(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ポリオレフィン-アクリル系粒子を調製するための方法
(51)【国際特許分類】
C08F 255/00 20060101AFI20230509BHJP
C08F 2/22 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C08F255/00
C08F2/22
(21)【出願番号】P 2020530568
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 US2018062993
(87)【国際公開番号】W WO2019133168
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-19
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、リャン
(72)【発明者】
【氏名】リー、アンディ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】カーター、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】モグリア、ロバート エス.
(72)【発明者】
【氏名】イーヴン、ラルフ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ジャンコ、ミロスラフ
(72)【発明者】
【氏名】クルス、カルロス エー.
(72)【発明者】
【氏名】サンージェラルド、ヤニック
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-099828(JP,A)
【文献】特開2016-011415(JP,A)
【文献】特表2016-524025(JP,A)
【文献】特開2018-184560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 255/00
C08F 2/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合粒子の分散液を作製するためのプロセスであって、
(i)水性媒体中の架橋ポリオレフィン粒子の分散液を提供することと、
(ii)前記架橋ポリオレフィン粒子の存在下で1種以上のビニルモノマーに対してエマルジョン重合を行い、複合粒子の分散液を生成することとを含
み、
前記架橋ポリオレフィン粒子が、1つ以上の炭化水素ポリオレフィンと、1つ以上の非炭化水素ポリオレフィンとを含み、
前記非炭化水素ポリオレフィンが、ポリエチレンへの無水マレイン酸のグラフトの生成物であり、
前記架橋ポリオレフィン粒子の体積平均粒子径が200nm以上であり、
前記架橋ポリオレフィン粒子が、-30℃以下のTgを有し、
前記架橋ポリオレフィン粒子が、10重量%以上のゲル分率を有し、
前記ゲル分率がトルエン中、90℃、1時間で測定される、
プロセス。
【請求項2】
前記ビニルモノマーが、1つ以上の(メタ)アクリルモノマーを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸の1つ以上の非置換アルキルエステルを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記架橋ポリオレフィン粒子が、前記架橋ポリオレフィン粒子の重量とビニルモノマーの総重量との合計に基づいて、60重量%~90重量%の量で使用される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記エマルジョン重合ステップが、段階的添加プロセスとして行われ、第1の量のモノマーの添加からモノマーの添加の停止までの時間が、好ましくは10分以上である、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリオレフィンを含有する粒子は、さまざまな目的に有用である。例えば、(メタ)アクリルポリマーの完全または部分的シェルがポリオレフィンコア上に存在する複合粒子が形成され得る。そのような複合粒子は、耐衝撃性または他の特性を改善するために、ポリカーボネート等のマトリックスポリマーへの添加剤として使用することができる。
【0002】
US2016/0177077は、水性ポリオレフィン分散液および1種以上の(メタ)アクリルモノマーのエマルジョン重合生成物を含む複合ポリマー組成物を記載している。(メタ)アクリレートポリマーのシェルが改善されたポリオレフィン粒子上に形成され、得られる複合粒子が、マトリックスポリマー、例えばポリカーボネート等に添加されて、配合マトリックスポリマーを形成した際に、以下の利点の1つ以上が得られるように、改善されたポリオレフィン粒子を提供し、改善されたポリオレフィン粒子を作製するプロセスを提供することが望まれている:ポリカーボネートの耐衝撃性が改善される;配合マトリックスポリマーは、メルトフローレートにより測定されるように、元のマトリックスポリマーと同様のメルトフロー特性を有する;添加されたポリオレフィン粒子を含む配合マトリックスポリマーは、耐候性に優れている;および/または、マトリックスポリマー配合物から作製された成形部品は、表面欠陥(例えば、層間剥離等)がほとんどもしくはまったくない。
【0003】
以下は、本発明の記述である。
【0004】
本発明の第1の態様は、ポリマー組成物を作製する方法であって、
(a)初期ポリオレフィン粒子であって、
(i)1種以上の炭化水素ポリオレフィン、
(ii)1種以上の非炭化水素ポリオレフィン、および
(iii)1種以上の架橋剤
を含む水性媒体中の初期ポリオレフィン粒子の分散液を提供することと、
(b)初期ポリオレフィン粒子を過酸化物開始剤と接触させて、架橋ポリオレフィン粒子を形成することとを含む方法である。
【0005】
本発明の第2の態様は、複合粒子の分散液を作製するためのプロセスであって、
(i)水性媒体中の架橋ポリオレフィン粒子の分散液を提供することと、
(ii)架橋ポリオレフィン粒子の存在下で1種以上のビニルモノマーに対してエマルジョン重合を行い、複合粒子の分散液を生成することとを含むプロセスである。
【0006】
本発明の第3の態様は、水性媒体中の複合粒子の分散液であり、複合粒子は、
(I)架橋ポリオレフィンコア、および
(II)1種以上のビニルモノマーの重合単位を含む完全または部分的シェルを含む。
【0007】
本発明の第4の態様は、ポリカーボネートを複合粒子とブレンドすることを含む、ポリカーボネートを改質する方法であり、複合粒子は、
(I)架橋ポリオレフィンコア、および
(II)1種以上のビニルモノマーの重合単位を含む完全または部分的シェルを含む。
【0008】
以下は、本発明の詳細な説明である。
【0009】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、文脈上別途明確に示されていない限り、指定された定義を有する。
【0010】
炭化水素は、水素および炭素の原子のみを含む化合物である。炭素および水素以外の原子は、「ヘテロ」原子である。1つ以上のヘテロ原子を含む化学基は「ヘテロ」基である。
【0011】
本明細書において使用される場合、「ポリマー」は、より小さい化学繰り返し単位の反応生成物で構成される比較的大きな分子である。ポリマーは、直鎖状、分岐状、星型、ループ状、超分岐状、架橋状、またはそれらの組み合わせである構造を有してもよく、ポリマーは、単一タイプの繰り返し単位(「ホモポリマー」)を有してもよく、またはそれらは2種以上の繰り返し単位(「コポリマー」)を有してもよい。コポリマーは、ランダムに、順番に、ブロックで、他の配置で、またはそれらの任意の混合物もしくは組み合わせで配置された様々なタイプの繰り返し単位を有してもよい。ポリマーは、1,000ダルトン以上の重量平均分子量を有する。十分に架橋され、任意の溶媒に不溶性になるポリマーは、分子量が無限大であると見なされる。
【0012】
互いに反応してポリマーの繰り返し単位を形成することができる分子は、本明細書において「モノマー」として知られている。そのように形成された繰り返し単位は、本明細書においてモノマーの「重合単位」として知られている。
【0013】
ビニルモノマーは、構造
【化1】
を有し、式中、R
1、R
2、R
3およびR
4の各々は、独立して、水素、ハロゲン、脂肪族基(例えばアルキル基等)、置換脂肪族基、アリール基、置換アリール基、別の置換もしくは非置換有機基、またはそれらの任意の組み合わせである。ビニルモノマーは、フリーラジカルを重合して、ポリマーを形成することができる。いくつかのビニルモノマーは、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうちの1つ以上に組み込まれた1つ以上の重合可能な炭素-炭素二重結合を有し、そのようなビニルモノマーは、本明細書では多官能性ビニルモノマーとして知られている。正確に1つの重合可能な炭素-炭素二重結合を有するビニルモノマーは、本明細書において単官能性ビニルモノマーとして知られている。
【0014】
オレフィンモノマーは、1つ以上の炭素-炭素二重結合を有し、芳香環を有さない炭化水素であるモノマーである。
【0015】
炭化水素であるビニルモノマーは、オレフィンモノマーである。50重量%を超えるオレフィンモノマーの重合単位を有するポリマーは、ポリオレフィンである。ビニル芳香族モノマーは、R1、R2、R3、およびR4のうちの1つ以上が1つ以上の芳香族環を含有するビニルモノマーである。(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。(メタ)アクリルは、アクリルまたはメタクリレートを意味する。(メタ)アクリルモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、それらのアルキルエステル、それらの置換アルキルエステル、それらのアミド、それらのN-置換アミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびそれらの混合物から選択されるモノマーである。置換基は、例えば、ヒドロキシル基、アルキル基、芳香族基、非芳香族炭素-炭素二重結合を含有する基もしくは他の基、またはそれらの組み合わせであり得る。(メタ)アクリルポリマーは、50重量%超の(メタ)アクリルモノマーの重合単位を有するポリマーである。
【0016】
アルファ-オレフィンは、3個以上の炭素原子を有し、末端炭素原子に位置する正確に1つの炭素-炭素二重結合を持つ炭化水素である。つまり、アルファ-オレフィンでは、炭素-炭素二重結合の2個の炭素原子のうちの少なくとも1個も、結合する2つの水素原子を有する。ジエンは、正確に2つの炭素-炭素二重結合を有する炭化水素である。ジエンは、共役していても、または共役していなくてもよい。
【0017】
開始剤および/または連鎖移動剤からのフラグメントとして、少数のヘテロ基がポリオレフィンに結合されている場合でも、炭化水素モノマーのみでできているポリオレフィンは、炭化水素であると見なされる。炭化水素ポリオレフィンでは、ヘテロ原子対すべてのモノマーの重合単位のモル比は、0.001:1以下である。炭化水素ではないポリオレフィンは、非炭化水素ポリオレフィンである。
【0018】
本明細書で使用される場合、架橋剤は、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する化合物である。
【0019】
分散液は、連続液体媒体全体に分布する粒子の集合である。液体媒体が液体媒体の重量に基づいて、50重量%以上の水である場合、連続した液体媒体は、水性媒体である。分散液の「固形分」含有量は、分散液(WDISP)の重量を測定し、次いで重量が安定するまで150℃の赤外線湿度天秤で分散液を乾燥させてから、乾燥残渣(WDRY)の重量を決定し、次いで固形分=100*WDRY/WDISPにより決定される。
【0020】
本明細書では、23℃で100gの水に溶解することができる化合物の量が5グラム以上である場合、化合物は水溶性であると言われる。
【0021】
開始剤は、開始条件に曝露されると、フリーラジカル重合を開始することができるラジカル部分を生成する化合物である。開始条件の本質は、開始剤によって異なる。いくつかの例:熱開始剤は、十分に高い温度に加熱するとラジカル部分を生成する;光開始剤は、十分に短い波長および十分に高い強度の放射線に曝露されると、ラジカル部分を生成する。別の例として、酸化還元開始剤は、酸化/還元反応で一緒に反応してラジカル部分を生成する一対の分子である;開始条件は、対の両方のメンバーが存在し、互いに反応することができる場合に確立する。
【0022】
エマルジョン重合は、モノマーエマルジョン液滴、水溶性開始剤、および任意選択のシード粒子が水性媒体中に存在するプロセスである。エマルジョン重合中、モノマー分子は、モノマーエマルジョン液滴から、重合が行われる粒子に移動するが、これは、重合中に形成された別個の粒子であってもよく、またはシード粒子もしくはそれらの組み合わせであってもよい。
【0023】
ポリマーは、変曲点法を使用して、10℃/分のスキャン速度で示差走査熱量測定(DSC)により測定されるそのガラス転移温度(Tg)によって特徴付けることができる。
【0024】
粒子の集合は、体積平均直径によって特徴付けることができる。
【0025】
本明細書では、比は以下のように特徴付けられる。例えば、比率が5:1以上であると言われる場合、その比率は、5:1または6:1または100:1であり得るが、4:1にはなり得ない。この特徴を一般的に述べると、比率がX:1以上であると言われる場合、その比率は、Y:1であり、ここで、YはX以上である。同様に、例えば、比率が2:1以下であると言われる場合、その比率は、2:1または1:1または0.001:1であり得るが、3:1にはなり得ないことを意味する。この特性を一般的に述べると、比がZ:1以下であると言われる場合、その比はW:1であり、WはZ以下である。
【0026】
本発明は、「初期」ポリオレフィン粒子の分散液の使用を含む。「初期」というラベルは、ポリオレフィン粒子を、初期ポリオレフィン粒子に対して行われた操作の結果として形成されるさまざまなポリオレフィン粒子から区別する。好ましくは、初期ポリオレフィン粒子の分散液の固形分は、70%以下であり、より好ましくは60%以下である。好ましくは、初期ポリオレフィン粒子の分散液の固形分は、40%以上、より好ましくは50%以上である。
【0027】
好ましくは、水性媒体の重量を基準とした水性媒体中の水の量は、60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0028】
好ましくは、初期ポリオレフィン粒子の分散液の体積平均粒子直径は、100nm以上、より好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上、より好ましくは250nm以上である。好ましくは、初期ポリオレフィン粒子の分散液の体積平均粒子直径は、2000nm以下、より好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、より好ましくは500nm以下である。
【0029】
初期ポリオレフィン粒子中の全ポリオレフィンの量は、分散液の全固形分重量を基準として、50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。初期ポリオレフィン粒子中の全ポリオレフィンポリマーの量は、分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは98重量%以下、より好ましくは96重量%以下である。初期ポリオレフィン粒子は、好ましくは、1種以上の炭化水素ポリオレフィンおよび1種以上の非炭化水素ポリオレフィンを含む。
【0030】
初期ポリオレフィン粒子は、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下、より好ましくは0℃以下、より好ましくは-15℃以下のTgを有する。
【0031】
炭化水素ポリオレフィンの例は、これらに限定されないが、エチレンおよび1種以上のアルファ-オレフィンから選択されるモノマーのホモポリマーおよびコポリマー(エラストマーを含む)を含む。アルファ-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、および1-ドデセンが含まれる。炭化水素ポリオレフィンのさらなる例は、1種以上のジエンと、エチレン、1種以上のアルファ-オレフィン、またはそれらの組み合わせとのコポリマー(エラストマーを含む)を含む。ジエンの例は、ブタジエン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、およびビニルノルボルネンを含む。
【0032】
好ましい炭化水素ポリオレフィンは、2種以上のアルファ-オレフィンのコポリマー、およびエチレンと1種以上のアルファ-オレフィンとのコポリマーである。エチレンと1つ以上のアルファ-オレフィンとのコポリマーがより好ましい。エチレンと1つ以上のアルファ-オレフィンとのコポリマーの中で、好ましくは5個以上の炭素原子、より好ましくは6個以上の炭素原子、より好ましくは7個以上の炭素原子、より好ましくは8個以上の炭素原子を有するアルファ-オレフィンが使用される。エチレンと1種以上のアルファ-オレフィンとのコポリマーのうち、好ましくは12個以下の炭素原子、より好ましくは10個以下の炭素原子、より好ましくは9個以下の炭素原子、より好ましくは8個以下の炭素原子を有するアルファ-オレフィンが使用される。
【0033】
コポリマーであるポリオレフィンは、統計コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、他の構造を有するコポリマー、またはそれらの混合物であってもよい。統計コポリマーが好ましい。
【0034】
いくつかの好適な炭化水素ポリオレフィンは、The Dow Chemical CompanyからVERSIFY(商標)、NORDEL(商標)、もしくはENGAGE(商標)の商品名で、またはExxonMobil Chemical CompanyからVISTAMAXX(商標)、VISTALON(商標)、またはEXACT(商標)の商品名で市販されている。
【0035】
いくつかの好適な炭化水素ポリオレフィンは、1種以上のオレフィンモノマーと1種以上のビニル芳香族モノマーとのコポリマーである。そのようなコポリマーの中には、例えば、エチレンおよびスチレンのコポリマー、ならびに例えばスチレン-ブタジエン-スチレン、スチレン-イソプレン-スチレン、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレンを含むスチレン-オレフィンモノマー(複数を含む)-スチレンのブロックコポリマー、ならびにスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン、およびスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンを含むこれらのブロックコポリマーの水素化型が含まれる。
【0036】
初期ポリオレフィン粒子中の炭化水素ポリオレフィンの量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは65重量%以上である。初期ポリオレフィン粒子中の炭化水素ポリオレフィンの量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下である。
【0037】
最初のポリオレフィン粒子は、好ましくは、1種以上の非炭化水素ポリオレフィンを含む。非炭化水素ポリオレフィンは、(上で定義される)1つ以上のヘテロ基を含有する。ヘテロ基は、重合前にコモノマーに結合していてもよく、または重合後にグラフト化することによりポリオレフィンに付加されていてもよい。
【0038】
非炭化水素ポリオレフィンの例は、1種以上のアルファ-オレフィンと1種以上の非炭化水素ビニルモノマーとのコポリマーである。非炭化水素ビニルモノマーの例は、酢酸ビニル、アクリル酸エチル、ビニルアルコール、塩化ビニル、および(メタ)アクリルモノマーである。
【0039】
非炭化水素ポリオレフィンのうち、好ましいヘテロ基は、カルボキシル基、エステル基、無水物基、アルコキシシラン基、およびそれらの組み合わせである。無水物基がより好ましく、炭化水素ポリオレフィンへの無水マレイン酸のグラフトの生成物がより好ましい。ヘテロ基をグラフトすることができる好ましい炭化水素ポリオレフィンは、好ましくはポリエチレンまたはアルファ-オレフィンホモポリマー、より好ましくはポリエチレンである。ヘテロ原子を含む不飽和化合物は、例えばフリーラジカル開始剤の存在下または電離放射線の存在下で、例えばフリーラジカル法等の任意の有効な方法によって炭化水素ポリオレフィンにグラフトされてもよい。
【0040】
いくつかの好適な非炭化水素ポリオレフィンは、例えば、AMPLIFY(商標)ポリマー、PARALOID(商標)官能化エチレン-オクテンコポリマー、およびRETAIN(商標)ポリマー(The Dow Chemical Companyから入手可能)を含む。さらなる例は、FUSABOND(商標)ポリマー(E.I.DuPont de Nemoursから入手可能)、EXXELOR(商標)ポリマー(ExxonMobil Chemical Companyから入手可能)、POLYBOND(商標)ポリマー(Chemtura Corporationから入手可能)、およびLICOCENE(商標)ポリマー(Clariant International Ltd.から入手可能)を含む。
【0041】
初期ポリオレフィン粒子中の非炭化水素ポリオレフィンの量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは2重量%以上、より好ましくは4重量%以上、より好ましくは8重量%以上である。初期ポリオレフィン粒子中の非炭化水素ポリオレフィンの量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは49.5重量%以下、より好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、より好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0042】
初期ポリオレフィン粒子の分散液は、架橋剤をさらに含む。好ましい架橋剤は、炭素-炭素二重結合を有するポリオレフィン(「ポリオレフィン架橋剤」)、および500以下の分子量を有し、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する化合物(「モノマー架橋剤」)から選択される。ポリオレフィン架橋剤のうち、1種以上のジエンの重合単位を含むホモポリマーおよびコポリマーが好ましい。モノマー架橋剤のうち、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有するものが好ましく、3つ以上の炭素-炭素二重結合を有するものがより好ましい。好適なモノマー架橋剤は、トリアリルイソシアヌレートおよび1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサンを含む。
【0043】
架橋剤の量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上である。架橋剤の量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。
【0044】
初期ポリオレフィン粒子の分散液は、好ましくは1種以上の界面活性剤を含む。好ましい界面活性剤は、8個以上の炭素原子の炭化水素基およびアニオン性基を有するアニオン性界面活性剤である。炭化水素基は、線状、分岐状、芳香族、またはそれらの組み合わせであり得、線状炭化水素基が好ましい。アニオン性基は、pH7の水中で負の電荷を帯びる化学基である。好ましいアニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、硫酸基、およびスルホン酸基であり、硫酸基がより好ましい。好ましいアニオン性界面活性剤はまた、基-(CH2CH2O)n-を含有する。基-(CH2CH2O)n-が存在する場合、それは、好ましくは硫酸基に結合している。添字nは、1以上、好ましくは2以上である。添字nは、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましくは10以下、より好ましくは6以下、より好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。
【0045】
初期ポリオレフィン粒子中の界面活性剤の量は、分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、より好ましくは2重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。初期ポリオレフィン粒子中の界面活性剤の量は、分散液の全固形分重量を基準として、好ましくは10重量%以下、より好ましくは8重量%以下、より好ましくは6重量%以下、より好ましくは4重量%以下である。
【0046】
初期ポリオレフィン粒子は、任意選択で、1種以上の油、1種以上のケイ素含有ポリマー(例えば、ポリジメチルシロキサン等)、またはそれらの混合物を含む。
【0047】
好ましくは、炭化水素ポリオレフィン、非炭化水素ポリオレフィン、架橋剤、および界面活性剤の合計の総量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の総固形分重量を基準として、40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0048】
水性媒体中の初期粒子の分散液は、任意の方法によって形成され得る。好適な方法の一例は、以下の通りである。炭化水素ポリオレフィンおよび非炭化水素ポリオレフィンは、供給口を介して押出機に供給される。炭化水素ポリオレフィンおよび非炭化水素ポリオレフィンは、押出機に別々に添加され得るか、一緒に混合され、次いで、混合物として押出機に添加され得るか、または押出機への添加前に溶融混合によって一緒に配合され得る。25℃で固形である架橋剤を使用する場合、その架橋剤も、炭化水素ポリオレフィンおよび非炭化水素ポリオレフィンと共に供給口を介して供給される。25℃で液体である架橋剤を使用する場合、その架橋剤は、ポンプを介して押出機の溶融ゾーンに注入される。架橋剤を含むポリオレフィンは、押出機内で溶融状態で一緒に混合され、次いで、ポンプを介して水および界面活性剤を添加することによって押出機内で乳化される。このようにして形成されたエマルションは、70%以上の固形分レベルを有する。そのようなエマルションを作製する1つの方法は、US2016/0177077に教示されている。次いで、さらに水が押出機に添加され、押出機を出る最終分散液は70%未満の固形分レベルを有する。
【0049】
また、ポリオレフィンが上記のように最初に乳化され、次いで、好ましくはエマルジョンが1種以上のポリオレフィンの融点より高い温度に保持されるときに、架橋剤がエマルジョンに添加される方法も企図される。
【0050】
架橋粒子を作製する好ましい方法は、初期ポリオレフィン粒子の分散液を過酸化物開始剤と接触させるステップを含む。過酸化物開始剤は、構造R1-O-O-R2を有し、式中、R1およびR2は、各々独立してHまたは有機基である。好ましくは、R1およびR2は、各々独立して、Hまたはアルキル基である。好ましくは、R1およびR2は、両方ともHではない。好ましくは、R1は、Hである。好ましくは、R2は、2個以上の炭素原子、より好ましくは3個以上の炭素原子、より好ましくは4個以上の炭素原子を有するアルキル基である。好ましくは、R2は、12個以下の炭素原子、より好ましくは10個以下の炭素原子、より好ましくは8個以下の炭素原子、より好ましくは6個以下の炭素原子、より好ましくは4個以下の炭素原子を有するアルキル基である。
【0051】
好ましい過酸化物開始剤は、水溶性である。好ましい過酸化物開始剤は、過酸化水素およびアルキルヒドロペルオキシドであり、より好ましくはt-ブチルヒドロペルオキシドである。
【0052】
好ましくは、還元剤もまた含まれ、過酸化物と共に酸化還元開始剤を形成する。好ましい還元剤は、水溶性である。好ましい還元剤は、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、テトラメチルエチレンジアミン、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物であり、より好ましくはイソアスコルビン酸である。好ましくは、過酸化物と還元剤との間の酸化/還元反応のための触媒も含まれる。好ましい触媒は、鉄(II)の塩であり、より好ましくはFeSO4である。好ましくは、還元剤に対する過酸化物のモル比は、0.7:1以上、より好ましくは0.8:1以上、より好ましくは0.9:1以上である。好ましくは、還元剤に対する過酸化物のモル比は、1.3:1以下、より好ましくは1.2:1以下、より好ましくは、1.1:1以下である。
【0053】
過酸化物の量は、好ましくは、初期ポリオレフィン粒子の分散液の全固形分重量を基準として、0.02重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。好ましくは、過酸化物の量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の総固形分重量に基づいて、2重量%以下、より好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下である。還元剤対過酸化物のモル比は、好ましくは0.2:1以上、より好ましくは0.5:1以上、より好ましくは0.8:1以上である。過酸化物に対する還元剤のモル比は、好ましくは2:1以下、より好ましくは、1.5:1以下、より好ましくは1.2:1以下である。触媒の量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の固形分重量を基準として、好ましくは1重量ppm以上、より好ましくは2重量ppm以上、より好ましくは4重量ppm以上である。触媒の量は、初期ポリオレフィン粒子の分散液の固形分重量を基準として、好ましくは50重量ppm以下、より好ましくは20重量ppm以下、より好ましくは10重量ppm以下である。
【0054】
本発明はいかなる特定のメカニズムにも限定されないが、開始剤は、架橋剤の二重結合と相互作用するフリーラジカル部分を生成し、それらを炭化水素ポリオレフィンのポリマー鎖に結合させ、それにより炭化水素ポリオレフィンのポリマー鎖間に架橋を形成すると考えられる。この相互作用は、本明細書において架橋反応として知られている。熱開始剤が使用される場合、分散液は、開始剤が架橋反応のためのラジカルを生成するのに十分に高い温度まで加熱されることが推測される。光開始剤が使用される場合、分散液は、開始剤が架橋ラジカルのためのラジカルを生成するのに十分に短い波長および十分な強度の放射線に曝露されることが推測される。酸化還元開始剤が使用される場合、酸化/還元反応が架橋ラジカルのためのラジカルを生成することが推測される。酸化還元開始剤が好ましい。
【0055】
架橋反応が完了した後、分散液中の粒子は、架橋ポリオレフィン粒子と呼ばれる。好ましくは、架橋ポリオレフィン粒子は、水性媒体中の分散液として残る。
【0056】
架橋ポリオレフィン粒子は、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下、より好ましくは0℃以下、より好ましくは-15℃以下のTgを有する。
【0057】
好ましくは、架橋ポリオレフィン粒子の体積平均粒子径は、100nm以上、より好ましくは150nm以上、より好ましくは200nm以上、より好ましくは250nm以上である。好ましくは、架橋ポリオレフィン粒子の体積平均粒子直径は、2000nm以下、より好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、より好ましくは500nm以下である。
【0058】
架橋ポリオレフィン粒子の分散液において、好ましくは、水の量は、水性媒体の重量を基準として、60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0059】
好ましくは、架橋ポリオレフィン粒子の分散液の固形分は、20%以上、より好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは、35%以上である。好ましくは、架橋ポリオレフィン粒子の分散液の固形分は、60%以下、より好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。
【0060】
架橋の程度は、粒子のゲル分率を測定することによって評価される。ゲル分率は、以下の実施例の「方法B」で詳細に説明されるように、水を除去するために分散液を乾燥させ、乾燥残留物(重量=WTOT)を計量し、次いで乾燥残留物をトルエンと90℃で1時間混合し、次いで75μm孔径の多孔質金属カラムフリットを通して高温トルエンを濾過することによって測定される。トルエンに溶解しなかった残りの固体材料は、「ゲル」または架橋ポリマーと見なされる。ゲル分率は、乾燥ゲルの重量(残留トルエンを除去した後)(重量=WGEL)を分散液の全固形分重量で割ったものであり、パーセンテージで表される。すなわち、
ゲル分率=100*WGEL/WTOTである。
【0061】
好ましくは、ゲル分率は、5%以上、より好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。
【0062】
架橋ポリオレフィン粒子の分散液は、あらゆる目的で使用され得る。好ましい目的は、水性媒体中に複合粒子の分散液を作製するためのプロセスにおける成分としての目的である。水性媒体中の複合粒子の分散液を作製するための好ましいプロセスは、架橋ポリオレフィン粒子の分散液の存在下で1つ以上のビニルモノマーに対してエマルジョン重合を行うことである。
【0063】
好ましくは、1種以上のビニルモノマーが水および1種以上の界面活性剤と混合されて、水性媒体中に液滴のエマルジョンが形成されるが、液滴は(メタ)アクリルモノマーを含む。好ましくは、水性媒体中の架橋ポリオレフィン粒子の分散液、ビニルモノマー液滴のエマルジョン、および1種以上の水溶性開始剤を含む混合物が形成される。混合物は、開始剤にラジカルを生成させる条件に供される。それらの条件は、成分が一緒に混合されると同時に確立されてもよく、またはそれらの条件は、成分の一部またはすべてが一緒に混合された後に確立されてもよい。
【0064】
例えば、エマルジョン重合は、「バッチ」プロセスとして行うことができる。バッチプロセスでは、架橋ポリオレフィン粒子の望ましい分散液の全て、および望ましいビニルモノマーの全てが一緒に混合される。次いで、例えば、水溶性熱開始剤を混合物中に存在させ、次いで混合物を加熱することにより、または酸化還元開始剤の組み合わせを混合物に加えることにより、開始剤にラジカルを生成させる条件が確立される。次いで、ラジカルは、架橋ポリオレフィン粒子の存在下でビニルモノマーの重合を開始する。
【0065】
好ましいエマルジョン重合法は、「段階的添加」である。段階的添加プロセスでは、架橋ポリオレフィン粒子の所望の分散液のすべてが容器に入れられる。次いで、開始剤がラジカルを生成している条件下で、ビニルモノマーの1つ以上のエマルジョンが容器に徐々に添加される。段階的添加の好ましい形式では、ビニルモノマーの1つ以上のエマルジョンが添加されると同時に、1つ以上の水溶性開始剤もまた添加されている。水溶性開始剤が熱開始剤である場合、容器中の混合物は、開始剤にラジカルを生成させるのに十分高い温度であることが好ましい。水溶性開始剤が酸化還元開始剤である場合、好ましくは、酸化還元開始剤の様々な化合物が、徐々に、好ましくは別個に同時に反応器に供給される。段階的添加プロセスにおいて、好ましくは、第1の量のモノマーの添加からモノマーの添加の停止までの時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上、より好ましくは30分以上、より好ましくは40分以上、より好ましくは50分以上である。
【0066】
好ましいビニルモノマーは、(メタ)アクリルモノマー、ビニル芳香族モノマー、およびそれらの混合物であり、より好ましくは(メタ)アクリルモノマーである。(メタ)アクリルモノマーのうち、(メタ)アクリル酸、それらの非置換アルキルエステル、それらの置換アルキルエステル、およびそれらの混合物が好ましく、(メタ)アクリル酸、それらの非置換アルキルエステル、およびそれらの混合物がより好ましく、(メタ)アクリル酸の非置換アルキルエステルがより好ましい。アクリル酸の非置換アルキルエステルのうち、アルキル基が2個以上の炭素原子、より好ましくは3個以上の炭素原子、より好ましくは4個以上の炭素原子を有するものが好ましい。アクリル酸の非置換アルキルエステルのうち、アルキル基が18個以下の炭素原子、より好ましくは12個以下の炭素原子、より好ましくは8個以下の炭素原子を有するものが好ましい。メタクリル酸の非置換アルキルエステルのうち、アルキル基が4個以下の炭素原子、より好ましくは3個以下の炭素原子、より好ましくは2個以下の炭素原子、より好ましくは1個の炭素原子を有するものが好ましい。
【0067】
任意選択で、エマルジョン重合で使用されるビニルモノマーは、1つ以上の単官能性モノマーおよび1つ以上の多官能性モノマーを含む。
【0068】
好ましくは、ビニルモノマーのエマルジョン重合は、架橋ポリオレフィン粒子のガラス転移とは異なるガラス転移を有するビニルポリマーを形成する。好ましくは、ビニルポリマーのTgは、50℃超、より好ましくは75℃超である。
【0069】
好ましくは、ビニルポリマーは、架橋ポリオレフィンの粒子の表面上に形成する。ビニルポリマーは、架橋ポリオレフィンの粒子の周囲に完全または部分的なシェルを形成すると考えられる。ビニルポリマーの完全または部分的シェルを有する架橋ポリオレフィン粒子は、本明細書において複合粒子と呼ばれる。好ましくは、エマルジョン重合プロセスの終わりに、複合粒子は水性媒体中に分散される。次いで、架橋ポリオレフィン粒子は、本明細書において「コア」と呼ばれる。エマルジョン重合中に形成されるビニルポリマーは、本明細書において「シェル」と呼ばれる。
【0070】
好ましくは、複合粒子の体積平均粒子直径は、100nm以上、より好ましくは、150nm以上、より好ましくは200nm以上、より好ましくは、250nm以上である。好ましくは、複合粒子の体積平均粒子直径は、2000nm以下、より好ましくは1000nm以下、より好ましくは750nm以下、より好ましくは500nm以下である。
【0071】
複合粒子の分散液において、好ましくは、水の量は、水性媒体の重量を基準として、60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0072】
好ましくは、複合粒子の分散液の固形分は、20%以上、より好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上である。好ましくは、複合粒子の分散液の固形分は、60%以下、より好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下である。
【0073】
好ましくは、複合粒子は、2つの別個のTgを示す。一方のTgは、ポリオレフィンコアの特性であり、他方のTgは、ビニルポリマーシェルの特性であると推定される。好ましくは、ポリオレフィンコアのTgは、50℃以下、より好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下、より好ましくは0℃以下、より好ましくは-15℃以下である。好ましくは、ビニルポリマーシェルのTgは、50℃超、より好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上である。
【0074】
好ましくは、シェルのビニルポリマーのいくつかは、ポリオレフィンコアにグラフトされている。すなわち、好ましくは、ビニルポリマーシェルのポリマー鎖のいくつかは、ポリオレフィンコア中の1つ以上のポリマー鎖に共有結合している。グラフトの程度は、以下の実施例に記載される方法を使用して評価され得る。好ましくは、コアにグラフトされるシェルの量は、シェルの総量を基準として40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0075】
ポリオレフィンコアおよびビニルポリマーシェルの相対量は、コアおよびシェルの重量の合計を基準としたパーセンテージとして表されるコアの重量によって特徴付けることができる。シェルの重量は、エマルジョン重合中に反応容器に添加されたすべての(メタ)アクリルポリマーの重量から推定される。好ましくは、コアの量は、95重量%以下、より好ましくは92重量%以下、より好ましくは87重量%以下である。好ましくは、コアの量は、60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、より好ましくは77重量%以上である。
【0076】
必要に応じて、分散液のpHを調整するために、複合粒子の分散液に1種以上の緩衝剤が添加されてもよい。
【0077】
本発明による複合粒子の分散液は、あらゆる目的に使用することができる。いくつかの目的において、分散液から水を除去し、複合粒子を含む粉末を形成することが望ましい。複合粒子の分散液から水を除去するための好適な方法は、例えば、噴霧乾燥および凝固を含む。凝固が使用される場合、それに続いて、例えば、濾過、流動床乾燥、およびそれらの組み合わせを含むその後の乾燥方法が行われることが好ましい。好ましくは、水を除去するプロセスは、粉末粒子が複合粒子を含む粉末をもたらす。粉末の各粒子は、多くの複合粒子を含むことが推定される。多くの場合、粉末粒子は1000以上の複合粒子を含む。
【0078】
粉末粒子の集合は、任意選択で追加の成分を含む。追加の成分は、分散液に添加されて複合粒子と共に乾燥されてもよく、または追加の成分は乾燥プロセス後に粉末粒子に添加されてもよい。例えば、1種以上の酸化防止剤または1種以上のプロセス安定剤またはそれらの組み合わせが、粉末粒子の集合に添加されてもよい。粉末粒子の集合に含まれる好ましいプロセス安定剤は、リン酸塩であり、より好ましくはリン酸ナトリウムである。
【0079】
本発明の複合粒子を含む粉末は、任意の目的のために使用され得る。そのような粉末の1つの好ましい使用は、マトリックスポリマーへの添加剤としての使用である。好ましくは、本発明の複合粒子を含む粉末は、マトリックスポリマーの粉末またはペレットと混合され、2つの成分は、任意の追加の成分と共に、例えば押出機内で加熱され、機械的にブレンドされる。好ましくは、本発明の個々の複合粒子は、マトリックスポリマーの連続相全体に分散される。
【0080】
マトリックスポリマーは、任意のタイプのポリマーであってもよい。好ましいマトリックスポリマーは、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、天然ゴム、合成ゴム、ポリスチレン、(メタ)アクリレートポリマー、ポリエステル、フェノール-ホルムアルデヒドポリマー、エポキシ、ポリスチレン、ポリスチレンのコポリマー、それらのコポリマー、およびそれらのブレンドである。ポリスチレンのコポリマーは、例えば、スチレン/アクリロニトリル(SAN)およびアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)を含む。ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレンのコポリマー、およびそれらのブレンドが好ましい。ブレンドは、例えば、ポリカーボネートとABSとのブレンド、およびポリカーボネートとポリエステルとのブレンドを含む。ポリカーボネートを含むマトリックスポリマーがより好ましく、マトリックスポリマーの重量を基準として20重量%以上、より好ましくは40重量%以上、より好ましくは60重量%以上、より好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上の量のポリカーボネートを含むマトリックスポリマーがより好ましい。いくつかの好適なマトリックスポリマーは、ポリカーボネートとスチレン、アクリロニトリルおよびブタジエンのコポリマーとのブレンド、ならびに、ポリカーボネートと例えばブチレンテレフタレート等のポリエステルとのブレンドである。
【0081】
本発明の複合粒子およびマトリックスポリマーを含む組成物において、複合粒子の量は、複合粒子およびマトリックスポリマーの重量の合計を基準として、重量パーセントとして特徴付けられる。好ましくは、複合粒子の量は0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上、より好ましくは2重量%以上である。好ましくは、複合粒子の量は、40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下である。
【0082】
本発明のマトリックスポリマーおよび複合粒子を含有する組成物は、本明細書では配合マトリックスポリマーとして知られている。任意選択で、マトリックスポリマーおよび複合粒子に加えて、配合されたマトリックスポリマー中に追加の成分が存在してもよい。そのような追加の成分は、配合されたマトリックスポリマーを作製するプロセスの任意の時点で添加され得る。例えば、複合粒子の粉末形態で存在する上記のプロセス安定剤は、任意選択で配合マトリックスポリマー中に存在する。他のプロセスでは、追加の成分は、配合中に(つまり、複合粒子をマトリックスポリマーと混合する際に)追加され得る。配合中の添加に好適な追加の成分は、例えば、プロセス安定剤(例えば有機リン酸塩等)および酸化防止剤を含む。
【0083】
プロセス安定剤が存在する場合、好ましくは、プロセス安定剤の量は、配合されたマトリックスポリマーの重量を基準として、0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。プロセス安定剤が存在する場合、好ましくは、プロセス安定剤の量は、配合されたマトリックスポリマーの重量を基準として、0.5重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下である。
本発明は、以下の態様を含む。
[1]複合粒子の分散液を作製するためのプロセスであって、(i)水性媒体中の架橋ポリオレフィン粒子の分散液を提供することと、(ii)前記架橋ポリオレフィン粒子の存在下で1種以上のビニルモノマーに対してエマルジョン重合を行い、複合粒子の分散液を生成することとを含むプロセス。
[2]前記ビニルモノマーが、1つ以上の(メタ)アクリルモノマーを含む、[1]に記載のプロセス。
[3]前記ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸の1つ以上の非置換アルキルエステルを含む、[1]に記載のプロセス。
[4]前記架橋ポリオレフィン粒子が、1つ以上の炭化水素ポリオレフィンと、1つ以上の非炭化水素ポリオレフィンと、を含む、[1]に記載のプロセス。
[5]前記架橋ポリオレフィン粒子が、-30℃以下のTgを有する、[1]に記載のプロセス。
[6]前記架橋ポリオレフィン粒子が、10重量%以上のゲル分率を有する、[1]に記載のプロセス。
[7]前記架橋ポリオレフィン粒子が、前記架橋ポリオレフィン粒子の重量とビニルモノマーの総重量との合計に基づいて、60重量%~90重量%の量で使用される、[1]に記載のプロセス。
[8]前記エマルジョン重合ステップが、段階的添加プロセスとして行われ、第1の量のモノマーの添加からモノマーの添加の停止までの時間が、好ましくは10分以上である、[1]に記載のプロセス。
【0084】
以下は、本発明の実施例である。
【0085】
試験方法は以下を含む:メルトフローレート(MFR)をISO1133に従って測定した。ノッチ付きアイゾット衝撃強度を、ASTM D256に従って測定した。黄色度指数を、ASTM E313に従って測定した。
【0086】
以下の材料を使用した。
炭化水素ポリオレフィン:
E/OCT-1=Dow Chemical CompanyからのENGAGE(商標)8407エチレン/オクテンコポリマー
E/OCT-2=Dow Chemical CompanyからのENGAGE(商標)8137エチレン/オクテンコポリマー
E/OCT-3=Dow Chemical CompanyからのENGAGE(商標)8842エチレン/オクテンコポリマー
非炭化水素ポリオレフィン
PE/MAH-1=ClariantからのLICOCENE(商標)PE MA4351マレイン化ポリエチレンワックス、5%無水マレイン酸
PE/MAH-2=Dow Chemical Companyからの無水マレイン酸基でグラフトされたエチレン/オクテンコポリマーのRETAIN(商標)3000コポリマー
架橋剤
EPDM=Dow Chemical CompanyからのNORDEL(商標)4820エチレン-プロピレン-ジエンコポリマー
PBD=Cray Valleyからの高含量のビニル基を含むポリブタジエン
TAIC=トリアリルイソシアヌレート
界面活性剤
SLES=HuntsmanからのEMPICOL(商標)ESB40界面活性剤、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム。
ETHOX=Dow Chemical CompanyからのTERGITOL(商標)15-S-20界面活性剤、非イオン性第二級アルコールエトキシレート
【0087】
後述の試料において、「C」で始まる試料番号は比較用であり、「Ex」で始まる試料番号は実施例である。一部の実施例は、他の実施形態の調製例としても役立つ。
【0088】
調製例1:初期ポリオレフィン粒子の水性分散液の作製
【0089】
水性ポリオレフィン分散液は、次の手順を使用して、二軸スクリュー押出機(25mmスクリュー直径、48L/Dで450rpmで回転)を利用して調製した。炭化水素ポリオレフィンおよび非炭化水素ポリオレフィンは、それぞれ、Schenck Mechatron減量フィーダおよびSchenck容積測定フィーダを介して、押出機の供給口に供給された。Iscoデュアルシリンジポンプ(Teledyne Isco, Inc.(Lincoln、Nebraska、USA))を使用して、液体架橋剤をポリマー溶融ゾーンに注入した。次いでポリマーを溶融ブレンドし、次いで第1の水性ストリームおよび界面活性剤の存在下で乳化させた。次いで、エマルジョン相を押出機の希釈および冷却ゾーンに向けて運搬し、そこで追加の希釈水を添加して、70重量パーセント未満の範囲内の固形分レベルを有する水性分散液を形成した。初期水性ストリームおよび希釈水は全て、Iscoデュアルシリンジポンプにより供給した。押出機のバレル温度は、140~150℃に設定した。分散液が押出機を出た後、それを更に冷却し、200μmのメッシュサイズのバグフィルターを介して濾過した。粒径分析は、Beckman Coulter LS13320レーザー光散乱粒径測定器(Beckman Coulter Inc.、Fullerton、California)を用いて行われた。体積平均粒径が得られた。
【0090】
実施例2:水性媒体中での架橋ポリオレフィン粒子の分散液の作製。
【0091】
架橋ポリオレフィン粒子は、以下の手順に従って変性エマルジョン重合で生成された。調製例1からのポリオレフィン分散液を、pH4~7で40重量%固形分まで希釈した。次いで、水に溶解した5ppmのFeSO4(ポリオレフィン分散液重量に基づく)を反応前に分散液に添加した。その後、分散液を、冷却器および機械的撹拌機を取り付けた250mLの三つ口フラスコに充填した。フラスコを65~100℃の油浴中に置いた。撹拌棒を、テフロンアダプターおよびガラススリーブを通して挿入し、フラスコの中心に接続した。撹拌速度は、200rpmに設定した。反応器を通して窒素を緩徐にパージし、冷却水をオンにして、冷却器を通して流動するようにした。酸化還元開始剤は、tert-ブチルヒドロペルオキシド(t-BuOOH)および還元剤であった。特に指定のない限り、還元剤はイソアスコルビン酸(IAA)であった。t-BuOOHおよび還元剤をそれぞれ脱イオン水に溶解し、別個のシリンジポンプを使用してゆっくりと反応器に供給した。最後に、混成エマルジョンを、190ミクロンのフィルターを通して濾過することによって回収した。
【0092】
得られた分散液のゲル分率を、2つの異なる方法を使用して測定した。上で定義されたように、すべての方法において、ゲル分率=100*WGEL/WTOTである。まず、分散液を乾燥させて水を除去し、乾燥した分散液の重量はWTOTであった。
【0093】
ゲル分画法Aでは、架橋ポリオレフィン粒子の乾燥試料をソックスレー抽出器でキシレンで18時間、還流下で抽出した。抽出後の材料の乾燥重量はWGELであった。
【0094】
ゲル分画法Bでは、架橋ポリオレフィン粒子の乾燥試料をトルエン中、90℃で1時間撹拌した。固形材料およびトルエンの混合物を、75μmのフィルタで濾過した。乾燥後にフィルタ上に保持された材料の重量はWGELであった。
【0095】
得られた架橋ポリオレフィン粒子は、以下の表1に記載されている。架橋反応は、反応時間(RXTIME)および反応温度(RXTEMP)により特徴付けられる。使用される成分の量は、「phr」として特徴付けられ、これは、乾燥初期ポリオレフィン粒子100重量部を基準とした重量部である。
【表1】
【0096】
上記の方法を使用して、以下の表2に示すように、架橋ポリオレフィン粒子を特性評価した。ゲル画分(「gel frac」)を、方法Aまたは方法Bまたはその両方によって特性評価した。直径(「diam」)は、上記のように測定した。「nm」という表記は「測定されていない」ことを意味する。
【表2】
【0097】
比較試料にはゲル分率がなかったが、実施例にはかなりのレベルの架橋材料があった。
【0098】
追加の初期ポリオレフィン粒子を作製し、次いで上記の方法により架橋した。組成は表3に示される通りであった。結晶化度は、DSCにより、10℃/分のスキャン速度で、結晶化発熱下の面積を使用して測定された。「低」および「中」という用語は、次のように表3内の試料を比較するための比較用語である。「低」は、30J/グラム以下の結晶化発熱を意味する。「中」は、30J/グラム超45J/グラム以下の結晶化発熱を意味する。
【表3】
【0099】
表3に記載の初期ポリオレフィン粒子は、上記の方法を使用して架橋された。得られた組成物は、表4に示される通りであった。接尾辞「X」は、架橋反応の結果を示す。「gel frac」という表示は、上で定義された方法「B」により測定された、架橋ポリオレフィン粒子のゲル分率を指す。「Ex」と表示された試料は全て、本発明の実施例として認められ得るのに十分な架橋を有していた。「diam」は、エマルジョン重合前の架橋ポリオレフィン粒子の体積平均直径である。
【表4】
【0100】
実施例3:エマルジョン重合
【0101】
シードエマルジョン重合プロセスにより複合粒子を調製した。上記の表4の架橋ポリオレフィン粒子分散液の各々を反応器に入れて、アクリルモノマーの重合のためのシードとして使用した。モノマーをプレミックスしてモノマーエマルジョンを形成し、次いで65℃で60分かけて反応器に注入した。同時に、酸化還元触媒対をフリーラジカル開始剤として別個に反応器に90分かけて供給した。反応を60℃で90分間維持し、次いで25℃まで冷却し、190μmフィルタで濾過した。すべての場合において、アクリルモノマーは、メタクリル酸メチル(MMA)およびアクリル酸ブチル(BA)の混合物であり、MMA:BAの重量比は98.0:2.0であった。
【0102】
エマルジョン重合後の複合粒子の特性を以下の表5に示す。
【0103】
グラフトは以下のように評価された。試料(約0.2グラム)を5gのテトラヒドロフラン(THF)に室温(約23℃)で約16時間溶解した。次いで、5gのアセトニトリル(ACN)を溶液に添加し、室温で約16時間放置した。溶液を70,000回転/分で15分間遠心分離した。上清を濾過し、サイズ排除クロマトグラフ(SEC)装置で、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマービーズを使用して、THFを1mL/分で流し、カラム温度を40℃にして試験し、示差屈折率検出を行った。抽出されたポリマーは、グラフトされていないアクリルコポリマーp(MMA/BA)であると想定された。各試料の検出器応答対時間のSEC曲線を、既知の濃度のp(MMA/BA)標準試料のSEC曲線と比較した。p(MMA/BA)標準試料のピーク面積対濃度のグラフを、線形最小二乗法によって標準線に適合させた。その標準線を使用して、各試料のSECピーク面積を濃度に変換し、それを使用して各試料から抽出可能なポリマーの量を計算した。
【0104】
表5において、「PO disp」という表示は、エマルジョン重合のためのシードとして使用された、表4で定義されたポリオレフィン分散液を指す。接尾辞「-S」は、ポリオレフィン分散液の存在下でのエマルジョン重合の結果を示す。「コア:シェル」は、使用される(メタ)アクリルモノマーの総重量に対する乾燥した架橋ポリオレフィン粒子の重量比である。いくつかの試料では、エマルジョン重合前にNa
3PO
4をポリオレフィン分散液に添加したが、示されている量は、固体ポリオレフィン粒子の重量を基準とした重量%である。
【表5】
【0105】
実施例4:複合粒子とマトリックスポリマーとの配合。
【0106】
複合粒子の水性分散液を、以下の手順に従って噴霧乾燥した。2流体ノズルアトマイザを、Mobile Minor噴霧乾燥機(GEA Process Engineering Inc.(Copenhagen、Denmark))に装備した。1ノズルへの窒素圧は、50%の流量で1バールに固定したが、これは6.0kg/時の気流に相当する。ガラス瓶をサイクロンの下に置き、サイクロンの底にあるバルブを開いた。オレフィン-アクリル分散液(約40重量%固形分)を、エマルジョン供給ポンプにより加熱されたチャンバ内にポンピングした。噴霧乾燥実験は、入口温度を120℃に固定したN2環境で実施し、分散液の供給速度を調整することにより出口温度を40℃に制御した。乾燥粉末の体積平均粒径は、20~40μmの範囲内であると測定された。
【0107】
使用したポリカーボネート(PC)は、CovestroからのMAKROLON(商標)2405樹脂であった。配合前に、樹脂をオーブン内で110℃で2~4時間完全に乾燥させた。ポリカーボネート(PC)樹脂および複合粒子を、JSW TEX28V共回転二軸スクリュー押出機(L/D=42)で配合した。樹脂および複合粒子は、重量測定K-Tronフィーダを介して押出機の供給口に供給され、溶融混合された。次いで、押し出されたストランドを冷却し、グラニュロメータでペレット化した。押出機の温度プロファイルを、25-260-270-280-285-280-280-280-280-280-280-280-280℃(ホッパーからダイまで)に設定し、配合は、150rpmのスクリュー速度および10kg/時の出力で行った。
【0108】
配合したペレットを、低圧乾燥機内で110℃で4時間乾燥させ、280-280-285-290℃(ホッパーからダイまで)の温度プロファイルでBattenfield HM80/120機器を使用して射出成形した。保持圧力は200バールに設定され、金型温度は80℃であった。金型は、40秒の冷却時間後に排出された。
【0109】
PC樹脂と配合された改質剤材料は、上記の複合粒子であり、比較には、Dow Chemical CompanyからのPARALOID(商標)EXL-2629Jメタクリレートブタジエンスチレン衝撃改質剤(本明細書では「MBS」)であった。
【0110】
実施例5:ポリカーボネート中の改質剤を使用した実験結果。
【0111】
上記の実施例4に記載されるように、95重量%のPCおよび5重量%の様々な改質剤を用いて、試料を配合および成形した。様々な温度でのMFRおよびアイゾット衝撃試験の結果は、表6に示される通りであった。「nt」は、試験されていないことを意味する。MFRの条件は、1.2kgの負荷で300℃であった。示されている改質剤の量は、配合されたPCの総重量を基準とした重量パーセントである。「ゲート欠陥」とは、射出成形されたバーに表面剥離があることを指す。アスタリスク(
*)は、比較例を示す。
【表6】
【0112】
表6に示されるように、改質剤を含む化合物は許容可能なMFR結果を示す。改質剤を含む化合物は、23℃および0℃で非改質PCと同等のアイゾット衝撃を示し、改質剤を含む化合物は、-20℃および-30℃で改善されたアイゾッド衝撃を示す。本発明の改質剤(実施例7Sおよび実施例8BS)は、市販のMBS衝撃改質剤により与えられる改善と同等であるアイゾット衝撃への改善を示す。MBS組成物中の不飽和ポリブタジエンおよび芳香環の分布により、MBS改質剤は屋外での暴露時に比較的迅速に分解する傾向があることが知られている。対照的に、本発明の改質剤は、芳香族環または不飽和をほとんどまたは全く有さないそれらのポリオレフィン組成のために、屋外暴露による分解に抵抗すると推定される。
【表7】
【0113】
本発明の改質剤はすべて、許容可能なMFRおよびアイゾット衝撃結果を与えた。実施例6Sは、エマルジョン重合前の架橋ポリオレフィン粒子において最低レベルの架橋を有し、その実施例は、本発明の改質剤の中で、ゲート欠陥について最も望ましくない結果を有していた。