(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】核酸の安定化及び分離を行う方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20230510BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20230510BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12Q1/6851 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2019544948
(86)(22)【出願日】2017-11-08
(86)【国際出願番号】 CA2017051329
(87)【国際公開番号】W WO2018085928
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-04
(32)【優先日】2016-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514022464
【氏名又は名称】クヴェッラ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テールブプール,サマド
(72)【発明者】
【氏名】カイン,アイ アイ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-525234(JP,A)
【文献】特表2016-500008(JP,A)
【文献】特表平08-506340(JP,A)
【文献】Maize Seeds Sampling and DNA Extraction,Report on the Validation of a DNA Extraction Method from Maize Seeds,2007年08月03日,https://gmo-crl.jrc.ec.europa.eu/summaries/MIR604_DNAExtr.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルから核酸を放出させるようにサンプルを処理する方法であって、
サンプルと溶解及び安定化試薬を含む混合物を形成するステップであって、該溶解及び安定化試薬は、サンプル中に存在する細胞を溶解し細胞から放出される核酸と複合体を形成可能なカチオン界面活性剤を含み、該溶解及び安定化試薬は、核酸分解を安定化させ防止するのに十分な量で提供される、ステップ;
前記混合物から前記複合体を分離するステップ;
前記分離した複合体を水溶液中に再懸濁し、それにより前記分離した複合体を含む水性懸濁液を得るステップ;並びに
前記複合体の解離に適した時間にわたり前記水性懸濁液を
少なくとも70℃超の温度に加熱し、それによりそれから核酸を放出させるステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記水性懸濁液を少なくとも80℃超に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性懸濁液を少なくとも1分間加熱する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性懸濁液をそれに印加される電流を介したジュール加熱によって加熱する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルが血液含有サンプルである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルが全血サンプルである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記全血サンプルを、前記溶解及び安定化試薬を含む採血容器に直接サンプリングする、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記採血容器がPAXgene(TM)管である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を1回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記複合体をろ過により分離する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を2回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、請求項
6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
サンプルに対して分子アッセイを行い、サンプルから放出される核酸を検出する方法であって、
(a)サンプルと溶解及び安定化試薬を含む混合物を形成するステップであって、該溶解及び安定化試薬は、サンプル中に存在する細胞を溶解し細胞から放出される核酸と複合体を形成可能なカチオン界面活性剤を含み、該溶解及び安定化試薬は核酸分解を安定化させ防止するのに十分な量で提供される、ステップ;
(b)前記混合物から前記複合体を分離するステップ;
(c)前記分離した複合体を水溶液中に再懸濁し、それにより前記分離した複合体を含む水性懸濁液を得るステップ;
(d)前記複合体の解離に適した時間にわたり前記水性懸濁液を
少なくとも70℃超の温度に加熱し、それにより前記複合体から放出される核酸を含む核酸溶液を形成するステップ;並びに
(e)前記核酸溶液中に存在する核酸を検出するためのアッセイを行うステップであって、該アッセイは核酸抽出なしで行われる、ステップ
を含む方法。
【請求項13】
前記アッセイが、前記核酸溶液の少なくとも一部を、バイオマーカーを検出するように構成されたプライマーセットを含むアッセイ試薬と接触させることにより行われるバイオマーカーアッセイである、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオマーカーがメッセンジャーRNAバイオマーカーである、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記メッセンジャーRNAバイオマーカーが、イントロンの少なくとも一部を含むゲノム領域と関連している、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記バイオマーカーが、感染に対する宿主の応答と関連している、請求項
13に記載の方法。
【請求項17】
前記アッセイ試薬が第1のアッセイ試薬であり、前記プライマーセットが第1のプライマーセットであり、前記方法がさらに:
前記核酸溶液の少なくとも一部を、ハウスキーピング遺伝子と関連するハウスキーピングメッセンジャーRNAを検出するように構成された第2のプライマーセットを含む第2のアッセイ試薬と接触させることによりハウスキーピング遺伝子アッセイを行うステップ
を含み、
前記バイオマーカーアッセイが、前記核酸溶液中に存在するバイオマーカーの量を定量するバイオマーカー逆転写アッセイ結果を生成するものであり、前記ハウスキーピング遺伝子アッセイが、前記核酸溶液中に存在するハウスキーピングメッセンジャーRNAの量を定量するハウスキーピングアッセイ結果を生成する、請求項
13に記載の方法。
【請求項18】
バイオマーカー逆転写アッセイ結果とハウスキーピングアッセイ結果とを比較する比較測定値をさらに計算する、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
異なる時点で得られたサンプルに対してステップ(a)~(e)を1回又はさらに多くの回数行うこと;及び
前記異なる時点と関連する比較測定値を処理して、時間依存的宿主応答を推測すること
をさらに含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記プライマーセットが第1のプライマーセットであり、前記アッセイ試薬が選択した遺伝子と関連するゲノムDNAを検出するように構成された第2のプライマーセットをさらに含み、前記アッセイが、前記核酸溶液中に存在するバイオマーカーの量を定量するバイオマーカー逆転写アッセイ結果、及び前記核酸溶液中に存在するゲノムDNAの量を定量するゲノムDNAアッセイ結果を生成し、第1のプライマーセット及び第2のプライマーセットにより増幅される産物にそれぞれ関連したシグナルは融解曲線分析によって識別される、請求項
13に記載の方法。
【請求項21】
前記選択した遺伝子の少なくとも一部がイントロンの少なくとも一部を含む、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
バイオマーカー逆転写アッセイ結果とゲノムDNAアッセイ結果とを比較する比較測定値をさらに計算する、請求項
20に記載の方法。
【請求項23】
異なる時点で得られたサンプルに対してステップ(a)~(e)を1回又はさらに多くの回数行うこと;及び
前記異なる時点と関連する比較測定値を処理して、時間依存的宿主応答を推測すること
をさらに含む、請求項
20に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(b)~(e)を自動機器の制御下で使い捨てカートリッジ内で行う、請求項
12~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記水性懸濁液を少なくとも80℃超に加熱する、請求項
12~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記水性懸濁液を少なくとも1分間加熱する、請求項
12~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記水性懸濁液をそれに印加される電流を介したジュール加熱によって加熱する、請求項
12~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記サンプルが血液含有サンプルである、請求項
12~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記サンプルが全血サンプルである、請求項
12~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記全血サンプルを、前記溶解及び安定化試薬を含む採血容器に直接サンプリングする、請求項
29に記載の方法。
【請求項31】
前記採血容器がPAXgene(TM)管である、請求項
30に記載の方法。
【請求項32】
前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を1回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、請求項
12~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記複合体をろ過により分離する、請求項
12~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を2回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、請求項
12~31のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、「METHODS OF PERFORMING NUCLEIC ACID STABILIZATION AND SEPARATION」と題した、2016年11月8日出願の、米国特許仮出願第62/419,340号の優先権を主張し、この内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、サンプルから核酸を分離する方法に関する。いくつかの態様において、本開示は、全血サンプルに対する迅速なmRNAバイオマーカーアッセイを行うことを含む、迅速なトランスクリプトームプロファイリングの方法に関する。
【背景技術】
【0003】
カチオン界面活性剤(サーファクタント)は、サンプル中の細胞の溶解のための、また種々の形態のRNAなどの核酸の安定化のための作用剤として好適であることが知られている。例えば、米国特許第5,010,183号及び同第5,728,822号においてMacfarlaneは、サンプルと混合したときに、カチオン界面活性剤がサンプル内の細胞を効果的に溶解する一方で、細胞から放出された核酸との複合体を形成して核酸を安定化し、遺伝子誘導を防止する方法を教示している。残念ながら、当技術分野で教示されているように、核酸の放出のためのそのような複合体のその後の処理には、核酸抽出を含む複雑な工程が必要であり、これは自動化システムでは容易に実施されない。
【発明の概要】
【0004】
サンプルと、カチオン界面活性剤を含む溶解及び安定化試薬との接触を介して、サンプルから核酸を安定化及び分離するための方法が提供される。カチオン界面活性剤はサンプル中の細胞を溶解し、核酸-サーファクタント(NAS)複合体の形成を介して放出された核酸を安定化する。NAS複合体を遠心によって沈殿させ、洗浄し、水性再懸濁液に再懸濁し、NAS複合体懸濁液を形成する。懸濁液を熱処理してNAS複合体を崩壊させ、それにより核酸を放出させ、そして核酸溶液を形成させる。いくつかの例示的な実施形態では、水性再懸濁液は、さらなる核酸抽出がなくても核酸溶液を分子増幅アッセイの実施のために使用できるように、分子増幅アッセイを実施するのに好適となるように選択される。本発明の方法がトランスクリプトームバイオマーカーアッセイを実施するのに適している例が提供される。
【0005】
したがって、第1の態様では、サンプルから核酸を放出させるようにサンプルを処理する方法が提供され、その方法は、
サンプルと溶解及び安定化試薬を含む混合物を形成するステップであって、該溶解及び安定化試薬は、サンプル中に存在する細胞を溶解し細胞から放出される核酸と複合体を形成可能なカチオン界面活性剤を含み、該溶解及び安定化試薬は、核酸分解を安定化させ防止するのに十分な量で提供される、ステップ;
前記混合物から前記複合体を分離するステップ;
前記分離した複合体を水溶液中に再懸濁し、それにより前記分離した複合体を含む水性懸濁液を得るステップ;並びに
前記複合体の解離に適した時間にわたり前記水性懸濁液を50℃を超える温度に加熱し、それによりそれから核酸を放出させるステップ
を含む。
【0006】
別の態様では、サンプルに対して分子アッセイを行い、サンプルから放出される核酸を検出する方法が提供され、その方法は、
(a)サンプルと溶解及び安定化試薬を含む混合物を形成するステップであって、該溶解及び安定化試薬は、サンプル中に存在する細胞を溶解し細胞から放出される核酸と複合体を形成可能なカチオン界面活性剤を含み、該溶解及び安定化試薬は核酸分解を安定化させ防止するのに十分な量で提供される、ステップ;
(b)前記混合物から前記複合体を分離するステップ;
(c)前記分離した複合体を水溶液中に再懸濁し、それにより前記分離した複合体を含む水性懸濁液を得るステップ;
(d)前記複合体の解離に適した時間にわたり前記水性懸濁液を50℃を超える温度に加熱し、それにより前記複合体から放出される核酸を含む核酸溶液を形成するステップ;並びに
(e)前記核酸溶液中に存在する核酸を検出するためのアッセイを行うステップであって、該アッセイは核酸抽出なしで行われる、ステップ
を含む。
【0007】
以下の詳細な説明及び図面を参照することにより、本開示の機能的かつ有利な態様をさらに理解することが可能になる。
【0008】
次に、単なる例示目的で、図面を参照しながら各実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】カチオン界面活性剤を用いて核酸を分離するためのサンプルの処理方法の例を説明するフローチャートである。
【
図1B】カチオン界面活性剤を用いて核酸を分離し、続いて核酸抽出ステップなしで分子アッセイを行うためのサンプルの処理方法の例を説明するフローチャートである。
【
図2B】全血サンプルを処理して得られたリソソーム関連膜タンパク質1(LAMP1)mRNA及びゲノムDNA検出のリアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT-PCR)及びリアルタイムPCRシグナルのプロットである。
【
図2C】全血サンプルを処理して得られたグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNA及びゲノムDNA検出のリアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT-PCR)及びリアルタイムPCRシグナルのプロットである。
【
図2D】
図2AのリアルタイムRT-PCR及びリアルタイムPCRの終了時における増幅産物の融解ピークのプロットである。
【
図2E】
図2BのリアルタイムRT-PCR及びリアルタイムPCRの終了時における増幅産物の融解ピークのプロットである。
【
図3】
図4に示される結果に関する処理パラメータを示す表である。
【
図4】ある範囲の異なる保存条件及び時間に対する、バイオマーカー及びハウスキーピング遺伝子アッセイ結果を示す表である。
【
図5】
図6に示される結果に関する処理パラメータを示す表である。
【
図6】ある範囲の異なる保存条件及び時間に対する、バイオマーカー及びハウスキーピング遺伝子アッセイ結果を示す表である。
【
図8A】リアルタイムRT-PCRアッセイサイクル回数によって実証された、温度に対する核酸-サーファクタント複合体崩壊の依存性を示す表である。
【
図8B】リアルタイムRT-PCRアッセイサイクル回数によって実証された、処理温度に対する核酸-サーファクタント複合体(NAS複合体)崩壊の依存性をプロットする。
【
図9】
図10に示される結果に関する処理パラメータを示す表である。
【
図10】95℃の温度での熱インキュベーション時間に対するリアルタイムRT-PCRアッセイサイクル回数の依存性を示す表である。
【
図11】
図12に示される結果に関する処理パラメータを示す表である。
【
図12】RT-PCRアッセイサイクル回数に対する異なる熱処理方法の効果を示す表である。
【
図13】
図14に示される結果に関する処理パラメータを示す表である。
【
図14】RT-PCRアッセイサイクル回数に対する洗浄サイクルの効果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の種々の実施形態及び態様が、以下の詳細な議論を参照して記載される。以下の説明及び図面は、本開示の例示であり、本開示を限定すると解釈すべきではない。多数の具体的詳細が、本開示の種々の実施形態の完全な理解を提供するために記載される。しかし、特定の例では、周知又は従来の詳細は、本開示の実施形態の正確な議論を提供するために、記載されていない。
【0011】
本明細書で使用する場合、用語「含む」及び「含むこと」は、包括的でオープンエンドであると解釈すべきであり、排他的ではない。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、用語「含む」及び「含むこと」並びにそれらの変化形は、特定された特徴、ステップ又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は構成要素の存在を排除すると解釈すべきではない。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「例示的(exemplary)」は、「例えば(example)、例として(instance)又は例示(illustration)として機能すること」を意味し、本明細書に開示される他の構成よりも好ましい又は有利であると解釈すべきではない。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「約」及び「およそ」は、値の範囲の上限及び下限に存在し得る変動、例えば性質、パラメータ及び寸法の変動をカバーすることを意味する。他に特定されない限り、語句「約」及び「およそ」は、プラス又はマイナス25%以下を意味する。
【0014】
別段の指定がない限り、任意の指定された範囲又は群は、ある範囲又は群のそれぞれ及び全ての構成要素を個々指し、それと同時にその内部に包含されるそれぞれ及び全ての可能性ある下位範囲又は下位群を指し、同様にその内部に含まれる任意の下位範囲又は下位群に関して述べる簡略的な方法と理解されるべきである。別段の指定がない限り、本開示は、下位範囲又は下位群のそれぞれ及び全ての具体的構成要素及び組合せにも関し、これらを本発明に明示的に取り込む。
【0015】
本明細書で使用する場合、「のオーダー」という用語は、量又はパラメーターと併せて使用すると、記載される量又はパラメーターの約1/10~10倍にまたがる範囲を表す。
【0016】
本明細書で使用する場合、「核酸」という句は、デオキシリボヌクレオチド(DNA)若しくはリボヌクレオチド(RNA)、RNA/DNAハイブリッドからなる又は増幅cDNA若しくは増幅ゲノムDNA又はそれらの組み合わせであり得る一本鎖又は二本鎖核酸配列を指す。
【0017】
本開示の種々の実施形態の例は、サンプル調製過程におけるカチオン界面活性剤の使用に関する。カチオン界面活性剤(サーファクタント)は、サンプル中の細胞の溶解のための、またDNA及び種々の形態のRNA(例えば、mRNA、tRNA、snRNA、低分子量(LMW)RNA、rRNA及びcRNA)などの核酸の安定化のための作用剤として好適であることが知られている。例えば、米国特許第5,010,183号及び同第5,728,822号(これらの全体を参照により本明細書に組み入れる)においてMacfarlaneは、サンプルと混合したときに、カチオン界面活性剤がサンプル内の細胞を効果的に溶解する一方で、細胞から放出された核酸との複合体を形成して核酸を安定化し、遺伝子誘導を防止する方法を教示している。
【0018】
ここで
図1Aを参照すると、サンプルから核酸を安定化及び分離する実施の例を説明するフローチャートが示されている。
図1のステップ100において、サンプル(全血サンプルなど)をカチオン界面活性剤(カチオンサーファクタント)を含む溶解及び安定化試薬と合わせて混合物を形成する。カチオン界面活性剤は、上述したように、サンプル内の細胞を溶解し、核酸を安定化させ、核酸-サーファクタント(NAS)複合体を形成する。
【0019】
次に、ステップ105に示すように、NAS複合体が沈殿するように混合物を遠心容器中で遠心する。沈殿物がペレット化するのに好適な速度及び時間で遠心を行う。遠心パラメータの非限定的な例は、100g~15,000gで1~20分の範囲の時間である。沈殿物の上に形成された上清を除いた後、沈殿物ペレットを1回以上の洗浄サイクル110にしたがって洗浄し、各洗浄サイクルは、一定量の適当な水性液の遠心容器への添加、複合体の再ペレット化に好適な時間にわたる遠心容器の遠心、及び上清(又はその実質的な部分)の取り出しを含む。イオン強度0.1 mM~10 mM及びpH 7.4を有するリン酸バッファー(PB)は好適な洗浄液をもたらすことが見出されているが、他の水性洗浄溶液、例えばRNase不含水などを替わりに使用することもできることが理解されるだろう。
【0020】
当技術分野での教示(例えばMacfarlaneの教示など)とは異なり、本発明者は、NAS複合体と結合した核酸が、複合体の崩壊(例えば、解離、破砕)を生じる熱処理ステップを用いて、下流の分子アッセイに好適な形態で遊離し得ることを見出した。
【0021】
熱崩壊ステップの前に、洗浄したペレットを水性液中に再懸濁する。水性液は、水性洗浄液と同じ液体であってもよいし、又は異なる水性液であってもよい。一つの実施の例では、水性液は、以下の実施例に記載するようなリン酸バッファーである。
【0022】
水性液中にNAS複合体を再懸濁し、得られる懸濁液を熱処理してNAS複合体を崩壊させ、核酸溶液を形成し得る。この熱崩壊ステップは
図1Aの120に示される。一つの実施形態の例において、熱崩壊は、予め選択された崩壊に関連する閾値温度を超えてNAS複合体懸濁液を加熱し、規定の時間にわたり閾値温度を超えて懸濁液の温度を維持することにより実施し得る。NAS複合体崩壊を達成するための熱処理パラメータは、使用するカチオン界面活性剤の種類に応じて異なり得ることが理解されよう。
【0023】
一つの実施形態の例において、核酸溶液を1回以上の遠心又はろ過ステップに供し得る。例えば、核酸溶液を遠心し、上清を保持し得る。さらに又はあるいは、核酸溶液をフィルターに通過させて、ろ液を回収し得る。
【0024】
当業者は、異なる熱処理温度及び熱処理時間での一連の実験を行い、NAS複合体の崩壊に対する熱処理条件の効果を直接的又は間接的に測定することにより、好適な温度及び時間を選択することができる。崩壊の間接的な評価は、例えば、以下の実施例に記載するように回収されリアルタイム逆転写アッセイによって増幅された核酸の量をモニターすることにより行い得る。NAS複合体の崩壊の直接的な評価は、例えば、崩壊していない残留複合体の存在に対して感受性の検出方法により、例えば吸光度又は光散乱測定により、行い得る。
【0025】
例えば、以下の実施例で示すように、PAXgeneTM管により処理されたサンプルの場合について、10分間の熱インキュベーション時間を選択した場合に複合体の崩壊が50℃を超える温度で生じることが見出された。しかしながら、温度が上昇するにつれてさらなる崩壊が出現するため、例えば、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃を超える熱処理温度が好ましいこともある。
【0026】
上述した熱処理ステップは、多種多様な実施の例によって実施し得ることが理解されるだろう。一つの実施の例では、再懸濁したNAS複合体懸濁液を、懸濁液内での内部電流の発生によるジュール加熱に複合体を供することにより破砕し得る。
【0027】
例えば、米国特許出願第2014/0004501号(参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に開示される迅速ジュール加熱法(「フラッシュ加熱」)を使用して、NAS複合体崩壊を達成するための熱処理を行うことができる。この迅速ジュール加熱は、チャンバ全体に電場を印加するための電極を有する電気処理チャンバ内にNAS複合体懸濁液を流すことにより実施する。電極をAC電圧に供し、その結果、懸濁液がジュール加熱によって内部的に加熱される。
【0028】
一つの実施形態の例において、1以上の電極は、懸濁液中のファラデー電流の生成を防止するためのブロッキング電極であり得る。電極は、電気処理チャンバ内の懸濁液と接触させた薄い誘電体コーティングと共に、また薄い導電性基板として提供することができ、ブロッキング電極の表面積が対応する平面の表面積を実質的に超えるように、導電体及び誘導体の表面プロファイルは表面積増大のために微細構造化される。それによって達成される大きな静電容量は、数十マイクロ秒のオーダーのような1マイクロ秒を超える充電時間を可能にする。ブロッキング層の静電容量は、高い誘電率を有する薄い誘電体層を設けることによっても高めることができる。一つの実施の例では、金属基板はアルミニウムであり、誘電体層は酸化アルミニウム(Al2O3)である。この酸化アルミニウム(Al2O3)誘電体層は、アルミニウム(陽極酸化アルミニウム)を電気化学的に酸化することによって形成される。有効表面を100倍も増大させ、それに対応して単位公称面積当たりの静電容量を増大させるために、電極は微細な空洞及びトンネルの密なネットワークでエッチングされる。
【0029】
本例の実施において、1秒未満のタイムスケール内で懸濁液の温度が100℃に上昇する、場合により100℃を超えるように電圧を印加する。チャンバ内の内圧を調整することによって熱処理中に懸濁液を過熱し得る。
【0030】
本例の実施において、最終洗浄ステップの後にNAS複合体を再懸濁する水性再懸濁液は、イオン電流の発生によりジュール加熱を生じるための好適なイオン強度を有するように選択し、電場は、内部ジュール電流を支え、電場スクリーニングの実質的な影響を回避するのに十分な頻度で提供される。例えば、水性再懸濁液のイオン強度は、電気処理を行うための適切なタイムスケールで有効な電場の確立を支援するために最大値以下になるように選択され得る。イオン強度の具体的な最大値又は適切な値の範囲は、処理が行われることが望まれるタイムスケールにわたって対応する電流と共に高い電圧を供給するための印加電圧源の能力に主に依存するであろう。所与の用途におけるイオン強度の適切な上限値又は値の範囲を決定するために、当業者は慣用的な実験を行い得ることを理解されたい。他の実施の例によると、水性再懸濁液のイオン強度は、約0.1 mM <I <100 mMの範囲であり得る。
【0031】
理論に限定されることを意図するものではないが、現在の迅速ジュール加熱法の崩壊効率は、1秒未満の熱処理タイムスケールで急速な崩壊をもたらすために、加熱速度に依存し得ると現在考えられている。したがって、選択された実施形態の例では、電気処理のための懸濁液の加熱速度は、およそ250℃/秒を超え、又は2000℃/秒を超え得る。さらに、理論に限定されることを意図するものではないが、1秒未満の熱処理タイムスケールで急速な崩壊をもたらすために、現在の迅速ジュール加熱法の崩壊効率は、熱処理中に懸濁液内に印加される電場に依存し得ると現在考えられている。したがって、選択された実施形態の例では、200 V/cmから50 kV/cm、又は200 V/cmから2 kV/cm、又は200 V/cmから30 kV/cm、又は2 kV/cmから50 kV/cm、又は2 kV/cmから30 kV/cmの範囲の内部電場を達成するために、電圧がサンプルに印加され得る。
【0032】
上述したように、本開示の種々の方法例において使用される溶解及び安定化試薬はカチオン界面活性剤を含む。カチオン試薬は、多様な細胞(例えば限定されるものではないが、赤血球、白血球及び微生物細胞など)の溶解に好適となるよう選択することができる。いくつかの実施の例において、溶解及び安定化試薬は、ウイルスの溶解及びウイルス核酸の安定化に好適であってもよい。核酸は、生物学的サンプル中の細胞外及び/又は細胞内に存在し得る。
【0033】
先行技術が溶解及び安定化を行うための広範な好適なカチオン界面活性剤の試薬製剤を教示していることが理解されるだろう。いくつかの実施形態例において、溶解及び安定化試薬は、1種以上のカチオン界面活性剤、例えば限定されるものではないが、四級アミンサーファクタントを含み得る。好適なカチオン試薬の例は、Macfarlaneによる米国特許第5,010,183号及び同第5,728,822号において、またAugello et alによる米国特許第6,602,718号に開示されている。
【0034】
カチオン界面活性剤は、収集容器、例えば真空収集管(例えばAugello et al.による米国特許第6,602,718,号に記載のようなもの)、及び市販のPAXgeneTM収集管(2~4%酒石酸の酸性溶液(pH 3.7)中の<10重量%のシュウ酸テトラデシルトリメチルアンモニウムを含む)などの中に提供される。
【0035】
いくつかの実施形態の例において、溶解及び安定化試薬は、カチオン界面活性剤に加えて、1以上の追加成分を含んでもよい。追加成分の非限定的な例として、追加の界面活性剤、カオトロピック塩、リボヌクレアーゼ阻害剤、キレート剤及びそれらの混合物が挙げられる。
【0036】
本明細書に記載の実施の例の多くは全血サンプルの処理を含むが、本開示は全血処理に限定されることを意図していないことが理解されよう。例えば、いくつかの例の実施において、サンプルは、1種以上の血液細胞を含む血液含有サンプルである。全血以外の生物学的サンプルの非限定的な例には、赤血球濃縮物、血小板濃縮物、白血球濃縮物、血漿、血清、尿、骨髄吸引物、脳脊髄液、組織、細胞、及び他の体液などの細胞含有組成物が挙げられる。サンプルは、ヒト又は動物起源のものであり得、サンプルは天然で固体又は液体(又はそれらの組み合わせ)であり得る。固体サンプルは、固体を適切な溶液に溶解するなどの公知の事前分析方法によって処理することができる。
【0037】
前述の方法例は、NAS複合体の分離及び洗浄のために遠心を使用するものとして説明されているが、NAS複合体は代替的にろ過によって分離してもよいことが理解されよう。
【0038】
ここで
図1Bを参照すると、追加の核酸抽出ステップなしで、懸濁液の熱処理及びNAS複合体の崩壊の後に分子アッセイを実施する方法の実施の例を説明するフローチャートが提供される。
図1Aのように、サンプルを溶解及び安定化試薬への暴露により処理し、得られたNAS複合体を上述した遠心処理方法によって洗浄する。しかしながら、ステップ115Aに示すように、水性再懸濁液(熱崩壊の前にNAS複合体を再懸濁するため)を、分子増幅アッセイ、例えば限定されるものではないが、PCR、リアルタイムPCR、逆転写PCR(RT-PCR)及びリアルタイムRT-PCTと適合するように選択し、その結果、核酸が熱崩壊によって遊離した際に、得られる核酸溶液が、中間の核酸抽出ステップを必要とすることなく、分子増幅試薬と混合することができるようにする。中間の核酸抽出ステップなしに核酸分離を行う本方法のこの能力は、自動化プラットフォームで本方法を実施するときに有益であり得る。
【0039】
ステップ120においてNAS複合体を解離させた後、分子増幅アッセイを実施するためにステップ125において核酸溶液をアッセイ試薬と接触させる。続いて、ステップ130においてアッセイを行う。
【0040】
一つの実施形態の例において、アッセイを実施する前に、核酸溶液を1回以上の遠心又はろ過ステップに供し得る。例えば、核酸溶液を遠心し、上清を保持し得る。さらに又はあるいは、核酸溶液をフィルターに通過させて、ろ液を回収し得る。
【0041】
いくつかの実施の例において、
図1Bに例示する方法例は、1回以上のトランスクリプトームバイオマーカーアッセイの実施に適し得る。例えば、この方法例は、対象から採取した血液サンプルに基づく白血球の部分的トランスクリプトームプロファイルの評価に適し得る。この方法例は、存在する場合には、感染(微生物感染など)に対する宿主の免疫応答の状態を推測するために使用し得る。
【0042】
1つの例示的な方法例では、トランスクリプトーム宿主応答を決定するために、2つの遺伝子セット、すなわち、1以上のトランスクリプトームバイオマーカー遺伝子を含む感染状態指標遺伝子セット(ISIG)及び1以上の核酸ハウスキーピング遺伝子標的を含むハウスキーピング遺伝子セット(HKG)を用いる。HKGセットの発現プロファイルは、宿主の健康状態に有意に影響を受けないように選択するが、ISIGセットの発現プロファイルは、宿主が微生物細胞に感染した場合に有意に変化する。
【0043】
宿主の健康状態を評価するために、一定量の血液をカチオン界面活性剤を含む適当な採血管に採取する。カチオン界面活性剤はサンプル中の白血球を溶解し、採血とサンプル処理開始の間の時間間隔で白血球由来のmRNAを安定化する。
図1Bのステップ100~120を実施し、PCR及び/又はRT-PCR分析の準備ができた核酸溶液を得る。得られた核酸溶液を空間マルチプレックスリアルタイムRT-PCRアレイでアッセイし、ISIGセットからの各標的mRNAの相対レベルを、そのゲノムDNAに対して又はHKGセットに属する少なくとも1つのmRNAのレベルに対して決定する。
【0044】
上述したように、ステップ120を実施して得られる核酸溶液は、元の白血球中の標的mRNAの平均レベルを決定するために逆転写(RT)及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを行う準備ができている。mRNAを検出及び/又は定量するためにPCR以外の他のアッセイ、例えば配列決定又は他の核酸増幅アッセイを用い得ることが理解されるだろう。
【0045】
一つの実施形態の例において、核酸溶液を分割し、複数の反応チャンバに送達し、逆転写及びPCRを実施するために提供される試薬と混合される。一つの実施形態の例において、各チャンバは、所望のmRNA鎖を標的とする特異的プライマーと共に提供される。したがって、ステップ130において、標的mRNAを酵素反応を介してcDNAへと変換する。その後の熱サイクルの間、cDNA及びゲノムDNA上のその対応するDNA断片を増幅産物へと増幅する。
【0046】
一つの実施形態の例において、フォワード及びリバースプライマーを、ゲノムDNA上の標的部分がイントロン部分を含むように設計する。したがって、mRNAとゲノムDNAに起因する増幅産物は異なる長さを有し、ステップ130において識別し得る。このような場合、増幅されたmRNA及び増幅されたゲノムDNAは、例えば増幅産物を融解曲線分析に供することにより、別々に同定し得る。
【0047】
別の実施形態の例において、1つのイントロン-エキソン接合部(スプライス接合部)領域を標的化するようにリバースプライマーを設計する。これにより、逆転写段階におけるpre-mRNAからcDNAへの変換が抑制される。さらに、PCR段階において、gDNAは増幅産物にわずかにしか寄与しないだろう。一つの実施の例では、各反応容器に2対のリバース及びフォワードプライマーが提供される、すなわち1対はISIGセットからの遺伝子用で、別の対はHKGセットからの遺伝子用である。プライマー対設計により、2つのタイプの増幅産物に対応する融解ピークが十分に分離されるようにcDNAの長さを選択する。続いて、標的遺伝子のトランスクリプトームレベルを、ハウスキーピング遺伝子の融解ピークの振幅に対してその対応する融解ピークの振幅を参照することにより決定する。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は、当業者が本開示の実施形態を理解及び実行することを可能にするために提示される。これらは、本開示の範囲に対する限定として解釈すべきではなく、それらの例示及び代表としてのみ解釈すべきである。
【0049】
以下に記載する実施例は、上述した方法の一部の非限定的な例の実施を説明するものである。以下の実施例では、2.5ミリリットルの全血をPAXgeneTM管に添加し、白血球由来の核酸が核酸-サーファクタント複合体(NAS複合体)として安定化されている混合物を形成し、混合物を室温で保存し、引き延ばし保存時間tst(15分から3日の範囲)後に処理した。いくつかの実験では、混合物を凍結温度で凍結し、室温での引き延ばし保存時間(1時間から1日)の後に処理した。
【0050】
最初の沈降ステップのために、1 mLの混合物を遠心管中の0~10 mLの範囲の容量Vbの0.8 mM pH 7.4 リン酸バッファー(PB)に添加し、4000gで最初の沈降時間tse(1~10分の範囲)にわたり遠心した。続いて上清を取り出し、100μLの残留液を管内にNAS複合体ペレットと共に残した。
【0051】
次に3~4サイクルの洗浄を行い、各洗浄サイクルは、900μLのPBバッファーの容器への添加、ペレットの再懸濁、4000gで3分間の遠心、及び900μLの上清の取り出しによって行い、上清液体の実質的な量が取り除かれるようにした。最後の洗浄後、NAS複合体を残りのおよそ100μLの残留液に再懸濁した。
【0052】
得られた懸濁液を温度Tdでtd分の時間にわたる加熱処理によるNAS複合体崩壊ステップに供し、それにより核酸溶液を生成した。Td及びtdはいずれも、以下で提示する実施例に示すように実験的に変動させた。
【0053】
得られた核酸溶液を0.45μm孔径を有するフィルターに通して残留複合体を取り除いた。続いて1μLの核酸溶液を1μLの特異的プライマーセット(0.25μM)及び3μLの各マスターミックスに添加し、リアルタイムRT-PCR又はPCRアッセイに供した。本実施例で使用したプライマー対の例は、それぞれ1つの感染状態指標遺伝子(ISIGに属する)であるリソソーム関連膜タンパク質1(LAMP1)、及び1つのハウスキーピング遺伝子セット(HKGに属する)であるグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を標的とする。
【0054】
以下の実施例で使用したLAMP1検出プライマーは、フォワード(5’- ACCGTCCTGCTCTTCCAGTT -3’)及びリバース(5’- GGCAGGGTCTCTGGCGTC -3’)である。以下の実施例で使用したGAPDH検出プライマーは、フォワード(5’- GCCACATCGCTCAGACACC -3’)及びリバース(5’- GTTAAAAGCAGCCCTGGTGACC -3’)である。
【0055】
RT-PCRマスターミックスは、適当なバッファー中のTaqポリメラーゼ及び逆転写酵素の酵素を含み、シグナル検出のためのSYBR Green色素を使用した。リアルタイムPCRアッセイを行う際は、逆転写酵素をマスターミックスに含めなかった。アッセイシグナルを分析し、2つのパラメータ、すなわち閾値サイクルCT及び派生物(derivative)の融解ピーク(ΔTm)を計測した。
【0056】
[実施例1]2つの選択した遺伝子を含む方法を用いた実証転写プロファイリング
本実施例は、単一反応ウエル内でのmRNAと共にそれに対応するgDNAを検出するが、インテロゲートする融解ピークによる増幅産物へのそれらの寄与を識別する上述の方法の実施能力を実証する。PAXgene
TM管からの1mLのサンプル/カチオン界面活性剤混合物を
図2Aに示すパラメータを用いて処理した。2つの増幅アッセイ、すなわちRT-PCRアッセイ及びPCRのみのアッセイを別個のウエルで実施した。得られた増幅曲線を
図2B及び
図2Cに示す。
図2D及び
図2Eの対応する派生物の融解曲線におけるピークの位置は、NAS複合体から核酸を遊離させるための加熱の使用を含む上記方法が、mRNA及びその対応するgDNAの検出及び識別に好適であることを示している。
【0057】
[実施例2]種々の引き延ばし保存時間及び保存温度でのサンプル/カチオン界面活性剤混合物の処理
本実施例は、様々な保存温度及び保存時間の点でカチオン界面活性剤及びサンプル混合物の堅牢性を実証するために提供する。処理パラメータを
図3に示す。
図4のアッセイ結果は、本明細書に開示の方法例を使用して、白血球中のmRNAレベルを検出する能力を損なうことなく、混合物を3日を超える時間にわたり室温で保存し得ることを示している。さらに、
図4に示す結果は、アッセイ性能に実質的に影響を及ぼすことなく、混合物を様々な時間間隔で凍結し得ることを実証している。
【0058】
[実施例3]種々の最初の沈降時間でのサンプル/カチオン界面活性剤混合物の処理
本実施例は、保存条件に関係なくNAS複合体が容易に沈降することを実証するために提供する。処理パラメータを
図5に示し、アッセイ結果を
図6に示す。
【0059】
[実施例4]サンプル/カチオン界面活性剤混合物の処理とそれに続く種々の温度での加熱処理
本実施例は、NAS複合体の崩壊が達成される温度T
dの調査のために提供する。処理パラメータを
図7に示す。
図8Aに示す結果はまた
図8Bにもプロットした。図で観察されるように、80℃以下の処理温度T
dで、より多いリアルタイムRT-PCR及びリアルタイムPCRのサイクル回数の結果は、明瞭な温度依存性を示している。理論に限定されることを意図するものではないが、このアッセイ結果の温度依存性は、NAS複合体の崩壊(例えば、解離、破砕)の温度依存性に相当すると考えられる。
【0060】
[実施例5]サンプル/カチオン界面活性剤混合物の処理とそれに続く種々の熱処理時間でのT
d= 95での加熱処理
本実施例は、熱が誘導するNAS複合体崩壊時間に対する先行する方法の例示的実施のmRNA検出性能の依存性を実証するために提供する。処理パラメータを
図9に示す。
図10に示す結果は、洗浄したNAS複合体を1分を超える時間で十分に高い温度に供することが、mRNA検出を達成するために十分であることを示している。理論に限定されることを意図するものではないが、より短い熱処理時間でさえ、より高い処理温度で、及び/又は加熱時の迅速な温度上昇の速度の存在で達成可能であり得ると予想される。
【0061】
[実施例6]サンプル/カチオン界面活性剤混合物の処理とそれに続く加熱処理又はフラッシュ加熱処理
本実施例は、NAS複合体崩壊を達成するために迅速ジュール加熱(「フラッシュ加熱」)に基づく熱処理の使用可能性を実証する。現在の実施例では、内部ジュール加熱を生成するための電極対を有する電気処理チャンバにNAS複合体懸濁液を導入した。電気処理チャンバは、容積20μL、厚さ200μmを有し、上部及び下部電極を備える。上述するように、酸化アルミニウム誘電体共形層を有する微細構造化アルミニウムから電極を形成した。最終洗浄ステップ後、イオン強度0.8 mMを有するPBバッファー中にNAS複合体を再懸濁した。電気励起は、持続時間50μs、振幅200 Vの一連の方形波ACパルスの形態で提供し、パルスを50 msの時間でチャンバに印加した。チャンバ内の温度が100℃を超え、加熱速度が1500℃/sを超えたと考えられる。処理パラメータを
図11に示す。
図12のアッセイ結果は、迅速ジュール加熱がNAS複合体崩壊効率の点で慣用の加熱と類似しているが、より速い時間スケールでNAS複合体の崩壊を達成することを示している。
【0062】
[実施例7]洗浄の回数に対するRT-PCRシグナルの依存性
本実施例は、リアルタイムRT-PCRによるmRNA標的の検出に対する追加の遠心洗浄サイクルの効果を実証する。処理パラメータを
図13に示し、アッセイ結果を
図14に示す。結果は、本例では、30回未満のPCRサイクル回数では、RT-PCRアッセイによるmRNA標的の検出に少なくとも2回の洗浄サイクルが必要であったことを実証している。
【0063】
上記特定の実施形態は、例示目的で示されており、これらの実施形態は、種々の改変及び代替的形態を受け入れる余地があり得ることを理解すべきである。特許請求の範囲は、開示された特定の形態に限定されることを意図しないが、本開示の精神及び範囲内に入る全ての改変、等価物及び代替物をカバーする意図であることを、さらに理解すべきである。
例えば、本発明は以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]サンプルから核酸を放出させるようにサンプルを処理する方法であって、
サンプルと溶解及び安定化試薬を含む混合物を形成するステップであって、該溶解及び安定化試薬は、サンプル中に存在する細胞を溶解し細胞から放出される核酸と複合体を形成可能なカチオン界面活性剤を含み、該溶解及び安定化試薬は、核酸分解を安定化させ防止するのに十分な量で提供される、ステップ;
前記混合物から前記複合体を分離するステップ;
前記分離した複合体を水溶液中に再懸濁し、それにより前記分離した複合体を含む水性懸濁液を得るステップ;並びに
前記複合体の解離に適した時間にわたり前記水性懸濁液を50℃を超える温度に加熱し、それによりそれから核酸を放出させるステップ
を含む方法。
[実施形態2]前記水性懸濁液を少なくとも70℃超に加熱する、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]前記水性懸濁液を少なくとも80℃超に加熱する、実施形態1に記載の方法。
[実施形態4]前記水性懸濁液を少なくとも1分間加熱する、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
[実施形態5]前記水性懸濁液をそれに印加される電流を介したジュール加熱によって加熱する、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]前記サンプルが血液含有サンプルである、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7]前記サンプルが全血サンプルである、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]前記全血サンプルを、前記溶解及び安定化試薬を含む採血容器に直接サンプリングする、実施形態7に記載の方法。
[実施形態9]前記採血容器がPAXgene(TM)管である、実施形態8に記載の方法。
[実施形態10]前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を1回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
[実施形態11]前記複合体をろ過により分離する、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
[実施形態12]前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を2回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、実施形態7~9のいずれかに記載の方法。
[実施形態13]サンプルに対して分子アッセイを行い、サンプルから放出される核酸を検出する方法であって、
(a)サンプルと溶解及び安定化試薬を含む混合物を形成するステップであって、該溶解及び安定化試薬は、サンプル中に存在する細胞を溶解し細胞から放出される核酸と複合体を形成可能なカチオン界面活性剤を含み、該溶解及び安定化試薬は核酸分解を安定化させ防止するのに十分な量で提供される、ステップ;
(b)前記混合物から前記複合体を分離するステップ;
(c)前記分離した複合体を水溶液中に再懸濁し、それにより前記分離した複合体を含む水性懸濁液を得るステップ;
(d)前記複合体の解離に適した時間にわたり前記水性懸濁液を50℃を超える温度に加熱し、それにより前記複合体から放出される核酸を含む核酸溶液を形成するステップ;並びに
(e)前記核酸溶液中に存在する核酸を検出するためのアッセイを行うステップであって、該アッセイは核酸抽出なしで行われる、ステップ
を含む方法。
[実施形態14]前記アッセイが、前記核酸溶液の少なくとも一部を、バイオマーカーを検出するように構成されたプライマーセットを含むアッセイ試薬と接触させることにより行われるバイオマーカーアッセイである、実施形態13に記載の方法。
[実施形態15]前記バイオマーカーがメッセンジャーRNAバイオマーカーである、実施形態14に記載の方法。
[実施形態16]前記メッセンジャーRNAバイオマーカーが、イントロンの少なくとも一部を含むゲノム領域と関連している、実施形態15に記載の方法。
[実施形態17]前記バイオマーカーが、感染に対する宿主の応答と関連している、実施形態14に記載の方法。
[実施形態18]前記アッセイ試薬が第1のアッセイ試薬であり、前記プライマーセットが第1のプライマーセットであり、前記方法がさらに:
前記核酸溶液の少なくとも一部を、ハウスキーピング遺伝子と関連するハウスキーピングメッセンジャーRNAを検出するように構成された第2のプライマーセットを含む第2のアッセイ試薬と接触させることによりハウスキーピング遺伝子アッセイを行うステップ
を含み、
前記バイオマーカーアッセイが、前記核酸溶液中に存在するバイオマーカーの量を定量するバイオマーカー逆転写アッセイ結果を生成するものであり、前記ハウスキーピング遺伝子アッセイが、前記核酸溶液中に存在するハウスキーピングメッセンジャーRNAの量を定量するハウスキーピングアッセイ結果を生成する、実施形態17に記載の方法。
[実施形態19]バイオマーカー逆転写アッセイ結果とハウスキーピング遺伝子逆転写アッセイ結果とを比較する比較測定値をさらに計算する、実施形態18に記載の方法。
[実施形態20]異なる時点で得られたサンプルに対してステップ(a)~(e)又はさらに多くの回数を行うこと;及び
前記異なる時点と関連する比較測定値を処理して、時間依存的宿主応答を推測することをさらに含む、実施形態19に記載の方法。
[実施形態21]前記プライマーセットが第1のプライマーセットであり、前記アッセイ試薬が選択した遺伝子と関連するゲノムDNAを検出するように構成された第2のプライマーセットをさらに含み、前記アッセイが、前記核酸溶液中に存在するバイオマーカーの量を定量するバイオマーカー逆転写アッセイ結果、及び前記核酸溶液中に存在するゲノムDNAの量を定量するゲノムDNAアッセイ結果を生成し、第1のプライマーセット及び第2のプライマーセットにより増幅される産物にそれぞれ関連したシグナルは融解曲線分析によって識別される、実施形態17に記載の方法。
[実施形態22]前記選択した遺伝子の少なくとも一部がイントロンの少なくとも一部を含む、実施形態21に記載の方法。
[実施形態23]バイオマーカー逆転写アッセイ結果とゲノムDNAアッセイ結果とを比較する比較測定値をさらに計算する、実施形態21に記載の方法。
[実施形態24]異なる時点で得られたサンプルに対してステップ(a)~(e)又はさらに多くの回数を行うこと;及び
前記異なる時点と関連する比較測定値を処理して、時間依存的宿主応答を推測することをさらに含む、実施形態21に記載の方法。
[実施形態25]ステップ(b)~(e)を自動機器の制御下で使い捨てカートリッジ内で行う、実施形態13~24のいずれかに記載の方法。
[実施形態26]前記水性懸濁液を少なくとも70℃超に加熱する、実施形態13~25のいずれかに記載の方法。
[実施形態27]前記水性懸濁液を少なくとも80℃超に加熱する、実施形態13~25のいずれかに記載の方法。
[実施形態28]前記水性懸濁液を少なくとも1分間加熱する、実施形態13~27のいずれかに記載の方法。
[実施形態29]前記水性懸濁液をそれに印加される電流を介したジュール加熱によって加熱する、実施形態13~28のいずれかに記載の方法。
[実施形態30]前記サンプルが血液含有サンプルである、実施形態13~29のいずれかに記載の方法。
[実施形態31]前記サンプルが全血サンプルである、実施形態13~29のいずれかに記載の方法。
[実施形態32]前記全血サンプルを、前記溶解及び安定化試薬を含む採血容器に直接サンプリングする、実施形態31に記載の方法。
[実施形態33]前記採血容器がPAXgene(TM)管である、実施形態32に記載の方法。
[実施形態34]前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を1回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、実施形態13~33のいずれかに記載の方法。
[実施形態35]前記複合体をろ過により分離する、実施形態13~33のいずれかに記載の方法。
[実施形態36]前記混合物を遠心し前記複合体を沈殿させ、それにより沈殿した複合体を得ること;
前記沈殿した複合体を2回以上遠心して洗浄すること
により、前記複合体を遠心によって分離する、実施形態31~33のいずれかに記載の方法。
【配列表】