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特許7274702浮遊物捕捉槽、浮遊物捕捉システム、トイレシステム及び浮遊物を含む処理水の前処理方法
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  • 特許-浮遊物捕捉槽、浮遊物捕捉システム、トイレシステム及び浮遊物を含む処理水の前処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】浮遊物捕捉槽、浮遊物捕捉システム、トイレシステム及び浮遊物を含む処理水の前処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/30 20230101AFI20230510BHJP
【FI】
C02F3/30 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023007346
(22)【出願日】2023-01-20
【審査請求日】2023-01-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518185026
【氏名又は名称】松本工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 一郎
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-048429(JP,A)
【文献】特開平10-099894(JP,A)
【文献】特開2000-257133(JP,A)
【文献】特開2015-205232(JP,A)
【文献】特開2022-054535(JP,A)
【文献】特開2006-118271(JP,A)
【文献】特開2005-163411(JP,A)
【文献】特開2005-131536(JP,A)
【文献】特開2008-031744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
E03D 1/00- 7/00
E03D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水循環利用型のトイレシステムに用いる浮遊物捕捉槽であって、
前記トイレシステムは、少なくとも、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記硝化処理後の処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、を備えるものであり、
前記浮遊物捕捉槽は、
前記第1の処理部と前記第2の処理部の間に設置されるものであり、
前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉するメッシュ状フィルタからなる捕捉層と、
前記捕捉層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた浮遊物捕捉槽。
【請求項2】
汚水循環利用型のトイレシステムに用いる浮遊物捕捉システムであって、
前記トイレシステムは、少なくとも、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記硝化処理後の処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、を備えるものであり、
前記浮遊物捕捉システムは、
前記第1の処理部と前記第2の処理部の間に設置されるものであり、
前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記捕捉過層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、
前記洗浄に使用された洗浄水を貯水し、必要に応じて前記貯水された洗浄水を前記トイレシステムの所定の箇所に移送するための貯水部と、を備えた浮遊物捕捉システム。
【請求項3】
汚水循環利用型のトイレシステムであって、
汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、
前記第1の処理部からの処理水中の所定の浮遊物を捕捉する浮遊物捕捉部と、
前記浮遊物捕捉部からの処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、
前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、
前記浮遊物捕捉部は、
前記第1の処理部からの処理水中と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記捕捉層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、
前記洗浄に使用された洗浄水を貯水し、必要に応じて前記貯水された洗浄水を前記トイレシステムの所定の箇所に移送するための貯水部と、を備えたトイレシステム。
【請求項4】
汚水循環利用型のトイレシステムであって、
汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、
前記第1の処理部からの処理水中の所定の浮遊物を捕捉する浮遊物捕捉部と、
前記浮遊物捕捉部からの処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、
前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、
前記浮遊物捕捉部は、
前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記捕捉層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、
前記洗浄に使用された洗浄水を貯水する貯水部と、前記トイレシステム内で発生したスカムを濡らすために前記貯水部に貯水された洗浄水を前記トイレシステムの所定の箇所に移送する移送経路と、を備えたトイレシステム。
【請求項5】
汚水循環利用型のトイレシステムであって、
汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、
前記第1の処理部からの処理水中の所定の浮遊物を捕捉する浮遊物捕捉部と、
前記浮遊物捕捉部からの処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、
前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、
前記浮遊物処理部は、
前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記オゾン分解処理後の処理液を前記捕捉層の洗浄のための洗浄水として利用する給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、
前記洗浄に使用された洗浄水を貯水する貯水部と、前記トイレシステム内で発生したスカムを濡らすために前記貯水部に貯水された洗浄水を前記スカムの発生箇所に移送する移送経路と、
前記スカムの発生個所に前記洗浄水を滴下し、前記スカムを軟化させるスカム軟化部と、
を備えたトイレシステム。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を含む処理水の前処理方法であって、
スカムが生じ、硬化する前に、エアーにより前記スカムが生じる処理水の水面に所定の水流を生じさせ、前記スカムを所定箇所に誘導する前処理方法。
【請求項7】
請求項に記載の前処理方法において、
前記スカムが硬化する前に、前記スカムを所定の処理水によって濡らし、軟質な状態を維持して取り除く前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水を処理し循環利用するトイレシステムのための浮遊物捕捉槽、浮遊物捕捉システム、浮遊物捕捉槽又は浮遊物捕捉システムを備えたトイレシステム及び浮遊物を含む処理水の前処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の調査では、全世界で42億人が、安全に管理されたトイレが使用できないとの報告がなされている。このように発展途上国では、安全に管理されたトイレの普及が課題の一つになっている。また、国内においては、深刻な災害時に、トイレの衛生が保てなくなり、生活環境が悪化し、被災者の健康が保てなくなるという問題がある。特に、病院や高齢者施設等の一般施設において、安全かつ持続可能なトイレの導入が期待される。
【0003】
そのような中、少なくとも、好気的雰囲気下で有機物分解菌担持多孔体と接触させて汚水を硝化処理する第1の工程、前記第1の工程後の処理水を活性汚泥処理する第2の工程、前記第2の工程後の処理水を好気的雰囲気下又は嫌気的雰囲気下で有機物分解菌担持多孔体と接触させて脱窒化処理する第3の工程、を備えるトイレ循環処理系において、前記第1~第3工程のいずかの工程又は工程間の処理水が、pH6~7、かつ、硝酸態窒素濃度30~100ppmである場合に、当該処理水を野菜の水耕栽培用とすることを特徴とする養液製造方法が挙げられる(特許文献1)。
【0004】
このように、トイレからの汚水を微生物によって処理し、再生利用する循環利用型のトイレシステムは、一定の量の水で永続的な利用が可能であるため、水不足の地域や深刻な災害時に有用なものとなり得る。しかしながら、このような循環利用システムの安定的な利用のためには問題もある。
【0005】
例えば、汚水に含まれる浮遊物が循環利用型のトイレシステムの機能低下を引き起こすことが挙げられる。ここで、問題となる浮遊物とは、汚物、トイレットペーパー等を起源とするものであり、数μm~数mmレベルの浮遊物のことである。
【0006】
特許文献1の循環処理において、このような浮遊物は、有機物分解菌担持多孔体の表面に付着する。すなわち、有機物分解菌担持多孔体の表面が浮遊物によって覆われると、内部に担持された有機物分解菌の機能(脱窒化機能)が発揮されなくなる。
【0007】
また、上記浮遊物以外に、主に汚泥等が沈殿する槽において発生するスカムも問題となる。スカムとは、汚物やトイレットペーパー等を含む汚水の処理過程において、槽の水面に浮上するスポンジ状の泡や固形物のことである。
【0008】
スカムは、放置されると水面上で肥大化し、硬化する。そして、硬化したスカムは、循環利用型のトイレシステムの汚水の処理経路の目詰まり等の問題を引き起こす。スカムは、大規模設備においては、吸引装置による回収や破砕装置による破砕等によって都度、排除される運用がなされているが、一般施設等に設置される小規模の循環利用システムにおいては、このような運用や装置の導入はコスト高につながり、現実的でない。
【0009】
このように、特許文献1の技術では、運用開始時において汚水の処理に問題がなかったとしても、時間が経過するにつれ、浮遊物の影響によって汚水の処理機能が低下する等の問題が出てくる。すなわち、循環利用型のトイレシステムの継続的な機能維持が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2020-48429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、汚水を浄化処理し、循環利用するトイレシステムを安定的に利用するための浮遊物捕捉槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、汚水循環利用型のトイレシステムに用いる浮遊物捕捉槽であって、前記トイレシステムは、少なくとも、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記硝化処理後の処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、を備えるものであり、前記浮遊物捕捉槽は、前記第1の処理部と前記第2の処理部の間に設置されるものであり、 前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉するメッシュ状フィルタからなる捕捉層と、前記捕捉層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた浮遊物捕捉槽である。また、第の発明は、汚水循環利用型のトイレシステムに用いる浮遊物捕捉システムであって、前記トイレシステムは、少なくとも、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記硝化処理後の処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、を備えるものであり、前記浮遊物捕捉システムは、前記第1の処理部と前記第2の処理部の間に設置されるものであり、前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記捕捉過層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、前記洗浄に使用された洗浄水を貯水し、必要に応じて前記貯水された洗浄水を前記トイレシステムの所定の箇所に移送するための貯水部と、を備えた浮遊物捕捉システムである。また、第の発明は、汚水循環利用型のトイレシステムであって、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記第1の処理部からの処理水中の所定の浮遊物を捕捉する浮遊物捕捉部と、前記浮遊物捕捉部からの処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、前記浮遊物捕捉部は、前記第1の処理部からの処理水中と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記捕捉層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、前記洗浄に使用された洗浄水を貯水し、必要に応じて前記貯水された洗浄水を前記トイレシステムの所定の箇所に移送するための貯水部と、を備えたトイレシステムである。また、第の発明は、汚水循環利用型のトイレシステムであって、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記第1の処理部からの処理水中の所定の浮遊物を捕捉する浮遊物捕捉部と、前記浮遊物捕捉部からの処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、前記浮遊物捕捉部は、前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記捕捉層を洗浄するための洗浄水の給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、前記洗浄に使用された洗浄水を貯水する貯水部と、前記トイレシステム内で発生したスカムを濡らすために前記貯水部に貯水された洗浄水を前記トイレシステムの所定の箇所に移送する移送経路と、を備えたトイレシステムである。また、第の発明は、汚水循環利用型のトイレシステムであって、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部と、前記第1の処理部からの処理水中の所定の浮遊物を捕捉する浮遊物捕捉部と、前記浮遊物捕捉部からの処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部と、前記第2の処理部からの処理水をオゾンにより分解処理する第3の処理部と、を備え、前記浮遊物処理部は、前記第1の処理部からの処理水と接触し、前記第2の処理部における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉する捕捉層と、前記オゾン分解処理後の処理液を前記捕捉層の洗浄のための洗浄水として利用する給排水路及び洗浄ノズルと、を備えた捕捉部と、前記洗浄に使用された洗浄水を貯水する貯水部と、前記トイレシステム内で発生したスカムを濡らすために前記貯水部に貯水された洗浄水を前記スカムの発生箇所に移送する移送経路と、前記スカムの発生個所に前記洗浄水を滴下し、前記スカムを軟化させるスカム軟化部と、を備えたトイレシステムである。また、第の発明は、第1~のいずれかの発明の脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を含む処理水の前処理方法であって、スカムが生じ、硬化する前に、エアーにより前記スカムが生じる処理水の水面に所定の水流を生じさせ、前記スカムを所定箇所に誘導する前処理方法である。また、第の発明は、第の発明の前処理方法において、前記スカムが硬化する前に、前記スカムを所定の処理水によって濡らし、軟質な状態を維持して取り除く前処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る浮遊物捕捉槽は、メッシュ状フィルタ層を備えるため、嫌気性菌による脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を効率的に取り除くことが期待できる。また、本発明に係る浮遊物捕捉槽は、浮遊物捕捉層を洗浄する機構を備えるため、保守に係る時間を短縮し、循環利用型のトイレシステムの稼働率を維持する効果が期待できる。また、本発明に係る浮遊物捕捉システムは、浮遊物捕捉層の洗浄に使用された洗浄水を貯水し、トイレシステムの所定箇所に移送するものであるため、洗浄水の循環系内で各種処理が可能になり、トイレシステムの機能を維持する効果が期待できる。また本発明に係るトイレシステムは、上記浮遊物捕捉槽又は上記浮遊物捕捉システムを備えるため、長期間、安定的に汚水を循環処理する効果が期待できる。また、本発明に係る前処理方法は、スカム硬化前にスカム発生部の水面に所定の水流を作ることにより、スカムを所定箇所に凝集させる効果が期待できる。また、本発明に係る前処理方法は、所定の処理水によってスカムを濡らすことで、スカムの硬化を防ぎ、軟質な状態にし、容易に取り除けるようにする効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】汚水処理フローの概略図である。
図2】トイレシステムの概略図である。
図3】スカム誘導無かつスカムの硬化放置の場合(上図)とスカム誘導有かつスカムの軟化維持の場合(下図)の発生スカムのイメージ図である。
図4】浮遊物捕捉槽(浮遊物捕捉部)の一形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
トイレシステム1の汚水処理フローについて説明する。
図1は、トイレシステム1の汚水処理フローの例である。まず、利用者がトイレ10を使用することで、汚水が発生する。トイレシステム1は、この汚水を浄化し、循環利用するものである。
【0017】
汚水は、第1の処理部20に送られ、好気性菌によって処理される。好気性菌による処理は、いわゆる硝化処理である。硝化処理は、次の反応式によってあらわされる。
COHNS(有機物)+O+栄養塩→CO+NH+CNO+他の最終産物
NO+5O→5CO+2HO+NH+エネルギー
NH +3/2O→NO +HO+2H
NO +1/2O→NO
【0018】
好気性菌による処理後に発生したスカムは、スカム軟化部30において、必要に応じて軟度調整される。ここで、軟度調整とは、スカムを適度に濡らして軟質な状態にすることである。図1において、浮遊物捕捉部40からスカム軟化部30への矢印は、処理水が、スカムの軟度調整のために戻されることをあらわしている。
【0019】
軟質な状態にされたスカムは、除去等の取扱いが容易になる。すなわち、処理水からのスカム分離が容易になる。軟質な状態にされたスカムは、トイレシステム1のどの部分で取り除かれるものでもよい。ただし、スカムの主な発生部たる沈殿部(図1において、スカム軟化部30の底部は汚泥等の沈殿部である)の水面で取り除かれることが好ましい。また、軟質な状態にされたスカムは、手作業で取り除かれてもよいし、吸引装置等の機器、その他システム内の除去機構によって取り除かれてもよい。
【0020】
スカムが分離された処理水は、浮遊物捕捉部40に送られる。浮遊物捕捉部40では、第2の処理部50における処理の阻害要因となる数μm~数mmレベルの浮遊物質の除去処理が行われる。除去処理には、所定の厚さ、所定の空隙を有するメッシュ状の捕捉用フィルタ等が用いられる。処理水中の浮遊物は、捕捉用フィルタと接触し、フィルタ表面に捕捉される。
【0021】
スカム除去部40からの処理水は、第2の処理部50に送られ、少なくとも嫌気性菌によって処理される。好気性菌による処理は、いわゆる脱窒化処理である。脱窒化処理は、次の反応式によってあらわされる。
2NO +2H→2NO +2H
2NO +3H→N+2HO+2OH
【0022】
ここで、第2の処理部50では、嫌気性菌だけでなく好気性菌による処理が行われるものでもよい。例えば、第2の処理部50において、好気的雰囲気と嫌気的雰囲気が存在し(又はそのような制御が可能であり)、好気性菌と嫌気性菌による両方の処理ができるものが挙げられる。
【0023】
また、この脱窒化処理は、汚水が循環するシステムにおいて、重要度は大きい。この脱窒化処理がないと汚水から生じたアンモニア成分の濃度が高まるからである。アンモニアは、水溶性であるため、ガス化による放出は困難である。そこで、ガス化により窒素分をシステム系外へ放出することが容易となる脱窒化処理が必須となる。
【0024】
第2の処理部50からの処理水は、第3の処理部60に送られ、オゾンによって処理される。オゾン処理は、オゾンバブルとの接触による酸化、分解処理である。オゾン処理の目的は、主に、滅菌処理と脱色である。当該処理を経た第3の処理部60からの処理水は、循環され、トイレ10の洗浄水として再利用される(洗浄水は、貯槽部にて一時貯槽されるが、本説明においては省略)。このように、トイレシステム1は、第1の処理部20、スカム軟化部30、浮遊物捕捉部40、第2の処理部50、第3の処理部60を含むものである。
【0025】
トイレシステム1を構成する各パートについて説明する。なお、トイレシステムを稼働させるための動力源やポンプ等の一般的な技術は、図示、説明を省略する。図2は、トイレシステム1の概略図である。第1の処理部20とスカム軟化部30を構成する処理槽は、所定の隔壁によって処理順に、第1槽(約6m)、第2槽(約3m)、第3槽(約2m)、第4槽(約1m)に分けられる。第1槽~第3槽が、好気性菌による処理部、すなわち、第1の処理部20に相当する。また、第4槽は、スカム軟化部30に相当する。
【0026】
第1槽と第2槽には、菌が担持された菌担持体が投入される。菌担持体は、槽底部に設置された散気管からのエアーによって攪拌され、処理槽中を浮遊状態となる(菌担持体の図省略)。本実施例において用いられた菌は、バチルス菌であり、担体は、8mm×8mm×8mmのPVAスポンジである。
【0027】
第3槽は、活性汚泥による処理槽である。第1槽、第2槽と同様に、槽底部に設置された散気管からのエアーによって、好気的な雰囲気が維持され、自然由来の好気性菌による汚水処理が行われる(活性汚泥の図省略)。このように、好気性菌による処理は、主に第1槽~第3槽において行われる。
【0028】
第4槽は、静的な槽である。第4槽には、底部に沈殿物(主に汚泥)が堆積する。また、第3槽と第4槽は、底部でつながっている。図2には反映されていないが、第4槽から第3槽にかけて、なだらかな勾配があり、第4槽における堆積汚泥は、当該勾配により第3槽へと徐々に移る。
【0029】
また、主に第4槽では、スカムが発生する。スカムは、処理水中の浮遊物が、水面に浮上、肥大化したものであり、時間が経過すると硬化する。硬化したスカムは、トイレシステム1各所の目詰まりの原因になる。このようなスカム硬化による問題を防ぐための措置として、スカムが軟質な状態のうちに除去する、水面上のスカムに水を滴下することで濡れた状態を維持する、といった措置が取られる。
【0030】
図3は、水面上の、スカムの誘導無かつスカムの硬化放置の場合(上図)とスカムの誘導有かつスカムの軟化維持の場合(下図)の発生スカムのイメージ図である。図中の矢印は、水面上の水流イメージである。第4槽で発生したスカムは、放置されると水面上で肥大化しつつ、硬化する(上図)。一方、硬化前のスカムや処理水の水滴等によって軟化が維持されたスカムは、凝集可能な状態であるため、処理水の水面近くのブロアポンプ(図省略)からのエアーによって生み出された水流と水面部分に設けられた案内板による誘導路によって一か所にまとめられ、収集可能となる(下図)(図中、誘導路は水面の左側部分にだけ描かれているが、実際は水面がいくつかのパートに区切られている。図3下図は、その一部のパートを示すものである)。
【0031】
このように誘導路は水面上の水流に合わせ、複数個所に設けられるものでもよい。ただし、水面の誘導路は必須ではない。槽の形状や大きさ等の条件によっては、水流のコントロールのみでスカムの収集が可能な場合もあるからである。また、誘導路によって所定箇所に集められたスカムの除去は、手作業によるものでもよいし、吸引機等の機器等によるものでもよく、限定されるものではない。
【0032】
次に、処理水は、浮遊物捕捉部40に送られる。浮遊物捕捉部40は、縦型の捕捉層を通過する処理水中の浮遊物を捕捉する。ここで、浮遊物は、サイズが数μm~数mmであり、第2の処理部50における嫌気性菌担持体の表面に付着し、嫌気性菌による処理を阻害するものである。もし、浮遊物が処理水から分離されずに第2の処理部50へと送られると、数カ月後には第2の処理部50の処理能力が低下する。
【0033】
浮遊物を捕捉するための捕捉層には、所定の厚さ、空間率を有するメッシュ状のフィルタが用いられる。例としては、旭化成株式会社製の3次元不織布フィルタOS-180(厚さ30mm、嵩密度90kg/m、比表面積620m/m、空間率95%)が挙げられる。ここで、メッシュ状フィルタとは、繊維状の素材によって構成されるものであり、処理水を通過させつつ、一定の接触効率を実現するものである。浮遊物は、繊維状素材の表面に付着する。これにより処理水から浮遊物が分離される。
【0034】
浮遊物捕捉部40は、洗浄水を供給する供給路及び噴射ノズルを備えるものでもよい。図4は、浮遊物捕捉部40の一形態の概略図である。洗浄水には、外部の上水や中水が用いられてもよいし、トイレシステム1の処理水が用いられてもよい。トイレシステム1の処理水が用いられる場合は、第3の処理部60を経た処理水であることが望ましい。
【0035】
捕捉層であるメッシュ状フィルタの洗浄時は、第1の処理部20からの処理水の流入が一時的に止められ、槽(浮遊物捕捉槽)内の処理水が取り除かれる。その後、洗浄水がメッシュ状フィルタに噴射され、付着した浮遊物が洗い流される。ノズルは限定されるものではないが、噴霧幅方向における流量分布が均等になるものが望ましい。ノズルのタイプやノズルの設置位置は、均等な洗浄液の噴霧となるようにそれぞれ決定される。
【0036】
浮遊物捕捉部40は、浮遊物捕捉槽の洗浄後の洗浄水を受け入れ、貯水する貯水部(貯水槽)とつながり、貯水槽からトイレシステム1の所定の箇所に洗浄水を移送するものでもよい。例えば、洗浄水が貯水槽からスカム軟化部30に移送され、スカム軟化用とされる例が挙げられる。ただし、これに限定されるものではない。また、図示されてはいないが、メッシュ状フィルタから洗い流された浮遊物は、手作業で取り除かれるものでもよいし、洗浄水の移送経路や貯水槽の所定箇所において濾過等によって取り除かれるものでもよい。
【0037】
浮遊物捕捉槽の洗浄時は、一時的に、第1の処理部20からの処理水の流入が止められるため、第1の処理部20から第2の処理部50への処理液のバイパス路が利用される。トイレシステム1は、トイレ10からの汚水分だけ処理が進むものであるため、浮遊物捕捉層の洗浄時に限り、第1の処理部20からの処理水がそのままの状態で第2の処理部50へと移されるものでも構わないが、バイパス路の所定箇所にも浮遊物捕捉層が設置されるものでもよい。
【0038】
浮遊物捕捉部40からの処理水は、第2の処理部50において嫌気性処理される。当該処理に係る処理槽(約1m)には、嫌気性菌担持体が充填される。本実施例において用いられた菌は、自然由来の脱窒菌であり、菌担体は、竹炭(10cm程度の長さの小札状チップ)である。
【0039】
脱窒菌は、竹炭細孔の内部の嫌気的な雰囲気中に存在する。竹炭の細孔は、表面部ほど孔径が大きく、奥に行くほど孔径が小さい。脱窒菌は、嫌気的な雰囲気である細孔の奥に担持される。また、竹炭表面に近い部分は、孔径が大きいため、酸素溶存下にあっては好気的な雰囲気であり、自然由来の好気性菌が存在、活動し得る。この竹炭が、乾燥重量で約120kg、ナイロンネットに入れられ、第2の処理部50における処理に用いられる。
【0040】
第2の処理部50からの処理水は、第3の処理部60においてオゾン処理される。当該処理に係る処理槽(約0.3m)には、オゾン発生器によって発生量が調整されたオゾンが送られる。第2の処理部50からの処理水は、オゾンのマイクロバブルによって、滅菌、脱色される。本実施例におけるオゾン発生機の能力は、1000mg/hであり、所望の濃度範囲に設定可能である。
【0041】
第3の処理部60からの処理水は、トイレ10の洗浄水として洗浄水槽(図省略)に貯水される。トイレ便器に付属の洗浄水タンクから、洗浄水が使用されると、加圧ポンプ(図省略)が作動し、洗浄水槽から洗浄水タンクに処理水が供給される。
【0042】
以上の各パートによって、本発明に係るトイレシステム1が構成される。本発明に係るトイレシステム1は、使用された洗浄水の分だけ処理が進む、自然に任せるものである。本発明に係るトイレシステム1において、電源が必要になるのは、主に、散気を必要とする処理槽の散気用ポンプ、処理水の循環に係るポンプ、オゾン発生機である。これらの電源は、トイレシステム1が導入される建物に併設された太陽光発電と蓄電池の組合せ等によって供給される。ただし、本発明に係るトイレシステム1は、必要に応じて、所望の処理速度に制御されたり、上記設備以外の設備等のために電力供給されたりすることが否定されるものではない。
【0043】
本発明に係るトイレシステム1の実証試験結果について説明する。
実証試験では、都内7階建てビルの全フロアのトイレ10に、循環利用システムが連結された。本実証試験において、トイレシステム1は、処理対象人数として50~70人を想定するものである。
【0044】
トイレスステム1の運転中、第1の処理部20を経た処理水と、第3の処理部60を経た処理水が採取され、窒素含有量、アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物、硝酸化合物の濃度が計測された。いずれの成分についても、第1の処理部20よりも第3の処理部60を経た処理水の方が低濃度であった。
【0045】
また、第1の処理部20からの処理水の色度及び第2の処理部50からの処理水の色度が計測された。これらの色度は、いずれも5度以上であった。また、当該処理水は、第3の処理部60におけるオゾン処理によって1.0~1.5度程度になることが確認された。
【0046】
スカムは、第4槽において発生することが確認された。発生後、スカムは、通常、約4日程度で硬化することが確認された。また、硬化後のスカムは、除去されなかった場合、トイレシステム1中の流路の目詰まりの原因となることが確認された。
【0047】
スカムは、第4槽の上部に設置されたシャワーによって軟質な状態が維持されることが確認された。このシャワーは、週に2回程度、約60分間、第4槽の上部全体にポタポタと雫が落ちる程度の量によって硬化が防止されることが確認された。この軟化に用いられたのは、第3の処理部60を経た処理水である。
【0048】
軟質な状態のスカムは第4槽の水面付近に設けられた誘導路内に導かれ、端部に凝集されることが確認された(図3下図)。誘導路は第4槽の水面の流れを鑑みて設けられたものである。誘導路設置前、スカムは水面の流れに従って浮遊し、一か所に凝集されることはなかった(図3上図)。スカムは、誘導路の端部に凝集されることで除去作業(手作業による除去作業)が容易になった。
【0049】
スカムが分離された処理水は、浮遊物捕捉槽内に設置された縦型捕捉層(メッシュ状フィルタ)を通過する際に、当該メッシュ状フィルタの表面に浮遊物が捕捉され、処理水から分離されることが確認された。
【0050】
週に2回、浮遊物捕捉槽内の処理水が抜かれ、浮遊物が付着したメッシュ状フィルタが、前後に設置されたノズルからの洗浄水の噴霧により洗い落とされた。洗浄水には、第3の処理部60を経た処理水が用いられた。浮遊物の洗浄は、約3分間、2L/分の洗浄水で行われた。洗浄に用いられた処理水は、浮遊物分離後、貯水タンクに集められ、適宜、スカム軟化部30のスカム軟化用として利用された。
【0051】
浮遊物捕捉部40設置後、第2の処理部50の嫌気性菌担持体の表面への付着は低減され、脱窒化処理が持続することが確認された。浮遊物捕捉部40設置前は、嫌気性菌担持体の表面に浮遊物が付着し、脱窒化処理が次第に低下していた。
【0052】
第3の処理部60を経た処理水は、洗浄水槽に貯水され、上述のメッシュ状フィルタの洗浄やトイレ便器に付属の洗浄水タンクに送られる運用がなされた。この運用によって、トイレシステム1全体の処理水が減少せず、所定量の水を継続的に循環利用可能なことが確認された。また、トイレシステム1の導入によってビル全体の年間水道使用量は、約85%削減されたことが確認された。
【0053】
実証試験から得られた結果に基づく考察及びそこから示唆されるトイレシステムについて、実施例2として以下に説明する。
【実施例2】
【0054】
実証試験では、汚水が、好気性処理(硝化処理)、スカム軟化処理(スカム除去処理)、浮遊物捕捉処理、嫌気性処理(脱窒化処理)、オゾンガス処理の順番で処理され、この処理構成により、循環利用可能であることが確認された。具体的な数値は省略するが、この処理構成における処理水は、pH値、NH-N濃度、NO-N濃度、NO-N濃度、色度のいずれも所定範囲を維持することが認められた。
【0055】
また、本発明に係るトイレシステム1の継続的な稼働のためには、スカムと浮遊物の除去が重要となる。スカムと浮遊物の除去がなされない従来のトイレシステムにおいて、スカムは、次第に硬化し、目詰まりの要因となり、浮遊物は、嫌気性菌担持体の表面に付着し、嫌気性処理の阻害要因となっていた。これらが適宜、処理水から分離されることで、トイレシステム1の正常な長期運転が可能になることが示唆された。
【0056】
スカムの除去は、処理水の滴下によるスカムの軟化処理、水流と誘導路によるスカムの凝集、手作業によるスカムの除去作業という3つの工程により行われた。スカムの軟化処理においては、スカムの濡れ度が所定のレベルであること、すなわち、スカムが一様に湿った状態にあることが、スカムの硬化を防止し、軟度を一定レベルに維持する効果があることが確認された。
【0057】
また、スカムが完全に硬化した後では、軟化は困難になることも確認された。実証試験の結果に基づくと、スカムが完全に硬化しないための条件としては、完全に固まった箇所がないように(言い換えると、硬質な状態から軟質な状態への可逆性があるうちに)液滴等によってスカム表面が一定程度、湿潤な状態になっていることであることが示唆された。具体的には、週に2回程度、スカムに処理液が滴下される程度が求められる。
【0058】
スカムの軟化処理は、硬化を防ぐだけでなく、スカムを所定箇所に集中させるための前処理としても有用であることが確認された。実証試験では、スカム発生部の上部水面付近に、スカム誘導路が設けられた。軟化したスカムは、水面の水流によって、このスカム誘導路内に誘導され、端部
に行き着き、凝集した。これにより、スカムが所定箇所において、効率的に捕集可能となった。また、スカムが硬化する前に、スカムが所定箇所に集まるのであれば、スカムの軟化処理は当該箇所のみに限定されるものでよい。これにより、スカムの軟化処理のための処理水量が低減される。
【0059】
実証試験では、軟化したスカムの除去は手作業によって行われたが、この部分は自動化されてもよい。誘導路によって凝集されたスカムは、時間が経つにつれ、肥大し、水面からせり上がってくる。このスカムをせき止めている端部については、水流によってスカムが水面から槽の上へと這い上がるためのなだらかな傾斜路が設けられてもよいし、さらにその先にスカムを吸引する吸引装置が連動するものでもよい。
【0060】
また、必ずしもスカム軟化部30を設ける必要はない。すなわち、トイレシステム1は、軟化処理の代わりに、スカムの硬化後、これを取り除く工程を含むものでもよい。本発明に係るトイレシステム1においてスカム発生が認められたのは、スカム軟化部30においてのみである。従って、処理水からスカムが分離され、次の浮遊物捕捉部40において浮遊物が分離されるものであれば、トイレシステム1における目詰まり等の阻害等の問題は解消されると考えられる。
【0061】
処理水中の浮遊物を捕捉するための浮遊物捕捉層として、様々なフィルタの効果の確認が行われた。その結果、フィルタには、比表面積に優れていること、一定の空隙を有すること、が重要な要素となることが示唆された。比表面積が大きいことは、脱窒菌担持担体に代わって表面に浮遊物を捕捉するために必要な要素であり、一定の空隙を有することは、目詰まりなく処理水を通過させるために必要な要素である。なお、フィルタの素材(例えば、樹脂の種類、金属の種類等)は、捕捉に大きな影響を与えるものではないことが確認されている。
【0062】
これらの要素を備えたフィルタとして、具体的に、所定の比表面積を実現する形状としては、メッシュ形状が挙げられる。さらに、空間率としては、93%~96%が好ましい。これらの範囲を超えて空隙が大きくなると、浮遊物の捕捉能が極端に低下し、逆に空隙が小さくなると、目詰まりにより処理水の流れが止まることが確認された。実証実験において効果的であったのが、厚さ30mm、空間率95%のフィルタであった。
【0063】
浮遊物捕捉用のフィルタがメッシュ状であること、所定の空隙を有することは、洗浄においても利点を有する。フィルタの前後からの洗浄液の噴射によって、フィルタから捕捉された浮遊物が容易に洗い流されるからである。フィルタがメッシュ状でなく、粒状物質の集合体である場合、フィルタ内部が十分に洗浄されないという問題が生じ得る。また、メッシュ状であっても、目が細かく、膜厚なフィルタにおいても同様である。このように所定の空間率のメッシュ状フィルタが浮遊物捕捉層として有用であることが示唆された。
【0064】
実証試験では、浮遊物捕捉層を洗浄するための洗浄水は、第3の処理部60を経て得られた処理水が用いられた。これは、当該処理水が、トイレシステム1系内において不純物の含有率が低く、浮遊物捕捉部40等に不具合を与える影響が少ないことと、トイレシステム1系内で洗浄水がまかなわれることで、循環水量を一定に保ち、各パートの機能維持が期待されることによるものである。ただし、洗浄水として上水等が利用されることが否定されるものではない。
【0065】
実証試験では、洗浄に供された洗浄水は、貯水部(貯水槽)に送られ、適宜、スカム軟化用とされた。このように、浮遊物捕捉槽と貯水槽が、トイレシステム1の所定箇所に洗浄水を移送するシステムとなることで、循環水量の維持等が実現される。
【0066】
また、第3の処理部60ではオゾンが使用される。そのため、第3の処理部60を経て得られた処理水は、トイレの洗浄水として用いられるためには、オゾン濃度が一定レベル以下にされる必要がある。一方、浮遊物捕捉層の洗浄用として使用される場合、一定レベルのオゾンを含む処理水が用いられるものでもよい。浮遊物捕捉層の洗浄時、トイレシステム1の循環経路から浮遊物捕捉部40が切り離されるため(バイパスに切り替えられるため)、処理水中の残存オゾンが各パートに及ぼす影響がなくなり、また、洗浄にはオゾンによる反応の効果も期待できるからである。
【0067】
実証試験では、ビルのトイレに後付けされ、汚水が循環利用されるトイレステム1が構築された。このように、トイレシステム1は、新規施設に最初から備えられるだけでなく、既存施設に後付けされることでも実現可能である。
【0068】
トイレシステム1は、上述の各槽が必要な配管等によって連結され、上記機能を実現するための動力機構や電源系統等によって稼働するものである。また、各槽は、汚水の量に応じて、大きさや流路が調整されるのが望ましい。すなわち、実証試験の想定人数を大きく超える規模のトイレシステムであってもよい。
【0069】
上述のように、本発明によると、新規のトイレシステムとして利用されるだけでなく、既存のトイレシステムから構築されることも可能である。現在、国内におけるトイレは、上水や中水によりトイレの汚物等が流され、下水となって処理場等で処理されるのが一般的である。これが、本発明のトイレシステムに置き換えられてもよいし、非常時等に選択的に稼働できるように設置されてもよい。また、発展途上国における河川流水による処理や溜め込みによる処理等のトイレが本発明に係るトイレシステムとして再構築されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る浮遊物捕捉槽や浮遊物捕捉システムは、新設、既設の循環型トイレシステムの機能強化用として利用が可能である。また、本発明に係るトイレシステムは、水が不足する緊急事態等において利用可能である。例えば、病院、高齢者施設その他公共施設等、特に衛生管理が求められる施設において有用である。また、同様に、本発明に係るトイレシステムや汚水の循環利用方法は、発展途上国等、衛生面での改善が求められる地域、水が不足する地域における諸々の施設においても利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 トイレシステム
20 第1の処理部
30 スカム軟化部(第4槽)
40 浮遊物捕捉部(浮遊物捕捉槽)
50 第2の処理部
60 第3の処理部

【要約】
【課題】 汚水循環利用型のトイレシステムの機能を維持するための浮遊物捕捉槽を提供すること。
【解決手段】
少なくとも、汚水を好気性菌により硝化処理する第1の処理部20と、前記硝化処理後の処理水を嫌気性菌により脱窒化処理する第2の処理部50と、を備える循環利用型のトイレシステム1における前記第1の処理部20と前記第2の処理部50の間に設置される浮遊物捕捉槽40であり、前記第1の処理部20からの処理水と接触し、前記第2の処理部50における脱窒化処理の阻害要因となる浮遊物を捕捉するメッシュ状フィルタからなる捕捉層を備える。
【選択図】 図4

図1
図2
図3
図4