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特許7274505高強度両面ステンレス鋼クラッド板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】高強度両面ステンレス鋼クラッド板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230509BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20230509BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230509BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 302Z
C22C38/14
C21D9/00 Z
C21D9/46 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020564206
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 CN2019087080
(87)【国際公開番号】W WO2019219031
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-12-28
(31)【優先権主張番号】201810468895.X
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512171021
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BAOSHAN IRON & STEEL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No.885,Fujin Road,Baoshan District Shanghai,201900,P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヂィーイー
(72)【発明者】
【氏名】ヂィアォ,スゥハァィ
(72)【発明者】
【氏名】チィァン,シァォミィン
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン,フゥアウェイ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-043433(JP,A)
【文献】特開平11-152547(JP,A)
【文献】特開昭62-059034(JP,A)
【文献】特開平11-077888(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104988414(CN,A)
【文献】特開2016-108665(JP,A)
【文献】特開2017-061711(JP,A)
【文献】国際公開第2012/146384(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0053706(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/00- 9/44, 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の両面にクラッド圧延された、オーステナイト系ステンレス鋼クラッド層とを含む、ことを特徴とする高強度両面ステンレス鋼クラッド板であって、
前記基材層が、質量パーセントでC:0.03~0.12%、0<Si≦0.30%、Mn:0.2~1.0%、Al:0.02~0.04%、Ti:0.01~0.03%、Nb:0.005~0.020%、およびN:0.003~0.006%の化学元素と、鉄およびその他の不可避的な不純物である残部とからなり、
前記基材層中の前記化学元素が、2.7×C+0.4×Si+Mn≦1.25(式中、C、SiおよびMnは、それぞれ質量パーセントを表す)も満た
前記基材層のミクロ組織が、フェライト+パーライト+ベイナイト、またはフェライト+パーライト+ベイナイト+ウィドマンステッテンであり、前記ベイナイトの相割合が20面積%以下であり、かつ前記ウィドマンステッテンの相割合が10面積%以下であり、
前記基材層の前記ミクロ組織中の前記フェライトが、7番以上の結晶粒度番号を有する、高強度両面ステンレス鋼クラッド板。
【請求項2】
室温での耐力300Mpa~420Mpaと、室温での伸び率30%~48%と、機械的伸張中の降伏点での伸び率の値2.0%以下とを有する、請求項1に記載の高強度両面ステンレス鋼クラッド板。
【請求項3】
オーステナイト系ステンレス鋼が、Cr-Ni基ステンレス鋼またはCr-Ni-Mo基ステンレス鋼である、請求項1に記載の高強度両面ステンレス鋼クラッド板。
【請求項4】
前記両面のステンレス鋼クラッド層の総厚が、板の全厚の10%~30%を占め、前記基材層の上面および下面の前記ステンレス鋼クラッド層が、厚さが対称または非対称になるように設定されている、請求項1に記載の高強度両面ステンレス鋼クラッド板。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の製造方法であって、
(1)基材層と、ステンレス鋼クラッド層とを得るステップと、
(2)ビレット製造するステップと、
(3)クラッド圧延するステップと、
(4)固溶化焼鈍および酸洗処理するステップであり、固溶化温度を950~1020℃になるように制御し、次いで、20~50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却するステップと、
を含む、製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(4)における前記平均冷却速度が20~35℃/sである、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
(5)冷間圧延するステップと、
(6)固溶化焼鈍、酸洗およびレベリング処理するステップであり、前記固溶化温度を950~1020℃になるように制御し、次いで、20~50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却するステップと、
をさらに含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(6)における前記固溶化温度が950~1000℃である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッド板およびその製造方法に関し、特にステンレス鋼クラッド板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼クラッド板は、特定のプロセス技術条件下で、クラッド層を基材層上に冶金接合することにより得られる特殊な複合性能を有する新しい一体材料である。ステンレス鋼クラッド板は、ステンレス鋼に代わりその耐食性、耐熱性、耐水素性、耐摩耗性および光輝性などの全性能を実現できるが、炭素鋼の強度、機械加工性、溶接性およびその他の特殊な性能も有する。
【0003】
先行技術において、公開日が2016年2月3日の“Cold-rolled double-surface stainless steel composite sheet having excellent comprehensive performances and manufacturing method”と題する中国公開特許CN105296854Aには、優れた幅広い性能を有する冷間圧延二面ステンレス鋼複合板が開示されており、このステンレス鋼複合板として、304ステンレス鋼と複合された極低炭素鋼基材を設計し、かつ合理的な熱処理プロセスを行うことにより、高い伸びを有し、降伏パターン欠陥がなく、平坦な表面を有し、かつ生じた表面品質が優れている新しい材料を得ることができ、このステンレス鋼複合板は、化粧パネル、および形成要件がより高い分野に主に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国公開特許CN105296854A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このステンレス鋼複合板の耐力(yield strength)および引張強度は低く、耐力はしばしば200Mpa未満であり、したがって、機械的特性に関するより高い要件が存在する場合において使用されるとき、このステンレス鋼複合板にはそれ自体の限界がある。両面ステンレス鋼複合板材料の進歩および応用に伴い、ステンレス鋼複合板の性能に関するより高い要件、特に耐力および表面品質に関する要件が現在の市場において提案されている。ステンレス鋼複合板は、従来の形成および使用の要件を満たすことができるだけでなく、より高い耐力およびより良い表面品質を有することもできることが期待されている。
【0006】
これに基づいて、ステンレス鋼クラッド板の応用分野を拡大し、原料合金資源を節約し、かつ使用コストを削減するように、高強度、良好な表面品質および耐食性を有する両面ステンレス鋼クラッド板を得ることが望ましい。
【0007】
本発明の目的の1つは、合理的な組成設計による高強度、良好な表面品質および耐食性を有し、パネル、貯蔵タンクおよびその他の分野における用途に適しており、かつ原料合金資源を節約し、使用コストを削減する高強度両面ステンレス鋼クラッド板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、基材層と、基材層の両面にクラッド圧延されたステンレス鋼クラッド層とを含む高強度両面ステンレス鋼クラッド板であって、基材層が、質量パーセントでC:0.03~0.12%、0<Si≦0.30%、Mn:0.2~1.0%、Al:0.02~0.04%、Ti:0.01~0.03%、Nb:0.005~0.020%、およびN:0.003~0.006%の化学元素と、鉄およびその他の不可避的な不純物である残部とからなる、高強度両面ステンレス鋼クラッド板を提案する。基材層の質量パーセントの化学元素は、クラッディング前の基材の質量パーセントの化学元素である。
【0009】
本発明の技術的解決策において、基材層の化学元素の設計原理は以下の通りである。
【0010】
C:炭素は、鋼板の強度を確保するために重要な元素の1つである。炭素含有量を増加させると、鋼の強度および硬さを増加させることができる。両面ステンレス鋼クラッド板は最後に固溶化処理が行われ、固溶化処理中、基材層およびステンレス鋼クラッド層は高温処理および急冷処理を経るため、基材層およびステンレス鋼クラッド層の両方の性能に対する炭素の影響が考慮されなければならない。低すぎる炭素含有量は基材層の強度にとって有害であり、炭素含有量が高すぎると、熱処理中および急冷中、基材層中にマルテンサイトが容易に生成し、これは、基材層の幅広い機械的特性にとって好ましくなく、ステンレス鋼クラッド層の耐食性にも影響する。これに基づいて、本発明の発明者は、基材層中の炭素の質量パーセントを0.03~0.12%に制御して、基材層の機械的特性および伸び性能ならびにステンレス鋼クラッド層の耐食性を確保する。
【0011】
Si:ケイ素を鋼に加えると、鋼純度および脱酸効果を改善することができる。加えて、ケイ素は、鋼における固溶化処理の強化において役割を果たすが、その質量パーセントが高すぎると、鋼の溶接性能にとって好ましくない。加えて、ステンレス鋼クラッド層中にある一定量のケイ素が存在することも考慮して、本発明の発明者は、ケイ素がステンレス鋼クラッド層の耐食性に影響せず、基材層が良好な溶接性能を有するようにするために、基材層中のケイ素の質量パーセントを0<Si≦0.30%に制限する。
【0012】
Mn:マンガンを加える目的は主に、鋼の強度を増加させることであり、加えられるマンガンの量は主に、鋼の強度レベルに依存する。加えて、マンガンは、鋼中のアルミニウムと共に脱酸の役割も果たすことができ、マンガンの脱酸の役割は、チタンの効果的な影響を促進することができるが、過度に高いマンガン含有量は、鋼の塑性を低下させる。したがって、本発明の発明者は、基材層中のマンガンの質量パーセントを0.2~1.0%に制限する。
【0013】
Al:アルミニウムは、強い脱酸元素である。脱酸後、鋼中の過剰なアルミニウムおよび窒素は、AlN析出物を生成し、それによって熱処理中に鋼の強度を増加させ、鋼のオーステナイト結晶粒度を微細化することができる。鋼中の酸素含有量ができるだけ低くなるようにするために、本発明の発明者は、基材層中のアルミニウムの質量パーセントを0.02~0.04%に制御する。
【0014】
Ti:チタンは、強い炭化物形成元素である。少量のTiを鋼に加えることは、鋼中のNの固定に有益である。一方では、生成したTiNは、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の基材中のオーステナイトの元の結晶粒度を微細化することができ、他方では、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の固溶化処理中、基材層中のオーステナイトの結晶粒度を過度に成長させないようにすることができる。加えて、鋼中のチタンは、炭素および硫黄と化学的に結合して、TiC、TiS、Ti4C2S2をそれぞれ生成することができる。チタンの炭化物析出物/硫化物析出物は、固溶化熱処理中および溶接中、関連する位置における材料の結晶粒成長を防止し、それによって本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の固溶化処理後の基材層の結晶粒度、および溶接性能を改善することができる。したがって、本発明の発明者は、基材層中のチタンの質量パーセントを0.01~0.03%に制御する。
【0015】
Nb:ニオブは、強い炭化物形成元素である。再結晶温度を上昇させるために、少量のニオブが基材層に加えられる。生産プロセスにおけるより高い固溶化処理温度に関連して、基材層の結晶粒は固溶化処理後に急速に成長することができず、これは、基材層の良好な機械的特性に寄与する。したがって、本発明の発明者は、基材層中のニオブの質量パーセントを0.005~0.020%に制御する。
【0016】
N:窒素は主に、チタンおよびアルミニウムと第2相粒子を形成して、結晶粒を微細化し、強度を改善する。Nの質量パーセントが0.003%未満であると、存在するTiN析出物またはAlN析出物が少なすぎて、結晶粒微細化に関する要件を満たすことができない。Nの質量パーセントが高すぎると、生成されるTiNの量が多すぎ、結晶粒が粗すぎ、これは、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の基材層の機械的特性に影響する。したがって、本発明の発明者は、基材層中の窒素の質量パーセントを0.003~0.006%に制御する。
【0017】
本発明の技術的解決策において、その他の不可避的な不純物は主にPおよびSであることに留意されたい。PおよびSは、鋼中の有害な不純物元素である。リンは、鋼板の塑性および靭性を著しく損なう。硫黄は、鋼中のマンガンと化学的に結合して、塑性介在物、すなわち硫化マンガンを生成し、これは、鋼の横方向の塑性および靭性にとって特に有害であり、したがって、鋼中のPおよびSの含有量はできるだけ低減される。好ましくは、本発明は、基材層中のPおよびSの質量パーセントをP≦0.02%かつS≦0.015%に制限する。
【0018】
本発明の技術的解決策において、基材層とステンレス鋼クラッド層の間のクラッド界面中の基材層およびステンレス鋼クラッド層の厚さ方向に異なる化学元素の含有量のために、含有量がより高い元素は、含有量がより低い元素を有する側に拡散し、したがって基材層の上側および下側、ならびに基材層と接触したステンレス鋼クラッド層の表面に0~50μm浸透する遷移層を形成することにも留意されたい。遷移層中の各元素の平均組成は、勾配遷移(gradient transition)の基材層中の元素の対応する組成と、ステンレス鋼クラッド層中の元素の対応する組成の間であり、例えば、ステンレス鋼クラッド層中の質量パーセントがより高い合金化元素(Cr、Niなど)は基材層に拡散し、基材層中の質量パーセントがより高い炭素はステンレス鋼クラッド層に拡散し、したがって、遷移層中のC、CrおよびNiの平均組成は、ステンレス鋼クラッド層中の平均組成と、基材層中の平均組成の間である。
【0019】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、基材層中の化学元素は、2.7×C+0.4×Si+Mn≦1.25(式中、C、SiおよびMnは、それぞれそれら自体の質量パーセントを示す)も満たす。
【0020】
本発明の技術的解決策において、基材層中の化学元素は、2.7×C+0.4×Si+Mn≦1.25(式中、C、SiおよびMnは、それぞれそれら自体の質量パーセントを表す)も満たす必要があり、上記の制限式に代入される値は、パーセント記号(「%」)の前の値であり、例えば、Cの質量パーセントが0.1%であり、Siの質量パーセントが0.2%であり、Mnの質量パーセントが0.7%であるとき、この式に代入される値は、それぞれ0.1,0.2および0.7であり、計算は、2.7×C+0.4×Si+Mn=2.7×0.1+0.4×0.2+0.7=1.05≦1.25となるべきである。鋼基材を得るプロセスにおいて、この式は、この基材が、ある一定のプロセスウィンドウ範囲内のフェライト+パーライト+ベイナイト、またはフェライト+パーライト+ベイナイト+ウィドマンステッテンのミクロ組織を得るようにすることができる。
【0021】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、基材層のミクロ組織は、フェライト+パーライト+ベイナイト、またはフェライト+パーライト+ベイナイト+ウィドマンステッテンであり、ベイナイトの相割合は20%以下であり、ウィドマンステッテンの相割合は10%以下である。
【0022】
本発明の技術的解決策において、基材層の上面および下面に遷移層が存在するため、炭素の拡散によって引き起こされた炭素欠乏域が、基材層の厚さ方向に基材層の上面および下面に0~100μmの範囲内で存在し、さらに基材層中に50~100μmの厚さのフェライト域を形成し、基材とクラッド板が冶金的に接合されることに留意されたい。
【0023】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、基材層のミクロ組織中のフェライトは、7番以上の結晶粒度番号を有する。
【0024】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、室温での耐力は300Mpa以上であり、室温での伸びは30%以上であり、機械的伸張中の降伏点での伸び率の値は2.0%以下である。
【0025】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、ステンレス鋼クラッド層は、オーステナイト系ステンレス鋼クラッド層である。
【0026】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、オーステナイト系ステンレス鋼は、Cr-Ni基ステンレス鋼またはCr-Ni-Mo基ステンレス鋼である。
【0027】
本発明の技術的解決策において、遷移層がステンレス鋼クラッド層の厚さ方向にステンレス鋼クラッド層中にも存在するため、基材層へのクロムの拡散によって引き起こされたクロム欠乏域が、基材層に近いステンレス鋼クラッド層の側に0~20μmの範囲内で存在するが、ミクロ組織は依然としてオーステナイトであることに留意されたい。
【0028】
さらに、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板において、両面ステンレス鋼クラッド層の総厚は、高強度両面ステンレス鋼クラッド板の総厚の10%~30%を占め、基材層の上面および下面のステンレス鋼クラッド層は、厚さが対称または非対称になるように設定されている。
【0029】
それに対応して、本発明の別の目的は、上述の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の製造方法を提供することである。この製造方法により得られる高強度両面ステンレス鋼クラッド板は、高強度、良好な表面品質および耐食性を有し、パネル、貯蔵タンクおよびその他の分野における用途に適しており、かつ原料合金資源を節約し、使用コストを削減する。
【0030】
本発明の上記の目的を達成するために、本発明は、
(1)基材層と、ステンレス鋼クラッド層とを得るステップであって、基材層が、質量パーセントでC:0.03~0.12%、0<Si≦0.30%、Mn:0.2~1.0%、Al:0.02~0.04%、Ti:0.01~0.03%、Nb:0.005~0.020%、およびN:0.003~0.006%の化学元素と、鉄およびその他の不可避的な不純物である残部とを含む、ステップと、
(2)ビレット製造するステップと、
(3)クラッド圧延するステップと、
(4)固溶化焼鈍および酸洗処理するステップであり、固溶化温度を950~1020℃になるように制御し、次いで、20~50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却するステップと、
を含む、上述の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の製造方法を提案する。
【0031】
本発明の製造方法において、ステップ(1)において、ステンレス鋼クラッド層は、先行技術のプロセスを使用することにより得ることができ、例えば、Cr-Ni基またはCr-Ni-Mo基オーステナイト系ステンレス鋼に製鋼、連続鋳造、圧延、固溶化焼鈍、精密切削、および酸洗を行って、その後のビレット製造プロセスにおいて使用されるステンレス鋼クラッド層を製造する。加えて、いくつかの実施形態において、基材層ビレットをまず得ることができて、次に、その後のステップにおいて、基材層ビレットを基材層として使用して、ステンレス鋼クラッド層とのアセンブルビレット(assemble billet)を製造することができ、または基材層ビレットをまず得ることができて、次に、基材層ビレットに鍛伸および圧延を行って、基材層鋼板を得、その後のステップにおいて、これを基材層として使用して、ステンレス鋼クラッド層とのアセンブルビレットを製造する。
【0032】
加えて、本発明の製造方法において、ステップ(2)において、いくつかの好ましい実施形態において、ビレット製造の前に前処理を実施して、ステンレス鋼クラッド表面に汚染がないようにする。
【0033】
本発明の製造方法において、ステップ(4)において、固溶化温度は、950~1020℃になるように制御されることに留意されたい。その理由は、固溶化温度が950℃未満であると、ステンレス鋼クラッド層のオーステナイト系ステンレス鋼の再結晶化および軟化が十分に起こり得ず、部分的に析出する炭化物が十分に固溶化処理されず、固溶化処理温度が1020℃よりも高いと、基材層の炭素鋼結晶粒組織が急速に成長する可能性があり、その後の急冷プロセスにおいて、大量のウィドマンステッテン組織が容易に生成するからである。加えて、固溶化処理後の冷却速度を20~50℃/sの範囲内に制御すると、一方では、ステンレス鋼クラッド層中に溶解している炭化物がその後の冷却中に析出できないようにすることができ、他方では、基材層のミクロ組織がフェライト+パーライト+少量のベイナイトであるようにすることができ、かつマルテンサイト組織の出現を回避し、それによって本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の良好な幅広い機械的特性を確保することができる。
【0034】
さらに、本発明の製造方法において、ステップ(4)の後に、この方法は、
(5)冷間圧延するステップと、
(6)固溶化焼鈍、酸洗、およびレベリング処理するステップであり、固溶化温度を950~1020℃になるように制御し、次いで、20~50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却するステップと、
をさらに含む。
【0035】
本発明の製造方法において、ステップ(6)において、固溶化温度は、950~1020℃になるように制御される。その理由は、固溶化温度が950℃未満であると、ステンレス鋼クラッド層のオーステナイト系ステンレス鋼の再結晶化および軟化が十分に起こり得ず、部分的に析出する炭化物が十分に固溶化処理され得ず、固溶化温度が1020℃よりも高いと、基材層の炭素鋼結晶粒組織が急速に成長する可能性があり、その後の急冷プロセスにおいて、大量のウィドマンステッテン組織が容易に生成するからである。加えて、固溶化処理後の冷却速度を20~50℃/sの範囲内に制御すると、一方では、ステンレス鋼クラッド層中に溶解している炭化物がその後の冷却中に析出できないようにすることができ、他方では、基材層のミクロ組織がフェライト+パーライト+少量のベイナイトであるようにすることができ、かつマルテンサイト組織の出現を回避し、それによって本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の良好な幅広い機械的特性を確保することができる。
【0036】
ステップ(5)および(6)の後、より薄く、より低い表面粗度の冷間圧延ステンレス鋼クラッド板を得ることができる。
【発明の効果】
【0037】
先行技術と比較して、高強度両面ステンレス鋼クラッド板およびその製造方法は、以下の有益な効果を有する。
【0038】
1.化学組成の観点から、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板は、低炭素、ならびにチタン、ニオブ、およびアルミニウムマイクロ合金化組成設計を採用して、基材層が、より高いオーステナイト再結晶温度を有するようにしている。同時に、より高い固溶化処理温度の条件下で基材層中のオーステナイト結晶粒が完全に成長しないようにしており、次いで、基材層が急速に冷却された後、フェライト+パーライト+ベイナイト組織を得ることができるようにしている。本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板が300Mpa以上の耐力を有するように、フェライトの結晶粒度番号は7番以上であり、ベイナイトの相割合は20%以下である。
【0039】
2.生産プロセスの観点から、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の製造方法は、ステンレス鋼クラッド層が優れた耐食性を有するようにするために、高温固溶化処理プロセスおよび急冷プロセスを採用して、ステンレス鋼クラッド層を再結晶化および軟化させ、かつ組織を均質化させ、かつ炭化物の析出を回避するようにしている。
【0040】
3.製品性能の観点から、本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板は、高強度、良好な表面品質および耐食性を有し、室温での耐力は300Mpa以上であり、室温での伸びは30%以上であり、機械的伸張中の降伏点での伸び率の値は2.0%以下であり、幅広い性能が良好であり、高強度両面ステンレス鋼クラッド板は、パネル、貯蔵タンクおよびその他の分野における用途の要件を満たすことができ、かつ広い産業用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明の実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の基材層のミクロ組織を示す概略図である。
図2】本発明の実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板のステンレス鋼クラッド層のミクロ組織を示し、炭化物析出物が存在しないことを示す概略図である。
図3】本発明の実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の接合界面周辺のミクロ組織を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下では、添付図面および特定の実施形態を参照して本発明の高強度両面ステンレス鋼クラッド板およびその製造方法をさらに説明および記載するが、説明および記載は本発明の技術的解決策を不適切に限定しない。
【0043】
[実施例1~8および比較例1]
表1-1および表1-2に、実施例1~8および比較例1の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の基材層中の各化学元素の質量パーセントおよびステンレス鋼クラッド層のモデルを挙げる。
【0044】
実施例1~8および比較例1の高強度両面ステンレス鋼クラッド板のステンレス鋼クラッド層はすべて先行技術において利用可能なステンレス鋼であることに留意されたい。したがって、表1-1および表1-2にはステンレス鋼クラッド層の特定のモデルのみを挙げ、様々な化学元素の組成は記録しない。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
注記:(式)2.7×C+0.4×Si+Mn中のC、SiおよびMnは、それぞれ元素の質量パーセントを表し、上記の式に代入される値はパーセント記号(「%」)の前の値であるべきであり、例えば、Cの質量パーセントが0.1%であり、Siの質量パーセントが0.2%であり、Mnの質量パーセントが0.7%であるとき、この式に代入される値は、それぞれ0.1,0.2,および0.7であり、計算値は2.7×C+0.4×Si+Mn=2.7×0.1+0.4×0.2+0.7=1.05である。
【0048】
表1-2中、Fはフェライトを表し、Pはパーライトを表し、Bはベイナイトを表し、Wはウィドマンステッテン組織を表すことに留意されたい。
【0049】
実施例1~8および比較例1の高強度両面ステンレス鋼クラッド板は以下のステップにより製造される(特定のプロセスパラメータを表2に挙げる)。
【0050】
(1)表1-1および表1-2に記載されている基材層およびステンレス鋼クラッド層を得るため、オーステナイト系ステンレス鋼に製鋼、連続鋳造、圧延、固溶化焼鈍、精密切削、および酸洗を行って、その後のビレット製造プロセスにおいて使用されるステンレス鋼クラッド層を製造する。加えて、いくつかの実施形態において、基材層ビレットをまず得ることができて、次に、その後のステップにおいて、基材層ビレットを基材層として使用して、ステンレス鋼クラッド層とのアセンブルビレットを製造することができ、または基材層ビレットをまず得ることができて、次に、基材層ビレットに鍛伸および圧延を行って、基材層鋼板を得、その後のステップにおいて、これを基材層として使用して、ステンレス鋼クラッド層とのアセンブルビレットを製造する。
【0051】
(2)ビレット製造:ビレット製造の前に前処理を実施して、ステンレス鋼複合表面に汚染がないようにする。
【0052】
(3)クラッド圧延:先行技術における従来の熱間圧延法を採用して、目標厚さが異なる熱間圧延コイルを製造する。
【0053】
(4)固溶化焼鈍および酸洗処理:固溶化温度を950~1020℃になるように制御し、次いで、20~50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却し、ブラストおよび酸洗を実施して、その表面状態を高温固溶化焼鈍および酸洗表面NO.1と呼ぶ高強度両面ステンレス鋼クラッド板を得る。
【0054】
(5)冷間圧延:Sendzimir 20-高圧延機を使用して、ロールを目標厚さが異なる冷間圧延コイルに圧延する。
【0055】
(6)固溶化焼鈍、酸洗およびレベリング処理:固溶化温度を950~1020℃になるように制御し、次いで、20~50℃/sの平均冷却速度で室温まで冷却して、その表面状態を低温固溶化焼鈍および酸洗表面2Bと呼ぶ高強度両面ステンレス鋼クラッド板を得る。
【0056】
【表3】
【0057】
実施例1~8および比較例1の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の製造方法において、最後に得られた高強度両面ステンレス鋼クラッド板の表面状態が高温固溶化焼鈍および酸洗表面NO.1である場合、この製品は、ステップ(5)およびステップ(6)において加工されなかったことに留意されたい。最後に得られた高強度両面ステンレス鋼クラッド板の表面状態が低温固溶化焼鈍および酸洗表面2Bである場合、この製品は、ステップ(5)およびステップ(6)において加工を経たものである。
【0058】
実施例1~8および比較例1の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の機械的特性を試験して、機械的伸張中の降伏点での伸び率、室温での耐力、室温での引張強度、および室温での伸びの値を具体的に試験した。ここで、機械的引張特性は、GB/T 6396-2008 composite steel sheet mechanical and technological property test methodにしたがって試験される。機械的特性試験結果を表3に挙げる。
【0059】
【表4】
【0060】
表3から、実施例1~8の高強度両面ステンレス鋼クラッド板が、比較例1の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の耐力よりも83~203Mpa高い300Mpa以上の耐力を有し、かつ良好な表面品質およびより高い耐力を求める市場のユーザーの要件を満たすより良い表面品質を有することが分かる。
【0061】
図1から、実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の基材層のミクロ組織がF+P+Bであり、Fの結晶粒度が約7番であることが分かる。
【0062】
図2から、実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板のステンレス鋼クラッド層のミクロ組織が、完全に再結晶したオーステナイト結晶粒組織であることが分かる。
【0063】
図3から、実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の接合界面において、明らかな脱炭層が、基材層に近い側に存在することが分かる。これは、ステンレス鋼クラッド層の側への基材層中の炭素原子の拡散によって主に引き起こされる。これは、実施例4の高強度両面ステンレス鋼クラッド板の基材層およびステンレス鋼クラッド層が、明らかな冶金接合を形成することを示す。
【0064】
本発明の保護範囲の先行技術部分は、本出願文書に記載の実施例に限定されず、先行特許文書、先行刊行物、先行公用などを含む本発明の固溶化と矛盾しないすべての先行技術は、これらに限定されないが、本発明の保護範囲にすべて含まれ得ることに留意されたい。
【0065】
加えて、本発明における様々な技術的特徴の組合せは、本発明の特許請求の範囲に記載の組合せまたは特定の実施例に記載の組合せに限定されない。本発明に記載のすべての技術的特徴は、互いの間に矛盾がない限り自由にまたは任意の方法で組み合わせることができる。
【0066】
上に挙げた実施例は、本発明の単なる特定の実施例であることにも留意されたい。明らかに、本発明は上記の実施例に限定されず、当業者が本発明の開示から直接誘導することができる、または本発明の開示と容易に関連付けることができる、その後の同様の変更または修正は、本発明の保護範囲内に入るべきである。
図1
図2
図3