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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】グリコシドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 1/00 20060101AFI20230509BHJP
   C07H 15/04 20060101ALI20230509BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C07H1/00
C07H15/04 D
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019051257
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020152663
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 嵩
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104592321(CN,A)
【文献】Yoko Yuasa, Yoshifumi Yuasa,A Practical Synthesis of 2,3,4,6-Tetra-O-acetyl-1-O-(2-propenyl)-β-dglucopyranoside Using ZnCl2,Organic Process Research & Development,米国,American Chemical Society,2004年03月26日,8(3),405-407
【文献】Teiichi Murakami, Reiko Hirono, Yukari Sato, Kiyotaka Furusawa,Efficient synthesis of ω-mercaptoalkyl 1,2-trans-glycosides from sugar peracetates,Carbohydrate Research,Elsevier Ltd,2007年02月25日,342,1009-1020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
C07B
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と、第1級又は第2級のアルコールとを反応させるグリコシドの製造方法であって、式(1)で表される化合物が、ペンタ-O-アシル-β-グルコピラノースであり、第1触媒としてハロゲン化亜鉛、第2触媒として、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上を用い、溶媒として芳香族炭化水素を用い、反応温度85℃以上で反応を行う、グリコシドの製造方法。
【化1】

(式中、Rは各々独立に、炭素数2以上20以下のアシルオキシ基を示し、Rは各々独立に炭素数1以上10以下の炭化水素基を示すn及びmは官能基数を示す整数であり、nは2、mは0である。)
【請求項2】
第1触媒が、塩化亜鉛及び臭化亜鉛から選ばれる1種以上である、請求項1に記載のグリコシドの製造方法。
【請求項3】
第2触媒が、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化コバルト(II)及び臭化コバルト(II)から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のグリコシドの製造方法。
【請求項4】
アルコールが炭素数1以上20以下の第1級アルコールである、請求項1~のいずれかに記載のグリコシドの製造方法。
【請求項5】
前記第1級アルコールが第1級飽和アルコールである、請求項に記載のグリコシドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルグリコシドは、エチレンオキシド付加型の界面活性剤に比べて、高い起泡性を示し、また、皮膚に対する刺激性が低く、水生環境に対しても適合性の高い基剤である。このため、安全性や低環境負荷への要求が高まる現況において、皮膚洗浄剤、毛髪洗浄剤、食器用洗浄剤及び増泡剤等の分野において使用されている。
【0003】
アルキルグリコシドの製造方法としては、従来から、ケーニッヒ-クノール法、フィッシャー法の他、種々の方法が知られている。
ケーニッヒ-クノール法は、銀塩類を触媒としてハロゲン化糖とアルコールとを反応させる方法であり、フィッシャー法は、酸を触媒として還元糖とアルコールとを脱水反応させる方法である。
また、非特許文献1には、塩化亜鉛を触媒として、アシル化糖とアリルアルコールとを反応させる方法が開示されている。
【0004】
特許文献1には、銅(II)ハロゲン化物と、銅以外の金属のハロゲン化物及び/又は銅以外の金属とを含有するグルコシド縮合用触媒、及び該触媒を用いてアシル化糖とフェノール類との縮合反応を行うアリールグルコシド類の製造方法が開示されている。
特許文献2には、パーフルオロアルキルスルホン酸希土類塩の存在下、アノマー位がヘミアセタール結合している糖のアノマー位のヒドロキシ基の水素がアシル基で置換された糖誘導体とアルコールとを反応させる際、三フッ化ホウ素エーテル錯体を共存させるグリコシド誘導体の製造法が開示されている。
特許文献3には、過アセチル化単糖又は過アセチル化オリゴ糖とトコフェロールとのグリコシド縮合反応を含むトコフェロール配糖体の製造方法であって、メタンスルホン酸、塩化第二鉄等から選ばれる主触媒と、相関移動触媒である助触媒とを併用する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-144151号公報
【文献】特開平11-116587号公報
【文献】特開2008-133275号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Organic Process Research & Development 2004, 8, 405-407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ケーニッヒ-クノール法は原料であるハロゲン化糖が分解しやすく不安定であり、触媒に使用される銀塩類は高価であり、しかも化学量論量が必要となるため、工業的に不利な方法である。
フィッシャー法は、反応が高温であるため、熱力学的に安定な1,2-cis-立体異性体が優先して生成し、速度論的に安定な立体構造を有する1,2-trans体を収率よく合成することができない。非特許文献1の方法も、1,2-trans-グリコシドを最大収率で50%程度しか製造することができていない。
【0008】
また、特許文献1の方法では、1,2-trans-グリコシドがある程度収率よく製造できるものの、原料はフェノール類に限られる。特許文献2の方法は、三フッ化ホウ素エーテル錯体を使用するため、不活性ガス雰囲気下で行う必要があり、工業的に有利な方法とは言えない。
特許文献3の方法は、トコフェロール配糖体の製造方法であり、アルキルグリコシドを収率よく製造する方法ではない。
1,2-trans-アルキルグリコシド等の1,2-trans-グリコシドは有望な素材であるといえるが、効率的で工業的に有利な製造方法は知られていないというのが現状である。
本発明は、上記従来技術に鑑み、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドを収率よく、かつ高い選択率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、第1触媒としてハロゲン化亜鉛、第2触媒として、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上を併用することにより、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドを収率よく、かつ高い選択率で製造できることを見出した。
すなわち本発明は、下記式(1)で表される化合物と、第1級又は第2級のアルコールとを反応させるグリコシドの製造方法であって、第1触媒としてハロゲン化亜鉛、第2触媒として、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上を用いる、グリコシドの製造方法を提供する。
【0010】
【化1】
【0011】
(式中、Rは各々独立に、水素原子、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素基、又は-OR基を示し、Rは各々独立に、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上10以下の炭化水素基を示す。Rは、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素基を示す。n及びmは官能基数を示す整数であり、nは1又は2、mは0又は1、n+mは2である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドを収率よく、かつ高い選択率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[グリコシドの製造方法]
本発明のグリコシドの製造方法は、前記式(1)で表される化合物と、第1級又は第2級のアルコールとを反応させるグリコシドの製造方法であって、第1触媒としてハロゲン化亜鉛、第2触媒として、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上を用いる。
【0014】
本発明の製造方法によれば、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドを収率よく、かつ高い選択率で製造することができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明においては、第1触媒としてハロゲン化亜鉛、第2触媒として、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上を併用するが、第1触媒の亜鉛(Zn)と、第2触媒のマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)及びコバルト(II)(Co)から選ばれる1種以上の金属が錯体を形成し、原料である式(1)で表される化合物のアノマー位(C-1位)の電子状態を正に変え、また、アノマー位を立体的に嵩高くすることで、アノマー位がヒドロキシ基となる副反応を抑制しつつ、グリコシド縮合を促進するためと考えられる。
また、ルイス酸触媒は一般に空気中の水分と反応して分解し、ブレンステッド酸を生成し、これが1,2-cis-異性体を生成し易くするが、本発明に用いられる触媒によれば、空気中で使用しても水分との分解が起こりにくく、その結果1,2-cis-異性体の生成が抑制されるため、1,2-trans-異性体を収率よく製造できると考えられる。
ここで選択率とは、1,2-trans体と1,2-cis体の合計収量に対する1,2-trans体の収量の質量比〔1,2-trans体/(1,2-trans体+1,2-cis体)〕を指す。
【0015】
<下記式(1)で表される化合物>
本発明においては、原料として、下記式(1)で表される化合物が用いられる。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、Rは各々独立に、水素原子、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素基、又は-OR基を示し、Rは各々独立に、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上10以下の炭化水素基を示す。Rは、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素基を示す。n及びmは官能基数を示す整数であり、nは1又は2、mは0又は1、n+mは2である。)
【0018】
式(1)で表される化合物は、その前駆体であるグリコピラノース又はグリコフラノースのアノマー位(C-1位)のヒドロキシ基、及びアノマー位の隣の炭素原子(C-2位)に結合したヒドロキシ基の双方が、炭化水素基、好ましくはアシル型保護基で保護されたピラノース又はフラノースであることが好ましく、アシル型保護基で保護されたピラノースであることがより好ましい。
式(1)で表される化合物は、C-1~C-5位についての立体異性体を包含する。
【0019】
式(1)のRである炭化水素基の炭素数は、グリコシド収率向上の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは6以下、より更に好ましくは3以下である。
であるヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アシルオキシ基、アルキニル基、アリール基等が挙げられるが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、及びアシルオキシ基から選ばれる1種以上が好ましく、アシルオキシ基がより好ましく、アセトキシ基が更に好ましい。
【0020】
また、Rである-OR基の炭素数は、グリコシド収率向上の観点から、1以上であり、好ましくは2以上であり、そして、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、より更に好ましくは6以下、より更に好ましくは3以下である。
である-OR基のRの具体例としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられるが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、及びアシル基から選ばれる1種以上が好ましく、アシル基がより好ましく、アセチル基が更に好ましい。
以上の観点から、Rは、炭素数が、1以上20以下、好ましくは2以上18以下、より好ましくは2以上16以下、より更に好ましくは2以上14以下、より更に好ましくは2以上6以下、より更に好ましくは2又は3であるアシルオキシ基がより好ましく、アセトキシ基が更に好ましい。
【0021】
式(1)のRである炭化水素基の炭素数は、グリコシド収率向上の観点から、1以上であり、そして、10以下であり、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。
である炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられるが、アルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、及びアリール基から選ばれる1種以上が好ましく、アルキル基、アルケニル基、及びアリール基から選ばれる1種以上がより好ましく、アルキル基が更に好ましい。
【0022】
式(1)のn及びmは官能基数を示す整数であり、nは1又は2、mは0又は1、n+mは2である。これらの中でも、式(1)のnが2であり、mが0である化合物が好ましい。
本発明においては、式(1)で表される化合物として、nが1の化合物とnが2の化合物とを併用することもできる。
【0023】
式(1)で表される化合物としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、ラムノース等の糖の全てのヒドロキシ基の水素原子が、アセチル基、メトキシアセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等のアシル型保護基で保護された化合物が挙げられる。これらの中では、グルコース、ガラクトース、及びマンノースから選ばれる1種以上の糖の全てのヒドロキシ基の水素原子がアセチル基で保護された化合物が好ましい。また、これらの化合物は2つ以上を混合して使用することもできる。
【0024】
式(1)で表される化合物の好適例としては、ペンタ-O-アシル-β-グルコピラノース、ペンタ-O-アシル-α-グルコピラノース、ペンタ-O-アシル-β-ガラクトピラノース、ペンタ-O-アシル-α-ガラクトピラノース、ペンタ-O-アシル-β-マンノピラノース、及びペンタ-O-アシル-α-マンノピラノースから選ばれる1種以上が挙げられる。
これらの中では、ペンタ-O-アセチル-β-グルコピラノース、ペンタ-O-アセチル-α-グルコピラノース、ペンタ-O-アセチル-β-ガラクトピラノース、及びペンタ-O-アセチル-α-ガラクトピラノースから選ばれる1種以上が好ましく、下記式(2)で表されるペンタ-O-アセチル-β-グルコピラノースがより好ましく、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノースが更に好ましい。
【0025】
【化3】
【0026】
(アルコール)
原料であるアルコールとしては、第1級又は第2級のアルコールが用いられる。
用いられるアルコールに特に制限はないが、グリコシド、特に1,2-trans -グリコシドの収率を向上させる観点から、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上20以下の第1級アルコール及び第2級アルコールが好ましく、第1級アルコールがより好ましい。
第1級アルコール及び第2級アルコールは併用することもできる。
第1級又は第2級のアルコールの炭素数は、上記と同様の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、そして、好ましくは18以下、より好ましくは16以下である。
【0027】
第1級アルコールとしては、第1級の飽和又は不飽和アルコール、第1級芳香族アルコール、多価アルコール、糖誘導体等が挙げられる。
第1級飽和アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ペンタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、1-イコサノール等の直鎖アルコール、イソブタノール、イソヘキサノール、イソオクタノール、3,7-ジメチル-1-オクタノール、イソデカノール等の分岐鎖アルコールが挙げられる。
第1級不飽和アルコールとしては、アリルアルコール、3-ヘキセノール、1-オレイルアルコール等の他、ゲラニオール等の香料として用いられるテルペン系アルコールが挙げられる。
第1級芳香族アルコールとしては、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0028】
第2級アルコールとしては、炭化水素基の2位にヒドロキシ基を有する2-ブタノール、2-ヘキサノール、2-オクタノール、2-デカノール、2-ウンデカノール、2-ドデカノール、2-トリデカノール、2-テトラデカノール、2-ペンタデカノール、2-ヘキサデカノール、2-ヘプタデカノール、2-オクタデカノール、炭化水素基の3位にヒドロキシ基を有するアルコール、炭化水素基の4位にヒドロキシ基を有するアルコール等の他、シクロヘキサノール等の環状アルコール、ステロイドアルコール、糖誘導体等が挙げられる。
アルコールの中では、前記のとおり第1級アルコールが好ましく、炭素数4以上16以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有する第1級アルコールがより好ましく、前記のアルキル基を有する第1級飽和アルコール、第1級不飽和アルコール、第1級芳香族アルコールが更に好ましく、前記のアルキル基を有する第1級飽和アルコールがより更に好ましい。
【0029】
<グリコシドの製造方法>
本発明のグリコシドの製造における操作方法に特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、式(1)で表される化合物、第1級又は第2級のアルコール、前記の第1触媒と第2触媒、及び必要に応じて溶媒を混合し、常圧、加熱下で撹拌することにより反応させることができる。各成分の混合順序に特に制限はなく、反応容器に、式(1)で表される化合物、第1級又は第2級のアルコール、前記の第1触媒と第2触媒、及び溶媒を仕込んだ後、加熱して反応させることができる。
原料アルコールとして、反応温度よりも低い沸点を有するアルコールを用いる場合は、加圧可能な封管容器を反応容器として用いることができる。
反応は、無溶媒で行うこともでき、その場合も各成分の混合順序に制限はない。
【0030】
(触媒)
本発明においては、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドの収率を向上させる観点から、第1触媒としてハロゲン化亜鉛、第2触媒として、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上を用いる。
ハロゲン化亜鉛としては、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛が挙げられる。これらの中では、反応性の観点から、塩化亜鉛及び臭化亜鉛から選ばれる1種以上が好ましい。
【0031】
ハロゲン化マグネシウムとしては、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウムが挙げられる。これらの中では、反応性の観点から、塩化マグネシウム及び臭化マグネシウムから選ばれる1種以上が好ましく、塩化マグネシウムがより好ましい。
ハロゲン化マンガンとしては、フッ化マンガン、塩化マンガン、臭化マンガン、ヨウ化マンガンが挙げられる。これらの中では、反応性の観点から、好ましくは塩化マンガン及び臭化マンガンから選ばれる1種以上が好ましく、塩化マンガンがより好ましい。
ハロゲン化コバルト(II)としては、フッ化コバルト(II)、塩化コバルト(II)、臭化コバルト(II)、ヨウ化コバルト(II)が挙げられる。これらの中では、反応性の観点から、塩化コバルト(II)及び臭化コバルト(II)から選ばれる1種以上が好ましく、塩化コバルト(II)がより好ましい。
以上の観点から、第2触媒は、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化マンガン、臭化マンガン、塩化コバルト(II)及び臭化コバルト(II)から選ばれる1種以上が好ましく、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、塩化マンガン及び塩化コバルト(II)から選ばれる1種以上がより好ましく、塩化マグネシウム及び臭化マグネシウムから選ばれる1種以上が更に好ましく、塩化マグネシウムがより更に好ましい。
【0032】
(溶媒)
溶媒としては、アルコールを除く公知の有機溶媒を用いることができる。
溶媒は、反応温度において安定であり、かつ原料である式(1)で表される化合物を溶解できるものが好ましい。例えば、トルエン、キシレン、プソイドクメン、メシチレン、ヘミメリテン、1-メチルナフタレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル、ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ炭化水素、ジメチルホルムアミド等のアミド等が挙げられる。
反応温度よりも沸点の低い溶媒を用いる場合には、加圧可能な封管容器を反応容器に用いればよい。また、無溶媒で反応を行うこともできる。
これらの中では、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドの収率を向上させる観点、及び工業的な取り扱い性の観点から、芳香族炭化水素が好ましく、トルエン、キシレン、プソイドクメン、メシチレン、ヘミメリテン、1-メチルナフタレン等が挙げられる。
【0033】
(反応条件)
反応温度は、原料、触媒及び溶媒の種類に応じて適宜調整することができるが、溶媒として芳香族炭化水素を用いる場合は、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは95℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下である。
反応時間は、原料及び触媒の種類、反応温度に応じて適宜調整することができるが、好ましくは10分間以上、より好ましくは20分間以上、更に好ましくは30分間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは15時間以下、更に好ましくは10時間以下である。
【0034】
(各成分の使用量)
本発明方法において、各成分の使用量に特に制限はないが、グリコシドの収率、特に1,2-trans -グリコシドの収率及び選択率を向上させる観点、及び工業的観点から、以下のとおりである。
第1級又は第2級のアルコールの使用量は、式(1)で表される化合物に対するモル比〔アルコール/式(1)で表される化合物〕で、好ましくは1以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.6以下である。
【0035】
第1触媒であるハロゲン化亜鉛は、触媒量を用いることが好ましく、原料である式(1)で表される化合物に対するモル比〔ハロゲン化亜鉛/式(1)で表される化合物〕で、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.08以上、より更に好ましくは0.1以上であり、そして、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下、より更に好ましくは0.4以下である。
【0036】
第2触媒であるハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化マンガン及びハロゲン化コバルト(II)から選ばれる1種以上は、第1触媒であるハロゲン化亜鉛に対するモル比〔第2触媒/ハロゲン化亜鉛〕で、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上、より更に好ましくは0.3以上、より更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.5以下である。
本発明のグリコシドの製造方法は、バッチ式でも連続式でも適用可能である。
【実施例
【0037】
H-NMR測定>
測定試料10mgを重クロロホルム(NMR用クロロホルム-d(重水素化率99.8%、0.05vol%TMS含有)、富士フイルム和光純薬株式会社製)0.8mLで希釈し、直径5.0mmのH-NMR用チューブを用いて、H-NMR測定装置(varian社製、Agilent-NMR-vnmrs400、400MHz)により、パルス幅:45μs(45°パルス)、観測幅:6410Hz、待ち時間:10s、積算回数:16回、測定温度:室温の条件下で、H-NMR測定を行った。
【0038】
実施例1
撹拌子を備えた30mLシュレンク管に、ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース(β-GPA:東京化成工業株式会社製、7.61mmol)3.00g、3,7-ジメチル-1-オクタノール(3,7-DMO:東京化成工業株式会社製、7.61mmol)1.23g、塩化亜鉛(関東化学株式会社製、1.52mmol)0.212g、塩化マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、1.52mmol)0.149g、1-メチルナフタレン(東京化成工業株式会社製、2mL/g-ペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノース)6mLを仕込み、100℃まで昇温した。100℃で4時間反応を行った。反応終了後、反応液を0.12g取り、内標としてステアリン酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.03g、溶媒としてクロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を0.8mL添加し、ガスクロマトグラフィーを用いた内標定量法にて収率を求めた。
2,3,4,6-O-テトラアセチル-1-α-(3,7-ジメチル-1-オクチル)グルコシド(1,2-cis体)の収率は5.6質量%、2,3,4,6-O-テトラアセチル-1-β-(3,7-ジメチル-1-オクチル)グルコシド(1,2-trans体)の収率は55.7質量%、1,2-cis体と1,2-trans体の合計収率は61.3質量%であり、1,2-trans体が90.9%という高い選択率で得られた。
また、反応液を水にて洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、1-メチルナフタレンを減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液は、ヘキサン:酢酸エチル=85:15及び80:20)にて精製し、2,3,4,6-O-テトラアセチル-1-α-(3,7-ジメチル-1-オクチル)グルコシド(1,2-cis体)、及び2,3,4,6-O-テトラアセチル-1-β-(3,7-ジメチル-1-オクチル)グルコシド(1,2-trans体)を単離して、H-NMR測定を行った。得られた化合物のH-NMRデータを以下に示す。
【0039】
H-NMR(400MHz,CDCl)>
(1)2,3,4,6-O-テトラアセチル-1-α-(3,7-ジメチル-1-オクチル)グルコシド(1,2-cis体)
0.87-0.90(m,9H,-CH×3 of 3,7-dimethyl-1-octyl)
1.08-1.19(m,3H,3,7-dimethyl-1-octyl)
1.21-1.34(m,3H,3,7-dimethyl-1-octyl)
1.41(m,1H,3,7-dimethyl-1-octyl)
1.48-1.69 (m,3H,3,7-dimethyl-1-octyl)
2.02(s,3H,-OC(O)CH
2.03(s,3H,-OC(O)CH
2.06(s,3H,-OC(O)CH
2.10(s,3H,-OC(O)CH
3.45(m,1H,H-1 of 3,7-dimethyl-1-octyl)
3.73(m,1H,H-1’ of 3,7-dimethyl-1-octyl)
4.02(m,1H,H-5)
4.09(d,1H,J=12.4Hz, H-6)
4.26(dd,1H,J=4.3, 12.4Hz, H-6’)
4.86(ddd,1H,J=2.6, 3.8, 9.8Hz, H-2)
5.05(t,1H,J=9.8Hz, H-4)
5.07(d,1H,J=3.8Hz, H-1)
5.48(dt,1H,J=1.3, 9.8Hz, H-3)
【0040】
(2)2,3,4,6-O-テトラアセチル-1-β-(3,7-ジメチル-1-オクチル)グルコシド(1,2-trans体)
0.85-0.87(m,9H,-CH×3 of 3,7-dimethyl-1-octyl)
1.08-1.15(m,3H,3,7-dimethyl-1-octyl)
1.20-1.43(m,4H,3,7-dimethyl-1-octyl)
1.48-1.68(m,3H,3,7-dimethyl-1-octyl)
2.01(s,3H,-OC(O)CH
2.03(s,3H,-OC(O)CH
2.04(s,3H,-OC(O)CH
2.09(s,3H,-OC(O)CH
3.51(m,1H,H-1 of 3,7-dimethyl-1-octyl)
3.69(m,1H,H-5)
3.91(m,1H,H-1’ of 3,7-dimethyl-1-octyl)
4.14(dd,1H,J=2.0, 12.3Hz, H-6)
4.27(dd,1H,J=4.7, 12.3Hz, H-6’)
4.49(dd,1H,J=2.6, 8.1Hz, H-1)
4.99(dd,1H,J=8.1, 9.6Hz, H-2)
5.09(t,1H,J=9.6Hz, H-4)
5.21(t,1H,J=9.6Hz, H-3)
【0041】
実施例2~15、及び比較例1~5
実施例1において、表1に示す条件に変えた以外は、実施例1と同様にして、反応を行い、ガスクロマトグラフィーを用いた内標定量法にて収率を求めた。
なお、表1に示す物質の詳細は以下のとおりである。
・MgBr: SIGMA-ALDRICH社製、臭化マグネシウム
・MnCl: Strem-Chemicals社製、塩化マンガン
・CoCl: 富士フイルム和光純薬株式会社製、塩化コバルト(II)
・CuCl: 富士フイルム和光純薬株式会社製、塩化銅(II)
・トルエン : 富士フイルム和光純薬株式会社製(2mL/g-β-GPA)
・α-GPA:東京化成工業株式会社製、ペンタ-O-アセチル-α-D-グルコピラノース
【0042】
【表1】
【0043】
表1の実施例と比較例の対比から、本発明の製造方法によれば、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドを収率よく、かつ高い選択率にて製造することができることが分かる。
より具体的には、実施例1~14では、1,2-trans体が50質量%以上の収率で得られ、1,2-trans体の選択率も80%以上と高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、グリコシド、特に1,2-trans-グリコシドを収率よく、かつ高い選択率で製造する方法として有用である。