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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-09
(45)【発行日】2023-05-17
(54)【発明の名称】医療チューブ体およびその調製方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20230510BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20230510BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20230510BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20230510BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20230510BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230510BHJP
【FI】
A61M25/00 500
A61M25/00 610
A61M25/10 510
A61L29/06
A61L29/14 400
A61L31/06
A61L31/14 400
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021530876
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-25
(86)【国際出願番号】 CN2019121319
(87)【国際公開番号】W WO2020108539
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】201811460227.9
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521523453
【氏名又は名称】チョーチヤン アクパス スマート マニュファクチュアリング(グループ) カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダイ,ミンシン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,シアオレイ
(72)【発明者】
【氏名】グオ,ファン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ユエゲン
(72)【発明者】
【氏名】チュエ,イーユン
【審査官】石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0112310(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0087783(US,A1)
【文献】特表2015-506231(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0112189(US,A1)
【文献】特表2011-500111(JP,A)
【文献】特表2014-508574(JP,A)
【文献】特表2006-526426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/10
A61L 29/06
A61L 29/14
A61L 31/06
A61L 31/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材層と、
前記基材層の表面上の多孔質層と
を備える、医療チューブであって、
介入担体およびエッチング溶液を準備する工程であって、前記エッチング溶液がエッチング剤と希釈剤との混合溶液を含み、前記エッチング剤が濃硫酸、濃硝酸、ギ酸および酢酸からなる群より選択される一種または複数種の混合物であり、前記希釈剤がグリセロール、エタノール、グリコールおよび水からなる群より選択される一種または複数種の混合物であり、前記エッチング剤対前記希釈剤の体積比が1:0.01~1:100の範囲である工程と、
前記介入担体を前記エッチング溶液に浸漬してエッチングを行い、ミクロン単位の孔を有する艶消しの肌理の表面を有し、前記ミクロン単位の孔が1μmより大きく30μmより小さい直径を有する医療チューブを得る工程と、
を備える方法により調整され、
前記ミクロン単位の孔を有する艶消しの肌理の表面は、前記医療チューブの内面に配置されている前記多孔質層に形成され、前記多孔質層に薬物コーティング層が担持されている、医療チューブ
【請求項2】
前記医療チューブが、ポリエーテル、ポリエーテルを含有するブロック共重合体、ポリアミド、ポリアミドを含有するブロック共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸を含有するブロック共重合体、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリグリコール酸を含有するブロック共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンを含有するブロック共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸を含有するブロック共重合体、および加水分解性ポリエステルからなる群より選択される一種または複数のポリマー材料で形成されている、請求項に記載の医療チューブ。
【請求項3】
前記エッチング溶液は、体積比が1:1から1:10である濃硫酸とグリセロール、体積比が1:2から1:15である濃硝酸と水、体積比が1:2から1:15であるギ酸とエタノール、体積比が1:2から1:15である酢酸とグリコール、または、体積比が1:1.5から1:10である酢酸とグリセロールからなり、
前記介入担体が、1秒~30分の範囲の持続時間にわたり前記エッチング溶液に浸漬されて、エッチングされる、請求項1に記載の医療チューブ。
【請求項4】
前記介入担体が、体積比1:1で混合した98%の濃硫酸と精製水とからなる前記エッチング溶液で20秒間エッチングされる、請求項3に記載の医療チューブ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、医療機器の分野に関し、詳細には、多孔質バルーンおよびその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
介入治療は、冠動脈疾患、抹消動脈疾患、頭蓋内動脈疾患、およびその他の血管疾患の治療に有効である。介入治療の基本原理は、特定の薬物で表面コーティングされた担体を、ガイドカテーテルおよびガイドワイヤを介して血管内の病変部に送達し、担体を加圧により機械的に膨張させ、そうすることで、担体表面にコーティングされた薬物を病巣の血管壁に密接させることである。その結果、薬物を迅速に放出させて病巣の血管壁に吸収させることができ、これによって血管疾患に対する治療効果を提供することができる。
【0003】
介入治療に用いられる担体の薬物担持性能に関する最も重要な要因は、担体表面への薬物コーティングである。担体は、病変部に達すると、血管壁中に迅速かつ均一に薬物を放出できるように、優れた薬物移行特性を有する必要がある。しかし、担体を病変部へと送達する間および担体が膨張して放出した後にそれを回収する間に薬物コーティングの損失率を低く保つ、すなわち、担体表面になるべく多くの薬物を維持して、血流に洗い流される作用による薬物粒子の脱落を減じる必要がある。したがって、担体にとって、薬物担持性能の改善は特に重要である。
【0004】
介入治療に用いられる薬物コーティングバルーン(DCB)を例に挙げると、B. Braun社が製造するSeQuent Pleaseバルーンなど、商品化が承認されているかまたは承認を待っているDCB製品は世界に約10種以上ある。こうしたDCB製品のほとんどが、薬物パクリタキセルおよび他の混合試薬でバルーンの裸の表面をコーティングすることにより調製されている。DCBの薬物担持性能は、様々な薬物および混合試薬の選択ならびに薬物と混合試薬との比により改善される余地はある。しかし、そのような薬物コーティング自体を改善するアプローチは、DCBの薬物担持性能をあまり利するものではない。というのは、薬物および混合試薬の組成を変えても、送達および回収のプロセス中の薬物コーティングの剥離しやすさ、バルーン表面への薬物コーティングの不均一さ、ならびに放出中の薬物放出率の低さおよび薬物放出速度の遅さを含む問題を根本的には解決できないからである。
【0005】
加えて、現存のDCBの表面形態を改良することにより、薬物担持性能を向上させる技術もある。例えば、紫外線レーザーを用いてバルーンの外面を研削して、凹凸のある非平坦面を形成することができ、それによって比表面積を増加させることができ、バルーン表面に薬物コーティングを強力に付着させることもできる。このアプローチは、バルーン表面の薬物吸着および貯蔵能力ならびにバルーン表面が血管の組織と接触する面積を大幅に増加させることができるものの、定格破裂圧(RBP)が低下するなど、バルーンの特性、特に物理的特性を低下させることがある。加えて、研削部位の重なりによりバルーンの強度が弱化した1つまたは複数の部分ができないように加工精度を制御することも困難である。
【0006】
そのほか、バルーン表面に親水基を導入するプラズマ活性化プロセスのアプローチも用いられており、これもバルーン表面への薬物コーティングの付着を向上させて、バルーン表面に薬物を担持しやすくすることができる。例えば、一部の既存のアプローチは、プラズマ活性化技術を利用してバルーン表面に親水基を導入しており、それらが薬物層に含有される活性薬物と水素結合を形成することができる。そうした水素結合によって、薬物層がバルーン表面にしっかりと付着することができ、したがってバルーン表面により多くの薬物を担持させることが可能になるが、水素結合は飽和し、指向性であり、かつ選択された薬物の電荷特性に特異的である。このように、このアプローチは、薬物コーティングの付着に対して限られた影響しかない。
【0007】
さらに、細長い封止スリットおよび孔を有する薬物放出フィルムの層をバルーン表面に巻き付けるアプローチも用いられることがあり、したがって送達時に血流により洗い流されないよう薬物が保護され、かつバルーン本体が膨張して封止スリットおよび孔が開いたときに十分な薬物が露出し、血管内に移行して、治療目的が達成される。従来技術は、細長い封止スリットおよび孔を有する薬物放出フィルムの層をバルーン表面に巻き付ける方法を提供しており、ここで外側の薬物放出フィルムは、内側のバルーンの真っ直ぐで滑らかな部分にグルーまたはレーザー溶接で取り付けられて薬物貯蔵パウチの層をなし、送達時の薬物損失を減じる。しかし、このような保護フィルムは約0.01mm~0.1mmの厚さを有し、この厚さは、薬物バルーンが通過する外径に大きく影響する。さらに、そのようなバルーンは、構造が複雑で、製造が難しく、また、フィルムが破損も剥離もしない保証はできず、過程の最中に患者の体内に残ってしまう非常に高いリスクを伴っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
概要
本願の目的は、既存の薬物コーティングバルーンの上記の問題、すなわち、送達および回収中のバルーン表面からの薬物コーティングの剥離しやすさ、バルーン表面への薬物被覆の不均一さ、ならびに放出中の薬物放出率の低さおよび薬物放出速度の遅さを解決することができる医療チューブおよび医療チューブを調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するために、本願は、医療チューブを調製する方法であって、介入担体およびエッチング溶液を準備する工程と、介入担体をエッチング溶液に浸漬してエッチングを行い、多孔質表面を有する医療チューブを得る工程とを含む、方法を提供する。
【0010】
付加的には、介入担体をエッチング溶液に浸漬する前に、方法が、介入担体に流体を充填して加圧し、それによって介入担体を膨張させることをさらに含む。
【0011】
付加的には、膨張した介入担体が、洗浄液で超音波洗浄され、乾燥させられる。
【0012】
付加的には、エッチング溶液が、エッチング剤と希釈剤との混合溶液を含み、エッチング剤が、酸性溶液から選択され、希釈剤が、アルコールおよび/または水から選択される。
【0013】
好ましくは、酸性溶液が、濃硫酸、濃硝酸、ギ酸および酢酸からなる群より選択される一種または複数種の混合物である。
【0014】
好ましくは、希釈剤が、グリセロール、エタノール、グリコールおよび水からなる群より選択される一種または複数種の混合物である。
【0015】
好ましくは、エッチング剤対希釈剤の体積比が、1:0.01~1:100の範囲である。
【0016】
好ましくは、介入担体が、1秒~30分の範囲の持続時間にわたりエッチング溶液に浸漬されて、エッチングされる。
【0017】
好ましくは、介入担体が、ポリエーテル、ポリエーテルを含有するブロック共重合体、ポリアミド、ポリアミドを含有するブロック共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸を含有するブロック共重合体、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリグリコール酸を含有するブロック共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンを含有するブロック共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸を含有するブロック共重合体、および加水分解性ポリエステルからなる群より選択される一種または複数の組合せで形成されている。
【0018】
本願はまた、医療チューブであって、基材層と、基材層の表面上の多孔質層とを備える、医療チューブを提供する。
【0019】
付加的には、多孔質層が、医療チューブの内面または外面に配置されていて、0.1μm~1000μmの範囲の直径を有する複数の孔を備える。
【0020】
好ましくは、医療チューブが薬物溶出バルーンであり、多孔質層に薬物コーティング層が担持されている。
【0021】
付加的には、複数の多孔質層が医療チューブの外面に形成されており、異なる多孔質層の孔の一部が互いにつながって、中空構造を画定している。
【0022】
付加的には、医療チューブが、ポリエーテル、ポリエーテルを含有するブロック共重合体、ポリアミド、ポリアミドを含有するブロック共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸を含有するブロック共重合体、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリグリコール酸を含有するブロック共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンを含有するブロック共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸を含有するブロック共重合体、および加水分解性ポリエステルからなる群より選択される一種または複数のポリマー材料で形成されている。
【発明の効果】
【0023】
まとめると、本願の医療チューブおよび調製方法には、従来技術と比べて以下の利点がある。
【0024】
1)薬物担持性能の改善
医療チューブの表面は、均一に分布したミクロン単位の孔を有する多孔質構造を有し、したがって、大量の薬物を微孔内に有効に貯蔵して、標的病変部へのバルーン送達中にも、バルーンの膨張および放出後の標的病変部からの回収中にも、薬物層からの薬物損失を最小限に抑えることを可能にしている。つまり、薬物粒子が血流の浸食作用下で担体表面から大量に剥離するのを軽減することができる。
【0025】
2)薬物放出効率の増加
医療チューブの比表面積が大幅に増加する。つまり、病変部への到達後にバルーンを膨張させたとき、担体が血管壁と接触する面積が、一般的な担体表面が接触する面積よりも著しく大きくなっている。結果として、薬物放出効率を大幅に増加させることができる。
【0026】
3)薬物噴霧量の減少およびコストの節約
微孔が存在するため、医療チューブの表面は、薬物コーティングの付着の大幅な向上を示し、それによって薬物噴霧プロセスにおいて効率的な薬物吸収の更なる向上を実現することが可能になる。結果として、バルーン表面への所望の薬物担持を、表面に噴霧する薬物量を減じて実現することができ、有効なコスト節約が達成される。
【0027】
4)介入担体の全体的な強度の維持
本願の医療チューブの調製方法は、正確に制御しやすく、機械的な研削を含まない穏やかな表面処理プロセスを使用する。したがって、物理的特性の全体的な低下を緩和することができ、また、従来のバルーンにおける溝彫を原因とする定格破裂圧(RBP)の低下の問題を克服することができる。
【0028】
5)調製プロセスの簡易化
本願の医療チューブの調製方法は、低コストで簡単かつ容易に実施される。この調製プロセスは、調製された酸性溶液への浸漬およびエッチングしか含まないので、いかなる大規模な装置も使わずに、簡単かつ効率的である。さらに、薬物放出フィルムなどの追加材料を省略できるので、追加材料が剥離して患者の体内に残るリスクを排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本願の一実施の形態に係る医療チューブの構造概略図である。
図2】本願の一実施の形態に係る医療チューブの一部の表面を示す、1000xの拡大率の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3】本願の一実施の形態に係る医療チューブを調製する方法を概略的に例示したフローチャートである。
図4】本願の一実施の形態に係る医療チューブを調製する方法の、介入担体を前処理する工程を概略的に例示したフローチャートである。
図5】本願の一実施の形態に係る多孔質層を有するチューブの構造概略図である。
図6】本願の一組の実施の形態に係る医療チューブの一部の表面の、1000xの拡大率のSEM画像である。
図7】本願の一組の実施の形態に係る医療チューブの一部の表面の、1000xの拡大率のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
以下、本願で提供される医療チューブおよび調製方法を、添付の図面を参照しながら、具体的な実施の形態によってより詳細に記載する。以下の記載および特許請求の範囲から、本願の利点および特徴がより明らかになる。なお、各図は、本願の実施の形態の説明にあたり利便性および明瞭性を促す意図しかなく、極めて簡略化した形で提供されている。
【0031】
本願に記載される医療チューブは、医療バルーン、または介入もしくは非介入カテーテルのいずれかであってよい。その具体例には、薬物コーティングバルーン、気管人工呼吸チューブ、ドレナージチューブ、静脈カテーテル、マイクロカテーテル、輸液チューブ、鼻用酸素カニューレ等の、人間またはその他の哺乳類への使用に好適なものが含まれてよい。
【0032】
本願の解決手段を、医療バルーンを一例として以下に記載するが、以下の実施の形態はまた、前述の様々な種類のチューブのいずれにも適用可能である。
【0033】
プラズマエッチングプロセスの後、100~500nmのナノ単位の孔を有する多孔質構造が薬物コーティングバルーンの表面に形成されている。そのような構造を有するバルーン表面は、肉眼にはなおも滑らかで透明に見える。また、そのようなナノ単位の多孔質構造は、従来のバルーンの比表面積にはさして影響がないので、バルーン表面への薬物コーティングの付着を劇的に増やすことはない。
【0034】
本願の実施の形態は、医療チューブを調製する方法を提供し、この方法では、バルーンをエッチング溶液に浸漬してエッチングする。図3に示すように、この方法は、次のような工程を含む。S1では、介入担体の調製が準備される。ポリマー材料で形成された介入担体の具体的な調製方法は本願では限定されず、当技術分野で公知の任意の好適な方法を用いることができる。加えて、本願の他の実施の形態では、介入担体は市販品でもよく、購入して入手してもよい。工程S2では、エッチング溶液が調製される。工程S3では、介入担体がエッチング溶液に浸漬されてエッチングが行われ、それによって多孔質表面を有する医療チューブが得られ、それが本明細書の多孔質バルーンである。工程S1およびS2は、同時に実施しても、連続して実施してもよい。つまり、介入担体を調製する工程S1は、エッチング溶液を調製する工程S2の後でもよい。本願の実施の形態では、介入担体は、ポリエーテル、ポリエーテルを含有するブロック共重合体、ポリアミド、ポリアミドを含有するブロック共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸を含有するブロック共重合体、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリグリコール酸を含有するブロック共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンを含有するブロック共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸を含有するブロック共重合体、および加水分解性ポリエステルからなる群より選択される一種または複数の組合せで形成されていてよい。
【0035】
従来のバルーンに比べ、本願の実施の形態で提供される調製方法から得られた多孔質バルーンは、肉眼で識別可能なミクロン単位の孔を有する多孔質表面を有する(すなわち、表面は艶消しの肌理をもつ)。このミクロン単位の多孔質表面は、薬物を貯蔵および放出するのにより好都合であり、かつ多孔質バルーンへの薬物コーティングの付着の向上を可能にし、したがって、既存のバルーンの上記の問題、すなわち、送達および回収中のバルーン表面からの薬物コーティングの剥離しやすさ、バルーン表面への薬物被覆の不均一さ、ならびに薬物放出中の薬物放出率の低さおよび速度の遅さを解決することができる。さらに、そのような多孔質表面は、バルーンの物理的特性を低下させることがなく、溝彫を原因とするバルーン定格破裂圧(RBP)の低下など、バルーン特性、特に物理的特性の低下の問題が回避される。
【0036】
介入担体をエッチング溶液に浸漬してエッチングを行う工程S3に先立ち、介入担体の均一なエッチングを実現するために、上記の調製方法は、介入担体の前処理と、前処理済み介入担体のエッチングとをさらに含む。
【0037】
図4に示すように、前処理は、次の工程を含んでよい。工程S31では、介入担体に流体を充填して加圧し(この実施の形態では気体を充填して加圧)、介入担体の表面を膨張させ、介入担体の開口を封止して膨張構成を維持する。工程S32では、膨張した介入担体が、洗浄液で超音波洗浄され、乾燥させられる。
【0038】
洗浄液は、エタノールおよび蒸留水から選択されてよい。超音波洗浄プロセスは、次の工程を含んでよい。工程S321では、気体を充填して加圧された介入担体を、まずエタノールで、次いで蒸留水で超音波洗浄する。工程S322では、工程S321に記載される洗浄サイクルを数回、例えば2~3回繰り返す。当然ながら、他の実施の形態では、洗浄液はエタノールのみであってよい。代替的には、気体を充填して加圧された介入担体を、まず蒸留水で、次いでエタノールで超音波洗浄してもよく、本願はその順番に限定されない。
【0039】
前処理は、後続のエッチング工程でより均一な艶消し表面を得るために、つまり、より均一な孔分布を得るために、実施される。
【0040】
上記の工程S2で用いられるエッチング溶液は、エッチング剤と希釈剤とを混合して調製されてよい。エッチング剤は、様々な酸性溶液から選択されてよい。例えば、エッチング剤は、濃硫酸(98%)、濃硝酸(68%)、ギ酸、および酢酸の一つ、または複数の酸の混合物から選択されてよい。希釈剤は、様々なアルコールから選択してもよいし、水を希釈剤として用いてもよい。アルコールには、限定ではないが、グリセロール、エタノール、およびグリコールが含まれてよい。当然ながら、エッチング剤は、希釈剤なしのエッチング溶液で構成してもよい。
【0041】
具体的には、エッチング剤対希釈剤の体積比は、1:0.01~1:100の範囲である。注意すべきは、様々なエッチング剤および希釈剤の選択ならびにエッチング剤と希釈剤との比は、エッチング溶液のエッチング性能に大きく影響し、ひいては、エッチングされたポリマーの表面の微孔のサイズに影響することである。一例として、ナイロン12製のバルーンでは、濃硫酸とグリセロールとからなるエッチング溶液は、エッチング剤対希釈剤の体積比が1:1から1:10に減少するとエッチング性能が徐々に弱化し、体積比が1:10よりも下がるとエッチング性能がなくなる。同じバルーンで、濃硝酸と水とからなるエッチング溶液は、エッチング剤対希釈剤の体積比が1:2から1:15に減少するとエッチング性能が徐々に弱化し、体積比が1:15よりも下がるとエッチング性能がなくなる。ギ酸とエタノールとからなるエッチング溶液は、エッチング剤対希釈剤の体積比が1:2から1:15に減少するとエッチング性能が徐々に弱化し、体積比が1:15よりも下がるとエッチング性能がなくなる。酢酸とグリコールとからなるエッチング溶液は、エッチング剤対希釈剤の体積比が1:2から1:15に減少するとエッチング性能が徐々に弱化し、体積比が1:15よりも下がるとエッチング性能がなくなる。酢酸とグリセロールとからなるエッチング溶液は、エッチング剤対希釈剤の体積比が1:1.5から1:10に減少するとエッチング性能が徐々に弱化し、体積比が1:10よりも下がるとエッチング性能がなくなる。
【0042】
好ましくは、所望のバルーン表面形態を得るために、異なるエッチング性能を有する異なるエッチング溶液は、所要のエッチング効果を実現するために、異なるエッチング時間を必要とする。好ましくは、介入担体は、概して1秒間~30分間エッチング溶液に浸漬される。
【0043】
本願の実施の形態は、網状構造を有する多孔質バルーンも提供し、薬物の担持を意図している。多孔質バルーンの外面は、多数の孔が形成された少なくとも1つの多孔質層を有する。好ましくは、孔は、0.1~1000ミクロンの範囲の直径を有する。通常の滑らかなバルーン表面またはナノ単位の微孔を有するバルーン表面と異なり、本願の多孔質バルーンの表面は、薬物をコーティングする前は、肉眼で識別可能な均一に分布したミクロン単位の孔を有する多孔質表面(すなわち、艶消しの肌理の表面)である。艶消しの肌理の表面は、バルーンの平坦部分およびテーパ部分を覆っている(図1に示す)。好ましくは、艶消しの肌理の表面は、0.1~1000ミクロンの範囲の様々な直径を有する多孔質構造を有する。微孔のサイズの範囲は、上記の調製方法の操作パラメータを適切に設定することにより、有効に制御することができる。当業者には自明であるように、上記の実施の形態では、孔のサイズ範囲は0.1~1000ミクロンの範囲であると記載されてはいるが、これは、実際の孔サイズの測定が、使用される測定方法の解像度に左右されるため、上記の方法から得られたバルーンの表面の孔のサイズがその範囲内でなくてはならないということを意味するものではない。例えば0.1~1ミクロンの範囲の直径を有するより小さなあらゆる孔は、高解像度の測定方法により有効に測定することができ、1ミクロン未満の直径を有するより小さな孔は、1ミクロンを上回る検出限界を有する低解像度の測定方法で識別することはできない。したがって、本願では、バルーンの孔は、上述の0.1~1000ミクロンの範囲内の直径を有することに限定されず、上記の調製方法から得られたバルーンであれば、どれでも本願の範囲内に含まれるとみなされる。
【0044】
本願では、多孔質バルーンの多孔質層の孔は、均一に分布していてよい。そのような均一な分布により、薬物コーティング層を担持するときに、バルーン表面に薬物を確実に均一に分布させることが可能となる。当然ながら、代替的には、孔が不均一な分布および/またはサイズを有することもあるので、本願はそれに限定されない。
【0045】
加えて、多孔質バルーンに複数の多孔質層が形成される場合、全部または一部の孔が互いに連通して中空構造を形成する。概して、中空構造を有する多孔質バルーンは、多孔質バルーンの一部の表面の1000xの拡大率の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図2に示すように、50%を上回る気孔率を有する。中空構造は、バルーン表面が血液と接触する面積をさらに増加させることができ、バルーンが薬物を貯蔵および放出するのにより好都合になる。
【0046】
本願では、多孔質バルーンの多孔質層は、ポリエーテル、ポリエーテルを含有するブロック共重合体、ポリアミド、ポリアミドを含有するブロック共重合体、ポリ乳酸、ポリ乳酸を含有するブロック共重合体、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸とのコポリマー、ポリグリコール酸を含有するブロック共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンを含有するブロック共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸を含有するブロック共重合体、および加水分解性ポリエステルからなる群より選択される一種または複数のポリマー材料で形成されていてよい。多孔質層は、単層または多層の形態であってよい。
【0047】
ある実施の形態では、多孔質層が、医療チューブの内面に配置されている。図5に示すように、輸液チューブが、基材層10と、この基材層の内面上の多孔質層11とを含む。多孔質層11は、網状構造を含んでよく、その表面形態は図2図6または図7のSEM画像に示す通りであってよい。使用時には、薬物を輸液チューブの内面に担持することができ、輸液チューブ内で流れる流体とともに患者の体内に流入させることができる。
【0048】
図6および図7は、医療チューブの一部の表面の1000xの拡大率のSEM画像を示し、試料aおよびbは、異なるエッチング条件でエッチングしたSEM画像である。試料aは、ポリエーテル-アミドブロック共重合体で形成されており、ショア硬さは55Dであり、試料bは、ポリエーテル-アミドブロック共重合体で形成されており、ショア硬さは72Dである。1~4の番号がついた画像は、同じエッチング剤で、異なるエッチング時間にわたりエッチングした試料を例示しており、エッチング時間は番号1から4へと徐々に増加している。図6および7から判るように、網状構造を有する多孔質層を、異なる材料で形成された医療チューブの表面に、異なるエッチング持続時間で形成することができる。
【0049】
以下、本願の特徴および利点をさらに実証すべく、本願の調製方法を、具体的な例を参照しながら、さらに詳しく記載する。
【実施例1】
【0050】
この実施例では、方法が以下の工程を含み、エッチング剤として濃硫酸(98%)が選択されていて、希釈剤として精製水が選択されている。
【0051】
1.1 試料の前処理
介入担体を膨張器に接続して気体を充填して加圧し、それによって担体の表面を完全に膨張させ、次いで介入担体の開口を閉じて膨張構成を維持した。膨張した担体をエタノールで、次いで蒸留水で超音波洗浄した。この洗浄サイクルを2~3回繰り返した後、担体を乾燥させた。
【0052】
1.2 エッチング溶液の調製
様々なガラス容器を洗浄し、濃硫酸(98%、エッチング剤)と精製水(希釈剤)とをメスシリンダで測り、体積比1:1で混合した。混合物をガラス棒で穏やかに撹拌し、清潔な気密瓶に入れ、室温に冷やした。
【0053】
1.3 エッチング処理
前処理済みの介入担体を、調製したエッチング溶液に20秒間完全に浸漬してから取り出した。担体を直ちに精製水で洗浄し、表面に残った水滴を拭き取ってから、自然乾燥させた。このようにして、本願の多孔質バルーンを得た。
【実施例2】
【0054】
この実施例では、実施例1により調製した多孔質バルーン3つ(孔サイズ試験で、各バルーンの孔サイズは1~30ミクロンの範囲内と測定された)を、エッチングしていない通常のバルーン3つ(通常のバルーンは、それぞれ孔のない滑らかな表面を有する)と、薬物放出性能について比較し、その結果を表1にまとめた。性能評価に用いた幾つかの測定基準の定義は以下の通りである。
【0055】
送達中に放出された薬物粒子の比率=送達中に放出された薬物粒子の数/(送達中に放出された薬物粒子の数+膨張および収縮中に放出された薬物粒子の数+回収中に放出された薬物粒子の数)
【0056】
膨張および収縮中に放出された薬物粒子の比率=膨張および収縮中に放出された薬物粒子の数/(送達中に放出された薬物粒子の数+膨張および収縮中に放出された薬物粒子の数+回収中に放出された薬物粒子の数)
【0057】
回収中に放出された薬物粒子の比率=回収中に放出された薬物粒子の数/(送達中に放出された薬物粒子の数+膨張および収縮中に放出された薬物粒子の数+回収中に放出された薬物粒子の数)
【0058】
薬物放出率=(バルーン表面にコーティングされた薬物の理論量-試験後バルーン表面に残存した薬物の量)/バルーン表面にコーティングされた薬物の理論量
【0059】
【表1】
【0060】
表1から判るように、本願の艶消し微孔質表面を有する多孔質バルーンは、より良好な薬物担持性能を有する。これは、各介入担体の表面に存在するミクロン単位の孔が、大量の薬物をミクロン単位の孔内に有効に貯蔵し、標的病変部へのバルーン送達中にも、バルーンの膨張および放出後の標的病変部からの回収中にも、薬物層からの薬物損失を最小限に抑えることを可能にしているからである。つまり、薬物粒子が血流の浸食作用下で担体表面から大量に剥離するのを軽減することができる。表1のデータから判るように、通常のバルーンに比べて、3つの多孔質バルーンは、それぞれ送達および回収中に放出される薬物粒子の比率の大幅な減少を示している。
【0061】
さらに、本願の艶消し微孔質表面を有する多孔質バルーンは、薬物放出中、より高い薬物放出率をも示す。均一に分布する微孔のため、各介入担体の表面は、増大した比表面積を有する。介入担体が病変部に送達されて膨張した後、それらの表面の血管壁との接触面積は、通常のバルーンの表面よりも大きく、その結果、薬物放出率が大幅に増加する。表1のデータによると、通常のバルーンに比べて、3つの多孔質バルーンは、それぞれ膨張および収縮中に放出される薬物粒子の比率も、薬物放出率も大幅な増加を示している。
【0062】
まとめると、本願の医療チューブおよび調製方法には、従来技術と比べて以下の利点がある。
【0063】
1)薬物担持性能の改善
医療チューブの表面は、均一に分布したミクロン単位の孔を有する多孔質構造を有し、したがって、大量の薬物を微孔内に有効に貯蔵して、標的病変部へのバルーン送達中にも、バルーンの膨張および放出後の標的病変部からの回収中にも、薬物層からの薬物損失を最小限に抑えることを可能にしている。つまり、薬物粒子が血流の浸食作用下で担体表面から大量に剥離するのを軽減することができる。
【0064】
2)薬物放出効率の増加
医療チューブの比表面積が大幅に増加する。つまり、病変部への到達後にバルーンを膨張させたとき、担体が血管壁と接触する面積が、一般的な担体表面が接触する面積よりも著しく大きくなっている。結果として、薬物放出効率を大幅に増加させることができる。
【0065】
3)薬物噴霧量の減少およびコストの節約
微孔が存在するため、医療チューブの表面は、薬物コーティングの付着の大幅な向上を示し、それによって薬物噴霧プロセスにおいて効率的な薬物吸収の更なる向上を実現することが可能になる。結果として、バルーン表面への所望の薬物担持を、表面に噴霧する薬物量を減じて実現することができ、有効なコスト節約が達成される。
【0066】
4)介入担体の全体的な強度の維持
本願の医療チューブの調製方法は、正確に制御しやすく、機械的な研削を含まない穏やかな表面処理プロセスを使用する。したがって、物理的特性の全体的な低下を緩和することができ、また、従来のバルーンにおける溝彫を原因とする定格破裂圧(RBP)の低下の問題を克服することができる。
【0067】
5)調製プロセスの簡易化
本願の医療チューブの調製方法は、低コストで簡単かつ容易に実施される。この調製プロセスは、調製された酸性溶液への浸漬およびエッチングしか含まないので、いかなる大規模な装置も使わずに、簡単かつ効率的である。さらに、薬物放出フィルムなどの追加材料を省略できるので、追加材料が剥離して患者の体内に残るリスクを排除することができる。
【0068】
上記の明細書は、本願の好ましい実施の形態を幾つか記載したに過ぎず、あらゆる意味でその範囲を限定するものではない。上記の開示に基づき当業者が行う一切すべての変更および改良は、添付の特許請求の範囲に定義される範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7