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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20230509BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230509BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230509BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D7/63
C09D7/61
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021117239
(22)【出願日】2021-07-15
(65)【公開番号】P2023013226
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌典
(72)【発明者】
【氏名】野上 知徳
(72)【発明者】
【氏名】常盤 勇斗
(72)【発明者】
【氏名】大川 峻平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼久 優太
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183159(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112694854(CN,A)
【文献】特開2020-158670(JP,A)
【文献】特開2017-203122(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188339(WO,A1)
【文献】特開昭63-092673(JP,A)
【文献】特開2005-120469(JP,A)
【文献】国際公開第2020/171194(WO,A1)
【文献】特開2014-077146(JP,A)
【文献】特開2019-183043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系の2液型塗料組成物であって、A液は、アクリル樹脂を含み、B液は、アミノ基含有シランカップリング剤(A)と前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)のアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)とを含み、前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)と前記シランカップリング剤(B)の当量比(A/B)が6.00~50.0であり、前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)と前記シランカップリング剤(B)の合計量が前記アクリル樹脂100質量部に対して5~100質量部であり、前記B液中には前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)の一部と前記シランカップリング剤(B)から2級アミノ基含有反応生成物が形成されており、前記シランカップリング剤(B)がエポキシ基含有シランカップリング剤である、塗料組成物。
【請求項2】
沸点50℃以上のアルカリ性の有機化合物、およびアルカリ性無機化合物よりなる群から選択されるpH調整剤を含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
アンモニアを含まない、請求項1~のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記塗料組成物のpHが9以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関し、特には、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、外装材や内装材としてブロック積み形状の模様表面を持つ窯業系サイディングボードが、建築物の外壁に貼り合わせるだけで適用でき、施工が容易であるため多用されてきている。
【0003】
主なサイディングボードは、溝部を目地部の外観を呈するように塗装し、凸部をレンガ、石、又はタイル等の外観を呈するように塗装して、レンガ積みや石積み、又はタイルを貼り付けた様な外観を有するような意匠性を有している。
【0004】
このようなサイディングボードは、表面の塗膜が経年劣化すると塗膜の傷や剥れが生じるため、補修が必要となる。補修方法の一つとして、既存の意匠性の高い塗膜を生かすため、クリアー塗料で補修する方法がある。
【0005】
クリアー塗料で補修する方法としては、透明なプライマー(プライマークリアー)を塗装した後、透明な高耐候性塗料(トップクリアー)を塗装する方法がある。
【0006】
例えば、特開2013-208546号公報(特許文献1)には、建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、該下塗塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする建築外装材の補修方法が記載されており、かかる建築外装材の補修方法によれば、既設の建築外装材を塗り替える際も、旧塗膜への密着性が良好であり、既存の意匠性の高い塗膜を保ったまま耐候性に優れた塗膜を形成することができる。
【0007】
特許文献1では、プライマークリアーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料が使用されており、ここで、水分散液(A)にはアクリル樹脂エマルションが使用され、密着付与剤(C)にはエポキシ基含有シランカップリング剤やアミノ基含有シランカップリング剤が使用されている。
【0008】
このようにアクリル樹脂エマルションとシランカップリング剤が配合されているプライマークリアーは、例えば、特開2012-251094号公報(特許文献2)および特開2019-183043号公報(特許文献3)にも記載されている。
【0009】
特許文献2には、アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)、グリシジル基含有シランカップリング剤(B)、およびアミノ基含有シランカップリング剤(C)、を含む、補修用水性下塗り塗料組成物が記載されており、ここで、アニオン性またはカチオン性樹脂エマルション(A)としてアクリル樹脂エマルションが使用されている。
【0010】
特許文献3には、水分散性樹脂(A)、グリシジル基含有シラン化合物(B)、及びアミノ基含有シラン化合物(C)を含み、上記水分散性樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主単量体成分とするアクリル樹脂(a1)、及びシリコーン樹脂(a2)を含むエマルション樹脂である、水性被覆材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-208546号公報
【文献】特開2012-251094号公報
【文献】特開2019-183043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1~3に記載される塗料組成物において、シランカップリング剤は、主として基材との付着性を高めるために使用されている。一方で、建築物の外壁などに適用される窯業系サイディングボードへの補修用途について検討すると、プライマークリアーには、付着性の他、耐水性などの性能も求められる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、アクリル樹脂を含む水系塗料組成物において、アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤との反応生成物であって、2級のアミノ基を含有する反応生成物を特定量用いることで、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成できることを見出した。
【0015】
したがって、本発明の第1の態様は、水系の2液型塗料組成物であって、A液は、アクリル樹脂を含み、B液は、アミノ基含有シランカップリング剤(A)と前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)のアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)とを含み、前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)と前記シランカップリング剤(B)の当量比(A/B)が6.00~50.0であり、前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)と前記シランカップリング剤(B)の合計量が前記アクリル樹脂100質量部に対して5~100質量部であり、前記B液中には前記アミノ基含有シランカップリング剤(A)の一部と前記シランカップリング剤(B)から反応生成物が形成されている、塗料組成物である。
【0016】
本発明の塗料組成物の好適例においては、前記シランカップリング剤(B)が、エポキシ基含有シランカップリング剤である。
【0017】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、沸点50℃以上のアルカリ性の有機化合物、およびアルカリ性無機化合物よりなる群から選択されるpH調整剤を含む。
【0018】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、アンモニアを含まない。
【0019】
本発明の塗料組成物の他の好適例においては、前記塗料組成物のpHが9以上である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の1つの態様は、水系の2液型塗料組成物である。本明細書においては、この水系の2液型塗料組成物を「本発明の塗料組成物」とも称する。
【0023】
本明細書において「水系の塗料組成物」とは、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。ここで、塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、イオン交換水や蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、塗料組成物(特には後述のA液)を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の塗料組成物中において、水の量は、30~90質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
【0024】
本明細書において「2液型の塗料組成物」とは、使用直前まで2つの部分に分けられていて、使用直前に始めて混合する塗料をいう。本発明の塗料組成物を構成する2つの部分は、アクリル樹脂を含むA液と、後述する2級アミノ基含有反応生成物を含むB液の2つである。なお、A液とB液との混合の際に、粘度の調整等の目的で水やその他希釈剤等を更に加えてもよい。
【0025】
本発明の塗料組成物は、アクリル樹脂を含む。アクリル樹脂は、アクリル又はメタクリルモノマーから、及び、必要に応じてそれ以外のモノマーも加えて、重合又は共重合によって作られる樹脂である。アクリル樹脂は、耐候性、耐水性、付着性および価格のバランスの観点から好ましい。本発明の塗料組成物において、アクリル樹脂は、上述のとおりA液に含まれる。A液中のアクリル樹脂の量は、例えば20~70質量%であり、30~50質量%であることが好ましい。
【0026】
アクリル又はメタクリルモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸並びにそのエステル、アミド及びニトリル等のモノマーである。アクリル樹脂の調製の際には、アクリル又はメタクリルモノマーは、一種単独で用いてもよいが、複数種を組み合わせて用いることが好ましい。
【0027】
アクリル又はメタクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸やメタクリル酸の他、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマー;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の官能基含有モノマー;アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド等のアミド系モノマー;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及びγ-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有モノマー等が挙げられる。
【0028】
アクリル又はメタクリルモノマー以外のモノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等の芳香族系モノマー;フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、ビニルバーサチック酸等のカルボキシル基含有モノマー;アリルアルコール、アリルグリシジルエーテル等の官能基含有モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;ブタジエン、イソプレン等のジエン系モノマー;酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル系モノマー;マレイン酸アミド等のアミド系モノマー;ジアルキルフマレート等のエステル系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体等が挙げられる。
【0029】
アクリル樹脂がアクリル又はメタクリルモノマーとそれ以外のモノマーとから構成される場合、アクリル樹脂を構成するアクリル又はメタクリルモノマーの割合は、通常、50質量%より大きい。
【0030】
アクリル樹脂は、変性されていてもよい。変性アクリル樹脂としては、例えば、シリコーン変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂等が挙げられる。
【0031】
シリコーン変性アクリル樹脂は、アルコキシシリル基含有モノマー等を用いて重合反応とシロキサン縮合反応を競合させる方法や、主骨格にシロキサン結合を有するポリマー(シリコーン部分)を合成し、次いで、該ポリマーに、上述のアクリル又はメタクリルモノマーをグラフト重合させたり又はアクリル樹脂を結合させたりする方法によって製造できる。また、ウレタン変性アクリル樹脂は、水酸基含有アクリル樹脂とポリオールとポリイソシアネートを反応させることによって製造できる。シリコーン変性アクリル樹脂には、アクリルシリコーン樹脂と称される樹脂も含まれる。
【0032】
アクリル樹脂は、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)を繰り返し単位として含むことが好ましい。シクロヘキシルメタクリレートを用いることで、アクリル樹脂の耐候性を向上させることができる。アクリル樹脂中に含まれるシクロヘキシルメタクリレートの量は、1~80質量%であることが好ましく、10~50質量%であることが好ましい。
【0033】
アクリル樹脂は、灰分が0.02~10質量%であることが好ましく、0.02~0.5質量%であることが更に好ましい。アクリル樹脂の灰分を上記特定した範囲に調整することで、耐候性を向上させることができ、また、塗膜の付着性をより向上させることも可能である。例えば、アルコキシシリル基含有モノマーを用い、その割合を高くすることで、アクリル樹脂の灰分を増加させることができる。
【0034】
本明細書において、アクリル樹脂の灰分は、以下のように決定できる。
(i)恒量状態にある質量が既知の磁製るつぼに試料(アクリル樹脂)3gを計り取る。
(ii)上記磁製るつぼ中の試料を150℃にて30分間加熱し、その後、更に550℃にて2時間加熱し、該試料を灰化させる。
(iii)灰化した試料を室温まで放冷し、その後、該試料の質量を量る。以下の式に従い、灰分を算出する。
灰分(質量%)=灰化した試料の質量(g)/加熱前の試料の質量(g)×100
ここで、灰分は、主として二酸化ケイ素の構造を取っているため、アクリル樹脂中のケイ素原子の割合を以下のように求めることもできる。
ケイ素原子の割合(質量%)=灰分(質量%)×28.1÷60.1
【0035】
アクリル樹脂は、エマルションの形態で使用されることが好ましい。アクリル樹脂エマルションは、例えば、水を媒体とし、水中で乳化重合を行うことによって調製できる。より好ましくは、乳化重合によって得られる均一構造を有するアクリル樹脂エマルション、多段階の乳化重合法によって得られる異相構造を有するアクリル樹脂エマルション等が挙げられ、これらの両方を一緒に用いてもよい。或いは、アクリル樹脂エマルションを以下のように調製することもできる。例えば、高速攪拌機等を使用することにより強制的なせん断力を加えながら、アクリル樹脂を水中で乳化させることによって調製してもよい。有機溶剤媒体中にて重合してなるアクリル樹脂に対して、水中への相転換を行うことによってアクリル樹脂エマルションを調製でき、必要に応じて蒸留等によってアクリル樹脂エマルション中に含まれる有機溶剤を除去してもよい。
【0036】
アクリル樹脂エマルションは、pHが7~10であることが好ましい。例えばpH調整剤を用いてアクリル樹脂エマルションのpHを上記特定した範囲内に調整することができる。アクリル樹脂エマルションのpHが7未満では、貯蔵時の安定性、塗料の機械的安定性等の種々の安定性が低下する恐れがあり、一方、10を超えると、乾燥が遅くなる場合もある。
【0037】
本発明の塗料組成物は、アクリル樹脂以外の樹脂を含んでもよい。アクリル樹脂以外の樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。アクリル樹脂以外の樹脂も、通常、アクリル樹脂と共にA液に含まれる。
【0038】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中における樹脂の量は、50~99質量%であることが好ましい。また、本発明の塗料組成物において、樹脂がアクリル樹脂とそれ以外の樹脂から構成される場合、樹脂全体に対するアクリル樹脂の割合は50質量%以上であることが好ましい。
【0039】
本明細書において、塗膜形成成分とは、水や有機溶剤等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分である。本明細書においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を塗膜形成成分として取り扱う。本発明の塗料組成物中において、塗膜形成成分の量は、例えば10~70質量%であり、更には40~60質量%であることが好ましい。
【0040】
本発明の塗料組成物は、アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤との反応生成物であって、2級のアミノ基を含有する反応生成物を含む。この反応生成物は、使用前での水との接触を避けるため、アクリル樹脂を含むA液とは別のB液に含まれている。本明細書においては「アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤との反応生成物であって、2級のアミノ基を含有する反応生成物」を単に「2級アミノ基含有反応生成物」とも称する。2級アミノ基含有反応生成物は、1つの活性水素を有する2級のアミノ基(NH)を有する反応生成物である。
【0041】
本発明者は、この2級アミノ基含有反応生成物を用いることで、アミノ基含有シランカップリン剤のように塗膜の付着性を向上できるとともに、塗膜の耐水性をも向上できることを見出した。これにより、本発明の塗料組成物によれば、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成することが可能となる。
【0042】
一方、アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤との反応生成物であっても、2級のアミノ基(NH)を含有せず、アミノ基と反応性を示す官能基を含有する反応生成物では、付着性の向上効果が十分に得られない。また、アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤とを塗料調製時に混合する場合、具体的にはアミノ基含有シランカップリング剤を含む液と、アミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤を含む別の液とを塗料調製時に混合する場合では、塗料の貯蔵安定性を損なう。
【0043】
本発明の塗料組成物は、B液として、アミノ基含有シランカップリング剤(A)と、アミノ基含有シランカップリング剤のアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)とを後述する当量比にて含むことで、B液中には、「アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤との反応生成物であって、2級のアミノ基を含有する反応生成物」が形成されている。
【0044】
アミノ基含有シランカップリング剤とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤とを混合することで、これらを反応させることができる。よって、アミノ基の量をアミノ基と反応性を示す官能基よりも多くすることで、2級アミノ基含有反応生成物を得ることができる。
【0045】
本発明の塗料組成物のB液において、アミノ基含有シランカップリング剤(A)とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)との当量比(A/B)は、6.00~50.0であることが好ましく、6.00~11.0であることが更に好ましい。このように、アミノ基含有シランカップリング剤(A)を過剰に使用することから、B液には、2級アミノ基含有反応生成物に加えて、アミノ基含有シランカップリング剤(A)も含まれることになる。一方、アミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)は、B液の調製時にその全てがアミノ基含有シランカップリング剤(A)との反応に消費され、B液中に含まれるシランカップリング剤(B)は、2級アミノ基含有反応生成物を構成しており、未反応の状態ではB液中に存在していない。このため、B液中において2級アミノ基含有反応生成物は、B液中に含まれるアミノ基含有シランカップリング剤(A)の一部と、B液中に含まれるシランカップリング剤(B)から形成されている。
【0046】
また、アミノ基含有シランカップリング剤(A)を過剰に含む場合であっても、アミノ基含有シランカップリング剤(A)とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)との当量比(A/B)が低いと、耐水性(密着性)が低下する傾向にある一方、アミノ基含有シランカップリング剤(A)が過剰すぎると、耐水性(外観)が低下する傾向にある。
【0047】
アミノ基含有シランカップリング剤の具体例としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、γ-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等が挙げられる。
【0048】
アミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤としては、エポキシ基含有シランカップリング剤が好ましい。エポキシ基含有シランカップリング剤の具体例としては、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β-グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β-3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
アミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤として、イソシアネート基含有シランカップリング剤を用いることもできる。イソシアネート基含有シランカップリング剤の具体例としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
本発明の塗料組成物において、B液中に含まれるアミノ基含有シランカップリング剤(A)と該アミノ基含有シランカップリング剤のアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)の合計量は、A液中に含まれるアクリル樹脂100質量部に対して5~100質量部であることが好ましく、7~50質量部であることが更に好ましい。アクリル樹脂に対するシランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の合計量が低すぎると、初期密着性や耐水性(密着性)等の密着性が低下する。一方、アクリル樹脂に対するシランカップリング剤(A)とシランカップリング剤(B)の合計量が高すぎると、耐水性が低下する。なお、B液中では全てのシランカップリング剤(B)がアミノ基含有シランカップリング剤(A)との反応に消費されていることから、ここでの「B液中に含まれるアミノ基含有シランカップリング剤(A)とアミノ基含有シランカップリング剤のアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)の合計量」は、「B液中に含まれる未反応のアミノ基含有シランカップリング剤(A)と2級アミノ基含有反応生成物の合計量」と言い換えることも可能である。
【0051】
本発明の塗料組成物は、pH調整剤を含むことが好ましい。pH調整剤としては、アンモニアを除くアルカリ性の無機化合物及びアルカリ性の有機化合物よりなる群から選ばれるpH調整剤が好ましい。pH調整剤は、沸点が50℃以上であることが好ましく、沸点が80℃を超えていることがより好ましく、260℃を超えていることがさらに好ましい。pH調整剤として使用できるアルカリ性の無機化合物は、アンモニアを除けば、無臭であるか、低臭気であるため、塗料組成物の臭気の発生を抑える観点から好適である。また、pH調整剤として使用できるアルカリ性の有機化合物についても、臭気の発生を抑える観点から、沸点が50℃以上、より好ましくは80℃を超えるものが好適であり、沸点が260℃を超えるものがさらに好適である。沸点が260℃を超えるpH調整剤であれば、通常、塗装の際に蒸発せず、塗膜中に残存するため、塗料組成物の臭気の発生を抑える観点から好適である。なお、沸点は、1気圧での沸点である。
【0052】
pH調整剤として使用できるアルカリ性の無機化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩を例示することができ、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0053】
pH調整剤として使用できるアルカリ性の有機化合物としては、例えばアミン化合物、具体的には酸基とイオン対を形成可能なアミン化合物である。ここで、沸点80℃超のアミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等が挙げられ、沸点260℃超のアミン化合物の具体例としては、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン等が挙げられる。
【0054】
pH調整剤の量は、特に制限されるものではないが、例えば、アクリル樹脂エマルションや塗料組成物のpHが好ましい範囲となるようにpH調整剤を用いることが好ましい。pH調整剤は、A液とB液のいずれに含まれていてもよいが、アクリル樹脂がエマルションの形態で使用される場合にはA液に含まれる場合が多い。また、A液とB液との混合の際に塗料のpHを調整する目的でpH調整剤を加えてもよい。pH調整剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明の塗料組成物は、アンモニアを含まないことが好ましい。アンモニアは、一般的に好適なpH調整剤として知られており、アクリル樹脂エマルションのpHの調整に使用されることも多く見られるが、臭気の問題があることから、本発明の塗料組成物においては、アンモニアを使用しないことが望ましい。
【0056】
本発明の塗料組成物は、顔料を含むことができる。顔料としては、特に制限されるものではなく、防錆顔料、体質顔料、着色顔料、光輝顔料等の、塗料業界において通常使用されている顔料が使用できる。顔料は、A液とB液のいずれに含まれていてもよいが、A液に含まれる場合が多い。これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
防錆顔料としては、例えば、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられる。本発明の塗料組成物中において、防錆顔料の量は、例えば1~8質量%である。
【0058】
体質顔料としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。本発明の塗料組成物中において、体質顔料の量は、例えば1~40質量%である。
【0059】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、バナジン酸ビスマス、群青、紺青、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッド、ナフトールレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。本発明の塗料組成物中において、着色顔料の量は、例えば1~30質量%である。
【0060】
光輝顔料としては、アルミニウム、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、ステンレス、ガラスフレーク等が挙げられる。本発明の塗料組成物中において、光輝顔料の量は、例えば1~10質量%である。
【0061】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、有機溶媒、顔料分散剤、乾燥剤、酸化防止剤、反応触媒、消泡剤、粘性調整剤、脱水剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0062】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによってA液やB液を予め用意しておき、これらを塗装時に混合することで調製できる。ここで、A液は、アクリル樹脂および水を含み、必要に応じて他の樹脂、pH調整剤、顔料等を更に含んでもよい。B液は、2級アミノ基含有反応生成物を含むが、必要に応じてpH調整剤、顔料等を更に含んでいてもよい。
【0063】
B液の調製の際には、IRスペクトルで反応の進行を追跡することが可能である。本発明においては、B液中には、アミノ基含有シランカップリング剤(A)が、アミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)に対して過剰量含まれていることから、シランカップリング剤(B)の特徴的なピークを追跡し、この特徴的なピークが消失した時点で反応の完結を確認することができる。通常、アミノ基含有シランカップリング剤(A)とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)を含むB液を50℃程度の乾燥炉に一晩入れておくことで反応を完結させることができる。
【0064】
本発明の塗料組成物は、pHが9以上であることが好ましく、9.5~11であることが更に好ましい。塗料組成物のpHを高めに設定することで、塗膜の付着性をさらに向上させることが可能である。
【0065】
本発明の塗料組成物は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が1~1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.05~10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。本明細書において、粘度は、レオメーター(例えば、TAインスツルメンツ社製レオメーターARES)を用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0066】
本発明の塗料組成物は、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成可能であることから、プライマーとして好適である。本明細書において、プライマーとは、塗装系の中で被塗物に始めに適用される塗料をいう。本発明の塗料組成物がプライマーとして使用される場合、本発明の塗料組成物から形成される塗膜は、耐候性、耐水性、耐汚染性、耐ブロッキング性等の観点から好適な塗料(例えば、フッ素樹脂系塗料や無機樹脂(シリコーン樹脂等)系塗料)で塗装されることが好ましい。本発明の塗料組成物から形成される塗膜は、フッ素樹脂系塗膜や無機樹脂(シリコーン樹脂等)系塗膜に対しても付着性に優れる。
【0067】
本発明の塗料組成物は、意匠性の高い被塗物への補修の観点から、クリアー塗料であることが好ましい。本明細書において、クリアー塗料とは、透明な塗膜を形成する塗料であり、厚さ30μmである場合に透過率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上である塗膜を形成する塗料である。本明細書において、透過率は、可視領域(360nm~750nm)における全光線透過率を意味し、JIS K 7375:2008に準拠して測定できる。
【0068】
本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等が利用できる。
【0069】
本発明の塗料組成物の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。
【0070】
塗装対象としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄鋼、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、錫めっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又は合金を少なくとも一部に含む金属基材、木材等の木質基材、石膏、珪酸カルシウム、ガラス、セラミック、コンクリート、セメント、モルタル、スレート等の無機系基材、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン等のプラスチック基材が挙げられる。また、他にも、木繊維補強セメント板、繊維補強セメント板、繊維補強セメント・珪酸カルシウム板等の複合基材も例示できる。金属基材には、各種表面処理、例えば酸化処理が施された基材も含まれる。また、その表面が無機物で被覆されているようなプラスチック基材(例えば、ガラス質で被覆されたプラスチック基材)は、無機系基材に含まれる。なお、基材は、プライマー処理が施されていてもよいし、基材表面の少なくとも一部に旧塗膜(塗装を行う際に既に形成されている塗膜)が存在していてもよい。これらの中でも、本発明の塗料組成物は、無機系基材に塗装されることが好ましい。
【0071】
本発明の塗料組成物は、耐水性および付着性に優れる塗膜を形成可能であることから、塗装対象が建材である場合に好適である。建材としては、例えば、サイディングボード、フレキシブルボード、ケイ酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート板、石膏ボード、鋼材(例えば、条鋼、鋼板、鋼管等)、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、錫めっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0072】
サイディングとは、一般に、建物の外壁に使用される建築外装材の一種であり、窯業系サイディング、金属系サイディング、木質系サイディング、樹脂系サイディング等が知られている。本発明の塗料組成物は、窯業系サイディングに塗装されることが好ましい。
【0073】
近年、サイディングをはじめとする建材としては、耐水性や耐汚染性等の観点から、フッ素樹脂系塗膜や無機樹脂(シリコーン樹脂等)系塗膜を表面に有する建材(いわゆるプレコート建材)が好まれているが、本発明の塗料組成物は、フッ素樹脂系塗膜や無機樹脂(シリコーン樹脂等)系塗膜に対しても付着性に優れる塗膜を形成可能であることから、このようなプレコート建材、特にはプレコートサイディング材への補修に好適である。
【実施例
【0074】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の「部」や「%」は特に断りがない限り、質量基準で示す。
【0075】
<水分散液の調製>
各水分散液に用いられる合成樹脂エマルションは、以下のとおりである。
エマルションA及びBについては、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に適量のイオン交換水と界面活性剤を仕込んで、加熱下攪拌しながら、下記不飽和単量体と重合開始剤の混合物とを滴下し、エマルションA及びBを得た。単量体組成は下記の通りである。
(エマルションA)
・単量体組成:メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びアルコキシシラン含有単量体の混合物
・エマルションA(不揮発分=46%):アクリルシリコン樹脂系エマルション。なお中和剤としてジメチルエタノールアミンを使用した。
(エマルションB)
・単量体組成:メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びアルコキシシラン含有単量体の混合物
・エマルションB(不揮発分=46%):アクリルシリコン樹脂系エマルション。なお中和剤としてアンモニアを使用した。
また、エマルションCとしてG620(旭化成社製アクリルシリコン樹脂系エマルション)、エマルションDとしてH7650(旭化成社製アクリルシリコン樹脂系エマルション)を使用した。
表1に示す配合処方に従い、エマルションA~Dのそれぞれに成膜助剤などを配合し、よく混合、攪拌することでA液として水分散液1~4を得た。
【0076】
【表1】
【0077】
表1中、エマルション以外の成分は、以下のとおりである。
*1 成膜助剤:ダワノールDPnB(ダウ・ケミカル日本株式会社)
*2 UVA/HALS:Tinuvin 1130/Tinuvin 292(BASFジャパン株式会社)
*3 防腐剤:PROXEL DAC(ロンザジャパン株式会社)
*4 消泡剤:デフォーマー1316(サンノプコ株式会社)
*5 増粘剤:アデカノールUH-420(株式会社ADEKA)
【0078】
<2級アミノ基含有反応生成物の調製>
表2に示す割合(質量比)でアミノ基含有シランカップリング剤と、アミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤を攪拌、混合し、次いで、得られた混合液を50℃の乾燥炉に入れておくことで、B液である密着付与剤1~12を得た。
なお、グリシジル基含有シランカップリング剤を用いた場合には、グリシジル基の910cm-1付近の吸収の消失、イソシアネート基含有シランカップリング剤を用いた場合には、イソシアネート基の2300cm-1付近の吸収の消失により、アミノ基含有シランカップリング剤との反応が完結したものと判断した。
【0079】
【表2】
【0080】
表2中、それぞれのシランカップリング剤に付された、KBM602等の表示は、シランカップリングの商品名であり、いずれのシランカップリング剤も信越化学工業株式会社製である。
【0081】
表2中、当量比(A/B)とは、アミノ基含有シランカップリング剤(A)と該アミノ基含有シランカップリング剤(A)のアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)の当量比(A/B)である。
【0082】
<塗料組成物の調製>
上記A液とB液を表3~4に示すような割合で攪拌、混合し、各塗料組成物を得た。各塗料組成物のpHを表3~4に示す。
【0083】
<試験板の作製>
得られた各塗料組成物を、無機樹脂系塗膜が形成されたサイディングボード(ケイミュー株式会社製ネオロック・光セラ18)上に塗布量0.08kg/mとなるように塗布し、標準状態(気温23℃、相対湿度50%)で一晩乾燥させ、次いで、同一塗料を塗布量0.10kg/mとなるように塗布し、標準状態で7日間乾燥させ、試験板を作製した。
【0084】
<評価方法及び、評価結果>
下記のように、初期密着性、耐水性(密着性及び外観)、臭気の評価を行った。評価結果を表3~4に示す。
【0085】
<初期密着性>
JIS K 5600-5-6(クロスカット法)に準拠して、作製された試験板の塗膜を2mm間隔で5×5の碁盤目にカットし、粘着テープ貼付後の剥離試験を実施して、以下の判定基準で評価した。(合格ライン:3以上)
初期密着性の評価基準
5・・・カットの縁が完全になめらかで、どの格子の目にも剥離がない
4・・・剥離面積が5%以下
3・・・剥離面積が5%超え15%以下
2・・・剥離面積が15%超え35%以下
1・・・剥離面積が35%超える
【0086】
<耐水性>
作製された試験板を23℃の水道水中に14日間浸漬し、水道水から取り出してから3時間後の試験板について塗膜外観と密着性を評価した。
・耐水性(外観)
試験板の塗膜表面の外観を、以下の評価基準に従い、目視にて評価した。(合格ライン:3以上)
塗膜外観の評価基準
5・・・変化なし
4・・・やや白濁(一部白濁)
3・・・白濁した(全体的に白濁)
2・・・白濁と光沢劣化
1・・・塗膜の剥離又は脱落(評価中止)
・耐水性(密着性)
JIS K 5600-5-6(クロスカット法)に準拠して、試験板の塗膜を2mm間隔で5×5の碁盤目にカットし、粘着テープ貼付後の剥離試験を実施して、以下の判定基準で評価した。(合格ライン:3以上)
初期密着性の評価基準
5・・・カットの縁が完全になめらかで、どの格子の目にも剥離がない
4・・・剥離面積が5%以下
3・・・剥離面積が5%超え15%以下
2・・・剥離面積が15%超え35%以下
1・・・剥離面積が35%超える
【0087】
<臭気>
A液、B液を混合して調製された塗料について、以下の基準で臭気を評価した。
○・・・臭気が弱い
×・・・臭気が強い
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
表3~4中、「アクリル樹脂/シランカップリング剤」には、A液のアクリル樹脂を100質量部としたときのB液のアミノ基シランカップリング剤(A)とアミノ基と反応性を示す官能基を含有するシランカップリング剤(B)の合計質量部が示される。