IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 熊本大学の特許一覧

特許7274689第4族元素酸化物からなる導電性成形体、それを含む傾斜材料、及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】第4族元素酸化物からなる導電性成形体、それを含む傾斜材料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20230510BHJP
   C01G 25/02 20060101ALN20230510BHJP
   C01G 27/02 20060101ALN20230510BHJP
   C01G 23/04 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
H01B1/08
C01G25/02
C01G27/02
C01G23/04 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018036640
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019153424
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】松田 元秀
(72)【発明者】
【氏名】志田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】姫野 雄太
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162956(JP,A)
【文献】特開昭64-083652(JP,A)
【文献】特開平11-307141(JP,A)
【文献】特開平01-136962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/08
C01G 25/02
C01G 27/02
C01G 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体を含む光触媒電極であって、導電性成形体が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性成形体が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示す、光触媒電極。
【請求項2】
導電性成形体の最深部から表面までの一番短い長さが、30μm以下である、請求項1に記載の光触媒電極。
【請求項3】
光照射により導電性成形体の電気伝導性が向上する、請求項1又は2に記載の光触媒電極。
【請求項4】
導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とを含む任意の形状の傾斜材料を含む光触媒電極であって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在しており、導電性第4族元素酸化物が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性第4族元素酸化物が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示す、光触媒電極。
【請求項5】
導電性第4族元素酸化物が、表面から内部に向かって30μm以下の厚さを有する、請求項に記載の光触媒電極。
【請求項6】
光照射により傾斜材料の電気伝導性が向上する、請求項又はに記載の光触媒電極。
【請求項7】
第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体を含む太陽電池であって、導電性成形体が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性成形体が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、導電性成形体の最深部から表面までの一番短い長さが30μm以下であり、光照射により導電性成形体の電気伝導性が向上する、太陽電池。
【請求項8】
第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体を含む光伝導性半導体であって、導電性成形体が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性成形体が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、導電性成形体の最深部から表面までの一番短い長さが30μm以下であり、光照射により導電性成形体の電気伝導性が向上する、光伝導性半導体。
【請求項9】
第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体を含む光センサーであって、導電性成形体が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性成形体が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、導電性成形体の最深部から表面までの一番短い長さが30μm以下であり、光照射により導電性成形体の電気伝導性が向上する、光センサー。
【請求項10】
導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とを含む任意の形状の傾斜材料を含む太陽電池であって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在しており、導電性第4族元素酸化物が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性第4族元素酸化物が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、導電性第4族元素酸化物が表面から内部に向かって30μm以下の厚さを有し、光照射により傾斜材料の電気伝導性が向上する、太陽電池。
【請求項11】
導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とを含む任意の形状の傾斜材料を含む光伝導性半導体であって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在しており、導電性第4族元素酸化物が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性第4族元素酸化物が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、導電性第4族元素酸化物が表面から内部に向かって30μm以下の厚さを有し、光照射により傾斜材料の電気伝導性が向上する、光伝導性半導体。
【請求項12】
導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とを含む任意の形状の傾斜材料を含む光センサーであって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在しており、導電性第4族元素酸化物が、酸素欠損部位を有し、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈しており、第4族元素がジルコニウムであり、導電性第4族元素酸化物が0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、導電性第4族元素酸化物が表面から内部に向かって30μm以下の厚さを有し、光照射により傾斜材料の電気伝導性が向上する、光センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体(本明細書等では、「第4族元素酸化物からなる導電性成形体」ともいう)、それを含む傾斜材料、及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体(本明細書等では、「金属成形体」ともいう)を熱処理し、部分的に酸化させることにより、白色の第4族元素酸化物よりもバンドギャップを小さくした黒色の第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体、それを含む傾斜材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題や環境問題を改善するために、光触媒材料が注目されている。例えば酸化チタン(TiO)光触媒は、光による強い酸化力及び超親水性に基づいて、抗菌作用、有害物質の除去作用、防汚作用、防曇作用等を示すため、例えば空気洗浄機、住宅やビルの外壁等に使用されている。
【0003】
ここで、酸化チタンのバンドギャップを示す図1を用いて、酸化チタンの光触媒作用を説明する。酸化チタンに、バンドギャップ(E)以上のエネルギーを有する光が照射されると、酸化チタンの価電子帯(E)に存在する電子は、伝導帯(E)に励起される。言い換えると、酸化チタンのEは、3.3eVであるため、光エネルギーEがE以上、すなわち、波長λが370nm以下である光(紫外光)の照射によって、酸化チタンの電子励起が起こる。酸化チタンの励起状態では、電子が存在していた部分に空孔(+)が生じている。空孔は、空気や水中に存在するOHイオンから電子を奪い、OHラジカルを生成する。OHラジカルは、強い酸化力を有し、近くに存在する有機物質の結合を切断し、最終的には二酸化炭素や水にまで分解する。
【0004】
前記のように、酸化チタンによる光触媒作用には、紫外光が必要である。しかしながら、地上に届く太陽光の内、紫外光が占める割合は5%~6%しかなく、可視光が52%、赤外光が42%を占める。そこで、光触媒としては、太陽光の大半を占める可視光や赤外光を吸収し、触媒作用する、小さいバンドギャップを有する材料が好ましい。
【0005】
例えば、非特許文献1は、Black-TiOナノ結晶(黒色の酸化チタン)を開示している。ここでは、白色の酸化チタンTiOを水素還元することで、黒色の酸化チタンTiO2-xが製造される。黒色の酸化チタンでは、酸素欠損により、バンドギャップが3.3eVから1.54eVに減少する。図2の左図は、黒色の酸化チタンの構造を示す模式図であり、黒色ドットはドーパントを示し、外側の層に酸素欠損した領域が存在することを示す。図2の左図より、黒色の酸化チタンでは、表面部分(本明細書等では、「表面部分」とは、表面から内部に向かって、厚さが通常30μm以下、好ましくは25μm以下、例えば約20μm以下である層を指し、「表面」とは、厚さを有さない界面を指す)は酸素欠損を有する酸化チタンであり、内部は白色の酸化チタンである。図2の右図は、黒色の酸化チタンのエネルギー準位を模式的に示す図である。図2の右図から、酸素欠損により、Eが高くなり、Eは低くなり、バンドギャップが減少することがわかる。したがって、黒色の酸化チタンは、表面部分において波長λ=800nm(近赤外光)までの光を吸収し、触媒作用することができる。例えば、非特許文献2は、黒色の酸化チタンが、可視光を利用した水分解光触媒としての応用に期待されることを開示している。
【0006】
チタンと同じ第4族元素であるジルコニウムの酸化物(酸化ジルコニウム:ZrO)は、白色であり、イオン伝導性を示し、熱処理温度により、単斜晶から正方晶(約1150℃、なお、正方晶から単斜晶へは一般に約950℃で変化)、正方晶から立方晶(約2200℃)へと結晶構造が相転移する性質を有する。このような相転移の性質を有する白色の酸化ジルコニウムは、温度変化に伴う体積膨張や収縮により、試料全体に亀裂が多数入り、脆化しやすい。そのため、白色の酸化ジルコニウムは、酸化イットリウムや酸化カルシウム等を添加することによって、強度、破壊靭性、及び耐熱性を向上させる。このような酸化ジルコニウムは、例えば産業用機械、センサー、歯科・医療用部品等として利用される。しかしながら、白色の酸化ジルコニウムは、バンドギャップが5.09eVと大きく、光触媒としてはあまり利用されていない。
【0007】
そこで、白色の酸化ジルコニウムのバンドギャップを減少させるために、例えば、非特許文献3は、Black-ZrO(黒色の酸化ジルコニウム)を開示している。ここでは、白色の酸化ジルコニウムZrO(本明細書等では、「WZ」ともいう)を水素還元(条件:5%H/Ar雰囲気下で熱処理。さらに、焼結させるためには高圧下での熱処理が必要)することで、黒色の酸化ジルコニウムZrO2-x(本明細書等では、「BZ」ともいう)が製造される。黒色の酸化ジルコニウムでは、酸素欠損により、バンドギャップが5.09eVから1.52eVに減少する。図3は、容器に収容されたWZの粉末とBZの粉末の色を示す写真である。
【0008】
非特許文献4は、純ジルコニウムを酸化させることにより容易に板状のBlack-ZrOが得られることを開示している。
【0009】
特許文献1は、室温において電気伝導性を有する酸化ジルコニウムであって、酸化ジルコニウムを主成分とするセラミックス粉末を真空あるいは還元雰囲気中で焼結することにより、酸化ジルコニウムに大量の酸素欠損を導入して室温での電気導電性を付与したことを特徴とする導電性酸化ジルコニウムを開示している。
【0010】
また、非特許文献5は、鍛造ジルコニウム合金(Zr-2.5Nb)で作られた人工関節コンポーネントを空気中で熱処理することによって空気中の酸素を金属内に放散させた傾斜機能特性を持つ材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-171177号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】Xiaobo Chenら、Science、(2011)、331、746
【文献】Meng Niら、Renewable and Sustainable Energy Reviews、11、(2007)、401-425
【文献】Apurba Sinhamahapatraら、Scientific Reports 6、(2016)
【文献】Tadayuki Nakayama、Tatsuya Koizumi、日本金属学会誌、1967年、839頁~845頁
【文献】上村誠一、篠原嘉一、渡辺義見、野田泰稔 編集、「傾斜機能材料の技術展開」、普及版、シーエムシー出版、2009年9月1日、164頁~166頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記のように、白色の酸化ジルコニウムや白色の酸化チタンの粉末を水素還元処理することで、数十nmのナノ結晶を有するバンドギャップの小さな黒色の酸化ジルコニウムや黒色の酸化チタンを製造する方法については知られているが、これらの粉末をバルク化(成形)したり、複雑形状化及び薄膜化したりすることは困難である。また、板状や人工関節コンポーネント状のジルコニウムを酸化した材料については知られているが、詳細な生成条件についての検討、分析がなされていないため、当該材料がどのような酸化状態、構造(結晶相)、微細組織、及び性質等を有しているのか知られていない。
【0014】
したがって、本発明は、第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体、それを含む傾斜材料、及び第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を熱処理し、部分的に酸化させることにより、第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体又はそれを含む傾斜材料を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を、大気中、一定の範囲の温度及び時間の条件で熱処理したところ、得られた黒色の第4族元素酸化物からなる任意の形状の成形体は、導電性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体であって、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈する導電性成形体。
(2)導電性成形体の最深部から表面までの一番短い長さが、30μm以下である、(1)に記載の導電性成形体。
(3)導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とを含む任意の形状の傾斜材料であって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在しており、導電性第4族元素酸化物が、平均結晶粒径が10nm~1000nmである等軸結晶粒を有し、長径方向の平均結晶粒径が100nm~10μmであり、短径方向の平均結晶粒径が10nm~500nmである柱状組織を呈する傾斜材料。
(4)導電性第4族元素酸化物が、表面から内部に向かって30μm以下の厚さを有する、(3)に記載の傾斜材料
(5)(1)若しくは(2)に記載の導電性成形体、又は(3)若しくは(4)に記載の傾斜材料を含む、太陽電池。
(6)(i)ジルコニウムからなる任意の形状の成形体を準備するステップと、
(ii)(i)において準備したジルコニウム成形体を、大気中、500℃~1000℃で、10分~2時間熱処理するステップとを含む、(1)又は(2)に記載の導電性成形体を製造する方法。
(7)(i)チタンからなる任意の形状の成形体を準備するステップと、
(ii)(i)において準備したチタン成形体を、大気中、600℃~800℃で、10分~2時間熱処理するステップとを含む、(1)又は(2)に記載の導電性成形体を製造する方法。
(8)(i)ハフニウムからなる任意の形状の成形体を準備するステップと、
(ii)(i)において準備したハフニウム成形体を、大気中、800℃~1000℃で、10分~2時間熱処理するステップとを含む、(1)又は(2)に記載の導電性成形体を製造する方法。
(9)(i)ジルコニウムからなる任意の形状の成形体を準備するステップと、
(ii)(i)において準備したジルコニウム成形体を、大気中、500℃~1000℃で、10分~2時間熱処理するステップとを含む、(3)又は(4)に記載の傾斜材料を製造する方法。
(10)(i)チタンからなる任意の形状の成形体を準備するステップと、
(ii)(i)において準備したチタン成形体を、大気中、600℃~800℃で、10分~2時間熱処理するステップとを含む、(3)又は(4)に記載の傾斜材料を製造する方法。
(11)(i)ハフニウムからなる任意の形状の成形体を準備するステップと、
(ii)(i)において準備したハフニウム成形体を、大気中、800℃~1000℃で、10分~2時間熱処理するステップとを含む、(3)又は(4)に記載の傾斜材料を製造する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体、それを含む傾斜材料、及び第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を熱処理し、部分的に酸化させることにより、第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体又はそれを含む傾斜材料を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】酸化チタンのバンドギャップを示す図である。
図2】黒色の酸化チタンの構造及び黒色の酸化チタンのエネルギー準位を模式的に示す図である。
図3】容器に収容されたWZの粉末とBZの粉末の色を示す写真である。
図4】実施例における実験の概要を示す図である。
図5】純粋なジルコニウムからなる板状の成形体についての、温度とTGの関係を示す図である。
図6】熱処理温度が、図5におけるa(300℃)、b(500℃)、c(950℃)及びd(1300℃)の温度である、水冷材の外観写真である。
図7】熱処理温度が、i)500℃及び600℃、ii)700℃、800℃及び900℃、iii)1000℃、並びにiv)1100℃の温度である、炉冷材の外観写真である。
図8】a)Black-ZrO及びb)White-ZrOのXRD測定結果を示す図である。
図9】a)Black-ZrO及びb)White-ZrOの表面FE-SEM画像を示す図である。
図10】a)Black-ZrO及びb)White-ZrOの厚さ方向の全体の断面SEM画像、並びにc)Black-ZrO及びd)White-ZrOの表面部分の断面SEM画像を示す図である。
図11】a1)Black-ZrO及びb1)White-ZrOのXRD測定結果、並びにa2)Black-ZrO及びb2)White-ZrOの薄膜XRD測定結果を示す図である。
図12】Black-ZrOの表面から内部に向かって約5μmの部分のTEM画像を示す図である。
図13】Black-ZrOの表面から内部に向かって約10μmの部分のTEM画像を示す図である。
図14】Black-ZrOの表面から内部に向かって約20μmの部分のTEM画像を示す図である。
図15】White-ZrO(A領域)のTEM画像を示す図である。
図16】White-ZrO(B領域)のTEM画像を示す図である。
図17】White-ZrO(C領域)のTEM画像を示す図である。
図18】White-ZrO(D領域)のTEM画像を示す図である。
図19】White-ZrO(E領域)のTEM画像を示す図である。
図20】Black-ZrO箔の熱処理前後の外観写真である。
図21】Black-ZrO箔について、表面部分のXRD測定結果を示す図である。
図22】Black-ZrO箔について、その箔を粉末状にしたもののXRD測定結果を示す図である。
図23】a)Black-ZrO箔-1.5時間、及びb)Black-ZrO箔-2時間の厚さ方向の全体の断面SEM画像を示す図である。
図24】光測定用の装置を模式的に示す図である。
図25】Black-ZrO及び純ジルコニウム金属について、光の照射前後の図24に示す装置の電流値の結果を示す図である。
図26】Black-ZrO-800℃、White-ZrO及びBlack-ZrO箔について、透過率測定における、Eと(αhν)(α=(1-R%/100)/2(R%/100))の関係を示す図である。
図27】非特許文献3に記載される、White-ZrO粉末(WZ)と、Black-ZrO粉末(BZ)における、Eと(αhν)の関係を示す図である。
図28】熱処理前の純チタン箔の外観写真である。
図29】Black-TiO箔の、外観写真と、透過率測定における、Eと(αhν)(α=(1-R%/100)/2(R%/100))の関係を示す図である。
図30】White-TiO箔の、外観写真と、透過率測定における、Eと(αhν)(α=(1-R%/100)/2(R%/100))の関係を示す図である。
図31】純粋なハフニウムからなる成形体についての、温度とTGの関係を示す図である。
図32】TG-DTA測定前の純粋なハフニウムからなる成形体と、TG-DTA測定後のWhite-HfOの外観写真である。
図33】熱処理前のハフニウムからなる板状の成形体と、大気中、800℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却したBlack-HfOの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それ故、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。なお、本発明は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0020】
本発明は、第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体に関する。
【0021】
ここで、第4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及びハフニウム(Hf)が挙げられる。第4族元素酸化物は、MO2-x(式中、Mは、Ti、Zr、又はHfであり、xは、0より大きく、2より小さい数(0<x<2)である)の化学式により表される。
【0022】
導電性成形体とは、常温にて導電性を有する成形体である。
【0023】
任意の形状とは、最終的に得られる第4族元素酸化物からなる導電性成形体又は下記において説明する傾斜材料として所望される形状であり、限定されないが、例えば板状、箔状、薄膜状等の柔軟で折り曲げたりすることが可能な形状、球状、中空状、複雑な形状等が挙げられる。
【0024】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、最深部から表面までの一番短い長さが、通常30μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である任意の形状の成形体である。長さの下限は、限定されないが、通常1μm以上、好ましくは5μm以上である。ここで、最深部から表面までの一番短い長さは、下記で説明する本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体の製造において、金属成形体の表面上に存在する酸素が、表面を白色の酸化物まで酸化することなく、金属成形体中に浸透することができる長さである。例えば、任意の形状が球状である場合には、最深部から表面までの一番短い長さは、球の半径であり、任意の形状が薄膜状である場合には、最深部から表面までの一番短い長さは薄膜の厚さの半分である。
【0025】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、酸素欠損部位を有する。
【0026】
一実施形態において、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、表面から内部に向かって酸素欠損の割合を大きくする、すなわち酸素濃度を小さくすることができる。
【0027】
別の実施形態において、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、例えば板状、箔状、薄膜状等の任意の形状であり、一方の表面から向かい合う他方の表面に向かって酸素欠損の割合を大きくする、すなわち酸素濃度を小さくすることができる。
【0028】
ここで、酸素欠損の有無は、当該技術分野の従来の技術により測定することができ、例えば、HRTEM法、HAADF-STEM法およびラマン分光法により測定することができる。
【0029】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、単斜晶系の結晶構造を有する。
【0030】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、平均結晶粒径が、10nm~1000nm、好ましくは100nm~500nm、より好ましくは100nm~200nmである等軸結晶粒を有する。本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、長径方向の平均結晶粒径が、100nm~10μm、好ましくは500nm~5μmであり、短径方向の平均結晶粒径が、10nm~500nm、好ましくは50nm~200nmである柱状組織を呈しており、短径方向の結晶粒径が、100nm以上の柱状組織には双晶が存在し得る。
【0031】
例えば、一実施形態において、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、表面から内部に向かって通常10μm、好ましくは約5μmまでは、平均結晶粒径が、10nm~1000nm、好ましくは100nm~500nm、より好ましくは100nm~200nmである等軸結晶粒を有し、表面から内部に向かって通常5μm~20μm、好ましくは5μm~15μmの部分は、長径方向の平均結晶粒径が、100nm~10μm、好ましくは500nm~5μmであり、短径方向の平均結晶粒径が、10nm~500nm、好ましくは50nm~200nmである柱状組織を呈しており、短径方向の結晶粒径が、100nm以上の柱状組織には双晶が存在し得る。
【0032】
別の実施形態において、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、板状、箔状、薄膜状等の任意の形状であり、一方の表面から内部に向かって通常10μm、好ましくは約5μmまでは、平均結晶粒径が、10nm~1000nm、好ましくは100nm~500nm、より好ましくは100nm~200nmである等軸結晶粒を有し、他方の表面から内部に向かって通常10μm~15μmまでは、長径方向の平均結晶粒径が、100nm~10μm、好ましくは500nm~5μmであり、短径方向の平均結晶粒径が、10nm~500nm、好ましくは50nm~200nmである柱状組織を呈しており、短径方向の結晶粒径が、100nm以上の柱状組織には双晶が存在し得る。
【0033】
ここで、等軸結晶粒又は柱状組織の大きさは、当該技術分野の従来の技術により測定することができ、例えば、等軸結晶粒の大きさは、電子顕微鏡観察による線分法により測定することができ、柱状組織の大きさは、電子顕微鏡観察による線分法及びアスペクト比の算出により測定することができる。線分法は、例えば、日本金属学会編集、「金属便覧 日本金属学会編」、改訂6版、丸善株式会社、2000年6月1日、264頁~265頁に記載されている方法に従い実施することができる。
【0034】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、亀裂等が全く入っていない緻密な相を形成している。
【0035】
前記性質から、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、耐食性、耐薬品性、耐摩耗性、耐衝撃性に優れ、切削工具やインプラント、原子力材料に利用することが可能である。
【0036】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、黒色を呈している。したがって、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、光エネルギーの中でも特に可視光を吸収しており、通常の白色の酸化ジルコニウム、酸化チタン及び酸化ハフニウム等の第4族元素酸化物と比較してバンドギャップが小さい。本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、第4族元素がジルコニウムである場合、白色の酸化ジルコニウムの5eV程度のバンドギャップと比較して、通常0.55eV~1.5eVのバンドギャップを示し、第4族元素がチタンである場合、白色の酸化チタンの3.3eV程度のバンドギャップと比較して、通常0.5eV~1.5eV、例えば1.0eVのバンドギャップを示す。
【0037】
また、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、光照射により、電気伝導性が向上する。
【0038】
前記性質から、本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体は、例えば光エネルギーを利用する、光伝導性半導体、光触媒電極、光センサー、光エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能である太陽電池等に利用することが可能である。
【0039】
さらに、本発明は、導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とを含む任意の形状の傾斜材料であって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在する傾斜材料に関する。導電性第4族元素酸化物は、傾斜材料の表面から内部に向かって、通常30μm以下、より好ましくは20μm以下の厚さを有する。ここで、導電性第4族元素酸化物の厚さの下限は、限定されないが、通常1μm以上、好ましくは5μm以上である。
【0040】
本発明の傾斜材料では、導電性第4族元素酸化物は、前記の第4族元素酸化物からなる導電性成形体と同様の性質を有する。
【0041】
本発明の傾斜材料は、導電性第4族元素酸化物と第4族元素金属とからなる任意の形状の傾斜材料であって、導電性第4族元素酸化物が傾斜材料の少なくとも一部の表面部分に存在する傾斜材料が好ましい。導電性第4族元素酸化物は、傾斜材料の表面から内部に向かって、通常30μm以下、好ましくは20μm以下の厚さを有する。ここで、導電性第4族元素酸化物の厚さの下限は、限定されないが、通常1μm以上、好ましくは5μm以上である。
【0042】
一実施形態において、本発明の傾斜材料は、表面から内部に向かって30μm以下、好ましくは20μm以下までが、導電性第4族元素酸化物の層からなり、それよりも内部が、第4族元素金属からなる。ここで、導電性第4族元素酸化物の厚さの下限は、限定されないが、通常1μm以上、好ましくは5μm以上である。
【0043】
このような傾斜材料では、表面部分が導電性第4族元素酸化物であり、内部が第4族元素金属であるため、表面部分は、電気伝導性、耐食性等の酸化物特有の性質を有し、内部は、電気伝導性、高加工性、高靱性、耐衝撃性、耐食性、耐熱性、生体適合性、特にジルコニウムは熱中性子吸収率が低い、ハフニウムは熱中性子吸収率が高い等の金属特有の性質を有し、例えば光エネルギーを利用する、光伝導性半導体、光触媒電極、光センサー、太陽電池等に利用することが可能である。
【0044】
別の実施形態において、本発明の傾斜材料は、例えば板状、箔状、薄膜状等の任意の形状であり、一方の表面から内部に向かって通常30μm以下、好ましくは20μm以下までは、導電性第4族元素酸化物の層であり、他方の表面から導電性第4族元素酸化物までは、第4族元素金属である。ここで、導電性第4族元素酸化物の厚さの下限は、限定されないが、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、他方の表面から導電性第4族元素酸化物までの厚さは、限定されない。
【0045】
このような傾斜材料では、一方の表面部分が導電性第4族元素酸化物であり、他方の表面部分が第4族元素金属であるため、一方の表面部分は、電気伝導性、耐食性等の酸化物特有の性質を有し、他方の表面部分は、電気伝導性、高加工性、高靱性、耐衝撃性、耐食性、耐熱性、生体適合性等の金属特有の性質を有し、例えば光エネルギーを利用する、光伝導性半導体、光触媒電極、光センサー、太陽電池等に利用することが可能である。
【0046】
本発明の傾斜材料は、光照射により、電気伝導性が向上する。
【0047】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体の製造方法は、(i)第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備するステップと、(ii)(i)において準備した金属成形体を、一定の条件下で熱処理するステップとを含む。
【0048】
以下に(i)~(ii)の各ステップについて説明する。
【0049】
(i)第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備するステップ
本発明の(i)のステップでは、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備する。
【0050】
ここで、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体は、金属成形体の最深部から表面までの一番短い長さが、通常30μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である任意の形状の金属成形体である。長さの下限は、限定されないが、通常1μm以上、好ましくは5μm以上である。第4族元素金属からなる任意の形状の成形体は、例えば、株式会社ニラコ、株式会社高純度化学研究所から入手することにより準備することができる。
【0051】
また、第4族元素の金属粉末等から、当該技術分野の従来の技術により、任意の形状に成形し、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備することができる。例えば缶詰(キャニング)による押し出し成形や圧延加工、放電プラズマ焼結、HIP、CIP等により、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備することができる。
【0052】
(i)のステップにおいて、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備することによって、(ii)のステップにおける熱処理後に、金属成形体の形状を維持した第4族元素酸化物からなる導電性成形体を得ることができる。
【0053】
(ii)(i)において準備した金属成形体を、一定の条件下で熱処理するステップ
本発明の(ii)のステップでは、(i)において準備した金属成形体を熱処理する。
【0054】
(ii)のステップでは、(i)において準備した金属成形体において酸素欠損の割合を大きくすることを望む部分をマスキングすることもできる。(i)において準備した金属成形体の一部をマスキングすることによって、マスキングされていない部分から優先的に熱処理により酸素が導入されるので、マスキングされた部分は酸素が少ない酸化物、すなわち、酸素欠損の割合が大きい導電性第4族元素酸化物になる。
【0055】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気は、大気中、ガラス管にて密閉した熱処理雰囲気、酸素分圧コントローラーにより制御した雰囲気等にすることができる。
【0056】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気が大気中である場合、熱処理温度は、750℃~850℃である。特に、金属成形体の金属がジルコニウムの場合、熱処理温度は、500℃~1000℃、好ましくは800℃~900℃であり、金属成形体の金属がチタンの場合、熱処理温度は、600℃~800℃、好ましくは650℃~750℃であり、金属成形体の金属がハフニウムの場合、熱処理温度は、800℃~1000℃、好ましくは800℃~900℃である。なお、本明細書等では、熱処理温度とは、熱処理により原料が到達した温度である。
【0057】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気が大気中である場合、熱処理時間は、10分~2時間、好ましくは30分~1時間である。熱処理時間は、熱処理温度が高い場合には短くすることができ、熱処理温度が低い場合には長くすることができる。なお、本明細書等では、熱処理時間とは、熱処理温度に達してから維持される時間である。
【0058】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気が大気中である場合に、前記熱処理温度及び熱処理時間を使用することによって、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体の表面部分が部分的に酸化された、すなわち、酸化され過ぎて白色になっていない、黒色の第4族元素酸化物からなる任意の形状の導電性成形体を調製することができる。
【0059】
本発明の第4族元素酸化物からなる導電性成形体の製造方法では、(ii)のステップの後に、当該技術分野の従来の技術において知られるステップ、例えば研磨、加工、切断等のステップを実施することができる。
【0060】
本発明の傾斜材料の製造方法は、(i)第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備するステップと、(ii)(i)において準備した金属成形体を、一定の条件下で熱処理するステップとを含む。
【0061】
以下に(i)~(ii)の各ステップについて説明する。
【0062】
(i)第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備するステップ
本発明の(i)のステップでは、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備する。
【0063】
ここで、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体では、金属成形体の最深部から表面までの一番短い長さは限定されない。第4族元素金属からなる任意の形状の成形体は、例えば、株式会社ニラコ、株式会社高純度化学研究所から入手することにより準備することができる。
【0064】
また、第4族元素の金属粉末等から、当該技術分野の従来の技術により、任意の形状に成形し、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備することができる。例えば缶詰(キャニング)による押し出し成形や圧延加工、放電プラズマ焼結、HIP、CIP等により、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備することができる。
【0065】
(i)のステップにおいて、第4族元素金属からなる任意の形状の成形体を準備することによって、(ii)のステップにおける熱処理後に、金属成形体の形状を維持した傾斜材料を得ることができる。
【0066】
(ii)(i)において準備した金属成形体を、一定の条件下で熱処理するステップ
本発明の(ii)のステップでは、(i)において準備した金属成形体を熱処理する。
【0067】
(ii)のステップでは、(i)において準備した金属成形体における酸化することを望まない部分をマスキングすることもできる。(i)において準備した金属成形体の一部をマスキングすることによって、マスキングされていない部分から優先的に熱処理により酸素が導入されるので、マスキングされた部分は第4族元素金属の状態を保つことができる。
【0068】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気は、大気中、ガラス管にて密閉した熱処理雰囲気、酸素分圧コントローラーにより制御した雰囲気等にすることができる。
【0069】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気が大気中である場合、熱処理温度は、750℃~850℃である。特に、金属成形体の金属がジルコニウムの場合、熱処理温度は、500℃~1000℃、好ましくは800℃~900℃であり、金属成形体の金属がチタンの場合、熱処理温度は、600℃~800℃、好ましくは650℃~750℃であり、金属成形体の金属がハフニウムの場合、熱処理温度は、800℃~1000℃、好ましくは800℃~900℃である。
【0070】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気が大気中である場合、熱処理温度は、10分~2時間、好ましくは30分~1時間である。熱処理時間は、熱処理温度が高い場合には短くすることができ、熱処理温度が低い場合には長くすることができる。
【0071】
(ii)のステップにおける熱処理条件において、熱処理雰囲気が大気中である場合に、前記熱処理温度及び熱処理時間を使用することによって、傾斜材料表面部分が部分的に酸化された、すなわち、酸化され過ぎて白色になっていない、少なくとも一部の表面部分が導電性第4族元素酸化物であり、それ以外が第4族元素金属である傾斜材料を調製することができる。
【0072】
本発明の傾斜材料の製造方法では、(ii)のステップの後に、当該技術分野の従来の技術において知られるステップ、例えば研磨、加工、切断等のステップを実施することができる。
【実施例
【0073】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0074】
I.ジルコニウム(Zr)実験
図4に示す、実験の概要に従い実験を実施した。
【0075】
I-1.TG-DTA測定結果
第4族元素金属である純粋なジルコニウムからなる厚さ0.6mmの板状の成形体について、TG-DTA測定を実施した。
【0076】
図5に、純粋なジルコニウムからなる板状の成形体についての、温度とTG(熱重量変化)の関係を示す。図5から、純粋なジルコニウムからなる板状の成形体は、約500℃から酸化が始まり、約1300℃で酸化が完了することがわかった。
【0077】
I-2.外観観察
第4族元素金属である純粋なジルコニウム(Zr)からなる厚さ0.6mmの板状の成形体を、大気中、300℃~1300℃の温度で1時間熱処理し、その後、水冷又は炉冷(約1℃/分の速度で冷却)により冷却して、試料を製造した。なお、本明細書等では、水冷による試料を水冷材と称し、炉冷による試料を炉冷材と称する。得られた試料について、外観観察を行った。
【0078】
図6に、熱処理温度が、図5におけるa(300℃)、b(500℃)、c(950℃)及びd(1300℃)の温度である、水冷材の外観写真を示す。図6から、500℃から表面部分の金属光沢が失われ始め、1000℃になるまで徐々に黒くなっていき、1000℃より高温である1300℃では、表面部分の一部が白くなることがわかった。
【0079】
図7に、熱処理温度が、i)500℃及び600℃、ii)700℃、800℃及び900℃、iii)1000℃、並びにiv)1100℃の温度である炉冷材の外観写真を示す。図7から、500℃~900℃は黒色を呈しており、1000℃を超えると急激に白色化が進み、1100℃では、完全に白色になることがわかった。この結果は、前記水冷材の結果と同様であった。
【0080】
I-3.XRD測定結果
第4族元素金属である純粋なジルコニウム(Zr)からなる厚さ0.6mmの板状の成形体を、大気中、900℃又は1100℃の温度で1時間熱処理し、その後、炉冷により冷却して、試料を製造した。
【0081】
熱処理温度が900℃である炉冷材(Black-ZrO)と、熱処理温度が1100℃である炉冷材(White-ZrO)について、XRD測定を行った。図8のa)にBlack-ZrOのXRD測定結果を示し、図8のb)にWhite-ZrOのXRD測定結果を示す。図8より、Black-ZrO及びWhite-ZrOの結晶構造は単斜晶系であることがわかった。
【0082】
I-4.表面FE-SEM観察結果
I-3.XRD測定において製造した、熱処理温度が900℃である炉冷材(Black-ZrO)と、熱処理温度が1100℃である炉冷材(White-ZrO)について、表面FE-SEM観察を行った。図9のa)にBlack-ZrOの表面FE-SEM画像を示し、図9のb)にWhite-ZrOの表面FE-SEM画像を示す。図9のa)より、Black-ZrOでは、FE-SEMでも観察できないほど微細な結晶粒が存在することがわかり、図9のb)より、White-ZrOでは、平均結晶粒径が、数百nmの微細な結晶粒が存在することがわかった。
【0083】
I-5.断面SEM観察結果
I-3.XRD測定において製造した、熱処理温度が900℃である炉冷材(Black-ZrO)と、熱処理温度が1100℃である炉冷材(White-ZrO)について、断面SEM観察を行った。図10のa)にBlack-ZrOの厚さ方向の全体の断面SEM画像を示し、図10のb)にWhite-ZrOの厚さ方向の全体の断面SEM画像を示し、図10のc)にBlack-ZrOの表面部分の断面SEM画像を示し、図10のd)にWhite-ZrOの表面部分の断面SEM画像を示す。図10のa)及びc)より、Black-ZrOは、膜厚が約20μmの亀裂のない緻密な薄膜を形成していることがわかった。図10のb)及びd)より、White-ZrOは、膜厚が約300μmであり、膜厚が約20μm以上の領域では亀裂が発生していることがわかった。
【0084】
I-6.薄膜XRD測定結果
I-3.XRD測定において製造した、熱処理温度が900℃である炉冷材(Black-ZrO)と、熱処理温度が1100℃である炉冷材(White-ZrO)について、薄膜XRD測定(試料表面への入射角度1°)を行った。図11のa1)にBlack-ZrOのXRD測定結果(I-3.におけるXRD測定結果)を示し、図11のa2)にBlack-ZrOの薄膜XRD測定結果を示し、図11のb1)にWhite-ZrOのXRD測定結果(I-3.におけるXRD測定結果)を示し、図11のb2)にWhite-ZrOの薄膜XRD測定結果を示す。図11より、Black-ZrO及びWhite-ZrOの試料表面部分の結晶構造は単斜晶系であることがわかった。
【0085】
I-7.TEM観察結果
I-3.XRD測定において製造した、熱処理温度が900℃である炉冷材(Black-ZrO)について、TEM観察を行った。
【0086】
(表面から内部に向かって約5μmの部分)
図12に、Black-ZrOの表面から内部に向かって約5μmの部分のTEM画像を示す。図12より、Black-ZrOの表面から内部に向かって約5μmの部分の結晶構造は、単斜晶系であり、XRD測定結果と一致した。また、Black-ZrOの表面から内部に向かって約5μmの部分には、線分法により測定したときに、平均結晶粒径が、100nmの微細な等軸結晶粒が存在することがわかった。
【0087】
(表面から内部に向かって約10μmの部分)
図13に、Black-ZrOの表面から内部に向かって約10μmの部分のTEM画像を示す。図13より、Black-ZrOの表面から内部に向かって約10μmの部分の結晶構造は、単斜晶系であり、XRD測定結果と一致した。また、Black-ZrOの表面から内部に向かって約10μmの部分は、線分法により測定したときに、長径方向の平均結晶粒径が、3μmであり、短径方向の平均結晶粒径が、100nmである柱状組織を呈しており、短径方向の結晶粒径が、100nm以上である大きな柱状組織には、双晶が存在することがわかった。
【0088】
(表面から内部に向かって約20μmの部分)
図14に、Black-ZrOの表面から内部に向かって約20μmの部分のTEM画像を示す。図14より、Black-ZrOの表面から内部に向かって約20μmの部分の結晶構造は、六方最密充填構造(hcp)であり、ZrO相であることがわかった。
【0089】
熱処理温度が900℃である炉冷材(Black-ZrO)についてのTEM観察結果を表1にまとめる。
【表1】
【0090】
続いて、I-3.XRD測定において製造した、熱処理温度が1100℃である炉冷材(White-ZrO)について、TEM観察を行った。
【0091】
図15~19に、White-ZrOのTEM画像を示す。図15~19の領域は全て、等軸結晶粒で特定の結晶面に配向していないランダム方位を向いていることがわかった。
【0092】
I-8.箔状のジルコニウム実験
第4族元素金属である純粋なジルコニウムからなる厚さ17μmの箔状の成形体を、大気中、700℃で、1時間、1.5時間、又は2時間熱処理し、炉冷により冷却して、試料(炉冷材)を製造した。得られた試料について、外観観察、XRD測定、及びSEM観察を行った。
【0093】
(外観観察)
図20には、熱処理前のジルコニウム箔、及び熱処理温度が700℃であり、熱処理時間が1時間である炉冷材(Black-ZrO箔)の外観写真を示す。図20の表は、試料の熱処理前後の厚さ及び質量を示す。図20より、Black-ZrO箔は、黒色を示すことがわかった。
【0094】
(XRD測定結果)
Black-ZrO箔について、表面部分の薄膜XRD測定を行った。図21に結果を示す。図21より、Black-ZrO箔の表面部分には、単斜晶系と正方晶系と金属ジルコニウム及び/又はZrOとが混在していることがわかった。
【0095】
また、Black-ZrO箔について、その箔を粉末状にしたXRD測定を行った。図22に結果を示す。図22より、Black-ZrO箔には、単斜晶系とZrO及び/又は金属ジルコニウムとが混在していることがわかった。
【0096】
(断面SEM観察結果)
熱処理温度が700℃であり、熱処理時間が1.5時間である炉冷材(Black-ZrO箔-1.5時間)、熱処理温度が700℃であり、熱処理時間が2時間である炉冷材(Black-ZrO箔-2時間)について、断面SEM観察を行った。図23のa)に、Black-ZrO箔-1.5時間の厚さ方向の全体の断面SEM画像を示し、図23のb)に、Black-ZrO箔-2時間の厚さ方向の全体の断面SEM画像を示す。図23のa)及びb)より、各Black-ZrO箔における表面から内部に向かって約6μmまでの範囲は、Black-ZrOであり、Black-ZrO箔における表面から内部に向かって約6μmの部分より内側は、前記XRD測定結果に基づいて、金属ジルコニウム又はZrOであると考えられる。
【0097】
I-9.光測定結果
第4族元素金属である純粋なジルコニウムからなる厚さ0.6mmの板状の成形体を、大気中、900℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料(Black-ZrO)を製造した。得られた試料について、図24に示す装置を使用して、光測定(キセノンランプ500W)を実施した。
【0098】
図25に、光の照射前後の図24に示す装置の電流値の結果を示す。図25(a)は、Black-ZrOと銅線とを銀ペーストを用いて接着させて、銅線と測定装置を接続して測定した光照射前後の電流値を示し、図25(b)は、Black-ZrOの表面に銀ペーストを付着させて直接測定装置に接続して測定した光照射前後の電流値を示し、図25(c)は、純ジルコニウム金属の表面に銀ペーストを付着させて直接測定装置に接続して測定した光照射前後の電流値を示す。図25より、純ジルコニウム金属では、光の照射前後において電流値は変化しなかったが、Black-ZrOでは、光を照射することにより、電流値が大きくなることが分かった。なお、白色の酸化ジルコニウム(White-ZrO)では、光の照射前後において電流は全く流れず、絶縁性を示した。
【0099】
I-10.UV測定結果
純粋なジルコニウムからなる厚さ0.6mmの板状の成形体について、大気中、800℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料(Black-ZrO-800℃)及び、大気中、1100℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料(White-ZrO)と、純粋なジルコニウムからなる厚さ20μmの箔状の成形体について、大気中、700℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料(Black-ZrO箔)とについて、UV測定を実施した。
【0100】
(透過率測定)
Black-ZrO-800℃、White-ZrO及びBlack-ZrO箔について、積分球を備えたUV-vis測定装置(株式会社島津製作所製)を使用して、透過率を測定した。
図26に、Eと(αhν)(α=(1-R%/100)/2(R%/100))の関係を示す。
【0101】
図27には、非特許文献3に記載される、White-ZrO粉末(WZ)と、Black-ZrO粉末(BZ)における、Eと(αhν)の関係を示す。図26の結果と図27の結果とを比較すると、White-ZrOは、非特許文献3のWZと同等の大きなバンドギャップを有するが、Black-ZrO-800℃、及びBlack-ZrO箔は、非特許文献3のBZと同様以下の小さなバンドギャップを有することがわかった。
【0102】
II.チタン(Ti)実験
第4族元素金属である純粋なチタンからなる初期厚さ20μmの箔状の成形体(純チタン箔)を、大気中、700℃又は900℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料を製造した。得られた試料について、外観観察、及びUV-vis測定を行った。
【0103】
II-1.外観観察及びUV測定(透過率測定)結果
図28には、熱処理前の純チタン箔の外観写真を示す。図29には、大気中、700℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料(Black-TiO箔)の外観写真と、透過率測定における、Eと(αhν)(α=(1-R%/100)/2(R%/100))の関係を示す。図30には、大気中、900℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料(White-TiO箔)の外観写真と、透過率測定における、Eと(αhν)(α=(1-R%/100)/2(R%/100))の関係を示す。図28~30より、純チタン箔を700℃で1時間熱処理することで、Black-TiO箔を形成することができ、また、図29図30を比較することにより、White-TiO箔は、大きなバンドギャップを有するが、Black-TiO箔は、小さなバンドギャップを有することがわかった。
【0104】
III.ハフニウム(Hf)実験
III-1.TG-DTA測定結果
第4族元素金属である純粋なハフニウムからなる成形体について、TG-DTA測定を実施した。
【0105】
図31に、純粋なハフニウムからなる成形体についての、温度とTG(熱重量変化)の関係を示す。また、図32には、TG-DTA測定前の純粋なハフニウムからなる成形体と、TG-DTA測定後のWhite-HfOの外観写真を示す。図31及び32から、約800℃から徐々に酸化が始まり、約1400℃で酸化が完了し、White-HfOになることがわかった。
【0106】
III-2.外観観察
第4族元素金属である純粋なハフニウムからなる厚さ1.1mmの板状の成形体を、大気中、800℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却した試料を製造し、得られた試料について、外観観察を行った。
【0107】
図33に、熱処理前のハフニウムからなる板状の成形体と、大気中、800℃で1時間熱処理し、炉冷により冷却したBlack-HfOの外観写真を示す。図33より、Black-HfOの最適な熱処理温度は、800℃~900℃であることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33