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  • 特許-眼鏡レンズ、組成物 図1
  • 特許-眼鏡レンズ、組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ、組成物
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20230510BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20230510BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20230510BHJP
【FI】
G02C7/02
G02B1/11
G02B1/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021519374
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2020018326
(87)【国際公開番号】W WO2020230655
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2019090202
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】伊神 優香
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-209232(JP,A)
【文献】特開2015-224294(JP,A)
【文献】特表2016-507640(JP,A)
【文献】特開2008-184556(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124204(WO,A1)
【文献】特開2009-127092(JP,A)
【文献】特開2006-233252(JP,A)
【文献】特開2011-113050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02B 1/10- 1/18
H01B 1/00- 1/24
H01B 5/00- 5/16
C09D 4/02
C09D 7/61
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズ基材と、
ハードコート層とを含み、
前記眼鏡レンズ基材と前記ハードコート層との間にプライマー層を含む場合には、前記プライマー層および前記ハードコート層の少なくとも一方が、金属ナノワイヤーと前記金属ナノワイヤーを被覆するイオン液体とを含むイオン液体被覆ナノワイヤー、および、金属ナノ粒子と前記金属ナノ粒子を被覆するイオン液体とを含むイオン液体被覆ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の導電性フィラーを含み、
前記眼鏡レンズ基材と前記ハードコート層との間にプライマー層を含まない場合には、前記ハードコート層が、前記イオン液体被覆ナノワイヤー、および、前記イオン液体被覆ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の導電性フィラーを含む、眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記イオン液体が、アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、および、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子および前記金属ナノワイヤーに含まれる金属が、銀、金、銅、ニッケル、および、白金からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記ハードコート層が、前記導電性フィラーを含み、
前記ハードコート層が、重合性モノマー、および、前記導電性フィラーを含むハードコート層形成用組成物を用いた形成されたハードコート層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記重合性モノマーが、リン酸基、および、スルホン酸基からなる群から選択される基を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレートを含む、請求項4に記載の眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記重合性モノマーが、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンを含む、請求項4または5に記載の眼鏡レンズ。
【請求項7】
前記ハードコート層上に配置される反射防止膜を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ、および、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物を含む硬化性樹脂組成物は、ハードコート剤として有用である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-224294号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示は、眼鏡レンズ基材と、ハードコート層とを含み、眼鏡レンズ基材とハードコート層との間にプライマー層を含む場合には、プライマー層およびハードコート層の少なくとも一方が、金属ナノワイヤーと金属ナノワイヤーを被覆するイオン液体とを含むイオン液体被覆ナノワイヤー、および、金属ナノ粒子と金属ナノ粒子を被覆するイオン液体とを含むイオン液体被覆ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の導電性フィラーを含み、眼鏡レンズ基材とハードコート層との間にプライマー層を含まない場合には、ハードコート層が、イオン液体被覆ナノワイヤー、および、イオン液体被覆ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の導電性フィラーを含む、眼鏡レンズに関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】眼鏡レンズの第1実施形態の断面図である。
図2】眼鏡レンズの第2実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本実施形態の眼鏡レンズについて詳述する。
眼鏡レンズとしては、表面抵抗率が低い眼鏡レンズが望まれている。本実施形態の眼鏡レンズでは、上記特性が得られる。また、後述するように、眼鏡レンズ中のハードコート層に後述する導電性フィラーが含まれる場合、ハードコート層上に反射防止膜を配置した際の耐擦傷性にも優れる。また、眼鏡レンズ中の隣接する層同士は、密着性に優れる。
なお、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0007】
<第1実施形態>
図1は、眼鏡レンズの第1実施形態の断面図である。
図1に示す眼鏡レンズ10Aは、眼鏡レンズ基材12と、眼鏡レンズ基材12の両面上に配置されたハードコート層14Aとを含む。
なお、図1においては、ハードコート層14Aは眼鏡レンズ基材12に直接接触するように配置されているが、この形態には制限されず、後述するように、眼鏡レンズ基材12とハードコート層14Aとの間に他の層(例えば、プライマー層)が配置されていてもよい。つまり、ハードコート層14Aは、眼鏡レンズ基材12上に直接配置されていてもよいし、他の層を介して間接的に眼鏡レンズ基材12上に配置されていてもよい。
また、図1においては、眼鏡レンズ基材12の両面にハードコート層14Aが配置されているが、眼鏡レンズ基材12の片面のみにハードコート層14Aが配置されていてもよい。
なお、本実施形態においては、ハードコート層14Aに後述する所定の導電性フィラーが含まれる。
以下、眼鏡レンズ10Aに含まれる各部材について詳述する。
【0008】
(眼鏡レンズ基材)
眼鏡レンズ基材は、後述するハードコート層を支持する部材である。
眼鏡レンズ基材の種類は特に制限されず、プラスチック、無機ガラスなどから構成される通常の眼鏡レンズ基材が挙げられ、取扱い性に優れる点で、プラスチック眼鏡レンズ基材が好ましい。
プラスチック眼鏡レンズ基材の種類は特に制限されないが、例えば、凸面および凹面共に光学的に仕上げ、所望の度数にあわせて成形されるフィニッシュレンズ、凸面のみが光学面(球面、回転対象非球面、累進面など)として仕上げられているセミフィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズの凹面が装用者の処方に合わせて加工研磨されたレンズが挙げられる。
プラスチック眼鏡レンズ基材を構成するプラスチック(いわゆる、樹脂)の種類は特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエ-テルサルホン系樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1系樹脂、および、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系樹脂(CR-39)が挙げられる。
【0009】
プラスチック眼鏡レンズ基材の厚さは特に制限されないが、取り扱い性の点から、1~30mm程度の場合が多い。
プラスチック眼鏡レンズ基材の屈折率は特に制限されない。
また、プラスチック眼鏡レンズ基材は透光性を有していれば透明でなくてもよく、紫外線吸収剤や、紫外域から赤外域にかけての特定の波長領域を吸収する染料を含んでいてもよい。
【0010】
(ハードコート層)
ハードコート層は、眼鏡レンズ基材上に配置される層であり、眼鏡レンズ基材に耐傷性を付与する層である。
ハードコート層としては、JIS K5600において定められた試験法による鉛筆硬度で、「H」以上の硬度を示すものが好ましい。
【0011】
第1実施形態中のハードコート層は、金属ナノワイヤーと金属ナノワイヤーを被覆するイオン液体とを含むイオン液体被覆ナノワイヤー、および、金属ナノ粒子と金属ナノ粒子を被覆するイオン液体とを含むイオン液体被覆ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種の導電性フィラー(以後、単に「特定フィラー」とも称する。)を含む。
【0012】
イオン液体被覆ナノワイヤー中の金属ナノワイヤーに含まれる金属の種類は特に制限されないが、眼鏡レンズの表面抵抗率がより低下する点(以後、単に「所定の効果がより優れる点」とも称する。)で、銀、金、銅、ニッケル、および、白金からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、銀または金がより好ましく、銀がさらに好ましい。
なお、金属ナノワイヤーとは、材質が金属であり、形状が針状または糸状であり、直径がナノメートルサイズの導電物質をいう。金属ナノワイヤーは直線状であってもよく、曲線状であってもよい。
【0013】
金属ナノワイヤーの直径は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。下限としては、10nm以上の場合が多い。
上記金属ナノワイヤーの直径は平均値であり、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、金属ナノワイヤーの断面を観察して、20か所の金属ナノワイヤーの直径を測定して、それらを算術平均して求める。なお、断面が真円状でない場合、長径を直径とする。
【0014】
金属ナノワイヤーの長さは特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、5~1000μmが好ましく、10~500μmがより好ましい。
上記金属ナノワイヤーの長さは平均値であり、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、20個の金属ナノワイヤーの長さを測定して、それらを算術平均して求める。
【0015】
金属ナノワイヤーの直径dと長さLとの比(アスペクト比:L/d)は特に制限されないが、10~100000が好ましく、50~100000がより好ましい。
金属ナノワイヤーの直径および長さの測定方法は、上述した通りである。
【0016】
イオン液体被覆ナノワイヤーに含まれるイオン液体の種類は特に制限されず、所定の効果がより優れる点で、アンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、および、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、アンモニウム塩、イミダゾリウム塩がより好ましい。
なお、イオン液体とは、カチオン(例えば、有機アニオン)とアニオン(例えば、有機アニオンまたは無機アニオン)とからなる塩であって、融点が100℃以下のものをいう。イオン液体としては、単体で、常温(25℃)、常圧で固化せず液体状であるものが好ましい。
【0017】
アンモニウム塩(好ましくは、第4級アンモニウム塩)に含まれるカチオンはアンモニウムカチオン(第4級アンモニウムカチオン)である。
イミダゾリウム塩に含まれるカチオンは、イミダゾリウムカチオンである。
ピリジニウム塩に含まれるカチオンは、ピリジニウムカチオンである。
ピロリジニウム塩に含まれるカチオンは、ピロリジニウムカチオンである。
ホスホニウム塩に含まれるカチオンは、ホスホニウムカチオンである。
スルホニウム塩に含まれるカチオンは、スルホニウムカチオンである。
【0018】
イオン液体に含まれるアニオンは特に制限されないが、例えば、ハロゲン化物イオン、シアニドイオン、ジシアノアミンアニオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ノナフルオロブタンスルホン酸イオン、テトラフルオロエタンスルホン酸イオン、乳酸アニオン、サリチル酸イオン、チオサリチル酸イオン、ジブチルリン酸イオン、酢酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、硫酸水素イオン、硫酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、テトラクロロアルミン酸イオン、チオシアン酸イオン、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドイオン、アミノ酢酸イオン、アミノプロピオン酸イオン、ジエチルリン酸イオン、ジメチルリン酸イオン、エチル硫酸イオン、メチル硫酸イオン、水酸化物イオン、ビス(トリメチルペンチル)ホスフィン酸イオン、デカン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、鉄酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、スルホニルアミド、ブタンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン、および、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオンが挙げられる。
【0019】
イオン液体は、分子内の極性基(例えば、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホキシル基等)を有していてもよい。イオン液体が極性基を有することにより、イオン液体が金属ナノワイヤーに配位しやすくなる。また、イオン液体が極性基(特に、水酸基)を有することにより、イオン液体被覆ナノワイヤーと後述する組成物に含まれる他の成分(例えば、重合性モノマー)との相溶性が向上する。
【0020】
イオン液体としては、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、および、式(3)で表される化合物が好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有していてもよいアルキル基を有するグリコール基を表す。R1~R4のうち2つが互いに結合して環を形成していてもよい。形成される環としては、ピペリジン環、および、ピロリジン環が挙げられる。形成される環の具体例としては、ピロリジル基、2-メチルピロリジル基、3-メチルピロリジル基、2-エチルピロリジル基、3-エチルピロリジル基、2,2-ジメチルピロリジル基、2,3-ジメチルピロリジル基、ピペリジル基、2-メチルピペリジル基、3-メチルピペリジル基、4-メチルピペリジル基、2,6-ジメチルピペリジル基、および、2,2,6,6-テトラメチルピペリジル基が挙げられる。
アルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~20が好ましく、1~6がより好ましい。アルキル基は直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、および、シクロヘキシル基が挙げられる。
1~R4で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基の種類は特に制限されないが、例えば、アリール基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、および、上述した極性基が挙げられる。
式(1)中のX-は、アニオンを表す。アニオンとしては、上述したイオン液体に含まれるアニオンで例示した基が挙げられる。
【0023】
式(2)中、R5~R6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
5~R6で表されるアルキル基の定義および好適態様としては、上述したR1~R4で表されるアルキル基の定義および好適態様と同じである。
5~R6で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基としては、R1~R4で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基が挙げられる。
7~R9は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
7~R9で表されるアルキル基の定義および好適態様としては、上述したR1~R4で表されるアルキル基の定義および好適態様と同じである。
7~R9で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基としては、R1~R4で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基が挙げられる。
式(2)中のX-は、アニオンを表す。アニオンとしては、上述したイオン液体に含まれるアニオンで例示した基が挙げられる。
【0024】
式(3)中、R10は、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
10で表されるアルキル基の定義および好適態様としては、上述したR1~R4で表されるアルキル基の定義および好適態様と同じである。
10で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基としては、R1~R4で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基が挙げられる。
11~R15は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
11~R15で表されるアルキル基の定義および好適態様としては、上述したR1~R4で表されるアルキル基の定義および好適態様と同じである。
11~R15で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基としては、R1~R4で表されるアルキル基に置換していてもよい置換基が挙げられる。
式(3)中のX-は、アニオンを表す。アニオンとしては、上述したイオン液体に含まれるアニオンで例示した基が挙げられる。
【0025】
イオン液体被覆ナノワイヤー中において、イオン液体は金属ナノワイヤーを被覆している。つまり、イオン液体は、金属ナノワイヤーを被覆するように、金属ナノワイヤー上に配置されている。イオン液体は金属ナノワイヤーと相互作用(例えば、配位結合)しやすく、後述するように、所定の条件下にて、両者を混合することにより、イオン液体被覆ナノワイヤーが得られる。
イオン液体被覆ナノワイヤーの存在の確認する方法としては、例えば、イオン液体被覆ナノワイヤーを含む溶液の吸収スペクトルを測定することにより、イオン液体被覆ナノワイヤー由来の吸収特性を確認する方法が挙げられる。また、イオン液体被覆ナノワイヤーに対してエネルギー分散型X線分析(EDX)を行い、金属ナノワイヤーの周囲にイオン液体由来の元素を検出することにより、イオン液体被覆ナノワイヤーの存在を確認する方法が挙げられる。
【0026】
イオン液体被覆ナノ粒子中の金属ナノ粒子に含まれる金属の種類は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、銀、金、銅、ニッケル、および、白金からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、銀または金がより好ましい。
なお、金属ナノ粒子とは、材質が金属であり、形状が粒子状である導電物質をいう。
【0027】
金属ナノ粒子の平均粒径は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、1~500nmが好ましく、5~100nmがより好ましい。
なお、上記平均粒径は、透過型電子顕微鏡にて20個以上の金属粒子の直径を測定して、それらを算術平均して求める。なお、金属ナノ粒子が真円状でない場合、長径を直径とする。
【0028】
イオン液体被覆ナノ粒子に含まれるイオン液体としては、上述したイオン液体被覆ナノワイヤーに含まれるイオン液体で例示した化合物が挙げられる。
上述したように、イオン液体は、分子内の極性基(例えば、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホキシル基等)を有していてもよい。イオン液体が極性基を有することにより、イオン液体が金属ナノ粒子に配位しやすくなる。また、イオン液体が極性基(特に、水酸基)を有することにより、イオン液体被覆ナノ粒子と後述する組成物に含まれる他の成分(例えば、重合性モノマー)との相溶性が向上する。
【0029】
イオン液体被覆ナノ粒子中において、イオン液体は金属ナノ粒子を被覆している。つまり、イオン液体は、金属ナノワイヤーを被覆するように、金属ナノ粒子上に配置されている。イオン液体は金属ナノ粒子と相互作用(例えば、配位結合)しやすく、後述するように、所定の条件下にて、両者を混合することにより、イオン液体被覆ナノ粒子が得られる。
イオン液体被覆ナノ粒子の存在の確認する方法としては、例えば、イオン液体被覆ナノ粒子を含む溶液の吸収スペクトルを測定することにより、イオン液体被覆ナノ粒子由来の吸収特性を確認する方法が挙げられる。また、イオン液体被覆ナノ粒子に対してエネルギー分散型X線分析(EDX)を行い、金属ナノ粒子の周囲にイオン液体由来の元素を検出することにより、イオン液体被覆ナノ粒子の存在を確認する方法が挙げられる。
【0030】
上記特定フィラー(イオン液体被覆ナノワイヤーおよびイオン液体被覆ナノ粒子)の製造方法は特に制限されないが、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子とイオン液体とを混合して、加熱する方法が挙げられる。
加熱条件は使用されるイオン液体の種類により最適な条件が選択されるが、70℃以上の温度で加熱する(好ましくは、1時間以上加熱する)ことにより、アルコールを始めとする種々の溶媒に均一に分散する上記特定フィラーを得ることができる。
【0031】
上記方法を実施する際には、必要に応じて、溶媒の存在下にて実施してもよい。例えば、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子とイオン液体と溶媒とを混合して、加熱する方法が挙げられる。
金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子とイオン液体との混合質量比(金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子の質量/イオン液体の質量)は特に制限されないが、0.5~5が好ましく、1.0~2.5がより好ましい。
溶媒としては、水、または、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の種類は特に制限されず、例えば、アルコール系溶媒(例えば、エタノール)、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、および、スルホキシド系溶媒が挙げられる。
また、上記方法を実施する際には、必要に応じて、酸の存在下にて実施してもよい。
使用される酸としては、硝酸、塩酸、および、硫酸が挙げられる。
【0032】
特定フィラーを含むハードコート層を形成する際には、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子とイオン液体と溶媒とを含む混合物(必要に応じて、酸が含まれていてもよい)に加熱処理を施して、溶媒を除去して得られる残渣物(特定フィラーを含む固形物、または、特定フィラーとイオン液体の混合溶液)を用いてもよい。つまり、ハードコート層は、上記残渣物を含んでいてもよい。
【0033】
ハードコート層には、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子を被覆していないイオン液体が含まれていてもよい。
また、ハードコート層には、イオン液体が被覆していない、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子が含まれていてもよい。
【0034】
ハードコート層中における金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層全質量に対して、1.0~50質量%が好ましく、2.0~30質量%がより好ましく、3.0~10質量%がさらに好ましい。
なお、上記「ハードコート層中における金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量」とは、特定フィラー由来の金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量と、イオン液体が被覆していない金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量とを合計したものである。
【0035】
ハードコート層中におけるイオン液体の含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層全質量に対して、0.5~20質量%が好ましく、1.0~10質量%がより好ましい。
なお、上記「ハードコート層中におけるイオン液体の含有量」とは、特定フィラー由来のイオン液体の含有量と、特定フィラーには含まれないイオン液体の含有量とを合計したものである。
【0036】
第1実施形態中のハードコート層は、上記特定フィラー以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、ハードコート層は、重合性モノマーの重合体(重合性モノマーを重合させて得られる重合体)が挙げられる。
重合性モノマーは特に制限されないが、例えば、後述する、特定(メタ)アクリレートや、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンや、多官能アクリレートが挙げられる。なかでも、ハードコート層は、特定(メタ)アクリレート、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン、および、多官能アクリレートの3種を含む重合性モノマーを重合させて得られる重合体を含むことが好ましい。
また、ハードコート層は、後述する金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
【0037】
ハードコート層の形成方法は特に制限されず、特定フィラーを含むハードコート層形成用組成物を用いて形成する方法が挙げられる。なかでも、重合性モノマー、および、特定フィラーを含むハードコート層形成用組成物を用いる方法が好ましい。
ハードコート層形成用組成物の形態は後段で詳述する。
【0038】
ハードコート層の形成方法としては、ハードコート層形成用組成物を眼鏡レンズ基材上に塗布して塗膜を形成し、塗膜に対して光照射処理などの硬化処理を実施する方法が挙げられる。
なお、塗膜を形成した後、必要に応じて、塗膜から溶媒を除去するために、加熱処理などの乾燥処理を実施してもよい。
眼鏡レンズ基材上にプライマー層が配置されている場合には、ハードコート層の形成方法としては、プライマー層上にハードコート層形成用組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に対して光照射処理などの硬化処理を実施する方法が挙げられる。
【0039】
ハードコート層形成用組成物を眼鏡レンズ基材上に塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、ディッピングコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェットコーティング法、および、フローコーティング法)が挙げられる。例えば、ディッピングコーティング法を用いる場合、ハードコート層形成用組成物に眼鏡レンズ基材を浸漬し、その後、眼鏡レンズ基材を引き上げて乾燥することにより、眼鏡レンズ基材上に所定の膜厚の塗膜を形成できる。
眼鏡レンズ基材上に形成される塗膜の膜厚は特に制限されず、所定のハードコート層の膜厚となるような膜厚が適宜選択される。
【0040】
光照射処理の条件は特に制限されず、使用される重合開始剤の種類によって適した条件が選択される。
光照射の際の光の種類は特に制限されないが、例えば、紫外線および可視光線が挙げられる。光源としては、例えば、高圧水銀灯が挙げられる。
光照射の際の積算光量は特に制限されないが、生産性および塗膜の硬化性の点で、100~5000mJ/cm2が好ましく、100~2000mJ/cm2がより好ましい。
【0041】
ハードコート層の膜厚は特に制限されないが、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。なお、膜厚の上限は、例えば、30μm以下とすることができる。
上記膜厚は平均膜厚であり、その測定方法としては、ハードコート層の任意の5点の膜厚を測定し、それらを算術平均して求める。
【0042】
(他の部材)
眼鏡レンズの第1実施形態は、上述した眼鏡レンズ基材およびハードコート層以外の他の部材を含んでいてもよい。
他の部材としては、例えば、プライマー層、および、反射防止膜が挙げられる。
【0043】
プライマー層は、眼鏡レンズ基材とハードコート層との間に配置される層であり、ハードコート層の眼鏡レンズ基材に対する密着性を向上させ、眼鏡レンズ基材に耐衝撃性を付与する層である。
プライマー層を構成する材料は特に制限されず、公知の材料を使用でき、例えば、主に樹脂が使用される。使用される樹脂の種類は特に制限されず、例えば、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、および、ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、ポリウレタン系樹脂が好ましい。
プライマー層は、上記樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、および、Tiから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物微粒子またはこれらの複合酸化物微粒子、加水分解性ケイ素化合物および/またはその加水分解縮合物、上述した特定フィラー、および、界面活性剤が挙げられる。
また、プライマー層は、特定フィラーを含んでいてもよい。つまり、プライマー層とハードコート層との両方が、特定フィラーを含んでいてもよい。
プライマー層中における金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量、並びに、プライマー層中におけるイオン性液体の含有量の好適範囲としては、後述する第2実施形態で述べる範囲が挙げられる。
【0044】
プライマー層の形成方法は特に制限されず、公知の方法を採用でき、例えば、所定の樹脂を含むプライマー層形成用組成物を眼鏡レンズ基材上に塗布して、必要に応じて硬化処理を施して、プライマー層を形成する方法が挙げられる。
プライマー層形成用組成物を塗布する方法は特に制限されず、例えば、ハードコート層形成用組成物を眼鏡レンズ基材上に塗布する方法で例示した方法が挙げられる。
プライマー層の厚さは特に制限されないが、0.3~2μmが好ましい。
【0045】
眼鏡レンズは、ハードコート層上に配置される反射防止膜をさらに含んでいてもよい。
反射防止膜は、入射した光の反射を防止する機能を有する層である。具体的には、400~780nmの可視領域全域にわたって、低い反射特性(広帯域低反射特性)を有することができる。
【0046】
反射防止膜の構造は特に制限されず、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
反射防止膜としては、無機反射防止膜が好ましい。無機反射防止膜とは、無機化合物で構成される反射防止膜である。
多層構造の場合、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層した構造が好ましい。なお、高屈折率層を構成する材料としては、例えば、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ニオブ、タンタル、または、ランタンの酸化物が挙げられる。また、低屈折率層を構成する材料としては、例えば、シリカの酸化物が挙げられる。
反射防止膜の製造方法は特に制限されないが、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法、および、CVD法などの乾式法が挙げられる。
【0047】
<第2実施形態>
図2は、眼鏡レンズの第2実施形態の断面図である。
図2に示す眼鏡レンズ10Bは、眼鏡レンズ基材12と、眼鏡レンズ基材12の両面上に配置されたプライマー層16と、プライマー層16上に配置されたハードコート層14Bとを含む。
図2においては、眼鏡レンズ基材12の両面にプライマー層16およびハードコート層14Bが配置されているが、眼鏡レンズ基材12の片面のみにプライマー層16およびハードコート層14Bが配置されていてもよい。
なお、本実施形態においては、プライマー層16に上述した特定フィラーが含まれる。ハードコート層14Bには、特定フィラーは含まれない。
以下、眼鏡レンズ10Bに含まれる各部材について詳述する。
【0048】
眼鏡レンズの第2実施形態に含まれる眼鏡レンズ基材は、上述した眼鏡レンズの第1実施形態に含まれる眼鏡レンズと同じであるため、説明を省略する。
また、眼鏡レンズの第2実施形態に含まれるハードコート層と、上述した眼鏡レンズの第1実施形態に含まれるハードコート層とは、眼鏡レンズの第2実施形態に含まれるハードコート層に特定フィラーが含まれない点以外は、同じ形態であるため、説明を省略する。
また、眼鏡レンズの第2実施形態に含まれるプライマー層は、上述した眼鏡レンズの第2実施形態に含まれてもよいプライマー層とは、眼鏡レンズの第2実施形態に含まれるプライマー層に特定フィラーが含まれる点以外は、同じ形態であるため、以下では両者が異なる点のみについて詳述する。
【0049】
眼鏡レンズの第2実施形態のプライマー層には、上述した特定フィラー(イオン液体被覆ナノワイヤー、イオン液体被覆ナノ粒子)が含まれる。特定フィラーの説明は、上述した通りである。
【0050】
プライマー層は、特定フィラー以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、眼鏡レンズの第1実施形態で説明した樹脂が挙げられる。
【0051】
プライマー層には、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子を被覆していないイオン液体が含まれていてもよい。
また、プライマー層には、イオン液体が被覆していない、金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子が含まれていてもよい。
【0052】
プライマー層中における金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、プライマー層全質量に対して、1.0~50質量%が好ましく、2.0~30質量%がより好ましく、3.0~10質量%がさらに好ましい。
なお、上記「プライマー層中における金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量」とは、特定フィラー由来の金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量と、イオン液体が被覆していない金属ナノワイヤーおよび金属ナノ粒子の合計含有量とを合計したものである。
【0053】
プライマー層中におけるイオン液体の含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、プライマー層全質量に対して、0.5~20質量%が好ましく、1.0~10質量%がより好ましい。
なお、上記「プライマー層中におけるイオン液体の含有量」とは、特定フィラー由来のイオン液体の含有量と、特定フィラーには含まれないイオン液体の含有量とを合計したものである。
【0054】
プライマー層の形成方法は特に制限されず、特定フィラーおよび上述した樹脂を含むプライマー層形成用組成物を用いる方法が挙げられる。
【0055】
上記第1実施形態においては、以下の3つの形態が含まれる。
形態1A:眼鏡レンズ基材と、眼鏡レンズ基材上に配置されたハードコート層とを含み、ハードコート層が特定フィラーを含む眼鏡レンズ
形態1B:眼鏡レンズ基材と、眼鏡レンズ基材上に配置されたプライマー層と、プライマー層上に配置されたハードコート層とを含み、ハードコート層が特定フィラーを含む眼鏡レンズ
形態1C:眼鏡レンズ基材と、眼鏡レンズ基材上に配置されたプライマー層と、プライマー層上に配置されたハードコート層とを含み、プライマー層およびハードコート層の両方が特定フィラーを含む眼鏡レンズ
上記第2実施形態は、眼鏡レンズ基材と、眼鏡レンズ基材上に配置されたプライマー層と、プライマー層上に配置されたハードコート層とを含み、プライマー層が特定フィラーを含む眼鏡レンズに該当する。
【0056】
<組成物>
特定フィラーを含む層(例えば、特定フィラーを含むハードコート層、特定フィラーを含むプライマー層)は、特定フィラーを含む組成物を用いて形成できる。
例えば、特定フィラーを含むハードコート層は、重合性モノマーおよび特定フィラーを含む組成物(ハードコート層形成用組成物)を用いて形成できる。また、特定フィラーを含むプライマー層は、樹脂および特定フィラーを含む組成物(プライマー層形成用組成物)を用いて形成できる。
以下では、ハードコート層形成用組成物についてより詳細に説明する。
【0057】
(リン酸基、および、スルホン酸基からなる群から選択される基を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレート)
ハードコート層形成用組成物に含まれ得る重合性モノマーとして、リン酸基、および、スルホン酸基からなる群から選択される基(以後、単に「特定基」とも称する)を少なくとも1つ有する(メタ)アクリレート(以後、単に「特定(メタ)アクリレート」とも称する)が挙げられる。
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
特定基としては、リン酸基が好ましい。
特定(メタ)アクリレート中における特定基の数は1以上であればよく、2以上であってもよい。上限としては、例えば、5以下とすることができる。
特定(メタ)アクリレートは、単官能であっても、多官能であってもよい。なお、多官能とは、特定(メタ)アクリレートが2以上の特定基を有することを意味する。
リン酸基は、以下の式で表される基である。*は、結合位置を表す。
【0058】
【化2】
【0059】
スルホン酸基は、以下の式で表される基である。
【0060】
【化3】
【0061】
特定(メタ)アクリレートとしては、式(A)で表される化合物が好ましい。
式(A) CH2=CRa-COO-La-X
aは、水素原子またはメチル基を表す。
aは、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子)を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基の炭素数は特に制限されず、1~10(好ましくは1~5、より好ましくは1~3)が好ましい。2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、および、これらの基の組み合わせが挙げられ、ヘテロ原子を含んでいてもよいアルキレン基(例えば、-O-アルキレン基-、アルキレン基)が好ましい。
Xは、リン酸基、および、スルホン酸基からなる群から選択される基を表す。
【0062】
(ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン)
ハードコート層形成用組成物に含まれ得る重合性モノマーとして、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンが挙げられる。
ラジカル重合性基としては、エチレン性不飽和結合を有する基が好ましい。エチレン性不飽和結合を有する基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、および、ビニル基が挙げられる。
なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を意味する。
【0063】
なお、一般的に、シルセスキオキサン化合物とは、アルコキシシラン、クロロシラン、および、シラノールなどの3官能性シラン化合物を加水分解することで得られる式(B)で表される基本骨格を有するシラン化合物である。シルセスキオキサン化合物の構造としては、ランダム構造と呼ばれる不規則の形態のほかに、ラダー構造、かご型(完全縮合ケージ型)構造、および、不完全かご型構造(かご型構造の部分開裂構造体であって、かご型構造からケイ素原子のうちの一部が欠けた構造やかご型構造の一部のケイ素-酸素結合が切断された構造のもの)が知られている。
以下の式(B)中、Rbは有機基を表す。
式(B) Rb-SiO3/2
【0064】
ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物の構造は特に制限されないが、上記ランダム構造、ラダー構造、かご型構造、および、不完全かご型構造のいずれであってもよく、また、複数種の構造の混合物であってもよい。
【0065】
シルセスキオキサン化合物に含まれるラジカル重合性基当量は特に制限されないが、ハードコート層の硬度がより優れる点で、30~500g/eq.が好ましく、30~150g/eq.がより好ましい。
【0066】
ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物は、公知の方法にて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0067】
(多官能アクリレート)
ハードコート層形成用組成物に含まれ得る重合性モノマーとして、特定(メタ)アクリレートおよびラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンのいずれとも異なる多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイル基を複数有する化合物である。(メタ)アクリロイル基の数は特に制限されないが、2~6個が好ましく、2~3個がより好ましい。
【0068】
多官能(メタ)アクリレートとしては、式(C)で表される化合物が好ましい。
式(C) CH2=CRc1-CO-Lc1-CO-CRc2=CH2
c1およびRc2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表す。
c1は、ヘテロ原子(例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子)を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。2価の炭化水素基の炭素数は特に制限されず、1~10が好ましい。2価の炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、および、これらの基の組み合わせが挙げられ、ヘテロ原子を含んでいてもよいアルキレン基が好ましい。
なかでも、酸素原子を含むアルキレン基が好ましく、-O-(Lc2-O)m-で表される基が好ましい。なお、Lc2は、アルキレン基(好ましくは、炭素数1~3)を表す。mは、1以上の整数を表し、1~10の整数が好ましく、2~5の整数がより好ましい。
【0069】
(金属酸化物粒子)
ハードコート層形成用組成物は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
金属酸化物粒子の種類は特に制限されず、公知の金属酸化物粒子が挙げられる。金属酸化物粒子としては、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、In、および、Tiから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物の粒子が挙げられる。なかでも、取り扱い性の点で、金属酸化物粒子を、Siを含む酸化物の粒子(酸化ケイ素粒子)、Snを含む酸化物の粒子(酸化スズ粒子)、Zrを含む酸化物の粒子(酸化ジルコニウム粒子)、または、Tiを含む酸化物の粒子(酸化チタン粒子)が好ましい。
なお、金属酸化物粒子には、上記に例示した1種の金属(金属原子)のみが含まれていてもよいし、2種以上の金属(金属原子)が含まれていてもよい。
また、Si(ケイ素)は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではSiを金属に含めるものとする。
【0070】
金属酸化物粒子の平均粒径は特に制限されないが、例えば、1~200nmが好ましく、5~30nmがより好ましい。上記範囲内であれば、ハードコート層形成用組成物中での金属酸化物粒子の分散安定性がより優れるとともに、硬化物の白色化をより抑制できる。
なお、上記平均粒径は、透過型電子顕微鏡にて20個以上の金属酸化物粒子の直径を測定して、それらを算術平均して求める。なお、金属酸化物粒子が真円状でない場合、長径を直径とする。
【0071】
金属酸化物粒子の表面には、必要に応じて、各種官能基が導入されていてもよい。
【0072】
(その他成分)
ハードコート層形成用組成物は、上述した成分(特定(メタ)アクリレート、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物、金属酸化物粒子)以外の成分を含んでいてもよい。
【0073】
ハードコート層形成用組成物は、ラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤および熱ラジカル重合開始剤が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、BASF社製イルガキュア127、184、07、651、1700、1800、819、369、261、TPO、DAROCUR1173、日本シイベルヘグナー社製エザキュアーKIP150、TZT、日本化薬株式会社製カヤキュアBMS、および、カヤキュアDMBIが挙げられる。
【0074】
ハードコート層形成用組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、水であっても、有機溶媒であってもよい。
有機溶媒の種類は特に制限されず、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、および、スルホキシド系溶媒が挙げられる。
【0075】
ハードコート層形成用組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、老化防止剤、塗膜調整剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、染料、充填剤、および、内部離型剤などの種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0076】
ハードコート層形成用組成物の製造方法は特に制限されず、例えば、上述した成分を一括で混合してもよいし、分割して段階的に各成分を混合してもよい。
【0077】
ハードコート層形成用組成物中における特定フィラーの含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分(ハードコート層構成成分)に対して、1.0~30質量%が好ましく、3.0~20質量%がより好ましい。
なお、全固形分(ハードコート層構成成分)とは、硬化処理によりハードコート層を構成する成分であり、上述した、特定フィラー、特定(メタ)アクリレート、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物、金属酸化物粒子、多官能(メタ)アクリレート、および、ラジカル重合開始剤などが該当し、溶媒は固形分に含まれない。また、成分が液状であっても、ハードコート層を構成する成分であれば、固形分として計算する。
【0078】
ハードコート層形成用組成物に特定(メタ)アクリレートが含まれる場合、ハードコート層形成用組成物中における特定(メタ)アクリレートの含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分(ハードコート層構成成分)に対して、1~30質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。
【0079】
ハードコート層形成用組成物にラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物が含まれる場合、ハードコート層形成用組成物中におけるラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、5~85質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0080】
ハードコート層形成用組成物中における金属酸化物粒子の含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、10~90質量%が好ましく、25~80質量%がより好ましい。
【0081】
ハードコート層形成用組成物に多官能(メタ)アクリレートが含まれる場合、多官能(メタ)アクリレートの含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0082】
ハードコート層形成用組成物にラジカル重合開始剤が含まれる場合、ラジカル重合開始剤の含有量は特に制限されないが、所定の効果がより優れる点で、ハードコート層形成用組成物中の全固形分に対して、0.05~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましい。
【実施例
【0083】
以下、上記形態に関して実施例および比較例によりさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0084】
<比較例A1>
(プライマー層形成)
水系ウレタンディスパージョン(エバファール HA170、日華化学社製、固形分濃度37%)(200質量部)に、純水(289質量部)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(10.6質量部)、界面活性剤としてL77(Momentive製)(0.2質量部)とL7604(Dow Chemical製)(0.2質量部)を加えて撹拌し、固形分濃度14.8質量%のプライマー層形成用組成物1を作製した。
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコン・エシロール製:ニコンライト3AS生地 S0.00D)を用いた。
上記プラスチック眼鏡レンズ基材をプライマー層形成用組成物1に90mm/minでディッピングし、90℃で20分間焼成し、プライマー層を形成した。
【0085】
(ハードコート層形成)
アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(ホスマーM、ユニケミカル社製)(6質量部)と、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンとしてメタクリル系シルセスキオキサン(AC-SQ TA-100、東亞合成社製)(15質量部)と、金属酸化物粒子として二酸化ジルコニウム分散液(関東電化工業社製)(185質量部)(40質量%二酸化ジルコニウムナノ粒子/プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液、二酸化ジルコニウム固形分(74質量部))と、ポリエチレングリコールジメタクリレート(ライトアクリレート4EG-A、共栄社化学社製)(5質量部)と、イルガキュア127(光重合開始剤、BASF社製)(3質量部)と、OH官能基含有イオン液体IL-OH2(1-(ヒドロキシプロピル)ピリジニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、広栄化学工業社製)(2質量部)とを混合して、ハードコート層形成用組成物C1を得た。
【0086】
プライマー層上に、ハードコート層形成用組成物C1(1.5ml)を垂らした後、スピンコートにより、ハードコート層形成用組成物C1が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を1000rpmで10秒間回転させた。次に、得られたプラスチック眼鏡レンズ基材を90℃で10分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(100mW/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1.6J/cm2)し、ハードコート層を形成した。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置した眼鏡レンズを得た。
【0087】
<比較例A2>
OH官能基含有イオン液体IL-OH2(2質量部)の代わりに、銀ナノワイヤー溶液の銀ナノワイヤー(溶媒を除く)(ACS Materials,Agnw-L30)(5質量部)を用いた以外は、比較例A1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
なお、上記「銀ナノワイヤー溶液の銀ナノワイヤー(溶媒を除く)を用いた」とは、市販されている銀ナノワイヤー溶液から溶液を全て除去し、残った銀ナノワイヤーを用いたことを意味する。
また、上記銀ナノワイヤーの直径は30nmであり、長さは100~200μmであった。
【0088】
<比較例A3>
OH官能基含有イオン液体IL-OH2(2質量部)の代わりに、OH官能基含有イオン液体IL-OH2(2質量部)および銀ナノワイヤー溶液の銀ナノワイヤー(溶媒を除く)(ACS Materials,Agnw-L30)(5質量部)を用いた以外は、比較例A1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
なお、比較例A3においては、イオン液体および銀ナノワイヤーを使用しているが、イオン液体は銀ナノワイヤーを被覆していない。
【0089】
<実施例A1>
比較例A1と同様の手順に従って、プライマー層を形成した。
【0090】
銀ナノワイヤーイソプロパノール溶液(濃度20mg/ml、10質量部)(ACS Materials、Agnw-L30)と1mol/lの硝酸水溶液(10質量部)とOH官能基含有イオン液体IL-OH2(0.08質量部)とを混合し、75℃で1時間攪拌した。次に、得られた溶液からイソプロパノールおよび水を全て蒸発させ、残渣としてイオン液体被覆銀ナノワイヤー1を得た。
【0091】
アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(ホスマーM、ユニケミカル社製)(6質量部)と、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンとしてメタクリル系シルセスキオキサン(AC-SQ TA-100、東亞合成社製)(15質量部)と、金属酸化物粒子として二酸化ジルコニウム分散液(関東電化工業社製)(185質量部)(40質量%二酸化ジルコニウムナノ粒子/プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液、二酸化ジルコニウム固形分(74質量部))と、ポリエチレングリコールジメタクリレート(ライトアクリレート4EG-A、共栄社化学社製)(5質量部)と、イルガキュア127(光重合開始剤、BASF社製)(3質量部)と、イオン液体被覆銀ナノワイヤー1(7質量部)とを混合して、ハードコート層形成用組成物1を得た。
プライマー層上に、ハードコート層形成用組成物1(1.5ml)を垂らした後、スピンコートにより、ハードコート層形成用組成物1が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を1000rpmで10秒間回転させた。次に、得られたプラスチック眼鏡レンズ基材を90℃で10分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(100mW/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1.6J/cm2)し、ハードコート層を形成した。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置した眼鏡レンズを得た。
【0092】
<実施例A2>
イオン液体被覆銀ナノワイヤー1の代わりに、後述する方法にて得られるイオン液体付被覆ナノワイヤー2を用いて、表1に記載のような金属濃度およびイオン液体濃度となるように調整した以外は、実施例A1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0093】
(イオン液体被覆銀ナノワイヤー2の製造)
銀ナノワイヤーイソプロパノール溶液(濃度20mg/ml、10質量部)(ACS Materials、Agnw-L30)と1mol/lの硝酸水溶液(10質量部)とOH官能基含有イオン液体IL-OH2(0.2質量部)を混合し、75℃で1時間攪拌した。次に、得られた溶液からイソプロパノールおよび水を全て蒸発させ、残渣としてイオン液体被覆銀ナノワイヤー2を得た。
【0094】
<実施例A3>
イオン液体被覆銀ナノワイヤー1の代わりに、後述する方法にて得られるイオン液体被覆銀ナノワイヤー3を用いて、表1に記載のような金属濃度およびイオン液体濃度となるように調整した以外は、実施例A1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0095】
(イオン液体被覆銀ナノワイヤー3の製造)
銀ナノワイヤーイソプロパノール溶液(濃度20mg/ml、10質量部)(ACS Materials、Agnw-L30)と1mol/lの硝酸水溶液(10質量部)とOH官能基含有イオン液体IL-OH2(0.4質量部)を混合し、75℃で1時間攪拌した。次に、得られた溶液からイソプロパノールおよび水を全て蒸発させ、残渣としてイオン液体被覆銀ナノワイヤー3を得た。
【0096】
<実施例A4>
OH官能基含有イオン液体IL-OH2の代わりに、OH官能基含有イオン液体IL-OH8(ジ(エチレングリコール1-オキシエチル)アルキルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(広栄化学工業社製))(0.08質量部)、を用いた以外は、実施例A1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0097】
<実施例A5>
OH官能基含有イオン液体IL-OH2の代わりに、OH官能基含有イオン液体IL-OH8を用いた以外は、実施例A2と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0098】
<実施例A6>
OH官能基含有イオン液体IL-OH2の代わりに、OH官能基含有イオン液体IL-OH8を用いた以外は、実施例A3と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0099】
<評価>
上記実施例および比較例にて得られた眼鏡レンズおよび後述する反射防止膜含有眼鏡レンズを用いて、以下の評価を実施した。なお、結果は、後述する表1にまとめて示す。
【0100】
(表面抵抗率1)
表面抵抗率計としてハイレスタUP MCP-HT450(ミツビシケミカルアナリテック)を用いて、眼鏡レンズの表面抵抗率を測定した。具体的には、眼鏡レンズのハードコート表面に電極を直角に当て、電圧を500V印加した。30秒間当てた後、30秒目に計測した値を表面抵抗率とした。
【0101】
(表面抵抗率2)
表面抵抗率計としてハイレスタUP MCP-HT450(ミツビシケミカルアナリテック)を用いて、反射防止膜含有眼鏡レンズの表面抵抗率を測定した。具体的には、後述する(密着性)評価で作製した反射防止膜含有眼鏡レンズの反射防止膜表面に電極を直角に当て、電圧を500V印加した。30秒間当てた後、30秒目に計測した値を表面抵抗率とした。
【0102】
(密着性)
JIS-K5600に準じて、クロスカットテープ試験によって密着性を評価した。
具体的には、まず、後述する(反射防止膜の形成)の手順に従って、ハードコート層上に反射防止膜を形成して、反射防止膜含有眼鏡レンズを得た。
次に、ナイフを用い、反射防止膜含有眼鏡レンズの反射防止膜表面に1mm間隔にプラスチック眼鏡レンズ基材まで達する切れ目を入れ、マス目を100個形成した。次に、切れ目を入れた反射防止膜上へスコッチテープ(3M社製)を強く押しつけた。その後、反射防止膜表面から60°方向へすばやくスコッチテープを荷重4kgにて引っ張り、剥離させた後、プラスチック眼鏡レンズ基材上に残っているマス目の数を数えた。
【0103】
(反射防止膜の形成)
得られた眼鏡レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70℃に加熱し、圧力が1.0×10-3Paになるまで排気した。次に、加速電圧500Vおよび加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを一方のハードコート層に対して60秒間施した後、クリーニングしたハードコート層上に、順次、第1層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.090λ、第2層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.038λ、第3層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.393λ、第4層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.104λ、第5層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.069λ、第6層ZrO2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.289λ、および、第7層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.263λで積層し、反射防止膜を形成した。なお、λは設計の中心波長で500nmとした。
また、他方のハードコート層に対しても上記と同様の処理を施し、眼鏡レンズの両面に反射防止膜を形成し、反射防止膜含有眼鏡レンズを得た。
【0104】
(耐擦傷性)
ボンスター#0000スチールウール(日本スチールウール(株)製)で2kgの荷重をかけ、上記(密着性)評価で作製した反射防止膜含有眼鏡レンズ中の反射防止膜表面を50往復摩擦し、ハードコート層表面(1cm×3cm)において傷ついた程度を目視で次の段階に分けて評価した。
〇: 優れている(傷は観測されない)
△: 良好(30本未満の浅い傷が観察されるが実用上問題ない)
×: 不良(30本を超える傷が観察され、実用上問題がある)
【0105】
(視感透過率)
富士光電工業株式会社性LED透過率計、LDM-200を使用し、上記(密着性)評価で作製した反射防止膜含有眼鏡レンズの視感透過率を測定した。
【0106】
表1中、「金属」は、使用した金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子を示し、AgNWは銀ナノワイヤーを意味する。
表1中、「イオン液体」は、使用したイオン液体の種類を表す。
表1中、「金属濃度(質量%)」は、ハードコート層全質量に対する上記「金属」の含有量を表し、表1においてはハードコート層全質量に対する銀ナノワイヤーの含有量を表す。
表1中、「イオン液体濃度(質量%)」は、ハードコート層全質量に対する上記「イオン液体」の含有量を表す。
表1中、「被覆の有無」は、イオン液体が「金属」に示す金属ナノワイヤーまたは金属ナノ粒子に被覆しているか否かを表す。被覆している場合を「あり」、被覆していない場合を「なし」として表す。
表1中、「膜厚(μm)」は、ハードコート層の膜厚を表す。
表1中、「1.0E15<」は、1.0E15超であることを意味する。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示すように、所定の眼鏡レンズであれば、所望の効果が得られることが確認された。
【0109】
<比較例B1>
銀ナノワイヤー溶液の銀ナノワイヤー(溶媒を除く)(ACS Materials,Agnw-L30)(5質量部)の代わりに、銀ナノ粒子(φ2-3.5μm、327085、Sigma-Aldrich)(5質量部)を用いた以外は、比較例A2と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0110】
<比較例B2>
銀ナノワイヤーの代わりに、OH官能基含有イオン液体IL-OH2(10質量部)および銀ナノ粒子(φ2-3.5μm、327085、Sigma-Aldrich)(5質量部)を用いた以外は、比較例B1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
なお、比較例B2においては、イオン液体および銀ナノ粒子を使用しているが、イオン液体は銀ナノ粒子を被覆していない。
【0111】
<実施例B1>
銀ナノワイヤーの代わりに、後述する手順で作製されるイオン液体被覆銀ナノ粒子(15質量部)を用いた以外は、比較例B1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0112】
(イオン液体被覆銀ナノ粒子の製造)
銀ナノ粒子(1.8質量部)(φ2-3.5μm、327085、Sigma-Aldrich)と1mol/lの硝酸水溶液(9質量部)とOH官能基含有イオン液体IL-OH2(3.6質量部)とを混合し、75℃で1時間攪拌した。次に、得られた溶液から水を全て蒸発させ、残渣としてイオン液体被覆銀ナノ粒子を得た。
【0113】
得られた眼鏡レンズを用いて上述した<評価>を実施した。結果を表2にまとめて示す。
なお、表2中、「AgNP」は、銀ナノ粒子を表す。
【0114】
【表2】
【0115】
表2に示すように、所定の眼鏡レンズであれば、所望の効果が得られることが確認された。
【0116】
<比較例C1>
比較例A1と同様の手順に従って、プライマー層を形成した。
【0117】
ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンとしてメタクリル系シルセスキオキサン(AC-SQ TA-100、東亞合成社製)(50質量部)と、1-メトキシ-2-プロパノール(50質量部)と、イルガキュア127(光重合開始剤、BASF社製)(3質量部)と、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニウム)イミド(以後、「Im-IL」とも称する。)(広栄化学工業社製)(2質量部)とを混合して、ハードコート層形成用組成物2を得た。
プライマー層上に、ハードコート層形成用組成物2(1.5ml)を垂らした後、スピンコートにより、ハードコート層形成用組成物2が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を1000rpmで10秒間回転させた。次に、得られたプラスチック眼鏡レンズ基材を90℃で10分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(100mW/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1.6J/cm2)し、ハードコート層を形成した。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置した眼鏡レンズを得た。
【0118】
<比較例C2>
Im-IL(2質量部)の代わりに、Im-IL(2質量部)およびAuナノ粒子(Sigma-Aldrich、製品番号636347)(5質量部)を用いた以外は、比較例C1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
なお、比較例C2においては、イオン液体および金ナノ粒子を使用しているが、イオン液体は金ナノ粒子を被覆していない。
また、Auナノ粒子の平均粒径は100nmであった。
【0119】
<実施例C1>
Im-IL(2質量部)の代わりに、後述する手順で作製されるイオン液体被覆Auナノ粒子1(7質量部)を用いた以外は、比較例C1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0120】
(イオン液体被覆Auナノ粒子1の製造)
Auナノ粒子(Sigma-Aldrich、製品番号636347)(5質量部)と、Im-IL(2質量部)と、純水(50質量部)を混合し、75℃で1時間攪拌した。得られた溶液から水を全て蒸発させ、残渣としてイオン液体被覆Auナノ粒子1を得た。
【0121】
得られた眼鏡レンズを用いて上述した<評価>を実施した。結果を表3にまとめて示す。
なお、表3中、「AuNP」は、金ナノ粒子を表す。
【0122】
【表3】
【0123】
表3に示すように、所定の眼鏡レンズであれば、所望の効果が得られることが確認された。
【0124】
<比較例D1>
(プライマー層形成)
水系ウレタンディスパージョン(エバファール HA170、日華化学社製、固形分濃度37%)(200質量部)に、純水(289質量部)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(10.6質量部)、界面活性剤としてL77(Momentive製)(0.2質量部)とL7604(Dow Chemical製)(0.2質量部)、OH官能基含有イオン液体IL-OH9(ジ(ヒドロキシエチル)オレイルメチルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、広栄化学工業社製))(3質量部)を加えて撹拌し、固形分濃度15質量%のプライマー層形成用組成物2を作製した。
プラスチック眼鏡レンズ基材として、屈折率1.60のレンズ((株)ニコン・エシロール製:ニコンライト3AS生地 S0.00D)を用いた。
上記プラスチック眼鏡レンズ基材をプライマー層形成用組成物2に90mm/minでディッピングし、90℃で20分間焼成し、プライマー層を形成した。
【0125】
(ハードコート層形成)
アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(ホスマーM、ユニケミカル社製)(6質量部)と、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサンとしてメタクリル系シルセスキオキサン(AC-SQ TA-100、東亞合成社製)(15質量部)と、金属酸化物粒子として二酸化ジルコニウム分散液(関東電化工業社製)(185質量部)(40質量%二酸化ジルコニウムナノ粒子/プロピレングリコールモノメチルエーテル分散液、二酸化ジルコニウム固形分(74質量部))と、ポリエチレングリコールジメタクリレート(ライトアクリレート4EG-A、共栄社化学社製)(5質量部)と、イルガキュア127(光重合開始剤、BASF社製)(3質量部)とを混合して、ハードコート層形成用組成物C2を得た。
プライマー層上に、ハードコート層形成用組成物C2(1.5ml)を垂らした後、スピンコートにより、ハードコート層形成用組成物C2が塗布されたプラスチック眼鏡レンズ基材を1000rpmで10秒間回転させた。次に、得られたプラスチック眼鏡レンズ基材を90℃で10分間加熱した後、光源として高圧水銀灯(100mW/cm2)を用いて、塗膜に対してUV照射(積算光量:1.6J/cm2)し、ハードコート層を形成した。
なお、プラスチック眼鏡レンズ基材の他方の表面に対しても上記と同様の処理を施し、プラスチック眼鏡レンズ基材の両面にハードコート層を配置した眼鏡レンズを得た。
【0126】
<実施例D1>
OH官能基含有イオン液体IL-OH9(3質量部)の代わりに、後述する手順で作製されるイオン液体被覆Auナノ粒子2を用いて、表4に記載のような金属濃度およびイオン液体濃度となるように調整した以外は、比較例D1と同様の手順に従って、眼鏡レンズを得た。
【0127】
(イオン液体被覆Auナノ粒子2の製造)
Auナノ粒子(Sigma-Aldrich、製品番号636347)(10質量部)と、OH官能基含有イオン液体IL-OH9(4質量部)と、純水(50質量部)を混合し、75℃で1時間攪拌した。得られた溶液から水を全て蒸発させ、残渣としてイオン液体被覆Auナノ粒子2を得た。
【0128】
得られた眼鏡レンズを用いて上述した<評価>を実施した。結果を表4にまとめて示す。
【0129】
表4中、「金属濃度(質量%)」は、プライマー層全質量に対する上記「金属」の含有量を表し、表1においてはプライマー層全質量に対する金ナノ粒子の含有量を表す。
表1中、「イオン液体濃度(質量%)」は、プライマー層全質量に対する上記「イオン液体」の含有量を表す。
【0130】
【表4】
【0131】
表4に示すように、所定の眼鏡レンズであれば、所望の効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0132】
10A,10B 眼鏡レンズ
12 眼鏡レンズ基材
14A,14B ハードコート層
16 プライマー層
図1
図2