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特許7274177小便器用多機能長棚板及びこれを利用したトイレユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】小便器用多機能長棚板及びこれを利用したトイレユニット
(51)【国際特許分類】
   E03D 13/00 20060101AFI20230509BHJP
   A47K 17/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
E03D13/00
A47K17/02 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020190087
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079111
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】522243473
【氏名又は名称】名古屋HKプランニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137899
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 広文
(72)【発明者】
【氏名】堀部 泰隆
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-223990(JP,A)
【文献】特開2008-255565(JP,A)
【文献】実開平02-120571(JP,U)
【文献】登録実用新案第3144614(JP,U)
【文献】特開2017-150135(JP,A)
【文献】実開平04-061179(JP,U)
【文献】実開平02-084884(JP,U)
【文献】特許第5946947(JP,B2)
【文献】特開平10-037276(JP,A)
【文献】実開昭51-062254(JP,U)
【文献】特開平05-321317(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0013218(KR,A)
【文献】米国特許第06681419(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00-13/00
A47K 13/00-17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレ室内に並列して設置する複数の小便器の上方に水平な又は傾斜した状態で、且つ前記小便器を上から覆うが如く設置される長棚板であって、
前記長棚板の固定端が周囲の壁面に接触又は非接触で設置される一方、前記長棚板の自由端には、使用者の胸部から腹部にかけての体躯の平面視前部が嵌まり込むことができる形状に切欠され、各前記小便器に対峙する使用者の体躯を支持することができる凭れ支持部と、前記凭れ支持部の先端から連なって前記凭れ支持部より横幅が更に狭く且つ壁面側に向かって更に奥深く切欠され、前記使用者の使用状態を確認することができる視認部と、前記凭れ支持部によって前記小便器と隣接する小便器の略中央及び両端の前記小便器とそれぞれに隣接する側壁との間に発生する突端部、を備えたことを特徴とした長棚板。
【請求項2】
トイレ室内に単独で設置する小便器の上方に水平な又は傾斜した状態で、且つ前記小便器を上から覆うが如く設置される長棚板であって、
前記長棚板の固定端が周囲の壁面に接触又は非接触で設置される一方、前記長棚板の自由端には、使用者の胸部から腹部にかけての体躯の平面視前部が嵌まり込むことができる形状に切欠され、各前記小便器に対峙する使用者の体躯を支持することができる凭れ支持部と、前記凭れ支持部の先端から連なって前記凭れ支持部より横幅が更に狭く且つ壁面側に向かって更に奥深く切欠され、前記使用者の使用状態を確認することができる視認部と、前記凭れ支持部によって前記小便器の両側に発生する突端部、を備えたことを特徴とした長棚板。
【請求項3】
前記長棚板は、一枚板又は分割自在の複数枚板とし、また、前記長棚板を接触する前記壁面又は下支えするブラケットから着脱自在としたことを特徴とした、請求項1又は請求項2に記載の長棚板。
【請求項4】
前記長棚板の全部又は部分が枠材と網状部材で形成されることを特徴とした、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の長棚板。
【請求項5】
平面視した前記凭れ支持部と前記小便器の位置関係は、前記凭れ支持部と前記視認部の切欠きにより失われた前記凭れ支持部の先端の仮想線が、前記小便器の平面視横幅の範囲内において、前記小便器の受け皿の平面視開口部の前後方向の範囲内であることを特徴とした、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の長棚板。
【請求項6】
前記長棚板の前記凭れ支持部と前記突端部のうちいずれか一以上の自由端にクッション材を装着したことを特徴とした、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の長棚板。
【請求項7】
前記長棚板の面下に、前記小便器の受け皿側又は小用を足す前記使用者の手元側に向けて光を照射する発光体を備えたことを特徴とした、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の長棚板。
【請求項8】
前記長棚板の上面に、前記使用者の手荷物の載置スペースと隣接する前記載置スペースとを区画する表示、境界線、溝、仕切物、つい立のうちいずれか一以上を備えたことを特徴とした、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の長棚板。
【請求項9】
前記長棚板の前記視認部に透視可能な材料によって形成された板を嵌合したことを特徴とした、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の長棚板。
【請求項10】
トイレ室内に並列又は単独で設置する小便器と、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の前記長棚板と、を備えたトイレユニットにおいて、
使用者が前記小便器に対峙した時に立つ床面に対して目前の前記小便器に向かって下り勾配をつけることを特徴とした、トイレユニット。
【請求項11】
トイレ室内に並列又は単独で設置する小便器と、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の前記長棚板と、各前記小便器に連通する配管である給水管、排水管、排臭管及び各前記小便器の機能において必要な配線と、を備えたトイレユニットにおいて、
前記給水管、前記排臭管及び前記配線を、前記トイレ室内の壁面と、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の前記長棚板と、前記長棚板の直下において前記給水管、前記排臭管及び前記配線を目隠しするための前記壁面に設置した遮蔽板と、の間に形成される空間に配置し、
前記小便器、又は前記小便器が掛止若しくは貼設された壁板を前記壁面に直付することを特徴とした、トイレユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、男性用小便器を設置したトイレ室内においてその小便器の上方に設置される小便器用多機能長棚板及びこれを利用したトイレユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで公共の男性向けトイレ室内において使用者の感じる不便さやあって欲しいという要望に応じた様々な考案がなされ、具現化されて来た。例えば、高齢で足腰が弱い人や身体の不自由な人には手摺りを、手に荷物を持った人には棚を、また、場所が場所だけに使用時に羞恥心を感じる人には隣接者からの視線を遮るためのつい立を、といったものである。その事例として下記の3つの特許文献を挙げてみる。
【文献】特開2002-345691号公報
【文献】実開平1-137385号公報
【文献】実登第3204604号公報
【0003】
特許文献1に係る発明は、真っ直ぐな又は湾曲した棒状物であって、壁面に壁掛けされた小便器の両側方の壁面に取り付けられるサイド手摺と、該サイド手摺に跨って設置され人体を支える支え手摺と、からなる小便器用手摺において、前記支え手摺は、小便器の平面視前方に設けられると共に少なくとも中央部が小便器の上方から小便器受け皿内を目視できる構成の小便器用手摺である。これにより身体に傷害を持たれた方が小便器を利用する際に人体を安定して支えながら、且つ、自分の局部を目視し排尿の方向を確認しながら小用を足すことができ、また、健常者にも使い勝手のよい小便器用手摺を提供するものである。
【0004】
特許文献2に係る考案は、壁面に複数の小便器を離間並設するようにした式のトイレユニットにおいて、小便器間には目隠し用の縦方向の仕切板を設けると共に、各小便器上方にはカウンタを手前に突出する如く設け、カウンタの前記仕切板上方に対応する部分には所定幅で手前方向に突出するカウンタの前後方向の幅よりも大きい荷物載置用のテーブル部を設け、該テーブル部は下部の仕切板で支持するように構成したことを特徴とする小便器用仕切装置である。また、カウンタを分割形成して連設接続する際に接続部の目隠しを体裁よく、付設部品を利用して行い得るものである。
【0005】
特許文献3に係る発明は、小便器の上方に設置する小物置板に、掌大の覗き穴を空けたことを特徴とする小便器用覗き穴付き小物置板である。男性用小便器の上方に覗き穴を設置することで、小便をこぼすことによる床面の汚損と自己並びに隣接者のプライバシーを保護することを可能にしたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの特許文献にはそれぞれ下記の様な課題が考えられる。
【0007】
特許文献1に記載の手摺は、それ自体が樹脂被覆された金属パイプやステンレス管などの棒状物で構成されるので、使用者が体躯を安定させるためにそれら手摺を握ることが前提となる。しかしながら、昨今の衛生に対する意識の移り変わりによって不特定多数の人々が握った手摺を自らの掌や指で握ることを躊躇する使用者は少なくないはずである。また、手荷物を携行する使用者にとってその置場に苦慮するのは、手摺の無い小便器と大差ないと思われる。
【0008】
特許文献2に記載の考案では、カウンタの一部に広いテーブル部が形成されるため、このテーブル部に手荷物を安定的に載置できるが、特許文献1のような使用者の体躯を支持し安定させる補助機能を有しないため、高齢で足腰の弱い方や身体の不自由な方の使用に際し不便な場合がある。また、テーブル部が隣接者との中間に位置するため、使用者によっては隣接者に気を使う余りかえって使用し難い場面も考えられる。
【0009】
特許文献3に記載の発明では、小物を置くことができる板に覗き穴を設けて、載置スペースの確保と自己又は隣接者のプライバシー保護を両立しようとしているが、こちらもまた使用者の体躯を支持し安定させる補助機能を有しないので高齢で足腰の弱い方や身体の不自由な方の使用に際し不便な場合がある。また、この覗き穴は、身長の低い使用者には、使用の際に多少、無理な姿勢を強いるかも知れない。更に、プライバシー保護に関して、この発明の覗き穴付き小物置板のような形状では使用者が放尿している間は隣接者から覗かれることはないかも知れないが、放尿動作の前後で覗き穴を覗くために前傾姿勢をとらない状態ではプライバシー確保が不十分でなないかと思われる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明は、男性向けトイレ設備を使用する様々な人々が抱える上記の諸課題をでき得る限り同時に解決するため、男性用小便器の上方の壁面に略接して(接触又は非接触)設置する小便器用多機能長棚板及びこれを利用したトイレユニットを提供する。
【0011】
請求項1の発明は、トイレ室内に並列して設置する複数の小便器の上方に水平な又は傾斜した状態で、且つ前記小便器を上から覆うが如く設置される長棚板であって、
前記長棚板の固定端が周囲の壁面に接触又は非接触で設置される一方、前記長棚板の自由端には、使用者の胸部から腹部にかけての体躯の平面視前部が嵌まり込むことができる形状に切欠され、各前記小便器に対峙する使用者の体躯を支持することができる凭れ支持部と、前記凭れ支持部の先端から連なって前記凭れ支持部より横幅が更に狭く且つ壁面側に向かって更に奥深く切欠され、前記使用者の使用状態を確認することができる視認部と、前記凭れ支持部によって前記小便器と隣接する小便器の略中央及び両端の前記小便器とそれぞれに隣接する側壁との間に発生する突端部、を備えたことを特徴とした長棚板である。
【0012】
請求項2の発明は、トイレ室内に単独で設置する小便器の上方に水平な又は傾斜した状態で、且つ前記小便器を上から覆うが如く設置される長棚板であって、
前記長棚板の固定端が周囲の壁面に接触又は非接触で設置される一方、前記長棚板の自由端には、使用者の胸部から腹部にかけての体躯の平面視前部が嵌まり込むことができる形状に切欠され、各前記小便器に対峙する使用者の体躯を支持することができる凭れ支持部と、前記凭れ支持部の先端から連なって前記凭れ支持部より横幅が更に狭く且つ壁面側に向かって更に奥深く切欠され、前記使用者の使用状態を確認することができる視認部と、前記凭れ支持部によって前記小便器の両側に発生する突端部、を備えたことを特徴とした長棚板である。




【0013】
請求項3の発明は、前記長棚板は、一枚板又は分割自在の複数枚板とし、また、前記長棚板を接触する前記壁面又は下支えするブラケットから着脱自在としたことを特徴とした、請求項1又は請求項2に記載の長棚板である。
【0014】
請求項4の発明は、前記長棚板の全部又は部分が枠材と網状部材で形成されることを特徴とした、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の長棚板である。
【0015】
請求項5の発明は、平面視した前記凭れ支持部と前記小便器の位置関係は、前記凭れ支持部と前記視認部の切欠きにより失われた前記凭れ支持部の先端の仮想線が、前記小便器の平面視横幅の範囲内において、前記小便器の受け皿の平面視開口部の前後方向の範囲内であることを特徴とした、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の長棚板である。
【0016】
請求項6の発明は、前記長棚板の前記凭れ支持部と前記突端部のうちいずれか一以上の自由端にクッション材を装着したことを特徴とした、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の長棚板である。
【0017】
請求項7の発明は、前記長棚板の面下に、前記小便器の受け皿側又は小用を足す前記使用者の手元側に向けて光を照射する発光体を備えたことを特徴とした、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の長棚板である。
【0018】
請求項8の発明は、前記長棚板の上面に、前記使用者の手荷物の載置スペースと隣接する前記載置スペースとを区画する表示、境界線、溝、仕切物、つい立のうちいずれか一以上を備えたことを特徴とした、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の長棚板である。
【0019】
請求項9の発明は、前記長棚板の前記視認部に透視可能な材料によって形成された板を嵌合したことを特徴とした、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の長棚板である。
【0020】
請求項10の発明は、トイレ室内に並列又は単独で設置する小便器と、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の前記長棚板と、を備えたトイレユニットにおいて、
使用者が前記小便器に対峙した時に立つ床面に対して目前の前記小便器に向かって下り勾配をつけることを特徴とした、トイレユニットである。
【0021】
請求項11の発明は、トイレ室内に並列又は単独で設置する小便器と、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の前記長棚板と、各前記小便器に連通する配管である給水管、排水管、排臭管及び各前記小便器の機能において必要な配線と、を備えたトイレユニットにおいて、
前記給水管、前記排臭管及び前記配線を、前記トイレ室内の壁面と、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の前記長棚板と、前記長棚板の直下において前記給水管、前記排臭管及び前記配線を目隠しするための前記壁面に設置した遮蔽板と、の間に形成される空間に配置し、
前記小便器、又は前記小便器が掛止若しくは貼設された壁板を前記壁面に直付することを特徴とした、トイレユニットである。
【発明の効果】
【0022】
本発明による多機能な長棚板及びトイレユニットを提供することにより、男性向け小便設備における使用者の様々な課題、すなわち利便性、安全性、快適性を可能な限り同時に解決して、更に他の利点も追及しようとするものである。
【0023】
請求項1の発明によれば、トイレ室内に並列して設置する複数の小便器の上方に略水平な一続きの長棚板が設置され、使用者側に面しない固定端は壁面に略接して(接触又は非接触)設置されている。一方、使用者側に面する自由端には、まず第一段目の切欠きがあり、この切欠きは、各小便器の受け皿の直上に位置して使用者の前方への傾斜姿勢や左右へのふらつきを支える凭れ支持部となっている。ここで前記長棚板の自由端、すなわち前記突端部から凭れ支持部の先端までの距離において、使用者の体躯の少なくとも平面視前半分が嵌まり込むことができる深さが確保されば使用者の左右へのふらつきを十分に支えることができる。また、第一段目の切欠きの更に中央部には第二段目の切欠きがあり、この切欠きは、小便器の正面に対峙した使用者が直下の手元や放尿状態を確認することができる視認部となっている。更に、前記長棚板は、上記の様な二段にわたる切欠きを備えているにもかかわらず、左奥と右奥に手荷物を置くことができるまとまった載置スペースを有し、且つそれらは使用者のほぼ目の前に位置している。
【0024】
請求項2の発明によれば、トイレ室内に単独で設置する小便器の上方に略水平な一続きの長棚板が設置され、使用者側に面しない固定端は壁面に略接して(接触又は非接触)設置されている。一方、使用者側に面する自由端には、まず第一段目の切欠きがあり、この切欠きは、各小便器の受け皿の直上に位置して使用者の前方への傾斜姿勢や左右へのふらつきを支える凭れ支持部となっている。ここで前記長棚板の自由端、すなわち前記突端部から凭れ支持部の先端までの距離において、使用者の体躯の少なくとも平面視前半分が嵌まり込むことができる深さが確保されば使用者の左右へのふらつきを十分に支えることができる。また、第一段目の切欠きの更に中央部には第二段目の切欠きがあり、この切欠きは、小便器の正面に対峙した使用者が直下の手元や放尿状態を確認することができる視認部となっている。更に、前記長棚板は、上記の様な二段にわたる切欠きを備えているにもかかわらず、左奥と右奥に手荷物を置くことができるまとまった載置スペースを有している。
【0025】
また、請求項1と請求項2に共通する効果として、より衛生的にトイレ設備を使用することができる点が挙げられる。昨今の衛生に対する考え方として「不特定多数の人が触る可能性のあるものにできることなら直接触れたくない」という意識が益々、高まりをみせている。特に公共施設にある設備で、とりわけトイレ設備への注目度は高く、他人が握った手摺への警戒心は、人により極端な場合も見受けられる。これに対して前記長棚板は、胸部や上腹部といった通常は衣服の部分で凭れ掛かることで姿勢を安定させるので、小便器周りの手摺等を握る必要がなくなる。すなわち、使用者は、小用を足す間、自らの手のひらや指の腹でトイレ内の設備に不必要に触らなくて済むことになる。
【0026】
請求項3の発明によれば、トイレ室内に設置された前記長棚板は、小便器の上方に設置された位置から自在に着脱することが可能である。したがって、長棚板が着脱自在であることにより小便器関連設備の点検や修理等のメンテナンスが容易になる。ここで前記長棚板は、外見上、トイレ室内の壁面に接触又は非接触で設置された連続した一枚の板として認識することができるが、長棚板自体は、一枚板であってもよいし分割された部分板、すなわち複数枚板の集合のいずれであってもよい。
【0027】
請求項4の発明によれば、前記長棚板は、その内側の全部又は部分が枠材と網状部材で置き換えることが可能である。これにより、例えば、長棚板自体が軽量化されてメンテナンス時の作業性が更に向上する。また、デザイン性を向上させる材料としても期待ができる。
【0028】
請求項5の発明によれば、前記長棚板の前記凭れ支持部の自由端が前記小便器に対して所定の範囲に位置することにより使用者は、安定して体躯を支持しつつ、小便器の受け皿から外へ漏らし難い体勢で放尿することが可能となる。
【0029】
請求項6の発明によれば、前記長棚板の自由端である前記凭れ支持部、前記突端部のうちいずれかの一以上にクッション材が装着されることで使用者の胸部や上腹部が前記凭れ支持部等に接触した場合、当りを柔らかく快適にすることができる。また、使用者が不覚にも転倒して前記長棚板に身体の一部が接触する場合、その衝撃を緩和して怪我を軽減することも期待できる。
【0030】
請求項7の発明によれば、トイレ室内の照明次第で前記長棚板より下方の明るさが不足して使用者が不便を覚えることが考えられる。このような場合、前記長棚部の下面に発光体を配置して照明で補完することになる。また、この発光体による照明は、使用者の手元や放尿状態を照らしてより一層の注意を払うことを使用者に促す効果が期待できる。
【0031】
請求項8の発明によれば、使用者が一時的に占有する載置スペースを明確化し、隣接者に対して必要以上に気を遣ったり、手荷物がはみ出すことで隣接者に不愉快な思いをさせたりすることを回避することができる。
【0032】
請求項9の発明によれば、使用者が直下の手元や放尿状態を確認する視認部は、開口しているため手荷物の形状や大きさによってはそこから落下する可能性がある。その開口部が透視可能な材料の板、すなわち透視板で埋設されていれば、前記長棚板の上面に小さくて転がり易い手荷物を置いた場合でも透視板で落下が防止され、使用者は安心して小用を足すことができる。
【0033】
請求項10の発明によれば、前記長棚板が設置された前記小便器に使用者が対峙した際に立つ床面が前記小便器に向かって若干、前傾していれば目前の前記長棚板の凭れ支持部により凭れ掛かり易くなり、更に前記長棚板の利用促進が図られることになる。
【0034】
請求項11の発明によれば、トイレ室内の前記小便器には各種の前記配管(給水管、排臭管)及び機能上、必要な前記配線が連通されているが、排水管以外の前記配管(給水管、排臭管)及び前記配線を前記長棚板の直下に付設する。これにより前記小便器又は前記小便器を含む壁板をトイレ室内の前記壁面に略直付することが可能となり、結果として前記トイレ室内の奥行きを拡げることに繋がる。その一方で前記配管及び前記配線を使用者から目隠しする遮蔽板によって下側から被覆することにより前記長棚板を際立たせてすっきりしたデザインのトイレ空間を演出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
以下は、各々の事例や説明のための図を示した模式図、又は略図である。
図1】本発明の長棚板を複数の男性用小便器が並列設置されたトイレユニットの斜視図である。
図2図1の一部透視した側面図である。
図3】本長棚板を分割したトイレユニットの斜視図である。
図4】本長棚板に網状部材を取り入れたトイレユニットの斜視図である。
図5】従来の男性用小便器が並列されたトイレユニットの斜視図である(補注:異種設備を同時併記)。
図6】本長棚板と小便器の位置関係を示した平面図である。
図7】本長棚板を設置した小便器の使用状況図である(補注:第3角法に略倣う)。
図8】本長棚板の凭れ支持部にクッション材等を配した斜視図である。
図9】本長棚板の面下に設置した発光体の斜視図である。
図10】本長棚板の上面物置の各種仕切り方法を図示したトイレユニットの斜視図である(補注:異種方法を同時併記)。
図11】本長棚板の視認部に透視板を嵌合したトイレユニットの斜視図である。
図12】本長棚板を男性用小便器が単独で設置されたトイレユニットに適用した斜視図である。
図13】使用者の立ち位置を傾斜させた場合の使用状況を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
公共トイレにおける男性用小便器の基本設備はそのままに、そこへ本発明の前記長棚板1を付加することで使用者28に求められる利便性、安全性、その他の利点を同時に備えた小便設備を提供する。以下、図を参照しながら本発明を実施する形態の事例を説明する。
【0037】
本発明の前記長棚板1は、トイレ室内に設置された男性用の小便器6の上方に水平な又は傾斜した状態で、且つ前記小便器6を上から覆うが如く設置されるもので、本発明の前記長棚板1の事例を模式的に示したものが図1である。並列して設置する複数の小便器6の上方(z方向)に水平な一続きの前記長棚板1の固定端がトイレ室内の周囲の壁面15に略接して(接触又は非接触)設置されている。図2は、図1の一部透視した側面図を示す。この前記長棚板1は、一枚板であってもよいし、分割自在の複数枚板が一続きに並べられた集合であってもよい。また、前記長棚板1を前記壁面15(又は下支えするブラケット8)から着脱自在としてもよい。更に前記長棚板1は、壁面15に接している方が好ましいが、壁面15との間に僅かな隙間が設けられていても構わない。前記長棚板1を複数に分割して前記壁面15から着脱自在とする構造に関しては、例えば図3のように分割した長棚板17の端部に凸部18を設け、前記壁面15側の凹部19に嵌合させる事例が挙げられる。なお、前記長棚板1は、僅かな傾斜をつけての設置であっても構わない。例えば、前記長棚板1を壁面15に向かって下り勾配にすればその上に載置した手荷物36が容易に落下し難くなる。逆に、前記長棚板1を壁面15に向かって上り勾配にすれば手荷物36の載せ降ろしが容易になる。
【0038】
また、前記長棚板1の平板の部分は、必要に応じて枠材20と網状部材21で形成されたものであってもよい(図4参照)。例えば、前記長棚板1の重量が過大になり過ぎてメンテナンス時の作業性が低下したと仮定する。この解決策の一つとして、前記長棚板1の全部又は部分を枠材20と網状部材21で置き換えて軽量化することが考えられる。或いは、デザイン性の向上を狙って網状部材21が適用されることも考えられる。網状部材21のデザインも格子状、多孔状など様々なパターンが選択可能であることは言うまでもない。なお、網状部材21の材質として金属、樹脂、木材によるものの外に、複数の繊維も挙げられる。
【0039】
本発明の前記長棚板1には、使用者28が小便器6に対峙した場合、使用者側の自由端に第一段目の切欠きがある。この第一段目の切欠きにより小便器6に正対した使用者28の胸部から腹部にかけての体躯を前方向及び左右方向へ支持することができることから本発明では以下、凭れ支持部3と呼ぶ。この凭れ支持部3は、使用者28の体躯の少なくとも平面視前部(前半分、すなわち、使用者28の体躯を腹側と背側に分割した場合の腹側)が嵌まり込むことができる形状と所定の大きさを有することが使用者28の体躯を支持する機能を発揮する上で望ましい。
【0040】
前記長棚板1の隣接する凭れ支持部3との中間にできる突出した部分は、凭れ支持部3からの距離α(図6参照)が大きければ大きい程、左右方向へ使用者28の体躯を支持する効果が高まる。この突出した部分を本発明では以下、突端部2と呼ぶ。この突端部2は、凭れ支持部3によって各々の小便器6の間の中央に略等間隔に発生する。換言すると、複数の小便器6を並列して設置したトイレ室内の壁面15に長棚板1を設置する場合、突端部2は、凭れ支持部3と凭れ支持部3との間に形成される部分で、第一段目の切欠きにより残された部分である。また、後述するような単独で小便器6を設置したトイレ室内の壁面15に長棚板1を設置する場合、突端部2は、凭れ支持部3の両横に形成される部分で、第一段目の切欠きにより残された部分である。以上より、突端部2は、トイレ室内に複数の小便器6が設置されている場合は、凭れ支持部3によって小便器6と隣接する小便器6の略中央及び両端の小便器6とそれぞれに隣接する側壁との間に発生するが(図1等参照)、トイレ室内に単独で小便器6が設置されている場合は、小便器6の両側に発生する(図12参照)。
【0041】
前記長棚板1におけるこの突端部2は、同時に使用者28の左右への視線も制限する。従来、並んで設置した小便器6のプライバシー保護については床に対して垂直に立てられた仕切板27が使われることが多く、この突端部2に相当する位置に水平板を設置することでも使用者28と隣接者、相互の下半身への視線が遮られることが知られている(図5参照)。つまり、前記長棚板1に凭れ支持部3が切欠されたことによって形成された突端部2は、副次的に使用者28間の覗き見行為を抑制し、互いのプライバシー保護に寄与するという利点も生み出している。
【0042】
次に、前記長棚板1の各小便器6の受け皿7の直上に位置する第一段目の切欠きである凭れ支持部3の中央には第二段目の切欠きがある。使用者28が凭れ支持部3に略寄り掛かった状態で直下の放尿状態や小便器6の受け皿7の中を確認するための切欠きであり、本発明では以下、視認部4と呼ぶ。換言すると、この視認部4は、凭れ支持部3の先端から連なって前記凭れ支持部3より横幅が更に狭く且つ壁面15側に向かって更に深く切欠きされており、前記使用者28の使用状態を確認することができる。
【0043】
前記長棚板1の第二段目の切欠きである視認部4は、小便器6の使用者28が直下から斜め前方を見渡すことが可能である。前出の参考文献2に小便器の直上の棚板に覗き穴を設けて使用者を小便器に近付けさせるという考案があるが、身長の低い使用者には多少、無理な姿勢を強いる可能性がある。本発明の視認部4のような切欠き状の開放口であれば体格差に寄らず誰でも自然な姿勢で確認することが可能である。
【0044】
また、前記長棚板1に設けられた視認部4は、使用者28が前方斜め下方へ視線を向けた時、左右方向に視界が狭められ制限されることから放尿状態を視界内に収めようという心理的効果が働いて左右への尿飛散を抑制することも期待される。
【0045】
したがって、使用者28が小便器6に用を足す場合、前記長棚板1の凭れ支持部3に略凭れ掛かることで使用者28の立ち位置と小便器6との前後方向の位置関係を適切化し、視認部4から放尿状態を確認することで左右方向の尿飛散を抑制し、共に小便器6からの尿漏れによるトイレ室内の汚損防止に寄与することができる。
【0046】
具体的な構成としては、前記長棚板1の凭れ支持部3における、小便器6の平面視横方向の範囲以内の視認部4の切欠きで失われた凭れ支持部の仮想線5(太い破線)が、小便器6の受け皿7の開口部の平面視前後方向の範囲以内に位置する。すなわち、平面視した凭れ支持部3と小便器6の位置関係は、図6において、小便器6の横幅β(y方向)とすると、前記凭れ支持部3と前記視認部4の切欠きにより失われた前記凭れ支持部3の先端の仮想線5(太い破線)は、小便器6の受け皿7の開口部の前後方向(x方向)の範囲γ内に位置するということである。なお、図7は、図6で示した凭れ支持部3と小便器6の位置関係において、使用者28による小便器6の使用状況を示しており、破線のひと形は小人を、二点鎖線のそれは大人を表現している。
【0047】
前記長棚板1に設けられた凭れ支持部3に対して使用者28が姿勢を安定させようとすれば胸から上腹部を凭れ支持部3に押し付ける訳であるが、前記長棚板1の自由端がそのままでは苦痛を感じる恐れがある。そこで凭れ支持部3に適度な大きさのクッション材29を配置することで(図8参照)、身体が接触する部分の苦痛を和らげ快適に使用できるように整えた事例も挙げられる。クッション材29を装着する箇所は、凭れ支持部3の他、突端部2であってもよい。すなわち、凭れ支持部3と突端部2のうちいずれか一以上の自由端にクッション材29を装着することができる。また、前記長棚板1の凭れ支持部3以外の突端部2は、板端部に面取り加工(面取りした突端部30)を施したり可撓性を有する小さな緩衝材31を付設したりすれば安全性がより高まることが考えられる。
【0048】
使用者28が本発明の前記長棚板1を備えた小便器6を使用する際、トイレ室内の照明次第で前記長棚板1より下方の明るさに不便を覚えることがあるかも知れない。そのような場合、前記長棚板1の面下に光を照射する発光体14を設置し、例えば既存の小便器6の自動流水装置のセンサー信号と連動して点灯するなどして照明を補完すれば使用者28の満足度がより向上することが期待される(図9参照)。更にこの補完的な照明は、小便器6の受け皿7側や用を足す使用者28の手元側を明るくするため、使用者28は、放尿に一層の注意を向けられるので前記視認部4の効果と相まって飛散抑制の効果が高まり、清潔なトイレ環境の維持継続に貢献するもの考えられる。なお、発光体14としてはLEDの他、白熱電球、有機EL等が挙げられる。
【0049】
本発明の前記長棚板1は、使用者28が手荷物36を置くことができる棚、すなわち載置スペースとしての機能も有する。
【0050】
従来の小便設備に多く見られるトイレユニットの事例の模式図を図5に示す。トイレ室内の壁面15と小便器6の背面の間に各種の配管(給水管9、排臭管11、排水管12)及び配線10を通すための空間、すなわちパイプスペース24と小便器6を掛けるための垂直面を確保する目的で高さの低い壁23を増設した二重壁構造とし、その上に蓋として天板22が設置されている。多くの公共トイレではこの天板22が手荷物36を置くことのできる棚として認識され貴重な載置スペースとしての役割を担っている。
【0051】
しかしながら、この天板22は奥行きが浅く、トイレ室内の壁面15から小便器6の背面に向かって概ね150ミリメートルから200ミリメートル程度の幅で手荷物36によっては苦労する場合がある。例えば、手荷物36の手提げカバンを壁面15に貼り付けるように載置してバランスを崩して落下しないように気遣いながら小用を足すことになる。また、両手に複数の手荷物36を持っている場合、隣接者が使用する載置スペースまではみ出して置くか、或いは、いっそのこと床面16へ直に置いて小用を足すことになる。往々にしてトイレ室内の床面16は、湿っていたり衛生的に不安があったりする。このような場合、清潔さを重視する使用者28にとっては悩ましい判断を迫られることがある。
【0052】
また、隣接する小便器6との間に壁フック25や荷物棚26を設置する場合がある。使用者28によってはこれらに対しても種々の懸念が生じる。小便器6との間に設置された荷物棚26は、それをどちらが一時的に占有するかについて隣接者に対して思いを巡らせるなど一種の煩わしさを感じてしまうことがある。また、小用を足す使用者28の横側に手荷物36を置くことから放尿中の無防備な状態でその手荷物36を持ち去られる、すなわち置引き等による盗難被害に遭遇する不安を感じることも考えられる。小便器6との間に設置された壁フック25は、前記の小便器6との間に設置された荷物棚26による懸念に加えて物理的な問題、すなわち手荷物36に壁フック25に掛け置くことができる紐部や穴などが無ければそもそも使用が困難であるという制約がある。したがって、重く大きな旅行カバンやスーツケースなどは例外として、普通カバンや手提げ袋といった手荷物36を複数個、しかも簡単に載せて置けるスペースを確保することは使用者28の利便性を向上させる上で重要である。
【0053】
また、前記長棚板1の上面には前記使用者28の手荷物36の載置スペースと隣接する前記載置スペースとを区画する表示(色又は模様分けによる表示32)、境界線33、僅かな溝34、仕切物35、つい立38のうちいずれか1以上を配することができる。(図10図11参照)これらにより手荷物36があっても隣接者に対して迷惑を掛けることや必要以上に気を遣うこと無く小用を足すことが可能となる。
【0054】
以上、前記長棚板1が備える載置スペースとしての特徴は、使用者28が両手に持った複数の手荷物36を仮置きできる十分な広さを確保することができ、手荷物36が汚損される心配もない。しかも使用者28が小便器6に対峙した状態でその略正面に手荷物36を置くことができるので、盗難被害に対する心理的負荷も軽減される。このように使用者28に対してより安心して小用を足すことのできる環境を提供するという利点にも繋がる。
【0055】
一方、上述した通り、本発明の前記長棚板1に設けられた視認部4は、第二段目の切欠きとして開口した箇所でもあるが、手荷物36の載置スペースに近接するため落下の不安を覚える場合がある。これに対しては、視認部4に強化ガラスなどの透視可能な材料によって形成された板である透視板37が嵌合する構造が考えられる(図11参照)。これによって手荷物36が視認部4の開口から小便器6の受け皿7に転がり落ちる不安から解放される。
【0056】
従来、多く見られる小便器設備の施工法は、トイレ室内の壁面15と小便器6の背面の間に給水管9、配線10、排臭管11、排水管12などを通すための空間と小便器6を掛けるための垂直面を確保する目的で高さの低い壁23が増設されるという二重壁構造を採用していることは前に述べた。
【0057】
このトイレ室内の二重壁構造は、施工が容易である反面、トイレ室内の壁面15から室内空間側(x方向)へ概ね150ミリメートルから200ミリメートル程度、増設した高さの低い壁23が張り出す形になり、建物等の都合で往々にして広い空間を割り当てられないトイレ室を更に狭くする要因の一つになっていた。このような空間的な損失を回避するためにトイレ室内の壁面15に各種の配管や配線を埋設してしまう方法も考えられるが、メンテナンス性が悪化したり、トイレ改装時に建物の壁本体に手を加えることになり大掛かりな工事になってしまったりと不都合な場合もある。
【0058】
本発明の前記長棚板1を使用して前記の空間的な損失の回避について考えてみる。トイレ室内には各小便器6を連通する各種の配管及び配線10が必須であるが、これらを剥き出しの状態でトイレ室の壁面15に付設するのは美観上、好ましくない。そこで小便器6を設置するトイレ室内の側壁からもう一方の側壁までをつないで設置される前記長棚板1の直下に各種の配管及び配線10を付設する。給水管9、配線10、排臭管11を前記長棚板1の直下に、排水管12を小便器下方の隅或いは床下に敷設すれば、必ずしもトイレ室内の奥行きを部分的に占有する低い壁23を増設する必要がなくなる。これにより小便器6をトイレ室内の壁面15に略直付けすることが可能となり、前記の空間的な損失を回避又は最小化するができる。このような構造とすることで各種の配管及び配線を設置及び収納するためのパイプスペース24を確保するための二重壁構造を無くすことができ、壁面15に小便器6を直に設置して省スペースを実現してトイレ室内を広く使用することに貢献できる。ここで、トイレユニットにおける小便器6の付設に関しては、小便器6を壁面15に直付する例、又は、図示しないが別材の壁板に小便器6を掛止若しくは貼設し、この小便器6が掛止若しくは貼設された壁板を壁面15に直付する例が挙げられる。
【0059】
本来、前記長棚板1の直下に付設された各種の配管(給水管9、排臭管11)及び配線10は、小便器6で用を足す使用者28の視野から死角に位置するので完全な剥き出し状態とは言えないが、見る角度次第では視認できてしまうので美観的に十分とは言えない。そこでこれら配管類の下側から遮蔽板13で被覆してしまい、使用者28に配管類の存在を意識させないようにする。更に、これら配管類を隠蔽することで前記長棚板1をよりデザイン的に際立たせ、すっきりしたトイレ空間を演出することができる。
【0060】
一方、本発明の前記長棚板1を含む各種の配管及び配線10に関わる設備は、メンテナンス性においても利点がある。既に前記長棚板1は、一枚板又は分割自在な複数枚板の集合であって、壁面15から着脱自在であることは述べたが、もしも小便器6の基本設備が故障した場合、着脱可能な前記長棚板1を取り外して間近で修理作業をすることができる。従来の二重壁構造では上部の天板22を外して150ミリメートルから200ミリメートル程度の幅の開口部から作業しなければならず、部品や工具を壁と壁の間に落としたら拾い上げるのが大変である。
【0061】
前記長棚板1を従来の二重壁構造のトイレにそのまま適用することも考えられる。天板22、すなわち二重壁構造の低い壁23の高さが一般的な人の胸から上腹部に相当するような範囲であれば天板22を取り外してブラケット8などの補強材と共にそのまま前記長棚板1に置き換えれば、前記長棚板1の利便性や種々の利点を享受することも可能である。
【0062】
また、本発明の前記長棚板1は、小便器6が単体で設置された公共トイレや家庭内の小便用トイレ室にも適用することが可能である(図12参照)。すなわち複数の小便器6を並列する場合に限らず、洋式トイレの個室39が併設されたトイレ室内において、単独で設置する小便器6の上方に水平状態で設置してもよい。単体の小便器6の場合、プライバシー保護は特に要求されないが、凭れ支持部3による体躯の安定性確保、視認部4による放尿の飛散抑制、載置スペースの確保の必要性は変わらない。したがって、使用者28の利便性を追求するのであれば単体の小便器6への前記長棚板1の採用は、十分に検討に値すると思われる。
【0063】
ところで、この前記長棚板1をより使用し易くするためにトイレ室内の床面16の一部に勾配をつける、具体的には、使用者28が小便器6に対峙した時に立つ床面16に対して目前の小便器6に向かって下り勾配をつけること、すなわち、使用者28が立つ床面16が小便器6に向かって下り勾配であることも考えられる。使用者28が前記長棚板1を設置した小便器6に対峙して用を足そうとする際、その立ち位置の床面40がθ(>0度)の僅かな角度を持って前傾しているので使用者28の姿勢も自然に前傾して前記長棚板1に凭れ掛かり易くなる(図13参照)。したがって、傾斜した床面40との相乗効果によって、高齢の方や身体の不自由な方のみならず健常者の方々にも使用して貰える可能性が高まり、使用者全体に前記長棚板1の利点が認知されて前記長棚板1の普及がより一層、進むものと期待される。
【0064】
本発明の前記長棚板1は、同時に設置する小便器6の形状によって多少の変化が必要となるかもしれないが、前記小便器6と前記長棚板1の位置関係、特に凭れ支持部3と小便器6の受け皿7の開口部との平面視による相対位置の関係は変わらない。或いは、付設する前記長棚板1に合わせて小便器6が専用設計されることにより相乗効果が現れ、使用者28の更なる利便性の向上につながるかも知れない。
【0065】
以上、各実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施例に記載の技術、又は、その他の公知や周知の技術を組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1:長棚板
2:突端部
3:凭れ支持部
4:視認部
5:視認部の切欠きにより失われた凭れ支持部の仮想線(太い破線)
6:小便器
7:受け皿
8:ブラケット
9:給水管
10:配線
11:排臭管
12:排水管
13:遮蔽板
14:発光体
15:壁面
16:床面
17:分割した長棚板
18:分割した長棚板に設けられた凸部
19:壁面に設けられた凹部
20:枠材
21:網状部材
22:天板
23:増設した高さの低い壁(補注:二重壁構造の一部)
24:パイプスペース(補注:空間)
25:壁フック
26:荷物棚
27:仕切板
28:使用者(小人:破線、大人:二点鎖線)
29:クッション材
30:面取りした突端部(例:丸面加工)
31:緩衝材
32:色又は模様分けによる表示(補注:隣接部との対比の意)
33:境界線
34:僅かな溝
35:仕切物(例:固定された置物)
36:手荷物
37:透視板
38:つい立
39:洋式トイレの個室
40:傾斜した床面
x:x軸方向、トイレ室内の壁面から小便器に向う奥行き方向
y:y軸方向、トイレ室内の壁面に沿った横方向
z:z軸方向、トイレ室内の床面から天井へ向う高さ方向
α:凭れ支持部の先端と突端部との距離
β:平面視小便器の横幅
γ:小便器の受け皿の平面視開口部の前後方向の範囲
θ:傾斜した床面と水平面がなす角度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13