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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】印刷搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 11/02 20060101AFI20230510BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B41J11/02
B41J2/01 305
B41J2/01 401
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020015403
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021122948
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596117773
【氏名又は名称】株式会社トライテック
(72)【発明者】
【氏名】矢代 浩一
(72)【発明者】
【氏名】石原 巧也
(72)【発明者】
【氏名】永田 隼人
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-52284(JP,A)
【文献】特開2016-150792(JP,A)
【文献】特開2019-155614(JP,A)
【文献】特開2007-152767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 11/02
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体を搬送しながら印刷する印刷搬送装置であって、
2本以上の搬送ローラーに巻きかけられ、前記被記録媒体を外周面に吸着固定して搬送するための複数の吸着孔を有する無端金属ベルトと、
前記無端金属ベルトの内周面と接触可能に配置され、前記無端金属ベルトを介して、前記被記録媒体を吸着するための吸引部材と、
前記無端金属ベルトの内周面と対向して配置され、前記吸引部材を介して前記無端金属ベルト表面を目標温度に加熱するためのベルト加熱部材と、
前記吸引部材に接続され、前記吸引部材に対して負圧を付与するように構成された負圧チャンバーと、
前記負圧チャンバーに接続され、前記負圧チャンバー内の空気を排気するための排気口と、
前記無端金属ベルトの外周面に対向して配置され、前記被記録媒体表面に対してインクを付与するためのインクジェットヘッドを有する印刷ユニットとを有し、
前記印刷ユニットには、前記インクジェットヘッド内部に供給されて吐出されるインクの温度を目標温度に加熱するためのインク加熱部材を有することを特徴とする、印刷搬送装置。
【請求項2】
前記ベルト加熱部材により加熱される前記無端金属ベルト表面温度の目標温度は、前記インク加熱部材により加熱されるインク温度の目標温度以下となるように制御されていることを特徴とする、請求項1に記載の印刷搬送装置。
【請求項3】
前記吸引部材には、前記負圧チャンバーに連通する貫通孔が複数配置されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の印刷搬送装置。
【請求項4】
前記吸引部材のうち、少なくとも前記無端金属ベルトの内周面と接触する部分は超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル又はフッ素樹脂のいずれかにより選択される樹脂により形成されていることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷搬送装置。
【請求項5】
前記搬送ローラーの軸方向端部の少なくとも一方に、前記搬送ローラーの軸方向に対して交差する前記被記録媒体の搬送方向の角度を調整するための角度調整ユニットが搭載されていることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の印刷搬送装置。
【請求項6】
前記搬送ローラーには、軸方向端部の径よりも軸方向中央部の径が大きいクラウン形状であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の印刷搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体を搬送しながら印刷する印刷搬送装置、特に、被記録媒体を加熱した状態で搬送しながら印刷する印刷搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状の薄い長尺ウェブなどの被記録媒体に対する印刷の場合は、被記録媒体を搬送ベルトに吸着固定してインクジェットヘッドと被記録媒体の距離を一定にしつつ搬送する手法が一般に使用されている。
【0003】
また、インクジェット印刷において、印刷画質の確保のために被記録媒体にインクを吐出して付与した後のインクのぬれ広がりを適切に制御することが有効である。かかるぬれ広がりの制御のために、インクを付与したあと、完全乾燥させる前にインクの乾燥硬化状態を適宜制御する手法が用いられている。
【0004】
ところで、近年、印刷の分野においては、環境や人体への影響がより少ない、溶媒に水を用いた、いわゆる水系インクを使用する需要が増加しており、インクジェット印刷でも同様に水系インクを使用する需要が増加している。水系インクは、UV等の活性光線の照射により即座に硬化して乾燥する活性光線硬化型のインクとは異なり、主成分が水である。そこで、被記録媒体に付与された水系インクのぬれ広がりや乾燥硬化を制御して印刷画質を確保するためには、被記録媒体に対する加温状況を制御することで、水系インクの乾燥硬化を制御する必要がある。
【0005】
しかし、被記録媒体の搬送ユニットと、加熱ユニットとを別に設けると、インクジェットプリンターの大型化につながる。また、搬送ユニットを均一に加熱する必要がある。そこで、搬送ユニットと、加熱ユニットを一つのユニットとして構成することが有効になる。
このような被記録媒体に付与されたインクを加熱しながら被記録媒体を吸着固定して搬送しつつ印刷するインクジェットプリンターとして、搬送搬送ベルトの内周面に真空チャンバーとヒーターユニットを組み込み、長尺の被記録媒体を加熱しながら吸着固定しつつ印刷して搬送するインクジェットプリンターが、下記の特許文献1などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-274399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、インクジェット印刷において高画質の印刷を実現するには、単に被記録媒体の加熱状態を制御するのみでは、高画質の印刷を実現することは難しく、インクジェットヘッドから吐出されるインクの温度など総合的に制御しなければ高画質の印刷は実現できない。特に、被記録媒体がインクジェットヘッドのノズル面に対向する側を一回通過させる間にインクを被記録媒体に付与して画像を形成するワンパス方式のインクジェット描画装置においては、上記の問題はより顕著に生じる。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、上記の問題を解決し、被記録媒体を安定して高画質で印刷搬送をするための印刷搬送装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の発明者は、鋭意工夫の結果、以下の構成を見出した。
【0010】
すなわち、本発明において、被記録媒体を搬送しながら印刷する印刷搬送装置であって、
2本以上の搬送ローラーに巻きかけられ、前記被記録媒体を外周面に吸着固定して搬送するための複数の吸着孔を有する無端金属ベルトと、
前記無端金属ベルトの内周面と接触可能に配置され、前記無端金属ベルトを介して、前記被記録媒体を吸着するための吸引部材と、
前記無端金属ベルトの内周面と対向して配置され、前記吸引部材を介して前記無端金属ベルト表面を目標温度に加熱するためのベルト加熱部材と、
前記吸引部材に接続され、前記吸引部材に対して負圧を付与するように構成された負圧チャンバーと、
前記負圧チャンバーに接続され、前記負圧チャンバー内の空気を排気するための排気口と、
前記無端金属ベルトの外周面に対向して配置され、前記被記録媒体表面に対してインクを付与するためのインクジェットヘッドを有する印刷ユニットとを有し、
前記印刷ユニットには、前記インクジェットヘッド内部に供給されて吐出されるインクの温度を目標温度に加熱するためのインク加熱部材を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明において、前記ベルト加熱部材により加熱される前記無端金属ベルト表面温度の目標温度は、前記インク加熱部材により加熱されるインク温度の目標温度以下となるように制御されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明において、前記吸引部材には、前記負圧チャンバーに連通する貫通孔が複数配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明において、前記吸引部材のうち、少なくとも前記無端金属ベルトの内周面と接触する部分は超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル又はフッ素樹脂のいずれかにより選択される樹脂により形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明において、前記搬送ローラーの軸方向端部の少なくとも一方に、前記搬送ローラーの軸方向に対して交差する前記被記録媒体の搬送方向の角度を調整するための角度調整ユニットが搭載されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明において、前記搬送ローラーには、軸方向端部の径よりも軸方向中央部の径が大きいクラウン形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、上記の構成とすることで、上記課題を解決し、被記録媒体を安定して高画質で印刷搬送をするための印刷搬送装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】印刷搬送装置の斜視図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】搬送ローラーのB-B断面図である。
図4】無端金属ベルトを外した状態の吸着部材と搬送ローラーの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
まず、本実施形態に係る印刷搬送装置の全体構成について説明する。
【0020】
図1は本実施形態に係る印刷搬送装置の全体図の斜視図であり、図2図1のA-A断面図である。
【0021】
本実施形態では、印刷搬送装置両端に、2本の搬送ローラー11が配置され、これに被記録媒体を外周面に吸着固定して搬送するための複数の吸着孔を有する無端金属ベルト13が巻きかけられ配置されている。搬送ローラー11のうち少なくとも一方には、無端金属ベルト13に駆動力を伝えるための図示しない駆動ユニット(モーター)が接続されている。
【0022】
また、無端金属ベルト13を介して前記被記録媒体を吸着するための複数の吸引口を有する吸引部材15が、無端金属ベルト13の内周面と接触可能に配置されている。
【0023】
さらに、吸引部材15を介して、無端金属ベルト13を加熱するためのベルト加熱部材17が、無端金属ベルト13の内周面と対向して配置されている。
【0024】
そして、吸引部材15に接続され、吸引部材15に対して負圧を付与するように構成された負圧チャンバー19と、負圧チャンバー19に接続され、吸引部材15と負圧チャンバー19により形成される空間内の空気を排気するための排気口14を有する。
【0025】
さらに、無端金属ベルト13の外周面に対向して配置され、前記被記録媒体表面に対してインクを付与するための印刷ユニット16を備えている。
【0026】
次に、本実施形態に係る印刷搬送装置の細部について、それぞれ説明する。
【0027】
搬送ローラー11は、無端金属ベルト13を巻きかけて回転搬送させるために配置されるため、少なくとも2本以上配置される。搬送ローラー11の材質、形状については、適宜任意のものを選択することができる。
【0028】
しかし、インクジェット印刷においては、高度のインク着弾精度が要求されるため、無端金属ベルト13の蛇行はなるべく抑える必要がある。そこで、搬送ローラー11の形状は、例えば、図3に図示するように、軸方向両端部の径よりも軸方向中央部の径が大きいクラウン形状とすることが有効である。クラウン形状とすることで、搬送ローラー11の軸方向両端部と、軸方向中央部とで、回転する搬送ローラー11表面では、回転速度差が生じ、無端金属ベルト13には、速度の速い中央部によってきて走行が安定するクラウン効果が発生する。これにより、無端金属ベルト13の蛇行を抑制し、被記録媒体の安定搬送を図ることができる。
【0029】
また、搬送ローラー11には、無端金属ベルト13の蛇行を防止するため、搬送ローラー11の軸方向に対して交差する被記録媒体の搬送方向の角度を調整するための角度調整ユニット12を、搬送ローラー11の軸方向端部の少なくとも一方に設置することが考えられる。
【0030】
角度調整ユニット12の制御方法としては、適宜のものが想定され、例えば、無端金属ベルト13の走行状況をセンサーにより監視し、所定の閾値よりも蛇行している場合に、角度調整ユニット12に対して、無端金属ベルト13の蛇行を修正するように指示を与えて、搬送ローラー11の前記の搬送方向の角度を変更させることが一案である。本実施形態では、搬送ローラー11の略水平方向の角度を変更させる。
【0031】
また、角度調整ユニット12による搬送ローラー11の前記の搬送方向の角度の変更方法としては、搬送ローラー11の前記搬送方向の角度を変更できるように、モーター、エアー駆動アクチュエーター等、適宜のものを設置することが想定され、これに、センサー等を接続し、角度調整ユニットとして制御できるようにすることが想定される。
【0032】
本実施形態において、角度調整ユニット12は、図1に図示するように、搬送ローラー11の一方端部に、エアー駆動アクチュエーターを略水平方向(無端金属ベルト13の搬送方向の略前後)に駆動できるよう配置する。そして、無端金属ベルト13の走行状態が、無端金属ベルト13の走行方向に対して、左右のいずれの位置を走行しているか、センサーユニットにより監視する方式をとる。センサーユニットはレーザー測長機など適宜のものを使用する。
【0033】
そして、無端金属ベルト13が走行方向に対して、所定の閾値よりも左右のいずれかに蛇行した場合に、走行方向を修正するようにアクチュエーターを駆動させて搬送ローラー11の略水平方向の角度を修正することで、無端金属ベルト13の走行位置を修正して、無端金属ベルト13の蛇行を防止する。例えば、搬送方向に対して無端金属ベルト13の走行位置が搬送ローラー11の中央から右側に蛇行した場合、角度調整ユニット12を駆動させ、搬送ローラー11の角度を搬送方向の反対の方向に変更することで、無端金属ベルト13の走行位置が搬送ローラー11の中央から左側に移動し、蛇行を修正することができる。
【0034】
無端金属ベルト13は、耐久性、平面度、熱伝導率等の観点から、ステンレススチール製が好ましい。無端金属ベルト13の表面全周には、被記録媒体を吸引するための吸引孔が複数貫通されている。本実施形態では、無端金属ベルト13は、厚さt=0.2mm程度、吸着孔は千鳥配置でその径はφ0.3mm程度、開口率4%程度のものを使用した。
【0035】
図4は、吸引部材15の斜視図である。
【0036】
吸引部材15の素材は、吸引部材15には負圧を付与されて被記録媒体と共に無端金属ベルト13を吸引し、吸引部材15と無端金属ベルト13内周面が接触した状態で、無端金属ベルト13が搬送される必要がある。そこで、少なくとも、吸引部材15の無端金属ベルト13内周面と接触する部分は、表面の摩擦抵抗が低く、かつ耐摩耗性に優れる樹脂素材であることが好ましい。また、容易に摩耗してしまう素材であると、無端金属ベルト13の吸着孔を、摩耗した樹脂の粉塵によりふさいでしまい、被記録媒体を吸着できなくなってしまうため、吸引部材15に用いられる素材の耐摩耗性が特に重要となる。超高分子量ポリエチレン樹脂(HDPE)、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)などが想定されるが、耐久性と取扱いの容易性を考慮すれば、フッ素樹脂又は超高分子ポリエチレン樹脂がより望ましい。
【0037】
図4の例であれば、吸引部材15は、表面に略正方形の貫通孔が多数配置され、後述の負圧チャンバー19に連通しており、負圧チャンバー19に負圧を付与することで、吸引部材15にも負圧を付与し、もって、無端金属ベルト13及び被記録媒体を吸着することができる。吸引部材15の貫通孔の形状、大きさについては、特段の制約はないが、被記録媒体と無端金属ベルト13を吸着した際に発生する負荷によりたわみ等が発生すると、印刷精度に悪影響を及ぼすため、所定の剛性を確保できる形状にすることが望ましい。
【0038】
なお、本実施形態に係る印刷搬送装置においては、加熱部材17により、無端金属ベルト13を加熱する必要がある。無端金属ベルト13は、熱伝導と熱輻射の両方により加熱される。そのため本実施形態では、吸着部材15をベルト加熱部材17と無端金属ベルト13が空間的に連通するような貫通孔を有する形式とする。これにより、吸着部材による熱伝導だけでなく、より効率的にベルト加熱部材17の熱輻射も活用して無端金属ベルト13を加熱することができる。
【0039】
なお、無端金属ベルト13、吸引部材15及び負圧チャンバー19により形成されている、ベルト加熱部材17により加熱される空間は、排気口14により排気されているが、無端金属ベルト13上の被記録媒体を吸着固定することで、同空間内は真空に近い状態となる。これにより、空気の流れは極めて少なくなるため、熱輻射によっても無端金属ベルト13を加熱することが可能である。
【0040】
ベルト加熱部材17は、無端金属ベルト13の内周面と対向して配置され、吸引部材15を介した吸引部材15の下部に、無端金属ベルト13と被記録媒体との接触部分全体を加熱できるように適宜の間隔で配置されている。
【0041】
前述の通り、インクジェット印刷において、印刷画質の確保のために被記録媒体にインクを吐出して付与した後、意図しないインクのぬれ広がりが発生してしまうことで、印刷画質が劣化してしまう。よって、印刷画質確保のために、被記録媒体に付与したインクをぬれ広がる前にぬれ広がりが発生しない程度に硬化させて、ぬれ広がりを適切に制御することが必要である。
【0042】
そこで、ベルト加熱部材17により、無端金属ベルト13を加熱し、加熱された無端金属ベルト13からの熱伝導により被記録媒体を加熱し、被記録媒体の温度を制御する。これにより後述のインクジェットヘッドより付与された水系インクが被記録媒体表面に着弾し付与された後、付与されたインクが、加熱された被記録媒体の熱により、ぬれ広がらない程度に乾燥硬化される。そして、被記録媒体に付与されたインクぬれ広がりを適宜制御し、高画質の印刷を実現することができる。
【0043】
しかし、無端金属ベルト13の温度が高温になりすぎると、印刷のために無端金属ベルト13表面に載置された被記録媒体に近接しているインクジェットヘッドのノズル面に付着するインクを乾燥させてしまいノズル詰まりを発生させる問題など、様々な問題の発生が想定される。
【0044】
そこで、ベルト加熱部材17には、無端金属ベルト13の表面の被記録媒体と接触する部分の表面温度を、目標温度に制御する機能を有することが好適となる。すなわち、被記録媒体の温度を、意図する温度に加熱するために、ベルト加熱部材17の出力を制御して、加熱される無端金属ベルト13の表面温度を、意図する所定の数値である目標温度に加熱されるようベルト加熱部材17の出力を制御する。制御方法としては、適宜のものが想定されるが、目標温度を入力設定できる制御装置をベルト加熱部材17に接続し、これと温度センサーを組み合わせて制御する方法が考えられる。これによって、実際にベルト加熱部材17により加熱される無端金属ベルト13の表面温度には若干の上下があるとしても、目標温度にほぼ近似する温度に無端金属ベルト13の表面温度を制御することができる。
【0045】
また、被記録媒体全体を均一に加熱できるよう、無端金属ベルト13と被記録媒体との接触面全体を均一に加熱する必要があるため、ベルト加熱部材17は、図2で図示するように複数個所定間隔に配置することが、好適となる。
【0046】
そして、吸引部材15に接続され、配置されたベルト加熱部材17を吸引部材15とともに囲うように、所定の空間を形成するように負圧チャンバー19が吸引部材15に接続されている。そして、負圧チャンバー19に、負圧チャンバー19内の空気を排出し、負圧を付与するために排気口14が接続されている。排気口14には、ブロアー等を適宜配置されることで、空気を排出する機能を有する。このような構成とすることで、負圧チャンバー19内に負圧を付与することができる。
【0047】
そして、無端金属ベルト13の外周面に対向して、被記録媒体表面に対してインクを付与するための印刷ユニット16が配置されている。本実施形態においては、インクは水系インクが使用され、印刷ユニット16にはインクの数に対応した、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色分のインクを吐出するためのインクジェットヘッドが複数個配置され、これに追加してホワイト等の特色インクを吐出するためのインクジェットヘッドが適宜配置されることで、印刷ユニット16を構成する。
【0048】
ここで、印刷ユニット16には、インクジェットヘッドに供給されるインクの粘度等を吐出に適した状態に制御するため、インクジェットヘッド内部に供給されて吐出されるインクを、所定の数値である目標温度に加熱できるインク加熱部材が備えられていることが、インクの安定吐出を実現し、高画質の印刷を実現するために好適となる。本実施形態では、インク加熱部材は、インクジェットヘッドに内蔵され、インクジェットヘッド内部のノズル付近でインクを加熱し、吐出されるインクの温度を所定の数値である目標温度に加熱できるように配置されている。
【0049】
そしてインク加熱部材には、インクの吐出安定性等に適した所定の目標温度に設定して前記の吐出されるインクの温度を制御できる機能を搭載することが好ましい。制御方法としては、適宜のものが用いられるが、一般的には、インクジェットヘッド内のインク経路付近にインクを加熱できるよう、電熱式のヒーターユニットを搭載し、外部に接続したインクの目標温度を設定できるインクジェットヘッドの制御ユニットとインク温度を測定する温度センサーを組み合わせてインクの温度制御を実施する。これによって、実際に前記ヒーターユニットにより加熱制御されるインクの温度には若干の上下があるとしても、目標温度にほぼ近似する温度に、前記のインクジェットヘッドにより吐出されるインクの温度を制御することができる。
【0050】
本実施形態においては、印刷ユニット16は、非印刷時は、無端金属ベルト13上方から退避され、キャッピング、メンテナンス位置に移動しているが、印刷時には、無端金属ベルト13上方まで移動し、インクを被記録媒体に吐出し、印刷できる状態となる。
そして、印刷時には、無端金属ベルト13に吸着固定された被記録媒体が、ベルト加熱部材17により加熱された無端金属ベルト13により加熱しつつ搬送され、被記録媒体が印刷ユニット16に搭載されたインクジェットヘッドの下部を通過したときに、インクジェットヘッドから吐出されたインクが、被記録媒体表面に着弾して付与され、所定の画像が印刷される。
【0051】
この時、前述の通り、被記録媒体が加熱されていることで、被記録媒体表面に着弾したインクが、完全には硬化しないものの、熱により適度に乾燥され、ぬれ広がらない程度に硬化し、これによりインクのぬれ広がりを制御することができる。この制御により、インクのにじみ等の意図しないインクのぬれ広がりを防止することで、高画質の印刷を実現することができる。
【0052】
なお、本実施形態において使用される被記録媒体には、長尺のロール状のシート部材が用いられる。当該シート部材の素材はコート紙などの紙も想定されるが、基本的には、ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロンなどの樹脂により形成された合成樹脂フィルムが好適である。また、被記録媒体に付与されるインクは、加熱による乾燥が必要となる溶剤インクなども想定しうるが、環境や人体への影響が低い溶媒に水を使用している水系インクがより好適となる。
【0053】
ここで、印刷ユニット16に搭載されたインクジェットヘッドから吐出されるインクの目標温度の設定と、ベルト加熱部材17により加熱される無端金属ベルト13の目標温度の設定との関係について説明する。
【0054】
まず、インクジェットヘッドから吐出されるインクの温度はインクの粘度、乾燥温度等の性能に応じて、インクジェットヘッド内部で前記のインク加熱部材により調整する。
また、印刷速度を高める観点からは、無端金属ベルト13の温度を高くすることで、無端金属ベルト13表面を被記録媒体が通過する短い時間でも、被記録媒体に付与されたインクに、低い温度でより低速で被記録媒体を搬送した場合と同じ熱量を加えインクの乾燥硬化を制御することができる。
【0055】
しかし、本実施形態において使用される水系インクは、紫外線などの活性光線によって硬化を制御することが容易な活性光線硬化インクとは異なり、含有された水分が蒸発すれば硬化乾燥してしまう。よって、加熱された無端金属ベルト13の輻射熱により、インクジェットヘッドのノズル面のインクの乾燥硬化が促進されてしまうと、インクジェットヘッドのノズルが乾燥硬化したインクにより詰まる結果、吐出不良等のインクジェットヘッドの破損が発生する危険が高まる。
【0056】
また、前述の通り、インクジェットヘッドから吐出されるインクの温度は、インクの粘度や乾燥性能等を鑑みて、インク加熱部材によって目標温度になるよう制御している。よって、無端金属ベルト13の目標温度を高くしすぎると、無端金属ベルト13の輻射熱により、インクジェットヘッド内のインクがインクの目標温度よりも高温になってしまい、そのためにインク粘度が低下してしまうなど、インクの吐出安定性に悪影響を及ぼす問題も生じる。
【0057】
そこで、これらの問題を解決するために、ベルト加熱部材17により加熱される無端金属ベルト13表面温度の目標温度を、インク加熱部材により加熱されるインク温度の目標温度以下となるように設定して制御することが有効である。
【0058】
例えば、本実施形態ではインク温度の目標温度が55℃であれば無端金属ベルト13の目標温度を55℃、インク温度の目標温度が40℃であれば無端金属ベルト13の目標温度を40℃、というように、インク温度の目標温度に応じて無端金属ベルト13の目標温度を同一にすることで、ベルト加熱部材17により加熱される無端金属ベルト13表面温度の目標温度を、インク加熱部材により加熱されるインク温度の目標温度以下となるように設定している。
【0059】
このような制御をすることで、インク加熱部材により加熱されるインクジェットヘッド内に供給されるインクの目標温度は、インク粘度、インクの硬化温度などのインク性能上問題が生じない温度に設定している以上、無端金属ベルト13により発生する熱(無端金属ベルト13の目標温度)が、インクの目標温度以下であれば、無端金属ベルト13の熱輻射によりインクジェットヘッドのノズル面や内部に伝わっても、インクジェットヘッド内のインクの温度がインクの目標温度以上に加熱される可能性はほとんどなくなるため、インクジェットヘッド内のインクの温度には影響を及ぼさず、上記の問題を解決することができる。
【0060】
以上の本実施形態による印刷搬送装置によって印刷された被記録媒体は、付与されたインクはぬれ広がりをしない程度には硬化されているが、完全に乾燥硬化するまで加熱乾燥させていない。そこで、本実施形態では、被記録媒体は、本実施形態による印刷搬送装置により印刷されたのちに、図示しない乾燥装置に搬送され、インクを完全に乾燥させて印刷が完了される。
【符号の説明】
【0061】
11 搬送ローラー
12 角度調整ユニット
13 無端金属ベルト
14 排気口
15 吸引部材
16 印刷ユニット
17 ベルト加熱部材
19 負圧チャンバー
図1
図2
図3
図4