IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノイスコム アーゲーの特許一覧

<>
  • 特許-真核細胞系統 図1
  • 特許-真核細胞系統 図2
  • 特許-真核細胞系統 図3
  • 特許-真核細胞系統 図4
  • 特許-真核細胞系統 図5
  • 特許-真核細胞系統 図6
  • 特許-真核細胞系統 図7
  • 特許-真核細胞系統 図8
  • 特許-真核細胞系統 図9
  • 特許-真核細胞系統 図10
  • 特許-真核細胞系統 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】真核細胞系統
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230509BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N7/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020518495
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2018079341
(87)【国際公開番号】W WO2019081673
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】17198339.8
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】ECACC  17080901
(73)【特許権者】
【識別番号】518435943
【氏名又は名称】ノイスコム アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】コロカ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ニコシア,アルフレード
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02540786(GB,A)
【文献】特開2011-206055(JP,A)
【文献】特開2008-104357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)がCAGプロモーターの制御下に発現される細胞株であって、ここで細胞株の細胞が、HEK293細胞である、細胞株。
【請求項2】
前記細胞株の細胞の少なくとも90%でテトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)が発現される、請求項1に記載の細胞株。
【請求項3】
前記発現は、少なくとも40代の継代にわたって安定的である、請求項1又は2に記載の細胞株。
【請求項4】
前記Tet-Rは、テトラサイクリン、又はテトラサイクリン類似体の存在下、又は不存在下にて、プロモーター内に1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含む遺伝子の転写を抑制する、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項5】
前記Tet-Rをコードする遺伝子は、真核細胞、又は、哺乳動物細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項6】
(i)(1) cGas及びSTING を含んでなる1以上のIFN遺伝子の刺激因子、(2)1つ以上のJAK/STAT転写アクチベーター、並びに、(3) PKR、MX1、OAS1、APOBEC3G、TRIM5、ZAP、ISG15、ADAR、IFITM1/2/3、BST2及びRSAD2を含んでなる1つ以上のIFN刺激遺伝子(ISGからなる群から選択される機能的タンパク質の発現を減らす又は抑える突然変異、欠失又は挿入をゲノム内に更に含む、及び/又は、
(iiTet-Rをコードする遺伝子と遺伝的に連鎖している耐性遺伝子である、G418耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子又はゼオシン耐性遺伝子を含んでなる選択マーカーをコードする遺伝子を更に含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞株が、そのゲノム内に安定的に組み込まれたテトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)をコードする遺伝子を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項8】
前記細胞株の細胞は、感染性ウイルス粒子の形成に必要な少なくとも1つのウイルス遺伝子を発現する、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞株、又は、
前記細胞株の細胞は、感染性ウイルス粒子の形成に必要な少なくとも1つのウイルス遺伝子を発現し、該少なくとも1つのウイルス遺伝子は、E1領域にコードされるE1-A及びE1-Bからなる群から選択される、若しくは、配列番号1のヌクレオチド配列を有する遺伝子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項9】
前記細胞株は、ECACCでアクセッション番号17080901として寄託された細胞株である、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項10】
感染性ウイルス粒子へとアセンブリすることができ、1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含むプロモーターの制御下にある少なくとも1つの異種遺伝子を含むウイルスゲノムを更に含む、又は
感染性ウイルス粒子へとアセンブリすることができ、1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含むプロモーターの制御下にある少なくとも1つの異種遺伝子を含むウイルスゲノムを更に含み、
(i)前記ウイルスゲノムは、ヘルペスウイルスゲノム、改変ワクシニアアンカラゲノム及びアデノウイルスゲノムからなる群から選択され、又は、前記ウイルスゲノムは、アデノウイルスゲノムである、及び/又は、
(ii)前記異種遺伝子は、細胞に対して毒性である、若しくはウイルス複製サイクルを妨害する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞株。
【請求項11】
前記異種遺伝子は、自己抗原、ウイルス遺伝子、細胞起源の遺伝子、腫瘍関連ネオアンチゲンの組み合わせ物をコードする合成鎖及びネオエピトープをコードする鎖からなる群から選択される、又は、
前記異種遺伝子は、自己抗原、ウイルス遺伝子、細胞起源の遺伝子、腫瘍関連ネオアンチゲンの組み合わせ物をコードする合成鎖及びネオエピトープをコードする鎖からなる群から選択され、
(i)前記自己抗原は、HER2/neu、CEA、Hepcam、PSA、PSMA、テロメラーゼ、gp100、Melan-A/MART-1、Muc-1、NY-ESO-1、サバイビン、ストロメリシン3、チロシナーゼ、MAGE3、CML6S、CML66、OY-TES-1、SSX-2、SART-1、SART-2、SART-3、NYC0-5S、NY-BR-62、hKLP2及びVEGFからなる群から選択される、
(ii)前記ウイルス遺伝子は、HCVE1-E2タンパク質、狂犬病糖タンパク質及びHIV-1 GP 160からなる群から選択される、及び/又は、
(iii)前記細胞起源の遺伝子は、Tim-3、Her2及びE2F-1からなる群から選択される、請求項10に記載の細胞株。
【請求項12】
感染性ウイルス粒子の生産のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞株の使用。
【請求項13】
感染性ウイルス粒子を生産する方法であって、
(i)請求項10、若しくは11に記載の細胞株の細胞を、テトラサイクリン若しくはテトラサイクリン類似体の存在下、若しくは不存在下にてin vitroで増殖させる工程、又は、
(ii)請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞株の細胞に、ウイルスベクター、又は、アデノウイルスベクターを感染させる工程と、
(iii)ウイルス粒子を回収する工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞系統、細胞系統の使用、及び上記細胞系統を使用する感染性ウイルス粒子を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HIV、C型肝炎、マラリア、結核及び癌等の疾患の予防又は治療には、新規のワクチンが必要とされる。前臨床エビデンス及び臨床エビデンスは、これらの疾患のクリアランスにおけるT細胞免疫、特にCD8陽性T細胞の役割を裏付けている。特定の抗原に対するCD8陽性T細胞の応答を誘導する1つの方法は、その抗原と適切な病原体由来の生来のアクチベーターとを細胞内で遺伝子送達を通じて発現させることである。遺伝子ワクチン又は遺伝子導入型ワクチン(gene-based veccines)は、CD8陽性T細胞の応答を活性化するために、生理学的抗原プロセシング及び主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI提示を採用する。複製欠損アデノウイルスベクターは、必須のE1領域を抗原の発現カセットと置き換えることにより、遺伝子ワクチンに広範に使用されている。Adベクターは、複製細胞及び非複製細胞の両方に感染し、広範な組織向性を有し、利用可能なパッケージング細胞系統において非常に効率的に増殖し、かつ拡張可能で手頃な生産過程を伴うので、遺伝子送達システムとして魅力的である。実際、Adベースのベクターは、動物モデル及びヒト臨床試験において、ポックスウイルス、レンチウイルス、アルファウイルス及びネイキッドDNAに基づく他の遺伝子ワクチンベクターよりも強力な抗原特異的CD8陽性T細胞を惹起する。しかしながら、遺伝子ワクチン用キャリアーとしてのアデノウイルスベクターの開発の成功は、最終的にそれらの免疫学的効力に依存するだけでなく、拡張可能で再現可能な生産過程のための細胞担体(cell substrate)の入手可能性にも依存することとなる。アデノウイルスベクターは、送達する高レベルの抗原タンパク質をin vivoで標的組織中だけでなく、生産過程の間に補完細胞系統においても発現することができる。現在のベクターシステムでは、導入遺伝子発現は、標的組織中だけでなく、ベクター生産過程の間にパッケージング細胞系統においても高レベルの導入遺伝子発現を可能にする強力なヒトサイトメガロウイルス即時/初期プロモーター(HCMVプロモーター)により駆動される。本発明者らは、パッケージング細胞系統における高い導入遺伝子発現がアデノウイルスの複製を妨害し得ることを示す幾つかの証拠を持っている。アデノウイルスベクターのレスキュー及び増殖に関する本発明者らの広範な経験において、ベクター収量の低下から複製の完全な阻害に至るまでの導入遺伝子の過剰発現により媒介されるウイルス複製に対する有害な影響が観察された。さらに、ベクターの複製の妨害は、再配列されたベクター種の選択により、ベクター自体の遺伝的不安定性を引き起こす場合がある。
【0003】
生産過程の間にアデノウイルスベクターによって保持される導入遺伝子の発現を抑制することができる細胞系統の開発は、導入遺伝子の過剰発現の悪影響を防ぐことができる。したがって、このシステムは、高レベルのTetRを発現する細胞系統に基づいており、ヒトサイトメガロウイルスプロモーター又は他の強力なプロモーター、例えばCASIプロモーター、CAGプロモーター、EF1αプロモーターの制御下に導入遺伝子を有し、プロモーターのTATAボックスの下流に2コピー以上のTetR結合部位が挿入されるAdベクターによるものである。
【発明の概要】
【0004】
第1の態様では、本発明は、テトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)が細胞性プロモーター又は部分的細胞性プロモーターの制御下に発現される細胞系統を提供する。
【0005】
第2の態様では、本発明は、感染性ウイルス粒子の生産のための、本発明の第1の態様による細胞系統の使用に関する。
【0006】
第3の態様では、本発明は、感染性ウイルス粒子を生産する方法であって、
(i)感染性ウイルス粒子へとアセンブリ可能なウイルスゲノムを更に含む本発明の第1の態様の細胞系統の細胞を、テトラサイクリン若しくはテトラサイクリン類似体の不存在下にてin vitroで増殖させる工程、又は、
(ii)本発明の第1の態様の細胞系統の細胞にウイルスベクター、好ましくはアデノウイルスベクターを感染させる工程と、
(iii)ウイルス粒子を回収する工程と、
を含む、方法に関する。
【0007】
以下で、本明細書に含まれる図面の内容を記載する。これに関連して、上記及び/又は下記の発明の詳細な説明も参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】pneo/CAG-TetRの図である。pneo/CAG-TetRは、テトラサイクリンリプレッサー及びG418耐性遺伝子の発現カセットを含む。
図2】クローンM9及びクローンM38におけるSeAp発現を示す図である。クローンをフラスコT25に播種し、テトラサイクリンの存在下又は不存在下にてmoi 30(感染多重度)でクローンにChAdETetOSeapを感染させた。次いで、感染の48時間後にテトラサイクリンを使用した場合と使用しない場合との比率を計算することにより、各単一クローンに関するスコアを取得した。クローンM9は、最高の+/- tet比を示した。
図3】M9細胞、M38細胞及びHek293細胞におけるAdTetO E1E2p7の生産を示す図である。M9、M38及びHEK 293にmoi 100(感染多重度)でAdTetOE1/F78E2p7(TetRを媒介した発現制御なしでは増殖することができないアデノベクター)を感染させた。クローンM9及びクローンM38は、最高の生産性値を示す。
図4】M9細胞及びM38細胞におけるTetRタンパク質の発現を示す図である。クローンM9及びクローンM38の細胞溶解物に対するTetR抗体を使用したウェスタンブロット分析により、TetR発現を評価した。TetRは、M9細胞とM38細胞との両方にて高レベルで発現される。
図5】M9細胞におけるChAdベクターのレスキューの効率を示す図である。C種及びE種のアデノウイルスベクター(ChAdN13 TPA4-T1Poly(図5A)及びChAdE egfp(図5B))のレスキューの効率を、M9細胞においてHEK-293と比較して評価した。M9細胞及びHEK293細胞の単層に、並行してpreAdプラスミドDNAをトランスフェクションさせた。トランスフェクションの12日後に細胞溶解物におけるQPCRにより、ウイルス生産を評価した。これらの結果により、トランスフェクションした場合にM9細胞においてアデノウイルスベクター生産の効率がより高いことが裏付けられる。
図6】ChAd C-Venusベクター及びChAd E-EGFPベクターの生産性を示す図である。チンパンジーのAdベクターChAd C-Venus(図6A)及びChAd E-EGFP(図6B)の生産性を、M9細胞においてHEK 293細胞及び293T細胞と比較して評価した。細胞の単層を、同じ感染多重度のChAdを使用して感染させた。感染の72時間後に細胞を採取し、ベクター力価を粗製溶解物におけるQPCRにより評価した。これらの結果は、細胞特異的な生産性として表現される。
図7】FACS分析によるM9細胞及びT-Rex細胞の転写制御の評価を示す図である。細胞系統をT25フラスコに播種し、moi=100 vp/細胞(感染多重度)を使用して、細胞系統にChAd C TetO-VENUSを感染させた。単一細胞レベルでの十分な量のTetRの発現は、venusレポーター遺伝子発現を遮断するはずである。T-Rex細胞の26%に対してM9細胞の3.8%が検出可能な蛍光シグナルを示した。M9細胞系統は細胞の96.2%で遺伝子発現を制御することができるが、T-Rex細胞の74%が発現を効率的に制御することが裏付けられた。
図8】M9(図8A)細胞系統及びT-Rex(図8B)細胞系統におけるChAdベクターの生産性を示す図である。T型フラスコ(10 mlの培地中に5×106個の細胞が播種されたT25フラスコ)に播種された細胞において分析を実施した。100 vp/細胞の感染多重度を使用して、細胞単層にChAd-C TetO-VENUSを感染させた。完全なCPEが顕微鏡検査により観察されたとき(感染7日後)に細胞を採取した。ベクターの生産性は、HCMVプロモーターDNA配列の設計されたプライマー及びプローブを用いたQPCR法によって決定された。
図9】アデノウイルスベクター及び発現カセットの図である。アデノウイルスベクターはHCMVプロモーターと一緒にTetOを有しており、発現カセットはTetO配列を含む。
図10】HCMVにより駆動される発現と比較した、CAGプロモーターにより駆動されるTetR発現を示す図である。HEK 293細胞においてHCMV-TetR発現ベクターをトランスフェクションさせることにより、まずHCMV-TetR 293細胞を開発した。TetRを発現するクローンをG418選択により単離して増殖させた。TetR発現を40代継代及び60代継代でウェスタンブロットにより試験し、60代継代のM9細胞におけるTetR発現と比較した。全細胞タンパク質を3×106個の細胞から抽出し、SDS-PAGEで分離し、メンブレンに転写し、抗TetR抗体でプロービングした(抗体希釈:1:1000、4℃で12時間インキュベート)。これらの結果により、HCMVプロモーターにより駆動されるTetR発現は、細胞培養物の継代につれて進行的に失われる一方で、CAGプロモーターにより駆動されるTetR発現は継代(60代継代)を越えて維持されることが裏付けられた。
図11】エピジェネティックな機構によるHCMVプロモーターのサイレンシングを示す図である。HCMV-TetR細胞系統で観察されるTetR発現の段階的な喪失は、細胞をHDAC阻害剤(ベリノスタット)に曝露することにより元に戻すことができる。HCMV TetR細胞を200 nMのベリノスタット(PXD101-HDAC阻害剤)の存在下にて培養した後に、それらの細胞を採取することによりTetR発現をウェスタンブロットにより評価した。しかしながら、ヒトCMVプロモーターの再活性化は一過性であり、TetRの発現はベリノスタットの不存在下にて再び失われる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を下記に詳細に説明する前に、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル及び試薬は変更することができるため、本発明がこれらに限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は特定の実施形態を説明することを目的とするものに過ぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。他に定義のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0010】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)", Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Klbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)に記載のように定義される。
【0011】
以降の本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、文脈により特に必要とされない限り、用語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」等の別形は、示された整数若しくは工程又は複数の整数若しくは複数の工程の群を包含することを意味するが、その他のあらゆる整数若しくは工程又は複数の整数若しくは複数の工程の群を除外することを意味しないと解釈される。以下の節で、本発明の種々の態様をより詳細に定義する。こうして定義される各々の態様は、そうでないことが明確に示されていない限り、任意のその他の1つ以上の態様と組み合わせることができる。特に、任意であること、好ましいこと又は有利であることが示されるいずれかの特徴は、任意であること、好ましいこと又は有利であることが示されるいずれかのその他の1つ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0012】
幾つかの文献が本明細書の文章全体を通して引用される。本明細書に引用される各々の文献(特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、使用説明書等の全てを含む)は、上記又は下記を問わず、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。本明細書中のいずれの記載も、本発明が先行発明のためにかかる開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるものではない。本明細書で引用される文献の幾つかは、「引用することにより本明細書の一部をなす」として特徴付けられる。そのような本明細書の一部をなす参考文献の定義又は教示と本明細書に列挙される定義又は教示との間に矛盾が生ずる場合に、本明細書の文章が優先される。
【0013】
下記で本発明の要素を記載する。これらの要素は特定の実施形態とともに挙げられているが、更なる実施形態を作成するのに、これらの要素をどのような方法及びどのような数でも組み合わせることができることを理解されたい。多様に記載された実施例及び好ましい実施形態は、本発明を例示的に記載された実施形態のみに限定するものとは解釈されない。本明細書は例示的に記載された実施形態と、あらゆる数の開示された及び/又は好ましい要素とを組み合わせた実施形態を支持及び包含するものであると理解されたい。さらに文脈上他に指定のない限り、本出願において記載された全ての要素のあらゆる並び替え(permutations)及び組み合わせが本出願の明細書により開示されていると見なされる。
【0014】
定義
以下で、本明細書で頻繁に使用される用語の幾つかの定義を示す。これらの用語は、それらがそれぞれ使用される場合に、本明細書の残りの部分では、それぞれ定義される意味及び好ましい意味を有することとなる。
【0015】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、数量を特定していない単数形(the singular forms "a", "an", and "the")は、文脈上他に明確に示されていない限り、複数の指示対象を含む。
【0016】
「遺伝子を発現する」又は「タンパク質を発現する」という用語は、本発明の文脈(context)において、mRNA転写に続くmRNAのコードされたタンパク質への翻訳の過程を指すために使用される。発現レベルは、mRNA及び/又はタンパク質のレベルで測定することができる。mRNAのレベルで測定される場合に、mRNAの量は、細胞中に存在するタンパク質の量の少なくとも定性的な指標を与えることとなる。ほとんどの場合に、全てのmRNAはタンパク質に翻訳されるため、mRNAの量の測定により、新たに生産されたタンパク質の量を定量することが可能となる。タンパク質の量は、タンパク質に特異的に結合する抗体で標識することを含む多くの当該技術分野で既知の方法により決定することができる。当業者は、単一細胞に基づいて遺伝子の発現を定性的及び/又は定量的に検出する幾つかの方法を認識している。これらの方法には、FISH、細胞内染色(ICS)及び単一細胞RNAシーケンシングが含まれる。
【0017】
本発明の文脈において使用される「突然変異」という用語は、それぞれ、核酸配列における或るヌクレオチドと別のヌクレオチドとの交換又はアミノ酸配列における或るアミノ酸配列と別のアミノ酸との交換を指す。本発明の文脈において使用される「欠失」という用語は、それぞれ、核酸配列からの或るヌクレオチドの除去又はアミノ酸配列における或るアミノ酸の除去を指す。本発明の文脈において使用される「挿入」という用語は、核酸配列への或るヌクレオチドの付加又はアミノ酸配列への或るアミノ酸の付加を指す。置換は、挿入と欠失と、又はその逆の連続した過程とみなすこともできる。本発明の文脈において、置換という用語は、核酸配列のヌクレオチドの数又はアミノ酸配列中のアミノ酸の数を変えない核酸配列又はアミノ酸配列の改変に使用される。
【0018】
本発明の文脈において使用される「不死」又は「不死化」という用語は、細胞が無限に分裂する特性を指す。不死化した細胞は、「細胞系統」とも呼ばれる細胞集団へと増殖することとなる。好ましくは、そのような細胞系統は、分離された細胞を含む又は分離された細胞からなる。好ましくは、そのような細胞系統は老化に至ることはない。好ましくは、そのような細胞系統は、細胞培養条件下でアポトーシスを起こすこともない。細胞系統は典型的にはクローン起源のものである、すなわち、全ての細胞は1つの形質転換された細胞の子孫であるが、細胞系統内に異質性があることが一般的である。これは、染色体の再配列、染色体の重複又は有糸分裂の間に起こり得る不適切な染色体分離に起因する。そのような事象は、形質転換された細胞においてより一般的である。「形質転換された」という用語は、細胞系統の追加の特性、つまり無限の増殖以外の特性を指す。これらの特性は、足場非依存性増殖、接触阻害の喪失、侵襲性及び多倍数性を含む腫瘍細胞に関連する1つ以上の特性である。好ましくは、形質転換された細胞系統は、アデノウイルス又はアデノウイルス粒子により形質転換される。
【0019】
「細胞系統」という用語は、1つ以上の特性に関して異質性を示す細胞系統を指す。典型的には、異質性は、細胞系統の細胞の後続の有糸分裂周期の間に大きく変化しない又は全く変化しない。細胞系統が異質であり得る特定の特性は、所与の導入遺伝子、好ましくはTet-Rの発現及び/又は倍数性である。
【0020】
「Tet-R」という用語は、本発明の文脈においては、テトラサイクリンリプレッサーを指すために使用される。
【0021】
「TRE」及び「TetO」という用語は、Tet-Rが特異的に結合するDNAエレメントを示すために使用される。好ましくは、TetO配列は、配列番号3のヌクレオチド配列(TCCCTATCAGTGATAGAGA)である。
【0022】
TetOが遺伝子の基本プロモーター内に又はその近くに複数のコピーで挿入される場合に、Tet-Rは、その基本プロモーターからの転写のリプレッサーとして作用し得る。Tet-R結合の効果を最大限にするために、しばしば2つ以上のTetOを1つのプロモーター内に連続して含めることが望ましい。好ましくは、2コピー、3コピー、4コピー、5コピー、6コピーから少なくとも7コピーのTetOが、1つのプロモーター内に連続的に含まれる。
【0023】
「異種遺伝子」という用語は、本発明の文脈において、天然に存在しない遺伝子、又は天然の状況から取り出されて、天然に存在するゲノム内の異なる位置若しくは別の生物若しくはゲノムに挿入された遺伝子を指す。例えば、アデノウイルスゲノム内に挿入された腫瘍抗原をコードするヒト遺伝子は、アデノウイルスゲノムに対して異種である。
【0024】
「毒性」という用語は、本発明の文脈において、化合物が細胞系統の増殖を阻害する活性を指すために使用される。化合物及び阻害が完了し得る濃度に応じて、すなわち個々の細胞は増殖を停止する又はアポトーシスに陥る。
【0025】
「ウイルス粒子」という用語は、本発明の文脈において、ウイルス、好ましくは核酸配列を含む組換えウイルス又はビリオンを指すために使用される。この核酸配列は、完全又は部分的なウイルスゲノムであり得る。後者の場合に、ウイルスゲノムは、好ましくは異種遺伝子を含む。幾つかのウイルス粒子の場合には、ウイルス又はビリオンのアセンブリを可能にするために、ウイルスゲノムの非常に短い配列しか必要とされない。例えば、アデノ随伴ウイルスの場合には、所与の長さ(典型的には、アデノ随伴ウイルスの場合に、4.5 kB~5.3 kB)の異種核酸の5'及び3'に配置された短い(約200 bp長)反復配列が、感染性アデノ随伴ウイルスのアセンブリを可能にすることになる。ウイルス粒子は、細胞と接触した場合に、収容された核酸をその細胞に移入することができるならば、本発明の意味における「感染性」である。
【0026】
本発明の好ましい細胞系統は、M9と呼ばれるHEK293由来の細胞系統である。この細胞系統は、2017年8月9日に英国公衆衛生庁の微生物株保存機関(英国、SP4 0JG、ソールズベリー、ポートンダウン)にあるEuropean Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)でアクセッション番号17080901として寄託された。この寄託は、Nouscom AG社(スイス、CH-4051、バーゼル、ベウムラインガッセ18)の代理で行われた。この細胞系統は、初期継代ヒト胎児腎臓細胞系統(ホモ・サピエンス)に由来する。
【0027】
実施形態
以下で、本発明の種々の態様をより詳細に定義する。こうして定義される各々の態様は、そうでないことが明確に示されていない限り、任意のその他の1つ以上の態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利であることが示される任意の特徴は、好ましい又は有利であることが示される任意のその他の1つ以上の特徴と組み合わせることができる。
【0028】
本発明につながる研究において、驚くべきことに、本発明による細胞系統により良好なアデノウイルスベクター生産性が達成され得ることが示された。
【0029】
第1の態様において、本発明は、テトラサイクリンリプレッサー(TetR)が細胞性プロモーター又は部分的細胞性プロモーターの制御下に発現される細胞系統を提供する。本発明はまた、細胞系統の細胞の少なくとも70%でテトラサイクリンリプレッサー(TetR)が発現される細胞系統を提供する。好ましくは、1種以上の細胞系統内の細胞の少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%がTet-Rを発現する。Tet-Rを発現する1種以上の細胞系統内の細胞のパーセンテージは、タンパク質又はmRNAの蛍光染色及びFACS分析を含む当該技術分野で既知の方法により測定することができる。
【0030】
細胞当たりの遺伝子発現レベルは、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QPCR)、好ましくは単一細胞QPCRによって測定することができる。定量的ポリメラーゼ連鎖反応は、当業者にとって既知の方法である。参考として、Applied Biosystems社のQuantStudio(商標)12K Flex Real-Time PCR System(公表品番4470050 Rev. A 改定日2012年3月)が参照される。
【0031】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、Tet-Rは、Tet-Rタンパク質を発現する細胞系統の細胞において、少なくとも103個のタンパク質分子/細胞、好ましくは少なくとも104個のタンパク質分子/細胞、好ましくは少なくとも105個のタンパク質分子/細胞、好ましくは少なくとも106個のタンパク質分子/細胞、より好ましくは少なくとも107個のタンパク質分子/細胞、例えば103個~106個、104個~105個のタンパク質分子/細胞のレベルで発現される。それに応じて、Tet-Rタンパク質を発現する細胞系統は、細胞当たり103個から106個の間、より好ましくは104個から105個の間のmRNAコピーを含むことが好ましい。
【0032】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、細胞系統は、そのゲノム内に安定的に組み込まれて、テトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)をコードする遺伝子を含む。好ましくは、Tet-Rをコードする遺伝子は、Tet-Rを発現する細胞中に安定的にのみ組み込まれている。好ましくは、Tet-Rをコードする遺伝子は、細胞系統の細胞の少なくとも70%、好ましくは75%、80%又は85%において安定的に組み込まれている。より好ましくは、細胞系統内の細胞の少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも97%は、そのゲノム内に安定的に組み込まれて、Tet-Rをコードする遺伝子を含む。
【0033】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、Tet-Rの発現は長い時間にわたって安定的である。本発明の文脈における「時間」は、細胞系統の細胞継代の回数として定義することができる。その中で、10代継代は、約30日~70日、好ましくは40日~60日、より好ましくは約50日に相当する。この10日間の時間枠内で、5代継代は、15日~35日、好ましくは20日~30日、より好ましくは25日に相当し得るが、必ずしもそれに相当するわけではない。この10日間の時間枠内で、1代継代は、3日~7日、好ましくは4日~6日、より好ましくは5日に相当し得るが、必ずしもそれに相当するわけではない。好ましくは、長い時間にわたって安定的とは、少なくとも40代(又は40代超)の継代、少なくとも45代(又は45代超)の継代、少なくとも50代(又は50代超)の継代、少なくとも60代(又は60代超)の継代、又は少なくとも75代(又は75代超)の継代にわたり安定的であることを意味する。これらの全ての実施形態について、発現は、好ましくは100代を含む100代までの継代にわたり安定的である。上記の10日、5日及び/又は1日について示される定義を使用して、これらの継代数及び任意の他の継代数について、対応する日数を計算することができる。例えば、40代継代は120日~280日、好ましくは160日~240日、より好ましくは200日に相当し、45代継代は135日~315日、好ましくは180日~270日、より好ましくは225日に相当し、50代継代は150日~350日、好ましくは200日~300日、より好ましくは250日に相当し、60代継代は180日~420日、好ましくは240日~360日、より好ましくは300日に相当し、75代継代は225日~525日、好ましくは300日~450日、より好ましくは375日に相当し、100代継代は300日~700日、好ましくは400日~600日、より好ましくは500日に相当する。上限の実施形態は、それらの好ましい順序に従って下限と組み合わされる。「時間」はまた、継代とは無関係に日数によってのみ定義される。この場合に、継代数に関して示された上記範囲が実施形態として当てはまる(例えば、「120日~280日」は、「少なくとも120日~280日」の実施形態を指し、それは継代数によって限定されず、すなわち40代継代より少なくても又はそれより多くてもよく、その際に好ましい範囲は、好ましい実施形態を表す)。本明細書における「安定的」とは、10代継代~20代継代の間の平均発現レベルの増加又は減少が50%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは10%以下であることを意味する。本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、Tet-Rは、テトラサイクリン又はテトラサイクリン類似体の存在下又は不存在下にて、プロモーター内に1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含む遺伝子の転写を抑制する。例えば、プロモーターは1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個以上のTetOを含む。
【0034】
本発明の第1の態様の好ましい実施形態では、Tet-R遺伝子は構成的プロモーターの制御下にある。更に好ましい実施形態では、構成的プロモーターは、EF1αプロモーター、PGK-1プロモーター、ユビキチンBプロモーター、β-アクチンプロモーター、EGR1プロモーター、HCMVプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター、マウスCMVプロモーター、CASIプロモーター及びCAGプロモーターからなる群から選択される。より好ましくは、Tet-R遺伝子はCAGプロモーターの制御下にある。プロモーターは、好ましくは細胞性プロモーター又は部分的細胞性プロモーターである。細胞性プロモーターは、好ましくは真核細胞のプロモーターである。好ましくは、プロモーターは、細胞性プロモーター又は部分的細胞性プロモーターである。細胞性プロモーターの例は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ニワトリ及び特にヒトのプロモーターである。「部分的細胞性プロモーター」は、1つ以上の細胞性プロモーターの1つ以上の部分と1つ以上の非細胞性プロモーターの1つ以上の部分とを含むハイブリッドプロモーターである。非細胞性プロモーターは、好ましくはウイルス性プロモーターである。細胞性部分と非細胞性部分とは、プロモーター活性(対象のコーディング配列の転写をもたらす活性)を有する融合物である。好ましい細胞性プロモーターは、EF1αプロモーター、PGK-1プロモーター、ユビキチンBプロモーター、β-アクチンプロモーター及びEGR1プロモーターである。好ましい部分的細胞性プロモーターは、CASIプロモーター(部分的にサイトメガロウイルス及び部分的にニワトリ)及びCAGプロモーターである。CAGプロモーター(実施例のM9細胞で使用されるプロモーター)が最も好ましい。CAGプロモーターは、(C)サイトメガロウイルス初期エンハンサーエレメントと、(A)プロモーターであるニワトリβ-アクチン遺伝子の最初のエキソン及び最初のイントロンと、(G)ウサギβ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプターとを含む。
【0035】
Tet-Rにより抑制され得る1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含むプロモーターは、特に限定されず、例えば、それらのプロモーターは、細胞性プロモーター、部分的細胞性プロモーター、ウイルス性プロモーター又は部分的ウイルス性プロモーター(ウイルス性プロモーターの一部と非ウイルス性プロモーターの一部とを含むハイブリッドプロモーター)であり得る。
【0036】
別の好ましい実施形態では、Tet-Rをコードする遺伝子は、真核(好ましくは、哺乳動物)細胞における発現のためにコドン最適化されている。本明細書において、「コドン最適化」という用語は、真核(好ましくは、哺乳動物)細胞において低い頻度を有するコドンを、同じアミノ酸へと翻訳されるが、真核(好ましくは、哺乳動物)細胞において高い頻度を有するコドンにより置き換えることにより、真核(好ましくは、哺乳動物)細胞における発現のための翻訳効率を増加させることを意味する。
【0037】
更に好ましい実施形態では、細胞系統は、そのゲノム内に1以上のIFN遺伝子の刺激因子、好ましくはcGas及びSTING、1つ以上のJAK/STAT転写アクチベーター及び1つ以上のIFN刺激遺伝子(ISG)、好ましくはPKR、MX1、OAS1、APOBEC3G、TRIM5、ZAP、ISG15、ADAR、IFITM1/2/3、BST2及び/又はRSAD2からなる群から選択される機能的タンパク質の発現を減らす又は抑える突然変異、欠失又は挿入を更に含む。
【0038】
本発明の第1の実施形態の好ましい実施形態では、細胞系統は、選択マーカーをコードする遺伝子を更に含む。好ましくは、耐性遺伝子は、Tet-Rをコードする遺伝子と遺伝的に連鎖している。好ましい実施形態では、選択マーカーをコードする遺伝子は、Tet-Rをコードする遺伝子と遺伝的に連鎖しているG418耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子又はゼオシン耐性遺伝子からなる群から選択される。より好ましくは、選択マーカーをコードする遺伝子は、Tet-Rをコードする遺伝子と遺伝的に連鎖しているG418耐性遺伝子である。
【0039】
更に好ましい実施形態では、細胞系統は、感染性ウイルス粒子の形成に必要な少なくとも1つのウイルス遺伝子を発現する。より好ましくは、細胞系統が組換えアデノウイルスの生産に使用される場合に、少なくとも1つのウイルス遺伝子は、E1領域にコードされるE1-A及び/又はE1-Bである。例えば、E1領域は、ヒトアデノウイルス又は大型類人猿アデノウイルス、例えばチンパンジーAd、ボノボAd又はゴリラAdから誘導され得る。より好ましくは、細胞系統は、そのゲノム内に、配列番号1若しくは配列番号2からなる群から選択されるヌクレオチド配列、又は同じE1-Aタンパク質及び/又はE1-Bタンパク質をコードするその変異体を含む。
【0040】
好ましい実施形態では、細胞系統の細胞は、形質転換された細胞である。
【0041】
更なる好ましい実施形態では、細胞系統の細胞は、ヒト細胞である。より好ましくは、細胞系統の細胞は、ヒト胎児腎臓細胞である。
【0042】
好ましい実施形態では、細胞系統の細胞は、HEK293細胞、A549細胞、HeLa細胞、MRC5細胞、VERO細胞、DF-1細胞又はSK-OV-3細胞からなる群から選択される。
【0043】
別の好ましい実施形態では、前記細胞系統は、ECACCでアクセッション番号1708091として寄託された細胞系統である。
【0044】
更に好ましい実施形態では、細胞系統は、感染性ウイルス粒子へとアセンブリすることができ、1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含むプロモーターの制御下にある少なくとも1つの異種遺伝子を含むウイルスゲノムを更に含む。
【0045】
別の好ましい実施形態では、ウイルスゲノムは、ヘルペスウイルスゲノム、改変ワクシニアアンカラゲノム及びアデノウイルスゲノムからなる群から選択される。より好ましくは、ウイルスゲノムは、アデノウイルスゲノムである。ヘルペスゲノムの1つの例は、HSV-1である。
【0046】
好ましい実施形態では、異種遺伝子は、細胞に対して毒性である又はウイルス複製サイクルを妨害する。
【0047】
別の好ましい実施形態では、異種遺伝子は、自己抗原、ウイルス遺伝子、細胞起源の遺伝子、腫瘍関連ネオアンチゲンの組み合わせ物をコードする合成鎖(synthetic strings)及びネオエピトープをコードする鎖からなる群から選択される。好ましくは、自己抗原は、HER2/neu、CEA、Hepcam、PSA、PSMA、テロメラーゼ、gp100、Melan-A/MART-1、Muc-1、NY-ESO-1、サバイビン、ストロメリシン3、チロシナーゼ、MAGE3、CML6S、CML66、OY-TES-1、SSX-2、SART-1、SART-2、SART-3、NYC0-5S、NY-BR-62、hKLP2及びVEGFからなる群から選択される。好ましくは、ウイルス遺伝子は、HCV E1-E2タンパク質、狂犬病糖タンパク質及びHIV-1 GP 160からなる群から選択される。好ましくは、細胞起源の遺伝子は、Tim-3、Her2及びE2 F-1からなる群から選択される。
【0048】
本発明の第2の態様は、感染性ウイルス粒子の生産のための、本発明の第1の態様による細胞系統の使用を提供する。
【0049】
本発明の第3の態様は、感染性ウイルス粒子を生産する方法であって、
(i)感染性ウイルス粒子へとアセンブリ可能なウイルスゲノムを更に含む本発明の第1の態様の細胞系統の細胞を、テトラサイクリン又はテトラサイクリン類似体の存在下又は不存在下にてin vitroで増殖させる工程、又は、
(ii)本発明の第1の態様の細胞系統の細胞にウイルスベクター、好ましくはアデノウイルスベクターを感染させる工程と、
(iii)ウイルス粒子を回収する工程と、
を含む、方法を提供する。
【0050】
本発明の第3の実施形態の好ましい実施形態では、増殖工程(i)は、テトラサイクリン又はテトラサイクリン類似体の不存在下である。
【0051】
本発明は、とりわけ以下の項目に関連する:
【0052】
1.細胞系統の細胞の少なくとも70%でテトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)が発現される細胞系統。
【0053】
2.上記Tet-Rは、細胞当たり少なくとも1000個のmRNAコピー又はTet-Rタンパク質分子のレベルでTet-Rを発現する細胞系統の細胞において発現される、項目1に記載の細胞系統。
【0054】
3.ゲノム内に安定的に組み込まれて、テトラサイクリンリプレッサー(Tet-R)をコードする遺伝子を含む、項目1又は2に記載の細胞系統。
【0055】
4.
(i)上記Tet-Rは、テトラサイクリン若しくはテトラサイクリン類似体の存在下若しくは不存在下にて、プロモーター内に1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含む遺伝子の転写を抑制する、及び/又は、
(ii)上記Tet-R遺伝子は、構成的プロモーターの制御下にあり、好ましくは、上記構成的プロモーターは、EF1αプロモーター、PGK-1プロモーター、ユビキチンBプロモーター、β-アクチンプロモーター、EGR1プロモーター、HCMVプロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター、マウスCMVプロモーター、CASIプロモーター及びCAGプロモーターからなる群から選択され、より好ましくは、上記構成的プロモーターは、CAGプロモーターである、項目1~3のいずれかに記載の細胞系統。
【0056】
5.前記Tet-Rをコードする遺伝子は、哺乳動物細胞における発現のためにコドン最適化されている、項目1~4のいずれかに記載の細胞系統。
【0057】
6.ゲノム内に1以上のIFN遺伝子の刺激因子、好ましくはcGas及びSTING、1つ以上のJAK/STAT転写アクチベーター及び1つ以上のIFN刺激遺伝子(ISG)、好ましくはPKR、MX1、OAS1、APOBEC3G、TRIM5、ZAP、ISG15、ADAR、IFITM1/2/3、BST2及び/又はRSAD2からなる群から選択される機能的タンパク質の発現を減らす又は抑える突然変異、欠失又は挿入を更に含む、項目1~5のいずれかに記載の細胞系統。
【0058】
7.選択マーカーをコードする遺伝子、好ましくは、Tet-Rをコードする遺伝子と遺伝的に連鎖しているG418耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子又はゼオシン耐性遺伝子を更に含む、項目1~6のいずれかに記載の細胞系統。
【0059】
8.前記細胞系統の細胞は、感染性ウイルス粒子の形成に必要な少なくとも1つのウイルス遺伝子を発現し、好ましくは、前記少なくとも1つのウイルス遺伝子は、E1からなる群、好ましくは配列番号1のヌクレオチド配列を有する遺伝子を含む群から選択される、項目1~7のいずれかに記載の細胞系統。
【0060】
9.前記細胞系統の細胞は、ヒト細胞、好ましくはヒト胎児腎臓細胞である、項目1~8のいずれかに記載の細胞系統。
【0061】
10.前記細胞系統の細胞は、HEK293細胞、A549細胞、HeLa細胞、MRC5細胞、VERO細胞、DF-1細胞又はSK-OV-3細胞である、項目8又は9のいずれかに記載の細胞系統。
【0062】
11.前記細胞系統は、ECACCでアクセッション番号17080901として寄託されている、項目1~10のいずれかに記載の細胞系統。
【0063】
12.
感染性ウイルス粒子へとアセンブリすることができ、1つ以上のテトラサイクリンオペレーター(TetO)を含むプロモーターの制御下にある少なくとも1つの異種遺伝子を含むウイルスゲノムを更に含み、好ましくは、
(i)前記ウイルスゲノムは、ヘルペスウイルスゲノム、改変ワクシニアアンカラゲノム及びアデノウイルスゲノムからなる群から選択され、好ましくは、前記ウイルスゲノムは、アデノウイルスゲノムである、及び/又は、
(ii)前記異種遺伝子は、細胞に対して毒性である、
項目1~11のいずれかに記載の細胞系統。
【0064】
13.
前記異種遺伝子は、自己抗原、ウイルス遺伝子、細胞起源の遺伝子、腫瘍関連ネオアンチゲンの組み合わせ物をコードする合成鎖及びネオエピトープをコードする鎖からなる群から選択され、好ましくは、
(i)前記自己抗原は、HER2/neu、CEA、Hepcam、PSA、PSMA、テロメラーゼ、gp100、Melan-A/MART-1、Muc-1、NY-ESO-1、サバイビン、ストロメリシン3、チロシナーゼ、MAGE3、CML6S、CML66、OY-TES-1、SSX-2、SART-1、SART-2、SART-3、NYC0-5S、NY-BR-62、hKLP2及びVEGFからなる群から選択される、
(ii)前記ウイルス遺伝子は、HCV E1-E2タンパク質、狂犬病糖タンパク質及びHIV-1 GP 160からなる群から選択される、及び/又は、
(iii)前記細胞起源の遺伝子は、Tim-3、Her2及びE2 F-1からなる群から選択される、
項目12に記載の細胞系統。
【0065】
14.感染性ウイルス粒子の生産のための、項目1~13のいずれか一項に記載の細胞系統の使用。
【0066】
15.感染性ウイルス粒子を生産する方法であって、
(i)項目12若しくは13に記載の細胞系統の細胞を、テトラサイクリン若しくはテトラサイクリン類似体の存在下若しくは不存在下にてin vitroで増殖させる工程、又は、
(ii)項目1~11のいずれかに記載の細胞系統の細胞に、ウイルスベクター、好ましくはアデノウイルスベクターを感染させる工程と、
(iii)ウイルス粒子を回収する工程と、
を含む、方法。
【実施例
【0067】
例1:TetRを発現する安定的なクローンの作製
HEK 293細胞をDMEM、10%ウシ胎児血清中で培養して増殖させた。30代継代時に、細胞をT-75細胞培養フラスコに播種し、BsaX1で消化した24 μgのプラスミドpneo/CAG-TetRでトランスフェクションさせた。pneo/CAG-TetRは、テトラサイクリンリプレッサー及びG418耐性遺伝子の発現カセットを含む(図1)。トランスフェクションの48時間後に、HEK 293細胞を0.8 mg/mlのG-418が補充された完全DMEM中で1:80の比率に希釈した。G-418に耐性の単一の単離されたクローンを標準的な手順を使用して採取し、24ウェルプレートに移した。各24ウェルプレートを使用して3枚のプレートを作製した。そのうち2枚を単一クローンのスクリーニングに使用し、3枚目は「マスタープレート」として保持した。全てのクローンに、1 μg/mlのテトラサイクリンの存在下又は不存在下にてChAdE TetOSeapを2連で形質導入した。感染の48時間後に、製造業者の使用説明書に従って化学発光アッセイ(Phospha-Lightキット、Applied Biosystems社、カリフォルニア州、フォスターシティ)を使用することにより、分泌されたアルカリホスファターゼ発現について上清を評価した。テトラサイクリンの存在下/不存在下にてSEAP発現の比率を計算することにより、クローンを格付けした。その値は、転写制御の厳しさの尺度を表す。その値が高いほど、転写制御はより厳しくなる。最良のクローンをアデノウイルスベクターの生産性についても評価した。M9クローンは、テトラサイクリンリプレッサーを介した発現制御だけでなく、高レベルのアデノウイルスベクター生産の維持においても非常に効率的であるという結果となった。
【0068】
実施例2:SeApアッセイによるTetR調節の評価-クローンM9とクローンM38との比較
クローンM9及びクローンM38をT25フラスコに3連で播種した。細胞単層が80%~90%のコンフルエンス(約3×106個の細胞/フラスコ)に達したときに、以下のように細胞単層を感染させた。馴化培地を吸引し、5 mlの新鮮な培地と置き換えた。次いで、テトラサイクリン(1μg/ml)の存在下又は不存在下にて、30個の粒子/細胞(vp/細胞)の多重感染度(moi)を使用して、細胞にChAdE TetOSeapを感染させた。SeAp発現を、感染2日後にフラスコ当たり50 μlの上清を試験することにより評価した。各フラスコから採取された上清を96ウェルプレートのウェル(50 μl/ウェル)中に移して、製造業者の使用説明書に従って化学発光アッセイ(Phospha-Lightキット、Applied Biosystems社、カリフォルニア州、フォスターシティ)によりアルカリホスファターゼ活性について試験した。Envision 2012 Multilabelリーダー(Perkin Elmer社)を使用することにより、シグナルを取得した。図2に報告されるように、テトラサイクリンの存在下及び不存在下にて得られるSeAp発現値の比率を計算することにより、転写制御の効率を評価した。テトラサイクリン(Tet)の存在下でのSeAp発現は2つのクローンで同等であることから、転写制御の不存在下にてHCMVプロモーターがM9細胞だけでなく、M38細胞においても完全に活性であることが指摘される。それに対して、Tetが培地中に存在せず、かつTetRが活性でプロモーターに結合されている場合に、SeAP活性はM9クローンにおいて約5倍低いことから、M38と比較してHCMVプロモーターの抑制がより強いことが指摘される。
【0069】
実施例3:M9細胞及びM38細胞におけるアデノベクター生産性の評価
M9クローン及びM38クローンをT25フラスコに2連で播種した。細胞が80%~90%のコンフルエンスに達したときに、100 vp/細胞のmoiを使用して、細胞にAdTetOE1/F78E2p7を感染させた。AdTetOE1/F78E2p7は、HEK293細胞において発現させた場合に毒性である遺伝子を有するアデノウイルスベクターであるため、このアデノウイルスベクターは転写制御なくして増殖することはできない。HEK 293細胞をコントロールとして並行して感染させた。顕微鏡検査により完全な細胞変性効果が確認されたときに(感染4日後)、細胞及び培地を各フラスコから採取し、-80℃で凍結させた。3サイクルの凍結/解凍(-80℃/37℃)により、感染された細胞からウイルスベクターが放出された。次いで、細胞溶解物を遠心分離により清澄化した。アデノベクターゲノム内に存在するヒトサイトメガロウイルスプロモーター(HCMVp)の特定の標的領域を増幅するように設計されたプライマーと二重標識された蛍光プローブ(FAM-TAMRA)とを用いてTaqMan社のレポーター-クエンチャー色素化学(Biorad QX200 AutoDG Droplet Digital PCR System)を使用するドロップレットデジタルポリメラーゼ連鎖反応により、清澄化された上清を分析した。ウイルス収量を粗製溶解物において評価し、比生産性としてvp/細胞で表現した。それらの結果(図3)により、クローンM9はM38と比較して生産性がより高く、親HEK293細胞は毒性遺伝子を発現するアデノベクターの生産性を維持することができないことが示された。M9細胞により示されたより高い生産性は、M38と比較してM9の転写制御がより良好であることを裏付ける図2に示された結果と一致している。さらに、HEK293細胞は毒性遺伝子を発現するアデノウイルスベクターの複製を維持することができない。
【0070】
実施例4:M9細胞及びM38細胞におけるTetRタンパク質発現
クローンM9及びクローンM38におけるTetRの生産を、細胞溶解物を使用したウェスタンブロットによって評価した。細胞性タンパク質をM9クローン及びM38クローンから抽出し、ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて作成した標準曲線によりBio-Rad社のプロテインアッセイを使用することにより定量した。45 μgのタンパク質抽出物を、SDSを含むローディングバッファーの存在下、100℃で変性させ、4%~12%のBis-Tris NuPAGE(商標)ゲル上にロードした。電気泳動後に、タンパク質をニトロセルロースメンブレンに転写し、1:1000に希釈したTetRモノクローナル抗体(Clontech社、カタログ番号631131)と一緒にインキュベートした。そのメンブレンを、1:3000に希釈したHRP(SIGMA社、カタログA9044)とコンジュゲートさせた抗マウス二次抗体と一緒にインキュベートすることにより、シグナルが現れた。図4に示されるように、TetRの発現はM9細胞においてM38細胞よりも高かった。
【0071】
実施例5:M9細胞におけるChAdベクターのレスキューの効率
アデノウイルスベクターの生産の維持におけるM9細胞の効率を更に評価するために、DNAトランスフェクションによるC種及びE種のアデノウイルスベクターのレスキューの効率(ChAdN13 TPA4-T1Poly(図5A)及びChAdE egfp(図5B))について、親HEK293と比較して試験した。M9細胞及びHEK293細胞をT25フラスコ中で培養して、製造業者の使用説明書に従ってLipofectamine(商標)2000(Thermo Fisher Scientific社のカタログ番号11668-019)を使用することにより、10 μgのpreAdプラスミドDNAで並行してトランスフェクションさせた。アデノウイルスベクターのレスキュー及び増幅を、トランスフェクションの12日後に細胞溶解物におけるQPCRによって評価した。アッセイで使用されるプライマーは、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモーターの特定の標的領域を増幅するように設計されており、二重標識された蛍光プローブ(FAM-TAMRA)はアンプリコン内でハイブリダイズする。結果は図5に示されており、C種及びE種の両方のアデノウイルスベクターについて、トランスフェクションした場合のM9細胞におけるアデノウイルスベクター生産の効率がより高いことが裏付けられる。
【0072】
実施例6:ChAd C-Venusベクター及びChAd E-EGFPベクターの生産性
レポーター遺伝子を有する2つの異なるチンパンジーAdベクター(ChAdC-Venus(図6A)及びChAdE-EGFP(図6B))の生産性を、M9細胞において親HEK 293細胞及び293T細胞と比較して評価した。T25フラスコ中の細胞の単層を、両方のChAdについて同じ感染多重度を使用して感染させた。完全な細胞変性効果が明らかとなった感染の72時間後に細胞を採取した。3サイクルの凍結/解凍(-80℃/37℃)により、感染された細胞からベクターが放出された。次いで、細胞溶解物を遠心分離によって清澄化し、清澄化された細胞溶解物においてベクター力価をリアルタイムQPCRによって評価した。使用されるプライマーは、アデノゲノム内に存在するヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモーターの特定の標的領域を増幅するように設計された。二重標識された蛍光プローブ(FAM-TAMRA)はアンプリコン内でハイブリダイズする。それらの結果は、図6に示されている。
【0073】
実施例7:M9細胞及びT-Rex細胞における転写制御の均質性の評価-FACS分析による単一細胞レベルでのVenusレポーター遺伝子発現
細胞系統における転写制御の均質性は、アデノウイルスベクター生産過程を通じて発現を制御するように設計された細胞系統の重要な特徴である。生産に使用される細胞系統における単一細胞レベルでの不均質な発現は、転写を効率的に抑制しない細胞の亜集団における再配列されたベクター種の選択を導き得る。転写制御の均質性を、M9細胞において、Tet-Rを発現する市販のT-Rex細胞(Invitrogen社、ロット番号1804535)と比較して評価した。細胞をT25フラスコに播種し、moi=100 vp/細胞を使用して、細胞にChAdC-Venusを感染させた。感染の2日後に、細胞をフラスコから剥離し、PBS(1X)で洗浄し、遠心分離により回収した。細胞ペレットを、1%のホルムアルデヒド、2.5 mMのEDTAを含むPBS(1X)中に1.5×106個の細胞/mlの最終細胞密度で再懸濁した。200 μlの細胞懸濁液(合計で約3×105個の細胞)を96ウェルプレートのウェルに移し、FACSにより分析した。図7に報告されているFACS分析の結果により、蛍光シグナルがM9細胞系統の3.8%で検出され、一方で、T-Rex細胞の26%が陽性の結果であることが示された。この結果により、M9細胞系統がより均質であり、T-Rex(74%)と比較して発現を制御可能な細胞の%がより高い(96.2%)ことが裏付けられた。
【0074】
実施例8:M9細胞系統及びT-Rex細胞系統におけるChAdベクターの生産性
T-REX細胞(Invitrogen社、ロット番号1804535)と比べて、M9細胞におけるアデノウイルスベクターの細胞特異的生産性及び容量的生産性を比較するために、細胞系統をT25フラスコ中に播種した。コンフルエンスに近い細胞単層に100 vp/細胞のmoiを使用してChAdC-Venusを感染させた。完全なCPEが顕微鏡観察により明らかになったとき(感染7日後)に細胞を採取した。次いで、HCMVプロモーターの配列に対して設計されたプライマーとアンプリコン内でハイブリダイズする二重標識された蛍光プローブ(FAM-TAMRA)とを用いたリアルタイムQPCRによって、ベクターの生産性を決定した。図8の結果により、T-RexよりもM9細胞においてChAdC-Venusの生産性の方が高いことが示された。
【0075】
実施例9:ウェスタンブロッティングによるHCMV-TetR細胞及びM9細胞におけるTetR発現分析
各試料の3×106個の細胞(図10を参照)を、細胞ペレットを20 mMのTRIS-HCl(pH 7.4)、150 mMのNaCl、1 mMのEDTA(pH 8.0)、10%のTriton-X、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche社のカタログ11697498001)中に4℃で30分間再懸濁させることにより溶解させた。インキュベート後に、試料を4℃で14000 rpmで30分間遠心分離することで清澄化させた。総タンパク質濃度をBio-Rad社のプロテインアッセイにより製造業者の使用説明書に従って評価し、その後にウェスタンブロッティングにより分析した。
【0076】
45 μgのタンパク質抽出物を4%~12%のSDS-PAGEにおいて還元条件下で分離した後に、ドライブロット(iBlot Gel Transfer system、Invitrogen社)によりニトロセルロースメンブレン上に転写した。タンパク質転写後に、そのメンブレンをブロッキングバッファー(PBS-Tween(0.1%)中のミルク(5%))にて室温で1時間処理し、1:1000に希釈された抗TetRモノクローナル抗体(クローン9G9-Clontech社のカタログ番号631132)と一緒に+4℃で12時間インキュベートした。翌日に、そのメンブレンをHRPコンジュゲート型ウサギ抗マウスIgG(SIGMA社、カタログ番号A9044)と一緒に室温で1時間インキュベートし、Pierce ECLウェスタンブロッティング基質(Thermo Scientific社、イリノイ州、ロックフォード)により製造業者のプロトコルに従って可視化した。抗チューブリン抗体をコントロールとして使用して、結果を正規化した。図10に示される結果により、HCMVプロモーターにより駆動されるTetRの発現が時間と共に低下することが裏付けられ、試料HEK293 p40-hCMV TetRと試料HEK293 p60-hCMV TetRとの比較によってTetRシグナルの著しい低下を示すことが指摘された。それに対して、CAGプロモーターにより駆動されるTetRの発現は時間と共に低下しなかった。
【0077】
実施例10:HEK293 p60-hCMV TetR細胞をヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤に曝露することによるTetR発現の再活性化
HCMVサイレンシングの機構を調べるために、60代継代時のHEK293 hCMV TetR細胞をHDAC阻害剤の存在下にて培養した。細胞培養培地に200 nMのベリノスタット(PXD101)を補充した後に、細胞培養培地を図11に示される種々の時点で採取した。先の実施例に示されるように、TetR発現をウェスタンブロットにより評価した。それらの結果は、TetR発現がベリノスタットにより再活性化され得るが、発現に対する効果は一過性にすぎないことを明確に示している。ベリノスタット(belinostat)がより長時間の曝露後に細胞に対して毒性を示すので、そのような再活性化は実用的な目的のためには適していない。
【0078】
本発明者らは、この実験に基づいて、hCMV-IE(ウイルスプロモーター)がDNAメチル化に関連する転写サイレンシングを起こす傾向にあると想定している。それに対して、CAGプロモーター(本発明の最も好ましい部分的細胞性プロモーター)により駆動されるTetR発現は、細胞継代を通して安定的である。この驚くべき知見は、細胞が細胞性プロモーター又は部分的細胞性プロモーターよりもウイルス性プロモーターをよりサイレンシングする傾向にあることに起因すると本発明者らは考えている。
【符号の説明】
【0079】
図面訳
図1
pUC replication origin pUC複製起点
HSV TK polyA HSV TKポリA
Kan/Neo resistance Kan/Neo耐性
SV40 promoter SV40プロモーター
CAG promoter CAGプロモーター

図2
Ratio +/- tet +/- tet比
SeAp assay SeApアッセイ

図3
Vp/cell Vp/細胞

図4
clone クローン
tubulin チューブリン

図5
Vp/cell Vp/細胞

図6
Productivity of ChAdC-Venus ChAdC-Venusの生産性
Productivity ChAd E-EGFP ChAd E-EGFPの生産性
Vp/cell Vp/細胞

図7
Venus positive cells Venus陽性細胞
Count 数
Venus pos. Cell 3,8% Venus陽性細胞 3.8%
Venus pos. Cell 26% Venus陽性細胞 26%

図8
Volumetric productivity 容量的生産性
Cell-specific productivity 細胞特異的生産性
Vp/cell Vp/細胞

図9
ITR left 左側ITR
Transgene 導入遺伝子
BghPolyA BghポリA
hexon ヘキソン
Fiber ファイバー
ITR-R 右側ITR
Adenoviral vector carrying a HCMV promoter with TetO TetOを含むHCMVプロモーターを有するアデノウイルスベクター
TATA BOX TATAボックス
Diagram of the expression cassette including TetO sequences TetO配列を含む発現カセットの図

図10
tubulin チューブリン

図11
Pretreatment 前処理
Time post-treatment(hours) 処理後の時間(時間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
0007274225000001.app