(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池の支持体形成用材料およびその利用
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1226 20160101AFI20230510BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230510BHJP
【FI】
H01M8/1226
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2019068313
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】白井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】竹田 昌平
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-249242(JP,A)
【文献】特開2015-056365(JP,A)
【文献】特開2012-216529(JP,A)
【文献】特開2016-031884(JP,A)
【文献】特開2006-124256(JP,A)
【文献】特開2016-157693(JP,A)
【文献】特開2020-167092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1226
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池の燃料極を支持する絶縁性支持体を形成するための支持体形成材料であって、
平均粒径が1.5μm以上2μm以下の粗粒ジルコニア粉体、および平均粒径が0.2μm以上0.4μm以下の微粒ジルコニア粉体を少なくとも含む混合粉体と、
平均粒径が1μm以上10μm以下であり、300℃以上の温度で焼失する気孔形成材とを含有し、
前記混合粉体の総重量を100wt%としたときの前記微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%以上40wt%以下であり、
前記混合粉体の総重量を100wt%としたときの前記気孔形成材の添加量が13wt%以上25wt%以下である、固体酸化物形燃料電池の支持体形成用材料。
【請求項2】
前記混合粉体は、イットリア安定化ジルコニアの粒子を含む、請求項1に記載の支持体形成用材料。
【請求項3】
前記気孔形成材は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択された1種以上の樹脂を含有する樹脂ビーズ、またはカーボン、でんぷんからなる粒子である、請求項1または2に記載の支持体形成用材料。
【請求項4】
固体酸化物形燃料電池の絶縁性支持体の前駆物質である絶縁性支持体のグリーンシートであって、
平均粒径が1.5μm以上2μm以下の粗粒ジルコニア粉体、および平均粒径が0.2μm以上0.4μm以下の微粒ジルコニア粉体を少なくとも含む混合粉体と、
平均粒径が1μm以上10μm以下であり、300℃以上の温度で焼失する気孔形成材とを固形成分として少なくとも含み、
前記混合粉体の総重量を100wt%としたときの前記微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%以上40wt%以下であり、
前記混合粉体の総重量を100wt%としたときの前記気孔形成材の添加量が13wt%以上25wt%以下であり、
1400℃の焼成処理における焼成収縮率が10%以上12%以下である、絶縁性支持体形成のグリーンシート。
【請求項5】
燃料ガスを透過させる多孔体であり、絶縁性を有する絶縁性支持体と、
前記絶縁性支持体上に形成された燃料極と、
前記燃料極上に形成された固体電解質層と、
前記固体電解質層上に形成された空気極と
を備えた固体酸化物形燃料電池であって、
前記絶縁性支持体に、複数の気孔が連結して支持体外部に開放された開気孔が形成されており、
前記絶縁性支持体は、水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔径が0.2μm以上0.5μm未満の範囲に微分細孔容量の第1のピークを有し、細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲に微分細孔容量の第2のピークを有する
、固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
細孔径が0.2μm以上0.5μm未満の範囲の気孔の容積(A)と細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲の気孔の容積(B)との総容積(A+B)を100%としたとき、前記細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲の気孔の容積(B)が70%以上100%未満である、
請求項5に記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
燃料ガスを透過させる多孔体であり、絶縁性を有する絶縁性支持体と、
前記絶縁性支持体上に形成された燃料極と、
前記燃料極上に形成された固体電解質層と、
前記固体電解質層上に形成された空気極と
を備えた固体酸化物形燃料電池であって、
前記絶縁性支持体に、複数の気孔が連結して支持体外部に開放された開気孔が形成されており、
前記絶縁性支持体の気孔率が40%以上である
、固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の絶縁性支持体を形成するための材料に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、酸化物イオン伝導体から成る固体電解質層と、空気極(カソード)と、燃料極(アノード)とを備えている。かかるSOFCでは、空気極に供給された空気中の酸素が電気化学的に還元されて酸素イオンとなり、その酸素イオンが固体電解質層を経由して燃料極に到達する。そして、燃料極に供給された燃料ガス(水素等)が、空気極からの酸素イオンによって酸化されることで外部負荷に電子が放出されて電気エネルギーが生成される。このSOFCは、発電効率が高いこと、大気汚染の原因物質の排出量が少なく低環境負荷であること、および多様な燃料の使用が可能であること等の点から、次世代の発電装置として開発が進められている。
【0003】
例えば、SOFCでは、絶縁性を有する支持体(絶縁性支持体)の上に、燃料極と固体電解質層と空気極とを積層させた構造が採用され得る。かかる絶縁性支持体は、電池形状の保持という役割の他に、燃料極への燃料ガスの供給・拡散という役割も有している。このため、絶縁性支持体には、所定の強度を有し、かつ、多量の燃料ガスを透過できる構造を有していることが求められる。
【0004】
SOFC用の支持体に関する従来技術として、特許文献1、2に記載の技術が挙げられる。例えば、特許文献1には、平均粒径が0.5~2μmの基体管原料に、粒径が5μm以上10μm未満の粗粒を添加・混合したものを焼結することによって燃料電池用基体管(支持体)を得ることが開示されている。また、特許文献2には、燃料ガス流路を内部に有し、MgOとMnOとを含む支持基板であって、MgOを主成分として含み、Feを含まない支持基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3631923号
【文献】特許第6210804号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記構造のSOFCを製造する方法として、絶縁性支持体、燃料極、固体電解質層、空気極を一層ずつ順に積層・焼成していく方法と、各層の前駆物質(グリーンシート)を積層させた後にまとめて焼成する方法(共焼成)とが挙げられる。これらのうち、共焼成は、工程数を減らしてコスト低減に貢献できるという利点を有している。
【0007】
しかしながら、共焼成を用いてSOFCを製造する場合、絶縁性支持体以外の層(例えば、固体電解質層)が焼成中に破損することがある。具体的には、SOFC内部での空気と燃料ガスの混合を防止するために固体電解質層は緻密層であることが求められる一方で、燃料極に燃料ガスを適切に供給するために絶縁性支持体は多孔質構造を有することが求められる。このため、共焼成を行うと、固体電解質層と絶縁性支持体との間で焼成中の収縮率(焼成収縮率)に大きな差が生じ、絶縁性支持体以外の層に応力が掛かって破損する可能性がある。
【0008】
そこで、共焼成を用いてSOFCを製造する場合には、絶縁性支持体の焼成収縮率を大きくし、固体電解質層と絶縁性支持体の焼成収縮率を近似させることが求められる。しかしながら、絶縁性支持体のグリーンシートの焼成収縮率を大きくすると、背反として焼成後の絶縁性支持体が緻密化してガス透過性が低下するため発電性能が低下する。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、共焼成における絶縁性支持体以外の層の破損を防止でき、かつ、ガス透過性に優れた絶縁性支持体を形成できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって以下の構成の支持体形成材料が提供される。なお、本明細書において「支持体形成材料」とは、SOFCの絶縁性支持体を形成するための粉体材料を指す。より具体的には、本明細書における「支持体形成材料」とは、絶縁性支持体の前駆物質であるグリーンシートの主成分である。
ここに開示される支持体形成材料は、平均粒径が1.5μm以上2μm以下の粗粒ジルコニア粉体、および平均粒径が0.2μm以上0.4μm以下の微粒ジルコニア粉体を少なくとも含む混合粉体と、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、300℃以上の温度で焼失する気孔形成材とを含有する。そして、ここに開示される支持体形成材料では、混合粉体の総重量を100wt%としたときの微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%以上40wt%以下であり、混合粉体の総重量を100wt%としたときの気孔形成材の添加量が13wt%以上25wt%以下である。
【0011】
本発明者らの検討によると、上述した平均粒径の微粒ジルコニア粉体と粗粒ジルコニア粉体とを含む混合粉体を使用することによって、絶縁性支持体の焼成収縮率を大きくし、共焼成における他の層の破損を防止できることが分かった。
一方で、このような混合粉体を使用すると、焼成後の絶縁性支持体が緻密化してガス透過性が低下する。このため、本発明者らは、300℃以上の温度で焼失する気孔形成材を含有させ、当該気孔形成材に由来する気孔を焼成後の絶縁性支持体に形成することを考えた。しかし、上記混合粉体によって緻密化した絶縁性支持体では、気孔形成材を焼失させても、孤立した閉気孔が支持体内部に形成されるのみであり、ガス透過性を向上させることができなかった。この点について本発明者らが種々の実験と検討を行った結果、平均粒径が1μm以上の気孔形成材を、混合粉体の総重量(100wt%)に対して13wt%以上添加すると、気孔形成材に由来する気孔同士が連結して支持体外部に開放された開気孔が形成され、絶縁性支持体のガス透過性が大きく向上することを発見した。そして、本発明者らは、他の層の焼成収縮率や焼成後の強度等を考慮して更に検討を重ね、上記構成の支持体形成材料を創作するに至った。かかる支持体形成材料によると、共焼成において絶縁性支持体以外の層が破損することを防止でき、かつ、ガス透過性に優れた絶縁性支持体を形成できる。
【0012】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径ともいう。)をいう。
【0013】
ここに開示される支持体形成材料の好適な一態様では、混合粉体は、イットリア安定化ジルコニアの粒子を含む。これによって、適切な絶縁性を有する支持体を形成できる。
【0014】
ここに開示される支持体形成材料の好ましい一態様では、気孔形成材は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択された1種以上の樹脂を含有する樹脂ビーズ、またはカーボン、でんぷんからなる粒子である。これらの材料は、気孔形成材として好適に使用できる。また、これらの材料の中でも、アクリル樹脂、メタクリル樹脂からなる樹脂ビーズは、焼失温度が低く、容易に焼失するため、気孔形成材として特に好適である。
【0015】
また、本発明の他の側面として、絶縁性支持体のグリーンシート(以下、単に「グリーンシート」ともいう)が提供される。かかるグリーンシートは、SOFCの絶縁性支持体の前駆物質である。なお、本明細書における「グリーンシート」は、未焼成の状態のシート(生シート)の他、例えば100℃以下の温度で乾燥したシート(乾燥シート)や、例えば200℃以下の温度で仮焼成したシート(仮焼成シート)をも包含し得る。
ここに開示されるグリーンシートは、平均粒径が1.5μm以上2μm以下の粗粒ジルコニア粉体、および平均粒径が0.2μm以上0.4μm以下の微粒ジルコニア粉体を少なくとも含む混合粉体と、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、300℃以上の温度で焼失する気孔形成材とを固形成分として少なくとも含有する。そして、かかるグリーンシートでは、混合粉体の総重量を100wt%としたときの微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%以上40wt%以下であり、混合粉体の総重量を100wt%としたときの気孔形成材の添加量が13wt%以上25wt%以下であり、1400℃の焼成処理における焼成収縮率が10%以上12%以下である。
【0016】
ここに開示されるグリーンシートは、上述した支持体形成材料を固形成分として含有している。かかるグリーンシートでは、適切な含有量の微粒ジルコニア粉体を含ませることによって、1400℃の焼成処理における焼成収縮率が10%以上12%以下に調整されている。このため、共焼成における焼成収縮率の差によって他の層が破損することを適切に防止できる。さらに、ここに開示されるグリーンシートでは、気孔形成材の平均粒径と含有量が適切な値に調整されているため、複数の気孔同士が連結した開気孔を有し、ガス透過性に優れた絶縁性支持体を形成できる。
【0017】
また、本発明の他の側面として、固体酸化物形燃料電池(SOFC)が提供される。ここに開示されるSOFCは、燃料ガスを透過させる多孔体であり、絶縁性を有する絶縁性支持体と、絶縁性支持体上に形成された燃料極と、燃料極上に形成された固体電解質層と、固体電解質層上に形成された空気極とを備えている。そして、ここに開示されるSOFCでは、絶縁性支持体に、複数の気孔が連結して支持体外部に開放された開気孔が形成されている。
【0018】
上記SOFCは、ここに開示される支持体形成材料を用いて製造されたSOFCである。上述したように、ここに開示される支持体形成材料を用いて形成された絶縁性支持体には、複数の気孔同士が連結した開気孔が形成されており、当該開気孔が支持体外部に開放されている。このため、ここに開示されるSOFCによると、燃料ガスを燃料極に適切に供給して高い発電性能を発揮できる。
【0019】
ここに開示されるSOFCの好適な一態様では、絶縁性支持体は、水銀ポロシメータで測定される細孔分布曲線において、細孔径が0.2μm以上0.5μm未満の範囲に微分細孔容量の第1のピークを有し、細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲に微分細孔容量の第2のピークを有する。ここに開示されるSOFCの絶縁性支持体では、気孔形成材の連結に由来する第2のピークと、ジルコニア粒子同士の間隙に由来する第1のピークの2つの細孔径ピークが確認され得る。
【0020】
ここに開示されるSOFCの好適な一態様では、細孔径が0.2μm以上0.5μm未満の範囲の気孔の容積(A)と細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲の気孔の容積(B)との総容積(A+B)を100%としたとき、細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲の気孔の容積(B)が70%以上100%未満である。このように、複数の気孔が連結した開気孔が多く形成されている絶縁性支持体は、より好適なガス透過性を有しているため、さらなる発電性能の向上に貢献できる。
【0021】
ここに開示されるSOFCの好適な一態様では、絶縁性支持体の気孔率が40%以上である。これにより、絶縁性支持体のガス透過性を更に向上させて、SOFCの発電性能をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るSOFCの層構成を模式的に示す図である
【
図2】サンプル1の断面SEM観察画像(倍率:5000倍)である。
【
図3】サンプル2の断面SEM観察画像(倍率:5000倍)である。
【
図4】サンプル3の断面SEM観察画像(倍率:5000倍)である。
【
図5】サンプル4の断面SEM観察画像(倍率:5000倍)である。
【
図6】水銀ポロシメータによるサンプル1~4の細孔分布曲線を示す図である。
【
図7】微粒ジルコニア粉体の含有量と焼成収縮率との関係を示す図である。
【
図8】気孔形成材の添加量と焼成後の絶縁性支持体の3点曲げ強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、絶縁性支持体を除く各層の詳細な成分や製造方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。なお、本明細書において数値範囲を示す「X~Y(ただし、X,Yは、任意の値。)」との表記は、「X以上Y以下」を意味するものとする。
【0024】
<支持体形成材料>
ここに開示される支持体形成材料は、SOFCの燃料極を支持する絶縁性支持体を形成するために用いられる。具体的には、ここに開示される支持体形成材料を主成分とするグリーンシートを焼成することによってSOFCの絶縁性支持体を形成できる。
ここに開示される支持体形成材料は、混合粉体と気孔形成材とを含有している。以下、各々の成分について説明する。
【0025】
1.混合粉体
ここに開示される支持体形成材料における混合粉体は、ジルコニア系酸化物の粒子を主成分として含有する粉体材料である。かかるジルコニア系酸化物は、この種のSOFCの絶縁性支持体に使用され得るものであれば特に限定されず、種々の成分を使用できる。かかるジルコニア系酸化物の一例として、ジルコニア(ZrO2)に安定化剤が添加された安定化ジルコニアが好ましく用いられる。かかる安定化ジルコニアにおける安定化剤には、所定の金属酸化物(M2O3またはMO)が用いられ得る。ここで、安定化剤に含まれる金属元素(M)としては、Y、Sc、Ca、Yb、GdおよびMgのうちの一種または二種以上の元素が挙げられる。上記安定化ジルコニアの好適例として、イットリア(Y2O3)で安定化されたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、カルシア(CaO)で安定化されたカルシア安定化ジルコニア(CSZ)等が挙げられる。これらの中でもYSZが好適であり、全体の1モル%以上15モル%以下(好ましくは1モル%以上10モル%以下)となる量のイットリアを固溶させたYSZを特に好ましく使用できる。
【0026】
そして、ここに開示される混合粉体は、平均粒径が異なる2種類のジルコニア粉体を含有する。具体的には、ここに開示される混合粉体には、平均粒径が大きな粗粒ジルコニア粉体と、平均粒径が小さい微粒ジルコニア粉体が含まれている。このように平均粒径が異なる2種類のジルコニア粉体を適切な割合で混合した混合粉体を使用することによって、共焼成において絶縁性支持体以外の層が破損することを防止できる。以下、具体的に説明する。
【0027】
粗粒ジルコニア粉体は、平均粒径が1.5μm以上2μm以下のジルコニア粉体である。このような比較的に大粒径のジルコニア粒子の含有量が増加すると、共焼成におけるグリーンシートの収縮率(焼成収縮率)が低下する傾向がある。なお、粗粒ジルコニア粉体の平均粒径は、1.6μm以上であってもよく、1.7μm以上であってもよい。一方、粗粒ジルコニア粉体の平均粒径の上限は、1.95μm以下であってもよく、1.9μm以下であってもよい。かかる粗粒ジルコニア粉体の平均粒径の一例は1.8μmである。
【0028】
微粒ジルコニア粉体は、平均粒径が0.2μm以上0.4μm以下のジルコニア粉体である。このような比較的に小粒径のジルコニア粒子の含有量が増加すると、焼成収縮率が大きくなる傾向がある。なお、微粒ジルコニア粉体の平均粒径は、0.23μm以上であってもよく、0.25μm以上であってもよい。一方、微粒ジルコニア粉体の平均粒径の上限は、0.35μm以下であってもよく、0.33μm以下であってもよく、0.3μm以下であってもよい。かかる微粒ジルコニア粉体の平均粒径の一例は0.27μmである。
【0029】
そして、ここに開示される混合粉体では、混合粉体の総重量を100wt%としたときの微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%以上40wt%以下である。微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%を下回ると、他の層に対して絶縁性支持体の焼成収縮率が小さくなり過ぎて、共焼成において他の層が破損しやすくなる。一方、微粒ジルコニア粉体の含有量が40wt%を超えると、他の層に対して絶縁性支持体の焼成収縮率が大きくなり過ぎて他の層が破損しやすくなる。これらの点に基づいて、ここに開示される支持体形成材料では、微粒ジルコニア粉体の含有量を10wt%以上40wt%以下に調整し、他の層の破損を好適に防止できる焼成収縮率(例えば1400℃下で10%~12%)を得ている。
なお、共焼成における他の層の破損をより好適に防止するという観点から、微粒ジルコニア粉体の含有量は、15wt%以上が好ましく、17wt%以上がより好ましく、20wt%以上がさらに好ましく、23wt%以上が特に好ましい。同様の観点から、微粒ジルコニア粉体の含有量の上限は、39.5wt%以下が好ましく、39wt%以下がより好ましく、38wt%以下がさらに好ましい。
【0030】
なお、粗粒ジルコニア粉体と微粒ジルコニア粉体は、同種のジルコニア粒子によって構成されていてもよいし、異種のジルコニア粒子によって構成されていてもよい。例えば、イットリア固溶量が5モル%のYSZ(5YSZ)を粗粒ジルコニア粉体に使用し、イットリア固溶量が8モル%のYSZ(8YSZ)を微粒ジルコニア粉体に使用することができる。
【0031】
(d)他のジルコニア粉体
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、上述の粗粒ジルコニア粉体と微粒ジルコニア粉体とは異なる平均粒径を有するジルコニア粉体(以下、「他のジルコニア粉体」という)が混合粉体に含まれていてもよい。かかる他のジルコニア粉体としては、平均粒径が0.2μm未満の極小ジルコニア粉体、平均粒径が0.4μm超1.5μm未満の中間ジルコニア粉体、平均粒径が2μm超の極大ジルコニア粉体などが挙げられる。但し、共焼成における他の層の破損を好適に防止するという観点からは、上記他のジルコニア粉体を実質的に含有しない方が好ましい。なお、ここでいう「他のジルコニア粉体を実質的に含有しない」とは、他のジルコニア粉体が意図的に添加されていないことを指す。したがって、上記他のジルコニア粉体と解釈され得る成分が原料や製造工程等に由来して微量に含まれるような場合は、本明細書における「他のジルコニア粉体を実質的に含有しない」の概念に包含される。例えば、上記混合粉体の総重量を100wt%としたときの他のジルコニア粉体の含有量が1wt%以下(好ましくは0.1wt%以下、より好ましくは0.01wt%以下、さらに好ましくは0.001wt%以下、特に好ましくは0.0001wt%以下)である場合、「他のジルコニア粉体を実質的に含有しない」ということができる。
【0032】
2.気孔形成材
次に、ここに開示される支持体形成材料は、気孔形成材を含有する。気孔形成材は、300℃以上の温度で焼失する粒子(例えば、樹脂ビーズ)を主成分として含む粉体材料である。かかる気孔形成材は、焼成中に焼失することによって、当該気孔形成材に由来する気孔を焼成後の絶縁性支持体に形成する。気孔形成材の焼失温度は、焼成工程における焼成温度に応じて適宜変更することができ、400℃以上であってもよく、500℃以上であってもよく、600℃以上であってもよい。なお、本明細書における「焼失温度」とは、蒸発や燃焼によって気孔形成材の体積の90%以上が消失する温度を指す。
【0033】
なお、気孔形成材は、焼失温度が300℃以上であれば特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂からなる群から選択された1種以上の樹脂を含有する樹脂ビーズ、またはカーボン、でんぷんからなる粒子等が用いられる。これらの材料は、気孔形成材として好適に使用できる。また、これらの材料の中でも、アクリル樹脂、メタクリル樹脂からなる樹脂ビーズは、焼失温度が低いため気孔形成材として特に好適に使用できる。
【0034】
そして、ここに開示される支持体形成材料では、気孔形成材の平均粒径が1μm以上であり、かつ、上記混合粉体の総重量を100wt%としたときの気孔形成材の添加量が13wt%以上である。これによって、焼成後の絶縁性支持体に、気孔形成材に由来する気孔同士が連結した開気孔を形成できる(
図5参照)。この開気孔は、焼成後の支持体の外部に開放されているため、所定量以上の微粒ジルコニア粉体の添加によって焼成収縮率を上昇させているにもかかわらず、優れたガス透過性を有する絶縁性支持体を形成できる。なお、より優れたガス透過性を得るという観点から、気孔形成材の平均粒径は1.5μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、2.5μm以上がさらに好ましく、3.5μm以上が特に好ましい。また、同様の観点から、気孔形成材の添加量は、13.2wt%以上が好ましく、13.5wt%以上がより好ましい。
【0035】
一方、気孔形成材の平均粒径や含有量が大きくなるにつれて、焼成後の絶縁性支持体の強度が低下する傾向がある。本発明者らが行った実験によって、所望の強度を有する絶縁性支持体を形成するには、気孔形成材の平均粒径の上限は10μm以下、気孔形成材の添加量の上限は25wt%以下にする必要があることが確認されている。なお、より好適な強度を有する絶縁性支持体を形成するという観点から、気孔形成材の平均粒径の上限は8μm以下が好ましく、7.5μm以下がより好ましく、7μm以下がさらに好ましく、6.5μm以下が特に好ましい。また、同様の観点から、気孔形成材の添加量の上限は、20wt%以下がより好ましく、18wt%以下がさらに好ましく、15wt%以下が特に好ましい。
【0036】
以上のように、ここに開示される支持体形成材料では、他の層の焼成挙動に近似した好適な焼成収縮率が得られるように、混合粉体の総重量に対する微粒ジルコニア粉体の含有量が規定されている。さらに、焼成後に複数の気孔が連結した開気孔が形成されるように、気孔形成材の平均粒径と添加量が規定されている。このため、ここに開示される支持体形成材料によると、共焼成における他の層の破損を防止でき、かつ、ガス透過性に優れた絶縁性支持体を形成できる。
【0037】
3.他の成分
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ここに開示される支持体形成材料は、必要に応じて、任意で付加し得る他の成分(例えば、バインダ等)を含んでいてもよい。なお、支持体形成材料に添加され得る他の成分は、特に限定されるものではなく、絶縁性支持体の形成において従来公知の成分から適宜選択して用いることができる。例えば、バインダとして、セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ブチラールおよびこれらの塩を用いることができる。なお、バインダの添加量は、特に限定されないが、混合粉体の総量(100wt%)に対して、1wt%以上10wt%以下(例えば6.5wt%)であると好ましい。これによって、好適な形状のグリーンシートを成形できる。
【0038】
なお、ここに開示される支持体形成材料は、SOFCの絶縁性支持体を形成するために用いられる。すなわち、ここに開示される支持体形成材料は、電子伝導性を有する導電性材料を実質的に含有しない。かかる導電性材料の一例として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)等の金属、若しくはこれらの酸化物が挙げられる。なお、ここでいう「導電性材料を実質的に含有しない」とは、焼成後の支持体に導電性を付与する意図で導電性材料が添加されていないことを指す。したがって、焼成後の支持体の絶縁性が確保されている前提で導電性材料と解釈され得る成分が微量に添加される場合は、本明細書における「導電性材料を実質的に含有しない」の概念に包含される。例えば、上記混合粉体の総重量(100wt%)に対する導電性材料の含有量が5wt%以下(好ましくは1wt%以下、より好ましくは0.1wt%以下、さらに好ましくは0.01wt%以下、特に好ましくは0.001wt%以下)である場合、焼成後の支持体の絶縁性を確保できるため、「導電性材料を実質的に含有しない」ということができる。
【0039】
<SOFCの製造>
次に、上述の支持体形成材料を用いたSOFCの製造について説明する。本実施形態における製造方法は、グリーンシート作製工程と、グリーンシート積層工程と、焼成工程を包含する。かかる製造方法では、絶縁性支持体、燃料極、固体電解質層、空気極の各層のグリーンシートを同時に焼成する、いわゆる共焼成を実施する。以下、各工程について説明する。
【0040】
1.グリーンシート作製工程
本工程では、SOFCを構成する各層(絶縁性支持体、燃料極、固体電解質層、空気極)のグリーンシートを作製する。ここでは、まず、上述した支持体形成材料を所定の分散媒(例えば、水)に分散させたスラリーを調製する。かかるスラリーの調製は、例えば、支持体形成材料と分散媒を任意の撹拌混合装置に投入し、撹拌混合することによって行われる。かかる撹拌混合装置には、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ等の従来公知の種々の装置を用いることができる。なお、かかるスラリーの調製において、滑剤や離型剤等の添加剤を添加してもよい。これによって、グリーンシートを容易に成形できる。なお、滑剤や離型剤には、絶縁性支持体のグリーンシートの成形に用いられ得る材料を特に制限なく使用でき、本発明を限定するものでないため詳細な説明は省略する。
【0041】
本工程では、次に、調製したスラリーを成形して、所望の形状のグリーンシート(絶縁性支持体用のグリーンシート)を作製する。グリーンシートを成形する手段は、特に限定されず、真空押出成形等の従来公知の手段を採用できる。そして、成形後のグリーンシートは、ここに開示される支持体形成材料を固形物として含有する。具体的には、成形後のグリーンシートは、平均粒径が1.5μm以上2μm以下の粗粒ジルコニア粉体、および平均粒径が0.2μm以上0.4μm以下の微粒ジルコニア粉体を少なくとも含む混合粉体と、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、300℃以上の温度で焼失する気孔形成材とを固形成分として少なくとも含む。そして、ここに開示されるグリーンシートでは、混合粉体の総重量を100wt%としたときの微粒ジルコニア粉体の含有量が10wt%以上40wt%以下であり、混合粉体の総重量を100wt%としたときの気孔形成材の添加量が13wt%以上25wt%以下である。
【0042】
2.グリーンシート積層工程
本工程では、上述した支持体形成用のグリーンシートを含む各層のグリーンシートを積層させる。具体的には、本工程では、絶縁性支持体、燃料極、固体電解質層、空気極の各々のグリーンシートをこの順に積層させることによって、SOFCの前駆物質である積層体を作製する。なお、絶縁性支持体以外の層(燃料極、固体電解質層、空気極)のグリーンシートは、この種のSOFCの製造で用いられ得るものであれば特に限定されず、本発明を限定するものではないため詳細な説明を省略する。
【0043】
3.焼成工程
本工程では、作製した積層体を焼成する共焼成を行う。これによって、各層のグリーンシートが同時に焼成されて、絶縁性支持体と燃料極と固体電解質層と空気極とを備えたSOFCが作製される。本工程における焼成温度は、例えば凡そ1200℃~1500℃(例えば1400℃)とすることができる。また、焼成時間は、例えば凡そ1時間~5時間とすることができる。
【0044】
上記したように、ここに開示される技術では、絶縁性支持体形成用のグリーンシートに、微粒ジルコニア粉体が10wt%以上40wt%以下含まれている。これによって、共焼成における絶縁性支持体の焼成収縮率が他の層と同程度(具体的には、1400℃の焼成処理における熱収縮率が10%以上12%以下)になるため、焼成収縮率の違いによって絶縁性支持体以外の層が破損することを好適に防止できる。
【0045】
また、この焼成工程では、グリーンシートに含まれている気孔形成材が焼失するため、焼成後の絶縁性支持体に気孔が形成される。このとき、気孔形成材の平均粒子径が1μm以上、添加量が13wt%以上に調整されているため、気孔同士が連結した開気孔が形成される。これによって、優れたガス透過性を有した絶縁性支持体を形成できる。さらに、ここに開示される技術では、気孔形成材の平均粒子径が10μm以下、添加量が25wt%以下に規定されているため、焼成後の絶縁性支持体の強度を十分に確保できる。
【0046】
4.SOFC
次に、ここに開示される支持体形成材料を用いて作製されたSOFCの一例を説明する。
図1は、本実施形態に係るSOFCの層構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るSOFC10は、絶縁性支持体12、燃料極14、固体電解質層16、空気極18を備えている。
【0047】
(1)絶縁性支持体
絶縁性支持体12は、ここに開示される支持体形成材料を用いて形成されている。すなわち、絶縁性支持体12は、導電性材料を実質的に含有しておらず、上述したジルコニア系酸化物(YSZ等)によって構成されている。そして、絶縁性支持体12は、気孔形成材が焼失して形成された気孔を複数有した多孔体であり、当該複数の気孔が連結して支持体外部に開放された開気孔を有している。これによって、絶縁性支持体12の下面から供給された燃料ガスを燃料極14に好適に供給することができる。
【0048】
上述の開気孔が形成された絶縁性支持体12では、水銀ポロシメータを用いて絶縁性支持体12の細孔分布曲線を測定した際に2種類の細孔径ピークが確認され得る。後述の試験例にて詳しく説明するが、複数の気孔が連結した開気孔が形成されると、水銀ポロシメータに基づいた細孔分布曲線において、細孔径が0.2μm以上0.5μm未満の範囲に微分細孔容量の第1のピークが生じ、かつ、細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲に微分細孔容量の第2のピークが生じる(例えば、
図6中のサンプル4参照)。比較的に小さい細孔径を示す第1のピークは、ジルコニア粒子同士の間隙に由来する。一方、比較的に大きな細孔径を示す第2のピークは、気孔形成材の連結に由来する。
【0049】
なお、より好適なガス透過性を得るという観点から、気孔形成材の連結に由来する細孔径の容積(細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲の気孔の容積)は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。これによって、SOFCの発電性能をより好適に向上させることができる。なお、上記細孔径の容積は、「細孔径が0.2μm以上0.5μm未満の範囲の気孔の容積(A)」と、「細孔径が0.5μm以上2μm以下の範囲の気孔の容積(B)」との総容積(A+B)を100%としたときの値である。
【0050】
また、絶縁性支持体12におけるガス透過性をより向上させるという観点から、当該絶縁性支持体12の気孔率は、40%以上であることが好ましく、42%以上であることがより好ましく、45%以上であることがさらに好ましい。また、上記気孔率の上限は、絶縁性支持体12の強度を所定以上(例えば20MPa以上)確保することができれば特に限定されず、90%以下であってもよく、80%以下であってもよく、70%以下であってもよく、60%以下であってもよい。
【0051】
(2)燃料極14
燃料極14は、絶縁性支持体12の上に形成されている。この燃料極14は、例えば、導電性材料(触媒活性を有する材料)を含有する多孔質体である。燃料極14は、絶縁性支持体12と同様に、下面から上面まで連なる多数の連通細孔を有している。これによって、燃料極14の全域に燃料ガスを供給できる。なお、燃料極14の気孔率は、5~20%の範囲内、例えば15%程度であることが好ましい。また、燃料極14には、この種の燃料極の材料として使用され得る導電性材料を特に制限なく使用できる。かかる導電性材料の一例として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ランタン(La)等の金属、若しくはこれらの金属酸化物が挙げられる。かかる材料は、1種を単独で、または2種以上を適宜組み合せて用いることもできる。また、燃料極14は、上記絶縁性支持体12と同種のジルコニア系酸化物(例えばYSZ)を含んでいてもよい。この場合、導電性材料とジルコニア系酸化物との混合割合は、例えば質量比で3:7~7:3の範囲内、例えば、6:4程度であると好ましい。
【0052】
(3)固体電解質層
固体電解質層16は、燃料極14の上に形成されている。この固体電解質層16は、イオン伝導性を有する固体電解質を含む緻密層である。当該固体電解質には、この種のSOFCの固体電解質層に使用され得る材料を特に制限なく使用できる。かかる固体電解質の一例として、上述した絶縁性支持体12と同種のジルコニア系酸化物(例えばYSZ)等が挙げられる。固体電解質層16の厚さは、例えば1μm以上10μm以下であると好ましく、例えば5μm程度である。
【0053】
(4)空気極
空気極18は、固体電解質層16の上に形成されている。上述した燃料極14や固体電解質層16と同様に、空気極18についても、この種のSOFCの空気極に使用され得る材料を特に制限なく使用できる。かかる空気極18の材料の一例として、(La,Sr)CoO3(例えば、La0.6Sr0.4CoO3;以下、適宜LSCという)や、(La,Sr)(Co,Fe)O3(例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3;以下、適宜LSCFという)等のLa,Sr,Coを含むペロブスカイト型酸化物が挙げられる。これらLSCおよびLSCFは、A,B両サイトの置換割合を種々定め得るもので、所望するイオン伝導性や還元膨張率等に応じて適宜の置換割合のものを用いることができる。また、空気極18は、絶縁性支持体12や燃料極14と同様に、多孔体であり、上面から下面まで連なる多数の連通細孔を有している。これによって、空気(酸素)を空気極18の全域に分散・供給することができる。
【0054】
上記した通り、本実施形態に係るSOFC10では、気孔同士が連結した開気孔が絶縁性支持体12に形成されているため、絶縁性支持体12の下面から供給される燃料ガスを適切に透過させることができる。これによって、十分な量の燃料ガスを燃料極14に供給できるため好適な発電性能を発揮できる。
【0055】
[試験例]
以下、本発明に関するいくつかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0056】
A.第1の試験
本試験では、組成の異なる支持体形成材料を準備し、各々の支持体形成材料を用いてグリーンシートを作製した。そして、当該グリーンシートの焼成中の挙動と焼成後の支持体の性質を評価した。
【0057】
1.サンプルの作製
(1)サンプル1
粗粒ジルコニア粉体として、平均粒径1.8μmの5YSZを用いた。そして、かかる粗粒ジルコニア粉体とメチルセルロース系バインダとを双腕ニーダで混合して支持体形成材料を調製した。なお、バインダは、粗粒ジルコニア粉体の重量(100wt%)に対して5wt%添加した。
【0058】
(2)サンプル2~4
サンプル2~4では、粗粒ジルコニア粉体(平均粒径1.8μmの5YSZ)と、微粒ジルコニア粉体(平均粒径0.27μmの8YSZ)と含む混合粉体を使用した。そして、上記混合粉体と、気孔形成材(平均粒径5μmのアクリルビーズ)と、バインダとを双腕ニーダで混合して支持体形成材料を調製した。なお、サンプル2~4では、粗粒ジルコニア粉体と、微粒ジルコニア粉体と、気孔形成材の各々の含有量をサンプル毎に異ならせた。各サンプルの成分含有量を表1に示す。なお、バインダの種類および添加量はサンプル1と同じ条件にした。
【0059】
(3)サンプル5
粗粒ジルコニア粉体として、平均粒径8.2μmの5YSZを使用した点を除いて、サンプル1と同じ条件に設定した。
【0060】
(4)サンプル6
気孔形成材を添加しないことを除いて、サンプル2~4と同じ材料を使用した。なお、サンプル6では、粗粒ジルコニア粉体と微粒ジルコニア粉体の含有量をサンプル2~4と異ならせた。成分含有量を表1に示す。
【0061】
2.評価試験
(1)絶縁性支持体の作製
評価試験では、まず、各サンプルの支持体形成材料を用いて絶縁性支持体を作製した。具体的には、上述した支持体形成材料に適量の分散媒(水)を添加し、ニーダ(回転数:25rpm)で加圧混練することによってグリーンシート成形用のスラリーを調製した。なお、混練中は、ニーダに加圧蓋をセットして0.5MPaの圧力を維持した。
次に、調製したスラリーを真空押出成形機を用いて円筒平板型に押出成形した後、熱風乾燥機(110℃)で10時間乾燥することによって、絶縁性支持体用のグリーンシートを作製した。そして、作製したグリーンシートを焼成温度1400℃に設定した電気炉内で2時間保持することによって焼成し、評価試験用の絶縁性支持体を得た。
【0062】
(2)焼成収縮率
焼成前(乾燥後)のグリーンシートの平面(上面)の面積Cと、焼成後の絶縁性支持体の平面の面積Dを測定した。そして、下記式(1)に基づいて、焼成前後の面積の変化率を焼成収縮率(%)として算出した。各サンプルの焼成収縮率を表1に示す。
焼成収縮率(%)=(C-D)/C×100 (1)
【0063】
(3)断面観察
サンプル1~4の絶縁性支持体を切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察した。サンプル1のFE-SEM像(5000倍)を
図2に示し、サンプル2のFE-SEM像(5000倍)を
図3に示す。また、サンプル3のFE-SEM像(5000倍)を
図4に示し、サンプル4のFE-SEM像(5000倍)を
図5に示す。
【0064】
(4)細孔径測定
各サンプルの絶縁性支持体に対して、アルキメデス法に基づいた気孔率測定を行った。具体的には、まず、各サンプルの絶縁性支持体の乾燥重量Wairを測定した。次に、各サンプルを蒸留水に浸けた後に真空ポンプ付きのデシケータ内に入れ、45分真空引きを行い、絶縁性支持体の水中重量Waqと含水重量WA+wを測定した。そして、下記の式(2)に基づいて気孔率(P)を算出した。結果を表1に示す。
P=(WA+w-WAir)/(WA+w-Waq) (2)
【0065】
また、サンプル1~4については、水銀ポロシメータに基づいた細孔分布曲線を取得した。サンプル1~4の細孔分布曲線を
図6に示す。なお、
図6中の縦軸は各サンプルの微分細孔容量(ml/g)を示し、横軸は細孔径(μm)を示す。
【0066】
(5)ガス透過性
サンプル1~4の絶縁性支持体に試験用ガス(窒素)を供給してガス透過性を評価した。具体的には、JIS K 7126-1に準じた差圧法に基づいて各サンプルのガス透過度(mol/m2・s・Pa)を測定した。但し、本試験では、サンプルが多孔質であり真空引きができないため、大気圧下での差圧として測定した。また、ガスの圧力は0.01MPaとした。そして、測定結果に基づいて、各サンプルのガス透過性を「不可、可、優」の3段階で評価した。具体的には、ガス透過度が2.7×10-6未満のサンプルを「不可」、2.7×10-6以上5.5×10-6未満のサンプルを「可」、5.5×10-6以上のサンプルを「優」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
表1に示すとおり、微粒ジルコニア粉体と粗粒ジルコニア粉体とを含む混合粉体を使用したサンプル2~4、6では、10%以上という高い焼成収縮率が得られた。一方、粗粒ジルコニア粉体のみを使用したサンプル1、5では、焼成収縮率が低くなった。これらの結果から、微粒ジルコニア粉体を含む混合粉体を使用することによって、焼成収縮率を大きくして共焼成における他の層の破損を防止できることが分かった。
【0069】
次に、表1および
図3~
図5に示すように、気孔形成材を添加したサンプル2~4では、当該気孔形成材に由来する気孔が形成されており、当該気孔が形成されていないサンプル1(
図2参照)と比べて気孔率も向上していた。しかし、サンプル2、3は、ガス透過性が低いままであった。これは、気孔形成材の添加量が少なく、気孔形成材同士の連結が不十分であったためと解される。一方、サンプル4では、気孔率が大幅に上昇してガス透過性が顕著に向上していた。これは、
図5に示すように、気孔形成材に由来する気孔同士が連結した開気孔が形成されたためと解される。
【0070】
また、
図6に示すように、かかる開気孔が形成されたサンプル4では、細孔分布曲線において、0.2μm以上0.5μm未満の領域の第1のピークの微分細孔容量が減少し、0.5μm以上2μm以下の領域に第2のピークが生じていた。このことからも、サンプル4では、複数の気孔が連結した開気孔が形成されていると解される。
【0071】
B.第2の試験
本試験では、微粒ジルコニア粉体の含有量が焼成収縮率に与える影響を調べた。
【0072】
1.サンプルの作製
混合粉体100wt%に対する微粒ジルコニア粉体の含有量を0wt%~50wt%の範囲内で異ならせた支持体形成材料(サンプル7~12)を作製した。各サンプルの組成を表2に示す。なお、微粒ジルコニア粉体の含有量を除く他の条件は、上記第1の試験のサンプル4と同じ条件に設定した。
【0073】
2.評価試験
上記第1の試験と同様の条件で絶縁性支持体を作製し、焼成収縮率を測定した。測定結果を表2および
図7に示す。なお、
図7中の縦軸は焼成収縮率(%)であり、横軸は混合粉体の総重量(100wt%)に対する微粒ジルコニア粉体の含有量(wt%)である。
【0074】
【0075】
表2および
図7に示すように、混合粉体の総重量に対する微粒ジルコニア粉体の含有量が増加するに従って焼成収縮率が大きくなる傾向が見られた。そして、
図7に示すように、各サンプルの測定結果に基づいて近似線を引いた結果、共焼成における他の層の破損を防止できる焼成収縮率(1400℃下で10%~12%)を得るには、微粒ジルコニア粉体の含有量を10wt%以上40wt%以下の範囲内にする必要があることが分かった。
【0076】
C.第3の試験
本試験では、気孔形成材の添加量が絶縁性支持体の強度に与える影響を調べた。
【0077】
1.サンプルの作製
混合粉体の総量(100wt%)に対する気孔形成材の添加量を0wt%~35wt%の範囲内で異ならせた支持体形成材料(サンプル13~18)を作製した。各サンプルの組成を表3に示す。なお、気孔形成材の添加量を除く他の条件は、上記第1の試験のサンプル4と同じ条件に設定した。
【0078】
2.評価試験
上記第1の試験と同様の条件で絶縁性支持体を作製した。そして、作製した各々の支持体に対して、JIS R 1601(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に基づいた3点曲げ強度の測定を行った。測定結果を表3および
図8に示す。なお、
図8の縦軸は各サンプルの3点曲げ強度(MPa)を示し、横軸は混合粉体の総量(100wt%)に対する気孔形成材の添加量(wt%)を示す。
【0079】
【0080】
表3および
図8に示すように、気孔形成材の添加量が増加するに従って絶縁性支持体の3点曲げ強度が低下することが確認された。そして、SOFCの形状を維持するために、絶縁性支持体に求められる最低限の強度(20MPa以上)を得るには、気孔形成材の添加量を25wt%以下にする必要があることが分かった。
【0081】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0082】
10 SOFC
12 絶縁性支持体
14 燃料極
16 固体電解質層
18 空気極