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特許7274241部材、部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材、細胞培養基材、結紮デバイス、及び、積層体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】部材、部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材、細胞培養基材、結紮デバイス、及び、積層体
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/04 20060101AFI20230509BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230509BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230509BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20230509BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C08F299/04
C08L67/04
A61L31/06
C08G81/00
B32B27/36
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2022512061
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021012486
(87)【国際公開番号】W WO2021200532
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020066015
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ソロタイプ、「光駆動型動的細胞操作材料の開発と構造力学場記憶機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】宇都 甲一郎
(72)【発明者】
【氏名】荏原 充宏
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-503524(JP,A)
【文献】特開平11-286531(JP,A)
【文献】特開2021-46481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F299/
C08L67/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物と、
エステル交換触媒と、
オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位を有し、分子内に少なくとも2つ以上のヒドロキシ基を有する高分子化合物と、
を含有する部材。
【化1】

(式1中、Lはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Xエチレン性不飽和基を有する基を表し、Rは水素原子、又は、前記エチレン性不飽和基を有さない1価の置換基を表し、qは2以上の整数を表し、pは0以上の整数を表し、qが2かつpが0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、qが2かつpが1以上のとき、及び、qが3以上のとき、Mはp+q価の基を表し、複数あるR、L、及び、Xはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
形状記憶能を有する、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
示差走査熱量測定の昇温過程で、35~60℃に吸熱ピークが観測される、請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記硬化性化合物が以下の式1Bで表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化2】

(式1B中、M1Bは、r価の基であり、L1Bはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X1Bエチレン性不飽和基を有する基を表し、rは2以上の整数を表し、複数あるL1B、及び、X1Bはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項5】
前記硬化性化合物が以下の式1Cで表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化3】

(式1C中、ALは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を表し、X1Cエチレン性不飽和基を有する基を表し、tは2~100の数を表す。)
【請求項6】
前記硬化性化合物が以下の式1Dで表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化4】

(式1D中、ALは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を表し、X1Dエチレン性不飽和基を有する基を表し、wは2~100の数を表す。)
【請求項7】
前記高分子化合物が、以下の式2で表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化5】

(式2中、Lはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Yはヒドロキシ基を有する基を表し、Rは水素原子、又は、ヒドロキシ基を有さない1価の置換基を表し、n2は2以上の整数を表し、m2は0以上の整数を表し、n2が2かつm2が0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、n2が2かつm2が1以上のとき、及び、n2が3以上のとき、Mはm2+n2価の基を表し、複数あるL、R、及び、Yはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項8】
前記高分子化合物が、式2Bで表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化6】

(式2B中、L2Bはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Y2Bはヒドロキシ基を有する基を表し、n2Bは2以上の整数を表し、M はn2B価の基を表し、複数あるL2B、及び、Y2Bはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項9】
前記高分子化合物が、式2Cで表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化7】

(式2C中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表し、gは2~100の数を表す。)
【請求項10】
前記高分子化合物が、式2Dで表される、請求項1~のいずれか1項に記載の部材。
【化8】

(式2D中、AL は直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表し、hは2以上の数を表す。)
【請求項11】
前記エステル交換触媒がスズを含有する請求項1~10のいずれか1項に記載の部材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の部材の製造方法であって、
前記硬化性化合物と、前記高分子化合物と、硬化剤とを含有する組成物にエネルギーを付与して前記硬化性化合物を硬化させ、前記高分子化合物を含有する硬化物を得ることと、
前記エステル交換触媒、及び、溶媒を含有する溶液と、前記硬化物とを接触させて、部材を得ることと、を有する部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、パーマネント形状変更済み部材を得る、パーマネント形状変更済み部材の製造方法。
【請求項14】
式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物と、エステル交換触媒と、を含有する部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、パーマネント形状変更済み部材を得る、パーマネント形状変更済み部材の製造方法。
【化9】

(式1中、L はポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X はエチレン性不飽和基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記エチレン性不飽和基を有さない1価の置換基を表し、qは2以上の整数を表し、pは0以上の整数を表し、qが2かつpが0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、qが2かつpが1以上のとき、及び、qが3以上のとき、M はp+q価の基を表し、複数あるR 、L 、及び、X はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、パーマネント形状変更済み部材を得る、部材のパーマネント形状を変更する方法。
【請求項16】
式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物と、エステル交換触媒と、を含有する部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、パーマネント形状変更済み部材を得る、部材のパーマネント形状を変更する方法。
【化10】

(式1中、L はポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X はエチレン性不飽和基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記エチレン性不飽和基を有さない1価の置換基を表し、qは2以上の整数を表し、pは0以上の整数を表し、qが2かつpが0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、qが2かつpが1以上のとき、及び、qが3以上のとき、M はp+q価の基を表し、複数あるR 、L 、及び、X はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて得られたパーマネント形状変更済み部材。
【請求項18】
式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物と、エステル交換触媒と、を含有する部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて得られたパーマネント形状変更済み部材。
【化11】

(式1中、L はポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X はエチレン性不飽和基を有する基を表し、R は水素原子、又は、前記エチレン性不飽和基を有さない1価の置換基を表し、qは2以上の整数を表し、pは0以上の整数を表し、qが2かつpが0のとき、M は単結合、又は、2価の基を表し、qが2かつpが1以上のとき、及び、qが3以上のとき、M はp+q価の基を表し、複数あるR 、L 、及び、X はそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項19】
請求項17又は18に記載のパーマネント形状変更済み部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、異なるパーマネント形状への変更済み部材を得る、異なるパーマネント形状への変更済み部材の製造方法。
【請求項20】
請求項17又は18に記載のパーマネント形状変更済み部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、異なるパーマネント形状への変更済み部材を得る、部材のパーマネント形状を、異なるパーマネント形状へ変更する方法。
【請求項21】
請求項17又は18に記載のパーマネント形状変更済み部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて得られた、異なるパーマネント形状への変更済み部材。
【請求項22】
パーマネント形状を有する請求項1~1117~18及び21のいずれか1項に記載の部材を、応力下で100℃以下の温度でテンポラリー形状に変形させ、その後、部材の結晶融点以上でかつ120℃未満の温度に加熱して、当該テンポラリー形状を当該パーマネント形状に戻す、部材のテンポラリー形状をパーマネント形状に戻す方法。
【請求項23】
請求項1~1117~18及び21のいずれか1項に記載の部材を有する細胞培養基材。
【請求項24】
請求項1~1117~18及び21のいずれか1項に記載の部材を有する結紮デバイス。
【請求項25】
請求項1~1117~18及び21のいずれか1項に記載の部材と、前記部材上に配置された接着剤層と、を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材、部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材、細胞培養基材、結紮デバイス、及び、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル樹脂は優れた生分解性を有することが知られており、研究が進められている。非特許文献1には、温度応答性ポリ(ε-カプロラクトン)フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Advanced materials,(米),2012,vol.24,p273-278
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載されたフィルムは、外力により変形し、それが固定された「テンポラリー(Temporary)」形状(以下、単に「T形状」ともいう。)から、変形を受ける前の「パーマネント(Permanent)」形状(以下、単に「P形状」ともいう。)への形状変化が、加熱により引き起こされるという優れた特徴を有していた。言い換えれば、T形状から、もとのP形状へと戻るという形状記憶能を有していた。
【0005】
しかしながら、上記P形状は、フィルムの元々の形状(成形時の形状)に依存し、フィルムを成形した後は変更することはできなかった。
より詳細には、非特許文献1に記載されたフィルムにおいて、T形状は、変形の仕方により様々に変更できるものの、加熱を受けて戻った際のP形状は、元々フィルムを成形した際の形状に依存し、変更できなかった。
【0006】
従って、曲面を有する三次元形状をP形状として有する部材を得ようとすれば、例えば、その三次元形状に対応するキャビティを有するモールドを準備し、その中に硬化性化合物を含有する組成物を充填し、組成物を硬化させて成形する必要があり、煩雑だった。
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は、パーマネント形状(P形状)を容易に調整可能な形状記憶能を有する部材を提供することを課題とする。
また、本発明は部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材、細胞培養基材、結紮デバイス、及び、積層体を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
[1]
式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物と、
エステル交換触媒と、を含有する部材。
【化1】

(式1中、Lはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Xは硬化性基を有する基を表し、Rは水素原子、又は、前記硬化性基を有さない1価の置換基を表し、qは2以上の整数を表し、pは0以上の整数を表し、qが2かつpが0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、qが2かつpが1以上のとき、及び、qが3以上のとき、Mはp+q価の基を表し、複数あるR、L、及び、Xはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[2]
オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位を有し、分子内に少なくとも2つ以上のヒドロキシ基を有する高分子化合物、を更に含有する、[1]に記載の部材。
[3]
形状記憶能を有する、[1]又は[2]に記載の部材。
[4]
示差走査熱量測定の昇温過程で、35~60℃に吸熱ピークが観測される、[1]~[3]のいずれかに記載の部材。
[5]
前記硬化性化合物が以下の式1Bで表される、[1]~[4]のいずれかに記載の部材。
【化2】

(式1B中、M1Bは、r価の基であり、L1Bはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X1Bは硬化性基を有する基を表し、rは2以上の整数を表し、複数あるL1B、及び、X1Bはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[6]
前記硬化性化合物が以下の式1Cで表される、[1]~[5]のいずれかに記載の部材。
【化3】

(式1C中、ALは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を表し、X1Cは硬化性基を有する基を表し、tは2~100の数を表す。)
[7]
前記硬化性化合物が以下の式1Dで表される、[1]~[5]のいずれかに記載の部材。
【化4】

(式1D中、ALは直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基を表し、X1Dは硬化性基を有する基を表し、wは2~100の数を表す。)
[8]
前記高分子化合物が、以下の式2で表される、[1]~[7]のいずれかに記載の部材。
【化4】

(式2中、Lはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Yはヒドロキシ基を有する基を表し、Rは水素原子、又は、ヒドロキシ基を有さない1価の置換基を表し、n2は2以上の整数を表し、m2は0以上の整数を表し、n2が2かつm2が0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、n2が2かつm2が1以上のとき、及び、n2が3以上のとき、Mはm2+n2価の基を表し、複数あるL、R、及び、Yはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[9]
前記高分子化合物が、式2Bで表される、[1]~[8]のいずれかに記載の部材。
【化5】

(式2B中、L2Bはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Y2Bはヒドロキシ基を有する基を表し、n2Bは2以上の整数を表し、Mはn2B価の基を表し、複数あるL2B、及び、Y2Bはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
[10]
前記高分子化合物が、式2Cで表される、[1]~[9]のいずれかに記載の部材。
【化6】

(式2C中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表し、gは2~100の数を表す。)
[11]
前記高分子化合物が、式2Dで表される、[1]~[9]のいずれかに記載の部材。
【化7】

(式2D中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表し、hは2以上の数を表す。)
[12]
前記エステル交換触媒がスズを含有する[1]~[11]のいずれかに記載の部材。
[13]
[1]~[12]のいずれかに記載の部材の製造方法であって、
前記硬化性化合物と、前記高分子化合物と、硬化剤とを含有する組成物にエネルギーを付与して前記硬化性化合物を硬化させ、前記高分子化合物を含有する硬化物を得ることと、
前記エステル交換触媒、及び、溶媒を含有する溶液と、前記硬化物とを接触させて、部材を得ることと、を有する部材の製造方法。
[14]
[1]~[12]のいずれかに記載の部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、パーマネント形状変更済み部材を得る、パーマネント形状変更済み部材の製造方法。
[15]
[1]~[12]のいずれかに記載の部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、パーマネント形状変更済み部材を得る、部材のパーマネント形状を変更する方法。
[16]
[1]~[12]のいずれかに記載の部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて得られたパーマネント形状変更済み部材。
[17]
[16]に記載のパーマネント形状変更済み部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、異なるパーマネント形状への変更済み部材を得る、異なるパーマネント形状への変更済み部材の製造方法。
[18]
[16]に記載のパーマネント形状変更済み部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて、異なるパーマネント形状への変更済み部材を得る、部材のパーマネント形状を、異なるパーマネント形状へ変更する方法。
[19]
[16]に記載のパーマネント形状変更済み部材を応力下で加熱して、エステル交換反応させて得られた、異なるパーマネント形状への変更済み部材。
[20]
パーマネント形状を有する[1]~[12]、[16]及び[19]のいずれかに記載の部材を、応力下で100℃以下の温度でテンポラリー形状に変形させ、その後、部材の結晶融点以上でかつ120℃未満の温度に加熱して、当該テンポラリー形状を当該パーマネント形状に戻す、部材のテンポラリー形状をパーマネント形状に戻す方法。
[21]
[1]~[12]、[16]及び[19]のいずれかに記載の部材を有する細胞培養基材。
[22]
[1]~[12]、[16]及び[19]のいずれかに記載の部材を有する結紮デバイス。
[23]
[1]~[12]、[16]及び[19]のいずれかに記載の部材と、前記部材上に配置された接着剤層と、を有する積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、P形状を容易に調整可能な形状記憶能を有する部材を提供できる。当該部材は、自己修復及びリサイクル特性をも有し得る。また、本発明によれば、部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材の製造方法、パーマネント形状変更済み部材、細胞培養基材、結紮デバイス、及び、積層体も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態である細胞培養基材の斜視図である。
図2】細胞培養基材の使用方法の一例である。
図3】本発明の一実施形態である結紮デバイスの模式図である。
図4】結紮デバイスを用いて生体組織を結紮する手順である。
図5】本発明の一実施形態に係る積層体の模式的な断面図である。
図6】4b10PCLのH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルである。
図7】2b20PCLの1H-NMRスペクトルである。
図8】4b10PCLの構造式におけるNMRの各ピークの帰属を示す図である。
図9】部材6のDSC曲線(冷却過程、及び、昇温過程)である。
図10】部材C1のDSC曲線である。
図11】部材1のDSC曲線である。
図12】部材11のDSC曲線である。
図13】部材12のDSC曲線である。
図14】部材13のDSC曲線である。
図15】調製直後の部材1(P形状)の画像である。
図16】ポリテトラフルオロエチレン製の棒にらせん状に巻き付けて端部をクリップで固定した状態の部材1の画像である。
図17図16の状態のまま140℃に保持して冷却した後の部材1の画像である。
図18】ポリテトラフルオロエチレン製の棒に棒の長手方向と部材1の長手方向とが略直行する方向に沿って巻き付けて固定した状態の部材1の画像である。
図19図18の状態のまま140℃に保持して冷却した後の部材1の画像である。
図20】ポリテトラフルオロエチレン製のシートで挟み長手方向に沿ってM字型に折りたたんで固定した部材1の画像である。
図21図20の状態のまま140℃に保持して冷却した後の部材1の画像である。
図22】形状記憶能の評価に供した、らせん状のP形状を有する部材1の画像である。
図23】引き伸ばされた状態の部材1の画像である。
図24図23の部材1を60℃に加熱した後の部材1の画像である。
図25】部材1の熱機械分析曲線である。
図26】部材6の熱機械分析曲線である。
図27】部材C1の熱機械分析曲線である。
図28】部材1のバラバラの状態(左の図)と加圧熱処理後の試料(右の図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(用語の定義)
本明細書において、パーマネント形状(「P形状」ともいう。)とは、内部(残留)応力が緩和された状態、言い換えれば、熱力学的に最も安定な形状を意味し、典型的には、外部から応力を与えない状態で、結晶の融解温度以上に部材を加熱して、その後、室温まで冷却した際に得られる形状を意味する。
なお、結晶の融解温度とは、部材の示差走査熱量測定(昇温速度10℃/分)を行い、その昇温過程における吸熱ピークのピークトップの温度を意味する(複数の吸熱ピークを有する場合、最も高温側のピークのピークトップ温度とする)。
なお、融解温度「以上」とは、示差走査熱量測定の吸熱ピークの高温側の終端温度程度でよい。
また、部材の示差走査熱量測定は、後述する実施例に記載の方法により行うものとする。
【0014】
本明細書において、テンポラリー形状(「T形状」ともいう。)とは、外部から応力を与えて変形させた状態で、結晶の融解温度以上に加熱後、結晶化温度程度(又はそれ以下)に冷却されることで、結晶化等によって一時的に変形が固定された際の形状を意味する。
なお、結晶化温度とは、部材の示差走査熱量測定(冷却温度10℃/分)を行い、その冷却過程における発熱ピークのピークトップの温度を意味する。
また、部材の示差走査熱量測定は、後述する実施例に記載の方法により行うものとする。
【0015】
[部材]
本発明に係る部材(以下、「本部材」ともいう。)は、後述する式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物と、エステル交換触媒と、を含有する部材である。本部材は、オキシアルキレンカルボニル基;*-O-R-C(=O)-*(Rはアルキレン基を表し、*は結合位置を表す)からなる繰り返し単位を有し、分子内に少なくとも2つ以上のヒドロキシ基を有する高分子化合物、を更に含有することが好ましい。
【0016】
上記部材により本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。なお、以下に説明する機序は、本部材が前記の高分子化合物を含有する場合の推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の課題が解決される場合であっても、上記構成を有する部材は、本発明の範囲に含まれる。
【0017】
本部材が含有する高分子化合物は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位を有するため、後述する式1で表される硬化性化合物と相溶性が高い。そのため、上記高分子化合物を硬化物と複合化すると、硬化物中には上記高分子化合物が均一に分散しやすいと推測される。
すなわち、硬化物のネットワーク(3次元網目構造)に高分子化合物が絡み合った半相互侵入高分子網目構造(semi-IPN、IPNは、interpenetrating polymer networkの略)を形成しやすいものと推測される。
【0018】
また、上記高分子化合物はヒドロキシ基を有しており、所定の温度に加熱すると、エステル交換触媒の作用により、硬化物が有する(ポリ)オキシアルキレンカルボニル基と上記ヒドロキシ基との間でエステル交換反応が起きるものと推測される。
更に、上記高分子化合物は分子内に少なくとも2つ以上のヒドロキシ基を有している。このため、エステル交換反応によって、いわば架橋構造の組み換えのような構造の変化が硬化物と高分子化合物との間で起こるものと推測される。
【0019】
本部材は、所望のP形状になるよう応力を与え、その応力下においてエステル交換反応を起こさせると、エステル交換反応によって上述の架橋構造の組み換えのような反応が起こるため、応力が緩和され、P形状が変更されるものと推測される。
【0020】
また、高分子化合物はオキシアルキレンカルボニル基を有しているため、あわせてこれがエステル交換反応に寄与する。すなわち、上記硬化物と高分子化合物との組み合わせによってはじめて、P形状を繰り返し変更することが可能になったものと推測される。
なお、本部材が前記の高分子化合物を含有しない場合には、上記で説明した機序において、高分子化合物が有するオキシアルキレンカルボニル基及びヒドロキシ基を、式1で表される硬化性化合物が有し得るオキシアルキレンカルボニル基及びヒドロキシ基に置き換えて、本発明の効果が得られる同様の機序を推測することが可能である。
次に、本部材の各成分について詳述する。
【0021】
〔硬化物〕
本部材は、後述する式1で表される硬化性化合物を硬化させてなる結晶性を有する硬化物を含有する。
本部材中における硬化物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、部材の質量の全体を100質量%としたとき、1~99質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましい。
なお、部材は、硬化物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。部材が、硬化物を2種以上含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0022】
なお、本明細書において、硬化物が「結晶性を有する」とは、JIS-K7121:2012に準拠したDSC(示差走査熱量)測定(昇温速度10℃/分)によって融解ピークが検出されることを意味する。
硬化物の結晶は、後述するとおり、P形状からT形状に変形された際の形状の変化を固定し、加熱により融解してT形状からP形状への変更を引き起こすための要因のひとつである。
【0023】
本部材は、硬化物と、高分子化合物と、エステル交換触媒とをそれぞれ別に調製して、溶媒中で混合し、その後、溶媒を除去することで調製できる。
また、Semi-IPN構造がより形成されやすい点では、後述する硬化性化合物と高分子化合物と硬化剤とを含有する組成物を調製し、組成物にエネルギーを付与して硬化性化合物を硬化させて、高分子化合物を含有する硬化物を得て、その後、硬化物にエステル交換触媒を添加して、部材を得るのが好ましい。
【0024】
エステル交換触媒を硬化性化合物の硬化反応後に添加すると、硬化性化合物の硬化反応において意図しない副反応の発生をより抑制しやすい点で好ましい。
硬化物と高分子化合物とがSemi-IPN構造を形成している場合、ヒドロキシ基とオキシアルキレンカルボニル基とが硬化物内においてより近くに配置されやすいと推測され、より大きな形状変化を与えた時の形状の維持(書換)能が高くなるものと推測される。
【0025】
(硬化性化合物)
硬化性化合物は、以下の式1で表される化合物である。
【0026】
【化1】
【0027】
式1中、Lはポリオキシアルキレンカルボニル基を表す。
ポリオキシアルキレンカルボニル基とは、オキシアルキレンカルボニル基を繰り返し単位として有する高分子鎖からなる2価の基であり、具体的には、以下の式IIで表される基である。
【0028】
【化2】
【0029】
式II中、Lは分岐構造を有してもよい(分岐鎖状であってもよい)アルキレン基を表し、Lの炭素数としては特に制限されないが、1~20個が好ましく、2~10個がより好ましい。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、Lとしては、炭素数が2~10個の直鎖状のアルキレン基が更に好ましい。
【0030】
式II中のLのアルキレン基の炭素数は、後述する式2の高分子化合物が有するポリオキシアルキレンカルボニル基Lのアルキレン基の炭素数と同一であることが好ましい。式II中のLのアルキレン基の炭素数が後述する式2の高分子化合物が有するポリオキシアルキレンカルボニル基Lのアルキレン基の炭素数と同一であると、両者の相溶性が高まり、部材中における高分子化合物の分散性がより高まる。その結果、エステル交換反応がより均一に進みやすくなり、部材はより優れた本発明の効果を有する。
【0031】
また、式II中、nは、2以上の数を表し、特に制限されないが、2~100が好ましく、2~50がより好ましい。更に、硬化物の融点が35~42℃の生体温度に調整しやすい観点で、Mが4価の基である場合(すなわち、硬化性化合物が4分岐である場合)、nは10~35が好ましい。また、Mが2価の基である場合、上記と同様の観点から、nは20以下が好ましい。
【0032】
硬化物の融点は、後述するとおり、T形状からP形状へと変化させる温度と関係するため、本部材を医療用器具、及び、化粧料等に適用する場合、融点が35~42℃であると、ヒトの体温を駆動温度とすることができるので好ましい。
【0033】
なお、硬化性化合物を環状エステルの開環重合によって調製する場合、重合開始剤(例えば多価アルコール)と、モノマー(例えば、ラクトン化合物)との仕込み比によってnの数を調製できる。より具体的には、多価アルコールのヒドロキシ基1つに対して、ラクトン化合物が所望のn数反応するよう仕込めばよい。
【0034】
なお、上記nの数は、硬化性化合物のH-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定により決定できる。このとき、硬化性化合物のNMR測定は以下の条件で行うものとする。なお、以下に示す以外の具体的なスペクトルの帰属及びnの数の計算方法については、後述する実施例に記載したとおりとする。
【0035】
測定装置:300MHz NMR(JEOL社製)、又はこれと同等の装置
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl
試料濃度:~10mg/mL(1mass/vol%)
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
測定手法:H測定 共鳴周波数300MHz
【0036】
式1に戻り、Xは硬化性基を有する基である。本明細書において、硬化性基を有する基とは、硬化性基そのもの、又は、その構造中に硬化性基を部分構造として有する原子団を意味する。
の硬化性基を有する基としては特に制限されないが、以下の式(III)で表される基が好ましい。
【0037】
【化3】
【0038】
式III中、Zは硬化性基を表し、Lは単結合、又は、2価の基を表す。また、「*」は結合位置を表す。
の2価の基としては特に制限されないが、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR20-(R20は水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基(炭素数1~10個が好ましい)、シクロアルキレン基(炭素数3~10個が好ましい)、アルケニレン基(炭素数2~10個が好ましい)、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、Lとしては、単結合、又は、-O-、-C(O)-、アルキレン基、-NR20-、及び、これらの組み合わせが好ましい。
【0039】
式III中、Zの硬化性基とは、硬化反応に関与する基をいう。硬化性基としては、特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、ラジカル重合が可能な基が好ましく、エチレン性不飽和基がより好ましい。エチレン性不飽和基としては特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、及び、アリル基等が挙げられ、中でも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル、及び、メタクリロイルのいずれか一方、又は、両方を意味する。
【0040】
式1に戻り、Mのp+q価の基としては、Mが2価の基である場合には、その形態は特に制限されないが、式IIIのLの2価の基としてすでに説明した基が好ましいか、あるいは、*-T-L-T-*で表される基が挙げられる。ここで、*は結合位置を表し、Lは2価の基を表し、Tは単結合又は2価の基を表し、2個のTは互いに同一でも異なってもよい。Lの好適形態としては、2価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、2価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、1,4-ブタンジオール残基などのブタンジオール残基等が挙げられる。
【0041】
が3価以上の基である場合には、特に制限されないが、例えば、以下の式(4a)~(4d)で表される基が挙げられる。
【化4】
【0042】
式4a中、Lは3価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、3個のTは互いに同一でも異なってもよい。
としては、窒素原子、3価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、3価の複素環基(5員環~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、グリセロール残基、トリメチロールプロパン残基、フロログルシノール残基、及び、シクロヘキサントリオール残基等が挙げられる。
【0043】
式4b中、Lは4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一でも異なってもよい。
なお、Lの好適形態としては、4価の炭化水素基(炭素数1~10個が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、4価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及びジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0044】
式4c中、Lは5価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、5個のTは互いに同一でも異なってもよい。
なお、Lの好適形態としては、5価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、5価の複素環基(5~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、アラビニトール残基、フロログルシドール残基、及びシクロヘキサンペンタオール残基等が挙げられる。
【0045】
式4d中、Lは6価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、6個のTは互いに同一でも異なってもよい。
なお、Lの好適形態としては、6価の炭化水素基(炭素数2~10が好ましい。なお、炭化水素基は、芳香族炭化水素基でもよく脂肪族炭化水素基でもよい。)、又は、6価の複素環基(6~7員環の複素環基が好ましい)が挙げられ、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。Lの具体例としては、マンニトール残基、ソルビトール残基、ジペンタエリスリトール残基、ヘキサヒドロキシベンゼン、及び、ヘキサヒドロキシシクロヘキサン残基等が挙げられる。
【0046】
式4a~式4d中、T~Tで表される2価の基は、すでに説明したMの2価の基と同様の形態であってもよく、同一でもよい。
また、Mが7価以上の基である場合には、式4a~式4dで表した基を組み合わせた基を用いることができる。
【0047】
式1に戻り、pは0以上の整数を表し、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
また、qは、2以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0048】
式1中、Rは水素原子、又は、上記硬化性基を有さない1価の置換基を表す。
硬化性基を有さない1価の置換基としては特に制限されないが、例えば、*-L″-R′で表される基が挙げられる。
上記式中、L″は、単結合、又は、2価の基を表し、R′は、水素原子、炭化水素基(直鎖状、分岐鎖状、若しくは、環状のいずれであってもよい)、(ポリ)オキシアルキレンカルボニル基を表し、*は結合位置を表す。
また、Rは、ヒドロキシ基を有さない基が好ましい。
【0049】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、硬化性化合物は以下の式1Bで表される化合物が好ましい。
【0050】
【化5】
【0051】
式1B中、M1Bはr価の基であり、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1中のMで表される基と同様である。
1Bはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、X1Bは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1におけるL、及び、Xと同様である。
【0052】
更に優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、硬化性化合物は、以下の式1Cで表される化合物が好ましい。
【0053】
【化6】
【0054】
式1C中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、一般に1個以上が好ましく、20個以下が好ましく、10個以下がより好ましい。X1Cは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1のXで表される基と同様である。
【0055】
式1C中、tは2以上の数を表し、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、35以下が更に好ましく、得られる硬化物の結晶の融点を35~42℃に調整しやすい観点で、tは10以上が好ましく、35以下であることが好ましい。なお、tの調整方法としては、式II中のnの調整方法としてすでに説明したのと同様である。tが10~35であると、得られる部材はDSCの昇温過程で35~42℃(生体温度)に吸熱ピークが観測される。
【0056】
また、硬化性化合物の他の好適形態としては、例えば、以下の式1Dで表される化合物も好ましい。
【0057】
【化7】
【0058】
式1D中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数としては特に制限されないが、一般に1個以上が好ましく、20個以下が好ましく、10個以下がより好ましい。X1Dは硬化性基を有する基を表し、その形態は、好適形態を含め、すでに説明した式1のXで表される基と同様である。
【0059】
式1D中、wは2以上の数を表し、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、硬化性化合物を硬化して得られる硬化物の結晶の融点を35~42℃に調整しやすい観点で、20以下の数が好ましい。
【0060】
硬化性化合物の数平均分子量としては特に制限されないが、一般に、500~20000が好ましく、1000~10000がより好ましく、1500~5000が更に好ましい。
また、硬化性化合物の分子量分布(Mw/Mn)としては特に制限されないが、一般に、1.00~1.50が好ましい。
なお、硬化性化合物の数平均分子量、重量平均分子量は、後述する実施例に記載した方法によりGPC(Gel Permeation Chromatography)測定により求められる値を意味する。
【0061】
・硬化性化合物の製造方法
硬化性化合物の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に硬化性化合物が得られる点で、環状化合物を開環重合して得られた前駆体化合物に、硬化性基を有する基を導入して得る方法が好ましい。
【0062】
環状化合物としては公知の環状化合物を使用することができ、特に制限されないが、加水分解によって開環し得るものが好ましく、例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-オクタノイックラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン、α-ヒドロキシ-γ-ブチロラクトン、及び、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン化合物);グリコリド、及び、ラクチド等の環状ジエステル;等が挙げられる。
【0063】
なかでも、開環重合の反応性が良好である点で、環状化合物としては、ラクトン化合物またはラクチドが好ましく、反応性がより高く、原料の入手がより容易な点で、ラクトン化合物がより好ましく、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプリロラクトン、δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトン、δ-ステアロラクトン、ε-カプロラクトン、2-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチル-ε-カプロラクトン、ε-カプリロラクトン、及び、ε-パルミトラクトンからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0064】
環状化合物を開環重合して前駆体化合物を得る方法としては特に制限されないが、金属触媒の存在下、アルコールを開始剤として開環重合する方法が挙げられる。
【0065】
・・金属触媒
金属触媒としては特に制限されないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、及び、アンチモン等の脂肪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、及び、アルコラート等が挙げられる。
より具体的には、塩化第一スズ、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第二スズ、ミリスチン酸スズ、オクチル酸スズ、ステアリン酸スズ、テトラフェニルスズ、スズメトキシド、スズエトキシド、スズブトキシド、酸化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-イミン錯体、四塩化チタン、チタン酸エチル、チタン酸ブチル、チタン酸グリコール、チタンテトラブトキシド、塩化亜鉛、酸化亜鉛、ジエチル亜鉛、三酸化アンチモン、三臭化アンチモン、酢酸アンチモン、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、酸化マグネシウム、及び、イットリウムアルコキシド等の化合物が挙げられる。
【0066】
金属触媒の使用量は金属触媒中の金属元素に換算して、環状化合物1kg当たり0.01×10-4~100×10-4モル程度が好ましい。
【0067】
・・開始剤
開始剤としては特に制限されないが、1価又は2価以上のアルコールが挙げられる。
【0068】
1価のアルコールとしては特に制限されないが、RIN-OHで表されるアルコールが挙げられ、RINは、置換基を有していてもよい炭素数1~20個の脂肪族炭化水素基を表す。
脂肪族炭化水素基としては、特に制限されないが、炭素数1~20個のアルキル基等が挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、n-デシルアルコール、n-ドデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ラウリルアルコール、エチルラクテート、及び、ヘキシルラクテート等が挙げられる。
【0069】
また、2価以上のアルコール(多価アルコール)としては、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グリセリン、ジグリセロール、及び、トリメチロールメラミン等が挙げられる。
開始剤の使用量は、特に制限されないが、環状化合物1kg当たり、好ましくは0.0001~0.04モル程度が好ましい。
【0070】
・・開環重合
開環重合は、環状化合物の揮散を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。重合温度は、特に制限されないが、100~250℃が好ましい。
重合時間としては特に制限されないが、0.1~48時間程度が好ましい。
【0071】
・・硬化性基の導入
環状化合物の開環重合で得られた前駆体化合物に硬化性基を導入する方法としては特に制限されないが、例えば、前駆体化合物が有するヒドロキシ基に対して反応性を示す置換基、及び、硬化性基の両方を有する化合物を反応させる方法(イ)、並びに、前駆体化合物が有するヒドロキシ基を他の官能基に置換し、この置換基に対して反応性を示す官能基、及び、硬化性基の両方を有する化合物を反応させる方法(ロ)等が挙げられる。なかでも、より簡便に硬化性化合物(マクロモノマー)が得られる点で、(イ)の方法が好ましい。
【0072】
上記(イ)の方法で、前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物としては、特に制限されないが、例えば、硬化性基が(メタ)アクリロイル基である場合、塩化(メタ)アクリル酸((メタ)アクリロイルクロライド)、及び、臭化(メタ)アクリル酸等の不飽和酸ハロゲン化合物類等が挙げられる。
前駆体化合物のヒドロキシ基と反応させる化合物の使用量としては、特に制限されないが、ヒドロキシ基に対し、0.1~10モル当量程度が好ましい。
【0073】
〔硬化物の製造方法〕
すでに説明したとおり、本部材は硬化性化合物を硬化させた硬化物を含有する。この硬化物を得る方法は特に制限されないが、硬化性化合物を含有する組成物にエネルギーを付与して得る方法が好ましい。
【0074】
硬化性化合物を含有する組成物にエネルギーを付与して硬化物を得る場合、その組成物中における硬化性化合物の含有量としては特に制限されず、得られる部材中における硬化物の含有量に応じて適宜選択すればよい。
組成物中における硬化性化合物の含有量としては、一般に、5~80質量%が好ましい。なお、組成物は、硬化性化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の硬化性化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0075】
以下では、硬化性化合物以外に組成物が含有してもよい成分について説明する。このような成分としては、例えば、硬化剤、溶媒、及び、高分子化合物等が挙げられる。
【0076】
(硬化剤)
硬化剤は、硬化性化合物に作用して、硬化反応を起こさせる機能を有する化合物である。
硬化剤としては、特に制限されず、公知の化合物が使用できる。例えば、熱エネルギーの付与により硬化が進行する熱硬化剤、及び/又は、光照射(光エネルギーの付与)により反応が進行する光硬化剤が使用できる。
【0077】
熱硬化剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、及び、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等が挙げられる。
光硬化剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、キサントン、及び、チオキサントン等の芳香族ケトン化合物;2-エチルアントラキノン等のキノン化合物;アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、及び、2,2-ジメトキシー2-フェニルアセトフェノン等のアセトフェノン化合物;メチルベンゾイルホルメート等のジケトン化合物;1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-ベンゾイル)オキシム等のアシルオキシムエステル化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物;テトラメチルチウラム、及び、ジチオカーバメート等のイオウ化合物;過酸化ベンゾイル等の有機化酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;有機スルフォニウム塩化合物;ヨードニウム塩化合物;フォスフォニウム化合物;等が挙げられる。
【0078】
組成物中における硬化剤の含有量は、組成物中の硬化性化合物の全質量に対して、0.001~10質量%が好ましい。なお、組成物は、硬化剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の硬化剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0079】
(溶媒)
組成物は、溶媒を含有していてもよい。組成物が含有する溶媒としては特に制限されないが、硬化性化合物、後述する高分子化合物、及び、硬化剤を溶解、及び/又は、分散させ得るものであって、硬化反応中に蒸発しにくい溶媒を選択すればよい。
例えば、硬化剤として過酸化ベンゾイル(BPO)を用いる場合、硬化反応の温度は80℃程度となるため、沸点が硬化反応の温度以上となる溶媒が好ましい。このような溶媒を用いると、硬化反応中の溶媒の蒸発がより抑制できるので、気泡の混入がより少ない硬化物が得られやすい。このような溶媒としては例えば、キシレン、酢酸ブチル、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、及び、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0080】
一方、硬化剤として光硬化剤を用いる場合、硬化反応の温度は熱硬化剤を用いる場合よりも一般に低いため、より沸点の低い溶媒を用いても、気泡の混入がより少ない硬化物が得られる。溶媒としては例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、及び、アセトン等が使用できる。
【0081】
組成物中における溶媒の含有量としては特に制限されないが、組成物が溶媒を含有する場合、組成物の全質量を100質量%としたとき、10~90質量%が好ましい。なお、組成物は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0082】
(高分子化合物)
組成物は、オキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位を有し、分子内に少なくとも2つ以上のヒドロキシ基を有する高分子化合物、を更に含有することが好ましい。高分子化合物は硬化性基を有しない。そのため、硬化性化合物の硬化反応には寄与しない。しかし、硬化性化合物と高分子化合物とを予め均一に分散させ、そのうえで硬化性化合物を硬化させると、硬化物と高分子化合物との間でSemi-IPN構造がより形成されやすい。
【0083】
組成物が高分子化合物を含有する場合、組成物中における高分子化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、一般に組成物の全質量を100質量%としたとき、4~30質量%が好ましい。なお、組成物は、高分子化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。組成物が、2種以上の高分子化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0084】
高分子化合物はオキシアルキレンカルボニル基からなる繰り返し単位を有するため、硬化物との相溶性が高い。そのため、硬化性化合物の硬化前に高分子化合物を組成物に含有させることによって、得られる部材中においてsemi-IPN構造がより形成されやすい。semi-IPN構造は、より迅速なP形状の変更に寄与すると推測される。
【0085】
本部材中における高分子化合物の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、一般に部材の全質量を100質量%としたとき、15~50質量%が好ましい。なお、部材は、高分子化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。部材が、2種以上の高分子化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0086】
より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、高分子化合物としては以下の式2で表される化合物が好ましい。
【0087】
【化8】
【0088】
式2中、Lはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、その形態は、好適形態を含めて、すでに説明した式1におけるLのポリオキシアルキレンカルボニル基と同様である。
また、式2中、Yはヒドロキシ基を有する基を表す。本明細書において、ヒドロキシ基を有する基とは、ヒドロキシ基そのもの、又は、その構造中にヒドロキシ基を部分構造として有する原子団を意味する。
のヒドロキシ基を有する基としては特に制限されないが、以下の式(IV)で表される基が好ましい。
【0089】
【化9】
【0090】
式IV中、Lは単結合、又は、2価の基を表す。また、「*」は結合位置を表す。
の2価の基としては特に制限されないが、式III中のLとして説明した基と好適形態を含めて同様である。
【0091】
式2において、Rは水素原子、又は、ヒドロキシ基を有さない1価の置換基を表す。Rの1価の置換基としては、式1中のRの1価の置換基と好適形態を含めて同様である。なお、Rはヒドロキシ基、及び、硬化性基のいずれも有しない。
【0092】
n2は2以上の整数を表し、m2は0以上の整数を表し、n2が2かつm2が0のとき、Mは単結合、又は、2価の基を表し、n2が2かつm2が1以上のとき、及び、n2が3以上のとき、Mはm2+n2価の基を表す。
式2中、m2は0以上の整数を表し、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が更に好ましい。
また、n2は、2以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0093】
が2価以上(2価、3価、及び、4価等)の基である場合、式1のMと好適形態を含めて同様である。
【0094】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、高分子化合物は、以下の式2Bで表される化合物が好ましい。
【0095】
【化10】
【0096】
式2B中、L2Bはポリオキシアルキレンカルボニル基を表し、Y2Bはヒドロキシ基を有する基を表し、n2Bは2以上の整数を表し、M2Bはn2B価の基を表し、複数あるL2B、Y2Bはそれぞれ同一でも異なってもよい。
なお、式2B中、L2B、Y2B、M2Bはそれぞれ、好適形態を含めて、式2中のL、M、及び、Yと同様である。
また、n2Bは、2以上の整数を表し、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下が特に好ましい。
【0097】
更に優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、高分子化合物は、以下の2Cで表される化合物が好ましい。
【0098】
【化11】
【0099】
式2C中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表し、gは2以上の整数を表す。
式2C中、ALのアルキレン基は、式1C中のALのアルキレン基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
gとしては特に制限されないが、2以上が好ましく、10以上がより好ましく。100以下が好ましく、50以下がより好ましく、35以下が更に好ましい。
【0100】
また、高分子化合物の他の形態としては、以下の2Dで表される化合物が好ましい。
【0101】
【化12】
【0102】
式2D中、ALは直鎖状、又は、分岐鎖状のアルキレン基を表す。ALのアルキレン基は、好適形態を含めて、式1D中のALのアルキレン基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。
hとしては特に制限されないが、2以上が好ましく、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。
【0103】
・高分子化合物の製造方法
高分子化合物の製造方法としては特に制限されないが、より簡便に高分子化合物が得られる点で、環状化合物を開環重合する方法が好ましい。
なお、環状化合物を開環重合する方法としては、硬化性化合物の製造方法として説明した前駆体化合物の製造方法が適用でき、好適形態も同様である。
【0104】
〔エステル交換触媒〕
本部材は、エステル交換触媒を含有する。エステル交換触媒は、ヒドロキシ基と、(ポリ)オキシアルキレンカルボニル基のエステル結合との間のエステル交換反応を促進する機能を有し、公知の化合物を特に制限なく使用できる。
部材中におけるエステル交換触媒の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、一般に部材の全質量に対して、0.001~5質量%が好ましい。なお、部材は、エステル交換触媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。部材が2種以上のエステル交換触媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0105】
エステル交換触媒はすでに説明した組成物には含有されないことが好ましい。組成物中にエステル交換触媒が存在しない場合、硬化性化合物の硬化反応において意図しない副反応がより起こりにくい。
すなわち、エステル交換触媒は、組成物にエネルギー付与して硬化性化合物を硬化させた後、硬化物に添加されることが好ましい。
【0106】
エステル交換触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、燐酸、及び、他のスルホン酸類等の酸性化合物;LiOH、KOH、NaOH、及び、アミン類等の塩基性化合物;チタン、ジルコニウム、ビスマス、亜鉛、及び、スズ等を含有する金属化合物等が挙げられる。
【0107】
金属化合物としては、より具体的には、メチル、エチル-、プロピル-、イソプロピル-、ブチル-、sec-ブチル-、tert-ブチル-、及び、2-エチルヘキシルチタネート等のチタン酸アルキル;
エチル-、プロピル-、及び、ブチルジルコネート等のジルコン酸アルキル;
ビスマス(2-エチルヘキサノエート)、ビスマスネオデカノエート、及び、ビスマステトラメチルヘプタンジオエート等のビスマス酸アルキル;
ジブチルスズジラウレート、2-エチルヘキサン酸スズ(オクチル酸スズ)、ジオクチルスズジネオデカノエート、及び、ジメチルスズジオレエート等のスズ酸アルキル等が挙げられる。
【0108】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、エステル交換触媒はスズを含有することが好ましい。
【0109】
[部材の製造方法]
部材の製造方法としては特に制限されず、上記各成分を混合して、成形すればよい。混合の順番も特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、すでに説明した組成物にエネルギーを付与して、硬化性化合物を硬化させて得られた硬化物に対して、エステル交換触媒を添加することが好ましい。
なかでも、更に優れた本発明の効果を有する部材が得られる点で、部材の製造方法は、以下の各工程を有することが好ましい。
【0110】
・硬化工程:硬化性化合物と、硬化剤と、高分子化合物とを含有する組成物にエネルギーを付与して硬化性化合物を硬化させ、高分子化合物を含有する硬化物を得る工程。
・触媒含侵工程:エステル交換触媒、及び、溶媒を含有する溶液と、硬化物とを接触させて部材を得る工程。
【0111】
更に、部材の製造方法は以下の工程を有していてもよい。
・乾燥工程:部材を乾燥させ、溶媒の少なくとも一部を除去する工程。
【0112】
・硬化工程
硬化工程は、硬化性化合物と、硬化剤と、高分子化合物を含有する組成物にエネルギーを付与して、組成物を硬化させる工程である。付与するエネルギーの種類は硬化剤の種類によって適宜選択されればよく、加熱、及び/又は、光照射が好ましい。
【0113】
エネルギー付与の方法としては特に制限されないが、例えば、支持体上に組成物を塗布し、組成物層を形成したうえで、組成物層に光照射、及び/又は、組成物層を加熱し、フィルム状の硬化物を得る方法が挙げられる。
なお、加熱温度・時間、及び、光照射の強度等は、部材の形状、及び、硬化剤の種類等によって適宜選択されればよい。
より具体的には、加熱の温度としては、例えば、40~200℃であってもよい。また、加熱の時間としては、例えば、1分~24時間であってもよい。
【0114】
なお、組成物にエネルギーを付与し、硬化性化合物を硬化させると、硬化物の形状は一旦固定される。この後、触媒含侵工程、及び、必要に応じて乾燥工程を経て部材が製造されるが、その当初のP形状は本工程における硬化反応時の硬化物の形状に依存する。
【0115】
・触媒含侵工程
触媒含侵工程は、エステル交換触媒、及び、溶媒を含有する溶液と、硬化物とを接触させる工程である。溶液と硬化物とを接触させる方法としては特に制限されないが、溶液に硬化物を浸漬する方法が挙げられる。
なお、溶液に使用する溶媒は、触媒を溶解し、かつ、硬化物を膨潤させ得るものが好ましい。膨潤した硬化物の内部に触媒が取り込まれることにより、より迅速にP形状を変更可能な部材が得られる。
溶媒の種類としては特に制限されないが、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトン、及び、N,N-ジメチルホルムアミド等が使用できる。
なお、浸漬の温度、及び、時間は、部材の大きさ及び厚み等によって適宜選択されればよいが、例えば、20~50℃の溶液に、1分間~24時間浸漬する方法が挙げられる。
【0116】
・乾燥工程
乾燥工程は、部材を乾燥させて、部材に含有される溶媒の少なくとも一部を除去する工程である。乾燥の方法は特に制限されず、例えば、20~50℃で、1分~24時間静置する方法、及び、減圧下で保持する方法等が挙げられる。なお、乾燥条件は、部材の形状、及び、厚み等によって適宜選択されればよい。
【0117】
なお、本部材の大きさ、及び、形状は特に制限されない。用途に応じて適宜定めればよい。本部材のP形状は書き換え可能であるため、製造の際の形状(初期のP形状)は生産性に鑑みて、より単純な形状としてもよい。例えば、フィルム状の本部材を製造したうえで、必要に応じて曲面を有する3次元形状等にP形状を変更すればよい。
【0118】
本部材は、P形状を複数回にわたり変更できる。そのため、P形状を曲面を有する複雑な3次元形状としようとする場合であっても、部材の成形時にそのP形状に成形する必要はない。言い換えれば、そのような複雑な形状のモールドを準備しなくてもよい。
本部材は、上記のような特徴を有するため、細胞培養基材、及び、結紮デバイス等の医療器具等に適用できる。また、本部材は、基材と、基材上に配置された接着剤層とを有する接着テープの基材等としても使用することができる。
【0119】
〔部材の使用方法〕
本部材の使用方法としては特に制限されないが、上述したとおり、本部材はP形状を複数回にわたり変更できるという特徴を有する。そのため、製造した本部材を応力下でエステル交換反応が起こる程度の温度に加熱することで、パーマネント形状を変更させた部材(パーマネント形状変更済み部材)を得ることができる。
【0120】
エステル交換反応を起こさせる加熱温度としては特に制限されず、部材の含有するエステル交換触媒の種類等に応じて適宜定めればよい。
加熱温度としては、例えば、120~160℃が好ましく、加熱時間は、部材の形状、及び、大きさ等に応じて適宜定めればよいが、一般に0.5~4時間が好ましい。
【0121】
1回目のP形状の変更では、部材を所望の形状に変形させて部材内部に応力を発生させて、上記条件に沿って加熱すると、硬化物が有するポリオキシアルキレンカルボニル基、及び、高分子化合物が有するオキシアルキレンカルボニル基と、高分子化合物が分子内に2つ以上有するヒドロキシ基との間でエステル交換反応が起こる。
この反応は、架橋構造の組み換えのような現象であり、応力が緩和されて、部材の変形が固定されることで、P形状が変更され、P形状変更済み部材が得られる。
【0122】
本部材は複数回にわたりP形状を変更できる。2回目以降の変更でも、部材中のヒドロキシ基と、(ポリ)オキシアルキレンカルボニル基との間で反応が起き、「架橋構造の組み換え」によりP形状が変更される。
1回目のP形状の変更により、当初の部材に含まれていた硬化物、及び、高分子化合物との間では架橋構造の組み換えが起こって構造が変化しているため、2回目以降の変更では、当初の部材に含まれていた硬化物、及び、高分子化合物との間の反応とは異なる反応も起こる。
しかし、2回目以降のP形状の変更であっても、部材中に存在するヒドロキシ基と(ポリ)オキシアルキレンカルボニル基とのエステル交換反応によって、架橋構造の組み換えが起こることは共通している。そのため、この反応により得られる「P形状変更済み部材」の構造は2回目以降の変更であっても明確に理解される。
【0123】
[細胞培養基材]
本発明に係る細胞培養基材は、すでに説明した本部材を有する細胞培養基材である。図1は本発明の一実施形態である細胞培養基材100の斜視図である。
細胞培養基材100は、フィルム状の部材からなる。
なお、細胞培養基材100は、部材からなるが、本発明に係る細胞培養基材は、本部材を有していればよく、更に他の構成を有していてもよい。例えば、フィルム状の本部材上に、別のポリマーによる被覆層を有していてもよい。上記被覆層により、例えば、細胞の接着性を調整してもよい。
【0124】
次に、本細胞培養基材100の使用方法の一例について説明する。図2には、本細胞培養基材100を用いて、円筒状の培養細胞層を得る手順を示した。
【0125】
まず、フィルム状の細胞培養基材100を作成する(ステップS11、図中a)。
次に、棒状の型101を準備する(ステップS12、図中b)。
次に、棒状の型101に、細胞培養基材100を巻き付ける(ステップS13、図中c)。
【0126】
次に、棒状の型に固定した状態でTemp(1)まで加熱し、所定時間保持する(ステップS14、図中d)。Temp(1)は、エステル交換反応が起こる温度であればよく、例えば、120~160℃が好ましい。
また、保持時間はフィルムの形状、及び、大きさ等に応じて適宜定めればよいが、一般に0.5~4時間が好ましい。
【0127】
ステップS14で、当初フィルム状であった細胞培養基材のP形状が円筒状に書き換えられる。その後、細胞培養基材の温度をTemp(2)に維持した状態で、細胞培養基材を円筒状からフィルム状へと開き、その状態のままTemp(3)まで冷却する。
【0128】
このTemp(2)は、部材を示差走査熱量測定で得られる結晶融点以上の温度(具体的には吸熱ピークの終端温度程度)であり、Temp(1)未満の温度である。Temp(2)の温度は適宜調整可能であるが、一般に、10℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。Temp(2)に加熱して保持することで結晶が融解する。
このとき、保持時間としては特に制限されないが、一般に0.1~60分が好ましい。
【0129】
Temp(3)は、示差走査熱量分析計で測定して得られる結晶化温度以下の温度である。Temp(3)はTemp(2)以下の温度である。
応力が維持されたまま結晶化することで、応力が残ったまま構造が固定されT形状が記憶される。
Temp(3)の温度は適宜調整可能であるが、一般に、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、60℃以下が好ましく、40℃以下が更に好ましい。
【0130】
次に、得られたフィルム状の細胞培養基材の表面で所望の細胞が培養され、細胞培養基材上に培養細胞層が形成される。
【0131】
次に、得られた培養細胞層付き細胞培養基材をTemp(2)まで加熱すると、細胞培養基材の形状がP形状、すなわち、円筒状に戻る。すると、細胞培養基材の表円上に形成されていた培養細胞層もこれに追従して変形し、結果として円筒状の培養細胞層が得られる。
なお、培養細胞層は、Temp(2)まで加熱した後に形成されてもよい。
【0132】
本方法によれば、複雑な形状を有する培養細胞層であっても、培養前に細胞培養基材のP形状を目的形状にしておき、一方でより培養しやすい平板上等の形状をT形状とし、T形状にて培養を行うことができる。また、培養後は、細胞培養基材の当初の目的形状であるP形状に戻すことで、その形状に沿って変形された培養細胞層を得ることができる。
本培養基材は、複雑な形状を有する培養細胞層の形成が必要な技術分野、例えば、体外におけるヒト組織の培養等に用いることができる。この場合、細胞の培養温度が37℃であれば、例えば、Temp(2)をそれ以上であって、細胞の活性を失わない程度の温度に調整すればよい。Temp(2)は硬化物の結晶の融解温度を調整することで調整でき、その方法はすでに説明したとおりである。
【0133】
本細胞培養基材を用いると、扱い易い平板状の基材で培養を行い、培養細胞層が形成できたら、それを予め定めた環状に変形する等の操作が容易かつ確実に実施でき、複雑な曲面を有する3次元形状の培養細胞層であっても容易に形成できる。
【0134】
[結紮デバイス]
結紮デバイスは、腫瘍、及び、ポリープ等の生体隆起部を結紮して血流を遮断したり、生体隆起部を除去したりするのに用いられる器具である。
本発明に係る結紮デバイスについて、図を用いて説明する。図3は、本発明の一実施形態である結紮デバイス200の模式図である。結紮デバイス200は、フィルム状の部材からなる。
【0135】
次に、本結紮デバイス200の使用方法の一例について説明する。図4には、本結紮デバイス200を用いて生体組織を結紮する手順を示した。
【0136】
まず、フィルム状の結紮デバイスを作成する(ステップS21、図中h)。フィルムの形状、及び、大きさは特に制限されず、用途(結紮する部位等)に応じて適宜定めればよい。
【0137】
次に、結紮後の組織断面の直径に対応する直径を有する棒状の型201を準備する(ステップS22、図中i)。結紮後の組織断面の直径とは、対象の組織の断面をどの程度の直径まで絞れば治療目的を達成できるかに鑑みて決定される。
次に、準備した棒状の型に部材を巻き付ける(ステップS23、図中i)。
次に、棒状の型に固定した状態でTemp(1)まで加熱し、所定時間保持し、その後冷却する(ステップS24、図中i)。Temp(1)については、エステル交換反応が起こる温度であり、すでに説明したとおりである。
この工程で、結紮デバイスのP形状が書き換えられる。
【0138】
次に、温度をTemp(2)に維持して結紮デバイスをフィルム状に開き、応力を維持したままTemp(3)まで冷却する(ステップ25、図中j)。この工程により、結紮デバイスのT形状がフィルム状となる。なお、本方法においてT形状をフィルム状としているのは、取り扱いがしやすいためであり、T形状が上記に制限されるものではない。
【0139】
次に、結紮デバイスを結紮の対象組織202に適用し、Temp(2)まで加熱すると、結紮デバイスの形状がP形状に戻り、対象組織202が所望の直径まで絞られ、結紮される(ステップ26、図中k)。
【0140】
このとき、Temp(2)が35~42℃の範囲内であると、対象箇所に結紮デバイスを配置するだけでT形状(フィルム状)からP形状(らせん状)への形状変化が起きる。結紮デバイスを別途加熱する必要がないため、内視鏡下で結紮デバイスを適用するような場合に、特に好ましい。
【0141】
本結紮デバイスによれば、P形状の書き換えができるため、症例に合わせて結紮デバイスの製造用モールドを用意しなくてもよい。また、対象組織に適用する際も、従来の結紮デバイスのような糸結びの手技の熟練を必要としないため、特に、内視鏡下で結紮術を実施する際等により簡便に適用することができる。
【0142】
[積層体]
図5は本発明の一実施形態に係る積層体の模式的な断面図である。積層体300は、部材301と、部材301上に配置された接着剤層302とを有する。
積層体300は、接着剤層302を有するため、被着体に対して接着可能であり、更に、形状記憶能を有するため、被着体に対して所望の応力を与える等の機能を有する。
【0143】
例えば、すでに説明した方法により部材を形成し、P形状を書き換えたのち、部材上に接着剤層を形成する。次に、部材をT形状に変形させ、被着体に貼付する。その後、被着体に貼付されたままの状態で部材を加熱すると部材の形状がP形状に戻る(又は、戻ろうとする応力が発生する)。これにより、被着体に対して所望の応力を与えることができる。
【0144】
なお、本積層体における接着剤層には、公知の接着剤を使用することができ、接着剤層の配置方法も公知の方法が使用できる。例えば、アクリル系、又は、ゴム系の接着剤を部材上に塗布する方法が挙げられる。
【実施例
【0145】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0146】
(合成例1:「4b50PCL」の合成)
4分岐型50量体PCL(ポリカプロラクトン)「4b50PCL」を以下の手順に沿って合成した。
まず、開始剤としてペンタエリトリトール(0.34g、0.0025mol)を丸底フラスコに秤量し、6時間減圧乾燥させた。次に、上記丸底フラスコに、窒素雰囲気下でε-カプロラクトン(52.84mL、0.5mol)とオクチル酸スズ(触媒量、15滴)を添加した。次に、窒素雰囲気を維持したまま丸底フラスコを120℃のオイルバス中に浸漬し、開環重合反応を開始させた。24時間の反応後、得られたポリマーをTHF(テトラヒドロフラン、150mL)に溶解させた後、ジエチルエーテル/ヘキサン混合溶媒(1:1vol/vol%、2L)に滴下して再沈殿させた。デカンテーション後、1晩減圧乾燥を行って、4b50PCL(回収率:~100%)を得た。
【0147】
(合成例2:「4b10PCL」の合成)
4分岐型10量体PCL「4b10PCL」を以下の手順に従って合成した。
まず、開始剤としてペンタエリトリトール(1.7366g、0.0125mol)を丸底フラスコに秤量し、6時間減圧乾燥させた。次に、上記丸底フラスコに、窒素雰囲気下でε-カプロラクトン(52.84mL、0.5mol)とオクチル酸スズ(触媒量、15滴)を添加した。次に、窒素雰囲気を維持したまま丸底フラスコを120℃のオイルバス中に浸漬し、開環重合反応を開始させた。24時間の反応後、得られたポリマーをTHF(150mL)に溶解させた後、ジエチルエーテル/ヘキサン混合溶媒(1:1vol/vol%、2L)に滴下して再沈殿させた。デカンテーション後、1晩減圧乾燥を行って、4b10PCL(回収率:~100%)を得た。
なお、GPCの結果から求めた4b10PCLの数平均分子量は3800で、Mw/Mnは1.12だった。
【0148】
・GPC測定条件
測定装置: 「Shodex(商標)」GPC-101
検出器:示差屈折率(RI)検出器
使用カラム:「Shodex(商標)」GPC KF-804L(サンプル)+GPC KF-806L(リファレンス)(8.0mmI.D.×300cm×2本)
カラム温度:40℃
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)、流速0.8mL/分
試料:THFに、0.1mass%で溶解させ、0.45μmのメンブレンフィルタでろ過
分子量標準ポリマー:ポリスチレン(分子量=2550、5060、10200、18500、37900)、0.1 mass%
【0149】
(合成例3:「2b20PCL」の合成)
2分岐型20量体PCL(2b20PCL)を以下の手順に沿って合成した。
まず、開始剤として1,4-ブタンジオール(1.1mL、0.0125mL)を丸底フラスコに秤量し、6時間減圧乾燥させた。次に、上記丸底フラスコに窒素雰囲気下でε-カプロラクトン(52.84mL、0.5mol)とオクチル酸スズ(触媒量、15滴)を添加した。次に、窒素雰囲気を維持したまま丸底フラスコを120℃のオイルバス中に浸漬し、開環重合反応を開始させた。24時間の反応後、得られたポリマーをTHF(150mL)に溶解させた後、ジエチルエーテル/ヘキサン混合溶媒(1:1vol/vol%、2L)に滴下して再沈殿させた。デカンテーション後、1晩減圧乾燥を行って、2b20PCL(回収率:~100%)を得た。
なお、GPCの結果から求めた2b20PCLの数平均分子量は3600で、Mw/Mnは1.16だった。
【0150】
また、得られた「4b10PCL」と「2b20PCL」について、以下の条件でH-NMR測定を行い、オキシアルキレンカルボニル基の繰り返し数を求めた。スペクトルを図6(4b10PCL)、及び、図7(2b20PCL)に示した。なお、図中の各ピークに付されたa~dの記号は、4b10PCLの構造式対応するピークが図8に示した構造式の各水素原子に割り当てられることを示している。オキシアルキレンカルボニル基の繰り返し数は、dピークの積分値に対する、bピークの積分値(b/d)として求めた。
その結果、4b10PCLは10、2b20PCLは18だった。
【0151】
・NMR測定条件
測定装置:300MHz NMR(JEOL社製)
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl
試料濃度:~10mg/mL(1mass/vol%)
基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
測定手法:H測定 共鳴周波数300MHz
観測スペクトル幅:0ppm~10ppm
スピニング:オフ
パルス角:90°
積算回数:8回
ダミースキャン:2回
測定温度:室温(20~25℃)℃
【0152】
(合成例4:「4b50PCL-m」マクロモノマーの合成)
4分岐型50量体PCLマクロモノマー「4b50PCL-m」を以下の手順に沿って合成した。
まず、4b50PCL(40.0g、0.0016mol)を秤量し、丸底フラスコに移し、THF(テトラヒドロフラン;300mL)に溶解させた。完全に溶解した後に、脱水したトリエチルアミン(10.2mL、0.073mol)を添加し、しばらく攪拌した。次に、丸底フラスコを氷冷し、アクリロイルクロライド(5.38mL、0.067mol)を添加し、反応を開始させた。1日間反応させた後、メタノール中に再沈殿させた。不純物の除去のため、再沈殿を3回繰り返して、「4b50PCL-m」(回収率:~80%)を得た。
【0153】
(合成例5:「4b10PCL-m」マクロモノマーの合成)
4分岐型10量体PCLマクロモノマー「4b10PCL-m」を以下の手順に従って合成した。
まず、4b10PCL(51.95g、0.011mol)を秤量し、丸底フラスコに移し、THF(300mL)に溶解させた。完全に溶解した後に、脱水したトリエチルアミン(27.97mL、0.2mol)を添加し、しばらく攪拌した。次に、丸底フラスコを氷冷し、アクリロイルクロライド(10.98mL、0.135mol)を添加し、反応を開始させた。1日間反応させた後、メタノール中に再沈殿させた。不純物の除去のため、再沈殿を3回繰り返して「4b10PCL-m」(回収率:~94%)を得た。
【0154】
(合成例6:「2b20PCL-m」マクロモノマーの合成)
2分岐型10量体PCLマクロモノマー「2b20PCL-m」を以下の手順に沿って合成した。
まず、2b20PCL(50.58g、0.0109mol)を秤量し、丸底フラスコに移し、THF(300mL)に溶解させた。完全に溶解した後に、脱水したトリエチルアミン(13.47mL、0.0968mol)を添加し、しばらく攪拌した。次に、丸底フラスコを氷冷し、アクリロイルクロライド(5.29mL、0.0652mol)を添加し、反応を開始させた。1日間反応させた後、メタノール中に再沈殿させた。不純物の除去のため、再沈殿を3回繰り返して「2b20PCL-m」(回収率:~94%)を得た。
【0155】
[実施例1:部材1の合成]
4b50PCL-mの500mgと、2b20PCLの200mg、及び、過酸化ベンゾイルの10mg(4b50PCL-mの2質量%)を、キシレンの695μLに加え、攪拌して溶解させ、溶液(組成物)を得た。
次に、上記溶液をガラス基板の上に滴下し、膜厚調整用のポリテトラフルオロエチレン製スペーサー(0.2mm)を介してガラス基板で挟み込み、溶液が漏れ出さないようにクリップで固定し、80℃のオーブンに入れた。これを3時間以上保持して熱重合(硬化)させた後、ガラス基板から硬化後のフィルムを剥離させ、アセトン中で膨潤させた。アセトンを数回交換することでフィルムの精製を行った。
精製後、メタノール中でフィルムを収縮させた後、減圧乾燥を1晩行うことで、Semi-IPNフィルムを得た。なお、フィルムは(縦)10cm×(横)10cm×(厚み)0.2mmの大きさで作成し、後述する評価では約(縦)6cm×(横)5mm×(厚み)0.2mmに切り出して使用した。
【0156】
次に、0.5質量/体積%となるように2-エチルヘキサン酸スズをジクロロメタンに添加し、エステル交換触媒液を調製した。
上述のように切り出したSemi-IPNフィルムを上記エステル交換触媒液に室温で30分間浸漬し、エステル交換触媒を含侵させた。
【0157】
次に、エステル交換触媒液からフィルムを取り出し、大気圧下に放置して一部の溶媒を除去し、更に、減圧乾燥させて部材1を得た。
【0158】
[実施例2~5:部材2~5の合成]
使用した硬化性化合物の種類、及び、量、並びに、使用した高分子化合物の種類、及び、量を表1に記載したとおりとした以外は実施例1と同様にして部材2~5を調製した。
【0159】
[実施例6]
高分子化合物を使用しなかったことを除いては実施例1と同様にして実施例6の部材6を調製した。
【0160】
[比較例1]
エステル交換触媒液に浸漬させなかったことを除いては実施例1と同様にして比較例1の部材C1を調製した。
上記各部材の処方を表1に示した。なお、表1における空欄は、その化合物を使用しなかったことを意味する。
【0161】
【表1】
【0162】
[DSC測定]
DSC測定は、示差走査熱量分析計(エスアイアイ社製、「X-DSC 7000」;熱流束型)を用いて行った。
使用した試料は、以下のとおりである。
・実施例6の部材6
・比較例1の部材C1
・実施例1の部材1
・部材1を140℃に加熱して、その後冷却したエステル交換反応1回後の部材1(「部材11」という。)
・部材11を更に140℃に加熱して、その後冷却した部材12
・部材12を更に140℃に加熱して、その後冷却した部材13
【0163】
各試料は、調製後、下記測定条件のもと、直ちにDSC試験に供した。
【0164】
測定容器:アルミニウム製サンプルパン(φ6.8mm)
試料量・サイズ:サンプル量は約10mgとし、上記サンプルパンに入るように切断して使用した。
ガス流量: N雰囲気(50mL/min)
開始温度: 120℃
昇温速度: 10℃/min
終了温度: -10℃
冷却速度: 10℃/min
【0165】
まず、試料を室温から120℃まで加熱し、120℃に達したら、今度は-10℃/minの速度で-10℃まで冷却し、120℃から-10℃までの冷却プロセスのDSC曲線を冷却過程として取得した。
次に、試料の温度が-10℃に達した後、今度は10℃/minの速度で120℃まで昇温させ、-10℃から120℃までの昇温プロセスのDSC測曲線を昇温過程として取得した。
【0166】
表2には、得られたDSC曲線から読み取った融解温度、及び、結晶化温度を示した。なお、表2に記載した「融解温度」は融解ピーク温度であり、「結晶化温度」は結晶化ピーク温度である。なお、温度は、小数点以下1桁まで求めて、四捨五入した。なお、各DSC曲線を図9~14に示した。
【0167】
【表2】
【0168】
[P形状の書き換え試験]
部材1を図15に示した。調製直後の部材1のP形状は図15に示すとおり、「フィルム状」であった。次に、この部材1をポリテトラフルオロエチレン製の棒にらせん状に巻き付け、その端部をクリップで固定した。その状態の部材1を図16に示した。
この状態のまま、部材1を140℃(Temp(1))のオーブンに入れ、2時間保持した。保持後、室温に冷却し、クリップと棒とを取り外した状態の部材1を図17に示した。
【0169】
図17の部材1は、クリップと棒とを取り外しても図15のような「フィルム状」には戻らなかった。これは、部材1のP形状が図15に示す「フィルム状」から、図17に示す「らせん状」に変更された(書き換えられた)ことを示している。
なお、この「らせん状」がT形状ではないことは、後述する「形状記憶能の評価」において説明する。
【0170】
次に、P形状が「らせん状」に変更された部材1をポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、直径約2cmの棒に、棒の長手方向と部材1の長手方向とが略直行する方向に沿って巻き付け、その端部をクリップで固定した。その状態の部材1を図18に示した。なお、図18は拡大図であり、実際のフィルムの幅は、図と同様である。
【0171】
この状態のまま、部材1を140℃のオーブンに入れ、2時間保持した。保持後、クリップ、ポリテトラフルオロエチレン製シート、及び、棒を取り除き、室温に冷却した部材1を図19に示した。なお、図19はフィルムの厚み方向から撮影されたものである。
【0172】
図19の部材1は、クリップ等を取り外しても図17の「らせん状」には戻らなかった。これは、部材1のP形状が図17に示す「らせん状」から、図19に示す「リング状」に変更されたことを示している。
【0173】
次に、P形状が「リング状」に変更された部材1をポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、部材1の長手方向に沿って「M字型」に折りたたんだ状態で固定した。その状態の部材1を図20に示した。なお、図20は図面の手前から奥に向かう方向を、折りたたまれた部材1の長手方向とした拡大図であり、実際のフィルムの幅は図15と同様である。この状態のまま部材1を140℃のオーブンに入れ、2時間保持した。保持後、室温に冷却した部材1を図21に示した。図21はフィルムの厚み方向から撮影されたものである。
【0174】
図21の部材1は、クリップ等を取り外しても図19の「リング状」には戻らなかった。これは、部材1のP形状が図19に示す「リング状」から、図21に示す「M字状」に変更されたことを示している。
上記の結果から、部材1は複数回にわたってP形状を任意に変更できることがわかった。
【0175】
[形状記憶能の評価]
次に、形状記憶能を評価した。まず、P形状が「らせん状」の部材1(図22)を60℃(Temp(2))に加熱し、引き伸ばして、その状態のまま、20℃(Temp(3))まで冷却し、再び室温に戻した。その結果、らせんが引き伸ばされた形のT形状が記憶された(図23)。次に、T形状の部材1を60℃のオーブンに入れたところ、その形状がらせん状のP形状に戻った(図24)。
【0176】
上記の結果から、部材1は形状記憶能を有することが分かった。また、T形状からP形状に戻る際には、作成時のフィルム状(例えば図15のような)に戻るのではなく、書き換え後のP形状である、「らせん状に」戻ることも確認できた。
【0177】
なお、部材1の形状が図15のような「フィルム状」に戻らず、図24の「らせん状」に戻ったことは、上述の手順によってP形状が「フィルム状」から「らせん状」に書き換えられたことを示している。言い換えれば、「らせん状」は、書き換えられたP形状であることを示している。
【0178】
上記のP形状の書き換え試験と形状記憶能の評価を、部材2~5についても実施したところ、部材1と同様の結果が得られた。
【0179】
[比較例の部材C1の評価]
部材1と同様の形状(フィルム状)に調製した部材C1を、ポリテトラフルオロエチレン製の棒に巻き付け、その端部をクリップで固定した。この状態のまま、部材C1を140℃のオーブンに入れ、2時間保持した。保持後、室温に冷却し、クリップと棒とを取り外した状態の部材C1は、部材1と同様にらせん状に変形したままだった。この状態の部材C1を2つ調製した。
【0180】
次に、らせん状の部材C1のうちの1個を60℃に加熱し、引き伸ばし、その状態のまま20℃まで冷却し、再び室温に戻した。次に、この変形後の部材C1を60℃のオーブンに入れたところ、部材C1の形状がほぼ「フィルム状」に戻った。
更に、らせん状の部材C1の他方の1個を60℃のオーブンに入れたところ、こちらも、部材C1の形状はほぼ「フィルム状」に戻った。
【0181】
上記の結果から、部材C1においては、フィルム状から「らせん状」への形状の変化は、P形状からP形状への変更ではなく、P形状からT形状への変更であったことが分かった。言い換えれば、部材C1のP形状は「フィルム状」のままであったことが分かった。
これは、らせん状の部材C1を引き伸ばした後に再加熱した際、らせん状には戻らず、ほぼフィルム状に戻ったことからも明らかである。
従って、所定の成分を含有しない比較例の部材C1は、本発明の所望の効果を有していなかった。
【0182】
[熱機械分析試験]
PCL(ポリカプロラクトン)架橋体やSemi-IPN型架橋体で起こるエステル交換反応に関する条件検討を、熱機械分析装置(TMA450:ティー・エイ・インスツルメント社)により、下記の手順で、測定した。
TMA(熱機械分析)測定方法:
1:部材1、部材6及び部材C1の試料を3cm×0.4cmの短冊状に切り出し、8mm長さとなるよう治具にセット。
2:サンプルへ0.01Nの負荷荷重を与え、所定温度(100~150℃)を設定し温度を平衡化。
3:温度平衡化後に30%のひずみを与え、その後ひずみは一定に維持。
4:その際の時間に対する応力緩和を測定。
【0183】
図25図26及び図27は、熱機械分析試験によって得られた結果を図示するものであり、それぞれ、部材1、部材6及び部材C1の熱機械分析曲線である。図25図26及び図27に図示するデータは、30%ひずみ印加時の応力(縦軸)を1とし、経過時間(横軸)に対する応力緩和挙動を示す(縦軸の応力の値が下がるほど、応力緩和が大きいことを意味する)。
図26は、高分子化合物を含まない試料(部材6)でも、温度依存的な大きな応力緩和を示しており、これは、エステル交換反応が起きていることを意味すると考えられる。
図25は、高分子化合物を含むSemi-IPN型試料(部材1)では、図26に比べて、経過時間に対する応力の低下が顕著であって応力緩和がより大きいこと(温度依存的により大きな応力緩和)を示しており、これは、高分子化合物の存在が、エステル交換反応の速度及び効率を促進することを意味すると考えられる。
図27は、エステル交換触媒を含まない試料(部材C1)では、100~150℃の温度域で大きな応力緩和を示さないことを示しており、これは、エステル交換反応が起きていないことを意味すると考えられる。エステル交換反応を起こすには、エステル交換触媒の使用が必須である。
【0184】
[自己修復特性・リサイクル特性の評価]
実験方法:
1:部材1の試料をハサミでバラバラに切り出す(バラバラの状態)。
2:バラバラに切り出した試料を集めて、テフロンシートで挟む。
3:テフロンシートをさらにガラス板で挟み、クリップで4点を留める。
4:140℃のオーブンに入れ、2時間保持する(加圧熱処理)。
【0185】
図28は、部材1のバラバラの状態(左の図)と加圧熱処理後の試料(右の図)を示す図である。これにより、部材1は、P形状を容易に調整可能な形状記憶能(形状書換特性)のみならず、自己修復特性やリサイクル特性をも付与可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0186】
100:細胞培養基材
101:型
200:結紮デバイス
201:型
202:対象組織
300:積層体
301:部材
302:接着剤層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28