(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】正極活物質および該正極活物質を備えたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20230510BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230510BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230510BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/525
H01M4/36 E
C01G45/00
(21)【出願番号】P 2021039460
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】冨田 正考
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-519825(JP,A)
【文献】特開2002-170563(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017077(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/525
C01G 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質であって、
第1の粒子が複数集合した第2の粒子を含み、
前記第2の粒子の表面の少なくとも一部には被覆層が形成されており、
前記第1の粒子のSEM像に基づく平均粒子径は5μm以上10μm以下であり、
前記第2の粒子のSEM像に基づく平均粒子径は10μm以上20μm以下であり、
前記第1の粒子は、少なくともリチウムとマンガンとを含有するスピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物を含み、
前記リチウムマンガン複合酸化物は、アルミニウム及び/又はマグネシウムを含み、
前記被覆層は、少なくともリチウムとニッケルとを含有するリチウムニッケル複合酸化物を含み、
前記正極活物質を構成する化合物全体を100mol%としたとき、前記リチウムニッケル複合酸化物の割合は3.5mol%以下である、
正極活物質。
【請求項2】
前記リチウムニッケル複合酸化物の割合は、3mol%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、さらにコバルトを含む、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、さらにアルミニウムを含む、請求項1~3の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、さらにマンガンを含む、請求項1~4の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
正極と、負極と、非水電解質と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、正極活物質層を備え、
前記正極活物質層は、請求項1~5の何れか一項に記載の正極活物質を備える、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質と、該正極活物質を備えたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極には、リチウムイオンを吸蔵、放出が可能な正極活物質が備えられている。その代表的な一例として、スピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物は、良好なリチウムイオン拡散性を発揮することが知られており、高い電池電圧を実現することができる。また、マンガンは資源量が豊富であるため、かかるリチウムマンガン複合酸化物からなる正極活物質は、コストの低減や、供給の安定性に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その一方で、スピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物は、充放電の繰り返しや長期使用に伴い、リチウムマンガン複合酸化物中のマンガンが非水電解液へと溶出し易い問題点がある。マンガンが溶出することにより、リチウムイオン二次電池の容量が低下することや、溶出したマンガンが負極に析出することで抵抗が増加すること等のサイクル特性の低下が引き起こされる。そのため、マンガンの溶出を抑制する技術が望まれている。
【0006】
例えば、特許文献1には、スピネル型結晶構造を有するリチウムマンガン酸化物の表面に、酸化ホウ素を用いた第1被覆層と、リチウムコバルト複合酸化物を用いた第2被覆層とを備えた構成が開示されており、かかる構成により、マンガンの溶出が抑制されることが開示されている。しかしながら、その抑制効果にはさらなる改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、優れたサイクル特性を実現するスピネル型構造を有する正極活物質を提供することを主な目的とする。また、かかる正極活物質を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここで開示される正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質であって、第1の粒子が複数集合した第2の粒子を含み、上記第2の粒子の表面の少なくとも一部には被覆層が形成されている。また、上記第1の粒子のSEM像に基づく平均粒子径は5μm以上10μm以下であり、上記第2の粒子のSEM像に基づく平均粒子径は10μm以上20μm以下であることを特徴とする。さらに、上記第1の粒子は、少なくともリチウムとマンガンとを含有するスピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物を含み、上記被覆層は、少なくともリチウムとニッケルとを含有するリチウムニッケル複合酸化物を含み、上記正極活物質を構成する化合物全体を100mol%としたとき、上記リチウムニッケル複合酸化物の割合は3.5mol%以下であることを特徴とする。
かかる構成の正極活物質は、従来広く用いられる正極活物質よりも平均粒子径が大きいため、第1の粒子および第2の粒子の比表面積が小さくなる。そのため、電解質(電解液)と正極活物質との接触面積が減少し、マンガンの溶出を抑制することができる。また、被覆層に含まれるリチウムニッケル複合酸化物により、マンガンよりもニッケルが優先的に溶出されるため、マンガンの溶出をより抑制することができる。さらに、充放電時に、被覆層が第2の粒子の膨張収縮を緩和するように膨張収縮するため、第2の粒子の割れを抑制し、充放電の繰り返しに対する耐久性が向上する。この結果、優れたサイクル特性が実現される。
【0009】
ここで開示される正極活物質の好ましい一態様では、上記リチウムニッケル複合酸化物の割合は、3mol%以下である。これにより、より優れたサイクル特性が実現される。
【0010】
また、ここで開示される正極活物質の好ましい一態様では、上記リチウムニッケル複合酸化物は、さらにコバルトを含む。これにより、第2の粒子の膨張収縮がより緩和され、より優れたサイクル特性が実現される。
【0011】
また、他の好適な一態様では、上記リチウムニッケル複合酸化物は、さらにアルミニウムを含む。さらに、他の好適な一態様では、上記リチウムニッケル複合酸化物は、さらにマンガンを含む。これにより、さらに優れたサイクル特性が実現される。
【0012】
また、上記目的を実現するための本教示の他の側面として、ここで開示される正極活物質を備えたリチウムイオン二次電池が提供される。即ち、ここで開示されるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備えており、該正極は、正極活物質層を備え、該正極活物質層は、ここで開示される正極活物質を備える。これにより、優れたサイクル特性が実現されたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【
図3A】一実施形態に係る正極活物質に含まれる正極活物質粒子の構造を模式的に示す断面図である。
【
図3B】一実施形態に係る正極活物質に含まれる第2の粒子の構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながらここで開示される技術の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。また、ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、本明細書において数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、一般的な解釈と同様であり、A以上B以下(Aを上回るがBを下回る範囲を含
む)を意味するものである。
【0015】
以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0016】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。また、本明細書において「活物質」とは、電荷担体を可逆的に吸蔵・放出する材料をいう。
【0017】
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の構成を模式的に示す断面図である。リチウムイオン二次電池100は、電池ケース30の内部に、扁平形状の電極体(捲回電極体)20と、非水電解質(図示せず)とが収容されることで構築される角型の密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44が備えられている。また、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36が設けられている。さらに、電池ケース30には、非水電解質を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。電池ケース30の材質は、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属材料であることが好ましい。このような金属材料として、例えば、アルミニウムやスチール等が挙げられる。
【0018】
図2に示されるように、電極体20は、長尺シート状の正極50と、長尺シート状の負極60とが、2枚の長尺シート状のセパレータ70を介して積層され、捲回軸を中心として捲回された捲回電極体である。正極50は、正極集電体52と、該正極集電体52の片面または両面の長手側方向に形成された正極活物質層54とを備えている。正極集電体52の捲回軸方向(即ち、上記長手側方向に直交するシート幅方向)の片側の縁部には、該縁部に沿って帯状に正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分(即ち、正極集電体露出部52a)が設けられている。また、負極60は、負極集電体62と、該負極集電体62の片面または両面の長手側方向に形成された負極活物質層64とを備えている。負極集電体62の上記捲回軸方向の片側の反対側の縁部には、該縁部に沿って帯状に負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分(即ち、負極集電体露出部62a)が設けられている。正極集電体露出部52aには正極集電板42aが接続されており、負極集電体露出部62aには負極集電板44aが接合されている。正極集電板42aは、外部接続用の正極端子42と電気的に接続されており、電池ケース30の内部と外部との導通を実現している。同様に、負極集電板44aは、外部接続用の負極端子44と電気的に接続されており、電池ケース30の内部と外部との導通を実現している。
【0019】
正極50を構成する正極集電体52としては、例えば、アルミニウム箔が挙げられる。正極活物質層54は、後述するここで開示される正極活物質を備えている。また、正極活物質層54は、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
正極活物質層54は、例えば、正極活物質と必要に応じて用いられる材料(導電材、バインダ等)とを適当な溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を正極集電体52の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
【0020】
負極60を構成する負極集電体62としては、例えば、銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。また、負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含んでいてもよい。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
負極活物質層64は、例えば、負極活物質と必要に応じて用いられる材料(バインダ等)とを適当な溶媒(例えばイオン交換水)に分散させ、ペースト状(またはスラリー状)の組成物を調製し、該組成物の適当量を負極集電体62の表面に塗工し、乾燥することによって形成することができる。
【0021】
セパレータ70としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるものと同様の各種微多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る微多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる微多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が形成されていてもよい。
【0022】
非水電解質は従来のリチウムイオン二次電池と同様のものを使用可能であり、例えば、有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。あるいは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、特に限定されるものではないが、0.7mol/L以上1.3mol/L以下程度が好ましい。
なお、上記非水電解質は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩以外の成分を含んでいてもよく、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0023】
図3Aは、ここで開示される正極活物質を構成する正極活物質粒子10の構成を模式的に示す断面図である。また、
図3Bは、第2の粒子14の構造を模式的に示す断面図である。
図3Aおよび
図3Bに示されるように、正極活物質粒子10は、第1の粒子12が複数集合した第2の粒子14が含まれる。また、第2の粒子14の少なくとも一部の表面には、被覆層16が形成されている。
【0024】
第1の粒子12は、少なくともスピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物を含んでいる。スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物とは、スピネル型結晶構造を有しており、構成元素として、少なくともLi、Mn、Oを含有する酸化物のことをいう。典型的には、第1の粒子12はリチウムマンガン複合酸化物のみで構成されており、第1の粒子12全体がスピネル型結晶構造であることが好ましい。第1の粒子12の形状は特に限定されるものではないが、例えば、球状であってもよく、多面体状(例えば八面体状)等であってもよい。
【0025】
第1の粒子12を構成する典型的なスピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物としては、
一般式(化学式):Li1+zMn2-x-zMxO4
(上記化学式中、Mは1種以上の金属元素を表す。x、zはそれぞれ正の実数であり、x≦0.25、z≦0.15を具備する)で表される化合物が挙げられる。ここで、上記Mは、例えば、Al、Mg、Ni、Co、Ca、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等であり得る。このなかでも、上記リチウムマンガン複合酸化物は、Mg及び/又はAlを含むことが好ましい。MgおよびAlは充放電時に価数変化を起こさないため性質があるため、充放電に伴う第1の粒子および第2の粒子の膨張収縮を緩和することができる。これにより、充放電によって生じ得る正極活物質の割れの発生を抑制することができるため、耐久性が向上し、サイクル特性が向上する。
なお、リチウムマンガン複合酸化物の化学組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定することができる。
【0026】
第1の粒子12のSEM像に基づく平均粒子径は、5μm以上であることが好ましく、例えば、6μm以上であってよい。これにより、第1の粒子12の比表面積を小さくすることができる。比表面積が小さいことにより、第1の粒子12に含まれるマンガンが電解質(電解液)に溶出するのを抑制することができる。一方で、第1の粒子12の平均粒子径が大きすぎる場合、リチウムイオンの固相内拡散性が低下し、初期抵抗が増加し得るため好ましくない。さらに、充放電に伴う膨張収縮による粒子の割れが生じやすくなるため、サイクル特性が低下する原因となり得る。そのため、第1の粒子12のSEM像に基づく平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、例えば8μm以下であってもよい。
【0027】
第2の粒子14は、第1の粒子12が複数集合して構成されており、空隙を有していてもよい。かかる空隙は、例えば、粒子表面に開口部を有していてもよく、第1の粒子12に囲まれた開口部のない空隙であってもよい。
【0028】
第2の粒子14のSEM像に基づく平均粒子径は、典型的には10μm以上であって、例えば、12μm以上であってよく、15μm以上であってもよい。また、かかる平均粒子径は、20μm以下であることが好ましく、例えば18μm以下であってもよい。第2の粒子14の粒子径が大きすぎると、充放電に伴う膨張収縮によって粒子の割れが生じやすくなるため、サイクル特性の低下の原因となり得る。そのため、第2の粒子14の平均粒子径が上述の範囲であることにより、粒子の割れを抑制し、サイクル特性を向上させることができる。
【0029】
上述した第2の粒子14の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察された画像(SEM像)に基づいて測定することができる。具体的には、まず、第2の粒子14の平均粒子径の基準とするため、レーザー回折・光散乱法に基づくレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、第2の粒子の体積基準の粒度分布を測定し、小さな粒子側からの累積50体積%に相当する粒子径(メジアン径:D50)を測定する。次に、正極活物質をSEMで複数箇所観察し、複数のSEM像を取得した後、D50に相当する大きさの第2の粒子を無作為に複数個(例えば30個以上)選択する。次に、上記選択した複数の第2の粒子それぞれのSEM像における最長の径の長さを長径とし、該長径と直角に交わる線のうち最長の径の長さを短径とする。そして、該長径と該短径とからなる楕円の面積を用いて円相当径を換算する。これにより、上記選択した複数の第2の粒子の粒子径をそれぞれ算出する。その後、上記選択した複数の第2の粒子の粒子径の平均値を算出する。このようにして算出した平均値を、本明細書における「第2の粒子の平均粒子径」という。
【0030】
また、本明細書において「第1の粒子の平均粒子径」とは、上記選択した複数の第2の粒子において、それぞれの第2の粒子を構成する第1の粒子のうち、SEM像で粒子径全長が視認できる(即ち、他の第1の粒子により隠れている部分のない)第1の粒子の粒子径の平均値のことをいう。なお、上記選択した複数の第2の粒子それぞれから粒子径を算出する第1の粒子を1つ以上選択する。第1の粒子の粒子径の算出方法は上述した第2の粒子の粒子径の算出方法と同様であり、長径および短径を決定し、該長径と該短径とからなる楕円の面積を用いて円相当径を換算することによって算出することができる。
【0031】
第2の粒子14の表面の少なくとも一部には被覆層16が形成されている。被覆層16は、少なくともリチウムとニッケルとを含有するリチウムニッケル複合酸化物を含み、典型的には、被覆層16はリチウムニッケル複合酸化物のみで構成されている。被覆層16が形成されることにより、第2の粒子14の電解質(電解液)へと露出した表面積が低減するため、第2の粒子14に含まれるマンガンの溶出を抑制することができる。また、被覆層16に含まれるニッケルが、第2の粒子14に含まれるマンガンよりも優先的に溶出するため、マンガンの溶出を抑制することができる。これにより、電池容量の低下を抑制することができる。また、リチウムニッケル複合酸化物は、充放電に伴い酸化還元反応を起こす。これにより、リチウムニッケル複合酸化物は、充放電時に第2の粒子と共に膨張収縮する。このとき、リチウムニッケル複合酸化物は、第2の粒子の膨張収縮を緩和するように膨張収縮し得るため、第2の粒子に割れが生じることを抑制することができる。これにより、充放電の繰り返しに伴う抵抗増加や容量低下を抑制することができ、サイクル特性が向上する。
なお、被覆層16は、第2の粒子14が有し得る空隙に面した第1の粒子12の表面にも形成されていてもよい。
【0032】
リチウムニッケル複合酸化物は、少なくともLi、Ni、Oを含む酸化物であるが、これらの元素以外に、さらに他の金属元素を含み得る。他の金属としては、例えば、Al、Mg、Co、Mn、Ca、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等であり得る。これらは1種のみ含まれていてもよく、2種以上の複数含まれていてもよい。一好適例としては、リチウムニッケル複合酸化物は、コバルト(Co)を含んでいる。リチウムニッケル複合酸化物にコバルトが含まれることにより、充放電時の第2の粒子14の膨張収縮をより緩和するように膨張収縮し得る。これにより、第2の粒子14の割れが生じ難くなり、サイクル特性が向上し得る。
他の一好適例としては、リチウムニッケル複合酸化物は、アルミニウム(Al)を含んでいる。アルミニウムは、充放電時に価数変化がほとんど生じないため、界面反応抵抗が低減され、初期抵抗が低減される。また、充放電時の粒子の割れがより抑制される。また、他の一好適例においては、リチウムニッケル複合酸化物はマンガン(Mn)を含む。特に、層状岩塩型結晶構造を有したマンガンを含むリチウムニッケル複合酸化物(例えば、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2等)であることが好ましい。換言すれば、スピネル型結晶構造中のマンガンの価数よりも、層状岩塩型結晶構造中のマンガンの価数が高いことが好ましい。例えば、スピネル型結晶構造中におけるマンガンは、3価~4価が混在し得る。その一方で、例えば、層状岩塩型結晶構造を有する化合物であるLiNi0.4Co0.3Mn0.3O2に含まれるマンガンは概ね4価として存在するため、マンガンが溶出され難い状態となり得る。そのため、界面反応抵抗が低減され、初期抵抗が低減される。また、充放電時の粒子の割れをより抑制することができる。上述したリチウムニッケル複合酸化物としては、例えば、LiNiO2、LiNi0.8Co0.2O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2等の層状岩塩型結晶構造を有する化合物が代表例として挙げられる。
なお、被覆層16に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて測定することができる。
【0033】
正極活物質粒子10を構成する全体の化合物に対して、被覆層16に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の割合が高すぎる場合、充放電時にリチウムニッケル複合酸化物の膨張収縮が過剰となる。これにより、第2の粒子14の表面に力が加わり、粒子の割れを促進し得る。そのため、正極活物質を構成する化合物全体を100mol%としたとき、リチウムニッケル複合酸化物の割合は、例えば4mol%以下であるとよく、好ましくは3.5mol%以下、より好ましくは3mol%以下である。また、リチウムニッケル複合酸化物の割合が低すぎる場合、上述の被覆層16によるサイクル特性向上効果が不十分となり得る。そのため、正極活物質を構成する化合物全体を100mol%としたときのリチウムニッケル複合酸化物の割合は、典型的には0.1mol%以上であり、好ましくは0.3mol%以上であり、例えば1mol%以上であり得る。かかる割合は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いた組成分析によって算出することができる。
【0034】
被覆層16の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば0.1μm~2μm以下程度であり得る。かかる厚みは、SEMや透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡による観察によって測定することができる。
【0035】
次に、ここで開示される正極活物質の好適な製造方法の一例について説明する。なお、ここで開示される正極活物質の製造方法は下記に限られない。
【0036】
ここで開示される正極活物質粒子の好適な製造方法は、少なくともマンガンを含む水酸化物粒子を前駆体粒子として析出する工程(以下、「前駆体析出工程」ともいう)と、当該前駆体粒子とリチウム化合物との混合物を得る工程(以下、「混合工程」ともいう)と、当該混合物を焼成してリチウムマンガン複合酸化物粒子を得る工程(以下、「焼成工程」ともいう)と、被覆層の原料となるゲル状組成物を得る工程(以下、「ゲル状組成物準備工程」ともいう)と、当該ゲル状組成物と得られたリチウムマンガン複合酸化物粒子とを混合し、加熱処理することで被覆層が形成された正極活物質粒子を得る工程(以下、「被覆工程」)とを包含する。なお、これらの工程は、必ずしも上記順番で実施する必要はなく、例えば、ゲル状組成物準備工程を焼成工程よりも前に実施してもよい。
【0037】
まず、前駆体析出工程について説明する。前駆体析出工程は、通常の正極活物質の製造における公知方法と同様であってよい。まず、少なくともマンガン化合物が溶解した水溶液を準備する。マンガン化合物としては、例えば、硫酸マンガン、硝酸マンガン、ハロゲン化マンガン等の水溶性化合物を用いることができる。また、アルカリ化合物の水溶液を準備する。アルカリ化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができるが、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、アンモニア水を準備する。
【0038】
次に、所定温度(例えば、30℃~60℃)の反応容器中に水(好ましくはイオン交換水)を加え、撹拌する。雰囲気を不活性ガス(例えばN2ガス、Arガスなど)で置換しながら撹拌を続け、アルカリ化合物の水溶液を加えpHを調整する(例えばpH10~13)。
撹拌を続けながら、マンガン化合物の水溶液とアンモニア水とを反応容器に添加する。このとき、これらの添加により反応容器中のpHが低下するため、アルカリ化合物の水溶液により反応容器中のpHを10~13の範囲に調整する。その後、反応容器を静置して、前駆体粒子(水酸化物粒子)を十分に沈殿させる。その後、吸引濾過等によって上記前駆体粒子を回収し、水洗後、乾燥(例えば、120℃で一晩乾燥)を行うことにより、前駆体粉末を得ることができる。
【0039】
次に、混合工程について説明する。ここで用いるリチウム化合物としては、例えば、炭酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の焼成により酸化物となる化合物を用いることができる。
得られた前駆体粉末と、リチウム化合物の粉末とに加え、所定濃度の融剤(例えば、該粉末の混合物に対して、0.2mol%以上0.5mol%以下)を添加し混合する。融剤を添加して混合することにより、後述する焼成工程において第1の粒子の粒子成長を促進することができるため、第1の粒子の粒子径を増大することができる。融剤の種類は特に限定されるものではなく、公知の融剤(例えばB2O3粉末)を用いることができる。なお、混合する融剤の量(濃度)を調整することにより、第1の粒子の粒子径を調整することができる。
【0040】
混合には、公知の混合装置(例えば、シェーカミキサ、Vブレンダ、リボンミキサ、ジュリアミキサ、レーディゲミキサ等)を用いて、公知方法に従って混合することにより、混合物を得ることができる。
なお、前駆体粉末と、リチウム化合物との混合比を調整することにより、所望する正極活物質の元素比とすることができる。
【0041】
また、例えば、正極活物質にアルミニウム及び/又はマグネシウムを含有させる場合には、混合工程において、前駆体粉末と、リチウム化合物の粉末と、融剤とに加えて、さらにアルミニウム化合物の粉末及び/又はマグネシウム化合物を混合することによって製造することができる。アルミニウム化合物およびマグネシウム化合物は焼成により酸化物に変換される化合物を好ましく用いることができる。アルミニウム化合物としては、例えば、炭酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等を使用し得る。また、マグネシウム化合物としては、例えば、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等を使用し得る。また、かかる化合物の混合量を調整することにより、所望の元素比の正極活物質を得ることができる。
【0042】
次に、焼成工程について説明する。得られた混合物の焼成は、例えば、バッチ式の電気炉、連続式の電気炉等を用いて行うことができる。得られた混合物を加圧成型した後、例えば、大気雰囲気中で500℃~600℃で6時間~12時間加熱する。その後冷却し、加圧成型された混合物を粉砕し、再度成型する。再度成型した混合物を例えば900℃~1000℃で6時間~24時間焼成する。その後、例えば700℃で12時間~48時間のアニール処理を行う。アニール処理後、冷却し、再度混合物を粉砕することでリチウムマンガン複合酸化物粒子からなる粉末を得ることができる。なお、焼成時の昇温速度は、例えば、5℃/分~40℃/分(典型的には10℃/分)とすることができる。また、特に限定する意図はないが、冷却方法としては、例えば、焼成に用いた電気炉の電源を切り、自然放冷させればよい。
なお、融剤の濃度、焼成温度、焼成時間を調整することにより、第1の粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0043】
次に、ゲル状組成物準備工程について説明する。被覆層に含まれるリチウムニッケル複合酸化物の所望の組成となるように、リチウム化合物、ニッケル化合物とを水(好ましくはイオン交換水)に溶解させる。このとき、溶解性を高めるために水を加温してもよく(例えば50℃)、スターラ等を用いて撹拌してもよい。また、所望の組成に応じてコバルト化合物やマンガン化合物等を溶解させることができる。ここで用いる金属元素化合物は、典型的には酢酸塩が用いられ、他にも炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩等を用いることができる。
【0044】
その後、溶液中の撹拌を維持しながらキレート剤を添加する。かかるキレート剤としては、例えばグリコール酸やエチレングリコール等を用いることができる。次に、溶液のpHを所定の範囲(典型的にはpH6.5~7)に調整するために、水酸化アンモニウム(アンモニア水)を添加する。その後、溶液を所定の温度(例えば80℃~90℃)に調整し、所定時間(例えば、4時間~10時間)混合する。混合後、かかる溶液を乾燥させることにより、ゲル状組成物を得ることができる。なお、乾燥には、例えば80℃程度に加熱したエバポレータ等を使用することができる。また、乾燥条件によりゲル状組成物の粘度を調整することができる。
【0045】
次に、被覆工程について説明する。焼成工程で得られたリチウムマンガン複合酸化物粒子を含む粉末と、上記ゲル状組成物とを混合する。このとき、これらを分散媒(典型的には水)中で混合してもよく、例えば、スターラ等を用いて混合してもよい。また、ゲル状組成物の量を調整することで、所望の割合の被覆層を形成することができる。次に、混合物を乾燥させる。乾燥方法は特に限定されるものではなく、例えば、真空乾燥であってよい。その後、乾燥物に加熱処理を行う。加熱処理は、例えば750℃~950℃で6時間~8時間程度行うことができる。これにより、ここで開示される正極活物質が得られる。なお、混合物を乾燥させる前に、例えば濾過を行うことにより、所定の大きさ以上(例えば50μm以上)に増大した粒子(いわゆるダマ)を取り除いてもよい。また、濾過の前に、遠心分離により所定の大きさ以上の粒子を取り除いてもよい。
【0046】
リチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。例えば、車両に搭載されるモーター用の高出力動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
【0047】
以上、一例として扁平形状の捲回電極体を備えた角型のリチウムイオン二次電池について説明した。しかしながら、これは一例に過ぎず限定されるものではない。例えば、捲回電極体の代わりに、シート状の正極とシート状の負極とがセパレータを介して交互に積層された積層型電極体を備えたリチウムイオン二次電池であってもよい。また、非水電解質として、例えばゲル状電解質を使用してもよい。また、角型電池ケースの代わりに、円筒型、コイン型等の形状の電池ケースを用いてもよく、電池ケースの代わりにラミネートフィルムを用いたラミネート型二次電池であってもよい。
【0048】
以下、ここで開示される技術に関する実施例を説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0049】
<正極活物質の作製>
(例1)
イオン交換水に硫酸マンガンを溶解させ、所定の濃度となるように硫酸マンガン水溶液を調製した。また、イオン交換水を用いて水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液をそれぞれ調製した。なお、用いたイオン交換水はあらかじめ不活性ガスを通気させて溶存酸素を取り除いたものを使用した。
イオン交換水を30℃~60℃の範囲内に保ちながら撹拌し、上記水酸化ナトリウム水溶液により所定のpH(pH10~13)に調整した。そして、該所定のpHに制御しながら、上記硫酸マンガン水溶液、水酸化ナトリウム水溶液およびアンモニア水溶液を加えることにより、共沈生成物(水酸化物)を得た。得られた水酸化物をろ過し、水洗した後、120℃のオーブン内で乾燥させて水酸化物粉末(正極活物質前駆体粉末)を得た。
得られた正極活物質前駆体粉末と、水酸化リチウム粉末とを、リチウム(Li)とマンガン(Mn)とのモル比がLi:Mn=1.1:1.9となるように準備した。次に、準備した粉末全体に対して0.2mol%~0.5mol%となるようにB2O3粉末を添加し、混合した。かかる混合物を加圧成型して、大気雰囲気中550℃で12時間加熱し、冷却後、粉砕した。粉砕した混合物を再成型し、900℃~1000℃で6時間~24時間焼成後、700℃で12時間~48時間アニール処理を行った。なお、上記焼成時の昇温速度は10℃/分とした。かかるアニール処理後、冷却し、得られた混合物を粉砕することで、例1の正極活物質を得た。
【0050】
(例2~10)
例1と同様にして正極活物質前駆体粉末を得た。得られた正極活物質前駆体粉末と、水酸化リチウム粉末と、水酸化マグネシウム粉末とを準備し、表1に示す第2の粒子の組成となるよう各例で混合した。また、かかる混合時に、粉末全体に対して0.2mol%~0.5mol%となるようにB2O3粉末を添加した。かかる混合物を加圧成型して、大気雰囲気中550℃で12時間加熱し、冷却後、粉砕した。粉砕した混合物を再成型し、900℃~1000℃で6時間~24時間焼成後、700℃で12時間~48時間アニール処理を行った。なお、上記焼成時の昇温速度は10℃/分とした。かかるアニール処理後、冷却し、得られた混合物を粉砕した。このようにして、スピネル型結晶構造を含む粒子からなる正極活物質粉末(第2の粒子からなる粉末)を得た。
次に、酢酸ニッケル粉末、酢酸コバルト粉末および酢酸リチウム粉末を準備した。これらをLi:Ni:Co=1:0.8:0.2のモル比となるようにイオン交換水に加え、50℃下でスターラで撹拌することにより溶解させた。撹拌を維持しながら、キレート剤として70%グリコール酸溶液を滴下した。次に、pHが6.5~7.0となるように水酸化アンモニウムをゆっくり滴下し、溶液を80℃~90℃で6時間混合した。その後、80℃で加熱したエバポレータで乾燥させ、粘稠なゲル状組成物を作製した。次に、得られたゲル状組成物と上記スピネル型構造の正極活物質粉末とをイオン交換水に加え、スターラで混合した。このとき、上記ゲル状組成物と上記第2の粒子からなる粉末との合計に対する該ゲル状組成物の割合が、表1に示す被覆層の割合となるようにした。混合後、遠心分離を行い、濾過した後、さらに真空乾燥を行った。その後、750℃で6時間加熱処理を行うことにより例2~10の正極活物質を得た。
【0051】
(例11~13)
上述の例2~10の正極活物質の製造方法のうち、水酸化マグネシウム粉末を水酸化アルミニウム粉末に変更した以外は同様に実施し、例11~13の正極活物質を得た。なお、第2の粒子の組成は、表1に示す組成となるようにした。
(例14)
上述の例2~10の正極活物質の製造方法のうち、ゲル状組成物と第2の粒子からなる粉末とを混合する際に、さらに水酸化アルミニウム粉末を添加し、混合した。これ以外の工程は、上述の例2~10の正極活物質の製造方法と同様にして例14の正極活物質を得た。なお、第2の粒子および被覆層の組成は表1に示す組成となるようにした。
(例15)
上述の例2~10の正極活物質の製造方法のうち、ゲル状組成物を調製する工程において、酢酸ニッケル粉末、酢酸コバルト粉末、酢酸リチウム粉末に加えて、酢酸マンガン粉末を準備し、表1に示す被覆層の組成となるようにイオン交換水に溶解した。これ以外の工程は、上述の例2~10の正極活物質の製造方法と同様にして例15の正極活物質を得た。
(例16~17)
上述の例2~10の正極活物質の製造方法のうち、ゲル状組成物を調製する工程において、酢酸ニッケル粉末および酢酸リチウム粉末を用いて、表1に示す被覆層の組成となるようにイオン交換水に溶解した。これ以外の工程は、上述の例2~10の正極活物質の製造方法と同様にして例16および例17の正極活物質を得た。
【0052】
<第1の粒子および第2の粒子の平均粒子径の算出>
各例において、ゲル状組成物と混合する前の粉末に含まれる粒子(被覆層を備えていない第2の粒子)のメジアン径(D50)をレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した。次に、かかる粉末に含まれる粒子のSEM像を取得した。得られたSEM像の中から、それぞれD50に相当する大きさの第2の粒子を任意(無作為)に30個選択した。そして、該30個の第2の粒子の粒子径を上述した方法で算出し、これらの平均値を第2の粒子の平均粒子径とした。結果を表1に示す。
また、上記選択した30個の第2の粒子それぞれにおいて、該第2の粒子に含まれる第1の粒子の中から、SEM像において粒子全体が視認できる(即ち、他の粒子に隠れている部分がない)第1の粒子を選択し、上述した方法で該第1の粒子の粒子径を算出し、これらの平均値を第1の粒子の平均粒子径とした。結果を表1に示す。
【0053】
<正極活物質の組成分析>
各例において、ゲル状組成物と混合する前の粉末(被覆層を備えていない第2の粒子からなる粉末)および被覆層を備えた正極活物質粉末を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析を行い、各元素の含有量を測定した。これにより、第2の粒子の平均化学組成および被覆層の割合を算出した。また、上記作製した正極活物質それぞれを樹脂埋めし、粗断面を作製後、クロスセクションポリッシャー(CP)法による断面加工を行った。かかる断面をSEMで1000倍の倍率で複数箇所観察し、D50に相当する大きさの第2の粒子を無作為に20個選択した。選択した20個の第2の粒子を3000倍または5000倍の倍率で撮影し、断面SEM像を得た。そして、選択した第2の粒子それぞれの表面について3か所ずつエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いて組成分析を行った。これらの平均値を被覆層の組成とした。これらの結果を表1に示す。
【0054】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
評価用リチウム二次電池として、上記作製した正極活物質と、導電材としてのカーボンブラック(CB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:CB:PVDF=90:8:2の質量比となるようにN-メチル-2-ピロリドン中で混合し、正極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストをアルミニウム箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させることで塗布シートを作製した。そして、かかる塗布シートをロールプレスすることにより高密度化させ、正極シートを作製した。
負極活物質として、天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比となるようにイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用ペーストを調製した。このペーストを銅箔集電体に均一に塗布し、加熱乾燥させることで塗布シートを作製した。そして、かかる塗布シートをロールプレスすることにより、負極シートを作製した
また、セパレータとしてPP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを用意した。
作製した正極シートおよび負極シートをセパレータを介して対向させて積層し、積層型電極体を作製した。該積層型電極体に集電端子を取り付け、アルミラミネート型袋に収容した。そして、積層型電極体に非水電解液を含浸させ、アルミラミネート袋の開口部を封止し密閉することによって評価用リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0055】
<活性化処理および初期放電容量の測定>
上記作製した各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、定電圧充電時の電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、定電流方式により、各評価用リチウムイオン二次電池を0.1Cの電流値で3.0Vまで放電した。このときの放電容量を初期放電容量とした。なお、かかる充放電の操作は25℃で行った。また、ここで「1C」とは、1時間でSOC(state of charge)を0%から100%まで充電できる電流の大きさのことをいう。
【0056】
<初期抵抗の測定>
各評価用リチウムイオン二次電池を、電池容量の50%(SOC=50%)の状態に調整した。次に、-10℃の環境下で種々の電流値で電流を流し、2秒後の電池電圧を測定した。そして、流した電流と電圧変化を直線補間し、その傾きから抵抗値(初期抵抗)を算出した。例1の初期抵抗を1.0としたときの各例の初期抵抗の相対値を算出し、結果を表1に示す。
【0057】
<高温耐久後抵抗増加率および高温耐久後容量維持率の測定>
初期抵抗を測定した各評価用リチウムイオン二次電池に対し、60℃の環境下でサイクル試験を実施した。具体的には、1Cで4.2Vまで定電流充電を行った後、1Cで3.0Vまで定電流放電を行うことを1サイクルとして、かかるサイクルを50サイクル繰り返した。そして、50サイクル後の放電容量および抵抗値を上記と同じ方法で測定した。得られた放電容量を用いて、高温耐久後容量維持率を以下の:
(50サイクル後の放電容量)/(初期放電容量)×100
により算出した。また、高温耐久後抵抗増加率を以下の式:
(50サイクル後の抵抗)/(初期抵抗)×100
により算出した。これら算出した高温耐久後容量維持率および高温耐久後抵抗増加率それぞれにおいて、例1を1.0としたときの各例の相対値を算出した。その結果を表1に示す。なお、高温耐久後容量維持率は値が高いほど優れたサイクル特性を示しており、高温耐久後抵抗増加率の値は低いほど優れたサイクル特性であることを示している。
【0058】
【0059】
表1に示すように、例1と比較して、例2~6、例8~9、例12~16は優れたサイクル特性を有しており、初期抵抗も低減されていた。これらは、スピネル型結晶構造のリチウムマンガン複合酸化物を有しており、第1の粒子の平均粒子径が5μm以上10μm以下であり、第2の粒子の平均粒子径は10μm以上20μm以下であり、さらに、被覆層の割合が3.5mol%以下である特徴を有している。また、これらの被覆層は少なくともニッケルを含むリチウムニッケル複合酸化物によって構成されている。これにより、かかる特徴を有した正極活物質は優れたサイクル特性が実現され、さらに初期抵抗が低減されることが確かめられた。また、リチウムニッケル複合酸化物において、ニッケルに加え、コバルト、アルミニウムおよびマンガンのうち少なくとも一種が含有されていることで、特に優れたサイクル特性が実現され、初期抵抗もより低減されることがわかる。
【0060】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0061】
10 正極活物質粒子
12 第1の粒子
14 第2の粒子
16 被覆層
20 電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極
52 正極集電体
52a 正極集電体露出部
54 正極活物質層
60 負極
62 負極集電体
62a 負極集電体露出部
64 負極活物質層
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池