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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】インクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/08 20060101AFI20230510BHJP
   B41J 2/085 20060101ALI20230510BHJP
   B41J 2/09 20060101ALI20230510BHJP
   B41J 2/02 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B41J2/08
B41J2/085
B41J2/09
B41J2/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021106272
(22)【出願日】2021-06-28
(65)【公開番号】P2023004532
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【弁理士】
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 将之
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/102458(WO,A1)
【文献】特開2001-063064(JP,A)
【文献】特開昭55-063282(JP,A)
【文献】特開昭56-084979(JP,A)
【文献】特開2000-233503(JP,A)
【文献】特開2002-001960(JP,A)
【文献】特開2019-042996(JP,A)
【文献】特開昭57-103852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴出するインクに一定周波数の振動を付与して連続したインク滴を生成するガンと、
前記インク滴に電圧を印加して当該インク滴を帯電させる帯電電極と、
水平方向に移動する被印字物に向けて飛行する前記インク滴を、帯電の程度に応じて垂直方向に偏向させ、インク滴を被印字物に着弾させる偏向電極と、
前記帯電電極に印加する電圧を変えてインク滴への帯電量を制御するコントローラと、を備え、
被印字物の印字面にマトリクス状のドットパターンによって文字や記号を印字するインクジェットプリンタであって、
前記コントローラの記憶部には、
マトリクスにドットを形成する位置が示された印字データ、および
前記マトリクスの列の異なる周期に対応し、かつ印字が行われないインターバル期間の長さに対応して、実験を通して求めた複数の待機時間のデータが格納されており、
前記コントローラの制御部は、
前記マトリクスの列毎に、前記印字データおよび列の周期データに基づいて、前記帯電電極に印加する帯電電圧を作成し、
個々の前記印字データを含む1回分の印字データを作成すると共に、当該1回分の印字データから前記インターバル期間を特定し、
前記記憶部から、前記列の特定の周期および特定されたインターバル期間に対応した待機時間のデータを読み出して、前記マトリクスの列間に待機時間を設定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
噴出するインクに一定周波数の振動を付与して連続したインク滴を生成するガンと、
前記インク滴に電圧を印加して当該インク滴を帯電させる帯電電極と、
水平方向に移動する被印字物に向けて飛行する前記インク滴を、帯電の程度に応じて垂直方向に偏向させ、インク滴を被印字物に着弾させる偏向電極と、
前記帯電電極に印加する電圧を変えてインク滴への帯電量を制御するコントローラと、を備え、
被印字物の印字面にマトリクス状のドットパターンによって文字や記号を印字するインクジェットプリンタであって、
前記コントローラの記憶部には、
マトリクスにドットを形成する位置が示された印字データ、および
字が行われないインターバル期間の長さに対応した複数の算出式のデータが格納されており、
前記コントローラの制御部は、
前記マトリクスの列毎に、前記印字データおよび列の周期データに基づいて、前記帯電電極に印加する帯電電圧を作成し、
個々の前記印字データを含む1回分の印字データを作成すると共に、当該1回分の印字データから前記インターバル期間を特定し、
前記記憶部から特定されたインターバル期間に対応した算出式のデータを読み出し、当該算出式を用いて、前記列の周期に対応した待機時間を算出し、前記マトリクスの列間に待機時間を設定することを特徴とするインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンティニュアス方式のインクジェットプリンタに関し、更に詳しくは、高速で印字を行う際の印字歪の修正に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、コンティニュアス方式とオンデマンド方式に大別される。このうちコンティニュアス方式のインクジェットプリンタは、ポンプによってノズルからインクを噴出し、噴出インクが一定周波数の振動でインク滴に分離する位置において、帯電電極によりインク滴を帯電させ、更に偏向電極によってインク滴の軌道を曲げ、被印字物の所定の位置に衝突させて任意のマトリクス状のドットパターンを形成するものである。
【0003】
上述したコンティニュアス方式のインクジェットプリンタにおいては、印字面に向かって飛翔するインク滴の空気抵抗によって気流(空気の流れ)が生じ、その程度によっては、印字面に形成される印字ドットに悪影響を及ぼす場合がある。
【0004】
例えば、印字面に向かって飛翔するインク滴の粗密によって空気抵抗に差が生じ、それが気流の乱れとなって後続するインク滴の飛翔経路が乱され、印字品質を低下させる原因の一つとなっていた。
【0005】
その対策として、従来は、着弾するインク滴の間に無帯電のインク滴を挿入して、気流に乱れが生じるのを抑制していた(特許文献1、段落0006参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-137197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、ドットマトリクスの列間のインク滴の飛翔における空気抵抗の影響は、被印字物の移動速度によって異なることが分かっている。例えば、被印字物を比較的低速(1~30m/min程度)で移動させながら印字を行う場合、各列で飛翔するインク滴の間隔が十分保たれているため、空気抵抗による影響を考慮する必要はない。
【0008】
これに対し、被印字物を高速(約200m/min以上)で移動させながら印字を行う場合、列の周期が短くなるため、先行する列のインク滴の飛翔によって形成された気流の影響が残っている間に、次の列のインク滴の飛翔が行われる。このため、インク滴が、残存する気流に引き込まれて飛翔速度が速まり、印字ドットが形成される位置がずれて、印字歪が生じる原因となっていた。
【0009】
しかし、現時点では、印字速度の高速化に伴って生じる上述の問題点について有効な解決策がなく、改善が求められていた。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みて成されたもので、高速印字の際、先行する列において発生した気流によって、後続の列におけるインク滴の飛翔が乱されるのを抑えて、印字歪を最小限に留めることができるインクジェットプリンタを提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る第1のインクジェットプリンタは、
噴出するインクに一定周波数の振動を付与して連続したインク滴を生成するガンと、
前記インク滴に電圧を印加して当該インク滴を帯電させる帯電電極と、
水平方向に移動する被印字物に向けて飛行する前記インク滴を、帯電の程度に応じて垂直方向に偏向させ、インク滴を被印字物に着弾させる偏向電極と、
前記帯電電極に印加する電圧を変えてインク滴への帯電量を制御するコントローラと、を備え、
被印字物の印字面にマトリクス状のドットパターンによって文字や記号を印字するインクジェットプリンタであって、
前記コントローラの記憶部には、
マトリクスにドットを形成する位置が示された印字データ、および
前記マトリクスの列の異なる周期に対応し、かつ印字が行われないインターバル期間の長さに対応して、実験を通して求めた複数の待機時間のデータが格納されており、
前記コントローラの制御部は、
前記マトリクスの列毎に、前記印字データおよび列の周期データに基づいて、前記帯電電極に印加する帯電電圧を作成し、
個々の前記印字データを含む1回分の印字データを作成すると共に、当該1回分の印字データから前記インターバル期間を特定し、
前記記憶部から、前記列の特定の周期および特定されたインターバル期間に対応した待機時間のデータを読み出して、前記マトリクスの列間に待機時間を設定することを特徴とする。
【0012】
また上記目的を達成する本発明に係る第2のインクジェットプリンタは、
噴出するインクに一定周波数の振動を付与して連続したインク滴を生成するガンと、
前記インク滴に電圧を印加して当該インク滴を帯電させる帯電電極と、
水平方向に移動する被印字物に向けて飛行する前記インク滴を、帯電の程度に応じて垂直方向に偏向させ、インク滴を被印字物に着弾させる偏向電極と、
前記帯電電極に印加する電圧を変えてインク滴への帯電量を制御するコントローラと、を備え、
被印字物の印字面にマトリクス状のドットパターンによって文字や記号を印字するインクジェットプリンタであって、
前記コントローラの記憶部には、
マトリクスにドットを形成する位置が示された印字データ、および
字が行われないインターバル期間の長さに対応した複数の算出式のデータが格納されており、
前記コントローラの制御部は、
前記マトリクスの列毎に、前記印字データおよび列の周期データに基づいて、前記帯電電極に印加する帯電電圧を作成し、
個々の前記印字データを含む1回分の印字データを作成すると共に、当該1回分の印字データから前記インターバル期間を特定し、
前記記憶部から特定されたインターバル期間に対応した算出式のデータを読み出し、当該算出式を用いて、前記列の周期に対応した待機時間を算出し、前記マトリクスの列間に待機時間を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るインクジェットプリンタでは、ドットマトリクスの列毎に、列の周期に対応した待機時間を設定し、かつ当該待機時間の値を調整することで気流の影響を抑えている。そして印字面に形成される印字ドット列の間隔を略均等に保つことで、印字の高速化に伴って生ずる印字歪を最小限に留めている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態1に係るコンティニュアス方式のインクジェットプリンタの概略構成を示す図である。
図2図1のインクジェットプリンタを用いて被印字物に印字を行う際の動作を説明する図である。
図3】インク滴が生成される過程を示す図である。
図4】コントローラの構成のうち帯電電圧の生成に関連したブロックを抽出した図である。
図5】テストパターンの印字データ(a)と1列分の帯電電圧(b)を示した図である。
図6】従来の階段状帯電電圧の例(a)と、本発明に係る階段状帯電電圧の例(b)を示した図である。
図7】低速(a)および高速(b・c)におけるインクジェットプリンタの印字例を示した図である。
図8】インターバル期間と印字歪との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンタについて、図面を参照して説明する。
【0019】
(実施の形態1)
<インクジェットプリンタの構成>
図1に、実施の形態1に係るコンティニュアス方式のインクジェットプリンタの概略構成を示す。また図2に、図1のインクジェットプリンタを用いて被印字物に印刷を行う際の動作を示す。
【0020】
インクジェットプリンタ1は、ガン2、帯電電極3、検知電極4、偏向電極5、ガター6、パイプ7、ポンプ8a、8b、インクタンク9およびコントローラ10で構成されている。
【0021】
ガン2は、インク滴IDを被印字物(例えば梱包箱)11の表面に向けて噴射するものであり、ガン本体21、超音波振動子22およびノズル23で構成されている。ポンプ8aによってインクタンク9から送出され、パイプ7を通してガン本体21に供給されたインクは、超音波振動子22によって振動が付加された状態でノズル23の孔から噴射される。
【0022】
ノズル23の孔から噴出したインク柱IPは、超音波振動子22により付加された振動によって個々のインク滴IDに分離し、更に帯電電極3で帯電される。その後、偏向電極5により、印字に必要なインク滴IDのみが帯電電荷量に応じて偏向され、被印字物11の印字面に着弾する。
【0023】
図2に、ベルトコンベア(図示せず)上を、矢印で示す方向に一定の速度で移動する梱包箱11を示す。被印字物である梱包箱11が、インク滴IDの飛行方向に対して直交する方向に移動している場合、インク滴IDの偏向量を変えることによって、梱包箱11の側面(印字面)に着弾するインク滴IDの位置が変わり、梱包箱11の移動に同期してインク滴IDの偏向を繰り返すと、文字や記号(図では「A」)が印字される。
【0024】
一方、帯電されていないインク滴ID、および帯電されていても印字に使用されないインク滴IDは偏向されず、そのままインク回収用のガター6に飛び込み、インクタンク9に回収される。ガター6によって回収されたインクは、ポンプ8bによりパイプ7を通してインクタンク9に移送され、再利用される。
【0025】
コントローラ10は、ガン2の超音波振動子22、帯電電極3のパルス電源31、検知電極4、偏向電極5の直流電源51、ならびにポンプ8aおよび8bの動作を制御するもので、CPU、メモリ(ROM、RAM等)、タイマーおよびディスプレイ(図示せず)で構成されている。なお、コントローラ10と制御対象の各構成部材の間は、信号送信用のケーブルで接続されているが、煩雑さを避けるため、図1では、ポンプ8a、8bとの間のケーブルを除いて省略している。
【0026】
コントローラ10は、ポンプ8aを駆動することにより、インクタンク9に収容されたインクに圧力をかけてガン本体21に供給する。またコントローラ10は、検知電極4で検知した信号に基づいて、パルス電源31から帯電電極3に印加されるパルス電圧のタイミングを制御し、これによって帯電されるインク滴IDの数やタイミングを調節する。更にコントローラ10は、直流電源51の電圧を制御することによって、偏向電極5で偏向されるインク滴IDの偏向量を調節する。
【0027】
<印字歪の修正>
次に、図3図7を参照して、本実施の形態における印字歪の修正について説明する。最初に、インク滴への帯電について説明する。
【0028】
図3は、ノズル23から噴出されたインク柱IPからインク滴IDが生成される過程を示したものである。前述したように、ガン2から噴射されるインク柱IPに圧電振動子22を用いて一定周波数の振動を加えることによって、所定の粒径のインク滴IDが生成される。例えば、圧電振動子の作動周波数が73.5kHzの場合、73500粒/secのインク滴が生成される。
【0029】
図1に示したように、ガン2は接地されていることから、ノズル23から噴出されたインク柱IPも0Vの電位に保持されている。そして帯電電極3にプラスのパルス電圧が印加されると、インク柱IPにマイナスの電荷が誘起される。インク柱IPがインク滴IDに分離したとき、マイナスの電荷がインク滴に残り、その後、インク滴IDが帯電した状態で飛行を続ける。
【0030】
飛行中のインク滴IDは、偏向電圧5に印加された直流電圧により、帯電量に応じて上方に偏向され、被印字物11の表面に衝突して印字ドットを形成する。
【0031】
図4は、前述したコントローラ10の機能ブロックのうち、帯電電圧の生成に関連したブロックのみを抽出した図である。コントローラ10は、制御部11、記憶部12、入力・表示部13、D/A変換部14および増幅部15を備えている。
【0032】
これらのうち制御部11の機能は、記憶部12に記憶されたプログラムを図示しないCPUで実行することにより実現される。また入力・表示部13はタッチパネル式の液晶ディスプレイによって実現され、入力された印字データ等が表示される。
【0033】
記憶部12には、マトリクスパターンで表現された印字データ、すなわちマトリクスの枠にドットを形成する位置が示されたデータと、当該マトリクスの列の繰返しの周期(以降、単に「周期」という)のデータが記憶されている。制御部11は、印字を行う際、記憶部12から印字データと周期データを読み出すと共に、印字データに基づいて、列毎に階段状の帯電電圧を作成し、その帯電電圧を帯電電極3に印加する。
【0034】
制御部11で設定された帯電電圧は、D/A変換部14でアナログ信号に変換され、更に増幅部15で増幅された後、帯電電極3に印加される。
【0035】
次に、被印字物の移動速度とインク滴の帯電との関係について説明する。ガン2で生成されたインク滴が全て印字ドットの生成に用いられるわけではない。ドットマトリクスの1列分の印字において必要となるインク滴は、例えば9個であるが、前述したように、1秒間に大量のインク滴が生成され、その速度は変わらない。そのため、被印字物の移動速度が遅い場合、大半のインク滴は印字に関与せず、帯電されずにガターに回収される。
【0036】
すなわち、1列分の印字を行う際に、一定のタイミングで選択されたインク滴だけが帯電され、それ以外のインク滴は帯電されずに間引かれる。
【0037】
一方、ドットマトリクスの列の周期は、被印字物の移動速度に反比例して短くなるため、間引かれるインク滴の数は、移動速度が速くなるにつれて少なくなる。
【0038】
図5(a)に、コントローラ10の記憶部12に記憶された印字データを示す。印字データは、マトリクス状のドットパターンによって表現され、マトリクスの横軸(行)は被印字物の水平位置を示し、縦軸(列)は偏向されたインク滴が着弾する位置を示す。図5(a)に示す印字データは、テスト用のデータとして、印字面に9行×5列の印字ドットを形成するものである。
【0039】
記憶部12には、図5(a)に示す、マトリクスの枠にドットを形成する位置が示された印字データと、当該マトリクスの列の周期データが記憶されており、印字を行う際には、列毎に印字データを読み出して、図5(b)に示す階段状の帯電電圧を作成し、その電圧を帯電電極3に印加する。
【0040】
図5(b)に示す階段状の帯電電圧において、9行の行毎に、一定のタイミングで選択された1個のインク滴が帯電され、それ以外のインク滴は間引かれてガター6に回収される。そして、帯電された9個のインク滴が、それぞれ異なる帯電電圧で偏向された位置に着弾し、印字面に1列分の印字ドットが形成される。
【0041】
実際の帯電電圧では、図5(b)の各段に間引き用の帯電弾圧(0V)が挿入されているが、煩雑さを避けるため、図では省略している。以後の説明も同様とする。
【0042】
図6(a)に、図5(a)の印字データに基づき、上述の手順で作成した階段状の帯電電圧を示す。また図7(a)に、同電圧を用いて、水平方向に1m/minの速度で移動する被印字物に印字した例を示す。
【0043】
被印字物がドットマトリクスの第1列の位置に到達したとき、ノズル23から噴射されたインク滴は帯電量に応じて下方から上方に偏向され、印字面の指定された位置に●印の印字ドットが形成される。図7(a)に示すように、5列分の印字が終了すると、9行×5列のマトリクスの枠が全て印字ドットで埋まり、印字が完了する。
【0044】
次に、印字の高速化に伴って発生する印字歪について説明する。インク滴が飛翔する場合、先行する列におけるインク滴の飛翔に伴う空気抵抗によって、印字ヘッドから印字面に向かう気流が発生し、それが次の列におけるインク滴の飛翔に影響を及ぼす。
【0045】
被印字物の移動速度が比較的低速の場合、列の周期が長いため、次の列のインク滴が飛翔する前に、先行する列において発生した気流の影響はほとんど消滅する。図7(a)に示した印字例は、被印字物の移動速度が1m/minと比較的低速であり、印字ドットが印字データで指定された位置に正確に形成され、印字歪は発生していない。
【0046】
これに対し、被印字物の移動速度が高速(200m/min以上)の場合、列の周期が短く、先行する列で生じた気流が残存する間に、後続の列のインク滴の飛翔が行われ、インク滴が残存する気流に引き込まれて飛翔速度が速まり、インク滴の着弾点が予定の位置から外れる現象がみられる。
【0047】
図7(b)に、被印字物を600m/minの高速で移動させ、図6(a)に示す階段状の帯電電圧を用いて印字した例を示す。図から明らかなように、第1列で形成された印字ドットと第2列で形成された印字ドットが重なり、更に、第2列の印字ドットと第3列の印字ドットとの間隔も狭くなっている。図7(a)に示した印字例と比較すると、印字ドットが大きく歪んでいることがわかる。
【0048】
上述したように、印字の高速化に伴って発生する印字歪は、後続する列のインク滴が、先行する列のインク滴の飛翔によって生じた気流に引き込まれて飛翔速度が速まることに起因すると考えられる。
【0049】
そこで本発明では、先行する列で発生する気流の影響を軽減するため、各列間に待機時間を設け、先行する列で生じた気流が後続する列のインク滴の飛翔に影響を及ぼさなくなるまで、印字のタイミングをずらしている。
【0050】
図6(b)に、列間に待機時間を設定した帯電電圧を示す。待機時間を設定する際には、各列において形成された印字ドットの間隔が略等しくなる時間を、実験を通して確認する。また待機時間の値は被印字物の移動速度に対応して変わるため、列の周期の値を変えながら実験を繰り返す。実験を通して確認した値は、コントローラ10の記憶部12に格納される。
【0051】
図6(b)に示した例では、第1列と第2列の間の待機時間t1を100μS、第2列と第3列の間の待機時間t2を70μS、第3列と第4列の間の待機時間t3を50μS、第4列と第5列の間の待機時間t4=0とした。
【0052】
図7(c)に、図6(b)の帯電電圧を用い、印字ヘッドに対して被印字物を600m/minの速度で移動させながら印字を行った例を示す。各列において形成された印字ドットの間隔は略均等であり、図7(b)に示した、待機時間を採用しないで印字を行った場合に比べ、印字品質が飛躍的に向上している。
【0053】
待機時間設定用データを記憶部12に記憶する方法として2つの方法がある。第1の方法は、実験を通して確認した待機時間のデータを、列の周期データと共に、記憶部12に格納しておく。第2の方法は、実験結果に基づいて待機時間を近似的に算出する式を作成し、算出式のデータを、列の周期データと共に記憶部12に格納しておく。それぞれの方法のメリット/デメリットを考慮して、いずれかの方法を採用すればよい。
【0054】
印字に際しては、記憶部12から印字データと共に、列の周期データと待機時間のデータもしくは算出式のデータを読み出し、列の周期に応じてインク滴の間引きの割合を決めると共に、列間に読み出した、もしくは算出した待機時間を設定する。
【0055】
なお、図7(b)(c)に示す印字例では、各列で形成された印字ドット列が右側に湾曲しているが、これは、飛翔中のインク滴が空気抵抗を受けることによって減速し、目標位置に着弾するまでの滞空時間が延びることによって発生するものであり、印字歪への影響は、列間のピッチに比較して小さい。
【0056】
また各列の最下行の印字ドットの位置が下方にずれているが、これは各列において、帯電したインク滴が連続して飛翔した際のクーロン力によって生じる歪であり、本発明に係る、先行する列で発生した気流によって生じる歪とは性質が異なり、従って歪の修正方法も異なるため、ここでは特に言及はしない。
【0057】
(実施の形態2)
実施の形態1では、開始当初の印字を対象として、高速化に伴う印字歪の修正について説明したが、図8に示すように、印字の途中に印字を行わない期間(以降、この期間を「インターバル期間」という)が続いた場合にも、実施の形態1で説明したのと同様の歪が発生する。
【0058】
図8は、テストパターンとして1列当たり9個の印字ドットを連続して印字した例であり、途中に長さの異なるインターバル期間T1~T5を挿入している。
【0059】
図8(a)に示した短いインターバル期間T1の印字例と、図8(e)に示した長いインターバル期間T5の印字例を比較すると、図8(a)では、インターバル期間後の第1列の印字ドット列と第2列の印字ドット列が離れている。これに対し、図8(e)の印字例では、第1列と第2列の印字ドット列が重なっており、印字歪が大きくなっている。
【0060】
従って、実施の形態1と同様に、待機時間を設定して印字ドット列の間隔を修正する必要がある。更に、実施の形態1とは異なり、被印字物の移動速度が同じであっても、インターバル期間が異なる場合には、その期間に応じて待機時間を調整する必要がある。
【0061】
これは、印字の途中にインターバル期間が存在する場合、先行する印字によって形成された気流の影響が残り、その程度は、インターバル期間が短い程大きくなるためと考えられる。従って、インターバル期間の長短に応じて、待機時間を調整する必要がある。
【0062】
表1に、上述の考えに基づいて設定した待機時間の一例を示す。表の横軸はインターバル期間の長さT1~T5を示し、図8(a)~(e)の印字例に対応している。また表の縦軸は、待機時間の長さを示している。表1のインターバル期間T∞は、インターバル期間が無限大、すなわち実施の形態1で説明したような開始当初の印字における待機時間を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、インターバル期間が短いほど待機時間が短くなっている。これは、インターバル期間が短いほど、先の印字によって形成された気流の影響が強く残っており、印字を再開したときにその影響によって第1列のインク滴の飛翔速度が速まるためと考えられる。
【0065】
なお、表1では待機時間を第1列~第3列の間に設定し、第4列以降の待機時間はゼロとしているが、実験の結果、第4列以降にも待機時間が必要と判断すれば、それに応じて待機時間を設定すればよい。
【0066】
次に、待機時間の設定手順について説明する。前述したように、記憶部12には、インターバル期間のそれぞれに対応した待機時間のデータまたは待機時間の算出式のデータが格納されている。印字の際には、印字データおよび列の周期データと共に、当該周期データに対応した待機時間のデータまたは算出式のデータを記憶部12から読み出す。
【0067】
コントローラ10の制御部11は、読み出した個別の印字データに基づいて、文字データを含む1回分の印字データを作成してワークメモリに格納し、そのデータからインターバル期間を特定すると共に、その期間に対応した待機時間のデータを取り出す、もしくは算出式を用いて待機時間を算出する。
【0068】
更に制御部11は、取り出したデータに基づいて、列毎に階段状の帯電電圧を生成し、待機時間経過後に、その電圧を帯電電極3に印加する。このようにして、図7(c)に示したような、列間の間隔が略等しい歪の少ない印字を実現できる。
【0069】
なお、図8では、テストパターンとして、1列に9個の印字ドットを連続して、かつそのドット列を繰り返し印字する場合について説明したが、実際の印字では、テストパターンの代わりに個別の印字データを用いて1回分の印字データを作成し、そのデータに基づいて印字を行うことは云うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
IP インク柱
ID インク滴
2 ガン
3 帯電電極
4 検知電極
5 偏向電極
6 ガター
7 パイプ
8a、8b ポンプ
9 インクタンク
10 コントローラ
11 制御部
12 記憶部
13 入力・表示部
14 D/A変換部
15 増幅部
21 ガン本体
22 超音波振動子
23 ノズル
31 パルス電源
51 直流電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8