(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】封口ガスケット、および筒形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/184 20210101AFI20230510BHJP
H01M 6/02 20060101ALI20230510BHJP
H01M 6/08 20060101ALI20230510BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20230510BHJP
H01M 4/06 20060101ALN20230510BHJP
【FI】
H01M50/184 D
H01M6/02 Z
H01M6/08 A
H01M50/107
H01M4/06 U
(21)【出願番号】P 2019011488
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 龍也
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-069459(JP,A)
【文献】特開2007-048730(JP,A)
【文献】特開2002-190285(JP,A)
【文献】特開平11-283588(JP,A)
【文献】特表2018-524793(JP,A)
【文献】特開平11-250875(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109088013(CN,A)
【文献】中国実用新案第204155977(CN,U)
【文献】中国実用新案第203406346(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/183
H01M 6/02
H01M 6/08
H01M 50/107
H01M 4/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状の電池缶内に環状に成形された正極合剤と、当該正極合剤の内側に充填される負極ゲルとが有底円筒状のセパレーターを介して収納されているとともに、前記電池缶の開口が縮径加工されて、前記開口が封口板によって封止されてなる
アルカリ電池からなる筒形電池において、前記電池缶と前記封口板との間を絶縁するための封口ガスケットであって、
上下方向と上下方向に直交する放射方向とを有し、
上下方向を円筒軸とした中空円筒状のボス部と、ボス部の外周から放射方向に膜状に形成されて上下方向から見て円板状に形成された隔壁部と、前記隔壁部の外周を巡って上方に立設する壁面からなる外周部と、を備え、
前記ボス部と前記隔壁部とは円形溝状の薄肉部を介して連続し、
前記隔壁部には、前記薄肉部から放射外方向に向かって、上方から見て上方に開口する円環溝状の第1の応力緩衝部と、下方から見て下方に開口する円環溝状の第2の応力緩衝部とがこの順に互い違いとなるように形成され、
円板状の前記隔壁部を、円板の中心を通る上下方向を含む面で切断したときの縦断面は、前記薄肉部の外周から放射外方向に向かって延長する領域の外方に下方に向かって傾斜する領域が連続した後、再度放射外方向に向かって延長する領域を経て前記第1の応力緩衝部に連続する形状を有し、
前記第1の応力緩衝部と前記第2の応力緩衝部とは、一つの側壁を介して隔壁部の径方向に隣接して形成され、
前記外周部は、前記第2の応力緩衝部の外周に隣接して形成され、
前記第1の応力緩衝部の溝の深さは、前記第2の応力緩衝部の溝の深さと同じであり、
前記封口ガスケットは、前記ボス部の下端を最も下方の位置とし、前記外周部の上端を最も上方の位置として、
前記最も下方の位置から前記最も上方の位置までの上下方向の距離を総高Hとし、
前記再度放射外方向に向かって延長する領域において、前記第1の応力緩衝部に隣接する位置の厚さを緩衝部高Haとし、
前記隔壁部は、緩衝部高Haが小さくなるに応じ、前記第1の応力緩衝部と前記第2の応力緩衝部のそれぞれの溝の底に相当する部位の厚さが薄くなるように形成されて、Ha/Hが、15%以上30%以下である、
ことを特徴とする筒形電池用封口ガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載の筒形電池用封口ガスケットを備えた筒形電池であって、
前記上下方向と一致する方向に筒軸を有する
有底筒状の電池缶内に環状に成形された正極合剤と、当該正極合剤の内側に有底円筒状のセパレーターを介して充填される負極ゲルとが収納されているとともに、前記電池缶の開口が封口板によって封止されてなり、
前記開口が縮径加工されて、前記封口板が前記
筒形電池用封口ガスケットを介して嵌着されて
いる、
ことを特徴とする筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、封口ガスケット、および筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
封口ガスケットを備えた筒形電池の一例として、一般的なLR6型のアルカリ電池を挙げる。
図1にアルカリ電池1の内部構造を示した。
図1は、円筒軸100の延長方向を上下(縦)方向としたときのアルカリ電池1の縦断面を示している。
図1に示したように、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製電池缶2、環状に成形された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された棒状の金属からなる負極集電子6、皿状の金属製負極端子板7、樹脂からなる封口ガスケット20などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ電池1の発電要素を形成する。なお、以下では、説明の便宜上、電池缶2の底部側を下方として上下方向を規定することとする。また、前記上下方向に直交して外方へ向かう方向を放射方向と規定する。これらの二方向は、便宜的に定めた相対的な方向の関係を示す。
【0003】
電池缶2は、正極合剤3に直接接触することにより、電池ケースおよび正極集電体として機能する。そして、電池缶2の底面には正極端子8が形成されている。皿状の負極端子板7は、フランジ状の縁がある皿状で、正極端子8を下方としたとき、その皿を伏せた状態で電池缶2の開口に封口ガスケット120を介して嵌着されている。
【0004】
負極ゲル5中に挿入された棒状の負極集電子6は、その上端が皿状の負極端子板7の下面に溶接されている。なお、負極端子板7は電池缶2の開口を閉鎖するための封口板であり、負極端子板7、負極集電子6、および封口ガスケット20は封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられている。そして、この封口体を電池缶2内に挿入するとともに電池缶2の開口を内方に縮径加工することで封口ガスケット120がかしめられる。すなわち、封口ガスケット120が、電池缶2の内面と、負極端子板7の縁との間に狭持され、電池缶2が密閉状態で封口される。
【0005】
図2は、封口ガスケット120の構造を示す図であり、封口ガスケット120の上下方向を、電池缶2内に配置された状態で規定している。そして、
図2では、電池缶2の開口にかしめられる前の封口ガスケット120の形状が縦断面図として示されている。封口ガスケット120は、円盤の周囲に上方に立設する壁面(以下、外周部24と言うことがある)が巡るカップ状で、円盤の中心は、負極集電子6が圧入される中空部(以下、ボス孔22と言うことがある)を備えた円筒状のボス部21となっている。そして、封口ガスケット120が電池缶2内に組み込まれると、ボス部21の外周から円盤の周縁に至る膜状の部分(以下、隔壁部23と言うことがある)によって電池缶2における発電要素の収納空間が密閉され、電池缶2の内部が上下に仕切られる。
【0006】
なお、電池缶2の封口手順としては、まず、負極端子板7、負極集電子6および封口ガスケット120を、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせておく。次いで、電池缶2の上端側に形成されたビーディング部9を座にして封口ガスケット120を電池缶2内に配置し、封口ガスケット120と負極端子板7と負極集電子6とからなる封口体で電池缶2の開口を覆う。そして、電池缶2の開口端を縮径加工して、電池缶2を封口する。
【0007】
封口ガスケット120の隔壁部23には同心円状の凹凸がある。例えば、隔壁部23表面の一部には、溝状の薄肉部25が形成されており、この薄肉部25は、電池缶2内の圧力が異常に上昇した際に先行破断し、最終的に、その内圧の原因となったガスを負極端子板7に設けられた排気孔10(
図1参照)を介して大気開放させる防爆安全機構として機能する。
【0008】
また封口ガスケット120の隔壁部23には、封口時に封口ガスケット20に加わる放射内方向の応力を吸収する応力緩衝部130が設けられている。応力緩衝部130は、隔壁部23の一部を屈曲させた縦断面形状を有し、放射内方向に応力が隔壁部23に加わった際に、隔壁部23の円盤形状を均一に変形させて、応力の偏りによる薄肉部25の不用意な破断を抑止する機能を担っている。
【0009】
応力緩衝部130による応力の緩衝機能は、封口ガスケット120の隔壁部23の縦断面形状によってもたらされる。
図2に示した封口ガスケット120では、隔壁部23において、外周部24からボス部21に至る途上に、下方に屈曲してU字状の縦断面を有する応力緩衝部130が形成されている。そして、この応力緩衝部130は、当該電池缶2の開口部が縮径されて封口ガスケット120がかしめられる際、縦断面におけるU字の開口が閉塞するように撓むことで、隔壁部23に対する縮径方向の応力を吸収する。
【0010】
図3は、
図2とは形状が異なる応力緩衝部230を有する封口ガスケット220の縦断面図である。
図3に示した封口ガスケット220では、隔壁部23において、内周から外周に向けて斜め上方に向かって延長した後に斜め下方に屈曲して外周部24に至る部位が応力緩衝部230となる。この応力緩衝部230は、封口時に、隔壁部23の上面側と下面側とにおける屈曲部の角度(θ1、θ2)が可変することで隔壁部23に加わる応力を吸収する。なお、上述した応力緩衝部230を備えた封口ガスケット220の構造については以下の特許文献1に詳しく記載されている。またアルカリ電池の製造方法については以下の非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】FDK株式会社、”アルカリ電池のできるまで”、[online]、[平成30年12月26日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/denchi_club/denchi_story/arukari.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
図2や
図3に示した封口ガスケット(120、220)では応力緩衝部(130、230)の形状が最適化されており、電池缶2の開口部がかしめられて当該電池缶2が封口される際には変形して封口ガスケット(120、220)の変形や薄肉部25の破断を確実に防止することができるようになっていた。
【0014】
しかし、応力緩衝部(130、230)は、封口時に撓み易くするために、隔壁部23において、下方に大きく突出するように屈曲させてなる。そのため、従来の封口ガスケット(120、220)では、電池缶2内において、発電要素(正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5、電解液)が収納される、封口ガスケット(120、220)の隔壁部23の下面から下方の発電要素収納領域の容積を増加させることが難しかった。すなわち、従来の封口ガスケット(120、220)では、電池缶2内における発電要素の充填量が制限され、放電性能を向上させることが難しかった。
【0015】
そこで本発明は、筒形電池の電池缶の開口部を縮径加工して封口する際に発生する応力を確実に吸収でき、かつ電池缶内の発電要素の充填量を増量させることができる封口ガスケットと、その封口ガスケットを備えた筒形電池とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、有底筒状の電池缶内に環状に成形された正極合剤と、当該正極合剤の内側に充填される負極ゲルとが有底円筒状のセパレーターを介して収納されているとともに、前記電池缶の開口が縮径加工されて、前記開口が封口板によって封止されてなるアルカリ電池からなる筒形電池において、前記電池缶と前記封口板との間を絶縁するための封口ガスケットであって、
上下方向と上下方向に直交する放射方向とを有し、
上下方向を円筒軸とした中空円筒状のボス部と、ボス部の外周から放射方向に膜状に形成されて上下方向から見て円板状に形成された隔壁部と、前記隔壁部の外周を巡って上方に立設する壁面からなる外周部と、を備え、
前記ボス部と前記隔壁部とは円形溝状の薄肉部を介して連続し、
前記隔壁部には、前記薄肉部から放射外方向に向かって、上方から見て上方に開口する円環溝状の第1の応力緩衝部と、下方から見て下方に開口する円環溝状の第2の応力緩衝部とがこの順に互い違いとなるように形成され、
円板状の前記隔壁部を、円板の中心を通る上下方向を含む面で切断したときの縦断面は、前記薄肉部の外周から放射外方向に向かって延長する領域の外方に下方に向かって傾斜する領域が連続した後、再度放射外方向に向かって延長する領域を経て前記第1の応力緩衝部に連続する形状を有し、
前記第1の応力緩衝部と前記第2の応力緩衝部とは、一つの側壁を介して隔壁部の径方向に隣接して形成され、
前記外周部は、前記第2の応力緩衝部の外周に隣接して形成され、
前記第1の応力緩衝部の溝の深さは、前記第2の応力緩衝部の溝の深さと同じであり、
前記封口ガスケットは、前記ボス部の下端を最も下方の位置とし、前記外周部の上端を最も上方の位置として、
前記最も下方の位置から前記最も上方の位置までの上下方向の距離を総高Hとし、
前記再度放射外方向に向かって延長する領域において、前記第1の応力緩衝部に隣接する位置の厚さを緩衝部高Haとし、
前記隔壁部は、緩衝部高Haが小さくなるに応じ、前記第1の応力緩衝部と前記第2の応力緩衝部のそれぞれの溝の底に相当する部位の厚さが薄くなるように形成されて、Ha/Hが、15%以上30%以下である、
ことを特徴とする筒形電池用封口ガスケットである。
【0018】
本発明のその他の態様は、上記筒形電池用封口ガスケットを備えた筒形電池であって、
前記上下方向と一致する方向に筒軸を有する有底筒状の電池缶内に環状に成形された正極合剤と、当該正極合剤の内側に有底円筒状のセパレーターを介して充填される負極ゲルとが収納されているとともに、前記電池缶の開口が封口板によって封止されてなり、
前記開口が縮径加工されて、前記封口板が前記筒形電池用封口ガスケットを介して嵌着されている、
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、筒形電池の電池缶の開口部をかしめ加工によって封口する際に発生する応力を確実に吸収でき、かつ電池缶内の発電要素の充填量を増量させることができる封口ガスケットと、その封口ガスケットを備えた筒形電池とが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一般的なアルカリ電池の構造を示す図である。
【
図2】上記一般的なアルカリ電池に組み込まれる従来の封口ガスケットの一例を示す図である。
【
図3】上記一般的なアルカリ電池に組み込まれる従来の封口ガスケットのその他の例を示す図である。
【
図4】本発明の実施例に係る封口ガスケットを示す図である。
【
図5】上記実施例に係る封口ガスケットを備えたアルカリ電池を示す図である。
【
図6】比較例に係る封口ガスケットを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0022】
===実施例==
本発明の実施例に係る封口ガスケットとして、LR6型のアルカリ電池に用いられる封口ガスケットを挙げる。
図4に実施例に係る封口ガスケット20の構造を示した。
図4は当該封口ガスケットの縦断面図である。
図4に示したように、実施例に係る封口ガスケット20は、先に
図2と
図3とに示した封口ガスケット(以下、比較例1に係る封口ガスケット120と比較例2に係る封口ガスケット220)が隔壁部23の一箇所に応力緩衝部(130、230)が形成されているのに対し、隔壁部23の二箇所に応力緩衝部(30a、30b)が形成されている。
【0023】
具体的には、実施例に係る封口ガスケット20は、6,12ナイロンなどの樹脂を射出成形することで作製されており、ボス部21と同心の円環溝状に形成された応力緩衝部(30a、30b)が、隔壁部23の上面側と下面側とに一つずつ形成されている。そして、二つの応力緩衝部(30a、30b)は、一つの側壁を介して隔壁部23の径方向に隣接して形成されている。
【0024】
実施例に係る封口ガスケット20は、
図4に示したように、隔壁部23において、応力緩衝部(30a、30b)が形成されている領域の厚さHaが適切に設定されている。それによって、実施例に係る封口ガスケット20を備えた筒形電池は、発電要素が収納される領域が増大されて放電容量に優れ、かつ、電池缶2内が所定の圧力に達した際には、安全弁である薄肉部25が確実に破断し、安全性が確保されたものとなっている。
図5に、実施例に係る封口ガスケット20を備えたLR6型のアルカリ電池1の縦断面図を示した。
図5に示したように、実施例に係る封口ガスケット20は、電池缶2の開口に負極端子板7を介してかしめられると、二つの応力緩衝部(30a、30b)を構成するそれぞれの溝の開口が閉塞されるように変形し、隔壁部23に加わる縮径方向の応力を吸収する。
【0025】
===性能評価===
次に、実施例に係る封口ガスケット20の性能を評価するために、
図4に示した実施例に係る封口ガスケット20において、応力緩衝部(30a、30b)の形成領域における隔壁部の厚さが異なる種々の封口ガスケット(以下、実施例様ガスケット20と言うことがある)と、
図2に示した比較例1に係る封口ガスケット120と、
図3に示した比較例2に係る封口ガスケット220とを作製した。さらに、
図6に示したように、実施例様ガスケット20に対し、二つの応力緩衝部(30a、30b)の一方の応力緩衝部30aのみを備えた比較例3に係る封口ガスケット320も作製した。なお、
図2~
図4、
図6では、それぞれの図に示した封口ガスケット(120、220、20、320)で、互いに対応する部位のサイズが同じ符号で示されている。そして、作製した各種封口ガスケット(120、220、20、320)は、同じ樹脂材料からなり、総高Hおよび外径φが同じである。また、応力緩衝部(130、230、30a、30b)以外の各部位のサイズ、例えば、ボス部(高さHb、外径φ1、内径φ2)、外周部(高さHc、厚さt)なども同じになっている。実施例様ガスケット20については、応力緩衝部(30a、30b)の形成領域における隔壁部23の厚さ(以下、緩衝部高Haとも言う)を除けば、各部位のサイズは同じである。また、実施例様ガスケット20における円環溝状の二つの応力緩衝部(30a、30b)は、深さ(D1、D2)が同じであり、緩衝部高Haが小さくなるのに応じ、溝の底に相当する部位の隔壁部23の厚さが薄くなっていく。もちろん、応力緩衝部(30a、30b)が形成されている領域において、最も薄肉となる部位の厚さは、安全弁として機能する薄肉部25の厚さより厚い。なお、作製した各種封口ガスケット(120、220、20、320)の薄肉部25の厚さは、それぞれの封口ガスケット(120、220、20、320)を構成する素材(6,12ナイロンなど)の機械特性(引張強度、圧縮強度、曲げ強度など)に基づいて、所定の圧力範囲内で破断するように設定されている。
【0026】
また、作製した各種封口ガスケット(120、220、20、320)は、総高H、ボス部21の高さHb、外周部24の高さHc、直径φ、ボス部21の外径φ1、ボス部21の内径φ2、および外周部24の厚さtを共通のサイズとした。
【0027】
そして、上述した各種封口ガスケット(120、220、20、320)の特性を評価するために、これらの封口ガスケット(120、220、20、320)を用いたLR6型のアルカリ電池1と、各種封口ガスケット(120、220、20、320)を用いつつ、発電要素を収納せずに封口したLR6型のアルカリ電池1の電池缶2とをサンプルとして作製し、各サンプルについて、発電要素の収納領域の容積(以下、容積と言うことがある)、安全弁の作動試験、および高温保存試験を調べた。なお、安全弁の作動試験、および高温保存試験については、各サンプルについて20個の個体を用いて試験を行った。
【0028】
安全弁の作動試験では、発電要素を収納せずに封口した電池缶2からなるサンプルを用い、そのサンプルにおける発電要素の収納領域内に圧搾空気を導入するとともに、安全弁が作動したときの圧力を調べた。そして、同じサンプルに属する20個の個体について、安全弁が破断したときの圧力が、所定の数値範囲内であれば、そのサンプルを合格とし、全個体のうち、一個でも数値範囲外で安全弁が破断した個体があれば、そのサンプルを不合格とした。高温保存試験は、アルカリ電池1の長期間保存性能を評価するためのものであり、電池缶2内に発電要素が収納されたサンプルを、90℃の温度で30日間保存するとともに、保存後のサンプルを分解し、安全弁に亀裂が発生しているか否かを目視によって確認した。そして、20個の個体のうち、一つでも安全弁に亀裂が発生した個体があれば、そのサンプルを不合格とした。
【0029】
以下の表1に、各サンプルに対する試験結果を示した。
【0030】
【0031】
表1において、サンプル1は、
図2に示した比較例1に係る封口ガスケット120を備えたアルカリ電池1であり、サンプル2は、
図3に示した比較例2に係る封口ガスケット220を備えたアルカリ電池1である。サンプル3~5は、
図6に示した比較例3に係る封口ガスケット320を備えたアルカリ電池1である。そして、サンプル6~サンプル9は、
図4に示したものと同様の構造を有する実施例様ガスケット20を用いたアルカリ電池1である。
【0032】
また、表1における「Ha/H」は、
図2~
図4、
図6に示したように、封口ガスケットにおける、総高Hと応力緩衝部(130、230、30a、30b)の形成領域の厚さHaとの比Ha/Hを百分率(%)で示したものである。そして、この数値Ha/Hが大きいほど、発電要素の収納領域の容積が減少することになる。
【0033】
表1において、サンプル1、および2は、いずれも、製品として提供されている従来のLR6型アルカリ電池1であり、容積は同じである。そして、サンプル1およびサンプル2は、Ha/Hが、それぞれ42%および40%であり、当然のことながら、安全弁が規定の圧力で作動し、耐漏液試験も合格となる。すなわち、比較例1と比較例2とに係る従来の封口ガスケット(120、220)では、Ha/Hの適正値が、それぞれ42%と40%であり、Ha/Hが適正値よりも大きくなれば、容積が減少し、従前の放電性能を確保することが難しくなる。一方、Ha/Hが適正値よりも小さい場合は、封口時の応力を応力緩衝部(130、230)が十分に吸収しきれず、隔壁部23が変形し易くなる。そのため、安全弁の作動する圧力が規格外となる場合がある。また、封口時の応力により、隔壁部23に不均一な応力が常態的に掛かった状態になれば、安全弁となる薄肉部25の一部が、封口ガスケット(120、220)を構成する樹脂素材が高温保存試験によって他の部位に対して急速に劣化し、当該薄肉部25の一部に亀裂が発生する場合もある。
【0034】
比較例3に係る封口ガスケット320を備えたサンプル3~5では、封口ガスケット(320、20)の応力緩衝部(30a、30b)が、隔壁部23の厚さの範囲内で形成されており、容積を増やし易くなる。そして、Ha/H≦30%であれば、従来のアルカリ電池1に相当するサンプル1やサンプル2よりも容積を大きくすることができる。また、比較例3に係る封口ガスケット320を備えたサンプル3~5では、いずれも安全弁が規格外の圧力で破断した個体、および高温保存特性において安全弁に亀裂が発生した個体があった。これは、比較例3に係る封口ガスケット320では、応力緩衝部30aが一つしかなく、電池缶2を封口する際の応力を十分に吸収できなかったためと考えることができる。
【0035】
実施例様ガスケット20を備えたサンプル6~10では、比較例3と同様に、封口ガスケット20の応力緩衝部(30a、30b)が、隔壁部23の厚さの範囲内で形成されており、容積を増やし易くなる。そして、Ha/H≦30%であれば、従来のアルカリ電池1に相当するサンプル1やサンプル2よりも容積を大きくすることができる。しかし、Ha/H=40%のサンプル10では、サンプル1やサンプル2よりも大きな容積を得ることができなかった。そして、実施例様ガスケット20を備え、かつ容積をサンプル1や2より大きくすることができたサンプル6~9のうち、15%≦Ha/H≦30%のサンプル7~9では、全ての個体で安全弁が規格内の圧力で破断し、高温保存試験により安全弁に亀裂が発生した個体が一つもなかった。なお、Ha/H=10%のサンプル6では、安全弁が作動する圧力が規格外となったり、高温保存試験において安全弁に亀裂が発生したりした個体が発生した。これは、サンプル6は、封口ガスケット20において応力緩衝部(30a、30b)が形成されている領域の厚さが小さいため、この領域において、隔壁部23が僅かな応力変動によって大きく変形するためと考えることができる。
【0036】
以上より、実施例に係る封口ガスケット20は、円板状の隔壁部23の一部に、同心円をなす円環溝状の複数の応力緩衝部(30a、30b)が形成されているとともに、総高Hと、応力緩衝部(30a、30b)が形成されている領域における隔壁部23の最大の厚さHaとの比Ha/Hが、15%以上30%以下となるものである。
【0037】
===その他の実施例===
上記実施例に係る封口ガスケット20では、放射方向で互いに隣接し合う二つの応力緩衝部(30a、30b)が、上面と下面とに互い違いに形成されていたが、二つの応力緩衝部(30a、30b)は、隔壁部23の上面あるいは下面のいずれかに形成されていてもよい。
【0038】
上記実施例に係る封口ガスケット20は、応力緩衝部(30a、30b)が二つであったが、三つ以上であってもよい。なお、上下方向から投影面積に限りがある隔壁部23に多数の応力緩衝部(30a、30b)を設ければ、応力緩衝部(30a、30b)を構成する溝の幅が狭くなり、成形精度を確保することが難しくなる。したがって、応力緩衝部(30a、30b)の数は、封口ガスケット20を製造するときの寸法精度などを考慮して適宜に決定すればよい。そして、表1に示したように、応力緩衝部(30a、30b)の数は、必要最小限の二つであっても、容積を大きくしつつ、十分な防爆安全性能が確保されていることから、応力緩衝部(30a、30b)は、二つであることがより好ましい。
【0039】
上記実施例に係る封口ガスケット20は、アルカリ電池1に限らず、電池缶2の開口が縮径加工されることで、封口板が電池缶2の開口に嵌着されている筒形電池に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 アルカリ電池、2 電池缶、3 正極合剤、4 セパレーター、5 負極ゲル、
6 負極集電子、7 負極端子板、8 正極端子、9 ビーディング部、
20,120、220、320 封口ガスケット、21 ボス部、22 ボス孔、
23 隔壁部、24 外周部、25 薄肉部、
30a、30b、130、230 応力緩衝部、40 外周部