(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
B41J2/01 129
B41J2/01 401
B41J2/01 123
(21)【出願番号】P 2021567427
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047623
(87)【国際公開番号】W WO2021132130
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2019234976
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307015301
【氏名又は名称】武藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067758
【氏名又は名称】西島 綾雄
(72)【発明者】
【氏名】津久井 克幸
(72)【発明者】
【氏名】浅見 義雄
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-106473(JP,A)
【文献】国際公開第2008/078560(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120520(US,A1)
【文献】特開2012-218342(JP,A)
【文献】特開2015-77808(JP,A)
【文献】特開2012-171236(JP,A)
【文献】特開2007-112117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷方向に対して複数のインク吐出印刷範囲が形成された記録ヘッドと、
紫外線により硬化するインクと、インクが吐出される印刷媒体と、印刷方向に対して記録ヘッドの後方に複数の発光ダイオードが配列された
UVLEDランプとを備え、前記発光ダイオードを複数のエリアに分割してそのエリア毎の光量をコントローラにより個別に制御可能とし、
前記複数のエリアに分割された発光ダイオードの中で、光沢印刷面を形成するインクを最初に走査するエリアの発光ダイオードをインクが硬化しない光量に設定して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、
前記記録ヘッドと印刷媒体との搬送幅分の相対的な移動により形成されたインク層の上に2層目以降の印刷を行い、前記最初に走査するエリアの発光ダイオードの光量
と、光沢印刷面を形成するインク層の下になる隣接したインク層を走査する発光ダイオードの光量を、前記光沢印刷面上での総光量が積算照度の臨界露光量以下となるように設定し、
光沢印刷面を有する印刷エリアを、前記記録ヘッドと印刷媒体との間の副走査方向の一方向の移動により順次印刷媒体上に形成するようにしたことを特徴とするインクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法。
【請求項2】
前記LEDランプは記録ヘッドよりも印刷方向に長く伸びた照射範囲を有し、搬送後の走査における積算照度の総光量により臨界露光量を超えて硬化させることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法。
【請求項3】
前記光沢印刷面をクリアインクで形成し、該クリアインク層の下に1層又は複数層のインク層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法。
【請求項4】
前記臨界露光量がUV硬化インクを硬化させるのに必要な最小の露光量であり、UV硬化インクの硬化特性曲線に基づいて設定されたものであることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法。
【請求項5】
印刷方向に対して複数のインク吐出印刷範囲が形成された記録ヘッドと、印刷方向に対して記録ヘッドの後方に複数の発光ダイオードが配列されたLEDランプとを備え、前記発光ダイオードを複数のエリアに分割してそのエリア毎の光量をコントローラにより個別に制御可能とし、前記複数のエリアに分割された発光ダイオードの中で、光沢印刷面を形成するインクを最初に走査するエリアの発光ダイオードをインクが硬化しない光量に設定して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、前記最初に走査するエリアの発光ダイオードの光量を、前記光沢印刷面上での総光量が積算照度の臨界露光量以下となるように設定し、前記複数のエリアに分割された発光ダイオードの光量の設定は、テスト用のインクジェットプリンタのLEDランプを駆動して各分割された発光ダイオードの印字面上の照度分布を測定する第1のプロセスと、前記第1のプロセスで測定したデータを用い各分割された発光ダイオードの印字面上の照度に対する積算照度分布とさらにこれを合計したLEDランプ全体の印字面上の積算照度分布を求める第2のプロセスと、前記積算照度分布に基づいて各分割された発光ダイオードの印字面上の照度の調整を行う第3のプロセスと、光沢印刷面上の積算照度が臨界露光量以下となるように各分割された発光ダイオードの光量を設定する第4のプロセスとからなることを特徴とするインクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法。
【請求項6】
前記LEDランプは紫外線発光ダイオードを用いたUVLEDランプであることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットプリンタ用LEDランプの照射制御方法。
【請求項7】
前記臨界露光量の値を、UV硬化インクの硬化特性曲線に基づいて求めたことを特徴とする請求項6に記載のインクジェットプリンタ用UVLEDランプの照射制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェットプリンタ用のLED(発光ダイオード)ランプの制御方法に関し、更に特定すればUVインク印刷面のグロス(光沢表面)を実現するためのUVLED(紫外線発光ダイオード)の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UVインク(紫外線硬化型インク)を用いたインクジェットプリンタでは、印刷物の表面の光沢印刷を必要とする場合、紫外線がインク照射されるまでの時間を遅らせてインクを硬化する方法を採用している(グロス印刷)。
また、LEDランプを分割制御することにより、分割LEDモジュールの境界部分の制御を行い、良好な結果を得ている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェットプリンタにおいては必要に応じて各種の印刷仕様が用意されており、記録ヘッド(インクジェットヘッド)のノズルを複数に分割して使用する印刷を行う場合には、その分割された印刷幅とLEDランプの分割幅とが必ずしも一致するとは限らない。また、照射される光は拡散するため、分割された印刷幅の境界部分への照射においては照射を抑制したい部分にも拡散してインクの硬化に影響を与えてしまうため、細やかな照度の管理が必要となり、良好な光沢印刷を実現するためのLEDランプの制御が容易ではなかった。
本発明は、上記問題点を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するためも手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、印刷方向に対して複数のインク吐出印刷範囲が形成された記録ヘッドと、印刷方向に対して前後方向に複数の分割紫外線発光ダイオードが配列されたLEDランプとを備え前記分割紫外線発光ダイオードの光量をコントローラにより個別に制御可能とし、前記分割紫外線発光ダイオードの中、光沢印刷面を最初に走査する分割紫外線発光ダイオードをインク硬化しない光量(臨界露光量以下)とし、他の分割紫外線発光ダイオードの光量をインク硬化する光量に設定して印刷を行うインクジェットプリンタにおいて、前記分割紫外線発光ダイオードの光量を、前記光沢印刷面上での総光量(合計)である積算照度が臨界露光量以下となるように設定したことを特徴とする。
また本発明は、前記光沢印刷面をバーニッシュインク即ち透明インク(クリアインク)で形成し、該バーニッシュインク層の下に1層又は複数層のインク層が形成されていることを特徴とする。
また本発明は、前記臨界露光量がUV硬化インクを硬化させるのに必要な最小の露光量であり、UV硬化インクの硬化特性曲線に基づいて設定されたものであることを特徴とする。
また本発明は、前記分割紫外線発光ダイオードの光量の設定は、テスト用のインクジェットプリンタのLEDランプを駆動して各分割紫外線発光ダイオードの印字面上の照度分布を測定する第1のプロセスと、前記第1のプロセスで測定したデータを用い各分割紫外線発光ダイオードの印字面上の照度に対する積算照度分布とさらにこれを合計したLEDランプ全体の印字面上の積算照度分布を求める第2のプロセスと、前記積算照度分布に基づいて各分割紫外線発光ダイオードの印字面上の照度の調整を行う第3のプロセスと、光沢印刷面上の積算照度が臨界露光量以下となるように各分割紫外線発光ダイオードの光量を設定する第4のプロセスとからなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、LEDランプの分割されたエリア毎の光量設定のデータの作成に積算照度分布を用いるようにしたため、分割されたUVLED(紫外線発光ダイオード)ランプのエリア毎の光量の設定を容易に行うことができ、多数の印刷仕様に対応ができる光沢印刷が可能になる。また臨界露光量を考慮したエリア毎での光量設定ができるので、硬化させたい部分と硬化させたくない部分とが隣接する部分での適切な光量設定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図9】本発明の他の実施の形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の構成を添付した図面を参照して詳細に説明する。
図2は、インクジェットプリンタであり、Yレール2の周囲を遮蔽する開閉型カバーを省略したものである。Yレール2は機体4に支持具を介して固設されている。6は記録ヘッド(インクジェットヘッド)であり、ヘッド部8に取り付けられている。ヘッド部8は、Yレール2に、これに沿って即ち主走査方向(Y軸方向)に往復可能に連結している。記録ヘッド6には、
図6に示すようにインク吐出ノズル列ABCDEFGHが設けられている。
【0009】
ノズル列A~Hは互いの主走査方向の印字領域が重なるように記録ヘッド6の底部に並列状に配置され、印刷幅を分割しない印刷を行う場合は全ノズルの幅を使用する事ができる。本実施例ではノズル幅を3分割にして印刷を行う例を示しており、これにより記録ヘッド6には、所定の印字幅J1,J2,J3が形成されている。ノズル列A~Hは、
図6に示すようにVVKMCYWWのUV硬化型インクに対応している。Vはバーニッシュ即ち透明インク(クリアインク)を示し、Kはブラック、Mはマゼンタ、Cはシアン、Yはイエロー、Wはホワイトの色インクを示している。
記録ヘッド6の印字幅を規定するノズル列の長さは、用紙などの記録媒体(メディア)18の副走査方向の搬送幅に対応させて、3つの領域に分割され、この分割された各領域即ち分割された印字幅J1,J2,J3の各領域は用紙18の副走査方向の搬送幅X(
図6参照)に相当する印刷範囲10(
図5A参照)を構成する。ヘッド部8には、複数個の紫外線硬化型インク用のサブタンクが取り付けられ、該サブタンクに機体4側に配設されたインクカードリッジからチューブによりインクが供給される。サブタンクと、これらに対応する記録ヘッド6のノズル列A~Hとはチューブを介して連結している。
【0010】
前記ヘッド部8の片側には、紫外線(UV)を照射するLEDランプ22が支持体を介して連結している。Yレール2の下方には、プラテン19が設けられ、該プラテン19上に記録媒体(用紙)18が配置されている。プラテン19には、Yレール2に沿ってスリットが形成され該スリットに駆動ローラが配置されている。プラテン19上の用紙18は、この駆動ローラと、Yレール2側に設けられた押えローラ24とで挟持され、駆動ローラの回転によりプラテン19上を副走査方向に所定のピッチ幅で搬送されるように構成されている。
【0011】
紫外線照射UVランプ22は、副走査方向に、それぞれ印刷範囲10を超えて照射ができる幅を有する6個の分割UVLED(紫外線発光ダイオード)1~6(以下LED1~6と略称する)から成り、これらは副走査方向に印字面に対向して配列されている。
図8に示すように、各LED1~6は、0%、100%、0%、0%、20%、100%の順でそれぞれデューティ値即ち光量が設定されている。各分割LED1~6は、個別に光量が制御可能となるように、UVランプコントローラとドライバとからなるUVランプ駆動制御部38を介してプリンタのメインコントローラ20に接続し、UVランプ22の光量制御がメインコントローラ20とUVランプ駆動制御部間で行われるように構成されている。なお
図6においては硬化させないエリアLED4と硬化させたいエリアLED5とが隣接しているため、LED5から拡散された光の影響をLED4とのエリアにおいて受けるため、LED5のエリアでは硬化されLED4のエリアでは硬化されないようそれぞれの値を設定している。
【0012】
次に、プリンタの印刷動作について説明する。
図5(A)(B)は、プリンタの1パス目の印字動作を示している。記録ヘッド6は、
図5(A)中、機体の設定されたホームポジションから用紙18の左側の待機位置まで移動し、該待機位置から右方向(主走査方向)にノズル列GHのホワイトWのUV硬化型インクを吐出し、LED6から紫外線を照射しながら移動し、用紙18の印刷範囲10に、ホワイトインクにより1層目の印刷S1を行う(
図5B参照)。
次に、記録ヘッド6を左側の待機位置に戻し、用紙18を1バンド分移動させる。
次に、記録ヘッド6は、右方向に移動し、CDEF列のカラーインクであるKMCYインクを吐出し、且つLED5の光をインクの印刷面に照射し、ホワイト層の上にカラー層を印字する。これにより印刷範囲2(
図5C参照)に2層目の印刷S2を行う。また、同時に印刷範囲1にホワイトWのインクを吐出しながら、LED6から光を照射し、ホワイトインクにより次のバンドの1層目の印刷S3を行う。このようにして、順次、記録ヘッド6を走査し、記録媒体18にインクを吐出し印刷する。
【0013】
図5(D)は、2層印刷面S2の上にバーニッシュVインク層の印刷S4が行われ、3層が形成される。このとき、バーニッシュ印刷S4の上を総光量が臨界照度以下に制御された位置に該当するLED4が通過する。また、同時に1層の印刷面の上にカラーインク層の印刷S5が行われ、このインク層にLED5の紫外線が照射される。また同時に上流側の印刷範囲1に、ホワイトインクで一層目の印刷S6が行われる。
図5の(E)(F)(G)(H)は、記録ヘッド6による印刷の動作と、印刷面に対するLEDの照射、非照射の状態を示している。上記インクジェットプリンタのUVランプコントローラのデューティー値は、バーニッシュ印刷面上の積算照度が臨界露光量以下となるように設定されている。
【0014】
点灯させる各LEDランプの印字面上の積算照度の調整を行い、バーニッシュ印刷面即ち、最上層の印刷面の印刷直後の積算照度を臨界露光量以下とすることで最上層の印刷面の印刷直後の硬化が阻止され、最上層印刷面の光沢が得られる。バーニッシュインク印刷直後の硬化を防止するための臨界露光量は、実験的に硬化特性曲線(
図11参照)から求めることができる。
次に、複層印刷用のインクジェットプリンタの光沢印刷を実現するプロセスについて説明する。
まず、インクジェットプリンタのLEDランプ22の印字面に対する照度を測定するための照度測定装置を用意し、これを用いて各LED1~6の印字面に対する照度分布の測定を行う(プロセスP1)。
【0015】
プロセスP1ではLED1~6の積算照度を求めるための基礎データとしてテスト用のインクジェットプリンタを用い、デューティー値は初期値が設定されている各LEDの印字面上の照度分布を測定する。このとき測定は分布が把握できる程度の範囲で印字面上の照度を測る。
図7は、各LEDに対応する印字面上の照度分布を示している。測定は分布が把握できる程度の間隔でモジュールの照度値を測定している。図中、横軸は、測定位置と間隔を示し、縦軸は照度値の相対値を示している。
図7のLEDSUMはLED1~6に対応する各モジュール上の照度値を合計した分布図を示している。
【0016】
次にプロセスP2に移行し積算照度分布の計算を行う。プロセスP1で得た照度分布データを計算ソフトに取り込み、UVランプ22走査方向にUVランプ22のデューティー値や走査速度を考慮して数値積分を行う。
LEDに対応する各モジュール(印字面)の実験の照度分布は、
図7に示すように位置に応じて変化する正規分布のように形成されている。このLED1~6が速度Vで移動しているとしてある定点A上での積算照度を求める。
図10では、LEDが右から左へ移動する様子を表している。定点Aにおける積算照度Eは、簡易的には最大照度Wmax、LED通過時間Tとすると、Wmax×Tで求められる。
【0017】
しかし、実際には照度はW(s)の様に分布している。そのため移動中に照度は変化する。そのため積算照度を正しく求めるには照度分布の実測データを使ってこの変化を考慮しながら求める必要がある。図中、実測照度分布データはW(s)と表記され、sは位置を表し、範囲はs=0~L
LEDが一定の速度Vで移動し、照度分布W(s)のs=0、Lの位置が定点Aを通過する時刻を0、Tとする。LED通過時間はTとなる。時刻tの位置はV×tとなるので、そのときの照度をW(V×t)として
【0018】
【数1】
とすれば照度変化を考慮できる。この積分計算の中で実測照度分布データを用いる。しかしW(s)は位置の変数なのでS=Vtから変数変換すると
【0019】
【数2】
より
さらにデューティー値を考慮する必要があるため、これと積を取る必要があり
【0020】
【0021】
この(2)で直接、実測照度分布データW(s)を使って計算する。更に(2)の計算を行うにあたり、実測照度分布データW(s)の測定点以外に、近似ではあるが任意の点でも値が得られるように補間曲線を内部生成し計算に使用する。この方法を行うと、dsの値を測定点間隔より小さな値にすることができ、より正確な値が得られる。各LEDの分布の計算は以上のように、副走査方向(用紙送り方向)に分布が確認しやすい程度の間隔で行い求める。LEDランプ22の全体の分布は各分割LEDの分布の和として求める。
【0022】
次に、プロセスP3に移行し、バーニッシュのグロスを実現するための積算照度分布の構成を行う。
上記プロセス1,2で求めたデータを用い、バーニッシュインクの印刷面を滑らかにする(レべリング)ための積算照度分布を、各LEDのデューティー値を調整し、構成する。調整の手順は以下の様になる。
ステップ1:照度分布データを用い、各LEDのデューティー値での各LEDの積算照度分布をコンピュータソフトを用いて計算する。
ステップ2:各LEDの積算照度分布を合計し、LEDランプ全体の積算照度分布を求める。
【0023】
ステップ3:バーニッシュグロスを実現するために全体の積算照度分布がバーニッシュインクの印刷位置で臨界露光量以下になっているか、この後において、ランプはインクが硬化する照度以上であることを確認する。
ステップ4:臨界露光量以下になっていなかった場合、ステップ1に戻る。臨界露光量になっていたら各LEDのデューティー値の調整を終了する。
図8は、LEDの1走査当たりの積算照度分布を示している。
上記のステップを経て、バーニッシュインク印刷面に対し最初の照射を臨界露光量以下に抑えるように、LEDランプ22の点灯や各分割LEDの積算照度(光量)の調整を行い、その設定値をインクジェットプリンタのコントローラ20を制御するプリンタ制御ソフトに入力し(プロセス4)、その設定値で、インクジェットプリンタの印刷を実行する(プロセス5)。
【0024】
上記設定値に基づく印刷において、バーニッシュインクは印刷直後硬化せず、印刷面に光沢が得られるようになる。UVインクは横軸-積算照度、縦軸-膜厚の間に
図11に示すように一定の関係があり、これを硬化特性曲線と呼んでいる。臨界露光量とは、この曲線のX切片のことを指し、UVインクを硬化させるのに必要な最小の露光量を表す。逆にこの露光量以下であれば硬化しないことを意味するので、バーニッシュインクの臨界露光量の値を利用し、分割LEDの点灯や光量の設定を行い、バーニッシュ印刷面上の積算照度が臨界露光量以下になるように調整する。なお、消灯以外の各LED2,5,6のデューティー値を設定すると、光は広がるための積算照度の「分布」が得られる。そして、デューティー値に応じて分布が変わる。またLEDの照射によりバーニッシュインクの臨界露光量を超えるためグロス(光沢表面)にて硬化がされる。
【0025】
上記実施形態は、記録ヘッド6のインク吐出ノズル列が副走査方向に3分割され、6個の分割LED1~6を備え、3層印刷を行うときのインクジェットプリンタの例を示しているが、本発明は特にこのインクジェットプリンタの印刷方式に限定されるものではなく、
図9に示すように、記録ヘッド6がJ1,J2で示すように2分割されたものや、記録ヘッド6の分割ラインQと分割LED間の境界ラインがずれているものや2層印刷を行うもの等を含み、特に記録ヘッド6のインク吐出範囲分割数や印刷層の数を本実施形態に示すものに限定するものではない。なお
図9に示す記録ヘッド6がJ1,J2の2分割にされたものにおいてはUVLED5の照射エリアにおいてカラーインクとバーニッシュインクとの境界が中間辺りに位置しているため、カラーインクの部分は硬化させ、バーニッシュインクの部分は硬化をさせないという設定値を用いている。実施例では紫外線照射UVランプ22は6個の分割LED1~6のエリアに分けて制御を行っているがLED分割数や幅、間隔、更には等間隔か非等間隔は任意に設定が可能であり、記録ヘッド6の印刷幅に合わせて本件内容が実施可能であれば良い。
また分割LEDの光量制御も、PWM制御に特に限定されるものではなく、電流制御その他を用いることができる。
【0026】
また、本実施形態では、バーニッシュ(透明クリアインク)印刷面の表面光沢について説明しているが、本発明の表面光沢のLEDランプ制御は、バーニッシュ印刷面に特に限定されるものではなく、UV硬化型カラーインクの印刷面の表面光沢の実現にも応用することができる。なお本発明でバーニッシュインク、クリア(透明)インクと記載しているものはワニス、ニス、グロス、バニッシュ、バーニッシュなどと言われる主に印刷物の表面を保護又は印刷物の光沢を制御するために用いられる透明または半透明なインクを言うものであり、限定をしているものではない。また本実施例ではインクジェットヘッドの吐出印刷範囲を一つのノズル列を複数に分割した例で説明をしているが、ノズル列を横にずらして縦方向に並べた構造を用いても良く印刷範囲の制御が行える構造であれば良い。
また本発明は紫外線発光ダイオードを用いたUVランプ(照射装置)を利用しているが、光硬化型のインクに対して照射が行え硬化ができるものであれば良い。
また本発明は、インクジェットプリンタの印刷幅が変更になった場合でも対応ができるように、印刷仕様に対応した複数のパラメータを保持しておき、印刷仕様により自動で変更をして対応する。
なおインクジェットプリンタで使用されるインクの硬化特性は個々に違う可能性もあるため、複数のインク毎の設定を保管しておき、使用するインクを変更した場合にはその使用されるインクに合わせた設定を使用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0027】
2 Yレール
4 機体
6 記録ヘッド
8 ヘッド部
18 用紙
19 プラテン
20 メインコントローラ
22 LEDランプ
24 押えローラ