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特許7274440電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法
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  • 特許-電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよび電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/022 20060101AFI20230509BHJP
   H01G 9/028 20060101ALI20230509BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20230509BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20230509BHJP
   H01G 9/045 20060101ALI20230509BHJP
   H01G 9/042 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
H01G9/022
H01G9/028 G
H01G9/15
H01G9/145
H01G9/045
H01G9/042 500
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020064860
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163877
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】二宮 厚志
(72)【発明者】
【氏名】西澤 和人
(72)【発明者】
【氏名】勝又 悟
(72)【発明者】
【氏名】陳場 康弘
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-219920(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002176(WO,A1)
【文献】特開昭63-303040(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103617(WO,A1)
【文献】特開2018-110232(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022472(WO,A1)
【文献】特開2000-286156(JP,A)
【文献】特開平02-194611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/022
H01G 9/028
H01G 9/15
H01G 9/145
H01G 9/045
H01G 9/042
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記セパレータに保持された導電性高分子層および電解液とを備えた電解コンデンサにおいて、
前記電解液は、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、および、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶媒と、主溶質としてα位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有し、
前記導電性高分子層にポリグリセリンが含まれていることを特徴とする電解コンデンサ。
【請求項2】
前記電解液100wt%に対して、α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を0.2wt%以上7.0wt%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記陰極は、アルミニウムと0.05wt%以上0.50wt%以下の銅とを含有する合金、または、表面の少なくとも一部に酸化皮膜が形成されたアルミニウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極とをセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作製する工程と、
ポリグリセリンが添加された導電性高分子分散体水溶液に前記コンデンサ素子を浸漬させて前記コンデンサ素子に導電性高分子層を形成する工程と、
エチレングリコール、ポリエチレングリコール、および、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶媒と、主溶質としてα位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有した電解液を前記コンデンサ素子に含浸させる工程とを備えた電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサに用いられる電解液および電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解質に導電性高分子および電解液を用いたハイブリッド型の電解コンデンサ(以下「ハイブリッドコンデンサ」という)が利用されている。自動車等に搭載されるハイブリッドコンデンサには、高温耐久性等が求められる。高温耐久性とは、例えば、高温環境下でハイブリッドコンデンサのESRが低く、経時変化が少ないことである。特許文献1には、高温耐久性を有するハイブリッドコンデンサおよびこれに用いられる電解液が提案されている。
【0003】
また、自動車等に搭載されるハイブリッドコンデンサには、高温耐久性に加え、耐湿性も求められる。耐湿性とは、例えば、高湿環境下で陽極等のアルミニウムが溶出しにくいことである。特許文献2には、高温耐久性および耐湿性を有するコンデンサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-198248号公報
【文献】特開2018-164024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ハイブリッドコンデンサには、耐湿性をさらに高めることが求められている。例えば、高温高湿環境下でより長期に亘って陽極等のアルミニウムの溶出を抑制することが求められる。
【0006】
本発明の目的は、高温耐久性を備えるとともに耐湿性が高い電解コンデンサが得られる電解液を提供する。本発明の目的は、高温耐久性を備えるとともに耐湿性が高い電解コンデンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解液は、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータと、前記セパレータに保持された導電性高分子および電解液とを備えた電解コンデンサに用いられる電解液であり、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、および、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶媒と、α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶質と、を含有する。
【0008】
電解液の溶媒に含まれるエチレングリコール等は、高温環境下において、電解コンデンサのESRの上昇を抑制する。
しかし、本出願人の研究から、ポリエチレングリコール等は、陽極等に含まれるアルミニウムを溶解させやすいことがわかっている(特開2018-164024号公報参照)。
本発明者らの研究から、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等を含む溶媒を採用しても、溶質として、α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸またはポリカルボン酸等を含む溶質を採用することにより、アルミニウムが溶解しにくいという知見が得られた。さらに、上記溶媒および溶質を用いることにより、高温高湿環境下で、より長期に亘って、電解コンデンサを使用しても、アルミニウムが溶解しにくいという知見が得られた。
【0009】
また、溶質に含まれるヒドロキシル基により、高温環境下において電解コンデンサのESRの上昇が抑制されると考えられる。
溶媒に含まれるエチレングリコール、ポリエチレングリコール等も、上述したように、高温環境下において電解コンデンサのESRの上昇を抑制させることから、上述した溶質と溶媒を併用することにより、高温環境下で電解コンデンサのESRの上昇を抑制できる効果が高められる。
【0010】
上記より、本発明の電解液を電解コンデンサに使用することにより、高温耐久性を備えるとともに、耐湿性が高い電解コンデンサが得られる。
【0011】
上記電解液は、電解液100wt%に対して、α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を0.2wt%以上7.0wt%以下含むことが好ましい。
【0012】
本発明の電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極とがセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を備え、前記セパレータは導電性高分子と上述した電解液とを保持している。セパレータに上述した電解液が保持されているため、電解コンデンサが高温耐久性を備えるとともに、電解コンデンサの耐湿性が高い。
【0013】
また、前記陰極は、アルミニウムと0.05wt%以上0.50wt%以下の銅とを含有する合金、または、表面の少なくとも一部に酸化皮膜が形成されたアルミニウム、例えば化成処理されたアルミニウム箔であることが好ましい。
【0014】
上記陰極を採用した場合、陽極等からアルミニウムが溶出しにくいと考えられ、そのため、コンデンサの耐湿性がさらに高まる。
【0015】
前記導電性高分子は、ポリグリセリンを含有することが好ましい。導電性高分子に含まれるポリグリセリンと、電解液に含まれるエチレングリコール、ポリエチレングリコール等との親和性が高いため、電解液の含浸性が向上し、静電容量出現率が高くなる傾向がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、高温耐久性を備えるとともに、耐湿性が高い電解コンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッドコンデンサの要部切断正面図である。
図2図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
ハイブリッドコンデンサ1は、図1に示すように、外装ケース2と、外装ケース2に収容されたコンデンサ素子3と、外装ケース2の開口を封止した封口体4とを備えている。
【0020】
コンデンサ素子3は、図2に示すように、陽極箔(陽極)11と陰極箔(陰極)12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられたテープ14により巻止めされている。
【0021】
陽極箔11および陰極箔12にはそれぞれ図示しないリードタブが接続されている。陽極箔11および陰極箔12は、リードタブを介して、リード端子21およびリード端子22と接続されている。リード端子21およびリード端子22は、図1に示すように、封口体4に形成された孔31および孔32を通って外部に引き出されている。リードタブには、例えばアルミニウムが含まれる。
【0022】
陽極箔11は、例えば、表面に誘導体酸化皮膜が形成されたアルミニウム等の弁作用金属の箔である。誘導体酸化皮膜は、エッチング処理にて表面を粗面化した弁作用金属箔に化成処理を施すことによって形成されている。
【0023】
陰極箔12は、例えば、エッチング処理にて表面を粗面化したアルミニウム等の弁作用金属箔でもよい。陰極箔12は、アルミニウムの純度が99.8wt%未満であり(アルミニウムを99.8wt%未満含み)、且つ、銅を0.05wt%以上0.50wt%以下含むエッチング処理にて表面を粗面化した合金箔でもよい。この合金箔には、アルミニウムおよび/または銅が単独で存在してもよく、アルミニウムおよび/または銅が化合物として存在しても良い。陰極箔12は、上述した弁作用金属箔に化成処理を施すことにより、表面の少なくとも一部に酸化皮膜が形成された化成箔でもよい。陰極箔12に上記合金箔および上記化成箔を用いた場合、陽極箔11および/または図示しないリードタブからアルミニウムが溶出しにくい。また、上述した弁作用金属箔または合金箔を使用した場合、ハイブリッドコンデンサの容量が高くなる傾向がある。
【0024】
陰極箔12として使用される上記弁作用金属箔および合金箔は、エッチング処理を施さないプレーン箔でもよく、粗面化された箔またはプレーン箔の表面に、チタンやニッケルやその炭化物、窒化物、炭窒化物またはこれらの混合物からなる金属薄膜や、カーボン薄膜を形成したコーティング箔でもよい。
【0025】
図2に示すセパレータ13は、導電性高分子および電解液を保持している。
【0026】
導電性高分子には、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体が用いられ、一般的には、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が用いられる。ドーパントには、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等が一般的に用いられる。導電性高分子には、上記以外に、ポリグリセリン等の耐熱性向上剤等が含まれていてもよい。
【0027】
電解液は、溶媒および溶質を含む。電解液は、酸化防止剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0028】
溶媒には、例えば、低粘性溶媒と難揮発性溶媒が用いられる。低粘性溶媒は、低温度域における静電容量の低下を抑止する等の低温特性に優れるとともに、漏れ電流の増大を抑止する。難揮発性溶媒は高温特性に優れる。低粘性溶媒と難揮発性溶媒を併用することで、低温から高温まで良好な特性を備えたものとなる。低粘性溶媒と難揮発性溶媒の比率は特に限定されない。目的に応じて、低粘性溶媒と難揮発性溶媒の比率を変えてよい。また、難揮発性溶媒だけを使用してもよい。
【0029】
低粘性溶媒として、例えばγ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)といったラクトン類が挙げられる。
【0030】
難揮発性溶媒は、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、および、これらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む。エチレングリコールの誘導体とは、例えば、エチレングリコールに含まれる少なくとも1つのヒドロキシル基(-OH)のHが、アルキル基に置換されたものである。ポリエチレングリコールの誘導体とは、例えば、ポリエチレングリコールに含まれる少なくとも1つのヒドロキシル基(-OH)のHが、アルキル基に置換されたものである。
【0031】
電解液にエチレングリコール、ポリエチレングリコール、および、これらの誘導体が含まれることにより、高温環境下で電解コンデンサのESR上昇が抑制される。また、ESRの経時変化が少ない。さらに、電解液にエチレングリコール、ポリエチレングリコール、および、これらの誘導体が含まれることにより、低温環境下で電解コンデンサの容量低下を抑えることができるという知見が得られた。
【0032】
溶質は、α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む。「ジカルボン酸」はカルボキシル基を2つ含み、「ポリカルボン酸」はカルボキシル基を3つ以上含む。「α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸」の「α位のヒドロキシル基」は、ジカルボン酸に含まれる少なくとも1つのカルボキシル基からみてα位のヒドロキシル基である。「α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸」の「α位のヒドロキシル基」は、ポリカルボン酸に含まれる少なくとも1つのカルボキシル基からみてα位のヒドロキシル基である。溶質に含まれる他方のカルボキシル基は、α位に存在してもよく、α位以外に存在してもよい。
【0033】
本発明者らの研究から、電解液に上述した難揮発性溶媒および溶質を用いた場合の作用効果について、以下の知見が得られた。
【0034】
溶媒にエチレングリコール等が含まれることにより上記効果が得られるが、溶媒に含まれるエチレングリコールおよびポリエチレングリコールは、導電性高分子の存在下では陽極および/またはリードタブのアルミニウムを溶解させやすいことがわかっている(特開2018-164024号公報参照)。
しかし、本発明者らの研究から、上記溶質を採用することにより、陽極箔11および/または図示しないリードタブからアルミニウムが溶解しにくいという知見が得られた。
この理由として、カルボキシル基と該カルボキシル基からみてα位のヒドロキシル基と、陽極箔11および/または図示しないリードタブに含まれるアルミニウムとの間で、キレート結合のような作用が生じることにより、アルミニウムがこの結合から分離しにくくなるとともに、上記作用に寄与しない残りのカルボキシル基が陽極箔に形成されている酸化皮膜を修復する作用が生じると推測される。これにより、陽極箔11および/または図示しないリードタブからアルミニウムが溶解しにくいと考えられる。
【0035】
また、上述した難揮発性溶媒および溶質を併用することにより、高温高湿環境下でより長期に亘ってアルミニウムが溶解しにくいという知見が得られた。
【0036】
さらに、溶質に含まれるα位のヒドロキシル基が、導電性高分子の酸化を抑制すると推測される。
導電性高分子のドーパント(酸成分)が電解液に溶出(脱ドープ)することにより、導電性高分子が酸化することによって、導電性高分子の導電性が低下することにより、高温環境下におけるESRが高くなると考えられる。上記ヒドロキシル基が導電性高分子の表面に付着することにより、ドーパント(酸成分)の溶出(脱ドープ)が抑制されるため、高温環境下においてESRの上昇が抑制されると考えられる。
【0037】
溶媒に含まれるエチレングリコール等も、高温環境下でコンデンサのESRが上昇することを抑制することから、上述した溶媒および溶質を併用することにより、高温環境下でESRの上昇を抑制できる効果が高まると考えられる。
【0038】
上記より、電解液に上述した難揮発性溶媒および溶質を用いた場合、高温耐久性を備えるとともに、耐湿性が高い電解コンデンサが得られるという知見が得られた。
【0039】
上述した「α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、その塩」に含まれるカルボキシル基の数の上限は特に限定されない。カルボキシル基の数が2以上であれば、上述したキレート結合のような作用が生じると推測される。なお、モノカルボン酸は、カルボキシル基が1つしか含まれないため、陽極箔に形成された酸化皮膜を修復する作用が弱いと考えられる。そのため、アルミニウムの溶解を抑制する効果が小さいと考えられる。
【0040】
α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、特に限定されないが、電解液100wt%に対して、0.2wt%以上が好ましく、0.3wt%以上がより好ましい。α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の含有量は、電解液100wt%に対して、7.0wt%以下が好ましく、5.0wt%以下がより好ましい。
【0041】
α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸、α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸、および、これらの塩は、特定の化合物に限定されない。「α位にヒドロキシル基を有するジカルボン酸」として、例えば、リンゴ酸、酒石酸、タルトロン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。「α位にヒドロキシル基を有するポリカルボン酸」として、例えば、クエン酸、イソクエン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本実施形態のハイブリッドコンデンサ1は、高温耐久性を備えるとともに、耐湿性が高い。
また、低温環境下でハイブリッドコンデンサ1の容量低下を抑制できる。
【実施例
【0043】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0044】
(コンデンサの作製)
所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔に外部引き出し電極用のリードタブを接続した。リードタブはアルミニウムからなる。陽極箔および陰極箔を、天然繊維を主体としたセパレータを介して巻回することにより、巻回素子を作製した。
【0045】
陽極箔として、弁作用金属であるアルミニウム箔をエッチング処理によって粗面化した後、化成処理を施すことにより誘電体酸化皮膜が形成されたものを用いた。
陰極箔として、以下のいずれかを用いた。
a)アルミニウムの純度が99.8wt%未満であり、且つ、銅を0.05wt%以上0.50wt%以下含む合金箔をエッチング処理によって粗面化したもの
b)アルミニウム箔をエッチング処理によって粗面化した後、耐電圧0.8Vの化成処理を施すことにより、表面の少なくとも一部に酸化皮膜が形成された化成箔
【0046】
陽極箔の切断された端面およびリードタブとの取り付け部は、誘電体酸化皮膜が欠損しているため、巻回素子を化成処理することにより修復した。化成処理は、アジピン酸アンモニウム濃度が0.5wt%以上3.0wt%以下のアジピン酸アンモニウム水溶液を化成液として使用し、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加することにより行った。
【0047】
次に、80~100kPa減圧下で、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)から成る複合物)を1wt~5wt%含む導電性高分子分散体水溶液を、巻回素子に、30分間浸漬・含浸させた後、乾燥することにより水分を除去した。これによりコンデンサの陰極層となる導電性高分子層を形成した。導電性高分子分散体水溶液には、耐熱性向上剤としてポリグリセリンが添加されている。導電性高分子層に、ポリグリセリンが残留していてもよい。
【0048】
続いて、表1に示す電解液をアルミニウム製の有底筒状のケース内に注入した。電解液には、表1に示す成分以外に、ニトロ化合物および界面活性剤等の添加物が含まれる。
【0049】
ケース内にコンデンサ素子を収容し、コンデンサ素子に電解液を含浸させると共に、ケースの開口の周縁をカーリング加工した。周囲温度を90℃にし、コンデンサに定格電圧35Vを印加し、エージング処理を施すことにより、ハイブリッドコンデンサを作製した。表1の実験に用いたハイブリッドコンデンサは、定格電圧35V、定格容量270μFおよび容積φ10×10L(mm)である。
【0050】
(評価方法)
・静電容量変化率
周囲温度20℃の静電容量(A)と、周囲温度-55℃の静電容量(B)とを測定し、静電容量(A)に対する静電容量(B)の容量変化率を「静電容量変化率」とした。
・ESRの測定
室温25℃でハイブリッドコンデンサのESR(初期ESR)を測定した。その後、150℃の環境下で、ハイブリッドコンデンサを2000時間保持した後、室温(25℃)まで冷却し、ESRを測定した。本実験では、150℃という高温下で、2000時間という非常に長い期間、電解コンデンサを保持した。ESRの測定時の周波数は100kHzである。
・加速高温高湿負荷試験
リード端子を封口ゴム(封口体)の孔に通して外部に引き出した状態(ハイブリッドコンデンサからケースを外し、電解液を含浸した巻回素子が外気に曝されている状態)で、以下の試験を実施した。試料数を10とした。
周囲温度85℃および相対湿度(Rh)85%の環境下で、60時間という長時間、ハイブリッドコンデンサの巻回素子に定格電圧35Vを印加した。そして、拡大鏡を用いて、陽極箔の端面とリードタブ(特に巻回素子から出ている部分)を目視観察し、溶解(腐食)が存在するかを確認した。表1には、10個の試料のうち、溶解(腐食)の存在が確認された試料数を示している。
【0051】
表1に、電解液の組成および評価結果を示す。
【表1】
【0052】
「静電容量変化率」の絶対値が20%より小さい場合(-20%<静電容量変化率<20%)、低温環境下における容量低下が小さいことがわかっている。
表1から、従来例1、2では、静電容量変化率が-20%以下であったが、その他の例(従来例3、実施例1~7、比較例1、2)では、静電容量変化率が-20%未満であった。
【0053】
「初期ESR」が20mΩ以内であり、且つ、「長期高温保持後のESR」(150℃ 2000h後のESR)が40mΩ以内である場合、高温耐久性が高いことがわかっている。本実験では、ハイブリッドコンデンサを、高温下(150℃)で、2000時間という非常に長い期間、保持した。
従来例1では、長期高温保持後のESRが40mΩを超えた。長期高温保持後のESRは、初期ESRの約6倍大きくなった。
一方、従来例2、3、実施例1~7、比較例1、2では、初期ESRが20mΩ以内であり、且つ、高温長期保持後のESRが40mΩ以内であり、初期ESRの3倍以下となった。
【0054】
加速高温高湿負荷試験では、ハイブリッドコンデンサの巻回素子を、高温高湿環境下(85℃、85%Rh)で、60時間という長期間、定格電圧35Vを印加した。
実施例1~7では、全試料(試料数:10)に、陽極箔およびリードタブに溶解(腐食)が確認されなかった。このことから、実施例1~7のハイブリッドコンデンサを、高温高湿環境下で、長期間使用しても、アルミニウムが殆ど溶解しないといえる。
一方、従来例1~3および比較例1、2では、陽極箔および/またはリードタブに溶解(腐食)が確認された。
【0055】
上記より、実施例1~7のハイブリッドコンデンサは、高温環境下で、非常に長い期間使用しても、耐久性が高いといえる。また、実施例1~7のハイブリッドコンデンサは、高温高湿環境下で、長期間使用しても、耐久性が高いといえる。したがって、実施例1~7のハイブリッドコンデンサは、長期に亘って高温耐久性および耐湿性が高いコンデンサであることがわかった。
さらに、実施例1~7のハイブリッドコンデンサは、上記効果に加え、低温環境下で容量が低下しにくいコンデンサであることがわかった。
【0056】
次に、従来例2、実施例2および実施例3のハイブリッドコンデンサの静電容量出現率を測定した。表2に、静電容量出現率を示している。表2の「静電容量出現率」は、各ハイブリッドコンデンサの静電容量を測定し、従来例2の静電容量を100%とした時の実施例2と実施例3の静電容量の比率である。ここで使用したハイブリッドコンデンサは、定格電圧35V、定格容量330μFおよび容積φ10×10L(mm)である。
【0057】
【表2】
【0058】
表2から、エチレングリコールを使用した実施例2および実施例3の静電容量出現率は、エチレングリコールを使用していない従来例2の静電容量出現率より高い。
これは、導電性高分子層に含まれるポリグリセリンとエチレングリコールとの溶媒親和性が高いため、電解液の含浸性が向上し、静電容量出現率が高くなったと考えられる。
【0059】
上記実施例1~7の電解液には、低粘性溶媒が含まれないが、電解液に低粘性溶媒と難揮発性溶媒(エチレングリコール)の両方が含まれる場合でも、上記と同様な難揮発性溶媒(エチレングリコール)を含む場合の効果が得られると推測される。
【0060】
上記実施例1~7では、電解液の溶質として、リンゴ酸または酒石酸を使用したが、タルトロン酸、クエン酸、イソクエン酸を使用した場合にも、リンゴ酸または酒石酸と同様な効果が得られることが確認された。
【0061】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0062】
例えば、本発明の実施形態(実施例1~7)では、GVL(γ-バレロラクトン)等の低粘性溶媒を電解液に使用しなかったが、副溶媒としてGVLなど他の低粘性溶媒を使用してもよい。特にポリエチレングリコールを主溶媒とする場合は、低粘性溶媒を副溶媒として混合することが好ましい。
【符号の説明】
【0063】
1 ハイブリッドコンデンサ
2 外装ケース
3 コンデンサ素子
4 封口体
11 陽極箔(陽極)
12 陰極箔(陰極)
21,22 リード端子
図1
図2