(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/56 20060101AFI20230510BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20230510BHJP
B60N 2/68 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B60N2/56
A47C7/74 B
B60N2/68
(21)【出願番号】P 2019017507
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大沼 弘治
(72)【発明者】
【氏名】亀井 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】嶋津 将樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓
(72)【発明者】
【氏名】長友 広光
(72)【発明者】
【氏名】福田 優樹
(72)【発明者】
【氏名】水越 敏充
(72)【発明者】
【氏名】御園生 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸太
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161915(JP,A)
【文献】特開2018-052498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/56
A47C 7/74
B60N 2/68
A47C 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッション及びシートバックを有する乗物用シートであって、
前記シートクッション及び前記シートバックの少なくとも一方に設けられた枠形のフレームと、
前記フレーム内に位置するように前記フレームに支持され、乗員を支持する支持部材と、
前記フレーム及び前記支持部材の表側に配置されたパッドと、
前記パッドを覆う表皮材と、
前記パッド及び前記表皮材の間に配置された基布、及び前記基布に固定された電熱線を有するシートヒータとを有し、
前記支持部材は、前記フレームに対して略平行に延びる板状の本体と、前記本体の左右の側縁から表側に傾斜して外方に延びる傾斜部とを有し、
前記基布の左右両側縁は、前記傾斜部の左右方向の外側縁よりも左右方向の内方に位置
し、前記傾斜部の左右方向の内側縁よりも左右方向の外方に位置することを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記支持部材は、金属製のワイヤがインサート成形された樹脂によって形成され、
前記ワイヤは、
左右方向の中央で縦方向に延在する第1縦ワイヤと、部分的に前記傾斜部を通過して左右方向の側部で縦方向に延在する第2縦ワイヤと、前記傾斜部に配置されて前記第2縦ワイヤよりも左右方向の外方に位置して縦方向に延在する第3縦ワイヤとを含み、
前記傾斜部において、前記基布の左右両側縁は、前記第2縦ワイヤよりも左右方向の外方に位置し、かつ前記第3縦ワイヤよりも左右方向の内方に位置することを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記ワイヤは、少なくとも部分的に前記基布に覆われるように配置されて左右方向に延在する横ワイヤを含むことを特徴とする請求項2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記横ワイヤは、複数列存在することを特徴とする請求項3に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記ワイヤは、前記基布に覆われた環状部を有し、複数列の前記横ワイヤの少なくとも一部は、前記環状部の一部を構成することを特徴とする請求項4に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記基布は、前記表皮材の吊り込み部に重なる位置において前記支持部材に向かって撓んだ連結部を有することを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記支持部材の前記本体に直交する方向から見て、前記表皮材の前記吊り込み部に重なるように、前記支持部材の表側に取り付けられた圧力センサを更に有することを特徴とする請求項6に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記支持部材は、クリップが取り付けられるクリップ取付孔を有し、
前記基布は、前記クリップ取付孔を覆っていないことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記支持部材の前記本体は、前記表皮材の端部を係止する複数の係止孔を有し、
前記基布は、前記支持部材の前記本体に直交する方向から見て、前記係止孔からずれて配置されたことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記基布の左右両側縁は、前記支持部材の左右両側縁よりも左右内方に位置することを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関し、詳細にはフレームの内側に設けられて乗員を支持する支持部材とシートヒータとを備えた乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗物用シートでは、シートクッションのフレームの内側に設けられて乗員を支持する支持部材として、左右に蛇行しながら前後に延在する複数の線状の金属性のばねが使用されることが多かった。しかし、近年、乗物用シートの支持部材として、板状の樹脂部材を使用することが提案されている(例えば、特許文献1)。この板状の支持部材は、本体の後部の左右の側縁から上方に傾斜して外方に延出する傾斜部を有する。また、乗物用シートの表皮材とパッドとの間にシートヒータを設けたものが公知である(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6309130号明細書
【文献】特開2018-052498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
左右に傾斜部を有する板状の支持部材を備える乗物用シートにシートヒータを設ける場合と、左右に蛇行しながら前後に延在する複数の線状の金属製のばねを有する支持部材を備える乗物用シートにシートヒータを設ける場合とを比較すると、シートヒータに加わる応力が互いに相違する。従って、両者において、支持部材から受ける応力によってシートヒータ内の電熱線が損傷しないようにするためには、互いに異なる配慮する必要が生じる。このような背景に鑑み、本発明は、傾斜部を有する板状の支持部材とシートヒータとを有する乗物用シートにおいて、電熱線の損傷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の少なくともいくつかの実施形態は、シートクッション(2)及びシートバック(3)を有する乗物用シート(1)であって、前記シートクッション及び前記シートバックの少なくとも一方に設けられた枠形のフレーム(6)と、前記フレーム内に位置するように前記フレームに支持され、乗員を支持する支持部材(7)と、前記フレーム及び前記支持部材の表側に配置されたパッド(8)と、前記パッドを覆う表皮材(9)と、前記パッド及び前記表皮材の間に配置された基布(33)、及び前記基布に固定された電熱線(34)を有するシートヒータ(10)とを有し、前記支持部材は、前記フレームに対して略平行に延びる板状の本体(15)と、前記本体の左右の側縁から表側に傾斜して外方に延びる傾斜部(16)とを有し、前記基布の左右両側縁は、前記傾斜部の左右方向の外側縁よりも左右方向の内方に位置し、前記傾斜部の左右方向の内側縁よりも左右方向の外方に位置することを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、基布の左右両側縁が傾斜部の左右方向の外側縁よりも左右方向の内方に位置するため、基布の左右両側縁が傾斜部の左右両側縁よりも左右外方に位置する場合に比べて、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制される。シートヒータの屈曲負荷が抑制されることにより、シートヒータに含まれる電熱線の損傷が抑制される。
【0007】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記支持部材は、金属製のワイヤ(19)がインサート成形された樹脂によって形成され、前記ワイヤは、左右方向の中央で縦方向に延在する第1縦ワイヤ(19a)と、部分的に前記傾斜部(16)を通過して左右方向の側部で縦方向に延在する第2縦ワイヤ(19b)と、前記傾斜部に配置されて前記第2縦ワイヤよりも左右方向の外方に位置して縦方向に延在する第3縦ワイヤ(19c)とを含み、前記傾斜部において、前記基布(33)の左右両側縁は、前記第2縦ワイヤよりも左右方向の外方に位置し、かつ前記第3縦ワイヤよりも左右方向の内方に位置することを特徴とする。ここで、縦方向とは、支持部材に沿った前後又は上下方向を意味する。
【0008】
この構成によれば、基布よりも左右方向の外方に側部縦ワイヤが延在することにより、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制され、これにより、シートヒータに含まれる電熱線の損傷が抑制される。
【0009】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記ワイヤは、少なくとも部分的に前記基布に覆われるように配置されて左右方向に延在する横ワイヤ(19d~19g)を含むことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、横ワイヤによって基布の変形が抑制されることにより、電熱線に加わる負荷が抑制される。
【0011】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記横ワイヤは、複数列存在することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、複数列の横ワイヤによって基布の変形が抑制されることにより、電熱線に加わる負荷が抑制される。
【0013】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記ワイヤは、前記基布に覆われた環状部を有し、複数列の前記横ワイヤの少なくとも一部は、前記環状部の一部を構成することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、環状に形成されたワイヤによって基布の変形が抑制されることにより、電熱線に加わる負荷が抑制される。
【0015】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記基布は、前記表皮材の吊り込み部(38)に重なる位置において前記支持部材に向かって撓んだ連結部(36)を有することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、乗員のシートへの着座によって連結部が前後に引っ張られても、撓んだ連結部が伸びることによって連結部に加わる前後方向への引張力は低減されるため、連結部に配置された電熱線への負荷は抑制される。
【0017】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記支持部材の前記本体に直交する方向から見て、前記表皮材の前記吊り込み部に重なるように、前記支持部材の表側に取り付けられた圧力センサ(20)を更に有することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、撓み易い吊り込み部に重なるように圧力センサが配置されるため、圧力センサが圧力を検知し易くなる。
【0019】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記支持部材は、クリップ(27)が取り付けられるクリップ取付孔(25,26)を有し、前記基布は、前記クリップ取付孔を覆っていないことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、基布は、支持部材の裏面側から取り付けられて表面側に突出したクリップの先端からの応力の影響を受け難いため、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制される。
【0021】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記支持部材の前記本体は、前記表皮材の端部を係止する複数の係止孔(22,23)を有し、前記基布は、前記支持部材の前記本体に直交する方向から見て、前記係止孔からずれて配置されたことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、基布が係止孔からずれて配置されるため、作業員が係止孔を視認し易くなり、表皮材の端部の取り付け作業が容易になる。
【0023】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成の何れかにおいて、前記基布の左右両側縁は、前記支持部材の左右両側縁よりも左右内方に位置することを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、基布における支持部材によって支持される範囲が大きくなるため、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基布の左右両側縁が傾斜部の左右方向の外側縁よりも左右方向の内方に位置するため、基布の左右両側縁が傾斜部の左右両側縁よりも左右外方に位置する場合に比べて、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制され、これにより、シートヒータに含まれる電熱線の損傷が抑制される。
【0026】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、基布よりも左右方向の外方に側部縦ワイヤが延在することにより、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制され、これにより、シートヒータに含まれる電熱線の損傷が抑制される。
【0027】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、横ワイヤによって基布の変形が抑制されることにより、電熱線に加わる負荷が抑制される。
【0028】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、複数列の横ワイヤによって基布の変形が抑制されることにより、電熱線に加わる負荷が抑制される。
【0029】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、環状に形成されたワイヤによって基布の変形が抑制されることにより、電熱線に加わる負荷が抑制される。
【0030】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、乗員のシートへの着座によって連結部が前後に引っ張られても、撓んだ連結部が伸びることによって連結部に加わる前後方向への引張力は低減されるため、連結部に配置された電熱線への負荷は抑制される。
【0031】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、撓み易い吊り込み部に重なるように圧力センサが配置されるため、圧力センサが圧力を検知し易くなる。
【0032】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、基布は、支持部材の裏面側から取り付けられて表面側に突出したクリップの先端からの応力の影響を受け難いため、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制される。
【0033】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、基布が係止孔からずれて配置されるため、作業員が係止孔を視認し易くなり、表皮材の端部の取り付け作業が容易になる。
【0034】
本発明の少なくともいくつかの実施形態によれば、基布における支持部材によって支持される範囲が大きくなるため、シートヒータが受ける屈曲負荷が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図3】実施形態に係る支持部材及びシートヒータの平面図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、前後、左右及び上下の方向は、車両の前後、左右及び上下の方向に従う。
【0037】
図1に示すように、シート1は、車両の運転席又は助手席として使用され、シートクッション2、シートバック3及びヘッドレスト4を有し、車室のフロアに固定されてレールカバー5に覆われた左右一対のスライドレール(図示せず)によって支持される。シートクッション2は、
図2~
図4に示すように、スライドレールに支持された枠形のフレーム6と、フレーム6内に位置するようにフレーム6に支持された支持部材7と、フレーム6及び支持部材7の上に配置されたウレタンフォーム等からなる可撓性のパッド8と、パッド8を覆う表皮材9と、パッド8及び表皮材9の間に配置されたシートヒータ10とを有する。支持部材7は、表皮材9、シートヒータ10及びパッド8を介してシート1に座った乗員の荷重を弾発的に支持し、その荷重をフレーム6に伝える。フレーム6、支持部材7、パッド8、表皮材9及びシートヒータ10は、その左右方向に直交する中央の平面に対して、略鏡像対称形をなす。
【0038】
フレーム6は、左右一対のサイドメンバ11,11と、左右一対のサイドメンバ11,11の前端部を互いに接続する前部クロスメンバ12と、左右一対のサイドメンバ11,11の後端部を互いに接続する後部クロスメンバ13と、左右一対のサイドメンバ11,11の前端部に連結して左右の中間部が前部クロスメンバ12よりも前方に位置するパンフレーム14とを有する。左右一対のサイドメンバ11,11は、板金からなる前後に長い長尺材であり、上下にフランジが形成されている。前部クロスメンバ12及び後部クロスメンバ13は、左右方向に延在する金属製のパイプからなる。パンフレーム14は、板金からなり、概ね座面の前部に沿った表面を有する。
【0039】
図2に示すように、支持部材7は、フレーム6に対して略平行に延在する板状の本体15と、本体15の後部15aにおける左右の側縁から表側に傾斜して外方に延びる傾斜部16と、本体15の前縁から前方に延出して前部クロスメンバ12に係合する前部取付部17と、本体15の後縁から斜め上後方に延出して後部クロスメンバ13に係合する後部取付部18とを有する。本体15は、その後部15aの前後方向の中間位置を境にして、その前側が、その後側に対して前方に向かうにつれて上方に向かうようにわずかに傾斜している。支持部材7は、金属製のワイヤ19がインサート成形された樹脂によって形成され、表皮材9及びパッド8を介して乗員の荷重を受けて撓み、乗員を弾発的に支持する。前部取付部17は、前部クロスメンバ12に上方から係合しており、左右方向の中央に位置する取付片と、左右の端部近傍に位置する1対の取付片とを有する。後部取付部18は、後部クロスメンバ13に上方から係合しており、左右方向の中央に位置する取付片と、左右の端部近傍に位置する1対の取付片とを有する。このように、前部取付部17及び後部取付部18は、それぞれ3つに分離しているため、前部クロスメンバ12及び後部クロスメンバ13に取り付けやすくなっている。
【0040】
シート1(
図1参照)には、乗員が着座しているにもかかわらずシートベルトを着用していない場合に警報が発せられるシートベルトリマインダ(SBR)システムが採用されており、そのために圧力センサ20が設置される。圧力センサ20は、本体15の前部15b及び後部15aの境界の近傍における左右方向の中央部の表側に載置される。圧力センサ20は、乗員がシート1に着座しているか否かを判断するために、シートクッション2にかかる圧力を検出する。本体15の後部15aは、傾斜部16によって乗員の荷重が分散されるため、着座時に係る圧力が小さくなる。そこで、傾斜部16による圧力分散の影響を受けないように、圧力センサ20は、傾斜部16に対して前方にずれた位置、又は傾斜部16の前端に並ぶ位置に配置されることが好ましい。これにより、圧力センサ20から信号を受信したECU等の着座判定手段(図示せず)による着座の判定の正確性が向上する。
【0041】
また、本体15の後部15aには、表皮材9の後端側の端部に取り付けられた複数のフック21(
図4参照)を係止するとともに支持部材7の撓みを調整する貫通孔であって、左右方向の中央に位置する中央係止孔22及び中央係止孔22の左右に位置する一対の側部係止孔23,23が設けられている。中央係止孔22及び一対の側部係止孔23,23は、それぞれ、平面視で矩形をなす。左右方向に並んだ中央係止孔22と一対の側部係止孔23,23とは、前後方向の幅は互いに等しいが、左右方向の長さは、中央係止孔22の方が一対の側部係止孔23,23よりも長くなっている。そのため、支持部材7の中央部の可撓性が高くなり、柔らかい座り心地となる。このように中央係止孔22の長さと一対の側部係止孔23,23との長さを互いに相違させることによって、着座感が向上するように支持部材7の撓みが設定される。また、中央係止孔22内の左右方向の中央を第1縦ワイヤ19aが縦断することにより、中央係止孔22の周辺の強度が補強されている。支持部材7に表皮材9の後端側を係止できるため、係止部を形成するための突片等をフレーム6に設ける必要がなく、フレーム6を小型化及び軽量化することができる。
【0042】
本体15の表側における中央係止孔22及び一対の側部係止孔23,23の後側の縁部には、裏側に向けて凹んだフック用凹部24が設けられている。フック21は、対応する中央係止孔22又は側部係止孔23を裏側から表側に通過し、フック21の先端がフック用凹部24に受容される。フック21の先端がフック用凹部24に受容されることにより、中央係止孔22及び側部係止孔23に対してフック21を位置決めすることができる。また、中央係止孔22及び側部係止孔23は、本体15における左右一対の傾斜部16,16と並ぶ位置、すなわち、剛性が比較的高い位置に設けられているため、中央係止孔22及び側部係止孔23の変形を抑制することができ、中央係止孔22及び側部係止孔23からのフック21の脱落を防止できる。
【0043】
傾斜部16には、上下に貫通する第1クリップ取付孔25が形成されている。また、本体15の前部15bの左右両側部には、本体15を上下に貫通する第2クリップ取付孔26が形成されている。第1クリップ取付孔25及び第2クリップ取付孔26には、他の部材を把持したクリップ27を裏面側から取り付けることができる。クリップ27の先端が支持部材7の表面に突出すると、座り心地に悪影響を与えるおそれがある。これを防止するため、第1クリップ取付孔25は、傾斜部16に設けられた裏面側に向かって凹む凹部28内に形成されている。また、前部15bの左右両側部の後方に設けられた第2クリップ取付孔26は、前部15bの左右両側縁に上方に突出するフランジ29が形成されていること、及び上方に向かって傾斜した傾斜部16の付近に位置することにより、表面に突出するクリップ27の先端の影響が軽減される。また、前部15bの左右両側部の前方に設けられた第2クリップ取付孔26は、浅く裏面側に凹んだ凹部30内に形成されているため、表面に突出するクリップ27の先端の影響が軽減される。
【0044】
支持部材7の左右の側縁には、傾斜部16の前方であって本体15の前部15bの後端部に側部切欠き31が形成されている。側部切欠き31を設けることによって、支持部材7を小型化及び軽量化できる。
【0045】
側部切欠き31が設けられ、かつ、前部15bの左右両端縁の前後方向の中間部が前部取付部17の左右両端縁よりも左右方向の外方に位置することによって、前部15bには左右両側方に延出した羽部32が形成されている。羽部32は、傾斜部16と異なり、前部15bの左右方向の中間部に対して傾斜していない。
【0046】
支持部材7を構成する樹脂に埋設されたワイヤ19は、縦方向(支持部材に沿った前後方向)及び横方向(支持部材に沿った左右方向)にそれぞれ複数延在し、支持部材7の剛性を高めている。図示する例では、ワイヤ19は、左右方向の中央で縦方向に延在する第1縦ワイヤ19a、左右方向の側部で縦方向に延在する第2縦ワイヤ19b、第1クリップ取付孔25の左右外方で縦方向に延在する第3縦ワイヤ19c、前部15bの前側で横方向に延在する第1横ワイヤ19d、後部15aの前側を通るように横方向に延在する第2横ワイヤ19e、後部15aの前後方向の中間部を通るように横方向に延在する第3横ワイヤ19f、後部15aの後側を通るように横方向に延在する第4横ワイヤ19g、第1クリップ取付孔25の前後で横方向に延在する第5横ワイヤ19hを含む。第2縦ワイヤ19bは、部分的に傾斜部16を通過し、第2~第4横ワイヤ19e~fの両端部は、傾斜部16内に位置する。第1及び第2縦ワイヤ19a,19bの内の任意の2本と、第1~第4横ワイヤ19d~gの内の任意の2本とによって、ワイヤ19が環状となる。また、第2縦ワイヤ19bの一部と、第3縦ワイヤ19cと、第5横ワイヤ19hとによって、第1クリップ取付孔25が囲われている。
【0047】
図3に示すように、シートヒータ10は、パッド8(
図4参照)を間に挟んで支持部材7及びパンフレーム14の上方を部分的に覆う基布33と、基布33に固定された電熱線34と有する。基布33は、概ね座面に沿って延在する前後2つの主部35,35と、前後2つの主部を連結する左右1対の連結部36,36とを有する。前後2つの主部35,35及び左右1対の連結部36,36とによって、基布33の中央に開口37が画成されている。電熱線34は、基布33の前端側で折り返すように左右に蛇行しながら前後に延在して、基布33の後端側に位置する電熱線34の両端部は車両の電気系統に電気的に接続している。
【0048】
基布33の前縁は、パンフレーム14の前縁よりも後方に位置し、基布33の後縁は、中央係止孔22及び側部係止孔23よりも前方に位置する。基布33が中央係止孔22及び側部係止孔23の上方を覆っていないため、作業員は中央係止孔22及び側部係止孔23を視認しやすく、表皮材9の後端部に取り付けられたフック21を中央係止孔22及び側部係止孔23に取り付ける作業性が向上する。基布33の左右両側縁は、支持部材7及びパンフレーム14の左右両側縁よりも左右内方に位置する。このように、基布33の端縁が支持部材7の左右両側縁及び後縁並びにパンフレームの前縁よりも内方に位置するため、基布33の全体がパッド8を介して支持部材7及びパンフレーム14に支持され、基布33の左右両側縁が支持部材7及びパンフレーム14の左右両側縁よりも左右外方に位置する場合に比べて、シートヒータ10が受ける屈曲負荷が抑制される。
【0049】
また、基布33の左右両側縁は、第1及び第2クリップ取付孔25,26よりも左右方向の内方に位置する。このため、第1及び第2クリップ取付孔25,26を覆わない基布33は、クリップ27の先端や、第1及び第2クリップ取付孔25,26の周囲の凹部28,30によって生じた凹凸からの応力を受け難く、シートヒータ10が受ける屈曲負荷が軽減される。
【0050】
基布33の左右両側縁は、第2縦ワイヤ19bよりも左右方向の外方に位置し、基布の前縁は、第1横ワイヤ19dよりも前方に位置し、基布の後縁は、第3横ワイヤ19f、好ましくは第4横ワイヤ19gよりも後方に位置する。また、第1縦ワイヤ19a及び1対の第2縦ワイヤ19b,19bの内の任意の2本と、第1~第4横ワイヤ19d~19gの内の任意の2本とを組み合わせると、環状となる。基布33が、本体15又は傾斜部16における本体15に近接する位置に配置された第1及び第2縦ワイヤ19a,19b及び第1~第3又は第4横ワイヤ19d~19gを覆うように配置されることやこれらのワイヤ19が環状に配置されることによって、基布33の変形が抑制されて電熱線34に加わる負荷が抑制される。傾斜部16に配置された第3縦ワイヤ19cは、基布33の左右両側縁よりも左右方向の外方に位置する。これにより、シートヒータ10が受ける屈曲負荷が抑制される。
【0051】
図4に示すように、連結部36は、表皮材9の吊り込み部38において撓み、シートクッション2の内部に突入している。従って、乗員のシート1への着座によって連結部36が前後に引っ張られても、撓んだ連結部36が伸びることによって連結部36に加わる前後方向への引張力は低減される。このため、連結部36に位置する電熱線34への負荷は抑制される。
【0052】
また、表皮材9の吊り込み部38の下端部にはフック21が設けられている。フック21は、フレーム6又は支持部材7に取り付けられた線状の係止部材39に係止される。吊り込み部38が平面視で圧力センサ20に重なるように配置される。吊り込み部38は、乗員の着座時に比較的撓み易いため、吊り込み部38の下方に配置された圧力センサ20に伝わる応力が大きくなり、圧力センサ20が圧力を検知し易くなる。また、電熱線34から発生する熱の圧力センサへの影響を抑制するため、基布33の開口37が平面視で圧力センサ20に重なるように配置される。
【0053】
以上のように、シートヒータ10の屈曲負荷及び電熱線34への負荷が抑制されるため、電熱線34の損傷が抑制される。
【0054】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、基布の主部を3つ以上としてもよく、また、前後に隣り合う2つの主部を1つ又は3つ以上の連結部で連結してもよい。上記実施形態の構成は、シートバックに適用してもよく、車両以外の乗物、例えば飛行機等のシートに適用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1:シート
2:シートクッション
3:シートバック
6:フレーム
7:支持部材
8:パッド
9:表皮材
10:シートヒータ
15:本体
16:傾斜部
19:ワイヤ(19a:第1縦ワイヤ、19b:第2縦ワイヤ、19c:第3縦ワイヤ、19d:第1横ワイヤ、19e:第2横ワイヤ、19f:第3横ワイヤ、19g:第4横ワイヤ、19h:第5横ワイヤ)
20:圧力センサ
21:フック
22:中央係止孔
23:側部係止孔
25:第1クリップ取付部
26:第2クリップ取付部
27:クリップ
33:基布
34:電熱線
36:連結部
38:吊り込み部