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  • 特許-容器用多層フィルム及びそれを含む容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】容器用多層フィルム及びそれを含む容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/40 20060101AFI20230510BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230510BHJP
   B65D 81/24 20060101ALI20230510BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20230510BHJP
   C09J 125/08 20060101ALI20230510BHJP
   C09J 123/04 20060101ALI20230510BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20230510BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20230510BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B32B27/32 Z
B65D81/24 D
A61J1/10 331C
A61J1/10 331A
C09J125/08
C09J123/04
C09J7/35
C09J7/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019074850
(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公開番号】P2020172290
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000143880
【氏名又は名称】株式会社細川洋行
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 亮輔
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-137241(JP,A)
【文献】特開2013-018211(JP,A)
【文献】特開2012-030497(JP,A)
【文献】特開2012-201392(JP,A)
【文献】特開2003-237002(JP,A)
【文献】特開2015-070092(JP,A)
【文献】特開2010-201648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B32B 1/00- 43/00
B65D 81/24
A61J 1/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチルペンテン樹脂からなる表面層と、前記表面層に隣接するスチレン系エラストマーを含有する熱可塑性エラストマーからなる接着層と、前記接着層を介して、前記表面層に積層されたポリエチレンからなるヒートシール層と、を有する、容器用多層フィルム。
【請求項2】
前記ヒートシール層が2層以上からなり、前記ヒートシール層のヒートシール面を構成する層が線状低密度ポリエチレンからなる、請求項1に記載の容器用多層フィルム。
【請求項3】
前記ヒートシール層が2層以上からなり、前記ヒートシール層のヒートシール面を構成する層が高密度ポリエチレンからなる、請求項1に記載の容器用多層フィルム。
【請求項4】
前記ヒートシール層は、2種以上の樹脂を混合した混合樹脂組成物からなる、請求項1に記載の容器用多層フィルム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の容器用多層フィルムを含むことを特徴とする容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用多層フィルム及びそれを含む容器に関する。
【背景技術】
【0002】
容器用多層フィルムは、レトルト食品や医療分野で用いられている。医療分野で点滴に用いられる輸液バッグとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂をブロー成形したブロー容器や、合成樹脂フィルムをヒートシールして製袋したソフトバッグ等が挙げられる。これらのうちソフトバッグは、軽量で廃棄時の容積が小さく、また、投与時における院内感染の原因となる通気針を必要としないことから、広く使用されている。このようなソフトバッグには、従来、高圧下で蒸気滅菌したときの溶出物が少なく、透明度や柔軟性が良好である、ポリエチレンやポリプロピレン等からなるポリオレフィンフィルムが用いられる。
【0003】
輸液バッグに用いられるソフトバッグには、衛生性、柔軟性、透明性、高圧蒸気滅菌を行うことができる耐熱性・耐熱水性、さらには輸液を変質させないために、溶出物が少ないこと(以下、「低溶出性」ということがある。)が求められる。
しかし、単一の種類のポリオレフィンのみを多層にしたポリオレフィンフィルム(以下、「多層ポリオレフィンフィルム」という。)を用いた場合、ソフトバッグを製造する工程において、単位時間当たりの生産効率が低いという課題がある。ポリオレフィンとしては、具体的には、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。生産効率を高めるために、多層ポリオレフィンフィルムを高温、短時間でヒートシールして製袋し、ソフトバッグを製造する方法には、次のような課題がある。多層ポリオレフィンフィルムは、全ての層を構成する樹脂の融点がほぼ同程度である。そのため、多層ポリオレフィンフィルムをヒートシールすると、全ての層を構成する樹脂が、その時の熱でほぼ同時に溶融してしまう。よって、多層ポリオレフィンフィルムをヒートシールすると、フィルム表面のダメージが激しいばかりでなく、ヒートシール時の高温高圧条件によりフィルムの厚みが薄くなり過ぎる。その結果、ソフトバッグが破れ易くなったり、ソフトバッグが破れてしまったりするという課題があった。このような課題を解決するために、単一の種類のポリオレフィンのみを多層にしたポリオレフィンフィルムを用いる場合には、ヒートシールによるソフトバッグの形成工程は、時間をかけて、温度、圧力等を調整して慎重に実施されている。
【0004】
高速、短時間でのヒートシールを可能とするために、融点の差が大きい、耐熱性樹脂と耐熱性樹脂より低温で溶融する樹脂からなるヒートシール層が積層された多層フィルムを用いる方法が検討されている。このような多層フィルムとしては、例えば、ポリアミド樹脂組成物からなる表面層、接着層及びポリエチレン樹脂組成物からなるヒートシール層がこの順に積層されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/196594号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている多層フィルムは、表面層を構成するポリアミド樹脂の吸湿性が高いため、フィルムから容器を製造する際の生産性を向上するために、フィルムを高温でヒートシールすると、フィルムが発泡することがあった。フィルムが発泡すると、容器の外観が悪くなったり、容器の強度が低下したりするという課題があった。また、多層フィルム中のポリアミド樹脂層の厚みを大きくし、ポリアミドの使用量が増加した場合には、耐熱水性が問題となることがある。例えば、多層フィルムを用いた容器がレトルト処理を受ける場合、多層フィルムを熱水中に保持した際の溶出物(ポリアミド樹脂に由来するモノマー等)の量が増加することがある。その多層フィルムを121℃の熱水中に一定時間保持し、保持後の熱水のpHを測定するpH試験を実施したところ、空試験液とのpHの差が大きくなり、日本薬局方の規格に合格できない場合があった。従って、規格に合格するためには、多層フィルムにハイドロタルサイトを配合することが必要となる場合があった。また、無機物であるハイドロタルサイトを配合することは、医療容器に求められる日本薬局方の規格が要求する強熱残分の好ましくない増加に繋がるものであった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高温、短時間でのヒートシールを可能とし、生産効率を高くすることが可能であり、耐熱水性に優れた容器用多層フィルム及びその容器用多層フィルムを用いた容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]ポリメチルペンテン樹脂からなる表面層と、前記表面層に隣接する熱可塑性エラストマーからなる接着層と、前記接着層を介して、前記表面層に積層されたヒートシール層と、を有する、容器用多層フィルム。
[2]前記熱可塑性エラストマーは、スチレン系エラストマーを含有するポリオレフィン系樹脂組成物である、[1]に記載の容器用多層フィルム。
[3]前記ヒートシール層が2層以上からなり、前記ヒートシール層のヒートシール面を構成する層が線状低密度ポリエチレンからなる、[1]または[2]に記載の容器用多層フィルム。
[4]前記ヒートシール層が2層以上からなり、前記ヒートシール層のヒートシール面を構成する層が高密度ポリエチレンからなる、[1]または[2]に記載の容器用多層フィルム。
[5]前記ヒートシール層は、2種以上の樹脂を混合した混合樹脂組成物からなる、[1]または[2]に記載の容器用多層フィルム。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の容器用多層フィルムを含むことを特徴とする容器。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温、短時間でのヒートシールを可能とし、生産効率を高くすることが可能であり、耐熱水性に優れた容器用多層フィルム及びその容器用多層フィルムを用いた容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の輸液バッグ用のフィルムの一例を示す縦断面である。
図2】本発明の容器の一実施形態として、輸液バッグの概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の容器用多層フィルム及びそれを含む容器の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[容器用多層フィルム]
図1は、本発明の容器用多層フィルムの一実施形態の概略構成を示す縦断面図である。
図1に示すように、本実施形態の容器用多層フィルム10は、表面層11と、接着層12と、ヒートシール層13と、を備える。言い換えれば、容器用多層フィルム10は、表面層11とヒートシール層13が、接着層12を介して積層された3層構成のフィルムである。
【0013】
「表面層」
表面層11は、容器用多層フィルム10を用いて、容器を製造した場合に、最外層となる層である。また、表面層11は、容器の製造時に、容器用多層フィルム10に加わる外部加熱によるダメージを和らげ、高温、短時間でのヒートシールを可能とする緩衝層として作用する。
【0014】
表面層11は、ポリメチルペンテン樹脂からなる。
ポリメチルペンテン樹脂は、4-メチル-1-ペンテンを含むモノマーからなる重合体であり、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体、または4-メチル-1-ペンテンと他のモノマーとの共重合体である。
【0015】
4-メチル-1-ペンテンと共重合する他のモノマーとしては、炭素数2~20のα-オレフィンが挙げられる。より具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ヘキセン等が挙げられる。これらのモノマーは、1種を単独で用いることができ、また、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
ポリメチルペンテン樹脂は、4-メチル-1-ペンテンと他のモノマーとの共重合体と、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体との混合物であってもよい。4-メチル-1-ペンテンと他のモノマーとの共重合体と、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体とを混合することにより、ポリメチルペンテン樹脂の融点を高めることができる。
【0017】
ポリメチルペンテン樹脂の融点は、耐熱性に優れる点から、180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。
ポリメチルペンテン樹脂の融点が上記の範囲であることが好ましい理由は、次の通りである。
表面層11の融点と後述するヒートシール層13の融点の差(以下、「融点差」という。)が40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。前記の融点差が40℃未満では、ヒートシール時に、ヒートシール層13を溶融するための熱により、表面層11がダメージを受け易くなる傾向がある。そこで、ポリメチルペンテン樹脂の融点を上記の範囲とすることにより、前記の融点差を40℃以上として、ヒートシール時に表面層11がダメージを受けることを防止する。
前記の融点差の上限は、特に限定されないが、通常、120℃程度までである。前記の融点差が大き過ぎると、共押出時にヒートシール層13も高温で製膜することになるため、ヒートシール層13の粘度が著しく低下して、安定した製膜ができなくなることがある。
【0018】
本実施形態において、ポリメチルペンテン樹脂の融点は、ポリメチルペンテン樹脂のペレットを用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、昇温速度10℃/分で測定した値である。
【0019】
本実施形態において、ポリメチルペンテン樹脂のメルトマスフローレイト(以下、「MFR」という。)は、JIS K7210に準じて測定した値である。具体的には、ポリメチルペンテン樹脂のMFRは、温度260℃、荷重49.05Nの測定条件で、15g/10分~150g/10分であることが好ましく、20g/10分~100g/10分であることがより好ましい。また、容器用多層フィルム10を、医療用フィルムとして使用する場合には、これを成形する水冷インフレーション加工での加工適性の観点からは、20g/10分~60g/10分であることが好ましい。
【0020】
表面層11の厚みは、容器用多層フィルム10の総厚みを100%とした場合に、2%~15%であることが好ましく、2%~10%であることがより好ましく、2%~8%であることがさらに好ましい。
表面層11の厚みが上記範囲の下限値以上であると、ヒートシール時の伝熱によるダメージを充分に緩和できる。一方、表面層11の厚みが上記範囲の上限値以下であると、容器用多層フィルム10の剛性が著しく増加することがなく、容器用多層フィルム10を用いて製造された輸液バッグ等の容器は柔軟性が良好となる。
【0021】
また、より具体的には、容器用多層フィルム10の総厚みが100μm~500μmのとき、表面層11の厚みが3μm~30μmであることが好ましい。
【0022】
表面層11は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、ポリエチレン、ポリプロピレン、その他の合成樹脂を含有してもよい。表面層11が、ポリエチレン、ポリプロピレン、その他の合成樹脂を含有する場合には、表面層11を構成する材料(組成物)100質量%中、その他の合成樹脂の含有割合が40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。なお、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリメチルペンテン樹脂より低融点の合成樹脂のブレンドは表面層11の耐熱性を低下させ、透明性を損なうこともあるため、これらの点からは表面層11をポリメチルペンテン樹脂のみとすることが好ましい。
【0023】
「接着層」
接着層12は、表面層11とヒートシール層13等の他の層とを接着する層間接着層である。接着層12は、熱可塑性エラストマーからなる。
【0024】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー及びこれらエラストマーを含有する樹脂組成物等が挙げられる。これら熱可塑性エラストマーのなかでも、容器用多層フィルム10の全ての成分が炭化水素で構成され、炭化水素以外の成分を含まないことから、溶出物が少なく、リサイクルにも適していることから、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物が好ましい。柔軟性に優れることから、スチレン系エラストマーを含有するポリオレフィン系樹脂組成物がより好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂組成物のポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、これらのなかでも、ポリプロピレンが好ましい。より具体的には、スチレン系エラストマーを含有するプロピレン系樹脂組成物がより好ましい。
【0025】
プロピレン系樹脂組成物の構成成分であるプロピレン系樹脂は、プロピレンと、エチレン及び炭素数が4~8のα-オレフィンの少なくとも一方との共重合体からなる樹脂である。プロピレン系樹脂は、プロピレン以外の成分の含有量が12質量%以下であることが好ましく、融解ピーク温度が130℃~170℃であることが好ましく、結晶化熱が10J/g~50J/g以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、「エチレンの含有量」は、赤外分光法または13C-NMRスペクトルから求められた値である。「融解ピーク温度」は、示差走査熱量測定(DSC)によりJIS K7121に記載の方法で求められた値である。「結晶化熱」は、示差走査熱量測定(DSC)によりJIS K7122に記載の方法で求められた値である。
【0027】
このようなプロピレン系樹脂の製造は、まず、プロピレンとエチレンとを供給し、必要に応じて、プロピレンと炭素数2~8の他のα-オレフィンとを供給して、触媒の存在下、温度50℃~150℃、プロピレンの分圧0.5MPa~4.5MPaの条件で、プロピレン共重合体またはプロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体を得る重合を実施する。
引き続き、プロピレンと、エチレン及び炭素数4~8のα-オレフィンの少なくとも一方とを供給して、前記触媒の存在下、温度50℃~150℃、プロピレン及びエチレンの分圧をそれぞれ0.3MPa~4.5MPaの条件で、プロピレン-エチレン共重合体またはプロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体を得る重合を実施する。
【0028】
プロピレン系樹脂組成物の他の構成成分であるスチレン系エラストマーは、ビニル芳香族炭化水素・共役ジエンブロック共重合体の水素添加誘導体である。ビニル芳香族炭化水素としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン等が挙げられる。
スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値として、通常、10万~55万である。
【0029】
これらのプロピレン系樹脂とスチレン系エラストマーから得られる、スチレン系エラストマーを含有するプロピレン系樹脂組成物は、スチレン系エラストマーとプロピレン系樹脂の各成分を溶融混連してブレンドした樹脂組成物、及び各成分を重合する段階で、反応容器内で含有させ、さらに溶融混練するリアクターブレンドした樹脂組成物が挙げられる。これらのなかでも、スチレン系エラストマーの含有量を高めることが容易で、かつ、その粒子径が小さくなり得ることから、各成分をリアクターブレンドする方法により得られるリアクターブレンド型のスチレン系エラストマーを含有するプロピレン系樹脂組成物が好ましい。
【0030】
このような好ましいスチレン系エラストマーを含有するプロピレン系樹脂組成物の市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製の「ゼラスMC719」が挙げられる。
【0031】
接着層12の厚みは、容器用多層フィルム10の総厚みを100%とした場合に、1%~28%であることが好ましく、2%~20%であることがより好ましく、3%~17%であることがさらに好ましい。
接着層12の厚みが上記の範囲内であると、表面層11とヒートシール層13とを充分に接着でき、また、必要以上に容器用多層フィルム10の総厚みが大きくなることもない。また、より具体的には、容器用多層フィルム10の総厚みが100μm~500μmのとき、接着層12の厚みが3μm~30μmであることが好ましい。
【0032】
接着層12は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、その他の合成樹脂を含有してもよい。接着層12が、その他の合成樹脂を含有する場合には、接着層12を構成する材料(組成物)100質量%中、その他の合成樹脂の含有割合が40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
「ヒートシール層」
ヒートシール層13は、接着層12を介して、表面層11に積層された層であり、製袋して袋状に成形する際に、熱により溶融し、貼り合わせられる層である。また、ヒートシール層13は、袋状に成形された場合、内容物と接触する面を有する層である。
【0034】
ヒートシール層13を構成する材料としては、特に限定されないが、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主成分とし、複数の樹脂を混合した混合樹脂組成物であるポリエチレン樹脂組成物、ポリプロピレン樹脂組成物、さらには接着層12とは異なる熱可塑性エラストマー、とりわけプロピレン系樹脂組成物からなる熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0035】
ヒートシール層13が、ポリエチレンを主成分とする場合には、表面層11との融点差が大きいことから高速製袋が可能である。また、ヒートシール層13が、ポリエチレンを主成分とする場合には、添加剤も少ないか、無添加とすることができるため、袋状容器とした場合の衛生性に優れ、さらには常温から室温以下の低温での落袋強度に優れるため好ましい。
【0036】
ヒートシール層13を、ポリプロピレンを主成分とした場合及び前記の熱可塑性エラストマーとした場合には、耐熱性に優れ、121℃以上の高圧蒸気滅菌が可能な容器に用いられる容器用多層フィルム10を容易に得ることができる。
【0037】
なお、本明細書において、主成分とは、100質量%中に50質量%を超えて含まれる成分のことを言う。
【0038】
ヒートシール層13がポリエチレンまたはポリプロピレンを含む場合、その配合割合は、50質量%を超え、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0039】
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが挙げられる。これらのポリエチレンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
ヒートシール層13は、単層であってもよく、2層以上であってもよい。
例えば、ヒートシール層13を単層とし、この層に、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及び線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。この場合において、線状低密度ポリエチレンに、低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンの少なくとも一方を混合すると、線状低密度ポリエチレンの密度が低い場合に、水冷インフレーションで成膜した際に筒状フィルム内面同士がブロッキングすることを防止できる。低密度ポリエチレンは、柔軟性、透明性に優れる。高密度ポリエチレンは、硬いものの、耐熱性が高く、内容物入りの袋状容器とした場合の高圧蒸気滅菌の温度を高くすることができる。線状低密度ポリエチレンは、特に柔軟性に優れ、透明性にも優れ、容器用多層フィルム10を袋状容器にした場合の落袋強度に優れる性質を有する。したがって、これらのポリエチレンの性質を勘案して混合したポリエチレン樹脂組成物を、単層構成のヒートシール層とすることもできる。
【0041】
この場合、耐熱性、透明性、柔軟性、袋状容器にした際の落袋強度のバランスに優れていることから、低密度ポリエチレンと、高密度ポリエチレンと、線状低密度ポリエチレンとの混合比は、低密度ポリエチレン5質量部~50質量部、高密度ポリエチレン5質量部~50質量部、線状低密度ポリエチレン30質量部~90質量部であることが好ましく、低密度ポリエチレン10質量部~40質量部、高密度ポリエチレン10質量部~40質量部、線状低密度ポリエチレン40質量部~80質量部であることがより好ましく、低密度ポリエチレン15質量部~30質量部、高密度ポリエチレン15質量部~30質量部、線状低密度ポリエチレン50質量部~70質量部であることがさらに好ましい。
【0042】
また、ヒートシール層13を2層以上とし、それぞれの層に、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及び線状低密度ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種用いることができる。
ヒートシール層13が2層の例としては、線状低密度ポリエチレンからなる層と高密度ポリエチレンからなる層とから構成されるものが挙げられる。具体的には、2層のヒートシール層13としては、高密度ポリエチレンからなる層を、容器用多層フィルム10がヒートシールにより貼り合わされる際に接着されるヒートシール面を構成する層としたものが挙げられる。また、2層のヒートシール層13としては、線状低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの混合割合の異なる層を2層組み合わせたものであって、ヒートシール面を構成する層において高密度ポリエチレンを主成分としたものが挙げられる。また、2層のヒートシール層13としては、線状低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの混合物からなる層と、高密度ポリエチレンからなる層とからなり、高密度ポリエチレンからなる層を、ヒートシール面を構成する層としたものが挙げられる。
【0043】
特に、ヒートシール層13のヒートシール面を構成する層を、高密度ポリエチレンを主成分とするか、または高密度ポリチレンのみとした層とした容器用多層フィルム10は、次の点から好ましい。この容器用多層フィルム10は、柔軟性及び耐熱性に優れ、フィルムから容器を形成し、内容物を充填後、高圧蒸気滅菌した際に、ヒートシール面同士がブロッキングしないアンチブロッキング性に優れる。また、この場合の高密度ポリエチレンを含むヒートシール面を構成する層の厚みは、3μm~30μmであることが好ましい。
【0044】
また、ヒートシール層13のヒートシール面を構成する層を、高密度ポリエチレンからなる層とし、接着層12に隣接する層を、線状低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの混合物からなる層とした容器用多層フィルム10は、次の点から好ましい。この容器用多層フィルム10は、接着層12に隣接する層を線状低密度ポリエチレンからなる層とした場合よりも、耐熱性に優れ、フィルム外観が優れたものとなる。
【0045】
低密度ポリエチレンは、高圧法低密度ポリエチレンとも呼ばれ、密度が910kg/m~940kg/m未満のポリエチレンである。これらのなかでも、MFRが0.1g/10分~20g/10分の低密度ポリエチレンが好ましい。
【0046】
高密度ポリエチレンは、密度が940kg/m~970kg/mのポリエチレンである。これらのなかでも、MFRが0.1g/10分~20g/10分の高密度ポリエチレンが好ましい。
【0047】
線状低密度ポリエチレンは、エチレンと炭素数3個~20個のα-オレフィンから選択される1種以上のα-オレフィンとの共重合体である。
炭素数3個~20個のα-オレフィンのなかでも、炭素数3個~12個のα-オレフィンが好ましい。具体的には、α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらのなかでも、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましい。
【0048】
共重合体におけるα-オレフィンの含有量は、通常、1モル%~30モル%であり、3モル%~20モル%であることが好ましい。
線状低密度ポリエチレンの密度は、900kg/m~940kg/mである。隣接する層との接着性に優れることから、線状低密度ポリエチレンの密度は、900kg/m~910kg/mであることが好ましい。
線状低密度ポリエチレンのMFRは、0.1g/10分~20g/10分であることが好ましい。
【0049】
本明細書において、各ポリエチレンの密度は、JIS K 7112 D法によって測定される。また、各ポリエチレンのMFRは、JIS K 7210に準拠し、温度190℃、荷重21.18Nの条件の下において測定した値である。
【0050】
ポリプロピレンとしては、アイソタクティックポリプロピレンとシンジオタクティックポリプロピレンが挙げられる。
アイソタクティックポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、プロピレン及び炭素数2~20から選ばれる少なくとも1種のα-オレフィン(ただし、プロピレンを除く)ランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体、接着層12として好ましい樹脂として例示したスチレン系エラストマーを含有するプロピレン系樹脂組成物の構成成分であるプロピレン系樹脂等が挙げられる。
【0051】
ヒートシール層13に用いられる熱可塑性エラストマーとしては、接着層12に用いられるものとは異なる熱可塑性エラストマーが挙げられる。より具体的には、熱可塑性エラストマーとしては、べたつきの無いものが好ましい。ヒートシール層13に用いられる熱可塑性エラストマーにべたつきがあると、容器内面同士のブロッキングのため、容器が開口しないか、または開口が不充分となり、内容物の充填に支障をきたすことがある。さらに、容器が高圧蒸気滅菌等で加熱された場合に内面同士が密着してしまい、外観が悪くなる等の問題が生じ得る。ヒートシール層13に用いられる熱可塑性エラストマーの市販品としては、三菱ケミカル株式会社製のオレフィン系エラストマー、「ゼラス」のうち、医療用途向けグレードで、接着層12とは異なるグレードが挙げられる。このようなオレフィン系エラストマーとしては、例えば、「ゼラス7025」等、内層用樹脂として市場で入手し得るものが挙げられる。
【0052】
ヒートシール層13の厚みは、容器用多層フィルム10の総厚みを100%とした場合に、70%~96%であることが好ましく、73%~95%であることがより好ましく、75%~90%であることが特に好ましい。
ヒートシール層13の厚みが上記範囲の下限値以上であると、フィルムとしての強度物性が充分となる。一方、ヒートシール層13の厚みが上記範囲の上限値以下であると、相対的に表面層11及び接着層12の厚みが不足することがない。
具体的には、ヒートシール層13の厚みは、30μm~270μmであることが好ましい。
【0053】
ヒートシール層13が2層である場合に、ヒートシール面を構成する層がヒートシール層13の全厚み中に占める割合は5%~20%であることが好ましく、5%~15%であることがより好ましい。
【0054】
ヒートシール層13が、ポリエチレンを主成分とするポリエチレン樹脂組成物から形成されている場合において、ポリエチレン樹脂組成物は、ポリプロピレンやその他の合成樹脂を含有してもよい。ポリエチレン樹脂組成物が、ポリプロピレンやその他の合成樹脂を含有する場合には、ポリエチレン樹脂組成物100質量%中、ポリプロピレンやその他の合成樹脂の含有割合が50質量%未満であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0055】
また、ヒートシール層13が、ポリプロピレンを主成分とするポリプロピレン樹脂組成物から形成されている場合において、ポリプロピレン樹脂組成物は、ポリエチレンやその他の合成樹脂を含有してもよい。ポリプロピレン樹脂組成物が、ポリエチレンやその他の合成樹脂を含有する場合には、ポリプロピレン樹脂組成物100質量%中、ポリエチレンやその他の合成樹脂の含有割合が50質量%未満であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
図1に例示した容器用多層フィルム10は3層構成であるが、表面層11、接着層12、ヒートシール層13以外の他の層をさらに1層以上有してもよい。また、その場合、接着層を2層以上有していてもよい。
【0057】
他の層としては、例えば、エチレンビニルアルコール共重合体、環状ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂から選択される1種以上により構成される樹脂層、金属(アルミニウム、マグネシウム等)または無機酸化物(酸化珪素等)を蒸着した蒸着フィルム及び樹脂フィルムの表面をポリ塩化ビニリデン等のバリア性コート剤で被覆したコートフィルム等のバリアフィルム層、アルミ箔等の金属箔等からなる層が挙げられる。
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。
【0058】
容器用多層フィルム10が、表面層11、接着層12、ヒートシール層13以外の他の層をさらに1層以上有する場合の具体的な層構成としては、例えば、表面層/接着層/ポリエチレンテレフタレート樹脂層/接着層/ヒートシール層、表面層/接着層/エチレンビニルアルコール共重合体/接着層/ヒートシール層、表面層/接着層/バリアフィルム層/接着層/ヒートシール層、表面層/接着層/アルミ箔/接着層/ヒートシール層等のように各層が順次設けられた層構成が挙げられる。ただし、廃棄後のリサイクルが容易になること及び耐熱水性に優れることから、他の層は、炭素原子、水素原子のみから構成されるポリオレフィン樹脂からなることが好ましい。
【0059】
容器用多層フィルム10の総厚みは、50μm~1000μmであることが好ましく、70μm~600μmであることがより好ましく、100μm~500μmであることがさらに好ましい。
【0060】
容器用多層フィルム10は、例えば、多層Tダイ成形、多層共押出インフレーション成形等により成形することができる。多層共押出インフレーション成形を採用する場合、透明性に優れたフィルムが得られることから、水冷インフレーション法を採用することが好ましい。
【0061】
本実施形態の容器用多層フィルム10は、ポリメチルペンテン樹脂からなる表面層11と、表面層11に隣接する熱可塑性エラストマーからなる接着層12と、接着層12を介して、表面層11に積層されたヒートシール層13と、を有するため、高温、短時間でのヒートシールを可能とし、ヒートシールによって成形される容器の生産効率を高くすることが可能である。また、本実施形態の容器用多層フィルム10は、表面層11がポリメチルペンテン樹脂からなるため、熱水に浸漬しても溶出物が少なく、耐熱水性に優れる。さらに、本実施形態の容器用多層フィルム10は、表面層11がポリメチルペンテン樹脂からなるため、ハイドロタルサイト等の無機物を含むことなく、表面層11の融点を高くすることができる。従って、本実施形態の容器用多層フィルム10は、日本薬局方の規格における強熱残分を低減することができる。
【0062】
また、本実施形態の容器用多層フィルム10を炭化水素化合物のみからなるものとすれば、フィルムや、そのフィルムからなる容器を容易にリサイクルすることができる。例えば、本実施形態の容器用多層フィルム10や本実施形態の容器用多層フィルム10を含む容器を熱分解することにより、不純物の少ない高純度の油を容易に得ることができる。
【0063】
さらに、本実施形態の容器用多層フィルム10は、ポリメチルペンテン樹脂からなる表面層11を有するため、透明性に優れる。
【0064】
[容器]
本発明の容器は、本発明の容器用多層フィルムを含む容器である。本発明の容器は、容器用多層フィルムのヒートシール層の外表面がヒートシール面となっている袋状、カップ状等、各種形態の容器である。
【0065】
図2は、本発明の容器の一実施形態として、輸液バッグの概略構成を示す斜視図である。
図2に示すように、本実施形態の輸液バッグ20は、薬液収納室21と、薬液収納室21の外縁に形成されたヒートシール部22と、薬液収納室21からの薬液の注出入口である排出注入口部材23と、を備える。
【0066】
薬液収納室21は、上述の容器用多層フィルム10からなる。
薬液収納室21は、2枚の容器用多層フィルム10を、ヒートシール層13同士が対向するように重ね合わせて、重ね合わせた容器用多層フィルム10の周縁部をヒートシールすることによって形成される。すなわち、薬液収納室21は、ヒートシールによって形成されたヒートシール部22の内側に形成された空間である。ヒートシール部22は、輸液バッグ20の周縁部をなしている。また、薬液収納室21およびヒートシール部22の最外層は、容器用多層フィルム10の表面層11からなる。
【0067】
ヒートシール部22の一部には、2枚の容器用多層フィルム10の熱溶着により、排出注入口部材23が狭持されて取り付けられている。排出注入口部材23は、ポートとも呼ばれる筒状の部材であり、その内部が薬液収納室21内と連通している。また、排出注入口部材23におけるヒートシール部22に取り付けられている側とは反対側の端には、ゴム栓24が設けられている。さらに、ヒートシール部22における、輸液バッグ20の長さ方向の排出注入口部材23とは反対側には、輸液バッグ20を吊り下げるための吊下穴25が形成されている。吊下穴25は、ヒートシール部22を、その厚み方向に貫通している。
【0068】
本実施形態の輸液バッグ20は、ポリメチルペンテン樹脂からなる表面層11を有する容器用多層フィルム10を含むため、吸水性が小さく、耐熱水性にも優れる。そのため、本実施形態の輸液バッグ20によれば、収納する輸液の液性を維持し、輸液の品質を良好に保つことができる。
【0069】
なお、本実施形態の輸液バッグ20のような袋状の輸液バッグは、薬液収納室に剥離可能な弱シール部を形成して、その弱シール部によって仕切られた複数の薬液収納室を有する複室輸液バッグとすることもできる。
【実施例
【0070】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[容器用多層フィルム]
「実施例」
以下に示す樹脂を用いて、容器用多層フィルムを製造した。
ポリメチルペンテン樹脂、三井化学株式会社、TPX“MX002O”、密度=0.834g/cm、MFR=21g/10分、融解ピーク温度=224℃
TPO:オレフィン系熱可塑性エラストマー、三菱ケミカル株式会社、ゼラス MC719、密度=0.894g/cm、MFR=3.5g/10分、融解ピーク温度=155℃
LLD:線状低密度ポリエチレン、日本ポリエチレン株式会社、ハーモレックス、密度=0.908g/cm、MFR=0.9g/10分
LD:低密度ポリエチレン、日本ポリエチレン株式会社、ノバテックLD、LM360、密度=0.928g/cm、MFR=0.9g/10分
HD:高密度ポリエチレン、日本ポリエチレン株式会社、ノバテックHD、密度=0.955g/cm、MFR=1.8g/10分
表面層、接着層、ヒートシール層がこの順番に設けられた折径140mm、総厚み200μmの容器用多層フィルムを、表面層が外側となるように水冷インフレーションフィルム成形機で成形して製造した。すなわち、表面層にはポリメチルペンテン樹脂を用い、接着層にはオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を用い、ヒートシール層には線状低密度ポリエチレン(LLD)60質量部と、低密度ポリエチレン(LD)20質量部と、高密度ポリエチレン(HD)20質量部とからなる混合樹脂を用いた。
なお、水冷インフレーションフィルム成形機の押出機の設定温度を260℃とした。また、表面層の厚みを15μm、接着層の厚みを15μm、ヒートシール層の厚みを170μmとした。ここで、各層の厚みの比は、表面層/接着層/ヒートシール層=7.5/7.5/85であった。
【0072】
「比較例」
以下に示す樹脂を用いて、容器用多層フィルムを製造した。
PA11:ポリアミド11、アルケマ株式会社、RILSAN“BESV 0 A FDA”、密度=1.02g/cm、融解ピーク温度=184℃~188℃
AD:無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、三菱ケミカル株式会社、ZELAS“MC721AP”、密度=0.894g/cm、MFR=3.5g/10分(JIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nでの測定値)、融解ピーク温度=155℃
ハイドロタルサイト:Mg4.5Al(OH)13CO3・3・5HO、協和化学工業株式会社、DHT-4A
表面層にはポリアミド11(PA11)の100質量部に対して、0.5質量部のハイドロタルサイトを添加したポリアミド樹脂組成物を用い、接着層には無水マレイン酸グラフトポリプロピレン樹脂(AD)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、折径140mm、総厚み200μmの容器用多層フィルムを、水冷インフレーションフィルム成形機で成形して製造した。
【0073】
実施例及び比較例で得られた容器用多層フィルムについて、第十七改正日本薬局方第一部・一般試験法・プラスチック製医薬品容器試験法、ポリエチレン製またはポリプロピレン製水性注射剤容器の規格に基づく試験を行った。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示す通り、熱水への溶出が懸念される強熱残分が、比較例では0.05%であるのに対して、実施例では0.01%未満と検出限界以下であり、極めて少なかった。なお、強熱残分の試験は、樹脂中に不純物として含まれる無機物の含量を知るために行われる。
また、pH試験では、比較例における試験液と空試験液のpHの差が1.0であるのに対して、実施例における試験液と空試験液のpHの差が0.5と半減しており、実施例の容器用多層フィルムは、内容物に与える影響がより少なくなっており、pHに敏感な薬剤用の容器用のフィルムとして好適であることが分かった。
また、透明性試験の結果は、容器用多層フィルムから袋状容器を作製し、蒸留水を充填密封した後、121℃にて30分間、高圧蒸気滅菌した後の実施例及び比較例の容器用多層フィルムの光線透過率を示す値である。比較例の容器用多層フィルムが73%であるのに対して、実施例の容器用多層フィルムが82%であった。すなわち、実施例の容器用多層フィルムは、透明性に優れていた。
【0076】
また、実施例の容器用多層フィルムは、吸水の原因となるアミド基含有化合物を含まず、炭化水素系樹脂のポリオレフィン樹脂からなり、極性基を有さないため、吸水性が低いフィルムである。
さらに、実施例の容器用多層フィルムの表面層の樹脂の融解ピーク温度224℃は、比較例の容器用多層フィルムの表面層の樹脂の融解ピーク温度184℃~188℃よりも高い。したがって、実施例の容器用多層フィルムは、ヒートシールバーの温度をより高温とすることができるため、より短時間でのヒートシールが可能となり、容器の生産効率を高めることができる。
【0077】
[容器]
実施例の容器用多層フィルムを用いて、図2に示すような、縦250mm×横120mmサイズの輸液バッグを、金型温度200℃、圧力0.4MPa、シール時間2秒で作製した。
得られた輸液バッグに、200mLの蒸留水を封入し、ゴム栓で封をした。
蒸留水を封入した輸液バッグを、121℃にて30分間、高圧蒸気滅菌した後、透明性及び外観を目視により評価した。
その結果、実施例の容器用多層フィルムを用いた輸液バッグは、輸液バッグを構成するフィルムに白濁等は見られず、光線透過率82%の透明性を示し、問題がなく、容器用多層フィルムが折れたり収縮したりするなどして皺がよることもなく、輸液バッグ表面が平滑で外観が綺麗であった。
【0078】
以上、本発明によれば、高温、短時間でのヒートシールが可能であり、耐熱水性に優れ、溶出物を低減した容器用多層フィルムと、同フィルムを用いた容器を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の容器用多層フィルムは、高温、短時間でのヒートシールが可能である。よって、本発明の容器用多層フィルムは、袋体等からなる容器の成形等に適している。また、本発明の容器用多層フィルムは、耐熱水性に優れるため、医療の分野において、特に薬液や血液等の収容用の容器に適している。
【符号の説明】
【0080】
10 容器用多層フィルム
11 表面層
12 接着層
13 ヒートシール層
20 輸液バッグ
21 薬液収納室
22 ヒートシール部
23 排出注入口部材
24 ゴム栓
25 吊下穴
図1
図2