(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】電流センサ及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
G01R15/18 B
(21)【出願番号】P 2019045106
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外谷 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】増田 秀和
(72)【発明者】
【氏名】横田 修
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114585(JP,A)
【文献】実開平02-077922(JP,U)
【文献】実開平05-087750(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00-15/20
G01R 19/00
H03H 11/28
H03K 19/0175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に流れる電流を検出する電流センサであって、
前記測定対象が挿通される磁気コアと、
前記磁気コアに巻き回されるコイルと、
前記コイルから供給される電流を伝送する伝送路と、
一端が前記伝送路の終端に接続されると共に他端が基準電位に接続され、前記伝送路の終端からの電流を電圧に変換して出力する終端抵抗と、
入力端が前記伝送路の始端に接続されると共に出力端が始端抵抗を介して前記基準電位に接続され、又は前記入力端が前記伝送路の終端に接続される共に前記出力端が前記終端抵抗の一端に接続され、インピーダンス整合を行う整合手段と、を備え、
前記整合手段は、
少なくとも互いに並列接続された抵抗成分及びインダクタンス成分を有し、
前記抵抗成分及び前記インダクタンス成分の大きさは、前記終端抵抗から出力される電圧の周波数成分のうち振幅が減衰する周波数成分の帯域において、前記伝送路の終端から前記終端抵抗側を見たインピーダンス
、又は前記伝送路の始端から前記コイル側を見たインピーダン
スを前記伝送路の特性インピーダンスへと上昇させる
ように定められる、
電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の電流センサであって、
前記整合手段は、前記振幅が減衰する周波数成分の帯域において前記伝送路の終端から前記終端抵抗側を見たインピーダンスを前記伝送路の特性インピーダンスに近づける整合回路を含む、
電流センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の電流センサであって、
前記終端抵抗の抵抗値は、前記伝送路の特性インピーダンスよりも小さな所定の値に設定される、
電流センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の電流センサであって、
前記整合回路の
前記抵抗成分は、
前記入力端と前記出力端との間に接続され、前記所定の値が小さいほど大きな値に設定される、
電流センサ。
【請求項5】
請求項2から請求項
4までのいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記整合回路は、互いに並列接続された抵抗素子及び誘導素子を含み、
前記抵抗素子は、前記抵抗成分を有し、
前記誘導素子は、前記インダクタンス成分を有する、
電流センサ。
【請求項6】
請求項
5に記載の電流センサであって、
前記誘導素子のインダクタンス値は、前記振幅が減衰する周波数成分の帯域の下限周波数と前記伝送路の特性インピーダンスと前記抵抗素子の抵抗値と前記終端抵抗の抵抗値と
の関係を示す数式を用いて設定される、
電流センサ。
【請求項7】
請求項2から請求項
6までのいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記整合回路は、ローパスフィルタ回路を含む、
電流センサ。
【請求項8】
請求項
7に記載の電流センサであって、
前記整合回路のカットオフ周波数は、前記振幅が減衰する周波数成分の帯域の下限周波数よりも低い値に設定される、
電流センサ。
【請求項9】
請求項
7に記載の電流センサであって、
前記整合回路は、カットオフ周波数以上の周波数帯域において前記伝送路の終端から前記終端抵抗側を見たインピーダンスが前記伝送路の特性インピーダンスに近づくよう複数の受動素子を用いて構成され、
前記複数の受動素子は、少なくとも前記抵抗成分及び前記インダクタンス成分が並列接続されるように接続される、
電流センサ。
【請求項10】
請求項2から請求項
9までのいずれか一項に記載の電流センサであって、
前記伝送路の始端に前記コイルと並列接続される始端抵抗を含み、
前記整合手段は、前記入力端が前記伝送路の終端に接続される共に前記出力端が前記終端抵抗の一端に接続され、
前記整合回路は、前記伝送路の終端に直列接続され、
前記始端抵抗の抵抗値は、前記終端抵抗の抵抗値よりも大きな値に設定される、
電流センサ。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載の電流センサと、
前記電流センサから出力される検出信号を
用いて前記測定対象についての
電流、電圧、電力又は磁界の値を算出する測定部と、
を備える測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象に流れる電流を検出する電流センサ及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、測定対象が挿通される磁気コアに巻回されたコイルと、コイルから入力される電流の周波数領域を制限して伝送路の始端に出力するフィルタと、伝送路の終端からの電流を電圧に変換する終端抵抗と、を備える電流センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような電流センサでは、高周波伝送におけるインピーダンスの不整合による反射の影響によって生じる信号の波形歪みを抑えるため、伝送路の始端又は終端に、伝送路の特性インピーダンスと同じ抵抗値の始端抵抗又は終端抵抗を配置することが一般的である。
【0005】
しかしながら、伝送路の端に接続される始端抵抗又は終端抵抗が伝送路の特性インピーダンスと同じ抵抗値に設定されて抵抗値が大きくなると、始端抵抗又は終端抵抗で消費される電力が増えるという課題が存在している。特に、測定対象に流れる電流が大きくなるほど、電流センサにおいて消費される電力の増加が顕著となる。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、電流センサで消費される電力の増加を抑制するとともに、電流センサから出力される信号の波形歪みを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、測定対象に流れる電流を検出する電流センサは、前記測定対象が挿通される磁気コアと、前記磁気コアに巻き回されるコイルと、前記コイルから供給される電流を伝送する伝送路と、前記伝送路の終端からの電流を電圧に変換する終端抵抗と、前記終端抵抗と前記コイルとの間でインピーダンス整合を行う整合手段と、を備える。前記整合手段は、前記整合手段は、前記終端抵抗から出力される電圧の周波数成分のうち振幅が減衰する周波数成分の帯域において、前記伝送路の終端から前記終端抵抗側を見たインピーダンスと前記伝送路の始端から前記コイル側を見たインピーダンスとの少なくとも一方を前記伝送路の特性インピーダンスへと上昇させる。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、振幅が減衰する周波数成分の帯域である減衰帯域では、その整合手段により、伝送路の終端から終端抵抗側を見たインピーダンス、及び伝送路の始端からコイル側を見たインピーダンスのうち少なくとも一方が伝送路の特性インピーダンスへと上昇する。これにより、反射の影響が大きくなる減衰帯域付近において反射が起こりにくくなるので、電流センサから出力される信号の波形歪みを抑制することができる。
【0009】
一方、減衰帯域外では、この整合手段により、伝送路の終端から終端抵抗側を見たインピーダンス、及び伝送路の始端からコイル側を見たインピーダンスのうち上記少なくとも一方はほぼ変わらない。これにより、電流センサにおいて消費される電力がほとんど増えないので、電流センサの消費電力が増加するのを抑制することができる。
【0010】
したがって、この態様によれば、電流センサで消費される電力の増加を抑制するとともに、電流センサから出力される信号の波形歪みを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態における電流センサを備える測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における電流センサの振幅特性の測定結果を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における測定装置の等価回路を示す回路図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した等価回路を用いて終端抵抗側インピーダンスの周波数特性をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図5】
図5は、
図3に示した等価回路のインダクタンス値を変化させたときの終端抵抗側インピーダンスの周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態における電流センサの等価回路を示す回路図である。
【
図7】
図7は、
図7に示した等価回路を用いて振幅特性をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、電流センサに備えられる整合回路の変形例を示す回路図である。
【
図8B】
図8Bは、整合回路の他の変形例を示す回路図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態における電流センサを備える測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態における測定装置100の構成を示す図である。
【0014】
測定装置100は、測定対象に流れる電流を検出した検出信号に基づいて測定対象についての物理量を測定する。本実施形態の測定装置100は、電流センサ110と測定部120とを備える。
【0015】
電流センサ110は、測定対象としての測定電路1に流れる電流を検出する。本実施形態の電流センサ110は、ゼロフラックス方式(磁気平衡式)の電流センサとして構成され、測定電路1に流れる交流電流である被測定電流I1を検出する。
【0016】
電流センサ110は、磁気コア2と、コイル3と、伝送路4と、容量性負荷5と、磁電変換出力部6と、電圧電流変換部7と、伝送回路20と、出力端子110aとを備える。伝送回路20は、伝送路8と、終端抵抗9と、インピーダンス整合部10と、を備える。
【0017】
磁気コア2は、全体形状が環状に形成される。本実施形態では、円環状の磁気コア2が開閉可能な分割型で形成されており、磁気コア2は活線状態の測定電路1を挿通可能、すなわちクランプ可能に構成されている。磁気コア2は、分割型に限定されず、貫通型(非分割型)とすることもできる。
【0018】
コイル3は、磁気コア2に線材が巻回されることによって形成される。コイル3において、一端3aが基準電位を供給するための接地線であるグランドGに直接的又は間接的に接続され、他端3bが伝送路8の始端8aに接続される。
【0019】
本実施形態では、コイル3の一端3aは、伝送路4及び容量性負荷5を介してグランドGに接続されている。なお、コイル3の一端3aは、グランドGに対して直接接続されてもよい。この場合、電流センサ110は、カレントトランス(CT)方式の電流センサとして構成される。
【0020】
伝送路4は、特性インピーダンスがあらかじめ定められた値に設定(規定)された伝送線路である。本実施形態では、伝送路4の特性インピーダンスは50Ωに設定されている。伝送路4において、一端4aがコイル3の一端3aに接続され、他端4bが容量性負荷5に接続されている。
【0021】
伝送路4は、例えば、不図示のシールドがグランドGに接続された同軸ケーブルによって構成される。この場合、伝送路4の特性インピーダンスは50Ω又は75Ωに設定されている。なお、伝送路4は、同軸ケーブルに限定されるものではなく、特性インピーダンスがあらかじめ一定の値に規定されたものであればよく、例えば、ツイストペアケーブルなどの種々の伝送路で構成することもできる。
【0022】
容量性負荷5は、抵抗素子5aとコンデンサ5bとを互いに直接接続した直列回路によって構成される。抵抗素子5aは、数十Ω以下の抵抗値を有し、コンデンサ5bは、被測定電流I1の周波数帯域においてインピーダンスが数十Ω以下となる容量値を有する。
【0023】
例えば、抵抗素子5aの抵抗値は50Ωに設定され、コンデンサ5bの静電容量は0.1μFに設定される。なお、容量性負荷5は、コンデンサ5bをグランドG側に配置する構成に代えて、抵抗素子5aをグランドG側に配置する構成であってもよい。
【0024】
磁電変換出力部6は、磁気コア2の内部に発生する磁束を検出し、検出した磁束の磁束密度に応じた電圧値を示す出力電圧V1を出力する。本実施形態では、磁電変換出力部6は、磁気コア2に形成されたギャップ内に配設されており、ホール素子によって構成されている。
【0025】
ホール素子の出力電圧V1は、磁気コア2の内部に発生する磁束の磁束密度の大きさに比例又は略比例した電圧値を示す。磁電変換出力部6としては、ホール素子の他に、フラックスゲート型磁気検出素子などを使用することもできる。
【0026】
電圧電流変換部7は、磁電変換出力部6の出力電圧V1に基づいて、検出電流としての負帰還電流I2を生成する。電圧電流変換部7は、生成した負帰還電流I2を、伝送路8を介してコイル3の一端3aに供給する。例えば、電圧電流変換部7は、オペアンプによって構成される。
【0027】
電圧電流変換部7は、出力電圧V1がゼロボルト(0V)となるよう、つまり磁気コア2の内部に発生している磁束の磁束密度がゼロとなるよう、負帰還電流I2の電流値を制御する。磁気コア2の内部に発生している磁束は、磁気コア2に挿通された測定電路1に被測定電流I1が流れることによって発生する磁束φ1と、コイル3に負帰還電流I2が流れることによって発生する磁束φ2との差分(φ1-φ2)の磁束である。したがって、電圧電流変換部7は、磁束φ2により磁束φ1を相殺するように負帰還電流I2の電流値を増減する。
【0028】
これにより、コイル3の一端3aに供給される負帰還電流I2の周波数、又は後述する電流I3の周波数がクロスオーバー周波数以上のときの電位が、グランドGの基準電位に概ね設定される。クロスオーバー周波数とは、負帰還電流I2の周波数特性と電流I3の周波数特性とが交差する周波数のことである。コイル3から伝送路8に向かって供給される検出電流としての電流I2又はI3の電流値は、被測定電流I1の電流値をコイル3の巻数Nで除した値(I1/N)となる。
【0029】
伝送路8は、コイル3から供給される検出電流を伝送する。伝送路8は、上述の伝送路4と同じように、特性インピーダンスがあらかじめ定めされた値に設定された伝送線路である。伝送路8は、特性インピーダンスが50Ω又は75Ωに設定される同軸ケーブル、又は特性インピーダンスが一定の値に規定されたツイストペアケーブルなどの種々の伝送路によって構成される。
【0030】
本実施形態では、伝送路8の長さは1m以上であり、伝送路8の特性インピーダンスは50Ωに設定されている。また、伝送路8においては、一端である始端8aがコイル3の一端3aに接続され、他端である終端8bが整合回路12の入力端子12aに接続されている。
【0031】
終端抵抗9は、伝送路8の終端8bからの電流を電圧に変換し、変換した電圧を検出電圧V2として出力端子110aに出力する。終端抵抗9は、例えば、出力端子110aとグランドGとの間に接続される抵抗素子、又はオシロスコープなどの測定器の入力抵抗によって構成される。あるいは、終端抵抗9は、複数のチップ抵抗により構成されてもよい。
【0032】
終端抵抗9の抵抗値は、伝送路8の特性インピーダンスよりも小さな所定の値に設定される。これにより、終端抵抗9で消費される電力を低減することができ、終端抵抗9の発熱を抑制することができる。
【0033】
本実施形態では、終端抵抗9は、抵抗素子によって構成されており、終端抵抗9の一端が出力端子110aに接続され、終端抵抗9の他端がグランドGに接続されている。また、終端抵抗9の抵抗値は5Ωに設定されている。
【0034】
インピーダンス整合部10は、コイル3と終端抵抗9との間でインピーダンス整合を行う一又は複数の電子部品によって構成される。インピーダンス整合部10は、終端抵抗9から出力される検出電圧V2の周波数成分のうち振幅が減衰する周波数成分の帯域において終端抵抗側インピーダンスとコイル側インピーダンスとを整合させる。具体的には、インピーダンス整合部10は、振幅が減衰する周波数成分の帯域において終端抵抗側インピーダンスとコイル側インピーダンスとのうち少なくとも一方を伝送路8の特性インピーダンスへと上昇させる。
【0035】
上述の終端抵抗側インピーダンスとは、伝送路8の終端8bから終端抵抗9側を見たインピーダンスのことであり、コイル側インピーダンスとは、伝送路8の始端8aからコイル3側を見たインピーダンスのことである。
【0036】
また、上述の振幅が減衰する周波数成分の帯域のことを以下では減衰帯域と称する。この電流センサ110の減衰帯域は、コイル3の巻数やコイル3に寄生する浮遊容量などにより、コイル3から出力される検出電流の周波数成分が減衰する周波数帯域と概ね同じ周波数領域となる。
【0037】
上述の減衰帯域は、振幅が殆ど減衰しない周波数成分の振幅に対し、周波数成分の振幅が所定の値、例えば3dB(デシベル)だけ減衰した周波数の値を下限周波数とし、その下限周波数以上の周波数帯域のことを指す。本実施形態では、減衰帯域の下限周波数が100MHz(メガヘルツ)に設定されている。
【0038】
本実施形態におけるインピーダンス整合部10は、始端抵抗11と整合回路12とを備える。
【0039】
始端抵抗11は、インピーダンス整合を取るための信号源抵抗である。始端抵抗11は、伝送路8の始端8aにおいてコイル側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスに調整するために設けられる。
【0040】
始端抵抗11の抵抗値は、コイル側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに対して同じ値又は略同じ値となるように設定される。ここにいう略同じ値とは、伝送路8の両端での反射が起こりにくくなるような値であり、伝送路8の特性インピーダンスが50Ωであれば、例えば始端抵抗11の抵抗値は40Ωに設定されてもよい。このように、本実施形態のインピーダンス整合においては伝送路8の特性インピーダンスの値から20%程度の変動が許容される。
【0041】
本実施形態では、始端抵抗11が伝送路8の始端8aにコイル3に対して並列接続されるとともに、始端抵抗11の抵抗値が50Ωに設定されている。また、始端抵抗11は、コイル3から伝送路8に供給される電流の一部を分流させる機能を有する。これにより、終端抵抗9で消費される電力を低減することが可能になる。
【0042】
整合回路12は、電流センサ110の減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスに近づける。本実施形態では、整合回路12は、高周波数成分のノイズを除去するよう、ローパスフィルタ回路(低域通過型フィルタ)としても動作する。
【0043】
例えば、整合回路12は、コイル3から供給される検出電流の周波数成分のうちカットオフ周波数未満の基本周波数成分を殆ど減衰させることなく出力する。一方、整合回路12は、検出電流の周波数成分のうちカットオフ周波数以上の周波数成分を、振幅が1/√2以下になるように減衰させて出力する。すなわち、整合回路12は、検出電流の周波数領域を所望の周波数帯域(カットオフ周波数未満の周波数帯域)に制限する。
【0044】
以下では、カットオフ周波数未満の周波数帯域のことを通過帯域と称する。なお、カットオフ周波数は、通常、検出すべき被測定電流I1の上限周波数よりも若干高い周波数に設定される。例えば、カットオフ周波数は、コイル3から供給される検出電流を構成する周波数成分のうち振幅が減衰する成分の周波数帯域の下限値よりも若干高い周波数に設定される。
【0045】
整合回路12は、整合回路12のカットオフ周波数以上の高周波数帯域において終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに近づくよう、例えば複数の受動素子を用いて構成される。これにより、整合回路12を能動素子で構成する場合に比べて、整合回路12から出力される電流信号に混入するノイズを低減することができる。
【0046】
整合回路12は、少なくとも抵抗成分とインダクタンス成分とを有し、整合回路12の抵抗成分は、終端抵抗9の抵抗値(所定の値)が小さいほど大きい値に設定される。言い換えると、終端抵抗9の抵抗値は、整合回路12の抵抗成分に基づいて、伝送路8の特性インピーダンスよりも小さな所定の値に設定される。
【0047】
本実施形態では、整合回路12は、抵抗成分としての抵抗素子121と、インダクタンス成分としての誘導素子(インダクタ素子)122とを備え、抵抗素子121及び誘導素子122が互いに並列接続されている。
【0048】
抵抗素子121の抵抗値は、伝送路8の特性インピーダンスから終端抵抗9の抵抗値を減じた値に基づいて設定される。本実施形態では、抵抗素子121の抵抗値が、伝送路8の特性インピーダンス50Ωから終端抵抗9の抵抗値5Ωを減じた値45Ωに設定されている。
【0049】
一方、誘導素子122のインダクタンス値は、上述の抵抗素子121の抵抗値と、伝送路8の特性インピーダンスと、終端抵抗9の抵抗値と、電流センサ110の減衰帯域の下限周波数と、に基づいて設定される。誘導素子122のインダクタンス値の設定手法については、
図3を参照して後述する。
【0050】
なお、本実施形態では整合回路12を抵抗素子121及び誘導素子122で構成する例について説明したが、この構成に限られるものではない。例えば、整合回路12を一又は複数の電子部品で構成してもよく、この場合は、電流センサ110の減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに近づくよう各電子部品の定数があらかじめ設定されていればよい。
【0051】
本実施形態では、整合回路12の入力端子12aが伝送路8の終端8bに接続され、出力端子11bが終端抵抗9の一端に接続されている。すなわち、整合回路12は、伝送路8の終端8bと終端抵抗9の一端との間に直列接続されている。
【0052】
整合回路12を終端抵抗9側に配置することにより、整合回路12を伝送路8の始端8aに接続する場合に比べてコイル3と整合回路12との距離を離すことができる。それゆえ、コイル3の寄生容量と整合回路12の誘導素子122との共振が原因となり整合回路12の周波数特性においてカットオフ周波数の近傍に好ましくないピークを生じにくくすることができる。
【0053】
以上のように、電流センサ110の減衰帯域においてインピーダンス整合を図る整合回路12を電流センサ110に備えることにより、電流センサ110の出力端子110aから測定部120に出力される検出信号の歪みを抑制することができる。
【0054】
測定部120は、電流センサ110から出力される検出信号に基づいて測定電路1についての物理量を測定する。測定電路1についての物理量としては、測定電路1に流れる交流電流の値、交流電力の値、又は測定電路1の周囲に生じる交流磁界の値などが挙げられる。測定部120は、例えば、オシロスコープ、電力計、又は電流計などによって構成される。
【0055】
本実施形態では、測定部120は、電流センサ110の検出信号として出力端子110aから検出電圧V2を受け付けると、受け付けた検出電圧V2に基づいて、磁気コア2に挿通された測定電路1に流れる被測定電流I1を測定する。測定部120は、例えば、不図示のA/D変換部及びCPUを備え、A/D変換部が電流センサ110にて変換された検出電圧V2をデジタル値に変換し、CPUがこのデジタル値に基づいて被測定電流I1の電流値を測定(算出)する。
【0056】
なお、測定部120は、不図示の外部インターフェース回路を介して被測定電流I1の電流値を外部装置に送信したり、外部記憶装置に記憶したりすることもできる。測定部120は、測定される他の物理量として、受け付けた検出電圧V2に基づき、測定電路1の交流電力又は磁界の強さなどを測定することもできる。
【0057】
測定部120は、LCDなどの表示画面を有し、測定した物理量についての波形を表示画面に表示する。例えば、測定部120は、横軸を時間軸とした表示画面に、測定した交流電流の時間波形を表示する。この場合、電流センサ110から出力される検出信号が用いられるので、測定電路1の被測定電流I1について歪みが小さい交流電流の波形を表示画面に表示することができる。
【0058】
次に、電流センサ110の動作について簡単に説明する。
【0059】
まず、測定電路1に流れる被測定電流I1が直流を含む低周波数領域では、主として磁電変換出力部6及び電圧電流変換部7が作動する。この場合、磁電変換出力部6は、磁気コア2の内部に発生する磁束(φ1-φ2)を検出し、検出した磁束の密度に応じた出力電圧V1を電圧電流変換部7に出力する。電圧電流変換部7は、出力電圧V1に基づいて負帰還電流I2を生成し、この負帰還電流I2をコイル3の一端3aに供給する。
【0060】
このとき、電圧電流変換部7は、出力電圧V1がゼロボルトとなるよう、すなわち磁束φ2で磁束φ1を相殺するよう負帰還電流I2の電流値を制御する。これにより、負帰還電流I2の電流値は、概ね被測定電流I1の電流値を巻数Nで除した値(I1/N)になる。
【0061】
その後、コイル3の他端3bから出力される負帰還電流I2については、一部が始端抵抗11に流れ、残りの電流が検出電流としてコイル3、伝送路8及び整合回路12を介して終端抵抗9に流れる。そして終端抵抗9により、その検出電流が検出電圧V2に変換される。この場合、容量性負荷5は、高インピーダンスに維持されていることから、電流I3が容量性負荷5を介してグランドGに漏れることが阻止されている。
【0062】
このとき、本実施形態の整合回路12においては、誘導素子122のインピーダンスが極めて低いため、抵抗成分の増加が抑えられる。その結果、終端抵抗側インピーダンスは、互いに並列接続されている始端抵抗11及び終端抵抗9の合成抵抗値となる。本実施形態では始端抵抗11の抵抗値が50Ωで終端抵抗9の抵抗値5Ωであるため、合成抵抗値は約5Ωとなる。
【0063】
このように、低周波数領域では、整合回路12の抵抗成分が小さいことから、整合回路12で消費される電力が減少するので、電流センサ110の消費電力を抑制することができる。また、整合回路12の抵抗成分の増加が抑えられることによって、終端抵抗9に流れる電流量が減少するのを抑えられるので、検出電圧V2を示す検出信号のレベル低下を軽減することができる。さらに、終端抵抗9の抵抗値は、伝送路8の特性インピーダンスよりも小さな値に設定されているので、終端抵抗9で消費される電力を低減することができる。
【0064】
一方、測定電路1に流れる被測定電流I1が低周波数領域の上限周波数から整合回路12のカットオフ周波数までの高周波領域では、磁電変換出力部6及び電圧電流変換部7に代わり、コイル3が単体でCTとして作動する。
【0065】
この場合、コイル3は、測定電路1に流れる被測定電流I1を検出し、この被測定電流I1の振幅(電流値)に応じて、振幅(電流値)が変化する電流I3を検出電流として出力する。その後、コイル3の他端3bから出力される電流I3については、一部が始端抵抗11に流れ、残りの検出電流が伝送路8及び整合回路12を介して終端抵抗9に流れる。そして終端抵抗9により検出電流が検出電圧V2に変換される。
【0066】
このとき、本実施形態の整合回路12においては、誘導素子122のインピーダンスが抵抗素子121の抵抗値45Ωよりも高くなるため、抵抗成分が支配的になる。このため、終端抵抗側インピーダンスは、始端抵抗11及び終端抵抗9の合成抵抗値約5Ωに対して整合回路12の抵抗成分約45Ωを加算した値約50Ωとなる。
【0067】
このように、高周波領域では、終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンス50Ωに近づくので、インピーダンスの整合が取れ、伝送回路20の終端で生じる反射を抑制することができる。
【0068】
次に、電流センサ110の周波数特性について図面を参照して説明する。
【0069】
図2は、本実施形態における電流センサ110の振幅特性(出力周波数特性)の一例を示す図である。この例では、所望の周波数帯域の上限周波数(減衰帯域の下限周波数)feを120MHzに設定するとともに出力レートを0.1V/Aに設定した電流センサ110が用いられ、この電流センサ110から出力される検出信号についての周波数領域の振幅特性を測定した結果が示されている。
【0070】
ここでは、横軸が対数目盛で示された周波数であり、縦軸がデシベル(dB)で示された100kHzに対する振幅比である。ここにいう振幅比とは、100kHzの周波数成分の振幅に対する各周波数成分の振幅の比率のことである。
【0071】
また、
図2には、比較例として本実施形態の整合回路12を有していない電流センサについての測定結果が点線により示されている。
図2に示すように、比較例では、下限周波数feである120MHz以上の減衰帯域においてインピーダンス整合が行われていないため、測定部120からの反射の影響によって振幅特性が乱れている。
【0072】
これに対し、本実施形態の電流センサ110では、整合回路12を用いることにより、減衰帯域においてインピーダンス整合が行われているため、振幅特性の乱れが抑制されており、周波数成分の振幅が滑らかに減衰していることがわかる。
【0073】
このため、周波数が高い被測定電流I1を測定して応答波形を表示するような場合であっても、反射の影響が軽減されているので、画面に表示される測定波形の歪みを小さくすることができる。
【0074】
次に、電流センサ110における終端抵抗側インピーダンスの周波数特性について
図3及び
図4を参照して説明する。
【0075】
図3は、終端抵抗側インピーダンスの周波数特性をシミュレーションするために用いた測定装置100の等価回路を示す図である。
【0076】
この電流センサ110の等価回路では、コイル3としての電圧源3cが交流電流を整合回路12に供給する。整合回路12のうち抵抗素子121の抵抗値が45Ωであり、誘導素子112のインダクタンス値が100nH(ナノヘンリー)である。そして終端抵抗9の抵抗値が5Ωであり、測定部120のうち入力抵抗120aの抵抗値が1MΩであり、コンデンサ120bの静電容量が15pFである。
【0077】
図4は、
図3に示した測定装置100の等価回路を用いて終端抵抗側インピーダンスの周波数特性を算出したシミュレーション結果を示す図である。ここでは、横軸が対数目盛で示された周波数であり、縦軸が終端抵抗側インピーダンスである。
【0078】
図4には、比較例として本実施形態の整合回路12を有していない電流センサについてのシミュレーション結果が点線により示されている。
図4に示すように、整合回路12を有していない電流センサにおいては、終端抵抗側インピーダンスが一定の抵抗値5Ωとなる。その結果、減衰帯域でのインピーダンスの不整合により伝送回路の終端で反射が発生する。
【0079】
なお、伝送路8が十分に短ければインピーダンスの不整合が起きたとしても反射の影響は殆どない。通常、減衰帯域の下限周波数100MHzあたりからの反射は伝送路8の凡そ1mから発生する。このような反射の影響は波形応答を観測する際に現われてしまい、被測定電流I1の正確な波形を観測することが困難となる。したがって、伝送路8の長さが1m以上で通過帯域が100MHz程度であればインピーダンス整合を取るのが好ましい。
【0080】
続いて、本実施形態の電流センサ110における終端抵抗側インピーダンスの周波数特性について説明する。
【0081】
図4の実線で示すように、交流電流の周波数が1MHz未満であれば、整合回路12における誘導素子112のインピーダンスが抵抗素子121の抵抗値よりも十分に小さくなる。このため、主に誘導素子112に交流電流が流れ、抵抗素子121に殆ど交流電流が流れないので、終端抵抗側インピーダンスは、終端抵抗9の抵抗値5Ωと略同じ値となる。また、整合回路12の抵抗成分は極めて小さいため、整合回路12で消費される電力も小さくなる。
【0082】
そして、交流電流の周波数が1MHzよりも高くなると、周波数が高くなるにつれて誘導素子112のインピーダンスが高くなり、抵抗素子121に交流電流が流れやすくなる。そのため、終端抵抗側インピーダンスは、終端抵抗9の抵抗値5Ωよりも大きくなり、整合回路12の消費電力も徐々に増加し始める。
【0083】
さらに、交流電流の周波数が100MHz近傍まで高くなると、整合回路12において抵抗素子121に主に交流電流が流れるようになる。このため、終端抵抗側インピーダンスは、終端抵抗9の抵抗値5Ωに対して45Ωの抵抗素子121の大部分の抵抗成分が加えられたように見えるので、終端抵抗側インピーダンスは40Ω程度となる。
【0084】
さらに、交流電流の周波数がコイル3の減衰帯域の下限周波数(通過帯域の上限周波数)120MHzよりも高くなると、終端抵抗側インピーダンスは、伝送路8の特性インピーダンスと同じ値50Ωに近づくことがわかる。
【0085】
このように、電流センサ110のカットオフ周波数(減衰帯域の下限周波数)付近を除く通過帯域では、反射の影響が小さいため、整合回路12は、インピーダンス整合を抑制する。これにより、整合回路12の消費電力が増加するのを抑えることができる。そして電流センサ110の減衰帯域では、反射の影響が大きくなるため、整合回路12は終端抵抗側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスに近づける。これにより、電流センサ110の終端で生じる反射を抑制することができる。
【0086】
図3及び
図4では、整合回路12を構成する誘導素子112のインダクタンス値を100nHに設定する例について説明したが、これに限られるものではない。ここで誘導素子112のインダクタンス値の設定手法について説明する。
【0087】
図3に示した等価回路のインピーダンスZは、誘導素子122のインダクタンス値Lと、抵抗素子121の抵抗値R
1と、終端抵抗9の抵抗値R
2と、を用いて次式(1)のように表わされる。
【0088】
【0089】
式(1)を誘導素子122のインダクタンス値Lについて解くと、誘導素子122のインダクタンス値Lは、次式(2)のように表される。
【0090】
【0091】
本実施形態ではインピーダンスZが伝送路8の特性インピーダンスと同じ値に設定され、角周波数ωが減衰帯域の下限周波数feを2πで除した値に設定される。式(2)の関係に従って整合回路12を構成することにより、電流センサ110の減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスZを伝送路8の特性インピーダンスと同じ値に近づけることができる。
【0092】
このように、誘導素子112のインダクタンス値Lを変更することによって終端抵抗側インピーダンスの周波数特性が変化する。そこで、誘導素子122のインダクタンス値Lと終端抵抗側インピーダンスの周波数特性との関係について
図5を参照して説明する。
【0093】
図5は、誘導素子122のインダクタンス値Lに応じた終端抵抗側インピーダンスの周波数特性の変化を示す図である。
【0094】
ここでは、伝送路8の特性インピーダンスに達するときの周波数f(=ω/2π)が100kHz、1MHz、10MHz、100MHz、1GHzとなるよう、上述の式(2)を用いて誘導素子122のインダクタンス値Lの算出を行った。この算出においては、インピーダンスZを伝送路8の特性インピーダンスと同じ50Ωに設定するのが好ましいが、式(2)中の分母がゼロになり発散してしまうため、インピーダンスZは49Ωに設定した。
【0095】
上述の条件により、誘導素子122のインダクタンス値Lとして140μH、14μH、1.4μH、140nH、14nHが得られたため、
図5には、誘導素子122のインダクタンス値Lが140μH、14μH、1.4μH、140nH、14nHに設定されたときの終端抵抗側インピーダンスの周波数特性がそれぞれ示されている。
【0096】
図5に示すように、誘導素子122のインダクタンス値Lを140μHから14nHまで段階的に小さくすることにより、終端抵抗側インピーダンスが5Ωから変化し始める周波数の開始点が高くなることがわかる。このように、誘導素子122のインダクタンス値Lを変化させることにより、終端抵抗側インピーダンスの周波数特性においてインピーダンス整合の開始点を低周波数側又は高周波数側にシフトさせることができる。
【0097】
したがって、周波数100MHzで終端抵抗側インピーダンスが49Ωに達するように電流センサ110を設計する場合は、終端抵抗9、抵抗素子121及び誘導素子122は、それぞれ5Ω、45Ω及び140nHに設定される。この条件で設計された電流センサ110の振幅特性について
図6及び
図7を参照して説明する。
【0098】
図6は、電流センサ110の振幅特性をシミュレーションするために用いた電流センサ110を構成する伝送回路20の等価回路を示す図である。ここでは、始端抵抗11の抵抗値が50Ωであり、整合回路12において抵抗素子121の抵抗値が45Ωで誘導素子112のインダクタンス値が140nHであり、終端抵抗9の抵抗値が5Ωである。
【0099】
図7は、
図6に示した等価回路を用いて電流センサ110における伝送回路20の振幅特性を算出したシミュレーション結果を示す図である。ここでは、横軸及び縦軸は、
図2に示したパラメータと同じである。
【0100】
図7に示すように、100MHzにおいて周波数成分の振幅が約4dB減衰しており、整合回路12は、ローパスフィルタ回路として動作していることがわかる。整合回路12のカットオフ周波数fcは減衰帯域の下限周波数feよりも小さいため、コイル3からの検出電流に含まれる高周波ノイズを確実に除去することができる。
【0101】
また、コイル3から供給される検出電流の高周波数成分の振幅特性が持ち上がっているような場合は、電流センサ110の出力周波数特性を平滑化にすることもできる。一方、高周波成分の振幅特性が持ち上がっていない場合は、誘導素子122のインピーダンス値を小さくすることにより、周波数100MHzにおいて一般的な減衰量である3dBに調整することもできる。
【0102】
次に、電流センサ110の変形例について
図8A及び
図8Bを参照して説明する。
【0103】
図8Aは、本実施形態における整合回路12の変形例を示す図である。この変形例では、整合回路12は、誘導素子201、抵抗素子202、抵抗素子203、及びコンデンサ204を備える一段インピーダンスフィルタである。誘導素子201は、その両端がそれぞれ整合回路12の入力端子12a及び出力端子12bに接続され、互いに直列接続された抵抗素子202及び抵抗素子203に対して並列接続されている。そして抵抗素子202及び抵抗素子203の接続点がコンデンサ204の一端に接続され、コンデンサ204の他端がグランドGに接続されている。
【0104】
図8Bは、整合回路12の他の変形例を示す図である。この例では、整合回路12は、誘導素子211、抵抗素子212、抵抗素子213及びコンデンサ214と、誘導素子221、抵抗素子222、抵抗素子223及びコンデンサ224を備える。すなわち、整合回路12は、
図8Aに示した一段インピーダンスフィルタを二つ直列接続した二段インピーダンスフィルタである。
【0105】
図8A及び
図8Bに示した整合回路12おいては、電流センサ110の減衰帯域で終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに近づくよう、各受動素子の定数が設定される。これにより、電流センサ110の減衰帯域での反射が抑制されるので、検出信号の波形歪みを抑制することができる。
【0106】
なお、整合回路12は、
図8Aに示した一段インピーダンスフィルタを三つ以上直列に接続することによって、より急峻なカットオフ特性を有する多段定インピーダンスフィルタで構成することもできる。
【0107】
次に、第1実施形態の電流センサ110による作用効果について詳細に説明する。
【0108】
本実施形態によれば、測定対象としての測定電路1に流れる電流を検出する電流センサ110は、測定電路1が挿通される磁気コア2と、磁気コア2に巻き回されるコイル3と、コイル3から供給される電流を伝送する伝送路8と、を備える。さらに、伝送路8の終端8bからの電流を電圧に変換して出力する終端抵抗9と、コイル3と終端抵抗9との間でインピーダンス整合を行う整合手段を構成するインピーダンス整合部10と、を備える。
【0109】
そしてインピーダンス整合部10は、電流センサ110の減衰帯域において、伝送路8の終端8bから終端抵抗9側を見た終端抵抗側インピーダンスと、伝送路8の始端8aからコイル3側を見たコイル側インピーダンスとの少なくとも一方を伝送路8の特性インピーダンスへと上昇させる。
【0110】
特に本実施形態によれば、
図1及び
図4に示したように、インピーダンス整合部10は、電流センサ110の減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスへと上昇させる。ここにいう減衰帯域とは、終端抵抗9から出力される電圧の周波数成分のうち振幅が減衰する成分の周波数帯域のことである。
【0111】
このように、インピーダンス整合部10により、反射の影響が大きくなる減衰帯域では、終端抵抗側インピーダンスが終端抵抗9の抵抗値から伝送路8の特性インピーダンスへと上昇する。これにより、減衰帯域付近で反射が起こりにくくなるので、電流センサ110から出力される信号の波形歪みを抑制することができる。
【0112】
一方、反射の影響が小さくなる減衰帯域の下限周波数付近を除く通過帯域では、インピーダンス整合部10により、終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスの上昇が抑制されるので、終端抵抗側インピーダンスはほぼ変わらない。このように、インピーダンス整合部10で消費される電力はほとんど増加しないため、インピーダンス整合部10の消費電力が増加することを抑制することができる。
【0113】
したがって、電流センサ110で消費される電力の増加を抑えるとともに、電流センサ110から出力される信号の波形歪みを抑制することができる。
【0114】
また、本実施形態によれば、インピーダンス整合部10は、減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスに近づける整合回路12を含む。
【0115】
このように、整合回路12を用いて電流センサ110の減衰帯域で終端抵抗側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスに近づけることにより、減衰帯域での反射を抑制することができる。したがって、
図2の点線で示したように、減衰帯域における振幅特性の乱れが抑制されるので、電流センサ110から出力される検出信号の波形歪みを抑制することができる。
【0116】
また、本実施形態によれば、終端抵抗9の抵抗値は、伝送路8の特性インピーダンスよりも小さな所定の値に設定される。これにより、終端抵抗9で消費される電力が低減されるので、終端抵抗9の発熱を抑制することができる。
【0117】
さらに、終端抵抗9の抵抗値を小さくすることにより、測定電路1に大電流が流れている場合は、大電流に伴いコイル3から終端抵抗9に供給される検出電流が大きくなっても、終端抵抗9の抵抗値が小さいので終端抵抗9の発熱が抑制される。したがって、被測定電流I1の電流値が大きい測定電路1であっても、電流センサ110を用いることにより、発熱対策を不要にすることができる。
【0118】
また、本実施形態によれば、整合回路12の抵抗成分としての抵抗素子121の抵抗値は、終端抵抗9の抵抗値(所定の値)が小さいほど大きな値に設定される。このように、整合回路12の抵抗素子121の抵抗値を大きくすることにより、終端抵抗9の抵抗値を下げることが可能になるので、終端抵抗9の発熱量をより低減することができる。
【0119】
また、本実施形態によれば、整合回路12のカットオフ周波数fcは、
図6に示したように、電流センサ110の減衰帯域の下限周波数feよりも低い値に設定されてもよい。これにより、コイル3から供給される検出電流において高周波数成分の振幅特性が低周波数成分の振幅特性よりも持ち上がっているような場合は、電流センサ110の振幅特性を平滑化することができる。
【0120】
また、本実施形態によれば、整合回路12は、カットオフ周波数fc以上の高周波数帯域において終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに近づくよう複数の受動素子を用いて構成される。
【0121】
このように、整合回路12が複数の受動素子で構成されるので、カットオフ周波数以上の帯域でインピーダンス整合を図りつつ、整合回路12を能動素子で構成する場合に比べて整合回路12自体から生じるノイズを低減することができる。したがって、コイル3から供給される検出電流に混入するノイズを低減しつつ、電流センサ110から出力される検出信号の波形歪みを抑制することができる。
【0122】
また、本実施形態によれば、整合回路12は、
図1に示したように、互いに並列接続された抵抗素子121及び誘導素子122を含む。これにより、整合回路12の部品点数を減らすことができるので、整合回路12の構成を簡素にすることができる。
【0123】
また、本実施形態によれば、上述の式(2)に示したように、誘導素子122のインダクタンス値Lは、減衰帯域の下限周波数feと、伝送路8の特性インピーダンスZと、抵抗素子121の抵抗値R1と、終端抵抗の抵抗値R2と、に基づいて設定される。
【0124】
これにより、コイル3から供給される検出電流の周波数成分が電流センサ110の減衰帯域の下限周波数feに近づくにつれて終端抵抗側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに近づくように整合回路12を構成することができる。
【0125】
また、本実施形態によれば、インピーダンス整合部10は、伝送路8の始端8aにコイル3と並列接続される始端抵抗11を含む。整合回路12は、伝送路8の終端8bに直列接続され、さらに始端抵抗11の抵抗値は、終端抵抗9の抵抗値よりも大きな値に設定される。
【0126】
このように、整合回路12を伝送路8の終端8b側に配置することにより、整合回路12を伝送路8の始端8a側に配置する場合に比べて、コイル3と整合回路12との距離を離すことができる。それゆえ、コイル3の寄生容量と整合回路12の誘導素子122との共振により、整合回路12の周波数特性においてカットオフ周波数の近傍に好ましくないピークを生じにくくすることができる。
【0127】
これに加え、始端抵抗11を伝送路8の始端8aに設けることにより、終端抵抗9に流れる検出電流が減少するので、終端抵抗9で消費される電力を低減することができる。それゆえ、終端抵抗9の発熱を抑制することができる。このため、終端抵抗9の発熱への対策を施す必要性が低くなるので、電流センサ110の製造コストを低減することが可能となる。
【0128】
さらに、始端抵抗11の抵抗値を終端抵抗9の抵抗値よりも大きくすることで、通過帯域において始端抵抗11よりも終端抵抗9に検出電流が流れやすくなるので、検出電圧V2の信号レベルを高めることができる。したがって、検出信号のS/N比を向上させることができる。
【0129】
また、本実施形態によれば、伝送路8の長さは、電流センサ110の減衰帯域の下限周波数に基づいて反射が発生する所定の長さよりも長く設定されている。このため、整合回路12を用いることによって、電流センサ110における減衰帯域での反射を確実に抑制することができる。
【0130】
また、本実施形態によれば、整合回路12は、ローパスフィルタ回路として構成される。これにより、上述のように検出信号の波形歪みを抑制するとともに、電流センサ110の減衰帯域におけるノイズ成分を除去することができる。
【0131】
また、本実施形態によれば、測定装置100は、上述の電流センサ110と、電流センサ110から出力される検出信号に基づいて測定電路1についての物理量を測定する測定部120と、を備える。これにより、測定電路1に流れる被測定電流I1の波形応答を精度よく測定することができるとともに、電流センサ110の消費電力を抑制することができる。
【0132】
(第2実施形態)
なお、第1実施形態では整合回路12を伝送路8の終端8bに直列接続する例について説明したが、この構成に加えて又は代えて、伝送路8の始端8a側に整合回路12を接続してもよい。そこで、第2実施形態として整合回路12を伝送路8の始端8a側に接続した構成について
図9を参照して簡単に説明する。
【0133】
図9は、第2実施形態の電流センサ111を備える測定装置101の構成を示す図である。ここでは、便宜上、伝送路4と容量性負荷5と磁電変換出力部6と電圧電流変換部7とを省略している。
【0134】
本実施形態の整合回路12については、
図1に示した構成と同じであるが、
図1に示した接続位置とは異なり、伝送路8の始端8aに接続されている。また、本実施形態の電流センサ111を構成する伝送回路21では、
図1に示した始端抵抗11に代えて始端抵抗11aが備えられている。
【0135】
伝送回路21では、始端抵抗11aは、整合回路12に直列接続されており、コイル3に対して伝送路8の始端8aに並列接続されている。具体的には、始端抵抗11aの一端が整合回路12の出力端子12bに接続され、他端がグランドGに接続されている。
【0136】
本実施形態では、始端抵抗11aの抵抗値が5Ωに設定され、終端抵抗9の抵抗値が50Ωに設定されている。すなわち、始端抵抗11aの抵抗値は、終端抵抗9の抵抗値よりも大きな値に設定される。
【0137】
これにより、電流センサ111の減衰帯域では、始端抵抗11aの抵抗値5Ωと整合回路12を構成する抵抗素子121の抵抗値45Ωとが合成されるので、コイル側インピーダンスが50Ωになる。すなわち、整合回路12を備えることによって、コイル側インダクタンスが伝送路8の特性インピーダンスへと上昇する。
【0138】
このため、電流センサ111の減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスとコイル側インダクタンスとの整合を図ることができる。これにより、伝送路8の始端8aにおいて反射が起こりにくくなるので、電流センサ111による検出信号の波形歪みを抑制することができる。
【0139】
第2実施形態によれば、インピーダンス整合部10aは、電流センサ111の減衰帯域においてコイル側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスへと上昇させる。これにより、第1実施形態と同じように、電流センサ111の通過領域において電流センサ111で消費される電力の増加を抑えるとともに、電流センサ111から出力される信号の波形歪みを抑制することができる。
【0140】
なお、第2実施形態では、インピーダンス整合部10aとともに第1実施形態における抵抗値5Ωの終端抵抗9及び整合回路12を備えてもよい。これにより、電流センサ111の減衰帯域においてコイル側インピーダンスと終端抵抗側インピーダンスとの双方を伝送路8の特性インピーダンスへと上昇させることができる。
【0141】
したがって、上記各実施形態によれば、インピーダンス整合部10及び10aは、電流センサ110の減衰帯域において終端抵抗側インピーダンスとコイル側インピーダンスとの少なくとも一方を伝送路8の特性インピーダンスへと上昇させることができる。
【0142】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0143】
例えば、本実施形態ではゼロフラックス方式(磁気平衡式)の電流センサ110として、伝送路4、容量性負荷5、磁電変換出力部6、及び電圧電流変換部7が備えられているが、伝送路4を省略してもよい。
【0144】
また、本実施形態では整合回路12がインピーダンス整合を行うとともにローパスフィルタとして動作したが、インピーダンス整合の機能とローパスフィルタの機能とを別々の回路で実現してもよい。
【0145】
また、本実施形態では減衰帯域の下限周波数feを通過帯域の振幅から3dB減衰した周波数の値としたが、これに限られるものではなく、下限周波数feは、通過帯域の振幅が減衰し始める周波数の値、又は1dB減衰した周波数の値であってもよい。
【0146】
また、本実施形態では終端抵抗9の抵抗値を伝送路8の特性インピーダンスよりも小さな値に設定したが、終端抵抗9の抵抗値を伝送路8の特性インピーダンスよりも大きな値に設定してもよい。この場合は、終端抵抗9に対して誘導素子(コイル)、又は誘導素子及び抵抗素子を直列接続した直列回路を並列接続し、減衰帯域において抵抗素子側インピーダンスが伝送路8の特性インピーダンスに近づくように誘導素子又は直列回路の定数を設定する。あるいは、伝送路8の特性インピーダンスと同じ値の抵抗素子を終端抵抗9に対して並列に配置し、検出電流の周波数が減衰帯域の近傍に近づくと電流経路を終端抵抗9から抵抗素子へ切り替えるスイッチを終端抵抗9と抵抗素子との接続部分に配置する。
【0147】
これにより、電流センサの減衰帯域において、終端抵抗側インピーダンスを伝送路8の特性インピーダンスへと低下させることができるとともに電流センサの消費電力を低減することができる。
【符号の説明】
【0148】
2 磁気コア
3 コイル
8 伝送路
9 終端抵抗
10、10a インピーダンス整合部(整合手段)
11 始端抵抗
12 整合回路
100、101 測定装置
110、111 電流センサ
120 測定部
121 抵抗素子
122 誘導素子