(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】鋼矢板はがし治具
(51)【国際特許分類】
E02D 5/04 20060101AFI20230510BHJP
【FI】
E02D5/04
(21)【出願番号】P 2019091882
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504082025
【氏名又は名称】株式会社イング
(74)【代理人】
【識別番号】100174816
【氏名又は名称】永田 貴久
(74)【代理人】
【識別番号】100192692
【氏名又は名称】谷 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 悦二
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-019343(JP,A)
【文献】特開2001-214433(JP,A)
【文献】実開平05-069058(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00-5/20
B66C 1/00-3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り孔を有する鋼矢板を吊持するための治具であって、
上側部材と下側部材により形成される切欠エリアに該鋼矢板を配置することで該鋼矢板端部を上下から挟持する挟持体と
、
該挟持体に可回動に取設されるテコ桿
とを備え、
該挟持
体は、挟持した鋼矢板端部の吊り孔に嵌って係止されるブレ止めピンを有するブレ防止機構部
と、該ブレ止めピンの回動軸を中心に該ブレ止めピンを回動させるハンドルとを備え、
該挟持体の上側部材は、長孔を有する上側部上板と円孔を有する上側部下板とを備え、
該挟持体の下側部材は、円孔を有しており、
該ブレ止めピンは、
該上側部下板の円孔を通過する円周円柱部
と、該上側部上板の長孔の短径よりも小さな径の下側くびれ部
と、該長孔形状に収まる断面形状の扁平板部
と、該上側部上板の長孔の短径よりも小さな径の上側くびれ部
とを備え、
該円周円柱部は該ブレ止めピンの下端に位置し、該下側くびれ部は該円周円柱部の上方に位置し、該扁平板部は該下側くびれ部の上方に位置し、該上側くびれ部は該扁平板部の上方に位置しており、
該上側部上板と該上側部下板とは離反して配置されており、その離反距離は、該円周円柱部の高さと該扁平板部の高さの合計よりも小さく、該円周円柱部の高さよりも大き
く、
該ブレ止めピンの回動により、該ブレ止めピンが鋼矢板端部の吊り孔に嵌らない状態と嵌る状態のそれぞれでロックされるものであることを特徴とする鋼矢板はがし治具。
【請求項2】
該テコ桿は両端が力点と作用点であって支点は挟持体に設けられているものである請求項1記載の鋼矢板はがし治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現場その他のストックヤードに積層状態で保管されている鋼矢板から、最上段の1段のみを積層部分から離脱させながら吊持するためのはがし治具の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板は、港湾・河川の護岸、仮設土留、仮締切など、広範囲に使用される仮設資材であって、基本的には地中に鉛直に打ち込み、横方向に連続して設置される板である。板の相互間ジョイントによって止水性のある壁体を構築するものや、止水性を求めない山止め矢板と呼ばれるタイプのものもある。
【0003】
土中に打ち込まれるものであるし、屋外に積層する形で保管すると雨ざらしとなることもあるため、強度剛性があって腐食に耐えるものでなければならない。そこで鉄を主体としつつ、炭素含有量が0.32%前後、リン、硫黄が各々0.04%以下であって、銅を0.3%前後含むように求められている。
【0004】
また、幅・長さ・高さ・厚みが様々であるとはいえ鋼矢板は鉄製であって基本的に重量が大きい。故に、これを積み重ねた場合、強度剛性があるとは言え重量によって多少は変形を来すことがあり得る。
更に、工事が終了すれば引き抜いて再度使用するのが基本である。従って、傷ができたもの変形したものを使用することもあろうし、錆が浮いていることも多い。そしてこれらの傷や変形や錆が発生する場所が一様でない。
即ち、変形する可能性がある、錆発生等によって表面状態がまちまちである、という鋼矢板を、複数枚積み重ねておくわけであるので、ここから上の1枚だけを外す場合における状況にも一様性がなく同じ機材を同じように用いても、簡単に外れたりそうでなかったりするし、作業自体が困難となる。例えばU形鋼矢板において「4形」と呼ばれる種類のものであると、1m当たり80kg近くが標準であり、これ以上の重量のあるものも見られる。長さに関しても10mを超えるものも見受けられる。即ち1枚で1トンを超えることも、決して特殊ではない。資材置き場にはこれが、3枚、4枚、或いは10枚以上も積層されているということになる。
【0005】
当然ながら、ここから1枚だけを取り出すという作業を作業者の人力のみで行うことは、ほぼ不可能であるし危険であるし労力が大きい。従って通常は、最上段の鋼矢板を吊り下げることは重機(クレーン)を用いて行ない、2段目の鋼矢板との隙間にバールを差し込んで間隙を広げてやる作業は人間(作業者)が行なうことになる。
【0006】
この作業を更に説明すると、最上段の鋼矢板とその直下の鋼矢板の密着の程度や位置は不明であるので、クレーンで最上段の鋼矢板だけ掴んで持ち上げるという作業の第一段階から慎重を期するものとなる。
わずか(例えば5cm)持ち上げただけで、下の鋼矢板から切り離されて持ち上げられる場合と、いくら持ち上げても切り離されず2段目以下を伴っている場合がある。勿論、バールを用いるのは後者の場合ということになるが、バールが差し込まれる隙間の上側にはクレーンの力が、下側には引力が、双方を引き離す方向に働いているという環境での作業となるので、存外小さな力で剥がすことができるという場合も少なくない。またクレーンで、比較的大きな距離(例えば数10cm)を持ち上げ、この状態でバール差し込み作業をした場合には、剥がせた瞬間に、その距離分(例えば数10cm)だけ2段目以下の鋼矢板が落下することになる。これは深刻な事故を引き起こすことともなりかねない。
そこで、非常に小さな距離ずつ持ち上げて状況を確かめ、安全が保証される範囲で作業者が介入してゆくということになる。
【0007】
そうしたことから、例えば特許文献1(特開2001-214433)の如き治具が提案されている。これは、支点が中央にあって左右に力点と作用点が存在するという形式のテコを活用した治具であって、鋼矢板の厚み部分を挟持する把持部に支点が設けられたテコ桿の作用点側を下の鋼矢板との隙間に差し込み、他端側をクレーンで持ち上げることによって、下の鋼矢板との隙間を広げて剥がそうとするものである。バールの働きを治具にさせるという発想である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
こうした治具によって、作業者に求められる労力は軽減したと言える。しかし、危険度については十分に軽減したと言えない。
作業の危険さは、治具を鋼矢板に設置した状態から重機で治具を持ち上げる前後、下の鋼矢板が剥がれた時、に集中する。特許文献1の実施例に見られる治具の場合も、危険度を軽減させるために、外れ防止部としてピンを装備している。そしてこのピンは、鋼矢板の端部に形成された孔部(吊り穴)に嵌り込んで機能するものである。鋼矢板の孔部に嵌り込んでいるときには落下の危険性はなく、抜き取られた状態では危険である。また、嵌っている時には治具が取設されている位置の調整などができない。更に言えば、治具位置が確定していない状態で簡単にピンがスライドして挿入部の先端が鋼矢板の端部を押圧するようでは、吊り穴ではない部分を押圧することにもなりかねず、利便性が悪い。
【0010】
従って、ピンが鋼矢板を貫いている状態とそうではない状態のいずれの状態をも、簡便に且つ確実にそれぞれロックし得る治具の出現が待たれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者は上記点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明を成したものでありその特徴とするところは、鋼矢板端部を上下から挟持する切欠エリアを有する挟持体と、該挟持体に可回動に取設されるテコ桿とにより構成される治具であって、該挟持体には、挟持した鋼矢板端部の吊り孔に嵌って係止されるブレ止めピンを有するブレ防止機構部が設けられており、且つ該ブレ止めピンは、鋼矢板端部の吊り孔に嵌らない状態と嵌る状態のそれぞれでロックされるものである点にある。
【0012】
そもそも本発明においてこのロックは、「ブレ止めピン」が担当する。ブレ止めピンは、挟持体の上側に配置され上下動する。また挟持体は切欠エリアを有しており、鋼矢板の端部はここに嵌め込まれる。そしてブレ止めピンが上下動する際その下端は、上下動の上方域では切欠エリアに入らず、下方域では切欠エリアに入り込むように設計されている。
従って、出位置没位置の双方でロックされるということは、ブレ止めピンの下端が上下動の上方域にある時にもロックされ、下方域にある時にもロックされるということを意味する。これによって、クレーンなどの重機によって鋼矢板同士を剥がす際に最も大きな衝撃がある「はがれた瞬間」の前後において、ブレ止めピンは重機・治具・鋼矢板を強固に連結しており、その間作業者は離れた位置から作業を傍観していて良いことになる。
【0013】
本発明に係る鋼矢板はがし治具は、挟持体とテコ桿によって構成される。挟持体にテコ桿が可回動に取り付けられている。テコ桿の構造の詳細に関しては特に限定するものではないが、可回動に取り付けられている回動軸がテコの支点となり、力点と作用点はテコ桿の両端に配置されていることが好ましい。これを請求項2で提案する。
【0014】
挟持体はその切欠エリアで、鋼矢板端部を上下から挟持するものである。逆に言うと、挟持体が上下から挟み込む部分が鋼矢板端部ということになり、保管時水平となる部分である。U形鋼矢板の場合であると、左右に立ち上がり壁を有する平坦な長尺面の端部、である。この平坦面を切欠エリア内に差し込むという形で挟持する。従って切欠エリアの高さはこの平坦面部分の厚さよりも大きい必要がある。差し込んだ状態で生じる隙間は小さい方が好ましいが、回動して固定されるし、挟持体はピンを付帯しているので、実際には多少の隙間が存在することで問題が生じることはない。
【0015】
また、切欠エリアの上下、即ち、鋼矢板端部を上下から挟持した状態で、鋼矢板の上に位置する部分を上側部、反対側を下側部と呼ぶものとする。挟持体或いは切欠エリアの構造の詳細について限定しないが、上側部には2枚の板が、下側には少なくとも1枚の板が設けられ、更にこれら3枚の板を上下に貫く孔が穿設され、これらの孔に「ブレ止めピン」が嵌め込まれ外力によって出没するという挟持体構造を、請求項3で提案する。
【0016】
そして請求項3にて提案する治具は、治具と鋼矢板とを連結できるピンが、連結されない状態では誤って連結されることがなく、連結された状態では誤って連結が解除されることがないよう効率よくロックされるよう構成されている。即ち、出位置没位置の双方でロックされる機構を具備する治具である。
【0017】
切欠エリアの上側部は、離反する2枚の板で構成されていて、上側部上板には長孔、上側部下板には円孔が穿設されており、更に該ブレ止めピンは、該円孔を通過する円柱の円周円柱部を下側に備え、その上に該長孔の短径を径とする下側くびれ部、その上には該長孔形状に収まる断面形状の扁平板部、その上に該長孔の短径を径とする上側くびれ部を有しており、上下のくびれ部の高さは通過する「2枚の板」のいずれの板厚より大きく、これら「2枚の板」の離反距離は、該円周円柱部の高さと該扁平板部の高さの合計よりも小さく、該円周円柱部の高さよりも大きいという構成である。
【0018】
この長孔には、円周円柱部を通過できない、扁平板部は通過させることはできるが回動させることができない、上下のくびれ部は通過も回動もさせることができる、という働きがある。
故に、長孔に上下いずれかのくびれ部が位置しており、扁平板部が長孔に嵌っていない状況では、ピンは高さ方向の移動ができなくなる。これをロック状態と呼ぶ。
【0019】
鋼矢板の吊り孔に出入りすることとなるブレ止めピンの出入り動は、該ピンを回動させることで行なうのであるが、回動自体は作業者が行なう。そこで、回動軸に直交する方向に桿材を設け、これを把手として回動させると良い。本発明においてはこの桿材をハンドルと呼ぶ。更に、自重でロック方向に回動する機能をハンドルが有していると便利である。これをピン固定ハンドルと呼び、これを設ける点を請求項4で提案した。
【0020】
ピン固定ハンドルは、ピンの回動軸から放射方向且つ一方向にのみ延出する部材である。従ってピンの回動軸が水平方向に配置されている環境下では、ピン固定ハンドルには鉛直方向に垂下する方向に回転しようとする力が働く。
これを利用して、1枚だけとなった鋼矢板を吊持する際に、ピン固定ハンドルが鉛直方向にあるときにロックがかかるように設計しておけば、安全性が高いものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る鋼矢板はがし治具は、鋼矢板端部を上下から挟持する切欠エリアを有する挟持体と、該挟持体に可回動に取設されるテコ桿とにより構成される治具であって、該挟持体には、挟持した鋼矢板端部の吊り孔に嵌って係止されるブレ止めピンを有するブレ防止機構部が設けられており、且つ該ブレ止めピンは、鋼矢板端部の吊り孔に嵌らない状態と嵌る状態のそれぞれでロックされるものであることを特徴とするものであり、以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
【0022】
(1) 作業者に求められる作業量が非常に少ない。
(2) 安全である。
(3) 引きはがしに動力源が必要でない。
(4) 取扱いが簡単であって、特別な技能を要しない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(a)(b)は本発明に係る鋼矢板はがし治具の一例を示すいずれも概略側面図である。
【
図2】本発明に係る鋼矢板はがし治具の挟持体部分の一例を示す概略斜視図である。
【
図3】
図2で示した挟持体の概略分解斜視図である。
【
図4】(a)(b)(c)(d)は本発明に係る鋼矢板はがし治具の使用方法の一例を、経時的且つ概略的に示す側面図である。
【
図5】本発明に係る鋼矢板はがし治具のハンドルの形状についての他の例を概略的に示す斜視図である。
【
図6】本発明に係る鋼矢板はがし治具の一例のテコ桿部分の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0024】
図1(a)(b)は、本発明に係る鋼矢板はがし治具1(以下本発明治具1という)の一例を示すものであり、挟持体2とテコ桿3が回動軸4部分で可回動に連結されているというものである。同図(a)の状態からテコ桿3を反時計方向に少し回動させた状態が同図(b)である。回動させることによって、本発明治具1が取設された鋼矢板Sは、その直下にある鋼矢板Sから離反しはがされることになる。本発明治具1の材質は本例では鉄を採用したがアルミニウムその他のものであっても良い。
【0025】
図2・
図3は、本発明治具1の挟持体2部分の一例を示したものであり挟持体2は、鋼矢板Sの端部を安全かつ確実に把持するという役割を担う部材である。なお
図3は、
図2の分解斜視図である。
本発明治具1で用いる鋼矢板Sの端部には、吊り孔Hが穿設されている。挟持体2には上側部材21と下側部材22がありこれらの間に切欠エリア23が形成されている。鋼矢板Sはこの切欠エリア23に嵌め込まれ、吊り孔Hが上下から挟まれるようにして挟持体2に挟持されることになる。
【0026】
挟持体2にはブレ防止機構部が設けられている。これは主として、上側部材21に設けられた孔とブレ止めピン5によって構成される。ブレ止めピン5は、上側部材21の上方から、切欠エリア23を通過して下側部材22に至る方向を上下する部材である。また上側部材21は間隔を空けて配置された2枚の板211と212より成り、上側部上板211には長孔6が、上側部下板212には円孔7が穿設されている。更に下側部材22は、本例の場合一枚の板材であり、円孔8が穿設されている。
【0027】
ブレ止めピン5は、下から順に円周円柱部51、その上に下側くびれ部52、その上に扁平板部53、その上に上側くびれ部54にて構成されており、最上部には手動でブレ止めピン5を回動させるためのハンドル9が固設されている。そしてこれら各部と、上述した長孔6、円孔7、円孔8の大きさ形状には関連があり、まず、円周円柱部51の外周は、円孔7と円孔8の内径よりも小さい。従って円周円柱部51は円孔7・円孔8に嵌り込むことができる。
【0028】
扁平板部53は概ね、円柱を、その中心軸からの離反距離が等しく且つ対向する二つの平行面で削ぎ落した形状のものであり、長孔6に嵌り込むことができる。嵌り込んだ状態では回動できないことが理想であるが、実際にはある程度の遊びが設けられる。
【0029】
下側くびれ部52と上側くびれ部54の径は、長孔6の短径よりも小さな径である。従って、下側くびれ部52又は上側くびれ部54が長孔6に嵌り込むことができるばかりでなく、嵌り込んだ状態でブレ止めピン5を回動させることができる。
【0030】
更に、上下のくびれ部52・54の高さは通過する「2枚の板」のいずれの板厚より大きく、これら「2枚の板」の離反距離は、該円周円柱部51の高さと該扁平板部53の高さの合計よりも小さく、該円周円柱部51の高さよりも大きく設計されている。
【0031】
これによって、ブレ止めピン5は挟持体2に、
図4(a)乃至(d)で示すような要領で出入りすることになる。なお、図では上側部材21の中の上側部上板211のみを描出し、上側部下板212の描出を省略している。従って、長孔6のみが描かれているが実際にはその鉛直下方には上側部下板212に穿設された円孔7が存在しており、下降してくる円周円柱部51を受け入れている。
また、ハンドル9については、極めて簡略に外形のみを描出している。
【0032】
本発明治具1は、積層された中で最上位置にある鋼矢板Sの端部に挟持体2を嵌め込むことから作業が開始されるのであるが、この待機状態では挟持体2の切欠エリア23空間内にブレ止めピン5が全く入っていない必要がある。これが
図4(a)である。
図4(a)の状態で長孔6に嵌り込んでいるのは、下側くびれ部52であって、且つ扁平板部53と長孔6の長軸方向はねじれの位置関係にあるので、外部からブレ止めピン5を回動させない限り、出没(上下動)できない。即ち、ロック状態にある。またこの時上側部上板211の下方に存在するのは円周円柱部51だけであり、上側部上板211と上側部下板212の板間距離は円周円柱部51の高さよりも大きいので、円周円柱部51の下端は上側部材21の内部に存在し、切欠エリア23に侵出していない。
【0033】
図4(a)の状態を維持したまま鋼矢板Sに本発明治具1をセットする(但し、ブレ止めピン5の出没の詳細を明確にするため鋼矢板Sについてもその描出を省略している)。セットは、長孔6・円孔7・円孔8と鋼矢板Sの吊り孔Hが揃うようにして行なう。セットが完了したら
図4(a)の状態(待機状態)を解除するためにハンドル9を回動させて扁平板部53と長孔6の長軸方向を揃え、扁平板部53を長孔6内に没入させる。するとブレ止めピン5は下降してゆく。
図4(b)は下降途中の状態を、
図4(c)は扁平板部53が長孔6を越えた瞬間を示すものである。
図4(b)の状態から
図4(c)直前の状態までは、ブレ止めピン5は回動させることができない(遊びはあるが)。
上側部上板211と上側部下板212の板間距離は円周円柱部51の高さと扁平板部53の高さの合計よりも小さいので、円周円柱部51の下端は上側部下板212から突出し、切欠エリア23に入り込むことになる。切欠エリア23には鋼矢板Sが嵌り込んでいるので、円周円柱部51はその吊り孔Hに嵌り込むことになる。
【0034】
図4(c)の状態では、上側くびれ部54が長孔6に入っている。この状態にあるとブレ止めピン5を回動させることができる。そこでハンドル9を回動させて
図4(d)の如く、扁平板部53と長孔6の長軸方向がねじれの位置関係にあるようにすると、円周円柱部51が吊り孔H内に存在した状態でブレ止めピン5が再びロックされることになる。
【0035】
即ち、最初のロック状態〔
図4(a)の状態〕では円周円柱部51は切欠エリア23に侵入しない状態が維持され、次のロック状態〔
図4(d)の状態〕では円周円柱部51は切欠エリア23にある鋼矢板Sの吊り孔Hに侵入した状態が維持されるということになる。
【0036】
図5は、ハンドル9の形状についての他の例を示すものである。本例のハンドル9は、ブレ止めピン5の回動軸部分から放射状に延出する金属棒であって、この回動軸が鉛直線から傾くと、ハンドル9自らの重力によって重心高さが低くなる位置まで回動するという挙動をとる。これによって、ロック状態の維持がより強固なものとなる可能性がある。
【0037】
図6は、本発明治具1のテコ桿3部分のみを示したものであり、挟持体2の一端(切欠エリア23が開口している端部の反対側端部)に、鋼矢板Sの長手方向と直交する回動軸31が設けられる形で可回動に取設される金属部材である。
【0038】
この回動軸31の両端には、挟持体2を左右から挟む位置に対向して配置される一対のテコ板がある。このテコ板の中ほどの位置に回動軸31があり、その一方は鋼矢板Sの隙間に入り込んでこの隙間を広げるために貢献する拡開部32が、他方にはクレーンフックを掛ける吊持部33が設けられている。全体としては両端に力点と作用点があるテコとなっており、回動軸31は支点、拡開部32は作用点、吊持部33は力点に相当する。
【0039】
テコ桿3は本来、鋼矢板Sの中央に差し込まれることが好ましい。鋼矢板Sの離反距離を広げる部材が、鋼矢板Sの水平部中央から偏った位置に設けられると、鋼矢板Sを捩じる方向に力を加えることになるからである。ところがブレ止めピン5が嵌り込む吊り孔Hが中央位置に設けられているため、挟持体2を左右から挟む形としなければ解決しなかったからである。
これによってテコ板同士が離反することになり、本例では吊持部33は、離反箇所を連結する鋼管となっている。この鋼管は挟持体2の幅分あるので、ここにクレーンフックを掛けた場合、この幅内をスライドできるものであると、はがし作業の途中で突然吊持位置が変わってしまう可能性がある。そこで本例では、この鋼管の中央から左右方向に移動しない回動板331を取設し、この回動板331に穿設された孔にクレーンフックを掛けるようにしている。
【符号の説明】
【0040】
1 本発明に係る鋼矢板はがし治具
2 挟持体
21 上側部材
211 上側部上板
212 上側部下板
22 下側部材
23 切欠エリア
3 テコ桿
31 回動軸
32 拡開部
33 吊持部
331 回動板
4 回動軸
5 ブレ止めピン
51 円周円柱部
52 下側くびれ部
53 扁平板部
54 上側くびれ部
6 長孔
7 円孔(上側部上板)
8 円孔(上側部下板)
9 ハンドル
S 鋼矢板
H 吊り孔