(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】薬剤識別システムおよび薬剤識別方法
(51)【国際特許分類】
G16H 20/10 20180101AFI20230509BHJP
A61J 3/00 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
G16H20/10
A61J3/00 310K
(21)【出願番号】P 2021108222
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592007601
【氏名又は名称】株式会社コンテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】高平 賢治
【審査官】森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/105395(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/065658(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0030586(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0098104(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111382622(CN,A)
【文献】国際公開第2021/010276(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 20/10
A61J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を撮影した撮影画像の画像認識を行うことにより、撮影された薬剤の識別を行う薬剤識別システムにおいて、
撮影画像から特徴値を抽出する特徴値抽出部と、
撮影画像に含まれる薬剤の識別を行う薬剤識別部と、
を備え、
前記特徴値抽出部は、撮影画像から特徴値を抽出するためのアルゴリズムが予め学習済みであるAIモデルを用いて、撮影画像から特徴値を抽出し、抽出した特徴値を前記薬剤識別部に送信し、
前記薬剤識別部は、既知の薬剤に対応する特徴値が列挙された薬剤特徴リスト
を備えており、前記薬剤特徴リストと、前記特徴値抽出部が抽出した撮影画像の特徴値との比較に基づき、撮影画像に含まれる薬剤の識別を行って、前記薬剤特徴リスト内で撮影画像の特徴値に対応する薬剤が、撮影画像に含まれる薬剤であると識別し、
前記AIモデルは、撮影画像を入力データとして、撮影画像に現れている形状の特徴を数値化した特徴値を抽出して出力データとして返すものであり、撮影画像に既知の薬剤
ではない薬剤が含まれている場合
にも、撮影画像から特徴値を抽出するものであること
を特徴とする薬剤識別システム。
【請求項2】
前記薬剤識別部は、
前記薬剤特徴リストと撮影画像の特徴値との比較に基づく識別によって識別することが不能な未知薬剤が撮影画像に含まれている場合に、
前記未知薬剤の存在をユーザに対して表示すること
を特徴とする請求項1に記載の薬剤識別システム。
【請求項3】
前記薬剤識別部は、
前記薬剤特徴リストと撮影画像の特徴値との比較に基づく識別によって識別することが不能な未知薬剤が撮影画像に含まれている場合、および/または誤識別を行った場合に、
前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値を前記薬剤特徴リストに追加すること
を特徴とする請求項1に記載の薬剤識別システム。
【請求項4】
前記薬剤識別部は、
前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値を前記薬剤特徴リストに追加する際に、前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値とともに、ユーザから入力された訂正情報を前記薬剤特徴リストに追加すること
を特徴とする請求項3に記載の薬剤識別システム。
【請求項5】
前記薬剤識別システムが医療機関の処方箋システムにおいて利用されるものであり、
医師の発行した処方箋に記された薬剤の情報が処方箋データとして前記薬剤識別部に入力されており、
前記薬剤識別部は、
前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値を前記薬剤特徴リストに追加する際に、
追加する特徴値に対応する薬剤を、前記処方箋データの中からユーザに選択させて、追加する特徴値と、ユーザが選択したデータとの組み合わせを、前記薬剤情報リストに追加すること
を特徴とする請求項3に記載の薬剤識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を撮影した撮影画像の画像認識を行うことにより撮影された薬剤の識別を行う薬剤識別システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬局などの、薬剤を取り扱う施設において、薬剤の機械的な識別が求められることがある。例えば、処方箋に基づいて取り揃えられた薬剤が実際に処方箋の処方内容と合致しているか否かを、作業者(薬剤師など)とは別の主体によって判定するために、薬剤の機械的な識別を行う装置(薬剤鑑査装置)が用いられることがある。こうした装置を用いることにより、患者に対する薬剤の交付における作業ミスを防止することができる。
【0003】
特許文献1には、薬剤を撮影した撮影画像の画像認識を行うことにより撮影された薬剤の識別を行う薬剤識別システムが記載されている。特許文献1に記載された薬剤識別システム撮影画像においては、撮影画像を入力データとして、入力された撮影画像に対応する薬剤の情報を出力データとして返すAIモデルを用いて、入力された撮影画像に含まれる薬剤の識別が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の薬剤識別システムにおいては、各種薬剤がそれぞれ撮影画像においてどのような姿で現れるのか、に関する学習データが用いられる。この学習データに基づき、AIモデルは、どのような撮影画像に対してどのような薬剤の情報を返すべきであるかを学習する。
【0006】
しかしながら、AIモデルによる学習には相応の時間が必要となる。薬局などの、薬剤を取り扱う施設において識別の対象となる薬剤は膨大な数が存在するため、それら全てに対応できるような学習が完了するには長い時間がかかってしまう。
【0007】
また、新規薬剤の流通開始により識別対象とするべき薬剤の種類が増加すると、AIモデルによる学習を再度行う必要が生じる。その場合にも、既存の薬剤も含めた膨大な数の薬剤に関する学習をやり直すことになるため、やはり長い時間がかかってしまう。
【0008】
また、撮影画像、すなわち薬剤の外見を基に薬剤の識別を行う場合、ラベルや包装のデザインが変更されるだけでもAIモデルにとっては新規の薬剤とみなされてしまうため、デザイン変更のたびに学習のやり直しが必要となってしまう。
【0009】
ところで、例えば薬局においては患者に対して迅速に薬剤の交付を行うことが求められる。その薬局において、薬剤包装のデザイン変更などに伴うAIモデルの学習のやり直しが必要になると、その学習の間、薬剤識別システムを用いた薬剤の識別を行うことができないため、長い時間にわたり薬剤の交付が行なえない事態が生じてしまう。
【0010】
以上のような問題に鑑み、本発明は、薬剤を撮影した撮影画像の画像認識を行うことにより撮影された薬剤の識別を行う薬剤識別システムにおいて、撮影画像に基づく薬剤の識別を迅速に行うことが可能な薬剤識別システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る実施形態の一例としての薬剤識別システムは、薬剤を撮影した撮影画像の画像認識を行うことにより、撮影された薬剤の識別を行う薬剤識別システムにおいて、撮影画像から特徴値を抽出する特徴値抽出部と、撮影画像に含まれる薬剤の識別を行う薬剤識別部と、を備え、前記特徴値抽出部は、撮影画像から特徴値を抽出するためのアルゴリズムが予め学習済みであるAIモデルを用いて、撮影画像から特徴値を抽出し、抽出した特徴値を前記薬剤識別部に送信し、前記薬剤識別部は、既知の薬剤に対応する特徴値が列挙された薬剤特徴リストを備えており、前記薬剤特徴リストと、前記特徴値抽出部が抽出した撮影画像の特徴値との比較に基づき、撮影画像に含まれる薬剤の識別を行って、前記薬剤特徴リスト内で撮影画像の特徴値に対応する薬剤が、撮影画像に含まれる薬剤であると識別し、AIモデルは、撮影画像を入力データとして、撮影画像に現れている形状の特徴を数値化した特徴値を抽出して出力データとして返すものであり、撮影画像に既知の薬剤ではない薬剤が含まれている場合にも、撮影画像から特徴値を抽出するものであることを特徴とする。
【0012】
また好ましくは、前記薬剤識別部は、前記薬剤特徴リストと撮影画像の特徴値との比較に基づく識別によって識別することが不能な未知薬剤が撮影画像に含まれている場合に、前記未知薬剤の存在をユーザに対して表示するとよい。
【0013】
また好ましくは、前記薬剤識別部は、前記薬剤特徴リストと撮影画像の特徴値との比較に基づく識別によって識別することが不能な未知薬剤が撮影画像に含まれている場合、および/または誤識別を行った場合に、前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値を前記薬剤特徴リストに追加するとよい。
【0014】
また好ましくは、前記薬剤識別部は、前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値を前記薬剤特徴リストに追加する際に、前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値とともに、ユーザから入力された訂正情報を前記薬剤特徴リストに追加するとよい。また、前記薬剤識別システムが医療機関の処方箋システムにおいて利用されるものである場合には、医師の発行した処方箋に記された薬剤の情報が処方箋データとして前記薬剤識別部に入力されており、前記薬剤識別部は、前記未知薬剤および/または誤識別された薬剤の特徴値を前記薬剤特徴リストに追加する際に、追加する特徴値に対応する薬剤を、前記処方箋データの中からユーザに選択させて、追加する特徴値と、ユーザが選択したデータとの組み合わせを、前記薬剤情報リストに追加するとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る実施形態の一例としての薬剤識別システムによれば、撮影画像から特徴値を抽出するためのアルゴリズムが予め学習済みであるAIモデルが用いられるため、どのような撮影画像に対してもAIモデルはアルゴリズムに基づいて特徴値を抽出することが可能である。したがって、新規薬剤の流通開始や薬剤包装のデザイン変更のたびにAIモデルの学習をやり直す必要がない。そのため、薬剤の流通事情に左右されず、常に撮影画像を用いた薬剤の識別を迅速に行うことが可能で、薬局においては患者に対する薬剤の交付が滞ることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る実施形態の一例としての薬剤識別システムの構成を概略的に示すブロック図。
【
図2】
図1の薬剤識別システムが処方箋システムにおいて利用される場合の構成を概略的に示すブロック図。
【
図3】
図2の薬剤識別システムにおける薬剤の識別の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1のブロック図に、本発明に係る実施形態の一例としての薬剤識別システム10の構成を概略的に示す。この薬剤識別システム10において識別対象となる薬剤12の例として、
図1には錠剤が収められたPTPシート13(1枚10錠入り)と、散剤(粉薬)が収められたSP包装14(4包1セット)が示されている。
【0018】
図1に示す薬剤識別システム10は、薬剤12の画像を撮影する撮影部20と、撮影部20が撮影した撮影画像から特徴値を抽出する特徴値抽出部30と、撮影画像に含まれる薬剤12を識別する薬剤識別部40と、識別結果を表示するためのモニタ60と、を備えている。
【0019】
これらの構成要素は1つの機器にまとめて組み込まれていてもよいし、複数の機器に分かれて配置されていてもよい。例えばスマートフォンの画面をモニタ60、そのスマートフォンに組み込まれたカメラを撮影部20、メモリやプロセッサを他の構成要素として、薬剤識別システム10が1つのスマートフォンで構築されるようになっていてもよい。あるいは、薬剤識別システム10がネットワーク(インターネットなど)上に構築されたものであり、ネットワークを介して接続された複数の機器のそれぞれが構成要素の一つ一つとして機能するようになっており、様々な場所の機器から薬剤識別システム10を利用可能な構成であってもよい。
【0020】
(基本的動作)
この薬剤識別システム10を用いて識別作業を行おうとするユーザ(作業者)はまず、撮影部20によって薬剤12(薬剤12を含む領域)を撮影して、撮影画像を取得する。そして、この撮影画像が特徴値抽出部30へ入力される。特徴値抽出部30はAIモデル32(実体としては、AIモデル32のデータを記憶する記憶装置)を備えており、このAIモデル32を用いて、撮影画像から特徴値を抽出する。
【0021】
詳細については後述するが、AIモデル32は撮影画像を入力データとして、それに対応する特徴値を出力データとして返す入出力関係を記述したモデルである。本実施形態においては、撮影画像から特徴値を抽出する、という作業は、特徴値抽出部30がAIモデル32に撮影画像を入力して、撮影画像に対応する出力として返ってきた特徴値を得ることを意味する。なお、特徴値は撮影画像に含まれる図形毎に抽出されるものであり、
図1のように撮影対象の図形が複数(PTPシート13とSP包装14の2つ)存在するならば、それぞれの図形に対応する特徴値が別々に抽出される。
図1の場合であれば、PTPシート13に関する特徴値と、SP包装14に関する特徴値とが抽出される。
【0022】
特徴値抽出部30にて抽出された特徴値は薬剤識別部40へ送信される。薬剤識別部40は、既知の薬剤に対応する特徴値が列挙された薬剤特徴リスト42(薬剤特徴リスト42のデータを記憶する記憶装置)を備えている。
【0023】
薬剤特徴リスト42には、AIモデル32が出力し得る特徴値と、その特徴値に対応する薬剤の識別情報(薬剤の製品名などの、薬剤の種類を特定する情報)が列挙されている。薬剤識別部40は、この薬剤特徴リスト42と、特徴値抽出部30が抽出した撮影画像の特徴値との比較に基づいて、撮影画像に含まれる薬剤の識別を行う。すなわち、特徴値抽出部30から送信された特徴値と一致する特徴値が薬剤特徴リスト42に列挙されているならば、薬剤特徴リスト42内でその特徴値に対応する薬剤が、撮影画像に含まれる薬剤であると識別される。なお、薬剤特徴リスト42と特徴値との比較に基づく薬剤識別においては、撮影画像から抽出された特徴値が、薬剤特徴リスト42内に列挙された特徴値と完全には一致しなくとも、ある程度近い値(例えばリスト値の0.95-1.05倍程度の値)であれば、その特徴値を示した薬剤が薬剤特徴リスト42内の薬剤であると識別してもよい。
【0024】
薬剤識別部40は、薬剤特徴リスト42を用いた識別結果をモニタ60に送信する。モニタ60は、薬剤識別部40から送信された識別結果をユーザに向けて表示する。すなわち、撮影部20によって撮影された薬剤12に関して、薬剤12の製品名といった、薬剤12の種類を特定する情報がモニタ60に表示される。これにより、薬剤識別システム10のユーザは、撮影対象の薬剤12がどのようなものであるか、についての識別結果を知ることができる。
【0025】
(AIモデルによる特徴値抽出について)
本実施形態においては、AIモデル32として、撮影画像から特徴値を抽出するためのアルゴリズムが予め学習済みのものが用いられる。AI(人工知能)を用いた画像認識においては、画像から特徴値を抽出するという手法が用いられることがある。この特徴値は、画像に現れている形状の特徴を数値化したものであり、多くの場合、人間の視覚では理解できないものであるが、データとして記録することは可能である。そして、機械学習を行うAIモデルを用いた画像認識においては、AIモデルが画像から特徴値を抽出するための演算手順(アルゴリズム)が、学習の進行につれて最適化されていく。
【0026】
例えば、AIモデルに入力される画像に対応して、ユーザが出力として返ってくることを期待する「正解」のデータがあるとする。AIモデルは、入力画像からどのような特徴値を抽出すれば「正解」を出力しやすくなるかを機械学習の進行につれて学習してゆく。すなわち、機械学習によって、画像から特徴値を抽出するためのアルゴリズムが最適化されていく。
【0027】
本実施形態の薬剤識別システム10で用いられるAIモデル32の場合、撮影画像に映っている薬剤を適切に識別することが可能なように、予め学習が行われる。例えば、様々な撮影画像と、それらの撮影画像に映っている既知の薬剤の識別情報(製品名など)と、の対応関係が学習データとして使用される。機械学習により、AIモデル32が撮影画像から特徴値を抽出するためのアルゴリズムと、薬剤に対応する特徴値が列挙された薬剤特徴リスト42が作成される。このアルゴリズムと薬剤特徴リスト42は学習の進行につれて最適化されていく。
【0028】
このアルゴリズムと薬剤特徴リスト42の最適化には時間がかかるため、従来の技術ではAIモデルが学習待ちとなって薬剤の識別が滞ることがあったが、本実施形態においては、アルゴリズムが予め学習済みであるAIモデル32と、既知の薬剤に対応する特徴値が列挙された薬剤特徴リスト42が用いられるため、薬剤識別の際に学習待ちが発生することはなく、迅速に薬剤識別を行うことができる。
【0029】
(未知薬剤が存在する場合)
本実施形態のAIモデル32が使用する学習済みのアルゴリズムは、機械学習において使用された学習データに含まれる既知の薬剤を識別するために最適化されたものである。しかしながら、撮影画像に既知の薬剤ではない薬剤(未知薬剤)が含まれていたとしても、学習済みのアルゴリズムを用いて撮影画像から特徴値を抽出すること自体は可能である。ただし、未知薬剤が撮影画像に含まれていた場合は、抽出された特徴値は薬剤特徴リスト42に列挙されていないものとなる。
【0030】
例えば
図1のように撮影対象の薬剤12がPTPシート13とSP包装14であった場合に、PTPシート13が既知の薬剤、SP包装14が未知薬剤(新製品やパッケージ変更の薬剤)であったとする。このような場合でも、特徴値抽出部30は、学習済みのアルゴリズムを用いて、PTPシート13の特徴値と、SP包装14の特徴値をそれぞれ抽出することができる。
【0031】
薬剤識別部40は、既知の薬剤であるPTPシート13の特徴値と、未知薬剤であるSP包装14の特徴値を特徴値抽出部30から受信した場合には、撮影画像に未知薬剤が含まれていることを示す識別結果を、モニタ60を介してユーザに対して表示する。すなわち、特徴値抽出部30は、薬剤特徴リストに列挙されている既知のPTPシート13の識別情報(製品名など)と、「SP包装14は未知薬剤である」ことを示す情報をモニタ60に送信する。モニタ60は、PTPシート13の(既知の)識別情報と、未知薬剤が撮影画像に含まれていることを示す情報をユーザに向けて表示する。この表示にあたっては、どの薬剤が未知薬剤であるかがユーザにわかるよう、モニタ60は、未知の特徴値が抽出された図形、ここではSP包装14の画像を示すとともに、「この薬剤が未知薬剤である」と表示するとよい。
【0032】
(識別結果に誤りがあった場合のユーザによる指摘)
また、画像認識による薬剤識別においては、照明の明るさや薬剤の姿勢などの撮影条件によって、学習データとは異なる姿で薬剤が撮影画像内に現れることがある。この場合、既知の薬剤であっても、薬剤特徴リスト42に列挙されているものとは異なる特徴値が抽出されることがある。薬剤特徴リスト42に列挙されているものとは異なる特徴値が抽出された場合、薬剤識別部40は、既知の薬剤を未知薬剤であると識別したり、あるいは別の(既知の)薬剤であると誤って識別したりといった、誤識別を起こすことがある。このような誤識別が起こった際、ユーザが誤識別に気づいた場合は、今回の識別結果には誤りがあることをユーザが指摘できるようになっているとよい。例えばモニタ60がタッチパネルディスプレイ(例えばスマートフォンやタブレット端末の画面)である場合に、ユーザが誤った識別結果を示している表示に触れると、「この識別結果を通報しますか」といった、誤識別を指摘するか否かを確認するダイアログが現れて、そのダイアログに対してユーザが肯定的に応答すると、その識別結果が誤識別として薬剤識別部40に通知される。
【0033】
(薬剤特徴リストへの追加)
以上のように、未知の特徴値が抽出された(未知薬剤が撮影画像に含まれている)場合、あるいは識別結果に誤りがあった(誤識別を行った)場合には、薬剤識別部40は、その未知の特徴値、あるいは誤識別の基となった特徴値を、薬剤特徴リスト42に追加する。この際に、未知薬剤の識別情報や、誤った識別結果に関する訂正情報がユーザから入力された場合は、薬剤特徴リスト42には、特徴値とともに、それに対応する正しい識別情報が追加される。薬剤特徴リスト42に正しい識別情報が追加されていれば、次回以降の識別においては、薬剤識別部40は追加された特徴値に対して正しい識別情報を返すことが可能となるため、モニタ60には正しい識別結果が表示されるようになって、未知薬剤や誤識別を含む結果が表示されなくなる。
【0034】
(処方箋システムとの連携)
ここで、
図2に示すように、薬剤識別システム10が医療機関の処方箋システムにおいて利用されるものであると、ユーザが未知薬剤の識別情報や誤識別に関する訂正情報を入力することが容易になる。
【0035】
医療機関の処方箋システムにおいては、患者に交付される予定の薬剤の情報が記された処方箋データ50が医師によって発行される。薬剤識別システム10が処方箋システムにおいて利用される場合、処方箋データ50が薬剤識別部40に入力される。
図2においては説明のために、処方箋データ50は薬剤の種類を特定する識別情報(ここでは製品名)と、薬剤の包装形態、薬剤の数量を示すものとしているが、実際の処方箋データは、これと異なる情報や、これより多くの情報を含むものである。
【0036】
この薬剤識別システム10においても、撮影画像内に未知薬剤が含まれていた場合、あるいは誤識別が発生した場合には、その未知薬剤や誤識別された薬剤の特徴値が薬剤特徴リスト42に追加される。ここで、
図2の薬剤識別部40は、新しく特徴値を薬剤特徴リスト42に追加する際に、その特徴値に対応する薬剤が何であるかを、ユーザに選択させることができる。
【0037】
例えばモニタ60がタッチパネルディスプレイである場合、ユーザが未知薬剤や誤識別の識別結果を示す表示に触れると、「正しい薬剤を選択してください」といった選択を促す表示と共に、処方箋データ50に記されている薬剤の情報がモニタ60に表示される。例えば
図2に示す例においてPTPシート13が既知の薬剤、SP包装14が未知薬剤とする識別結果がモニタ60に表示されていた場合、ユーザは処方箋データ50の中から、SP包装14の識別情報として、製品名「YYY」を選択する。すると薬剤識別部40は、撮影画像内のSP包装14の形状から抽出された特徴値と、製品名「YYY」との組み合わせを、薬剤特徴リスト42に追加する。これにより、次回以降の識別においては、薬剤識別部40は撮影されたSP包装14を正しく製品名「YYY」と識別することが可能になる。
【0038】
(薬剤識別システム10による識別の手順)
図3に、
図2の薬剤識別システム10によって行われる薬剤12の識別の手順(薬剤識別方法の手順)をフローチャートとして示す。まず、医師の発行した処方箋に記された薬剤の情報が処方箋データ50として薬剤識別部40に入力される(ステップS01)。次に、撮影部20によって薬剤12が撮影されて、撮影画像が得られる(ステップS02)。
【0039】
この撮影画像が特徴値抽出部30に入力される。特徴値抽出部30は特徴値抽出のためのアルゴリズムが予め学習済みのAIモデル32を用いて、入力された撮影画像から特徴値を抽出する(ステップS03)。
【0040】
抽出された特徴値は薬剤識別部40に送信される。薬剤識別部40は、既知の薬剤に対応する特徴値が列挙された薬剤特徴リスト42と、送信された特徴値との比較に基づき、撮影画像に含まれる薬剤の識別を行う(ステップS04)。ここで、未知薬剤が撮影画像に含まれていた場合(ステップS05-YES)には、「未知薬剤が存在する」という情報を識別結果に含める(ステップS06)。未知薬剤が存在しない場合(ステップS05-NO)には、識別結果をそのままモニタ60に送信する(ステップS07)。
【0041】
識別結果を薬剤識別部40から受信したモニタ60は、識別結果を示す情報をユーザに対して表示する(ステップS08)。ここで、識別結果に未知薬剤や誤識別の結果が含まれていなければ(ステップS09-NO)、ユーザが識別結果を確認することで今回の薬剤識別は終了となる。
【0042】
一方、識別結果に未知薬剤や誤識別の結果が含まれていた場合(ステップS09-YES)には、処方箋データ50の中から薬剤特徴リスト42に追加すべきデータをユーザに選択させる。
【0043】
そして薬剤識別部40が、未知薬剤または誤識別の識別結果の基となった特徴値と、ユーザが選択したデータとの組み合わせを薬剤特徴リスト42に追加して(ステップS10)、今回の薬剤識別は終了となる。
【0044】
以上のように、本実施形態の薬剤識別システム10によれば、アルゴリズムが予め学習済みのAIモデル32が用いられるので、学習待ちが発生することなく迅速に薬剤識別を行うことが可能である。したがって、薬局においては患者に対する薬剤の交付が滞ることを防止できる。
【0045】
また、識別対象の薬剤に未知薬剤が含まれていたり、誤識別が発生したり、といった事態が生じても、薬剤識別部40がその未知薬剤あるいは誤識別の基となった特徴値を薬剤特徴リスト42に追加するだけで未知薬剤や誤識別への対処が完了する。したがって、新規薬剤の流通開始により識別対象とするべき薬剤の種類が増加したり、ラベルや包装(パッケージ)のデザイン変更により既知薬剤から抽出される特徴値が変化したりしても、AIモデル32の学習をやり直す必要がないため、長い時間にわたり薬剤の交付が行なえないという事態が防止される。
【符号の説明】
【0046】
10 薬剤識別システム
12 薬剤
20 撮影部
30 特徴抽出部
32 AIモデル
40 薬剤識別部
42 薬剤特徴リスト
60 モニタ