(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
A01B 35/32 20060101AFI20230509BHJP
A01B 35/00 20060101ALI20230509BHJP
A01B 33/12 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
A01B35/32
A01B35/00 C
A01B35/00 Z
A01B33/12 A
A01B33/12 Z
(21)【出願番号】P 2019185476
(22)【出願日】2019-10-08
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390010836
【氏名又は名称】小橋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸治
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-201901(JP,A)
【文献】特開2019-004776(JP,A)
【文献】特開平04-213630(JP,A)
【文献】特開2005-198602(JP,A)
【文献】特開昭55-009909(JP,A)
【文献】特開昭53-098621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 35/32
A01B 35/00
A01B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材と、
絶縁体を介して前記第1金属部材に対して着脱可能に固定され、前記第1金属部材との間で電圧が印加される第2金属部材と、
を備え、
前記第2金属部材を構成する材料のイオン化傾向は、前記第1金属部材を構成する材料のイオン化傾向よりも大きい、作業機。
【請求項2】
前記第2金属部材が、前記第1金属部材よりも高い電位を有するように前記電圧が印加される、請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記第1金属部材は、圃場の土を整畦する整畦部であり、
前記第2金属部材は、前記整畦部における前記土に接触する面に設けられる、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項4】
前記整畦部は、ステンレス鋼で構成される、請求項3に記載の作業機。
【請求項5】
複数の耕耘爪を有する耕耘ロータをさらに備え、
前記第1金属部材は、前記耕耘ロータに向かい合う面を有するカバー部材であり、
前記第2金属部材は、前記カバー部材における前記耕耘ロータに向かい合う面に設けられる、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項6】
複数の耕耘爪を有する耕耘ロータをさらに備え、
前記第1金属部材は、前記耕耘ロータを構成する爪軸である、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項7】
前記第1金属部材は、鋼、又は、鋳鉄で構成される、請求項5又は6に記載の作業機。
【請求項8】
前記第2金属部材は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、又は、アルミニウム、マグネシウムもしくは亜鉛を含む合金である、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の作業機。
【請求項9】
前記第2金属部材に電圧を印加可能な電圧印加手段を更に備えた、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の作業機。
【請求項10】
前記電圧印加手段は、バッテリ、又は、当該作業機を用いて生成された電気エネルギーから電圧を生成する電圧生成部である、請求項9に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機に関する。特に、土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場を耕す耕耘作業や畦を形成する整畦作業といった農作業を支援する作業機として、ロータ作業機や畦塗り機などが知られている。これらの農作業機は、圃場の土に接触しながら作業を行うため、作業の経過に伴って土に接触する部分には、多くの土が付着することとなる。農作業機に付着した土は、正常な作業の妨げになったり、農作業機の破損を招いたりするなど、不具合の要因ともなり得る。したがって、作業者は、定期的に土を落とす作業を行う必要があり、農作業の効率の妨げとなっていた。
【0003】
このような土落とし作業を減らすために、通電により農作業機に付着した土を落とす試みがなされている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、ロータリ作業機における耕耘ロータによる土の飛散を防ぐカバー本体に対し、絶縁体を介して電極を設け、カバー本体と電極との間に電圧を印加することにより、カバー本体への土の付着を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-201901号公報
【文献】特開平3-201902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に記載された技術は、カバー本体への土の付着を抑制するという観点で開発されたものであり、錆の発生を抑制する、すなわち防食という観点がなかった。したがって、特許文献1及び2に記載された技術は、さらに改善の余地があった。
【0006】
本発明の課題は、土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えた農作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態における作業機は、第1金属部材と、絶縁体を介して前記第1金属部材に対して着脱可能に固定され、前記第1金属部材との間で電圧が印加される第2金属部材と、を備え、前記第2金属部材を構成する材料のイオン化傾向は、前記第1金属部材を構成する材料のイオン化傾向よりも大きい。
【0008】
前記第2金属部材が、前記第1金属部材よりも高い電位を有するように前記電圧が印加されてもよい。
【0009】
上記作業機において、前記第1金属部材は、圃場の土を整畦する整畦部であってもよく、前記第2金属部材は、前記整畦部における前記土に接触する面に設けられてもよい。このとき、前記整畦部は、ステンレス鋼で構成されてもよい。
【0010】
上記作業機は、複数の耕耘爪を有する耕耘ロータをさらに備えてもよい。この場合に、前記第1金属部材は、前記耕耘ロータに向かい合う面を有するカバー部材であってもよく、前記第2金属部材は、前記カバー部材における前記耕耘ロータに向かい合う面に設けられてもよい。
【0011】
また、上記作業機が耕耘ロータを備える場合、前記第1金属部材は、前記耕耘ロータを構成する爪軸であってもよい。
【0012】
前記第1金属部材は、鋼、又は、鋳鉄で構成されていてもよい。
【0013】
前記第2金属部材は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、又は、アルミニウム、マグネシウムもしくは亜鉛を含む合金であってもよい。
【0014】
上記作業機は、前記第2金属部材に電圧を印加可能な電圧印加手段を更に備えていてもよい。このとき、前記電圧印加手段は、バッテリ、又は、当該作業機を用いて生成された電気エネルギーから電圧を生成する電圧生成部であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えた作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態の畦塗り機を走行機体に連結した状態の構成を示す上面図である。
【
図2】(A)は、本発明の一実施形態の畦塗り機の構成を模式的に示す側面図であり、(B)は、前記畦塗り機が備える整畦体の構成を示す側面図である。
【
図3】(A)は、
図2(B)に示した整畦体をA1-A2に沿って切断した断面図であり、(B)は、B1-B2に沿って切断した断面図である。(C)は、本発明の一実施形態の畦塗り機において、土の付着及び錆の発生を抑制するメカニズムを説明するための概略図である。
【
図4】(A)及び(B)は、本発明の一実施形態の畦塗り機における整畦体の変形例を示す側面図である。
【
図5】(A)は、本発明の一実施形態の畦塗り機におけるカバー部材の背面図であり、(B)は、カバー部材の正面図である。
【
図6】(A)は、
図5(A)に示した背面板をC1-C2に沿って切断した断面図であり、(B)は、D1-D2に沿って切断した断面図である。
【
図7】(A)は、本発明の一実施形態のロータリ作業機の構成を示す背面図であり、(B)は、ロータリ作業機の構成を示す右側面図である。
【
図8】本発明の一実施形態のロータリ作業機における電極の構成を示す断面図である。
【
図9】(A)は、本発明の一実施形態のロータリ作業機における爪軸の一部の構成を示す拡大図であり、(B)は、爪軸を軸方向に沿って見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態における作業機について説明する。但し、本発明の作業機は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
なお、本発明の一実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の記号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の構成等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0019】
本願の明細書及び特許請求の範囲(以下「本明細書等」という。)において、「上」は圃場から垂直に遠ざかる方向を示し、「下」は圃場に向かって垂直に近づく方向を示す。また、「前」は作業機を基準として走行機体が位置する方向を示し、「後」は前とは180°反対の方向を示す。また、「左」は作業機を基準として走行機体が位置する方向に向かったときの左を示し、「右」は左とは180°反対の方向を示す。
【0020】
本明細書等において、「電圧」は、接地電位(アース)を基準とした「電位」に相当する。つまり、「電圧を印加する」、「電圧を供給する」といった表現は、金属部材(農作業機の構成パーツや電極など)の電位と接地電位との間に、所定の電位差を形成することを意味する。
【0021】
<第1実施形態>
本発明の一実施形態の作業機として、土の付着及び錆の発生を防止する機能を備えた畦塗り機100の構成について、
図1乃至
図3を用いて説明する。
【0022】
(1-1.畦塗り機100の構成)
図1は、畦塗り機100を走行機体50に連結した状態の構成を示す上面図である。
図2(A)は、畦塗り機100の構成を示す側面図である。
【0023】
図1及び
図2(A)に示すように、畦塗り機100は、装着部110、連結部150、整畦体120、及び、土盛り部140aを備えている。なお、本発明の一実施形態において、整畦体120、及び土盛り部140aをまとめて作業部と呼ぶ場合がある。
【0024】
装着部110は、ロアリンク連結部111a、111b、トップリンク連結部112、ヒッチフレーム113、及び入力軸114を備えるとともに、トラクタ等の走行機体50のリンク機構60(例えば3点リンク機構)に装着される。なお、畦塗り機100と走行機体50との連結は、走行機体50の3点リンクに装着されるオートヒッチフレームを介してもよい。ヒッチフレーム113は、入力軸114に伝達された動力を連結部150の伝動機構に伝達する機構を備えるとともに、連結部150に連結される。入力軸114は、走行機体50のPTO軸にユニバーサルジョイント等の伝動継手を介して接続され、走行機体50から動力を伝達される。
【0025】
連結部150は、リンク部材131、オフセットフレーム132、オフセット制御用シリンダ133及び作業方向制御用シリンダ134を備える。また、連結部150は、一端が装着部110のヒッチフレーム113に支持され、他端が整畦体120及び土盛り部140aに取り付けられた部材であり、装着部110と整畦体120及び土盛り部140aを連結する。リンク部材131は、一端が装着部110に対して回動可能に支持され、他端がリヤフレーム170に対して回動可能に支持された部材であり、整畦体120の作業位置を制御する部材である。オフセットフレーム132は、整畦体120に動力を伝達する伝動手段を備えるとともに、一端はヒッチフレーム113に取り付けられ、他端は作業部と接続される。
【0026】
オフセットフレーム132とリンク部材131とは平行に配置され、これらとヒッチフレーム113及びリヤフレーム170で平行リンク機構を形成している。この平行リンク機構により、作業部をオフセット移動させることができる。即ち、走行機体50から畦塗り機100を任意の位置にオフセットし、畦を形成することができる。なお、連結部150の揺動に対して整畦体120の作業方向は変化しない。即ち、畦を整畦する作業面を維持したまま整畦体120のオフセット移動が可能となる。
【0027】
また、本発明の一実施形態においては、オフセット制御用シリンダ133及び作業方向制御用シリンダ134の制御を容易化するために平行リンク機構を採用しているが、本発明の実施態様としては、オフセット制御用シリンダ133と作業方向制御用シリンダ134を独立して制御するように構成することも可能である。このような平行リンク機構を構成しない実施態様の場合でも以下の説明と同様の制御が可能である。
【0028】
整畦体120は、回転軸R120を中心として回転自在に支持された略円錐台形状の法面整畦部121と、法面整畦部121の頂部に取付基部(図示を省略)を介して取り付けられた上面整畦部122とを備える。整畦体120は、オフセットフレーム132の下側に配置された伝動支持ケース(図示を省略)内の動力伝達機構を介して回転動力が伝達されるように構成されるとともに、走行機体50の側方位置に畦を形成する。具体的には、法面整畦部121及び上面整畦部122は、圃場の土を整畦する部材である。法面整畦部121は、後述する土盛り部140などによって切り崩された旧畦又は供給された土に接触して新畦の法面を整畦し、上面整畦部122は、後述する土盛り部140などによって切り崩された旧畦又は供給された土に接触して新畦の上面を整畦する。
【0029】
本実施形態の法面整畦部121は、複数の整畦板171によって構成される。複数の整畦板171は、例えば、ステンレス鋼で構成される金属部材である。複数の整畦板171には、それぞれ複数の電極172が設けられている。複数の電極172は、例えば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、又は、それらの金属を含む合金で構成される金属部材である。複数の電極172は、法面整畦部121の表面側、すなわち法面整畦部121における土に接触する面の側に、絶縁体(図示せず)を介して着脱可能に固定されている。
【0030】
後述するように、本実施形態の畦塗り機100は、法面整畦部121と電極172との間に電圧が印加されることにより、法面整畦部121における土に接触する面への土の付着が抑制される。また、畦塗り機100は、電極172を構成する金属材料のイオン化傾向が、法面整畦部121を構成する金属材料のイオン化傾向よりも大きい。そのため、電極172を陽極とし、整畦板171を陰極とする回路を構成することにより、電極172が腐食する一方で、相対的に整畦板171が防食される。つまり、法面整畦部121の錆の発生が抑制される。整畦体120の具体的な構成については後述する。
【0031】
電源部200は、整畦板171と電極172との間に電圧を印加する機能を有する。電源部200の正極は、第1の配線202を介して電極172に電気的に接続される。電源部200の負極は、第2の配線204を介して整畦板171に電気的に接続される。この場合、整畦体120は、畦塗り作業の際に回転する回転体であるため、電源部200と整畦板171との電気的接続、及び、電源部200と電極172との電気的接続には、公知のスリップリング(回転体に外部から電力や電気信号を伝達することができる回転コネクタ)を用いた接続方法を用いればよい。スリップリングを用いた接続方法については、公知の技術であるため、ここでの説明を省略する。
【0032】
電源部200は、畦塗り機100に設けられていてもよい。この場合、電源部200は、例えば、バッテリであってもよいし、畦塗り機100を用いて生成された電気エネルギーから電圧を生成する電圧生成部であってもよい。ただし、上述の例に限らず、電源部200は、走行機体50に設けられていてもよい。電源部200が走行機体50に設けられている場合、電源部200は、バッテリであってもよいし、走行機体50を用いて生成された電気エネルギーから電圧を生成する電圧生成部であってもよい。この場合、走行機体50に設けられた電源部200から、畦塗り機100に対して第1の配線202及び第2の配線204が引き込まれ、整畦板171及び電極172に接続されることとなる。
【0033】
本明細書では、上述のバッテリ、電圧生成部といった2つの金属部材の間に電圧を印加する機能を有する手段を電圧印加手段と呼ぶ場合がある。また、バッテリ、電圧生成部に限らず、2つの金属部材の間に電圧を印加する機能を有する手段であれば、例えば金属部材に接続された端子部や配線を電圧印加手段と呼ぶ場合もある。
【0034】
なお、電源部200から整畦板171及び電極172に電圧を印加する構成は、
図2(A)を用いて説明した構成に限定されない。すなわち、電極172を陽極とし、整畦板171を陰極とする回路を構成できれば、電極172と整畦板171との間に電圧を印加する手段を問わない。
【0035】
土盛り部140は、圃場の土を掘り起こし、又は、圃場の土を削り、掘り起こした土や削った土、及び、巻き上げられた土を砕土し、整畦体120の前方に掘り起こした土や削った土を供給する。例えば、土盛り部140としては、複数の耕耘爪141を有する耕耘ロータ140aと、耕耘ロータ140aに巻き上げられた土を圃場に戻すカバー部材140bとを含む、ロータリ耕耘型の処理機構を採用することができる。
【0036】
また、整畦体120の近傍には、整畦体120の作業位置を検出する作業位置検出手段としての位置センサ160が備えられてもよい。位置センサ160は、支持ケース(図示を省略)から取り付けアーム161を介して整畦体120の後方に配置されている。位置センサ160は、ポテンショメーターに一端が固定されたセンサロッド162で構成されている。このセンサロッド162の位置によって法面整畦部121と畦の法面との距離を検出することができる。また、位置センサ160は、画像認識用の撮像素子であってもよい。この場合、位置センサ160には、例えば測距イメージセンサが用いられる。
【0037】
また、整畦体120の作業方向を検出する作業方向検出手段として角度センサ(図示を省略)が備えられてもよい。この場合、角度センサは、連結部150に対する整畦体120の相対的な方向変化を検出するものではなく、整畦体120の単独の変化を検出するものとすることが好ましい。例えば、角度センサとして、オフセットフレーム132内の伝動軸の周囲にジャイロセンサを配置してもよい。
【0038】
(1-2.整畦体120の構成)
図2及び
図3を参照し、整畦体120の具体的な構成について説明する。
図2(B)は、整畦体120構成を示す側面図である。
【0039】
図2(B)に示されるように、整畦体120は、回転軸R120を中心に矢印の方向に回転しながら土に接触して畦を整畦する作業を行う。すなわち、整畦体120は、回転して畦に土を塗り込みながら、畦を整畦する。整畦体120は、法面整畦部121と、法面整畦部121にボルト締結(図示を省略)された上面整畦部122とを備える。法面整畦部121は、整畦板171、電極172、第1の絶縁体173、及び第2の絶縁体174を備える。
図2(B)に示される例では、法面整畦部121は、複数の整畦板171を連結して構成される。例えば、法面整畦部121は8枚の整畦板171を連結して構成される。複数の整畦板171は、例えば、複数の整畦板171のそれぞれを溶接により直接的に接続される。
【0040】
複数の整畦板171のそれぞれは、複数の電極172を備える。複数の電極172は、それぞれ、整畦板171における土と接触する面(後述する土塗込み面)に設けられる。また、本明細書等においては、複数の電極172をまとめて電極群と呼ぶ場合がある。なお、整畦板171及び電極172の面積は、整畦板171に対する電極172の配置や、整畦板171と電極172との間に印加する電圧に応じて、適宜変更可能である。
【0041】
また、隣接する2つの電極172の間の距離は、側面視において、同一又は略同一であってもよい。隣接する2つの電極172の間の距離が同一又は略同一である場合、整畦板171と各電極172との間に発生する電界を均一にすることができるため、整畦板171及び電極172に付着した土に対し、満遍なく電流を流すことができる。その結果、法面整畦部121に土が付着することを抑制することができる。
【0042】
また、本発明の一実施形態において、電極172の形状は多角形(具体的には、四角形)である例を示したが、この例に限られるものではない。例えば、電極172の形状は、湾曲部分を有していてもよく、例えば楕円状でもよい。また、電極172の配置についても、
図2(B)に示す配置に限定されるものではない。電極172の形状や配置は、圃場の土質、水分条件、畦塗り機100の構成等に応じて適宜決定すればよい。
【0043】
また、本発明の一実施形態における法面整畦部121は、リング状部材(図示を省略)で覆われてもよい。リング状部材は、例えば、
図2(B)に示された法面整畦部121の最外縁を覆うように設けられる。法面整畦部121がリング状部材で覆われることで、法面整畦部121の縁が保護され、法面整畦部121が地面に当接したときの摩耗、又は損傷を防ぐことができる。
【0044】
また、
図2においては、法面整畦部121は8枚の整畦板171を連結して構成される例を示したが、法面整畦部121の枚数は
図2に示した枚数に制限されるものではない。整畦板171は、例えば、2種類の整畦板の組み合わせを1つの単位として、2種類の整畦板が交互に連結されることによって構成されてもよい。また、法面整畦部121は、一体で構成することも可能であり、例えば、一枚の板をプレス加工した一体型プレス構造としてもよい。
【0045】
なお、本発明の一実施形態では、複数の整畦板171のそれぞれは、溶接により直接的に溶接されている例を示しているが、この構成に限定されるものではない。例えば、複数の整畦板171のそれぞれは、連結部材を介して間接的に連結するようにしてもよい。この場合、各整畦板171と連結部材とを溶接すればよい。また、接合手段として溶接を例に挙げて説明したが、この構成に限定されるものではない。ボルト及びナット等を用いた他の固着部材を用いて接合することにより、各整畦板同士を連結することも可能である。
【0046】
続いて、
図3(A)及び(B)を用いて、整畦体120の断面について説明する。
図3(A)は、
図2(B)に示した法面整畦部121をA1-A2に沿って切断した断面図である。
図3(B)は、
図2(B)に示した法面整畦部121をB1-B2に沿って切断した断面図である。
【0047】
図3(A)に示されるように、法面整畦部121は、例えば、複数の整畦板171、複数の電極172、第1の絶縁体173、第2の絶縁体174、固着部材175、及び端子部176を有する。
【0048】
整畦板171には、例えば、凹部171aが設けられ、この凹部171aの内側には、電極172を取り付けるための開口171bが設けられている。第1の絶縁体173及び第2の絶縁体174は、凹部171aの内側において開口171bの端部を挟むように積層配置される。電極172は、凹部171aの内側において、第1の絶縁体173及び第2の絶縁体174を介して端子部176と向かい合うように配置され、固着部材175により着脱可能に固定されている。
図3(A)において、固着部材175は、例えば、導電性を有するボルト175-1及びナット175-2である。
【0049】
図3(A)に示されるように、第1の絶縁体173及び第2の絶縁体174が、開口171bの端部を挟むように積層配置されているため、電極172と端子部176とは完全に絶縁分離され、短絡することはない。したがって、端子部176を介して電極172に正の電圧を印加し、
図3(B)を用いて後述する端子部178を介して整畦板171に負の電圧を印加すれば、電極172を陽極とし、整畦板171を陰極とする回路を構成することができる。
【0050】
また、前述のとおり、電極172は、整畦板171における畦(すなわち、土)と接触する面に設けられる。このような畦と接触する面は、土塗込み面とも呼ばれる。本実施形態では、
図3(A)に示されるように、電極172の表面が、整畦板171の土塗込み面171cと略面一となるように(又は、僅かにへこむように)構成されている。さらに、本実施形態では、電極172の表面にも凹部172aが設けられており、ボルト175-1の頂部が凹部172aの内側に配置される。つまり、ボルト175-1の頂部の表面も整畦板171の土塗込み面171cと略面一となるように構成されている。すなわち、本実施形態の法面整畦部121は、整畦板171の土塗込み面171cに電極172が設けられた構造であるにもかかわらず、極力凹凸が低減された構成となっている。これにより、整畦板171に対して電極172を取り付けたとしても、それに起因する整畦状態の悪化を防止することができる。
【0051】
なお、整畦状態の悪化を防止するためには、少なくとも整畦作業時において畦に当接し、畦に対して土を塗り込む整畦板171の土塗込み面171cに対して、電極172及び固着部材175(本実施形態の場合、ボルト175-1の頂部)の表面が略面一に構成されていればよい。法面整畦部121は、均一な段差を周方向に複数設けて構成することも可能であるが、この場合、法面整畦部121(複数の整畦板171)の全表面が土塗込み面171cとして機能するわけではない。例えば、法面整畦部121を複数の整畦板171で構成する場合、整畦板171の一方の端を、所定の段差を持つように折り曲げておき、この折り曲げ部分を隣接する整畦板171の折り曲げていない方の一端と接合することにより、複数の段差付きの法面整畦部121を構成することができる。この場合、各整畦板171は、回転方向上流側になるほど畦に対して徐々にせり出すように構成されている。このような段差付きの法面整畦部121の段差部分には、土塗込み面171cとして機能しない部分が生じることが考えられる。この法面整畦部121の土塗込み面171cとして機能しない部分に電極を配置するときには、畦塗り作業時に畦に電極172、第1の絶縁体173、及び固着部材175が接触しないよう構成する限り、整畦板171に対してこれらが突出していてもよい。なお、本実施形態では、固着部材175と電極172を別体で構成したが、固着部材175は、電極172と一体構造としてもよい。
【0052】
また、電極172には、固着部材175によって、端子部176が、着脱可能に固定されている。具体的には、端子部176は、第2の絶縁体174とナット175-2との間に設けられている。端子部176は、
図2(A)に示された第1の配線202に電気的に接続され、電源部200から電圧を供給されるように構成されている。電極172は、電源部200から整畦板171よりも高い電位となるように電圧を供給されていればよく、電極172の少なくとも1箇所が、1つの固着部材175によって、端子部176に着脱可能に固定されていればよい。本明細書等において、電極172、固着部材175、及び端子部176をまとめて第1の電極と呼ぶ場合があり、電極172、または、端子部176の何れかを第1の電極と呼ぶ場合もある。
【0053】
なお、法面整畦部121に設けられた複数の電極172のそれぞれは、
図3(A)に示した電極172と同様の構成で整畦板171に取り付けられている。
【0054】
本発明の一実施形態において、電極172は、第1の絶縁体173及び第2の絶縁体174を介して、整畦板171にボルト175-1及びナット175-2で着脱可能固定され、交換可能に構成されている。前述のように、本実施形態の法面整畦部121は、電極172を陽極とし、整畦板171を陰極とする回路を構成する。そのため、法面整畦部121は、表面に土が付着しにくくなるだけでなく、電極172が優先的に腐食することにより、相対的に整畦板171が防食される。したがって、電極172が腐食により小さくなったり劣化したりして、土に電流を流しにくくなった場合、また、電極172が破損し、電極172に電圧を供給することが困難になった場合などに、電極172を交換することができる。その結果、本発明の構成によって、法面整畦部121一式を交換する必要が無いため、交換のコストを抑えることが可能な整畦部を備えた畦塗り機を提供することができる。
【0055】
本発明の一実施形態において、整畦板171と電極172は、第1の絶縁体173及び第2の絶縁体174によって、互いに電気的に絶縁される例を示したが、ここで示された構成に限定されるものではない。例えば、整畦板171と電極172は、3つ以上の絶縁体で互いに電気的に絶縁されてもよく、第1の絶縁体173だけで互いに電気的に絶縁されてもよい。また、第1の絶縁体173及び第2の絶縁体174は、例えば、ゴム状の部材であってもよく、樹脂絶縁膜のような絶縁シートであってもよい。また、電極172における整畦板171と向かい合う面のみを樹脂絶縁膜でコーティングしてもよい。
【0056】
図3(B)は、法面整畦部121において、電極172が備えられていない部分の断面図である。具体的には、
図3(B)は、法面整畦部121と
図2(A)に示した第2の配線204との接続部分の断面図である。
図3(B)に示されるように、法面整畦部121は、例えば、複数の整畦板171、固着部材177、及び端子部178を有する。この場合、端子部178が第2の配線204と電気的に接続される。なお、固着部材177は、整畦板171にそれぞれ設置してもよいし、法面整畦部121に1つでもよい。
【0057】
図3(B)において、固着部材177は、例えば、溶着ボルト177-1及びナット177-2で構成される。溶着ボルト177-1は、頂部が整畦板171に対して溶着されている。また、複数の整畦板171は、互いに溶着されている。端子部178は、
図2(A)に示された第2の配線204に電気的に接続され、電源部200から電圧を供給されるように構成されている。整畦板171は、電極172よりも低い電位となるように電圧が印加されていればよく、整畦板171の少なくとも1箇所に1つの固着部材177によって、1つの端子部178が着脱可能に固定されていればよい。本明細書等において、整畦板171、固着部材177、及び端子部178をまとめて第2の電極と呼ぶ場合があり、整畦板171、または、端子部178の何れかを第2の電極と呼ぶ場合もある。
【0058】
本発明の一実施形態において、整畦板171と電極172への電圧印加方法は、電極172に対して整畦板171よりも高い電圧を印加し、土を媒体として電極172から整畦板171に向かって電流が流れる回路を構成することが可能な方法であればよい。例えば、整畦板171を接地電圧とし、電極172に対して正の電圧を印加してもよい。また、例えば、パルス状の電圧が整畦板171と電極172に印加されてもよく、直流電圧が整畦板171と電極172に印加されてもよい。整畦板171と電極172への電圧印加方法は、圃場の土質、水分条件、畦塗り機の構成などを考慮し、適宜決定されればよい。
【0059】
なお、整畦板171と電極172との間に印加する電圧は可変としてもよい。例えば、電源部200と整畦板171及び電極172とを接続する配線間に、可変電圧器を設け(すなわち、第1の配線202及び第2の配線204に可変電圧器を介在させ)、電源部200と整畦板171及び電極172との間に印加する電圧を調整する構成とすることも可能である。本明細書等において、上述の可変電圧器も含めて電圧印加手段と呼ぶ場合もある。
【0060】
以上のとおり、本発明の一実施形態における畦塗り機100は、整畦体120(具体的には、法面整畦部121)を構成する整畦板171と電極172との間に電圧が印加されると、整畦板171に付着した土を介して電流が流れる回路が構成される。このような回路が構成されると、後述するメカニズムに基づいて、整畦板171への土の付着を抑制することができる。さらに、本実施形態では、電極172として、整畦板171よりもイオン化傾向が大きい金属材料で構成される電極を用い、電極172を陽極とする回路を構成する。これにより、電極172がいわゆる犠牲陽極として機能し、整畦板171の腐食反応の進行を抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えた農作業機を提供することができる。
【0061】
(1-3.土の付着及び錆の発生を抑制するメカニズム)
図3(C)は、本発明の一実施形態における畦塗り機100において、土の付着及び錆の発生を抑制するメカニズムを説明するための概略図である。なお、
図3(A)及び
図3(B)に使用した符号も適宜用いて説明する。
【0062】
図3(C)に示されるように、整畦板171は、固着部材177、端子部178、及び第2の配線204を介して、電源部200の負極に接続される。電極172は、固着部材175、端子部176、及び第1の配線202を介して、電源部200の正極に接続される。すなわち、整畦板171に供給される電圧は、電極172に供給される電圧よりも小さい電圧である。換言すれば、電極172は、整畦板171よりも高い電位を有することとなる。
【0063】
また、本実施形態では、電極172を構成する金属材料として、整畦板171を構成する金属材料よりもイオン化傾向が高い材料を用いる。例えば、整畦板171を構成する金属材料としては、ステンレス鋼を用いることができる。これに対し、電極172を構成する金属材料としては、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、又は、アルミニウム、マグネシウムもしくは亜鉛を含む合金を用いることができる。勿論、これらの金属材料は一例であり、整畦板171を構成する金属材料に応じて、電極172を構成する金属材料を決定すればよい。
【0064】
なお、本実施形態では、整畦板171と電源部200とを第2の配線204で接続する構成としているが、整畦板171(法面整畦部121)と上面整畦部122とはボルトにより電気的に接続されているため、電源部200と上面整畦部122とを配線を用いて接続する構成とし、上面整畦部122を介して整畦板171に電圧を印加する構成としてもよい。
【0065】
図3(C)に示すように、整畦板171にマイナスの電圧(電位)を供給し、電極172にプラスの電圧(電位)を供給することで、法面整畦部121における土の付着及び錆の発生を抑制するメカニズムは、以下のように考えられる。
【0066】
一般的に、土210の粒子は、マイナス電荷を帯びており、その表面には、例えば、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)等の陽イオンを含んだプラス電荷を帯びた水が存在している可能性が高いと考えられる。畦塗り機100によって、作業が開始されると、整畦板171と電極172との間には電圧が印加され、整畦板171にはマイナスの電位が供給される。ここに、水分を含んだ土210が整畦体120に付着すると、電気浸透が生じ、プラスに帯電した水が電極172側から整畦板171側に移動する。
【0067】
すなわち、畦塗り機100によって、作業が続けられると、電極172から整畦板171に向かって電気浸透流が生じ、整畦板171の表面に水膜212が形成される。そして、この整畦板171の表面に形成された水膜212によって、整畦板171に付着した土210が剥がれ易くなると考えられる。
【0068】
さらに、前述のとおり、電極172が電源部200の正極に接続され、整畦板171が電源部200の負極に接続されるため、電極172は陽極、整畦板171は陰極として機能する。また、電極172の材料が整畦板171の材料よりもイオン化傾向の高い金属材料であるため、電極172は、整畦板171よりも腐食しやすい(イオン化しやすい)状態におかれる。つまり、強制的に電極172が腐食する構成となっているため、相対的に整畦板171の腐食が抑制される(すなわち、錆の発生が抑制される)。
【0069】
以上のとおり、本実施形態では、整畦板171と電極172との間に電圧を印加するという簡易な構成により、整畦板171の表面に対する土の付着を抑制するとともに、電極172を犠牲陽極として作用させて錆の発生を抑制することができる。さらに、電極172を整畦板171に対して着脱可能とすることにより、電極172が小さくなったり劣化したりした場合に、容易に交換することが可能である。このように、本実施形態によれば、土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えた農作業機を提供することができる。
【0070】
(1-4.変形例1)
変形例1では、本発明の一実施形態における電極172の変形例について、
図4(A)を用いて説明する。
図1乃至
図3と同一、又は類似する構成の説明は、省略されることがある。
【0071】
図4(A)には、電極172の一例として、蛇行形状の電極180を示す。蛇行形状の電極180は、
図2(B)に示された複数の電極172が1つに接続された電極である。それ以外の構成は、
図2(B)に示された構成と同様であるからここでの説明は省略される。本発明の一実施形態において、蛇行形状の電極とは、
図4(A)に示されるように、一端から他端にかけて、電極が延伸する第1の方向に対して左に湾曲し、電極が延伸する第2の方向に対して右に湾曲する電極の形状のことである。
【0072】
複数の電極172が1つの蛇行形状の電極180になることで、複数の電極172を整畦板171のそれぞれに配置する必要がなくなり、1つの蛇行形状の電極180を整畦板171のそれぞれに配置すればよいため、法面整畦部121への電極172の形成が容易になる。その結果、整畦体120の製造が容易になり、製造のコストを抑制することができる。
【0073】
(1-5.変形例2)
変形例2では、本発明の一実施形態における電極172の変形例について、
図4(B)を用いて説明する。
図1乃至
図4(A)と同一、又は類似する構成の説明は、省略されることがある。
【0074】
図4(B)に示されるように、電極181は、
図2(B)に示された複数の電極172と比較して、電極が1つになり、かつ、隣接する整畦板171の近傍に配置された例が示される。それ以外の構成は、
図2(B)に示された構成と同様であるからここでの説明は省略される。
【0075】
複数の整畦板171は、互いに重なる領域(以下「隣接部70」と呼ぶ。)を有し、互いに隣接する整畦板171同士は、例えば、溶接で連結されている。畦塗り機100によって畦塗り作業が行われると、整畦体120は、
図4(B)に示される回転方向に回転する。各整畦板171は、回転方向の下流側から上流側に向かって、徐々に畦に向かって張り出すような湾曲面を有している。各整畦板171の隣接部70は段差になっており、回転方向上流側に位置する整畦板171の下流端に対し、回転方向下流側に位置する整畦板171の上流端が畦に向かってせり出す(突出する)ように構成されている。したがって、整畦時の整畦体120の回転に伴い、各整畦板171は畦に対して徐々に強く当接してゆくようになる。そのため、各整畦板171は、その下流側に比べ、上流側に土が付着しやすくなっている。
【0076】
変形例2では、電極181は、各整畦板171の回転方向下流側(すなわち、整畦作業時において、畦に当接しない、若しくは畦に対する当接力が弱い領域)に配置される。この場合も電極181は、電源部200の正極に接続され、整畦板171は、電源部200の負極に接続される。したがって、上述のメカニズムに基づき、電極181から整畦板171に向かって電気浸透流が生じ、整畦板171の表面(具体的には、整畦板171の上流側)に水膜が形成される。つまり、整畦板171の上流側に付着した土が剥がれ易くなる。このように、
図4(B)に示す例では、土が付着しやすい整畦板171の上流側に水膜が形成されるように電極181が配置されているため、効率的に整畦板171への土の付着を抑制することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態によって、土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えた畦塗り機を提供することができる。本実施形態の畦塗り機は、散水装置を備える必要がないため、構造を簡素化することができる。また、畦塗り機に散水装置を備えなくてもよいため、散水装置の水がなくなることにより畦の形成不良が生じることもなく、また、散水装置に水を補給するための作業中断もなくなるため、作業時間を短縮できる。
【0078】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で説明した畦塗り機100において、土盛り部140のカバー部材140bに対して、陽極として機能する電極230を設けた例について説明する。なお、必要に応じて第1実施形態と同じ構成については、同じ符号を参照して説明する。
【0079】
図5(A)は、本発明の一実施形態の畦塗り機100におけるカバー部材140bの背面図であり、
図5(B)は、カバー部材140bの正面図である。前述のとおり、土盛り部140は、複数の耕耘爪141を有する耕耘ロータ140aと、耕耘ロータ140aが巻き上げた土を圃場に戻すカバー部材140bとを備える。したがって、カバー部材140bは、耕耘ロータ140aの回転によって生じる土の飛散を防ぐために、耕耘ロータ140aの周囲を囲むような形状となっている。
【0080】
具体的には、カバー部材140bは、後方側への土の飛散を防ぐ背面板140ba、前方側への土の飛散を防ぐ正面板140bb、及び、側方側や上方側への土の飛散を防ぐ側面板140bcを有する。本実施形態では、背面板140baに対して電極230が設けられている。本実施形態の畦塗り機100は、第1実施形態と同様に、電極230が電源部200の正極に接続され、背面板140baが電源部の負極に接続される。なお、本実施形態では、複数の電極230を背面板140baに設けた例を示しているが、通常、背面板140ba、正面板140bb及び側面板140bcは電気的に接続されているため、正面板140bb又は側面板140bcに設けてもよい。
【0081】
図6(A)は、
図5(A)に示した背面板140baをC1-C2に沿って切断した断面図であり、
図6(B)は、D1-D2に沿って切断した断面図である。
図6(A)に示されるように、背面板140baには凹部140ba-1が設けられ、その内側に、電極230が着脱可能に固定される。本実施形態では、電極230として、ボルト一体型の電極を用いている。具体的には、電極230は、頂部230aが電極として機能すると共に、ボルト部230bが固着部材として機能する。
【0082】
凹部140ba-1の内側において、電極230の頂部230aは、第1の絶縁体231及び第2の絶縁体232を介して端子部233と向かい合うように配置される。ボルト部230bは、第1の絶縁体231、第2の絶縁体232及び端子部233を貫通して配置された状態で、ナット234が装着される。端子部233には配線235が接続されており、配線235は、電源部200の正極に電気的に接続される。
【0083】
他方、
図5(A)に示されるように、背面板140baは、端子部236及び配線237を介して電源部200の負極に電気的に接続される。端子部236は、例えばボルト及びナットを含む固着部材238を用いて背面板140baに対して着脱可能に固定される。ただし、端子部236は、固着部材238を用いずに背面板140baに対して溶着してもよい。
【0084】
なお、第1実施形態と同様に、電極230は、頂部230aの表面が背面板140baの表面と略面一となるように配置される。これにより、背面板140baに対する土の付着を抑制することができる。
【0085】
本実施形態においても、電極230の構成材料としては、背面板140baの構成材料よりもイオン化傾向の大きい金属材料を用いる。本実施形態では、電極230の構成材料として亜鉛を用い、背面板140baの構成材料として鋼を用いる。ただし、この例に限らず、電極230の構成材料としては、第1実施形態と同様に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、又は、アルミニウム、マグネシウムもしくは亜鉛を含む合金を用いることができる。
【0086】
以上のとおり、本実施形態では、電極230が電源部200の正極に接続され、カバー部材140b(
図5の例では背面板140ba)が電源部200の負極に接続されるため、電極230は陽極、カバー部材140bは陰極として機能する。したがって、本実施形態の畦塗り機100は、第1実施形態と同様に、カバー部材140bと電極230との間に電圧を印加するという簡易な構成により、カバー部材140bの表面に対する土の付着を抑制するとともに、電極230を犠牲陽極として作用させて錆の発生を抑制することができる。
【0087】
なお、本実施形態を第1実施形態と組み合わせて実施することも可能である。その場合、電源部200の負極は、整畦体120とカバー部材140bとで共用することができる。また、通常、カバー部材140bは接地されるため、電源部の負極を接地電圧とし、負極とカバー部材140bとが電気的に接続されていてもよい。第1実施形態と組み合わせる場合には、整畦体120をカバー部材140bに電気的に接続すれば、電源部の負極に繋がなくとも接地電圧を印加することができる。
【0088】
<第3実施形態>
本発明の一実施形態の作業機として、土の付着及び錆の発生を防止する機能を備えたロータリ作業機300の概略の構成について、
図7及び
図8を用いて説明する。
図7(A)は、本発明の一実施形態のロータリ作業機300の構成を示す背面図であり、
図7(B)は、ロータリ作業機300の構成を示す右側面図である。
【0089】
図7(A)及び
図7(B)に示されるように、本実施形態のロータリ作業機300は、基本的な構成として、装着部310、ギヤボックス312、メインフレーム314、チェーンケース316、サポートフレーム318、耕耘ロータ320、シールドカバー322、整地体(エプロン)324、延長整地体(延長レベラ)326、及び整地体加圧機構328を備えている。ただし、
図7(A)及び
図7(B)に示す構成は一例に過ぎず、この構成に限定されるものではない。
【0090】
装着部310は、ロータリ作業機300の前方に設けられている。詳細な説明は省略するが、具体的には、中央付近に設けられたトップマストや左右2箇所に設けられたロアリンク連結部を含む。装着部310を走行機体(図示せず)の3点リンクヒッチ機構に連結することにより、ロータリ作業機300は、走行機体の後部に昇降可能に装着される。なお、ロータリ作業機300と走行機体との連結は、走行機体の3点リンクヒッチ機構に装着されるオートヒッチフレームを介してもよい。
【0091】
ロータリ作業機300の前方中央部に設けられたギヤボックス312には、PTO軸を介して走行機体から動力が伝達される。メインフレーム314は、ロータリ作業機300の骨格となるフレームであり、ギヤボックス312の左右両側に向かって、走行機体の進行方向に対して略直交する方向(左右方向)に延設されている。メインフレーム314は、左右両端において、それぞれチェーンケース316及びサポートフレーム318に連結される。ギヤボックス312とチェーンケース316との間に配置されたメインフレーム314の内部には、伝動シャフト(図示せず)が内装されている。この伝動シャフトにより、ギヤボックス312からチェーンケース316内のチェーンに対して耕耘ロータ320を回転させるための動力が伝達される。
【0092】
図7(B)に示されるように、耕耘ロータ320は、回転自在に軸支された爪軸320aと、爪軸320aに対して装着手段(フランジやホルダ等)を用いて装着された複数の耕耘爪320bとを有する。図示は省略するが、爪軸320aは、チェーンケース316とサポートフレーム318との間に軸支されている。ここで、走行機体から入力された動力は、ギヤボックス312内で変速され、メインフレーム314内の伝動シャフト、チェーンケース316内のチェーン等を経由して爪軸320aに伝達され、耕耘ロータ320の回転運動へと変換される。これにより、爪軸320aの回転に伴って爪軸320aの周囲に配置された複数の耕耘爪320bが一斉に回転し、圃場の土を砕土及び反転させることができる。
【0093】
シールドカバー322は、メインフレーム314に沿って設けられ、耕耘ロータ320の上方を覆うように配置される。シールドカバー322は、耕耘ロータ320によって巻き上げられた土の上方への飛散を防止する役割を有する。
【0094】
整地体324は、耕耘ロータ320の後方に配置され、シールドカバー322に対して回動可能に接続されている。整地体324は、耕耘ロータ320によって巻き上げられた土の後方への飛散を防止する役割を有するとともに、圃場の整地作業を行う整地部材としての役割も有する。
【0095】
図7(A)において、延長整地体326は、整地体324の左右両端に上下方向に回動可能に接続され、必要に応じて左右方向に展開したり格納したりすることができる。延長整地体326は、整地体324と同様に、圃場表面をより平坦にする整地部材として機能する。したがって、本実施形態のロータリ作業機300は、延長整地体326を展開することにより、整地体324よりも外側の範囲まで整地することが可能である。
【0096】
整地体加圧機構328は、メインフレーム314と整地体324との間に架設され、整地体324に対して下方向に加圧したり加圧を解除したりする機構である。例えば、整地体加圧機構328をオン状態とすると、整地体324に対して下方向に力が加わり、整地体324が圃場に対して押し付けられる。これにより、整地体324による圃場の整地性能が向上する。逆に、整地体加圧機構328をオフ状態とすると、整地体324は自重のみで圃場の整地を行う。
【0097】
以上の構成を有する本実施形態のロータリ作業機300は、耕耘ロータ320を支えるサポートフレーム318に対して土の付着及び錆の発生を抑制する機能を備えている。サポートフレーム318の内側(耕耘ロータ320が配置される側)には、耕耘ロータ320によって巻き上げられた土が付着しやすく、さらに、付着した土が固着して土塊を形成しやすい。そのため、爪軸320aの端部(サポートフレーム318の近傍)に配置された耕耘爪320bは、サポートフレーム318に固着した土塊に接触し、他の耕耘爪よりも早く摩耗してしまう場合がある。本実施形態では、そのような土塊の形成を防ぐために、サポートフレーム318の内側に、陽極として機能する電極330を設けている。
【0098】
図8は、本発明の一実施形態のロータリ作業機300における電極330の構成を示す断面図である。具体的には、
図8は、
図7(B)において、サポートフレーム318に設けられた電極330を長手方向に沿って切断した断面図である。
【0099】
図8に示されるように、サポートフレーム318に電極330を着脱可能に固定した際の基本的な断面構造は、第2実施形態において、
図6(B)を用いて説明した構造とほぼ同じである。本実施形態においても、電極330は、ボルト一体型の電極であり、頂部330a及びボルト部330bを有する。そして、電極330の頂部330aは、第1の絶縁体331、第2の絶縁体332を介して端子部333と向かい合い、電極330のボルト部330bとナット334とで着脱可能に固定される。端子部333に電気的に接続された配線335は、図示しない電源部の正極に対して電気的に接続される。
【0100】
他方、
図8に示されるように、サポートフレーム318は、端子部336及び配線337を介して図示しない電源部の負極に電気的に接続される。端子部336は、例えばボルト及びナットを含む固着部材338を用いてサポートフレーム318に対して着脱可能に固定される。ただし、端子部336は、固着部材338を用いずにサポートフレーム318に対して溶着してもよい。また、ここでは配線337を電源部の負極に接続する例を示したが、通常、サポートフレーム318は接地されるため、電源部の負極を接地電圧とし、負極とサポートフレーム318とが電気的に接続されていてもよい。
【0101】
なお、第2実施形態と同様に、電極330は、頂部330aの表面がサポートフレーム318の表面と略面一となるように配置される。これにより、サポートフレーム318に対する土の付着を抑制することができる。
【0102】
本実施形態においても、電極330の構成材料としては、サポートフレーム318の構成材料よりもイオン化傾向の大きい金属材料を用いる。本実施形態では、電極330の構成材料として亜鉛を用い、サポートフレーム318の構成材料として鋼を用いる。ただし、この例に限らず、電極330の構成材料としては、第1実施形態と同様に、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、又は、アルミニウム、マグネシウムもしくは亜鉛を含む合金を用いることができる。
【0103】
以上のとおり、本実施形態では、電極330が電源部の正極に接続され、サポートフレーム318が電源部の負極に接続されるため、電極330は陽極、サポートフレーム318は陰極として機能する。したがって、本実施形態のロータリ作業機300は、第1実施形態と同様に、サポートフレーム318と電極330との間に電圧を印加するという簡易な構成により、サポートフレーム318の表面に対する土の付着を抑制するとともに、電極330を犠牲陽極として作用させて錆の発生を抑制することができる。
【0104】
なお、本実施形態では、サポートフレーム318に電極330を設ける例を示したが、この例に限らず、ロータリ作業機300におけるチェーンケース316やシールドカバー322に電極330を設けることも可能である。また、チェーンケース316、サポートフレーム318及びシールドカバー322のいずれに電極330を設けるかは任意であり、いずれか1つに設けてもよいし、任意の複数の部位に設けてもよい。
【0105】
<第4実施形態>
本実施形態では、第3実施形態で説明したロータリ作業機300において、耕耘ロータ320の爪軸320aに対して、陽極として機能する電極340を設けた例について説明する。なお、必要に応じて第3実施形態と同じ構成については、同じ符号を参照して説明する。
【0106】
図9(A)は、本発明の一実施形態のロータリ作業機300における爪軸320aの一部の構成を示す拡大図であり、
図9(B)は、爪軸320aを軸方向に沿って見た断面図である。
図9(A)に示されるように、本実施形態では、爪軸320aの外周に沿って複数の環状の電極340が設けられている。電極340は、例えばボルト及びナットを含む固着部材342を用いて爪軸320aに対して着脱可能に固定される。
【0107】
また、
図9(B)に示されるように、爪軸320aと電極340との間には、絶縁体344が介在している。すなわち、爪軸320aと電極340とは絶縁体344により絶縁分離されている。絶縁体344は、爪軸320aと電極340との間に設けられた環状の部材であってもよいし、爪軸320aの表面、又は、電極340の内周面(爪軸320aに向かい合う面)に絶縁処理を施して形成されたものであってもよい。
【0108】
図9(A)に示す例では、3つの電極340が図示されているが、電極340を配置する位置や個数は任意である。ただし、爪軸320aに対する土の付着及び錆の発生の抑制という目的に照らせば、爪軸320aの全体にわたって複数設けられていることが好ましいと言える。また、第1実施形態で説明した電極172と同様に、隣接する2つの電極340の間の距離は、側面視において、同一又は略同一であってもよい。隣接する2つの電極340の間の距離が同一又は略同一である場合、爪軸320aと各電極340との間に発生する電界を均一にすることができるため、爪軸320a及び電極340に付着した土に対し、満遍なく電流を流すことができる。
【0109】
また、本実施形態では、固着部材342によって各電極340に対して端子部346及び配線348が電気的に接続されている。配線348は、図示しない電源部の正極に接続されている。つまり、各電極340は、電源部の正極に接続される。なお、配線348を電源部の正極に接続するには、スリップリング等の回転コネクタを用いて配線348を爪軸320aの外部に取り出す必要がある。この場合、例えば、電極340の近傍から配線348を、中空パイプで構成される爪軸320aの内部に引き込み、爪軸320aの内部で配線348を束ねるか、1つの配線に集約してもよい。そして、爪軸320aとの絶縁を確保したまま配線348を爪軸320aの端部まで引きまわし、上述の回転コネクタを用いて外部に取り出せばよい。
【0110】
他方、爪軸320aは、図示しない電源の負極に接続される。通常、爪軸320aは、チェーンケース316及びサポートフレーム318に接触することによって接地電位となっている。したがって、電源部の負極を接地電圧とし、負極とサポートフレーム318とが電気的に接続されていれば、爪軸320aを接地電圧とすることができる。このように、爪軸320aを電源の負極、又は、サポートフレーム318に接続することにより、電極340を陽極とし、爪軸320aを陰極とする回路を構成することができる。
【0111】
なお、本実施形態を第3実施形態と組み合わせて実施することも可能である。その場合、電源部200の負極は、サポートフレーム318と爪軸320aとで共用することができる。
【0112】
以上、本発明について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態又は変形例に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、各実施形態の作業機を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。さらに、上述した各実施形態又は変形例は、相互に矛盾がない限り適宜組み合わせが可能であり、各実施形態又は変形例に共通する技術事項については、明示の記載がなくても各実施形態又は変形例に含まれる。
【0113】
また、上述した各実施形態又は変形例の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0114】
50:走行機体、60:リンク機構、100:畦塗り機、110:装着部、111a:ロアリンク連結部、111b:ロアリンク連結部、112:トップリンク連結部、113:ヒッチフレーム、114:入力軸、120:整畦体、121:法面整畦部、122:上面整畦部、131:リンク部材、132:オフセットフレーム、133:オフセット制御用シリンダ、134:作業方向制御用シリンダ、140a:土盛り部、150:連結部、160:位置センサ、161:アーム、162:センサロッド、165:角度センサ、170:リヤフレーム、171:整畦板、172:電極、173:第1の絶縁体、174:第2の絶縁体、175:固着部材、175-1:ボルト、175-2:ナット、177:固着部材、177-1:溶着ボルト、177-2:ナット、176:端子部、178:端子部、180:電極、181:電極、200:電源部、202:第1の配線、204:第2の配線、210:土、212:水膜