IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田淵電機株式会社の特許一覧

特許7275003NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム
<>
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図1
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図2
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図3
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図4
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図5
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図6
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図7
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図8
  • 特許-NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】NPCインバータの制御方法、および、電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20230510BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20230510BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/48 E
H02M7/48 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019197466
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021072698
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アリプル ジャベル
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸浩
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-255317(JP,A)
【文献】特開2017-118643(JP,A)
【文献】特開2016-082786(JP,A)
【文献】特開2018-057157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/483
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの接続点を中性点とする正極側キャパシタおよび負極側キャパシタと、これに並列に接続されるスイッチング素子群とを備えるNPC(Neutral Point Clamped)インバータの制御方法であって、
前記NPCインバータと系統または負荷との連系の前に、DCリンクバランス動作を実行するものであり、
前記DCリンクバランス動作において、
系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数である、フィードフォワード率の上限を1より小さく設定して、電圧指令値を設定し、
前記正極側キャパシタの電圧と前記負極側キャパシタの電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧を設定し、
前記電圧指令値に前記付加電圧を加えた電圧に従って、前記スイッチング素子群に供給するゲート信号を生成する
ことを特徴とするNPCインバータの制御方法。
【請求項2】
請求項1記載のNPCインバータの制御方法において、
前記DCリンクバランス動作において、前記フィードフォワード率を、前記上限まで徐々に上げていき、
前記DCリンクバランス動作の実行後に、前記NPCインバータと系統または負荷との連系動作を行い、前記フィードフォワード率を前記上限から徐々に上げていく
ことを特徴とするNPCインバータの制御方法。
【請求項3】
請求項1記載のNPCインバータの制御方法において、
前記NPCインバータと系統または負荷との連系の後に、前記フィードフォワード率を1またはそれに近い値にして、前記正極側キャパシタの電圧と前記負極側キャパシタの電圧との電圧ずれを求め、
現在の実行サイクルにおける前記電圧ずれを、過去の実行サイクルにおける電圧ずれと比較し、この比較結果に従って、DCリンクバランス制御における付加電圧の正負の極性を定める
ことを特徴とするNPCインバータの制御方法。
【請求項4】
互いの接続点を中性点とする正極側キャパシタおよび負極側キャパシタと、これに並列に接続されるスイッチング素子群とを備えるNPC(Neutral Point Clamped)インバータと、
前記スイッチング素子群に供給するゲート信号を生成する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記NPCインバータと系統または負荷との連系の前に、DCリンクバランス動作を実行するものであり、
前記DCリンクバランス動作において、
系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数である、フィードフォワード率の上限を1より小さく設定して、電圧指令値を設定し、
前記正極側キャパシタの電圧と前記負極側キャパシタの電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧を設定し、
前記電圧指令値に前記付加電圧を加えた電圧に従って、前記スイッチング素子群に供給するゲート信号を生成する
ことを特徴とする電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NPC(Neutral Point Clamped)インバータについて、DC(Direct Current)リンク電圧のバランスをとるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、3レベルインバータを用いた電力変換装置において、中性点電位変動抑制制御と通流バランス制御との相互干渉を防止して、中性点電位の変動を抑制しつつ、通流バランスを確保する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-57157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
NPCインバータのDCリンクは、上側と下側に分けられる。通常動作では、上側と下側の平均電圧は同一であり、DCリンク電圧の半分と等しくなければならない。実際には、回路パラメータのばらつき、不安定動作や不具合によって、DCリンクの上側と下側の電圧に乖離が生じ、これはシステム全体の異常につながる。この現象は、インバータの動作中に起こりうるし、DCリンク電圧が供給されているがインバータは動作していないストップモードでも起こりうる。
【0005】
DCリンク電圧の乖離があるレベルを超えると、コンデンサへの過電圧を避けるため、通常は、システム全体はトリップし、エラーモードに入り、DCリンク電圧を下げるなどの処理を行う。さらに、ハードウェアの視点から見て、DCリンクの各サイドに接続された回路要素のばらつきに起因して、DCリンクの両側電圧はバランスがとれていない。したがって、NPCインバータが、DCソースに接続されているが停止状態にあって起動コマンドを待っているとき、DCリンクの両側の電圧は大きく乖離する可能性がある。この条件では、DCリンク電圧を均等化して、通常動作に向けて準備する方法が必要になる。
【0006】
NPCインバータに関して、従来から、DC電圧を均等化し、部分的なDC電圧のドリフトを防止する方法がいくつか提案されてきた。この方法は大きく2つに分けられる。第1は、DC電圧を均等化するための専用の外部回路を利用する方法(ハードウェアによる方法)であり、第2は、インバータのスイッチング制御を改良する方法(ソフトウェアによる方法)である。第1の方法は、コストの増加や、電力の損失、サイズの増大、故障率の増加の問題をはらむ。第2の方法は、制御方法に基づくものであり、第1の方法での問題は解決できるが、制御方法を誤ると、DCリンクの両側電圧のバランスを悪化させることになる。
【0007】
ただし、インバータのスイッチング制御を改良する方法では、インバータが動作状態にあり、DCリンクとインバータ端子との間の電流の流れが安定していることが必要である。加えて、電力伝送の方向が、その制御ループに含まれていなければならない。電力伝送がほぼゼロに近いとき、DCリンクバランス制御は、相当の時間がかかってしまい、また、電力伝送の方向が不定なために実行不能になるおそれもある。また、主回路ブレーカが接続されておらず電力が伝送されていない起動時には、DCリンクバランス制御は、失敗するか、あるいは相当長い時間を要するおそれがある。
【0008】
本発明では、NPCインバータについて、DCリンク電圧を速やかにバランスさせる新たな方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様は、互いの接続点を中性点とする正極側キャパシタおよび負極側キャパシタと、これに並列に接続されるスイッチング素子群とを備えるNPC(Neutral Point Clamped)インバータの制御方法であって、前記NPCインバータと系統または負荷との連系の前に、DCリンクバランス動作を実行するものであり、前記DCリンクバランス動作において、系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数である、フィードフォワード率の上限を1より小さく設定して、電圧指令値を設定し、前記正極側キャパシタの電圧と前記負極側キャパシタの電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧を設定し、前記電圧指令値に前記付加電圧を加えた電圧に従って、前記スイッチング素子群に供給するゲート信号を生成する。
【0010】
この構成によると、NPCインバータと系統または負荷との連系の前に、DCリンクバランス動作が行われる。このDCリンクバランス動作において、系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数である、フィードフォワード率の上限を1より小さく設定して、電圧指令値が設定される。そして、正極側キャパシタの電圧と負極側キャパシタの電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧が設定され、電圧指令値に付加電圧を加えた電圧に従って、スイッチング素子群に供給するゲート信号が生成される。フィードフォワード率の上限を1より小さく設定することによって、PWMデューティがオーバーモジュレーションにならない状態で、DCリンクバランス制御のための付加電圧をより大きな値に設定できるので、DCリンク電圧のアンバランスがいかなるレベルであっても、短時間でこれを解消することができる。したがって、DCリンク電圧のバランスを速やかにとることができ、通常動作を開始する前に、バランスがとれた状態を確実に準備することができる。
【0011】
また、本態様のNPCインバータの制御方法は、前記DCリンクバランス動作において、前記フィードフォワード率を、前記上限まで徐々に上げていき、前記DCリンクバランス動作の実行後に、前記NPCインバータと系統または負荷との連系動作を行い、前記フィードフォワード率を前記上限から徐々に上げていく、としてもよい。
【0012】
これにより、NPCインバータを、DCリンクバランス動作から通常動作に、スムーズに移行させることができる。
【0013】
また、本態様のNPCインバータの制御方法は、前記NPCインバータと系統または負荷との連系の後に、前記フィードフォワード率を1またはそれに近い値にして、前記正極側キャパシタの電圧と前記負極側キャパシタの電圧との電圧ずれを求め、現在の実行サイクルにおける前記電圧ずれを、過去の実行サイクルにおける電圧ずれと比較し、この比較結果に従って、DCリンクバランス制御における付加電圧の正負の極性を定める、としてもよい。
【0014】
これにより、正極側キャパシタの電圧と負極側キャパシタの電圧との電圧ずれが、過去のサイクルと比較され、この比較結果に従って、DCリンクバランス制御における付加電圧の正負の極性が定められる。これにより、例えば負荷が極めて小さい場合であっても、DCリンク電圧のバランスを適切にとることができる。
【0015】
本発明の第2態様は、電力変換システムであって、互いの接続点を中性点とする正極側キャパシタおよび負極側キャパシタと、これに並列に接続されるスイッチング素子群とを備えるNPC(Neutral Point Clamped)インバータと、前記スイッチング素子群に供給するゲート信号を生成する制御部とを備え、前記制御部は、前記NPCインバータと系統または負荷との連系の前に、DCリンクバランス動作を実行するものであり、前記DCリンクバランス動作において、系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数である、フィードフォワード率の上限を1より小さく設定して、電圧指令値を設定し、前記正極側キャパシタの電圧と前記負極側キャパシタの電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧を設定し、前記電圧指令値に前記付加電圧を加えた電圧に従って、前記スイッチング素子群に供給するゲート信号を生成する。
【0016】
この構成によると、制御部は、NPCインバータと系統または負荷との連系の前に、DCリンクバランス動作を行う。このDCリンクバランス動作において、系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数である、フィードフォワード率の上限を1より小さく設定して、電圧指令値が設定される。そして、正極側キャパシタの電圧と負極側キャパシタの電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧が設定され、電圧指令値に付加電圧を加えた電圧に従って、スイッチング素子群に供給するゲート信号が生成される。フィードフォワード率の上限を1より小さく設定することによって、PWMデューティがオーバーモジュレーションにならない状態で、DCリンクバランス制御のための付加電圧を、より大きな値に設定することができるので、DCリンク電圧のアンバランスがいかなるレベルであっても、短時間でこれを解消することができる。したがって、DCリンク電圧のバランスを速やかにとることができ、通常動作を開始する前に、バランスがとれた状態を確実に準備することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、NPCインバータについて、DCリンク電圧を速やかにバランスさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る3レベルNPCインバータを含む電力変換システムの構成例
図2】実施形態における制御部の機能構成例
図3】通常動作におけるDCリンクバランス動作を示す図
図4】通常動作におけるDCリンクバランス動作を示す図
図5】実施形態に係るDCリンクバランス動作における、フィードフォワード率およびDCリンク電圧の変化を示すグラフ
図6】実施形態におけるDCリンクバランス動作を示す図
図7】系統または負荷との連系前後における電圧変化を示すグラフであり、(a)は本実施形態を適用した場合、(b)は従来の場合
図8】変形例に係る制御装置の機能構成例
図9】変形例に係る制御フローの例
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用範囲あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
<システム構成例>
図1は実施形態に係る3レベルNPC(Neutral Point Clamped)インバータを含む電力変換システムの構成例を示す図である。図1の電力変換システムでは、DCソース1から出力された直流電力は、NPCインバータ3によって交流電力に変換され、系統または負荷2に出力される。
【0021】
NPCインバータ3は、正極側キャパシタ11、負極側キャパシタ12、および、直列接続されたスイッチング素子21~24を含むスイッチング素子群を備える。正極側キャパシタ11と負極側キャパシタ12との接続点がNPCインバータ3の中性点となる。スイッチング素子21~24は、正極側キャパシタ11および負極側キャパシタ12に並列に接続されている。図1では図示していない制御部から、スイッチング素子21~24のオン/オフを制御するゲート信号S1~S4が供給される。DCソース1の出力を受けるDCリンクの電圧VDCは、図面における上側と下側に分割される(VDC-1,VDC-2)。正極側キャパシタ11の電圧がVDC-1、負極側キャパシタ12の電圧がVDC-2となる。NPCインバータ3のAC出力側に、ローパスフィルタ15が設けられている。ブレーカ17は、NPCインバータ3と系統または負荷2との接続/非接続を切り替える。また、インバータ電流iinv、インバータ電圧vinverter、系統電圧vgrid等が図示していないセンサによって検出され、制御部に供給される。
【0022】
<制御部の機能構成>
図2は制御部の機能構成例を示す図である。制御部は、系統電圧vgridや系統電流igrid等に基づいて電圧指令値VDCを求め、この電圧指令値VDCに従って、スイッチング素子21~24のゲート信号となるPWM信号を生成する。図2に示すように、制御部は、フィードフォワード補償ブロック30と、DCリンクバランス制御ブロック40とを備える。本実施形態では、NPCインバータ3と系統または負荷2との連系の前に、フィードフォワード補償ブロック30およびDCリンクバランス制御ブロック40を用いて、DCリンクバランス動作を実行する。DCリンクバランス動作では、正極側キャパシタ11の電圧VDC-1と負極側キャパシタ12の電圧VDC-2との乖離を解消し、バランスをとる。
【0023】
図3および図4は通常動作におけるDCリンクバランス動作を示す図である。通常動作において、制御部は、プラス側で変化する三角波およびマイナス側で変化する三角波である2つの搬送波と、電圧指令値とを比較し、この比較結果の大小関係に基づいて、スイッチング素子をオン/オフするためのゲート信号S1~S4を生成する。図3(a)および図4(a)において、太破線のサインカーブはレベルシフト前の元の電圧指令値を示し、太実線のサインカーブはDCリンクバランスのためにレベルシフトした電圧指令値を示す。
【0024】
図3(a)に示す、電圧指令値が正である半周期においては、制御部は、S2はON、S4はOFFとし、S1にPWM信号を与え、S3に反転PWM信号を与える。この場合、図3(b),(c)に太線で示すように電流が流れる。すなわち、正極側キャパシタ11から放電がなされる。一方、図4(a)に示す、電圧指令値が負である半周期においては、制御部は、S1はOFF、S3はONとし、S4にPWM信号を与え、S2に反転PWM信号を与える。この場合、図4(b),(c)に太線で示すように電流が流れる。すなわち、負極側キャパシタ12から放電がなされる。
【0025】
ここで、DCリンクバランスのために、電圧vDC-Balを電圧指令値に付加する。図3および図4の例では、正の電圧vDC-Balが電圧指令値に付加されている。これにより、正極側キャパシタ11の放電量を増やすことができる。
【0026】
図5は本実施形態のDCリンクバランス動作における、フィードフォワード率およびDCリンク電圧の変化を示すグラフである。ここで、「フィードフォワード率」とは、系統電圧のフィードフォワードの比例制御係数、または、内部生成した定格電圧の正弦波の比例制御係数のことをいう。図5に示すように、本実施形態では、系統または負荷2との連系の前に実行するDCリンクバランス動作において、フィードフォワード率の上限をα(αは1より小さい)に設定する。αは、例えば0.2、あるいは、0.5である。そして、αを上限としてフィードフォワード率を徐々に上げていく。そして、DCリンクバランス動作により、正極側キャパシタ11の電圧VDC-1と負極側キャパシタ12の電圧VDC-2との乖離が解消され、DCリンクのバランスが取れた後、NPCインバータ3と系統または負荷2との連系動作を行い、フィーフォワード率を徐々に上げていく。系統または負荷2との連系の前に、フィードフォワード率の上限をαに制限することによって、DCリンクのバランスが速やかに取れる。
【0027】
図6は本実施形態におけるDCリンクバランス動作を示す図である。本実施形態では、フィードフォワード率に上限α(<1)をおくことによって、レベルシフト前の電圧指令値の振幅が小さくなる。このため、DCリンクバランスのために付加する電圧vDC-Balを、より大きな値に設定することができる。図6の例では、フィードフォワード率の上限αが0.5程度に設定されているため、DCリンクバランスのために大きな電圧vDC-Balを付加することができる。これによって、周期全体において、正極側キャパシタ11から放電させることができるので、DCリンクのバランスを速やかに取ることができる。
【0028】
図7は系統または負荷2との連系前後における、DCリンク電圧およびインバータ電圧の変化を示すグラフであり、(a)は本実施形態を適用した場合、(b)は従来の場合である。図7(a)では、系統または負荷2との連系前のフィードフォワード率の上限αを0.2(20%)としている。図7(a)を図7(b)と対比すると分かるように、本実施形態を適用することによって、DCリンク電圧VDC-1,VDC-2の乖離が速やかに解消されている。すなわち、本実施形態に係るDCリンクバランス動作を実行することによって、短時間で、DCリンク電圧のバランスをとることができる。
【0029】
以上のように本実施形態によると、NPCインバータ3と系統または負荷2との連系の前に、DCリンクバランス動作が行われる。このDCリンクバランス動作において、系統または負荷電圧のフィードフォワード率の上限αを1より小さく設定して、電圧指令値が設定される。そして、正極側キャパシタ11の電圧と負極側キャパシタ12の電圧との差に基づいて、DCリンクバランス制御のための付加電圧vDC-Balが設定され、電圧指令値に付加電圧vDC-Balを加えた電圧に従って、スイッチング素子群21~24に供給するゲート信号S1~S4が生成される。これにより、DCリンクバランス制御のための付加電圧vDC-Balを、より大きな値に設定することができるので、短時間で、DCリンク電圧のバランスをとることができる。
【0030】
また、DCリンクバランス動作において、フィードフォワード率を上限αまで徐々に上げていき、DCリンクバランス動作の実行後に、NPCインバータ3と系統または負荷2との連系動作を行い、フィードフォワード率を上限αから徐々に上げていく。これにより、NPCインバータ3を、DCリンクバランス動作から通常動作にスムーズに移行させることができる。
【0031】
<変形例…連系後のバランス制御>
上述の実施形態では、系統または負荷2との連系の前に、DCリンク電圧のバランスを速やかにとることができた。さらに、系統または負荷2と連携した状態でも、バランス制御ブロック40を用いて、フィードフォワード率を1またはそれに近い値にして付加電圧を調整することによって、バランス制御を行うことが可能である。ただし、図2のバランス制御ブロック40に示すように、バランス制御の方向、すなわち、バランス制御における付加電圧の正負の極性は、DCリンクとACフィルタとの間を流れる電力Poutの正負(Sign(Pout))によって決められていた。この場合、例えば負荷2が非常に小さく、無視できるほどの小さな電力が伝送されている場合には、その電力の正負を判定することは困難である。このため、バランス制御の方向を誤ってしまい、DCリンクのバランスを適切にとれない可能性がある。
【0032】
この問題を解決するために、本変形例では、電力の正負を用いないで、新たなアルゴリズムを用いて、DCバランス制御における付加電圧の正負の極性を定める。本変形例に係る方法は、例えば、NPCインバータ3と系統または負荷2との連系の後に、フィードフォワード率を1またはそれに近い値にして、実行される。
【0033】
図8は変形例に係る制御装置の機能構成例を示す図である。図8の機能構成は、図2のDCリンクバランス制御ブロック40とは異なる構成のDCリンクバランス制御ブロック40Aを備えている。図9は変形例に係るアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。このアルゴリズムは、最初のDCリンクバランス動作によってDCリンク電圧が適切に収束した後に、実行される。
【0034】
図9のアルゴリズムでは、正極側キャパシタ11の電圧VDC-1と負極側キャパシタ12の電圧VDC-2との差の絶対値を、電圧ずれ("Voltage Mismatch")として定義している。そして、各実行サイクルにおける電圧ずれを過去のサイクルにおける電圧ずれと比較し、その比較結果によって、バランス制御方向を反転させたり維持したりする。すなわち、現在の電圧ずれが過去の電圧ずれに所定値(Delta_V)を加えた値よりも大きい場合は(ステップS11でYES)、バランス制御方向を反転させる(ステップS12)。そして電圧ずれの値を更新する(S13)。一方、現在の電圧ずれが過去の電圧ずれよりも小さい場合は(ステップS14でYES)、現在のバランス制御方向を維持する(ステップS15)。そして電圧ずれの値を更新する(S16)。
【0035】
この変形例によると、電力の正負を用いないで、正極側キャパシタ11の電圧VDC-1と負極側キャパシタ12の電圧VDC-2との電圧ずれを過去のサイクルと比較することによって、バランス制御における付加電圧の正負の極性を定める。これにより、例えば負荷が極めて小さい場合であっても、DCリンク電圧のバランスを適切にとることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、NPCインバータを備えた電力変換システムを安定動作させるのに極めて有用である。
【符号の説明】
【0037】
2 系統または負荷
3 NPCインバータ
11 正極側キャパシタ
12 負極側キャパシタ
21~24 スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9