガス流量、改質水流量の変化を示したタイミングチャートであり、図5は本開示の燃料電池装置が基礎とする構成の燃料電池装置における要求電力の変化に伴う原燃料ガス流量、改質水流量の変化を示したタイミングチャートである。
【0043】
第1実施形態の燃料電池装置に関する図4A図4Fのタイミングチャートにおいて、図4Aは要求電力の増減指示信号〔設定値:実線〕の変化を、図4Bは燃料ポンプに対する流量増減の指示信号〔指示値:点線〕の変化を、図4Cは改質器に導入される原燃料の流量変化〔理論値または実測値:一点鎖線〕を、図4Dは改質水ポンプに対する流量増減の指示信号〔指示値:点線〕を、図4Eは改質器に導入される改質水の流量変化〔理論値または実測値:太線〕を、図4Fは、前述の図4C図4Eを重ね合わせたもの、すなわち、気化部の入り口における、導入原燃料の流入量変化(一点鎖線)と導入改質水の流入量変化(太線)とを比較するグラフである。
【0044】
また、本開示の燃料電池装置が基礎とする構成の燃料電池装置に関する図5A図5Fのタイミングチャートにおいて、図5Dは改質水ポンプに対する流量増減の指示信号〔指示値:点線〕を、図5Eは改質器に導入される改質水の流量変化〔理論値または実測値:太線〕を、図5Fは、前述の図5C図5Eを重ね合わせたもの、すなわち、気化部の入り口における、導入原燃料の流入量変化(一点鎖線)と導入改質水の流入量変化(太線)とを比較するグラフである。図5A図5Cは、図4A図4Cのタイミングチャートの該当図と同じである。
【0045】
なお、図中のt1で表示する区間は、要求電力が増加した場合の原燃料ガス流量、改質水流量の変化を示した領域(以下「増加区間」)であり、t2で表示する区間は、要求電力が減少した場合の原燃料ガス流量、改質水流量の変化を示した領域(以下「減少区間」)である。
【0046】
また、図中の斜線ハッチング領域は、改質器中において、原燃料の流入量に対応する適正改質水量に比して改質水の量が多い(〔S/C比〕が高い)部分を示し、図中の散点ハッチング領域は、原燃料の流入量に対応する適正改質水量に比して改質水の量が少ない(〔S/C比〕が低い)部分を示す。
【0047】
本実施形態の燃料電池装置100の制御装置20は、パワーコンディショナにより、設定される燃料電池の目標発電電流量の増減指示〔図4A参照〕に基づいて、原燃料ガスの流量が決定される。
【0048】
そして、原燃料流量の〔目標流量値〕が決まると、制御装置20は、図4Bに示すように、目標発電電流量の増減指示である図4Aの増減タイミングに遅滞なく、指示値である〔目標流量値〕を、原燃料ガスを送出する燃料ポンプB1に対して指示・送信する。
【0049】
t1区間において、〔目標流量値〕の増加に伴うポンプ送出量の増量指示と、改質器12に導入される原燃料の流量が目標流量に達するまでには、タイムラグが生じるため、図4Cに示すような遅延が発生する。
【0050】
具体的には、原燃料流量の増加区間であるt1区間において、原燃料の実流量は、前述のポンプ送出量の増量指示に遅れて上昇を始め、図4Cに示すようなカーブを描いて、目標である指示流量(設定流量)に到達する。これは、原燃料ガスの圧送ポンプが、送給圧上昇または下降の指示に対して応答に時間がかかるためである。
【0051】
また、t2区間においても同様に、原燃料の実流量はポンプ送出量の減量指示に遅れて低下する。具体的には、図4Cのt2区間に示すように、t1区間と同様のカーブを描いて、目標である指示流量(設定流量)まで低下する。
【0052】
このように、改質器12に導入される原燃料ガスの量およびその流量は、増量区間であるt1区間および減量区間であるt2区間とも、同じ、要求電力に対応する要求発電量(基準値)を用いて算出された「流量」に基づいて、指示および制御がなされる。
【0053】
これに対して、前述の原燃料ガスと同時に改質器12に導入され、原燃料と混合される改質水の流量は、前述の原燃料ガスとは異なり、増量区間であるt1区間と減量区間であるt2区間とで、「異なる基準」を基に算出された「流量」に基づいて、指示および制御がなされる。
【0054】
すなわち、増量区間であるt1区間における、改質水ポンプP1への指示は、算出式選択制御より、原燃料流量の目標値(指示値)に基づいて演算を実行する第2改質水流量算出式が選択される〔図4Dのt1区間参照〕。
【0055】
これに対して、減量区間であるt2区間にける、改質水ポンプP1への指示は、算出式選択制御より、原燃料流量測定部である原燃料流量計FM1が測定した原燃料流量(実測値)に基づいて演算を実行する第1改質水流量算出式が選択される〔図4Dのt2区間参照〕。
【0056】
具体的に説明すると、制御装置20は、図4Dの増加区間であるt1区間において、第2改質水流量算出式により選択された原燃料ガスの指示流量(設定流量)と、燃料電池装置の運転状態に応じて設定されている〔S/C比〕等に基づいて算出される改質水流量を、図4Aに示す目標発電電流量の増減タイミングに遅滞なく、改質水を送出する改質水ポンプP1に対して指示・送信する。
【0057】
この〔必要改質水流量値〕の指示とそれに伴うポンプ送出量の増量に対して、改質器12に導入される改質水の実流量は、図4Eのt1区間に示すように、前述のポンプ送出量の増量指示にほとんど遅れることなく、直線的に上昇して、目標である指示流量(設定流量)に到達する。これは、改質水は、圧力伝搬が早いため、圧送ポンプに送給圧の上昇または下降を指示してから、実際に吐出口から吐出する水の量(流量)が増大または減少するまでの時間が短く、応答(レスポンス)が速いためである。
【0058】
ここで、要求電力の増加時であるt1区間においては、前述のように、改質水の変化(上昇)速度〔図4E参照〕の方が、原燃料の変化(上昇)速度〔図4C参照〕よりも速いため、これらの図を重ね合わせた図4Fにおいて、t1区間は、原燃料の流入量に対応する適正改質水量(設定〔S/C比〕)に比して改質水の量が多い、斜線ハッチング領域になっていることが分かる。
【0059】
したがって、外部からの要求電力の増加に対応して、発電量および原燃料ガスの供給量を増大させる場合、前述のような制御を行なえば、このように発電電流を増加させる場合でも、その増加中に、改質水の流量が、演算による〔S/C比〕から算出された〔必要改質水流量値〕を下回ることなく、改質器の気化部における、原燃料の改質に必要な改質水量の不足の発生が回避されている。これにより、セルスタックの劣化を抑制することができる。
【0060】
つぎに、要求電力の減少時である、図4Dの減少区間t2区間において、制御装置20は、第1改質水流量算出式により選択された原燃料ガスの実測流量と、燃料電池装置の運転状態に応じて設定されている〔S/C比〕等に基づいて算出される改質水流量を、改質水を送出する改質水ポンプP1に対して指示・送信する。
【0061】
なお、改質水ポンプP1に対する指示は、燃料ポンプの送給圧下降に追随して実行されるため、改質器12に導入される改質水の実流量は、図4Eのt2区間に示すように、前述のポンプ送出量の減量指示および原燃料の減量に遅れて、目標である指示流量(設定流量)に到達する。したがって、図4Aに示す目標発電電流量の減少タイミングに対して、若干遅れたタイミングになる。
【0062】
結果、要求電力の減少時であるt2区間において、改質水の変化(低下)速度〔図4E参照〕は、原燃料の変化(測定値)を参照しつつ、これに追随して値をフィードバックするため、原燃料の変化速度〔図4C参照〕よりも遅くなっている。したがって、これらの図を重ね合わせた図4Fにおいて、t2区間も、原燃料の流入量に対応する適正改質水量(設定〔S/C比〕)に比して改質水の量が多い、斜線ハッチング領域になっていることが分かる。
【0063】
ここで、本開示の燃料電池装置が基礎とする構成の燃料電池装置における、改質水の流量の制御(指示値)は、図5Eに示すように、要求電力の減少時であるt2区間においても、要求電力の増加時であるt1区間と同様、原燃料ガスの指示流量(設定流量)に基づいて算出されるため、図5Aに示す目標発電電流量の減少と同じタイミングで、改質水ポンプP1に対して指示していた。
【0064】
そのため、本開示の燃料電池装置が基礎とする構成の燃料電池装置においては、図5Fに示すように、要求電力の減少時であるt2区間において、遅延して低下する原燃料流量に対して、改質水の流量が先んじて低下するため、一時的に、改質器内で、供給される改質水の量が、目標〔S/C比〕として定められた流量を下回る「改質水量(流量)の不足」〔図5Fの散点ハッチング領域〕が発生する場合があった。
【0065】
これに対して、本実施形態の燃料電池装置100は、要求電力の減少時であるt2区間における〔必要改質水流量値〕の算出を、要求電力の増加時とは異なる、原燃料ガスの実測流量に基づいて実行するため、このt2区間において、改質水の流量が〔必要改質水流量値〕を下回ることが抑制されている。これにより、セルスタックの劣化を抑制することができる。
【0066】
なお、本実施形態においては、図4Dに示すように、「原燃料流量の測定値」として、流量計FM1が逐次測定する測定値の低下形状に沿った、指数関数的に低下する測定値を用いたが、原燃料流量の測定は、この様式に限られるものではない。たとえば、要求電力の減少開始直後から、断続的または間欠的に、原燃料流量の測定を行なうようにしてもよい。
【0067】
このように断続的または間欠的に、原燃料流量の測定を行う場合も、改質水の流量が、〔必要改質水流量値〕を下回ることがない。したがって、図5Fの例と同様、改質器の気化部における、原燃料の改質に必要な改質水量の不足の発生を回避することができる。
【0068】
(第2実施形態)
第2実施形態では、制御装置20が外部からの要求電力に対応して、改質水流量を算出するための別の方法について説明する。
【0069】
第2実施形態は、改質水量算出式において、増加時と減少時とで異なる点が、その算出に用いられる要素または項目の差である場合に、前述のように算出式選択制御において異なる「式」を選択する代わりに、複数種の要素または複数種の項目のなかから、増加時と減少時とで、異なる要素または項目を前述の必要改質水量算出式に代入することにより、それぞれ、適切な結果を得る、異なる「式」を選択したものと見なすものである。
【0070】
第2実施形態では、改質水量算出式において、要求電力の増加時と減少時とで異なる要素として原燃料ガスの流量を含む。なお、異なる要素は原燃料ガスの流量を含む複数種の要素でもよい。
【0071】
図6を用いて第2実施形態の説明を行う。なお、第2実施形態の説明は第1実施形態(図3)と異なる点を主な説明対象とし、特に説明しない点については、第1実施形態と同じである。また、本フローチャートでは〔S14〕,〔S15〕,〔S16〕が算出式選択制御または算出要素選択制御に相当する。
【0072】
図6のフローチャートの〔S11〕において、燃料電池装置100は発電を開始すると、外部からの要求電力(電流)情報を取得する。また、〔S12〕において、所定の演算により、要求電力に見合う、セルスタック11に供給する燃料ガス(改質ガス)を生成するために必要な原燃料ガスの目標流量を決定する。続いて、〔S13〕において、原燃料流量計FM1により測定される、原燃料ガスの実測流量を測定する。
【0073】
そして、〔S14〕において、原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分を算出する。原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分が0未満の[YES]の場合は、〔S15〕において、算出式の要素である原燃料ガスの流量に、〔原燃料ガスの実測流量〕を代入する。
【0074】
また、原燃料ガスの目標流量と実測流量の差分が0以上の[NO]の場合は、〔S16〕において、算出式の要素である原燃料ガスの流量に、〔原燃料ガスの目標流量〕である設定値を代入する。
【0075】
最後に、〔S17〕において、代入した原燃料ガスの流量に基づいて改質水流量を算出する。よって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様、改質器の気化部における、原燃料の改質に必要な改質水量の不足の発生を回避することができるため、セルスタックの劣化を抑制することができる。
【0076】
なお、第1実施形態のフロー(図3)と同様、〔S17〕の実行完了後、制御を終了せず、再度〔S11〕に戻るループを構成してもよい。
【0077】
本開示は次の実施の形態が可能である。
【0078】
本開示の燃料電池装置は、燃料ガスと酸素含有ガスとを用いて発電を行なう燃料電池と、改質水を水蒸気に気化させる気化部と、水蒸気と原燃料を反応させて水蒸気改質反応により燃料ガスを生成する改質部と、を含む改質器と、前記改質部に原燃料を供給する原燃料供給部と、前記気化部に改質水を供給する改質水供給部と、制御装置と、を備える。
前記制御装置は、外部からの要求電力に対応して、前記改質部で必要とされる改質水の量を算出する必要改質水量算出式を複数有しているとともに、前記外部からの要求電流の増加時に選択される前記必要改質水量算出式と、前記外部からの要求電流の減少時に選択される前記必要改質水量算出式とが、異なる構成である。
【0079】
本開示の燃料電池装置は、要求電力の変化による〔S/C比〕の低下が抑制され、セルスタックの劣化を抑制することができる。
【0080】
本開示は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本開示の範囲は特許請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は全て本開示の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0081】
1 燃料電池モジュール
11 セルスタック
12 改質器
13 原燃料供給部
15 改質水供給部
20 制御装置
100 燃料電池装置
F 原燃料流路
B1 燃料ポンプ
FM1 流量計
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6