(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】電池制御システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/382 20190101AFI20230509BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20230509BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20230509BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
G01R31/382
G01R31/387
H02J7/04 L
H01M10/48 P
H01M10/48 301
(21)【出願番号】P 2019123690
(22)【出願日】2019-07-02
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】内藤 駿弥
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮平
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-222133(JP,A)
【文献】特開2014-70982(JP,A)
【文献】特開2010-273520(JP,A)
【文献】特表2014-531711(JP,A)
【文献】特開2018-74766(JP,A)
【文献】特許第7154999(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池に流れる電流の大きさを測定する電流センサ、前記電池の表面温度を測定する温度センサ、記憶装置および中央処理装置を備えた電池制御システムであって、
前記記憶装置は、前記電池の表面温度および内部温度と前記電流の大きさとの関係を規定した電池温度推定式と、前記表面温度の測定値と前記表面温度の演算値との差分を表面温度誤差とする誤差演算式と、前記電流の大きさおよび継続時間と補正係数との関係を規定した補正係数マップと、前記補正係数を乗じた前記表面温度誤差と前記内部温度の演算値との和を内部温度補正値とする内部温度補正式と、が記憶され、
前記中央処理装置は、前記電流センサによって測定された前記電流の大きさを用い、前記電池温度推定式に基づいて前記表面温度および前記内部温度を演算し、前記表面温度の演算値と、前記温度センサによって測定された前記表面温度の測定値とを用い、前記誤差演算式に基づいて前記表面温度誤差を演算し、前記電流センサによる前記電流の大きさおよび継続時間の測定値を用い、前記補正係数マップに基づいて前記補正係数を演算し、前記補正係数、前記表面温度誤差および前記内部温度の演算値を用い、前記内部温度補正式に基づいて前記内部温度補正値を演算し、前記内部温度補正値に基づいて前記電池を制御することを特徴とする電池制御システム。
【請求項2】
前記記憶装置は、前記電池の複数の部分の温度と前記電流の大きさとの関係が規定された前記電池温度推定式と、前記電池の各々の前記部分に対して前記電流の大きさおよび前記継続時間と前記補正係数との関係が規定された前記補正係数マップと、前記電池の各々の前記部分の前記補正係数を乗じた前記表面温度誤差と前記電池の各々の前記部分の温度の演算値との和を部分温度補正値とする部分温度補正式と、が記憶され、
前記中央処理装置は、前記電流センサによって測定された前記電流の大きさを用い、前記電池温度推定式に基づいて各々の前記部分の温度を演算し、前記電流センサによる前記電流の大きさおよび継続時間の測定値を用い、前記補正係数マップに基づいて各々の前記部分に対する前記補正係数を演算し、前記補正係数、前記表面温度誤差および各々の前記部分の温度の演算値を用い、前記部分温度補正式に基づいて前記部分温度補正値を演算し、前記部分温度補正値に基づいて前記電池を制御する、
請求項1に記載の電池制御システム。
【請求項3】
前記記憶装置に記憶された前記補正係数マップにおいて、
前記電流の大きさおよび前記継続時間と前記補正係数との関係は、
前記電流の大きさの測定値をI、前記電池の内部抵抗をR、時間をtとして、数式(5a)、(5b)または(5c)で表される電流時間指標CTa,CTbまたはCTcの増加にともなって、前記補正係数が増大する関係として記憶されている、
請求項1に記載の電池制御システム。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から複数の単位電池を組み合わせて構成される電池パックの表面温度に基づいて入出力制限を行う電池パック入出力制御装置に関する発明が知られている(下記特許文献1を参照)。この従来の制御装置は、電池パックの内部の最大温度を推定する最大温度推定部として、電池パックの表面温度と内部温度との温度差を推定する内外温度差推定モジュールと、各単位電池の内部抵抗の相違に起因する温度差を推定するR起因温度差推定モジュールとを含む。ここで、内外温度差とR起因温度差の推定には、吸気温度、電流負荷、冷却風量が考慮される。また、制御装置、推定された最大温度に基づいて電池パックの入出力電力の制限を行う入出力制限部を含む(同文献、要約等を参照)。
【0003】
上記従来の制御装置は、電池パックの内部における最大温度を推定し、推定された最大温度に基づいて電池パックの入出力制限を行う。ここで、電池パックの最大温度の推定は、電池内部温度と電池表面温度との間の差である電池内外温度差を、吸気温度と電流負荷と冷却風量の中の少なくとも1つに応じて推定し、複数の配置位置における各電池電圧と電流値とから各単位電池の内部抵抗を推定し、各単位電池の内部抵抗の相違に起因する電池パック内の温度差を推定する。そして、これらによって推定される温度差の合計値を電池表面温度の最大値に加算して電池パックの最大温度を推定する。このように、吸気温度や電流負荷や冷却風量の影響、単位電池の内部抵抗のばらつきの影響を反映して電池パックの最大温度を推定するので、電池パックの入出力制限を、より十分に行うことができる(同文献、第0018段落等を参照)。
【0004】
また、複数の電荷蓄積素子が中にパッケージングされた、電気車両またはハイブリッド車両のトラクション電池のモジュールのコア温度を推定する方法が知られている(下記特許文献2を参照)。この従来の方法は、電池モジュールの外壁で温度を測定すること、および前記電池モジュールの前記電荷蓄積素子内で生じた熱の拡散モデルを確立することを特徴とする(同文献、請求項1等を参照)。
【0005】
この従来の方法は、前記モデルが入力として受け取った前記モジュールの前記コア温度の関数として、前記電池モジュールの前記外壁の温度の推定値を出力として供給する。また、前記電池モジュールの前記コア温度の推定値を、前記測定温度に実質的に等しい温度値が前記モデルからの出力として得られるように、前記モデルの入力として供給される温度値を求めることによって計算する。
【0006】
この従来の方法は、前記モデルの入力として供給される温度値が、前記外壁で測定された前記温度と、前記モデルの前記出力温度との差が、実質的にゼロとなるように求められる。また、周囲空気の温度、および前記電池モジュールの端子における電流もやはり測定され、前記拡散モデルが、これらの測定値を入力として取り込む。また、電池モジュールの前記電荷蓄積素子内で生じた熱の前記拡散モデルが、前記電池モジュールの1次元空間メッシュの各ノードで熱方程式を適用することによって確立される(同文献、請求項2-4等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-222133号公報
【文献】特表2014-531711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に記載された従来の制御装置において、最大温度推定部が推定する電池パックの内部の最大温度は、電池パックの温度モデルの精度の限界から、電池パックの真の内部温度との間に誤差が生じる。
【0009】
前記特許文献2に記載された従来の方法では、電池モジュールの外壁で測定された温度と、電池モジュールの電荷蓄積素子内で生じた熱の拡散モデルの出力温度との差が、実質的にゼロとなるように、前記モデルの入力として供給される温度値が求められる。これを実現するには、たとえば、次のような二つの手法が考えられる。
【0010】
一つは、前記モデルを表す数式に測定された温度を代入して連立方程式を解く手法である。もう一つは、電池モジュールのコア温度を少しずつ調整して、このコア温度から電池モジュールの外壁での温度を導く関数を用い、外壁で測定された温度と算出された温度との誤差が実質的にゼロになるまで計算を行う手法である。しかし、これらの手法は、いずれも計算負荷が高いという課題がある。
【0011】
本開示は、電池の真の内部温度とその演算値との間の誤差を抑制しつつ、従来よりも計算負荷を低減可能な電池制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様は、電池に流れる電流の大きさを測定する電流センサ、前記電池の表面温度を測定する温度センサ、記憶装置および中央処理装置を備えた電池制御システムであって、前記記憶装置は、前記電池の表面温度および内部温度と前記電流の大きさとの関係を規定した電池温度推定式と、前記表面温度の測定値と前記表面温度の演算値との差分を表面温度誤差とする誤差演算式と、前記電流の大きさおよび継続時間と補正係数との関係を規定した補正係数マップと、前記補正係数を乗じた前記表面温度誤差と前記内部温度の演算値との和を内部温度補正値とする内部温度補正式と、が記憶され、前記中央処理装置は、前記電流センサによって測定された前記電流の大きさを用い、前記電池温度推定式に基づいて前記表面温度および前記内部温度を演算し、前記表面温度の演算値と、前記温度センサによって測定された前記表面温度の測定値とを用い、前記誤差演算式に基づいて前記表面温度誤差を演算し、前記電流センサによる前記電流の大きさおよび継続時間の測定値を用い、前記補正係数マップに基づいて前記補正係数を演算し、前記補正係数、前記表面温度誤差および前記内部温度の演算値を用い、前記内部温度補正式に基づいて前記内部温度補正値を演算し、前記内部温度補正値に基づいて前記電池を制御することを特徴とする電池制御システムである。
【発明の効果】
【0013】
本開示の上記一態様によれば、電池の真の内部温度とその演算値との間の誤差を抑制しつつ、従来よりも計算負荷を低減可能な電池制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示に係る電池制御システムの実施形態1を示す概略構成図。
【
図2A】
図1に示す電池制御システムを構成する電池パックの模式的な斜視図。
【
図2B】
図2Aに示す電池パックの単電池の位置と内部温度との関係を示すグラフ。
【
図4】
図2Aに示す電池パックの単電池の許容電力と温度との関係を示すグラフ。
【
図5】
図1に示す電池制御システムを構成する単電池制御部の回路構成の一例。
【
図6】
図1に示す電池制御システムの動作の一例を示すフロー図。
【
図7】
図1に示す電池制御システムの機能ブロック図。
【
図8】
図7に示す誤差補正機能の出力である内部温度補正値のグラフ。
【
図9】
図1に示す電池制御システムの内部温度補正値の効果を説明するグラフ。
【
図10】
図1に示す電池制御システムの内部温度補正値の効果を説明するグラフ。
【
図11】
図1に示す電池制御システムの許容電力に対する効果を説明するグラフ。
【
図12】
図1に示す電池制御システムの許容電力に対する効果を説明するグラフ。
【
図13】本開示に係る電池制御システムの実施形態2の機能ブロック図。
【
図14】実施形態2の電池制御システムの内部温度補正値の効果を説明するグラフ。
【
図15】本開示に係る電池制御システムの実施形態3の機能ブロック図。
【
図16】本開示に係る電池制御システムの実施形態4の機能ブロック図。
【
図17】本開示に係る電池制御システムの実施形態5の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本開示に係る電池制御システムの実施形態を説明する。
【0016】
電池は、モバイル端末から電力系統連携の安定化などの広い分野で利用されている。近年はCO2問題や排ガス対策、化石燃料の枯渇対策として、電気自動車やハイブリッド車など電池を動力源とした自動車が注目されている。これらの自動車に搭載される電池システムは、電池の電圧、温度、電流を検出し、これらに基づいて電池の充電率などの状態量を計算し、電池の電流、電圧の制御値を決定する電池制御装置を備えている。
【0017】
以下の実施形態では、本開示に係る電池制御システムを、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)の電源を構成する電池システムに適用した例を説明する。なお、本開示に係る電池制御システムは、PHEVの電池システムだけでなく、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)などの乗用車やハイブリッド鉄道車両を含む産業用車両の電源を構成する蓄電装置の蓄電器制御回路に適用可能である。
【0018】
また、以下の実施形態では、本開示に係る電池制御システムの制御対象である電池として、リチウムイオン二次電池を採用した例を説明する。なお、電池としては、リチウムイオン二次電池に限定されず、ニッケル水素電池、鉛電池、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタなどを採用することが可能である。また、複数の単電池を直列に接続して組電池を構成してもよく、複数の単電池を並列に接続して組電池を構成してもよく、複数の単電池を直列に接続して電池群を構成し、さらに複数の電池群を並列に接続して組電池を構成してもよい。
【0019】
[実施形態1]
図1は、本開示に係る電池制御システムの実施形態1を示す概略構成図である。
図1に示す例において、電池制御システム100は、リレー200を介して充電器300およびインバータ400に接続されている。また、電池制御システム100の組電池制御部150ならびに充電器300およびインバータ400は、信号線を介して車両制御部500に接続されている。さらにインバータ400は、モータジェネレータ600に接続されている。
【0020】
本実施形態に係る電池制御システム100は、たとえば、組電池110と、単電池管理部120と、電流検知部130と、電圧検知部140と、組電池制御部150と、通信経路160と、絶縁素子170と、記憶装置180と、中央処理装置190とを備えている。組電池110は、たとえば、直流電流の充放電によって電気エネルギーの蓄積および放出が可能な複数の単電池1を直列に接続した構成を有している。また、図示を省略するが、組電池110は、たとえば、単電池1の周囲の環境温度を取得する環境温度センサを備えている。
【0021】
図1に示す例において、組電池110は、複数の単電池1が直列に接続されて電池群111が構成され、複数の電池群111が直列に接続された構成を有している。
図1では、図示の都合上、組電池110が、直列に接続された二つの電池群111を備え、各々の電池群111が、直列に接続された四つの単電池1を備える例を示している。しかし、組電池110が備える電池群111の数、直列または並列などの電池群111の接続方法、および、各々の電池群111が備える単電池1の数などは、特に限定されない。
【0022】
個々の電池群111は、たとえば単電池1の状態管理および制御の単位となる。なお、複数の電池群111は、並列に接続されていてもよい。また、電池群111を構成する単電池1の数は、すべての電池群111で同数であってもよく、各々の電池群111で異なっていてもよい。
【0023】
図2Aは、
図1に示す電池制御システム100を構成する電池パック100Pの一例を示す模式的な斜視図である。
図2Bは、
図2Aに示す電池パック100Pを構成する単電池1の位置と内部温度との関係を示すグラフである。
図3は、
図2Aに示す電池パック100Pの模式的な断面図である。なお、
図2Aでは、組電池110の主要な構成を説明するために、電池パック100Pの筐体101およびジャンクションボックス102を仮想線(二点鎖線)で示し、筐体101の内部の一部の構成の図示を省略している。また、
図2Bにおいて、横軸は電池パック100Pの高さ方向Zにおける単電池1の位置であり、縦軸は単電池1の内部温度である。
【0024】
電池パック100Pは、たとえば、筐体101と、その筐体101の内部に収容される組電池110と、その組電池110とともに筐体101に収容されるジャンクションボックス102と、を備えている。筐体101は、たとえば、金属や樹脂を素材する矩形の箱形の容器である。組電池110は、たとえば、筐体101の底壁および側壁にボルトなどの締結部材を介して固定される。
【0025】
筐体101の内部で組電池110の前方に配置されたジャンクションボックス102は、たとえば、組電池110を構成する金属板や金属ブロックなどの構造体112または筐体101に、ボルトなどの締結部材を介して直接または間接的に固定される。構造体112は、たとえば、複数の単電池1を集積させた電池群111の両側に配置され、外力が作用したときに組電池110を保護するとともに、組電池110の放熱を促進させる放熱部材としても機能する。なお、構造体112は、組電池110の用途によっては、省略することも可能である。
【0026】
組電池110は、複数の電池、すなわち、複数の単電池1を集積させ、たとえば直列に接続することによって構成されている。組電池110は、たとえば、複数の電池群111を含んでいる。一つの電池群111は、たとえば、共通の単電池管理部120によって管理される複数の単電池1を含んでいる。組電池110および電池群111を構成する複数の単電池1は、隣り合う二つの単電池1の外部端子を、たとえばバスバーなどの導電部材によって接続することで、直列または並列に接続される。
【0027】
単電池1は、たとえば、扁平な角形のリチウムイオン二次電池であり、巻回体1aと、一対の集電板1bと、容器1cと、一対の外部端子1dとを備えている。巻回体1aは、長尺帯状の正極と負極を、長尺帯状のセパレータを介在させて重ね合せ、これらを巻回した構成を有している。巻回体1aは、巻回軸方向の一端で負極の集電体がセパレータから露出し、巻回軸方向の他端で正極の集電体がセパレータから露出している。
【0028】
一対の集電板1bのうち、一方の集電板1bは、巻回体1aの一端に露出した正極の集電体に接合された正極集電板であり、他方の集電板1bは巻回体1aの他端に露出した負極の集電体に接合された負極集電板である。容器1cは、たとえば、アルミニウムやその合金によって製作され、巻回体1a、集電板1bおよび電解液を収容するとともに、巻回体1a、集電板1b、および外部端子1dに対して電気的に絶縁されている。
【0029】
一対の外部端子1dは、容器1cの端面に絶縁部材を介して配置されている。一対の外部端子1dのうち、一方の外部端子1dは、容器1cの内部で正極集電板である一方の集電板1bに接続された正極外部端子であり、他方の外部端子1dは、容器1cの内部で負極集電板である他方の外部端子1dに接続された負極外部端子である。単電池1は、たとえば、一対の外部端子1dが設けられた容器1cの端面に、温度センサ2が配置されている。
【0030】
図2Aに示す電池パック100Pにおいて、単電池1は、たとえば扁平な角形の形状を有している。偏平角形の複数の単電池1は、各々の単電池1の幅方向が筐体101の底壁に平行になるように、各々の単電池1の厚さ方向に重ねられ、筐体101の底壁の上に配置されている。
図2Aに示す例では、筐体101の底壁に垂直な組電池110の高さ方向Zに六個の単電池1を集積させた電池群111が、単電池1の幅方向に二列、並んで配置されている。なお、電池群111を構成する単電池1の数や、電池群111の数は特に限定されない。
【0031】
このような単電池1の配置では、単電池1の温度分布に次のような傾向がある。たとえば、
図2Bに示すように、複数の単電池1が集積された電池パック100Pの高さ方向Zにおいて、両端の単電池1の内部温度が最も低く、中央部に配置された単電池1の内部温度が最も高くなる傾向がある。これは、複数の単電池1が集積された方向において、両端の単電池1の放熱が、中央部に配置された単電池1の放熱よりも容易であるためである。また、各々の単電池1においても、たとえば、冷媒、放熱部材、構造体112などと接触している部分は放熱が促進され、その他の部分よりも低温になる傾向がある。
【0032】
図4は、単電池1の許容電力と、単電池1の温度との関係を示すグラフである。単電池1の制御パラメータの多くは、単電池1の温度に依存する。そのような制御パラメータの一つとして、直流抵抗(Direct Current Resistance:DCR)がある。DCRは、単電池1の温度が低下するほど上昇する。そのため、
図4に示すように、単電池1の温度が低下するほど、単電池1の許容電力が低下する。ここで、許容電力とは、単電池1の保護をするために設定された単電池1が出力可能な最大電力値である。
【0033】
図1に示す各々の電池群111を構成する複数の単電池1のうち、少なくとも一つの単電池1の外表面には、その単電池1の表面温度を測定する温度センサ2が設けられている。組電池110の許容電力は、単電池1の充電時や放電時に、単電池1の上限電圧や下限電圧に達する電力である。単電池1の内部抵抗は、単電池1の内部温度が低いほど高くなる傾向がある。そのため、直列に接続されて同じ大きさの電流が流れる複数の単電池1のうち、最低温度の単電池1が最短時間で上限電圧や下限電圧に達する。
【0034】
すなわち、組電池110の許容電力は、組電池110に最大電流が流れているときの出力であり、組電池110に流すことができる最大電流は、直列に接続された複数の単電池1のうち、最低温度の単電池1の下限電流および上限電流によって制限される。したがって、組電池110の許容電力を算出するには、電池群111を構成する複数の単電池1のうち、最低温度の単電池1の内部温度を用いる必要がある。
【0035】
そのため、温度センサ2は、たとえば、前述のような単電池1の温度分布の傾向を考慮して、各々の電池群111を構成する複数の単電池1のうち、最も低温になる単電池1の外表面に設けられる。また、温度センサ2は、各々の電池群111を構成する複数の単電池1のうち、最も低温になる単電池1と、最も高温になる単電池1の外表面に設置してもよい。また、温度センサ2は、各々の電池群111を構成するすべての単電池1の外表面に設置してもよい。
【0036】
ジャンクションボックス102は、たとえば、単電池管理部120や中央処理装置190を含む組電池制御部150などの制御部およびリレーなどの電子部品が収容され、組電池110に接続されている。また、ジャンクションボックス102は、たとえば、単電池1の電圧を測定する電圧センサとしての電圧検出回路121a(
図5参照)、温度センサ2、電流検知部130および電圧検知部140などに接続されている。
【0037】
単電池管理部120は、たとえば
図1に示すように、各々の電池群111に対して設けられた単電池制御部121を備えている。単電池制御部121は、電池群111を構成する各々の単電池1の状態を監視し、各々の単電池1を制御する。
【0038】
図5は、
図1に示す電池制御システム100の単電池管理部120を構成する単電池制御部121の回路構成の一例である。単電池制御部121は、たとえば、電圧検出回路121aと、温度検知部121bと、制御回路121cと、信号入出力回路121dとを備えている。また、図示を省略するが、単電池制御部121は、たとえば、単電池1の自己放電や消費電流のばらつきなどにともなって発生する単電池1間の電圧やSOCのばらつきを均等化する回路を備えている。
【0039】
電圧検出回路121aは、単電池1の電圧を測定する電圧センサであり、電池群111を構成する各々の単電池1の正極と負極の外部端子1dの間の電圧を測定する。温度検知部121bは、たとえば単電池1の表面温度を測定する温度センサ2に接続された温度検出回路である。なお、温度センサ2によって測定した単電池1の表面温度の検出は、電圧検出回路121aによって行うことも可能である。
【0040】
温度検知部121bは、たとえば、電池群111の全体として、少なくとも一つの温度を測定し、その温度をその電池群111を構成する単電池1の温度の代表値として出力する。そのため、
図5に示す例において、単電池制御部121は、一つの温度検知部121bを備えている。なお、単電池制御部121は、各々の単電池1に対して一つの温度検知部121bを有してもよい。しかし、この場合は、単電池制御部121に一つの温度検知部121bを設ける場合よりも単電池制御部121の構成が複雑になる。
【0041】
温度検知部121bから出力される単電池1の表面温度は、たとえば、単電池制御部121および組電池制御部150において、単電池1、電池群111、または組電池110の状態を判定するための各種の演算に用いられる。また、温度検知部121bから出力される単電池1の表面温度は、たとえば、中央処理装置190による各種の演算に用いられる。
【0042】
制御回路121cは、電圧検出回路121aから出力された単電池1の外部端子1d間の電圧値と、温度検知部121bから出力された単電池1の表面温度の測定値とが入力される。制御回路121cは、入力された各々の単電池1の電圧値と、電池群111ごとの単電池1の表面温度の測定値とを、信号入出力回路121dへ出力する。信号入出力回路121dは、制御回路121cから出力された単電池1の電圧値と、電池群111ごとの単電池1の表面温度の測定値とを、通信経路160および絶縁素子170を介して組電池制御部150へ出力する。
【0043】
図1に示すように、電流検知部130は、たとえば組電池110に流れる電流を検知して電流値を測定する電流計または電流センサである。電圧検知部140は、たとえば組電池110の全体の電圧を検知して電圧値を測定する電圧計または電圧センサである。組電池制御部150は、たとえば、組電池110の状態を検知するとともに、組電池110の状態を管理する。より具体的には、組電池制御部150には、たとえば、単電池管理部120から出力された単電池1の電圧や温度、電流検知部130から出力された組電池110を流れる電流値、電圧検知部140から出力された電池群111の全体の電圧値などの情報が入力される。
【0044】
組電池制御部150は、たとえば中央処理装置190を備え、入力された情報に基づいて組電池110の状態を判定および検知する。組電池制御部150は、組電池110の状態の判定結果または検知結果を、信号線を介して単電池管理部120や車両制御部500へ出力する。また、組電池制御部150は、たとえば通信経路160およびフォトカプラなどの絶縁素子170を介して単電池管理部120に接続され、単電池管理部120との間で通信経路160および絶縁素子170を介して信号を送受信する。
【0045】
組電池制御部150と単電池管理部120とは、たとえば動作電源が異なっている。具体的には、組電池制御部150は、たとえば車載補機用の14[V]系の電源を用い、単電池管理部120は、たとえば組電池110を電源として用いる。そのため、組電池制御部150と単電池管理部120とは、相互に絶縁素子170を介して信号を送受信する。なお、絶縁素子170は、単電池管理部120を構成する回路基板に実装してもよく、組電池制御部150を構成する回路基板に実装してもよい。また、電池制御システム100の構成によっては、絶縁素子170を省略することも可能である。
【0046】
組電池制御部150と単電池管理部120を構成する複数の単電池制御部121との間の通信について、より詳細に説明する。複数の単電池制御部121は、たとえば各々の電池群111と同様に直列に接続されている。すなわち、複数の単電池制御部121は、監視対象の電池群111の電位が最も高い単電池制御部121から、監視対象の電池群111の電位が最も低い単電池制御部121まで、監視対象の電池群111の電位の降順に直列に接続されている。
【0047】
組電池制御部150から出力された情報は、通信経路160および絶縁素子170を介して、監視対象の電池群111の電位が最も高い単電池制御部121に入力される。さらに、組電池制御部150から出力されて監視対象の電池群111の電位が最も高い単電池制御部121に入力された情報およびその単電池制御部121の出力は、その次に監視対象の電池群111の電位が高い単電池制御部121へ入力される。
【0048】
これが順次繰り返されることで、最終的にすべての電池群111の情報を含む情報が監視対象の電池群111の電位が最も低い単電池制御部121から出力され、通信経路160および絶縁素子170を介して組電池制御部150に入力される。なお、隣り合う単電池制御部121間の通信は、たとえば、これらの間に配置した絶縁素子170を介して行うことも可能である。
【0049】
記憶装置180は、たとえば、RAMやROMなどのメモリやハードディスクなどによって構成され、
図1に示す例において、組電池制御部150の外部に設けられている。なお、記憶装置180は、組電池制御部150を構成する回路基板に実装されていてもよい。また、記憶装置180は、たとえば、組電池制御部150や単電池制御部121を構成する回路基板のそれぞれに実装されていてもよい。
【0050】
記憶装置180は、たとえば、組電池110、それぞれの電池群111、およびそれぞれの単電池1の情報が記憶される。具体的には、たとえば、前記した各構成についての内部抵抗特性、満充電時の容量、分極特性、劣化特性、個体差情報、充電率(State of charge: SOC)、開放電圧(Open circuit voltage: OCV)などの情報が、記憶装置180に記憶される。また、記憶装置180は、たとえば、電池温度推定式と、誤差演算式と、補正係数マップと、内部温度補正式と、が記憶されている。以下、記憶装置180に記憶される演算式をより詳細に説明する。
【0051】
電池温度推定式は、単電池1の表面温度および内部温度と、単電池1に流れる電流の大きさとの関係を規定した式である。電池温度推定式は、たとえば単電池1の温度モデルであり、以下の数式(1)および(2)によって表される。
【0052】
【0053】
【0054】
上記数式(1)において、T(t)seqは、単電池1の温度の演算値であり、fは、たとえば熱回路網法によって規定される関数である。熱回路網法は、モデル化対象の熱的な系を、簡単化した複数の質点間の熱量の移動で表現する手法である。熱移動量は、2点間の温度差と熱抵抗によって決まり、移動および発生した熱量は、系全体で質点の温度上昇に用いる熱量として保存される。
【0055】
また、上記数式(1)において、tは今回の演算時の時刻、Δtは前回の演算時の時刻と今回の演算時の時刻との時間間隔、T(t-Δt)seqは、前回の演算時刻における単電池1の温度の演算値、Qgen(t)は、単電池1の発熱量、Tamb(t)は、単電池1の周囲の環境温度である。なお、T(t)seqおよびT(t-Δt)seqは、単電池1の内部温度Tin(t)、表面温度Tsur(t)、およびその他の部分の温度Toth(t)を含む単電池1の複数の部分の温度の数列である。
【0056】
なお、関数fは、上記数式(1)に限定されない。具体的には、たとえば、前回の単電池1の温度の演算値T(t-Δt)seqと発熱量Qgen(t)、および環境温度Tambを用い、単電池1の温度T(t)seqは、前回の単電池1の温度の演算値T(t-Δt)seqを開始温度とし、電池設計によって定まる時定数τで環境温度Tambに近づく式でもよい。
【0057】
また、前回の単電池1の温度の演算値T(t-Δt)seqと発熱量Qgen(t)、および環境温度Tambと、今回の単電池1の内部温度Tinとの関係を規定したマップが記憶装置180に記憶されていてもよい。この場合、前回の単電池1の温度の演算値T(t-Δt)seqと発熱量Qgen(t)と環境温度Tambとを入力とし、今回の単電池1の内部温度Tinをマップから探索するようにしてもよい。
【0058】
上記数式(2)において、Rは、単電池1の抵抗の演算値、SOC(t)は、演算時の時刻tにおける単電池1のSOCの演算値、T’in(t-Δt)は、前回の単電池1の内部温度補正値、I(t)は、単電池1を流れる電流の測定値である。単電池1の抵抗値は、たとえば、単電池1の抵抗値とSOCと温度との関係から求めることが可能である。すなわち、記憶装置180は、単電池1に流れる電流の大きさとの関係を規定した電池温度推定式として、たとえば上記の数式(1)および(2)が記憶されている。
【0059】
なお、単電池1の発熱量Qgen(t)は、前回の単電池1の内部温度補正値T’in(t-Δt)を用いることなく演算することも可能である。すなわち、記憶装置180は、上記の数式(2)に代えて、単電池1の電流値、SOCおよび環境温度と、単電池1の内部温度および表面温度との関係を実験的に取得することで作成された実験結果のマップが記憶されていてもよい。また、単電池1のSOCは、たとえば、記憶装置180に記憶された単電池1を流れる電流値と電圧値との関係に基づいて、中央処理装置190によって算出することができる。
【0060】
また、単電池1の発熱量Qgen(t)は、以下の数式(3)によって演算することも可能である。すなわち、記憶装置180は、以下の数式(3)が記憶されていてもよい。
【0061】
【0062】
上記数式(3)において、Qgen(t)は、単電池1の発熱量、CCV(t)は、単電池1の電圧の測定値、OCV(t)は、単電池1の開放電圧の演算値、Iは、単電池1を流れる電流の測定値である。なお、あらかじめ単電池1の充電率SOCと測定電圧CCVとの関係を実験的に取得し、充電率SOCと測定電圧CCVとの対応関係を表すマップやグラフを記憶装置180に保存しておくことができる。これにより、中央処理装置190により、充電率SOC(t)の演算値と、充電率SOCと測定電圧CCVとの対応関係を表すマップやグラフに基づいて、単電池1の開放電圧OCV(t)を演算することができる 。
【0063】
また、記憶装置180には、前述のように、誤差演算式が記憶される。誤差演算式は、単電池1の表面温度の測定値と単電池1の表面温度の演算値との差分を表面温度誤差とする式であり、たとえば、以下の数式(4)によって表すことができる。
【0064】
【0065】
上記数式(4)において、Tsur,mes(t)は、単電池1の表面温度の測定値、Tsur,cal(t)は、単電池1の表面温度の演算値である。また、上記数式(4)において、ΔTsur(t)は、演算と演算との間の時間間隔Δtの間での単電池1の表面温度の測定値Tsur,mes(t)と演算値Tsur,cal(t)との差分、すなわち単電池1の表面温度誤差の時間変化率である。簡単のため、表面温度誤差の時間変化率を単に「表面温度誤差」という。
【0066】
また、記憶装置180には、前述のように、補正係数マップが記憶される。補正係数マップは、単電池1を流れる電流の大きさおよび継続時間と補正係数との関係を規定したマップである。より具体的には、記憶装置180には、たとえば、以下の数式(5a)、(5b)または(5c)で表される電流時間指標演算式が記憶されている。
【0067】
【0068】
上記数式(5a)、(5b)、(5c)において、CTa,CTb,CTcは、それぞれ、単電池1に流れる電流の大きさとその電流の継続時間とに基づいて決定され、補正係数を求めるために用いられる電流時間指標である。また、上記数式(5a)、(5b)、(5c)において、Iは、単電池1を流れる電流の測定値、tは、単電池1を流れる電流の継続時間、Rは、単電池1の内部抵抗の演算値である。
【0069】
また、記憶装置180に記憶される補正係数マップは、たとえば、上記電流時間指標CTa,CTbまたはCTcと、補正係数αとの関係を規定するマップである。より具体的には、補正係数マップは、たとえば、電流時間指標CTa,CTbまたはCTcと補正係数αとの関係を示すグラフやテーブルである。補正係数αは、単電池1の内部温度の演算値を補正して、より正確な単電池1の内部温度の補正値を演算するために用いられる。
【0070】
補正係数マップにおいて、補正係数αは0以上の値であり、電流時間指標CTa,CTbまたはCTcと補正係数αとが一対一で対応している。補正係数マップにおいて、補正係数αは、たとえば、電流時間指標CTa,CTbまたはCTcの増加にともなって、増大するように決定される。すなわち、記憶装置180に記憶された補正係数マップにおいて、電流の大きさおよび継続時間と補正係数αとの関係は、電流の大きさの測定値をI、電池の内部抵抗をR、時間をtとして、上記数式(5a)、(5b)または(5c)で表される電流時間指標CTa,CTbまたはCTcの増加にともなって、補正係数αが増大する関係として記憶されている。
【0071】
また、補正係数マップは、たとえば、実験的に作成して記憶装置180に記憶させることも可能である。具体的には、たとえば、単電池1と同等の実験用電池を用意し、その実験用電池に内部温度を測定可能な温度計と表面温度を測定可能な温度計を設置する。そして、実験用電池を繰り返し充放電させ、実験用電池の内部温度と表面温度を実測する。また、実験用電池を流れる電流と実験用電池の電圧を測定し、測定した電流値と電圧値に基づいて実験用電池の内部温度と表面温度の演算値を求める。そして、実験用電池の内部温度の測定値と演算値との間の内部温度誤差と、実験用電池の表面温度の測定値と演算値との間の表面温度誤差を求める。
【0072】
そして、実験用電池の表面温度誤差に対して内部温度誤差が大きいほど補正係数αが大きくなり、実験用電池の表面温度誤差に対して内部温度誤差が小さいほど補正係数αが小さくなるように補正係数マップを作成する。換言すると、実験用電池の発熱量誤差が大きいほど補正係数αが大きくなり、実験用電池の発熱量誤差が小さいほど補正係数αが小さくなるように補正係数マップを作成する。このようにして、実験的に作成した補正係数マップを記憶装置180に記憶させることができる。
【0073】
また、記憶装置180には、前述のように、内部温度補正式が記憶される。内部温度補正式は、以下の数式(6)で表されるように、補正係数αを乗じた単電池1の表面温度誤差ΔTsur(t)と単電池1の内部温度の演算値Tin(t)との和を内部温度補正値T’in(t)とする式である。
【0074】
【0075】
また、記憶装置180は、以下の数式(7)で表されるように、単電池1の表面温度の測定値Tsur,mes(t)を表面温度補正値T’sur,cal(t)とする表面温度補正式が記憶されていてもよい。
【0076】
【0077】
以上のように、本実施形態の記憶装置180は、たとえば、前記数式(1)および(2)で表される電池温度推定式と、前記数式(4)で表される誤差演算式と、数式(5a)、(5b)または(5c)で表される電流時間指標演算式と、電流時間指標CTa,CTbまたはCTcと補正係数αとの関係を示す補正係数マップと、前記数式(6)で表される内部温度補正式と、が記憶されている。
【0078】
中央処理装置190は、
図1に示すように、たとえば組電池制御部150を構成する回路基板に実装され、記憶装置180に対して情報通信可能に接続されている。なお、中央処理装置190は、たとえば、単電池管理部120を構成する回路基板に実装されてもよい。
【0079】
また、中央処理装置190は、たとえば、単電池1に流れる電流を測定する電流センサである電流検知部130に信号線を介して接続され、電流検知部130による電流の測定値を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、組電池110の電圧を測定する電圧検知部140に信号線を介して接続され、電圧検知部140による電圧の測定値を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、図示を省略する環境温度センサに信号線を介して接続され、環境温度センサから単電池1の周囲の環境温度を取得する。
【0080】
また、中央処理装置190は、たとえば、通信経路160および絶縁素子170を介して単電池制御部121に接続されている。これにより、中央処理装置190は、単電池制御部121が備える電圧センサによって測定された電池群111を構成する個々の単電池1の電圧を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、温度センサ2によって測定された各々の電池群111の少なくとも一つの単電池1の表面温度の測定値を取得する。中央処理装置190は、記憶装置180に記憶された情報や、上記センサ等から取得した情報に基づいて、各種の演算を実行する。
【0081】
充電器300は、たとえばリレー200を介して電池制御システム100に接続されている。充電器300は、たとえば電池制御システム100の充電時に、家庭や充電スタンドに設置された電源に接続される。充電器300は、たとえば信号線を介して車両制御部500に接続され、車両制御部500からの指令に基づいて、充電電圧や充電電流などを制御する。なお、充電器300は、たとえば信号線を介して組電池制御部150に接続され、組電池制御部150からの指令に基づいて、充電電圧や充電電流などを制御してもよい。充電器300は、たとえば、その性能、使用目的、外部の電源の設置条件、および車両の構成などに応じて、車両の内部または外部に設置される。
【0082】
インバータ400は、たとえばリレー200を介して電池制御システム100に接続されている。また、インバータ400は、モータジェネレータ600に接続されている。車両制御部500は、組電池制御部150から出力された情報に基づいて、インバータ400を制御する。また、車両制御部500は、リレー200を介して電池制御システム100に接続された充電器300を制御する。
【0083】
電池制御システム100が搭載された車両は、たとえば車両制御部500の制御の下、電池制御システム100がリレー200を介してインバータ400に接続される。これにより、組電池110を構成する単電池1に蓄積された電気エネルギーによってモータジェネレータ600が駆動され、車両が走行する。また、車両の制動時にモータジェネレータ600で発電された回生電力が、インバータ400およびリレー200を介して電池制御システム100に供給され、組電池110を構成する単電池1が充電される。
【0084】
また、充電器300が家庭や充電スタンドなどに設置された外部の電源に接続されると、車両制御部500からの指令に基づいて、リレー200を介して充電器300と電池制御システム100が接続される。これにより、外部の電源から充電器300およびリレー200を介して電池制御システム100に電力が供給され、組電池110を構成する単電池1が所定の条件を満たすまで充電される。
【0085】
電池制御システム100の組電池110を構成する単電池1に蓄積された電気エネルギーは、車両の次の走行や車両の内外の電装品などを動作させるために使用される。また、電池制御システム100の組電池110を構成する単電池1に蓄積された電気エネルギーは、必要に応じて、家庭用の電源など、車両の外部へ供給されることがある。
【0086】
次に、本実施形態の電池制御システム100の動作を説明する。
【0087】
図6は、電池制御システム100の動作の一例を示すフロー図である。電池制御システム100は、まず、システムをオンにするか否かの起動判定処理P1を実行する。より具体的には、電池制御システム100は、たとえば中央処理装置190によって、車両の起動スイッチがオンかオフかを判定する。中央処理装置190は、車両の起動スイッチがオフである(NO)と判定すると、起動判定処理P1を繰り返し実行し、車両の起動スイッチがオンである(YES)と判定すると、システムをオンにして起動させ、履歴読み出し処理P2を実行する。
【0088】
履歴読み出し処理P2において、電池制御システム100は、たとえば中央処理装置190によって、前回、システムが停止する直前に記憶装置180に記憶させたシステムの停止時点、その停止時点における単電池1の温度、およびシステム停止時の単電池1のSOCなどを読み込む。次に、電池制御システム100は、初期条件判定処理P3を実行する。
【0089】
初期条件判定処理P3において、電池制御システム100は、たとえば中央処理装置190により、前回のシステムの停止時点から今回のシステムの起動時点までの経過時間を取得し、その経過時間を記憶装置180に記憶されたしきい値時間と比較する。その経過時間がしきい値時間よりも長ければ、中央処理装置190は、たとえば温度センサ2による単電池1の表面温度の測定値を、単電池1の内部温度の初期値として設定する。また、経過時間がしきい値時間以下であれば、中央処理装置190は、前記数式(1)において、単電池1の発熱量Qgen(t)をゼロとし、前回の演算時の時刻と今回の演算時の時刻との時間間隔Δtを前記経過時間として、単電池1の温度の演算値T(t)seqを出力する。
【0090】
次に、電池制御システム100は、温度計算処理P4、誤差補正処理P5、および停止判定処理P6を実行する。これらの処理は、中央処理装置190によって、演算の時間間隔Δtごとに実行される。
【0091】
図7は、本実施形態の電池制御システム100の機能ブロック図である。電池制御システム100は、たとえば、温度演算機能F1と、補正係数演算機能F2と、誤差補正機能F3とを備えている。これらの各機能は、たとえば、記憶装置180に記憶された各種の情報やプログラムと、それらを用いて演算を行う中央処理装置190によって実現される。
【0092】
中央処理装置190は、まず、温度演算機能F1、補正係数演算機能F2、および誤差補正機能F3の入力となる情報を取得し、または演算する。具体的には、中央処理装置190は、たとえば、環境温度センサから単電池1の周囲の環境温度Tamb(t)を取得し、電流検知部130から単電池1に流れる電流値I(t)を取得し、温度センサ2から単電池1の表面温度の測定値Tsur,mes(t)を取得する。また、中央処理装置190は、たとえば、取得した単電池1を流れる電流値や単電池1の電圧、記憶装置180に記憶された情報などに基づいて、単電池1の劣化状態(State of Health: SOH)、SOC(t)、OCV(t)などを演算する。
【0093】
電池制御システム100は、たとえば、
図7に示す温度演算機能F1によって、
図6に示す温度計算処理P4を実行する。温度演算機能F1において、中央処理装置190は、たとえば、電流センサとしての電流検知部130によって測定された電流の大きさの測定値I(t)を入力として用いる。そして、中央処理装置190は、前記した数式(1)および(2)で表される電池温度推定式に基づいて、単電池1の表面温度の演算値T
sur,cal(t)および内部温度の演算値T
in(t)を含む温度の演算値T(t)
seqを演算する。
【0094】
図7に示す例では、中央処理装置190は、温度演算機能F1の入力として、電流の測定値I(t)に加え、たとえば、単電池1の周囲の環境温度T
amb(t)と、単電池1のSOC(t)を入力とする。そして、中央処理装置190は、温度演算機能F1の出力として、演算の時間間隔Δtごとの単電池1の表面温度の演算値T
sur,cal(t)および内部温度の演算値T
in(t)を含む演算値T(t)
seqを出力する。
【0095】
すなわち、温度演算機能F1において、中央処理装置190は、まず、前記の数式(2)に基づいて、単電池1のSOC(t)と、前回の単電池1の温度の演算値T(t-Δt)seqと電流の測定値I(t)とを入力として、時刻t-Δtから時刻tまでの単電池1の発熱量Qgen(t)を演算する。次に、中央処理装置190は、前記の数式(1)に基づいて、前回の単電池1の温度の演算値T(t-Δt)seqと、時刻t-Δtから時刻tまでの単電池1の発熱量Qgen(t)と、環境温度Tamb(t)とを入力とし、今回の単電池1の温度の演算値T(t)seqを演算して出力する。
【0096】
次に、電池制御システム100は、
図7に示す補正係数演算機能F2および誤差補正機能F3により、
図6に示す誤差補正処理P5を実行する。補正係数演算機能F2において、中央処理装置190は、電流センサによる電流の大きさの測定値I(t)および電流の継続時間の測定値を用い、記憶装置180に記憶された補正係数マップに基づいて補正係数αを演算する。
【0097】
より具体的には、補正係数演算機能F2において、中央処理装置190は、たとえば、補正係数マップにおいて補正係数αと一対一で対応する電流の大きさおよび継続時間として、前記数式(5a)、(5b)または(5c)で表される電流時間指標CTa,CTbまたはCTcを演算する。そして、得られた電流時間指標CTa,CTbまたはCTcを用い、記憶装置180に記憶された補正係数マップに基づいて、補正係数αを演算して出力する。
【0098】
次に、誤差補正機能F3において、中央処理装置190は、たとえば、温度演算機能F1から出力された単電池1の表面温度の演算値Tsur,cal(t)および内部温度の演算値Tin(t)、補正係数演算機能F2から出力された補正係数α、ならびに、温度センサ2による単電池1の表面温度の測定値Tsur,mes(t)を入力とする。そして、中央処理装置190は、表面温度の演算値Tsur,mes(t)と、温度センサ2によって測定された表面温度の測定値Tsur,mes(t)とを用い、前記数式(4)で表される誤差演算式に基づいて表面温度誤差ΔTsur(t)を演算する。
【0099】
さらに、誤差補正機能F3において、中央処理装置190は、補正係数演算機能F2で出力した補正係数αと、表面温度誤差ΔTsur(t)および内部温度の演算値Tin(t)を用い、前記数式(6)で表される内部温度補正式に基づいて、内部温度補正値T’in(t)を演算して出力する。また、誤差補正機能F3において、中央処理装置190は、たとえば、前記数式(7)で表される表面温度補正式に基づいて、単電池1の表面温度の測定値Tsur,mes(t)を表面温度補正値T’sur,cal(t)として出力する。
【0100】
以上のように、電池制御システム100は、
図6に示す起動判定処理P1から誤差補正処理P5を経て、
図7に示す誤差補正機能F3から出力された内部温度補正値T’
in(t)を用い、組電池制御部150および単電池管理部120によって組電池110、電池群111および単電池1を制御する。
【0101】
次に、電池制御システム100は、
図6に示す停止判定処理P6を実行する。より具体的には、電池制御システム100は、たとえば中央処理装置190によって、車両の起動スイッチがオフか否かを判定する。中央処理装置190は、車両の起動スイッチがオフでない(NO)と判定すると、温度計算処理P4に戻り、車両の起動スイッチがオフである(YES)と判定すると、履歴書き出し処理P7を実行する。
【0102】
履歴書き出し処理P7において、電池制御システム100は、たとえば中央処理装置190によって、車両の起動スイッチがオフになった停止時点、停止時点での単電池1の温度、停止時点での単電池1のSOCを、記憶装置180に上書きして記憶させる。以上により、電池制御システム100の動作が終了し、再度、起動判定処理P1が開始される。
【0103】
たとえば、本実施形態の電池制御システム100において、組電池110を構成するすべての単電池1は、通常、SOCがほぼ等しくなるように制御され、開放電圧がほぼ等しい。単電池1の開放電圧とは、単電池1に電流が流れていないとき、すなわち、単電池1を流れる電流の大きさがゼロの場合の単電池1の電圧値である。
【0104】
単電池1の電圧は、単電池1の内部温度に依存する内部抵抗によって決まる。単電池1の内部抵抗は、主に巻回体1aの温度、すなわち単電池1の内部温度に依存し、単電池1の内部温度が低いほど、単電池1の内部抵抗が高くなる傾向がある。そのため、直列に接続されて同じ大きさの電流が流れる複数の単電池1のうち、最低温度の単電池1が最短時間で上限電圧や下限電圧に達する。
【0105】
組電池110の許容電力は、組電池110を構成するいずれかの単電池1が、充電時や放電時に上限電圧や下限電圧に達する電力である。そのため、単電池1の内部温度が低下するほど、組電池110の許容電力が低下する。したがって、組電池110の許容電力を演算するためには、少なくとも最低温度の単電池1の内部温度を用いる必要がある。しかし、巻回体1aは、容器1cの内部に収容される。そのため、巻回体1aの温度、すなわち単電池1の内部温度は、通常は、温度センサなどによって直接的に計測することはできない。
【0106】
温度センサ2によって直接的に測定した単電池1の表面温度は、単電池1の巻回体1aの温度、すなわち単電池1の内部温度よりも低くなる。そのため、温度センサ2によって測定した単電池1の表面温度を、単電池1の内部温度として、そのまま単電池1の内部抵抗の演算に用いると、単電池1の内部抵抗の演算値は、実際の内部抵抗よりも高くなり、組電池110の許容電力を過剰に制限することになる。このことは、たとえば寒冷地などの低温環境において、組電池110のパフォーマンスを低下させる要因となる。
【0107】
前記特許文献1に記載された従来の制御装置は、電池群の内部における最大温度を推定し、推定された最大温度に基づいて電池群の入出力制限を行う。電池群の最大温度の推定は、電池内部温度と電池表面温度との間の差である電池内外温度差を、吸気温度と電流負荷と冷却風量の中の少なくとも1つに応じて推定し、複数の配置位置における各電池電圧と電流値とから各単位電池の内部抵抗を推定し、各単位電池の内部抵抗の相違に起因する電池群内の温度差を推定する。
【0108】
そして、これらによって推定される温度差の合計値を電池表面温度の最大値に加算して電池群の最大温度を推定する。しかし、最大温度推定部が推定する電池群の内部の最大温度は、電池群の温度モデルの精度の限界から、電池群の真の内部温度との間に誤差が生じる。
【0109】
前記特許文献2に記載された従来の方法では、電池モジュールの外壁で測定された温度と、電池モジュールの電荷蓄積素子内で生じた熱の拡散モデルの出力温度との差が、実質的にゼロとなるように、前記モデルの入力として供給される温度値が求められる。しかし、これを実現するための手法は、いずれも計算負荷が高いという課題がある。
【0110】
これに対し、本実施形態の電池制御システム100は、前述のように、以下の構成を特徴としている。電池制御システム100は、単電池1に流れる電流の大きさを測定する電流センサとしての電流検知部130、単電池1の表面温度を測定する温度センサ2、記憶装置180および中央処理装置190を備える。記憶装置180は、前述の電池温度推定式と、誤差演算式と、補正係数マップと、前記数式(6)の内部温度補正式と、が記憶されている。電池温度推定式は、前記数式(1)および(2)のように、単電池1の表面温度Tsurおよび内部温度Tinと電流の大きさI(t)との関係を規定した数式である。誤差演算式は、前記数式(4)のように、表面温度の測定値Tsur,mes(t)と表面温度の演算値Tsur,cal(t)との差分を表面温度誤差ΔTsur(t)とする数式である。補正係数マップは、たとえば前記(5a)、(5b)または(5c)で表される電流の大きさおよび継続時間と、補正係数αとの関係を規定したテーブルまたはグラフである。内部温度補正式は、前記数式(6)のように、補正係数αを乗じた表面温度誤差ΔTsur(t)と内部温度の演算値Tin(t)との和を内部温度補正値T’in(t)とする数式である。また、中央処理装置190は、電流センサによって測定された電流の大きさを用い、電池温度推定式に基づいて単電池1の表面温度および内部温度を演算する。また、中央処理装置190は、表面温度の演算値Tsur,cal(t)と、温度センサ2によって測定された表面温度の測定値Tsur,mes(t)とを用い、誤差演算式に基づいて表面温度誤差ΔTsur(t)を演算する。また、中央処理装置190は、電流センサによる電流の大きさおよび継続時間の測定値を用い、補正係数マップに基づいて補正係数αを演算する。また、中央処理装置190は、補正係数α、表面温度誤差ΔTsur(t)および内部温度の演算値Tinを用い、内部温度補正式に基づいて内部温度補正値T’in(t)を演算する。そして、中央処理装置190は、内部温度補正値T’in(t)に基づいて単電池1、電池群111および組電池110を制御する。
【0111】
このような構成により、本実施形態の電池制御システム100は、単電池1の真の内部温度とその演算値Tin(t)との間の誤差を抑制しつつ、従来よりも計算負荷を低減することができる。たとえば、中央処理装置190によって算出された単電池1の発熱量Qgen(t)が、単電池1の真の発熱量を下回った場合を考える。この場合、単電池1の内部温度の演算値Tin(t)は、単電池1の真の内部温度よりも低くなる。単電池1の表面温度の演算値Tsur,cal(t)は、単電池1の内部からの伝熱量に依存するので、同様に、単電池1の表面温度の演算値Tsur,cal(t)も、真の表面温度よりも低くなる。ここで、単電池1の真の表面温度は、温度センサ2によって測定可能である。
【0112】
図8は、
図7に示す誤差補正機能F3の出力である内部温度補正値T’
in(t)のグラフである。
図8に示すように、本実施形態の電池制御システム100によれば、温度センサ2で測定した単電池1の真の表面温度である測定値T
sur,mes(t)と、単電池1の表面温度の演算値T
sur,cal(t)との差分である表面温度誤差ΔT
sur(t)を求めることができる。そして、求めた表面温度誤差ΔT
sur(t)に補正係数αを乗じて単電池1の内部温度の演算値T
in(t)に加算することで、内部温度補正値T’
in(t)を求めることができる。したがって、単電池1の真の内部温度とその演算値T
in(t)との間の誤差を抑制しつつ、従来よりも計算負荷を低減することができる。
【0113】
図9および
図10は、本実施形態の電池制御システム100において演算される内部温度補正値T’
in(t)の効果を説明するグラフである。
図9および
図10において、単電池1の真の内部温度T
in,real(t)が実線で表示され、本実施形態のように補正係数αを可変とした場合の内部温度補正値T’
in,var(t)が点線で表示されている。また、
図9および
図10において、単電池1の真の表面温度、すなわち単電池1の表面温度の測定値T
sur,mes(t)が二点鎖線で表示されている。
【0114】
さらに、本実施形態に対する比較例1,2として、補正係数αを固定した場合の単電池1の内部温度補正値T’
in,fix,S(t),T’
in,fix,L(t)が、それぞれ、一点鎖線と破線で表示されている。なお、一点鎖線で表示される比較例1の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)は、補正係数αを比較例2よりも大きい値に固定した場合であり、破線で表示される比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)は、補正係数αを比較例1よりも小さい値に固定した場合である。
図9および
図10に示す例において、すべての時間にわたって、単電池1の真の内部温度T
in,real(t)と、本実施形態の内部温度補正値T’
in,var(t)が単電池1の表面温度の測定値T
sur,mes(t)よりも高い。
【0115】
図9および
図10において、時刻t1までの区間では、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)と、単電池1の発熱量の演算値Q
gen,cal(t)がほぼ等しい場合を想定する。この場合、この時刻t1までの区間では、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)と、単電池1の発熱量の演算値Q
gen,cal(t)との誤差が小さいため、補正前の内部温度の演算値T
in(t)と真の内部温度T
in,real(t)との誤差も小さく、内部温度の演算値T
in(t)は大きな補正を必要としない。
【0116】
したがって、この時刻t1までの区間では、補正係数αが比較的に小さい値で固定された比較例2の内部温度補正値T’in,fix,S(t)と真の内部温度Tin,real(t)との誤差が小さくなる。一方、補正係数αが比較的に大きい値で固定された比較例1の内部温度補正値T’in,fix,L(t)は、内部温度の演算値Tin(t)の補正量が過大になり、真の内部温度Tin,real(t)を中心として発振する。すなわち、単電池1の真の発熱量Qgen,real(t)と、発熱量の演算値Qgen,cal(t)との誤差が小さい場合に、補正係数αを必要以上に大きい値で固定すると、比較例1の内部温度補正値T’in,fix,L(t)のように真の内部温度Tin,real(t)との誤差が大きくなる。
【0117】
また、
図9において、時刻t1以降の区間では、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)が、単電池1の発熱量の演算値Q
gen,cal(t)よりも大きくなっている。この場合、補正前の内部温度の演算値T
in(t)は、真の内部温度T
in,real(t)よりも小さくなり、比較的に大きな補正を必要とする。したがって、この時刻t1以降の区間では、補正係数αが比較的に大きい値で固定された比較例1の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)と真の内部温度T
in,real(t)との誤差が小さくなる。一方、補正係数αが比較的に小さい値で固定された比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)は、内部温度の演算値T
in(t)の補正量が過小になり、真の内部温度T
in,real(t)との誤差が拡大していく。すなわち、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)と、発熱量の演算値Q
gen,cal(t)との誤差が大きい場合に、補正係数αを必要以上に小さい値で固定すると、
図9に示す比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)のように真の内部温度T
in,real(t)との誤差が大きくなる。
【0118】
また、
図10において、時刻t1以降の区間では、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)が、単電池1の発熱量の演算値Q
gen,cal(t)よりも小さくなっている。そのため、補正前の内部温度の演算値T
in(t)は、真の内部温度T
in,real(t)よりも高く、比較的に大きな補正を必要とする。したがって、この時刻t1以降の区間では、補正係数αが比較的に大きい値で固定された比較例1の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)と真の内部温度T
in,real(t)との誤差が小さくなる。一方、補正係数αが比較的に小さい値で固定された比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)は、内部温度の演算値T
in(t)の補正量が過小になり、真の内部温度T
in,real(t)との誤差が拡大していく。すなわち、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)と、発熱量の演算値Q
gen,cal(t)との誤差が大きい場合に、補正係数αを必要以上に小さい値で固定すると、
図10に示す比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)のように真の内部温度T
in,real(t)との誤差が大きくなる。
【0119】
このように、補正係数αを固定した比較例1,2の内部温度補正値T’
in,fix,S(t),T’
in,fix,L(t)は、
図9および
図10に示す時刻t1までの区間と時刻t1以降の区間の双方において、真の内部温度T
in,real(t)との誤差を小さくすることはできない。これに対し、本実施形態の電池制御システム100によれば、単電池1を流れる電流の大きさおよび継続時間に応じて補正係数αを増減させることで、時刻t1までの区間と時刻t1以降の区間の双方において、内部温度補正値T’
in,var(t)と真の内部温度T
in,real(t)との誤差を小さくすることができる。また、本実施形態の電池制御システム100は、補正係数αによる単純な計算によって内部温度補正値T’
in,var(t)を演算することができる。したがって、本実施形態の電池制御システム100によれば、単電池1の真の内部温度T
in,real(t)とその演算値T
in(t)との間の誤差を抑制しつつ、従来よりも計算負荷を低減することができる。
【0120】
図11は、
図9に示す時刻t1以降の区間における電池制御システム100の許容電力に対する効果を説明するグラフである。
図9に示す時刻t1以降の区間では、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)が、単電池1の発熱量の演算値Q
gen,cal(t)よりも大きくなっている。そして、単電池1の真の内部温度T
in,real(t)との間の誤差は、単電池1の表面温度の測定値T
sur,mes(t)が最も大きく、比較例1の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)が二番目に大きく、本実施形態の内部温度補正値T’
in,var(t)と比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)が同等で最も小さい。そのため、許容電力の演算に単電池1の表面温度の測定値T
sur,mes(t)や比較例1の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)を用いると、許容電力の演算に単電池1の真の内部温度T
in,real(t)を用いた場合と比較して、許容電力の演算値P(T)が小さくなる。この場合、単電池1を真の許容電力まで十分に活用することができない。
【0121】
これに対し、許容電力の演算に本実施形態の内部温度補正値T’
in,var(t)を用いると、許容電力の演算に単電池1の真の内部温度T
in,real(t)を用いた場合と同等の許容電力の演算値P(T)が得られる。なお、
図9に示す時刻t1以降の区間では、許容電力の演算に比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)を用いた場合も同様の効果が得られる。しかし、
図9に示す時刻t1までの区間では、許容電力の演算に比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)を用いた場合、真の許容電力よりも高い許容電力の演算値P(T)が算出される場合があるため、単電池1の寿命や安全性を低下させるおそれがある。
【0122】
図12は、
図10に示す時刻t1以降の区間における電池制御システム100の許容電力に対する効果を説明するグラフである。
図10に示す時刻t1以降の区間では、単電池1の真の発熱量Q
gen,real(t)が、単電池1の発熱量の演算値Q
gen,cal(t)よりも小さくなっている。そして、単電池1の真の内部温度T
in,real(t)との間の誤差は、単電池1の表面温度の測定値T
sur,mes(t)が最も大きく、比較例1の内部温度補正値T’
in,fix,S(t)が二番目に大きく、本実施形態の内部温度補正値T’
in,var(t)と比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)が同等で最も小さい。
【0123】
そのため、許容電力の演算に単電池1の表面温度の測定値Tsur,mes(t)を用いると、許容電力の演算に単電池1の真の内部温度Tin,real(t)を用いた場合と比較して、許容電力の演算値P(T)が小さくなる。この場合、単電池1を真の許容電力まで十分に活用することができない。また、許容電力の演算に比較例1の内部温度補正値T’in,fix,S(t)を用いると、許容電力の演算に単電池1の真の内部温度Tin,real(t)を用いた場合と比較して、許容電力の演算値P(T)が大きくなる。この場合、単電池1の寿命や安全性を低下させるおそれがある。
【0124】
これに対し、許容電力の演算に本実施形態の内部温度補正値T’
in,var(t)を用いると、許容電力の演算に単電池1の真の内部温度T
in,real(t)を用いた場合と同等の許容電力の演算値P(T)が得られる。なお、
図10に示す時刻t1以降の区間では、許容電力の演算に比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)を用いた場合も同様の効果が得られる。しかし、
図10に示す時刻t1までの区間では、許容電力の演算に比較例2の内部温度補正値T’
in,fix,L(t)を用いた場合、真の許容電力よりも高い許容電力の演算値P(T)が算出される場合があるため、単電池1の寿命や安全性を低下させるおそれがある。
【0125】
以上説明したように、本実施形態によれば、電池の真の内部温度とその演算値との間の誤差を抑制しつつ、従来よりも計算負荷を低減可能な電池制御システム100を提供することができる。また、内部温度補正値T’in,var(t)を用いて、単電池1、電池群111および組電池110を安全に許容電力まで十分に活用することができる。
【0126】
[実施形態2]
次に、
図1から
図6を援用し、
図13および
図14を参照して本開示に係る電池制御システムの実施形態2を説明する。本実施形態の電池制御システムは、記憶装置180に記憶された情報と、中央処理装置190による処理が、前述の実施形態1に係る電池制御システム100と異なっている。本実施形態の電池制御システムのその他の点は、前述の実施形態1の電池制御システム100と同様であるので、同様の部分には同様の符号を付して説明を省略する。
【0127】
本実施形態の電池制御システムにおいて、記憶装置180に記憶された電池温度推定式は、単電池1の複数の部分の温度と電流の大きさとの関係が規定されている。また、記憶装置180に記憶された補正係数マップは、単電池1の各々の部分に対して電流の大きさおよび継続時間と補正係数αiとの関係が規定されている。また、記憶装置180には、以下の数式(8)で表されるように、単電池1の各々の部分の補正係数αiを乗じた表面温度誤差ΔTsur(t)と単電池1の各々の部分の温度の演算値Ti(t)との和を部分温度補正値T’i(t)とする部分温度補正式が記憶されている。
【0128】
【0129】
図13は、本実施形態の電池制御システムの機能ブロック図である。
図13に示すように、温度演算機能F1において、中央処理装置190は、電流センサである電流検知部130によって測定された電流の大きさの測定値I(t)を用い、上記電池温度推定式に基づいて単電池1の各々の部分の温度の演算値T
i(t)を出力する。そして、中央処理装置190は、温度演算機能F1から出力された単電池1の表面温度の演算値T
sur,cal(t)および内部温度の演算値T
in(t)に加えて、単電池1のその他の部分の温度T
oth(t)を誤差補正機能F3へ出力する。
【0130】
また、補正係数演算機能F2において、中央処理装置190は、電流センサによる電流の大きさの測定値I(t)および電流の継続時間の測定値を用い、記憶装置180に記憶された補正係数マップに基づいて、単電池1の各々の部分に対する補正係数αiの数列αseqを演算する。ここで、単電池1の内部に対する補正係数をαinとする。この場合、前述の実施形態1と同様に、補正係数マップにおいて、補正係数αinは、たとえば、電流時間指標CTa,CTbまたはCTcの増加にともなって、増大するように決定される。
【0131】
そのため、補正係数演算機能F2において、中央処理装置190は、前述の実施形態1と同様に、単電池1の発熱量Qgen(t)の誤差が相対的に大きいときに、αin/Σαiを相対的に大きく、単電池1の発熱量Qgen(t)の誤差が相対的に小さいときに、αin/Σαiを相対的に小さく、補正係数αiの数列αseqを出力する。
【0132】
また、誤差補正機能F3において、中央処理装置190は、補正係数αi、表面温度誤差ΔTsur(t)および単電池1の各々の部分の温度の演算値Ti(t)を用い、前記数式(8)の部分温度補正式に基づいて、単電池1の各々の部分の温度補正値である部分温度補正値T’i(t)を演算する。そして、中央処理装置190は、この部分温度補正値T’i(t)に基づいて、単電池1を制御する。
【0133】
前述の実施形態1では、誤差補正機能F3は、単電池1の内部温度の演算値Tin(t)のみを補正した。この手法は、単電池1の表面温度誤差ΔTsur(t)をすべて単電池1の内部温度補正値T’in(t)に反映させる手法である。しかしながら、実際の単電池1では、表面と内部との間だけではなく、単電池1の表面と単電池1の内部以外の部分との間でも、熱伝導が起きている。
【0134】
たとえば、単電池1に電流が流れ、単電池1が内部から発熱しているときは、単電池1の表面への熱移動は、単電池1の内部からの熱移動が多くを占める。この場合には、前述の実施形態1のように、単電池1の内部温度の演算値Tin(t)を補正するだけで、真の内部温度に近い内部温度補正値T’in(t)が得られる。
【0135】
しかし、単電池1に流れる電流がゼロで、単電池1の内部が発熱していないときは、単電池1の表面への熱移動は、単電池1の内部からの熱移動の比率に対し、単電池1の内部以外の部分からの熱移動の比率が高まる。また、単電池1の表面と、単電池1の内部以外の部分との間の熱伝導のモデルが不正確であることが考えられる。この場合、実施形態1のように、単電池1の表面温度誤差ΔTsur(t)をすべて単電池1の内部温度補正値T’in(t)に反映させる手法では、内部温度補正値T’in(t)と単電池1の真の内部温度との誤差を十分に小さくできないおそれがある。
【0136】
図14は、本実施形態の電池制御システムの内部温度補正値の効果を説明するグラフである。
図14では、単電池1の真の内部温度T
in,real(t)を実線で表示し、実施形態1の電池制御システム100による内部温度補正値T’
in,var,1(t)を一点鎖線で表示し、実施形態2の電池制御システムによる内部温度補正値T’
in,var,2(t)を点線で表示している。時刻t2までの区間では、単電池1に電流が流れ、単電池1が発熱している。時刻t2以降の区間では、単電池1に電流が流れず、単電池1が発熱していない。
【0137】
時刻t2までの区間では、実施形態1の電池制御システム100による内部温度補正値T’in,var,1(t)と実施形態2の電池制御システムによる内部温度補正値T’in,var,2(t)は、ともに単電池1の真の内部温度Tin,real(t)との誤差が小さい。
【0138】
しかし、実施形態1の電池制御システム100では、単電池1の表面温度誤差ΔTsur(t)が、内部温度補正値T’in,var,1(t)のみに反映される。そのため、時刻t2以降の区間では、単電池1の熱伝導モデルが不正確である場合、内部温度補正値T’in,var,1(t)と単電池1の真の内部温度Tin,real(t)との誤差が拡大している。
【0139】
これに対し、本実施形態の電池制御システムによる内部温度補正値T’in,var,2(t)は、単電池1の表面温度誤差ΔTsur(t)が、内部温度補正値T’in,var,1(t)だけでなく、その他の部分の部分温度補正値T’i(t)にも反映される。これにより、単電池1の熱伝導モデルが不正確であっても、熱伝導による内部温度の演算値Tin(t)の誤差を補正することができ、内部温度補正値T’in,var,2(t)と単電池1の真の内部温度Tin,real(t)との誤差を減少させることができる。
【0140】
以上のように、本実施形態の電池制御システムにおいて、記憶装置180は、単電池1の複数の部分の温度と電流の大きさとの関係が規定された電池温度推定式と、単電池1の各々の部分に対して電流の大きさおよび継続時間と補正係数との関係が規定された補正係数マップと、単電池1の各々の部分の補正係数αiを乗じた表面温度誤差ΔTsur(t)と単電池1の各々の部分の温度の演算値Ti(t)との和を部分温度補正値T’i(t)とする部分温度補正式と、が記憶されている。また、中央処理装置190は、電流センサによって測定された電流の大きさを用い、電池温度推定式に基づいて単電池1の各々の部分の温度を演算し、電流センサによる電流の大きさおよび継続時間の測定値を用い、補正係数マップに基づいて単電池1の各々の部分に対する補正係数αiを演算し、補正係数αi、表面温度誤差ΔTsur(t)および単電池1の各々の部分の温度の演算値Ti(t)を用い、部分温度補正式に基づいて部分温度補正値T’i(t)を演算し、部分温度補正値T’i(t)に基づいて単電池1、電池群111、組電池110を制御する。
【0141】
この構成により、本実施形態の電池制御システムによれば、前述の実施形態1の電池制御システム100と同様の効果が得られるだけでなく、単電池1に電流が流れず、単電池1が発熱していない場合でも、内部温度補正値T’in,var,2(t)と単電池1の真の内部温度Tin,real(t)との誤差を減少させることができる。
【0142】
[実施形態3]
次に、
図1から
図6を援用し、
図15を参照して本開示に係る電池制御システムの実施形態3を説明する。
図15は、本実施形態の電池制御システムの機能ブロック図である。本実施形態の電池制御システムは、記憶装置180に記憶された情報と、中央処理装置190による処理が、前述の実施形態1に係る電池制御システム100と異なっている。本実施形態の電池制御システムのその他の点は、前述の実施形態1の電池制御システム100と同様であるので、同様の部分には同様の符号を付して説明を省略する。
【0143】
本実施形態の電池制御システムは、実施形態1の電池制御システム100と同様に、単電池1の電圧を測定する電圧センサとして、
図5に示す電圧検出回路121aを備えている。また、記憶装置180は、単電池1の充電状態(SOC)と単電池1の開放電圧(OCV)との関係を示す充電状態‐開放電圧データと、一つの単電池1のSOCと一つの単電池1の内部温度との組み合わせにより一つの充電状態‐温度係数が決定される充電状態‐温度係数データと、が記憶されている。また、中央処理装置190は、電圧センサで測定した単電池1のOCVを用い、充電状態‐開放電圧データに基づいて単電池1のSOCを演算し、SOCの演算値と、内部温度の演算値T
in(t)とを用い、充電状態‐温度係数データに基づいて、充電状態‐温度係数を演算し、内部温度補正式による演算結果に充電状態‐温度係数を乗じて内部温度補正値T’
in(t)を演算する。
【0144】
前述の実施形態1の電池制御システム100では、補正係数演算機能F2が電流の測定値I(t)とその継続時間のみを入力としていた。一方、本実施形態の電池制御システムでは、
図15に示すように、電流の測定値I(t)に加えて、単電池1の内部温度の演算値T
in(t)およびSOC(t)も補正係数演算機能F2の入力としている。単電池1の発熱量には、電流の測定値I(t)とその継続時間だけでなく、単電池1の内部温度とSOCが影響する。
【0145】
本実施形態の電池制御システムは、上記の構成により、前述の実施形態1の電池制御システム100と同様の効果を奏することができる。さらに、補正係数演算機能F2において、中央処理装置190によって、SOC(t)が上限のしきい値よりも高い場合、SOC(t)が下限のしきい値よりも低い場合、および内部温度の演算値Tin(t)が低くなるにしたがって、充電状態‐温度係数を大きくすることができる。したがって、単電池1の発熱量に誤差が生じる場合をより詳細に分類して内部温度補正値T’in(t)を演算することができ、内部温度補正値T’in(t)と真の内部温度との誤差をより効果的に減少させることができる。
【0146】
[実施形態4]
次に、
図1から
図6を援用し、
図16を参照して本開示に係る電池制御システムの実施形態4を説明する。
図16は、本実施形態の電池制御システムの機能ブロック図である。本実施形態の電池制御システムは、記憶装置180に記憶された情報と、中央処理装置190による処理が、前述の実施形態1に係る電池制御システム100と異なっている。本実施形態の電池制御システムのその他の点は、前述の実施形態1の電池制御システム100と同様であるので、同様の部分には同様の符号を付して説明を省略する。
【0147】
本実施形態の電池制御システムは、実施形態1の電池制御システム100と同様に、単電池1の電圧を測定する電圧センサとして、
図5に示す電圧検出回路121aを備えている。記憶装置180は、単電池1の充電状態(SOC)と単電池1の開放電圧(OCV)との関係が規定された充電状態‐開放電圧データと、単電池1のSOC、単電池1を流れる電流の大きさ、および、単電池1の内部温度の演算値または電圧センサによる電池の電圧の測定値と、単電池1の発熱量との関係が規定された発熱量演算式と、単電池1の発熱量と補正係数αとの関係が規定された発熱量‐補正係数データと、が記憶されている。中央処理装置190は、電圧センサで測定した単電池1のOCVを用い、充電状態‐開放電圧データに基づいて単電池1のSOCを演算し、SOCの演算値と、電流センサで測定した電流の大きさ、および、内部温度の演算値T
in(t)または電圧センサによる単電池1の電圧の測定値を用い、発熱量演算式に基づいて、単電池1の発熱量を演算し、単電池1の発熱量の演算値を用い、発熱量‐補正係数データに基づいてαを演算する。
【0148】
前述の実施形態1の電池制御システム100は、補正係数演算機能F2が電流の測定値I(t)を入力としていた。しかし、本実施形態の電池制御システムは、電流の測定値I(t)ではなく、温度演算機能F1の出力である単電池1の発熱量Qgen(t)を、補正係数演算機能F2の入力とする。
【0149】
すなわち、本実施形態の電池制御システムでは、温度演算機能F1において、中央処理装置190は、SOC(t)と電流の測定値I(t)、および、内部温度の演算値Tin(t)または電圧センサによる単電池1の電圧の測定値を用い、発熱量演算式に基づいて、単電池1の発熱量Qgen(t)を演算して、補正係数演算機能F2に出力する。
【0150】
また、本実施形態の電池制御システムでは、補正係数演算機能F2において、中央処理装置190は、単電池1の発熱量の演算値Qgen(t)を用い、発熱量‐補正係数データに基づいて補正係数αを演算する。これにより、中央処理装置190は、たとえば単電池1の発熱量の演算値Qgen(t)に比例する関数として、補正係数αを出力する。
【0151】
したがって、本実施形態の電池制御システムによれば、たとえば単電池1の内部温度の演算値Tin(t)と真の内部温度との間に、単電池1の発熱量に比例した誤差が生じる場合に、単電池1の発熱量に比例した補正量で単電池1の内部温度の演算値Tin(t)を補正することができる。これにより、本実施形態によれば、前述の実施形態1と同様に、単電池1の真の内部温度とその演算値Tin(t)との間の誤差を抑制することができるだけでなく、実施形態1の電池制御システム100よりも計算負荷を低減可能な電池制御システムを提供することができる。
【0152】
[実施形態5]
次に、
図1から
図6を援用し、
図17を参照して本開示に係る電池制御システムの実施形態5を説明する。
図17は、本実施形態の電池制御システムの機能ブロック図である。本実施形態の電池制御システムは、記憶装置180に記憶された情報と、中央処理装置190による処理が、前述の実施形態1に係る電池制御システム100と異なっている。本実施形態の電池制御システムのその他の点は、前述の実施形態1の電池制御システム100と同様であるので、同様の部分には同様の符号を付して説明を省略する。
【0153】
実施形態1の電池制御システム100では、温度演算機能F1は、単電池1を流れる電流の測定値I(t)を入力とし、前記数式(2)または(3)を用いて単電池1の発熱量Qgen(t)を演算していた。一方、本実施形態の電池制御システムは、単電池1の発熱量Qgen(t)を演算せず、単電池1の表面温度誤差ΔTsur(t)を用いて単電池1の内部温度の演算値Tin(t)を補正する。
【0154】
本実施形態の電池制御システムにおいて、記憶装置180は、単電池1の表面温度および内部温度と、単電池1の熱移動量との関係を規定する熱移動量演算式が記憶されている。中央処理装置190は、単電池1の表面温度の演算値Tsur,cal(t)および内部温度の演算値Tin(t)を用い、熱移動量演算式を用いて単電池1の熱移動量を演算する。
【0155】
より詳細には、
図17に示すように、本実施形態の電池制御システムでは、温度演算機能F1において、電流の測定値I(t)を入力とせず、前記数式(1)で単電池1の発熱量Q
gen(t)=0とした計算式、すなわち熱移動量演算式を用いて、熱移動量のみを演算する。また、本実施形態の電池制御システムでは、補正係数演算機能F2において、電流の測定値I(t)を入力とし、電流の大きさおよび継続時間と補正係数αとの関係を規定した補正係数マップに基づいて、補正係数αを演算して出力する。
【0156】
本実施形態の電池制御システムでは、単電池1の発熱量をすべて反映させるため、単電池1を流れる電流の各条件において、単電池1の発熱量からの誤差のみを補正する実施形態1の電池制御システム100よりも、補正係数αが大きくなる。しかし、本実施形態の電池制御システムによれば、単電池1の発熱量Qgen(t)の演算を省略することができ、実施形態1の電池制御システム100よりも計算負荷を低減することができる。
【0157】
以上、図面を用いて本開示に係る電池制御システムの実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0158】
1 単電池(電池)
2 温度センサ
100 電池制御システム
121a 電圧検出回路(電圧センサ)
130 電流検知部(電流センサ)
140 電圧検知部(電圧センサ)
180 記憶装置
190 中央処理装置
I(t) 電流の測定値
Qgen(t) 単電池の発熱量
SOC(t) 電池の充電状態
Tamb(t) 環境温度
Tin(t) 単電池の内部温度の演算値
T’in(t) 内部温度補正値
Toth(t) 単電池の他の部分の温度の演算値
T’i(t) 部分温度補正値
Tsur,mes(t) 単電池の表面温度の測定値
Tsur,cal(t) 単電池の表面温度の演算値
T’sur,cal(t) 表面温度補正値
ΔTsur(t) 表面温度誤差
α 補正係数
αseq 補正係数の数列