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特許7274983脂肪細胞分化抑制剤及びこれを含有する化粧料、並びに脂肪細胞分化抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】脂肪細胞分化抑制剤及びこれを含有する化粧料、並びに脂肪細胞分化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20230510BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20230510BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230510BHJP
   A61Q 90/00 20090101ALI20230510BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230510BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20230510BHJP
【FI】
A61K8/365
A61K31/19
A61P3/04
A61Q90/00
A61P43/00 105
C12N5/0775
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019153128
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2020055795
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2018187720
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】盤若 明日香
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-63554(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105368(WO,A1)
【文献】特開2015-001890(JP,A)
【文献】特開2018-39769(JP,A)
【文献】特開2018-158899(JP,A)
【文献】特開2018-158898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/00-31/327
A61P 1/00-43/00
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を有効成分とし、脂肪前駆細胞、前記脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は前記脂肪細胞に作用して、前記脂肪細胞への分化を抑制する脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項2】
前記脂肪前駆細胞又は前記脂肪細胞がヒト由来である請求項1に記載の脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項3】
前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が、前記脂肪細胞において脂肪酸合成を抑制する働きを持つ請求項1又は2に記載の脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制剤を含有する化粧料。
【請求項5】
前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を0.1mM以上95mM未満含有している請求項4に記載の化粧料。
【請求項6】
脂肪前駆細胞、前記脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は前記脂肪細胞に、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を作用させ、前記脂肪細胞への分化を抑制する分化抑制工程を含む脂肪細胞分化抑制方法。
【請求項7】
前記分化抑制工程は、前記脂肪前駆細胞、前記脂肪前駆細胞から前記脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は前記脂肪細胞を、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を含む培地で培養する工程である請求項6に記載の脂肪細胞分化抑制方法。
【請求項8】
前記培地は、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩のモル濃度が0.1mM以上95mM未満である請求項7に記載の脂肪細胞分化抑制方法。
【請求項9】
前記脂肪前駆細胞又は前記脂肪細胞がヒト由来である請求項6~8のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制方法。
【請求項10】
前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が、前記脂肪細胞において脂肪酸合成を抑制する働きを持つ請求項6~9のいずれか一項に記載の脂肪細胞分化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪細胞分化抑制剤及びこれを含有する化粧料、並びに脂肪細胞分化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3-ヒドロキシ酪酸(以下、「3HB」ともいう)は、美白効果や、細胞賦活効果、保湿効果などがあることから、化粧水、乳液、クリーム、パック、分散液、洗浄料等の化粧品や、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の外用医薬品(以下、「化粧料」と総称する)として利用されるようになっている(例えば、特許文献1記載の美白化粧料、細胞賦活化粧料及び保湿化粧料)。
【0003】
また、3HBに関する研究が進むにつれて、当該3HBには、様々な遺伝子の発現やタンパク質の活性に影響するシグナル伝達物質としての作用があることが判明し、特許文献2には、3HBが脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌を抑制するという新たな特徴に着目し、体重調節による抗肥満作用のためにアディポネクチンの分泌を調節(抑制)する、3HBを有効成分としたアディポネクチン分泌調節剤が提案されている(特許文献2)。
【0004】
特許文献2においては、アディポネクチンの産生を抑制することによって痩身効果が発揮されるとの知見を基に、アディポネクチンの分泌を抑制して血中のアディポネクチン濃度を適正な濃度に調節するために、体重調節による抗肥満作用を有する用途剤としてアディポネクチン分泌調節剤を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-200883号公報
【文献】特許第5499415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アディポネクチンの産生と肥満との関係については、特許文献2に記載されているように、アディポネクチンの産生を抑制することで痩身効果を示す(別の言い方をすれば、肥満の抑制に繋がる)という説も唱えられているが、アディポネクチンの産生と肥満との関係についてはこの他にも多数の説が唱えられている。
【0007】
例えば、アディポネクチンは、脂肪前駆細胞が分化した脂肪細胞から産生されるだけでなく、この脂肪細胞が成熟した脂肪細胞(成熟脂肪細胞)からも産生され、興味深いことに、両者から産生されるアディポネクチンの量は、脂肪細胞より成熟脂肪細胞の方が少ないという説も唱えられている。この説からすれば、より脂肪の蓄積が進んだ成熟脂肪細胞が増えることでアディポネクチンの産生量が減少するのであるから、アディポネクチンの産生が減っている場合の方が肥満が進行していることになる。
【0008】
このように、アディポネクチンの産生を抑制することが肥満の抑制に繋がるとは必ずしも言えないという実情がある以上、アディポネクチンの産生と肥満の抑制とを関連付けてアディポネクチンの産生に着目することにさほど意義はない。
【0009】
特許文献2は、アディポネクチンの産生と肥満の抑制とを関連付けてアディポネクチンの産生に着目しているが、特許文献2においては、脂肪前駆細胞を脂肪細胞に分化させた後、この分化後の脂肪細胞を3HBを含む無血清培地で培養することで、アディポネクチンの産生量を指標として、3HBに関する、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌抑制能を評価している。しかしながら、アディポネクチンの産生量の変化は、脂肪細胞が成熟脂肪細胞に成熟したことに起因するものであるのか、或いは、3HBの作用に起因するものであるのかを明確に区別することができない以上、3-ヒドロキシ酪酸に関するアディポネクチンの分泌抑制能が実験的に示されていると言えず、アディポネクチンの分泌の抑制と肥満の抑制との関係についても具体的な実験データが示されているわけでない。したがって、特許文献2の内容を鑑みても、アディポネクチンと肥満の抑制とを関連付けてアディポネクチンの産生に着目することにさほど意義があるとは考え難い。
【0010】
これらの事情に鑑みれば、抗肥満作用を有する化粧料を開発する上では、アディポネクチンの産生とは無関係に、実際の体内での脂肪の蓄積を抑制して肥満を抑えられる物質や、当該物質の使用方法を見出したり、そのような物質がどのようにして脂肪の蓄積を抑制するのかを解明したりすることが極めて重要である。
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、体内での脂肪の蓄積の抑制を可能にする脂肪細胞分化抑制剤及びこれを用いた化粧料、並びに脂肪細胞分化抑制方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、体内での脂肪の蓄積を抑制する手段について鋭意研究を重ねた結果、脂肪前駆細胞を脂肪細胞へ分化誘導させる際の培地に3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が含まれていることで、この3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が分化過程において脂肪前駆細胞に作用して脂肪細胞への分化が抑制され、更に、脂肪細胞中の脂肪酸合成が抑制されることで、結果的に体内での脂肪の蓄積が抑えられること、即ち、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が脂肪蓄積抑制効果を有することを見出した。更に、本発明者らは、脂肪細胞を培養する際に培地に3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が含まれていることで、これらが脂肪蓄積抑制効果を発揮し、脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積が抑えられることも見出した。尚、分化とは細胞が特定の役割を持つことであるため、本願において、「脂肪細胞への分化」とは、脂肪前駆細胞から脂肪細胞へ分化すること、及び細胞が脂肪酸を合成して細胞内に脂肪滴を蓄積することを含む概念である。
【0013】
即ち、上記目的を達成するための本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤の特徴構成は、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を有効成分とし、脂肪前駆細胞、前記脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は前記脂肪細胞に作用して、前記脂肪細胞への分化を抑制する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、脂肪前駆細胞が脂肪細胞へと分化する過程や脂肪細胞の培養過程において、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が脂肪前駆細胞や脂肪細胞に作用することで脂肪細胞への分化(脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積を含む)が抑制される。このように、上記特徴構成では、アディポネクチンの産生とは無関係に、脂肪細胞への分化を抑制することで、体内での脂肪の蓄積を抑えることができる。
【0015】
また、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤の更なる特徴構成は、前記脂肪前駆細胞又は前記脂肪細胞がヒト由来である点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、ヒト由来の脂肪前駆細胞が脂肪細胞へ分化するのを抑制することができ、また、ヒト由来の脂肪細胞での脂肪滴の蓄積を抑制することができるため、人に対して好適に用いることができる。
【0017】
尚、上記のように、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を有効成分として含有していることで、脂肪細胞中の脂肪酸合成が抑制され、体内での脂肪の蓄積が抑えられることから、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩は、脂肪細胞において脂肪酸合成を抑制する働きを持っている。
【0018】
即ち、本発明に係る脂肪細胞分化抑制剤の更なる特徴構成は、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が、前記脂肪細胞において脂肪酸合成を抑制する働きを持つ点にある。
【0019】
上記脂肪細胞分化抑制剤は、一般的に用いられ得る添加剤(界面活性剤や希釈剤、安定剤など)とともに、化粧料の原料として好適に使用することができる。
【0020】
即ち、本発明に係る化粧料の特徴構成は、上記脂肪細胞分化抑制剤を含有する点にある。
【0021】
また、本発明に係る化粧料の更なる特徴構成は、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を0.1mM以上95mM未満含有している点にある。
【0022】
化粧料に3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が0.1mM以上95mM未満含有していることで、当該化粧料を人に対して使用した場合に、脂肪前駆細胞や脂肪細胞に作用して脂肪細胞への分化(脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積を含む)を抑制でき、優れた脂肪蓄積抑制効果を発揮する。尚、0.1mM未満であると、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩による脂肪蓄積抑制効果が発揮され難くなる。
【0023】
また、上記目的を達成するための脂肪細胞分化抑制方法の特徴構成は、脂肪前駆細胞、前記脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は前記脂肪細胞に、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を作用させ、前記脂肪細胞への分化を抑制する分化抑制工程を含む点にある。
【0024】
上述したように、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、脂肪前駆細胞を脂肪細胞へ分化誘導させる際の培地に3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が含まれていることで、この3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が分化過程において脂肪前駆細胞に作用して脂肪細胞への分化が抑制されること(即ち、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化が抑制されたり、脂肪細胞中の脂肪酸合成が抑制されたりすること)を発見し、更に、脂肪細胞を培養する際の培地に3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が含まれていることで、これらが脂肪蓄積抑制効果を発揮し、脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積が抑えられることも発見した。上記特徴構成によれば、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞に対して3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が作用して脂肪細胞への分化(脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積を含む)を抑制することができる。
【0025】
また、本発明に係る脂肪細胞分化抑制方法の更なる特徴構成は、前記分化抑制工程は、前記脂肪前駆細胞、前記脂肪前駆細胞から前記脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は前記脂肪細胞を、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を含む培地で培養する工程である点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を含む培地で、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞を培養するため、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞に作用し易く、脂肪細胞への分化を効果的に抑制できる。
【0027】
更に、本発明に係る脂肪細胞分化抑制方法の更なる特徴構成は、前記培地は、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩のモル濃度が0.1mM以上95mM未満である点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、細胞に対する毒性を抑えた上で、脂肪細胞への分化を効果的に抑制することができる。尚、0.1mM未満であると、脂肪細胞への分化が抑制され難くなる。
【0029】
また、本発明に係る脂肪細胞分化抑制方法の更なる特徴構成は、前記脂肪前駆細胞又は前記脂肪細胞がヒト由来である点にある。
【0030】
上記特徴構成によれば、ヒト由来の脂肪前駆細胞が脂肪細胞へ分化するのを抑制することができ、また、ヒト由来の脂肪細胞での脂肪滴の蓄積を抑制することができる。
【0031】
尚、上記のように、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩を作用させることで、脂肪細胞中の脂肪酸合成が抑制されることから、3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩は、脂肪細胞において脂肪酸合成を抑制する働きを持っている。
【0032】
即ち、本発明に係る脂肪細胞分化抑制方法の更なる特徴構成は、前記3-ヒドロキシ酪酸又は3-ヒドロキシ酪酸塩が、前記脂肪細胞において脂肪酸合成を抑制する働きを持つ点にある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の流れを模式的に表した図である。
図2】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の結果を示すグラフである。
図3】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の結果(分化誘導処理なしのコントロール1)を示す顕微鏡写真である。
図4】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の結果(分化誘導処理ありのコントロール2)を示す顕微鏡写真である。
図5】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の結果(モル濃度0.76mM)を示す顕微鏡写真である。
図6】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の結果(モル濃度3.8mM)を示す顕微鏡写真である。
図7】確認試験1におけるオイルレッドO染色試験の結果(モル濃度19mM)を示す顕微鏡写真である。
図8】確認試験1における生細胞数測定試験の結果を示すグラフである。
図9】確認試験2におけるオイルレッドO染色試験の流れを模式的に示した図である。
図10】確認試験2におけるオイルレッドO染色試験の結果を示すグラフである。
図11】確認試験2における生細胞数測定試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る脂肪細胞分化抑制剤、化粧料、及び脂肪細胞分化抑制方法について説明する。
【0035】
〔3HB〕
3HB((R)-3-ヒドロキシ酪酸)は、3HB生産性のハロモナス菌を添加した発酵プロセスを行い、得られた発酵液からハロモナス菌を分離除去し、精製することにより得られる。発酵プロセスは、果汁等の糖質栄養源を含有する原料液に、3HB生産性のハロモナス菌をそのまま添加し、好気発酵、嫌気発酵を順に行うプロセス(特開2013-081403号公報等参照)として実施することができる。これにより、糖質が3HBに変換され、発酵液中に生産されることになる。生産された3HBは、常法にて、膜分離、分離精製を経た後、純粋な3HBとして用いられる。
【0036】
〔脂肪細胞分化抑制剤〕
脂肪細胞分化抑制剤は、上記3HBを有効成分として含有するものであり、当該3HBは、それ自体の他、遊離酸や種々の塩(3-ヒドロキシ酪酸塩)として用いることができ、塩には金属塩(無機塩)及び有機塩のいずれも含む。また、脂肪細胞分化抑制剤は、3HBを主たる機能性成分の一つとして含んでいれば、必要に応じて種々の添加剤を含んでいても良く、3HBのもつ特性が現れる態様であれば、配合割合に特に制限はない。更に、3HBは、必ずしも脂肪細胞分化抑制剤中で最も多い成分である必要はない。尚、脂肪細胞分化抑制剤には、精製された3HBに代えて、発酵プロセスにより得られた発酵液をそのまま用いても良いし、その発酵液をベースに種々の添加剤を添加したものを用いても良い。
【0037】
この脂肪細胞分化抑制剤によれば、有効成分である3HBが脂肪前駆細胞や脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、脂肪細胞に対して作用することで、脂肪細胞への分化(脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積を含む)が抑制され、脂肪細胞中の脂肪酸合成が抑制される。特に、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞がヒト由来である場合、3HBの高い分化抑制効果が発揮されることを実験的に確認している。
【0038】
〔化粧料〕
本発明の脂肪細胞分化抑制剤は、化粧料の原料として用いることができる。この化粧料には、必要に応じて水や一般的な化粧料に配合される種々の公知の添加成分を本発明の効果を損なわない程度に任意の処方で含有することができるが、3HBによって、脂肪前駆細胞や脂肪細胞に作用して脂肪細胞への分化(脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積を含む)が抑制され、優れた脂肪蓄積抑制効果が有効に発揮されるようにするという観点からすると、3HBを0.1mM以上95mM未満含有していることが好ましく、0.1mM以上19mM以下含有していることがより好ましい。尚、公知の添加成分としては、例えば、水性基剤や油性基剤、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、ゲル化剤、酸化防止剤、防腐剤、殺菌剤、キレート剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、還元剤、酸化剤、高分子粉体、無機粉体、ビタミン類及びその誘導体類、糖類及びその誘導体類、有機酸類、酵素類、アルコール類、香料、色素などを例示することができる。
【0039】
具体的には下記表1に示す処方にて、化粧水を構成することができる。
【0040】
【表1】
【0041】
具体的には下記表2に示す処方にて、乳液を構成することができる。
【0042】
【表2】
【0043】
具体的には下記表3に示す処方にて、クリームを構成することができる。
【0044】
【表3】
【0045】
このような化粧水や乳液、クリームなどの化粧料によれば、この化粧料を人の肌に塗布することで、有効成分として含まれている3HBが人の脂肪前駆細胞や脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、脂肪細胞に対して作用して、脂肪細胞への分化が抑制されるため、結果的に、体内での脂肪の蓄積を抑えることができる。
【0046】
〔脂肪細胞分化抑制方法〕
本発明の脂肪細胞分化抑制方法は、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞に、3HBを作用させ、脂肪細胞への分化を抑制する分化抑制工程を含み、具体的に、分化抑制工程において、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞を、3HBを含む培地で培養する。この脂肪細胞分化抑制方法によれば、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞に対して3HBを作用させ、脂肪細胞への分化(脂肪細胞内での脂肪滴の蓄積を含む)を抑制し、脂肪細胞中の脂肪酸合成を抑制することができる。
【0047】
尚、3HBを含む培地は、その3HBのモル濃度が0.1mM以上95mM未満(より望ましくは0.1mM以上19mM以下)である場合、細胞に対する毒性を抑えた上で、脂肪細胞への分化を効果的に抑制することができることを実験的に確認している。また、特に、脂肪前駆細胞、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞、又は脂肪細胞がヒト由来である場合、3HBの高い分化抑制効果が発揮されることを実験的に確認している。
【0048】
〔3HBの分化抑制能の確認試験1〕
以下、ヒト白色脂肪前駆細胞を分化誘導下・被験物質(3HBNa)添加下で培養し、被験物質による分化抑制能を検証した方法及び結果について説明する。尚、図1には、本確認試験1において行ったヒト白色脂肪前駆細胞に関する培養過程及びオイルレッドO染色による測定過程を模式的に図示した。
【0049】
尚、検証のための各種試験に使用した被験物質、細胞、試薬、試験用キットは以下の通りである。
(被験物質)
・(R)-3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム(発酵プロセス由来)
(細胞)
・ヒト白色脂肪前駆細胞(皮下脂肪)(タカラバイオ株式会社製)
(試薬及び試験用キット)
・脂肪前駆細胞増殖培地キット(タカラバイオ株式会社製)
・脂肪分化誘導培地(株式会社バイオ未来工房製)
・脂肪維持培地(株式会社バイオ未来工房製)
・ホルムアルデヒド溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・2-プロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・オイルレッドO(Sigma Aldrich製)
・生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社製)
・RNeasy Micro Kit(QIAGEN製)
・ダルベッコPBS(日水製薬株式会社製)
【0050】
各種試験は、以下のように行った。
1.被験物質の調製
15gの3HBNaを精製水に溶解させ、494g/L(pH6.7)の被験物質溶液を調製した。この被験物質溶液は、所定モル濃度の3HBを含む培地となるように適宜希釈した上で、10%(v/v)となるように各培地に溶解後、ろ過滅菌(0.22μm)し、ストックとして使用した。
【0051】
2.オイルレッドO染色試験
2-1.細胞培養
脂肪前駆細胞を、増殖培地を用いて6×10cells/1mL/ウェルで、24ウェルプレートに播種し、COインキュベータ内(5%CO、37℃)で1日間培養した(70%コンフルエント)。その後、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化誘導培地に置換して3日間培養した(分化誘導処理)。しかる後、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化維持培地に交換して更に3日間培養した。
2-2.オイルレッドO染色
分化維持培地で3日間培養した細胞について、十分な脂肪滴の蓄積を確認した後、オイルレッドO染色を実施した。具体的には、以下の手順で行った。
(1)プレート各ウェルの細胞をPBSで2回洗浄する。
(2)4%PFAで10分間、室温にて固定する。
(3)PBSで2回洗浄する。
(4)固定された細胞を60%イソプロパノールに1分間置換する。
(5)オイルレッドO染色液に置換し、20分間、室温にて染色を行う。
(6)染色液を除去後、60%イソプロパノールで1回洗浄する。
(7)PBSで2回洗浄する。
(8)PBS中にて顕微鏡で染色細胞を観察、撮影する。
(9)PBSを除去後、500μLのイソプロパノールを添加し、染色しているオイルレッドを抽出する。
(10)抽出液を1.5mLチューブに移し、遠心分離により細胞片を除去した後、上清について492nmの光学濃度にて吸光度測定を行う。尚、測定した値からブランク(プレートウェルのみでオイルレッドO染色を実施した区画)値を引いた値を測定値とした。
【0052】
3.生細胞数測定試験
3-1.細胞培養
上記2-1と同手法にて細胞培養を実施した。
3-2.生細胞数の計測
培養終了後に各ウェルから培養上清を除去し、終濃度10%の生細胞数測定試薬(WST-8)を含む維持培地を1mL/ウェルで添加し、37℃にて反応させる。添加後30分及び90分後の吸光度(測定波長450nm、参照波長620nm)をプレートリーダーにて測定し、両値から60分間の吸光度の変化量を算出し、生細胞数として計測した。
【0053】
4.遺伝子発現試験
4-1.細胞培養
脂肪前駆細胞を、増殖培地を用いて3×10cells/2mL/ウェルで、6ウェルプレートに播種し、COインキュベータ内(5%CO、37℃)で1日間培養した(70%コンフルエント)。その後、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化誘導培地に置換して3日間培養した。しかる後、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化維持培地に交換して更に3日間培養した。
4-2.トータルRNAの回収
培養終了後に、19mMの3HBを含む処理区のみについて、トータルRNAを回収した。具体的には、各ウェルの培養上清を除去した後、1×PBSを0.3mM/ウェルで添加して細胞を洗浄し、PBSを除去した後に50μLのトリプシンEDTA溶液を添加して37℃で反応させた。その後、各ウェルに450μLの10%FBSを含むPBSを添加し、トリプシン反応を停止させた。しかる後、細胞剥離液を回収し、遠心力500×gで10分間、室温にて遠心分離を行い、上清を除去して沈殿した細胞を回収した。回収した細胞からのRNA抽出は以下の手順で行った。
(1)回収した細胞に350μLのRLT bufferを添加し、細胞塊を緩やかに懸濁する。
(2)細胞懸濁液を1分間、ボルテックス(攪拌)処理する。
(3)細胞懸濁液に350μLの70%エタノールを添加し、ピペットにて緩やかに懸濁する。
(4)反応液をRNeasy MinElute Spin Columnに移し、遠心力8000×gで15秒間遠心分離を行い、ろ液を破棄する。
(5)カラムに350μLのBuffer RW1を添加し、遠心力8000×gで15秒間遠心分離を行い、ろ液を破棄する。
(6)10μLのDNase I stock溶液を70μLのBuffer RDDに添加し混和する。
(7)カラムに上記(6)のDNase溶液80μLを添加して室温で15分間静置して反応させる。
(8)カラムに350μLのBuffer RW1を添加し、遠心力8000×gで15秒間遠心分離を行い、ろ液を破棄する。
(9)カラムを新たな2mL Collection Tubeに移し、500μLのBuffer RPEを添加し、遠心力8000×gで15秒間遠心分離を行い、ろ液を破棄する。
(10)カラムに500μLの80%エタノールを添加し、遠心力8000×gで15秒間遠心分離を行い、ろ液を破棄する。
(11)カラムを新たな2mL Collection Tubeに移し、遠心力12000×gで5分間遠心分離を行い、ろ液を破棄する。
(12)カラムを新たなチューブに移し、14μLのRNaseフリー水を添加し、12000×gで5分間遠心分離を行い、ろ液をRNAサンプルとした。
5-3.DNAマイクロアレイ解析
単離した各トータルRNAをクラボウ株式会社において、Affimetrix社製のGeneChip Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayにて遺伝子発現解析を実施し、遺伝子発現に差異があった遺伝子についてGO機能解析とpatyway解析を実施した。
【0054】
以下、各種試験結果について説明する。
【0055】
1.オイルレッドO染色試験の結果
表4は、分化誘導処理を行わずに培養した細胞、即ち脂肪前駆細胞(コントロール1)、3HBを含まない培地を用いて分化誘導処理を行って培養した細胞、即ち脂肪細胞(コントロール2)、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む培地を用いて分化誘導処理を行って培養した細胞に関するオイルレッドO染色試験の結果をまとめた表であり、また、図2は、コントロール1の吸光度に対する割合を縦軸としたグラフである。また、図3図7は、オイルレッドO染色試験の結果を示す顕微鏡写真であり、図3はコントロール1、図4はコントロール2、図5は3HBのモル濃度が0.76mM、図6は3HBのモル濃度が3.8mM、図7は3HBのモル濃度が19mMの場合に関するものであり、図中の赤色部分が染色された脂肪滴である。
表4から明らかなように、分化誘導処理の有無によって、吸光度に大きな差が出ており、分化誘導処理を行って培養することで培養後の細胞に脂肪が蓄積されることを確認することができ、図2図3図7とを比較しても、分化誘導処理を行って培養することで、赤色部分が増加、即ち、細胞内に脂肪が蓄積されていることが確認できる。また、分化誘導処理を行って培養した場合、培地中に含まれる3HBのモル濃度が高くなるほど吸光度が減少、即ち、脂肪の蓄積量が少なくなっていることが確認でき、特に、3HBのモル濃度が3.8mM及び19mMである場合において、濃度依存的な有意な脂肪の蓄積の抑制を確認することができた。また、図3図7を比較しても、3HBのモル濃度が高くなるほど赤色部分が減少、即ち、細胞内に蓄積された細胞が少なくなっていることが確認できる。このことから、3HBが、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制する分化抑制能を有することが分かり、特に、分化過程において3HBがモル濃度3.8mM及び19mMで存在していることで、3HBの分化抑制能が十分に発揮されることが明らかになった。
【0056】
【表4】
【0057】
2.生細胞数測定試験の結果
表5は、分化誘導処理を行わずに培養した細胞(コントロール1)、3HBを含まない培地を用いて分化誘導処理を行って培養した細胞(コントロール2)、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む培地を用いて分化誘導処理を行って培養した細胞に関する生細胞数測定試験の結果をまとめた表であり、図8は、細胞生存度を縦軸としたグラフである。
表5及び図8から明らかなように、分化誘導処理の有無、培地中の3HBの有無、培地中の3HBのモル濃度にかかわらず、生細胞数に大きな変化は見られない。このことから、オイルレッドO染色試験によって確認された脂肪の蓄積量の減少が、細胞数が減少したことによるものでないことが明らかになった。
【0058】
【表5】
【0059】
3.遺伝子発現試験の結果
表6は、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化に関する遺伝子についての遺伝子発現解析の結果をまとめた表であり、表7は、脂肪酸の合成に関する遺伝子についての遺伝子発現解析の結果をまとめた表である。
表6に示すように、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体δ(peroxisome proliferator-activated receptor delta)、リポタンパク質リパーゼ(lipoprotein lipase)、ペリリピン1(perilipin 1)、脂肪酸結合タンパク質3(fatty acid binding protein 3, muscle and heart(mammary-derived growth inhibitor))、マトリックスメタロペプチダーゼ1(間質コラゲナーゼ)(matrix metallopeptidase 1(interstitial collagenase))、ステアロイルCoAデサチュラーゼ(Δデサチュラーゼ)(stearoyl-CoA desaturase (delta-9-desaturase))の遺伝子発現が抑制されているため、脂肪前駆細胞のまま未分化の細胞があり、分化後の脂肪を蓄える脂肪細胞の数が相対的に少なくなる結果として、上記オイルレッドO染色試験において、培地中に3HBが存在する場合に脂肪の蓄積が減少したと考えられる。このことから、3HBに、脂肪前駆細胞や脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化過程にある細胞に作用して分化を抑制する作用があることが遺伝子レベルで明らかになった。
また、表7に示すように、ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ/3-ケトアシルCoAチオラーゼ/エノイルCoAヒドラターゼ(三機能タンパク質)αサブユニット(hydroxyacyl-CoA dehydrogenase/3-ketoacyl-CoA thiolase/enoyl-CoA hydratase (trifunctional protein), alpha subunit)、ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(hydroxyacyl-CoA dehydrogenase)、アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ2(acetyl-CoA acetyltransferase 2)、ELOVL脂肪酸エロンガーゼ5(ELOVL
fatty acid elongase 5)、ステアロイルCoAデサチュラーゼ(Δデサチュラーゼ)(stearoyl-CoA desaturase(delta-9-desaturase))、脂肪酸シンターゼ(fatty acid synthase)の遺伝子発現が抑制されているため、脂肪細胞中の脂肪の蓄積量が少ないと考えられる。このことから、3HBには、脂肪酸の合成自体を抑制する作用があることも明らかになった。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
〔3HBの分化抑制能の確認試験2〕
以下、ヒト白色脂肪前駆細胞を分化誘導段階から被験物質(3HBNa)を添加した場合(条件A)、及び分化維持段階の途中から被験物質(3HBNa)を添加した場合(条件B)における被験物質による分化抑制能を検証した方法及び結果について説明する。尚、図9には、確認試験2におけるオイルレッドO染色試験の流れを模式的に示した。尚、図9中において、オイルレッドO染色による測定過程は確認試験1と同様であるため、図示を省略し、条件A及び条件Bの場合についての細胞培養過程のみを図示した。
【0063】
尚、検証のための各種試験では、確認試験1と同様の被験物質、細胞、試薬、試験用キットを使用した。
【0064】
各種試験は、以下のように行った。
1.被験物質の調製
45.98%の3HBNa溶液を、所定モル濃度(0.76mM、3.8mM、19mM)の3HBを含む培地となるように適宜希釈した上で試験培地に添加し、ろ過滅菌(0.22μm)後に使用した。
【0065】
2.オイルレッドO染色試験
2-1.細胞培養
確認試験1と同様に、増殖培地上での培養、分化誘導培地上での培養及び分化維持培地上での培養を行った。
具体的に、条件Aでは、増殖培地上での培養を1日間、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化誘導培地上での培養を3日間、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化維持培地上での培養を18日間行い、分化維持培地上での培養時は、2~3日おきに培地を交換した。
また、条件Bでは、増殖培地上での培養を1日間、3HBを含まない分化誘導培地上での培養を3日間、3HBを含まない分化維持培地上での培養を11日間、0.76mM、3.8mM、19mMの3HBを含む分化維持培地上での培養を7日間行い、分化維持培地上での培養時は、2~3日おきに培地を交換した。
2-2.オイルレッドO染色試験
条件A及び条件Bで培養した細胞について、確認試験1と同様の手順でオイルレッドO染色を実施した。
【0066】
3.生細胞数測定試験
3-1.細胞培養
上記2-1と同手法により条件A及び条件Bにて細胞培養を実施した。
3-2.生細胞数の計測
確認試験1と同様の手順で行った。
【0067】
以下、各種試験結果について説明する。
【0068】
1.オイルレッドO染色試験の結果
表8は、条件Aにて3HBのモル濃度を0.76mM、3.8mM、19mMとした培地で培養した細胞、条件Bにて3HBのモル濃度を0.76mM、3.8mM、19mMとした培地で培養した細胞、3HBを添加していない培地で培養した細胞(コントロールA,B)に関するオイルレッドO染色試験の結果をまとめた表である。図10は、オイルレッドO染色試験の結果を示すグラフであり、同図において、縦軸はコントロールA又はコントロールBの吸光度に対する割合である。
表8及び図10から分かるように、分化誘導段階から培地中に3HBが存在している場合(条件A)と、分化維持段階の途中から培地中に3HBが存在している場合(条件B)とを比較すると、条件Aの方が若干吸光度の減少割合が大きくなっているが、両者の間に顕著な差は見られず、いずれの条件でも、培地中に含まれる3HBのモル濃度が高くなるほど吸光度が減少、即ち、脂肪の蓄積量が少なくなっている。特に、条件Aについては3HBのモル濃度が3.8mM、19mMの場合に有意な脂肪蓄積の抑制を確認でき、条件Bについては3HBのモル濃度が19mMの場合に有意な脂肪蓄積の抑制を確認できた。尚、条件Bについては、3HBを含まない培地で細胞を培養している間に脂肪の蓄積量が経時的に増加していくことを確認している。以上のことから、3HBは、脂肪前駆細胞から脂肪細胞へと既に変化している細胞に対しても作用することが分かり、脂肪細胞での脂肪滴の蓄積を抑制するという分化抑制能を3HBが有することが明らかとなった。
【0069】
【表8】
【0070】
2.生細胞数測定試験の結果
表9は、条件Aにて3HBのモル濃度を0.76mM、3.8mM、19mMとした培地で培養した細胞、条件Bにて3HBのモル濃度を0.76mM、3.8mM、19mMとした培地で培養した細胞、上記コントロールA,Bに関する生細胞数測定試験の結果をまとめた表である。また、図11は、生細胞数測定試験の結果を示すグラフであり、同図において、縦軸は細胞生存度である。
表9及び図11から明らかなように、条件A及び条件Bのいずれの条件であっても、培地中の3HBのモル濃度にかかわらず、生細胞数に大きな変化は見られない。したがって、上記条件A及び条件Bのいずれの条件においても確認できた脂肪の蓄積量の減少は、細胞数が減少したことによるものでないことが明らかとなった。
【0071】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0072】
体内での脂肪の蓄積の抑制を可能にする脂肪細胞分化抑制剤及びこれを用いた化粧料、並びに脂肪細胞分化抑制方法に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11