(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】エッチング剤及び回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/14 20060101AFI20230509BHJP
C23F 1/44 20060101ALI20230509BHJP
H01L 21/308 20060101ALI20230509BHJP
H05K 3/06 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C23F1/14
C23F1/44
H01L21/308 F
H05K3/06 N
(21)【出願番号】P 2020187929
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2022-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145849
【氏名又は名称】井澤 眞樹子
(72)【発明者】
【氏名】福井優
(72)【発明者】
【氏名】秋山大作
(72)【発明者】
【氏名】中根大
(72)【発明者】
【氏名】西江健二
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-057453(JP,A)
【文献】特開2004-238666(JP,A)
【文献】特開2004-256901(JP,A)
【文献】特開2006-111933(JP,A)
【文献】特開2006-111953(JP,A)
【文献】特開2006-274291(JP,A)
【文献】特開2009-167459(JP,A)
【文献】特開2011-017054(JP,A)
【文献】特開2012-140651(JP,A)
【文献】特開2014-036064(JP,A)
【文献】特開2015-046575(JP,A)
【文献】特表2016-507002(JP,A)
【文献】特表2019-502824(JP,A)
【文献】国際公開第2005/086551(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0015052(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1699798(KR,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1878496(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第109652804(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 1/14
C23F 1/44
H01L 21/308
H05K 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングするエッチング剤であって、
銅イオンと、
環内に窒素原子を2つ以上有する複素環式化合物及び炭素数が8以下のアミノ基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の窒素含有化合物と、
ポリアルキレングリコールと、
ハロゲンイオンとを含み、
ポリアルキレングリコールを0.0005重量%以上7重量%以下含み、
ハロゲンイオンを1ppm以上250ppm以下含
み、
前記窒素含有化合物として、前記複素環式化合物及び前記アミノ基含有化合物を共に含み、
pHが6.0以上8.0以下であるエッチング剤。
【請求項2】
前記ハロゲンイオンは、塩化物イオン及び臭化物イオンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載のエッチング剤。
【請求項3】
前記銅イオンを0.5重量%以上10.0重量%以下含む請求項1
又は2に記載のエッチング剤。
【請求項4】
前記窒素含有化合物を
4.0重量%以上25.0重量%以下含む請求項1乃至
3のいずれか一項に記載のエッチング剤。
【請求項5】
有機酸を含まない、又は、有機酸を0重量%超7重量%未満含む請求項1乃至
4のいずれか一項に記載のエッチング剤。
【請求項6】
前記窒素含有化合物が、イミダゾール類である請求項1乃至
5のいずれか一項に記載のエッチング剤。
【請求項7】
前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールである請求項1乃至
6のいずれか一項に記載のエッチング剤。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか一項に記載のエッチング剤を用いて、銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングすることで回路を形成する回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記貴金属層は金を含む層である請求項
8に記載の回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング剤及び回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回路基板における微細な回路パターンを形成する方法として、絶縁樹脂層の表面に無電解銅めっきによりシード層を形成し、このシード層上にめっきレジストを設けて電解銅めっきにより回路を形成し、その後、回路間の基板上に残っているシード層をエッチング除去するセミアディティブ工法(SAP:Semi Additive Process)等が知られている。このセミアディティブ工法では、回路を構成する銅めっき層の表面に、金、銀、パラジウム等の銅よりも貴な金属(イオン化傾向の小さい金属)のめっきを施すことがある。従って、シード層をエッチング除去する際には、シード層の銅(特に、無電解銅めっき層の銅)を選択的にエッチングするエッチング剤が必要とされる。
異種金属が共存する基板において銅を選択してエッチングするエッチング剤としては、例えば、特許文献1(特開2012-129304号)に開示されているエッチング剤等がある。
【0003】
一方、銅よりも貴な金属と導通(電気的に接続)している銅がエッチング剤と接触した場合に、ガルバニック腐食と呼ばれる現象が起きる可能性がある。ガルバニック腐食とは、イオン化傾向の異なる二つの金属を電解液中に入れたときに両金属によって局部電池が形成され、イオン化傾向が大きい方の金属が腐食する現象である。上述のように銅と銅よりも貴な金属とが共存する基板をエッチングする際にガルバニック腐食によって部分的に銅が過剰にエッチングされるおそれがある。かかるガルバニック腐食を抑制するエッチング剤としては、例えば、特許文献2(WO2019/013160号)に開示されているエッチング剤等がある。特許文献2には、かかるエッチング剤が銅の選択エッチング性に優れ、ガルバニック腐食を確実に抑制でき且つエッチング速度にも優れていると記載されている。
【0004】
しかし、特許文献2に記載のエッチング剤はpH7.8~11のアルカリ性エッチング剤であるため、製造工程への適用に際して制約が生じる。従って、より低いpHでもガルバニック腐食等による部分的な過剰エッチングを確実に抑制しつつ、銅の選択的エッチング性に優れたエッチング剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-129304号公報
【文献】国際公開WO2019/013160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、比較的低いpHでも部分的な過剰エッチングを抑制しつつ、銅の選択的エッチング性に優れたエッチング剤を提供することを課題とする。
また、比較的低いpHで部分的な過剰エッチングを抑制しつつ銅を選択的エッチングすることができる回路基板の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
エッチング剤にかかる本発明は、
銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングするエッチング剤であって、
銅イオン源と、
環内に窒素原子を2つ以上有する複素環式化合物及び炭素数が8以下のアミノ基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の窒素含有化合物と、
ポリアルキレングリコールと、
ハロゲンイオンとを含み、
ポリアルキレングリコールを0.0005重量%以上7重量%以下含み、
ハロゲンイオンを1ppm以上250ppm以下含む。
【0008】
本発明は、前記ハロゲンイオンが、塩化物イオン及び臭化物イオンからなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0009】
本発明は、前記窒素含有化合物として、前記複素環式化合物及び前記アミノ基含有化合物を共に含み、pHが6.0以上8.0以下である。
【0010】
本発明は、前記銅イオンを0.5重量%以上10.0重量%以下含んでいてもよい。
【0011】
本発明は、前記窒素含有化合物を4.0重量%以上25.0重量%以下含んでいてもよい。
【0012】
本発明は、有機酸を含まない、又は、有機酸を0重量%超7重量%未満含んでいてもよい。
【0013】
本発明は、前記窒素含有化合物が、イミダゾール類であってもよい。
【0014】
本発明は、前記ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールであってもよい。
【0015】
回路基板の製造方法にかかる本発明は、前記いずれかに記載のエッチング剤を用いて、銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングすることで回路を形成する。
【0016】
回路基板の製造方法にかかる本発明において、前記貴金属層は金を含む層であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、比較的低いpHでも部分的な過剰エッチングを確実に抑制しつつ、銅の選択的エッチング性に優れたエッチング剤を提供することができる。
また、比較的低いpHで部分的な過剰エッチングを確実に抑制しつつ銅を選択的エッチングすることができる回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】
図3はサイドエッチング量の測定を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のエッチング剤及び本発明の回路基板の製造方法(以下、単に製造方法ともいう。)の実施形態について説明する。
【0020】
(エッチング剤)
本実施形態のエッチング剤は、銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングするエッチング剤であって、銅イオンと、環内に窒素原子を2つ以上有する複素環式化合物及び炭素数が8以下のアミノ基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の窒素含有化合物と、ポリアルキレングリコールと、ハロゲンイオンとを含み、ポリアルキレングリコールを0.0005重量%以上7重量%以下含み、ハロゲンイオンを1ppm以上250ppm以下含むエッチング剤である。
【0021】
尚、本実施形態でいう「銅」とは、純銅及び銅を90重量%以上含む銅合金を意味する。また、本実施形態でいう「銅よりも貴な金属」とはCuよりもイオン化傾向の小さい金属をいう。
【0022】
[銅イオン源]
本実施形態のエッチング剤は銅イオンを含む。銅イオンとしては、第二銅イオン(Cu2+)が好ましい。銅イオンは銅イオン源からエッチング剤中に供給される。銅イオンは銅の酸化剤として作用する成分である。
銅イオンを供給する銅イオン源としては、例えば、水酸化銅、有機酸の銅錯体、炭酸銅、硫酸銅、酸化銅、塩化銅や臭化銅などのハロゲン化銅、あるいは、後述する窒素含有化合物の銅錯体等が挙げられる。
特に、エッチング速度を向上させる観点から、ギ酸銅、酢酸銅、塩化銅、臭化銅等が挙げられる。
銅イオン源は、これらを単独で又は複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
前記銅イオンの含有量は、エッチング速度を向上させる観点から、例えば、銅イオンとして0.5重量%以上10.0重量%以下、又は1.0重量%以上5.0重量%以下であることが挙げられる。
上記銅イオンの含有量となるように銅イオン源の含有量は適宜決定されうる。
【0024】
[窒素含有化合物]
本実施形態のエッチング剤は、環内に窒素原子を2つ以上有する複素環式化合物(以下、単に複素環式化合物ともいう。)及び炭素数が8以下のアミノ基含有化合物(以下、単にアミノ基含有化合物ともいう。)からなる群より選ばれる1種以上の窒素含有化合物(以下、単に窒素含有化合物ともいう。)を含む。窒素含有化合物はエッチング剤中に溶解した銅を錯体としてエッチング剤中に保持する成分として配合される。
【0025】
複素環式化合物としては、環内に窒素原子を2つ以上有するものであれば特に限定されず、例えば、イミダゾール類、ピラゾール類、トリアゾール類、テトラゾール類、それらの誘導体等のアゾール類等が挙げられる。溶解した銅との錯形成性の観点からは、イミダゾールやベンズイミダゾール等のイミダゾール類、あるいはピラゾール等のピラゾール類が好ましい。具体的には、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、ベンズイミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズトリアゾール等が挙げられ、特に、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールが好ましい。
【0026】
[アミノ基含有化合物]
アミノ基含有化合物としては、炭素数が8以下のものであれば特に限定されないが、溶解した銅との錯形成性の観点から、例えば、炭素数が0以上7以下であること、又は、0以上5以下であることが挙げられる。
アミノ基含有化合物としては、例えば、アンモニア;メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム等のアルキルアンモニウム;アルカノールアミン;アニリン等の芳香族アミン等が挙げられる。また、エチレンジアミン等のアミノ基を2つ以上有するアミン化合物や、テトラメチルアンモニウム等の第4級アミン化合物等も挙げられる。特に、溶解した銅との錯形成性の観点からアンモニア、アルカノールアミンが好ましい。
【0027】
アルカノールアミンの具体例としては、例えばモノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ブチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、2-(2-ヒドロキシ)エトキシエタノールアミンなどのモノエタノールアミン及びその誘導体;ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミンなどのジエタノールアミン及びその誘導体;トリエタノールアミン;プロパノールアミン;イソプロパノールアミン;ヒドロキシエチルピペラジン;それらの誘導体等が挙げられる。特に、溶解した銅との錯形成性の観点からモノエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンが好ましい。
【0028】
溶解した銅との錯形成性の観点から、窒素含有化合物としては、イミダゾール類、ピラゾール類、アンモニア、アルカノールアミンであることが好ましく、2-メチルイミダゾール、イミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンであることがより好ましい。
【0029】
窒素含有化合物の含有量は、例えば、1.0重量%以上30.0重量%以下、又は4.0重量%以上25.0重量%以下、又は5.0重量%以上25.0重量%以下、又は10.0重量%以上20.0重量%以下であることが挙げられる。窒素含有化合物の含有量が前記範囲であることでエッチング速度を向上させることができると同時にエッチング剤の粘度上昇を抑制しうる。
【0030】
窒素含有化合物としては、複素環式化合物及びアミノ基含有化合物のいずれか一方のみであってもよく、両方であってもよい。
さらに、窒素含有化合物は前記の各成分を単独で又は複数種を組み合わせて使用してもよい。
本実施形態の窒素含有化合物としては、複素環式化合物及びアミノ基含有化合物が共に使用される。
【0031】
窒素含有化合物として複素環式化合物及びアミノ基含有化合物を両方使用する場合には、例えば、複素環式化合物としてアゾール類、アミノ基含有化合物としてアルカノールアミンを組み合わせること等が挙げられる。具体的には、例えば、複素環式化合物としてイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールの中から1種又は2種以上、アミノ基含有化合物として、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミンの中から1種又は2種以上を選択すること等が挙げられる。
【0032】
この場合、アゾール類の含有量は0.1重量%以上25重量%以下、又は1.0重量%以上20重量%以下、又は、3.0重量%以上10重量%以下、アルカノールアミンの含有量は0.1重量%以上25重量%以下又は1.0重量%以上20重量%以下、又は2.5重量%以上11重量%以下等が例示される。
【0033】
[ポリアルキレングリコール]
本実施形態のエッチング剤はポリアルキレングリコールを含む。ポリアルキレングリコールはガルバニック腐食による過剰エッチングを抑制し、均一なエッチングを促進する成分である。
本実施形態のポリアルキレングリコールとしては、ポリアルキレングリコール及びその誘導体も含む。
ポリアルキレングリコールは特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。特に、エッチングムラ抑制等の仕上がりを向上させる観点からポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールを用いる場合には、重量平均分子量200~20000等のポリエチレングリコールが好ましい。
【0034】
ポリアルキレングリコールの含有量は、過剰エッチング等を抑制させる観点から、例えば、0.0005重量%以上7重量%以下、又は0.001重量%以上5重量%以下であることが挙げられる。
【0035】
[ハロゲンイオン]
本実施形態のエッチング剤はハロゲンイオンを含む。ハロゲンイオンは、銅の溶解性と溶解安定性を向上させ、かつエッチング速度を速くする成分である。
ハロゲンイオンをエッチング剤中に供給するハロゲンイオン源としては、特に限定されるものではないが、例えば、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などの無機酸;塩化銅、臭化銅、塩化鉄、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウムなどの無機塩が挙げられる。
供給されるハロゲンイオンの種類としては特に限定されるものではないが、塩素、ヨウ素、臭素等がハロゲン元素として挙げられる。特に、ガルバニック腐食抑制とエッチング速度の最適化を両立させる観点から、ハロゲンイオンは、塩化物イオン及び臭化物イオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0036】
ハロゲンイオンの含有量としては、例えば、エッチング速度を適正な範囲にする観点から1ppm以上250ppm以下、又は2ppm以上200ppm以下、又は4ppm以上100ppm以下等が挙げられる。
【0037】
より具体的には、ハロゲンイオンが塩化物イオンである場合には50ppm以上200ppm以下、ハロゲンイオンが臭化物イオンである場合には2ppm以上40ppm以下等の範囲が例示される。
【0038】
[有機酸]
本実施形態のエッチング剤は、有機酸を含まない、又はわずかに含むことが好ましい。有機酸はエッチング剤中への銅の溶解性を良好にする作用があるものの、ガルバニック腐食による過剰エッチングを促進する作用もあるため、含まない、又は含んでいても0重量%超7重量%未満、又は1重量%以上6重量%以下であることが好ましい。
【0039】
有機酸を含む場合において、有機酸の種類は特に限定されるものではないが、例えば、銅の酸化作用を阻害せず、エッチング剤の粘度上昇を引きおこすおそれがない等の点から、例えば、脂肪族飽和モノカルボン酸、脂肪族飽和ジカルボン酸、オキシカルボン酸が挙げられる。特に、好ましくはギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0040】
[その他の成分]
本実施形態のエッチング剤には、通常のエッチング剤に配合されうる成分であって本実施形態のエッチング剤の目的を阻害しない成分であれば適宜配合されうる。
【0041】
[pH]
本実施形態のエッチング剤のpHは6.0以上8.0以下、又は6.2以上7.5以下、又は6.2以上7.0以下であるように調整されることが好ましい。
前記pHの範囲に調整することで、ガルバニック腐食による過剰エッチングを抑制しやすくなる。
エッチング剤のpH調整は、前記各成分、例えば、窒素含有化合物、銅イオン源、ハロゲンイオン源等の含有量を調整することで行ってもよく、pH調整剤を配合することで調整してもよい。
【0042】
本実施形態のエッチング剤は比較的低いpHでも好適にエッチングすることができる。よって、pHの低い状態でエッチングすることが必要な製造工程においても使用が容易である。
【0043】
本実施形態のエッチング剤は、前記各成分を水に溶解させることにより調製することができる。水としては、イオン交換水、蒸留水、純水及び超純水等が挙げられる。また、本実施形態のエッチング剤は前記各成分が使用時に所定の濃度になるように調整されていればよい。例えば、濃縮液を調製しておき使用直前に希釈して各成分が所定の濃度になるようにしてもよく、あるいは、全成分のうちの一部の成分を混合した複数の液を調整しておき使用時にすべての成分が含むように各液を混合してもよい。
【0044】
本実施形態のエッチング剤は、銅に対するエッチング速度が、例えば、0.3μm/min以上1.0μm/min以下程度に調整されうる。また、銅以外の金属に対するエッチング速度が、0.1μm/min以下に調整されうる。この範囲のエッチング速度であれば、銅に対する部分的な過剰エッチングを確実に抑制しつつ、銅の選択的エッチング性を良好にできる。
【0045】
(回路基板の製造方法)
次に、本実施形態のエッチング剤を使用した回路基板の製造方法について説明する。
本実施形態の製造方法は、上述した本実施形態のエッチング剤を用いて、銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングすることで回路を形成する回路基板の製造方法である。
【0046】
本実施形態の回路基板は、例えば、プリント回路基板や、フィルムタッチセンサーの銅回路部材等が挙げられる。この場合、銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物としては、
図1に示すような絶縁樹脂層1の表面に無電解銅めっきによりシード層2(銅層)が形成され、このシード層2上に電解銅めっきにより回路3が形成されている回路基板10等が挙げられる。
【0047】
回路3の表面には電解めっき又は無電解めっきによって金めっき層4(貴金属層)が形成されている。尚、金めっき層4と回路3の間には拡散防止のためにニッケル等からなる拡散防止層が形成されていてもよい(図示せず)。
尚、回路3表面に形成される貴金属層に含まれる銅よりも貴な金属としては、金以外にも、パラジウム、水銀、銀、白金等が挙げられる。
本実施形態のエッチング剤は、特に金を含む貴金属層と銅とが共存する被処理物を用いて回路基板を製造する場合に好適に用いられる。
【0048】
かかる回路基板10は例えばセミアディティブ工法によって形成されうる。
まず、絶縁樹脂層1の表面に無電解銅めっきによりシード層2を形成し、このシード層2上にめっきレジスト(図示せず)を設けて電解銅めっきにより回路3を形成する。さらに、回路3表面に拡散防止層及び金めっき層4をめっきにより形成する。その後、めっきレジストを除去して、
図1のような回路3を備えた構成の回路基板10が得られる。
【0049】
さらに、回路3間の絶縁樹脂層1上に残っているシード層2をエッチング除去するために、本実施形態では上述した本実施形態のエッチング剤を用いてエッチングして
図2に示すような回路基板10を得る。尚、回路3同士は内層回路(図示せず)等で電気的に接続されていてもよい。
【0050】
エッチング方法は特に限定されず、例えばスプレーする方法、エッチング剤中に前記被処理物を浸漬する方法等が挙げられる。回路間のシード層等狭い箇所の金属を効率よくエッチングする観点からスプレー処理が好ましい。
エッチング処理の際のエッチング剤の温度、処理時間等の処理条件は特に限定されることはないが、例えば、エッチング剤の温度20℃以上40℃以下、処理時間20秒以上120秒以下等が挙げられる。
【0051】
かかるエッチング処理を行う際に、金めっき層4の金と回路3の銅とが共に存在し、回路同士も内層回路で電気的に接続されているものが存在するため、ガルバニック腐食が生じやすい状態である。この場合、
図3に示すように回路3の上部の金めっき層4との近傍部においてガルバニック腐食により過剰にエッチングされてえぐれたような状態、すなわちサイドエッチングが生じることがある。かかるサイドエッチングが過剰に進行すると回路幅が狭くなり電気抵抗が大きくなったり断線したりするおそれがある。
本実施形態のエッチング剤ではガルバニック腐食によるサイドエッチングを抑制しつつ、エッチング速度の維持や均一なエッチングが行える。また、銅、特に無電解めっき銅であるシード層を選択的にエッチングすることができる。従って、回路基板における回路の電気抵抗の増大や断線等も抑制することができる。
【0052】
本実施形態の回路基板の製造方法は、セミアディティブ工法による製造方法において実施されることができるが、他の工法において、銅よりも貴な金属を含む貴金属層と銅層とが共存する被処理物の銅層を選択的にエッチングする場合に実施してもよい。
【0053】
本実施形態のエッチング剤及び回路基板の製造方法はそれぞれ独立して解釈されるべきものである。従って、本実施形態のエッチング剤を他の製造方法に用いることはもちろん、その他の技術の組み合わせによって各実施形態を実施してもよい。
【0054】
本実施形態にかかるエッチング剤及び回路基板の製造方法は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
(エッチング剤)
表1~表3に示す各材料を用いて(残部イオン交換水)実施例及び比較例のエッチング剤を作製した。
各原料として以下のものを使用した。
A.ハロゲンイオン供給源
塩化ナトリウム(キシダ化学社製、1級)
臭化アンモニウム(キシダ化学社製、特級)
ヨウ化カリウム(キシダ化学社製、1級)
B.ポリアルキレングリコール
ポリエチレングリコール(キシダ化学社製、1級、分子量1000)
C.銅イオン源
ギ酸銅(富士フイルム和光純薬社製、1級)
酢酸銅(キシダ化学社製、1級)
D.アミノ基含有化合物
モノエタノールアミン(富士フイルム和光純薬社製、1級)
トリエタノールアミン(キシダ化学社製、1級)
N-メチルジエタノールアミン(東京化成工業社製、1級)
E.複素環式化合物
2-メチルイミダゾール(東京化成工業社製、1級)
イミダゾール(キシダ化学社製、特級)
F.有機酸
マレイン酸(富士フイルム和光純薬社製、1級)
リンゴ酸(キシダ化学社製、特級)
乳酸(富士フイルム和光純薬社製、1級)
d-酒石酸(キシダ化学社製、1級)
【0057】
(pHの測定)
作製された各エッチング剤のpHは堀場製作所製、pH測定装置F-71にて、30℃でのpHを測定した。結果を表2に示す。
【0058】
(テスト基板)
下記のようなテスト基板を準備した。
樹脂層の厚みが0.2mmの樹脂基板に無電解銅めっき液(奥野製薬工業社製、無電解銅めっき液:アドカッパー(商品名))を使用して厚さ0.3μmの銅シード層を作成した。その後、めっきレジスト(日立化成社製、RD-1225(商品名))を使用してレジストを形成し、めっきレジストパターン(厚み約25μm、ラインアンドスペースL/S=15μm/30μm)を形成した。さらに、電解銅めっき液(奥野製薬工業社製、電解銅めっき液:トップルチナ(商品名))を使用して厚さ15μm、幅30μmの電解銅めっき層を作成した。その後、電解ニッケル金めっき液を使用して、電解銅めっき層の上に、電解ニッケル金めっき層を作成した。最後に、レジストを除去液(三菱ガス化学社製、クリーンエッチR-100)を用いて1分間処理して除去した。
【0059】
(エッチング)
前記テスト基板を用いて実施例及び比較例の各エッチング剤を用いてエッチングを行い、電解銅めっき層の間に露出するシード層を除去した。
エッチングは、ノズル(いけうち社製、山形扇形ノズルINVV9030)を使用して、スプレー圧0.1MPa、処理温度40℃の条件で行った。処理時間は、テスト基板の電解銅めっき間のシード層が完全に除去されるまでとした。エッチング後、水洗、乾燥を行って、以下に示す評価を行った。
【0060】
(サイドエッチング量の測定)
エッチング後の各テスト基板の一部を切断し、これを熱硬化性樹脂に埋め込み、電解銅めっき層の断面を観察できるように研磨加工を行い、断面観察用のサンプルを作製した。電解銅めっき層の断面観察は、SEMを用いて、画像撮影をし、
図3に示すような電解銅めっき層の上にあるニッケル/金層の幅TW及び電解銅めっきの幅BWの計測を行い、(TW-BW)÷2(μm)をサイドエッチング量として表1~3に示す。
【0061】
(エッチングムラの判定)
5×5cmの電解銅めっき板を各実施例及び比較例のエッチング剤で各テスト基板のエッチングと同様の条件でエッチング処理した後に、銅表面を目視にて観察した。均一な処理ができている場合はムラなし、濃淡がある場合はムラありと判定した。
【0062】
(エッチング速度の測定)
5×5cmの電解銅めっき板を用意し、この重量W1(g)を測定した。各めっき板を各実施例及び比較例のエッチング剤で1分間、40℃で処理した。処理後の重量W2(g)を測定し、エッチング速度を以下の式で算出し、表1~表3に示す。
(W1-W2)×10000÷223(μm/min)
結果を表1~表3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
(考察)
表1に示すように、各実施例ではサイドエッチングが比較例に比べて量が少なく且つエッチング速度も維持できていた。また、エッチングムラも生じなかった。
比較例3及び4は、エッチングムラがあったため、テスト基板でのエッチングは実施しなかった。
また、表2に示すようにpH8.0以下の場合でも各実施例ではサイドエッチングを抑制できていた。
さらに、表3に示すようにアミノ基含有化合物及び複素環式化合物の種類を変えた場合でも各実施例ではサイドエッチングを抑制できていた。
【符号の説明】
【0067】
1:絶縁樹脂層、2:シード層(銅層)、3:回路、4:貴金属層、10:回路基板。