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特許7274269シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置
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  • 特許-シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置 図1
  • 特許-シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置 図2
  • 特許-シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置 図3
  • 特許-シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置 図4
  • 特許-シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置 図5
  • 特許-シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20230509BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20230509BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20230509BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C41/00
F16C19/18
F16J15/447
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018144631
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020020398
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 日雅
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-080145(JP,A)
【文献】特開2015-086993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78-33/80
F16C 41/00
F16C 19/18
F16J 15/3204
F16J 15/3232
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に介装される転動体と、を備える車輪用軸受装置のシール部材であって、
スリンガとシールリングで構成され、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、当該外嵌部の軸方向外側端部から径方向外側へ延びる外板部と、当該外板部の径方向外側端部から軸方向内側へ延びる折返部と、を有し、前記外板部に固着されたエンコーダが少なくとも前記折返部の外周面と先端面と内周面を覆っており、
前記シールリングは、前記外方部材に嵌合される芯金を有し、
前記芯金は、前記外方部材に内嵌される内嵌部と、当該内嵌部の軸方向内側端部から径方向内側へ延びる内板部と、を有し、前記内板部に固着された弾性部材が少なくとも前記内嵌部の内周面を覆っており、
前記折返部の外周面と前記内嵌部の内周面との間で前記エンコーダと前記弾性部材によってラビリンス部が形成され、
前記ラビリンス部は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延び、
前記折返部の内周面を覆う前記エンコーダの内周面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜しており、
前記折返部の先端面を覆う前記エンコーダの先端面の全ては、
軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜しており、
湾曲部を介して、前記折返部の外周面を覆う前記エンコーダの外周面に続いている
ことを特徴とするシール部材。
【請求項2】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に介装される転動体と、を備える車輪用軸受装置のシール部材であって、
スリンガとシールリングで構成され、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、当該外嵌部の軸方向外側端部から径方向外側へ延びる外板部と、当該外板部の径方向外側端部から軸方向内側へ延びる折返部と、を有し、前記外板部に固着されたエンコーダが少なくとも前記折返部の外周面と先端面と内周面を覆っており、
前記シールリングは、前記外方部材に嵌合される芯金を有し、
前記芯金は、前記外方部材に内嵌される内嵌部と、当該内嵌部の軸方向内側端部から径方向内側へ延びる内板部と、を有し、前記内板部に固着された弾性部材が少なくとも前記内嵌部の内周面を覆っており、
前記折返部の外周面と前記内嵌部の内周面との間で前記エンコーダと前記弾性部材によってラビリンス部が形成され、
前記ラビリンス部は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延び、
前記折返部の内周面を覆う前記エンコーダの内周面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜しており、
前記折返部の先端面を覆う前記エンコーダの先端面の全ては、
軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜しており、
湾曲部を介して、前記エンコーダの内周面に続いている
ことを特徴とするシール部材。
【請求項3】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に介装される転動体と、を備える車輪用軸受装置のシール部材であって、
スリンガとシールリングで構成され、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、当該外嵌部の軸方向外側端部から径方向外側へ延びる外板部と、当該外板部の径方向外側端部から軸方向内側へ延びる折返部と、を有し、前記外板部に固着されたエンコーダが少なくとも前記折返部の外周面と先端面と内周面を覆っており、
前記シールリングは、前記外方部材に嵌合される芯金を有し、
前記芯金は、前記外方部材に内嵌される内嵌部と、当該内嵌部の軸方向内側端部から径方向内側へ延びる内板部と、を有し、前記内板部に固着された弾性部材が少なくとも前記内嵌部の内周面を覆っており、
前記折返部の外周面と前記内嵌部の内周面との間で前記エンコーダと前記弾性部材によってラビリンス部が形成され、
前記ラビリンス部は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延び、
前記折返部の内周面を覆う前記エンコーダの内周面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜しており、
前記折返部の先端面を覆う前記エンコーダの先端面の全ては、
径方向内側部分で軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜し、
径方向中央部分で湾曲し、
径方向外側部分で軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している、
ことを特徴とするシール部材。
【請求項4】
前記ラビリンス部は、
前記折返部の先端面と前記内板部の側端面との間で前記エンコーダと前記弾性部材によって延長されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシール部材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に係る前記シール部材を備えた車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材及びシール部材を備えた車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、外側軌道面が形成された外方部材と、内側軌道面が形成された内方部材と、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される転動体と、で転がり軸受構造を構成している。
【0003】
ところで、車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材の間に環状空間が形成されている。この環状空間に泥水が浸入した場合、泥水に含まれる砂塵等によって軌道面や転動体が損傷するので、結果として軸受寿命が短くなる。そのため、このような車輪用軸受装置は、環状空間を密封すべく、シール部材を備えている(特許文献1から特許文献3参照)。
【0004】
特許文献1に記載のシール部材は、スリンガとシールリングで構成されている。シールリングは、弾性部材にシールリップが形成されており、シールリップの先端縁がスリンガに接触又は近接している。このような構造により、シール部材は、スリンガとシールリングが相対して回転自在でありながらも、密封性を確保している。なお、耐泥水性向上のため、シールリップを増やした仕様やガータスプリングを追加した仕様も存在している。
【0005】
特許文献2に記載のシール部材は、エンコーダの一部形状を工夫することにより、シールリングを構成する弾性部材との間でラビリンス部を形成している。そして、このラビリンス部は、所定方向へ向かって延びている。これは、回転による遠心力を利用することで、ラビリンス部にとどまった泥水の排出を図ったものである。しかし、このような構造においては、ラビリンス部の全長が短いため、泥水がラビリンス部を通り抜けて内部まで浸入してしまうという懸念があった。そして、泥水に含まれる砂塵等をシールリップが噛み込んでリップ摩耗の原因になってしまうという懸念もあった。
【0006】
特許文献3に記載のシール部材は、スリンガを折り曲げて折返部を設けることにより、シールリングを構成する弾性部材との間にラビリンス部を形成している。そのため、このラビリンス部は、比較的に長く形成されている。これは、ラビリンス部の全長を長くすることで、泥水の捕集機能を高め、泥水が内部まで浸入しにくくなる効果を図ったものである。しかし、このような構造においては、泥水がラビリンス部を通り抜けて内部まで浸入すると、泥水を排水することができずに溜まってしまうという懸念があった。そして、泥水に含まれる砂塵等をシールリップが噛み込んでリップ摩耗の原因になってしまうという懸念もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-115273号公報
【文献】特開2007-285499号公報
【文献】特開2009-197884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リップ摩耗を抑制し、耐泥水性の向上を実現させたシール部材を提供する。また、かかるシール部材を備えた車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の発明は、
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に介装される転動体と、を備える車輪用軸受装置のシール部材であって、
スリンガとシールリングで構成され、
前記スリンガは、前記内方部材に外嵌される外嵌部と、当該外嵌部の軸方向外側端部から径方向外側へ延びる外板部と、当該外板部の径方向外側端部から軸方向内側へ延びる折返部と、を有し、前記外板部に固着されたエンコーダが少なくとも前記折返部の外周面と先端面と内周面を覆っており、
前記シールリングは、前記外方部材に嵌合される芯金を有し、
前記芯金は、前記外方部材に内嵌される内嵌部と、当該内嵌部の軸方向内側端部から径方向内側へ延びる内板部と、を有し、前記内板部に固着された弾性部材が少なくとも前記内嵌部の内周面を覆っており、
前記折返部の外周面と前記内嵌部の内周面との間で前記エンコーダと前記弾性部材によってラビリンス部が形成され、
前記ラビリンス部は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延び、
前記折返部の内周面を覆う前記エンコーダの内周面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している、ものである。
【0010】
第二の発明は、第一の発明に係るシール部材において、
前記折返部の先端面を覆う前記エンコーダの先端面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している、ものである。
【0011】
第三の発明は、第一の発明に係るシール部材において、
前記折返部の先端面を覆う前記エンコーダの先端面は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している、ものである。
【0012】
第四の発明は、第一の発明に係るシール部材において、
前記折返部の先端面を覆う前記エンコーダの先端面は、径方向内側部分で軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜し、径方向外側部分で軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している、ものである。
【0013】
第五の発明は、第一から第四の発明に係るシール部材において、
前記ラビリンス部は、前記折返部の先端面と前記内板部の側端面との間で前記エンコーダと前記弾性部材によって延長されている、ものである。
【0014】
第六の発明は、
第一から第五の発明に係る前記シール部材を備えた車輪用軸受装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
第一の発明に係るシール部材において、ラビリンス部は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延びている。また、折返部の内周面を覆うエンコーダの内周面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるシール部材によれば、ラビリンス部に泥水が浸入しても、回転による遠心力を利用して排出することができる。また、ラビリンス部を通り抜けて内部まで泥水が浸入しても、回転による遠心力を利用して泥水をラビリンス部まで導き、同じく遠心力を利用して排出することができる。従って、リップ摩耗を抑制し、耐泥水性の向上が実現される。
【0017】
第二の発明に係るシール部材において、折返部の先端面を覆うエンコーダの先端面は、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるシール部材によれば、エンコーダの先端面上でも泥水に遠心力をかけられるので、この泥水を円滑にラビリンス部へ導くことができる。また、泥水がエンコーダの内周面から先端面へ淀みなく伝うので、泥水の流れを妨げない。
【0018】
第三の発明に係るシール部材において、折返部の先端面を覆うエンコーダの先端面は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるシール部材によれば、エンコーダの先端面上でも泥水に遠心力をかけられるので、この泥水を円滑にラビリンス部へ導くことができる。また、泥水がエンコーダの先端面から外周面へ淀みなく伝うので、泥水の流れを妨げない。
【0019】
第四の発明に係るシール部材において、折返部の先端面を覆うエンコーダの先端面は、径方向内側部分で軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜し、径方向外側部分で軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるシール部材によれば、泥水がエンコーダの内周面から先端面へ淀みなく伝う効果と泥水がエンコーダの先端面から外周面へ淀みなく伝う効果の両方を獲得できる。
【0020】
第五の発明に係るシール部材において、ラビリンス部は、折返部の先端面と内板部の側端面との間でエンコーダと弾性部材によって延長されている。かかるシール部材によれば、ラビリンス部が長く複雑になって泥水の捕集機能が高まるので、泥水が内部まで浸入するのを抑えることができる。
【0021】
第六の発明に係る車輪用軸受装置は、第一から第五の発明に係るシール部材を備えた車輪用軸受装置である。かかる車輪用軸受装置によれば、前述の効果によって軌道面や転動体の損傷を防ぐことができるので、軸受寿命の向上が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】車輪用軸受装置の構造を示す図。
図2】車輪用軸受装置の一部構造を示す図。
図3】第一実施形態に係るシール部材を示す図。
図4】第二実施形態に係るシール部材を示す図。
図5】第三実施形態に係るシール部材を示す図。
図6】第四実施形態に係るシール部材を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。図1は、車輪用軸受装置1の構造を示す図である。図2は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す図である。
【0024】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動体4と、を備えている。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0025】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2は、そのインナー側端部及びアウター側端部における内周に、後述するシールリング62が嵌合する嵌合面2aと、嵌合面2aに隣接する外側軌道面2cと、が形成されている。
【0026】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、第一内方部材31と第二内方部材32を互いに突き合せて構成されている。
【0027】
第一内方部材31は、そのインナー側端部における外周に、後述するスリンガ61が嵌合する嵌合面3aが形成されている。更に、嵌合面3aに隣接する外周には、内側軌道面3cが形成されている。内側軌道面3cは、外側軌道面2cに対向している。
【0028】
第二内方部材32は、そのアウター側端部における外周に、後述するスリンガ61が嵌合する嵌合面3bが形成されている。更に、嵌合面3bに隣接する外周には、内側軌道面3dが形成されている。内側軌道面3dは、外側軌道面2cに対向している。
【0029】
転動体4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。インナー側の転動体4は、外方部材2の外側軌道面2cと第一内方部材31の内側軌道面3cの間に介装されている。アウター側の転動体4は、外方部材2の外側軌道面2cと第二内方部材32の内側軌道面3dの間に介装されている。
【0030】
ところで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3(第一内方部材31及び第二内方部材32)の間に形成される環状空間Sの両側開口端を密封すべく、一対のシール部材6を備えている。以下では、環状空間Sのインナー側開口端に装着されるシール部材6を「インナー側シール部材6」として説明する。なお、環状空間Sのアウター側開口端に装着されるシール部材6もほぼ同様の構造であるので、同じ符号を付すものとする。
【0031】
インナー側シール部材6は、スリンガ61とシールリング62で構成されている。ここでは、中心軸Cに沿って環状空間Sに近づく方向を「軸方向内側」とし、中心軸Cに沿って環状空間Sから遠ざかる方向を「軸方向外側」とする(図2参照)。また、中心軸Cに対して垂直に近づく方向を「径方向内側」とし、中心軸Cから遠ざかる方向を「径方向外側」とする(図2参照)。
【0032】
スリンガ61は、鋼板製であり、所定断面を有する円環体となっている。スリンガ61には、第一内方部材31の嵌合面3aに外嵌される外嵌部611が形成されている。また、スリンガ61には、外嵌部611の軸方向外側端部から径方向外側へ延びる外板部612と、外板部612の径方向外側端部から軸方向内側へ延びる折返部613と、が形成されている。また、スリンガ61には、エンコーダ63が固着している。エンコーダ63は、周方向に磁極(N極・S極)を配列した弾性部材である。
【0033】
シールリング62は、芯金64と弾性部材65で構成されている。芯金64には、外方部材2の嵌合面2aに内嵌される内嵌部641が形成されている。また、芯金64には、内嵌部641の軸方向内側端部から径方向内側へ延びる内板部642が形成されている。芯金64には、内嵌部641の内周面64aと内板部642の側端面64bを覆うように弾性部材65が固着している。弾性部材65には、二つのサイドリップ651・652が形成されており、それぞれの先端縁が対向するスリンガ61の外板部612に接触している。更に、弾性部材65には、一つのグリースリップ653が形成されており、その先端縁が対向するスリンガ61の外嵌部611に接触又は近接している。
【0034】
図3は、インナー側シール部材6のうち外径側部分を拡大した図である。図3に示すように、エンコーダ63は、折返部613の外周面61aから先端面61bを回り込むようにして内周面61cを覆っている。こうして、折返部613の径方向外側には、エンコーダ63による外周面63aが位置している。また、折返部613の軸方向内側には、エンコーダ63による先端面63bが位置している。更に、折返部613の径方向内側には、エンコーダ63による内周面63cが位置している。
【0035】
外周面63aは、その外径が軸方向外側に向かって大きくなっている。また、外周面63aに対向する弾性部材65の内周面65aも、その内径が軸方向外側に向かって大きくなっている。こうして、エンコーダ63の外周面63aと弾性部材65の内周面65aによって細い隙間が形成されている。本明細書においては、かかる隙間を「ラビリンス部8」と定義する。なお、外周面63a及び内周面65aは、軸方向断面において表される線分(母線という)が直線となっている。しかし、かかる線分は、曲率が一定或いは徐々に変化する曲線であってもよい。
【0036】
先端面63bは、外周面63aの軸方向内側端縁から径方向内側へ延びている。また、先端面63bに対向する弾性部材65の側端面65bも、内周面65aの軸方向内側端縁から径方向内側へ延びている。こうして、エンコーダ63の先端面63bと弾性部材65の側端面65bによって細い隙間が形成されている。つまり、ラビリンス部8が径方向内側に向かって折れ曲がるように延長されている。なお、先端面63b及び側端面65bは、軸方向断面において表される線分(母線という)が直線となっている。しかし、かかる線分は、曲率が一定或いは徐々に変化する曲線であってもよい。
【0037】
内周面63cは、先端面63bの径方向内側端縁から軸方向外側かつ径方向内側へ延びている。内周面63cは、その内径が軸方向内側に向かって大きくなっている。なお、内周面63cは、軸方向断面において表される線分(母線という)が直線となっている。しかし、かかる線分は、曲率が一定或いは徐々に変化する曲線であってもよい。
【0038】
ここで、泥水がラビリンス部8に浸入した場合を想定し、かかる泥水が排出される過程について説明する。
【0039】
ラビリンス部8にとどまった泥水は、第一内方部材31とともにスリンガ61及びエンコーダ63が一体となって回転するので、それにつられて回転するようになる。すると、泥水には、径方向外側へ向かう遠心力がかかることとなる。泥水は、ラビリンス部8が軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延びているので、このラビリンス8を通って外部へ排出される(矢印U参照)。
【0040】
更に、泥水がラビリンス部8を通り抜けて内部まで浸入した場合を想定し、かかる泥水が排出される過程について説明する。ここで、「内部」とは、スリンガ61とシールリング62で囲まれた空間を指す。
【0041】
この場合も同様に、第一内方部材31の回転中、泥水には、径方向外側へ向かう遠心力がかかることとなる。すると、泥水は、エンコーダ63の内周面63cと先端面63bを伝ってラビリンス部8へ導かれる(矢印S・T参照)。このとき、泥水は、内周面63cが軸方向内側かつ径方向外側へ傾斜しているので、内周面63c上にとどまることなく円滑に導かれる。その後、泥水は、ラビリンス部8を通って外部へ排出される(矢印U参照)。このときも、泥水は、ラビリンス部8が軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延びているので、ラビリンス部8内にとどまることなく円滑に排出される。
【0042】
以上のように、第一実施形態に係るインナー側シール部材6において、ラビリンス部8は、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって延びている。また、折返部613の内周面61cを覆うエンコーダ63の内周面63cは、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるインナー側シール部材6によれば、ラビリンス部8に泥水が浸入しても、回転による遠心力を利用して排出することができる。また、ラビリンス部8を通り抜けて内部まで泥水が浸入しても、回転による遠心力を利用して泥水をラビリンス部8まで導き、同じく遠心力を利用して排出することができる。従って、リップ摩耗を抑制し、耐泥水性の向上が実現される。
【0043】
次に、第二実施形態に係るインナー側シール部材6の特徴点とその効果について説明する。図4は、第二実施形態に係るインナー側シール部材6を示す図である。なお、第二実施形態に係るインナー側シール部材6は、第一実施形態に係るインナー側シール部材6に対してほぼ同じ構造となっている。そのため、互いに相当する部分には、同じ符号を付して異なる部分を中心に説明する。
【0044】
本実施形態に係るインナー側シール部材6において、エンコーダ63の先端面63bは、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。このようにしたのは、エンコーダ63の先端面63b上でも泥水に遠心力をかけつづけ、この泥水を円滑にラビリンス部8へ導くためである。つまり、エンコーダ63の先端面63bに傾斜をつけることで、先端面63bを伝う泥水に遠心力をかけつづけ、ひいては円滑にラビリンス部8へ導くのである。更に、エンコーダ63の内周面63cから先端面63bへ泥水を淀みなく伝えるためである(矢印S参照)。
【0045】
このように、第二実施形態に係るインナー側シール部材6において、折返部613の先端面61bを覆うエンコーダ63の先端面63bは、軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるインナー側シール部材6によれば、エンコーダ63の先端面63b上でも泥水に遠心力をかけられるので、この泥水を円滑にラビリンス部8へ導くことができる。また、泥水がエンコーダ63の内周面63cから先端面63bへ淀みなく伝うので、泥水の流れを妨げない。
【0046】
加えて、第二実施形態に係るインナー側シール部材6においては、エンコーダ63の先端面63bに対向する弾性部材65の側端面65bを軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜させ、先端面63bと側端面65bの隙間を一定或いは略一定としてもよい(図4における二点鎖線E参照)。これは、ラビリンス部8を長く複雑に延長したものといえ、より高い泥水の捕集機能が得られることになる。
【0047】
このように、第二実施形態に係るインナー側シール部材6において、ラビリンス部8は、折返部613の先端面61bと内板部642の側端面64bとの間でエンコーダ63と弾性部材65によって延長されてもよい。かかるインナー側シール部材6によれば、ラビリンス部8が長く複雑になって泥水の捕集機能が高まるので、泥水が内部まで浸入するのを抑えることができる。
【0048】
次に、第三実施形態に係るインナー側シール部材6の特徴点とその効果について説明する。図5は、第三実施形態に係るインナー側シール部材6を示す図である。なお、第三実施形態に係るインナー側シール部材6は、第一実施形態に係るインナー側シール部材6に対してほぼ同じ構造となっている。そのため、互いに相当する部分には、同じ符号を付して異なる部分を中心に説明する。
【0049】
本実施形態に係るインナー側シール部材6において、エンコーダ63の先端面63bは、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。このようにしたのは、エンコーダ63の先端面63b上でも泥水に遠心力をかけつづけ、この泥水を円滑にラビリンス部8へ導くためである。つまり、エンコーダ63の先端面63bに傾斜をつけることで、先端面63bを伝う泥水に遠心力をかけつづけ、ひいては円滑にラビリンス部8へ導くのである。更に、エンコーダ63の先端面63bから外周面63aへ泥水を淀みなく伝えるためである(矢印T参照)。
【0050】
このように、第三実施形態に係るインナー側シール部材6において、折返部613の先端面61bを覆うエンコーダ63の先端面63bは、軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるインナー側シール部材6によれば、エンコーダ63の先端面63b上でも泥水に遠心力をかけられるので、この泥水を円滑にラビリンス部8へ導くことができる。また、泥水がエンコーダ63の先端面63bから外周面63aへ淀みなく伝うので、泥水の流れを妨げない。
【0051】
加えて、第三実施形態に係るインナー側シール部材6においては、エンコーダ63の先端面63bに対向する弾性部材65の側端面65bを軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜させ、先端面63bと側端面65bの隙間を一定或いは略一定としてもよい(図5における二点鎖線F参照)。これは、ラビリンス部8を長く複雑に延長したものといえ、より高い泥水の捕集機能が得られることになる。
【0052】
このように、第三実施形態に係るインナー側シール部材6において、ラビリンス部8は、折返部613の先端面61bと内板部642の側端面64bとの間でエンコーダ63と弾性部材65によって延長されてもよい。かかるインナー側シール部材6によれば、ラビリンス部8が長く複雑になって泥水の捕集機能が高まるので、泥水が内部まで浸入するのを抑えることができる。
【0053】
次に、第四実施形態に係るインナー側シール部材6の特徴点とその効果について説明する。図6は、第四実施形態に係るインナー側シール部材6を示す図である。なお、第四実施形態に係るインナー側シール部材6は、第一実施形態に係るインナー側シール部材6に対してほぼ同じ構造となっている。そのため、互いに相当する部分には、同じ符号を付して異なる部分を中心に説明する。
【0054】
本実施形態に係るインナー側シール部材6において、エンコーダ63の先端面63bは、径方向内側部分で軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜し、径方向外側部分で軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。このようにしたのは、エンコーダ63の先端面63b上でも泥水に遠心力をかけつづけ、この泥水を円滑にラビリンス部8へ導くためである。つまり、エンコーダ63の先端面63bに傾斜をつけることで、先端面63bを伝う泥水に遠心力をかけつづけ、ひいては円滑にラビリンス部8へ導くのである。更に、エンコーダ63の内周面63cから先端面63bへ泥水を淀みなく伝え、エンコーダ63の先端面63bから外周面63aへも泥水を淀みなく伝えるためである(矢印S・T参照)。
【0055】
このように、第四実施形態に係るインナー側シール部材6において、折返部613の先端面61bを覆うエンコーダ63の先端面63bは、径方向内側部分で軸方向内側かつ径方向外側へ向かって傾斜し、径方向外側部分で軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜している。かかるインナー側シール部材6によれば、泥水がエンコーダ63の内周面63cから先端面63bへ淀みなく伝う効果と泥水がエンコーダ63の先端面63bから外周面63aへ淀みなく伝う効果の両方を獲得できる。
【0056】
加えて、第四実施形態に係るインナー側シール部材6においては、エンコーダ63の先端面63bに対向する弾性部材65の側端面65bで、径方向内側部分を軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜させ、径方向外側部分を軸方向外側かつ径方向外側へ向かって傾斜させ、先端面63bと側端面65bの隙間を一定或いは略一定としてもよい(図6における二点鎖線G参照)。これは、ラビリンス部8を長く複雑に延長したものといえ、より高い泥水の捕集機能が得られることになる。
【0057】
このように、第四実施形態に係るインナー側シール部材6において、ラビリンス部8は、折返部613の先端面61bと内板部642の側端面64bとの間でエンコーダ63と弾性部材65によって延長されてもよい。かかるインナー側シール部材6によれば、ラビリンス部8が長く複雑になって泥水の捕集機能が高まるので、泥水が内部まで浸入するのを抑えることができる。
【0058】
最後に、車輪用軸受装置1は、主に外方部材2と内方部材3と転動体4で構成された第1世代構造であるが、これに限定するものではない。例えば、外方部材に車体取付フランジを有し、ハブ輪が内方部材に挿通される内方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。或いは、外方部材が車輪取付フランジを有するハブ輪であり、支持軸が内方部材に挿通される外方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。更に、外方部材に車体取付フランジを有し、内方部材が車輪取付フランジを有するハブ輪であるとした内方部材回転仕様の第3世代構造であってもよい。或いは、外方部材が車輪取付フランジを有するハブ輪であり、内方部材が車体取付フランジを有する支持軸とした外方部材回転仕様の第3世代構造であってもよい。更に、外方部材に車体取付フランジを有し、内方部材が車輪取付フランジを有するハブ輪と自在継手の嵌合体である第4世代構造であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
3 内方部材
4 転動体
6 シール部材(インナー側シール部材)
61 スリンガ
611 外嵌部、 612 外板部、 613 折返部
61a 外周面、 61b 先端面、 61c 内周面
62 シールリング
63 エンコーダ
63a 外周面、 63b 先端面、 63c 内周面
64 芯金
641 内嵌部、 642 内板部
64a 内周面、 64b 側端面
65 弾性部材
8 ラビリンス部
図1
図2
図3
図4
図5
図6