(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20230510BHJP
B60T 8/88 20060101ALI20230510BHJP
B60T 11/04 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/88
B60T11/04
(21)【出願番号】P 2020003702
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 知彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 絢子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕紀
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088048(JP,A)
【文献】特開2017-088055(JP,A)
【文献】特開2017-088049(JP,A)
【文献】特開昭61-108038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/18
B60T 8/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪(91)と一体に回転する制動部材(15)と、
前記制動部材と当接可能に設けられる摩擦部材(23)と、
前記摩擦部材を前記制動部材に押圧可能に設けられる押圧部材(22)と、
前記押圧部材を駆動する駆動力を発生する第1アクチュエータ(40)と、
前記第1アクチュエータとは別途に設けられ、
操作量入力部材(11)と連結されるワイヤ(46)を有し、前記操作量入力部
材の操作により機械的に前記押圧部材を駆動する駆動力を発生する第2アクチュエータ(45)と、
前記押圧部材を駆動するアクチュエータを切り替える伝達状態切替部(51~56)と、
を備え、
前記伝達状態切替部は、
前記ワイヤが巻きかけられる可動プーリ(62)、および、前記第2アクチュエータにて前記押圧部材を駆動するとき、前記操作量入力部材の操作量に応じた
前記ワイヤの変位量
が前記押圧部材側に伝達
されるように前記可動プーリの位置を固定可能である制動力変位変換部(63~65)を有
し、
前記第1アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、前記操作量入力部材の操作により前記可動プーリの位置が可変し、
前記第2アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、アクチュエータ切替時の前記操作量入力部材の操作状態によらない所定位置で前記可動プーリが前記制動力変位変換部にて固定されることで、前記操作量入力部材の操作状態に応じた制動力を発生可能である制動装置。
【請求項2】
前記伝達状態切替部は、通電状態に応じ、
前記可動プーリの位置が可変である状態と前記所定位置にて固定されている状態とを切り替えるように前記制動力変位変換部
を駆動する切替アクチュエータ(69)を有する請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記伝達状態切替部は、
前記可動プーリの位置を前記所定位置にて固定した状態にて前記制動力変位変換部を保持する伝達状態保持機構(71、72)を有する請求項2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記伝達状態切替部は、
前記操作量入力部材の操作状態に応じて前記可動プーリが移動可能な状態にて前記制動力変位変換部を保持する非伝達状態保持機構(76~79)を有する請求項2または3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記可動プーリは、プーリ支持部材(61)に支持され、
前記制動力変位変換部(63)は、
前記第1アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、前記プーリ支持部材と離間し、
前記第2アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、前記プーリ支持部材と当接することで、前記可動プーリ
を前記所定位置にて固定する請求項
1~4のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項6】
前記制動力変位変換部(64)には、前記可動プーリのプーリ軸(621)が挿通され、一部に前記プーリ軸を係合可能な係合部(643)が設けられるガイド穴(641)が形成されており、
前記第1アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、前記プーリ軸は前記ガイド穴内を移動可能であり、
前記第2アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、前記プーリ軸が前記係合部に係合されることで、前記可動プーリ
を前記所定位置にて固定する請求項
1~4のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項7】
前記制動力変位変換部(65)は、前記可動プーリのプーリ軸(621)を支持する揺動可能なレバー(651)を有し、
前記第1アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、レバー軸(654)と前記プーリ軸とを離間させることで、前記可動プーリを揺動可能とし、
前記第2アクチュエータにより前記押圧部材を駆動するとき、前記第1アクチュエータでの駆動時よりも前記レバー軸と前記プーリ軸とを近接さ
せ前記可動プーリの揺動を制限する
ことで前記可動プーリを前記所定位置にて固定する請求項
1~4のいずれか一項に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキペダルの踏込操作に基づいて電動アクチュエータが動作することにより制動力を発生させる電動ブレーキ装置が知られている。例えば特許文献1では、電源失陥時、電磁クラッチが接続され、ブレーキペダルと巻き取りプーリとの接続がなされ、ブレーキペダルの踏込操作で失陥時用ケーブルに生じた引張力の押圧機構への伝達が有効となることで、電源失陥時における制動機能を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ブレーキペダルの踏込途中で電源が失陥した場合、ブレーキペダルの踏込途中の位置でクラッチが接続されるため、さらにブレーキペダルを踏み込んだとき、十分な制動力が得られない虞がある。本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、制動力を適切に発生可能な制動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の制動装置は、制動部材(15)と、摩擦部材(23)と、押圧部材(22)と、第1アクチュエータ(40)と、第2アクチュエータ(45)と、伝達状態切替部(51~56)と、を備える。制動部材は、車輪(91)と一体に回転する。摩擦部材は、制動部材と当接可能に設けられる。押圧部材は、摩擦部材を制動部材に押圧可能に設けられる。第1アクチュエータは、押圧部材を駆動する駆動力を発生する。第2アクチュエータは、第1アクチュエータとは別途に設けられ、操作量入力部材(11)と連結されるワイヤ(46)を有し、操作量入力部材の操作により機械的に押圧部材を駆動する駆動力を発生する。
【0006】
伝達状態切替部は、押圧部材を駆動するアクチュエータを切り替える。伝達状態切替部は、ワイヤが巻きかけられる可動プーリ(62)、および、制動力変位変換部(63~65)を有する。制動力変位変換部は、第2アクチュエータにて押圧部材を駆動するとき、操作量入力部材の操作量に応じた変位量が押圧部材側に伝達されるように可動プーリの位置を固定可能である。第1アクチュエータにより押圧部材を駆動するとき、操作量入力部材の操作により可動プーリの位置が可変する。第2アクチュエータにより押圧部材を駆動するとき、アクチュエータ切替時の操作量入力部材の操作状態によらない所定位置で可動プーリが制動力変換部にて固定されることで、操作量入力部材の操作状態に応じた制動力を発生可能である。これにより、操作量入力部材の操作量に応じた制動力を適切に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による制動装置を示す模式図ある。
【
図2】第1実施形態による制動力発生部を示す模式的な断面図である。
【
図3】第1実施形態による伝達状態切替部を説明する模式図である。
【
図4】第2実施形態による伝達状態切替部を説明する模式図である。
【
図5】第3実施形態による伝達状態切替部を説明する模式図である。
【
図6】第4実施形態による伝達状態切替部を説明する模式図である。
【
図7】第5実施形態による伝達状態切替部を説明する模式図である。
【
図8】第6実施形態による伝達状態切替部を説明する模式図である。
【
図9】伝達状態切替部が設けられていない参考例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、本発明による制動装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。第1実施形態による制動を
図1~
図3に示す。
【0009】
図1に示すように、制動装置1は、車両90に搭載され、ブレーキペダル11と、ブレーキディスク15と、制動力発生部20と、第1アクチュエータとしてのモータ40と、第2アクチュエータ45と、伝達状態切替部51と、を備える。ブレーキペダル11は、運転者によって操作される。ブレーキペダル11の踏込量は、ストロークセンサ12に検出される。ストロークセンサ12の検出値は、ECU42に出力される。ブレーキディスク15は、車軸92に設けられ、車輪91と一体に回転する。
【0010】
図2に示すように、制動力発生部20は、ボディ21、ピストン22、ブレーキパッド23、および、回転直動変換機構30等を有する。ピストン22はボディ21に設けられるシリンダ25内を摺動可能に設けられる。一対のブレーキパッド23は、ブレーキディスク15を挟んで両側に設けられる。一方のパッド231はピストン22に対向して設けられ、他方のパッド232はボディ21に設けられる。パッド231がピストン22に押圧され、ブレーキディスク15を挟持することで、制動力が発生する。
【0011】
回転直動変換機構30は、回転部材31および直動部材32等を有するねじ機構である。回転部材31は、第1軸部311、第2軸部312、フランジ部313、および、噛み合い機構315等を有する。第1軸部311は、ボディ21に回転可能に支持され、モータ40により回転駆動される。第2軸部312の外周には、雄ねじが形成される。フランジ部313は、第1軸部311と第2軸部312との間に設けられる。噛み合い機構315は、第1軸部311の径方向外側であって、フランジ部313側に設けられる。噛み合い機構315は、ワイヤ46により引っ張られることで噛み合うと、ワイヤ46の引張力により回転部材31を回転駆動する。また、噛み合い機構315はくさび機構であって、ワイヤ46で引っ張ったときに一方のくさびがくさび面に沿って軸方向に移動することで、ピストン22を軸方向に押圧するように構成してもよい。ワイヤ46は、シリンダ25に形成される挿通孔251に挿通されて、噛み合い機構315と連結される。
【0012】
直動部材32は、略円筒状に形成され、ピストン22の内部に軸方向に移動可能に収容される。直動部材32の内周には、雌ねじが形成され、第2軸部312の雄ねじと噛み合う。回転部材31が第1方向に回転すると、直動部材32がピストン22の底部側に繰り出されることで、ピストン22がブレーキパッド23を押圧し、ブレーキパッド23によりブレーキディスク15が挟持される。また、回転部材31が第2方向に回転すると、直動部材32がピストン22の底部側から離間する方向に移動することで、ピストン22によるブレーキパッド23の押圧が解除され、ブレーキパッド23とブレーキディスク15とが離間する。なお、モータ40と第1軸部311との間には、減速機等を設けてもよい。同様に、ワイヤ46と第1軸部311との間にも減速機等を設けてもよい。
【0013】
モータ40は、ブレーキペダル11の踏込量に応じて駆動される。
図1に示すように、ECU42は、ブレーキペダル11の踏込量を検出するストロークセンサ12の検出値等に基づき、モータ40の駆動を制御する制御信号を生成し、図示しないモータドライバに出力する。本実施形態では、モータ40が第1アクチュエータに対応しており、図中、第1アクチュエータに符号「40」を付す。
【0014】
図3に示すように、ワイヤ46は、一端がブレーキペダル11の踏み込みにより引っ張り可能に接続され、他端が噛み合い機構315(
図2参照)に接続される。ワイヤ46の張力により噛み合い機構315が回転すると、ピストン22が駆動される。本実施形態では、噛み合い機構315およびワイヤ46が、第2アクチュエータ45に含まれる。便宜上、図中、第2アクチュエータ45をワイヤ46上のブロックにて記載した。ワイヤ46は、固定プーリ48に巻きかけられる。固定プーリ48は、各部材の配置等に応じ、任意に設けられる。
【0015】
ここで
図9に示す参考例のように、伝達状態切替部が設けられていない場合、固定プーリ48はプーリ軸が固定されており、噛み合い機構315とブレーキペダル11とが直結される。
【0016】
そこで本実施形態では、モータ40にてピストン22を駆動するとき、ワイヤ46の引張力が制動力発生部20側に伝達されないように、制動装置1に伝達状態切替部51を設けている。
図3に示すように、伝達状態切替部51は、プーリ支持部材61、可動プーリ62、制動力変位変換部63、電磁石69、および、ラッチ機構71を有する。プーリ支持部材61は、図示しない筐体に鉛直方向に移動可能に保持される。可動プーリ62は、鉛直方向上側からワイヤ46が巻きかけられ、鉛直方向上側からプーリ支持部材61に支持される。
【0017】
制動力変位変換部63は、基部631、および、押付部632を有し、磁性体により形成される。基部631は、例えば平板状に形成される。押付部632は、基部631から鉛直方向下側に突出して形成され、先端面にてプーリ支持部材61を鉛直方向下側に押付可能に設けられる。
【0018】
電磁石69は、制動力変位変換部63の鉛直方向上側にて、基部631と対向して設けられる。電磁石69に磁力が発生しているとき、制動力変位変換部63は、電磁石69側に引き付けられ、制動力変位変換部63とプーリ支持部材61とが離間する。また、電磁石69に磁力が発生していないとき、制動力変位変換部63は、電磁石69との間に設けられるばね695の付勢力および重力により、電磁石69から離間する方向に移動し、プーリ支持部材61と当接する。
【0019】
ラッチ機構71は、電力が供給されているとき、筐体内部に収容され、電力が供給されていないとき、ばね力等により筐体から突出する突出部711を有する。電力供給が途絶え、制動力変位変換部63とプーリ支持部材61とが当接しているとき、突出部711が基部631の電磁石69側に突出することで、制動力変位変換部63の電磁石69側への移動を規制する。一方、電力が供給されているとき、突出部711が筐体内部に収容されるので、ラッチ機構71は制動力変位変換部63の移動を規制しない。以下適宜、ラッチ機構が制動力変位変換部の動きを制限している状態を「ラッチオン」、ラッチ機構が制動力変位変換部の動きを制限しない状態を「ラッチオフ」とする。
【0020】
ここで、制動力の発生について説明する。
図3(a)に示すように、制動装置1に電力が供給されている通常時において、ブレーキペダル11の操作量に応じてモータ40を制御することで、制動力を発生させる。このとき、制動力変位変換部63は電磁石69側に吸引されており、プーリ支持部材61を押し付けておらず、プーリ支持部材61は上下移動可能な状態となっている。また、ブレーキペダル11の踏み込み状態に応じ、プーリ支持部材61とともに可動プーリ62が上下に移動することで、踏力は制動力発生部20側へ伝達されない。
【0021】
図3(b)に示すように、制動装置1への電力供給が途絶えると、モータ40による制動力を発生させることができない。また、電磁石69にも磁力が発生しなくなるので、制動力変位変換部63は、電磁石69から離間してプーリ支持部材61と当接した状態にて、ラッチ機構71にて位置が固定され、可動プーリ62が位置決めされる。これにより、ブレーキペダル11の踏み込み操作により生じるワイヤ46の引張力にて噛み合い機構315が回転部材31を回転させることで、ピストン22が駆動され、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じた制動力が発生する。
【0022】
ここで、例えば特許文献1のように、アクチュエータの切り替えに電動クラッチを用いると、ブレーキ踏み込み途中で電源失陥した場合、踏み込み途中の位置にてクラッチが接続されるため、さらにブレーキペダルを踏んでも十分な制動力が得られない虞がある。一方、本実施形態では、伝達状態切替部51を設けることで、可動プーリ62を所定の位置にて固定することで、ブレーキペダル11の踏み込み途中にて、アクチュエータが第2アクチュエータ45に切り替わった場合であっても、踏み込み量に応じた制動力を与えることができる。また、モータ40にて制動力を発生させる場合と比較し、少ないペダル操作にてブレーキディスク15とブレーキパッド23との間に摩擦が生じるように、ラッチ位置を設定することで、電源失陥時に制動力が発生するまでの時間を短縮することができる。
【0023】
図3(c)に示すように、制動装置1への電力供給が復帰すると、ラッチオフとなり、復帰後、最初のペダル踏み込みおよび電磁石69の磁力で制動力変位変換部63を押し上げて固定される。これにより、可動プーリ62の上下移動が可能となるので、踏力が制動力発生部20側へ伝達されない状態に戻る。なお、
図3等では、煩雑になることを避けるため、符号を一部省略した。
【0024】
以上説明したように、本実施形態の制動装置1は、ブレーキディスク15と、ブレーキパッド23と、ピストン22と、第1アクチュエータであるモータ40と、第2アクチュエータ45と、伝達状態切替部51と、を備える。ブレーキディスク15は、車輪91と一体に回転する。ブレーキパッド23は、ブレーキディスク15と当接可能に設けられる。ピストン22は、ブレーキパッド23をブレーキディスク15に押圧可能に設けられる。モータ40は、ピストン22を駆動する駆動力を発生する。第2アクチュエータ45は、モータ40とは別途に設けられ、ブレーキペダル11の操作により機械的にピストン22を駆動する駆動力を発生する。
【0025】
伝達状態切替部51は、ピストン22を駆動するアクチュエータを切り替える。伝達状態切替部51は、第2アクチュエータ25にてピストン22を駆動するとき、ブレーキペダル11の操作量に応じた変位量をピストン22側に伝達する制動力変位変換部63を有する。
【0026】
これにより、例えば電源失陥等によりモータ40での駆動ができなくなった場合、アクチュエータを第2アクチュエータ45に切り替えることで、制動力を発生させることができる。また、制動力変位変換部63を設けることで、例えばブレーキペダル11の踏み込み途中にて、アクチュエータが第2アクチュエータ45に切り替わった場合であっても、ブレーキペダル11の操作量に応じた制動力が発生するので、安全に車両を停止させることができる。
【0027】
伝達状態切替部51は、通電状態に応じ、制動力変位変換部63の位置を可変にする電磁石69を有する。電磁石69を用いることで、給電が途絶えた場合に、アクチュエータを第2アクチュエータ45に適切に切り替えることができる。
【0028】
伝達状態切替部51は、第2アクチュエータ45にてピストン22が駆動される状態にて、制動力変位変換部63を保持するラッチ機構71を有する。これにより、ブレーキペダル11の操作量に応じてピストン22を駆動可能な状態を適切に保持することができる。
【0029】
第2アクチュエータ45は、ブレーキペダル11と連結されるワイヤ46を有する。伝達状態切替部51は、ワイヤ46が巻きかけられる可動プーリ62を有する。可動プーリ62は、モータ40によりピストン22を駆動するとき、ブレーキペダル11の操作により位置が可変し、第2アクチュエータ45によりピストン22を駆動するとき、ブレーキペダル11の操作状態によらず、位置が固定される。
【0030】
詳細には、可動プーリ62は、プーリ支持部材61に支持される。制動力変位変換部63は、モータ40によりピストン22を駆動するとき、プーリ支持部材61と離間し、第2アクチュエータ45によりピストン22を駆動するとき、プーリ支持部材61と当接することで、可動プーリ62の位置を固定する。
【0031】
モータ40にてピストン22を駆動するとき、可動プーリ62がブレーキペダル11の操作により移動することで、ワイヤ46の張力がピストン22側に伝達されない。一方、第2アクチュエータ45にてピストン22を駆動するとき、可動プーリ62の位置を固定することで、ブレーキペダル11の操作量に応じた張力が制動力発生部20側に伝達される。これにより、ピストン22の駆動に用いられるアクチュエータを適切に切替可能であるとともに、第2アクチュエータ45での駆動時、ブレーキペダル11の操作量に応じた制動力を発生させることができる。
【0032】
(第2実施形態)
第2実施形態を
図4に示す。以下の実施形態では、伝達状態切替部が上記実施形態と異なるので、この点を中心に説明する。伝達状態切替部52は、上記実施形態の伝達状態切替部51の各構成に加え、ラッチ機構71とは別途のラッチ機構76を有している。以下適宜、ワイヤ46により踏み込み量が伝達される状態にて制動力変位変換部を保持する機構を第1ラッチ機構、ワイヤ46により踏み込み量が伝達されない状態にて制動変位部材を保持する機構を第2ラッチ機構とする。なお実施形態間で共通の名称を用いるため、第2ラッチ機構があり、第1ラッチ機構がない、ということもあり得る。
【0033】
上記実施形態にて説明した通り、第1ラッチ機構71は、電力が供給されていないときにラッチオンとなる。一方、第2ラッチ機構76は、電力が供給されているときにラッチオン、電力が供給されていないときにラッチオフとなる。本実施形態では、第2ラッチ機構76は、電力が供給されているとき、制動力変位変換部63のプーリ支持部材61側への移動を規制する。
【0034】
第2ラッチ機構76を設けることで、電磁石69は、制動力変位変換部63を吸引し続ける必要がなく、復電時に制動力変位変換部63を引き上げられる程度の磁力に設定すればよいので、電磁石69を簡素化することができる。また、第2ラッチ機構76にて制動力変位変換部63の移動が規制されている状態においては、電磁石69への通電の必要がないので、消費電力を低減することができる。
【0035】
本実施形態では、伝達状態切替部52は、第2アクチュエータ45にてピストン22が駆動されない状態にて制動力変位変換部63を保持する第2ラッチ機構76を有する。これにより、モータ40をアクチュエータとして用いているとき、電磁石69への通電を継続する必要がないので、消費電力を低減可能である。また上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0036】
(第3実施形態)
第3実施形態を
図5に示す。本実施形態の伝達状態切替部53は、第2実施形態の第2ラッチ機構76に替えて、鋸歯ラッチである第2ラッチ機構77が設けられる。第2ラッチ機構77は、制動力変位変換部63に対向する側に鋸歯部771が形成される。制動力変位変換部63の基部633は、第2ラッチ機構77の鋸歯部771にて保持可能な形状に形成される。電力が供給されているとき、鋸歯部771と基部633とが噛み合うことで、制動力変位変換部63のプーリ支持部材61側への移動を規制する。電力供給が途絶えると、鋸歯部771が制動力変位変換部63から離間し、第2ラッチ機構77はラッチオフの状態となり、制動力変位変換部63が鉛直方向下側に移動した状態にて、第1ラッチ機構71にてラッチされる。このように構成しても上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0037】
(第4実施形態)
第4実施形態を
図6に示す。伝達状態切替部54は、可動プーリ62、制動力変位変換部64、電磁石69、および、ラッチ機構78を有する。本実施形態では、ワイヤ46は、可動プーリ62の水平方向側から巻きかけられる。制動力変位変換部64は、磁性体にて例えば平板状に形成され、電磁石69の鉛直方向下側に設けられる。制動力変位変換部64は、電磁石69に磁力が発生しているとき、電磁石69側に引き付けられ、磁力が発生していないとき、重力等により電磁石69から離間する方向に移動する。
【0038】
制動力変位変換部64には、プーリ軸621が移動可能に挿通されるガイド穴641が形成されている。ガイド穴641は、鉛直方向下側にて水平方向に延びる底部642、鉛直方向上側にてプーリ軸621を係合可能な係合部643、底部642の一端と係合部643とを結ぶ傾斜面644、底部642の他端と係合部643とを鉛直方向にて結ぶ壁部645を有する。
【0039】
ラッチ機構78は、電力が供給されているときにラッチオン、供給されてないときにラッチオフとなる。
図6(a)に示すように、電力が供給されているとき、ラッチ機構78は、プーリ軸621が底部642に沿って水平方向に移動可能となる位置にて、制動力変位変換部64を保持する。電力が供給されているとき、ブレーキペダル11の踏み込み状態に応じてプーリ軸621が水平方向に移動することで、踏力が制動力発生部20側に伝達されない。
【0040】
図6(b)に示すように、電力供給が途絶えると、電磁石69による吸引、および、ラッチ機構78による保持がなくなるので、制動力変位変換部64は、鉛直方向下側に移動する。このとき、プーリ軸621が傾斜面644側にあるとき、プーリ軸621は制動力変位変換部64のガイド穴641の内部を傾斜面644に沿って移動し、係合部643に嵌まり合うことで、プーリ軸621の水平方向への移動が規制される。これにより、ワイヤ46を経由して回転部材31が駆動されることで、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じた制動力が発生する。
【0041】
また、電力供給が復帰すると、電磁石69に磁力が発生し、制動力変位変換部64が電磁石69側に移動する。このとき、プーリ軸621は、ガイド穴641の内部を底部642側に移動し、水平方向への移動が可能となる。なお、電磁石69に替えて、電力供給が復帰したときに、制動力変位変換部64を上昇させるようなアクチュエータを用いてもよい。
【0042】
本実施形態の制動力変位変換部64は、可動プーリ62のプーリ軸621が挿通され、一部にプーリ軸621を係合可能な係合部643が設けられるガイド穴641が形成されている。モータ40によりピストン22を駆動するとき、プーリ軸621はガイド穴641内を移動可能であり、第2アクチュエータ45によりピストン22を駆動するとき、プーリ軸621が係合部643に係合されることで可動プーリ62の位置を固定する。このように構成しても上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0043】
(第5実施形態)
第5実施形態を
図7に示す。伝達状態切替部55は、可動プーリ62、制動力変位変換部65、電磁石69、および、ラッチ機構79を有する。制動力変位変換部65は、レバー651およびレバー軸支持部材655を有する。レバー651には、プーリ軸支持部652、および、レバー軸挿通孔653が形成される。プーリ軸支持部652は、レバー651の長手方向の一端側に形成される。レバー軸挿通孔653には、レバー軸654が挿通される。レバー軸挿通孔653は、プーリ軸支持部652側の端部が、当該位置にレバー軸654が位置しているときに、プーリ軸621の動きを制限可能な位置となるように、レバー651の長手方向に延びて形成される。ここで、レバー軸挿通孔653のプーリ軸支持部652と反対側を一端側、プーリ軸支持部652側を他端側とする。
【0044】
レバー軸支持部材655は、磁性体により形成され、レバー軸654を回転可能に支持する。ラッチ機構79は、電力が供給されているときにラッチオン、電力が供給されてないときにラッチオフとなる。ラッチ機構79は、電力が供給されているとき、レバー651の鉛直方向上側への動きを制限する。
【0045】
図7(a)に示すように、電力が供給されているとき、レバー軸支持部材655が電磁石69側に移動した状態にて保持される。このとき、レバー軸654は、レバー軸挿通孔653の一端側に位置しており、レバー軸654とプーリ軸621とが離間している。そのため、ブレーキペダル11を踏み込むと、プーリ軸621がレバー651の回動方向に移動することで、踏力が制動力発生部20側に伝達されない。
【0046】
図7(b)に示すように、電力供給が途絶えると、電磁石69による吸引がなくなるので、制動力変位変換部65は、重力およびばね力等により鉛直方向下側に移動する。そのため、レバー軸654がレバー軸挿通孔653の他端側に移動してプーリ軸621と近接するので、プーリ軸621の移動が制限される。これにより、ワイヤ46を経由して回転部材31が駆動されることで、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じた制動力が発生する。
【0047】
電力供給が復帰すると、ブレーキペダル11を踏み込んだときに、レバー軸支持部材655およびレバー軸654が鉛直方向上側に持ち上げられる。また、ラッチオンとなり、レバー651の鉛直方向上側への移動が制限され、電磁石69による磁力により、レバー軸654がレバー軸挿通孔653の一端側に位置した状態となる。これにより、踏力が制動力発生部20側に伝達されない状態に戻る。
【0048】
制動力変位変換部65は、可動プーリ62のプーリ軸621を支持する揺動可能なレバー651を有する。モータ40によりピストン22を駆動するとき、レバー軸654とプーリ軸621とを離間させることで、可動プーリ62を揺動可能とし、第2アクチュエータ45によりピストン22を駆動するとき、モータ40での駆動時よりもレバー軸654とプーリ軸621とを近接させることで可動プーリ62の揺動を制限する。このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0049】
(第6実施形態)
第6実施形態を
図8に示す。本実施形態の伝達状態切替部56は、プーリ支持部材61、可動プーリ62、制動力変位変換部63、中間部材67、電磁石69、および、ラッチ機構72を有する。中間部材67には、制動力変位変換部63の押付部632が相対移動可能に挿通されている。プーリ支持部材61は、鉛直方向上下に移動可能に中間部材67に支持されている。
【0050】
図8(a)に示すように、本実施形態の電磁石69は、可動プーリ62の鉛直方向下側に設けられており、電力が供給されているとき、プーリ支持部材61は電磁石69側に引き付けられている。また、ラッチオフであって、ブレーキペダル11の踏み込みにより、可動プーリ62が上下に移動することで、踏力が制動力発生部20側へ伝達されない。
【0051】
図8(b)に示すように、電力供給が途絶えると、電磁石69に磁力が発生しなくなるので、制動力変位変換部63は、ばね695の付勢力により、基部631が中間部材67に当接する位置まで押し上げられる。また、本実施形態では、制動力変位変換部63およびプーリ支持部材61は磁性材で形成されており、磁力により、プーリ支持部材61が制動力変位変換部63に引き付けられる。また、プーリ支持部材61は、所定の位置まで下がると、ラッチ機構72により上方向への移動が規制される。これにより、可動プーリ62が位置決めされ、ワイヤ46を経由して回転部材31が駆動されることで、ブレーキペダル11の踏み込み量に応じた制動力が発生する。このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0052】
実施形態では、ブレーキペダル11が「操作量入力部材」、ブレーキディスク15が「制動部材」、ピストン22が「押圧部材」、ブレーキパッド23が「摩擦部材」、モータ40が「第1アクチュエータ」、電磁石69が「切替アクチュエータ」、第1ラッチ機構71、72が「伝達状態保持機構」、第2ラッチ機構76~79が「非伝達状態保持機構」に対応する。
【0053】
(他の実施形態)
上記実施形態では、噛み合い機構315とブレーキペダル11とがワイヤ46によって連結されるとともに、伝達状態切替部51~56が設けられている。他の実施形態では、伝達状態切替部として、ブレーキ操作量が大きくなるに応じて、ピストン22による押圧力が大きくなるように、減速機等の倍力機構を設けてもよい。これにより、ブレーキ押圧力とその反力が大きくなり、運転者がブレーキペダルを踏み込む力では、それ以上の操作ができない場合であっても、倍力機構を設けることで、適切なブレーキ力を得ることができる。
【0054】
また他の実施形態では、第2アクチュエータ側にて押圧部材を駆動する際の初期位置を、摩擦部材を制動部材に接触、または、第1アクチュエータでの駆動時より近づくようにする初期位置調整機構を設けてもよい。例えば、ラッチ機構の位置を調整することで実現可能である。これにより、摩擦部材と制動部材との距離が大きい場合と比較し、ブレーキ力の発生を早めることができる。また、押圧が足りずにブレーキ力が小さくなるのを防ぐことができ、適切なブレーキ力を得ることができる。
【0055】
上記実施形態の回転直動変換機構では、ねじ機構であって、回転部材をモータまたは噛み合い機構にて駆動することで、ピストンを駆動する。他の実施形態では、押圧部材への駆動力伝達機構は、上記実施形態と異なっていてもよく、例えば2入力1出力の減速機と1つの直動変換機構にて減速機の入力を切り替えることで、第1アクチュエータと第2アクチュエータとを切り替えるようにしてもよい。また、回転直動変換機構は、ねじ機構とは異なる機構を用いてもよい。また、第2アクチュエータにてピストンを押圧する機構は、噛み合い機構とは異なるものを用いてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・制動装置 11・・・ブレーキペダル(操作量入力部材)
15・・・ブレーキディスク(制動部材)
22・・・ピストン(押圧部材) 23・・・ブレーキパッド(摩擦部材)
40・・・モータ(第1アクチュエータ)
45・・・ワイヤ(第2アクチュエータ)
51~56・・・伝達状態切替部
61・・・プーリ支持部材 62・・・可動プーリ
63~65・・・制動力変位変換部
69・・・電磁石(切替アクチュエータ)
71、72・・・第1ラッチ機構(伝達状態保持機構)
76~79・・・第2ラッチ機構(非伝達状態保持機構)