(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】光学製品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20230510BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230510BHJP
G02B 1/118 20150101ALI20230510BHJP
【FI】
G02B1/115
C23C14/08 A
G02B1/118
(21)【出願番号】P 2022175750
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2022019007の分割
【原出願日】2021-02-08
【審査請求日】2022-11-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】西本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】井上 知晶
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-228728(JP,A)
【文献】特開2022-121418(JP,A)
【文献】特許第7055494(JP,B1)
【文献】国際公開第2003/054973(WO,A1)
【文献】特開2001-177180(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0022254(KR,A)
【文献】特開2009-162989(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077399(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157719(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/157706(WO,A1)
【文献】特開2012-198330(JP,A)
【文献】特開2017-107011(JP,A)
【文献】特開2019-124970(JP,A)
【文献】特開2008-036605(JP,A)
【文献】特開2018-089630(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の成膜面に直接又は間接的に形成される光学膜と、
を備えており、
前記光学膜は、
Alの酸化物及び
Siの酸化物から成るものであり、
前記基材側に配置された、
Alの酸化物が体積比率で過半数となる層であって薄膜状である
Alの酸化物層と、
微細な凹凸構造を有する、
Siの酸化物が体積比率で過半数となる層である
Siの酸化物層と、
を有しており、
前記
Siの酸化物層は、
Alの酸化物が体積比率で過半数となる前記微細な凹凸構造の核と、その核の一部又は全部を覆う
Siの酸化物が体積比率で過半数となるコートと、を有しており、
前記核は、前記
Siの酸化物層において体積比率で過半数とならない状態で
Alの酸化物を含有しており、
前記光学膜に対して50°の入射角で入射する光の、420nm以上680nm以下の波長域における平均反射率が、2%以下である
ことを特徴とする光学製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸を有する膜が形成された光学製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2012-198330号公報)には、曲面を有する基材の最表面に、アルミニウム又はその化合物の微細な凹凸構造の層が、気相成膜及び60℃以上沸騰温度以下の水熱処理によって形成されることが記載されている。
その凹凸構造における凸部の平均高さは、5~1000nm(ナノメートル)程度である。
このような微細な凹凸構造の膜(モスアイ)における密度は、基材側から空気側に向かって低下する。よって、その膜の屈折率が徐々に変化する。従って、その膜は、光学的な界面を無くすような作用をしたり、低屈折率の薄膜と同様となるような作用をしたりする。その膜は、それらの作用により、反射防止効果を呈して、反射防止膜として使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、アルミニウム又はその化合物により、アルミニウム又はその化合物製の微細な凹凸構造が形成されることは知られている。
しかし、他の材質、特にシリカ(SiO2)製の微細な凹凸構造の形成は、知られていない。
【0005】
そこで、本開示の主な目的は、アルミニウム又はその化合物以外の材質に係る微細な凹凸構造の膜を有する光学製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、基材と、前記基材の成膜面に直接又は間接的に形成される光学膜と、を備えており、前記光学膜は、Alの酸化物及びSiの酸化物から成るものであり、前記基材側に配置された、Alの酸化物が体積比率で過半数となる層であって薄膜状であるAlの酸化物層と、微細な凹凸構造を有する、Siの酸化物が体積比率で過半数となる層であるSiの酸化物層と、を有しており、前記Siの酸化物層は、Alの酸化物が体積比率で過半数となる前記微細な凹凸構造の核と、その核の一部又は全部を覆うSiの酸化物が体積比率で過半数となるコートと、を有しており、前記核は、前記Siの酸化物層において体積比率で過半数とならない状態でAlの酸化物を含有しており、前記光学膜に対して50°の入射角で入射する光の、420nm以上680nm以下の波長域における平均反射率が、2%以下である光学製品が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の主な効果は、アルミニウム又はその化合物以外の材質に係る微細な凹凸構造の膜を有する光学製品が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る光学製品の模式的な断面図である。
【
図2】
図1の光学製品に係る製造中間体の模式的な断面図である。
【
図3】(A)~(F)は、
図1の光学製品の製造方法に係る模式図である。
【
図4】実施例1における垂直入射の片面反射率に係るグラフである。
【
図5】実施例1における垂直入射の透過率に係るグラフである。
【
図6】実施例1に対する各種の入射角θにおける光の両面反射率のグラフである。
【
図7】実施例1における両面反射率の入射角度依存性に係るグラフである。
【
図8】実施例1と同様の観察対象における特性X線に係るスペクトラムのグラフである。
【
図9】
図8の観察対象におけるTEMの観察像である。
【
図10】
図8の観察対象におけるC-Kα線オーバーラップ画像である。
【
図11】
図8の観察対象におけるO-Kα線オーバーラップ画像である。
【
図12】
図8の観察対象におけるAl-Kα線オーバーラップ画像である。
【
図13】
図8の観察対象におけるSi-Kα線オーバーラップ画像である。
【
図14】実施例2~6における垂直入射の片面反射率に係るグラフである。
【
図20】実施例32~37及び比較例1における
図14同様図である。
【
図21】製造時の浸漬先である溶液の温度が互いに相違する実施例2,7,10,15,18における垂直入射の片面反射率に係るグラフである。
【
図22】実施例2,7,10,15,18における平均反射率に係るグラフである。
【
図23】実施例32~37及び比較例1における平均反射率(縦軸)と溶液のシリカ濃度(横軸)との関係が示されるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面を用いて説明される。
尚、本発明は、以下の例に限定されない。
【0010】
[構成等]
図1に示されるように、本発明の光学製品1は、基材2と、基材2の成膜面F上に形成された光学膜4と、を備えている。尚、図面において、基材2の厚みに対して光学膜4の厚みが誇張されている。
光学製品1は、透光性を有する反射防止部材として用いられる。即ち、光学製品1において、光学膜4により、光学製品1への入射光I1(入射角θ)の強度に対する反射光R1の強度が抑制される。
尚、
図1では、入射面と対向する反対側の面において入射光I1が透過する光である透過光I2と、当該面において入射光I1が反射する光である反射光R2と、が合わせて示されている。又、光学製品1は、反射防止部材以外に用いられても良い。
【0011】
基材2は、光学製品1が形成されるベースであり、ここでは板状(基板)である。基材2は、透光性を有しており、基材2の可視域(ここでは400nm以上750nm以下)の波長を有する光である可視光の透過率は、ほぼ100%となっている。尚、基材2の形状は、平板状であっても良いし、曲板状であっても良いし、ブロック状等の板状以外であっても良い。
基材2の材料(材質)として、プラスチックが用いられ、ここでは熱硬化性樹脂であるポリカーボネート樹脂(PC)が用いられる。尚、基材2の材料はPCに限られず、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、あるいはこれらの組合せであっても良い。更に、基材2の材料は、ガラス等、プラスチック以外であっても良い。
【0012】
基材2の成膜面Fは、表面及び裏面に配置されており、光学膜4は、表面及び裏面に直接設けられている。尚、光学膜4は、表面及び裏面の一方に設けられても良いし、ブロック状の基材2等において3面以上設けられても良い。又、各光学膜4の少なくとも一方と基材2との間に、ハードコート膜等の中間膜が設けられても良い。かような中間膜が設けられた場合、光学膜4は、基材2に間接的に形成される。
裏面の光学膜4は、表面の光学膜4と同じ構成である。以下、表面の光学膜4が説明され、裏面の光学膜4の説明は、適宜省略される。
光学膜4は、基材2側から数えて(以下同様)1層目にアルミナ製のAl2O3層12を備え、2層目に微細な凹凸構造を有するシリカ製のSiO2層14を備えている。
あるいは、光学膜4は、1層目に、主成分がAl2O3の層であるAl2O3層を備え、2層目に、微細な凹凸構造を有する、主成分がSiO2の層であるSiO2層14を備えている。この場合、1層目と2層目の境界が不明瞭であることがある。又、典型的には、1層目の層において、基材2に近いほどAl2O3の成分比が高く、基材2から離れるほどAl2O3に対するSiO2の成分比が増加する。即ち、膜厚方向において、1層目の層のAl2O3に対するSiO2の成分比は、基材2からの距離に対し比例的な関係となる。1層目の層は、材質の分布にかかわらず、微細な凹凸構造を有さない薄膜状である層と捉え得る。あるいは、1層目の層は、微細な凹凸構造の基礎(土台)と捉え得る。又は、1層目の層は、微細な凹凸構造を有さない薄膜状であり、層内で材質が徐々に変わる層と捉え得る。更に、2層目の層は、Al2O3を、主成分と成らない状態で含有し得る。例えば、2層目の層は、Al2O3を主成分とする微細な凹凸構造の核(骨子)と、その核の一部又は全部を覆うSiO2を主成分とするコートと、を有し得る。2層目の層は、材質の分布にかかわらず、微細な凹凸構造を有する層と捉え得る。
SiO2層14の高さは、例えば1nm以上1000nm以下程度(ナノサイズオーダー)である。SiO2層14における微細な凹凸構造は、例えば毛羽状構造、ピラミッド群状構造、若しくは剣山状構造、又はこれらの組合せである。
【0013】
[製造方法等]
光学製品1は、
図2に示される製造中間体20から製造される。製造中間体20は、基材2と、成膜面Fにそれぞれ成膜されたAl系製造中間膜22と、を備える。
各Al系製造中間膜22は、ここではAlN(窒化アルミニウム)製である。窒化アルミニウムにおけるAlとNとの元素比は、安定して存在するものであればどのようなものであっても良い。
尚、少なくとも一方のAl系製造中間膜22の材料(材質)は、AlN以外の、アルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物で良く、例えばAl,Al
2O
3,AlON(酸窒化アルミニウム)、あるいはこれらとAlNとを含む群から少なくとも2つを選択した組合せであっても良い。酸窒化アルミニウムにおけるAlとNとの元素比、AlとOとの元素比、及びOとNとの元素比についても、窒化アルミニウムの場合と同様である。複数のAl系製造中間膜22が存在する場合、一部のAl系製造中間膜22の材質が他のAl系製造中間膜22の材質と異なっていても良い。
アルミニウム合金,アルミニウム化合物は、アルミニウムを主成分とした合金,化合物であっても良い。ここで、主成分は、他の成分に対して、重量比率で過半数となる成分であっても良いし、体積比率で過半数となる成分であっても良いし、元素比で過半数となる成分であっても良い。かような主成分に関する事項は、Al系製造中間膜22以外についても、適宜妥当する。
【0014】
図3は、光学製品1の製造方法に係る模式図である。
図3では、簡潔な説明のため、成膜面Fが片面のみとなっている。
図3(A)に示される基材2の成膜面Fに対し、
図3(B)に示されるように、Al系製造中間膜22が成膜される。Al系製造中間膜22は、物理蒸着法(Physical Vapor Deposition(PVD),真空蒸着及びスパッタリング等)により、基材2に直接形成される。尚、基材2の両面にAl系製造中間膜22を成膜すれば、基材2の両面に光学膜4が形成される。
【0015】
AlN製のAl系製造中間膜22がDCスパッタ成膜装置でのDCスパッタにより形成される場合が、以下説明される。
即ち、まず、Al製の板状のターゲットがセットされて成膜室が真空引きされ、前処理として、ラジカル源から、O2ガスが、高周波電圧が印加されラジカル酸素となった状態で所定流量(例えば500ccm(Cubic Centimeter per Minute))で所定時間(例えば30秒間)成膜室に供給されることで、基材2のクリーニングが行われる。より詳しくは、かようなラジカル酸素の照射により、基材2に有機物等が付着していたとしても、有機物等はラジカル酸素及びプラズマで発生する紫外線によって分解剥離される。かようなクリーニングにより、後に形成する膜の密着性が向上する。
そして、Al系製造中間膜22が、所定のプロセス条件でスパッタされる。ここでは、Alのスパッタ源がアルゴンガス(Arガス)の導入と共に作動し、ラジカル源として窒素ガス(N2ガス)が成膜室に導入される。尚、スパッタ源に代えて、あるいはスパッタ源と共に、ラジカル源においてArガスが導入されても良い。Arガスは、Ar以外の希ガスに係るものとされても良い。かようなArガスに係る変更は、他の成膜においても適宜行われても良い。
【0016】
又、Al2O3製等のAl系製造中間膜22は、蒸着により形成されても良い。
Al製のAl系製造中間膜22の蒸着においては、真空状態の成膜室内において、Alの顆粒が電子ビーム(EB)により加熱されても良い。
Al2O3製のAl系製造中間膜22の蒸着においては、真空状態の成膜室内において、O2ガスが導入され、Alの顆粒がEBにより加熱されても良い。
【0017】
かようなAl系製造中間膜22付きの基材2、即ち製造中間体20は、
図3(C)に示されるように、槽T内の溶液SLに浸漬される。
溶液SLは、微量のSiO
2(シリカ)が水(H
2O)に溶けたものであり、換言すれば、微量のシリカの水溶液である。
すると、
図3(D)に示されるように、Al系製造中間膜22は、Al
2O
3層12に変化しつつ、基材2と反対側に、微細な凹凸構造を有するSiO
2層14を発生させる。即ち、Al系製造中間膜22は、Al
2O
3層12及びSiO
2層14となる。
より詳しくは、Al系製造中間膜22は、溶液SLにおける水との部分的な溶解を伴った反応によりAl
2O
3層12に変化しつつ、溶液SLにおける微量のSiO
2を、基材2と反対側において徐々に吸着し、微細な凹凸構造を有するように集める。Al系製造中間膜22は、溶液SL中において、SiO
2製の多数の微細な毛羽、角錐、円錐、針状体等を、膜厚方向に成長させる。尚、浸漬時の製造中間体20の姿勢(向き)は、
図3で示されるような水平姿勢に限られない。又、同時に浸漬される製造中間体20の個数は、複数であっても良い。
溶液SLにおけるSiO
2の濃度は、主にSiO
2層14をより良好に形成する観点から、例えば、10mg/l(ミリグラム毎リットル)以下であり、更には2mg/l以下である。
溶液SLの温度は、毛羽状構造等をなるべく短時間で得る観点から、ここでは90℃である。又、溶液SLの温度は、例えば80℃以上100℃以下であり、又は90℃以上100℃以下である。100℃以上とするには、加圧等の特殊な処理を水に施すか、水以外を用いるかしなければならず、手間がかかる。
又、溶液SLへの浸漬時間は、Al
2O
3層12及びSiO
2層14をなるべく短時間で得る観点から、例えば2秒間以上10分間以下であり、又は5秒間以上5分間以下であり、あるいは15秒間以上3分間以下である。浸漬時間が短いと、Al
2O
3層12及びSiO
2層14が十分に得られず、浸漬時間が長いと、処理時間が長くなり効率がその分悪くなる。
【0018】
その後、
図3(E)に示されるように、Al
2O
3層12及びSiO
2層14付きの基材2が槽Tから取り出され、乾燥されることで、
図3(F)に示されるように、光学製品1が完成する。
【実施例】
【0019】
次いで、本発明の好適な実施例、及び本発明に属さない比較例が説明される。
尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、下記の実施例が実質的には比較例となったり、下記の比較例が実質的には実施例となったりすることがある。
【0020】
[実施例1]
≪実施例1の製造等≫
実施例1は、上述の実施形態に対応する。
実施例1において、AlN製のAl系製造中間膜22は、次の表1における項目名の行を除いて最も上の行に示されるプロセス条件でのDCスパッタにより、PC製の板状の基材2の両面に、それぞれ物理膜厚72nmで成膜された。
そして、製造中間体20は、0.06mg/lのシリカを含有する90℃の溶液SLに、3分間浸漬され、乾燥を経て光学製品1に係る実施例1とされた。
特に、溶液SLのシリカ濃度は、次のようにして把握された。即ち、モリブデン青吸光分光法の青発色原理に基づく株式会社共立理化学研究所製パックテストシリカ(低濃度)により、溶液SLのシリカ濃度が測られた。このパックテストシリカ(低濃度)は、0.5~20mg/lの範囲内で、サンプル中のシリカ濃度を測定可能である。シリカ濃度が0.5mg/lより低い場合は、サンプルとして取り分けた溶液SLの溶媒(H2O)が加熱蒸発により濃縮され、濃縮溶液の体積減少量が測定されると共に濃縮溶液のシリカ濃度が測定されて、その測定濃度に対し溶媒の体積減少分を加味した計算により濃縮前のサンプルに係る溶液SLのシリカ濃度が把握された。
【0021】
【0022】
≪実施例1の特性等≫
図4は、実施例1の基材2の成膜面Fに対して垂直に(入射角θ=0°で)入射する可視域及び隣接域の光の片面反射率のグラフである。
図5は、実施例1の基材2の成膜面Fに対して垂直に入射する可視域及び隣接域の光の透過率(表面の光学膜4、基材2、裏面の光学膜4を透過した透過光I2の強度の入射光I1の強度に対する比率)のグラフである。
これらのグラフによれば、実施例1において、可視光に対する低反射(例えば可視域全域で1%以下)が実現していることが分かる。
【0023】
図6は、実施例1の基材2の成膜面Fに対する入射角θを様々に変化させた場合の可視域及び隣接域の光の両面反射率(主に反射光R1,R2の合計強度の入射光I1の強度に対する比率)のグラフである。
又、
図7は、横軸を入射角θとし、縦軸を可視域内の特定域の反射率の平均(平均反射率)とした、両面反射率の入射角度依存性に係るグラフである。ここで、当該特定域は、420nm以上680nm以下である。以下、各種の平均反射率は、全てこの特定域で算出される。
これらのグラフによれば、実施例1において、入射角θ=45°までは垂直入射と同程度で低反射(例えば可視域全域で2%以下)が実現し、入射角θ=50°においても可視域での平均
反射率が2%以下となる程度に低反射が実現していることが分かる。即ち、実施例1における低反射は、広範囲の入射角θにおいて実現しており(モスアイの特徴)、実施例1における低反射の入射角依存性は、0°以上50°以下の範囲において低いと言える。
【0024】
更に、次の要領で、実施例1における光学膜4の構造及び成分が観察された。
即ち、PC製基板の片面に、実施例1と同じ製法で光学膜4を作製し、銅製の試料ホルダに入る大きさに、Ga(ガリウム)ビームでカットした(FIB(Focused Ion Beam)加工)。そして、光学膜4付き基板が試料ホルダに入れられ、光学膜4の構造を保存するため、光学膜4付きカット基板に、カーボン製の保護膜を被せて、観察対象が作成された。
この観察対象が、透過電子顕微鏡(TEM)で観察されると共に、この観察対象への特性X線の照射により、光学膜4の元素分析が行われた。
【0025】
図8は、特性X線に係るスペクトラムのグラフである。
図8から、観察対象は、C(炭素原子)、O(酸素原子)、Cu(銅)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム原子)、Si(ケイ素原子)を含有することが分かる。
これらのうち、Cuは、試料ホルダに由来する。又、Gaは、FIB加工に由来する。更に、Cは、保護膜に由来する。よって、光学膜4は、O、Al、Siを含有する。
【0026】
図9は、TEMの観察像である。
図10は、
図9の観察範囲に対し、CのKα線の強度分布に応じ、画素の濃さをその画素の位置における強度が強いほど比例的に濃くした画像(C-Kα線オーバーラップ画像)である。
図11は、OのKα線についての
図10同様図(O-Kα線オーバーラップ画像)である。
図12は、AlのKα線についての
図10同様図(Al-Kα線オーバーラップ画像)である。
図13は、SiのKα線についての
図10同様図(Si-Kα線オーバーラップ画像)である。
これらの図によれば、基板(画像最下部を占める横長矩形部)の上に層が存在し、その層の上に微細な凹凸構造が存在することが分かる。又、Cが、基板と、層及び微細な凹凸構造以外の部分(保護膜に相当)とに存在することが分かる。更に、Oが、層及び微細な凹凸構造に存在することが分かる。又更に、Alが、基板上の層に存在することが分かる。加えて、Siが、微細な凹凸構造に存在することが分かる。
【0027】
そして、以上の観察事項を適宜合わせれば、基板上の層の主成分がAlの酸化物であり、微細な凹凸構造の主成分がSiの酸化物であることが分かる。更に、それらの安定性等の他の観察事項を考え合わせれば、基板上の層の主成分はAl2O3であり、微細な凹凸構造はSiO2の主成分であると言える。
又、次より説明される実施例2~38等の観察結果を適宜考慮すると、Al系製造中間膜22の材質及び膜厚、溶液SLの温度等の各種の製造条件の違いにより、基板上のAl2O3の層(基板側の層)と微細な凹凸構造のSiO2の層(凹凸層)とは、明確に2層として分かれる場合があるし、厳密には2層に分かれず、成分が膜厚方向(膜に垂直な方向)の位置に応じて徐々に変化する場合もある、と言える。
後者の場合、各種の膜の境界が不明瞭であることがある。又、この場合、典型的には、基板側の層において、基板に近いほどAl2O3の成分比が高く、基板から離れるほどAl2O3に対するSiO2の成分比が増加する。即ち、膜厚方向において、Al2O3に対するSiO2の成分比は、基板からの距離に対し比例的な関係となる。
更に、凹凸層は、Al2O3を、主成分と成らない状態で含有し得る。例えば、凹凸層は、Al2O3を主成分とする微細な凹凸構造の核(骨子)と、その核の一部又は全部を覆うSiO2を主成分とするコートと、を有し得る。
【0028】
[実施例2~38及び比較例1]
≪実施例2~37の製造等≫
実施例2~37及び比較例1は、実施例1と同様にそれぞれ製造された。但し、次の表2~表9に示されるように、実施例2~37及び比較例1は、溶液SLのシリカ濃度、Al系製造中間膜22の材質、基材2の材質、溶液SLの温度、及びAl系製造中間膜22の物理膜厚の少なくとも何れかが、実施例1と異なる。
実施例2~37及び比較例1のAl系製造中間膜22は全てDCスパッタにより形成され、それらのプロセス条件は、Al系製造中間膜22の材質毎に分かれており、上記の表1に示されている。尚、表1には、変更例として、蒸着の場合のプロセス条件が合わせて示されている。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
≪実施例2~37及び比較例1の特性等≫
図14は、実施例2~6における可視域及び隣接域の光の垂直入射での片面反射率に係るグラフである。
図15は、実施例7~11における
図14同様図である。
図16は、実施例12~16における
図14同様図である。
図17は、実施例17~20における
図14同様図である。
図18は、実施例21~26における
図14同様図である。
図19は、実施例27~31における
図14同様図である。
図18は、実施例32~37及び比較例1における
図14同様図である。
又、表2~表9の各最下行に、それぞれの平均反射率が示される。
これらのグラフ及び表によれば、比較例1では、平均反射率が9%を超えて10%に迫っており、可視光に対する反射の抑制が十分であるとは言い難いことが分かる。
これに対し、実施例2~37において、実施例1と同様に、可視光に対する低反射が実現していることが分かる。
そして、種々の観察により、実施例2~37においても、実施例1と同様に、入射角度依存性の低い状態で低反射が実現し、又微細な凹凸構造がSiO
2製(微細な凹凸構造の主成分がSiO
2の層)であり、更に微細な凹凸構造と基板との間にAl
2O
3製の(主成分がAl
2O
3の)層が存在することが確認された。
特に、Al系製造中間膜22がAlNである場合において、様々なAl系製造中間膜22の物理膜厚、及び溶液SLの温度で、反射防止に係る光学膜4が形成された(実施例1~20)。
又、Al系製造中間膜22がAl
2O
3(実施例23~28,30~31)、Al(実施例29)であっても、反射防止に係る光学膜4が形成された。
更に、基板が白板ガラスであっても、反射防止に係る光学膜4が形成された(実施例21~29)。
【0033】
≪溶液の温度等・実施例2,7,10,15,18≫
溶液SLの温度の変化による特性の変化が、上述の実施例2,7,10,15,18の比較により見出される。
実施例2,7,10,15,18は、シリカ濃度(0.06mg/l)、Al系製造中間膜22の材質(AlN)、基板材料(PC)、Al系製造中間膜22の物理膜厚(78.5~78.51nm)において共通し、溶液SLの温度において、順に95,90,85,80,75℃となって互いに相違する。
【0034】
図21は、実施例2,7,10,15,18における垂直入射の片面反射率に係るグラフである。
図22は、実施例2,7,10,15,18における平均反射率に係るグラフである。
これらの図によれば、溶液SLの温度が80℃以上であると、80℃未満の場合(実施例18)に比べて片面反射率の低減がより一層図られることが分かる。
【0035】
≪溶液のシリカ濃度等・実施例32~37,比較例1≫
溶液SLの温度の変化による特性の変化が、上述の実施例32~37及び比較例1の比較により見出される。
実施例32~37及び比較例1は、Al系製造中間膜22の材質(AlN)、基板材料(PC)、溶液SLの温度(90℃)、Al系製造中間膜22の物理膜厚(78.5nm)において共通し、溶液SLのシリカ濃度において、順に0.003,0.06,0.5,1,2,10,20mg/lとなって互いに相違する。
溶液SLのシリカ濃度は、純度の極めて高い純水(実施例32)若しくは純度が通常程度である純水(実施例33)をそのまま用い、あるいは後者の純水に対し、適量のシリカゲルを投入したうえで十分に撹拌することで調整された。前者の純水及び後者の純水において、微量のシリカは完全に排除されずに残っている。
尚、シリカ濃度の把握は、実施例1の説明において述べた通りになされた。
【0036】
上述の
図20は、丁度実施例32~37及び比較例1について示されている。
図23は、実施例32~37及び比較例1における平均反射率(縦軸)と溶液SLのシリカ濃度(横軸)との関係が示されるグラフである。
表10は、実施例32~37及び比較例1における溶液SLのシリカ濃度と平均反射率との関係が示される表である。
【0037】
【0038】
これらの図及び表によれば、溶液SLの温度が10mg/l以下であると、10mg/lを超える場合(比較例1)に比べて片面反射率の低減がより一層図られることが分かる。又、溶液SLの温度が2mg/l以下であると、2mg/lを超える場合(実施例37,比較例1)に比べて片面反射率の低減が更に図られることが分かる。
尚、比較例1では、溶液SL中でAl系製造中間膜22の変化が起こらず、Al系製造中間膜22は層状のAlNのままであった。
又、上述の実施例及び比較例とは別に、参考例として、溶液SLが90℃に加温された水道水とされたものに対し、実施例32~37及び比較例1と同様(溶液SLのシリカ濃度を除く)であるAl系製造中間膜22が3分間浸漬された。この参考例は、比較例1と同様に、反射率の抑制効果を発揮せず、Al系製造中間膜22の変化が起こらなかった。この水道水のシリカ濃度は、20mg/lであった。
【0039】
≪まとめ等≫
実施例1~37は、基材2(基板)と、その成膜面Fに直接形成される光学膜4と、を備えており、光学膜4は、基材2側に配置されたAl2O3製の層であるAl2O3層12と、微細な凹凸構造を有するSiO2製の層であるSiO2層14と、を有しているか、あるいは基材2(基板)と、その成膜面Fに直接形成される光学膜4と、を備えており、光学膜4は、基材2側に配置された、主成分がAl2O3の層であるAl2O3層12と、微細な凹凸構造を有する、主成分がSiO2の層であるSiO2層14と、を有している。
よって、入射角度依存性が低い状態で反射防止作用を呈する光学膜4付きの基材2(光学製品1)が提供される。
【0040】
実施例1~37の製造方法は、アルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムの化合物であるAl系製造中間膜22を、基材2(基板)に成膜する工程と、Al系製造中間膜22付きの基材2を、シリカの水溶液(溶液SL)に浸漬する工程と、を備えており、溶液SLにおけるシリカの濃度は、比較例1(20mg/l)と異なり、10mg/l以下である。よって、入射角度依存性が低い状態で反射防止作用を呈する、SiO2製の微細な凹凸構造を含む光学膜4を有する光学製品1が得られる。
又、実施例1~17,21~37の製造方法において、溶液SL(水溶液)は、80℃以上100℃以下である。更に、実施例1~37の製造方法において、Al系製造中間膜22は、Al、Al2O3、AlN及びAlONの少なくとも何れかである。よって、より一層良好な反射防止作用を呈する光学膜4を有する光学製品1が得られる。
【符号の説明】
【0041】
1・・光学製品、2・・基材、12・・Al2O3層、14・・SiO2層、22・・Al系製造中間膜、F・・成膜面、SL・・溶液(水溶液)。