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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】パンの保存のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3508 20060101AFI20230510BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
A23L3/3508
A21D2/14
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020529367
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-15
(86)【国際出願番号】 NL2018050804
(87)【国際公開番号】W WO2019108064
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】PCT/NL2017/050797
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】504421730
【氏名又は名称】ピュラック バイオケム ビー. ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルヘーゼン, ジェイコブス ヨハネス アドリアーナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】スリーカーズ, アーネ オーラヴ
(72)【発明者】
【氏名】オルズ, ジャビン ディーン
【審査官】山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】特公昭41-016551(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/147638(WO,A1)
【文献】特表昭61-501885(JP,A)
【文献】米国特許第02898372(US,A)
【文献】Omer Mukhtar TARAR et al.,Studies on the shelf life of bread using acidulants and their salts,Turk J Biol,2010年,Vol.34,p.133-138
【文献】J. U Amajor et al.,A Study on Possible Use of Calcium Propionate and Ascorbic Acid in the Production of Cassava Bread,International Journal of Life Sciences Research,2017年,Vol.5, Issue 2,p.132-137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-35/00
A21D 2/00-17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセテート成分とプロピオネート成分とを含む有機酸保存料系であって、前記アセテート成分が酢酸及び/又は1種若しくは複数の酢酸塩を含み、前記プロピオネート成分がプロピオン酸及び/又は1種若しくは複数のプロピオン酸塩を含み、前記アセテート成分及び前記プロピオネート成分が、前記保存料系中のカルボン酸及びカルボン酸塩の総量の少なくとも85重量%を占め、前記プロピオネート成分が、カルボン酸及びカルボン酸塩の前記総量の12~50重量%を占め
10%(w/v)で水に溶解される場合に少なくとも4.3のpH値をもたらし、
前記プロピオネート成分と前記アセテート成分の比率(w/w)が0.1/1~0.4/1の範囲内にある、有機酸保存料系。
【請求項2】
前記プロピオネート成分前記アセテート成分の比率(w/w)0.12/1~0.4/1の範囲内にある、請求項1に記載の有機酸保存料系。
【請求項3】
前記プロピオネート成分が、プロピオン酸と、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸カリウム及びそれらの組合せからなる群から選択される、プロピオン酸塩との組合せを含む、請求項1又は2に記載の有機酸保存料系。
【請求項4】
前記プロピオネート成分の供給源として、部分的に又は完全に中和されたプロピオン酸発酵物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項5】
前記アセテート成分が、酢酸と、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸カリウム及びそれらの組合せからなる群から選択される、酢酸塩との組合せを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項6】
前記アセテート成分の供給源として、濃縮された緩衝酢を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項7】
乳酸及び乳酸塩から選択されるラクテート成分をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項8】
10%(w/v)で水に溶解される場合4.5~6.7の範囲内pH値をもたらす、請求項1~7のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項9】
酢とプロピオネート発酵物とを組み合わせることによって得ることができる、請求項1~8のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項10】
流動性粉末又は液体スラリーの形態を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の有機酸保存料系。
【請求項11】
微生物学的に安定した食用デンプン質製品生成する方法であって、
a)ドウを形成するための量で、少なくともフラワー、水、酵母及び塩を含む混合物を用意するステップと、
b)一定量の請求項1~10のいずれか一項に記載の有機酸保存料系、前記ドウとブレンドするステップと、
c)前記ドウを成形する又は型で成形するステップと、
d)前記成形された又は型で成形されたドウを焼成して、食用製品を生成するステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記食用デンプン質製品が、焼成パン製品又は焼成ペストリー製品である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の保存料系が、前記ドウの重量に対して500~40,000ppmの範囲内の前記アセテート成分の投与量をもたらす量で、及び/又は前記ドウの重量に対して25~20,000ppmの範囲内の前記プロピオネート成分の投与量をもたらす量で、適用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
食用デンプン質製品のカビ抑制剤として請求項1~10のいずれか一項に記載の有機酸保存料系の使用。
【請求項15】
前記有機酸保存料系がパンのカビ抑制剤として用いられる、請求項14に記載の有機酸保存料系の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ドウ(dough)から微生物学的に安定した食用製品を調製するための組成物及び方法、並びに改善されたカビ抵抗性、延長された保存可能期間及び良好な官能特性を有する、食用のドウベース製品を調製するための方法及び組成物に関する。
【0002】
[発明の背景]
カビ、ロープ(rope)、汚染酵母及び細菌の増殖は、例えばパン及びその他の焼成品などの食用のドウベース製品において重大な問題である。かかる微生物の増殖は、製品の商品としての保存可能期間を著しく削減して、消費者に販売できないカビの生えた製品のせいで販売者の直接経費を増加させ、製品の貯蔵、配送、陳列、販売及び消費に使用可能な時間を制限する。
【0003】
多様な保存料が市販され、食用のドウベース製品の保存可能期間を延長するため、微生物の増殖を抑制するのに使用される。かかる保存料の例は、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸カリウム、二酢酸ナトリウム、パラベン、ナイアシン、酢酸カルシウム、二酢酸カルシウム、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カルシウム、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム及びプロピオン酸カリウムである。今日まで、プロピオン酸カルシウムが、パン及び類似の焼成製品のカビ増殖を抑制するための最も一般的に使用されている剤である。
【0004】
保存可能期間を有効に向上させる濃度で使用される場合、これらの保存料は、消費者にとって望ましくない、異臭、匂い、色及び/又は食感(例えば、貧弱なクラム構造)を最終製品に与え得る。さらに、保存料は、ドウベース製品を調製するのに使用される酵母培養を抑制することもまたあり得て、問題、例えば、発酵の問題、及び酵母抑制を相殺するためにより多量の酵母を使用する必要性に起因する経費の増加を引き起こす。ドウベース製品への保存料の使用に関連する問題が理由で、妥協案として、保存料の相対的に低い濃度、つまり、防カビ効果をもたらすが、酵母の必要投与量に起因する許容不可能な加工条件又は製品の風味、匂い、色及び/若しくは食感に許容不可能な低下を創出しない、保存料濃度を使用することが、当技術分野において必要であった。その結果、先行技術は、非常に低い濃度でのドウ及び焼成製品への保存料、例えば、プロピオン酸カルシウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム及び安息香酸ナトリウムの使用を開示している。例えば、米国特許第3,900,570号は、完成したドウ中の小麦粉100部あたり0.25重量部のプロピオン酸カルシウムの最大使用量を開示していて、好ましい範囲は、約0.06~約0.12部である。米国特許第4,416,904号は、安息香酸ナトリウムについて0.04%~0.10%、ソルビン酸について0.05%~0.20%、及びプロピオン酸カルシウムについて0.4%の濃度を開示している。より最近では、国際公開第99/08553号が、保存料、例えば、プロピオン酸ナトリウム及びカルシウムが、小麦粉の重量に対して算出した0.1~0.625%の範囲の低い濃度で、パン・菓子類製品に典型的に添加されることを開示している。
【0005】
米国特許第6,132,786号は、伝統的保存料、例えばプロピオン酸の代わりに、プロピオニバクテリウム属(Propionibacterium)の種によって生成された食品等級の代謝物を使用することによって、焼成製品の官能特性に影響を与えずに、改善されたカビ抑制を得るための別の解決策を提案している。代謝物は、独特で不愉快な味を有すると述べられているプロピオン酸と比較して、製品の風味を変化させない中性の味を有すると報告されている。代謝物は、完成した又は貯蔵された焼成製品の稠度又は構造保全に有害な変化を引き起こさないと述べられている。それにも関わらず、プロピオニバクテリア代謝物を使用して有効で均一なカビ抑制を得ることは困難であった。
【0006】
過去20~30年の間に、消費者が消費する食品の原材料にリストアップされている人工保存料に益々反対するようになる傾向が現れた。この傾向の進展の結果として、発酵して生成されたプロピオネート製品(例えば、J&Kブレッドメイト(Breadmate)、ケリーアップグレード(Kerry Upgrade)WS、コービオンベルダッド(Corbion Verdad)F95の商標で提供されている製品)が、(パン・菓子類)市場への道を確実に見出した。しかし、実際には、かかる発酵物が、あまりに大きな(否定的)程度まで焼成製品の味及び芳香に影響を与えることが、いまだに絶えず見出され、報告されている。これらの製品のさらに不利な点は、これらの製品が相対的に高価なことである。
【0007】
パン及びその他の(焼成)ドウ製品中でカビ抑制のさらなる改善をもたらすことが、本発明の目的である。
【0008】
[発明の概要]
本発明者らは、この目的が、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せを使用することによって、特に、(緩衝された)酢と発酵によって調製されたプロピオネート成分とを組み合わせることによって達成できることを見出した。好適な比率でかかる組合せを使用することによって、パン及びその他の焼成ドウ製品に適用されて、製品の官能特性、例えば、風味、味又は芳香に(悪)影響を与えない投与量で、満足のいくカビ抑制効果を達成できる製品が得られることが分かった。
【0009】
したがって、人工/合成保存料と考えられるいかなる原材料も含有しない(含有する必要がない)というさらなる利点を有して、プロピオン酸カルシウムを有効に置き換えることができる保存料系が提供され、したがって、保存料系は、「全て天然の」食品原材料に対する需要に適合し、「クリーンラベル」製品に使用できる。
【0010】
したがって、本発明は、新規の保存料系、焼成ドウ製品中でカビを抑制するためのその使用、及びその結果得られた焼成ドウ製品を提供する。
【0011】
本発明のこれらの及びその他の態様は、以下の詳細な説明及び添付の実施例に基づいて明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】播種試験の結果を示すグラフである。
図2】播種後の官能試験の結果を示すグラフである。[発明の詳細な説明]
【0013】
したがって、本発明の第1の態様は、アセテート成分とプロピオネート成分とを含む有機酸保存料系、特にパン及び類似の焼成製品の保存に適切な有機酸保存料系であって、前記アセテート成分が、酢酸及び/又は1種若しくは複数の酢酸塩を含み、前記プロピオネート成分が、プロピオン酸及び/又は1種若しくは複数のプロピオン酸塩を含み、アセテート成分及びプロピオネート成分が、保存料系中のカルボン酸及びカルボン酸塩の総量の少なくとも85重量%を占め、プロピオネート成分が、カルボン酸及びカルボン酸塩の前記総量の12~50重量%を占める、有機酸保存料系に関する。
【0014】
本明細書に使用されるとき、用語「アセテート成分」は、組成物中に含まれるアセテートアニオンを含む化合物又は原材料を表すのに使用され、したがって、遊離酸の形態の酢酸及びそのいずれかの塩を含む。したがって、本明細書において「アセテート成分」が記載及び/又は数量化される場合はいつも、これは、特に明記しない限り、酢酸及びそのいずれかの塩の合わせた含有量に関する。本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、アセテート成分は、酢酸と、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム及びそれらの組合せからなる群から選択される、酢酸塩との組合せを含む。本発明の特に好ましい実施形態において、アセテート成分は、酢酸と酢酸カリウムとの組合せを含む。
【0015】
同様に、用語「プロピオネート成分」は、組成物中に含まれるプロピオネートアニオンを含むすべての化合物又は原材料のことであり、したがって、遊離酸の形態のプロピオン酸及びそのいずれかの塩を含む。したがって、本明細書において「プロピオネート成分」が記載及び/又は数量化される場合はいつも、これは、特に明記しない限り、プロピオン酸及びそのいずれかの塩の合わせた含有量に関する。本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、プロピオネート成分は、プロピオン酸と、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸カルシウム及びそれらの組合せからなる群から選択される、プロピオン酸塩との組合せを含む。本発明の特に好ましい実施形態において、アセテート成分は、プロピオン酸とプロピオン酸カルシウムとの組合せを含む。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、アセテート成分及びプロピオネート成分は合わせて、保存料系中のカルボン酸及びカルボン酸塩の総量の少なくとも85重量%を占める。より好ましくは、アセテート成分及びプロピオネート成分は合わせて、保存料系中のカルボン酸及びカルボン酸塩の総量の少なくとも85重量%、少なくとも86重量%、少なくとも87重量%、少なくとも88重量%、少なくとも89重量%、少なくとも90重量%、少なくとも91重量%、少なくとも92重量%、少なくとも93重量%、少なくとも94重量%、少なくとも95重量%、少なくとも96重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%を占める。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、プロピオネート成分は、カルボン酸及びカルボン酸塩の前記総量の12~50重量%を占める。より好ましくは、プロピオネート成分は、保存料系中のカルボン酸及びカルボン酸塩の総量の少なくとも13重量%、少なくとも14重量%、少なくとも15重量%、少なくとも16重量%、少なくとも17重量%、少なくとも17重量%、少なくとも18重量%、少なくとも19重量%、少なくとも20重量%、少なくとも21重量%、少なくとも22重量%、少なくとも23重量%、少なくとも24重量%、又は少なくとも25重量%を占める。さらに、プロピオネート成分は、保存料系中のカルボン酸及びカルボン酸塩の総量の48重量%未満、46重量%未満、44重量%未満、42重量%未満、40重量%未満、38重量%未満、37重量%未満、36重量%未満、又は35重量%未満を占めることが、好ましい。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、プロピオネート成分及びアセテート成分は、0.1/1~1/1の範囲内の比率(w/w)で存在している。例えば、前記比率は、少なくとも0.11/1、少なくとも0.12/1、少なくとも0.13/1、少なくとも0.14/1、若しくは少なくとも0.15/1であってもよい、及び/又は、前記比率は、0.9/1未満、0.8/1未満、0.7/1未満、0.6/1未満、0.5/1未満、0.4/1未満、0.3/1未満、若しくは0.2/1未満であってもよい。本発明の特に好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、プロピオネート成分及びアセテート成分は、0.12/1~0.4/1の範囲内、より好ましくは0.14/1~0.3/1の範囲内の比率(w/w)で存在している。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、10%(w/v)で水に溶解される場合の前記保存料系は、3.5~7の範囲内のpH値をもたらす。例えば、前記pH値は、少なくとも3.5、少なくとも3.6、少なくとも3.7、少なくとも3.8、少なくとも3.9、少なくとも4.0、少なくとも4.1、少なくとも4.2、少なくとも4.3、少なくとも4.4、若しくは少なくとも4.5であってもよい、及び/又は前記pH値は、6.9未満、6.8未満、6.7未満、6.6未満、6.5未満、6.4未満、6.3未満、6.2未満、6.1未満、又は6.0未満であってもよい。本発明の特に好ましい実施形態において、10%(w/v)で水に溶解される場合の前記保存料系は、4.5~6.7の範囲内、より好ましくは5~6.5の範囲内のpH値をもたらす。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、保存料系は、300~1500mmol/100gの範囲内の酸度の総量を有する。用語「酸度」は、本発明の製品の種類の特性を明らかにするのに、しばしば使用される。この文脈において、用語「総酸度」は、製品の体積又は質量の単位あたりの塩形態及び酸形態の有機酸の総量を表すのに使用される。「総酸度」は、例えば、製品100gあたりの酸のmmolで表現できる。総酸度は、酸(モル)重量(複数可)に基づく、重量パーセントとしてもまた表現できる。様々な種類の有機酸が存在している場合、総酸度は、有機酸あたりの総酸度の合計である(このために単一酸あたりの総酸度を、知らなければならない/判定しなければならない)。例えば、酸度の総量は、少なくとも350mmol/100g、少なくとも400mmol/100g、少なくとも450mmol/100g、若しくは少なくとも500mmol/100gである、及び/又は酸度の総量は、1500mmol/100g未満、1400mmol/100g未満、1300mmol/100g未満、1200mmol/100g未満、若しくは1100mmol/100g未満である。本発明の特に好ましい実施形態において、保存料系は、400~1300mmol/100g、より好ましくは450~1200mmol/100g、最も好ましくは500~1100mmol/100gの範囲内の酸度の総量を有する。
【0021】
本発明の実施形態に従って、アセテート成分についての酸度の総量は、少なくとも350mmol/100g、少なくとも400mmol/100g、少なくとも450mmol/100g、若しくは少なくとも500mmol/100gであってもよい、及び/又はアセテート成分についての酸度の総量は、1400mmol/100g未満、1300mmol/100g未満、1200mmol/100g未満、若しくは1100mmol/100g未満であってもよい。本発明の実施形態に従って、プロピオネート成分についての酸度の総量は、少なくとも30mmol/100g、少なくとも40mmol/100g、少なくとも50mmol/100g、少なくとも60mmol/100g、若しくは少なくとも70mmol/100gであってもよい、及び/又はプロピオネート成分についての酸度の総量は、700mmol/100g未満、500mmol/100g未満、250mmol/100g未満、若しくは100mmol/100g未満であってもよい。
【0022】
本発明の好ましい実施形態において、酢酸成分は、酢の形態で、保存料系に組み込まれる。したがって、本発明の実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系は、アセテート成分の供給源として酢、例えば、中和されていない、部分的に中和された又は完全に中和された酢を含み、提供される。酢という用語は、100mlあたり酢酸少なくとも4グラムを含有する、アルコール性液体の酢酸発酵によって得られた液体、特に、例えばFDAのガイドラインの観点から「天然の」と言明できる酢を表すのに使用される。前記ガイドラインによれば、「天然の」は、最小限に加工され、合成原材料又は加工助剤を含有しないことを意味する(Food Labeling:Nutrient Content Claims General Principles,Petitions,Definitions of Terms,56 Fed.Reg.at 60,466参照)。酢に典型的に存在しているさらなる成分は、好ましい官能特性を有し得て、この官能特性は、添加される食品の味及び風味の特徴に肯定的に寄与する。さらに、アセテート成分の供給源としての酢の使用は、ラベル付け及び規制面に関して、さらなる恩恵をもたらすことになる。
【0023】
好ましい実施形態において、保存料系は、ホワイトビネガー、ブランデービネガー、アルコール酢、バルサミコ酢、ワインビネガー、モルトビネガー、ビールビネガー、ポテトビネガー、米酢、リンゴ酢、サクランボ酢、及びキビ酢からなる群から選択される、中和されていない、部分的に中和された又は完全に中和された酢を含む。本発明の特に好ましい実施形態において、酢は、キビ酢である。本発明の好ましい実施形態において、酢の酢酸含有量は、少なくとも5%(w/w)、より好ましくは少なくとも7.5%(w/w)、さらにより好ましくは少なくとも10%(w/w)である。ある特定の程度まで、事前に濃縮された酢を使用することもまた可能である。かかる製品は、市販されていて、20~30%(w/w)の間の酢酸含有量を典型的に有する。本発明の好ましい実施形態において、酢の酢酸含有量は、少なくとも20%(w/w)、より好ましくは少なくとも25%(w/w)、例えば、約29又は30%(w/w)である。酢の酢酸含有量を示す一般的な尺度は、グレイン強度(grain strength)である。グレイン強度は、g/lで表現される酢酸含有量であり、したがって50グレイン酢は、約5%(w/w)酢酸である。当業者に理解されるように、酢は、少なくとも200グレイン、より好ましくは少なくとも250グレインであることが好ましい。しばしば、市販の食品等級の酢は、200グレイン、300グレイン又は400グレインで提供されている。本発明の一つの好ましい実施形態において、300グレイン酢が使用される。
【0024】
本発明の特に好ましい実施形態において、緩衝酢、例えば、酢を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等の中和剤によって中和することによって生成された緩衝酢が使用されて、好適なアセテート対酢酸の比率(ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を使用して判定できる)に到達する。
【0025】
本発明の特に好ましい実施形態において、アセテート成分は、公開されたPCT出願、国際公開第2015/147638号に記載されたような方法によって得られる濃縮された緩衝酢であり、前記方法は、a)上に定義された液体酢を用意するステップと、b)アルカリ性カリウム化合物を前記液体酢に添加して、少なくともpH6を有する中和された酢を生成するステップと、c)蒸発によって前記中和された酢を濃縮して、約50%(w/w)の乾燥固形物レベルにするステップとを含む。任意選択で、ステップc)で得られた、濃縮され中和された酢は、第2の液体酢と組み合わせてもよい。好ましくは、前記第2の液体酢は、200~300グレインの酢である。当業者に理解されるように、これらの方法は、高濃縮された緩衝酢を産生する。本発明の特に好ましい実施形態において、濃縮された緩衝酢は、少なくとも3.5g/100ml、より好ましくは少なくとも4g/100ml、最も好ましくは少なくとも4.2g/100mlの遊離酸度を有する。本発明のこの実施形態に従って生成された製品は、「酢」及び/又は「天然の」としてリストアップできる。
【0026】
本発明の特に好ましい実施形態において、アセテート成分は、公開されたPCT出願、国際公開第2014/021719号に記載されたような方法によって得られる濃縮された緩衝酢であり、前記方法は、a)第1の液体酢を用意するステップと、b)前記第1の液体酢のpHを6.0~10.0の範囲内の値に調整して、中和された酢を生成するステップと、及びc)前記中和された酢を乾燥させて、5重量%未満の含水量を有する酢由来の粒子を生成するステップとを含む。任意選択で、第2の液体酢は、例えば1:15~1:5の重量比で、酢由来の粒子と組み合わせてもよい。ある特定の実施形態において、酢由来の粒子は、攪拌され、酢由来の粒子及び第2の液体酢の温度は、このステップの間54℃未満にとどまるように制御される。
【0027】
プロピオネートは、発酵によって適切に生成できる。本発明の文脈において、好適な微生物、例えばプロピオン酸細菌を使用して、グルコース、ラクトース又はラクテート、特にラクテートを発酵させることによって得られたプロピオネートを使用することが好ましい。したがって、本発明の特に好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系は、プロピオネート成分の供給源としてプロピオン酸発酵物又はプロピオネート発酵物を含み、提供される。この実施形態に従って、かかるプロピオン酸発酵物又はプロピオネート発酵物は、中和されていなくても、部分的に中和されていても若しくは完全に中和されていてもよい、及び/又はかかるプロピオン酸発酵物又はプロピオネート発酵物は、粗発酵物又は部分的に精製された/清透化された発酵物であってもよい。かかる発酵物は、その他の発酵製品、例えば、アセテート、ラクテート及び/又はサクシネートの存在によって典型的に特徴づけられ、非常に好ましい官能特性を典型的に有し、添加される食品の味及び風味の特徴に肯定的に寄与する。さらに、かかる発酵製品は、ラベル付け及び規制面に関して、さらなる恩恵をもたらすことになる。
【0028】
本明細書に使用されるとき、用語「発酵製品」は、適切な微生物、この場合プロピオン酸生成微生物による発酵可能な基質の発酵によって得られる組成物のことであり、プロピオン酸成分以外に、微量の発酵可能な基質、微生物によって生成されたその他の物質、並びに微量の微生物それ自体、例えば、細胞の残骸及び/又は細胞成分を典型的に含む組成物をもたらす。プロピオン酸生成微生物は、その他の保存料化合物、例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、バクテリオシン等もまた生成し得る。それ故に、液体発酵製品は、例えば、高純度製品又は化学的に生成された製品から区別しやすい。しかし、用語「発酵製品」は、精製/清透化及び/又は濃縮の形態を受けた製品を除外しない。
【0029】
一実施形態において、発酵製品は、プロピオン酸生成微生物によって発酵可能な基質を発酵し、その後(湿潤)バイオマス及びその他の固体粒子から上澄みを分離することによって得られる、上澄みである。
【0030】
本発明の一実施形態において、発酵製品は、プロピオン酸生成微生物によって発酵可能な基質を発酵し、その後(湿潤)バイオマス及びその他の固体粒子から上澄みを分離し、上澄みを濃縮することによって得られる、濃縮された上澄みである。
【0031】
本発明の一実施形態において、発酵製品は、プロピオン酸生成微生物によって発酵可能な基質を発酵し、その後(湿潤)バイオマス及びその他の固体粒子から上澄みを分離し、上澄みを精製し、任意選択で上澄みを濃縮することによって得られる、部分的に精製された及び任意選択で濃縮された上澄みであり、但し、精製は、乾燥固形物重量に対して97重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさず、好ましくは、精製は、乾燥固形物重量に対して96重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさず、最も好ましくは、精製は、乾燥固形物重量に対して95重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさない。
【0032】
当業者にとって明白であるように、発酵製品は、プロピオネート成分以外に、その他の分散又は溶解された固形物を含む。かかるその他の分散又は溶解された固形物の典型的例としては、糖、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース;その他の有機酸及び/又はその塩、例えば乳酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、コハク酸、ギ酸及び酢酸;窒素含有物質、例えば、アミノ酸、ペプチド及びタンパク質;核酸成分、例えば、DNA及びRNA断片、ヌクレオチド及びヌクレオシド;細胞膜リン脂質;ビタミン;微量元素;並びに顔料が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、プロピオン酸発酵物は、ラクトース、グルコース、スクロース、乳酸及びその塩、クエン酸及びその塩、ピルビン酸及びその塩、リンゴ酸及びその塩、コハク酸及びその塩、ギ酸及びその塩、酢酸及びその塩、アミノ酸、ペプチド並びにタンパク質からなる群から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ又は少なくとも5つの成分を含む。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態において、プロピオネート成分は、
a)水性媒体中の発酵可能な基質及び窒素供給源の溶液を含む、栄養培地を用意するステップと、
b)前記栄養培地にプロピオン酸生成微生物を播種するステップと、
c)プロピオネート成分を含有する第1の発酵ブロスを生成するのに十分な期間、前記プロピオン酸生成微生物の増殖及び/又は代謝活性にとって好ましい条件下で、播種された栄養培地をインキュベートするステップと、
d)前記第1の発酵ブロスから湿潤バイオマスを分離して、上澄みを得るステップと、任意選択で、
e)精製が乾燥固形物に対して95重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさないという条件で、前記上澄みにさらなる精製を行うステップと
を含む方法によって得られる組成物である。
【0034】
本発明の特に好ましい実施形態において、ステップa)は、グルコース、ラクトース又はラクテートから選択される炭素供給源を含む、栄養培地を用意することを含み、ステップb)は、前記栄養培地にプロピオン酸生成細菌、特にプロピオニバクテリウム属からの細菌、例えば、プロピオニバクテリウム・フレウデンレイキイ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・シェルマニイ(Propionibacterium shermanii)、プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニチ(Propionibacterium acidi-propionici)、プロピオニバクテリウム・トエニイ(Propionibacterium thoenii)及び/又はプロピオニバクテリウム・イエンセニイ(Propionibacterium jensenii)を播種することを含む。上に述べられた通り、好ましい方法において、ステップd)は、湿潤バイオマス及びその他の固体粒子を発酵ブロスから分離して、上澄みを得ることを含んで実施され、上澄みは、本発明による液体発酵製品として使用できる。方法は、上澄みにさらなる精製を行うことを含む、ステップe)を任意選択で含んでもよく、但し、精製は、乾燥固形物に対して97重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさず、好ましくは、精製は、乾燥固形物重量に対して96重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさず、最も好ましくは、精製は、乾燥固形物重量に対して96重量%超のプロピオネート成分のレベルをもたらさない。本発明の好ましい実施形態において、本明細書に前に定義された方法が提供され、ステップd)の湿潤バイオマスから分離された上澄みに、溶解又は非溶解固形物を分離する加工ステップを行わない。
【0035】
前述に基づいて理解される通り、本発明の特に好ましい実施形態は、アセテート成分の供給源としての酢、緩衝酢、濃縮された酢若しくは緩衝され濃縮された酢、及び/又はプロピオネート成分の供給源としてのプロピオン酸発酵物、中和されたプロピオネート発酵物若しくは部分的に中和されたプロピオネート発酵物を含む、本明細書に定義された有機酸保存料系を提供する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が、酢、緩衝酢、濃縮された酢及び緩衝され濃縮された酢の群から選択される第1の原材料、並びにプロピオネート発酵物、中和されたプロピオネート発酵物及び部分的に中和されたプロピオネート発酵物から選択される第2の原材料を含み、提供される。
【0037】
本発明のさらなる好ましい実施形態において、酢、緩衝酢、濃縮された酢及び緩衝され濃縮された酢の群から選択される第1の原材料と、プロピオネート発酵物、中和されたプロピオネート発酵物及び部分的に中和されたプロピオネート発酵物から選択される第2の原材料とを組み合わせることによって得られる、本明細書に定義された有機酸保存料系が、提供される。
【0038】
本発明の有機酸保存料系は、液体又は固体製品として、例えば、流動性粉末の形態で、適切に配合できる。典型的には、有機酸保存料系は、可能な限り最良の方法で輸送、貯蔵及び(例えば)パン・菓子類の取り扱いを円滑に進める形態で提供される。多くの場合、直接使用できるか、又はすぐ使用できる形態で提供するために淡(水道)水の予め決められた量で希釈若しくは溶解が容易にできるかのいずれかの、高濃縮形態の保存料系を提供することが、好都合であると特に考えられることになる。したがって、本発明の実施形態において、本明細書に定義された有機酸保存料系が提供され、保存料系は、流動性粉末又は液体濃縮物の形態を有する。本発明のある特定の実施形態において、保存料系は、1種又は複数の固体若しくは液体担体材料、及び任意選択で1種又は複数の添加物を含む、担体系をさらに含む。
【0039】
本発明の特に好ましい実施形態において、液体保存料系は、上記定義された成分の、液体担体、好ましくは水中における溶液又は分散系を含んで提供される。本発明の特に好ましい実施形態において、液体保存料系は、上記定義された成分を、水又は水性溶媒及び任意選択のさらなる添加物と組み合わせることよって生成される。かかる組成物が、適用前にさらに希釈される実施形態が予測されるが、かかる液体保存料系は、直接適用することが適切である。
【0040】
本発明のその他の実施形態において、保存料系は、流動性粉末又は顆粒の形態であり、1種又は複数のその他の賦形剤及び/若しくは担体材料を含んでもよい。この実施形態に従って使用するのに特に適切な賦形剤/担体の適切で非限定的例は、マルトデキストリンである。別の好ましい実施形態において、流動性粉末は、本質的に、プロピオネート成分とアセテート成分との組合せからなり、提供される。かかる流動性粉末は、水性分散系若しくは溶液中で多様な成分を組み合わせて、その後乾燥すること、例えば噴霧乾燥することによって、並びに/又はプロピオネート成分及びアセテート成分の個別に生成された乾燥配合物をドライブレンドすることによって、得られてもよい。
【0041】
当然のことながら、前述に基づいて、本発明の保存料系は、非常に多様な量の乾燥固形物を有し得る。より詳細には、組成物は、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せから実質的になると予測され、組成物は、水に分散後の使用、並びに本発明によるドウ製品の処理に適切な濃度でアセテート成分及びプロピオネート成分を含む、すぐ使用できる組成物が、典型的に意図される。
【0042】
したがって、本発明の1実施形態において、本明細書に定義された保存料系が提供され、乾燥粉末の総重量に対して、アセテート成分及びプロピオネート成分を、少なくとも合わせて75重量%の量で、より好ましくは少なくとも合わせて80重量%の量で、最も好ましくは少なくとも合わせて85重量%の量で含む乾燥粉末として配合される。本発明の1実施形態において、乾燥粉末は、実質的に又は完全に、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せのみからなる。本発明の1実施形態において、乾燥粉末は、実質的に又は完全に、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せのみからなる。
【0043】
本発明の1実施形態において、本明細書に定義された保存料系が提供され、濃縮されたスラリーとして配合される。濃縮されたスラリーは、水に分散又は溶解された、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せを典型的に含む。かかる濃縮されたスラリーは、使用前に希釈されることが典型的に意図される。かかる濃縮されたスラリーは、濃縮されたスラリーの総重量に対して、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せを、少なくとも合わせて20重量%の量で、より好ましくは少なくとも合わせて40重量%の量で、最も好ましくは少なくとも合わせて50重量%の量で、典型的に含むことになる。
【0044】
本発明の1実施形態において、本明細書に定義された保存料系が提供され、組成物は、すぐ使用できる液体スラリーとして配合される。この液体スラリーは、水に分散又は溶解された、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せを典型的に含む。かかる液体スラリーは、液体スラリーの総重量に対して、1~20重量%の合わせた量で、より好ましくは2.5~15重量%の合わせた量で、最も好ましくは5~12.5重量%の合わせた量で、アセテート成分とプロピオネート成分との組合せを典型的に含むことになる。
【0045】
本発明の1実施形態において、すぐ使用できる液体スラリーは、3.5~7の範囲内、より好ましくは4~6.7の範囲内、最も好ましくは4.5~6.5の範囲内のpHを有する。
【0046】
本発明の第2の態様は、本明細書に定義された保存料系を生成する方法であって、上に記載されたものに典型的に従って、アセテート成分及びプロピオネート成分を混合又はブレンドするステップを含む、方法に関する。
【0047】
本発明の保存料系は、焼成ドウ製品、例えば、デンプン質のドウを加熱/焼成することによって生成されたパン及び類似の製品の保存に、特に適している。概説するならば、本発明の保存料系が有利に適用できる製品としては、フラワー、液体成分及び膨張剤を最小限含むドウから生成されたそれらの製品が挙げられる。その他の原材料は、ドウに適切に含まれることができ、脂肪成分、塩、甘味料、乳製品、卵製品、乳化剤、調味料等を含む。所望のドウ製品を生成するために、生のドウ組成物が、最初に生成される。生のドウ組成物は、まとめた後で、焼成前にしばしば発酵させることになる。次に、発酵させた組成物は、焼成炉、例えば、従来のオーブン、対流式オーブン、インピンジメントオーブン等で、焼成できる。この方法で生成された製品の例としては、パン、フランスパン、ライ麦パン、スティッキーバン、ピザ、ケーキ、ドーナツ、ベルリーナー、マフィン、ペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ、パネットーネ、パイ、タルト、キッシュ、クッキー、スコーン、クラッカー、プレッツェル、ベーグル、ラスク及びトルティーヤが挙げられる。より好ましくは、本方法は、パン、ケーキ又はペストリーを調製するのに使用される。最も好ましくは、方法は、パンの調製に使用される。かかる製品の調製において、有機酸保存料組成物が、発酵又は焼成の後、いずれの段階でもドウ製品の表面に適用し得る実施形態が予測されるが、本発明の有機酸保存料系は、典型的には発酵ステップの前に、生のドウ組成物に有利に混合されることができる。
【0048】
本発明のさらなる態様は、微生物学的に安定した食用デンプン質製品、特に、焼成パン製品又は焼成ペストリー製品を生成する方法であって、
a)ドウを形成するための量で、少なくともフラワー、水、酵母及び塩を含む混合物を用意するステップと、
b)好ましくは本明細書に定義された有機酸保存料系の形態で、一定量のアセテート成分及びプロピオネート成分を、ドウとブレンドするステップと、
c)ドウを成形する又は型で成形するステップと、
d)成形された又は型で成形されたドウを焼成して、食用製品を生成するステップと
を含む、方法に関する。
【0049】
当業者にとって当然のことながら、上に記載された方法は、ドウを膨張させるステップもまた典型的に含むことになり、ステップa)及び/又はステップb)の後で起こり得る。
【0050】
保存料は、ドウベース製品の貯蔵の間に、カビ、ロープ、汚染酵母、及び/又は細菌増殖を抑制するのに有効な量で適用される。微生物の抑制(貯蔵の間)は、微生物の増殖の目視検査、例えば、いつ最初のカビが増殖するかの目視検査によって、通常判定される。
【0051】
添加される保存料の量は、所望の保存可能期間、並びに/又は感覚受容及び/若しくは感覚の視点からの許容可能な事に依って変化する。本発明の教示に基づいて、当業者にとって当然のことながら、より多量の保存料系が、より長い保存可能期間が望まれる場合、添加されるべきである。量の最適化は、投与量最適化実験を使用して実施できる。好ましい実施形態において、保存料系は、最初の腐敗微生物の増殖(例えば、カビ)が、調理(例えば、焼成)から少なくとも5日まで、より好ましくは、調製(例えば、焼成)から、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、又は少なくとも20日まで、製品に出現しないような量で適用され、これは、焼成後約10分から約3時間包装しないでパンが冷めた後、製品を、密閉ポリエチレン袋の中で周囲温度及び湿度で貯蔵した後、目視検査で判定できる。
【0052】
典型的には、満足のいく結果が、アセテート成分の投与量(ベーカーの重量に対してppmで、つまり、使用されたフラワーの量に対する割合として)が500~40000ppmをもたらす量で保存料系を適用することによって達成できる。例えば、前記投与量は、少なくとも1000ppm、少なくとも1500ppm、少なくとも2000ppm、少なくとも2500ppm若しくは少なくとも3000ppm、及び/又は30000ppm未満、25000ppm未満、20000ppm未満、15000ppm未満若しくは10000ppm未満であってもよい。満足のいく結果が、プロピオネート成分の投与量(ベーカーの重量に対してppmで)が25~20000ppmをもたらす量で保存料系を適用することによって達成できる。例えば、前記投与量は、少なくとも50ppm、少なくとも75ppm、少なくとも100ppm、少なくとも150ppm若しくは少なくとも200ppm、及び/又は15000ppm未満、10000ppm未満、8000ppm未満、6000ppm未満若しくは4000ppm未満であってもよい。
【0053】
本発明のさらなる態様は、上に定義された方法によって得られる食用デンプン質製品に関する。
【0054】
本発明のまたさらなる態様は、食用デンプン質製品、特に焼成ドウ製品、好ましくはパンのカビ抑制剤としての本明細書に定義された有機酸保存料系の使用に関する。その他の好例の実施形態は、パン、フランスパン、ライ麦パン、スティッキーバン、ピザ、ケーキ、ドーナツ、ベルリーナー、マフィン、ペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ、パネットーネ、パイ、タルト、キッシュ、クッキー、スコーン、クラッカー、プレッツェル、ベーグル、ラスク及びトルティーヤからなる群から選択される製品における、有機酸保存料系の使用を含む。
【0055】
本発明の好ましい実施形態において、前記カビは、ペニシリウム・ロックェフォルティ(Penicillium roqueforti)、ペニシリウム・コンミューン(Penicillium commune)、ペニシリウム・クラストザム(Penicillium crustosum)、ペニシリウム・クリソゲナム(Penicillium chrysogenum)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、クラドスポリウム属(Cladosporium)の種、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、ネウロスポラ・シトフィラ(Neurospora sitophila)、及びリゾプス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)の群、好ましくは、ペニシリウム・ロックェフォルティ、ペニシリウム・コンミューン、ペニシリウム・クラストザム、ペニシリウム・クリソゲナム、アスペルギルス・フラバス及びクラドスポリウム属の種の群から選択される。
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に定義された使用は、焼成していないドウへの本明細書に定義された有機酸保存料系の添加を含む。好ましい実施形態において、使用は、焼成から少なくとも5日、より好ましくは、調製(例えば、焼成)から少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、又は少なくとも20日まで、焼成ドウ製品の保存可能期間を延長するためである。
【0057】
本発明はプロピオネート成分との組合せにおける、食用デンプン質製品、特に焼成ドウ製品のカビ抑制剤としての本明細書に定義されたアセテート成分の使用に、さらに関係することが、本教示に基づいて理解されることになる。同様に、本発明は、アセテート成分との組合せにおける、食用デンプン質製品、特に焼成ドウ製品のカビ抑制剤としての本明細書に定義されたプロピオネート成分の使用に、さらに関係する。したがって、本発明は、本教示によるプロピオネート成分と併せて、かかる製品のカビ抑制のためにアセテート成分を使用するため、包装物又は容器に入れられ、例えば小冊子若しくはラベルに印刷した説明を付けた、前記アセテート成分、例えば、酢、緩衝酢又は濃縮された緩衝酢を包含する。同様に、本発明は、本教示によるプロピオネート成分と併せて、かかる製品のカビ抑制のためにプロピオネート成分を使用するため、包装物又は容器に入れられ、例えば小冊子若しくはラベルに印刷した説明を付けた、前記プロピオネート成分、例えばプロピオネート発酵物を包含する。本発明は、個包装され、かかる印刷した説明を付けた、かかるアセテート成分及びかかるプロピオネート成分を含む部品のキットもまた包含する。
【0058】
このようにして、本発明は、上に検討されたある特定の実施形態を参照して説明されてきた。これらの実施形態は、当業者にとってよく知られた多様な修正及び変更形態を受け入れる余地があることが、認められるであろう。上に記載された修正に加えて、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された構造及び技術に、多くの修正がなされ得る。さらに、この明細書及び特許請求の範囲の適正な理解のため、動詞「含む」及びその活用形が、この語に続く項目が含まれるが、特に言及されなかった項目が除外されないことを意味するという、非制限的な意味で使用されることが理解されるべきである。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、「少なくとも1つ(種)」を通常意味する。用語「なる」は、本明細書のどこで使用されても、「実質的になる」もまた包含するが、「完全になる」の厳密な意味に任意選択で限定されてもよい。特性のために上限及び下限が引用される場合、そのときは、上限のいずれかを下限のいずれかと組み合わせることによって定義される値の範囲もまた暗示され得る。本明細書に開示された詳細な説明の多様な態様及び実施形態は、本発明を成し、使用する特定の方法を例示するものであり、特許請求の範囲及び詳細な説明を考慮する場合、本発明の範囲を限定しないと理解されるべきである。本発明の様々な態様及び実施形態からの特徴は、本発明のいずれの他の態様及び実施形態からの特徴とも組み合わせ得ることもまた理解されるであろう。
【0059】
以下の実施例は、例示の目的のみのために提供され、本発明の範囲を制限することを全く意図しない。
【0060】
[実施例]
実施例1:本発明による試験配合物を含む白パン及び播種試験
研究室環境において本発明を検証するために、この実験を設定した。液体形態(試験配合物1、2及び3)又は粉末形態(試験配合物4)のいずれかの本発明による多様な配合物(「試験配合物」)を試験して、対照(添加物なし)、並びに現在の標準製品であるプロピオン酸カルシウム及び「ケリーアップグレード」(有機酸ブレンドを含む市販のカビ抑制剤)を含むいくつかの参考製品と比較した。試験配合物を、好適な量で、プロピオネート発酵物、濃縮され中和された酢及び標準300グレイン酢から調製した。試験された実験配合物の詳細を、下の表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
配合物を、(白)パンの塊で試験した。白パンの塊を、試験配合物を含有するドウを形成し(他の)従来の方法でドウを焼成することによって調製した。この方法において、ドウを、レオロジー特性及び焼成性能についてもまた評価して、標準加工条件を使用して完成した製品に対する(負の)効果を有するかどうかを判定した。(負の)効果を有する場合、方法の微調整を実施して、いずれのかかる効果も相殺した。
【0063】
ドウ及び焼成方法の結果として生じた仕様を、表2にまとめる。
【0064】
ドウの加工、発酵及び焼成のさらなるパラメーターを、下の表3にまとめる。これらのパラメーターは、全ての実験について同様であった。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】
【0067】
播種試験
本発明のカビ抑制特性を検証するために、播種研究を実行した。使用したカビ胞子類のカクテルは、表4に示される。
【0068】
【表7】
【0069】
カビ胞子のカクテル、保存可能期間の始まり(1日目)にパンに播種する。播種のポイントを、塊の左、右、上、及び下側のそれぞれの別々の2か所、及びパンの各末端に1つの播種ポイントを作り、パンの各塊に合計10個の播種ポイントを作る。パンの合計10塊に、それぞれの試験変数のため、この様に播種する。次に、パンを、標準のパン袋に詰め、ねじひもで閉じ、第2のパン袋に入れ、熱融着で閉じて、できる限りカビ増殖への外部影響を排除する。次に、パンを、室温で保持する。毎日、各塊を、カビ増殖について検査する。
【0070】
播種試験の結果を、図1にまとめる。この図は、各試験について、カビ増殖のパーセンテージ(つまり、目視検査によって判定された、カビによっておおわれた塊の表面のパーセンテージ)の平均を示す。本発明の試験配合物が、参考製品すなわち、プロピオン酸カルシウム及びケリーアップグレードのように、かなりの又は増強したカビ増殖抑制を示したことが、図1で分かる。全ての試験された配合物は、対照(添加物なし)と比較して、抑制の有意な増強を示した。
【0071】
官能試験
上で調製された白パンの塊に、官能試験もまた行った。パンを、試験パネルによって評価した。パネリストに、芳香及び風味について1~9のスケール(数字が高い方が、感覚的な品質が高いことを表す)で、パンの各試料を採点するように求めた。結果を、図2にまとめる。図2は、試験配合物3が芳香に関して参考製品より有意に良い点数であったことを示す。風味に関する有意差は観察されなかった。
図1
図2