(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230509BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230509BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20230509BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230509BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C33/80
F16J15/3232 201
F16J15/447
(21)【出願番号】P 2019039079
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 司
(72)【発明者】
【氏名】松木 匡顕
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-048809(JP,A)
【文献】特開2016-080095(JP,A)
【文献】特開2015-052350(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/18
F16C 33/80
F16J 15/3232
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有し、外周にフランジを有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部、および前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、ならびにこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備え、
前記アウター側シール部材は、前記外方部材に嵌合された芯金と、前記芯金に接合されたシール体と、前記内方部材に嵌合されて前記シール体が摺接する金属環とを有する、車輪用軸受装置において、
前記シール体は、前記外方部材のアウター側端部では前記外方部材の外周面よりも径方向外側に突出すると共に、前記金属環よりも径方向外側では前記芯金からアウター側に延びており、
前記金属環には、
径方向外側に延びて、かつ、前記シール体のうち前記芯金からアウター側に延びている部分と径方向隙間を介して対向する第1壁部
と、
前記第1壁部よりもインナー側に設けられて径方向外側に延びる第2壁部と、
前記第1壁部と前記第2壁部とを連結する底部と、が設けられてい
て、
前記第1壁部と前記第2壁部と前記底部によって凹状の樋部が構成されており、
前記第2壁部のインナー側側面は、前記シール体のうち前記芯金のアウター側側面を覆う被覆部と平行である、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記第1壁部は、径方向外側で、かつ、アウター側に傾いて延びている、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記シール体は、前記金属環に摺接する第1アキシアルリップと、前記第1アキシアルリップよりも径方向外側に設けられる第2アキシアルリップと、を含み、
前記金属環には、その径方向外側にゴム部材が接合されていて、
前記ゴム部材は、前記第1壁部と、前記第2壁部と、前記底部と、前記樋部よりも径方向内側に設けられて前記第2アキシアルリップと径方向隙間を介して対向するラビリンスリップ部を含む、請求項
1または
2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、車輪に接続されるハブ輪(内方部材)が転動体を介して外方部材に回転自在に支持されている。車輪用軸受装置は、主に当該懸架装置及びタイヤホイール、ブレーキロータ等に囲まれた空間で、外部に露出している。このため、車輪用軸受装置には、外部から泥水等の異物の入り込みを防止するシール部材が外方部材と内方部材との間に設けられている。車輪用軸受装置のアウター側シール部材は、外方部材のアウター側端部に嵌合され、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端を塞いでいる。
【0003】
近年、自動車等の車両における燃費向上のために、シールの摺動抵抗を最小化することに加えて、従来のシール以上の耐泥水性能が求められている。
【0004】
また、車輪用軸受装置において、より長い軸受寿命を得るために、シール部材のシール構造を工夫して密封性を向上させているものがある。例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の如くである。
【0005】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、外方部材(外輪)に嵌合する芯金にシールリップを接合すると共に、シールリップが摺動する金属環(スリンガ)を径方向外側へ延ばし、この外径部から軸方向に離間して延びる傘部と、この傘部から径方向外方に突出して形成された折曲部を設けたアウター側シール部材を備えている。
【0006】
特許文献2に記載の車輪用軸受装置は、複数のシールリップが加硫接着された芯金が外輪のアウター側開口部に嵌合され、金属環が芯金に対向するようにしてハブ輪の外周部に嵌合され、金属環に複数のシールリップが接触することで外輪とハブ輪との間をシールするアウター側シール部材を備えている。当該車輪用軸受装置において、金属環の外縁よりも径方向外側において金属環を囲うように突出する円環状の外方部材側堰部が芯金に設けられ、外方部材側堰部の内周面にグリースを保持する外方部材側拡径部が形成される。
【0007】
上述した特許文献1、2に記載の各車輪用軸受装置の耐泥水性能について、以下で検討する。ここで、車輪用軸受装置のアウター側シール部材への泥水等の異物の侵入経路としては、
図10に示すように、(1)軸受の径方向外側からアウター側シール部材へ直接に侵入する経路、(2)ハブ輪の表面(外周面)を伝って侵入する経路、(3)外方部材(外輪)のフランジ等の表面を伝って侵入する経路の3方向が考えられる。なお、
図10の符号10は外輪、20はハブ輪、30は転動体、40はアウター側シール部材である。
【0008】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置では、
図10に示す(1)方向及び(2)方向の泥等の異物の侵入経路からの侵入を防止することができるが、
図10に示す(3)方向の侵入経路に対しては泥水等の異物侵入を許してしまう。
【0009】
一方、特許文献2に記載の車輪用軸受装置では、
図10に示す(1)方向及び(3)方向の泥水等の異物の侵入経路からの侵入を防止することができるが、
図10に示す(2)方向の侵入経路に対しては泥水等の異物の侵入を許してしまう。そのため、(1)、(2)、(3)の3方向の侵入経路に対して、泥水等の異物の侵入が起こらないように構成されたアウター側シール部材が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-43670号公報
【文献】特開2018-44611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、泥水等の異物の軸受内部への侵入を防止することができるアウター側シールを備えた車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の発明は、内周に複列の外側軌道面を有し、外周にフランジを有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部、および前記小径段部よりもアウター側に配置される車輪取り付けフランジを有するハブ輪、ならびにこのハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、この内方部材と前記外方部材のそれぞれの軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞ぐアウター側シール部材と、を備え、前記アウター側シール部材は、前記外方部材に嵌合される芯金と、前記芯金に接合されるシール体と、前記内方部材に嵌合されて前記シール体が摺接する金属環とを有する、車輪用軸受装置において、前記シール体は、前記外方部材のアウター側端部では前記外方部材の外周面よりも径方向外側に突出すると共に、前記金属環よりも径方向外側では前記芯金からアウター側に延びており、前記金属環には、径方向外側に延びて、かつ、前記シール体のうち前記芯金からアウター側に延びている部分と径方向隙間を介して対向する第1壁部が設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
即ち、多方向から流れ込む泥水等の異物が軸受内部に侵入することを防止することができるアウター側シール部材を備えた好適な車輪用軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
【
図2】車輪用軸受装置の第一実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図3】車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図4】車輪用軸受装置の第三実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図5】車輪用軸受装置の第四実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図6】車輪用軸受装置の第五実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図7】車輪用軸受装置の第六実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図8】車輪用軸受装置の第七実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図9】車輪用軸受装置の第八実施形態におけるアウター側シール部材を示す拡大断面図。
【
図10】車輪用軸受装置のアウター側シール部材に泥水等の異物が流れ込む侵入経路を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、
図1及び
図2を用いて、車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、以下の説明において、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0017】
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外輪2、ハブ輪3、内輪4、転動体である二列のボール列5、インナー側シール部材6およびアウター側シール部材7を具備する。
【0018】
図1に示すように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持するものである。外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材6が嵌合可能なインナー側開口部2bが設けられている。外輪2のアウター側端部2fには、アウター側シール部材7が嵌合可能なアウター側開口部2cが設けられている。外輪2の外周面2eには、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2dが一体に設けられている。
【0019】
内方部材の一部であるハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが設けられている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが軸方向断面視で円弧状に拡径するように一体的に設けられている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪とを締結するためのハブボルト3cが圧入されている。また、ハブ輪3のアウター側の外周面には、周方向に環状の内側軌道面3dが設けられている。
【0020】
ハブ輪3のインナー側端部の小径段部3aは、内輪4が圧入されている。内方部材は、ハブ輪3と内輪4とによって構成されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側軌道面4aが設けられている。内輪4は、ハブ輪3のインナー側端が径方向の外側に向かって塑性変形(加締め)されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4に設けられている内側軌道面4aが外輪2のインナー側の外側軌道面2aに対向し、アウター側に設けられている内側軌道面3dが外輪2のアウター側の外側軌道面2aに対向している。
【0021】
転動体である二列のボール列5は、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。二列のボール列5は、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。このように、車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4と二列のボール列5とから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は、複列円錐ころ軸受で構成されていてもよい。
【0022】
インナー側シール部材6は、略円筒状のシール板6aと略円筒状のスリンガ6bとを具備する。インナー側シール部材6は、例えば鋼板等によって構成されているシール板6aに、例えば合成ゴムからなる複数のシールリップが加硫接着されている。スリンガ6bは、シール板6aと同等の鋼板によって構成されている。インナー側シール部材6は、シール板6aが外輪2のインナー側開口部2bに嵌合され、スリンガ6bが内輪4に嵌合され、パックシールを構成している。
【0023】
図1及び2に示すように、アウター側シール部材7は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のうちアウター側開口端を塞いでいる。アウター側シール部材7は、芯金8と金属環9とによって構成されている。
【0024】
図2に示すように、芯金8は、例えば鋼板をプレス加工することによって形成されている。芯金8は、円筒部8aと屈曲部8bと円板部8cと鍔部8dとを含んでいる。
【0025】
円筒部8aは、外輪2のアウター側開口部2c(外輪2のうちアウター側端部2fの内周面)に嵌合している。屈曲部8bは、円筒部8aのインナー側端部から径方向内方に屈曲しつつ、アウター側へと延びている。円板部8cは、屈曲部8bのアウター側端部から径方向内側に向かって延びている。鍔部8dは、円筒部8aのアウター側端部から径方向外側に向かって延びている。また、鍔部8dの外縁部分8eは、外輪2の外周面2eと所定の間隔を開けてインナー側に延びている。
【0026】
芯金8には、例えば合成ゴムからなるシール体10が接合(ここでは、加硫接着)されている。円板部8cには、シール体10のラジアルリップ10a及び内側アキシアルリップ(以下、第1アキシアルリップと呼ぶことがある)10bが接合されている。ラジアルリップ10aは、円板部8cの最も径方向内側に設けられている。ラジアルリップ10aは、車輪用軸受装置1の内部のグリースの外部への漏れを防止している。内側アキシアルリップ10bは、ラジアルリップ10aよりも径方向外側に設けられている。
【0027】
さらに、シール体10は、外輪2のアウター側開口部2cに嵌合されない側(ハブ輪3側)の側面に設けられた庇部10cを含んでいる。庇部10cは円環状であり、金属環9の外縁よりも径方向外側に配置されている。庇部10cは、シール体10のうち径方向外側部分からアウター側に延びている部分である。具体的には、庇部10cは、シール体10のうち鍔部8dのアウター側側面を覆う部分で、かつ、外輪2の外周面2eと径方向位置が重なる部分(本実施形態では、径方向位置が略同一の部分)からアウター側に延びている。本実施形態の庇部10cは、軸方向に水平に延びている。なお、庇部10cは、芯金8を屈曲させる構成でもよい。
【0028】
さらに、シール体10には、軸方向断面視略四角形状の堰部10dが設けられている。堰部10dは、外輪2のアウター側端部2fにおいて、シール体10のうち外輪2の外周面2eよりも径方向外側に突出している部分である。堰部10dは、鍔部8dの径方向外側部分を覆っており、かつ、外輪2の外周面2eに接触している。後述するように、本実施形態に係るアウター側シール部材7には、金属環9にも堰部11bが設けられている。以下の説明において、便宜上、シール体10の堰部10dを第1堰部10dと呼ぶことがある。
【0029】
金属環9は、例えば鋼板をプレス加工することによって形成されている。金属環9は、円筒部9aと、湾曲部9bと、テーパ部9cとを含んでいる。円筒部9aは、金属環9のうちハブ輪3に嵌合している部分である。円筒部9aには、ラジアルリップ10aがグリース油膜を介して摺接している。湾曲部9bは、円筒部9aのアウター側端部から径方向外側に向けて円弧状に湾曲している。湾曲部9bには、内側アキシアルリップ10bがグリース油膜を介して摺接している。テーパ部9cは、湾曲部9bの外周縁からインナー側に向かうにつれて拡径している。
【0030】
テーパ部9cには、テーパ基部11aと、第1壁部11bと、アウター側凸部11cとを含むゴム部材11が接合(ここでは、加硫接着)されている。ゴム部材は、例えば、合成ゴムで構成されている。テーパ基部11aは、テーパ部9cのうち径方向外側面及び軸方向端面を覆っている。第1壁部11bは軸方向断面視略三角形状であり、テーパ基部11aのインナー側端部から径方向外側に突出している。具体的には、第1壁部11bは、庇部10cに近接する方向に延びている。
【0031】
第1壁部11bの先端縁は、庇部10c(のアウター側端部の内周面)と径方向隙間(ラビリンス隙間)を設けて対向している。第1壁部11bの先端部と庇部10cの先端部とは径方向外側から見て重複するように配置されている。ここで、第1壁部11bは、車輪取り付けフランジ3bに沿って流れてくる泥水等の異物の侵入をせき止める堰部としての機能を有している。すなわち、本実施形態に係るアウター側シール部材7には、シール体10の堰部10dに加えて、金属環9にも堰部11bが設けられている。なお、以下の説明では、ゴム部材11の第1壁部11bを第2堰部11bと呼ぶことがある。アウター側凸部11cは、テーパ基部11aのアウター側端部からアウター側に突出していて、ハブ輪3の外周面3eに接触している。
【0032】
以上に説明した構成によれば、アウター側シール部材7において、堰部11bの先端部と庇部10cの先端部とが径方向外側から見て重複するように配置されている。これにより、
図10に示す(1)方向から流れ込む泥水等の異物が庇部10cによって内部に侵入することを防止することができる。すなわち、庇部10cは、アウター側シール部材7の径方向外側(外輪2の外周面2eに対して垂直方向)からの異物の侵入を防止する屋根としての機能を有している。
【0033】
また、第2堰部11bは、庇部10cの先端部に向かって突出するように形成されるとともに、湾曲部9bの外縁からインナー側に向かうにつれて拡径するテーパ部9cにテーパ基部11aが接合されている。そして、当該テーパ基部11aに第2堰部11bが連続して形成されている。このため、車輪用軸受装置1は、ハブ輪3の車輪取り付けフランジ3bを通って
図10に示す(2)方向から流れてくる泥水等の異物が流入方向と反対方向に戻るように案内することで、泥水等の異物が内部に侵入することを防止することができる。
【0034】
また、第1堰部10dは、外輪2の外周面2eを通って
図10に示す(3)方向から流れてくる泥水等の異物を堰き止めて、内部への侵入を防止することができる。つまり、アウター側シール部材7を備えた車輪用軸受装置1によれば、多方向から流れ込む泥水等の異物が侵入することを防止することができる。
【0035】
次に、図を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の変形例として第二実施形態から第八実施形態について説明する。以下の各実施形態の説明では、各実施形態において追加、変更した部位について主に説明を行い、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0036】
[第二実施形態]
次に、
図3を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置1Aについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の変形例であり、第一実施形態である車輪用軸受装置1において、第2アキシアルリップ(以下、外側アキシアルリップと呼ぶ)10eが追加されて構成されたものである。外側アキシアルリップ10eは、第1アキシアルリップ10bよりも外径側に設けられている。外側アキシアルリップ10eは、金属環9の湾曲部9bに近接する方向に延びていて、外側アキシアルリップ10eの先端部は、湾曲部9bと軸方向隙間を介して対向している。これにより、車輪用軸受装置1Aは、第一実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を有するとともに、外側アキシアルリップ10eの先端部が湾曲部9bとラビリンス構造を構成するため、泥水等の異物の侵入を更に抑制することができる。
【0037】
[第三実施形態]
次に、
図4を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第三実施形態である車輪用軸受装置1Bについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Bは、第二実施形態の変形例であり、第二実施形態である車輪用軸受装置1Aにおいて、庇部10c及び第2堰部11bの形状を変更した庇部10f及び第2堰部11dを備える。本実施形態の庇部10fは、シール体10のうち外輪2の外周面2eと径方向位置が重なる部分から径方向外側に拡径しつつ延びている。第2堰部11dは、テーパ基部11aの径方向外側部分から径方向外側で、かつ、ややアウター側に延びている。第2堰部11dの先端部は、庇部10fの先端部と径方向隙間を介して対向している。
【0038】
本実施形態に係る車輪用軸受装置1Bでも第一実施形態に係る車輪用軸受装置1と同様の作用効果を奏する。また、第2堰部11dは、テーパ基部11aの径方向外側部分から径方向外側で、かつ、アウター側に延びているため、
図10に示す(2)方向から流れてくる泥水等の異物をより効果的に流入方向と反対方向に戻るように案内して、泥水等の異物が軸受内部に侵入することを防止することができる。
【0039】
[第四実施形態]
次に、
図5を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第四実施形態である車輪用軸受装置1Cについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Cは、第三実施形態の変形例であり、第三実施形態である車輪用軸受装置1Bにおいて、第1堰部10dを取り除くと共に、鍔部8d及び庇部10fの形状を変更している。鍔部8fは、その外縁が外輪2の外周面2eよりも径方向内側に位置している。庇部10gは、シール体10のうち鍔部8fの外縁の径方向外側を覆う部分から径方向外側で、かつ、アウター側に拡径しつつ延びている。
【0040】
庇部10gの先端縁は、外輪2の外周面2eよりも径方向外側に位置している。すなわち、本実施形態に係る庇部10gは、第一実施形態に係る堰部10dとしての機能も有している。すなわち、本実施形態に係るシール体10では、第一実施形態に係るシール体と異なり、外輪2の外周面2eよりも径方向外側に突出する部分と、金属環9よりも径方向外側で芯金8からアウター側に延びる部分とが、一体化されている。すなわち、本実施形態に係る庇部10gは第1堰部としての機能も有している。これにより、庇部10gは、
図10に示す(1)方向(インナー側)から流れてくる泥水等の異物がアウター側へと流れ込むのを押えて、堰き止めるという堰部の効果を奏することになり、泥水等の異物が内部に侵入することを防止することができる。
【0041】
[第五実施形態]
次に、
図6を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第五実施形態である車輪用軸受装置1Dについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Dは、第一実施形態の変形例であり、第一実施形態である車輪用軸受装置1において、ゴム部材11及び庇部10cの形状を変更している。ゴム部材11のうち第2堰部11eは、テーパ基部11aから径方向外側に水平に延びている。また、ゴム部材11には、軸方向断面視U字状の樋部11fが設けられている。
【0042】
樋部11fは凹状であり、第1壁部11eと底部11gと第2壁部11hとによって構成されている。底部11gは、テーパ基部11aの軸方向端面から径方向外側で、かつ、インナー側に傾斜して延びている。底部11gは、庇部10hの内周面と径方向に対向している。底部11gは、その先端縁が庇部10hのうち軸方向略中央部分(本実施形態では、軸方向中央からややインナー側の部分)まで延びている。底部11gは、第1壁部11eと第2壁部11hとを連結している。
【0043】
第2壁部11hは、第1壁部11eよりもインナー側に設けられている。第2壁部11hは、底部11gのインナー側端部(先端縁)から径方向外側(庇部10hに近接する方向)に水平に延びている。第2壁部11hの先端縁は、庇部10hの内周面と径方向のラビリンス隙間を介して対向している。第2壁部11hの肉厚は、第1壁部11eの肉厚よりも薄い。第2壁部11hのインナー側側面11h1は、シール体10のうち芯金8の鍔部8dのアウター側側面を覆う被覆部10mと平行である。
【0044】
これにより、仮に、
図10に示す(2)方向から流れてくる泥水等の異物が第2堰部11eを越えて流入した場合であっても、樋部11fが異物を受け入れて一時的に貯留し、ハブ輪3が回転した際に貯留した異物を下方へと放出することができる。すなわち、樋部11fは、第2堰部11eを越えて流入した異物を一時的に貯留する溝部としての機能を有している。また、第2壁部11hが庇部10hとラビリンス隙間を介して対向しているので、樋部11fに貯留された泥水等の異物が第2壁部11hを越えて更に内部に流れ込むことを抑制することができる。また、第2壁部11hのインナー側側面11h1は、シール体10のうち芯金8の鍔部8dのアウター側側面を覆う被覆部10mと平行である。これにより、樋部11fに貯留された泥水等の異物が第2壁部11hを超えてさらに内部に流れ込むことを抑制することができる。
【0045】
[第六実施形態]
次に、
図7を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第六実施形態である車輪用軸受装置1Eについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Eは、第五実施形態の変形例であり、第五実施形態である車輪用軸受装置1Dにおいて、外側アキシアルリップ10eが追加されている。
【0046】
[第七実施形態]
次に、
図8を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第七実施形態である車輪用軸受装置1Fについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Fは、第六実施形態の変形例であり、第六実施形態である車輪用軸受装置1Eにおいて、樋部11fの形状が変更されている。本実施形態では、第2堰部11iは、テーパ基部11aから径方向外側で、かつ、ややアウター側に傾斜して延びている。また、底部11kは、テーパ基部11aから庇部10hのうち軸方向中央からアウター側の部分まで延びている。壁部11mは、底部11kの先端縁から径方向外側で、かつ、ややインナー側に傾斜して延びている。これにより、本実施形態の樋部11jは、軸方向断面視V字状に形成されている。このような構成でも、第五実施形態に係る車輪用軸受装置1Dと同様の作用効果を奏する。
【0047】
[第八実施形態]
次に、
図9を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第八実施形態である車輪用軸受装置1Gについて説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置1Gは、第七実施形態の変形例であり、第七実施形態の車輪用軸受装置1Fのゴム部材11の形状を変更している。具体的には、ゴム部材11は、テーパ部9cの径方向内側面及び湾曲部9bのインナー側側面のうち径方向外側部分を覆う内側基部11nと、内側基部11nのうち外側アキシアルリップ10eよりも径方向内側部分からインナー側に延びるラビリンスリップ部11oを更に備えている。
【0048】
ラビリンスリップ部11oは、樋部11jよりも径方向内側で、かつ、外側アキシアルリップ10eと内側アキシアルリップ10bとの間に位置している。ラビリンスリップ部11oは、内側基部11nのうち外側アキシアルリップ10eよりも径方向内側の部分からやや径方向外側で、かつ、インナー側に傾斜して延びている。ラビリンスリップ部11oは、その先端縁が外側アキシアルリップ10eの内周面に近接する方向に延びている。これにより、車輪用軸受装置1Gは、第七実施形態の車輪用軸受装置1Fと同様の効果を有するとともに、ラビリンスリップ部11oが外側アキシアルリップ10eとラビリンス構造を構成することで、泥水等の異物が軸受内部に侵入することをより効果的に防止することができる。
【0049】
以上、本実施形態に係る車輪用軸受装置1・1A・1B・1C・1D・1E・1F・1Gは、ハブ輪3の外周にボール列5の内側軌道面3dが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置として説明したがこれに限定されるものではなく、例えば、ハブ輪3に一対の内輪4が圧入固定された内輪回転の第2世代構造であってもよい。また、上述の実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a 外側軌道面
2f アウター側端部
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
4 内輪
4a 内側軌道面
5 転動体
7 アウター側シール部材
8 芯金
9 金属環
10 シール体
10b 第1アキシアルリップ
10e 第2アキシアルリップ
10m 被覆部
11 ゴム部材
11b,11e,11i 第1壁部
11f,11j 樋部
11g,11k 底部
11h,11m 第2壁部
11h1 インナー側側面
11o ラビリンスリップ部