(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】自走式作業機
(51)【国際特許分類】
E01H 5/04 20060101AFI20230510BHJP
E01H 5/06 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
E01H5/04 B
E01H5/06 Z
(21)【出願番号】P 2019211458
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000171746
【氏名又は名称】株式会社ササキコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】甲地 重春
(72)【発明者】
【氏名】米澤 美鈴
(72)【発明者】
【氏名】梅田 洵平
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-203466(JP,A)
【文献】特開2000-054334(JP,A)
【文献】特開2017-176154(JP,A)
【文献】特開2017-089303(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01H 5/04
E01H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の両側部に配置して走行可能な走行部と、
前記車体の前方に昇降自在な作業部と、を備え、
前記作業部を連結すると共に、昇降するための回動支点を前記走行部の前後方向の中間部に設けた回動フレームと、
前記車体の
前端部から前方に突出させて設けた車体側取付部に一端部を連結させるとともに前記作業部から上方に向けて突出するように設けた作業部側取付部に他端部を連結させて前記作業部を昇降駆動させるシリンダと、
前記作業部側取付部には前記シリンダの他端部との連結を前記シリンダの動作と前記作業部の昇降を一致しないようにさせる長孔部と、
前記車体の前部の左右両端部からそれぞれ左右側方に突出するように車体に固定されたベースおよび前記ベースの上面から上方に突出させた規制部材からなり、前記回動フレームの中間部に前記規制部材が当接することで前記回動フレームの下方への回動を規制するとともに前記規制部材によって前記回動フレームの下方への回動規制高さを自由に変更できる回動規制部と、
を備え、
前記走行部の前輪側が上方へ浮き上がった場合の前記走行部の前輪側の浮き上がりは前記シリンダの連結部が前記長孔の下端に当接する、または、前記回動フレームの中間部が前記規制部材に当接するまで続く、
ことを特徴とする自走式作業機。
【請求項2】
前記車体の前部に配置したバッテリと、
前記車体の後部に1個以上配置すると共に前記車体に着脱自在に設け、前記走行部の接地荷重を調整可能な構成であるウェイトと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の自走式作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者によって操作あるいは自動で走行する自走式作業機であり、詳細には自走式作業機の走行性能に係る機体構成の細部に関する。
【背景技術】
【0002】
走行部を備え、前方に除雪等を行うためのブレードを有した作業部を備えた自走式作業機は、特許文献1によって除雪機として開示されている。この除雪機は、ブレードと連結された操作ハンドルを上下回動させることにより、ブレードを上下に回動可能であり、走行部に備えた走行用クローラベルトを駆動する電動モータを備え、電動モータを駆動するバッテリの重心が、走行用クローラベルトの前後に配置された駆動輪と従動輪の回転軸間に位置するように構成している。作業者は操作ハンドルを把持し、操作ハンドルと一体的に連結したブレードによって、雪を押し出して除雪作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の除雪機を使用する場合、ブレードが接触する路面の状況によって、ブレードの高さを逐一調節することが求められる。この場合、作業者が路面の状況を見極めながら、操作ハンドルを上下のいずれかの方向に回動させる必要がある。すると操作ハンドルと一体的に連結された機体前方部のブレードは、上下動を行い、路面に追従させている。これは、作業者が常時、路面状況を気にしながら操作ハンドルを上下させて、ブレード高さを調整し続ける課題を有している。
【0005】
したがって、本発明は上記課題に着眼してなされたものであり、軽労化を図りながらも、地面への適応性を向上させる自走式作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、車体と、車体の両側部に配置して前後への進行及び左右への旋回進行が可能な走行部と、車体の前方に昇降自在な作業部と、を備え、作業部を連結すると共に、昇降するための回動支点を走行部の前後方向の中間部に設けた回動フレームと、車体の前方に設け、作業部を昇降駆動させるシリンダと、作業部に設けたシリンダ及び作業部を連結させる長孔部と、回動フレームの中間部に配置され、回動フレームの下方への回動を規制する回動規制部と、を備えた自走式作業機であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、軽労化を図りながらも、作業対象への適応性を向上させる自走式作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の一例を示した自走式作業機の平面図である。
【
図2】実施形態の一例を示した自走式作業機を進行方向の左側から見た側面図である。
【
図3】実施形態の一例を示した自走式作業機を進行方向の後方側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1乃至
図3を参照して、本発明の一実施形態を説明する。説明においては、
図1に示す左側を進行方向に対する前方側、右側を進行方向に対する後方側、下側を進行方向の左側、上側を進行方向の右側、として説明する。また、
図2に示す下側を機体下方側、上側を機体上方側として説明する。また、図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付して、その説明を省略することがある。加えて、説明に用いる図面は模式的なものであり、各部の寸法との関係等は現実のものとは異なることがある。また、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
まず、発明の概要を説明する。本発明の自走式作業機は、車体10の進行方向の左右の側部に電動モータ26によって駆動可能に設けた走行部20を配置し、前後進行及び旋回進行が可能にされている。車体10及び走行部20の前方部には、左右に設けた走行部の外側の幅より広い幅のブレード31を有した作業部30が設けられている。作業部30はシリンダ38等で上下に昇降駆動が可能にされている。
【0011】
車体10の前方側の上部にはバッテリ40が設置されていて、電動モータ26やシリンダ38の電力源となっている。車体10の上部でバッテリ40の後方には制御部50が配置されていて、図示しない操作部の指令を受信、あるいは、制御部50に内蔵された図示しない記憶部に記憶された走行経路のデータを取り出すことによって、電動モータ26やシリンダ38等に駆動指令等を送信し、自走式作業機を駆動可能にしている。車体10の上部で制御部50の後方には、1個以上のウェイトが載置されていて、載置する個数を調整することで、自走式作業機の前後バランスを調整できる。
【0012】
各部を詳細に説明する。車体10は、前後方向に長い箱状に設けていて、自走式作業機の骨格となっている。箱状とすることで、内部に空間を形成して強度を確保しながらも軽量化を図っている。
【0013】
車体10の進行方向の左右の側部のそれぞれに、走行部20を配置する。走行部20は、クローラベルト21、駆動輪22、従動輪24、電動モータ26を備える。車体10の左右両側のそれぞれにクローラベルト21を設け、クローラベルト21の内周の前方部に前輪である駆動輪22と、内周の後方側に後輪である従動輪24を位置させ、電動モータ26を回転駆動させることによってクローラベルト21を転動させる。実施形態において、クローラベルト21の前後長は車体10より短くしているが、長くなってもよい。
【0014】
電動モータ26は車体10の前方側の左右側部のそれぞれに取り付けられている。また、伝動モータ26は出力軸を車体10に固定して設けるため、モータケース264側が回転駆動をする。モータケース264の外周に駆動輪22を固定しているため、駆動輪は電動モータ26によって回転駆動が可能である。なお、電動モータ26と駆動輪22の回転軸は同軸に設けられている。
【0015】
従動輪24は、車体10の後部の左右両側のそれぞれから突出させた回転軸に挿入され、回転自在に設けている。このため、前方の駆動輪22と後部の従動輪24とに巻き掛けられたクローラベルト21は、駆動輪22部に設けられた電動モータ26を正逆回転させることによって駆動され、自走式作業機は走行可能に設けている。なお、左右のクローラベルト21の作動部分は、左右対称な構造となっている。
【0016】
電動モータ26の重心はクローラベルト21の幅内に位置させている。構成部品の中でも比較的重量がある電動モータ26の重量は、直接クローラベルト21の接地圧に作用して駆動力を向上させる。また、駆動輪22の回転軸と同軸に、他の構成部品に比べ比較的重量のある電動モータ26が位置することにより、自走式作業機全体の重心を低く抑えることができる。これにより、前後左右に傾斜した場合でも左右のクローラベルト21の駆動力の変化が少なく、転倒の危険性も少なく、取り扱い性が良好な構造とすることができる。さらに、電動モータ26がクローラベルト21内に位置するため、機体のいずれかの場所に改めて電動モータ26等の駆動源を設置するスペースを省略でき、機体全体の構成をコンパクトにできる。
【0017】
駆動輪22が車体10前方に、車体10の後方には従動輪24が配置され、これに巻き掛けたクローラベルト21によって前後進する。前後進は、駆動輪22部に設けた電動モータ26の正逆回転によって駆動輪22を回転させ駆動される。後述する車体10前方部の作業部30のブレード31を用い、前進して雪を押す場合、駆動輪22は電動モータ26を正回転し車体が前進する。正回転することによりクローラベルト21の非接地面である上面側が前方に引っ張られた状態となる。後方の従動輪24は遊動状態であるためクローラベルト21の接地面側も張られた状態となり、クローラベルト21の接地面全体が均等に地面を押し付けて駆動力を有効に発揮する。このことから、駆動輪22は前方側に配置するのが牽引性能を向上させるので有効である。
【0018】
車体10及び走行部20の前方部には、作業部30を位置させている。作業部30は雪等を押し出す作業をする部位であり、ブレード31を有する。前方に位置するブレード31は、後方に向けて突出するように湾曲させた板状部材であり、進行方向左右端部には押し出す雪等の押し出す対象物を側方に逃がさないための側板を設けている。また、ブレード31は例示したように、平面視において、進行方向と直交する向きに前面に凹部面を形成した形状に限られず、前後方向に傾斜配置させたり、前後方向に傾斜したブレード31をV字状に対向させて配置させたりしてもよい。また、作業部30は雪等の押し出す作業をするものとして例示したが、ブレード31に変えて草を刈るための駆動する刃部等を有したものであってもよい。
【0019】
作業部30は、ブレード31を車体10に対し上下方向に回動させるために、車体と連結する回動フレーム35を有している。回動フレーム35は、ブレード31の進行方向に対する左右両端部のそれぞれから後方に向けて延ばされている。回動フレーム35の後端部には回動ボス37が設けられていて、車体10左右側面の中央部に設けた回動支点軸36に挿通されている。ブレード31は回動フレーム35を介して、上下昇降が自在である。
【0020】
さらにブレード31の昇降を駆動可能にするシリンダ38が取り付けられている。シリンダ38は、車体10の前端部の左右に対する中央部から前方に突出した車体側取付部381と、ブレード31の後部から上方に向けて突出した作業部側取付部384に連結されている。車体側取付部381には孔382を設けていて、ピン等の支点軸383によってシリンダ38の一端部を回動自在に連結する。シリンダ38の他端部が取り付けられる作業部側取付部384には上下方向に長い長孔385を設け、これにピン等の支点軸386を通してシリンダ38の他端部を連結する。なお、実施形態において、シリンダ38はバッテリ40を電源として動作する電動シリンダを採用しているが、伸縮駆動可能であれば駆動の動力源に限定はない。
【0021】
長孔385によって、シリンダ38の伸縮とブレード31の上下動は必ずしも一致しない。具体的に述べると、シリンダ38が伸長して長孔385の上端に支点軸386が当接すると、初めてブレード31が上昇する。また、長孔385の上端に支点軸386が当接した状態の場合、ブレード31は長孔385の下端に支点軸386が当接するまで、上方に自由に回動自在である。反対に、シリンダ38が短縮する場合は、長孔385の上端に支点軸386が当接したまま、ブレード31が下降する。この時、地面並びに障害物等がブレード31の下部に当接して、ブレード31の下降が阻害されると、ブレード31の上下位置はそのままに、シリンダ38のみが短縮する。シリンダ38の短縮は、支点軸386が長孔385の下端に当接するまで行われる。
【0022】
このように長孔385によるシリンダ38に対する不感帯があることで、シリンダ38を頻繁に操作しなくてもよくなる。また、ブレード31が長孔385の範囲内で自由に上下動できるため、地面の凹凸にブレード31を追従させることができる。また、自走式作業機を操縦する作業者は、地面の凹凸による作業部30の昇降の操作を減らすことができる。したがって、ブレード31を地面の凹凸に適応させながら、作業者による操縦回数を減らせた軽労化につながる。
【0023】
作業部30を昇降駆動するシリンダ38を、作業部30の前部である、ブレード31の後方且つ回動フレーム35の前方部に配置している。このような配置にすることで、シリンダ38を回動フレーム35の回動支点軸36の近傍を連結するよりも、シリンダ38は少ない推力で済ませられる。したがって、シリンダ38を小型化することができるので、機体の寸法の拡大を抑制し、且つ、作業部30の前方への突出を可及的に少なくすることができる。したがって、操縦者は、機体の周囲の障害物を気にすることが減るため、機体の操縦が容易になる。
【0024】
作業部30には、作業部30の下方への回動を規制する回動規制部39が、車体10の前部の左右両端部に設けられている。回動規制部39は、ベース391と、規制部材392を設けている。ベース391は、車体10の前部の左右両端部からそれぞれ左右側方に突出するように配置され、車体10に固定されている。規制部材392は、ベース391の進行方向外側の端部に配置する。この実施形態の場合、規制部材392は六角の頭部を有するボルトである。
【0025】
規制部材392の頭部は回動フレーム35の下方に配置すると共に、ベース391の下面から離間させるように配置していて、ベース391の上面からねじ部を上方に突出させている。回動フレーム35は、下方への回動時に規制部材392のねじ部の上端が当接することで、下方への回動が規制される。規制部材392は、ベース391にねじによって差し込まれているので、規制部材392の頭部を回転させることによって、回動フレーム35の回動規制高さを自由に変更できる。
【0026】
ブレード31は、地面の凹凸に追従機能を有することは前述のとおりであるが、この凹凸の傾斜が急だったり、激しく突出したりするような場所では、追従できない場合がある。また、路面からブレード31を意図的に離して使用したい場合がある。具体的な例の一部を述べると、視覚障害者用誘導用ブロックを有した凹凸が激しい路面や、石畳等の段差を有する路面、砂利を敷き詰めた路面であって、この砂利を動かしたくない場合等が相当する。このような路面でブレード31を使用して除雪等の押し出し作業をする場合、予め回動規制部39によって回動フレーム35の下方への回動を規制して行う。
【0027】
回動規制部39によって作業部30の下方への回動を規制することで、路面上に存在する凹凸を避ける高さ、あるいは、地表面の物体を移動させない高さにブレード31が位置するように設定できる。このようにすることで、路面上の突出部や凹凸部に注意を払う必要がなくなるため、操縦者による操作が簡略化でき、軽労化が図れる。また、制御部50によって自動で高さを調整する場合においても、高さを逐一調整するための一連の装置が不要になるため、機体が簡素化される。結果、機体重量が軽量にでき、機体の機動は軽快にすることができる。このため、操縦者は意のままに機体を動かすことができるので、作業者への心理的負担が減り、軽労化に繋がる。ブレード31の下方への回動規制位置を変更するには、ベース391から上方に突出する規制部材392の突出量を調整することによって行う。
【0028】
車体10の上部で前方部にはバッテリ40が位置していている。バッテリ40は、後述する制御部50を介して電動モータ26、シリンダ38に電力を供給する電力供給減である。この実施形態の場合、バッテリ40は前後に2個並べて置いているが、1個以上であればよい。バッテリ40は、側面視において、バッテリ40の重心41が、前輪である駆動輪22の回転軸のほぼ直上に位置するように配置している。また、重心41は、駆動輪22の回転外周径の上部よりやや高い位置で、クローラベルト21の周転外周の上面部の高さとほぼ同じ高さになるようにバッテリ40を配置している。
【0029】
また、バッテリ40の重心41は、駆動輪22の回転軸芯から外周までの距離である半径22aに対する、駆動輪22の回転軸芯からバッテリ40の重心41までの距離41aは、0.8~1.8倍に収めていることが好ましい。さらに望ましくは、1.0~1.6倍に収めることが良い。実施形態の場合、最も好適な1.31倍に設定している。実施形態で採用した具体的な数値を述べると、半径22aは108mmであり、距離41aは142mmである。
【0030】
バッテリ40の重心41の位置により、バッテリ40の重量が駆動輪22に直接的に掛かることになり、クローラベルト21の駆動力の向上に寄与することができる。また、走行部20に対して搭載するバッテリ40の重心41を可及的に下げることで、走行部20は傾斜を有した路面でも転倒することなく安定した走行を可能にする。なお、平面視におけるバッテリ40の重心41は、機体の左右に対するほぼ中央部に位置している。
【0031】
この実施形態の場合、バッテリ40の重心41は、2つのバッテリを合計した重心として表しているが、搭載した1個以上のバッテリの重心が上記した位置であれば良い。
【0032】
車体10の前後に対する中央部の上方、且つ、バッテリ40の後方に制御部50を配置している。制御部50は図示しない操作部によって操作された信号を受信し、電動モータ26、シリンダ38に電力を供給するか否か、あるいは、この供給量を制御する。また、制御部50に記憶された動作パターンを実行するための指令を出して、電動モータ26、シリンダ38に電力を供給するか否か、あるいは、この供給量を制御することもできる。
【0033】
車体10の後部で制御部50の後方に、重量負荷であるウェイト60を配置している。ウェイト60は車体10に対し取り外し可能に設けている。ウェイト60は、車体10上の後方で左右の両端部のそれぞれから突出させた固定板62の間で、ボルトとナットからなる係止部材63を貫通させることによって、車体10に係止されている。このため、走行時に車体10から落下することがない。この実施形態の場合、ウェイト60は鉄製の板14個で表現しているが、取り外しできればよいため、1個以上であればこの目的を果たせる。また、鉄製のウェイトに限らず、液体を入れたタンク等の容器を搭載してもよい。この場合、重量負荷は液体であり、この液体をタンク等の容器に流出入させることによって、重量負荷を取り外し可能であるといえる。
【0034】
ウェイト60は車体10の後部に搭載しているので、車体10からウェイト10を取り外す場合、取り外す動線上に邪魔になる障害物等の配置がなく、作業者にとって取り外し作業が容易である。
【0035】
側面視において、ウェイト60の重心61は、後輪である従動輪24の回転軸の直上、やや後方に位置している。また、重心61は、従動輪24の回転外周径の上部よりやや高い位置で、クローラベルト21の周転外周の上面部の高さとほぼ同じ高さになるように設定されている。なお、平面視におけるウェイト60の重心61は、機体の左右に対するほぼ中央部に位置している。
【0036】
また、ウェイト60の重心61は、従動輪24の回転軸芯から外周までの距離である半径24aに対する、従動輪24の回転軸芯からウェイト60の重心61までの距離61aは、0.8~1.8倍に収めていることが好ましい。さらに望ましくは、1.0~1.6倍に収めることが良い。実施形態の場合、最も好適な1.35倍に設定している。実施形態で採用した具体的な数値を述べると、半径24aは108mmであり、距離61aは146mmである。
【0037】
設定されたウェイト60の重心61の位置により、ウェイト60の重量が従動輪24に直接的に掛けることができるので、ウェイト60による重量負荷を受けたクローラベルト21は駆動力を向上させる。また、走行部20に対して搭載するウェイト60の重心61が低いので、走行部20は傾斜を有した路面でも転倒することなく、安定した走行を可能である。
【0038】
バッテリ40の重心41及びウェイト60の重心61が駆動輪22及び従動輪24のそれぞれの回転軸芯に近づけることを実現しているので、結果として、機体全体の全高を低くできる。バッテリ40の上面までの高さ41b、又は、ウェイト60の上面までの高さ41bの内、少なくともいずれか一方は、走行部30の高さである地面からクローラベルト21の高さ21aの好適である1.0~2.0倍に高さを設定している。実施形態において、地面からバッテリ40の上面までの高さ41b及びウェイト60の上面までの高さ41bは、最も好適である、クローラベルト21の高さ21aのほぼ1.4倍としている。
【0039】
本発明の自走式作業機の構成によると、バッテリ40の上面までの高さ41b及びウェイト60の上面までの高さ41bを低くすることができるため、機体の全高を低くできる。機体の全高の低位化は、自走式作業機で作業できる場所を広げることが可能である。具体的には、機体の直上の近い空間に障害物が配置されている場所でも、容易に潜り込むようにして押し出し作業や走行ができる。
【0040】
機体全体の重心について説明する。本発明の自走式作業機は、車体10、走行部20、作業部30、バッテリ40、制御部50によって構成され、さらに着脱自在なウェイト60が取り付く構成である。このため、機体全体の重心位置は、ウェイト60の積載の有無によって変化する。
【0041】
ウェイト60の車体10への積載が満載時の機体全体の重心G1は、側面視において、駆動輪22と従動輪24の間で、回動フレーム35の回動支点軸36より後方に位置する。また、ウェイト60満載時の機体全体の重心G1の高さは、クローラベルト21の周転外径の上面とほぼ同じか、これより下方に位置している。また、ウェイト60が満載時の機体全体の重心G1は、側面視において、駆動輪22の上部と、従動輪24の上部を結んだ線分の近傍に位置している、とも言える。
【0042】
他方、ウェイト60の車体10への積載が空載時の機体全体の重心G2は、側面視において、前記満載時の機体全体の重心G1より前方に位置し、回転軸芯の直上よりやや後方、駆動輪22の回転半径内に収められる。また、空載時の機体全体の重心G2の高さは、前記満載時の機体全体の重心G1より下方に位置し、ローラベルト21の周転外径の上面より下方の駆動輪22の回転半径内に収められている。また、ウェイト60が空載時の機体全体の重心G2は、側面視において、駆動輪22の上部と、従動輪24の上部を結んだ線分より下方に位置している、とも言える。
【0043】
ウェイト60は、1個以上であれば、積載状態に応じて、満載時の機体全体の重心G1と空載時の機体全体の重心G2とで2つの位置を選択可能となる。実施形態のように、ウェイト60を複数に分割して設けた場合は、満載時の機体全体の重心G1と空載時の機体全体の重心G2の間で、ウェイト60の分割数に応じた複数の位置を選択できる。この場合の重心位置は、ウェイト60を満載状態から空載状態に減少させる毎に、満載時の機体全体の重心G1から空載時の機体全体の重心G2に向かって、それぞれの重心位置を結んだ直線上の近傍で、段階的に遷移する。また、前述したように、ウェイト60を液体とした場合も同様に、液体の注入量に応じて機体全体の重心位置を変化させることができる。
【0044】
例示した実施形態において、機体全体の重心位置は、駆動輪22の回転軸芯から従動輪24の回転軸芯との距離を100%とした比率で表すと、ウェイト60を満載状態で、駆動輪22の回転軸芯から満載時の機体全体の重心G1の距離は58%、満載時の機体全体の重心G1から従動輪24の回転軸芯との距離は42%となる。他方、ウェイト60が空載状態では、駆動輪22の回転軸芯から空載時の機体全体の重心G2の距離は12%、空載時の機体全体の重心G2から従動輪24の回転軸芯との距離は88%となる。したがって、ウェイト60の積載量に応じて、機体全体の重心の距離比率も順次変化させることができる。
【0045】
機体全体の重心位置は、駆動輪22と従動輪24が直接地面に与える分担荷重に直接影響する。本発明の構成による自走式作業機の場合、前輪である駆動輪22の分担荷重比率は、クローラベルト21が走行する路面に対してスリップせず、且つ、駆動輪22を駆動する電動モータ26の回転負荷を低くできるように調整できる。駆動輪22の分担荷重とは、車体10の左右に配置された走行部3の駆動輪22に掛かる荷重の合計である。
【0046】
本発明の構成による自走式作業機を用いて、雪等の対象物を押し出す作業を行う場合、ブレード31の前方に押出対象物を当接させて、さらに走行部3によって前進させながら押し出し作業をする。この時、ブレード31は湾曲させた凹面に押し出し対象物が載った状態であるため、地面に対して相対的に上昇しにくくなるように下方に荷重がかけられ、且つ、地面との摩擦抵抗によって、機体を相対的に後方に押す力がかけられる。また、走行部3の前進しようとする駆動力は、回動フレーム35を介してブレード31に伝えられ、ブレード31を前方に向けて押し出す力となる。さらに、ブレード31は、作業部30側取付部384に設けた長孔385によって、回動フレーム35が長孔385の範囲内で回動自在状態である。
【0047】
上記の点を総合した結果として、作業部30で前方に向けて押し出し作業をする場合、走行部3は前輪である駆動輪22側が上方に浮き上がろうとする力が掛かり、駆動輪22側の分担荷重が減少する。この時に、駆動輪22側の分担荷重が過少になってしまうと、
駆動輪22側が上方へ浮いてクローラベルト21の接地面積が減る。結果、機体はスリップしたり、操舵性能が低下したりして走行が困難になる。走行ができないと当然、雪等の対象物を押し出す作業が困難になる。なお、駆動輪22側の上方への浮き上がりは、支点軸386が長孔385の下端に当接する、あるいは、回動フレーム35の中間部が回動規制部39の規制部材392に当接するまで続く。
【0048】
反対に、駆動輪22側の分担荷重が過大になってしまうと、従動輪22側が上方へ浮いてクローラベルト21の接地面積が減る。言うまでもないが、当然、機体はスリップしたり、操舵性能が低下したりして走行が困難になる。また、この状態のとき作業部30で対象物を持ち上げると、駆動輪22を中心にして自走式作業機は前方に回動することもあり、安全上、好ましくない。これらの不都合を避けるため、前輪である駆動輪22の分担荷重比率は、適宜変更できるのが良いのである。
【0049】
押し出す対象物を雪とした場合を想定して、具体的に述べる。雪は地域や降雪時期、気象条件によって、雪質が異なることが知られている。例えば、雪に含まれる水分が少ない粉雪や、水分を多量に含んだみぞれ雪などが挙げられる。つまり、重量密度を比較した場合、粉雪とみぞれ雪とでは大きく差があるのである。また、押し出し抵抗で比較しても、軽い粉雪は押し出し抵抗が小さく、重いみぞれ雪は押し出し抵抗が大きい。したがって、走行部3への影響は、粉雪では走行部3の駆動輪22側が上方に浮き上がろうとする力が弱く、みぞれ雪では走行部3の駆動輪22側が上方に浮き上がろうとする力が粉雪と比較して強い。この点を考慮すると、押し出す対象物の重量あるいは密度によって、前輪である駆動輪に掛かる分担荷重を適正にする必要がある。分担荷重を調整する場合は、ウェイト60を着脱して、重心位置を調整することによって行う。
【0050】
ウェイト60を着脱する場合は、車体10にウェイト60を係止している係止部材63を取り外すことによって、着脱自在になる。作業者がウェイト60を車体10の後方から所望する個数分のウェイト60を取り外した後は、車体10に残っているウェイト60を係止部材63によって係止する。
【0051】
上記した構成による本発明の自走式作業機は、シリンダ38を作業部30の前方部に配置したことにより、機体の寸法の拡大を抑制でき、機体の操作に係る取り扱い性を向上できる。シリンダ38と作業部30を連結させる作業部側取付部384に長孔385を設けたことにより、作業部30が長孔385の範囲内で自由に上下動ができるので、機体操作を簡略し、結果、軽労化につながる。また、回動規制部39よって作業部30の下方への回動を規制できるので、地面の激しい凹凸部等を気にせずに作業でき、心理的負担が減り軽労化になる。また、重心位置を自由に変更できるので、機体の安定した走行が可能になるため、作業者の操縦に掛かる負担が減る。
【0052】
本発明は、上記の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。例えば、走行部20はクローラベルト21を用いた構造で説明したが、複数個の車輪を用いた構造でもよい。また、図示しない操作部は遠隔操作可能であると説明したが、自走式作業機と一体に構成した操作部であってもよい。作業部30は車体10の前方で昇降可能である構造で説明したが、車体10の前方以外の場所に配置したりしても良い。このように、この開示に基づく実施形態、実施例及び運用技術の改変は、特許請求の範囲に記載された範囲内で可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、機体にクローラベルトやタイヤ等を有した走行部と、押し出し作業可能な作業部を備えた自走式作業機に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
10 車体
20 走行部
21 クローラベルト
22 駆動輪
24 従動輪
30 作業部
31 ブレード
35 回動フレーム
36 回動支点軸
38 シリンダ
385 長孔
39 回動規制部
391 ベース
392 規制部材
40 バッテリ
41 バッテリの重心
41a 重心距離
60 ウェイト
61 ウェイトの重心
61a 重心距離
63 係止部材
G1 ウェイト満載時の機体全体の重心
G2 ウェイト空載時の機体全体の重心