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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】セクレトームの効力アッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6897 20180101AFI20230509BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230509BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20230509BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20230509BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230509BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230509BHJP
【FI】
C12Q1/6897 Z
C12Q1/02
C12Q1/66
G01N33/15 Z
G01N33/48 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020554577
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 EP2018085955
(87)【国際公開番号】W WO2019121989
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】17209165.4
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520224096
【氏名又は名称】アポサイエンス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アンカーシュミット ヘンドリック ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ミルトナー ミヒャエル
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-512843(JP,A)
【文献】特表2012-512842(JP,A)
【文献】Basic Res Cardiol,2011年,Vol.106, pp.1283-1297
【文献】Apoptosis,2016年,Vol.21, pp.1336-1353
【文献】Cell Growth & Differentiation,1994年,Vol.5, pp.27-36
【文献】Journal of Neurochemistry,1998年,Vol.70, pp.1887-1897
【文献】Stem Cells International,2014年,Article ID 438352, 10 pages,http://dx.doi.org/10.1155/2014/438352
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中でSH-SY5Y細胞をインキュベートするステップと、
b)前記SH-SY5Y細胞における、活性化因子タンパク質1(AP-1)が結合するプロモーターのプロモーター活性を測定するステップと
を含み、前記プロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中でSH-SY5Y細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも50%高い場合、哺乳動物細胞培養物の前記上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有し、
哺乳動物細胞培養物の前記上清が、アポトーシスを誘導された末梢血単核細胞(PBMC)培養物の上清である、方法。
【請求項2】
炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中でSH-SY5Y細胞をインキュベートするステップと、
b)前記SH-SY5Y細胞における、活性化因子タンパク質1(AP-1)が結合するプロモーターのプロモーター活性を測定するステップと
を含み、前記プロモーター活性が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む培養培地中でSH-SY5Y細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、最大10%高いか、または低い場合、哺乳動物細胞培養物の前記上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有し、
哺乳動物細胞培養物の前記上清が、アポトーシスを誘導された末梢血単核細胞(PBMC)培養物の上清である、方法。
【請求項3】
前記炎症状態が、虚血と関連する状態である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記虚血と関連する状態が、皮膚状態または内部炎症状態である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)の前記SH-SY5Y細胞が、少なくとも2時間、細胞培養培地中でインキュベートされる、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記培養培地が、少なくとも20%の前記上清を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)の前記培養培地が、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地(F12)、最小必須培地、またはこれらの培地の1つ以上の組合せである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)の前記培養培地が、2~20%のウシ胎仔血清(FBS)および/またはL-アラニル-L-グルタミンを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記SH-SY5Y細胞が、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記レポータータンパク質が、ルシフェラーゼおよび蛍光タンパク質からなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
記プロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中でSH-SY5Y細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも80%高い、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、炎症状態の治療に使用される組成物の能力の試験において,使用される効力アッセイに関する。
【0002】
[背景技術]
多くの管轄権における法制では、正確な組成さえも完全にわかっているとは言えない複数の活性化合物を含む医薬製剤について、市販される前に、これらの効力を評価する必要がある。通常、生産された各バッチは、それぞれの効力アッセイを使用して、この効力について評価しなければならない。
【0003】
効力アッセイを使用して、特定の製品が、疾患または障害の治療に適切な生物学的活性を有することを示すことができる。製品の生物学的機能のすべてを反映させることは、効力アッセイの必要条件ではないが、これは、1つ以上の適切な生物学的機能を示すはずである。医薬品の有効性に重要なパラメータを同定し、これらを(例えば、効力試験により)制御して、一貫した品質の製品を製造可能とすることが強く求められている。効力アッセイの大きな利点は、複合医薬製剤中の少数(例えば、2、3、4または5つ、理想的には1つのみ)の「レポーター」タンパク質または酵素活性を同定および/または定量することにより、前記製剤の治療適合性を判定することができることである。
【0004】
細胞、特に、哺乳動物細胞は、細胞培養培地中で培養される間に、多数の物質を分泌することが知られている。このように入手した条件培養培地を、疾患および障害の治療および/または予防において使用することができる。例えば、国際公開第2010/070105号および国際公開第2010/079086号では、条件培養培地(「上清」)を開示しており、これは、末梢血単核細胞(PBMC)を培養することにより得られ、様々な炎症状態の治療において使用することができる。
【0005】
[発明の概要]
培養の前または間に、ストレス誘導条件に供したPBMCを培養することにより入手可能な、無細胞または細胞含有条件培養培地は、とりわけ炎症と関連する、様々な疾患の治療において有効であることが判明した(国際公開第2010/070105号および国際公開第2010/079086号を参照)。このような条件培養培地が、とりわけ、条件培地の生物学的活性に対する影響を有し得る、PBMCにより分泌または放出される複数の物質を含むため、前記培地が所望の活性を有するかどうかを示すアッセイを行うことは、重要である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、PBMCの培養により入手可能な条件培養培地が、炎症と関連する疾患および障害を治療するための活性を有するかどうかの判定を可能とするアッセイを提供することである。このようなアッセイは、薬学的使用に許容される条件培養培地の種々の製造ロット間での一貫した効力を実証するのに有用である。
【0007】
本発明者らは、特定のタンパク質の発現および/またはある特定のプロモーターの制御をモニターすることにより、条件培養培地の生物学的活性および治療有効性を測定する効力アッセイを見出した。驚くべきことに、PBMCの培養により入手可能であり、炎症と関連する疾患および障害を治療する能力を有する条件培養培地は、真核細胞を前記条件培養培地中でインキュベートする場合、これらの細胞におけるリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の発現を誘導可能であることが判明した。その上、条件培養培地により、活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターが、真核細胞において活性化される。したがって、リン酸化HSP27の発現の増加、ならびにAP-1、NF-κB、Sox2、STAT3、EGR-1および/またはSREプロモーターの活性化は、PBMCの培養により入手可能な条件培養培地を、炎症と関連する疾患および障害の治療において使用することができることを示す。
【0008】
したがって、本発明は、炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中で真核細胞をインキュベートするステップと、
b)活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性を測定するステップ、ならびに/またはステップa)の培養培地中に真核細胞により放出されたリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の量を測定するステップと、
を含み、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも50%高い場合、および/またはステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、少なくとも20%高い場合、哺乳動物細胞培養物の上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有する、方法に関する。
【0009】
炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中で真核細胞をインキュベートするステップと、
b)活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性を測定するステップ、ならびに/またはステップa)の培養培地中に真核細胞により放出されたリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の量を測定するステップと
を含み、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、最大25%高いか、もしくは低い場合、および/またはステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む、ステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、最大25%高いか、もしくは低い場合、哺乳動物細胞培養物の上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有する、方法。
【0010】
本発明の実施形態では、哺乳動物細胞培養物の上清は、末梢血単核細胞(PBMC)培養物の上清である。
【0011】
本発明の別の実施形態では、哺乳動物細胞培養物は、T細胞、B細胞および/またはNK細胞を含む。
【0012】
本発明のさらなる実施形態では、哺乳動物細胞培養物中の哺乳動物細胞は、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地(CellGenix社、フライブルク、独国)、より好ましくはCellgro GMP DC培地(「CellGenix GMP DC培地」としても知られる;CellGenix社、フライブルク、独国)、RPMI、DMEM、X-vivoおよびUltracultureからなる群から選択される細胞培養培地中で培養される。
【0013】
本発明の実施形態では、哺乳動物細胞は、培養の前または間に1つ以上のストレス誘導条件に供される。
【0014】
本発明の別の実施形態では、ストレス誘導条件は、放射線、特に、電離放射線またはUV放射線、低酸素、オゾン、熱、浸透圧およびpHの変化からなる群から選択される。
【0015】
本発明の実施形態では、哺乳動物細胞は、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gyの線量で電離放射線に供される。
【0016】
本発明のさらなる実施形態では、哺乳動物細胞は、上清が単離される前に、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、培養される。
【0017】
本発明の実施形態では、炎症状態は、虚血と関連する状態、好ましくは皮膚状態または内部炎症状態である。
【0018】
本発明のさらなる実施形態では、皮膚状態は、創傷、組織虚血、慢性創傷、糖尿病性創傷、皮膚潰瘍、皮膚熱傷、形成外科手術による皮弁および歯科移植後の組織再生からなる群から選択される。
【0019】
本発明の実施形態では、内部炎症状態は、心筋虚血、肢虚血、組織虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血性脳卒中、心筋梗塞、うっ血性心不全、外傷、腸疾患、腸間膜梗塞(mesnterial infarction)、肺梗塞、骨折、歯科移植後の組織再生、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、同種移植および同種移植片拒絶反応からなる群から選択される。
【0020】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の真核細胞は、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、異数体不死化角化細胞(HaCaT)、ヒト胎児腎臓細胞(HEK細胞)、好ましくはHEK293細胞、および神経芽腫細胞、好ましくはSH-SY5Y細胞からなる群から選択される。
【0021】
本発明のさらなる実施形態では、ステップa)の真核細胞は、少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、より好ましくは少なくとも24時間、細胞培養培地中でインキュベートされる。
【0022】
本発明の実施形態では、培養培地は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の前記上清を含む。
【0023】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の培養培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地(F12)、最小必須培地、またはこれらの培地の1つ以上の組合せである。
【0024】
本発明の実施形態では、ステップa)の培養培地は、2~20%、好ましくは5~15%のウシ胎仔血清(FBS)および/またはL-アラニル-L-グルタミンを含む。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、真核細胞は、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーター、NF-κBプロモーター、Sox2プロモーター、STAT3プロモーター、EGR-1プロモーターおよびSREプロモーターからなる群から選択されるプロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む。
【0026】
本発明の実施形態では、レポータータンパク質は、ルシフェラーゼ、好ましくはホタルルシフェラーゼ、および蛍光タンパク質、好ましくは緑色蛍光タンパク質からなる群から選択される。
【0027】
本発明の別の実施形態では、細胞により培養培地中に放出されたタンパク質の量は、免疫学的方法により、好ましくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、光度測定法により、または蛍光法により判定される。
【0028】
本発明の実施形態では、ステップa)の真核細胞は、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、HaCaTまたはHEK細胞、好ましくはHEK293細胞であり、リン酸化HSP27の量を判定する。
【0029】
本発明のさらなる実施形態では、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性は、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、より好ましくは少なくとも150%、より好ましくは少なくとも200%高い。
【0030】
本発明の実施形態では、ステップa)の真核細胞は、培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量を測定する場合、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、HaCaT細胞またはHEK細胞、好ましくはHEK293細胞である。
【0031】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の真核細胞は、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、神経芽腫細胞、好ましくはSH-SY5Y細胞、またはHaCaT細胞である。
【0032】
本発明の実施形態では、ステップa)の真核細胞は、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、NF-κBまたはSox2プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞である。
【0033】
本発明のさらなる実施形態では、ステップa)の真核細胞は、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、EGR-1、SRE、AP-1またはSTAT3プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、HEK細胞、好ましくはHEK293細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A】増殖アッセイ(実施例1)の結果を示す。グラフは、一晩増殖させたときの細胞数(CellTiterGloシグナル)を示す。図1AはHUVEC細胞である。
図1B】増殖アッセイ(実施例1)の結果を示す。グラフは、一晩増殖させたときの細胞数(CellTiterGloシグナル)を示す。図1BはNHDF細胞である。
図1C】増殖アッセイ(実施例1)の結果を示す。グラフは、一晩増殖させたときの細胞数(CellTiterGloシグナル)を示す。図1CはA549細胞である。
図2A】細胞Hsp27 ELISAアッセイ1(実施例3を参照)の結果を示す。
図2B】細胞Hsp27 ELISAアッセイ1(実施例3を参照)の結果を示す。
図2C】細胞Hsp27 ELISAアッセイ1(実施例3を参照)の結果を示す。
図3A】細胞Hsp27 ELISAアッセイ2(実施例3を参照)の結果を示す。
図3B】細胞Hsp27 ELISAアッセイ2(実施例3を参照)の結果を示す。
図3C】細胞Hsp27 ELISAアッセイ2(実施例3を参照)の結果を示す。
図4A】細胞Hsp27 ELISAアッセイ3(実施例3を参照)の結果を示す。
図4B】細胞Hsp27 ELISAアッセイ3(実施例3を参照)の結果を示す。
図5A】実施例3に記載のリン酸化HSP27アッセイを使用した、100%CellGro培地と比較した、様々な濃度のAposecの相対効力を示す。
図5B】実施例3に記載のリン酸化HSP27アッセイを使用した、100%CellGro培地と比較した、様々な濃度のAposecの相対効力を示す。
図6A】5および24時間後にAposecで刺激した真核細胞におけるAP-1レポーターシグナルを示す。
図6B】5および24時間後にAposecで刺激した真核細胞におけるAP-1レポーターシグナルを示す。
図7】AP-1 RGAアッセイの時間および用量依存性を示す。
図8A】実施例3に記載のリン酸化AP-1 RGAアッセイを使用した、100%CellGro培地と比較した、様々な濃度のAposecの相対効力を示すグラフである。
図8B】実施例3に記載のリン酸化AP-1 RGAアッセイを使用した、100%CellGro培地と比較した、様々な濃度のAposecの相対効力を示すグラフである。
図9】AposecおよびCellGro培地を使用した、NF-κBプロモーターの誘導の比較を示す。
図10A】実施例5に記載のNF-κB RGAアッセイを使用した、100%CellGro培地と比較した、様々な濃度のAposecの相対効力を示す。
図10B】実施例5に記載のNF-κB RGAアッセイを使用した、100%CellGro培地と比較した、様々な濃度のAposecの相対効力を示す。
図11】実施例7のトランスフェクション有効性試験の結果をまとめた表である。
図12A】実施例7.2のシグナル伝達レポーターアレイの結果を示す。
図12B】実施例7.2のシグナル伝達レポーターアレイの結果を示す。
図13A】実施例7.3のシグナル伝達レポーターアレイの結果を示す。
図13B】実施例7.3のシグナル伝達レポーターアレイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法に関する。
【0036】
「効力」は、本明細書において使用する場合、疾患、障害または状態、特に、炎症に関与する疾患、障害または状態の治療または予防において必要とされる組成物(例えば、細胞培養物の上清)の生物学的活性であると定義される。
【0037】
「効力アッセイ」は、本明細書において使用する場合、組成物の効力を判定するための方法を指す。効力アッセイでは、試料中、すなわち、哺乳動物細胞培養物の上清中の特定の物質または物質の特定の組成物の存在または量を、直接的または間接的に測定する。試料中の特定の物質または物質の特定の組成物の存在または量は、炎症状態の治療において上清が使用可能かどうかを示す。したがって、炎症状態の治療において有効であることがわかっている上清は、基準として使用することができる。このような場合、活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性、ならびに/または別のバッチの上清の試料を含むステップa)の培養培地中に真核細胞により放出されたリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の量は、測定され、次いで、上に定義した基準上清により引き起こされる作用と比較される。任意のプロモーター活性またはタンパク質量の差異は、基準上清と比較して、+/-25%(すなわち、最大25%高いか、または低い)、好ましくは+/-20%、より好ましくは+/-15%、より好ましくは+/-10%、より好ましくは+/-5%の範囲で、このバッチの上清が炎症状態の治療において使用することができることを示す。同じことが、リン酸化HSP27の量についても当てはまる。
【0038】
したがって、本発明の別の態様では、炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中で真核細胞をインキュベートするステップと、
b)活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性を測定するステップ、ならびに/またはステップa)の培養培地中に真核細胞により放出されたリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の量を測定するステップと
を含み、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、最大25%高いか、もしくは低い場合、および/またはステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む、ステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、最大25%高いか、もしくは低い場合、哺乳動物細胞培養物の上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有する、方法に関する。
【0039】
「炎症状態」は、本明細書において使用する場合、少なくともある程度炎症と関連する、障害、疾患および状態を指す。
【0040】
上記のように、哺乳動物細胞培養物の上清は、真核細胞における、ある特定のタンパク質のタンパク質発現に影響を与えることができる。それに加えて、これらの上清はまた、真核細胞に存在するプロモーターの活性を制御(活性化または阻害)することができる。両作用を使用して、炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定することができる。
【0041】
「プロモーター」は、本明細書において使用する場合、機能性ポリペプチドまたはタンパク質をコードする核酸分子の上流に典型的に位置する、ひと続きの核酸を意味することを指す。プロモーターは、宿主細胞において機能性であり、プロモーターの下流に見出される、ひと続きの核酸の転写を制御する。プロモーターは、転写因子結合部位ならびに転写開始領域を含む。
【0042】
哺乳動物細胞培養物の上清において、真核細胞のリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の発現率が、後者の細胞を前記上清とともにインキュベートした場合、上昇することが判明した。真核細胞がヒト細胞である場合、ヒトHSP27(UniProt P04792)は、HSP27のアミノ酸残基15、26、65、78、82、83、86、98、174、176および199番目から選択される、少なくとも1つの位置においてリン酸化され、これにより、好ましいリン酸化アミノ酸残基は、HSP27の15および82番目の位置であり得る。
【0043】
ステップb)に従って、培養培地中のリン酸化HSP27を判定および/または定量するために、様々な方法を利用することができる。最も好ましい方法は、抗体、またはこのような抗体の抗原結合可変領域を含む、Fab断片もしくは他の断片を含む、抗体の抗原結合断片の使用を含む。これらの抗体および断片は、免疫アッセイ、好ましくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)において使用されて、リン酸化HSP27を判定することができる。
【0044】
哺乳動物細胞培養物(すなわち、条件培養培地)の上清の、特定のプロモーターの活性に対する影響を、様々な方法を使用して試験することができる。一方法は、それぞれのプロモーターに作動可能に連結した核酸によりコードされる、天然に存在するタンパク質の測定を含む。これは、前記タンパク質に結合する抗体もしくはこの機能性断片を使用して、または転写されて前記タンパク質をコードするmRNAの量を判定することにより、行うことができる。あるいは、哺乳動物細胞培養物の上清により影響を受けるプロモーターは、当技術分野において既知の組換え方法を使用して、レポータータンパク質をコードする核酸分子に動作可能に連結することができる。また、これらのレポータータンパク質は、免疫アッセイにおいて、抗体またはこの抗原結合断片を使用することにより、定量することができる。あるいは、このようなレポータータンパク質は、酵素活性または蛍光特性を有し得る。レポータータンパク質が酵素活性を有する場合、アッセイを使用して、変換された基質の量を判定し、これにより、プロモーター活性についての結論を導くことができる。
【0045】
本発明によれば、好ましいプロモーターは、活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターである。
【0046】
ステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、少なくとも20%高い場合、および/または少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも50%高い場合、哺乳動物細胞培養物の上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有することが判明した。
【0047】
上記のように、プロモーターのプロモーター活性は、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも100%、より好ましくは少なくとも150%、より好ましくは少なくとも200%高い。「前記上清を欠く」とは、条件培養培地(すなわち、哺乳動物細胞培養物の上清)を欠く培養培地中で真核細胞をインキュベートすることを意味する。
【0048】
ステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量は、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも100%高い。
【0049】
本発明の別の態様では、炎症状態を治療可能であることが既に明らかとされている、哺乳動物細胞培養物の基準上清を使用する。このような場合、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性は、前記基準上清を含む培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、最大25%高いか、もしくは低く、および/またはステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、前記基準上清を含む、ステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、最大25%高いか、もしくは低い。
【0050】
本発明の方法の第1のステップでは、真核細胞は、哺乳動物細胞培養物の上清を含むか、または上清からなる培養培地中で培養/インキュベートされる。培養条件は、通常、標準培養培地中で真核細胞を培養するのに使用される条件である。典型的には、真核細胞は、35℃~39℃、好ましくは36℃~38℃、特に約37℃の温度で培養/インキュベートされる。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、哺乳動物細胞培養物の上清は、末梢血単核細胞(PBMC)培養物の上清である。培養するPBMCの上清は、炎症状態の治療において使用することができる(例えば、国際公開第2010/070105号および国際公開第2010/079086号参照)。PBMCは、本明細書において定義される場合、T細胞、B細胞および/またはNK細胞を含むか、またはこれらからなる。
【0052】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、本発明の哺乳動物細胞は、ストレス誘導条件下で培養される。哺乳動物細胞は、培養の間に培養培地中に物質を分泌可能であることが、当技術分野において知られている。この作用は、培養の間または前に、哺乳動物細胞がストレス誘導条件に供される場合、さらにいっそう増強され得る。特に、ストレスに供された哺乳動物細胞は、炎症状態の治療において特に有益な物質を分泌することが判明した。
【0053】
用語「ストレス誘導条件下」は、本明細書において使用する場合、ストレスに供した細胞をもたらす培養条件を指す。細胞に対するストレスを引き起こす条件は、とりわけ、熱、化学物質、放射線、低酸素、浸透圧等を含む。
【0054】
ストレス誘導条件は、低酸素、オゾン、熱(例えば、哺乳動物細胞の最適培養温度、すなわち37℃よりも2℃を超えて、好ましくは5℃を超えて、より好ましくは10℃を超えて高い)、放射線(例えば、UV放射線、電離放射線、ガンマ放射線)、化学物質、浸透圧(すなわち、少なくとも、通常、体液中、特に血中に生じる浸透圧条件と比較して上昇する浸透圧条件)またはこれらの組合せを含む。
【0055】
放射線を使用して、本発明の哺乳動物細胞をストレスに供する場合、細胞は、好ましくは少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gyで照射し、このためソースとして、好ましくはCs-137セシウムを使用する。
【0056】
本発明の好ましい実施形態によれば、哺乳動物細胞は、上清が単離される前に、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間培養される。
【0057】
本発明によれば、好ましくは、ステップa)の真核細胞は、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、異数体不死化角化細胞(HaCaT)、ヒト胎児腎臓細胞(HEK細胞)、好ましくはHEK293細胞、および神経芽腫細胞、好ましくはSH-SY5Y細胞からなる群から選択される。特に、これらの真核細胞を使用して、炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定可能であることが判明した。
【0058】
ステップa)の真核細胞は、少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、より好ましくは少なくとも24時間、細胞培養培地中でインキュベート(すなわち、培養)される。少なくとも2時間の培養時間は、哺乳動物細胞培養物の上清を含むか、または上清からなる培養培地中に物質が存在可能となり、リン酸化HSP27の発現および任意の分泌を増加させ、ならびに/または上記のプロモーターを活性化するのに十分である。
【0059】
ステップa)において使用する培養培地は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の哺乳動物細胞培養物の上清を含むか、または上清からなる。
【0060】
本発明の好ましい実施形態では、ステップa)の培養培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地(F12)、最小必須培地、またはこれらの培地の1つ以上の組合せである。
【0061】
本発明の別の実施形態では、ステップa)の培養培地は、2~20%、好ましくは5~15%のウシ胎仔血清(FBS)および/またはL-アラニル-L-グルタミンを含む。
【0062】
真核細胞における上記のプロモーターのプロモーター活性を判定するために、細胞は、好ましくは、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーター、NF-κBプロモーター、Sox2プロモーター、STAT3プロモーター、EGR-1プロモーターおよびSREプロモーターからなる群から選択されるプロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含むように遺伝子修飾される。
【0063】
「発現カセット」は、本明細書において定義される場合、遺伝子発現に必要な制御配列に作動可能に連結した、遺伝子を含む核酸断片(すなわち、タンパク質またはポリペプチドをコードする核酸分子)を指す。
【0064】
「作動可能に連結した」は、特定の遺伝情報をコードするヌクレオチド領域が結合し、これにより、ヌクレオチド領域が近接して、この領域の機能性が、保存され、機能性単位の一部として、他の領域と関連して動作し得ることを指す。
【0065】
真核細胞内に導入される発現カセットは、ベクターの一部として用意することができる。「ベクター」は、真核細胞のような宿主生体内に核酸断片を導入することが可能な媒体であるとみなされる。「発現ベクター」は、核酸断片、および特に、十分な遺伝情報を含む発現カセットを、真核細胞内に導入可能であり、このため、これらの細胞により発現させることが可能な媒体である。
【0066】
発現カセットによりコードされるレポータータンパク質は、抗体またはこの抗原結合断片により結合可能な、ポリペプチドまたはタンパク質、酵素、あるいは蛍光タンパク質またはポリペプチドであり得る。好ましくは、レポータータンパク質は、ルシフェラーゼ、好ましくはホタルルシフェラーゼ、蛍光タンパク質、好ましくは緑色蛍光タンパク質からなる群から選択される。
【0067】
「ルシフェラーゼ」は、ルシフェリン、酸素およびATPの存在下で、生物発光物質を産生可能な酸化酵素である。「蛍光タンパク質」は、蛍光特性を有するタンパク質である。
【0068】
真核細胞により培養培地中に放出されたタンパク質(例えば、リン酸化HSP27、レポータータンパク質)の量は、免疫学的方法により、好ましくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、光度測定法により、または蛍光法により判定される。
【0069】
腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、HaCaTまたはHEK細胞、好ましくは、HEK293細胞は、特に、リン酸化HSP27の量の判定に適することが判明した。
【0070】
少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、より好ましくは少なくとも150%、より好ましくは少なくとも200%高い場合、哺乳動物細胞培養物の上清は、炎症状態の治療において使用することができる。
【0071】
ステップa)の真核細胞は、培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量を測定する場合、好ましくは腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、HaCaT細胞またはHEK細胞、好ましくはHEK293細胞である。
【0072】
ステップa)の真核細胞は、好ましくはレポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、神経芽腫細胞、好ましくはSH-SY5Y細胞、またはHaCaT細胞である。
【0073】
ステップa)の真核細胞は、好ましくはレポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、NF-κBまたはSox2プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞である。
【0074】
ステップa)の真核細胞は、好ましくはレポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、EGR-1、SRE、AP-1またはSTAT3プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、HEK細胞、好ましくはHEK293細胞である。
【0075】
本発明は、以下の実施形態および実施例により、さらに説明するが、これらに制限されない。
【0076】
[本発明の実施形態]
1.炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中で真核細胞をインキュベートするステップと、
b)活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性を測定するステップ、ならびに/またはステップa)の培養培地中に真核細胞により放出されたリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の量を測定するステップと
を含み、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも50%高い場合、および/またはステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、少なくとも20%高い場合、哺乳動物細胞培養物の上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有する、方法。
【0077】
2.炎症状態の治療において使用される哺乳動物細胞培養物の上清の効力を判定するための方法であって、
a)前記上清を含むか、または前記上清からなる培養培地中で真核細胞をインキュベートするステップと、
b)活性化因子タンパク質1(AP-1)プロモーター、活性化B細胞の核因子カッパ軽鎖エンハンサー(NF-κB)プロモーター、性決定領域Yボックス2(Sox2)プロモーター、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)プロモーター、初期増殖応答タンパク質1(EGR-1)プロモーターおよび血清応答配列(SRE)プロモーターからなる群から選択される少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性を測定するステップ、ならびに/またはステップa)の培養培地中に真核細胞により放出されたリン酸化熱ショックタンパク質27(HSP27)の量を測定するステップと
を含み、少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、最大25%高いか、もしくは低い場合、および/またはステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が、炎症状態の治療において使用可能な、哺乳動物細胞の基準上清を含む、ステップa)の培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量と比較して、最大25%高いか、もしくは低い場合、哺乳動物細胞培養物の上清が、炎症状態の治療において使用される潜在性を有する、方法。
【0078】
3.哺乳動物細胞培養物の上清が、末梢血単核細胞(PBMC)培養物の上清である、実施形態1または2に記載の方法。
【0079】
4.哺乳動物細胞培養物が、T細胞、B細胞および/またはNK細胞を含む、実施形態1~3のいずれか1項に記載の方法。
【0080】
5.哺乳動物細胞培養物中の哺乳動物細胞が、細胞増殖培地、好ましくはCellGro培地、より好ましくはCellgro GMP DC培地、RPMI、DMEM、X-vivoおよびUltracultureからなる群から選択される細胞培養培地中で培養される、実施形態1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0081】
6.哺乳動物細胞が、培養の前または間に、1つ以上のストレス誘導条件に供される、実施形態1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0082】
7.ストレス誘導条件が、放射線、特に、電離放射線またはUV放射線、低酸素、オゾン、熱、浸透圧およびpHの変化からなる群から選択される、実施形態6に記載の方法。
【0083】
8.哺乳動物細胞が、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gyの線量で電離放射線に供される、実施形態7に記載の方法。
【0084】
9.哺乳動物細胞が、上清が単離される前に、少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、培養される、実施形態1~8のいずれか1項に記載の方法。
【0085】
10.炎症状態が、虚血と関連する状態、好ましくは皮膚状態または内部炎症状態である、実施形態1~9のいずれか1項に記載の方法。
【0086】
11.ステップa)の真核細胞が、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、異数体不死化角化細胞(HaCaT)、ヒト胎児腎臓細胞(HEK細胞)、好ましくはHEK293細胞、および神経芽腫細胞、好ましくはSH-SY5Y細胞からなる群から選択される、実施形態1~10のいずれか1項に記載の方法。
【0087】
12.ステップa)の真核細胞が、少なくとも2時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、より好ましくは少なくとも24時間、培養培地中でインキュベートされる、実施形態1~11のいずれか1項に記載の方法。
【0088】
13.培養培地が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の前記上清を含む、実施形態1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0089】
14.ステップa)の培養培地が、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地(F12)、最小必須培地、またはこれらの培地の1つ以上の組合せである、実施形態1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0090】
15.ステップa)の培養培地が、2~20%、好ましくは5~15%のウシ胎仔血清(FBS)および/またはL-アラニル-L-グルタミンを含む、実施形態1~14のいずれか1項に記載の方法。
【0091】
16.真核細胞が、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーター、NF-κBプロモーター、Sox2プロモーター、STAT3プロモーター、EGR-1プロモーターおよびSREプロモーターからなる群から選択されるプロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、実施形態1~15のいずれか1項に記載の方法。
【0092】
17.レポータータンパク質が、ルシフェラーゼ、好ましくはホタルルシフェラーゼ、および蛍光タンパク質、好ましくは緑色蛍光タンパク質からなる群から選択される、実施形態16に記載の方法。
【0093】
18.培養培地中に細胞により放出されたタンパク質の量が、免疫学的方法により、好ましくは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、光度測定法により、または蛍光法により判定される、実施形態1~17のいずれか1項に記載の方法。
【0094】
19.ステップa)の真核細胞が、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、HaCaTまたはHEK細胞、好ましくはHEK293細胞であり、リン酸化HSP27の量が判定される、実施形態1~18のいずれか1項に記載の方法。
【0095】
20.少なくとも1つのプロモーターのプロモーター活性が、前記上清を欠く培養培地中で真核細胞を培養したときに測定されたプロモーター活性と比較して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、より好ましくは少なくとも150%、より好ましくは少なくとも200%高い、実施形態1~19のいずれか1項に記載の方法。
【0096】
21.ステップa)の真核細胞が、培養培地中に放出されたリン酸化HSP27の量が測定される場合、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞、HaCaT細胞またはHEK細胞、好ましくはHEK293細胞である、実施形態1~20のいずれか1項に記載の方法。
【0097】
22.ステップa)の真核細胞が、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、AP-1プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、神経芽腫細胞、好ましくはSH-SY5Y細胞、またはHaCaT細胞である、実施形態1~21のいずれか1項に記載の方法。
【0098】
23.ステップa)の真核細胞が、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、NF-κBまたはSox2プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞、好ましくはA549細胞である、実施形態1~22のいずれか1項に記載の方法。
【0099】
24.ステップa)の真核細胞が、レポータータンパク質をコードする少なくとも1つの核酸分子に作動可能に連結した、EGR-1、SRE、AP-1またはSTAT3プロモーターを含む少なくとも1つの発現カセットを含む、HEK細胞、好ましくはHEK293細胞である、実施形態1~23のいずれか1項に記載の方法。
【0100】
[実施例]
[実施例1:Aposecの生成]
「Aposec」は、哺乳動物細胞の培養の前または間に、放射線照射、低酸素等のような、ストレス誘導条件を使用して、哺乳動物細胞、特にPBMCを培養することにより入手可能な哺乳動物細胞培養物の上清である。方法は、上記の国際公開第2010/079086号および国際公開第2010/070105号、特に、Lichtenauer Mら(Basic Res Cardiol.2011;106:1283-1297)において記載されている。
【0101】
詳細には、ヒトPBMCを若年の健常な志願者から入手した。細胞は、Ankersmit HJら(Eur J Clin Invest.2009;39:445-456)に記載のように、Ficoll-Paque(GE Healthcare Bio-Sciences AB社、スウェーデン)密度勾配遠心分離により分離した。PBMCのアポトーシスを、60Gray(Gy)のセシウム137照射により誘導した。アポトーシスの誘導を、アネキシンV/ヨウ化プロピジウム(FITC/PI)共染色(Becton-Dickinson社、フランクリン・レイクス、NJ州、米国)によりフローサイトメーター上で測定した。照射および非照射細胞を、無血清UltraCulture培地(Lonza社、スイス)またはCellgro GMP DC培地(CellGenix社、フライブルク、独国)中に再懸濁し、24時間、様々な細胞密度(1×10、2.5×10および25×10細胞/ml、n=5)で培養した。24時間後、上清を採取して、以下の実験(下記参照)の検体として使用するか、または次のように凍結乾燥した:上清を、酢酸アンモニウム(濃度50mM)に対して4℃で24時間透析した。入手した液体を滅菌濾過し(Whatman Filter0.2μm FP30/0.2 Ca-S、独国)、凍結させ、一晩凍結乾燥させた(Lyophilizator Christ alpha 1-4、Martin Christ Gefriertrocknungsanlagen GmbH社、独国)。
【0102】
[実施例2:増殖アッセイ]
HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)、NHDF(正常ヒト皮膚線維芽細胞)およびA549細胞(腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞)を、3つの異なる細胞密度で、96ウェルプレート内に播種し、Aposec(2.5U/mL)、bFGF(20ng/mL)およびTNFa(4ng/mL)で処理した。細胞数および処理に加えて、細胞を種々の割合の増殖培地で培養した。COインキュベーター内で一晩インキュベートした後、CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(CellTiterGlo)を使用して、細胞数を判定した。これは、ATPの存在(代謝的に活性のある細胞の指標である)の定量化に基づいて、培養物中の生細胞数を判定する均一法である(Technical Bulletin、CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay、Promega社、TB288、Revised 3/15頁を参照)。
【0103】
一晩インキュベートしたときの明細胞密度による細胞数を観察した。Aposecによる増殖誘導の徴候は認められなかった(図1を参照)。
【0104】
[実施例3:リン酸化HSP27の判定]
この実施例では、Aposecが、Hsp27のリン酸化をin vitroで誘導可能かどうかを検討した。
【0105】
一般的に言えば、ヒトHsp27、ヒトphsopho-Ser15-Hsp27およびヒトphsopho-Ser82-Hsp27に特異的な種々の抗体は、細胞ELISAにおいて、種々のヒト細胞株(A549、HaCatおよびHEK293細胞)を用いて評価された。細胞ELISAは、次の原理に基づいた:細胞を96ウェルプレート内に増殖させ、処理/刺激期間の終わりに、細胞を固定して透過処理した。リン酸化は、リン酸化Hsp27(例えば、phospho-Hsp27(Ser82))を検出する抗体を、その後、ペルオキシダーゼ共役抗ウサギIgG抗体(検出抗体)、およびペルオキシダーゼ化学発光基質を連続的に添加することにより定量することができる。
【0106】
以下の表では、評価したヒトHsp27特異的抗体を列挙する。
【0107】
【表1】
【0108】
3.1 細胞Hsp27 ELISAアッセイ1
A549、HEK293およびHaCat細胞を、スルホラファン(20μM)とタプシガルジン(1μM)との組合せで2時間処理して、Hsp27のリン酸化を誘導し、MAPK阻害剤SB203580(20μM)で処理した。固定、透過処理およびブロッキングした細胞を、種々の濃度の抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。
【0109】
処理および抗体濃度依存性シグナルは、同一の抗体濃度でインキュベートされた偽処理細胞に対して表われる(図2を参照)。
【0110】
phospoSer82-Hsp27抗体は、A549およびHaCat細胞において予想通りのパターンを示す。スルホラファン/タプシガルジンにより共処理すると、phospoSer82-Hsp27シグナルの予想通りの増加がもたらされ、一方、MAPK阻害剤は、MAPKが、Hsp27の上流であるため、シグナルを減少させる。A549細胞では、抗体希釈度が高くなる(抗体量が低減する)と、相対誘導率が高くなり、これは、非特異的シグナルが減少するためである可能性が最も高い。
【0111】
3.2 細胞Hsp27 ELISAアッセイ2
A549、HEK293、HaCatおよびSHSY5Y細胞を、種々の濃度のAposec、スルホラファンおよびタプシガルジンにより、MAPK阻害剤SB203580の非存在または存在下で2時間処理した。固定、透過処理およびブロッキングした細胞を、2つの異なる濃度のphospoSer15-Hsp27(1:3200および1:6400)およびphospoSer82-Hsp27(1:800および1:1600)抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。
【0112】
試験した2つの抗体濃度の比較により、両抗体について、希釈度が高くなると、シグナル・ノイズ比が良好となることが明らかとなった。A549細胞では、phospoSer15-Hsp27およびphospoSer82-Hsp27の用量依存的誘導が認められた。A549細胞において、phospoSer82-Hsp27の誘導ではなく、phospoSer15-Hsp27の誘導が、MAPK阻害剤SB203580により妨げられた。試験した他の3つの細胞株(HEK293、HaCatおよびSH-SY5Y)では、phospoSer15-Hsp27は、Aposecにより誘導された(図3を参照)。
【0113】
3.3 細胞Hsp27 ELISAアッセイ3
実施例3のこの部分では、Aposecで処理したときの、これまでに観察されたphospoSer15-Hsp27およびphospoSer82-Hsp27の誘導が、Aposecに特異的であるかどうかを検討する。
【0114】
A549細胞を、種々の濃度のAposecおよびCellGroにより1時間処理した。使用した凍結乾燥物を、0.9%のNaClで、またはHOで戻しておき、AposecおよびCellGro中のNaCl濃縮の作用を評価した。固定、透過処理およびブロッキングした細胞を、1つの濃度のphospoSer82-Hsp27抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。Aposec対CellGroおよび0.9%のNaClまたはHOの比較に加えて、15、30または60分の処理を、AposecおよびCellGro(HOで戻す)について評価した。
【0115】
Oまたは0.9%のNaClで戻した、AposecおよびCellGroによるphospoSer82-Hsp27の誘導の比較によって、HOで戻したCellGroによりphospoSer82-Hsp27が誘導されず、0.9%のNaClで戻したCellGroによるphospoSer82-Hsp27の誘導率が、0.9%のNaClで戻したAposecと比較して、はるかに低いことが示される。動態学により、Aposecにより15および30分刺激すると、同等の誘導(5倍)が生じ、一方、1時間刺激すると、誘導は約4倍となることが示される(図4を参照)。
【0116】
3.4 細胞Hsp27 ELISAアッセイ-アッセイ範囲
実施例3のこの部分では、phospoSer82-Hsp27アッセイにより定量可能なAposecのアッセイ範囲を検討した。
【0117】
25%、50%および200%のAposecおよび100%のCellGro試料を使用してA549細胞を処理し、データは、PLAにおいて、4PLフル曲線モデルを使用して分析された。
【0118】
PLA近似曲線を図5に示し、結果として生じる相対効力をグラフの下に記載する。
【0119】
アッセイにより、25%~200%のAposec相対効力を定量することが可能となる。CellGroの相対効力は、20%の範囲内である。このCellGro活性は、0.9%のNaClで凍結乾燥物を戻すことにより引き起こされた非特異的作用を反映する。
【0120】
[実施例4:AP-1レポーター遺伝子アッセイ]
この実施例では、Aposecにより、AP-1プロモーターがin vitroで誘導されるかどうかの課題に取り組む。
【0121】
AP-1レポーター遺伝子アッセイ(RGA)細胞(Brasier ARらMethods Enzymol.1992;216:386―97)を、AP-1(活性化因子タンパク質1)転写因子応答性レポーター遺伝子(ホタルルシフェラーゼ)を発現するレンチウイルス粒子(QIAGEN注文番号CLS-011L)を使用して生成した(QIAGEN社、Cignal Lenti Reporter Handbook For lentiviral-based cell signaling activity assays、文書番号1073762;08/2012)。AP-1 RGA細胞を、種々の量のAposecで刺激する。AposecがAP-1プロモーターを刺激すると、ホタルルシフェラーゼが発現する。APOSECによる刺激期間の終わりに、細胞を溶解し、グロータイプのルシフェラーゼ試薬を使用してルシフェラーゼ活性を判定する。
【0122】
4.1 AP-1 RGAアッセイ1
実施例4のこの部分では、Aposecが、種々の細胞株においてAP-1プロモーターを刺激することが可能かどうかを検討する。
【0123】
AP-1プロモーターレポーターコンストラクトにより安定的に形質転換される、3つの異なる細胞株を、種々の希釈度のAposecで5または24時間刺激した。
【0124】
AP-1レポーターシグナルを、細胞株特異的基底シグナル(誘導倍率)に対して表す。25時間で、HaCat、JurkatおよびSH-SY5Y細胞において、AP-1が用量依存的に刺激されたことを認めることができる。5時間では、SH-SY5Y細胞においてのみ、顕著なAP-1誘導を認めることができる(図6を参照)。
【0125】
4.2 AP-1 RGAアッセイ2
実施例4のこの部分では、Aposecによる、一晩または例えば4時間の刺激期間を、効力アッセイにおいて使うことが可能かどうか、および使用し得るAposecの用量範囲を検討する。
【0126】
SH-SY5Y AP-1 RGA細胞を、広範な用量範囲のAposecで、一晩または4時間処理した。1:2~1:47.5の範囲にわたる12種の異なる希釈度の用量範囲について、4時間および一晩の刺激により試験した。
【0127】
AP-1レポーターシグナル(生データ=発光数)を、X対数軸により図7に示す。4時間の刺激では、最も高いAposec濃度については、プラトー様の状態を、中等のAposec濃度については、ほぼ線形のパターンを有する、好ましい用量応答パターンを示す。CellGro依存的誘導は、両時点において認めることができない。
【0128】
4.3 AP-1 RGAアッセイ3
実施例4のこの部分では、AP-1 RGAアッセイにより定量可能なAposecのアッセイ範囲を検討した。
【0129】
25%、50%および200%のAposecおよび100%のCellGro試料を使用してAP-1 SH-SY5Y細胞を4時間処理し、データは、PLAにおいて、4PLフル曲線モデルを使用して分析された。
【0130】
PLA近似曲線を図8に示し、結果として生じる相対効力をグラフの下に記載する。
【0131】
アッセイにより、25%~200%のAposec相対効力を定量することが可能となる。CellGroの相対効力は、20%の範囲内である。このCellGro活性は、0.9%のNaClで凍結乾燥物を戻すことにより引き起こされた非特異的作用を反映する(図8を参照)。
【0132】
[実施例5:NF-KBレポーター遺伝子アッセイ]
この実施例では、Aposecが、NF-KB(すなわち、NF-κB;活性化B細胞の核因子「カッパ軽鎖エンハンサー」)プロモーターをin vitroで実際に誘導するかどうかを評価する。
【0133】
レンチウイルス粒子(QIAGEN注文番号CLS-013L)を使用して、上記のAP-1 RGA細胞ように、NF-KB RGA細胞を生成した。NF-KB RGA細胞を、種々の量のAposecで刺激する。AposecによりNF-KBプロモーターが刺激されると、NF-KB(活性化B細胞の核因子「カッパ軽鎖エンハンサー」)依存性プロモーターによる転写制御下で、ホタルルシフェラーゼをコードする安定的に組み込まれた発現カセットから、ホタルルシフェラーゼが発現する。APOSECによる刺激期間の終わりに、細胞を溶解し、グロータイプのルシフェラーゼ試薬を使用してルシフェラーゼ活性を判定する。
【0134】
5.1 NF-KB RGAアッセイ1
実施例5のこの部分では、A549NF-κB RGA細胞が、Aposec刺激に対して用量依存的応答を示すかどうかを評価する。
【0135】
A549NF-κB RGA細胞を、種々の希釈度のAposecおよびCellGro(ともにNaClで戻す)で4時間刺激した後、NF-κB RGAシグナルを読み出した。
【0136】
NF-KBレポーターシグナルを、細胞クローン特異的基底シグナル(誘導倍率)に対して表す。4時間刺激すると、NF-KBが用量依存的に刺激されたことを認めることができ、一方、CellGro依存的誘導は、認められない(図9を参照)。
【0137】
5.2 NF-KB RGAアッセイ2
実施例5のこの部分では、Aposecのアッセイ範囲をNF-KB RGAアッセイにより判定する。
【0138】
25%、50%および200%のAposecおよび100%のCellGro試料を使用してNF-KB A549細胞を4時間処理し、データは、PLAにおいて、4PLフル曲線モードを使用して分析された。
【0139】
PLA近似曲線を以下に示し、結果として生じる相対効力を図10)に記載する。
【0140】
[実施例6:APOSEC NFκBレポーター遺伝子アッセイ]
A549細胞(腺癌性ヒト肺胞基底上皮細胞株)において、NF-κBプロモーターを活性化するその能力により、APOSEC効力を判定できる。詳細には、NF-κB RGA A549細胞を所定量のAPOSECにより刺激すると、NF-κB(核因子「カッパ軽鎖エンハンサー」)依存性プロモーターによる転写制御下で、ホタルルシフェラーゼをコードする安定的に組み込まれた発現カセットから、ホタルルシフェラーゼが発現する。
【0141】
DMEM/F12+Glutamax+10%FBS+ピューロマイシン中で細胞を培養した。1ウェルあたり20,000細胞を、アッセイプレートの各ウェルの刺激培地(OptiMEM+Glutamax+5%FBS)50μL中に播種した。アッセイプレートを、37℃の加湿したCO2インキュベーター内で一晩インキュベートした。様々な濃度の実用標準APOSEC(R)および試験試料(A、B、CおよびD)を、希釈プレート内のアッセイ培地中に調製した。詳細には、試料を、刺激培地で12.5U/mLに予め希釈し、例えば、試料500μL(25U/mL)を刺激培地500μLに添加した。APOSEC 50μLを希釈プレートからアッセイプレート内へ移した後、最終測定濃度は、6.25(#1)、4.17(#2)、2.78(#3)および1.85(#4)U/mLであった。APOSECで4時間刺激したら、細胞を溶解し、グロータイプのルシフェラーゼ試薬を使用してルシフェラーゼ活性を判定する。
【0142】
APOSEC試験試料の機能活性を、同一のアッセイにおいて分析したレファレンス物質として使用した、APOSECの規定のバッチと比較することにより判定した。試験試料を、APOSECの生成に使用したPBMC数に基づいて正規化した。次いで、PLAソフトウェアを使用して、相対効力を算出した。
【0143】
[実施例7:シグナル伝達レポーターアレイ]
この実施例では、Aposecが、ある特定のシグナル経路を実際に特異的に誘導するかどうかを評価した。
【0144】
「Cignal 45-Pathway Reporter Array」(Qiagen注文番号CCA-901L)を使用して、Aposecで刺激すると特異的に誘導される、シグナル経路を同定した。選択された細胞株を一過性にトランスフェクトすると、このレポーター経路により、45種の異なるレポーター遺伝子コンストラクトの並行分析が可能となる。
【0145】
7.1 トランスフェクション有効性試験1&2
A549、HEK293およびHaCat細胞に対して、レポーターアレイに存在するルシフェラーゼベクターと同等の、対照ルシフェラーゼベクター(Cignal Positive Control(luc)、QIAGEN注文番号336881)を使用し、2つの異なるトランスフェクション試薬(Attractene(QIAGEN注文番号301005)およびFugene HD(PROMEGA注文番号E2311))と併用して、トランスフェクトした。異なるDNA対トランスフェクション試薬の比率を、1細胞株あたりの2つの異なる細胞数(20,000および80,000細胞/ウェル)について評価した。
【0146】
トランスフェクションの有効性および安定性は、Fugene HDについて良好な結果を示し、これは、Attracteneと比較して、わずかに高かった(Fugeneの発光数が全体的に見て高かった)。HaCat細胞の発光数は、HEK293およびA549細胞と比較して低かった。HaCat細胞は、トランスフェクトが困難であることが知られている(図11を参照)。
【0147】
第2のトランスフェクション有効性試験を、HEK293およびA549細胞についてのみ実行した。Fugene HDおよびAttractene試薬を再び使用した。トランスフェクション有効性(ホタルおよびウミシイタケルシフェラーゼ数)に加えて、細胞の生存率を、CellTiterGloを使用して分析して、トランスフェクションによる、細胞生存率に対する負の作用を除外した。トランスフェクション有効性に関する初期の結果は再現することができ、細胞生存率に対する明らかな作用は認めることができなかった。これらの結果に基づいて、「Fugene対DNA」率3.375のFugene HDを選択して、次のレポーターアレイ実験において使用した。
【0148】
7.2 シグナル伝達レポーターアレイ-アッセイ1
実施例7のこの部分では、Aposecで一晩刺激すると、A549およびHEK293細胞において、シグナル経路(レポーター遺伝子コンストラクト)が特異的に活性化されるかどうかを検討した。
【0149】
上記の「Cignal 45-Pathway Reporter Array」を、20,000細胞/ウェルのHEK293およびA549細胞において、Fugene HDとともに使用して、一晩刺激した。細胞をAposec(1:4希釈または6.25U/mL)で刺激した。CellGro(1:4希釈または6.25U/mL)を対照刺激として使用した。使用したAposecおよびCellGroは、ともに0.9%のNaClで戻した。
【0150】
レポーター遺伝子活性は、CellGro対照に対して正規化され、発光数は、トランスフェクション有効性(ホタル/ウミシイタケ数)について正規化された。有意に上方制御されたレポーター遺伝子/経路も存在すれば(例えば、Stat3、Sox2、NF-κB、XRE)、有意に下方制御されたレポーター遺伝子/経路も存在した(例えば、RARE、ERE、MEF2)(図12を参照)。
【0151】
7.3 シグナル伝達レポーターアレイ-アッセイ2
実施例7のこの部分では、Aposecで4時間刺激すると、A549およびHEK293細胞において、シグナル経路(レポーター遺伝子コンストラクト)が特異的に活性化されるかどうかを検討した。
【0152】
細胞を一晩刺激した上記のアッセイ(7.2を参照)を、Aposecで4時間刺激して繰り返した。
【0153】
レポーター遺伝子活性は、CellGro対照に対して正規化され、発光数は、トランスフェクション有効性(ホタル/ウミシイタケ数)について正規化された。有意に上方制御されたレポーター遺伝子/経路も存在すれば、有意に下方制御されたレポーター遺伝子/経路も存在した。
【0154】
標準偏差がかなり小さく、ほとんどの遺伝子が上方または下方制御されないため、上記のレポーター遺伝子アレイアッセイの結果は、安定であると考えられる。その上、上方または下方制御されたレポーター遺伝子/経路の一部は、2つ以上のアッセイにおいて、例えば、NF-κB、AP-1、STAT3およびSox-2で見出された。
【0155】
[実施例8:ブタ熱傷モデル]
PBMC培養物のセクレトームが、治療有効性を既に試験している実施例1によるAPOSEC標準調製物と同等の治療作用を示すかどうかを評価するために、4つの異なるPBMC上清調製物を、実施例1のプロトコールに従って調製した。前記4つの上清(A、B、CおよびD)を得るのに使用したPBMCは、4つの異なる個人から単離した。治療モデルとして、ブタ熱傷モデルを使用しており、これは、Hacker Sら(Sci Rep 6(2016):25168)に広範に記載されている。
【0156】
第1のステップでは、上述のAPOSEC標準調製物ならびに4つの上清A、B、CおよびDを用いて、実施例3.3、4.2および5.1に記載する実験を繰り返した。60分インキュベートした後、phosphoSer15-Hsp27の量を測定し、4時間後、AP-1およびNF-κBレポーター活性のシグナルを判定した。上清AおよびDは、phosphoSer15-Hsp27レベルならびにAP-1およびNF-κB活性に関して、5%未満であったAPOSECと比較して、差異を示したことが判明した。上清BおよびCは、それぞれ約35%および50%であり、phosphoSer15-Hsp27レベルならびにAP-1およびNF-κB活性に関して、APOSECと比較して、低かった。
【0157】
4つすべての上清A、B、CおよびDならびにAPOSECをヒドロゲルと混合して、創傷に適用可能な組成物を形成した。これらの調製物を入手する方法は、Hacker Sらに記載されている。ブタ皮膚上の創傷はまた、Hacker Sらの記載のように調製した。Hacker Sらとは対照的に、本実施例では、APOSECおよび4つの上清で処置した創傷の平均上皮厚のみを評価した。APOSECならびに上清AおよびDが、同等の平均上皮厚(125.1±23.8μm)を示したことが判明した。これとは対照的に、上清BおよびCを含む調製物を適用すると、それぞれ97.6±23.8μmおよび92.6±18.6μmの上皮厚が生じ、これは、CellGro培地のみを含む調製物(88.3±14.2μm)と比較して、わずかに高かった。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13A
図13B