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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】生体成分測定試薬及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/42 20060101AFI20230509BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C12Q1/42
G01N33/68
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018178375
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020048431
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591122956
【氏名又は名称】株式会社LSIメディエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】圓藤 葉子
(72)【発明者】
【氏名】坪田 博幸
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-187897(JP,A)
【文献】国際公開第2002/086151(WO,A1)
【文献】特開2002-233363(JP,A)
【文献】特開昭59-159798(JP,A)
【文献】国際公開第02/086151(WO,A1)
【文献】特開2013-051907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N、C12Q、G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが存在する可能性のある生体試料におけるアルカリホスファターゼの測定試薬であって、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸又はその塩を含む、測定試薬。
【請求項2】
前記生体試料が血清または血漿である、請求項1に記載の測定試薬。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸又はその塩がクエン酸又はその塩、あるいは、下記一般式(I):
【化1】
[式中、A1はH又はCOOA2であり、A2はH、Na、又はNHであり、A3はH又はCHである]
で示されるモノマー単位によるホモ重合体であるポリカルボン酸又はその塩、又は2種類以上のモノマー単位による共重合体であって、少なくとも1つのモノマー単位が前記一般式(I)で表されるポリカルボン酸又はその塩である、請求項1又は2に記載の測定試薬。
【請求項4】
ポリカルボン酸又はその塩の濃度が0.05~1.0%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の測定試薬。
【請求項5】
アニオン性界面活性剤を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の測定試薬。
【請求項6】
前記アニオン性界面活性剤がアルキル硫酸エステル又はその塩である、請求項5に記載の測定試薬。
【請求項7】
前記アルキル硫酸エステル又はその塩が下記一般式(II):
【化2】
[式中、Rはアルキル基であり、MはH、Na、NH、又はNH(CHCHOH)である]
又は下記一般式(III):
【化3】
[式中、Rはアルキル基、MはH、Na、NH、又はNH(CHCHOH)であり、nは1以上の整数である]
で表されるアルキル硫酸エステル又はその塩である、請求項6に記載の測定試薬。
【請求項8】
アルキル硫酸エステル又はその塩の濃度が0.04~0.2%である、請求項6又は7に記載の測定試薬。
【請求項9】
緩衝剤として2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の測定試薬。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の測定試薬を用いる、ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが存在する可能性のある生体試料におけるアルカリホスファターゼの測定方法。
【請求項11】
ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが混在する可能性のある生体試料におけるアルカリホスファターゼの測定試薬に、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸又はその塩を加えることを特徴とする、ビリルビン及び/又はヘモグロビンの干渉抑制方法。
【請求項12】
ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが混在する可能性のある生体試料におけるアルカリホスファターゼの測定試薬に、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸又はその塩を加えることを特徴とする、前記測定試薬のオンボード安定性を向上させる方法。
【請求項13】
前記測定試薬に、アニオン性界面活性剤を更に加える、請求項11又は12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学測定によって生体成分を測定する試薬および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査において生体成分を測定する際に、検体中のビリルビンや溶血が測定系に干渉することが知られている。通常は血清・血漿検体中には大量のビリルビンやヘモグロビンは存在しないが、肝胆道系疾患や溶血がおこると赤血球由来のヘモグロビンやビリルビンが検体中に混在することとなる。例えば、アルカリホスファターゼ活性測定において、リン酸エステルの人工基質による測定で用いられる測光波長は405nmであるが、アルカリ条件においてヘモグロビンはこの波長の吸光度を経時的に減少させる。結果として検体中にヘモグロビンが存在すると濃度に依存して大きな負誤差を生じることとなる。ビリルビンについても測定法により影響を受けることがあった。
【0003】
アルカリホスファターゼ活性測定におけるビリルビンの干渉に関して、エチルアミノエタノールを緩衝剤とする日本臨床化学会(JSCC)標準化対応法では大きな影響を受けなかったが、アミノメチルプロパノールを緩衝剤とする国際臨床化学連合(IFCC)標準化対応法(非特許文献1)では大きな影響を受けることが報告されている。そのため、JSCC標準化対応法のアルカリホスファターゼ活性測定においてビリルビンの干渉に関する出願、報告は少ない。
【0004】
一般的に検体中のビリルビンは遊離型あるいは抱合型として存在しており、検体中の測定対象物質の測定値に誤差を与えることが知られている。検体中のビリルビンの影響を回避する方法としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼを使用する方法(例えば、特許文献1)、2価の銅イオン化合物と界面活性剤及び/又はシアン化合物を使用する方法(例えば、特許文献2)、カチオン性界面活性剤及び/又は両性界面活性剤を使用する方法(例えば、特許文献3)、両性界面活性剤を使用する方法(例えば、特許文献4)、含硫黄化合物を用いて影響を軽減する方法(特許文献5)等が提案されているが、必ずしも完全とは言えなかった。
【0005】
また、アルカリホスファターゼ活性測定におけるヘモグロビンの干渉の問題に対し、これを抑える方法がいくつか開示されている。アニオン性界面活性剤を用いて影響を軽減する方法(特許文献5)、検体中のヘモグロビンを酸化することによって干渉を抑える方法(特許文献6)、測定の際の主波長、副波長を本来の波長からずらし、見かけの影響を排除する方法(特許文献7)などである。酸化剤や還元剤を用いる場合、それらの保存安定性に問題があり、かつ、測定の正確性を損なう可能性があるし、波長設定による方法では充分な感度が確保できないなどの問題があり、干渉の回避も不充分である。
【0006】
また、上記の回避方法のほか、アルカリホスファターゼ測定に限定しないヘモグロビンの影響回避に関して、一級アミン化合物、塩化ベンザルコニウム、塩化セタルコニウムなど特定の四級アミン化合物を用いた方法も開示されている(特許文献8)。しかし、本発明者は、後述の実施例に示すように、アルカリホスファターゼ測定において、アミノメチルプロパノールやエチルアミノエタノールなどの一級アミンが緩衝液として用いられているにも関わらず、ヘモグロビンの影響を強く受け、これらの方法も適当ではないことを見出した。
【0007】
またアルカリホスファターゼ測定は高pH下における酵素活性測定のため、反応系のpHは通常9.5~11.0である。そうした高pH試薬は、大気中の二酸化炭素などにより試薬pH低下などの影響を受けることが知られている。それにより、測定機器上の待機試薬のオンボード安定性の向上も重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭55-25840号公報
【文献】特開昭59-159798号公報
【文献】特開平3-10696号公報
【文献】特開平7-39394号公報
【文献】国際公開第2002/086151号
【文献】特表2000-515012号公報
【文献】特許第3598273号公報
【文献】特公平3-58467号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Clin Chem Lab Med 2011;49(9):1439-1446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記問題点を解決することのできる、生体成分の測定試薬及び方法であって、試料中のビリルビン及び/又はヘモグロビンの影響を抑制して、測定対象生体成分に非依存的な吸光度の変化を抑制する、生体成分の簡便かつ高精度な測定試薬及び測定方法を提供することである。特には、アルカリホスファターゼ測定において上記のオンボード安定性に優れ、簡便かつ高精度な測定試薬及び測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、以下の本発明により解決することができる:
[1]ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが存在する可能性のある生体試料における生体成分の測定試薬であって、カルボン酸又はその塩、及び/又は、アニオン性界面活性剤を含む、測定試薬。
[2]前記生体試料が血清または血漿である、[1]の測定試薬。
[3]前記カルボン酸又はその塩が、モノカルボン酸又はその塩、ジカルボン酸又はその塩、又は3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸又はその塩である、[1]又は[2]の測定試薬。
[4]前記モノカルボン酸又はその塩がギ酸、アクリル酸、又はそれらの塩であり、前記ジカルボン酸がフタル酸、シュウ酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、又はそれらの塩であり、前記ポリカルボン酸又はその塩がクエン酸又はその塩、あるいは、下記一般式(I):
【化1】
[式中、A1はH又はCOOA2であり、A2はH、Na、又はNHであり、A3はH又はCHである]
で示されるモノマー単位によるホモ重合体であるポリカルボン酸又はその塩、又は2種類以上のモノマー単位による共重合体であって、少なくとも1つのモノマー単位が前記一般式(I)で表されるポリカルボン酸又はその塩である、[3]の測定試薬。
[5]ポリカルボン酸又はその塩の濃度が0.05~1.0%である、[3]又は[4]の測定試薬。
[6]前記アニオン性界面活性剤がアルキル硫酸エステル又はその塩である、[1]~[5]のいずれかの測定試薬。
[7]前記アルキル硫酸エステル又はその塩が下記一般式(II):
【化2】
[式中、Rはアルキル基であり、MはH、Na、NH、又はNH(CHCHOH)である]
又は下記一般式(III):
【化3】
[式中、Rはアルキル基、MはH、Na、NH、又はNH(CHCHOH)であり、nは1以上の整数である]
で表されるアルキル硫酸エステル又はその塩である、[6]の測定試薬。
[8]アルキル硫酸エステル又はその塩の濃度が0.04~0.2%である、[6]又は[7]の測定試薬。
[9]緩衝剤として2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを含む、[1]~[8]のいずれかの測定試薬。
[10]前記生体成分がアルカリホスファターゼである、[9]の測定試薬。
[11][1]~[10]のいずれかの測定試薬を用いる、ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが存在する可能性のある生体試料における生体成分の測定方法。
[12]ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが混在する可能性のある生体試料における生体成分の測定試薬に、カルボン酸又はその塩、及び/又は、アニオン性界面活性剤を加えることを特徴とする、ビリルビン及び/又はヘモグロビンの干渉抑制方法。
[13]ビリルビン及び/又は溶血によるヘモグロビンが混在する可能性のある生体試料における生体成分の測定試薬に、カルボン酸又はその塩、及び/又は、アニオン性界面活性剤を加えることを特徴とする、前記測定試薬のオンボード安定性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定対象となる生体成分の反応特異性に影響を与えず、しかも測定時に特別な工夫をせずに、検体中のビリルビン及び/又は溶血によって生じたビリルビンの干渉、ヘモグロビンの干渉を抑制することが可能となり、オンボード安定性に優れ、簡便かつ高精度に生体成分を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】IFCC標準化対応ALP活性測定試薬における分子量の異なる種々のポリアクリル酸のビリルビン干渉に対する抑制効果を示すグラフである。
図2】本発明試薬のオンボード安定性を、従来公知のIFCC標準化対応ALP活性測定試薬(SOP)と比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における生体成分は、その測定時に、ビリルビン及び/又は溶血によって生じた検体中のビリルビンの干渉、ヘモグロビンの干渉を受けるものであれば限定されないが、例えば、アルカリホスファターゼ、γ-GTP等が挙げられる。アルカリホスファターゼ活性測定系は、特に影響を受けやすいので好ましい。また、緩衝剤として2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを含む測定系により測定される生体成分であることが好ましく、前記測定系としては、例えば、表1に示すJSCC標準化対応法のアルカリホスファターゼ活性測定系が挙げられる。
【0015】
【表1】
【0016】
本発明で使用する生体試料としては、血液が含まれる試料であれば限定しないが、例えば、全血、血漿、血清、リンパ液、髄液、唾液、尿などが挙げられる。特には、血漿、血清での影響は大きいので好ましい。
【0017】
本発明は、一試薬系、あるいは、二試薬系等の複数試薬系のいずれにも適用できるが、例えば、二試薬系としては、試料と、反応開始に必要な要件を満たさない第一試薬とを混合し、次いで、残りの反応開始に必要な成分を含む第二試薬を添加して、反応を開始させ、吸光度の変化速度から試料中の生体成分の測定をするような測定系に使用することができる。
具体的には、本発明の生体成分測定試薬及び測定方法は、その測定対象の生体試料をビリルビン干渉抑制用のカルボン酸又はその塩、及び/又は、ヘモグロビン干渉抑制用のアニオン性界面活性剤(以下、干渉抑制成分と称することがある)の存在下で混合して測定するものである。
【0018】
本発明で使用可能なビリルビン干渉抑制用カルボン酸又はその塩としては、例えば、1個のカルボキシル基を有するモノカルボン酸、2個のカルボキシル基を有するジカルボン酸、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸(例えば、3個のカルボキシル基を有するトリカルボン酸等)、又はそれらの塩を挙げることができる。なお、本明細書において、前記カルボン酸には、含硫カルボン酸(例えば、チオグリコール酸等の含硫ジカルボン酸)は含まれない。
【0019】
前記モノカルボン酸又はその塩としては、例えば、ギ酸、アクリル酸、又はそれらの塩を挙げることができる。
【0020】
前記ジカルボン酸又はその塩としては、例えば、フタル酸、シュウ酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、又はそれらの塩を挙げることができる。
【0021】
前記ポリカルボン酸としては、例えば、3個のカルボキシル基を有するトリカルボン酸又はその塩、例えば、クエン酸又はその塩を挙げることができる。
また、前記ポリカルボン酸としては、一般式(I):
【化4】
[式中、A1はH又はCOOA2であり、A2はH、Na、又はNHであり、A3はH又はCHである]
で示されるモノマー単位によるホモ重合体であるポリカルボン酸又はその塩、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等、又はそれらのナトリウム塩、アンモニウム塩等;あるいは、2種類以上のモノマー単位による共重合体であって、少なくとも1つのモノマー単位が前記一般式(I)で表されるポリカルボン酸又はその塩、例えば、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、メタクリル酸とマレイン酸との共重合体等、又はそれらのナトリウム塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0022】
これらのポリカルボン酸又はその塩は、市販品として、例えば、花王株式会社のポイズ520(アクリル酸と無水マレイン酸との共重合体、モル比=1:1、ナトリウム塩(Naが100%、中和度100%)、重量平均分子量=20,000)、ポイズ521(アクリル酸とマレイン酸との共重合体、ナトリウム塩、重量平均分子量=20,000)、ポイズ530(アクリル酸のホモ重合体、ナトリウム塩(Naが90%、Hが10%、中和度90%)、重量平均分子量=30,000)、ポイズ532A(アクリル酸のホモ重合体、アンモニウム塩(NHが100%、中和度100%)、重量平均分子量=30,000)等がある。
【0023】
前記ポリカルボン酸又はその塩の分子量は、例えば、1,000以上500,000以下、好ましくは1,500以上400,000以下、更に好ましくは2,000以上345,000以下が挙げられる。
【0024】
本発明で使用可能なヘモグロビン干渉抑制用アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル又はその塩を挙げることができる。前記アルキル硫酸エステル又はその塩としては、例えば、一般式(II):
【化5】
[式中、Rはアルキル基であり、MはH、Na、NH、又はNH(CHCHOH)である]
で表されるアルキル硫酸エステル又はその塩、あるいは、一般式(III):
【化6】
[式中、Rはアルキル基、MはH、Na、NH、又はNH(CHCHOH)であり、nは1以上の整数である]
で表されるアルキル硫酸エステル又はその塩を挙げることができる。
【0025】
前記一般式(II)で表されるアルキル硫酸エステル又はその塩としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、高級アルコール硫酸ナトリウム等を挙げることができる。
前記一般式(III)で表されるアルキル硫酸エステル又はその塩としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等を挙げることができる。
また、当業者であれば、nは、1以上の整数から適宜決定することができるが、好ましくは1以上20以下、更に好ましくは2以上15以下、更により好ましくは3以上10以下の整数が挙げられる。
【0026】
これらのアニオン性界面活性剤は、市販品として、例えば、花王株式会社のエマール2F-30、エマールTD(ラウリル硫酸トリエタノールアミン)、エマール20C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)、エマール20CM(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)、エマール20T(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン)、ラテムルAD-25等がある。
【0027】
前記アニオン性界面活性剤の分子量は、例えば、100以上5000以下、好ましくは150以上3000以下、更に好ましくは200以上2000以下、更により好ましくは250以上1000以下、特に好ましくは280以上550以下が挙げられる。
【0028】
本発明の測定試薬は、ビリルビン干渉抑制剤としてのカルボン酸又はその塩を少なくとも1つ、及び/又は、ヘモグロビン干渉抑制剤としてのアニオン性界面活性剤を少なくとも1つ含有することができる。すなわち、1種類以上のビリルビン干渉抑制剤としてのカルボン酸又はその塩を単独で、あるいは、1種類以上のヘモグロビン干渉抑制剤としてのアニオン性界面活性剤を単独で、あるいは、1種類以上のビリルビン干渉抑制剤としてのカルボン酸又はその塩と1種類以上のヘモグロビン干渉抑制剤としてのアニオン性界面活性剤を組み合わせて、含有することができる。
【0029】
本発明の生体成分の測定は、測定対象の生体試料を、ビリルビン干渉抑制用のカルボン酸又はその塩、及び/又は、ヘモグロビン干渉抑制用のアニオン性界面活性剤の存在下で混合して測定すること以外は、公知の測定方法と同様に実施することができる。
【0030】
以下、アルカリホスファターゼ活性測定を例として、具体的に説明する。
アルカリホスファターゼ活性試薬における反応系のpHは通常9.5~11.0である。前記反応に基づく発色は、適宜、測定に好適な波長を設定し、測定する。
アルカリホスファターゼ活性試薬の構成としては、アルカリ性緩衝液を含む第一試薬とリン酸エステルの人工基質を含む第二試薬から構成されているもの、または、リン酸エステルの人工基質を含む第一試薬とアルカリ性緩衝液を含む第二試薬から構成するものが挙げられる。更に第一試薬および第二試薬には適宜、緩衝液、塩類や防腐剤などを添加できる。
【0031】
本発明で使用する干渉抑制成分は、少なくとも生体試料と試薬成分の反応を測定開始する前に添加されていれば良く、これにより、生体試料と試薬の混合の際に生じる濁りの影響を受けること無く、ヘモグロビンの経時的な吸光度変化を抑え、溶血干渉を抑制することができる。よって、本発明で使用する干渉抑制成分は少なくとも第一試薬または第二試薬のうちいずれかに添加されていれば良く、第一試薬および第二試薬の両方に添加することもできる。ただし、反応開始前に検体と試薬の安定化をより長時間行うことのできる第一試薬に添加されていることがより望ましい。
【0032】
測定手順は、測定対象物を含む生体試料を、第一試薬と一定時間反応させた後、次いで第二試薬を添加して一定時間反応させた後、第二試薬混合後の吸光度変化速度を測定し、それらの変化から、測定対象物の有無や量を決定することによる。前記反応に基づく発色は、適宜、測定に好適な波長を設定し、測定できる。また、測定は、汎用の自動分析装置(例えば、日立7180型)を使用可能である。
【0033】
試薬に添加するビリルビン干渉抑制用のカルボン酸又はその塩の濃度は、実濃度として例えば、0.02~2.0%、好ましくは0.05~1.0%、溶血ヘモグロビン干渉抑制用アニオン性界面活性剤の濃度は、実濃度として例えば、0.02~0.5%、好ましくは0.04~0.2%が挙げられる。濃度が不充分であると充分に干渉を抑制することができないし、界面活性剤濃度が過剰であると粘性が増加する場合や気泡が発生しやすくなり、正確な測定の障害となる。当業者であれば、測定対象、測定方法に合わせて、好適な条件を設定することができる。なお、前記濃度は、ビリルビン干渉抑制用のカルボン酸又はその塩を2種類以上使用する場合には、それらの合計濃度を意味し、同様に、溶血ヘモグロビン干渉抑制用アニオン性界面活性剤を2種類以上使用する場合には、それらの合計濃度を意味する。
【実施例
【0034】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
《実施例1:IFCC標準化対応ALP活性測定試薬における各種アニオン性界面活性剤の効果》
国際臨床化学連合(IFCC)標準化対応アルカリホスファターゼ(ALP)活性測定試薬(Clin Chem Lab Med 2011;49(9):1439-1446)の第一試薬に各種アニオン性界面活性剤(花王株式会社)を添加し、ビリルビンの干渉に対する抑制効果を評価した。
[試料]
生理食塩水
生化学検査用キャリブレーター(酵素キャリブレーター;和光純薬工業株式会社)
生化学検査用コントロール血清(コンセーラEX-1;日水製薬株式会社)に(0、50mg/dL)のビリルビン濃度である干渉チェック・Aプラス ビリルビンC;シスメックス株式会社)を添加したもの。
[第一試薬]
pH10.2(37℃)
0.9563mol/L 2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(和光純薬工業株式会社)
2.55mmol/L 酢酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社)
1.275mmol/L 硫酸亜鉛(和光純薬工業株式会社)
2.55mmol/L HEDTA(シグマ・アルドリッチ)
第一試薬に所定濃度(0、0.5%)の各種アニオン性界面活性座を添加した。なお、前記濃度は見掛け濃度であり、表中に実濃度を示した(後述の実施例3参照)。
[第二試薬]
81.6mmol/L 4-ニトロフェニルリン酸(和光純薬工業株式会社)
[測定]
測定は、以下の手順で行った。自動分析装置(日立7180型)を用い、試料4.0μLと第一試薬160μLとを37℃にて5分間保温し、第二試薬40μLを添加してさらに5分間保温した。主波長405nm/副波長505nmでの第二試薬混合後の吸光度変化速度からアルカリホスファターゼ活性の定量を行った。活性値は、酵素キャリブレーター値から求めた。アルカリホスファターゼ活性の測定値を表2に示す。以下、特に断りの無い限り、測定値の単位はU/Lである。
【0036】
【表2】
【0037】
各種アニオン性界面活性剤をアルカリホスファターゼ第一試薬に0.5%添加してビリルビンCの干渉に対する抑制効果を検討した。無添加試薬では、ビリルビンによる大きな負の影響を受けたが、アニオン性界面活性剤のポイズシリーズ(ポリカルボン酸)でビリルビンの干渉への抑制効果が認められた。
予想外にもビリルビンへの効果が認められたポイズシリーズは、アニオン性高分子界面活性剤のポリカルボン酸であるが、これまで種々の測定試薬へのビリルビンの干渉抑制効果についての報告はなかった。
エマールシリーズは、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルであるが、ビリルビンへの効果としては対照の無添加よりALP活性が低下しており、ビリルビンの干渉を増幅させる傾向が認められた。また、ラテムルAD-25(ラウリル硫酸アンモニウム)又はネオベックスG-65(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)についても、同様の傾向が認められた。
【0038】
《実施例2:IFCC標準化対応ALP活性測定試薬における各種カルボン酸の効果》
IFCC標準化対応アルカリホスファターゼ活性測定試薬の第一試薬に各種カルボン酸を各々実濃度として0.1%又は1.0%添加し、ビリルビンの干渉に対する抑制効果を評価した。試料、IFCC試薬、測定条件は実施例1と同じとした。
【0039】
結果を表3に示す。モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ポリカルボン酸のいずれにおいても、ビリルビン干渉に対する抑制効果が認められた。アルカリホスファターゼ測定試薬中においてカルボン酸由来のカルボキシル基の総数が多く存在することによりビリルビン抑制効果が認められると推察された。
【0040】
【表3】
【0041】
《実施例3:IFCC標準化対応ALP活性測定試薬における分子量の異なるポリアクリル酸の効果》
IFCC標準化対応アルカリホスファターゼ活性測定試薬の第一試薬に、分子量の異なる種々のポリアクリル酸系アニオン性界面活性剤を各々0.02%~0.2%添加し、ビリルビンの干渉抑制効果を確認した。試料、IFCC試薬、測定条件は実施例1と同じとした。
【0042】
結果を表4、図1に示す。なお、表中の「実濃度」とは、例えば、分子量30,000のポリアクリル酸アンモニウム(ポイズ532A;花王株式会社)は、ポリアクリル酸アンモニウムの40%溶液として市販されており、ポリアクリル酸アンモニウムの濃度に換算した値を意味する。例えば、ポイズ532A(40%溶液)を第一試薬に1重量%となるように添加した場合、実濃度は0.4重量%となる。なお、前記の1重量%は見掛濃度と称する。
ポリカルボン酸の添加重量濃度0.02%以上で抑制効果が認められ、いずれのポリカルボン酸においても0.06%以上で90%以上の高い抑制効果が認められた。ポリカルボン酸の分子量が大きくなるに従って、抑制効果を生じる濃度が減少することが認められた。
【0043】
【表4】
【0044】
《実施例4:IFCC標準化対応ALP活性測定試薬におけるポリアクリル酸と各種界面活性剤との併用効果》
IFCC標準化対応アルカリホスファターゼ活性測定試薬に、アニオン性界面活性剤ポイズ520(アクリル酸と無水マレイン酸との共重合体、モル比=1:1、ナトリウム塩、重量平均分子量=20,000;花王株式会社)と他の界面活性剤(花王株式会社)から1種類を選択し第一試薬に各々0.1%(見掛濃度)混合し、ビリルビン又はヘモグロビンの干渉抑制効果を確認した。試料、IFCC試薬、測定条件は、生化学検査用コントロール血清(コンセーラEX-1 日水製薬株式会社)に(0、1000mg/dL)のヘモグロビン濃度である溶血液(干渉チェック・Aプラス ヘモグロビン シスメックス株式会社)を添加したものを試料として更に使用したこと以外は、実施例1と同じとした。
【0045】
結果を表5に示す。表5において、アンヒトールは両性界面活性剤であり、エマール、ラテムル、ネオベックス、ポイズはアニオン性界面活性剤である。
ポイズ520に両性、アニオン性界面活性剤から選択した界面活性剤を混合してビリルビン、ヘモグロビンの干渉抑制効果を確認したところ、予想外にも単独でビリルビンの干渉を増幅させた(表2参照)エマールシリーズのエマールTD(ラウリル硫酸トリエタノールアミン40%溶液)、エマール20T(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン40%溶液)、又はエマール40パウダー(高級アルコール硫酸ナトリウム30%溶液)との組み合わせでビリルビン、ヘモグロビンのいずれに対しても干渉抑制効果を認めた。また、ラテムルAD-25(ラウリル硫酸アンモニウム24%溶液)又はネオベックスG-65(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム65%溶液)についても、単独でビリルビンの干渉を増幅させた(表2参照)が、ポイズ520との組み合わせでビリルビン、ヘモグロビンのいずれに対しても干渉抑制効果を認めた。
【0046】
【表5】
【0047】
《実施例5:ポリカルボン酸塩とラウリル硫酸塩との混合比の検討》
IFCC標準化対応アルカリホスファターゼ活性測定試薬へのビリルビン干渉抑制効果を持つアニオン性界面活性剤ポイズ520(40%溶液、見掛濃度:0、0.1~1.0%、ポリカルボン酸塩の実濃度:0、0.04~0.4%)とヘモグロビン干渉抑制効果を持つアニオン性界面活性剤エマールTD(40%溶液、見掛濃度:0、0.05~0.2%、ラウリル硫酸塩の実濃度:0、0.02~0.08%)の混合比について検討した。界面活性剤は第一試薬にて混合し、ビリルビン又はヘモグロビンによる干渉抑制効果を確認した。測定試料の内、ビリルビン試料を0,10,20,30,40,50mg/dL、ヘモグロビン試料を0,200,400,600,800,1000mg/dLとなるように調製した。その他のIFCC試薬、測定条件は実施例1と同じとした。
【0048】
結果を表6に示す。
試薬に添加するビリルビン干渉抑制用ポリカルボン酸塩の濃度(実濃度)は0.04~0.4%、溶血ヘモグロビン干渉抑制用ラウリル硫酸塩の濃度(実濃度)は0.04~0.08%が好適であった。濃度が不充分であると充分に干渉を抑制することができない。また、界面活性剤濃度が過剰であると粘性が増加する場合や気泡が発生しやすいなど、正確な測定の障害となる。
【0049】
【表6】
【0050】
《実施例6:アニオン性界面活性剤のヘモグロビン干渉抑制効果の確認》
各種アニオン性界面活性剤を第一試薬にて混合し、ヘモグロビンによる干渉抑制効果を確認した。測定試料の内、ヘモグロビン試料を0,1000mg/dLとなるように調製した。その他のIFCC試薬、測定条件は実施例1と同じとした。
結果を表7に示す。試薬に添加する溶血ヘモグロビン干渉抑制用ラウリル硫酸塩の濃度(実濃度)は0.12~0.20%のいずれでも効果があった。
【0051】
【表7】
【0052】
《実施例7:オンボード安定性の評価》
IFCC標準化対応アルカリホスファターゼ活性測定試薬(以下、SOPと称する)の第一試薬にアニオン性界面活性剤ポイズ532(見掛濃度:0.25%)とエマールTD(見掛濃度:0.08%)を添加した本発明試薬の日立自動分析機7180型におけるオンボード安定性(試薬を開封後、分析機にセットした状態での経時的安定性)を、前記SOPと比較した。その他の測定条件は実施例1と同じとした。
結果を図2に示す。SOPと比較して、本発明試薬の95%相対活性保持日数はSOP法の1.6倍以上安定であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、臨床検査診断試薬分野における生体成分測定(特にはアルカリホスファターゼ活性測定)の用途に適用することができる。本発明によれば、ビリルビン、ヘモグロビン共存条件においても簡便かつ正確に生体成分を測定することが可能であり、臨床検査診断試薬分野で極めて有用である。
図1
図2