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  • 特許-非接触血管解析装置 図1
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  • 特許-非接触血管解析装置 図3A
  • 特許-非接触血管解析装置 図3B
  • 特許-非接触血管解析装置 図4A
  • 特許-非接触血管解析装置 図4B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】非接触血管解析装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20230510BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
A61B5/026 120
A61B5/0245 A
A61B5/0245 100B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022560749
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2021039942
(87)【国際公開番号】W WO2022097573
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020184732
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300074101
【氏名又は名称】株式会社レイマック
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】島崎 拓則
(72)【発明者】
【氏名】川久保 芳文
(72)【発明者】
【氏名】光藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】林 祐平
(72)【発明者】
【氏名】畑辺 真也
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/038077(WO,A1)
【文献】特開2019-170407(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179150(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3159768(JP,U)
【文献】国際公開第2019/188768(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/207951(WO,A1)
【文献】特開2005-328941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の動画又は連続した静止画の画像を取得する画像取得器と、
該画像の明度及び/又は色度から導出される指標の時間変化から拍動及び動脈と静脈の吻合により動脈の血液が静脈に流し込まれる際に生じる乱流が血管壁をたたくために生じる振動であるスリルを検出する画像処理器と、を備える非接触血管解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の非接触血管解析装置において、
前記血管に光を当てる光照射器を更に備える非接触血管解析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の非接触血管解析装置において、
前記画像の明度及び/又は色度から導出される指標は、前記画像の明度又は輝度である非接触血管解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の非接触血管解析装置において、
前記画像処理器は、前記画像の明度又は輝度のパワースペクトルにおいて最大値近傍領域を拍動として検出する非接触血管解析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の非接触血管解析装置において、
前記画像処理器は、前記画像の明度又は輝度のパワースペクトルの最大値を示す周波数を心拍数とする非接触血管解析装置。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の非接触血管解析装置において、
前記画像処理器は、前記画像の明度又は輝度のパワースペクトルにおいて周波数が高くなるにつれて極大値が減少してから後、一旦上がったときの極大値近傍領域をスリルとして検出する非接触血管解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吻合によって影響された血管の状態を非接触で解析できる非接触血管解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透析療法をはじめ患者の血液を体外循環血液回路に通して体外循環させる治療においては、患者から血液を抜き出したり患者に血液を戻したりする出入り口(バスキュラーアクセス)が設けられる。バスキュラーアクセスにおいては、体外循環のために、動脈血を直接静脈に流し込むように外科手術により直接に又は人工血管を用いて、動脈と静脈を吻合して動静脈血管吻合部を形成する方法が用いられている。
【0003】
しかし、動静脈血管吻合部を形成することで、それにより影響された血管が血管内膜の肥厚や硬化、血栓形成などにより狭窄したり更には閉塞したりして血流障害が起こり易くなる。そこで、治療前後に血管に異常がないかどうかを音を聞いたり脈の動きを感じたりして判断している。音を聞く方法は、典型的には、聴診器を用いて血流音(いわゆるシャント音)の大きさと音域を聴いて異常がないかどうかを判断している。つまり、正常では大きく低い音を聴くことができるが、血管が狭窄していると低音が小さくなり高音が大きくなる。更に狭窄が進むと音の大きさが小さくなり、閉塞すると聴くことができなくなる。
【0004】
また、脈の動きを感じる方法は、典型的には、血管に指を当て、圧が高い動脈の血が静脈に流し込まれる際に生じる乱流が血管壁をたたくために生じる振動(スリル)を感じることで、異常がないかどうかを判断している。つまり、正常ではスリルを感じることができるが、血管が狭窄し閉塞に近づいてくると血流が減るため、スリルはなくなってくる。
【0005】
このような血管の状態を解析し異常を容易に発見できるようにするために、従来より、様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1には、体外循環血液回路に設けられたシャント音取得装置により、シャント音を取得して電気信号に変換し、脈拍等を解析する技術が開示されている。また、特許文献2には、シャント音解析装置により、シャント音を取得して電気信号に変換し、それから血管の狭窄によって生じるシャント音の特徴を示す特徴成分を抽出し、特徴成分に基づいてシャント音の評価に関連する評価情報を出力する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-328941号公報
【文献】国際公開2016-207951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2のようにシャント音を用いる解析装置は、外来雑音が入らないようにするために静かな環境或いは外来雑音遮蔽対策を必要とするため、使用できる場所が限定される。更には、マイクロホンなどを皮膚に接触させる必要があるため、接触による感染への対策が必要となる。
【0008】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定の場所に限定されず容易に非接触で血管の状態を解析できる非接触血管解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る非接触血管解析装置は、血管の動画又は連続した静止画の画像を取得する画像取得器と、該画像の明度及び/又は色度から導出される指標の時間変化から拍動及び動脈と静脈の吻合により動脈の血液が静脈に流し込まれる際に生じる乱流が血管壁をたたくために生じる振動であるスリルを検出する画像処理器と、を備える。
【0010】
好ましくは、非接触血管解析装置は、前記血管に光を当てる光照射器を更に備える。
【0011】
好ましくは、前記画像の明度及び/又は色度から導出される指標は、前記画像の明度又は輝度である。
【0012】
好ましくは、前記画像処理器は、前記画像の明度又は輝度のパワースペクトルにおいて最大値近傍領域を拍動として検出する。
【0013】
好ましくは、前記画像処理器は、前記画像の明度又は輝度のパワースペクトルの最大値を示す周波数を心拍数とする。
【0014】
好ましくは、前記画像処理器は、前記画像の明度又は輝度のパワースペクトルにおいて周波数が高くなるにつれて極大値が減少してから後、一旦上がったときの極大値近傍領域をスリルとして検出する。
【0015】
本発明に係る非接触血管解析装置によれば、特定の場所に限定されず容易に非接触で血管の状態を解析可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る非接触血管解析装置の使用例を示す概略図である。
図2図1で示した非接触血管解析装置においてコンピュータシステムで実現された画像処理器を示す概略図である。
図3A図1で示した使用例における解析例を示すものであって、動静脈血管吻合部で取得した画像の明度(brightness)の時間変化を示すデータのグラフである。
図3B図1で示した使用例における解析例を示すものであって、図3Aで示したデータのパワースペクトルのグラフ(縦軸がパワー(power)で横軸が周波数(frequency))である。
図4A図1で示した使用例における解析例を示すものであって、動静脈血管吻合部から離れた部位で取得した画像の明度(brightness)の時間変化を示すデータのグラフである。
図4B図1で示した使用例における解析例を示すものであって、図4Aで示したデータのパワースペクトルのグラフ(縦軸がパワー(power)で横軸が周波数(frequency))である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施形態に係る非接触血管解析装置1は、図1に示すように、画像取得器2と画像処理器3を備える。
【0018】
画像取得器2は、患者の血管(例えば、動静脈血管吻合部)を撮像して動画又は連続した静止画の画像2imを取得するものである。
【0019】
画像2imを取得するために、非接触血管解析装置1は、画像取得器2の他に、患者の血管に光を当てる光照射器4(図1においてはリング型照明器)と外光を遮断する遮光箱5を備えることができる。光照射器4の光は、単色光(例えば、緑色の光など)又は白色光であり、可視光の他、赤外領域及び紫外領域の光であってもよい。
【0020】
血管は、拍動などによる収縮及び拡張の変動により赤血球の量が変動し、吸光度が変動する。血管を撮像すると、吸光度の変動及び/又は血管の物理的変動によって、明度及び/又は色度が時間変化する動画又は連続した静止画の画像2imを取得することができる。そして、動静脈血管吻合によって影響された血管を撮像すると、拍動による変化の他にスリルによる変化が含まれた画像2imを取得することができる。なお、本願発明者による実験では、緑色の光に対する吸光度の変動が顕著であった。
【0021】
画像処理器3は、画像取得器2が取得した画像2imの明度及び/又は色度から導出される指標の時間変化から拍動とスリルを検出する。ここで、明度及び/又は色度から導出される指標とは、明度、色相、又は彩度或いはそれらの組み合わせから導出されるものであり、輝度などが含まれる。明度及び/又は色度から導出される指標を明度又は輝度とすると、後述するようにその時間変化を容易にグラフ化でき容易に解析できる。以下、明度を用いて説明するとき、明度の代わりに輝度を用いても同様である。
【0022】
画像処理器3は、通常、図2に示すように、コンピュータシステムで実現され、プログラムメモリ3aに画像処理のプログラムを有する。図2中、符号3bはCPU、符号3cはワークメモリ、符号3dは入出力部を含むその他の部分を示している。
【0023】
画像2imの明度及び/又は色度から導出される指標を明度とすると、図3Aに示すように、明度の変化の中には、拍動による大きく緩やかな変化PUの他に小さなスリルによる急な変化THが含まれている。なお、図3A(及び後述する図4A)のグラフに用いた画像2imは、光照射器4により緑色の光を患者に当てて取得したものである。また、図3A(及び後述する図4A)のグラフは、0.8Hz~12Hzの周波数範囲で抽出したものである。また、図3A(及び後述する図4A)のグラフは、データを取り始めてから20秒後~25秒後の間のデータを示すものである。
【0024】
画像処理器3において、画像2imの明度の時間変化の波形を図3Bに示すようにフーリエ変換し、周波数解析(つまり、周波数に対する明度のパワースペクトルを解析)することにより、拍動とスリルを検出することが可能である。
【0025】
例えば、画像2imの明度のパワースペクトルにおいてパワーの最大値近傍領域puを拍動として検出し、また、最大値を示す周波数fpを心拍数とすることが可能である。そして、検出した拍動の強度又は心拍数の周波数により、拍動が正常かどうかの評価をすることもできる。周波数に対する明度のパワースペクトルでは、一般に、複数個の極大値近傍領域のうち最も低い周波数のもの(基本波)は、最大値近傍領域となり、拍動を示す。また、そこでは、周波数が高くなるにつれて段々と極大値が減少する高調波pu’も現れる。
【0026】
また、例えば、画像2imの明度のパワースペクトルにおいて周波数が高くなるにつれて極大値が減少してから後、一旦上がったときの極大値近傍領域をスリルthとして検出することが可能である。この場合、スリルとして検出する極大値近傍領域より前の極大値近傍領域は、上記の高調波pu’とみなすことができる。そして、検出したスリルの強度又はその有無により、スリルが正常かどうかの評価をすることもできる。また、図3Bにおいては、符号thで示したスリル以外にもスリルth’が現れている。
【0027】
なお、画像処理器3において、拍動とスリルを検出する具体的な方法はその他、様々な方法が可能である。例えば、深層学習やLiDAR(Light Detection And Ranging)などにより拍動とスリルを検出することも可能である。
【0028】
このように、非接触血管解析装置1は、従来の音を聞く方法と脈の動きを感じる方法に代えて画像取得器2と画像処理器3を用いて拍動とスリルを検出することにより、場所を限定せず容易に非接触で血管の状態を解析できる。また、非接触血管解析装置1は、簡易な構成である。また、非接触血管解析装置1は、患者に非接触なので、接触による血管への影響がない状態で解析が可能である。
【0029】
なお、非接触血管解析装置1は、表示装置6(図1参照)を備え、表示装置6には、画像処理器3からの表示データ3sが入力され、図3A図3Bで示したようなグラフが同時に又は選択的に表示されるようにすることができる。
【0030】
また、撮像は、動静脈血管吻合部に限らず、動脈と静脈の吻合により血流に影響を及ぼす血管であれば、他の部位の血管でも可能である。動静脈血管吻合部から離れた部位であっても、図4Aに示すように明度が時間とともに変化し、図4Bに示すように拍動とスリルを検出することが可能である。
【0031】
非接触血管解析装置1は、全体を一体化することも可能であり、例えば、スマートフォンやノートパソコンなどのカメラ付き端末を用いることも可能である。
【0032】
以上、本発明の実施形態に係る非接触血管解析装置について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 非接触血管解析装置
2 画像取得器
2im 画像
3 画像処理器
3a プログラムメモリ
3b CPU
3c ワークメモリ
3d コンピュータシステムのその他の部分
3s 表示データ
4 光照射器
5 遮光箱
6 表示装置
fp 画像の明度のパワースペクトルにおいてパワーが最大値を示す周波数
PU 拍動による大きく緩やかな変化
pu 画像の明度のパワースペクトルにおけるパワーの最大値近傍領域(基本波)
pu’ 高調波
TH 小さなスリルによる急な変化
th、th’ スリル
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B