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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/204 20210101AFI20230509BHJP
   B32B 5/24 20060101ALI20230509BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20230509BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230509BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20230509BHJP
   H01M 50/224 20210101ALI20230509BHJP
   H01M 50/227 20210101ALI20230509BHJP
   H01M 50/231 20210101ALI20230509BHJP
【FI】
H01M50/204 401H
B32B5/24 101
B32B27/42 101
H01M10/613
H01M10/6554
H01M50/204 401F
H01M50/224
H01M50/227
H01M50/231
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020067776
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021163730
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】西川 満
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏治
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 政美
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/065285(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/074611(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098231(WO,A1)
【文献】特開2017-013376(JP,A)
【文献】特開2016-196130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/204
H01M 50/218 - 231
B32B 5/24
B32B 27/42
H01M 10/613
H01M 10/6554
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリーセルと、
前記複数のバッテリーセルを収容する筐体と、
前記筐体の少なくとも一面を覆う厚み2mm以上のフェノール樹脂発泡板と、
前記筐体と前記フェノール樹脂発泡板との間に設けられた緩衝部材と、を備え、
前記フェノール樹脂発泡板と前記緩衝部材とは一体に積層されてフェノール樹脂発泡体積層板を構成し、
前記緩衝部材が、25g/m 以上の目付量、面積割合が0%超え30%以下の熱圧着部を有するスパンボンド不織布であり、
前記フェノール樹脂発泡体積層板は、20kg/m以上50kg/m以下の密度を有する、ことを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記フェノール樹脂発泡板は、85%以上の独立気泡率を有し、前記スパンボンド不織布が積層されたフェノール樹脂発泡体積層板は、10N/cm以上の圧縮強度、0.0223W/(m・K)以下の熱伝導率を有する、請求項に記載の構造体。
【請求項3】
前記スパンボンド不織布は、0.15mm以上の厚みを有する、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記筐体と前記緩衝部材との間に、放熱部材が設けられている、請求項1~のいずれか一項に記載の構造体。
【請求項5】
前記放熱部材は、熱伝導率が30W/(m・K)以上の金属で構成されている、請求項に記載の構造体。
【請求項6】
前記放熱部材がアルミニウム層を含む、請求項に記載の構造体。
【請求項7】
前記フェノール樹脂発泡板の全面が被覆材で覆われている、請求項1~のいずれか一項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、ハイブリッド自動車や電気自動車が注目を浴びている。これらの性能に大きく影響するのは、リチウムイオン電池等の二次電池の発電効率であり、特に電気自動車が社会に広く普及するためには、さらなる効率向上、電池寿命延長等の性能改善とともに、安全性の向上、省燃費化も求められている。
【0003】
より具体的には、車載用の二次電池(バッテリーセル)を有するバッテリーモジュールやバッテリーパッケージなどには、所定の難燃性、耐熱性、および断熱性、自動車の燃費に貢献する軽量化が要求される。この観点において、例えば、特許文献1には、炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物からなる難燃性のバッテリーケースが開示されている。また、特許文献2には、エンジンからの熱などによりバッテリーの表面が熱せられ、バッテリー内部にあるバッテリー液が高温に上昇し、寿命が減少することを抑制すべく、多孔層と樹脂が含浸され、表面が起毛された保護層とを備え、断熱性を高めたバッテリーカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-062189号公報
【文献】国際公報第2019/098231号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、難燃性を有する炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂を用いたバッテリーケースによって燃焼を防止することができる一方、高い熱伝導率を持つ炭素素材により外熱による伝熱を高めてしまうこと、さらには自動車の燃費に寄与するレベルの軽量化を達成できない観点から、本技術課題解決のため望ましくない。また、特許文献2に記載の技術でも、同様に軽量化の観点から好ましくない。
【0006】
電気自動車の普及には、安全性をさらに向上させることに加え、電気自動車の燃費に寄与する軽量化、走行時の振動に耐え得る耐振動性等の種々の性能をバランスよく満足することが求められる。具体的には、車載用のバッテリーモジュールに求められる安全性としては、外部に熱源として火炎源があった場合には、バッテリーモジュールセルの燃焼を防止するための難燃性が要求されるが、熱源が火炎源以外であっても外熱からバッテリーセルを保護するための耐熱性も必要とされる。この点、特許文献1、2に記載の技術では十分ではない。
【0007】
発明者らは、鋭意検討の結果、軽量であって、難燃性、耐熱性および断熱性を示す構造体を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]複数のバッテリーセルと、
前記複数のバッテリーセルを収容する筐体と、
前記筐体の少なくとも一面を覆う厚み2mm以上のフェノール樹脂発泡板と、
前記筐体と前記フェノール樹脂発泡板との間に設けられた緩衝部材と、を備え、
前記フェノール樹脂発泡板と前記緩衝部材とは一体に積層されてフェノール樹脂発泡体積層板を構成し、
前記フェノール樹脂発泡体積層板は、20kg/m以上50kg/m以下の密度を有する、ことを特徴とする構造体。
【0009】
[2]前記緩衝部材がスパンボンド不織布である、前記[1]に記載の構造体。
【0010】
[3]前記スパンボンド不織布は、25g/m以上の目付量、面積割合が0%超え30%以下の熱圧着部を有する、前記[2]に記載の構造体。
【0011】
[4]前記フェノール樹脂発泡板は、85%以上の独立気泡率を有し、前記スパンボンド不織布が積層されたフェノール樹脂発泡体積層板は、10N/cm以上の圧縮強度、0.0223W/(m・K)以下の熱伝導率を有する、前記[2]または[3]に記載の構造体。
【0012】
[5]前記スパンボンド不織布は、0.15mm以上の厚みを有する、前記[2]~[4]に記載の構造体。
【0013】
[6]前記筐体と前記緩衝部材との間に、放熱部材が設けられている、前記[1]~[5]に記載の構造体。
【0014】
[7]前記放熱部材は、熱伝導率が30W/(m・K)以上の金属で構成されている、前記[6]に記載の構造体。
【0015】
[8]前記放熱部材がアルミニウム層を含む、前記[7]に記載の構造体。
【0016】
[9]前記フェノール樹脂発泡板の全面が被覆材で覆われている、前記[1]~[8]に記載の構造体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軽量化を図りながら、難燃性、耐熱性、および断熱性を向上させ、走行時の振動にも耐えうる構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による構造体の好適な一例を示す図である。
図2】本発明による構造体の好適な別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による構造体は、複数のバッテリーセルと、上記複数のバッテリーセルを収容する筐体と、上記筐体の少なくとも一面を覆う厚み2mm以上のフェノール樹脂発泡板と、上記筐体と上記フェノール樹脂発泡板との間に設けられた緩衝部材とを備え、上記フェノール樹脂発泡板と上記緩衝部材とは一体に積層されてフェノール樹脂発泡体積層板を構成し、上記フェノール樹脂発泡体積層板は、20kg/m以上50kg/m以下の密度を有することを特徴とする。
【0020】
図1は、本発明による構造体の好適な一例を示している。この図に示した構造体1は、バッテリーモジュール11と、フェノール樹脂発泡板12と、緩衝部材13と、放熱部材14と、被覆材15とを備える。フェノール樹脂発泡板12と緩衝部材13とは、一体に積層されてフェノール樹脂発泡体積層板を構成する。なお、本発明においては、フェノール樹脂発泡体積層板は、バッテリーモジュール11の筐体11bの少なくとも一面を覆うことができればその形状は特に限定されない。
【0021】
バッテリーモジュール11は、複数のバッテリーセル11aと、該複数のバッテリーセル11aを収容する筐体(第1の筐体)11bと、入出力端子11cと、バッテリーセル11aの電極(図示せず)と入出力端子11cとを接続する配線11dとを有する。
【0022】
図1に示すように、バッテリーモジュール11においては、複数のバッテリーセル11aが、配線11dによって電気的に並列に接続されており、一又は複数の入出力端子11cから充放電可能なようにまとめられて筐体11bに収容されている。
【0023】
-バッテリーセル-
バッテリーセル11aは、正極、負極、セパレータ、および電解質が、板形状(ラミネート形状)や円筒形状にパックされて一単位としてまとまったものである。本発明におけるバッテリーセル11aは、特に限定されず、鉛酸電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを用いることができる。中でも、エネルギー密度が高いことから、リチウムイオン電池を用いることが好ましい。
【0024】
-筐体-
筐体11bは、複数のバッテリーセル11aを収容する容器であり、バッテリーケースの本体を構成する。筐体11bを構成する材料としては、複数のバッテリーセル11aを収容するのに十分な強度を有していれば特に限定されず、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等の熱可塑性樹脂や金属などで構成することができる。熱可塑性樹脂であれば、軽量化の実現と併せて、射出成形により容易に成形加工することができ、生産性が向上する。更に、熱可塑性樹脂上に金属層や金属皮膜を設けてもよい。
【0025】
筐体11bを、例えば金属で構成する場合、その厚みを0.5mm以上10mm以下とすることが好ましく、2mm以上5mm以下とすることがより好ましい。これにより、十分な強度を確保しつつ、軽量なバッテリーケース本体を構成することができる。
【0026】
本発明による構造体1は、バッテリーモジュール11の筐体11bの少なくとも一面(図1の例においては、全面)を覆うフェノール樹脂発泡板12が設けられていることを特徴としている。また、本発明による構造体1は、筐体11bの少なくとも一面(図1の例においては、全面)を覆うように、フェノール樹脂発泡板12と緩衝部材13とが一体に積層されたフェノール樹脂発泡体積層板が設けられていることを特徴とする。なお、フェノール樹脂発泡体積層板は、バッテリーモジュール11の周囲、すなわち、バッテリーモジュール11の全面を覆うように配置されていることが好ましい。
【0027】
-フェノール樹脂発泡板-
フェノール樹脂発泡板は、硬化反応によって形成されたフェノール樹脂硬化体中に、多数の気泡が分散した状態で存在するものである。
【0028】
フェノール樹脂発泡板12の独立気泡率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率が85%以上であると、フェノール樹脂発泡板12中の発泡剤が空気と置換して長期の断熱性能が低下する傾向を抑制することができる。
【0029】
フェノール樹脂発泡体積層板12の圧縮強度は、10N/cm以上であることが好ましく、15N/cm以上であることがより好ましく、17N/cm以上であることがさらに好ましい。これにより、構造体1の耐衝撃性を高めることができる。
【0030】
フェノール樹脂発泡体積層板12の熱伝導率は、10℃の環境下で0.0223W/(m・K)以下であることが好ましく、0.020W/(m・K)以下であることがより好ましい。なお、下限は特に制限されないが、0.016W/(m・K)以上であってよく、0.018W/(m・K)以上であってもよい。
【0031】
本発明において、フェノール樹脂発泡板12の厚みは2mm以上であることが肝要である。これにより、構造体1に優れた耐熱性を付与することができる。ここで、フェノール樹脂発泡板12の厚みは、6mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。また、耐熱性の点では、フェノール樹脂発泡板12の厚みに上限はないが、構造体の大型化を防止する観点から、100mm以下であることが好ましく、40mm以下であることがより好ましい。なお、本発明におけるフェノール樹脂発泡板は、必ずしも板状である必要ななく、筐体11bの表面形状に合わせ、変形した形態も含まれる。曲面形状のものを使用する場合、その厚みは、フェノール樹脂発泡板12の表面であって、バッテリーセル11aを収容する筐体11b側の第1の表面から、筐体11bとは反対側の第2の表面までの最短距離によって規定される。
【0032】
このように、図1に示した構造体1においては、複数のバッテリーセル11aを収容する筐体11bの少なくとも一面を覆うように、厚み2mm以上のフェノール樹脂発泡板12が設けられているため、構造体1は優れた耐熱性を有している。また、フェノール樹脂発泡板12は、特許文献1に記載された炭素繊維強化プロピレンよりも密度が低いため、構造体1を軽量化および小型化することができる。
【0033】
-緩衝部材-
また、図1に示すように、本発明の構造体1において、筐体11bとフェノール樹脂発泡板12との間に緩衝部材13が設けられており、フェノール樹脂発泡板12と緩衝部材13とは一体に積層され、フェノール樹脂発泡体積層板を構成している。これにより、構造体1が自動車などに搭載されて、走行中(運転中)に衝撃を受けた際に、フェノール樹脂発泡板12の破損を緩和することができる。
【0034】
また、緩衝部材13は、構造体1を構成する部材と接触していることが好ましい。これにより、緩衝部材13は、フェノール樹脂発泡板12と、構造体1を構成する他の部材とにより挟持される。図1に示すように、本実施の形態の構造体1において、緩衝部材13は、フェノール樹脂発泡板12と放熱部材14とに接触するように配置されていてもよい。なお、放熱部材14を設けない場合は、緩衝部材13は、フェノール樹脂発泡板12と筐体11bとに接触するように配置されていてもよい。
【0035】
また、筐体11bとフェノール樹脂発泡板12との間に緩衝部材13が設けられることにより、フェノール樹脂発泡板12は、筐体11bと直接接触することがない。ここで、構造体1の内部に収容されるバッテリーセル11aは、充放電によって発熱する。よって、フェノール樹脂発泡板12と筐体11bとが接触していると、バッテリーセルの発熱によって生じた熱の逃げ道がなく、バッテリーモジュールへの蓄熱が進行してしまう。
【0036】
本実施の形態において、上記緩衝部材13は、例えばフェノール樹脂発泡板12の主面に積層された不織布で構成することができる。不織布としては、主成分がポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン等からなる不織布、難燃化した繊維の不織布などを用いることができる。中でも、耐熱性を有し、引裂強さ、曲げ強さ等の実用強度に優れていることから、ポリエステル不織布を用いることが好ましい。また、内部に空隙を有する不織布を緩衝部材13として用いることによって、充放電によって発生するバッテリーセル11aの熱を外部へ放出する放熱層として機能し得る。
【0037】
なお、本発明において、「主面」とは、フェノール樹脂発泡板12の表面のうち、面積の最も大きな表面を意味しており、「側面」は、フェノール樹脂発泡板12の表面のうち、面積の最も大きな表面以外の表面(端面)を意味している。
【0038】
不織布を緩衝部材13として機能させ、またバッテリーモジュールへの蓄熱を効率的に抑制する観点から、不織布は、スパンボンド不織布を用いることが好ましい。また、不織布を緩衝部材13として機能させ、更には、バッテリーモジュールへの蓄熱を効率的に抑制する観点から、不織布は、面積割合が0%超え30%以下の熱圧着部を有することが好ましい。熱圧着部は、突起のついた熱ローラーを不織布に押し当てることによって、不織布が突起との接触点において溶着することで形成される。また、不織布の熱圧着部の面積割合を0%超え30%以下とすることにより、バッテリーモジュールからの放熱効果をより高めることができる。熱圧着部の面積割合は、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。熱圧着部は一般的に目視又は光学顕微鏡等により簡単に見つけることができる。熱圧着部の面積は、後述する方法により測定することができる。
【0039】
また、不織布を緩衝部材13として機能させ、またバッテリーモジュールへの蓄熱を効率的に抑制する観点から、不織布の厚みは、0.15mm以上であることが好ましく、0.18mm以上であることがさらに好ましく、0.20mm以上であることがよりさらに好ましい。このような特定の厚みの不織布を、フェノール樹脂発泡板12と構造体1を構成する部材(例えば、筐体11b)とを接触するように設けることで、不織布に緩衝機能と放熱機能とを確保し、その結果、構造体1全体の小型化、軽量化を図りながら、耐熱性、耐衝撃性を向上させることができる。
【0040】
不織布の目付量は、25g/m以上が好ましく、30g/m以上がより好ましく、40g/m以上が更に好ましく、50g/m以上が最も好ましい。
【0041】
本実施の形態において、フェノール樹脂発泡板12と緩衝部材13であるスパンボンド不織布等と、一体に積層されたフェノール樹脂発泡体積層板を構成する。フェノール樹脂発泡体積層板は、フェノール樹脂、界面活性剤、発泡剤、及び酸性硬化剤等を含む発泡性フェノール樹脂組成物を、混合機を用いて混合する工程、混合した発泡性フェノール樹脂組成物をスパンボンド不織布等からなる緩衝部材13の上に吐出する工程、緩衝部材13の上に吐出した発泡性フェノール樹脂組成物を、同様の緩衝部材13で被覆した後、所定の温度(例えば、70℃)以下に温調された空間にて発泡及び硬化させつつ予成形させる工程、成形装置を用いて発泡性フェノール樹脂組成物を所定の温度(例えば、70℃以上)に温調された空間にて発泡及び硬化させ本成形させる工程を経て得ることができる。なお、フェノール樹脂発泡体積層板を得るプロセスとしては、連続製造方式が一般的であるが、型枠の中で該面材を上下に用いたバッチ発泡成形方式を採用することも可能である。
【0042】
フェノール樹脂発泡体積層板の密度は、20kg/m以上50kg/m以下であることが肝要である。これにより、構造体1の軽量化を図りながら耐燃焼性を付与することができる。また、フェノール樹脂発泡体積層板の密度の上限は、46kg/m以下であることが好ましく、42kg/m以下であることが更に好ましい。
【0043】
-放熱部材-
また、本発明の構造体1においては、フェノール樹脂発泡体積層板と筐体11bとの間に、放熱部材14が設けられていることが好ましい。図1に示すように、本発明の構造体1においては、フェノール樹脂発泡体積層板、放熱部材14、筐体11bが、隣接する部材が接触するように、この順に設けられている。上述の通り、バッテリーセル11aは、充放電の際に発熱するが、フェノール樹脂発泡体積層板と筐体11bとの間に、放熱部材14を設けることによって、バッテリーセル11aの充放電によって生じた熱を構造体1の外部により多く放出することができる。内部に空隙を有しバッテリーセル11aの熱を外部へ放出する放熱層として機能し得る不織布を緩衝部材13として用い、また、緩衝部材13に接触するように放熱部材14を配置することによって、充放電によって発熱するバッテリーセル11aの熱を緩衝部材13と放熱部材14との双方によって、外部へ放出させ得る。なお、放熱部材14は、フェノール樹脂発泡体積層板の外方に露出していてもよいし、露出せずに、外方に露出している金属部材に接続されていてもよい。上記金属部材の20℃における熱伝導率は、好ましくは30W/(m・K)以上であり、より好ましくは50W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは200W/(m・K)以上であり、よりさらに好ましくは350W/(m・K)以上である。
【0044】
上記放熱部材14は、熱伝導率の高い金属などの材料で構成されていることが好ましく、上述のように熱伝導率が30W/(m・K)以上の金属で構成されていることがより好ましい。こうした金属としては、炭素鋼などの一般的な機械金属材料を挙げることができ、アルミニウム、銅などより高い熱伝導率を有するものが望ましい。後述するように、フェノール樹脂発泡体積層板の表面に設ける面材としてアルミニウム箔などのアルミニウム層を用いることによって、面材が放熱部材14を構成することもできる。
【0045】
放熱部材14をアルミニウム層で構成する場合、その厚みは20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。また、アルミニウム層の厚みは、200μm以下であることが好ましい。
【0046】
また、本発明による構造体1において、フェノール樹脂発泡板12の全面が被覆材15で覆われていることが好ましい。これにより、構造体1が自動車などに搭載されて走行中(運転中)に衝撃を受けた際に、フェノール樹脂発泡板12の破損を緩和することができる。被覆材15は、その目的を果たすことができればいずれの材料でもよいが、プラスチックや金属などで構成することができる。
【0047】
図2は、本発明による構造体の好適な別の例を示している。なお、図1に示した構成と同じ構成には同じ符号が付されている。図2に示した構造体2は、バッテリーパッケージ21と、フェノール樹脂発泡板12と、緩衝部材13と、放熱部材14とを備える。
【0048】
また、バッテリーパッケージ21は、1又は複数のバッテリーモジュール11と、バッテリーモジュール11の充放電を制御するバッテリーコントローラ21aと、筐体21bと、入出力端子21cと、配線21dとを有し、1又は複数のバッテリーモジュール11、バッテリーコントローラ21aが筐体(第2の筐体)21bに収容されている。バッテリーパッケージ21には、必要に応じて、送風ファン等のその他の機能部品が収容されていてもよい。
【0049】
図2に示した構造体3においても、複数のバッテリーセル11aを収容する筐体21bの少なくとも一面を覆うように、厚み2mm以上のフェノール樹脂発泡板12が設けられているため、構造体3は優れた耐熱性を有している。また、筐体21bとフェノール樹脂発泡板12との間に緩衝部材13が設けられており、フェノール樹脂発泡板12と緩衝部材13とは一体に積層されてフェノール樹脂発泡体積層板を構成している。これにより、構造体1が自動車などに搭載されて走行中(運転中)に衝撃を受けた際に、フェノール樹脂発泡板12の破損を緩和することができるとともに、バッテリーセルから発生した熱の放熱を促進することができる。
【実施例
【0050】
以下に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
実施例において、フェノール樹脂発泡板の独立気泡率および平均気泡径、ならびに、フェノール樹脂発泡体積層板の密度、熱伝導率および圧縮強度を、以下の方法により測定した。
【0052】
<フェノール樹脂発泡体積層板の密度>
200mm角のフェノール樹脂発泡体積層板を試料とし、JIS K7222に従い質量と見かけ容積を測定して見掛け全体密度を求めた。
【0053】
<フェノール樹脂発泡板の独立気泡率>
ASTM-D-2856(C法)を参考に以下の方法で測定した。
得られたフェノール樹脂発泡体積層板から面材(緩衝部材)を取り除いた後、フェノール樹脂発泡板の厚み方向中央部から、約25mm角の立方体試片を切り出した。厚みが薄く25mmの均質な厚みの試片が得られない場合は、切り出した約25mm角の立方体試片表面を約1mmずつスライスし均質な厚みを有する試片を用いた。各辺の長さをノギスにより測定し、見かけ体積(V1:cm)を計測すると共に試片の重量(W:有効数字4桁,g)を測定した。引き続き、エアーピクノメーター(東京サイエンス社、商品名「MODEL1000」)を使用し、ASTM-D-2856-94(1998)のA法に記載の手順に従い、試片の閉鎖空間体積(V2:cm)を測定した。
そして、既測定の各辺の長さより、試片の表面積(A:cm)を計測した。平均気泡径t及び試片の表面積Aより、式VA=(A×t)/1.14により、試片表面の切断された気泡の開孔体積(VA:cm)を算出した。また、固形フェノール樹脂の密度は1.3g/mLとし、試片に含まれる気泡壁を構成する固体部分の体積(VS:cm)を式VS=試片重量(W)/1.3により、算出した。そして、下記式により独立気泡率を算出した。
独立気泡率(%)=〔(V2-VS)/(V1-VA-VS)〕×100
同一製造条件の発泡体サンプルについて6回測定し、その平均値をその製造条件サンプルの代表値とした。
【0054】
<フェノール樹脂発泡体積層板の熱伝導率>
JIS-A-1412-2:1999に準拠し、以下の方法で10℃と23℃における熱伝導率を測定した。
フェノール樹脂発泡体積層板サンプルを約600mm角に切断し、試片を23±1℃、湿度50±2%の雰囲気に入れ、24時間ごとに重量の経時変化を測定し、24時間経過の重量変化が0.2質量%以下になるまで、状態調節をした。状態調節された試片は、同環境下に置かれた熱伝導率測定装置に導入した。熱伝導率測定装置が、試片が置かれていた23±1℃、湿度50±2%にコントロールされた室内に置かれていない場合は、速やかにポリエチレン製の袋に入れ袋を閉じ、1時間以内に袋から出し、速やかに熱伝導率の測定に供した。
フェノール樹脂発泡体積層板の熱伝導率測定は、発泡部を傷つけないように面材(緩衝部材)を剥がし、10℃の熱伝導率は低温板0℃高温板20℃の条件で、23℃の熱伝導率の測定は低温板13℃高温板33℃の条件で、それぞれ試験体1枚・対称構成方式の測定装置(英弘精機社、商品名「HC-074/600」)を用いて行った。
【0055】
<フェノール樹脂発泡体積層板の圧縮強度>
得られたフェノール樹脂発泡体積層板の厚み方向の圧縮強さを、JIS K7220(硬質発泡プラスチックの圧縮強さ及び圧縮強さに対応する変形率;5%変形時の圧縮応力)に従い、測定した。
【0056】
<フェノール樹脂発泡板の平均気泡径>
フェノール樹脂発泡板の厚み方向のほぼ中央を表裏面に平行に切削した試験片の断面の50倍拡大写真上に90mmの長さの直線を4本引き、各直線が横切った気泡の数を、JIS K6402に準じて求め、それらの平均値で1800μmを割った値である。
【0057】
<熱圧着部の面積割合>
不織布の表面を光学顕微鏡で10倍に拡大した画像を得た。画像処理ソフトウェア(商品名「Photoshop(登録商標)」、アドビシステムズインコーポレーテッド社製)を用いて、不織布表面の縦100mm、横100mmの正方形(単位面積)に含まれる、熱圧着部の合計面積を測定した。そして、下記式により、熱圧着部の面積割合(%)を算出した。
熱圧着部の面積割合(%)=(単位面積における熱圧着部の合計面積(mm)/単位面積(mm))×100
【0058】
また、実施例の構造体の耐熱性を、以下の方法により測定した。
【0059】
<耐熱性試験>
耐熱性に関する評価試験として、UNECEによるECE/TRANS/180/Add.20 6.2.4項に記載のガソリンプール炎試験法に準拠した試験を実施し、被試験対象物である構造体におけるバッテリーセルの発火の有無、すなわち、バッテリーセルの温度がセルの自然発火温度に到達するか否かを評価した。
【0060】
(1)評価試験の準備
具体的には、まず、評価試験を行う前段階として、SUS304からなる直径10mm、長さ2.5mの棒材を5cm間隔で50本配置したグレーチングテーブルを用意した。また、寸法2.2m×1.8m×0.1mの平鍋の中に軽油を入れて火炎源とした。また、2.1m×1.7mのSK30からなる耐火レンガを、試験中の遮炎材となるスクリーンとして用意した。
【0061】
(2)評価試験の手順
上述のように用意したグレーチングテーブル上に、被試験対象物を設置し、下記の試験手順フェーズA、B、C、Dを実施して、試験中の被試験対象物におけるバッテリーセルの表面温度を測定するとともに、バッテリーセルの発火の有無を評価した。その際、バッテリーセルの表面温度の計測は、絶縁被膜を施したK型熱電対素線(山里産業株式会社製セラサーモ)を用いて行い、K型熱電対素線は、グレーチングテーブル側、すなわち、被試験対象物の底面側に位置するバッテリーセルと筐体の間に設けた。また、火炎源側の温度を測定する目的で、K型熱電対素線をスクリーン中央上部に設置した。
フェーズA:火炎源となる平鍋の初期位置を構造体から水平距離で4m離れた位置に配置する(初期位置)。着火の後、火炎源を安定化させるため60秒間おいておく。
フェーズB:被試験対象物の下方に火炎源を移動させ、被試験対象物を70秒間加熱する。
フェーズC:グレーチングテーブルと火炎源との間にスクリーンを配置し、60秒間加熱する。
フェーズD:火炎源を初期位置に戻し、被試験対象物を3時間監視する。
【0062】
(実施例1)
0.3m×0.22m×0.68mの容積を有する筐体(第1の筐体)の内部に、261mm×216mm×7.91mmのリチウムイオンバッテリーセル8個を収容し、筐体の外表面全面にフェノール樹脂発泡体積層板を配置して、本発明による構造体を作製した。リチウムイオンバッテリーセルは、定格出力56.3Ah、公称電圧3.65V、エネルギー密度224Wh/kgであり、バッテリーセルの自然発火が生じ得る下限温度は100℃であった。筐体は、厚み2mmの機械構造用炭素鋼(SC45C)を用いて構成した。使用するフェノール樹脂発泡体積層板としては、密度40kg/m、厚み12mm、熱伝導率0.020W/(m・K)(旭化成建材株式会社製「ネオマフォーム」)を厚みが2mmとなるようにスライス切断したものを用いた。すなわち、緩衝部材としてのポリエステル製スパンボンド不織布(旭化成(株)製「エルタスE05060」、目付量60g/m、厚み0.22mm)が、片面のみに積層されたフェノール樹脂発泡体積層板を、筐体側にスパンボンド不織布が接するように配置し、用いた。評価試験の結果、火炎源側の温度が800℃であることを確認し、バッテリーセル表面の最高到達温度は95℃となった。発火に繋がる温度上昇を抑制できたことを受け、耐熱性を確認することができた。
【0063】
上述した耐熱性試験によれば、実施例1の構造体については、内部のバッテリーセルは発火せず耐熱性を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、耐熱性に優れた構造体を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
1,2 構造体
11 バッテリーモジュール
11a バッテリーセル
11b、21b 筐体
11c,21c 入出力端子
11d,21d 配線
12 フェノール樹脂発泡板
12a 主面
12b 側面
13 緩衝部材
14 放熱部材
15 被覆材
21 バッテリーパッケージ
21a バッテリーコントローラ
図1
図2