(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】仕切弁の清掃方法
(51)【国際特許分類】
F16K 43/00 20060101AFI20230509BHJP
F16K 3/314 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
F16K43/00
F16K3/314 C
(21)【出願番号】P 2019043255
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 克
(72)【発明者】
【氏名】根路銘 良介
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-052815(JP,A)
【文献】実開昭60-145669(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第109307355(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0366953(US,A1)
【文献】特開2006-192395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 43/00
F16K 3/314
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面をゴムライニングで覆った弁体を弁座に押圧してゴムライニングを弾性変形させる閉操作と、弁体を弁座から離間させてゴムライニングを復元させる開操作を繰り返し、
閉操作時に基準圧より強くゴムライニングを弁座に押圧して、ゴムライニングの弾性変形に追従しない水道水中における経年劣化によるライニング表面の劣化物のゴムライニングからの剥離を促すことを特徴とする仕切弁の清掃方法。
【請求項2】
弁体表面をゴムライニングで覆った仕切弁が配置された管路において、清掃対象の仕切弁を介した上流側の弁と下流側の弁を閉鎖して管路に滞水域を形成し、
弁体を弁座に押圧してゴムライニングを弾性変形させる閉操作と、弁体を弁座から離間させてゴムライニングを復元させる開操作を繰り返し、
閉操作時に基準圧より強くゴムライニングを弁座に押圧して、ゴムライニングの弾性変形に追従しない水道水中における経年劣化によるライニング表面の劣化物のゴムライニングからの剥離を促し、
劣化物の剥離滓を仕切弁の開操作により管路の滞水中に洗い流し、管路の滞水域に連通する排水用の弁を開放して剥離滓を管路外に排出することを特徴とする仕切弁の清掃方法。
【請求項3】
複数の仕切弁が配置された管路において、上流側の仕切弁と下流側の仕切弁の閉操作によって管路に滞水域を形成する際に、閉操作時に生じる剥離滓を上流側と下流側の各仕切弁のそれぞれの下流側にある開放した消火栓から排出することを特徴とする請求項2に記載の仕切弁の清掃方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕切弁の清掃方法に関し、管路に配置した仕切弁の維持管理の技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、
図5に示すように、水道網の管路100は、管路100を開閉する複数の仕切弁121、122、123が設置されている。また、管路100の更新等の維持管理作業を行う場合に管路100の水を排出するための排水口103が設けられており、排水口103に仕切弁131が設置されている。さらに、管路100には複数の消火栓141、142、143および空気弁151等が設置されている。
【0003】
仕切弁121、122、123には、弁体をゴムライニングで覆ったものがある。ゴムライニングの合成ゴムは、材質によっては水道水中の塩素に対する耐性が十分でないものがあり、経年劣化によってゴムライニングの表面が劣化し、剥離した劣化物が異物として水道水中に混入する可能性がある。
【0004】
このため、ゴムライニングが劣化した弁体を交換するためには、断水状態で作業を行って弁箱に装着した弁蓋を取り外して仕切弁を分解する必要があった。
【0005】
このような管路100の維持管理工事を行う場合、例えば仕切弁122を交換するためには、工事区間の最上流側の仕切弁121と最下流側の仕切弁123を閉操作する。このとき、仕切弁121、123の閉操作中に仕切弁121、123から剥離した異物が水道水中に混入することを防止するために、各仕切弁121、123のそれぞれの下流側にある消火栓141、143を中間開度に開操作し、消火栓141、143から異物を水道水とともに排出しつつ仕切弁121、123の閉操作を行う。仕切弁121、123の閉操作が完了した後に、消火栓141、143を閉操作し、仕切弁131を開操作して工事区間内の管路100の水道水を排水口103が排出し、管路100の更新作業を行う。管路100の更新作業が完了した後、仕切弁131を閉操作し、最上流側の仕切弁121を開操作して工事区間の管路100に充水しつつ空気弁151から排気し、満管状態とする。そして、最下流側の仕切弁123を開操作する。
【0006】
また、不断水状態で作業を行う装置として、例えば特許文献1に記載するものがある。これは、ケーシングによって管路に連結した弁箱および弁箱の蓋部を有する弁を囲み、ケーシングを管路に水密に装着する。ケーシングは、蓋部を収納する上部閉空間をなす上部ケーシングと、蓋部が離脱した弁箱を収納する下部閉空間をなす下部ケーシングからなる。そして、引き上げ棒により、蓋部を弁箱に当接する装着位置から、弁箱から離間する離脱位置に移動させ、ナイフゲート弁によってケーシング内を上部閉空間と下部閉空間とに仕切り、上部ケーシングの上部フランジを取り外して開口部から蓋部と一体に弁体を取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、使用する装置が大きいので、弁の周囲を広く掘削する必要があり、ケーシングの装着、撤去に手間がかかり、工事費用が高くなる問題がある。
【0009】
また、通水状態でゴムライニングが劣化した弁体を取り出す場合には、取り出し作業中に弁体から剥離したゴムライニングの劣化物が異物として水道水中に混入する可能性がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するものであり、管路に配置した仕切弁のゴムライニングの清掃が、管路の既設の設備を使用して容易に行える仕切弁の清掃方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の仕切弁の清掃方法は、表面をゴムライニングで覆った弁体を弁座に押圧してゴムライニングを弾性変形させる閉操作と、弁体を弁座から離間させてゴムライニングを復元させる開操作を繰り返し、閉操作時に基準圧より強くゴムライニングを弁座に押圧して、ゴムライニングの弾性変形に追従しない水道水中における経年劣化によるライニング表面の劣化物のゴムライニングからの剥離を促すことを特徴とする。
【0013】
本発明の仕切弁の清掃方法は、弁体表面をゴムライニングで覆った仕切弁が配置された管路において、清掃対象の仕切弁を介した上流側の弁と下流側の弁を閉鎖して管路に滞水域を形成し、弁体を弁座に押圧してゴムライニングを弾性変形させる閉操作と、弁体を弁座から離間させてゴムライニングを復元させる開操作を繰り返し、閉操作時に基準圧より強くゴムライニングを弁座に押圧して、ゴムライニングの弾性変形に追従しない水道水中における経年劣化によるライニング表面の劣化物のゴムライニングからの剥離を促し、劣化物の剥離滓を仕切弁の開操作により管路の滞水中に洗い流し、管路の滞水域に連通する排水用の弁を開放して剥離滓を管路外に排出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の仕切弁の清掃方法において、複数の仕切弁が配置された管路において、上流側の仕切弁と下流側の仕切弁の閉操作によって管路に滞水域を形成する際に、閉操作時に生じる剥離滓を上流側と下流側の各仕切弁のそれぞれの下流側にある開放した消火栓から排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記の構成により、経年劣化によって劣化したライニング表面の劣化物は、弁体の閉操作においてゴムライニングを弁座に圧接させることで、ゴムライニングの弾性変形に追従できずにゴムライニングから強制的に剥離される。弁体の閉操作と開操作を繰り返すことで、弁体を管路外に取り出すことなく、ライニング表面の劣化物を除去してゴムライニングの清掃を行える。
【0016】
また、上流側の弁と下流側の弁を閉鎖して滞水域を形成し、滞水中にゴムライニングから剥離した劣化物を洗い流し、排水用の弁を開放して滞水とともに劣化物を管路外へ排出することで、劣化物が水道水中に混入することを防止しつつ、管路の既設の設備を使用して管路に配置した仕切弁のゴムライニングの清掃を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態における仕切弁の清掃方法を示す模式図
【
図2】同実施の形態における仕切弁の清掃方法における排出工程を示す図
【
図3】同実施の形態における仕切弁を設置した管路の通常状態を示す図
【
図4】同実施の形態における工事区間を形成する手順を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1~
図4において、ここでは、管路1として水道網を例示する。管路1は、管路1を開閉する複数の仕切弁21、22、23、24が設置されている。また、管路1の更新等の維持管理作業を行う場合に管路1の水を排出するための排水口3が設けられており、排水口3に仕切弁31が設置されている。仕切弁21、22、23、24、31は、弁体61が弁箱62の内部で出退し、管路1に対応する全閉位置と、管路1に対応しない全開位置とにわたって移動する。弁体61は表面がゴムライニング63で覆われている。また、管路1には複数の消火栓41、42、43が設置されている。
(通常状態)
図3に示すように、仕切弁21、22、23、24は全開状態にあり、仕切弁31は全閉状態にあり、消火栓41、42、43は全閉状態にある。
(断水状態)
図4に示すように、管路1の更新等の維持管理工事を行う場合には、工事区間の最上流側の仕切弁21と最下流側の仕切弁24を閉操作する。本実施の形態では、管路1の更新等の維持管理工事に合わせて工事区間内の仕切弁22、23を清掃対象とする清掃作業の一例を示すが、仕切弁22、23の清掃作業だけを単独で行うことも可能である。
【0019】
ここでは、仕切弁21、22、23、24のうち、清掃対象の仕切弁22、23を介した上流側の仕切弁21と下流側の仕切弁24を閉鎖して管路に滞水域を形成するが、工事区間が異なれば、仕切弁21、24も清掃対象となる。
【0020】
このとき、仕切弁21、24の閉操作中に仕切弁21、24から剥離した異物が水道水中に混入することを防止するために、各仕切弁21、24のそれぞれの下流側にある消火栓41、43を中間開度に開操作し、消火栓41、43から異物を水道水とともに排出しつつ仕切弁21、24の閉操作を行う。仕切弁21、24の閉操作が完了した後に、消火栓41、43を閉操作する。
(清掃作業)
図1に示すように、清掃対象の仕切弁22、23を開閉操作する。閉操作により、仕切弁22、23の弁体61の表面を覆ったゴムライニング63を弁座64に押圧してゴムライニング63を弾性変形させる。そして、閉操作時にゴムライニング63の弾性変形に追従しないライニング表面の劣化物の剥離を促進し、劣化物をゴムライニング63から強制的に剥離させる
開操作により、仕切弁22、23の弁体61を弁座64から離間させてゴムライニング63を復元させるとともに、閉操作時に剥離した劣化物の剥離滓を管路1の滞水中に洗い流す。このように、弁体61を管路1の外に取り出すことなく、ライニング表面の劣化物を除去してゴムライニング63の清掃を行える。
【0021】
本実施の形態では、通常の閉操作時の基準圧で、仕切弁22、23の弁体61を弁座64に押圧している。しかし、この圧力は、通常の閉操作時の基準圧より強くすることも可能である。例えば、仕切弁の止水時に要する止水トルクである最大機能試験トルクの1.2倍程度の操作トルクを加えると好適である。
(排水作業)
図2に示すように、仕切弁22、23を全開し、排水口3の仕切弁31を開操作して工事区間内の管路1の滞水した水道水を排水口3から排水し、管路1の滞水を剥離滓とともに管路1の外に排出する。この後に、管路1の更新作業を行う。ここで、管路1の更新作業を行うことなく、仕切弁22、23の清掃作業を単独で行う場合には、最上流側の仕切弁21を開操作して工事区間の管路1に充水しつつ、排水口3からの排水を継続して管路1の清掃を行うことも可能である。また、この際に、管路1の水道水の管内流速を高めて管内面の洗管を行うことも可能である。
【0022】
仕切弁22、23の清掃作業および管路1の更新作業が完了した後に、排水口3の仕切弁31を閉操作し、最上流側の仕切弁21を開操作して工事区間の管路1に充水しつつ、開栓した消火栓41、42や図示しない空気弁から排気し、満管状態とする。そして、最下流側の仕切弁24を開操作し、作業を完了する。
【0023】
このように、断水状態で行うことで、劣化物が水道水中に混入することを防止しつつ、管路1の既設の設備を使用して管路1に配置した仕切弁22、23のゴムライニング63の清掃を容易に、かつ短時間に行うことができる。
【0024】
また、管路1の更新作業に合わせて仕切弁21、22、23、24の清掃作業を行うことで、仕切弁21、22、23、24を新品に交換するまでの応急処置として利用できる。
(実施例1)
既設の管路に設置された仕切弁を回収し、仕切弁の下流側にストレーナを配置し、上記の清掃作業と同様に仕切弁を開閉操作した実験を行った。その結果、1回の開閉操作によっては、ストレーナのスクリーンに単位面積(1cm2)当たりの平均で、10個以上の劣化物の流出が検出された。以後、開閉操作の回数が増加するほどに、劣化物の流出は減少し、3回操作後では3.5個となり、7から9回操作後では1.0個となり、10から12回操作後では0.1個となった。
【符号の説明】
【0025】
1 管路
3 排水口
21、22、23、24 仕切弁
31 仕切弁
61 弁体
62 弁箱
63 ゴムライニング
64 弁座