(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-02
(45)【発行日】2023-05-15
(54)【発明の名称】感光性ガラス組成物とその利用
(51)【国際特許分類】
G03F 7/027 20060101AFI20230508BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20230508BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
G03F7/027 502
G03F7/004 501
H05K1/03 610B
H05K1/03 610S
(21)【出願番号】P 2022060788
(22)【出願日】2022-03-31
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐合 佑一朗
(72)【発明者】
【氏名】長江 省吾
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛広
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-117614(JP,A)
【文献】特開2010-018478(JP,A)
【文献】特開2005-249998(JP,A)
【文献】特開2004-264655(JP,A)
【文献】特開2003-315996(JP,A)
【文献】特開2006-251117(JP,A)
【文献】特開2007-199231(JP,A)
【文献】特開2005-141059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/027
G03F 7/004
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定幅の溝部を有するガラス層と、該ガラス層の溝部に配置される導電層と、
を備える電子部品において、前記ガラス層の作製に用いられる感光性ガラス組成物であって、
少なくともガラス粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、有機系分散媒と、
を含み、
前記光硬化性樹脂は、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを含んでおり、
前記5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと前記2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとの質量比(A:B)が、90:10~12.5:87.5である、感光性ガラス組成物。
【請求項2】
前記5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと前記2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとの質量比(A:B)が、82.5:17.5~25:75である、請求項1に記載の感光性ガラス組成物。
【請求項3】
前記光硬化性樹脂は、2官能以下の(メタ)アクリレートをさらに含む、請求項1または2に記載の感光性ガラス組成物。
【請求項4】
前記ガラス粉末は、B
2O
3とSiO
2とを主成分とするB
2O
3-SiO
2系ガラスを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の感光性ガラス組成物。
【請求項5】
前記B
2O
3-SiO
2系ガラスは、該ガラスの全体を100質量%としたときに、酸化物換算の質量比で、前記B
2O
3を5質量%以上20質量%以下含有し、前記SiO
2を20質量%以上70質量%以下含有する、請求項4に記載の感光性ガラス組成物。
【請求項6】
前記感光性ガラス組成物の全体を100質量%としたときに、前記ガラス粉末の割合が45質量%以上60質量%以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の感光性ガラス組成物。
【請求項7】
前記有機系分散媒は、沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の感光性ガラス組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の感光性ガラス組成物の焼成体からなるガラス層と、
該ガラス層の溝部に配置される導電層と、
を備える電子部品。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の感光性ガラス組成物を基材上に付与して、露光、現像した後、焼成して、前記感光性ガラス組成物の焼成体からなるガラス層を形成する工程を含む、電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性ガラス組成物とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
積層チップインダクタ等の電子部品は、基材上に所定のパターンの導電層が形成された回路基板を備えている。近年では、光重合性物質と導電性材料とを含む組成物(以下、「感光性導電組成物」という。)を用いて、上記したような電子部品の導電層を形成する手法が広く知られている。かかる手法の一例として、フォトリソグラフィ法が挙げられる(例えば特許文献1)。この方法では、まず、感光性導電組成物を基材表面に付与した後に、当該組成物を乾燥させることによって、導電性粉末を含む膜状体(導電膜状体)を成形する。次に、所定パターンのスリット(開口部)を有するフォトマスクを導電膜状体に被せ、スリットから露出した導電膜状体の一部に光を照射する。これによって、光硬化性樹脂が硬化し、導電性粉末を含む硬化膜(導電硬化膜)が形成される。次に、フォトマスクで遮光されていた未露光部分(未硬化の導電膜状体)を現像液で除去する。これによって、露光した所定パターンの導電硬化膜のみが基材表面に残留するため、これを焼成することによって所望の導電層を形成することができる。
【0003】
ところで、近年では、電子部品の小型化に対する要求がさらに高まっている。かかる電子部品の小型化を実現するためには、導電層の線幅Lと、隣接した導電層の間隔(スペース)の幅Sとの寸法関係を示すL/S(ラインアンドスペース)をさらに小さくすることが求められる。例えば、従来一般の電子部品の導電層のL/Sは、40μm/40μm程度であったが、近年ではL/Sが30μm/30μmを下回る微細な導電層を形成することが求められている。しかし、微細な導電層を形成するためにスリットが小さなフォトマスクを使用すると、露光工程において導電膜状体に対する光の供給量(露光量)が少なくなるため、導電膜状体の下部(基材側)まで光が到達しなくなる可能性がある。この場合には、導電膜状体の下部が充分に硬化せず現像工程において除去されてしまうため、断面視において逆台形状の導電層が形成される。このような逆台形状の導電層が形成されることは、「アンダーカット」と呼ばれており、電子部品の抵抗増大や導電層の断線などの不具合の原因となり得る。
【0004】
このようなアンダーカットを生じさせずに、微細な導電層を形成するための技術として、光重合性物質とガラス材料とを含む組成物(以下、「感光性ガラス組成物」という。)を併用したフォトリソグラフィ法が提案されている。この方法では、まず、感光性ガラス組成物を基材表面に付与してガラス膜状体を成形する。次に、所定パターンのスリットを有するフォトマスクをガラス膜状体に被せ、スリットから露出したガラス膜状体を露光させる。次に、未硬化のガラス膜状体を現像液で除去し、所定パターンの溝部を有したガラス硬化膜を基材表面に形成する。次に、このガラス硬化膜の溝部に感光性導電組成物を充填して露光させることによって、ガラス硬化膜の溝部に導電硬化膜を形成する。そして、これらのガラス硬化膜と導電硬化膜を焼成することによって、微細な溝部を有したガラス層と、当該ガラス層の溝部に形成された導電層とを有した電子部品を製造できる。特許文献2~4では、このような製造技術において用いられる感光性組成物の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6694099号公報
【文献】特許第5163687号公報
【文献】特許第5195432号公報
【文献】特許第4719332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、感光性ガラス組成物を印刷したガラス膜状体は、導電膜状体と比較して、高い光透過性(透明度)を有している。このように光透過性が高いガラス膜状体では、露光工程において微細な配線パターン(溝部のパターン)を形成するためにフォトマスクのスリットを小さくして光の供給量が低減しても、上記したような硬化不良によるアンダーカットが生じにくい。一方で、感光性ガラス組成物において光硬化性に優れる樹脂のみを使用した場合には、ガラス膜状体の露光工程において高い光透過性に起因して光硬化収縮(硬化による体積収縮)が生じやすい。例えば上記した特許文献3および4の感光性ガラス組成物を用いた場合には、露光工程において光硬化収縮が生じ、露光工程後のガラス硬化膜において反り(カール)が発生することがあった。
【0007】
また、特許文献3では、ビアホールを形成して、積層チップの導電パターンを形成することを検討しており、L/Sが40μm/40μmやL/Sが30μm/30μmであるような微細なパターンのガラス層を形成することについては検討されていない。このため、特許文献3に開示されている感光性ガラス組成物を用いて、微細なパターンのガラス層を形成しようとした場合には、現像工程において一部が剥離するという課題があった。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、微細なパターンを有し、反りや基材からの剥離が抑制されたガラス層を形成することができる感光性ガラス組成物を提供することである。また、他の目的は、かかるガラス層と導電層とを備える電子部品および、電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するべく、ここに開示される感光性ガラス組成物が提供される。ここに開示される感光性ガラス組成物は、所定幅の溝部を有するガラス層と、該ガラス層の溝部に配置される導電層と、を備える電子部品において、上記ガラス層の作製に用いられる。当該感光性ガラス組成物は、少なくともガラス粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、有機系分散媒と、を含む。上記光硬化性樹脂は、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを含んでいる。上記5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと上記2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとの質量比(A:B)が、90:10~12.5:87.5である。
【0010】
感光性ガラス組成物において、高い光硬化性を有する5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと、柔軟性を有する2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを上記したような質量比で含むことにより、露光工程において高い光透過性に起因して生じる光硬化収縮を好適に抑制することができる。かかる構成の感光性ガラス組成物によれば、微細なパターンを好適に形成することができ、かつ、当該感光性ガラス組成物が光硬化されたガラス硬化膜では、露光工程後における反りや、現像工程における基材からの剥離を低減させることができる。
【0011】
ここに開示される感光性ガラス組成物の好適な一態様では、上記5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと上記2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとの質量比(A:B)が、82.5:17.5~25:75である。
かかる構成によれば、より幅広い条件で露光工程や現像工程を実施した際にも、十分な反りの低減と剥離の抑制を実現することができる。
【0012】
ここに開示される感光性ガラス組成物の好適な一態様では、上記光硬化性樹脂は、2官能以下の(メタ)アクリレートをさらに含む。
かかる構成によれば、感光性ガラス組成物が光硬化されたガラス硬化膜では、露光工程後における反りを低減し、さらに粘度も低減させることができるため、上記した効果をより好適に発揮させることができる。
【0013】
ここに開示される感光性ガラス組成物の好適な一態様では、上記ガラス粉末は、B2O3とSiO2とを主成分とするB2O3-SiO2系ガラスを含む。またかかる態様においては、上記B2O3-SiO2系ガラスは、該ガラスの全体を100質量%としたときに、酸化物換算の質量比で、上記B2O3を5質量%以上20質量%以下含有し、上記SiO2を20質量%以上70質量%以下含有する。また、上記感光性ガラス組成物の全体を100質量%としたときに、上記ガラス粉末の割合が45質量%以上60質量%以下である。
かかる構成の感光性ガラス組成物によれば、定着性に優れるガラス層を形成することができる。
【0014】
ここに開示される感光性ガラス組成物の好適な一態様では、上記有機系分散媒は、沸点が150℃以上250℃以下の有機溶剤である。
かかる構成によれば、感光性ガラス組成物の保存安定性や、当該組成物の印刷時における取扱性を向上すると共に、印刷後の乾燥温度を低く抑えることができる。
【0015】
また、ここに開示される技術によれば、上記感光性ガラス組成物の焼成体からなるガラス層と、該ガラス層の溝部に配置される導電層と、を備える電子部品が提供される。
上記感光性ガラス組成物を用いたガラス層は微細なパターンを有している。このため、かかるガラス層を用いて導電層を形成することにより、微細なパターンを有する電子部品を実現することができる。
【0016】
また、ここに開示される技術によれば、上記感光性ガラス組成物を基材上に付与して、露光、現像した後、焼成して、前記感光性ガラス組成物の焼成体からなるガラス層を形成する工程を含む、電子部品の製造方法が提供される。
かかる製造方法によれば、L/Sが30μm/30μm以下の微細なパターンを有する電子部品を精度よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る積層チップインダクタの構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る積層チップインダクタの製造手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。
【0019】
なお、本明細書では、光硬化性樹脂および光重合性開始剤の沸点以下の温度、具体的には概ね200℃以下、例えば100℃以下で乾燥させた感光性ガラス組成物を「ガラス膜状体」といい、当該ガラス膜状体を光硬化させたものを「ガラス硬化膜」という。そして、当該ガラス硬化膜を焼成したものを「ガラス層」という。
また、本明細書では、光硬化性樹脂および光重合性開始剤の沸点以下の温度、具体的には概ね200℃以下、例えば100℃以下で乾燥させた感光性導電組成物を「導電膜状体」といい、当該導電膜状体を光硬化させたものを「導電硬化膜」という。そして、当該導電硬化膜を焼成したものを「導電層」という。
なお、本明細書における「ペースト」は、固形分の一部またはすべてが溶媒に分散した混合物のことをいい、いわゆる「スラリー」、「インク」等を包含する。
【0020】
1.感光性ガラス組成物
ここに開示される感光性ガラス組成物は、所定幅の溝部を有するガラス層と、該ガラス層の溝部に配置される導電層と、を備える電子部品において、上記ガラス層の作製に用いられる組成物である。感光性ガラス組成物は、典型的にはペースト状である。かかる感光性ガラス組成物は、少なくとも、ガラス粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、有機系分散媒と、を含有する。以下、各構成成分について、順に説明する。
【0021】
(1)ガラス粉末
ガラス粉末は、焼成処理の際に焼失せずに残存し、焼成後においてガラス層を形成する成分である。ガラス粉末としては、一般的な非晶質ガラスの他に、結晶を含んだ結晶化ガラスであってもよい。ガラス粉末としては、結晶化部分を有しない非晶質ガラスであることが好ましい。かかるガラス粉末の好適例として、ホウ素成分(B2O3)と、ケイ素成分(SiO2)を主成分として含むB2O3-SiO2系ガラスが挙げられる。B2O3-SiO2系ガラスを含む感光性ガラス組成物を使用することによって、基材表面への定着性に優れるガラス層を形成することができる。
なお、本明細書において「粉末」とは、パウダー状、フリット状などを包含する用語である。
【0022】
ホウ素成分(B2O3)は、焼成中の流動性を高めることに寄与するため、基材表面に対するガラス層の定着性を改善することができると推測される。上記B2O3-SiO2系ガラスにおけるB2O3の割合は、酸化物換算で、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。一方で、B2O3-SiO2系ガラスにおけるB2O3の割合が過剰になると、焼成中にガラス層の形状を維持することが困難になり得る。かかる観点からは、B2O3-SiO2系ガラスにおけるB2O3の割合は、酸化物換算で、25質量%以下であることが好ましく、23質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
またケイ素成分(SiO2)は焼成後のガラス層の骨格を構成する成分である。B2O3-SiO2系ガラスにおけるSiO2の割合は、酸化物換算で、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。一方で、B2O3-SiO2系ガラスにおけるSiO2の割合は、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、上記B2O3-SiO2系ガラスは、B2O3およびSiO2以外の成分を含み得る。かかる成分としては、2族元素の酸化物(Rは、例えばMg、Ca、Zn、Ba、Srを表す。以下同じ。)、アルミニウム成分(Al2O3)、亜鉛成分(ZnO)等が挙げられる。
【0023】
ガラス粉末としては、上述したB2O3-SiO2系ガラスに限定されず、従来公知のガラス組成物を特に制限なく使用できる。一例として、SiO2-RO系ガラス、SiO2-RO-Al2O3系ガラス、SiO2-RO-Y2O3系ガラス、SiO2-RO-B2O3系ガラス、SiO2-Al2O3系ガラス、SiO2-ZnO系ガラス、SiO2-ZrO2系ガラス、RO系ガラス、鉛系ガラス、鉛リチウム系ガラス等が挙げられる。
【0024】
ガラス粉末のD50粒径は、特に限定されるものではないが、分散性等を考慮すると、0.3μm以上であることが好ましく、0.7μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。一方で、乾燥後のガラス層の表面平滑性を考慮すると、ガラス粉末のD50粒径は、8μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、「D50粒径」とは、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径の小さい側から積算値50%に相当する粒径をいう。
【0025】
感光性ガラス組成物におけるガラス粉末の割合が高すぎる場合には、ペースト粘度が増大し、作業効率の低下や印刷性の低下等が発生し得る。かかる観点からは、感光性ガラス組成物全体に占めるガラス粉末の割合は、60質量%以下が好ましく、58質量%以下がより好ましく、56質量%以下がさらに好ましく、例えば54質量%以下であってもよい。一方で、感光性ガラス組成物におけるガラス粉末の割合が低い場合には、組成物の粘度低下に伴って印刷性が向上することや、光硬化時のガラス膜中における遮蔽物が低下する(すなわち隙間が増える)ことによって現像性が向上することが見込まれる。したがって、当該組成物におけるガラス粉末の割合は、比較的容易に低減させることができる。しかしながら、感光性ガラス組成物におけるガラス粉末の割合が少なすぎる場合には、ガラス層におけるガラスの密度が低くなり、当該ガラス層の溝部に形成される導電層の膜厚が薄くなりすぎるおそれがある。これらの観点から感光性ガラス組成物全体に占めるガラス粉末の割合の下限値は、例えば35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましく、例えば52質量%以上であってもよい。
【0026】
(2)光硬化性樹脂
光硬化性樹脂は、光(紫外線)が照射されると重合反応や架橋反応等が生じて硬化する有機化合物である。本明細書において「光硬化性樹脂」は、モノマー、オリゴマー、ポリマー、を包含する用語である。ここに開示される感光性ガラス組成物においては、光硬化性樹脂として、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーA(以下、「オリゴマーA」ともいう。)と、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーB(以下、「オリゴマーB」ともいう。)と、を含んでいる。また、好適な一態様では、光硬化性樹脂として、2官能以下の(メタ)アクリレートをさらに含む。
【0027】
なお、本明細書において「ウレタン(メタ)アクリレート」とは、一分子中にウレタン結合(-NH-C(=O)-O-)と(メタ)アクリロイル基を有する化合物のことをいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、「メタクリロイル基(-C(=O)-C(CH3)=CH2)」と「アクリロイル基(-C(=O)-CH=CH2)」とを包含する用語である。そして、「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」および「アクリレート」を包含する用語である。
また、本明細書において「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」とは、分子中にウレタン結合と(メタ)アクリロイル基を有する化合物であって、重量平均分子量(Mw)が比較的小さい重合体(例えば重量平均分子量が10000以下の重合体)のこという。
【0028】
5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAは、分子中に5つ以上(概ね5~15、例えば5~10)の官能基を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物である。オリゴマーAが5つ以上の官能基を有することにより高い光硬化性を有し、当該オリゴマーAを含むことによりガラス硬化膜の硬度を向上させることができる。
【0029】
5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAは、ヒドロキシ基を含有する(メタ)アクリレート化合物と、ポリイソシアネート化合物と、を反応させて得られる化合物であってもよい。また、イソシアネート基を含有するアクリレート化合物と、ポリオール化合物と、を反応させて得られる化合物であってもよい。あるいは、ヒドロキシ基を含有する(メタ)アクリレート化合物と、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、を反応させて得られる化合物であってもよい。特に限定されないが、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAは、ポリオール化合物およびポリイソシアネート化合物を反応させ、イソシアネート基を有するウレタン型の前駆体を生成した後に、(メタ)アクリレート化合物を反応させることにより得ることができる。
【0030】
上記オリゴマーAの原料として用いられ得る、ヒドロキシ基を含有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、脂肪酸変性-グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイル-オキシプロピルメタクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;等が挙げられる。これらは1種を単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどの高分子量ポリオールであってもよいし、トリエチレングリコール、ヘキサンジオールなどの低分子量ポリオールであってもよい。これらは1種を単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
好適な一態様では、オリゴマーAは、ポリイソシアネート化合物が上記した脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートである、5官能以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。これら5官能以上の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、露光工程においてより速やかに硬化する性質を有し、ガラス硬化膜においてはより高い硬度を有し得る。これにより、精密なパターンのガラス硬化膜を形成することができる。
【0034】
5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAの重量平均分子量(Mw)は、典型的には、10000以下である。重量平均分子量(Mw)は、例えば500~10000であることが好ましく、750~8000であってもよく、1000~5000であってもよい。なお、本明細書において、重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0035】
かかる5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAは、市販品を購入することにより用意してもよい。具体的には、ダイセル・オルネクス株式会社製の商品名EBECRYL1290、EBECRYL5129、EBECRYL8301R、KRM8200、KRM8904、KRM8452、共栄社科学株式会社製の商品名AH-600、UA-306T、UA-306I、UA-510H、日本化薬株式会社製の商品名UX-5005、UX-5103、UX-5102D-M20、UX5000、DPHA-40H、新中村化学株式会社製の商品名UA-1100H、U-6LPA、UA-33H、U-10HA、U-10PA、U-15HA、東洋ケミカルズ株式会社製の商品名Miramer PU610、Miramer MU9500等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBは、分子中に1つまたは2つの官能基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物である。オリゴマーBが2つ以下の官能基であることにより高い柔軟性、伸縮性を示すため、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAよりさらに感光性ガラス組成物の加工性を向上させ得る。よって、当該オリゴマーBを含むことにより露光時における基材への追従性を向上させることができる。また、オリゴマーBがウレタン結合を有していることにより柔軟性や伸縮性にも優れる。したがって、当該感光性ガラス組成物を光硬化させたガラス硬化膜において、反りが改善され、クラックが発生することを好適に抑制することができる。
【0037】
上記オリゴマーBは、ヒドロキシ基を含有する(メタ)アクリレート化合物と、ポリイソシアネート化合物と、を反応させて得られる化合物であってもよい。また、イソシアネート基を含有する(メタ)アクリレート化合物と、ポリオール化合物とを反応させて得られる化合物であってもよい。あるいは、ヒドロキシ基を含有する(メタ)アクリレート系化合物と、ポリイソシアネート化合物と、ポリオール系化合物と、を反応させて得られる化合物であってもよい。特に限定されないが、例えば、2官能以下のウレタンアクリレートオリゴマーBは、ポリオール化合物およびポリイソシアネート化合物を反応させ、イソシアネート基を有するウレタン型の前駆体を生成した後に、ヒドロキシ基と(メタ)アクリロイル基とを有する単官能(メタ)アクリレート化合物を反応させることにより得ることができる。
【0038】
上記オリゴマーBの原料として用いられ得る、ヒドロキシル基を含有する単官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
ポリイソシアネート化合物およびポリオール化合物は、上記した化合物を特に限定することなく用いることができる。好適な一態様では、オリゴマーBは、ポリイソシアネート化合物が上記した脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートである、2官能以下の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーである。これら2官能以下の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーは、優れた強靭性と柔軟性とを有し得るため、基材への密着性が向上した信頼性の高いガラス層を形成することができる。
【0040】
2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBの重量平均分子量(Mw)は、典型的には、10000以下である。重量平均分子量(Mw)は、例えば500~10000であることが好ましく、750~8000であってもよく、1000~5000であってもよい。
【0041】
かかる2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBは、市販品を購入することにより用意してもよい。具体的には、ダイセル・オルネクス株式会社製の商品名EBECRYL230、EBECRYL270、EBECRYL4858、EBECRYL8402、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9270、KRM8191、共栄社科学株式会社製の商品名UF-8001G、DAUA-167、日本化薬株式会社製の商品名UXT-6100、UXF-4002、UXF-4001-M35、UX-0937、UX-8101、UX-6101、UX-4101、UX-3204、新中村化学株式会社製の商品名UA-4200、UA-160TM、UA-290TM、UA-W2A、UA-4400、UA-122P、U-200PA、東洋ケミカルズ株式会社製の商品名Miramer PU240等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
ここに開示されるガラス組成物においては、上記したような5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを、オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)が、90:10~12.5:87.5となるように含んでいる。上記したように、オリゴマーAは、光硬化性に優れ、ガラス層の強度を向上させる効果を発揮し得る。一方で、オリゴマーBは、柔軟性に優れ、基材への追従性を向上させる効果を発揮し得る。感光性ガラス組成物において、これらのオリゴマーAおよびオリゴマーBを上記した質量比で含むことにより、高い光透過性に由来する光硬化収縮を抑制することができる。このため、露光工程における反りや、現像工程における基材からの剥離を好適に抑制することができる。
また、好適な一態様では、オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)は、82.5:17.5~25:75である。さらに好適な一態様では、オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)は、75:25~37.5:62.5である。これにより、上記した効果がより好適に発揮される。このため、さらに露光量が多い露光条件で露光工程を実施した場合であっても、露光工程後のガラス硬化膜の反りが抑制される。また、現像液を供給する時間をより長くする現像条件で現像工程を実施した場合であっても、ガラス硬化膜が基材から剥離することを抑制することができる。
【0043】
ここに開示される感光性ガラス組成物の好適な一態様では、光硬化性樹脂として、2官能以下の(メタ)アクリレートをさらに含む。2官能以下の(メタ)アクリレートとは、分子中に1つまたは2つのアクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。かかる2官能以下の(メタ)アクリレートは、例えば2官能以下の(メタ)アクリレートモノマーや、2官能以下の(メタ)アクリレートオリゴマーであってもよい。または、このような2官能以下の(メタ)アクリレートの変性物であってもよい。感光性ガラス組成物が上記したオリゴマーAおよびオリゴマーBに加えてさらに2官能以下の(メタ)アクリレートを含むことにより、感光性ガラス組成物を光硬化させたガラス硬化膜における露光工程後の反りや、該組成物の粘度を低減させることができる。このため、感光性ガラス組成物の全体に占めるガラス粉末の割合が増加した場合でも、上記した露光工程後における反りの改善や、現像工程における剥離の改善を好適に発揮させることができる。したがって、より密度が高いガラス層を備える電子部品を実現し得る。
【0044】
かかる2官能以下の(メタ)アクリレートとしては例えば、上記したヒドロキシ基を含有する単官能(メタ)アクリレート化合物に加えて、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
かかる2官能以下の(メタ)アクリレートは、例えば市販品を購入することにより用意してもよい。具体的には、ダイセル・オルネクス株式会社製の商品名DPGDA、HDDA、TPGDA、EBECRYL145、共栄社科学株式会社製の商品名ライトアクリレート1.6HX-A、ライトアクリレートNP-A、ライトアクリレート1.9ND-A、日本化薬社製の商品名KAYARADRTMHX-220、HX-620、UX-3240、新中村科学株式会社製の商品名NKエステルA-HD-N、NKエステルA-NOD-N、NKエステルA-NPG、NKエステルAPG-200等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。上記した中でも、粘度が低いものを適宜選択して用いることが好ましい。
【0046】
2官能以下の(メタ)アクリレートの重量平均分子量(Mw)は、例えば100~10000であることが好ましく、150~8000であってもよく、200~5000であってもよい。
【0047】
オリゴマーAとオリゴマーBに加えて2官能以下の(メタ)アクリレートを含む態様においては、5官能以上であるオリゴマーAと、2官能以下であるオリゴマーBおよび2官能以下の(メタ)アクリレートの合計との質量比(A:(B+2官能以下の(メタ)アクリレート))が、90:10~12.5:87.5であることが好ましく、82.5:17.5~25:75であることがより好ましく、75:25~37.5:62.5であることがさらに好ましい。かかる範囲を満たすように2官能以下の(メタ)アクリレートをさらに含むことにより、感光性ガラス組成物の粘度が過度に高くなることを抑制することができる。これにより、微細なパターンを有しつつ、オリゴマーAとオリゴマーBとを含むことによる光硬化収縮の抑制の効果が好適に発揮された高品質なガラス硬化膜を形成することができる
【0048】
感光性ガラス組成物全体に占める光硬化性樹脂の割合は、概ね1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることが好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、短い露光時間で所定幅を有するガラス硬化膜を適切に形成することができる。また、感光性ガラス組成物全体に占める光硬化性樹脂の割合は、概ね20質量%以下であり、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。これにより、ガラス硬化膜の精密性をさらに向上することができる。
【0049】
(3)光重合開始剤
ここに開示される感光性ガラス組成物は、光重合開始剤を含んでいる。光重合開始剤は、紫外線等の光エネルギーの照射によって分解し、ラジカルや陽イオン等の活性種を発生させ、光硬化性樹脂の重合反応を開始させる成分である。光重合開始剤は特に限定されず、従来公知のものの中から光硬化性樹脂の種類等に応じて、1種を単独で、または、2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。光重合開始剤の好適例としては、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン等が挙げられる。なお、上述したような光重合開始剤としては、市販されているものを特に制限なく使用することができる。
【0050】
特に限定されるものではないが、感光性ガラス組成物全体に占める光重合開始剤の割合は、概ね0.1質量%以上5質量%以下であってもよく、典型的には0.5質量%以上3質量%以下であってもよく、例えば1質量%以上2質量%以下であるとよい。上記光硬化性樹脂100質量部に対する光重合開始剤の割合は、例えば1質量部以上50質量部以下、好ましくは10質量部以上30質量部以下とすることができる。かかる範囲とすることで、感光性ガラス組成物の光硬化性が十分に発揮され、安定的にガラス硬化膜を形成することができる。
【0051】
(4)有機系分散媒
ここに開示される感光性ガラス組成物は、有機系分散媒を含んでいる。有機系分散媒は、感光性ガラス組成物に適度な粘性や流動性を付与して、感光性ガラス組成物の取扱い性を向上したり、ガラス層を成形する市の作業性を向上したりする成分である。有機系分散媒は、従来公知のものの中から、光硬化性樹脂や光重合開始剤の種類等に応じて、1種を単独で、または、2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。有機系分散媒の一例としては、例えばトルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤; エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールフェニルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール等のグリコールエーテル系溶剤;1,7,7-トリメチル-2-アセトキシ-ビシクロ-[2,2,1]-ヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールモノイソブチレート等のエステル系溶剤;ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルプロピオネート、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;その他ミネラルスピリット等の高沸点を有する有機溶剤等が挙げられる。
【0052】
上記した有機溶剤のなかでも、感光性ガラス組成物の保存安定性やガラス膜状体形成時の取扱い性を向上する観点からは、沸点が150℃以上の有機溶剤、さらには170℃以上の有機溶剤が好ましい。また、他の一好適例として、ガラス膜状体を印刷した後の乾燥温度を低く抑える観点からは、沸点が250℃以下の有機溶剤、さらには沸点が220℃以下の有機溶剤が好ましい。このことにより、生産性を向上すると共に、生産コストを低減することができる。
【0053】
また、例えばセラミック基材上にガラス層を形成して、セラミック電子部品を製造する用途では、セラミックグリーンシートへの浸透性が低い有機溶剤が好ましい。セラミックグリーンシートへの浸透性が低い有機溶剤としては、例えば、シクロヘキシル基やtert-ブチル基等のように立体的に嵩高い構造を有する有機溶剤や、分子量の比較的大きな有機溶剤が挙げられる。さらに、例えば上記したようなセラミックグリーンシートへの浸透性が低い有機溶剤と、感光性ガラス組成物に含有される成分(例えば光硬化性樹脂および/または光重合開始剤)を好適に溶解し得る有機溶剤とを、任意の割合で混合して、有機系分散媒として用いることも好ましい。
【0054】
上記したような性状(沸点およびセラミックグリーンシートへの浸透性)を有する市販の有機溶剤としては、例えば、ダワノールDPM(商標)(沸点:190℃、ダウ・ケミカル・カンパニー製)、ダワノールDPMA(商標)(沸点:209℃、ダウ・ケミカル・カンパニー製)、メンタノール(沸点:207℃)、メンタノールP(沸点:216℃)、アイソパーH(沸点:176℃、関東燃料株式会社製)、SW-1800(沸点:198℃、丸善石油株式会社製)等が挙げられる。
【0055】
感光性ガラス組成物全体に占める有機系分散媒の割合は、特に限定されるものではないが、概ね1質量%~50質量%、典型的には3質量%~30質量%、例えば5質量%~20質量%であってもよい。
【0056】
(5)有機バインダ
有機バインダとしては、従来公知の感光性組成物に用いられるものの中から特に制限なく用いることができる。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系高分子(セルロース誘導体)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(典型的には、ポリビニルブチラール)等を1種または2種以上用いることができる。なかでも、親水性(典型的にはアルカリ可溶性)の高い有機バインダを好ましく用いることができる。これにより、後述するエッチング処理(典型的にはアルカリ処理)において、未硬化の部分を好適に除去することができる。
感光性ガラス組成物の全体に占める有機バインダの割合は、例えば0.1質量%以上30質量%以下であって、好ましくは0.5質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上25質量%以下とすることができる。
【0057】
(6)その他の成分
感光性ガラス組成物は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記した成分に加えて、さらに必要に応じて種々の添加成分を含有することができる。このような添加成分としては、従来公知のものの中から1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。添加成分の一例としては、例えば、無機フィラー、光増感剤、重合禁止剤(重合防止剤)、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、ゲル化防止剤、安定化剤、防腐剤、顔料等が挙げられる。特に限定されるものではないが、感光性ガラス組成物全体における添加剤量の含有量は、概ね5質量%以下、例えば3質量%以下とするとよい。
【0058】
以上の通り、ここに開示される感光性ガラス組成物は、光硬化性樹脂として5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを含んでいる。そして、これらオリゴマーAとオリゴマーBとの質量比率(A:B)とが、90:10~12.5:87.5に調整されている。このことにより、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの硬質性と2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの柔軟性とが適切に発揮され、露光工程においては、ガラス膜状体が過剰に光硬化されて光硬化収縮が生じることを抑制する。これにより、微細なパターンの溝部を備えたガラス硬化膜を好適に形成し、かつ、形成されたガラス硬化膜においては反りや基材からの剥離を改善することができる。そして、かかる高品質なガラス硬化膜を基材とともに焼成することにより、微細なパターンの溝部を有し、反りや基材からの剥離が改善されたガラス層を形成することができる。
【0059】
2.感光性ガラス組成物の用途
ここに開示される感光性ガラス組成物によれば、反りおよび基材からの剥離が低減されたガラス層を形成することができる。そのため、ここに開示される感光性ガラス組成物は、例えば、インダクタンス部品やコンデンサ部品、多層回路基板等の様々な電子部品の製造に使用できる。インダクタンス部品の典型例としては、高周波フィルタ、コモンモードフィルタ、高周波回路用インダクタ(コイル)、一般回路用インダクタ(コイル)、高周波フィルタ、チョークコイル、トランス等が挙げられる。また、かかる電子部品の形状(構造)も特に限定されず、表面実装タイプやスルーホール実装タイプ等であってもよい。また、電子部品は、単一の導電層を備えた薄膜型であってもよいし、複数の導電層が積層された積層型(
図1参照)であってもよい。
【0060】
また、上記電子部品の一例として、セラミック電子部品が挙げられる。なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、セラミック製の基材を用いた電子部品全般をいう。セラミック電子部品の典型例として、セラミック基材を有する高周波フィルタ、セラミックインダクタ(コイル)、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等が挙げられる。また、上記セラミック基材には、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)、結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材などが挙げられる。なお、ガラスセラミック基材を用いる場合には、上記感光性ガラス組成物をPETフィルム等のキャリアシート上に板状に印刷・乾燥させた後に、当該感光性ガラス組成物を光硬化させた板状のガラス硬化膜をグリーンシートとし、当該板状のガラス硬化膜を焼成することによって基材を形成してもよい。また、結晶質のセラミック基材としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化セリウム(セリア)、酸化イットリウム(イットリア)、チタン酸バリウム等の酸化物系材料;コーディエライト、ムライト、フォルステライト、ステアタイト、サイアロン、ジルコン、フェライト等の複合酸化物系材料;窒化ケイ素(シリコンナイトライド)、窒化アルミニウム(アルミナイトライド)等の窒化物系材料;炭化ケイ素(シリコンカーバイド)等の炭化物系材料;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系材料;等を含む基材が挙げられる。
【0061】
図1は、積層チップインダクタ1の構造を模式的に示した断面図である。積層チップインダクタ1は、本体部30と、本体部30の左右方向Xの両側面部分に設けられた外部電極40とを備えている。積層チップインダクタ1は、例えば、1608形状(1.6mm×0.8mm)、2520形状(2.5mm×2.0mm)等のサイズである。
なお、
図1における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、図面中の符号X、Yは、それぞれ左右方向、上下方向を表す。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎない。
【0062】
本体部30は、ガラス層14と導電層24とが一体化された構造を有する。ガラス層14は、例えば、ここに開示される感光性ガラス組成物を用いて形成される。上下方向Yにおいて、ガラス層14の間には、導電層24が配置されている。導電層24は、例えば導電性粉末を含む組成物(例えば感光性導電組成物)を用いて形成される。ガラス層14を挟んで上下方向Yに隣り合う導電層24は、ガラス層14に設けられたビア26を通じて導通されている。このことにより、導電層24は、3次元的な渦巻き形状(螺旋状)に構成されている。導電層24の両端はそれぞれ外部電極40と接続されている。
【0063】
このような積層チップインダクタ1は、例えば、次の通りに製造できる。まず、セラミック材料とバインダ樹脂と有機溶剤とを含むペーストを調製し、これをキャリアシート上に供給して、セラミックグリーンシートを形成する。
【0064】
次いで、上述した感光性組成物を用いて、グリーンシートの所定の位置に、所定のコイルパターンの硬化膜を形成する。一例として、以下の工程:感光性ガラス組成物を基材としてのグリーンシート上に付与(印刷)して乾燥することにより、感光性ガラス組成物の乾燥体であるガラス膜状体を成形する第1成形工程;ガラス膜状体に所定のパターンを有したフォトマスクを被せ、開口部から露出したガラス膜状体の一部を露光し、ガラス膜状体の一部をガラス硬化膜とする第1露光工程;現像液を用いて未硬化のガラス膜状体を除去し、基材上に所定の溝部を有するガラス硬化膜を形成する第1現像工程;感光性導電組成物を形成されたガラス硬化膜の溝部に付与(印刷)して乾燥することにより、ガラス膜状体の溝部に、感光性導電組成物の乾燥体である導電膜状体を成形する第2成形工程;導電膜状体に所定のパターンを有したフォトマスクを被せ、開口部から露出した導電膜状体の一部を露光し、導電膜状体の一部を導電硬化膜とする第2露光工程;現像液を用いて未硬化の導電膜状体を除去する第2現像工程;を包含する。これによって、基材の表面に、未焼成の状態のガラス硬化膜と該ガラス硬化膜の溝部に導電硬化膜とを形成することができる。
【0065】
ここで、感光性導電組成物は、特に限定されず、電子部品を製造する際に用いられ得る従来公知の感光性導電組成物を特に限定することなく用いることができる。例えば、感光性導電組成物は、導電性粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始材と、有機系分散媒と、を含むペースト状の組成物であってもよい。導電性粉末としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)等の金属の担体、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、光(紫外線)が照射されると重合反応や架橋反応等が生じて硬化する有機化合物であれば特に限定されない。一好適例として、(メタ)アクリロイル基やビニル基のような不飽和結合を1つ以上有するラジカル重合性のモノマーや、エポキシ基のような環状構造を有するカチオン重合性のモノマーが挙げられる。また、光重合開始剤および有機系分散媒としては、上記した感光性ガラス組成物と同種のものを特に制限することなく使用することができるため、詳細な説明は省略する。
なお、感光性導電組成物は、上記した成分以外の添加成分を含有していてもよい。このような添加成分は、特に限定されず、重合禁止剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、ゲル化防止剤、安定化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0066】
また、上記感光性ガラス組成物および感光性導電組成物を用いてガラス硬化膜および導電硬化膜を形成するにあたっては、従来公知の手法を適宜用いることができる。例えば、第1および第2形成工程において、感光性ガラス組成物および感光性導電組成物の付与は、スクリーン印刷等の各種印刷法や、バーコータ等を用いて行うことができる。これら感光性組成物の乾燥は、光硬化性樹脂および光重合開始剤の沸点以下の温度、典型的には40~100℃で行うとよい。
【0067】
次いで第1および第2露光工程は、所定パターンのスリットを有したフォトマスクをガラス膜状体の上に被せ、スリットから露出したガラス膜状体(または導電膜状体)の一部を露光することによって実施される。この露光処理では、例えば10nm~500nmの波長範囲の光線(典型的には紫外線)を発する露光機、例えば高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等の紫外線照射灯を用いることができる。
なお、ガラス膜状体の前駆体である感光性ガラス組成物は、上記したように5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを、所定の質量比率で含んでいる。このことにより、露光機の露光量を通常よりも高く設定した場合であっても、剥離等がない良好なガラス硬化膜を形成することができる。ここに開示される感光性ガラス組成物を用いる場合には、露光機の露光量は、例えば100mJ/cm2~1000mJ/cm2の条件に設定することができる。
【0068】
そして、第1および第2現像工程において、現像液には、アルカリ性の水系現像液などを使用できる。かかる水系現像液の一例として、水酸化ナトリウム水溶液や炭酸ナトリウム水溶液などを使用できる。なお、これら現像液のアルカリ濃度は、例えば、0.01~0.5質量%に調整するとよい。
【0069】
図2は、焼成前の積層体100を模式的に示す図である。
図2に示すように、上記した第1形成工程~第2現像工程までを繰り返し実施することにより、セラミック基材50上に、精密な溝部を有するガラス硬化膜12と、当該溝部に形成された導電硬化膜22とを備えた複数の層(
図2では、第1層L1~第4層L4)を備えた積層体100を作製することができる。また、この積層体100は、第1層L1~第4層L4の各層の導電硬化膜22がビア26を介して接続される。なお、ビア26は、例えば導穿孔機などを用いて、第1層L1の上面をなすガラス硬化膜12にビアホールを形成し、導電硬化膜22の一部の上面を露出させ、当該ビアホールに感光性導電組成物を充填した後に乾燥と露光を行うことによって形成することができる。
【0070】
上記積層体100に外部電極形成用のペーストを付与した後で、焼成処理を実施することによって、精密な導電層24を有した積層チップインダクタ1が製造される。なお、焼成温度(焼成処理における最高温度)は、例えば600~1000℃程度が好ましい。かかる積層チップインダクタ1の製造では、ガラス硬化膜12の形成に上記構成の感光性ガラス組成物を用いているため、矩形性の高い精密なパターニングが可能である。当該ガラス硬化膜12に感光性導電組成物を付与して導電硬化膜22を形成することにより、微細なパターンを有する導電硬化膜22を形成することができる。そして、これらを焼成することにより、L/Sが30μm/30μm以下の微細なパターンを有する電子部品を精度よく製造することができる。すなわち、かかる製造方法によれば、微細なパターンを有する電子部品であっても、上記した現像工程において膜状体の露光部分が除去されてしまうアンダーカットを抑制し、信頼性の高い電子部品を製造することができる。
【0071】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する実施例を説明するが、ここに開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0072】
<第1の試験>
本試験では、組成が異なる感光性ガラス組成物を用意し、該感光性ガラス組成物を基材上に印刷した。そして、印刷されたガラス膜状体を露光および現像することにより、基材上にガラス硬化膜を作製した。当該ガラス硬化膜の反りの評価および剥離性の評価をするための評価試験を行った。
【0073】
1.感光性ガラス組成物の調製
(1)各材料の用意
まず、感光性ガラス組成物に含まれる各材料を用意した。
ガラス粉末としては、ホウケイ酸ガラス(SiO2-B2O3-Al2O3-K2O)を用意した。当該ガラス粉末の平均粒子径は、2μmである。
光硬化性樹脂としては、以下の3種類の樹脂を用意した。5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAとして、10官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーと、5官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーを用意した。また、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとして、2官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーを用意した。
光重合開始剤としては、2種類の光重合開始剤(開始剤a、開始剤b)を用意した。開始剤aとしては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1を用意した。開始剤bとしては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド用意した。
有機系分散媒としては、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(有機溶剤a)と、ジヒドロターピネオール(有機溶剤b)とを混合した混合溶媒を用意した。
バインダとしては、2種類のバインダ(バインダa、バインダb)を用意した。バインダaとしては、メチルセルロース系水溶性樹脂を用意した。バインダbとしては、水溶性アクリル樹脂(メタクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体)を用意した。
【0074】
(2)サンプル1~14
ガラス粉末、光硬化性樹脂、光重合開始剤、およびバインダを、表2に示す質量割合(質量%)なるように秤量して、上記用意した有機系分散媒に溶解させることによって、サンプル1~14の感光性ガラス組成物を調製した。表2に示す質量割合(質量%)は、感光性ガラス組成物の全体を100質量%としたときのものである。なお、サンプル1~14では、表2に示す成分以外にその他の添加成分として紫外線吸収剤、増感剤および重合禁止剤を合計で2.1質量%含んでいる。
【0075】
2.評価試験
(1)標準露光条件
本試験では、基材として市販のPETフィルムを用意した。スクリーン印刷を用いて、サンプル1~14の感光性ガラス組成物を、PETフィルム上に4cm×4cmの大きさに塗布した後、45℃で15分間乾燥することによって15μmのガラス膜状体を形成した。そして、所定のパターンのスリットを有するフォトマスクをガラス膜状体の上にかぶせた後に、露光機により、照度50mW/cm2、露光量300mJ/cm2の条件で光を照射し、フォトマスクのスリットの真下に配置されたガラス膜状体を硬化させたガラス硬化膜を形成した。その後、当該露光後のガラス硬化膜を1時間静置した。なお、本試験で使用したフォトマスクは、L/S(ライン/スペース)が25μm/25μmに設定されたものである。このようにして、各サンプルにつき10枚ずつ、ガラス膜状体とガラス硬化膜が形成されたPETフィルムを作製した。
【0076】
(2)過剰露光条件
上記と同様に、スクリーン印刷を用いて、サンプル1~14の感光性ガラス組成物を、PETフィルム上に4cm×4cmの大きさに塗布した後、45℃で15分間乾燥することによって15μmのガラス膜状体を形成した。そして、所定のパターンのスリットを有するフォトマスクをガラス膜状体の上にかぶせた後に、露光機により、照度50mW/cm2、露光量1000mJ/cm2の条件で光を照射し、フォトマスクのスリットの真下に配置されたガラス膜状体を硬化させたガラス硬化膜を形成した。その後、当該露光後のガラス硬化膜を1時間静置した。なお、本試験で使用したフォトマスクは、L/S(ライン/スペース)が25μm/25μmに設定されたものである。このようにして、各サンプルにつき10枚ずつ、ガラス膜状体とガラス硬化膜が形成されたPETフィルムを作製した。
【0077】
(3)標準現像条件
上記標準露光条件によって作製したPETフィルム上のガラス膜状体とガラス硬化膜に、0.1質量%のNa2CO3水溶液(現像液)を、ブレイクポイント(B.P.)+5秒に到達するまで吹き付けた。なお、B.P.とは、上記現像液によって遮光部分のガラス膜状体が除去されたことを目視で確認できるまでの時間を指す。そして、遮光部分のガラス膜状体を除去した後に純水での洗浄処理を実施して、室温で乾燥した。これにより、各サンプルにつき10枚ずつPETフィルム上に所定パターンの溝部を有するガラス硬化膜を作製した。
【0078】
(4)過剰現像条件
上記標準露光条件によって作製したPETフィルム上のガラス膜状体とガラス硬化膜に、0.1質量%のNa2CO3水溶液(現像液)を、ブレイクポイント(B.P.)+15秒に到達するまで吹き付けた。そして、遮光部分のガラス膜状体を除去した後に純水での洗浄処理を実施して、室温で乾燥した。これにより、各サンプルにつき10枚ずつPETフィルム上に所定パターンの溝部を有するガラス硬化膜を作製した。
【0079】
(5)反りの評価
標準露光条件および過剰露光条件において形成された、各サンプルにつき10枚のガラス膜状体とガラス硬化膜を有するPETフィルムの反りを、目視により評価した。当該10枚のPETフィルムにおいて、過剰露光条件で10枚とも反りがない状態を「◎」、標準露光条件で10枚とも反りがない状態を「○」、標準露光条件で10枚のうち1~2枚に反りがある状態を「△」、標準露光条件で10枚のうち3枚以上に反りがある状態を「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0080】
(6)剥離性の評価
標準現像条件および過剰現像条件において現像され作製された、各サンプルにつき10枚のガラス硬化膜を光学顕微鏡で観察し、得られた観察画像から剥離の有無を確認した。当該10枚のガラス硬化膜において、過剰現像条件で10枚とも剥離がない状態を「◎」、標準現像条件で10枚とも剥離がない状態を「○」、標準露光条件で10枚のうち1~2枚に剥離がある状態を「△」、標準露光条件で10枚のうち3枚以上に剥離がある状態を「×」と評価した。結果を表2に示す。
【0081】
(7)総合評価
上記した(5)反りの評価および(6)剥離性の評価の結果に基づいて、表1に示す基準で総合評価を行った。
【0082】
【0083】
上記(7)総合評価が「◎」、「○」および「△」であるガラス硬化膜は、電子部品に用いるガラス層の前駆体として十分な程度に、反りが抑制され、かつ、剥離が抑制されていると判断した。なお、(7)総合評価が「△」であるサンプルは、「◎」や「〇」であるサンプルより歩留まりが劣るものの、製品性能は十分に満たすものである。結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
表2に示すように、光硬化性樹脂として5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAおよび2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBを含み、オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)が、90:10~12.5:87.5であるサンプル4~12を用いて形成されたガラス硬化膜は、総合評価が「△」以上であることがわかる。
したがって、ガラス粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、有機系分散媒と、を含み、光硬化性樹脂として5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAおよび2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBを含み、当該各オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)が、90:10~12.5:87.5である感光性ガラス組成物を用いることにより、電子部品のガラス層の前駆体として十分な反りの低減と剥離の低減とが実現されたガラス硬化膜を作製することができる。
【0086】
また、表2に示すように、上記オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)が82.5:17.5~25:75であるサンプル5~11は、総合評価が「○」以上であることがわかる。したがって、光硬化性樹脂として5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAおよび2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBを含み、当該オリゴマーAとオリゴマーBとの質量比(A:B)が、82.5:17.5~25:75である感光性ガラス組成物を用いて作製されたガラス硬化膜は、反りの低減と剥離の低減とが特に良好に実現される。
【0087】
<第2の試験>
本試験では、ガラス粉末の質量割合が高い感光性ガラス組成物を用意し、該ガラス組成物を用いて、該感光性ガラス組成物を基材上に印刷した。そして、印刷されたガラス膜状体を露光および現像することにより、基材上にガラス硬化膜を作製した。
【0088】
1.感光性ガラス組成物の用意
光硬化性樹脂としては、10官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーと、5官能脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーに加えて、2官能以下の(メタ)アクリレートとして、2官能アクリルアクリレートオリゴマーを用意した。それ以外の各材料(ガラス粉末、光重合開始剤、有機系分散媒、バインダ等)は、第1の試験において用いた材料と同じものを用意した。これらの材料を、表3に示す質量割合(質量%)なるように秤量して、上記用意した有機系分散媒に溶解させることによって、サンプル15~20の感光性ガラス組成物を調製した。表3に示す質量割合(質量%)は、感光性ガラス組成物の全体を100質量%としたときのものである。なお、サンプル15~20では、表3に示す成分以外にその他の添加成分として紫外線吸収剤、増感剤および重合禁止剤を合計で1.7質量%~2.1質量%含んでいる。
【0089】
2.評価試験
本試験では、基材として市販のPETフィルムを用意した。スクリーン印刷を用いて、サンプル15~20の感光性ガラス組成物を、PETフィルム上に4cm×4cmの大きさに塗布した後、第1の試験と同じ手順に従って、(1)標準露光条件~(4)過剰現像条件を実施し、(5)反りの評価と(6)剥離性の評価と(7)総合評価とを行った。それぞれの評価試験の結果を表3に記載する。なお、表3には比較のためにサンプル8の結果も記載する。
【0090】
【0091】
表3に示すように、感光性ガラス組成物におけるガラス粉末の質量割合が60質量%以下であるサンプル15~19の場合には、総合評価が「○」または「◎」であることがわかる。一方で、ガラス粉末の質量割合が62質量%であるサンプル20は、反りの評価、剥離性の評価、および総合評価においてすべて「×」となることがわかる。したがって、感光性ガラス組成物におけるガラス粉末の質量割合は、60質量%以下であることが好ましい。
【0092】
さらに、サンプル16とサンプル17とを比較すると、同じガラス粉末の質量割合であっても、2官能アクリルアクリレートオリゴマーを含むことにより、反りの評価、剥離性の評価、および総合評価においてすべて「◎」となることがわかる。したがって、オリゴマーAおよびオリゴマーBに加えてさらに2官能以下の(メタ)アクリレートを含むことにより、より好適に反りの抑制効果と剥離の抑制効果との両立が実現される。
【0093】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0094】
12 ガラス硬化膜
14 ガラス層
22 導電硬化膜
24 導電層
26 ビア
30 本体部
40 外部電極
50 セラミック基材
100 積層体
【要約】
【課題】微細なパターンを有し、反りや基材からの剥離が抑制されたガラス層を形成することができる感光性ガラス組成物を提供すること。
【解決手段】ここに開示される感光性ガラス組成物は、所定幅の溝部を有するガラス層と、該ガラス層の溝部に配置される導電層と、を備える電子部品において、ガラス層の作製に用いられる感光性ガラス組成物である。当該感光性ガラス組成物は、少なくともガラス粉末と、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、有機系分散媒と、を含む。光硬化性樹脂は、5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと、2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとを含んでいる。5官能以上のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーAと2官能以下のウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーBとの質量比(A:B)が、90:10~12.5:87.5である。
【選択図】
図1