(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ヘルスケアシステムおよびその方法
(51)【国際特許分類】
G16H 50/20 20180101AFI20230509BHJP
【FI】
G16H50/20
(21)【出願番号】P 2023040186
(22)【出願日】2023-03-14
【審査請求日】2023-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522174281
【氏名又は名称】ロゴスサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下川 千草
(72)【発明者】
【氏名】中島 栄彦
【審査官】森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-192154(JP,A)
【文献】特許第7178146(JP,B1)
【文献】国際公開第2022/254575(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0053756(KR,A)
【文献】特開2018-037073(JP,A)
【文献】国際公開第2023/275975(WO,A1)
【文献】特開2022-042008(JP,A)
【文献】特開2021-183015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者のバイタルデータを取得するデバイスと、
制御プログラムを記憶する記憶装置と、
制御プログラムによって、システムの動作を制御する制御部と、
を含むヘルスケアシステムであって、
前記制御プログラムが、前記デバイスからのバイタルデータの異常を検出すると、
前記制御プログラムは、そのバイタルデータの異常が、少なくとも器質性
の要因、あるいは心因性
の要因に基づくかを判断するため、および/または、いずれの少なくとも心因性疾患または心身症
に関わる要因および一時的ではない心因性の症状や不調状態をもたらす要因によるものか分析するための、アセスメントを対象者に対して行い、バイタルデータの異常の要因を所定のアルゴリズムまたはAIによって最適化されたアルゴリズムによって分析することを特徴とするヘルスケアシステム。
【請求項2】
前記デバイスは常駐型の制御プログラムで利用されるパッシブな測定手段である請求項1のヘルスケアシステム。
【請求項3】
前記デバイスは、心拍、脈拍、歩行速度、活動量、呼吸音、のいずれかのバイタルデータを取得する機能を有する請求項1のヘルスケアシステム。
【請求項4】
前記制御プログラムは少なくとも二つのバイタルデータを利用する機能を有する請求項1のヘルスケアシステム。
【請求項5】
前記記憶装置がさらに心理療法を提供する治療モジュールを記憶し、前記バイタルデータの異常の要因を治療または改善するための、心理療法を実施するための治療モジュールを対象者に提供する請求項1のヘルスケアシステム。
【請求項6】
制御プログラムによって、システムの動作を制御する制御部と、
前記制御プログラムに制御されて対象者のバイタルデータを取得するデバイスと、
前記制御プログラムと心理療法を提供する治療モジュールを記憶する記憶装置と、
を含むヘルスケアシステムにおいて、
前記デバイスがバイタルデータを取得する工程と、
前記制御プログラムによって前記バイタルデータの異常を検出する工程と、
前記制御プログラムによって前記バイタルデータの異常が検出されると、
前記制御プログラムは、前記バイタルデータの異常が、少なくとも器質性あるいは心因性に基づくかを判断する、および/または、いずれの少なくとも心因性疾患または心身症および一時的ではない心因性の症状や不調状態をもたらす要因によるものか分析するための、アセスメントを前記対象者に対して行い、バイタルデータの異常の要因を所定のアルゴリズムまたはAIによって最適化されたアルゴリズムによって分析する工程とを実行し、ストレス状態を
分析する分析方法。
【請求項7】
請求項6の分析方法を実行するヘルスケアシステムにおいて、さらに
前記記憶装置が心理療法を提供する治療モジュールを記憶し、前記要因に対応した、前記心理療法に基づく治療モジュールを対象者に提供する工程が含まれる、メンタルヘルスの改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヘルスケアシステムおよびその方法、特に、バイタルデータを用いたストレス要因の推定を含むヘルスケアシステムおよびその方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、メンタルヘルス不調者の増加が社会問題となっており、コロナの流行以降、企業において50%を超える従業者がメンタルの不調を感じるまでになっている。また、メンタルの不調による休職者を分析すると、不調を訴えた対象者の多くが、微熱や不眠、体の節々の痛みなどの軽微な身体症状の変化を、自分がメンタルの不調に気付く前の数か月の間に感じていたことが知られている。また、これらの軽微な身体症状の変化、あるいは不調の初期に適切な処置を取ることでメンタルの症状の改善に効果があることが知られている。しかしながら、現在は年に1度のストレスチェックが義務化されているだけで、また、それらのストレスチェックの結果も有効に活用されていないのが現状である。
【0003】
また、近年、歩行速度等のバイタルデータを用いてストレス状態を検出する技術が開発されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6676217号
【文献】特開2019-10435号公報
【文献】特許第5656723号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2および特許文献3では、歩行速度の低下を検出し、ストレス状態であることを検出する技術を開示しているが、歩行速度の低下とメンタルヘルスに関わるストレス状態(例えば、うつ病や不安症等の心因性疾患や心身症によるもの)とは必ずしも一致しておらず、例えば、ケガなどによる器質的要因などによって歩行速度が低下した場合の誤検出する場合がある。また、仮に、精神的なストレスで歩行速度が低下していたとしても、そのストレス要因が何であるかわからないため、適切な対応が行えないなどの問題があった。これらの特許文献では歩行速度を教示しているため、歩行速度についての問題を示したが、他のバイタルデータを用いた場合にも同様に要因の誤認識の可能性があり、その対象者のバイタルデータの異常に対する適切な対応を行うことができなかった。特に、近年多くの治療用アプリが開発されてきているが、治療用アプリの適用の可否を図るにあたり、事前に疾患の要因を適切に判断することが非常に重要であるが、従来は適切に判断することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)
対象者のバイタルデータを取得するデバイスと、
制御プログラムを記憶する記憶装置と、
制御プログラムによって、システムの動作を制御する制御部と、
を含むヘルスケアシステムであって、
前記制御プログラムが、前記デバイスからのバイタルデータの異常を検出すると、
前記制御プログラムは、そのバイタルデータの異常が、少なくとも器質性の要因、あるいは心因性の要因に基づくかを判断するため、および/または、いずれの少なくとも心因性疾患または心身症に関わる要因および一時的ではない心因性の症状や不調状態をもたらす要因によるものか分析するための、アセスメントを対象者に対して行い、バイタルデータの異常の要因を所定のアルゴリズムまたはAIによって最適化されたアルゴリズムによって分析することを特徴とするヘルスケアシステム。
(請求項2)
前記デバイスは常駐型の制御プログラムで利用されるパッシブな測定手段である請求項1のヘルスケアシステム。
(請求項3)
前記デバイスは、心拍、脈拍、歩行速度、活動量、呼吸音、のいずれかのバイタルデータを取得する機能を有する請求項1のヘルスケアシステム。
(請求項4)
前記制御プログラムは少なくとも二つのバイタルデータを利用する機能を有する請求項1のヘルスケアシステム。
(請求項5)
前記記憶装置がさらに心理療法を提供する治療モジュールを記憶し、前記バイタルデータの異常の要因を治療または改善するための、心理療法を実施するための治療モジュールを対象者に提供する請求項1のヘルスケアシステム。
(請求項6)
制御プログラムによって、システムの動作を制御する制御部と、
前記制御プログラムに制御されて対象者のバイタルデータを取得するデバイスと、
前記制御プログラムと心理療法を提供する治療モジュールを記憶する記憶装置と、
を含むヘルスケアシステムにおいて、
前記デバイスがバイタルデータを取得する工程と、
前記制御プログラムによって前記バイタルデータの異常を検出する工程と、
前記制御プログラムによって前記バイタルデータの異常が検出されると、
前記制御プログラムは、前記バイタルデータの異常が、少なくとも器質性あるいは心因性に基づくかを判断する、および/または、いずれの少なくとも心因性疾患または心身症および一時的ではない心因性の症状や不調状態をもたらす要因によるものか分析するための、アセスメントを前記対象者に対して行い、バイタルデータの異常の要因を所定のアルゴリズムまたはAIによって最適化されたアルゴリズムによって分析する工程とを実行し、ストレス状態を分析する分析方法。
(請求項7)
請求項6の分析方法を実行するヘルスケアシステムにおいて、さらに
前記記憶装置が心理療法を提供する治療モジュールを記憶し、前記要因に対応した、前記心理療法に基づく治療モジュールを対象者に提供する工程が含まれる、メンタルヘルスの改善方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のヘルスケアシステムによれば、ストレス状態の要因を正確に把握することが可能で、それに基づいた適切な対応を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明のプログラムのフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本発明のヘルスケアシステムの構成)
本発明の一実施形態として、PC、ノートパソコンや、典型的にはスマホやタブレットなどの利用者の情報処理端末にインストールされたプログラムを挙げる。情報処理端末110は、ヘルスケアプログラムを制御する制御装置101、記憶装置102、液晶モニタなどの表示装置103、タッチパネルやキーボードなどの入力装置104、外部ネットワークとの通信用の通信装置105、バイタルデータを測定(または記録)する測定装置106等を備える。また、情報処理端末110とインターネットや無線接続あるいは優先接続などのネットワークであるネット120を介して、腕時計型、イヤホン型、バンド型、身体貼付型などのウェアラブル端末や、トイレなどに設置された血糖値測定装置などの据え置き型測定器である測定装置116を情報処理端末に内蔵された測定装置106に代えて用いても良い。また、本実施例では情報処理端末にプログラムや必要なデータ等を情報処理端末110に収容してスタンドアロンで動作するシステムを例に挙げているが、ネット120を介してサーバ120と接続し、サーバ120と情報処理端末110のそれぞれにプログラムやデータを分散、あるいは、サーバ120にプログラムやデータを集約し、情報処理端末は単なる入出力装置として利用することも可能である。
【0010】
測定装置106の例としてはバイタルデータを測定できるデバイスが利用可能である。バイタルデータの例として以下に歩行速度と心拍数、通話の測定を例に挙げるがこれに限定されるものではなく、体温上昇、皮膚の電気抵抗の変化、血圧変化、血流量変化、睡眠時間、体重、歩数、活動量やその他の当業者に周知の様々なバイタルデータが本発明で利用できることは言うまでもない。また、バイタルデータの測定として、測定装置106は対象者が意識することなく測定可能なバイタルデータ、歩行速度や、対話の分析、トイレ利用時の血糖値測定などのパッシブなデータであると、継続性の観点から特に都合が良い。パッシブなデータは、利用者が持ち歩く情報処理端末や、ウェアラブルデバイス、利用者の行動の動線上に配置されたデバイスで自動的に測定が行われると都合がよい。
【0011】
(歩行速度測定装置)
対象者の情報処理端末110には、GPS測位機能等(図示しない)が供えられ、その測位機能によって得られた情報処理端末110の位置を示す情報は、対象者の位置情報とされる。位置情報は、例えば、緯度及び経度を示す情報である。また、情報処理端末110は、加速度センサ等の加速度を測定する機能を有している。情報処理端末110は、その測位及び加速度の測定を定期的(例えば、数秒又は数分毎)に行い、その結果を記憶装置102に記憶する。
次に、制御装置101は歩行速度計測・判断ソフトウェアプログラムによって、前記測位データと加速度のデータから当該対象者が歩行しているかを判断して、当該対象者が歩行していると判断されたタイミングにおける当該対象者の移動速度を示す情報を歩行速度として取得する(詳細な歩行速度およびストレス状態の判断手段は特許文献1に記載の方法などを利用することができる)。これらから算出された歩行速度の一定期間ごと(例えば1日、1週間あるいは1か月)の平均値を比較して、歩行速度が前回の測定より遅い場合、あるいは所定の閾値より遅い場合、ストレス状態と判断する。
【0012】
(心拍数測定装置)
スマホ等の情報処理端末110に具備されているカメラ(測定装置106)を利用する心拍数測定装置などが知られている。例えば、顔などの皮膚表面を撮影したカメラ映像、あるいは指先などの皮膚表面を撮影したカメラ映像から、脈波信号を取り出し、心拍数を推定するものである。心拍数の測定には「映像脈波抽出」という技術を利用し、血液中のヘモグロビンが持つ、緑色光を吸収する性質に着目し、血管の収縮と拡張に伴う皮膚表面の反射光を画像解析して脈波信号を抽出するものである。
次にこれらの脈波信号からストレス指数を制御装置101がシステム100に備えられたストレス指数算出・判断ソフトウェアプログラムに従って算出する。ストレス指数は、脈波間隔を基に、心拍変動の時系列データとして得ることができる。心拍変動に基づくストレス指数としては、例えば交感神経と副交感神経の全体のバランスを表すLF/HFがある。LF(低周波)は、心拍変動の時系列データの0.004~0.15Hzの低周波を表し、メイヤー波と呼ばれる約10秒周期の血圧変化を信号源とする変動波である。HF(高周波)は、0.15~0.4Hzの高周波数を表し、3秒から4秒程度の周期を持つ呼吸を信号源とする変動波であり、このLF/HFが高い場合、交感神経が優位の状態で、ストレスが高い状態にあたる。一方で、ストレス指数であるLF/HFが低い場合、副交感神経が優位の状態にあり、リラックスした状態にあたる。このLF/HFについて、例えば、一定時間毎の平均値を対象者ごとに測定し、その経時変化でその値が各人に設定される閾値を超える場合にストレス状態と判断する。ただし、この測定法においても心因性疾患等の原因に基づくストレス状態なのか、例えば、イベント等に伴う一時的な精神的ストレス状態なのか判定がつかないという問題があった。なお、ストレス指数はLF/HFに限定されずに他の指数を用いても良い。
【0013】
(対話によるストレス推定装置)
対象者のスマートフォンでの通話やウェブ会議等でのマイク入力をモニタリングして記録し、その入力データを音声入力時と非音声入力状態に分離し、音声入力時の平均周波数と平均振幅を計測する。これらの変化からストレス状態を推測することができる。ストレス状態の推測方法については、特開2010-259691などに記載された方法が利用できる。ただし、この方法においてもストレス状態が引き起こされる要因については明確ではないという問題がある。
【0014】
(実施例)
次に本発明のメンタルヘルスケアシステムの実施例を以下に例示する。本実施例で用いられるメンタルヘルスケア(ソフトウェア)プログラムは情報処理端末110の記憶装置102に記憶され、記憶装置102から読み出されたプログラムが制御装置101で制御され、表示装置103や入力装置104、測定装置106,116等と連携しながら実行される。本実施例では対象者の情報処理端末110としてスマートフォンを利用し、バイタルデータとして歩行速度を用いたシステムを例として示すが、うつ病や不安症のような心因性疾患やストレス関連疾患等に起因して数値の異常が現れる他のバイタルデータを用いることも当然可能である。また、本実施例ではソフトウェアプログラムを例に説明するが、各機能単位をFPGAなどのハードウェアで実現してすべてハードウェアとして構成することも、あるいは、ソフトウェアプログラムとハードウェアの混合として構成することもできる。また、前述のように、各機能を情報処理端末110だけでスタンドアロンとして構成することも、ネットワークを介したサーバを用いて共同して動作するものとして構成することもできる。
次に
図2に従って本実施例を説明する。まず(工程201)ユーザーは本発明の常駐型のメンタルヘルスケアプログラムを起動する。起動と同時にスマートフォンは所定の間隔で歩行速度の測定を行う。次に、プログラムは歩行速度の平均値を算出する。この平均値は典型的には1日、1週間、1か月が好ましい。そして、それぞれの期間の平均値からその人物の歩行速度の閾値を設定して、記憶装置に記憶する。当初は健康状態での1か月平均の歩行速度を閾値として設定する。また、平均値の出し方として、1か月間連続した測定の平均値でもよいが、平日と休日、あるいは曜日など、活動状況が似た単位での平均値としてそれらを比較すると精度を上げることができる。そして、これらの健康状態での平均歩行速度と、直近1週間での歩行速度、あるいは1か月ごとの平日と休日の平均速度、あるいは1か月ごとの曜日ごとの平均速度が閾値より低いと判断されるまで、バイタルデータの計測を継続する。低いかどうかの判断は、平均値を10%以上下回った場合とする。ただし、単純に大小関係から判断しても良いし、統計処理やAIを用いて、心因性疾患等との相関の取れる変化量を設定するようにしても良い。
【0015】
次に歩行速度が平均速度より低いと判断された場合、(工程202)ストレス状態について器質性アセスメントを行う。器質性アセスメントは、記憶装置に記憶された、バイタルデータに応じた器質性判断のアセスメント項目を記録したリストに基づいて行われる(項目の代わりに、バイタルデータの異常を分析するための一般的な指標を用いることもできる。その場合は記憶装置に記憶された指標に基づく質問項目を呼び出す)。このリストではバイタルデータごとに器質性か、一時的なものか、心因性疾患等に由来のものかなどを判断するための質問項目が含まれ、例えば本実施例では、歩行速度であると、「(1)最近、ケガをしたことがありますか、(2)最近、歩行中に注意をひかれる事象がありましたか、(3)最近、気分がすぐれない、イライラするなどありますか?」といった質問項目のリストであり、これらの質問が表示装置103に表示されてプログラムのユーザーの回答を則し、ユーザーは、入力装置104を通じて典型的にはYes、Noで回答を入力する。器質性アセスメント工程ではこれら回答入力からストレス要因を判断し、所定の処理を行う。例えば、「(1)最近、ケガをしたことがありますか」がYesであれば、画面に「けがが早く治るように気を付けましょう」などと表示し、そのケガの治療期間の間として、例えば、後続する1週間も歩行速度の低下を無視するように処理を行う。けがの治療期間についてはユーザーの入力に基づいて修正するようにしても良い。
また、「(2)最近、歩行中に注意をひかれる事象がありましたか」にYesがある場合は、一時的な原因で、特に問題ないとして、処理を中断して工程201に戻る処理を行う。
最後に、「(3)最近、気分がすぐれない、イライラするなどありますか?」にYesがある場合は、(1)、(2)の結果に関わらず、心因性疾患に関する問題があると判断して、次の工程に移る。いずれの質問についてもYesがない場合は問題ないとして工程201に戻る。ただし、この場合も念のために次の工程に進むようにしても良い。
【0016】
次に心因性疾患に関する問題があると判断された場合、(工程203)心因性アセスメントを行う。心因性アセスメントは、測定されたバイタルデータの異常と関連する心因性疾患や心身症の評価指標を利用して行う。ここで、記憶装置にバイタルデータと利用する指標の関連を示すリストが記憶されている。本実施例では歩行速度がバイタルデータとして用いられているので、このリストの歩行速度と関連付けられた指標を検索し、うつ病や不安症の指標が関連付けられていることを読みだして、これらを用いる。同時にこれらの指標も記憶装置に記憶されている。そして、制御装置101はプログラムの流れに従って、記憶装置から、うつ病の評価指標(例えば、QIDS-J)と不安症の評価指標(例えば、GAD-7)を読み出し、ユーザーのスマートフォンの表示装置103に質問項目を表示し、ユーザーからの回答を則す。ユーザーはスマホのタッチパネル104を利用して回答を入力する。次にこれらの回答結果を記憶装置102に記憶して、次の工程に移行する。
【0017】
次に(工程204)心因性アセスメントの結果からバイタルデータ(ここでは歩行速度)の異常(低下)をもたらした要因を判断する。
プログラムはユーザーの指標への回答結果を集計し、点数付けを行い、記憶装置に記憶された判断アルゴリズム(バイタルデータごとに統計処理や分析のためのアルゴリズムが決定され、記憶装置に記憶されたものを都度読み出して判断に用いるが、AI(機械学習やディープラーニングを含む)で点数と要因との関連付けを行って最適化されたアルゴリズムを用いても良い)に基づいて結果を評価する。まず、QIDS-Jの点数を評価し、うつに関して、5点以下の場合は「正常」、6-10点の場合は、「軽症」、11-15点の場合は、「中程度」、16-27点の場合は重症とし、次に、GAD-7の値を評価する。GAD-7の点数を評価し、不安症に関して、4点以下の場合は「正常」、5-9点のばあいは「軽症」、10-14点の場合は、「中程度」、15-21点の場合は重症と判断する。うつ、不安もいずれも正常の場合は一時的なものとして、いずれかが正常で、もう一方が軽症又は中程度の場合は、その疾患として、いずれが軽症でいずれかが中程度の場合は中程度の疾患が優位の混合性、いずれも中程度またはいずれかに重症があるものは重症と、アルゴリズムに基づいて判断する。アルゴリズムはバイタルデータごとに設定されるのが通例である。また、本実施例では心因性アセスメントの結果として、疾患との関係性を判断してカテゴリに分類しているが、カテゴリは疾患だけに限られず、例えば、対人関係に問題がある、新しい環境に問題があるといった、生物心理社会的要因や、対象者の行動様式などに応じたカテゴライズも可能である。また、これらの対象者の該当するカテゴリを表示し、さらに簡単な対処法などを併せて表示するなどの改変も可能である。
【0018】
次に、上記アルゴリズムに基づいて分類(タイプ分け)された、「正常」、「うつ病」、「不安症」、「うつ優位混合型」、「不安優位混合型」、「重症」のカテゴリについて、(工程205)それぞれに対応した処理を行う。判断結果のカテゴリと、処理は対応関係のリストが記憶装置に記憶されており、そのリストをプログラムが読みだして対応する処理が行われる。
「正常」の場合は正常として、工程201に処理を戻す。「うつ病」、「不安症」、「うつ優位混合型」、「不安優位混合型」の場合は、それぞれを治療するための、記憶装置に記憶された、治療用のモジュール(ワーク)をプログラムから読み出し、カテゴリに応じた治療が主にユーザの情報処理端末110を介してユーザに提供される。これらの治療用モジュールは、心理療法、特に認知行動療法や、第三世代の認知行動療法であるACTに基づき、心理的介入を実施するものであるのが好ましい。
重症と判断された場合は、表示装置を介してユーザーに重症である旨のアラートと医療機関への受診勧奨を行う。また、医療機関との連携機能(図示しない)を利用して、ユーザの回答結果を送信するように構成しても良い。これによって医師による診察が効率化することができる。
【0019】
本実施例では器質性アセスメントと心因性アセスメントを行っているが、器質性アセスメントを省いて、心因性アセスメントの結果から心因性の原因がない場合に器質性の原因として判断すること、あるいは心因性アセスメントを省いて、器質性アセスメントの結果から心因性の原因として、そのバイタルデータの異常をもたらす典型的な心因性の疾患に対する治療用モジュール(ワーク)を提供するようにしても良い。
【0020】
本実施例の治療用モジュールはその実施だけで心因性疾患等に関連した症状の改善・治療が行えるスタンドアロンのプログラムを意図しているが、医療機関(図示しない)と連携して、カウンセリングは医療機関が行い(典型的にはオンラインによる)、それらの間でのホームワークを行うもの、医師のカウンセリングや投薬の管理などのカレンダー機能を行うものとして構成しても良い。また、本実施例はヘルスケアシステムとして提供されるものを例として示したが、医療機関で行われる治療を目的とした治療用システムとして利用することもできる。
【0021】
本実施例では歩行速度のみのバイタルデータを利用した例を示したが、複数のバイタルデータを利用することもできる。たとえば、二つのバイタルデータを利用し、両方に異常が出ている場合、片方にしか関係ない要因があればそれを省略するといった修正を行い、要因判断を容易にすることができる。また、本実施例の測定装置はバイタルデータを測定および/または記録する機能を持ち、痛みなどの主観的な痛みの記録などもその対象に含まれるが、機械的に測定される客観的なバイタルデータの測定に限定してもよい。
【0022】
また本実施例では器質性アセスメントあるいは心因性アセスメントは質問によってなされたが、これらの質問はチャットボット形式での質問・回答様式のほか、音声や、映像、動作による質問・回答形式などを用いることもできる。さらに、これらの質問に代えて、例えば、その対象者が通常使っているアプリ等の入力内容や、通話内容を記録しておき、それらで用いられている言葉や表現、あるいは間の取り方などと、質問を代用することもできる(たとえば、LINE(登録商標)に入力している文章に、イライラしていることを示す表現が使われていた場合、それをもってイライラしているという状態に関する質問の回答とし、ユーザーへのそういった質問を省略する)。また、これらの質問で判断する心理的状態を分析することができるバイタルデータなどを代わりに用いることもできる。
【符号の説明】
【0023】
100 ヘルスケアシステム
101 制御装置
102 記憶装置
103 表示装置
104 入力装置
105 通信装置
106 測定装置
110 ユーザの情報処理端末
116 測定装置
120 ネットワーク
【要約】
【課題】ヘルスケアシステムおよびその方法を提供する。
【解決手段】
対象者のバイタルデータを取得するデバイスと、
制御プログラムとワークを記憶する記憶装置と、
制御プログラムによって、システムの動作を制御する制御部と、
を含むヘルスケア管理システムであって、
前記デバイスからのバイタルデータの異常を検出すると、
前記制御プログラムは、そのバイタルデータの異常が、少なくとも器質性あるいは心因性に基づくかを判断するため、および/またはいずれの心因性の要因によるものか分析するための、アセスメントを対象者に対して行い、バイタルデータの要因を分析することを特徴とするヘルスケアシステム。
【選択図】
図1